(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】組織修復用生体適合性三次元構造体
(51)【国際特許分類】
A61L 27/18 20060101AFI20241219BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20241219BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20241219BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20241219BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20241219BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20241219BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20241219BHJP
A61F 2/12 20060101ALN20241219BHJP
【FI】
A61L27/18
A61L27/20
A61L27/16
A61L27/24
A61L27/56
A61L27/58
A61L27/34
A61F2/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539881
(86)(22)【出願日】2022-10-17
(85)【翻訳文提出日】2024-07-01
(86)【国際出願番号】 KR2022015711
(87)【国際公開番号】W WO2023128177
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0193211
(32)【優先日】2021-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522110430
【氏名又は名称】プルコスキン カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PLCOSKIN CO., LTD.
(71)【出願人】
【識別番号】507175175
【氏名又は名称】インダストリー-アカデミック コーポレーション ファウンデーション,ヨンセイ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペク,ウヨル
(72)【発明者】
【氏名】イ,ウォンジェ
(72)【発明者】
【氏名】キム,トヒョン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヨンギュ
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ハンセン
(72)【発明者】
【氏名】シン,キュシク
(72)【発明者】
【氏名】ホ,ミン
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
【Fターム(参考)】
4C081AB38
4C081BA13
4C081BA16
4C081CA051
4C081CA081
4C081CA101
4C081CA161
4C081CA171
4C081CA181
4C081CA211
4C081CA241
4C081CA271
4C081CD011
4C081CD021
4C081CD031
4C081CD041
4C081CD081
4C081CD091
4C081CD121
4C081CD122
4C081CE05
4C081DA16
4C081DB03
4C081DC14
4C081EA06
4C097AA19
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC05
4C097DD15
4C097EE03
4C097EE08
4C097EE11
4C097EE17
4C097EE19
4C097FF05
(57)【要約】
本発明は、生体適合性三次元スキャフォールドおよびこれを含む空洞化組織再構築用組成物を提供する。本発明は、強固な物理的強度を有して陥没空間に対する機械的支持を提供しながらも内部空間に組織再生用有効成分を充填可能で、不可逆的に消失した組織の量的復旧を効率的に誘導する。本発明はまた、球形のスキャフォールドを用いることにより、いかなる形状の陥没部位にも効率的に挿入されるだけでなく、再生完了後適切な時期に分解されることにより、乳房組織を含めた多様な脂肪組織を修復する人体移植用スキャフォールドとして有用に利用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む組織再生用三次元スキャフォールド:
(a)生体適合性高分子からなる1つ以上の球形(sphere)または半球形(hemisphere)の多孔性表面層(porous layer);および
(b)前記多孔性表面層の内部に形成された内腔(cavity)。
【請求項2】
前記多孔性表面層は、生体適合性高分子ストランドが交差して形成されたことを特徴とする請求項1に記載のスキャフォールド。
【請求項3】
前記生体適合性高分子は、PCL[ポリ(カプロラクトン)]、HEMA[ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)]、PVA(ポリビニルアルコール)、PEO(ポリエチレンオキシド)、リン脂質、コラーゲン、脂肪族ポリエステル、PLA[ポリ(ラクチド)]、PGA[ポリ(グリコリド)]、PDO[ポリ(ジオキサノン)]、PBL[ポリ(ブチロラクトン)]、PVL[ポリ(バレロラクトン)]、PLGA[ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)]、ポリウレタン、ピブロネクチン、ビトロネクチン、ポリL-リジン、ポリL-グルタミン酸、ポリアスパラギン酸、カルボキシメチルセルロース、セルローススルフェート、アガロース、アルギネート、カラギーナン、ヒアルロン酸、デキストラン、キトサン、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリ(アルキレンコハク酸)、ポリアミド、ポリアンハイドライド、ポリ(オルトエステル)、ポリy(シアノアクリル酸)、ポリホスファゼン、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリジメチルシロキサン、ポリ(エチレンオキシド-β-プロピレンオキシド)、ポリ(ビニルメチルエーテル)、ポリ(N-アルキルアクリルアミド)、脱細胞基質、およびこれらの組み合わせから構成された群より選択されることを特徴とする請求項1に記載のスキャフォールド。
【請求項4】
前記生体適合性高分子は、PCL[ポリ(カプロラクトン)]であることを特徴とする請求項3に記載のスキャフォールド。
【請求項5】
前記ストランドは、0.1~50mmの直径を有することを特徴とする請求項2に記載のスキャフォールド。
【請求項6】
前記ストランドは、コラーゲンでコーティングされたことを特徴とする請求項5に記載のスキャフォールド。
【請求項7】
前記スキャフォールドは、3~200mmの直径を有することを特徴とする請求項1に記載のスキャフォールド。
【請求項8】
前記球形または半球形の多孔性表面層は、正二十面体(icosahedron)、切頂二十面体(truncated icosahedron)および切頂八面体(truncated octahedron)から構成された群より選択される幾何構造を有することを特徴とする請求項1に記載のスキャフォールド。
【請求項9】
前記球形または半球形の多孔性表面層は、平面の放射形(radial)の構造体を三次元的に成形して形成されたことを特徴とする請求項1に記載のスキャフォールド。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のスキャフォールド;およびコラーゲン、脂肪組織、乳腺組織、またはこれらの組み合わせを有効成分として含む空洞化組織再構築用組成物。
【請求項11】
前記空洞化組織は、脂肪組織または線維組織であることを特徴とする請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記脂肪組織は、乳房脂肪組織であることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1に記載の組織再生用三次元スキャフォールドを形成するための、生体適合性高分子からなる放射形(radial)の多孔性メッシュ(mesh)。
【請求項14】
前記多孔性メッシュは、前記放射形の中心を基準として向かい合う両部位にそれぞれ固定部および固定部収容部を含むことを特徴とする請求項13に記載の多孔性メッシュ。
【請求項15】
前記多孔性メッシュは、前記放射形の中心から延びてきたn個の末端を有し、このうち、n-1個の末端は、固定部または固定部収容部を含み、1つの末端は、残りのn-1個の末端に含まれた固定部または固定部収容部と結合を形成可能なn-1個の固定部収容部または固定部を含むことを特徴とする請求項13に記載の多孔性メッシュ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球形または球形に近い幾何構造を有する生体適合性スキャフォールドおよびこれを用いて外科的部分切除術などによって空洞化された乳房組織を復旧する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳癌とは、乳房の細胞で発生する悪性腫瘍をいう。乳癌の原因について明確に究明されてはいないが、女性ホルモン、家族歴、過去歴、出産歴、食生活習慣などの多様な因子が取り上げられている。乳癌の5年生存率は、100%の0期癌に比べて4期の場合に20%未満とされており、低出産、短い授乳期間、早い初経、遅い閉経など生理的に旺盛な身体的変化を経験する時期の女性では、女性ホルモンの刺激を受ける回数の急激な増加による乳腺組織の敏感度増加、食生活の西欧化、生活環境の汚染などの理由により最近乳癌の発生が急激に増加しており、このような乳癌の発生頻度および乳癌による死亡率の増加は、現在の西欧化の実態からみて、今後も相当期間持続することが予想される。
