(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】FXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用のエンハンサの調製におけるエンハンサ3C1の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/53 20060101AFI20241219BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20241219BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
A61K31/53
A61P1/16
A61P43/00 111
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538213
(86)(22)【出願日】2022-06-02
(85)【翻訳文提出日】2024-06-21
(86)【国際出願番号】 CN2022096810
(87)【国際公開番号】W WO2023123865
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】202111681403.3
(32)【優先日】2021-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515252031
【氏名又は名称】中国▲薬▼科大学
【氏名又は名称原語表記】CHINA PHARMACEUTICAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No. 639 Longmian Road Jiangning Development Zone Nanjing, Jiangsu, China
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲ハオ▼ 海平
(72)【発明者】
【氏名】王 洪
(72)【発明者】
【氏名】孫 慧涌
(72)【発明者】
【氏名】胡 慧健
(72)【発明者】
【氏名】潘 暁潔
(72)【発明者】
【氏名】王 广基
(72)【発明者】
【氏名】徐 小為
(72)【発明者】
【氏名】崔 双
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC64
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA75
(57)【要約】
本発明は、FXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用のエンハンサの調製におけるエンハンサ3C1の使用を開示する。本発明のエンハンサは、FXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用を促進し、Caspase8のアポトーシス複合体への動員を阻害し、アポトーシス複合体の形成をブロックし、Caspase8の切断活性化を阻害し、アポトーシスのプロセスをブロックし、細胞アポトーシスを阻害することができる。したがって、本発明のエンハンサは、アポトーシス表現型を伴う肝疾患を治療する薬物の調製に有用であり、市場の将来性が期待できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用のエンハンサの調製における式(1)で示されるエンハンサ3C1の使用。
【化3】
【請求項2】
前記エンハンサ3C1は、生理学的又は病理学的状態でのFXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用を促進する、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記エンハンサは、Caspase8タンパク質のアポトーシス複合体への動員をブロックすることにより、アポトーシス複合体の形成をブロックする、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記エンハンは、Caspase8タンパク質の切断活性化をサブロックする、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記エンハンサは、薬学的に許容される補助材料を添加して製剤を調製する、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記薬学的に許容される補助材料は、希釈剤、バインダ、崩壊剤、流動促進剤、滑沢剤、矯味剤、封入材、及び吸着材を含む、ことを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記製剤は、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、及び経口液剤である、ことを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項8】
エンハンサ3C1のFXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用のエンハンサとしての肝細胞アポトーシスに抵抗する薬の調製における使用。
【請求項9】
エンハンサ3C1のFXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用のエンハンサとしての肝保護薬の調製における使用。
