(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】液圧ブレーキシステム、ブレーキシステムを運転するための方法、並びに液圧ブレーキシステムを備えた自動車
(51)【国際特許分類】
B60T 8/17 20060101AFI20241219BHJP
B60T 13/138 20060101ALI20241219BHJP
B60T 8/1755 20060101ALI20241219BHJP
B60T 17/18 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
B60T8/17 B
B60T13/138 A
B60T8/1755 Z
B60T17/18
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536529
(86)(22)【出願日】2022-12-05
(85)【翻訳文提出日】2024-06-18
(86)【国際出願番号】 EP2022084386
(87)【国際公開番号】W WO2023117388
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】102021215002.0
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】フォレルト,ヘルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ナーゲル,ヴィリ
(72)【発明者】
【氏名】マルカルト,マルティン
【テーマコード(参考)】
3D048
3D049
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB01
3D048CC05
3D048CC54
3D048DD02
3D048HH74
3D048KK18
3D049BB01
3D049CC02
3D049CC07
3D049HH39
3D049HH41
3D246BA02
3D246BA08
3D246CA02
3D246DA01
3D246GA01
3D246GB04
3D246GB37
3D246HA02A
3D246MA15
(57)【要約】
【課題】 液圧ブレーキシステム(1)、特に自動車のための液圧ブレーキシステム(1)に関する。
【解決手段】 液圧を発生させるためのマスタブレーキシリンダ(11)の制御は、もっぱら電気式の駆動装置(12)によって行われる。電気機械式の駆動装置(12)を駆動制御するための目標値プリセット(S)は、電気信号として受信され得る。ビークルダイナミックコントロール(20)のブレーキ圧発生装置(21)を利用することによって、故障時に冗長性のブレーキ圧発生が保証され得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力発生装置(10)とビークルダイナミックコントロール(20)とを備えた、車両のための液圧ブレーキシステム(1)において、
前記圧力発生装置(10)が、
電子的な目標値プリセット(S)を外部の目標値調整器(40)から受信するために設計された入力インターフェース(13)と、
少なくとも2つの独立したブレーキ回路(B1,B2)内に液圧を発生させるために設計されたマスタブレーキシリンダ(11)と、
前記入力インターフェース(13)によって受信された前記目標値プリセット(S)を用いて前記マスタブレーキシリンダ(11)操作するために設計された電気機械式の駆動装置(12)と、
を有しており、
前記マスタブレーキシリンダ(11)がもっぱら前記電気機械式の駆動装置(12)だけによって操作可能であって、
前記ビークルダイナミックコントロール(20)が、少なくとも2つの独立した前記ブレーキ回路(B1,B2)内に液圧を発生させるために設計されたブレーキ圧発生装置(21)を有している、
液圧ブレーキシステム(1)。
【請求項2】
前記ビークルダイナミックコントロール(20)がエレクトロニックスタビリティプログラムを有している、請求項1記載のブレーキシステム(1)。
【請求項3】
前記ビークルダイナミックコントロール(20)の前記ブレーキ圧発生装置(21)は、前記圧力発生装置(10)内で機能不良が検出された場合に、少なくとも2つの独立した前記ブレーキ回路(B1,B2)内に液圧を発生させるために設計されている、請求項1または2記載のブレーキシステム(1)。
