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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】膜の選択性を高める方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20241219BHJP
   A61M 1/18 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
A61M1/16 101
A61M1/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537447
(86)(22)【出願日】2022-12-16
(85)【翻訳文提出日】2024-08-16
(86)【国際出願番号】 EP2022086494
(87)【国際公開番号】W WO2023117808
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】21216677.1
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501473877
【氏名又は名称】ガンブロ・ルンディア・エービー
【氏名又は名称原語表記】GAMBRO LUNDIA AB
(71)【出願人】
【識別番号】518294498
【氏名又は名称】ライニッシェ ヴェストフェリシェ テヒニシェ ホッホシューレ (エルヴェーテーハー) アーヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スワルトチェス,ヤン・イェー・テー・エム
(72)【発明者】
【氏名】シュトルアー,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】フォテラー,シュテファニ
(72)【発明者】
【氏名】ホルヌング,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ペーテルス,ラルス
(72)【発明者】
【氏名】ベスリング,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ローゼ,イルカ
(72)【発明者】
【氏名】リンツ,ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】ロート,ハンナ
(72)【発明者】
【氏名】フルコ,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】クラウス,アナベル
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077LL02
4C077LL05
(57)【要約】
本開示は、膜、特にi)ポリスルホン、ポリエーテルスルホン又はポリアリールエーテルスルホンと、ii)ポリビニルピロリドンとのブレンドを含む膜の選択性を改善する方法であって、膜が、1ステップ若しくは2ステップ反応で、又はポリドーパミンによる原位置修飾、引き続いてヘパリンによるコーティングによって、ポリドーパミン及びヘパリンでコーティングされることを特徴とする方法に関する。本開示はさらに、改善された選択性を有するこのような修飾された膜を製造する方法、及び例えば血液透析用途に使用することができる膜を含む濾過/拡散装置に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液処理に使用するための膜の選択性を高める方法であって、
(i)ベース膜を用意するステップと、
(ii)前記ベース膜をポリドーパミン及びヘパリンでコーティングするステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記ベース膜が、i)ポリスルホン(PS)、ポリエーテルスルホン(PES)又はポリアリールエーテルスルホン(PAES)と、ii)ポリビニルピロリドン(PVP)とのブレンドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(i)の前記ベース膜がポリドーパミンをさらに含み、ステップ(ii)においてヘパリンでコーティングされる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ベース膜が、スルホン化ポリアクリロニトリル(PAN)膜、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)膜、セルローストリアセテート(CTA)膜、又はエチレンビニルアルコールコポリマー(EVAL)膜から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ベース膜が最初にポリドーパミンでコーティングされ、続いてヘパリンでコーティングされる、請求項1、2又は4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ベース膜が、ポリドーパミン及びヘパリンを含む混合物でコーティングされる、請求項1、2又は4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ベース膜が、0.30μg/cm膜表面~1.10μg/cm膜表面の量のポリドーパミンでコーティングされる、請求項1、2及び4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ベース膜が、5mU/cm膜表面~100mU/cm膜表面の量のヘパリンでコーティングされる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ベース膜が、血液接触前のデキストランふるい分けによって測定される、8.5~14.0kDaのMWRO及び50.0~130.0kDaのMWCOを有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ベース膜が、血液接触前のデキストランふるい分けによって測定される、15kDa~20kDaのMWRO及び170kDa~320kDaのMWCOを有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記膜が、血液接触前のデキストランふるい分けによって測定される、5.0kDa~8.5kDaのMWRO及び25kDa~50kDaのMWCOを有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記膜がフラットシート膜又は中空糸膜である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(ii)が、
(a)8.0~10.0のpHで2mg/mL~80mg/mLの量のドーパミンを含む溶液を用意するステップと、
(b)0.1mg/mL~100mg/mLの量のヘパリンをステップ(a)の前記溶液に添加するステップと、
(c)前記ベース膜表面をステップ(b)の前記溶液と接触させるステップと、
(d)ステップ(c)の前記コーティングされたベース膜をすすぎ、任意選択的に乾燥させるステップと、
(e)任意選択的に、ステップ(c)の前記コーティングされたベース膜を滅菌するステップと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(ii)が、
(a)8.0~10.0のpHで2mg/mL~80mg/mLの量のドーパミン及び5mg/mL~80mg/mLの量のヘパリンを含む溶液を用意するステップと、
(b)前記ベース膜表面をステップ(a)の前記溶液と接触させるステップと、
(c)ステップ(b)の前記コーティングされたベース膜をすすぎ、任意選択的に乾燥させるステップと、
(d)任意選択的に、ステップ(c)の前記コーティングされたベース膜を滅菌するステップと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(i)の前記ベース膜が、
(a)(i)ポリスルホン、ポリエーテルスルホン又はポリアリールエーテルスルホンのうちの少なくとも1つと、(ii)ポリビニルピロリドンと、(iii)ドーパミンと、を含むポリマー溶液を形成すること、
(b)2つの同心円状開口部を有するノズルの外側リングスリットを通して前記ポリマー溶液を沈殿浴中に押し出すこと、及び同時に
(c)前記ノズルの内側開口部を通して中心流体を押し出すこと、
(d)前記得られた膜を洗浄し、続いて、任意選択的に乾燥させること
によって用意され、
前記ポリマー溶液が、前記ポリマー溶液の総重量に対して10~15重量%のポリスルホン、ポリエーテルスルホン又はポリアリールエーテルスルホンと、前記ポリマー溶液の総重量に対して1~10重量%のポリビニルピロリドンと、前記溶液の総重量に対して0.3~0.8重量%のドーパミンと、を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項16】
前記中心流体が、HO及び5mM~20mMの濃度のトリス緩衝液を含み、8.0~9.5のpHを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ステップ(d)の後、前記ポリドーパミン含有膜を、
(e)5mg/mL~80mg/mLの量のヘパリンを含む溶液と接触させ、続いて
(f)ステップ(e)の前記ヘパリンコーティングベース膜をすすぎ、任意選択的に乾燥させ、及び
(g)任意選択的に、ステップ(f)の前記ヘパリンコーティングベース膜を滅菌する、
請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の方法によって処理された膜を含む、血液処理用透析器。
【請求項19】
(i)ポリスルホン、ポリエーテルスルホン又はポリアリールエーテルスルホンのうちの少なくとも1つと、(ii)ポリビニルピロリドンと、(iii)ドーパミンとのブレンドを含み、5mU/cm膜表面~100mU/cm膜表面の量のヘパリンでコーティングされている膜。
【請求項20】
請求項19に記載の膜を含む、血液処理用透析器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜、特にi)ポリスルホン、ポリエーテルスルホン又はポリアリールエーテルスルホンと、ii)ポリビニルピロリドンとのブレンドを含む膜の選択性を改善する方法であって、膜が、一段階若しくは二段階反応で、又はポリドーパミンによる原位置(in situ)修飾、引き続いてヘパリンによるコーティングによって、ポリドーパミン及びヘパリンでコーティングされることを特徴とする方法に関する。本開示はさらに、改善された選択性を有するこのような修飾された膜を製造する方法、及び例えば血液透析用途に使用することができる膜を含む濾過/拡散装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液透析中の末期腎疾患を有する患者は、一般集団と比較した場合、死亡リスクが高い。これは、現在利用可能な代替療法が、高度な膜及び透析器技術並びに非常に効果的で洗練された装置に依存しているにもかかわらず、患者の臨床転帰及び治療中の患者の生活の質が良くなるようにさらに改善されるべきであることを示している。何十年にもわたって新たな膜及び透析器の開発に付随してきた依然として多岐にわたる満たされていないニーズの1つは、アルブミン及び重要であると考えられる高分子量化合物などのタンパク質を本質的に保持しながら、広範囲にわたる尿毒症性毒素の除去を強化することである。この問題は、長年研究の対象であり、著しい改善がなされているにもかかわらず、今日利用可能な合成膜は依然として腎臓の糸球体膜よりも選択性が低く、したがって約58kDaのサイズまでの高分子量尿毒症性毒素が患者の血液から適切に除去されず、アルブミンなどのより高い分子量を有するより大きな分子を同時に保持しなければならないため、依然として持続的な問題である。また、血液透析は、一般に、およそ4時間にわたって週3回行われるが、健康な腎臓は連続的に機能し(Boschetti-de-Fierro et al.,Scientific Reports(2015)5:18448)、このことが体内の尿毒症性毒素の蓄積に関する問題をさらに大きくする。血液透析における別の持続的な必要性は、処置に使用される材料の血液適合性、特に直接血液に接触している膜の血液適合性、並びにほとんどの治療において全身ヘパリンを使用することを必要とするそれらの血栓形成性である。
【0003】
したがって、膜の革新は、近年、より大きな分子量の尿毒症性毒素の除去の向上及び膜透過性の増加、並びに膜の血液適合性及び抗血栓性の改善に注目してきた。膜透過性の増加及び付随する選択性の増加への漸進的シフトは、合成膜と天然腎臓との間の持続的なギャップによって駆動され、高い透過性と高い選択性の両方を組み合わせる。
【0004】