【0003】
2020年現在、韓国国内で毎年200万人以上が新規に乳癌診断を受けており、毎年5%ずつ有病率が増加しているが、初期乳癌に対する外科的手術において部分乳房切除術(lumpectomy)は漸進的に増加して、2018年現在、乳房全切除術対比2倍に達している。部分乳房切除術後の修復術において切除された乳房の反対側乳房を整形したり、切除された乳房に保形物を挿入したり、あるいは腹部などから採取した自己脂肪を移植する方法が主に使用されている。反対側乳房整形の場合、費用が高いだけでなく、生存と無関係な美容手術であるにもかかわらず病変でない部位に新しい傷跡が生じるという短所があり、外形補正のために保形物を挿入する場合も、高価な死体由来真皮を使用することにより高費用の問題があるだけでなく、修復効果も不十分である。一方、自己脂肪移植の場合、放射線治療による皮膚-軟組織の線維化および癒着発生の危険があり、移植後、時間の経過とともに脂肪組織が吸収されて整形効果が消えるという難点がある。そこで、消失した組織を効率的で安全に再構築する新たな治療的アプローチの開発が要求されている。
【0004】
本明細書全体にわたって多数の論文および特許文献が参照されてその引用が表示されている。引用された論文および特許文献の開示内容は全体として本明細書に参照により組み込まれ、本発明の属する技術分野における水準および本発明の内容がより明確に説明される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、外傷や外科的切除術などによって発生する組織空洞化を効率的に修復する組織再生用三次元構造体を開発するために、鋭意研究努力してきた。その結果、生体適合性高分子からなり、内部の空いている球形または半球形、具体的には、球形の多孔性構造体(スキャフォールド)を陥没した組織空洞に挿入する場合、強固な物理的強度を有して陥没空間に対する機械的支持を提供しながらも内部空間に組織再生を助ける有効成分の搭載が可能で、消失した組織の量的復旧を誘導するだけでなく、挿入後適切な時期に分解されることにより、乳房組織などの修復のための人体移植用構造体として有用に利用できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0006】
したがって、本発明の目的は、組織再生用三次元構造体を提供することである。
本発明の他の目的は、空洞化組織再構築用組成物を提供することである。
本発明の他の目的および利点は下記の発明の詳細な説明、特許請求の範囲および図面によってより明確になる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、本発明は、以下を含む組織再生用三次元構造体(スキャフォールド)を提供する:
(a)生体適合性高分子からなる1つ以上の球形(sphere)または半球形(hemisphere)の多孔性表面層(porous layer);および
(b)前記多孔性表面層の内部に形成された内腔(cavity)。
【0008】
本発明者らは、不可逆的に消失した組織の効率的な再生をはかり、特に、外傷や外科的切除術などによって発生する組織空洞化を修復する組織再生用三次元構造体を開発するために、鋭意研究努力してきた。その結果、生体適合性高分子からなり、内部の空いている球形または半球形、具体的には、球形の多孔性構造体を陥没した組織空洞に挿入する場合、強固な物理的強度を有して陥没空間に対する機械的支持を提供しながらも内部の空き空間に組織再生を助ける有効成分の搭載が可能で、消失した組織の量的復旧を誘導するだけでなく、挿入後適切な時期に分解されることにより、乳房組織を含めた多様な組織を修復する人体移植用構造体として有用に利用できることを見出した。
【0009】
本明細書において、用語「構造体」または「スキャフォールド(scaffold)」は、生体細胞、具体的には、損傷した組織に由来する細胞または損傷した組織の回復に関与する細胞を載置させることにより、損傷組織の回復および再生を促進するための組織工学(tissue engineering)的構造体を意味する。具体的には、本発明の構造体は、単一の多孔性球体からなる単一層構造であってもよく、複数の球体が積層されたコア-シェル形態の多層(multi-layer)構造であってもよい。
【0010】