【請求項4】
使用者入力に対応する電子的な目標値プリセット(S)を前記圧力発生装置(20)の前記入力インターフェース(13)に提供するために設計された目標値調整器(40)を有している、請求項1から3までのいずれか1項記載のブレーキシステム(1)。
【請求項5】
前記目標値調整器(40)が車両のブレーキペダルに機械結合されており、前記目標値調整器(40)が前記圧力発生装置(10)の前記入力インターフェース(13)に電気結合されている、請求項4記載のブレーキシステム(1)。
【請求項6】
前記目標値調整器(40)が、前記圧力発生装置(10)の前記入力インターフェース(13)にデジタル式の通信インターフェースを介して接続されている、請求項4または5記載のブレーキシステム(1)。
【請求項7】
前記圧力発生装置(10)が、第1のエネルギ供給網(101)によってエネルギ供給されるように設計されており、
前記ビークルダイナミックコントロール(20)が、第2のエネルギ供給網(102)によってエネルギ供給されるように設計されている、
請求項1から6までのいずれか1項記載のブレーキシステム(1)。
【請求項8】
自動車において、請求項1から7までのいずれか1項記載の液圧ブレーキシステム(1)を備えた自動車。
【請求項9】
ブレーキシステム(1)を運転するための方法において、
電子的な目標値プリセット(S)を前記圧力発生装置(10)の前記入力インターフェース(13)で受信するステップ(S1)と、
受信された前記目標値プリセット(S)に従って前記電気機械式の駆動装置(12)を駆動制御するステップ(S2)と、
を有する、請求項1から7までのいずれか1項記載のブレーキシステム(1)を運転するための方法。
【請求項10】
前記圧力発生装置(10)に機能不良が検出された場合に、前記ビークルダイナミックコントロール(20)の前記ブレーキ圧発生装置(21)によって前記ブレーキ回路(B1,B2)の少なくとも一方に液圧を発生させるためのステップを有する、請求項9記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧ブレーキシステム並びに液圧ブレーキシステムを運転するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両、特に自動車は一般的に、動いている車両を確実に停止するまで制動することができるブレーキ装置を有している。このために、特に液圧ブレーキシステムが公知である。ブレーキを操作する際に、使用者は、ブレーキ倍力装置、例えば真空ブレーキ倍力装置または電気機械式のブレーキ倍力装置によってアシストされ得る。さらに、車両のブレーキ動作にアクティブに影響を与えることができる、例えばアンチロックブレーキシステム(ABS)またはエレクトロニックスタビリティプログラム(ESP)等のアシストシステムが公知である。
【0003】
特許文献1には、例えばマスタブレーキシリンダと、2つのブレーキ圧発生器と、少なくとも1つのホイールブレーキシリンダと、電気アシストによる冗長性のブレーキ圧発生およびブレーキ圧制御のための遮断手段とを有する液圧ブレーキシステムについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第102012205861号明細書
【発明の概要】
【0005】
本発明は、独立請求項の特徴を有する車両のための液圧ブレーキシステム、このような液圧ブレーキシステムを備えた自動車、並びにブレーキシステムを運転するための方法を提供する。さらなる有利な実施形態は、従属請求項の対象である。
【0006】
それに応じて、圧力発生装置およびビークルダイナミックコントロールを備えた車両のための液圧ブレーキシステムが企図されている。圧力発生装置は、入力インターフェース、マスタブレーキシリンダおよび電気機械式の駆動装置を有している。圧力発生装置の入力インターフェースは、外部の目標値調整器から電子的な目標値プリセットを受信するために設計されている。マスタブレーキシリンダは、少なくとも2つの独立したブレーキ回路内に液圧を発生させるために設計されている。電気機械式の駆動装置は、マスタブレーキシリンダを操作するために設計されている。特に電気機械式の駆動装置は、入力インターフェースによって受信された目標値プリセットを用いてマスタブレーキシリンダを操作するために設計されている。