上述のように、血液透析に特に使用するための膜の選択性の典型的な特徴は、一方ではアルブミン(約66.4kDa)のふるい係数、他方では大分画中分子溶質(large middle molecules)(25超~58kDa)のふるい係数である(Rosner et al.,Classification of Uremic Toxins and Their Role in Kidney Failure:CJASN 16,1-8(2021))。このような大分画中分子溶質としては、例えば、YKL-40(約40kDa)、AGEs、ラムダ-FLC、CX3CL1、CXCL12又はIL-2が挙げられる。しかしながら、選択性は、β2-ミクログロブリンなどの小分画中分子溶質(0.5~15kDa)、及びTNF、IL-10、IL-6、カッパ-FLC、ミオグロビン、FGF-2、補体因子Dなどの中分画中分子溶質(15超~25kDa)の非常に効率的な除去も明確に包含する。前記分子のふるい係数はまた、分子の保持開始、すなわちふるい係数が0.9である場合、及び膜のカットオフ、すなわちふるい係数が0.1である場合に関する情報を提供し、したがって、膜の保持開始及びカットオフ並びに結果としてその選択性の優れた尺度を提供する膜のMWCO値及びMWRO値によって表されるふるい分け曲線に反映される。例えば、カットオフを安定に保ちながら又はカットオフを減少さえさせながら、保持開始をより高分子量にシフトさせると、選択性が増加し、これはふるい分け曲線の急峻さの増加から明らかである(図1)。又は、所与の膜のMWROを安定に保ちながらそのMWCOを減少させることは、膜の選択性を高めるための別の良い方法である。
【0005】
例えば、前述のMWRO値及びMWCO値で説明することができる改善された選択性を有する膜を含む血液透析器は、約4時間の典型的な透析処置(又はインビボ使用と相関する模擬使用)にわたって低いアルブミン損失を有するべきである、すなわち、アルブミン損失は約7g/4時間未満のままであるべきであり、好ましくは約4g/4時間未満のままであるべきである。同時に、このような血液透析器は、例えばYKL-40を含む前記大分画中分子溶質についての良好なクリアランスを提供すべきである、すなわち、少なくとも20mL/分以上のYKL-40クリアランスを有するべきである。血液透析器は、80mL/分超のクリアランスでβ-2ミクログロブリン(β2m)を効率的に除去すべきである。
【0006】
β-2ミクログロブリンは、血液透析における周知のマーカー分子である。β-2ミクログロブリンは、長期血液透析を受けている患者において、透析アミロイドーシスとして知られる疾患である、関節腔に沈着するアミロイド線維に凝集し得る、分子量11kDaのMHCクラスI分子の成分である。YKL-40(又はキチナーゼ3様タンパク質)は、近年、血液透析における関連性のある機能的マーカータンパク質として浮上し(Lorenz et al.,Kidney International(2018)93:221-230)、慢性腎臓疾患及びHD患者における慢性炎症反応に関連付けられており、患者の血清中のその存在がそれを入手可能及び追跡可能にする。
【0007】
近年、改善された性能を有する膜及び血液透析器に向けた重要なステップが、高分子量保持開始(MWRO)を有する膜を特徴とするいわゆるMCO膜及び透析器の導入によって行われ、それによって、十分に低い分子量カットオフ(MWCO)と組み合わせて、より大きな分子量の毒素もかなりの程度まで膜を通過することが可能になり、アルブミンの分子量及びそれ以上の分子量を有する所望のタンパク質が本質的に保持されることが確実になる(WO2015/118046A1及びWO2015/118046A1)。換言すれば、膜の設計は、有意に改善された選択性を可能にし、これは、いわゆる「高カットオフ」(HCO)膜又は過去に「タンパク質漏出」(PL)膜と呼ばれていた膜などの他の先行技術の膜を超える際立った特徴である。HCO膜はまた、前記高分子量毒素を効率的に除去することができるが、それらのアルブミン損失の増加は、時間的に制限され、アルブミン損失及びその置換に関して厳密に制御された急性状況でのみのそれらの使用を推奨する。一方、タンパク質漏出膜は、一般に、アルブミン損失を合理的に制限するカットオフを有するが、保持開始が比較的低く、低い選択性を示す平坦なふるい分け曲線をもたらす。対照的に、非常に選択的なMCO膜は、中空糸、膜束及び透析器の慎重な物理的設計と組み合わせると、血液透析における関連する高分子量毒素の前例のないクリアランスを提供する性能をもたらすが、アルブミン損失は狭い限度内に維持され得る(Kirsch et al.,Nephrology Dialysis Transplantation(2017)32:165)。
【0008】
優れた透析器性能に対する前記MCO膜及び透析器設計の有意な寄与は、WO2015/118046A1及びWO2015/118046A1に記載される製造工程の全ての関連パラメータの慎重な制御によって達成された。このような高度に制御された製造工程は、業界全体で容易に再現可能ではなく、この工程自体によって前記MCO膜の選択性をさらに改善することは困難及び/又は高価である。したがって、より単純な設定で及び最終製品の価格を増加させる過剰なコストなしに、高度に選択的な血液透析膜の製造を可能にする、より単純で容易に利用可能な方法によって、さらにより高い選択性に向けて膜さらに改善することが望ましいだろう。
【0009】
例えば、今日血液透析(HD)で広く使用されているハイフラックス膜を含む、標準的な血液透析膜などの他の膜及び透析器はまた、上記のような潜在的により高価なハイエンド透析器又はHDFなどの潜在的により複雑でアクセスが制限された治療から恩恵を受けることができない可能性があるより多くの患者に改良された透析器へのアクセスを提供するための単純で、費用効果が高く、安全な方法でそれらの選択性を改善する方法から利益を得ることができるだろう。明らかに、利用可能な膜及び透析器の選択性を改善するためのいずれのこのような方法も、膜及び透析器の生体適合性並びに患者に対するその一般的な安全性を保証しなければならない。
【0010】
例えば、生体適合性、抗血栓性若しくは性能を改善するため、又は特定の特異的若しくは非特異的特性を追加するため、例えば、親水性若しくは疎水性分子などの特定の化合物を捕捉するため、又は特定の分子に対する固定化抗体によってこのような分子を特異的に固定化するための、生物学的に活性な又は不活性な化合物を固定化することによる、血液透析膜を含む膜の修飾は、先行技術に記載されている。
【0011】
例えば、US2003/0021826A1は、アクリロニトリルと少なくとも1つのアニオン性又はアニオン化可能モノマーとのコポリマーから本質的に構成される半透性支持膜の表面に抗凝固剤を安定に結合させることを提案している。抗凝固剤は、体外循環による処置中に血液又は血漿中に浸出することなくその抗凝固活性を発揮することができる。血液又は血漿と接触することを意図された半透性支持膜の表面は、ポリアクリロニトリルのアニオン性基又はアニオン化可能基とイオン結合を形成することができるカチオン性基を有するカチオン性ポリマー、例えばポリエチレンイミン(PEI)、及び前記カチオン性ポリマーのカチオン性基とイオン結合を形成することができるアニオン性基を有する抗凝固剤(例えば、ヘパリン)で連続してコーティングされる。この技術に基づく膜は、今日、血液透析において、例えば、Evodial又はOxiris透析器(共にBaxter製)において使用されている。
【0012】
典型的には、血液透析処置は、人工膜表面上での血液凝固を防ぐために患者へのヘパリンの投薬を必要とする。ヘパリンはアンチトロンビンを活性化し、アンチトロンビンは第X因子及びトロンビンを阻害する。この凝固カスケードへの影響により、ヒト血液における血栓の形成が妨げられる。さらに、ヘパリンは血小板沈着を有意に減少させる。臨床処置では、ヘパリンの投薬量は一般に個別化されていない。したがって、ヘパリンはより大量に投与され、各処置手順後に患者の血液中のヘパリンが分解されるまで長い待機時間をもたらす。膜表面上へのヘパリンの固定化は、ヘパリン投与及び結果として生じる長期損傷を防止するための有望なアプローチである。
【0013】
膜を単独で又は他の材料と組み合わせて修飾するために既に広く使用されている別の化合物は、ポリドーパミンである。ポリドーパミンは、様々な膜工程における修飾及び様々な目的のために使用されてきた。
【0014】
【化1】
【0015】
ポリドーパミンは、例えばアルカリ性環境で又は酸化によってドーパミンから得られ、様々な表面に付着する。様々な反応基が、材料科学、生物医学、表面工学及び触媒作用における実用的な用途のために表面を官能化する多くの可能性を提供する(Liebscher,Chemistry of Polydopamine-Scope,Variation,and Limitation.Eur.J.Org.Chem.,2019(2019):4976-4994)。
【0016】
例えば、WO2012/047282A2は、TFC-FO膜をドーパミンと防汚ポリマーの混合物でコーティングすることによってTFC-FO膜の防汚特性を高める方法を記載している。反応混合物へのドーパミンの添加により、より安定なコーティングの形成が可能になる。US2010/0059433A1はまた、ドーパミンコーティング材料を液体溶媒に添加して溶液混合物を形成し、溶液混合物のpHを8、9又は10に調整し、ドーパミンコーティング材料を液体溶媒に溶解することによって、膜表面上のバイオフィルム形成を低減又は防止するために、汚染水の浄化に使用される膜上にコーティング材料を堆積させることを開示している。次いで、溶液混合物を膜表面と接触させて表面上にドーパミンコーティングを形成して、バイオフィルム形成を減少させる。
【0017】
Li et al.,Desalination 344(2014):422-430は、等温吸着試験において少ない濾過の流束減少及び低いBSAの吸着量をもたらす、ポリドーパミン(PD)コーティング及びPD-グラフト-ポリ(エチレングリコール)(PD-g-PEG)修飾による異なるMWCO(分子量カットオフ)を有するポリエーテルスルホン(PES)膜の修飾を記載している。
【0018】
Zhu et al.,(Surface modification of PVDF porous membranes via poly(DOPA)coating and heparin immobilization,Colloids and Surfaces B:Biointerfaces 69(1)(2009)152-155)は、最初に、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)微孔質膜上でヘパリンをポリドーパミンと組み合わせた。その後、ポリドーパミン処理膜上のヘパリンの分野でさらなる研究が行われた。Jiang et al.(Surface modification of PE porous membranes based on the strong adhesion of polydopamine and covalent immobilization of heparin,Journal of Membrane Science 364(1-2)(2010)194-202)は、ポリエチレン(PE)多孔質膜をコーティングし、コーティング工程中に生成される共有結合を示しており、You et al.(Enhancement of blood compatibility of poly(urethane)substrates by mussel-inspired adhesive heparin coating,Bioconjugate Chemistry 22(7)(2011)1264-1269)は、処理ポリ(ウレタン)(PU)基材の使用によって有意に阻害された血液凝固を示している。
【0019】
ヘパリン処理済ポリドーパミン処理膜の研究も、透析の分野で行われてきた。Gao et al.,Journal of Membrane Science 452(2014):390-399は、ヘパリンがドーパミンを介して固定化された血液透析用の非対称多孔質構造を有するバイオベースのポリ(乳酸)(PLA)膜の製造を記載している。ドーパミンによって媒介される表面ヘパリン化が、PLA膜の血液適合性を改善し、血小板の付着を抑制し、溶血を減少させた。Ma et al.(Mussel-inspired self-coating at macro-interface with improved biocompatibility and bioactivity via dopamine grafted heparin-like polymers and heparin,Journal of Materials Chemistry B 2(2014)363-375)は、PES膜を使用し、未処理膜と比較した血漿タンパク質吸着の減少及び血小板接着の抑制を示している。
【0020】
しかしながら、ポリドーパミン及びヘパリンに基づくテーラードコーティングを前記ベース膜に適用することによって所与の膜の選択性に影響を与えることが可能であることはこれまで記載されていない。特に、それだけに限らないが、血液透析、血液濾過又は血液透析濾過を含む血液処理用の膜、特にポリスルホン、ポリエーテルスルホン及びポリアリールエーテルスルホンベースの膜をポリドーパミン及びヘパリンでコーティングする慎重に設計された方法が、このようなコーティングのないベース膜と比較して増加した選択性を有する膜をもたらすことがここで初めて見出された。このようなコーティングは、ポリドーパミンとヘパリンとの組み合わせ層として、又はポリドーパミンとそれに続くヘパリンの別個の連続層として適用できることがさらに見出された。別の選択肢は、ポリドーパミンを所与のベース膜レシピの紡糸溶液に添加し(「原位置ポリドーパミン官能化」)、その後ポリドーパミン修飾膜上にヘパリンを固定化することである。得られたポリドーパミン-ヘパリン修飾膜(PD-HEP)は、典型的な血液透析処置中に安定であり、ベース膜、すなわちPD-HEPコーティングのない膜又は追加のヘパリンコーティングを有するポリドーパミンを含まない膜の性能及び選択性をそれぞれ改善することが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】国際公開第2015/118046号