【請求項10】
エンハンサ3C1のFXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用のエンハンサとしての肝線維症・肝損傷治療薬の調製における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質相互作用エンハンサの調製におけるエンハンサの使用に関し、具体的には、FXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用のエンハンサの調製におけるエンハンサ3C1の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々な急性・慢性肝疾患(薬物誘発性肝損傷、アルコール誘発性肝損傷、非アルコール性脂肪肝、胆汁うっ滞性肝損傷、ウイルス性肝炎、肝線維症、肝硬変、肝がんなど)は、世界中で発症率が高く、人間の健康を脅かす重要な死因の1つである。現在、世界中で約1億8,500万人がC型肝炎ウイルスに感染しており、非アルコール性脂肪肝(NAFLD:Nonalcoholic fatty liver disease)の有病率は25%を超え、1億人以上が非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:Nonalcoholic steatohepatitis)に進行している。しかし、C型肝炎ウイルスを除いて、他のタイプの肝疾患の治療に利用できる特定の薬は現在少ない。
【0003】
細胞アポトーシスは、生物の進化/発達及び恒常性において重要な役割を果たす基本的な生物学的現象である。細胞アポトーシス障害は、多くの疾患の発症と進行に密接に関係している。例えば、肝細胞アポトーシスは、さまざまな肝疾患(薬物誘発性肝損傷、アルコール誘発性肝損傷、NALFD/NASH、ウイルス性肝炎、胆汁うっ滞性肝損傷、虚血再灌流肝損傷、肝レンズ核変性症、肝線維化/肝硬変、肝がんなど)共通の特徴と病理学的メカニズムである。肝細胞アポトーシスを阻害することは、肝疾患の治療における重要な戦略の1つであると広く考えられている(Cellular and molecular mechanisms of liver injury. Gastroenterology, 2008, 134(6): 1641-54.)。
【0004】
ファルネソイドX受容体(FXR:Farnesoid X Receptor、NR1H4としても知られる)は核内受容体スーパーファミリーのメンバーであり、胆汁酸、糖、脂質代謝において重要な役割を果たしており、エネルギーバランス、炎症、細胞運命、線維化、肝再生などの生理学的及び病理学的プロセスと密接に関連している。したがって、FXRは、肝保護薬開発の重要な標的として広く考えられている(FXR modulators for enterohepatic and metabolic diseases. Expert OpinTher Pat. 2018 Nov;28(11):765-782.)。FXRを標的とした現在の薬物開発戦略は、FXRの転写活性を制御するためのFXRアゴニスト又はアンタゴニストの開発に主に焦点を当てている。オベチコール酸は、2016年5月に抗特発性胆汁性肝硬変の治療薬として米国FDAによって承認されたFXRアゴニストである。これは、FXRを標的とする初めて市販に成功した薬物であり、NASHに対するその作用についての第III相臨床研究が完成したが、その臨床効果は良好ではない(Obeticholic acid for the treatment of non-alcoholic steatohepatitis: interim analysis from a multicentre, randomised, placebo-controlled phase 3 trial. Lancet. 2019 Dec 14;394(10215):2184-2196.)。
【0005】
研究により、NASHと肝線維症には重大な肝細胞アポトーシスが伴うことが示されている。FXRアゴニストは、NASHやその他の疾患における肝細胞アポトーシス状態の大幅な上昇を改善する作用がない。これは、FXRアゴニストの臨床効果が限られている主な理由の1つである(Combined obeticholic acid and apoptosis inhibitor treatment alleviates liver fibrosis. Acta Pharm Sin B. 2019 May;9(3):526-536.)。また、プロジェクトチームによる予備研究では、肝細胞においてFXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間に安定したタンパク質間相互作用が存在することが示された。肝細胞がアポトーシスによって刺激されると、FXRとCaspase8タンパク質との間の相互作用が弱まり、Caspase8がFADD及びRIP1と結合してアポトーシス複合体を形成する。この複合体はCaspase8の切断活性化を促進し、アポトーシスのプロセスを促進する(Noncanonical farnesoid X receptor signaling inhibits apoptosis and impedes liver fibrosis.EBioMedicine. 2018 Nov;37:322-333.)。