本明細書において、用語「球形」は、中心との距離が同じ点の集合で構成された三次元図形を意味するが、本発明の「球形」の表面層は、幾何学的に完全な球形である必要はなく、表面層を構成するストランド上の各点と中心までの距離が一定の範囲を超えない構造をすべて含む。
【0011】
本発明の具体的な実施形態によれば、本発明の球形または半球形の多孔性表面層は、正二十面体(icosahedron)、切頂二十面体(truncated icosahedron)および切頂八面体(truncated octahedron)から構成された群より選択される幾何構造を有する。
【0012】
本発明の他の実施形態によれば、本発明の球形または半球形の多孔性表面層は、平面の放射形(radial)の構造体を三次元的に成形して形成された球形または球形に近い形状であってもよいし、この場合、多面体ではない曲面の表面を有する。
【0013】
最も具体的には、本発明の球形または半球形の多孔性表面層は、切頂二十面体(truncated icosahedron)の幾何構造を有する。本明細書において、用語「切頂二十面体」は、各面が正三角形からなる正二十面体の各頂点(角の三等分点)を切開する場合に作られるサッカーボール状の多面体を意味する。
【0014】
このように球形または球形に近い幾何構造のスキャフォールドを用いることにより、空洞部位の形状に関係なく陥没した空間の隅々に効率的に挿入され、修復しようとする空洞部位の形状や容積などとは無関係に規格化されて生産される。
【0015】
本発明の具体的な実施形態によれば、前記多孔性表面層は、生体適合性高分子ストラン
ドが交差して形成され、生体適合性高分子を2種以上混合して使用することができる。
【0016】
本発明によれば、本発明の多孔性球体(または半球体)の表面は、一定の厚さを有するストランドが一定の間隔で交差して一定の大きさの気孔(pore)を形成することにより作られる。
【0017】
本発明の具体的な実施形態によれば、前記ストランドは、0.1~50mmの直径を有する。0.1mmより直径が小さい場合、人体挿入後、三次元構造体の形状維持が困難で支持体の役割が低下し、50mmより直径が大きい場合、組織の再生が困難で、生分解に長期間が費やされ、弾性が低下する。より具体的には、前記ストランドは、0.5~30mmの直径を有し、より具体的には、0.7~20mmの直径を有し、さらにより具体的には、0.8~1.5mmの直径を有し、最も具体的には、約1mmの直径を有する。
【0018】
本明細書において、用語「高分子」は、同一または異なる種類の単量体が連続的に結合した合成または天然高分子化合物を指す。したがって、高分子には、単独重合体(1種類の単量体が重合化された重合体)と、少なくとも2種の異なる単量体の重合によって製造された混成重合体とが含まれ、混成重合体には、共重合体(2種の異なる単量体から製造された重合体)と、2種超過の異なる単量体から製造された重合体とをすべて含む。
【0019】
本明細書において、用語「生体適合性」は、生体内に投与されて、器官の細胞、組織または体液と接触する場合、短期的あるいは長期的副作用を起こさない性質を意味し、具体的には、生体組織または血液と接触して組織を壊死させたり、血液を凝固させない組織適合性(tissue compatibility)および抗凝血性(blood compatibility)だけでなく、生体投与後一定期間経過後に消滅する生分解性(biodegradability)を含む意味である。
【0020】
本明細書において、用語「生分解性」は、pH6-8の生理的溶液(physiological solution)に露出した時に自然的に分解される性質を意味し、具体的には、生体内で体液、分解酵素または微生物などによって時間の経過とともに分解できる性質を意味する。
【0021】
本発明で使用可能な生体適合性高分子は、PCL[ポリ(カプロラクトン)]、HEMA[ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリラート)]、PVA(ポリビニルアルコール)、PEO(ポリエチレンオキシド)、リン脂質、コラーゲン、脂肪族ポリエーテル(alipatic polyether)、PLA[ポリ(ラクチド)]、PGA[ポリ(グリコリド)]、PDO[ポリ(ジオキサノン)]、PBL[ポリ(ブチロラクトン)]、PVL[ポリ(バレロラクトン)]、PLGA[ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)]、PU(ポリウレタン)、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ポリ(L-リジン)、ポリ(L-グルタミン酸)、ポリ(アスパラギン酸)、カルボキシメチルセルロース、セルローススルフェート、アガロース、アルギネート(alginate)、カラギーナン、ヒアルロン酸、デキストラン、キトサン、