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0021826号明細書
【特許文献3】国際公開第2012/047282号
【特許文献4】米国特許出願公開第2010/0059433号明細書
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Boschetti-de-Fierro et al.,Scientific Reports(2015)5:18448
【非特許文献2】Rosner et al.,Classification of Uremic Toxins and Their Role in Kidney Failure:CJASN 16,1-8(2021)
【非特許文献3】Lorenz et al.,Kidney International(2018)93:221-230
【非特許文献4】Kirsch et al.,Nephrology Dialysis Transplantation(2017)32:165
【非特許文献5】Liebscher,Chemistry of Polydopamine-Scope,Variation,and Limitation.Eur.J.Org. Chem.,2019(2019):4976-4994
【非特許文献6】Li et al.,Desalination 344(2014):422-430
【非特許文献7】Zhu et al.,(Surface modification of PVDF porous membranes via poly(DOPA) coating and heparin immobilization,Colloids and Surfaces B:Biointerfaces 69(1)(2009)152-155)
【非特許文献8】Jiang et al.(Surface modification of PE porous membranes based on the strong adhesion of polydopamine and covalent immobilization of heparin,Journal of Membrane Science 364(1-2)(2010)194-202)
【非特許文献9】You et al.(Enhancement of blood compatibility of poly(urethane) substrates by mussel-inspired adhesive heparin coating,Bioconjugate Chemistry 22(7)(2011)1264-1269)
【非特許文献10】Gao et al.,Journal of Membrane Science 452(2014):390-399
【非特許文献11】Ma et al.(Mussel-inspired self-coating at macro-interface with improved biocompatibility and bioactivity via dopamine grafted heparin-like polymers and heparin,Journal of Materials Chemistry B 2(2014)363-375)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の目的は、血液処理用途、特に血液透析、血液濾過又は血液透析濾過に使用するための中空糸及びフラットシート膜の選択性を改善する方法であって、中空糸及びフラットシート膜をポリドーパミンとヘパリンの混合物によるコーティング、又は第1のドーパミンとそれに続くヘパリンによるその後のコーティング、又は膜の原位置ポリドーパミン官能化とそれに続くヘパリンによるコーティングのいずれかによって、ポリドーパミン及びヘパリンで修飾することによる方法を提供することである。本明細書で使用される場合、「膜(membrane)」又は「膜(membranes)」という表現は、中空糸膜とフラットシート膜の両方を包含する。本発明の文脈において、中空糸膜は、血液透析装置で使用するための先行技術の膜構成を構成するので好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0024】
例えば、ベース膜として使用することができる膜は、i)ポリスルホン、ポリエーテルスルホン又はポリアリールエーテルスルホンと、ii)ポリビニルピロリドンとのブレンドを含む。前記膜は、例えば、Ronco and Clark,Nature Reviews.Nephrology 14(6)(2018):394-410に記載されているように、スポンジ状構造の最小非対称性から指状構造の最大非対称性まで、様々な程度の非対称構成を含む異なる物理的構造を有することができる。中空糸膜の場合、中空糸膜の内腔又は内側は、一般に、血液又は任意選択的に血漿と接触する中空糸膜の選択層を提供するので、好ましくはコーティングされる。中空糸膜の外側が血液と接触し、膜の選択層を提供する装置では、本発明による修飾又はコーティングが好ましくは中空糸膜の外側に適用されるだろう。
【0025】
一態様によると、本発明による方法に使用するためのベース膜は、血液接触前のデキストランふるい分けによって測定される、8.5~14.0kDaのMWRO及び50.0~130.0kDaのMWCO、好ましくは血液接触前のデキストランふるい分けによって測定される、8.5~12.5kDaのMWRO及び55.0~110.0kDaのMWCOを有する。さらに別の態様によると、ベース膜は、血液接触前のデキストランふるい分けによって測定される、9.0~12.5kDaのMWRO及び55.0~90.0kDaのMWCOを有する。このような膜は、一般にMCO(ミディアムカットオフ)膜と呼ばれ、時にはHRO(高保持開始)膜とも呼ばれる。これらの膜は、それぞれWO2015/118045A1及びWO2015/118046A1に詳細に記載されている。現在市場で入手可能なこのようなMCO型膜の代表的なものである製品は、Theranova透析器(Baxter)である。
【0026】
別の態様によると、本発明による方法に使用するためのベース膜は、血液接触前のデキストランふるい分けによって測定される、15kDa~20kDaのMWRO及び170kDa~320kDaのMWCOを有する。このような膜は、例えば、WO2004/056460A1又はGondouin and Hutchison:High Cut-Off Dialysis Membranes:Current Uses and Future Potential.Advances in Chronic Kidney Disease 18(2011):180-187に記載されている。このようなHCO型膜及び透析器の代表的なものであり、現在市場で入手可能な製品は、Theralite透析器(Baxter)である。
【0027】
別の態様によると、本発明による方法に使用するためのベース膜は、血液接触前のデキストランふるい分けによって測定される、5.0kDa~8.5kDaのMWRO及び25kDa~50kDaのMWCOを有するハイフラックス(HF)膜である。
【0028】
本発明の一態様によると、膜は、ワンステップで、ドーパミン及びヘパリンを含む溶液でコーティングされ得る(図2B)。誤解を避けるために、ドーパミンは、ベース膜をコーティングするための溶液中に提供され、溶液中で反応してポリドーパミンになる出発物質である。したがって、本明細書で使用される場合、ドーパミンは、コーティング溶液に添加される出発物質を指す。しかしながら、ドーパミンはコーティングの過程でポリドーパミンに移行し、最終膜上にポリドーパミンとして存在することが示唆される。
【0029】
一態様によると、コーティング溶液中のドーパミンの濃度は、2mg/mL~80mg/mLの間である。溶液のpHは、好ましくは8.0~10の間、例えば8.0~9.8の間、8.0~9.6の間又は8.2~9.4の間である。本発明のさらに別の態様によると、コーティング溶液中のヘパリンの濃度は、10mg/mL~60mg/mLの間、好ましくは15mg/mL~50mg/mLの間、例えば15mg/mL、20mg/mL、25mg/mL、30mg/mL、35mg/mL、35mg/mL、40mg/mL、45mg/mL及び50mg/mLである。
【0030】
別の態様によると、膜は、0.30μg/cm膜表面~1.20μg/cm膜表面、例えば0.30μg/cm、0.40μg/cm、0.50μg/cm、0.60μg/cm、0.70μg/cm、0.80μg/cm、0.90μg/cm、1.00μg/cm、1.10μg/cm又は1.20μg/cmの量のポリドーパミンでコーティングされている。本発明の別の態様によると、膜は、0.50μg/cm~0.70μg/cmの量のヘパリンでコーティングされている。本発明のさらに別の態様によると、膜は、0.40μg/cm膜表面~0.60μg/cm膜表面の量のポリドーパミンでコーティングされている。本発明のさらに別の態様によると、膜は、0.60μg/cm~1.10μg/cmの量のヘパリンでコーティングされている。
【0031】
さらなる態様によると、ベース膜(図2(0))は、2つの連続するステップで、ポリドーパミン及びヘパリンでコーティングされ、膜が最初にポリドーパミンでコーティングされ(図2A)、引き続いて第2のステップでヘパリンでコーティングされ、それによって、ポリドーパミンを含むか又はポリドーパミンから本質的になる第1のコーティング層、及びヘパリンを含むか又はヘパリンから本質的になる第2のコーティング層でコーティングされたベース膜を含むか又はベース膜からなるコーティングされた膜が提供される。
【0032】
別の態様によると、膜は、第1のステップで、ポリドーパミンによるベース膜の原位置修飾(図2C)によってポリドーパミン及びヘパリンで修飾され、引き続いて第2のステップで、ヘパリンによりポリドーパミン修飾ベース膜のコーティングがされる。ポリドーパミンはまた、上記方法のいずれかに従って、すなわち、原位置キャスティング法又はポリドーパミン及びヘパリンによるワンステップ若しくはその後のコーティングのいずれかによって、フラットシート膜に添加され得る。
【0033】
別の態様によると、コーティング溶液中のヘパリンの濃度は、0.1mg/mL~100mg/mL、0.5mg/mL~80.0mg/mL、1mg/mL~60mg/L又は5mg/mL~40mg/Lである。例えば、コーティング溶液中のヘパリンの濃度は、0.5mg/mL、1mg/mL、2mg/mL、3mg/mL、4mg/mL、5mg/ml、10mg/ml、15mg/ml、20mg/ml、25mg/ml、30mg/ml、35mg/ml、40mg/ml、45mg/ml、50mg/ml、55mg/ml、60mg/ml、65mg/ml、70mg/ml、75mg/ml又は80mg/mlである。さらなる態様によると、コーティング溶液中のヘパリンの濃度は、10mg/mL~50mg/mLの間である。さらなる態様によると、コーティング溶液中のヘパリンの濃度は、0.1mg/mL~20mg/mLの間、0.1mg/mL~10mg/mL又は0.5mg/mL~10mg/mLである。
【0034】
さらに別の態様によると、膜は、5mU/cm膜表面~100mU/cm膜表面、5mU/cm膜表面~80mU/cm膜表面、5mU/cm膜表面~50mU/cm膜表面又は5mU/cm膜表面~30mU/cm膜表面、例えば5mU/cm、6mU/cm、7mU/cm、8mU/cm、9mU/cm、10mU/cm、11mU/cm、12mU/cm、13mU/cm、14mU/cm、15mU/cm、16mU/cm、17mU/cm、18mU/cm、19mU/cm、20mU/cm、21mU/cm、22mU/cm、23mU/cm、24mU/cm、25mU/cm、30mU/cm、35mU/cm、40mU/cm、45mU/cm、50mU/cm、55mU/cm、60mU/cm、65mU/cm、70mU/cm、75mU/cm又は80mU/cmの量のヘパリンでコーティングされている。例えば、膜は、5mU/cm膜表面~25mU/cm膜表面の量のヘパリンでコーティングされている。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】それぞれのMWRO値及びMWCO値によって示される異なる選択性を有する仮想膜のふるい分け曲線の概略図である。膜の分子量保持開始(MWRO)と分子量カットオフ(MWCO)との間の差が減少すると、曲線の形状はより急峻になり、これは選択性の増加に対応する。膜1から出発して、これは、例えば、MWCOが両膜について同じままであり得るが(MWCO1及びMWCO2)、MWROがより高分子量にシフトし、MWRO2及び選択性が増加した膜2が得られることを意味する。MWROがより高い分子量にシフトし、MWCOがより低い分子量にシフトすると、得られる膜3は、より低いMWCO(MWCO3)と組み合わされた、さらに高いMWRO(MWRO3)を有し、さらに増加した選択性を有する膜3が得られる。また、MWRO3をMWRO2と同じレベルに維持し、MWCO3をより低い分子量(ここでは図示せず)にシフトさせるだけも可能であり、これも膜1に対して改善された選択性をもたらす。結果として、所与の膜のMWRO及びMWCOを調節する方法は、より良好な選択性を達成するために、この分子量範囲以上のアルブミン及び他のタンパク質の損失を減少させることができる一方で、小分画、中分画及び大分画中分子溶質の除去を改善することができることを意味する。