したがって、FXRタンパク質とCaspase8タンパク質の間の相互作用を安定化し強化することは、アポトーシスシグナル伝達及びアポトーシスの発生と進行をブロックするための重要な戦略である。しかし、FXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用がどのように制御されるのかはまだ不明であり、現時点ではFXRとCaspase8タンパク質との間の相互作用のための制御剤はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明の目的:本発明の目的は、FXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用のエンハンサの調製における、エンハンサ3C1の使用を提供することである。本発明の別の目的は、FXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用のエンハンサとしての肝線維症・肝損傷治療薬の調製におけるエンハンサ3C1の使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
技術的解決手段:FXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用のエンハンサの調製における本発明の式(1)で示されるエンハンサ3C1の使用。
【0008】
【0009】
前記エンハンサ3C1は、生理学的又は病理学的状態でのFXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用を促進する。
【0010】
前記エンハンサは、Caspase8タンパク質のアポトーシス複合体への動員をブロックすることにより、アポトーシス複合体の形成をブロックする。
【0011】
前記エンハンは、Caspase8タンパク質の切断活性化をサブロックする。
【0012】
前記エンハンサは、薬学的に許容される補助材料を添加して製剤を調製する。
【0013】
前記薬学的に許容される補助材料は、希釈剤、バインダ、崩壊剤、流動促進剤、滑沢剤、矯味剤、封入材、及び吸着材を含む。
【0014】
前記製剤は、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、及び経口液剤である。
【0015】
前記エンハンサ3C1のFXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用のエンハンサとしての肝細胞アポトーシスに抵抗する薬の調製における使用。
【0016】
前記エンハンサ3C1のFXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用のエンハンサとしての肝保護薬の調製における使用。
【0017】
前記エンハンサ3C1のFXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用のエンハンサとしての肝線維症・肝損傷治療薬の調製における使用。
【発明の効果】
【0018】
従来技術と比較して、本発明には次の顕著な利点がある。(1)このエンハンサは、生理学的状態でFXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用を強化することができ、対照群とは有意差があり、最適な場合、***P<0.001に達する。(2)このエンハンサは、アポトーシス状態で弱まったFXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用を回復し、強化することができる。(3)このエンハンサは、さまざまな原因によって引き起こされる肝細胞アポトーシスに抵抗することができ、対照群とは有意差があり、最適な場合、***P<0.001に達する。(4)このエンハンサは、標的が正確で、特異性が高く、的確性が高く、適応症が多く、肝細胞アポトーシス表現型を伴うさまざまな肝疾患を治療するための薬物の調製に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】細胞アポトーシス状態におけるFXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用である。
【
図2】本願のエンハンサ3C1による、健康な細胞におけるFXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用の制御である。
【
図3】本願のエンハンサ3C1による、アポトーシス細胞におけるFXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用の制御である。
【
図4】細胞アポトーシスに対する本願のエンハンサ3C1の保護作用であり、(A)ActD/TNFαによって引き起こされる肝細胞アポトーシス、(B)CHX/FasLによって引き起こされる肝細胞アポトーシス、(C)TRAILによって引き起こされる肝細胞アポトーシス。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【
図5A】CCl
4によって引き起こされる肝損傷に対する本願のエンハンサ3C1の保護作用であり、(A)血清ALTレベル、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【
図5B】CCl
4によって引き起こされる肝損傷に対する本願のエンハンサ3C1の保護作用であり、(B)血清ASTレベル、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【
