(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-26
(54)【発明の名称】嚥下可能な電気化学センサ
(51)【国際特許分類】
A61B 5/07 20060101AFI20241219BHJP
G01N 27/404 20060101ALI20241219BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20241219BHJP
【FI】
A61B5/07
G01N27/404 341A
G01N27/416 300G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024540701
(86)(22)【出願日】2023-01-09
(85)【翻訳文提出日】2024-07-04
(86)【国際出願番号】 DE2023100008
(87)【国際公開番号】W WO2023134827
(87)【国際公開日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】102022100522.4
(32)【優先日】2022-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】308011030
【氏名又は名称】ドレーゲルヴェルク アクチェンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト アウフ アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Draegerwerk AG & Co.KGaA
【住所又は居所原語表記】Moislinger Allee 53-55,Luebeck,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ナウバー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ズィック
(72)【発明者】
【氏名】マリー-イザベル マッタン-フリューヴァルト
(72)【発明者】
【氏名】ズィルヤ デニーア
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038CC03
4C038CC06
4C038CC09
4C038CC10
(57)【要約】
本発明は、そのハウジングが電解質入口を有し、この電解質入口を通って水性電解質、例えば胃酸がセンサの周囲から内部に浸入可能であり、そこで電解質として用いられる点で優れている嚥下可能な電気化学センサに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(11)と、少なくとも1つの作業電極(14)と、対向電極(15)とを備えた、ヒトの腸管内のガスを検知するための嚥下可能な電気化学センサ(10)であって、
前記ハウジング(11)は、前記作業電極(14)および前記対向電極(15)が配置された内部空間(20)を有し、
前記ハウジング(11)は、少なくとも1つのガス入口(12)を有し、
前記各ガス入口(12)は、ガス透過性膜(13)によって遮蔽されている、電気化学センサにおいて、
前記ハウジング(13)が、少なくとも1つの電解質入口(17)を有し、前記各電解質入口(17)は、親水性シール材(18)で充填されていることを特徴とする、電気化学センサ。
【請求項2】
前記ハウジング(20)の前記内部空間(20)は、親水性充填材(19)で充填されている、請求項1記載の電気化学センサ。
【請求項3】
前記ハウジング(20)は、複数の電解質入口開口部(17)を有している、請求項1または2記載の電気化学センサ。
【請求項4】
前記センサ(10)は、カプセルである、請求項1から3までのいずれか1項記載の電気化学センサ。
【請求項5】
前記ハウジング(20)は、不活性プラスチックから成っている、請求項1から4までのいずれか1項記載の電気化学センサ。
【請求項6】
前記センサ(10)は、外殻(30)として軟質の不活性材料を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の電気化学センサ。
【請求項7】
前記ガス入口(12)は、前記作業電極(14)の直前に存在する、請求項1から6までのいずれか1項記載の電気化学センサ。
【請求項8】