この場合、マスタブレーキシリンダは、もっぱら電気機械式の駆動装置だけによって操作可能である。言い換えれば、マスタブレーキシリンダを外部の機械的な操作エレメント、例えばブレーキペダルによって機械的な接続を介して操作することができる操作エレメントは設けられていない。ビークルダイナミックコントロールは、ブレーキ圧発生装置を有している。ブレーキ圧発生装置は、少なくとも2つの独立したブレーキ回路内に液圧を発生させるために設計されている。したがって相応に、一方ではマスタブレーキシリンダによってまた他方ではブレーキ圧発生装置によって、2つの独立したブレーキ回路内に液圧が発生され得る。
【0007】
さらに、本発明による液圧ブレーキシステムを備えた自動車が企図されている。
【0008】
最後に、ブレーキシステム、特に本発明による液圧ブレーキシステムを運転するための方法が設けられており、この方法は、圧力発生装置の入力インターフェースで電子的な目標値プリセットを受信するためのステップと、受信された目標値プリセットに従って電気機械式の駆動装置を駆動制御するためのステップとを有している。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、従来のブレーキシステム、特に液圧ブレーキシステムが通常は、機械的な接続部を介して外部の機械的な操作エレメントによって駆動制御される、という認識に基づいている。例えばこのような外部の操作エレメントは、機械的な接続部を介してブレーキ装置のマスタブレーキシリンダに接続されている、自動車のブレーキペダルであってよい。場合によっては、駆動制御は、ブレーキ倍力装置によってアシストされ得る。しかしながらすべてのケースにおいて、外部の機械的な力は例えばブレーキペダルによってマスタブレーキシリンダに伝達される。
【0010】
本発明のアイデアは、例えばブレーキペダルからマスタブレーキシリンダへの機械的な力の伝達を、マスタブレーキシリンダにおける電気機械的な操作エレメントおよび電子的な信号伝送によって置き換える、という点にある。このような形式で、ブレーキペダルからマスタブレーキシリンダへの、高価で複雑な、場合によっては故障し易い機械的な力の伝達が避けられ、簡単かつフレキシブルな電子的な信号伝送によって置き換えることができる。
【0011】
ブレーキ回路内に液圧を提供するために、独立した2つの構成要素を使用することによって、液圧を発生させるための構成要素が故障した場合でも、ブレーキ装置を操作するために十分な液圧をブレーキ回路内に発生させ得ることが、保証され得る。したがって本発明の液圧ブレーキシステムは、一方では複数の独立した液圧ブレーキ回路を有しているので、液圧ブレーキ回路の故障時に単数または複数の残りの液圧ブレーキ回路はなお車両を制動できる状態にある。他方では、それぞれブレーキ回路内に液圧を発生させることができる2つの独立した構成要素を使用することによって、液圧を発生させるための構成要素が故障した場合でも、それぞれ別の構成要素によって車両を制動させるための十分な液圧をなお発生させることができるように保証されている。したがってこのような形式で、必要な冗長性およびひいてはブレーキ装置の信頼性を保証する液圧ブレーキシステムが実現され得る。この場合、使用者の操作エレメント例えばブレーキペダルとブレーキシステムとの間の機械的な接続は明確に必要ない。言い換えれば、ブレーキシステム内で液圧を発生させるための目標値プリセットは、もっぱら電子信号を提供することによって行われる。
【0012】
ブレーキシステムに目標値プリセットを伝送するための電子信号は、任意の形式で発生され、伝送され、ブレーキシステムに提供することができる。例えば、信号はデジタル信号として適切な通信バス、例えばCANバス等を介して伝送され得る。さらに、電子信号は電圧信号または電流信号の形で提供されてもよい。基本的に、例えば信号を光信号として提供し、ブレーキシステムの入力インターフェースにおいて相応のコンバータによって電子信号に変換することも可能である。
【0013】
目標値プリセットのための信号は、目標値調整器、例えばセンサによってブレーキペダル等に提供されてよい。このような形式で、使用者は、適切な入力装置、例えばブレーキペダルを用いて、通信接続を介して電子信号としてブレーキシステムに提供される目標値をプリセットすることができる。次いで、使用者によって規定された目標値プリセットに従ってブレーキシステムのブレーキ回路内に液圧が発生され得る。