図2】その選択性を修飾するためにポリドーパミン及びヘパリンで所与の膜又は膜材料を修飾するために適用することができる様々な方法の概略図である。図2(0)は、ポリドーパミン(PD)及び/又はヘパリン(HEP)修飾のいずれも含まない完成中空糸膜(「ベース膜」)を示す。修飾は、中空糸膜を第1のステップでポリドーパミンでコーティングし、引き続いて第2のステップでヘパリンでコーティングすることによって連続的に行うことができる(図2(A))。あるいは、コーティングを、(ポリ)ドーパミンとヘパリンの両方を含むコーティング溶液を用いてワンステップで行うことができる(図2(B))。別の選択肢が図2(C)に示されており、ここでは、膜が、ポリドーパミンをポリマーに添加することによって、紡糸中にポリドーパミンで原位置修飾される。次いで、第2のステップでヘパリンを膜上にコーティングすることができる(図示せず)。
図3】どのように本発明のコーティングが膜の選択性を改善すると仮定されるかについての概略図である。図3(A)は修飾されていない膜を示す。例えばアルブミンなどの負に帯電した分子は、対応するサイズの膜細孔をただ通過することができる。図3(B)は、ポリドーパミン(PD)及びヘパリン(HEP)でコーティングされた膜を示し、それによって膜及び細孔は負に帯電した層を受容し、したがって、そうでなければ細孔を通過したであろう同じ分子の通過を拒絶する。修飾後の拒絶の増加に寄与し得る別の又は追加の効果を図3(C)に示す。小さい細孔よりも大きな細孔の孔径を減少させることによって、膜全体の選択性を高めることもできる。
図4】意図したコーティングが達成されるまで、コーティング溶液がフィルタ又はミニモジュールを通ってポンピングされる再循環モードにおける、ミニモジュールなどのフィルタモジュール内の中空糸膜をコーティングする方法の概略図である。
図5】処理されていない(HF)、0.5g/Lポリドーパミンでコーティングされた(HF-PD)又は0.5g/Lポリドーパミンでコーティングされ、その後、1g/Lヘパリンでコーティングされた(HF-PD-HEP)市販の中空糸膜(Revaclear、Baxter)の37℃での水中のミオグロビン及びアルブミンのふるい係数並びに純水透過率(PWP)を示す図である。ミオグロビンのふるい係数は増加し、ポリドーパミン及びヘパリンによる完全なコーティングで100%に達するが、アルブミンのふるい係数は同じままであることが示されている。換言すれば、コーティングされた膜の選択性が増加する。
図6】ポリドーパミンによる原位置修飾を有する及び有さない中空糸を示す図である。膜Aはポリドーパミンで修飾されていない。膜Cは、ポリマー溶液中のポリドーパミンで原位置修飾されている(ポリマー溶液の総重量に対して0.5重量%)。膜Eもポリドーパミンで修飾されているが、トリス緩衝液を含むボア液(中心流体)で調製されている。ポリドーパミンからのわずかに褐色がかった色を膜Eで見ることができる。
図7】a)~c)ドーパミンを含まないHFiS、d)~f)HFis-PD及びg)HFis-PD-HEP繊維の形態:a)+d)断面;b)+e)拡大断面の細孔構造;c)+f)+g)拡大断面の内腔チャネルを示す図である。
図8】様々な膜を用いたゼータ電位測定の結果を示す図である。図8Aは、HFiS及びHFis-PD、並びにHFis-HEP及びHFis-PD-HEPを示す図である。図8Bは、トリス緩衝液、HFis-PD-T及びHFis-PD-HEP-Tを含む中心流体で調製された膜を示す図である。ヘパリンの結合及びそれによるゼータ電位の有意な低下は、ポリドーパミンが膜に効果的に組み込まれている場合にのみ明らかである。原位置で組み込まれたポリドーパミンのみでは、膜のゼータ電位にいかなる関連する影響も及ぼさない。
図9】実施例2に記載されるワンステップアプローチで、ポリドーパミン及びヘパリンでコーティングされたミニモジュール又はフィルタから採取した中空糸の繊維内腔に対するヘパリン活性を示す図である。「n」は、所与の装置から調製され、ヘパリン活性について試験された試料の数を指す。「MM」は、コーティング手順に供された「ミニモジュール」を指し、「フィルタ」は、血液透析装置がコーティングに供されたことを意味する。Evodial膜を除いて、使用した全ての膜は、示されるように滅菌されていないか又は電子ビームで滅菌されたMCO Ci-400膜であった。「D6C9.5H0.5」は、6mg/mLのドーパミン、9.5mg/mLのコンドロイチン及び0.5mg/mLのヘパリンでコーティングされたMCO Ci-400膜を指す。「D12H0.5」は、12mg/mLのドーパミン及び0.5mg/mLのヘパリンでコーティングされたMCO Ci-400膜を指す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
血液透析膜について本明細書で使用される「選択性」という表現は、アルブミン(66.4kDa)などのより大きなタンパク質を本質的に保持しながら、小分画(0.5~15kDa)、中分画(15超~25kDa)及び大分画(25超~58kDa)中分子量化合物を効率的に除去する膜の能力を指す(Rosner et al.:Classification of Uremic Toxins and Their Role in Kidney Failure.Clin J Am Soc Nephrol.2021も参照)。このような選択性は、例えば、膜のふるい分け曲線(例えば、デキストランふるい分け曲線)の急峻さによって記載される。ふるい分け曲線の急峻さの増加は、選択性の増加と相関する。したがって、膜の選択性は、そのMWRO(分子量保持開始)、すなわち、膜のふるい係数が0.9である分子量、及びそのMWCO(分子量カットオフ)、すなわち、膜のふるい係数が0.1である分子量が、膜のふるい分け曲線の形状、したがって、膜の上述の除去及び保持能力又は選択性に関する必要な情報を提供するので、これらのパラメータによって記載することができる。例えば、2つの膜は、それらのMWROが異なりながら、同じMWCOを有することがある。したがって、より低いMWROを有する膜は、カットオフ未満の分子量の分子を除去するのにあまり効果的ではない。そのふるい分け曲線はそれほど急峻ではなく、膜は、膜のMWCOに近く、保持能力は同じままでありながら、前記中分子溶質のより良好な除去をもたらすより高いMWROを有するものよりも選択性が低い。
【0037】
本明細書で使用される「MCO膜」又は「MCO透析器」という表現は、「高保持開始」膜又は透析器についての「HRO膜」又は「HRO透析器」という表現と互換的に使用されることがあり、例えば、それぞれWO2015/118045A1及びWO2015/118046A1に記載されているような膜及び透析器を指し、膜は、好ましくは、血液接触前のデキストランふるい分けによって測定され、WO2015/118046A1に別途記載されるように、9~12.5kDaのMWRO及び55~110kDaのMWCOを有し、好ましくはさらにQB=300ml/分及びQUF=60ml/分でヒト血漿において測定される1未満(<1)のアルブミンについてのふるい係数(ScAlb(%));QB=300ml/分及びQUF=60ml/分でヒト血漿において測定される95以上(≧95)のβ-2-ミクログロブリンについてのふるい係数(Scβ2m(%));及びQB=300ml/分及びQUF=60ml/分でヒト血漿において測定される30以上(≧30)のYKL-40についてのふるい係数(ScYKL-40(%))によってさらに定義される。本明細書で言及されるMCO透析器は、好ましくは、ISO8637に従って測定される20以上(≧20)のKUF(ml/h/mmHg);QB=300~400mL/分;QD=700mL/分;QUF=0~10mL/分で、ISO8637に従って測定される、80超(>80)のβ2mクリアランスKβ2m(ml/分);QB=300ml/分;QD=500ml/分;QUF=10ml/分で、ヒト血漿において決定される20以上(≧20)のYKL-40クリアランスKYKL-40(ml/分)をさらに特徴とし、好ましくはさらに、7以下(≦7.0)、より好ましくは4以下(≦4.0)のアルブミン損失(g/4hインビボ処理又はインビボ使用と相関する模擬使用)を有する。
【0038】
本明細書で使用される「ドーパミン」という表現は、式(I)の化合物2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチルアミンを指し、例えばドーパミン-塩酸塩(2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチルアミン-塩酸塩)などのその市販の形態を含む。
【0039】
【化2】
【0040】
「ポリドーパミン」(PD)という表現は、例えば塩基性媒体中でのドーパミンの(自動)酸化によって、ドーパミンから得られるポリマーを指す(例えば、Salomaki et al.J.Phys.Chem.B(2018),122,6314-6327参照)。「ポリドーパミン」という表現は、ドーパミンから出発する様々な重合段階を包含し、したがって、ドーパミン及びポリドーパミンは、このような重合工程中に様々な比で存在し得る。
【0041】
本明細書で使用される「ヘパリン」という表現は、グリコサミノグリカン(GAG)のファミリーに属し、(i)ヘパリン及びヘパラン硫酸、並びに(ii)ヒアルロナンを含む、直鎖、非分岐及び高度に硫酸化された多糖類を指す。「ヘパリン」という表現は、治療目的で利用可能な3つの形態のヘパリン、(i)未分画ヘパリン(UFH)、(ii)低分子量ヘパリン(LMWH)及び(iii)合成超(U)LMWHを包含する。例えば、Laner-Plamberger et al.,Int.J.Mol.Sci.2021,22,12041を参照されたい。
【0042】
本明細書で使用される「ベース膜」という表現は、ポリドーパミン及びヘパリンで修飾又はコーティングされる前の膜を指す。換言すれば、ベース膜及びコーティングされた膜は、ポリドーパミン及びヘパリンの存在に関してのみ異なるが、その他の点では同じである。原位置ポリドーパミン修飾膜に関して、「ベース膜」という表現は、同じポリマー溶液から本質的に調製されるが、ポリドーパミンを含有せず、ヘパリンでコーティングされていない膜を指す。
【0043】
本発明の目標は、膜をポリドーパミン及びヘパリンで修飾することによって、膜の選択性を高める方法を提供することであった。驚くべきことに、膜は、このような修飾のないベース膜と比較して増加した選択性を示す。さらに、膜は優れた血液適合性及び抗血栓性を示す。このような修飾は、本発明による様々な方法で達成することができる。
【0044】
本発明によるベース膜として使用することができる膜は、ポリスルホン(PSf)又はポリエーテルスルホン(PES)ベースの膜であり得る。これらの膜は、i)ポリスルホン、ポリエーテルスルホン又はポリアリールエーテルスルホンと、ii)ポリビニルピロリドンとのブレンドを含む。本明細書に記載される選択性増加の概念は所与の膜の細孔の修飾に関連するので、本発明によるベース膜は他の既知の材料から作製することもできる。使用することができる他の膜材料は、例えば、スルホン化ポリアクリロニトリル(PA若しくはAN69)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、CTA(セルローストリアセテート)又はEVAL(エチレンビニルアルコールコポリマー)である。概説については、例えば、Said et al.,A Review of Commercial Developments and Recent Laboratory Research of dialyzers and Membranes for Hemodialysis Application.Membranes 11,767(2021)を参照されたい。
【0045】
一態様によると、本発明によるベース膜は、例えば、Ronco and Clark,Nature Reviews.Nephrology 14(6)(2018):394-410に記載されているように、スポンジ状構造の最小非対称性から指状構造の最大非対称性まで、様々な程度の非対称構成を含む異なる物理的構造を有することができる。中空糸膜の場合、中空糸膜の内腔又は内側は、一般に、血液又は任意選択的に血漿と接触する中空糸膜の選択層を提供するので、好ましくはコーティングされる。中空糸膜の外側が血液と接触し、膜の選択層を提供する装置では、本発明による修飾又はコーティングが好ましくは中空糸膜の外側に適用されるだろう。
【0046】
一態様によると、ベース膜はMCO膜である。現在市場で入手可能なこのようなMCO膜の代表的なものは、このような膜を含むTheranova透析器(Baxter)である。
【0047】
別の態様によると、ベース膜は、i)ポリスルホン、ポリエーテルスルホン又はポリアリールエーテルスルホンと、ii)ポリビニルピロリドンとのブレンドを含む。
【0048】
別の態様によると、ベース膜は、血液接触前のデキストランふるい分けによって測定される、8.5~14.0kDaのMWRO及び50.0~130.0kDaのMWCO、好ましくは血液接触前のデキストランふるい分けによって測定される、8.5~12.5kDaのMWRO及び55.0~110.0kDaのMWCOを有する。さらに別の態様によると、ベース膜は、血液接触前のデキストランふるい分けによって測定される、9.0~12.5kDaのMWRO及び55.0~90.0kDaのMWCOを有する。