図5C】CCl
4によって引き起こされる肝損傷に対する本願のエンハンサ3C1の保護作用であり、(C)肝H&E染色、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【
図5D】CCl
4によって引き起こされる肝損傷に対する本願のエンハンサ3C1の保護作用であり、(D)肝Sirius red染色、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【
図5E】CCl
4によって引き起こされる肝損傷に対する本願のエンハンサ3C1の保護作用であり、(E)肝Timp1のmRNAレベル、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【
図5F】CCl
4によって引き起こされる肝損傷に対する本願のエンハンサ3C1の保護作用であり、(F)肝Timp2のmRNAレベル、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施例1
細胞アポトーシス状態におけるFXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用の変化
1.実験材料
DMEM培地はGIBCO(Grand Island,New York,USA)から購入した。ウシ胎児血清(FBS:Fetal bovine serum)は、Hyclone(Logan,Utah,USA)から購入した。トリプシンTrypsinは、Amersco(Solon,Ohio,USA)から購入した。細胞培養消耗品はCostar(USA)から購入した。アクチノマイシンD(ActD:Actinomycin)及びシクロヘキシミド(CHX:cycloheximide)は、MedChem Express(NJ,USA)から購入した。組換えヒト腫瘍壊死因子α(TNFα:Tumor Necrosis Factor alpha)はPeprotech社(Rocky Hill,USA)から購入し、組換えヒトFasLタンパク質及び組換えヒトTRAILタンパク質はSino Biological社(Wayne,PA,USA)から購入した。
【0021】
2.実験方法
2.1.細胞培養及び投与処理
ヒト肝細胞株L02を10%ウシ胎児血清を含むDMEM完全培地で培養し、37℃、5%CO2の細胞インキュベータに入れて培養し、対数増殖期の細胞を2×105細胞/ウェルで12ウェルプレートに播種した。24h後、TRAIL、ActD/TNFα、及びCHX/FasL法を使用してアポトーシスモデルを作成した。TRAILの投与濃度は50ng/ml、TRAILによる処理時間は0、2、4、8、12、24hであった。ActD/TNFαの投与濃度は0.2μM及び20ng/mlであり、ActDは30min事前投与され、ActDによる処理時間は0、1、2、4、8及び12hであった。CHX/FasLの投与濃度は50μM及び50ng/mlであり、CHXは30min事前投与され、CHXによる処理時間は0、2、4及び8hであった。
【0022】
2.2 免疫共沈降(Co-IP)
1)予冷したPBSで細胞を2回洗浄し、最後に適量の予冷したPBSを加え、予冷したセルスクレーパーを使用して培養皿又は培養ボトルから細胞をこすり取り、懸濁液を1.5ml EPチューブに移した。4℃、4000rpmで5min遠心分離し、上清を捨て、適量のNP40溶解液を加えて均一に振盪し、1回あたり5秒、合計3回超音波で細胞を破砕し、細胞を完全に溶解した。次に、4℃、14,000gで10min遠心分離し、上清を新しいEPチューブに集めると、タンパク質溶解液を得た。BCA法によりタンパク質濃度を測定した。
【0023】
2)25μlのProtein A Beadsを取り、5%BSAを用いて室温で1hブロックし、PBSで3回洗浄し、毎回14,000gで1min遠心分離し、上清を捨てた。均一な濃度のタンパク質溶解液をBeadsに加え、4℃で1h振盪し、サンプルをプレクリア(Pre-Clear)した。14,000gで1min遠心分離し、上清を新しいEPチューブに移した。Caspase8抗体とIgGをタンパク質溶解液に加え、4℃のシェーカーで一晩振盪し、抗原-抗体複合体を調製した。翌日、Beadsを2回洗浄した後、14,000g、4℃で1min遠心分離した。次に、Ag-Ab混合物をBeadsに加え、4℃のシェーカーで3h時間振盪し、Beads-抗原-抗体複合体を調製した。次に、14,000g、4℃で1min遠心分離した。上清を捨て、底部のもの(Beads)を残した。Beadsを3回洗浄し、瞬間遠心分離をした。2×Loading Buffer(30μl)をBeadsに加え、沸騰水中で5min沸騰させ、12,000rpmで5min遠心分離した。Western blot及びゲルイメージング分析を実施した。
【0024】
2.3 Western blot
1)細胞を収集して氷上に置き、100μlのRIPA細胞溶解液、1%Protease Inhibitor Cocktail(Sigma)、及び1%ホスファターゼ阻害剤を、20μlの充填細胞容量ごとに加えた。凝集塊を十分にピペッティングし、氷上で30min溶解した後、超音波破砕を2sずつ5回行い、途中溶解液が冷めるまで数秒間停止した。13,000gで10min遠心分離し、得られた上清を抽出された総タンパク質サンプルとして新しい遠心分離チューブに移し、BCA法を使用してタンパク質含有量を測定し、4×loading bufferを加え、均一に混合し、10min煮沸させ、ローディングに備えた。