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリ(アルキレンコハク酸)、ポリアミド、ポリ(アンハイドライド)[poly(anhydride)]、ポリ(オルト-エステル)、ポリ(シアノアクリル酸)、ポリホスファゼン、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(テトラフルオロエチレン)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(エチレンオキシド-β-プロピレンオキシド)、ポリ(ビニルメチルエーテル)、ポリ(N-アルキルアクリルアミド)、脱細胞基質(dECM)、およびこれらの組み合わせを含むが、これに限定されるものではい。より具体的には、本発明で用いられる生体適合性高分子は、脂肪族ポリエステル、PLA[ポリ(ラクチド)]、PGA[ポリ(グリコリド)]、PDO[ポリ(ジオキサノン)]、PBL[ポリ(ブチロラクトン)]、PVL[ポリ(バレロラクトン)]、PLG
A[ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)]、PCL[ポリ(カプロラクトン)]、またはこれらの組み合わせであり、最も具体的には、PCL[ポリ(カプロラクトン)]である。
【0022】
本発明の生体適合性三次元構造体は、生体適合性高分子ストランドにコラーゲンでコーティングされる。
【0023】
本明細書において、用語「コーティング(coating)」は、対象表面上に特定の物質を改質することで一定の厚さの新しい層を形成することを意味し、対象表面とコーティング物質は、イオン結合または非共有結合により改質できる。用語「非共有結合」は、吸着(adsorption)、凝集(cohesion)、鎖の絡み合い(entanglement)および捕捉(entrapment)などのような物理的結合だけでなく、水素結合およびファンデルワールス結合のような相互作用が単独でまたは前記物理的結合とともに作用して発生する結合を含む概念である。本発明において、コラーゲン溶液がスキャフォールドを構成するストランドをコーティングする場合、各ストランドの表面を完全に取り囲みながら密閉された層を形成してもよく、部分的に密閉された層を形成してもよい。
【0024】
本発明の具体的な実施形態によれば、前記構造体は、3~200mmの直径を有する。直径が3mmより小さい場合、有意な脂肪組織の再生が円滑でなく、200mm以上の直径を有する場合、組織陥没部への挿入が困難である。
【0025】
より具体的には、前記構造体(スキャフォールド)は、10~100mmの直径を有し、より具体的には、15~50mmの直径を有し、さらにより具体的には、20~40mmの直径を有し、最も具体的には、約30mmの直径を有する。
【0026】
本発明の他の態様によれば、本発明は、上述した本発明のスキャフォールド;およびコラーゲン、脂肪組織、乳腺組織、またはこれらの組み合わせを有効成分として含む空洞化組織再構築用組成物を提供する。
【0027】
上述のように、本発明のスキャフォールドは、内部の空き空間にコラーゲン、脂肪組織、乳腺組織を含めた組織再生を助ける有効成分の搭載が可能である。このような組織再生のための有効成分は、コラーゲン、脂肪組織、乳腺組織だけでなく、再生しようとする組織の性格によって、当該組織由来細胞または組織塊を含めて適宜選択可能である。これとともに、前記組織再生を助ける有効成分は、本発明のスキャフォールドの内部空間に充填されたまま病変部に移植されたり、または病変部にスキャフォールドを先に移植した後、縫合前、スキャフォールドの内部空間に充填させてもよい。
【0028】
本明細書において、用語「移植」は、受容者に移植された組織または細胞の機能的完全性を維持しようとする目的の下、供与者から受容者に生存組織、細胞、組織再生を助ける有効成分またはこれらを受容する人工支持体を伝達する過程を意味する。したがって、用語「移植用支持体」は、生存組織または細胞を受容者に伝達する過程で用いられる物理的支持体を意味する。
【0029】
本発明の具体的な実施形態によれば、前記空洞化組織は、脂肪組織または線維組織であり、より具体的には、前記脂肪組織は、乳房脂肪組織である。
【0030】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、上述した本発明の組織再生用三次元スキャフォールドを形成するための、生体適合性高分子からなる放射形(radial)の多孔性メッシュ(mesh)を提供する。本発明の多孔性メッシュは、中心から延びてきた
多数の直線形態のメッシュが輻状に紡錘形を形成し、これらの対応する両末端が出会うように球(sphere)状に丸く成形することにより、上述した本発明の「内腔(cavity)を有する球形の多孔性表面層」を形成することができる。
【0031】