【0049】
別の態様によると、ベース膜は、血液接触前のデキストランふるい分けによって測定される、15kDa~20kDaのMWRO及び170kDa~320kDaのMWCOを有する。このような膜は、例えば、WO2004/056460A1又はGondouin and Hutchison:High Cut-Off Dialysis Membranes:Current Uses and Future Potential.Advances in Chronic Kidney Disease 18(2011):180-187に記載されている。現在市場で入手可能なこのようなHCO膜の代表的なものは、このような膜を含むTheralite透析器(Baxter)である。
【0050】
さらに別の態様によると、ベース膜は、血液接触前のデキストランふるい分けによって測定される、5.0kDa~8.5kDaのMWRO及び25kDa~50kDaのMWCOを有するハイフラックス(HF)膜である。
【0051】
本発明の一態様によると、膜は、ワンステップで、ポリドーパミン及びヘパリンを含むコーティング溶液でコーティングされ得る(図2B)。誤解を避けるために、ドーパミンは、ベース膜をコーティングするための溶液中に最初に提供される出発物質である。ドーパミンは、溶液中で反応してポリドーパミンになり、ヘパリンと共に膜表面に適用される。したがって、本明細書で使用される場合、ドーパミンは、コーティング溶液に添加された出発物質を指すが、コーティングの過程でポリドーパミンに移行し、最終膜上にポリドーパミンとして本質的に存在することを意味する。
【0052】
一態様によると、ベース膜をコーティングするための溶液は、例えば、ドーパミンの重合を開始するために、高いpHで、例えばトリス緩衝液などの緩衝液中にドーパミン溶液を提供することによって調製される。一態様によると、pHは、約8.0~10.0、例えば8.0~9.8、8.0~9.6又は8.2~9.4である。変色は、ポリドーパミン形成を示す。次いで、ヘパリンを溶液に添加し、溶液に溶解する。次いで、溶液を、例えば、膜の内腔をコーティングするために中空糸膜の内腔に適用することができる。例えば、コーティング溶液を、吸引によって繊維の内腔に充填することができる。中空糸膜をコーティング溶液と数分間~数時間まで変化し得る一定時間インキュベートすることができる。一般に、ベース膜並びに溶液中のドーパミン及びヘパリンの濃度に応じて、10分間~2時間のインキュベーション時間で十分であろう。次いで、中空糸の内腔を、例えば0.9%NaClですすぐことができる。すすぎ中の流量は、比較的広範囲、例えば、約10mL/分~50ml/分で変化させることができ、時間もまた約1~20分間、例えば、約2~10分間で変化させることができる。
【0053】
別の態様によると、コーティング溶液を、膜及び膜を備える装置の意図した用途に応じて、中空糸の外面に適用することができる。コーティング溶液をフラットシート膜の表面に適用することもできる。
【0054】
別の態様によると、中空糸膜を、コーティング溶液が例えばフィルタ装置の中空糸を通してポンピングされるプールに供給される、再循環モードでコーティングすることができる(図4)。プール体積は変化し得るが、約80~500mLのコーティング溶液が、約1.5~2.2mの表面積を有する標準透析器の効果的なコーティングに十分であろう。ポンプ流量もまた、例えば1mL/分~約20mL/分などの比較的広範囲にわたって変化させることができる。コーティング後、フィルタを前記のようにすすぐことができる。
【0055】
本方法は、ポリドーパミンとヘパリンの混合物を含むか又は混合物から本質的になる1つの本質的に均質なコーティング層でコーティングされたベース膜を含むか又はベース膜から本質的になるコーティングされた膜を提供する。
【0056】
一態様によると、コーティング溶液中のドーパミンの濃度は、2mg/mL~80mg/mLの間である。本発明の別の態様によると、コーティング溶液中のドーパミンの濃度は、3mg/mL~60mg/mLの間である。本発明のさらに別の態様によると、コーティング溶液中のドーパミンの濃度は、5mg/mL~25mg/mLである。本発明のさらに別の態様によると、コーティング溶液中のコンドロイチンの濃度は、5mg/mL~80mg/mLの間、例えば10mg/mL~60mg/mLの間である。
【0057】
別の態様によると、コーティング溶液中のヘパリンの濃度は、0.1mg/mL~100mg/mLの間、0.5mg/mL~80.0mg/mL、1mg/mL~60mg/L又は5mg/mL~40mg/Lである。例えば、コーティング溶液中のヘパリンの濃度は、0.5mg/mL、1mg/mL、2mg/mL、3mg/mL、4mg/mL、5mg/mL、10mg/mL、15mg/mL、20mg/mL、25mg/mL、30mg/mL、35mg/mL、40mg/mL、45mg/mL、50mg/mL、55mg/mL、60mg/mL、65mg/mL、70mg/mL、75mg/mL又は80mg/mLである。
【0058】
さらなる態様によると、コーティング溶液中のヘパリンの濃度は、10mg/mL~50mg/mLの間である。さらなる態様によると、コーティング溶液中のヘパリンの濃度は、0.5mg/mL~20mg/mLの間又は0.1mg/mL~10mg/mLである。
【0059】
別の態様によると、膜は、0.30μg/cm膜表面~1.10μg/cm膜表面の量のポリドーパミンでコーティングされている。本発明の別の態様によると、膜は、0.50μg/cm~1.20μg/cm、例えば0.30μg/cm、0.40μg/cm、0.50μg/cm、0.60μg/cm、0.70μg/cm、0.80μg/cm、0.90μg/cm、1.00μg/cm、1.10μg/cm又は1.20μg/cmの量のコンドロイチンでコーティングされている。本発明のさらに別の態様によると、膜は、0.40μg/cm膜表面~0.60μg/cm膜表面の量のポリドーパミンでコーティングされている。本発明のさらに別の態様によると、膜は、0.30μg/cm~0.70μg/cmの量のコンドロイチンでコーティングされている。
【0060】
別の態様によると、膜は、5mU/cm膜表面~100mU/cm膜表面、5mU/cm膜表面~80mU/cm膜表面、5mU/cm膜表面~50mU/cm膜表面又は5mU/cm膜表面~30mU/cm膜表面、例えば5mU/cm、6mU/cm、7mU/cm、8mU/cm、9mU/cm、10mU/cm、11mU/cm、12mU/cm、13mU/cm、14mU/cm、15mU/cm、16mU/cm、17mU/cm、18mU/cm、19mU/cm、20mU/cm、21mU/cm、22mU/cm、23mU/cm、24mU/cm、25mU/cm、30mU/cm、35mU/cm、40mU/cm、45mU/cm、50mU/cm、55mU/cm、60mU/cm、65mU/cm、70mU/cm、75mU/cm又は80mU/cmの量のヘパリンでコーティングされている。例えば、膜は、5mU/cm膜表面~25mU/cm膜表面の量のヘパリンでコーティングされている。
【0061】
本発明による膜をコーティングするためのヘパリンの使用は、膜の血栓形成性を低減する(実施例6及び7)。ポリドーパミンと組み合わせたヘパリンの使用が、処理ベース膜の選択性の増加をもたらすことは重要で驚くべき発見であった。同時に、ヘパリンは、ポリドーパミンと組み合わせて前記膜上にコーティングされた場合、抗血栓機能を依然として付与することができる。抗血栓効果と選択性増加の両方が、滅菌後も維持される。
【0062】
別の態様によると、ベース膜は、2つの連続するステップで、ポリドーパミン及びヘパリンでコーティングされ(図2A)、膜が第1のステップでポリドーパミンとヘパリンの混合物について前記のようにポリドーパミンでコーティングされ、引き続いて第2のステップでヘパリンでコーティングされる。前記方法は、ポリドーパミンを含むか又はポリドーパミンから本質的になる第1のコーティング層、ヘパリンを含むか又はヘパリンから本質的になる第2の本質的に均質なコーティング層でコーティングされたベース膜を含むか又はベース膜からなるコーティングされた膜を提供する。
【0063】
別の態様によると、膜は、上記のように、第1のステップで、ポリドーパミンによるベース膜の原位置修飾(図2C)によってポリドーパミン及びヘパリンで修飾され、引き続いて第2のステップで、ヘパリンによりポリドーパミン修飾ベース膜のコーティングがされる。ポリドーパミンによる原位置修飾は、実施例2.3に記載されるように、ドーパミンを紡糸溶液に直接含めることによって達成することができる。紡糸溶液中のドーパミンの濃度は、例えば約0.3~0.8重量%、例えば約0.4重量%~0.6重量%などの一定範囲にわたって変化させることができる。ドーパミンは、ドーパミンを除く全ての成分が均質になるまで混合された後に紡糸溶液に添加することができるか、又は紡糸溶液を調製するための他の成分に直ちに添加することができる。ポリドーパミンは、紡糸時に膜内で形成され、その後、その膜の一体部分となる。次いで、完成ポリドーパミン修飾膜をヘパリンでコーティングすることができる。
【0064】
ポリドーパミンはまた、上記の方法のいずれかに従って、すなわち、原位置キャスティング法によって、又はポリドーパミン、引き続いてヘパリンコーティングによる逐次コーティングによって、又はポリドーパミンとヘパリンの混合物によるワンステップコーティングによって、フラットシートベース膜上にコーティング又は添加することができる。
【0065】
完成繊維上のポリドーパミン及びヘパリンの存在及び量は、ポリドーパミンについては、ビシンコニン酸に基づくタンパク質アッセイなどの既知のアッセイで試験することができる(Smith et al.,Analytical Biochemistry(1985)150:76-85)。ヘパリンの定量については、抗第Xa因子アッセイを使用することができる(Newall F.,Anti-factor Xa(anti-Xa)assay.Methods Mol Biol.2013;992:265-72)。
【0066】
本発明に従って修飾又はコーティングされた膜、及び当該膜を含むフィルタは、蒸気滅菌、約25~30kGyの線量での電子ビーム滅菌又は約25~30kGyでのガンマ線滅菌のいずれかで滅菌することができる。ガンマ線滅菌は、任意選択的に脱酸素剤の存在下で、滅菌前にコーティング後に加圧空気で乾燥させ、2グラムの残留水を充填した後、又は水充填フィルタ装置で行うことができる。あるいは、コーティングの完全性及び安定性並びにコーティングされた中空糸及びフィルタ装置の性能を十分に維持する電子ビーム滅菌を滅菌に使用することができる。一態様によると、電子ビーム及びガンマ線滅菌は、本発明による修飾及び/又はコーティングされた膜に関連して使用される。さらに別の態様によると、電子ビーム滅菌は、本発明による修飾及び/又はコーティングされた膜に関連して使用される。
【0067】
本発明の一態様によると、ポリドーパミン及びヘパリンによるポリスルホン又はポリエーテルスルホンベースの膜などの所与の膜の上記修飾及び/又はコーティングは、ふるい分け性能及び特に結果として膜の選択性に予想外の影響を及ぼす。それぞれのふるい係数を決定することによって前記影響を評価するために使用することができるマーカー化合物は、異なる分子量の範囲にわたって有利に選択され、例えば、上に定義される小分画中分子溶質、中分画中分子溶質、大分画中分子溶質及び大分子溶質を表す化合物を含む。したがって、例としては、β2-M、ミオグロビン、補体因子D、YKL-40及びアルブミンがある。所与のベース膜のふるい分け性能及び選択性に対する本発明によるコーティングの効果を決定するために、選択されたマーカー分子のふるい係数を、ポリドーパミン及びヘパリンによる修飾又はコーティングの前後に決定する。次いで、前記ふるい係数を比較することができる。図1でMWRO及びMWCOに基づいて説明されるように、例えば、それぞれ低分子量及び高分子量の分子のふるい係数に基づいて、同様の評価を行うことができる。例えば、YKL-40などの低分子量分子のふるい係数を維持しながら、同時にアルブミンのふるい係数を減少させることができることは、膜がアルブミンに対して透過性が低くなる一方で、大分画中分子溶質に対して所望の透過性を保持するため、選択性の増加を示す。コーティングされていない又は未修飾の膜と、ポリドーパミン及びヘパリンでコーティングされた膜との比較を、異なる膜について実施例4、表II及びIIIに提供する。
【0068】
本発明の別の態様によると、本発明による修飾又はコーティングされた膜は、高度に血液適合性であり、特に電子ビーム滅菌の場合、滅菌後もその血液適合性を維持する。本発明の一態様によると、修飾及び/又はコーティングされた膜は、コーティングされた表面と患者の血液又は血液成分との直接接触を必要とする用途を含む医療用途において膜として使用することができる。例えば、本発明による修飾及び/又はコーティングされた膜は、慢性及び急性(CRRT)用途を含み、血液透析濾過及び血液濾過を包含する血液透析に使用するための透析器を調製するために使用することができる。
【0069】