【0014】
一実施形態によれば、ビークルダイナミックコントロールはエレクトロニックスタビリティプログラム(ESP)を有している。相応に、このようなESP内で液圧を発生させるための構成要素は、例えば圧力発生装置の機能不良時においてもなおマスタブレーキシリンダでブレーキシステムのブレーキ回路内に液圧を発生させるために使用することができる。このために、場合によっては、圧力発生装置の故障時にビークルダイナミックコントロールによって所望の液圧を発生させるために、目標値プリセットがビークルダイナミックコントロールに提供されてもよい。
【0015】
一実施形態によれば、ビークルダイナミックコントロールのブレーキ圧発生装置は、圧力発生装置内で機能不良が検出された場合に、少なくとも2つの独立したブレーキ回路内に液圧を発生させるために設計されている。したがって、圧力発生装置によって十分な液圧が提供され得ない場合でも、ビークルダイナミックコントロールによってブレーキ装置を操作するために必要な液圧が提供され得る。したがって、互いに独立して作動する2つの構成要素、一方ではマスタブレーキシリンダを備えた圧力発生装置によって、他方ではブレーキ圧発生装置を備えたビークルダイナミックコントロールによって、ブレーキ回路内に液圧を発生させるための冗長性のシステムが提供される。
【0016】
一実施形態によれば、ブレーキシステムは目標値調整器を有している。目標値調整器は、使用者入力に対応する電子的な目標値プリセットを圧力発生装置の入力インターフェースに提供するために設計されている。例えば目標値調整器は、ブレーキペダルの位置に対応する値を提供することができる。この値は、目標値プリセットのアナログ信号またはデジタル信号として圧力発生装置に提供され得る。ブレーキペダルの位置を検出してこれに対応する出力信号を提供することができる目標値調整器を補足する形で、ブレーキペダルに追加的なフィードバック装置が設けられていてよい。このフィードバック装置は、例えばブレーキペダルに、力、振動等の形の触覚式のフィードバックを提供することができる。このような形式で、使用者に、ブレーキ動作に関するフィードバックを与えることができる。
【0017】
一実施形態によれば、目標値調整器が車両のブレーキペダルに機械結合されている。さらに、目標値調整器が圧力発生装置の入力インターフェースに電気的または光学的に結合されている。このような形式で、ブレーキペダルを操作することによって使用者により規定された値が電気信号または光信号としてブレーキシステムの入力インターフェースに提供され得る。したがって、ブレーキペダルとブレーキシステムとの機械的な結合を完全に省くことができる。
【0018】
一実施形態によれば、目標値調整器によって規定された目標値がデジタルデータ信号としてブレーキシステムの入力インターフェースに提供され得る。例えば目標値調整器によって検出された値は、データバス、例えばCANバス等を介してブレーキシステムの入力インターフェースに伝送され得る。
【0019】
一実施形態によれば、圧力発生装置は、第1のエネルギ供給網によりエネルギ供給されるように設計されている。さらに、ビークルダイナミックコントロールが、第2のエネルギ供給網によってエネルギ供給されるように設計されている。言い換えれば、圧力発生装置およびビークルダイナミックコントロールは、2つの別個の、特に2つの独立したエネルギ供給網若しくはエネルギ源によってエネルギ供給される。このような形式で、2つのエネルギ供給網のうちの一方が故障した場合でも、ブレーキ装置を操作するために十分な液圧が提供され得るように保証されていることが可能である。
【0020】
以上記載した実施形態、発展形態は、有意義である限りは、任意に互いに組み合わせることができる。その他の実施形態、発展形態および本発明のインプリメンテーションは、複数の実施例に関連して前述したまたは以下に記載した、本発明の複数の特徴の明示的に挙げられていない組み合わせを有している。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一実施形態による液圧ブレーキシステムのブロック図の概略図である。
【
図2】別の実施形態による液圧ブレーキシステムのブロック図の概略図である。
【