本発明の具体的な実施形態によれば、前記多孔性メッシュは、前記放射形の中心を基準として向かい合う両末端部にそれぞれ固定部および固定部収容部を含むことができる。このように中心から輻状に延びてきた直線形態のメッシュの対応する両末端がそれぞれ固定部および固定部収容部を介して機械的に結合することにより、球形の多孔性表面層がより強固になる。このような固定部および固定部収容部は、一対の対応末端にのみ形成されてもよく(
図2Cの左側)、複数対の対応末端に形成されてもよいし、すべての対の対応末端に形成されてもよい(
図2Cの右側)。
【0032】
これとともに、固定部が1つの末端に形成された場合、これに対応する末端だけでなく、残りのすべての末端に当該固定部の収容部が形成されることにより、1つの固定部と多数の固定部収容部とが結合してもよい(
図2Cの左側)。
【0033】
さらに他の具体的な実施形態によれば、前記多孔性メッシュは、前記放射形の中心から延びてきたn個の末端を有し、このうち、n-1個の末端は、固定部または固定部収容部を含み、1つの末端は、残りのn-1個の末端に含まれた固定部または固定部収容部と結合を形成可能なn-1個の固定部収容部または固定部を含むことができる(
図2Cの中間)。
【0034】
固定部および固定部収容部は、例えば、それぞれフック(hook)およびフック収容部であってもよいが、これに限定されず、機械的結合を形成し、形成された結合を固定させることができる、いかなる締結手段も適用可能である。
【0035】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、上述した本発明のスキャフォールド;およびコラーゲン、脂肪組織、乳腺組織、またはこれらの組み合わせを対象体の空洞化組織に移植するステップを含む対象体の空洞化組織再構築方法を提供する。
【0036】
本発明で用いられるスキャフォールド、コラーゲン、脂肪組織および乳腺組織についてすでに詳述したので、過度の重複を避けるためにその記載を省略する。
【発明の効果】
【0037】
本発明の特徴および利点を要約すれば、次の通りである:
(a)本発明は、生体適合性三次元スキャフォールドおよびこれを含む空洞化組織再構築用組成物を提供する。
(b)本発明は、強固な物理的強度を有して陥没空間に対する機械的支持を提供しながらも内部空間に組織再生用有効成分を充填可能で、不可逆的に消失した組織の量的復旧を効率的に誘導する。
(c)本発明はまた、球形のスキャフォールドを用いることにより、いかなる形状の陥没部位にも効率的に挿入されるだけでなく、再生完了後適切な時期に分解されることにより、乳房組織を含めた多様な脂肪組織を修復する人体移植用スキャフォールドとして有用に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】
図1は、本発明の生体適合性三次元構造体を適用することにより、消失した乳房組織が部分修復される過程を示す模式図であって、本発明の構造体を部分乳房切除術後に発生する空洞(cavity)に挿入することにより、陥没した乳房を修復することができる。
【
図2A】
図2は、多様なストランド形態を有する本発明の生体適合性三次元構造体の構造図であって、それぞれ球形(sphere)(
図2A)、半球形(hemisphere)(
図2B)、および球形構造体形成のための放射形(radial)の構造体(
図2C)をそれぞれ図式化した図である。
【
図2B】
図2は、多様なストランド形態を有する本発明の生体適合性三次元構造体の構造図であって、それぞれ球形(sphere)(
図2A)、半球形(hemisphere)(
図2B)、および球形構造体形成のための放射形(radial)の構造体(
図2C)をそれぞれ図式化した図である。
【
図2C】
図2は、多様なストランド形態を有する本発明の生体適合性三次元構造体の構造図であって、それぞれ球形(sphere)(
図2A)、半球形(hemisphere)(
図2B)、および球形構造体形成のための放射形(radial)の構造体(
図2C)をそれぞれ図式化した図である。
【
図3A】
図3は、本発明の生体適合性三次元支持体をラットモデルに移植した後、2ヶ月、4ヶ月および6ヶ月経過後、移植部位の横断面(
図3A)および縦断面(
図3B)に対してそれぞれ撮影したマイクロCT撮影イメージ、移植された部位の組織を横に切片化した後、H&E染色およびマッソントリクローム染色を行った結果である。
【
図3B】
図3は、本発明の生体適合性三次元支持体をラットモデルに移植した後、2ヶ月、4ヶ月および6ヶ月経過後、移植部位の横断面(
図3A)および縦断面(
図3B)に対してそれぞれ撮影したマイクロCT撮影イメージ、移植された部位の組織を横に切片化した後、H&E染色およびマッソントリクローム染色を行った結果である。
【
図4】