本発明のさらに別の態様によると、中空糸膜の内腔側又は外面に本発明による修飾及び/又はコーティングされた中空糸膜を含むフィルタ又は血液透析器が提供される。一態様によると、前記フィルタ又は血液透析器は、ポリドーパミン及びヘパリンでコーティングされた中空糸膜を含む。別の態様によると、前記フィルタ又は血液透析器は中空糸膜を含み、膜はポリドーパミンで原位置修飾されており、ヘパリンでコーティングされている。
【0070】
本発明の別の態様によると、ポリドーパミン及びヘパリンで修飾及び/又はコーティングされた中空糸膜を含む本発明のフィルタ及び透析器は、例えば血液透析、血液透析濾過及び血液濾過を含む体外血液浄化又は体外血液処理に使用することができる。
【0071】
本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、本明細書に開示される発明に対して様々な置換及び修正を行うことができることが、当業者には容易に明らかであろう。
【0072】
ここで、本発明の理解をさらに容易にするために、本発明を非限定的な例として説明する。
【実施例
【0073】
[実施例1]基本的な材料及び方法
[実施例1.1]ミニモジュールの調製
繊維を20cmの長さに切断し、40℃及び100mbar未満で1時間繊維を乾燥させ、その後、繊維をハウジングに移すことによって、ミニモジュール(分析用の標準化されたフィルタとして使用されるハウジング内の繊維)を調製する。繊維の端部にポリウレタンをポッティングする。ポリウレタンが硬化した後、ポッティングされた膜束の端部を切断して繊維を再び開く。ミニモジュールは繊維の保護を確実にする。本実施例では、360cmの有効膜(内腔)表面Aを有するミニモジュールを使用した。360cmの有効表面Aに必要な繊維の数は、式(1)に従って計算する:
A=π×d×l×n[cm2] (1)
(式中、dは繊維の内径[cm]であり、nは繊維の本数を表し、lは有効繊維長[cm]を表す)。各ミニモジュールは、およそ170mmの有効長(PUポッティングなし)及び10mmの内径を有する。繊維の内径及び壁厚は、使用される具体的な膜に依存する。したがって、充填密度は、一般に、23%~31%の間で変化する。
【0074】
[実施例1.2]ミニモジュールの透水性(Lp)
片側が封止されたミニモジュールを通して圧力下で規定量の水を押圧し、必要な時間を測定することによって、ミニモジュールの透水性を決定する。透水性は、式(2)に従って、決定された時間t、有効膜表面積A、印加圧力p及び膜を通して押圧された水の体積Vから計算する:
Lp=V/[p・A・t] (2)
有効膜表面積Aは、式(3)に従って繊維長及び繊維の内径から計算する:
A=π・d・l・[cm] (3)
(式中、dは繊維の内径[cm]を表し、lは有効繊維長[cm]を表す)。
【0075】
Lp試験を行う30分前に、ミニモジュールを湿潤させる。この目的のために、ミニモジュールを500mLの超純水を含有する箱に入れる。30分後、ミニモジュールを試験系に移す。試験系は、37℃に維持される水浴と、ミニモジュールを取り付けることができる装置とからなる。水浴の充填高さは、ミニモジュールが指定された装置内の水面下に位置することを保証しなければならない。膜の漏出が誤った試験結果をもたらすことを回避するために、ミニモジュール及び試験系の完全性試験を前もって行う。完全性試験は、片側が閉じられたミニモジュールを通して空気を押圧することによって行う。気泡が、ミニモジュール又は試験装置の漏出を示す。漏出が試験装置内のミニモジュールの誤った取り付けに起因するかどうか又は膜が漏れているかどうかをチェックしなければならない。膜の漏出が検出された場合、ミニモジュールを廃棄しなければならない。完全性試験で印加される圧力は、印加される圧力が高すぎるために透水性の測定中に漏出が発生し得ないことを確実にするために、透水性の決定中に印加される圧力と少なくとも同じ値でなければならない。
【0076】
[実施例1.3]デキストランふるい分け測定
[実施例1.3.1]デキストラン溶液
Fluka(Mw6、15~20、40、70、100、200、500kDa)及びSigma-Aldrich(Mw9~11kDa)(共に米国セントルイス所在のSigma-Aldrich Co.LLC製)によって供給されるデキストランの画分をさらに精製することなく使用する。異なる分子量画分を有するデキストランの溶液を、各画分について1g/lの濃度でMillipore水(すなわち、ISO3696で定義されているタイプ1の超純水)に合わせ、これにより8g/lの全体濃度を得る。
【0077】
[実施例1.3.2]デキストランふるい係数試験
一定の剪断速度(γ=750秒-1)下で、限外濾過速度を式(4)に従って計算される血液側入口流束QBinの20%に設定して、濾過実験を行った:
【0078】
【数1】
(式中、QBinは血液側入口での流束(ml/分)であり;nはミニモジュール内の繊維の本数であり;dは繊維の内径[cm]であり、γは上記の一定の剪断速度である)。濾過条件は、血液透析に典型的な条件とは対照的に、逆濾過なしである。デキストラン溶液を37℃±1℃で再循環させた。供給液(血液側入口)、保持液(血液側出口)及び濾液(透析液出口)の試料を15分後に採取した。試料の相対濃度及び分子量をゲル浸透クロマトグラフィーで分析した。RI検出器(Agilent製のG1362)及びTSKgelカラム(PWXL-ガードカラム、G3000 PWXL、G4000 PWXL;ベルギー、テッセンデルロ所在のTosoh)を備えた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)装置(HP1090A又はAgilent 1200;米国カリフォルニア州サンタクララ所在のAgilent)で分析を行った。試料を、ドイツ、アインベック所在のSchleicher and Schnell製の0.45μmフィルタ型OE67を通して濾過した。較正をデキストラン標準(Fluka)に対して行った。ふるい係数SCは、式(5)に従って計算する:
【0079】
【数2】
(式中、cは濾液中の溶質の濃度であり、cは透過液中の溶質の濃度であり、cは保持液中の溶質の濃度である)。
【0080】
[実施例1.4]ヒト血漿中のふるい係数の測定
大部分が500~60,000Daの範囲の分子量を有するペプチド及び小タンパク質からなる中分子溶質は、腎不全で蓄積し、尿毒症の毒性状態に寄与する。11kDaの分子量を有するベータ2-ミクログロブリン(ベータ2-MG又はβ2-M)は、これらの中分子溶質のより小さな代表の1つと考えられている。ミオグロビンは、既により大きく、約17kDaの分子量(MW)を有する。ミオグロビンは、既知のハイフラックス透析器によって血液から完全には除去されないが、高カットオフ透析器によって容易に除去される。補体因子Dは、25kDaの分子量を有するセリンプロテアーゼであり、中分子量範囲の分子のふるい係数を評価するための優れた候補である。40kDaの分子量を有するYKL-40は、依然として可能な限り効率的に除去されるべき高分子量の中分子溶質の代表であると考えられる。約67kDaのMWを有するアルブミンは、膜のふるい分け特性を説明する上で重要な要素であり、それは、アルブミンが、好ましくは、有意な程度の慢性血液透析用の膜の通行を許されるべきではないが、β2-M及びYKL-40などのより低分子量の分子は、可能な限り効率的に除去されるべきである、すなわち、所与の膜のふるい分け曲線は、典型的にはタンパク質漏出膜で見られるように、急峻であるべきであって、平坦であるべきではないからである。
【0081】
ヒト血漿中に天然に含有されるアルブミン及びYKL-40のふるい係数を、コーティングされていない膜及び本発明に従ってコーティングされた又は比較のためにドーパミン若しくはヘパリンのみでコーティングされた膜について決定することができる。これらのマーカー分子についてのふるい係数の決定は、Octapharma製のOctaplas LGを用いて行った。実施例1.1に記載され、実施例2及び実施例4に記載されるようにコーティングされたそれぞれのミニモジュールを使用した。
【0082】
実験のために、ヒト血漿を解凍し、慎重に撹拌しながら37℃にした。次いで、必要に応じて他のマーカー物質を血漿に添加することができる。各ミニモジュールについて、150gのヒト血漿を使用した。試験溶液の最終タンパク質濃度は45±5g/lであった。ミニモジュールを血液及び透析液側で、40mLの0.9%NaCl溶液ですすいだ。次いで、血液及び透析液側を0.3±0.1バールで10±5秒間吹き出す。Qは8.7mL/分(=7.71SKT)であり、QUFは1.7mL/分(=1.58SKT)であった。ミニモジュールを、上部に開いた濾液側を有する新たなチューブセットに接続した。再循環チューブを溶液リザーバに戻した。血液流入ポンプを開始した。ミニモジュールに気泡がなくなったら、濾液ポンプを開始した。濾液がチューブからプールに逆流したらすぐに時間を開始した。30分の試験時間後、試験溶液(A)の試料(HSAについては最小1.1mL及びYKL-40については550μL)を採取した。サンプリング時間は、QUFについては1分、QBoutについては1分であった。これらの測定から、保持液試料(R)及び濾液試料(F)をマーカー分子のさらなる分析に使用する。ふるい係数SCは、式(5)に従って計算する。
【0083】
[実施例1.6]クリアランス性能
クリアランス「C」(mL/分)は、そこから溶質が単位時間当たりに完全に除去される溶液の体積を指す。血液透析器の必須構成要素として膜を説明する最良の方法であるふるい係数とは対照的に、クリアランスは、透析器機能全体、したがって透析の有効性の尺度である。したがって、前記のコーティングを完全血液透析器、例えばTheranova 400(Baxter Int.,Inc.)のような市販の透析器に適用したか、又は例えばMCO-Ci 400透析器(ドイツヘッヒンゲン所在のGambro Dialysatoren GmbH)若しくはMCO3プロトタイプ(ドイツヘッヒンゲン所在のGambro Dialysatoren GmbH;例えば、Boschetti-de-Fierro et al.(2015),Scientific Reports 5:18448,DOI:10.1038/srep18448参照)のように血液透析器を他のMCO型膜から調製し、本発明に従ってコーティングした。特に指示しない限り、透析器のクリアランス性能はISO8637:2004(E)に従って決定した。試験回路の設定は、ISO8637:2004(E)に示される通りとした。フローはシングルパスで動作する。
【0084】
クリアランスを測定するために、ヒト血漿(タンパク質含有量55±10g/L)に、ミオグロビン及びβ2-M(Lee Biosolutions)をそれぞれ0.50mg/L及び5.0mg/Lの濃度まで添加する。アルブミン、補体因子D及びYKL-40を血漿濃度から直接測定する。試料は、各場合において、血液出口、透析液出口及び血液入口から採取する。4分後に最初の試料を採取する。
【0085】
[実施例1.7]ヒト血漿中のYKL-40及び補体因子Dの定量的決定
YKL-40及びヒト補体因子Dの濃度を決定するために、Quantikine Human Chitinase 3様(CHI3L1)及びQuantikine ELISA Human Complement Factor D(CFD)ELISA Immunoassay(R&D Systems Europe,Ltd.)をそれぞれ供給者の説明書に従って使用する。アッセイは、細胞培養物上清、血清、血漿及び尿中のCHI3L1及びCFDを測定するように設計された4.5時間及び3.5時間の固相ELISAである。両アッセイは、定量的サンドイッチ酵素免疫測定法技術を使用する。分析物に特異的なモノクローナル抗体は、マイクロプレート上に予めコーティングされている。標準及び試料をウェルにピペットで入れ、存在する任意の分析物を固定化抗体により結合させる。未結合物質を洗い流した後、分析物に特異的な酵素結合ポリクローナル抗体をウェルに添加する。未結合抗体-酵素試薬を除去するための洗浄後、基質溶液をウェルに添加すると、最初のステップで結合したCHI3L1又はCFDの量に比例して発色する。発色を停止し、色の強度を測定する。
【0086】
β2-M、ミオグロビン及びアルブミンの濃度を決定するために、比濁計(BN ProSpec、Siemens Medical Solutions)を供給業者の定量キットと組み合わせて使用する。β2-M、ミオグロビン及びアルブミンを、全て供給者の説明書に従って、それぞれN Latex β2ミクログロブリンキット、N Latexミオグロブリンキット及びN Antiserum to Humanアルブミンキット(Siemens Health solution)を使用して定量する。各決定基は、提供された抗体の添加時に不溶性抗原-抗体複合体を形成することによって別々に測定される。複合体形成は抗体過剰で進行し、比濁計による光散乱を用いて測定し、既知濃度の標準と比較する。
【0087】
[実施例2]ポリドーパミン及びヘパリンによる中空糸膜のコーティング
[実施例2.1]ポリドーパミン及びヘパリンによるワンステップコーティング
6mg/mL又は12mg/mLドーパミン溶液(100mLのトリス緩衝液(10mmol/L、pH8.6)中のSigma Aldrich製の600mgのドーパミン塩酸塩)を調製し、溶液を30分間撹拌してドーパミンの重合を開始した。変色は、ポリドーパミン形成を示す。次いで、20mg/mL又は40mg/mLのヘパリンを添加し、溶液を約5分間撹拌した。得られた溶液を、シリンジでの吸引によって下から上にミニモジュールの繊維の内腔を充填することによって、ワンステップコーティングに直ちに使用した。充填中、ミニモジュールを振盪して気泡を除去した。次いで、ミニモジュールを室温で1時間インキュベートした後、溶液を除去した。ミニモジュールを、0.9%NaClを用いて20mL/分の流量で、内腔側で5分間すすぎ、引き続いて濾過液側で5分間すすぎ、引き続いてMillipore水で繰り返した。すすぎ後、ミニモジュールを圧縮空気を用いて0.3バールで80分間乾燥させた。