前記作業電極(14)の前で前記ガス入口(12)の前に、疎水性膜(13)が配置されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の電気化学センサ。
【請求項9】
2つの作業電極(14,14’)が設けられている、請求項1から8までのいずれか1項記載の電気化学センサ。
【請求項10】
前記センサは、電解質で充填可能であり、前記電解質は、クエン酸、ギ酸、酢酸、塩酸、リン酸を含むグループから選択される、請求項1から9までのいずれか1項記載の電気化学センサ。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項に対応する嚥下可能な電気化学センサを提供するための方法において、
前記方法は、次のステップ:
a.充填されていない電気化学センサ(10)を提供するステップと、
b.電解質溶液を提供するステップと、
c.前記充填されていない電気化学センサ(10)を前記電解質溶液中に浸漬するステップと、
d.予め充填された電気化学センサ(10)を提供するステップと
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項12】
前記方法は、その他に、次のステップ:
e.前記予め充填されたセンサ(10)を、胃酸との接触の際に自己分解する層でコーティングするステップを含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記ステップbに対応して提供される電解質浴は、クエン酸、ギ酸、酢酸、塩酸、リン酸、好適にはクエン酸、ギ酸、塩酸もしくはリン酸、極めて好適にはクエン酸、塩酸もしくはリン酸を含むグループから選択された電解質を有する、請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
腸内ガスを検知するためのキットであって、前記キットは、請求項1から13までの少なくとも1項に対応する充填されていない電気化学センサ、ならびに電解質製剤を有する、キット。
【請求項15】
前記電解質製剤は、すぐに使用できる流体製剤、濃縮された流体製剤、または粉末として存在する、請求項14記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嚥下可能で、ヒトの腸管内のガスの検知のために使用可能である点で優れている電気化学センサに関する。
【0002】
電気化学センサは、基本的に公知である。それらは、少なくとも1つの作業電極と対向電極とを有する電気化学セルであり、この場合、電極間では、ある程度の分析物が電極の領域に到達しているかぎり、導電性流体、いわゆる電解質を用いて、電極間で電流通流を行うことができる電気化学セルである。分析物は通常はガスである。
【0003】
しかしながら、通常の電気化学センサの欠点は、通常は電気化学反応に必要とされる材料が、つまり電解質のみならず電極も多くの場合生物にとって有毒か、または少なくとも有害なことである。
【0004】
そのかぎりでは、従来の電気化学センサの使用領域は制限される。
【0005】
それにもかかわらず、医学的な観点からは、生物体内で特定のガスを検知できることは有意である。そのため、例えば、炎症性腸疾患との関連において、H2SガスまたはNOガスの発生を監視することは有意となり得る。例えば、これらのガスの発生に基づけば、多くの場合波状的に経過する対応する疾患の重度を予測することができよう。
【0006】
嚥下可能なセンサは、例えば米国特許第10,326,139号明細書から公知である。しかしながら、それらは多くの場合、光学センサか、またはpHセンサである。これらは、ガスの検知に限定的にしか適していない。光学センサは、高い濃度のメタンを検知するために使用することができるが、胃腸管の撮像のためにそれを使用することは比較的頻繁にある。それに対してpHセンサは、多くの場合、胃のpH値の検査に使用される。
【0007】
その他に、Yoshida,S.,Miyaguchi,H.&Nakamura,T.(2018)による、Proof of Concept for Tablet-Shaped Ingestible Core-Body Thermometer with Gastric Acid Battery. IEEE Sensors Journal; 18(23), 9755-9762; doi: 10.1109/JSEN.2018.2871064からは、例えば、嚥下可能な電子機器の動作に使用可能なバッテリが公知である。このバッテリも電気化学セルである。ただし、このケースでは、金属プレートの形態の電極の表面が露出している。この表面が露出して存在する電極が周囲からの胃液と接触すると直ちにバッテリとしての作用が生じる。ここでは、電解質として胃液を伴う電気化学セルではあるが、一般的な機能方式では、バッテリと電気化学ガスセンサとの間では根本的な違いがある点に留意されたい。そのかぎりでは、Yoshida,S.,Miyaguchi,H.&Nakamura,T.(2018)によって提案されたバッテリは、到底ガスの検知には適していない。