図3】一実施形態によるブレーキシステムを運転するための方法に基づくフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のその他の特徴および利点を以下に図面を用いて説明する。
【0023】
図面中、逆のことが記載されていない限り、同じまたは機能的に同じ構成要素には同じ符号が付けられている。
【0024】
図1は、一実施形態による車両のための液圧ブレーキシステム1の基本原理を示すためのブロック図の概略図を示す。ここに示されたブレーキシステムは、圧力発生装置10およびビークルダイナミックコントロール20を有している。圧力発生装置10はマスタブレーキシリンダ11を有している。マスタブレーキシリンダ11は、複数のチャンバ11a,11bを有していてよく、各チャンバ11a,11bは、別個の独立したブレーキ回路B1,B2に接続されている。このような形式でマスタブレーキシリンダ11によって、複数の独立したブレーキ回路B1,B2内でマスタブレーキシリンダの操作により液圧を発生させることができる。この場合、複数のブレーキ回路B1,B2は、互いに接続されていない。したがって、複数のブレーキ回路B1,B2は、独立したブレーキ回路である。したがって、例えばブレーキ回路B1,B2のうちのどちらか一方における漏れに基づいて機能不良が発生した場合、他方のブレーキ回路B1,B2で引き続き液圧を発生させることができる。
【0025】
マスタブレーキシリンダ11を操作するために、電気機械式の駆動装置12が設けられている。特に、マスタブレーキシリンダ11は、もっぱらこの電気機械式の駆動装置12によって操作されるようになっている。言い換えれば、マスタブレーキシリンダと機械的な操作エレメント、例えばブレーキペダル等との機械結合は設けられていない。
【0026】
電気機械式の駆動装置12は、基本的に任意の適切な電気機械式の駆動装置、例えば伝動装置を備えた電動機であってよい。特に、電気機械式の駆動装置は、入力インターフェース13によって受信された目標値プリセットに従ってマスタブレーキシリンダ11の操作によりブレーキ回路B1,B2内に相応の液圧が発生されるように駆動制御され得る。例えば、電気機械式の駆動装置12は、従来のブレーキシステムの電気機械式のブレーキ倍力装置のために使用されるのと同様のまたは類似の形式で、マスタブレーキシリンダ11を操作するためにも使用され得る。しかしながらこの場合、本発明によれば、ブレーキペダルからマスタブレーキシリンダへの力の伝達による従来の機械的な操作は省かれる。むしろマスタブレーキシリンダは、もっぱら受信された目標値プリセットSによる電気機械式の駆動装置12だけによって操作される。
【0027】
目標値プリセットSは、アナログまたはデジタル信号として入力インターフェース13によって受信され得る。例えば、目標値プリセットに対応する電圧または相応の電流が入力インターフェース13に提供され得る。しかしながら例えばデジタル信号、例えばパルス幅変調された信号を入力インターフェース13にさらに提供することも可能である。さらに、目標値プリセットSは、通信接続、例えばCAN-Bus等のデータバスを介してデジタル情報として入力インターフェース13に提供されてもよい。特に、目標値プリセットSはアナログまたはデジタルの電気信号として入力インターフェース13に提供され得る。しかしながらさらに、例えば目標値プリセットを光信号として伝送し、適切なコンバータを用いて入力インターフェース13において光信号を電気信号に変換して、さらに処理するために提供することも可能である。
【0028】
目標値プリセットSは、例えば目標値調整器40によって提供されてよい。この目標値調整器40は、例えばブレーキペダルの位置またはブレーキペダルに加えられた力に対応する出力信号を提供するセンサであってよい。このために、目標値調整器はブレーキペダルに例えば機械結合されていてよい。さらに、目標値調整器は、通信接続、例えば電気式または光学式の接続部を介して入力インターフェース13に接続されていてよい。このような形式で、圧力発生装置10の入力インターフェース13に、ブレーキペダルの位置に対応する信号が提供され得る。さらに、ブレーキペダルに場合によっては、例えば抵抗または振動の形のフィードバックをブレーキペダルに生ぜしめる追加的な構成要素が設けられていてよい。これによって、ブレーキシステムのブレーキ動作を介して触覚的なフィードバックが使用者に与えられ得る。このような形式で、ブレーキペダルの使用者に、ブレーキペダルとマスタブレーキシリンダとの間の直接的な機械結合における動作に相当する動作がシミュレートされ得る。