【0088】
あるいは、フィルタ又はミニモジュールのコーティングを、図4に概略的に示されるように再循環モードで行うことができ、これにより上記の静的アプローチと比較してコーティングに必要な時間が短縮される。この場合、ミニモジュール又はフィルタを、例えば5mL/分のポンプ流量及び平均4つのミニモジュールをコーティングするための約100mLのプール体積(1つのミニモジュール当たり25mL)で、繊維の内腔側でコーティングする。再循環中、ミニモジュール又はフィルタの濾液側をコネクタで閉じた。ドーパミン及びヘパリンの濃度は、上記及び/又はそれぞれの実施例に示される通りである。
【0089】
コーティング後のミニモジュールを翌日試験したか、又は試験前に蒸気滅菌、約25~30kGyの線量での電子ビーム滅菌若しくは約25~30kGyでのガンマ線滅菌のいずれかで最初に滅菌した。ガンマ線滅菌は、任意選択的に脱酸素剤の存在下で、コーティング後に加圧空気で乾燥させ、滅菌前に2グラムの残留水を充填した後、又は水充填ミニモジュール(若しくはフィルタ)で行うことができる。又は、電子ビーム滅菌を使用して、コーティングの完全性及び安定性並びにコーティングされた中空糸及びフィルタ装置の性能を維持することができる。
【0090】
[実施例2.2]ポリドーパミン及びヘパリンによる逐次(連続)コーティング
中空糸膜の連続コーティングのために、同じミニモジュール及び溶液を使用した。しかしながら、ドーパミンがヘパリンを添加することなく重合し始めたら、ドーパミン溶液を中空糸の内腔に適用し、引き続いて1時間インキュベートし、その後上記のようにすすぎ、フラッシングした。第2のステップでは、ポリドーパミンでコーティングされた膜をヘパリンによるコーティングに供し、これを上記のように中空糸に適用し、引き続いてさらに1時間インキュベートし、その後、すすぎ、フラッシングした。コーティングされたミニモジュールを翌日の試験のために取っておいた。
【0091】
比較のために、ミニモジュールを上記のヘパリンを含む又はヘパリンを含まないポリドーパミンのいずれかでコーティングするためにも使用した。目標は、未処理ベース膜と比較した、所与の膜の選択性に対するポリドーパミン単独及びヘパリンと組み合わせたポリドーパミンのそれぞれの影響を決定することであった。
【0092】
[実施例2.3]ポリドーパミンによる原位置修飾
ポリドーパミン及びヘパリンでコーティングすることによる製造後の本明細書に記載されるような膜の修飾又は官能化の代わりに、膜を原位置でポリドーパミンで修飾し、引き続いてヘパリンでコーティングすることもできる。膜製造のために、ポリエーテルスルホン(PES)(Ultrason 6020P、ドイツ所在のBASF)、ポリビニルピロリドンK90(PVP K90)(平均分子量360kDa、ドイツ所在のCarl Roth)及びポリビニルピロリドンK30(PVP K30)(平均分子量40kDa、ドイツ所在のCarl Roth)を購入する。N-メチル-2-ピロリドン(NMP)(99%、ドイツ所在のFisher Scientific)は、膜調製用の溶媒として機能する。ドーパミン塩酸塩(98%、ドイツ所在のSigma Aldrich)を機能性成分として使用した。膜後処理のために、99%超の純度を有するグリセロールをCarl Rothで購入した。トリス-(ヒドロキシメチル)-アミノメタン(トリス)(99.9%以上、ドイツ所在のCarl Roth)、酢酸ナトリウム(99%以上、ドイツ所在のCarl Roth)及び塩酸(ACS試薬、ドイツ所在のSigma Aldrich)を緩衝液として使用し、異なる溶液のpHを調整した。
【0093】
ポリドーパミンによる膜の修飾のために、溶液を調製し、異なる膜官能化手順で使用して、所望の膜構造を達成した。ポリマー溶液を表0に要約する:
【0094】
表0:フラットシートキャスティング及び中空糸紡糸のためのポリマー溶液組成の概要
【0095】
【表1】
【0096】
ポリマー溶液P1~P4については、均質な溶液が形成されるまで、全ての成分を、KPGスターラーを用いて室温で少なくとも24時間撹拌した。膜製造の前に、溶液を一晩脱気させて膜の欠陥を回避した。ポリマー溶液P5及びP6については、均質な溶液が形成されるまで、ドーパミンを除く全ての成分を、KPGスターラーを用いて65℃で少なくとも24時間撹拌した。ポリマー溶液を膜に変換する2時間前に、ドーパミンをポリマー溶液に0.5重量%の量で添加し、均質な溶液が形成されるまで撹拌した。その後、溶液を約2時間脱気したままにした。重合により、ドーパミンを添加した後、ポリマー溶液は褐色に変化する。
【0097】
ボア溶液(bore solution)は、NMP(50重量%)及びHO(重量%)(本明細書ではB1と呼ばれる)からなっていた。又は、HOの代わりに、膜の選択層上でドーパミンのポリドーパミンへの重合を直接促進するトリス緩衝液(10mM、50重量%、本明細書ではB2と呼ばれる)を使用することができる。繊維製造のために、慣用的な紡糸設定が使用される。紡糸パラメータは以下の通りであった:ポリマー溶液流量[g/分]は6.8であり、ポリマー溶液温度[℃]は65°であった。ボア流量[mL/分]は10.3であった。空隙は2cmであり、凝固浴温度は65℃であった。紡糸中、ポリマー及びボア溶液を、ボアについては0.4mm、ポリマー溶液については1.12mmの直径を有する二重オリフィス紡糸口金に通過させた。紡糸口金から出た繊維は、空隙を通過して凝固浴に入った。凝固浴はDI水からなっていた。巻き取り速度は、繊維を洗浄浴に搬送する電動牽引ホイールによって制御した。次いで、繊維をDI水中で34時間貯蔵した後、DI水中5重量%グリセロール溶液中でさらに24時間貯蔵した。最後に、さらなる使用の前に、繊維を室温で一晩風乾させる。
【0098】
したがって、様々な原位置ポリドーパミン修飾膜を調製し、第2のステップで、膜モジュール内の中空糸を、1mg/mLヘパリンを含有するヘパリンコーティング溶液で充填し、シェル側を酢酸ナトリウム緩衝液で充填することによって固定化した。24時間後、中空糸膜の内腔及びシェル側をDI水でフラッシングした。得られた膜をさらに調べた。表Iは、どの膜が調製されたかを示す。膜は、ポリマー組成(表0も参照)、使用されるボア溶液及びヘパリンによるコーティングがわずかに異なる。
【0099】
図6は、膜A、C及びEの繊維を示す。単繊維は、ポリドーパミンが繊維C及びEのポリマー溶液中に0.5重量%の量で存在したとしても、色が有意に異ならない。膜E、HFis-PD-Tのごくわずかな褐色変色が、膜構造中のポリドーパミンを示唆している。膜A、HFis、C、HFis-PD及びE、HFis-PD-Tの形態は、いずれもいかなる有意差も示さない(図7)。また、膜B(HFis-HEP)をもたらす、膜A(HFis)の内腔側へのヘパリンによるその後のコーティングは、選択層に目に見える変化を示さない(図7g)。膜A(HFis)の拡大断面の内腔チャネルの表面は、膜C(HFis-PD)よりもわずかに粗いように見える。さらに、ポリマー溶液内のポリドーパミンは、細孔構造の形成にわずかに影響を及ぼすだけである(図7b)及び図7e))。
【0100】
表I:ヘパリン官能化を有する(HFis-PD)及び有さない(HFis-PD-HEP)原位置修飾中空糸膜の概要。「T」は、トリス緩衝液をボア溶液として使用したことを示す。
【0101】
【表2】
【0102】
さらなる試験のために、膜タイプごとに1本の繊維を、測定中の透過を妨げるために透過側全体を接着剤で充填することによって7cm長さの管に接着する。SurPASS導電学的分析装置での測定を開始する前に、5Lの1mM KCl溶液を用いて、膜モジュールをフラッシングする。この分析装置は、0.1M HCl及び0.1M NaOHの滴定によってpH3~6を自動的に変化させる(図8)。測定されたpH値ごとに、装置は表面のゼータ電位を3回測定する。そのようにして、膜表面の電荷及び電荷の変化に関する情報を得ることができる。膜A(HFis)のゼータ電位は、pH3~6の間で負に帯電している。ポリドーパミンをポリマー溶液(HFis-PD)に添加すると、内腔の電荷は、膜A(HFis)の電荷と比較して有意には変化せず、これは、膜表面上のポリドーパミンが全くないか又は非常に少量であることを示唆している(図8A)。しかしながら、これらの膜をヘパリンコーティング後のポリドーパミン修飾膜と比較すると、明確な電荷の差を観察することができる。膜表面の電荷差が大きいほど、ヘパリンが表面上に多く存在すると考えられる。したがって、ゼータ電位を使用して、ヘパリンによるコーティングを定性的に決定することができる。HFisとHFis-PDとの間に電荷差がない場合でも、ヘパリンの結合は、原位置ポリドーパミン修飾膜HFis-PD-HEP中のポリドーパミンの存在を示す。ボア溶液中のトリス緩衝液の存在はまた、異なるゼータ電位経過をもたらす(図8B)。pH3~6の間では、ゼータ電位の低下が有意により顕著である。ボア溶液中のトリス緩衝液は、相転換工程に影響を及ぼし、今度はこれにより膜表面の形態がわずかに変化する。図7(b)は、HFis-PD(図7(a))と比較した、ボア溶液(HFis-PD-T)中のトリス緩衝液のわずかな影響を示す。また、ヘパリンの結合は表面電荷の別の変化を示し、ヘパリンが膜表面に結合し、ゼータ電位をさらに低下させたことを示している。
【0103】
[実施例3]膜繊維上のポリドーパミン及びヘパリンの定量
コーティング後のポリエーテルスルホン(PES)繊維上のポリドーパミン及びヘパリンの量を、繊維を2mLのクライオバイアルに入れ、各物質についてそれぞれの検出試薬を添加することによって決定した。
【0104】
ヘパリンの定量は、Lammers et al.A comparison of seven methods to analyze heparin in biomaterials:quantification,location,and anticoagulant activity.Tissue Eng Part C Methods.2011,17(6):669-76に記載されるような様々な既知の方法によって行うことができる。例えば、内因性アンチトロンビン(AT)の存在下で、アッセイされるヘパリンによる、一定量及び過剰の第Xa因子(FXa)の阻害に基づく一段階アッセイである抗Xa発色法でヘパリンを定量した。残留FXaは、特異的発色基質(SXa-11)を加水分解してパラニトロアニリン(pNA)を放出する。放出されるpNAの量(405nmでの吸光度によって測定される)は、反応媒体中に存在するヘパリン(又は他の抗Xa物質)の濃度に反比例する。
【0105】
ポリドーパミンの定量については、ビシンコニン酸に基づく既知のタンパク質アッセイを使用した(Smith et al.,Analytical Biochemistry(1985)150:76-85)。
【0106】
ドーパミンを、200μg/mL-1ストック溶液を用いて定量し、その規定量を2mLの試薬と合わせた。固体膜を使用したので、試薬中のストック溶液の希釈を利用して最終標準濃度を計算し、次いで、この数を使用して繊維の膜上のそれぞれの量を決定した。この実験では、ポリエーテルスルホンに基づく中空糸膜を、6mg/mL P5/B2ドーパミン及び20mg/mLヘパリンの濃度を有するドーパミン及びヘパリンの溶液でコーティングした。試料を実施例2.1に沿って調製し、最終膜上のポリドーパミン及びヘパリンの存在を決定した。
【0107】
一般に、ポリドーパミン量は、本明細書で使用される溶液でコーティングした場合、0.37~0.63μg/cm膜表面の範囲であることが分かった。ヘパリン量は5mU/cm~30mU/cmの範囲であった。
【0108】
図9は、実施例2に記載される一段階アプローチにおける、ポリドーパミン、ヘパリン及び任意選択的に第3の成分としてのコンドロイチンでコーティングされた膜の結果を要約している。市販のEvodial血液透析器(Baxter)から採取した繊維から調製したミニモジュールを、ヘパリン活性のベンチマークを有するように本発明に従ってコーティングしたコーティングMCO Ci-400膜と並行して試験した。Evodial血液透析器は、ポリアクリロニトリルメタリルスルホン酸ナトリウムコポリマーから構成されるヘパリングラフトAN69膜(HeprAN)を含み、その製造工程は、ヘパリングラフト前に高分子量ポリエチレンイミンによる表面処理を含む。ヘパリン活性測定で得られた結果は、第1に、中空糸膜の内腔側でポリドーパミンと共にヘパリンを効果的に固定化でき、得られたヘパリン活性は市販のヘパリングラフト膜(Evodial)のヘパリン活性に匹敵すること、及び第2に、ミニモジュール又はフィルタを滅菌することがヘパリン活性に影響を及ぼさないことを示している。第3のコーティング成分(この場合はコンドロイチン)の存在は、ポリドーパミンへの結合についてのコンドロイチンとヘパリンとの間の競合に潜在的に起因するヘパリン活性に対するわずかな効果しか有さない。
【0109】
[実施例4]膜のふるい係数に対するPD-HEPコーティングの影響