【0008】
それゆえ、本発明の課題は、個人の消化管内のガスを検知するために使用可能な電気化学ガスセンサを提供することである。
【0009】
本発明の主要な特徴は、請求項1の特徴部分に記載されている。実施形態は、請求項2から14の対象である。
【0010】
ハウジングと、少なくとも1つの作業電極と、対向電極とを備えた電気化学ガスセンサが提案され、この場合、ハウジングは、ガス入口を有し、該ガス入口は、ガス透過性膜によって遮蔽されている。本電気化学ガスセンサは、ハウジングが、少なくとも1つの電解質入口を有し、該電解質入口は、親水性シール材で充填されていることを特徴とする。本電気化学ガスセンサは、好適には、ヒトの腸管内のガスを検知するための嚥下可能なガスセンサである。
【0011】
そのようなガスセンサは、検査すべき個人によって嚥下することができるため、このガスセンサは消化管に達する。換言すれば、これは嚥下可能なセンサ装置である。次いで、消化管、好適には胃において、親水性シール材は、胃液が、電解質入口を通ってハウジングの内部に、好適には以下に記載する内部空間に達するようにすることができる。この目的のために、親水性シール材は、例えば胃液のような水性流体に対しては透過性であるが、粒子、例えば食物粒子に対しては漏れがない場合は有利である。胃液は、このようにして、電極、特に作業電極および対向電極と接触し、その結果、ガスセンサの内部で電解質として用いることができる。したがって、胃液が電解質入口を通って流入することにより、本発明による装置を嚥下した後は個人の身体内部で完全に機能し得る電気化学ガスセンサが生じる。換言すると、本発明による装置は、嚥下可能な電気化学インスタントガスセンサと称することも可能である。このことは、本発明による装置を用いることにより、検査すべき個人の身体内部で電気化学ガスセンサを動作させる際に、従来の電解質、特に有毒でかつ/または有害な電解質の使用を省くことができるという大きな利点を提供する。このことは、本発明の大きな利点である。
【0012】
いずれにせよ、ハウジングは、外面と内部空間とを有する中空体である。内部空間には、電気化学セルのコンポーネントが配置されている。その他に、スタンバイ状態においては、電解質として用いられる胃液が内部空間内に配置される。
【0013】
ここでは、ハウジングが、電解質入口とは異なるガス入口も有する場合に有利である。次いで、このガス入口を通って、検知すべきガスが電気化学セル内に達し、それに続いて作業電極において置換することができる。
【0014】
ハウジングが複数の開口部、すなわち少なくとも1つのガス入口と少なくとも1つの電解質入口とを有しているかぎりは有利であることがわかる。ガス入口は、ハウジングの壁部内の孔部であり、それを通ってガスはハウジングの内部空間に浸入することができる。流体がガス入口を通って浸入することを阻止するために、ガス入口は、ガス透過性であるが、流体および粒子に対してはバリアを形成する膜によって遮蔽されている場合は有意となる。電解質入口も、ハウジングの壁部内の孔部である。
【0015】
次いで、内部空間では、ガスが、作業電極と、電解質入口を通って流入する電解質とに接触可能であり、これにより、結果として電気化学反応が起こる。この電気化学反応により、作業電極と対向電極との間で電流通流が起こる。次いで、この電流通流は、検出可能になる。
【0016】
電気化学反応を検出するために、同様にハウジング内に、好適には内部空間とは別個の電子機器空間内に測定電子機器が配置されている。この測定電子機器は、貴金属ワイヤを介して、電気化学セルの内部空間内に配置された電極に接続されている。これは、測定信号を無線で、例えばBluetooth(登録商標)または同等の無線信号伝送を介して、センサを嚥下した個人の身体外に配置された受信機に送信するように構成されてよい。
【0017】