【0025】
2)3%~5%のスタッキングゲルと6%~12%の分解ゲルのSDS-PAGEを調製し、電気泳動でタンパク質サンプルを分離した。サンプルを十分に振盪し、各サンプルから同量の50~100μgの総タンパク質をローディングした。電気泳動は、スタッキングゲルでは75Vで40min、分解ゲルでは115Vで60minの勾配で実行された。セミドライ転写条件でタンパク質の転写を行い、ろ紙、カットゲル、及びPVDFメンブレンをセミドライ転写緩衝液で平衡化した。濾紙をセミドライト転写タンクに平らに置き、その上にPVDFメンブレン、ゲル、及びもう一枚の濾紙を順番に置き、すべての層の間の気泡を注意深く取り除いた。セミドライ転写用のカバーをタンクにかぶせ、定電圧を25Vに設定し、30min転写した。
【0026】
3)転写後、PVDFメンブレンをTBST溶液で調製した5%脱脂粉乳ブロック溶液中でブロックし、37℃で1hブロックした。ブロック溶液で調製した適量の一次抗体を100μl/cm2 PVDFの相対量で加え、4℃で一晩インキュベートした。PVDFメンブレンをTBST溶液で5minずつ4回洗浄した。メンブレンをHRP-結合二次抗体希釈液中で37℃で60minインキュベートし、PVDFメンブレンをTBST溶液で5minずつ4回洗浄した。
【0027】
4)ChemiDocTM XRS+ゲルイメージングシステム(Bio-Rad)を使用して露光し、Image Lab TMソフトウェアを使用して濃度測定分析と半定量比較を行った。
【0028】
3.実験結果
図1に示すように、生理的条件下ではFXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間に相互作用があるが、ActD/TNFα誘発アポトーシスモデルではFXRとCaspase8との間の相互作用が弱まった。
【0029】
実施例2
FXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用に対するエンハンサ3C1の制御
1.実験材料
化合物3C1は、TargetMol社から購入し、次の構造式を持っている。
【化2】
残りの試薬は実施例1と同様である。
【0030】
2.実験方法
2.1 細胞培養及び投与処理
ヒト肝細胞株L02を10%ウシ胎児血清を含むDMEM完全培地で培養し、37℃、5%CO2の細胞インキュベータに入れて培養した。
【0031】
2.2 生理学的状態におけるFXR-Caspase8タンパク質相互作用に対する化合物3C1の制御作用
対数増殖期の細胞を2×105細胞/ウェルで6ウェルプレートに播種した。24h後、異なる濃度の化合物3C1(1μM、10μM、及び100μM)を投与し、2h後に細胞を回収した。
【0032】
2.3 アポトーシス状態におけるFXR-Caspase8タンパク質相互作用に対する化合物3C1の制御作用
対数増殖期の細胞を2×105細胞/ウェルで6ウェルプレートに播種した。アポトーシスの誘導方法は実施例1と同様である。アポトーシス誘導剤を投与しながら、異なる濃度の化合物3C1(1μM、10μM、及び100μM)を投与し、2h後に細胞を収集した。
【0033】
2.4 Co-IP
実施例1と同様である。
【0034】
2.5 Western blot
実施例1と同様である。
【0035】
3.実験結果
3.1 生理学的状態におけるFXR-Caspase8タンパク質相互作用に対する化合物3C1の制御作用
図2に示すように、正常細胞では、化合物3C1の投与により、FXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用が大幅に強化され、この作用は用量依存的である。
【0036】
3.2 アポトーシス状態におけるFXR-Caspase8タンパク質相互作用に対する化合物3C1の制御作用
実施例1に記載したように、FXR-Caspase8タンパク質相互作用は、アポトーシス状態では下方制御された。
図3に示すように、ActD/TNFα誘発L02のアポトーシス状態では、FXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用が弱まり、化合物3C1はこれに対して顕著な逆転効果をもたらす。
上記の結果は、化合物3C1がFXRとCaspase8タンパク質との間の相互作用のエンハンサであることを確認した。
【0037】
実施例3
細胞アポトーシスに対するエンハンサ3C1の薬理活性
1.実験材料
メチルチアゾリルジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT:Methylthiazolyldiphenyl-tetrazolium bromide)は、MedChem Express(NJ,USA)から購入した。
残りの試薬は実施例1と同様である。
【0038】
2.実験方法
2.1 細胞培養、トランスフェクション及び投与処理
ヒト肝細胞株L02を10%牛胎児血清を含むDMEM完全培地で培養し、37℃、5%CO2の細胞インキュベータに入れて培養し、対数増殖期の細胞を5×103細胞/ウェルで96ウェルプレートに播種した。24h後、細胞に50nMでトランスミッションし、トランスフェクションの48時間後にアポトーシスモデリングを実行した。具体的な方法は以下の通りである。TRAILの投与濃度は50ng/ml、TRAILによる処理時間は24時間であった。ActD/TNFαの投与濃度は0.2μM及び20ng/mlであり、ActDは30min事前投与され、ActDによる処理時間は8hであった。CHX/FasLの投与濃度は50μM及び50ng/mlであり、CHXは30min事前投与され、CHXによる処理時間は8hであった。