膜に対する本発明によるポリドーパミン-ヘパリン(PD-HEP)コーティングの効果及び影響を評価するために、様々な膜を使用した。分析されるパラメータには、例えば、β2-M、ミオグロビン、補体因子D、YKL-40及びアルブミンのふるい係数、並びにそれぞれの膜のLpが含まれた。
【0110】
[実施例4.1]コーティングされていないミニモジュールと6又は12mg/mLのドーパミン及び20、40、1、0.5又は0.1mg/mLのヘパリンでコーティングされたミニモジュールとの比較:ふるい係数
市販の血液透析器(Theranova 400、Baxter Int.,Inc.)で別途使用される中空糸を、実施例1.1によるミニモジュールの調製に使用し、実施例2.1によるワンステップアプローチでコーティングした。表IIに示されるように、ポリドーパミン及びヘパリンによるコーティングは、選択されたマーカー分子のふるい係数によって決定されるように、膜の選択性に影響を及ぼした。
【0111】
全てBaxter製のMCO-Ci 400(例えば、Boschetti-de-Fierro et al.,Scientific Reports(2015)5:18448参照、ここではMCO4はMCO-Ci 400に対応する)などの以前記載された実験フィルタで使用される中空糸を、実施例1.1によるミニモジュールの調製に使用し、実施例2.1による一段階アプローチでコーティングした。
【0112】
以下の表に示されるように、ポリドーパミン及びヘパリンによるコーティングは、膜の選択性性能に影響を及ぼした。
【0113】
表II:Theranova 400及びMCO Ci-400の中空糸膜の内腔をポリドーパミン及びヘパリンで異なってコーティングすることのふるい係数(%)及びLp(・10-4cm/バール・s)に対する影響。コーティング及び試験をミニモジュールで行った。各場合で、3つの試料を試験した。試料の各セットについて決定された平均値には標準偏差が提供されている。「SC Alb」は、アルブミンのふるい係数を指し、「SC YKL-40」はYKL-40のふるい係数を指す。
【0114】
【表3】
【0115】
表IIに示される結果は、ドーパミン(ポリドーパミン)とヘパリンの両方によるベース膜のコーティングが、コーティングされていない膜又はポリドーパミンのみでコーティングされた膜と比較してコーティングされた膜の選択性の改善をもたらすことを示している。例えば、ポリドーパミン及びヘパリンでコーティングされたMCO Ci-400に基づくデータセットは、アルブミンのふるい係数の有意な減少を示すが、YKL-40のふるい係数はかなり少ない低下を示す。換言すれば、膜は、MCO型のベース膜と比較して依然として十分に大分画中分子溶質の群の代表であるYKL-40を通過させるが、アルブミンは有意により良好に保持される。ポリドーパミンのみでは、ポリドーパミンとヘパリンとの組み合わせと同じ効果はない。
【0116】
実施例2に従って行われた実験で使用された標準コーティング時間は1時間である。コーティング(インキュベーション)時間の増加は、アルブミンのSCをさらにいくらか減少させることができる限りにおいてプラスの効果を有するようであったが、YKL-40のSCの減少はそれほど顕著ではなかった。工業的適用性の観点から、より短いコーティング時間が依然として好ましい。しかしながら、より長いコーティング(インキュベーション)時間も実現可能であり、意図した結果に応じて様々なインキュベーション時間を使用することができる。
【0117】
表IIIは、β2-M、ミオグロビン及び補体因子Dに関するふるい係数に対する本発明によるコーティングの影響に関する拡張データのセットを提供する。そこから分かるように、選択性の増加に関するふるい係数に対するプラスの効果は、これらの追加のマーカー分子について確認される。
【0118】
表III:コーティングされていない試料と比較した、Theranova 400、MCO Ci-400の中空糸膜の内腔をポリドーパミン及びヘパリンでコーティングすることのふるい係数(%)に対する影響。コーティング及び試験をフィルタで行った。各場合で、3つの試料を試験した。「Alb」はアルブミンのふるい係数を指し、「YKL-40」はYKL-40のふるい係数を指し、「MYO」はミオグロビンのふるい係数を指し、「β2M」はβ2-Mのふるい係数を指し、「CFD」は補体因子Dのふるい係数を指す。
【0119】
【表4】
【0120】
別の実験では、177本又は355本の繊維を含有するRevaclearハイフラックス(HF)膜から調製したミニモジュールを、ポリドーパミン及びヘパリンで二段階アプローチで連続的にコーティングした。ドーパミンの重合と膜表面のコーティングを同時にするために、コーティング手順を開始する直前にポリドーパミンコーティング溶液を調製した。ポリドーパミンコーティング溶液は、HClでpH8.5に調整した10mMトリス緩衝液中0.5g/Lのドーパミンを含有していた。ヘパリンの場合、pH4.5及び0.5mM NaClの脱イオン(DI)水中50mM酢酸及び50mM酢酸ナトリウムの緩衝溶液を調製した。ヘパリンを1mg/mLの濃度で添加した。膜の外面を取り囲むモジュールのシェル側を、HClでpH8.5に調整されたトリス緩衝液で充填する。ポリドーパミンコーティング溶液を繊維の内腔を通してポンピングした。次いで、モジュールの全ての開口部を閉じ、充填膜モジュール内でポリドーパミンの重合を24時間行った。最後に、内腔及びシェル側をDI水で3回フラッシングした。その後のステップで、ポリドーパミンコーティングされた中空糸膜上にヘパリンを固定化する。中空糸膜モジュールの内腔側に1mg/mLヘパリンを含有するヘパリンコーティング溶液を充填し、シェル側を酢酸ナトリウム緩衝液で充填する。24時間後、中空糸膜の内腔及びシェル側をDI水でフラッシングした。比較のために、コーティングされていない(HF)、部分的にコーティングされた(ポリドーパミンで、HF-PD)及び完全にコーティングされた(ポリドーパミン及びヘパリンで、HF-PD-HEP)モジュールを調製し、試験した。
【0121】
図5は、膜モジュールHF、HF-PD及びHF-PD-HEPについての37℃の生理学的温度でのLp(「純水透過率(PWP)」として提供される)並びにミオグロビン及びアルブミンのふるい係数の試験結果を要約している。この場合のLp測定は、1バールの膜貫通圧(TMP)によりDI水を用いて行った。膜モジュールをデッドエンド濾過で測定した。連続透過流束(J)に達した後、測定を開始した。透過水は、膜のPWP(L/(m hバール))、短LMH/バールに対応する。参照膜HF-PM-D0Lは、約318 300LMH/バールのPWPを有する。ミオグロビン及びアルブミンのふるい係数は、87%及び2.5%であった。比較すると、ポリドーパミンコーティング繊維HF-PDは、約350LMH/バールのより高いLpを特徴とする。ポリドーパミンによる追加のコーティングは、既に親水性のPES膜表面を親水化し、したがってより高いPWPをもたらす。ポリドーパミン層はふるい係数にも影響を及ぼす。ミオグロビンのふるい係数は、ポリドーパミンコーティングにより93%まで増加するが、アルブミンのふるい係数は3.5%でほぼ一定のままである。HF-PD-HEPは、約420LMH/バールのさらに高いPWPを示す。しかしながら、依然として3.5%のアルブミンふるい係数で、ミオグロビンのふるい係数が100%に達する。HF-PDと比較して、HF-PD-HEPは、418LMH/バールのより高いPWPを有する。ヘパリンの存在による親水性の増加が、おそらくPWP差につながる。ヘパリンで修飾されたポリドーパミン固定化膜のより高いPWPの効果は、Maらによって既に報告された。しかしながら、100%のミオグロビンふるい係数は、HF-PDと比較して7%高いが、アルブミンふるい係数は同じままである。したがって、固定化されたポリドーパミン及びヘパリンは、異なる表面電荷及び膜表面の化学組成をもたらすようである。理論に束縛されることを望まないが、表面修飾は、駆動力の変化、並びにより高いPWPをもたらすようであり、このことがミオグロビンのより高いふるい係数の理由であり得る。結果は、コーティングが膜表面を首尾よく官能化し、同時に透析用途のためのふるい分け特性を改善することを示し、同時にアルブミンの高い保持及びミオグロビンのより良好な除去を明らかにする。提案された修飾手順は、膜輸送特性をわずかに変化させるだけであるが、例えばPES膜上に直接ヘパリンコーティングを調製する新規な方法であり、透析処置を改善する。
【0122】
[実施例5]コーティングされていない膜及びPD-HEPでコーティングされた膜で達成されたクリアランス速度
フィルタのクリアランス性能に対する本発明による修飾又はコーティングの影響をよりよく理解するために、実施例1.6に記載されるように、コーティングされていない試料及びコーティングされた試料(フィルタ)の平均クリアランス速度を決定した。実施例4.1に記載される様々な膜タイプを実施例2に記載されるようにコーティングし、得られたフィルタを用いてクリアランス速度を決定した。
【0123】
[実施例6]電子ビーム滅菌後のヘパリン活性
実施例2に記載されるように、膜をポリドーパミンとヘパリンの組み合わせでコーティングすることができる。このようなコーティングはまた、選択性を高めることに加えて、得られる膜及びフィルタの血栓形成性を低下させる能力を有する。したがって、コーティングされた膜及び装置の滅菌中にヘパリンの活性を維持することが重要である。
【0124】
したがって、ヘパリン活性を上記の電子ビーム滅菌後に試験した。ヘパリン活性は、例えば、ヘパリン抗Xaアッセイを用いて決定することができる。ヘパリン抗Xaアッセイは、試薬中の活性化第X因子(Xa)の活性を阻害するヘパリンの能力に基づく。試薬は過剰のアンチトロンビンを含み、試料中のヘパリンをXa阻害の律速試薬にする。試料中のヘパリンは、第Xa因子によるXa特異的発色基質の着色生成物への酵素的変換を阻害する。標準曲線を使用して、試料中のヘパリン活性(mU/cm)を計算する。試験は広く使用されており、Newall F.,Anti-factor Xa(anti-Xa)assay.Methods Mol Biol.2013;992:265-72に従って行うことができる。
【0125】
ヘパリンは、電子ビーム滅菌後も安定で活性のままであることが分かった(図9参照)。
【0126】
[実施例7]本発明によるコーティングされた装置のC3a活性化及び血液適合性
例えば、血液と接触する医療機器による補体系の活性化は、組織損傷及び炎症を含む有害な効果を有し得る。補体系は多くの小タンパク質から構成されており、それらの多くを補体活性化のためのマーカーとして使用することができる。例えば、C3aの測定が、ISO10993-4によって提案されている。
【0127】
実施例2.1に記載されるように、ミニモジュールを12mg/mLのドーパミン及び40mg/mLのヘパリンでコーティングする。同じミニモジュールをコーティングしないままにして参照を得る。Cuprophan(再生セルロース)中空糸を含むミニモジュールを調製し、陽性対照として使用する。Cuprophan膜は対称構造をしており、ヒドロキシル基の割合が高いため、極めて極性及び親水性である。再生セルロース膜は、MCO Ci 400膜などの現代の合成膜よりも生体適合性が低いことが知られている。血漿中のヒトC3a濃度を決定するためのMicroVue C3a Plus酵素イムノアッセイ(米国所在のQuidel)を用いて、プロトコルに従ってC3a活性化を決定する。試験原理は、ヒト血漿中のC3a濃度の定量的インビトロ決定であり、試験試料を、ヒトC3aに特異的なマウスモノクローナル抗体でコーティングされたマイクロタイタープレートに添加する。試験試料中の利用可能なC3aを、インキュベーション中に固定化する。洗浄ステップ後、発色基質溶液(TMB)を添加する。結合ペルオキシダーゼが、基質と反応して青色を形成する。反応を化学的に停止した後、青色が現れる。色強度はC3a濃度に比例し、450nmで測光的に決定することができる。
【0128】
ポリドーパミン及びヘパリンで修飾及び/又はコーティングされたベース膜は、C3活性化を減少させ、先行技術の膜と少なくとも同程度に又はそれよりも血液適合性であることが分かった。したがって、本明細書に記載されるコーティングは、優れた血液適合性を提供し、血液透析膜及び血液処理用の濾過装置で本発明によるコーティングを使用することを推奨する。
【0129】
[実施例8]コーティングされたフィルタ又はミニモジュールに対する滅菌の影響
前述のように、コーティングされたフィルタ又はミニモジュールは、蒸気、電子ビーム又はガンマ線滅菌などの様々な方法で滅菌することができる。電子ビーム又はガンマ線滅菌が、フィルタ性能の改善及びPD-HEPコーティングの完全性に悪影響を及ぼさないことが分かったので、好ましくはこれらの滅菌方法が使用されるが、蒸気滅菌は、本発明によるコーティングで達成される選択性の増加に悪影響を及ぼす傾向がある。
【0130】
[実施例9]再循環モードでのコーティング
実施例2及び図4に記載される再循環モードでのミニモジュールのコーティングは、例えば、中空糸の内腔をコーティング溶液で充填し、所与の時間インキュベートした後に溶液を除去し、糸をすすぐインキュベーションアプローチと比較して、同等のコーティング及び膜選択性に対する効果をもたらした。したがって、コーティングは、使用される方法とはほとんど無関係であり、フィルタの製造工程の要件に適合させることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】