電解質入口は、電気化学センサのハウジングにおける開口部である。この開口部は、ハウジングの内部を電気化学センサ外部の周囲に接続する。開口部を通って、流体、好適には胃液がハウジングの内部へ流入することができる。
【0018】
親水性シール材は、例えばガラス不織布、親水性PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)官能化PO(ポリオレフィン)などである。親水性シール材は、その親水特性により、センサの周囲から胃液を吸収する。しかしながら同時に、比較的大きな粒子がハウジングの内部に到達することは阻止している。そのかぎりでは、このシール材は、胃液が電解質入口を通過してハウジングの内部へ搬送されるようにしている。
【0019】
換言すれば、本発明は、そのハウジングが、電解質入口を有し、該電解質入口を通って水性の電解質、例えば胃酸が、センサの周囲から内部へ浸入可能であり、そこでは電解質として用いられる点で優れている、嚥下可能な電気化学センサに関する。そのかぎりでは、この電気化学センサは、嚥下と胃酸の浸入とによってスタンバイ状態に移行する。
【0020】
第1の変形実施形態では、ハウジングの内部空間は、親水性充填材で充填されていることが想定される。次いで、この親水性充填材は、嚥下したセンサの外部環境から胃液を所期のように電極に移送する芯として作用することができる。親水性充填材は、親水性シール材と同じ材料から成ることも可能である。このようにして、電解質として機能する胃液が電解質入口に吸い込まれるだけでなく、実際にハウジングの内部にも充填されることを保証することができる。その他に、そのような親水性充填材からなる芯を用いることにより、ガス検知のための電気化学反応に必要な三相境界が適正に形成されることを保証することができる。したがって、親水性充填材から形成され、ハウジングの内部を充填する芯は、一方では十分にただし過度に多すぎることなく電解質が外部から電解質入口を通って電極まで搬送されることを保証する。ここでは、親水性充填材は、好適には、電解質の搬送が、材料の親水性によってのみならず、毛管力によっても影響を受けるように設計されている。作用する毛管力の強さは、例えば充填材の孔径の選択によって影響を与えることができる。ガラス繊維系、例えばガラス繊維不織布がここでも特に適していることがわかっている。
【0021】
その他に、ハウジングは、複数の電解質入口開口部を有することが想定可能である。これは、胃液がハウジングの内部空間に流入するための複数の可能性を有しているという利点を提供する。このようにして、入口開口部のうちの1つが食物粒子などによって塞がれた場合でも、十分な胃液がハウジングの内部空間に達し得ることが保証される。ここでは、全ての開口部およびカプセル全体を親水性繊維で充填することも想定可能である。
【0022】
センサがカプセルである場合は有利であることがわかる。カプセルとは、ここでは、一般に、保護すべき対象物を搬送するために使用可能である大抵は小さな円形の容器を意味するものと理解される。そのような容器は、通常、ハウジングを有し、その内部に搬送すべき対象物が配置されている。ここでは、カプセルのハウジングは、電気化学センサのハウジングを形成することができ、センサの残りの構造部は、上記で既に説明した以下に続く実施形態に対応する。代替的に、センサがタブレット型であることも考えられる。いずれにせよ、センサは、カプセル型センサと称することができる。
【0023】
ハウジングは、不活性プラスチックから成ることが考えられる。例えば、ハウジングは、医療的に使用可能なポリプロピレンまたはポリエチレンから製造されていてよい。不活性材料は、周囲の試薬および物質と、反応するとしてもごく僅かな程度、好適には全く反応しない。不活性プラスチックが胃液に対して不活性なプラスチックであれば、この点において特に有利であることがわかる。胃液に対して不活性プラスチックは、特に塩酸および消化酵素に対して不活性である。
【0024】
その他に、センサは、外殻として軟質の不活性材料を有していてもよい。そのような外殻は、例えば被覆としてハウジングの外面に被着されていてよい。この外殻は、センサの嚥下性を向上させるために用いることができる。例えば、外殻がシリコーンまたは他の医療的不活性材料からなることが考えられる。医療的不活性材料とは、ここでは、例えば胃液または他の消化液などの体液と反応せず、そのかぎりでは身体にも吸収されずにそのまま再び排泄される材料である。外殻が、相応に耐性のある不活性材料から形成されているかぎり、それはもちろん、ハウジングの入口開口部、すなわちガス入口と電解質入口とが遮蔽されないように形成されている。