細胞にアポトーシス試薬を与える一方で、異なる濃度の化合物3C1:1μM、10μM、及び100μMを与えた。
【0039】
2.2 細胞生存率の検出
投与時間が終了した後、MTT(5mg/ml)20μlを各ウェルに加え、37℃で4hインキュベートし続け、培地を吸引して廃棄し、DMSO 150μlを各ウェルに加え、37℃で10minインキュベートし、490nmの波長で吸光度を測定した。
【0040】
3.実験結果
図4に示すように、FXR-Caspase8タンパク質相互作用エンハンサ3C1は、TRAIL(
図4A)、ActD/TNFα(
図4B)、及びCHX/FasL(
図4C)の3つの古典的なアポトーシスモデルにおいて顕著な抗細胞アポトーシス効果を示した。この抗細胞アポトーシス効果は、用量依存的である。
【0041】
実施例4
CCl4によって引き起こされる肝損傷に対するエンハンサ3C1の保護作用
1.実験材料
実験マウス(C57BL/6)は、北京維通利華実験動物技術有限公司から購入した。
CCl4は上海凌峰化学試薬公司から購入し、鉱油はSigma-Aldrich社から購入し、Trizol RNAisoplusはTakara社から購入し、逆転写キット及びSYBR GreenはApplied Biosystems社から購入し、使用したプライマーはInvitrogen(中国、上海)社によって設計、合成された。DEPC水はBeyotime Institute of Biotechnology(中国、上海)から購入した。
残りの生物学的材料/試薬は市販品として入手できる。
残りの実験材料は実施例1と同様である。
【0042】
2.実験方法
2.1 CCl4誘発マウス肝損傷に対するエンハンサ3C1の作用
実験前に、C57BL/6マウスを室温22~26℃、相対湿度40%~60%、明暗を12h交互に変えながら1週間適応的に飼育した。全てのマウスを別々のケージに収容し、水と餌を自由に摂取させ、体重を20~22gに維持した。この実験は、空白対照群、モデル群、3C1低用量投与群(5mg/kg)、及び3C1高用量投与群(10mg/kg)に分けた。
【0043】
3C1低用量投与群及び3C1高用量投与群のC57BL/6マウスには、5mg/kg/day又は10mg/kg/dayの3C1を腹腔内注射により前投与した。残りの群には同じ用量のビヒクル対照を与えた。3日後にCCl4モデリングを行い、空白対照群には同じ用量の鉱油を与えた。48h後にマウスを安楽死させた。マウスの血液と肝を採取した。
【0044】
2.2 血清トランスアミナーゼの検出
全血を室温で0.5h静置した後、8,000rpmで10min遠心分離し、上清を新しいEPチューブに移して血清を得た。血清ALT及びASTは、ALT及びASTキットの説明書に従って検出された。
【0045】
2.3 RT-PCR
2.3.1 動物組織サンプルからの総RNAの抽出
1)各マウスから肝組織サンプル20mgを量り、RNAiso Plus 1.0mlを加え、ホモジナイザーでホモジナイズし、ホモジナイズ液を遠心分離管に移し、室温で5min放置した後、12,000g、4℃で5min遠心分離した。
【0046】
2)上清800μlを移し、クロロホルム160μlを加え、15s激しく振盪し、室温で5min放置し、12,000gで15min遠心分離した。サンプルは、黄色の有機相である下層、無色の水相である上層、及び中間層の3層に分かれている。
【0047】
3)上層水相300μlを新しいチューブに慎重に移し、イソプロピルアルコール300μlを加え、逆様にして均一に混和し、室温で10min放置し、12,000gで10min遠心分離し、上清を捨てた。
【0048】
4)RNA沈殿を予冷した75%エタノール1.0mlで洗浄し、12,000gで5min遠心分離した。上清を捨てて総RNAを得、DEPC水20μlに再溶解し、定量化後、0.5μg/μlに希釈した。
【0049】
2.3.2 逆転写
説明書に記載されているシステム比率に従って、RNA溶液とキットの成分を合計20μlのシステムにし、プログラム温度を設定して逆転写した。特定の比率要件は次のとおりである。
【0050】
【0051】
2.3.3PCR
PCR系は以下の通りである。
【表B】
【0052】
PCRの使用条件は以下のとおりである。
Stage 1:予備変性、95℃、1min
Stage 2:PCR反応、95℃、15s、たとえば、60℃、30s、40サイクル;72℃、30s
Stage 3:融解曲線分析65~95℃、0.5℃/5sec
【0053】
2.3.4 蛍光定量PCRで使用されるプライマーを以下の表1に示す。
【表1】
【0054】
2.4 肝の病理学的分析
この部分のH&E染色とSirius Red染色は武漢グーグルバイオテクノロジー社に委託された。
【0055】
3 実験結果
3.1 血清生化学指標に対するエンハンサ3C1の作用
図5A及び5Bに示すように、CCl
4は、マウスにおいて血清ALT及びASTレベルの有意な上昇を引き起こすが、エンハンサ3C1は、CCl
4注射によって引き起こされる血清ALT及びASTレベルの上昇を有意に低減することができる。
【0056】
3.2 肝臓病理に対するエンハンサ3C1の改善作用