図4は、本発明の生体適合性三次元支持体をブタモデルに移植した後、3ヶ月経過後、移植された部位の組織を切片化した後、H&E染色およびマッソントリクローム(masson’s trichome)染色を行った結果である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明しようとする。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨により本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されないことは当業界における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0040】
実施例
製造例1:生体適合性三次元構造体の製造
三次元高分子構造体を製造するために、3Dプリンタ(RAISE 3D、USA)を用いており、3Dプリンティング手法はノズルの直径、温度、吐出圧力、ノズルの移動速度などの条件によって三次元構造体のサイズを手軽に調節することができる。本発明者らは、組織内の消失した部分の容積を占めながらも高い機械的弾性を有するようにするために、直径が1mmのストランドが幾何学的に交差することで全体的に球形(sphere)を有する三次元構造体を作製した。原料高分子としてポリカプロラクトン(PCL、Polycaprolactone、Sigma-Aldrich、USA)を使用し、高分子メッシュの作製のために、ノズルの直径を0.4mm、ノズル温度を130℃、出力速度5mm/s、ノズルの移動速度を40mm/sにセットした。セットが完了した状態で、直径1cm、ストランドの厚さ1mmを有する切頂二十面体構造を有する三次元構造体を作製した。以後、実験に使用する前に、e-ビームで滅菌処理を行った。作製された三次元高分子構造体は、各ストランドが多様な形態で交差することで多様な形状のメッシュが表面に形成された、内部の空いている球形(sphere)の構造体を形成する(
図2)。
【0041】
製造例2:コラーゲンがコーティングされた生体適合性三次元構造体の製造
製造例1で製造した生体適合性三次元構造体に、コラーゲン溶液を用いたコラーゲンコーティングを追加的に進行させた。ブタ真皮から抽出したアテロコラーゲン(第1型、医
療機器等級、Dalim Tissen、韓国)を、0.5%濃度で0.5Mの酢酸に12時間4℃で溶かしてコラーゲン溶液を製造した。
【0042】
コラーゲンの均一なコーティングのために、疎水性の強いポリカプロラクトンに対してプラズマを用いた表面処理を行って親水性を付与した。ポリカプロラクトン三次元構造体をガラスペトリ皿に載せた後、1.0-0.1Torr中の真空条件下で60秒間プラズマ表面処理機(PDC-32G-2 Plasma、Harrick Plasma、USA)を用いて処理した。
【0043】
表面処理工程の後、一定の高さのプレートに位置させ、三次元構造体が十分に浸かるように、コラーゲン溶液を入れて30分間4℃でコーティング作業を進行させた。コーティング作業を終えたサンプルを3時間-50℃に冷却させた後、表面にコーティングしたコラーゲンの多孔性表面構造を作るために、14時間かけて凍結乾燥機(MG-VFD5、MG Indus.、韓国)を用いて乾燥させた。
【0044】
以後、凍結乾燥したコラーゲンの内部に塩の形態で存在する酢酸を除去するために、中和作業を実施した。このために、凍結乾燥を終えた試験片を無水アルコール(Ethanol absolute、Merck KGaA、ドイツ)を用いて15分間4回にわたって洗浄した後、70%エタノールに0.5MのNaOH(Duksan General Science、韓国)を溶かした後、15分間4回にわたって酢酸の中和作業を実施した。以後、試験片内に存在する残量のNaOHを除去するために、50%および30%エタノール、三次蒸留水を用いて、順次に15分間4回にわたって洗浄した。洗浄を終えたコラーゲン-コーティング三次元構造体を3時間-50℃に冷却させた後、先に言及したように、12時間かけて凍結乾燥機を用いて乾燥させた。この後、実験に使用する前に、e-ビームで滅菌処理を行った。
【0045】
作製された三次元高分子構造体は、各ストランドが多様な形態で交差することで多様な形状のメッシュが表面に形成された、内部の空いている球形(sphere)の構造体を形成する。
【0046】
実験例1:ラットモデル動物実験
本発明者らは、本発明の三次元高分子構造体の導入によって、組織再生、例えば、部分乳房再構築術に適用可能か否かを評価しようとした。SDラット(8週齢、雌)の乳腺部位の組織約50%を手術ハサミで切除した後に縫合したグループ、乳腺部位の組織約50%を手術ハサミで切除した後、切除した乳腺組織部位に製造例1の三次元構造体(PCLボール)を移植後に縫合したグループ、乳腺部位の組織約50%を手術ハサミで切除した後、製造例2の三次元構造体(PCL-colボール)を移植してコラーゲン製剤を三次元構造体内に注入した後に縫合したグループ、乳腺部位の組織約50%を手術ハサミで切除した後、製造例2の三次元構造体を移植し、マウス乳腺組織を三次元構造体内に挟み込んだ後に縫合したグループを含む計4つのグループに分けて、実験を進行させた。