【0025】
代替的に、センサは、軟質で吸収可能な材料から成る外殻を有していてもよい。そのような軟質で吸収可能な材料は、例えばゼラチンであってよい。そのような外殻によっても、センサの嚥下性をさらに向上させることができる。吸収可能な材料は、例えば胃液によって溶解することができる。このケースでは、外殻がハウジングの入口開口部を最初に覆うことも可能である。このことは、例えば製造プロセスにとって有利な場合がある。次いで、センサは、単にゼラチンに完全に浸すだけでよい。
【0026】
いずれにせよ、ガス入口が作業電極の直前に存在する場合が有意である。このようにして、作業電極においてそれが置換されるまでガスがセンサの内部を進まなければならない区間を僅かに留めることができる。作用電極の前でガス入口の前に疎水性膜が配置されている場合は有利である。そのような膜は、一方では、物理的バリアとして用いられ、食物粒子の浸入を阻止することができる。他方では、疎水性膜は、ガス入口を通る胃液の侵入を阻止することができる。疎水性膜は、ガス以外の他の物質の浸入を付加的に困難にするために、孔部を狭く形成してよい。孔部の狭い膜とは、ここでは、孔径が最大で5μmの膜を意味するものと理解される。孔径が5μm未満、好適には4μm未満、特に好適には3μm未満、最も好適には2μmm未満である場合が有利である。
【0027】
作業電極および対向電極に対して付加的に、センサは、さらに参照電極を有することができる。この参照電極も同様に、ハウジングの内部空間内に配置され、このようにして同様に電解質と導電的に接触する。この電極は、本発明によるセンサの機能性を較正および検査するために使用することができる。それゆえ、このことは特に、嚥下されたセンサが自身の較正または保守のために外部から容易にアクセスすることができないので利点となる。
【0028】
いずれにせよ、電極材料は、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、炭素、および/または金から選択されていてよい。前述した材料からの混合物も考えられる。特に炭素および金は、ここでは、不活性材料であるという付加的な利点を提供する。また残りの電極材料も、本発明によるセンサの構造形式に基づいて問題なく使用することができる。なぜなら、残りの電極材料は、専らセンサの内部に存在しており、したがって身体組織と接触することができないからである。カプセル化されたセンサとしてのセンサの構造形式は、これに関してさらなる利点を提供することがわかる。
【0029】
ここでは、2つの作業電極が存在していることも考えられる。このことは、例えば、複数の異なるガスを検知すべきである場合に利点となる。そのため、例えば第1の作業電極はイリジウムから成っていてよい。そのようなイリジウム電極は、H2Sの検知のために選択的に使用することができる。第2の作業電極は、炭素から成っていてよい。次いで、炭素電極は、NOの検知のために選択的な使用することができる。したがって、イリジウムから成る第1の作業電極と、炭素から成る第2の作業電極とを有するセンサが含まれているならば、H2SおよびNOの選択的な検知のために使用することができる。このことは、例えば、慢性大腸炎の経過中に始まりかけている炎症波形を検知すべき場合に役立つ。
【0030】
一変形実施形態では、センサは、電解質で充填可能であることが想定可能であり、ここで、電解質は、クエン酸、ギ酸、酢酸、塩酸、またはリン酸を含むグループから選択される。ここでは、このセンサは、特に嚥下前に電解質で充填可能であってよい。この目的のために提供された無電解質センサは電解質浴に置かれる。この電解質浴は、例えばクエン酸、ギ酸、酢酸などの溶液からなる。電解質浴がクエン酸溶液からなる場合は特に有利である。クエン酸は、好適には水溶液であり、この場合、クエン酸は、0.1モル~2モル、好適には0.5モル~1モル、特に好適には0.75モルの濃度範囲で存在する。さらなる変形実施形態において、電解質浴が塩酸溶液からなる場合は特に有利である。塩酸溶液は水溶液であり、この場合、塩酸は、0.1モル~2モル、好適には0.5モル~1モル、極めて好適には1モルの濃度範囲で存在する。もちろん、濃度範囲の僅かな許容誤差も同様に対応する実施例に属することが理解される。別のさらなる変形実施形態では、電解質浴がリン酸溶液からなる場合は特に有利である。リン酸溶液は水溶液であり、この場合、リン酸は、0.1モル~2モル、好適には0.5モル~1モル、極めて好適には1モルの濃度範囲で存在する。もちろん、ここでも、濃度範囲の僅かな許容誤差が同様に対応する実施例に属することが理解される。