肝病理分析及びH&E染色結果(
図5C)によると、対照群のマウスでは、肝小葉の構造は完全で、肝細胞は中心静脈の周囲に放射状に配置され、線維形成及び炎症細胞は存在しなかった。肝細胞は、サイズが大きく、核が丸く中心にある。CCl
4の注射後、肝類洞は明らかに充血して拡張し、肝細胞は顆粒状変性を起こし、部分的な肝細胞壊死病巣が多数あり、一部の肝細胞に浮腫と変性や炎症細胞浸潤が認められ、肝臓内の肝小葉構造の一部が破壊され、門脈領域における線維組織の異常な増殖があり、コラーゲン線維は著しく増殖し、帯状の増殖を示した。3C1投与群では、肝小葉の構造障害が顕著に改善され、炎症細胞の浸潤が減少し、門脈領域のコラーゲン線維が減少した。これは、3C1に明らかな肝保護作用があることを示している。
肝病理分析のSirius Red染色結果(
図5D)によると、対照群の肝では、赤色のコラーゲン線維染色が少なかった。CCl
4の注射後、門脈領域には多数の赤色コラーゲン線維が存在した。3C1投与後、肝内の赤色コラーゲン線維の増殖は大幅に改善された。
【0057】
3.3 肝線維化遺伝子に対するエンハンサ3C1の改善作用
リアルタイムRT-PCRの結果(
図5E及び5F)によると、CCl
4誘発マウス急性肝損傷モデルでは、肝線維化遺伝子Timp1及びTimp2 mRNAのレベルが有意に上昇し(P<0.001)、エンハンサ3C1は、Timp1及びTimp2のmRNAレベルを大幅に低下させることができ(P<0.001)、これは用量依存的である。
上記の結果に基づいて、エンハンサ3C1には明確な肝保護作用があることが示唆された。
【0058】
実施例5
50mgのエンハンサ3C1を50mgの微結晶セルロース及び60mgのデンプンと混合し、湿潤剤として適量の20%エタノールを使用して軟材にし、常法により造粒し、タルク及びステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、錠剤に打錠した。
【0059】
50mgのエンハンサ3C1を50mgのデンプン、10mgのデキストリン、10mgのスクロースと混合し、湿潤剤として30%エタノールを使用して軟材にし、湿式造粒して、顆粒剤を製造した。
【0060】
50mgのエンハンサ3C1を50mgのデンプン、10mgのデキストリン、10mgのスクロースと混合し、湿潤剤として30%エタノールを使用して軟材にし、湿式造粒して、カプセルに充填して、カプセル剤を製造した。
【0061】
50mgのエンハンサ3C1を40mgのデンプン及び10mgのタルクと混合し、従来技術を使用して、散剤を製造した。
【0062】
50mgのエンハンサ3C1を15mgの粉砂糖及び8mLの水と混合し、従来技術を使用してシロップ剤を製造し、次に70mgのデンプンを加えて、従来技術を使用して丸剤を製造した。
【0063】
50mgのエンハンサ3C1、ポビドン、スクロース、及び水を使用して、従来技術を使用して経口液剤を製造した。
【手続補正書】
【提出日】2024-12-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用のエンハンサの調製における式(1)で示されるエンハンサ3C1の使用。
【化3】
式(1)
【請求項2】
前記エンハンサ3C1は、生理学的又は病理学的状態でのFXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用を促進する、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記エンハンサは、Caspase8タンパク質のアポトーシス複合体への動員をブロックすることにより、アポトーシス複合体の形成をブロックする、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記エンハン
サは、Caspase8タンパク質の切断活性化をサブロックする、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項5】
前記エンハンサは、薬学的に許容される補助材料を添加して製剤を調製する、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記薬学的に許容される補助材料は、希釈剤、バインダ、崩壊剤、流動促進剤、滑沢剤、矯味剤、封入材、及び吸着材を含む、ことを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記製剤は、顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、及び経口液剤である、ことを特徴とする請求項5に記載の使用。
【請求項8】
FXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用のエンハンサとしての肝細胞アポトーシスに抵抗する薬の調製における
式(1)で示されるエンハンサ3C1の使用。
【化4】
式(1)
【請求項9】
FXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用のエンハンサとしての肝保護薬の調製における
式(1)で示されるエンハンサ3C1の使用。
【化5】
式(1)
【請求項10】
FXRタンパク質とCaspase8タンパク質との間の相互作用のエンハンサとしての肝線維症・肝損傷治療薬の調製における
式(1)で示されるエンハンサ3C1の使用。
【化6】
式(1)
【国際調査報告】