【0029】
したがって、圧力発生装置10は、目標値調整器40によって提供された目標値および電気機械式の駆動装置12の相応の駆動制御を用いて、マスタブレーキシリンダ11を操作することができる。これによって、独立した2つのブレーキ回路B1およびB2内でそれぞれ液圧を発生させる。この液圧によって、例えばブレーキエレメント31乃至34が操作され得る。これらのブレーキエレメント31乃至34は、例えば車両の複数のホイールに設けられたホイールブレーキシリンダを有していてよい。
【0030】
ブレーキシステム1は、圧力発生装置10の他にさらにビークルダイナミックコントロール20を有している。このビークルダイナミックコントロール20は、例えばエレクトロニックスタビリティプログラム(ESP)の構成要素であってよい。特に、ビークルダイナミックコントロール20はブレーキ圧発生装置21を有している。このブレーキ圧発生装置21は、独立したブレーキ回路B1およびB2内で液圧を発生させるために設計されている。例えばブレーキ圧発生装置21は、各ブレーキ回路B1およびB2のためのそれぞれ1つの液圧ポンプを有していてよく、これらの液圧ポンプは、ブレーキ回路B1およびB2内で液圧を発生させることができる。特に、ブレーキ圧発生装置21は、電気式に駆動されるブレーキ圧発生装置であってよい。
【0031】
圧力発生装置10と、さらに別のブレーキ圧発生装置21を備えたビークルダイナミックコントロール20とをさらに有するこのようなブレーキシステム1によって、独立したブレーキ回路B1およびB2内で液圧を発生させるための互いに独立した2つの構成要素が設けられている。これにより、構成要素のうちの一方の機能不良の場合にも、それぞれもう一方の構成要素によってブレーキ回路B1およびB2内にブレーキングのために必要な液圧を発生させるために十分な冗長性が与えられる。
【0032】
入力インターフェース13、電気機械式の駆動装置12およびマスタブレーキシリンダ11を備えた圧力発生装置10に、例えば第1のエネルギ供給網101によって電気エネルギが供給され得る。ブレーキ圧発生装置21を備えたビークルダイナミックコントロール20には、別のエネルギ供給網102によって電気エネルギが供給され得る。特に、第1のエネルギ供給網101と第2のエネルギ供給網102とは互いに独立していてよい。例えば第1のエネルギ供給網101内に第1の電気エネルギアキュムレータが設けられていて、第2のエネルギ供給網102内に第2の電気エネルギアキュムレータが設けられていてよい。これによって、2つのエネルギ供給網101および102のうちの一方が機能不良となった場合に、それぞれ残りのエネルギ供給網101または102によってこのエネルギ供給網に接続された構成要素に電気エネルギを供給し、ひいては車両を制動するための液圧を提供できるようにするために、ブレーキシステム1の電気エネルギ供給網のためにも冗長性のエネルギ供給が存在する。例えば、第1のエネルギ供給網101および第2のエネルギ供給網102は、自動車の互いに独立した2つの低圧直流電圧網であってよい。場合によっては、2つのエネルギ供給網101,102は、直流電圧コンバータによって互いに結合されていてよい。これによって、電気エネルギアキュムレータを充電するためのエネルギ交換がエネルギ供給網101および102内で実現され得る。さらに、特に完全にまたは少なくとも部分的に電気駆動される車両において、例えば圧力発生装置10もこのような電気自動車の車両用バッテリから直接給電されることができ、これに対してビークルダイナミックコントロール20には低電圧網によって電気エネルギが供給される。
【0033】
圧力発生装置10の機能不良時においても、制御して、目標値プリセットSに従って液圧を発生させることができるようにするために、目標値プリセットSは追加的にビークルダイナミックコントロール20および特にブレーキ圧発生装置21に提供されてもよい。この場合、圧力発生装置10の機能不良の検出時にビークルダイナミックコントロール20のブレーキ圧発生装置21によって、ブレーキ回路B1およびB2内に目標値プリセットSに相当するブレーキ圧が生ぜしめられ得る。
【0034】