【0031】
本発明の解決手段の趣旨では、嚥下可能な電気化学センサを提供するための方法も利点があることがわかり、この場合、本方法は、次のステップ:
a.充填されていない電気化学センサを提供するステップと、
b.電解質溶液を提供するステップと、
c.電解質溶液中に充填されていない電気化学センサを浸漬するステップと、
d.予め充填された電気化学センサを提供するステップと
を含む。
【0032】
任意選択的に、センサは、ステップcとdとの間、すなわち電解質溶液に浸すことによって予め充填された後で、嚥下のために提供される前にコーティングを施すこともできる。例えば、ここでは、上記で既に説明したゼラチンによるコーティングが被着可能である。他のコーティング最良ももちろん考えられる。そのかぎりでは、本方法は、次のステップe:
e.予め充填されたセンサ(10)を、胃酸との接触の際に自己分解する層でコーティングするステップも含むことができる。
【0033】
ステップeは、好適にはステップcの後に実行されるが、ステップdの前に実行される。
【0034】
いずれにせよ、ステップcに応じて電気化学センサを予め充填することは、充填されていない電気化学センサの浸漬の後のセンサの短いフラッシングも含んでいる場合は有利である。このフラッシングは、例えば、嚥下する直前の流動水のもとでの短いフラッシングによって行うことができる。しかしながら、電解質溶液に浸漬されたセンサをフラッシング浴に短く浸すことは好適である。このフラッシング浴は、例えば、蒸留水または生理食塩水を含むことができる。
【0035】
特に有利には、ステップbに対応して提供される電解質浴は、クエン酸、ギ酸、酢酸、塩酸、リン酸、好適にはクエン酸、ギ酸、塩酸もしくはリン酸、極めて好適にはクエン酸、塩酸もしくはリン酸を含むグループから選択された電解質を有する。
【0036】
ここでは、例えば、最初に、充填されていないセンサを医療従事者または製薬従事者に提供可能にすることが考えられる。次いで、これによって予め充填するのに必要なステップと、センサのコーティングとが実行される。ここでは、コーティングは、例えば予め充填されたゼラチン溶液などにセンサを浸漬させることにより行うことができる。次いで、それに続いて、従事者は、そのように準備されたセンサを患者に渡すことができ、次いで患者はこれを嚥下する。
【0037】
次いで、嚥下した後、既にセンサ内に存在する電解質に対して付加的に、既に上述したような胃酸が、1つまたは複数の電解質入口を通ってセンサ内へ流入し得る。
【0038】
したがって、さらなる有利な一変形実施形態では、課題の解決手段は、腸内ガスを検知するためのキットも含み、この場合、このキットは、上述した内容に対応する充填されていない電気化学センサ、ならびに電解質製剤を有する。
【0039】
ここでは、電解質製剤は、すぐに使用できる流体製剤、濃縮された流体製剤、または粉末として存在することが想定可能である。このキットを用いることにより、医療従事者または製薬従事者、あるいは患者自身も、嚥下可能な電気化学センサを使用直前に相応に予め充填することができる。電解質製剤が粉末として存在するならば、この電解質製剤は、例えば相応に予め設定された量の流体で溶解することができる。例えば、使用説明書において予め設定された量の水道水または蒸留水で溶解することができる。電解質製剤が濃縮された流体製剤として存在するならば、この電解質製剤は、充填されていないセンサを電解質製剤に浸漬する前に、使用説明書の指示に応じて所望の使用濃度が達成されるまで希釈することができる。
【0040】
その上さらに、そのようなキットは、対応するフラッシング溶液を提供することもできる。キットが、対応する容器を含み、その容器内で電解質製剤およびセンサを浸すためのフラッシング溶液を提供できることも考えられる。
【0041】
本発明のさらなる特徴、詳細、および利点は、特許請求の範囲の文言ならびに以下の図面に基づく実施例の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本発明によるセンサの概略的な横断面図である。
【
図2】本発明によるセンサのさらなる概略的な横断面図である。
【
図3】嚥下可能な電気化学センサを提供するための方法に関する概要図である。
【0043】
図1のみならず、