【0047】
縫合後2ヶ月、4ヶ月および6ヶ月経過した時点で、マイクロCT(Quantum GX2 microCT Imaging System、PerkinElmer)を用いて移植部位を撮影し、各実験動物を犠牲にして三次元構造体が移植された部分の組織を抽出した後、垂直または水平方向に切片化した後、H&E(hematoxylin&eosin)染色およびマッソントリクローム染色を行った。その結果、
図3Aおよび
図3Bに示すように、乳腺組織約50%を切除後何ら処理しないマウスの2ヶ月、4ヶ月および6ヶ月目のマイクロCT撮影結果では、消失した組織が全く復旧されないのに対し、本発明の三次元構造体を移植したマウスの2ヶ月、4ヶ月および6ヶ月目のマイクロCT撮影結果、時間の経過とともに三次元構造体内で組織が著しく形成されることを確認する
ことができた。三次元構造体の移植後、コラーゲン製剤を三次元構造体内に注入したグループの場合、三次元構造体内にマイクロCT上に不透明に検出される組織が持続的に維持されていることを確認した。三次元構造体の移植後、マウス乳腺組織を構造体内に充填させて縫合したグループの場合、時間の経過とともに構造体内で組織が次第に育つことを確認することができた。H&E染色により三次元構造体のみ移植された場合、コラーゲン製剤を注入した三次元構造体を移植した場合、および乳腺組織を挿入した三次元構造体を移植した場合とも、内部空間(cavity)に組織が生成されたことを確認することができた。特に、三次元構造体を移植したグループでは、構造体の周辺から内部に脂肪組織が生成されて入ったことが観察され、コラーゲン製剤を注入した三次元構造体では、線維性組織として再生されていることを確認した。また、乳腺組織を挿入した三次元構造体では、構造体の内部で乳腺組織がよく維持され、乳腺組織の周辺を線維組織が取り囲む形態で再生されたことが観察された。
【0048】
また、マッソントリクローム染色により、三次元構造体に比べてコラーゲン製剤を注入した三次元構造体の内部でコラーゲンが多く生成されることを観察し、注入したコラーゲンが通常1-2ヶ月内に分解されることを勘案した時、注入したコラーゲンによって線維組織が形成され、6ヶ月目には当該線維組織から分泌したコラーゲンで組織が構成、修復されたことを確認した。さらに、乳腺組織を挿入した三次元構造体の内部で乳腺組織を除いた残りの組織がコラーゲンからなる線維組織であることが分かった。
【0049】
実験例2:ブタモデル動物実験
ミニピッグの部分乳房切除モデルを作製するために、12ヶ月齢の成体ミニピッグをSPF飼育施設で飼育した。1週間の順化期間を提供した後、1mg/kgアルファキサン(alfaxane)および2mg/kgキシラジン(xylazine)を筋肉注射して麻酔を誘導した後、手術中に2%イソフルラン(isoflurane)を呼吸麻酔して麻酔状態を維持した。ミニピッグの手術部位を70%エタノールおよびヨードなどで殺菌した後、乳腺組織15mlを部分切除して部分切除モデルを作製した。部分切除された手術部に、製造例1(PCLボール)および製造例2(PCL-colボール)の三次元構造体を移植した後、縫合した。以後、3日間20mg/kgセファゾリン(cefazolin)および0.4mg/kgメロキシカム(meloxicam)を筋肉注射した。手術3ヶ月後、ミニピッグを全身麻酔後、KCLを注入して犠牲にした後、移植したPCLボールおよびPCL-colボールを得た。以後、PBS(Phosphate-buffered saline)で3回洗浄した後、10%ホルマリン溶液で処理して細胞および組織を固定した。以後、固定された組織の特性を確認するために、H&E(Hematoxylin&Eosin)染色とマッソントリクローム(Masson’s trichrom)染色を進行させた。その結果、
図4に示すように、部分乳房切除モデルに移植して3ヶ月後、PCLボールおよびPCL-colボールの内部にミニピッグ個体の内部に由来する組織が流入、生成されたことを確認することができた。これとともに、PCLボールが移植されたグループでPCLボールの内部に少量の線維組織が生成され、外部から自己乳腺組織が流入したことを確認し、PCL-colを移植したグループでは、PCL-colボールの内部に多量の線維組織が生成されたことを確認することができ、外部から自己乳腺組織がほとんど流入しないことを確認することができた。
【0050】
以上、本発明の特定の部分を詳細に記述したが、当業界における通常の知識を有する者にとってこのような具体的な記述は単に好ましい実施形態に過ぎず、これによって本発明の範囲が制限されないことは明らかである。したがって、本発明の実質的な範囲は添付した請求項とその等価物によって定義される。
【国際調査報告】