図2は、一実施形態によるブレーキシステム1のブロック図の概略図を示す。この場合、
図1に関連した前記実施例は、
図2に示したブレーキシステム1にもあてはまる。さらに、
図2には、圧力発生装置10およびビークルダイナミックコントロール20の個別の構成要素の詳細が示されている。
【0035】
例えば
図2から分かるように、マスタブレーキシリンダ11の個別のチャンバ11aおよび11bはリザーバタンク15から供給され得る。この場合、非作動状態、つまりマスタブレーキシリンダ11が操作されないときに、リザーバタンク15からマスタブレーキシリンダ11のチャンバ11a,11bを通ってブレーキ回路B1,B2内へのブレーキ液の直接的な流れが可能である。好適な形式で、リザーバタンク15から2つの独立したブレーキ回路B1,B2内へのブレーキ液のこのような妨げられることのない流れを可能にする位置へ、マスタブレーキシリンダ11のピストンを非作動状態で移行させる装置が、マスタブレーキシリンダ11内に設けられている。これは、例えばばね力等によって実現され得る。このような形式で、電気機械式の駆動装置12の機能不良時または故障時に、ブレーキ液はリザーバタンク15からブレーキ回路B1およびB2内へ流れ、それによってビークルダイナミックコントロール20のブレーキ圧発生装置21によって十分な液圧を発生させることができることが保証され得る。さらに、マスタブレーキシリンダ11は、駆動制御されたマスタブレーキシリンダ11においてもリザーバタンク15からビークルダイナミックコントロール20の方向、特にブレーキ圧発生装置21の方向への作動液の流れを可能にするように構成されていてもよい。
【0036】
既に簡潔に記載されているように、ビークルダイナミックコントロール20はエレクトロニックスタビリティプログラム(ESP)等であってよい。このようなESPの個別の構成要素は、
図2に概略的に示されている。これは本発明の対象ではないので、ここでは詳しく説明しない。
【0037】
ビークルダイナミックコントロール20および特にESPは、その他の構成要素以外にブレーキ圧発生装置21を有している。ここでは、これは例えば、電動機によってブレーキエレメント31乃至34を操作するための液圧を生ぜしめることができる液圧ポンプであってよい。特に、ビークルダイナミックコントロール20のブレーキ圧発生装置21は、独立した各ブレーキ回路B1およびB2内に液圧を発生させることができる。このために、各ブレーキ回路B1およびB2内に、液圧を発生させるための互いに独立した構成要素が設けられていてよい。選択的に、
図2に示されているように、液圧を発生させるためのポンプ構成要素は、1つの共通の電気駆動装置によって駆動制御されることも可能である。
【0038】
ビークルダイナミックコントロール20のブレーキ圧発生装置21のための構成要素は、基本的に、従来のビークルダイナミックコントロール内にも組み込まれている、特にESPのような構成要素であってよい。さらに場合によっては、完全に電子制御式のブレーキシステムのための冗長性を向上させるための液圧を発生させる構成要素は、相応に適合され寸法設計されてもよい。
【0039】
図3は、一実施形態に従って液圧ブレーキシステムを運転するための方法に基づくフローチャートを示す。ここで運転されるブレーキシステム1は、特に前記液圧ブレーキシステム1のうちの1つであってよい。
【0040】
ステップS1で、電子目標値プリセットが圧力発生装置10の入力インターフェース13で受信される。
【0041】
続いてステップS2で、電気機械式の駆動装置12が受信された目標値プリセットSに従って駆動制御され得る。
【0042】
万一、故障または機能不良に基づいて、圧力発生装置10がブレーキ装置を操作するために必要な液圧を提供することができない場合、ビークルダイナミックコントロール20のブレーキ圧発生装置21によって選択的に液圧を発生させることができる。このような形式で、液圧ブレーキシステムを確実に運転するための十分な冗長性が車両に与えられる。
【0043】
要約すれば、本発明は、液圧ブレーキシステム、特に自動車のための液圧ブレーキシステムに関する。この場合、液圧を発生させるためのマスタブレーキシリンダの駆動制御は、もっぱら電気駆動装置によって行われる。電気機械式の駆動装置を駆動制御するための目標値プリセットは、電気信号として受信され得る。ビークルダイナミックコントロールのブレーキ圧発生装置を利用することによって、機能不良の際に冗長性のブレーキ圧発生を保証することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 液圧ブレーキシステム