図2においても、ガスセンサ10の横断面図がわかる。このガスセンサ10は、ハウジング11を有している。ハウジング11は、内部空間20を有している。内部空間20内には、第1の作業電極14および第2の作業電極14’が配置されている。1つの作業電極14しか有しない実施形態も想定可能である。さらに内部空間20内には、対向電極15、ならびに参照電極16が配置されている。
【0044】
ハウジング11の外面には、電子ユニット21が配置されている。この電子ユニット21は、漏れがないカプセルで塞がれている。電極14,14’,15,16は、特に
図2においてわかるように、電子ユニット21から引き出されかつハウジング11を貫通して案内されているワイヤ接続部22を介して電子ユニット21と接続している。このワイヤ接続部は、
図1および
図2の全ての電極について視認できるわけではない。なぜならば、このワイヤ接続部は、部分的には図の横断面外側に存在しているからである。しかしながらもちろん、これらの電極の各々については対応するワイヤ接続部22が存在している。
【0045】
ハウジング11は、複数の開口部、すなわちガス入口12として用いられる開口部と、電解質入口17として用いられる開口部とを有していることがわかる。
【0046】
ガス入口12はそれぞれ、ハウジング11の内側でガス入口12の直後に作業電極14,14’が存在するように配置されている。その他に、各ガス入口12は、疎水性膜13によって遮蔽される。このようにして、ガス入口12を通って専らガスがセンサ内に浸入し、作業電極14,14’まで達することができる。水性流体は、膜の疎水特性に基づいて排される。固体の粒子、例えば食物粒子は、膜の物理的なバリア作用によって浸入が阻止される。
図1および
図2に示された例では、疎水性膜13は、ハウジング11の外面に存在する。疎水性膜13がハウジング11の内側に配置されていることも考えられるが、その場合は、図面に示された実施形態が好適である。さらに、
図1および
図2において、疎水性膜13が全てのガス入口12を覆っていることがわかる。もちろん、ここでは、各ガス入口12が唯一の疎水性膜13によって遮蔽されていることも考えられ、この場合もここでは、図に示されている変形実施形態が好適である。
【0047】
電解質入口17として用いられる開口部には、それぞれ親水性シール材18が配置されている。これらの親水性シール材18は、その親水特性に基づき、水性流体をハウジング11の内部空間20内に案内する。しかしながら、これらの親水性シール材18も疎水性膜13と同様に、固体の粒子が内部空間20内に達してしまう可能性を阻止している。
【0048】
ハウジング11の内部空間20は、さらに、親水性充填材19で充填されている。これは、スポンジまたは芯のように作用し、例えば電解質として用いられる胃酸の浸入をこのようにして支援することができる。さらに、親水性充填材19は、ハウジング11の内部空間20内にうまく浸入した電解質を保持することができる。
【0049】
さらに
図1および
図2では、装置10全体が外殻30によって取り囲まれていることがわかる。外殻30は、センサ10の周りでカプセルを形成している。この外殻30は、上述したように、例えば軟質の不活性材料から成る。外殻30は、疎水性膜も取り囲んでいることがわかる。ガス入口12および電解質入口17が形成されている箇所においてだけは、外殻30も同様に貫通開口部を有している。
【0050】
図3では、第1のステップaにおいて充填されていないセンサ10が提供される相応に嚥下可能な電気化学センサが提供され得ることがわかる。この充填されていないセンサ10は、上記で説明し、
図1および
図2に示された上述したセンサ10に対応する。そのかぎりでは、繰り返しを避けるために、提供される充填されていないセンサ10の全ての特徴について、上記で説明したことが参照される。さらなるステップbでは、電解質溶液が提供される。この電解質溶液は、例えば、クエン酸、ギ酸、または酢酸を電解質として有することができる。次いで、本方法のステップcに応じて提供された充填されていないセンサ10を、提供された電解質溶液中に浸漬される。ここでは、センサが相応の電解質で予め充填される。いずれにせよステップdに応じてさらなる使用のために提供される前に、ステップeに応じて、そのように予め充填されたセンサ10には、必要に応じて任意選択的にコーティングを施すことができる。
【0051】
好適な実施例では、ステップbに応じて提供される電解質溶液は、0.75モルのクエン酸の水溶液である。