10 圧力発生装置
11 マスタブレーキシリンダ
11a,11b チャンバ
12 電気機械式の駆動装置
13 入力インターフェース
15 リザーバタンク
20 ビークルダイナミックコントロール
21 ブレーキ圧発生装置
31,32,33,34 ブレーキエレメント
40 目標値調整器
101 第1のエネルギ供給網
102 第2のエネルギ供給網
B1,B2 ブレーキ回路
S 目標値プリセット
【手続補正書】
【提出日】2024-06-18
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力発生装置(10)とビークルダイナミックコントロール(20)とを備えた、車両のための液圧ブレーキシステム(1)において、
前記圧力発生装置(10)が、
電子的な目標値プリセット(S)を外部の目標値調整器(40)から受信するために設計された入力インターフェース(13)と、
少なくとも2つの独立したブレーキ回路(B1,B2)内に液圧を発生させるために設計されたマスタブレーキシリンダ(11)と、
前記入力インターフェース(13)によって受信された前記目標値プリセット(S)を用いて前記マスタブレーキシリンダ(11)操作するために設計された電気機械式の駆動装置(12)と、
を有しており、
前記マスタブレーキシリンダ(11)がもっぱら前記電気機械式の駆動装置(12)だけによって操作可能であって、
前記ビークルダイナミックコントロール(20)が、少なくとも2つの独立した前記ブレーキ回路(B1,B2)内に液圧を発生させるために設計されたブレーキ圧発生装置(21)を有している、
液圧ブレーキシステム(1)。
【請求項2】
前記ビークルダイナミックコントロール(20)がエレクトロニックスタビリティプログラムを有している、請求項1記載のブレーキシステム(1)。
【請求項3】
前記ビークルダイナミックコントロール(20)の前記ブレーキ圧発生装置(21)は、前記圧力発生装置(10)内で機能不良が検出された場合に、少なくとも2つの独立した前記ブレーキ回路(B1,B2)内に液圧を発生させるために設計されている、請求項1または2記載のブレーキシステム(1)。
【請求項4】
使用者入力に対応する電子的な目標値プリセット(S)を前記圧力発生装置(20)の前記入力インターフェース(13)に提供するために設計された目標値調整器(40)を有している、請求項1
または2記載のブレーキシステム(1)。
【請求項5】
前記目標値調整器(40)が車両のブレーキペダルに機械結合されており、前記目標値調整器(40)が前記圧力発生装置(10)の前記入力インターフェース(13)に電気結合されている、請求項4記載のブレーキシステム(1)。
【請求項6】
前記目標値調整器(40)が、前記圧力発生装置(10)の前記入力インターフェース(13)にデジタル式の通信インターフェースを介して接続されている、請求項
4記載のブレーキシステム(1)。
【請求項7】
前記圧力発生装置(10)が、第1のエネルギ供給網(101)によってエネルギ供給されるように設計されており、
前記ビークルダイナミックコントロール(20)が、第2のエネルギ供給網(102)によってエネルギ供給されるように設計されている、
請求項1
または2記載のブレーキシステム(1)。
【請求項8】
自動車において、請求項1
または2記載の液圧ブレーキシステム(1)を備えた自動車。
【請求項9】
ブレーキシステム(1)を運転するための方法において、
電子的な目標値プリセット(S)を前記圧力発生装置(10)の前記入力インターフェース(13)で受信するステップ(S1)と、
受信された前記目標値プリセット(S)に従って前記電気機械式の駆動装置(12)を駆動制御するステップ(S2)と、
を有する、請求項1
または2記載のブレーキシステム(1)を運転するための方法。
【請求項10】
前記圧力発生装置(10)に機能不良が検出された場合に、前記ビークルダイナミックコントロール(20)の前記ブレーキ圧発生装置(21)によって前記ブレーキ回路(B1,B2)の少なくとも一方に液圧を発生させるためのステップを有する、請求項9記載の方法。
【国際調査報告】