【0052】
さらなる実施例では、ステップbに応じて提供される電解質溶液は、1モルの塩酸の水溶液である。
【0053】
別のさらなる実施例では、ステップbに応じて提供される電解質溶液は、1モルのリン酸の水溶液である。
【0054】
本発明は、前述した実施形態のうちの1つに限定されるものではなく、多種多様に変更可能である。
【0055】
特許請求の範囲、明細書、および図面から得られる全ての特徴および利点は、構造的な詳細、空間的配置、および方法ステップを含めてそれ自体のみならず、様々な組み合わせにおいても本発明に必須のものであってよい。
【0056】
いずれにせよ、ハウジング11と、少なくとも1つの作業電極14と、対向電極15とを備え、ここで、ハウジング11は、作業電極14および対向電極15が配置された内部空間20を有し、ここで、ハウジング11は、少なくとも1つのガス入口12を有し、ここで、各ガス入口12は、ガス透過性膜13によって遮蔽されている、電気化学センサ10の場合、ハウジング11が、少なくとも1つの電解質入口17を有し、ここで、各電解質入口17は、親水性シール材18で充填されていることが想定される。ここでは、ハウジング11の内部空間20が親水性充填材19で充填されている場合、および/またはハウジング11が複数の電解質入口開口部17を有している場合に有利となる。また、センサ10がカプセルである場合、ハウジング11が不活性プラスチックから成っている場合、および/またはセンサ10が外殻30として軟質の不活性材料を有する場合も有利である。ここでは、合目的的には、ガス入口12は、作業電極14の直前に存在し、ここで、ガス入口12の前に疎水性膜13が配置されている。
【0057】
さらに、センサ10が参照電極16を有している場合は有利である。ここでは、この電極材料は、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、炭素、および/または金から選択されていてよい。好適には、2つの作業電極14,14’が存在する。ここでは、第1の作業電極14はイリジウムから成っていてよい。第2の作業電極14’は、炭素から成っていてよい。
【符号の説明】
【0058】
10 ガスセンサ
11 ハウジング
12 ガス入口
13 疎水性膜
14 作業電極
14’ 作業電極
15 対向電極
16 参照電極
17 電解質入口
18 親水性シール材
19 親水性充填材
20 内部空間
21 電子ユニット
22 ワイヤ接続部
30 外殻
【手続補正書】
【提出日】2024-07-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(11)と、少なくとも1つの作業電極(14)と、対向電極(15)とを備えた、ヒトの腸管内のガスを検知するための嚥下可能な電気化学センサ(10)であって、
前記ハウジング(11)は、前記作業電極(14)および前記対向電極(15)が配置された内部空間(20)を有し、
前記ハウジング(11)は、少なくとも1つのガス入口(12)を有し、
前記各ガス入口(12)は、ガス透過性膜(13)によって遮蔽されている、電気化学センサにおいて、
前記ハウジング(
11)が、少なくとも1つの電解質入口(17)を有し、前記各電解質入口(17)は、親水性シール材(18)で充填されていることを特徴とする、電気化学センサ。
【請求項2】
前記ハウジング(
11)の前記内部空間(20)は、親水性充填材(19)で充填されている、請求項1記載の電気化学センサ。
【請求項3】
前記ハウジング(
11)は、複数の電解質入口開口部(17)を有している、請求項
1記載の電気化学センサ。
【請求項4】
前記センサ(10)は、カプセルである、請求項
1記載の電気化学センサ。
【請求項5】
前記ハウジング(
11)は、不活性プラスチックから成っている、請求項
1記載の電気化学センサ。
【請求項6】
前記センサ(10)は、外殻(30)として軟質の不活性材料を有する、請求項
1記載の電気化学センサ。
【請求項7】
前記ガス入口(12)は、前記作業電極(14)の直前に存在する、請求項
1記載の電気化学センサ。
【請求項8】
前記作業電極(14)の前で前記ガス入口(12)の前に、疎水性膜(13)が配置されている、請求項
1記載の電気化学センサ。
【請求項9】
2つの作業電極(14,14’)が設けられている、請求項
1記載の電気化学センサ。
【請求項10】
前記センサは、電解質で充填可能であり、前記電解質は、クエン酸、ギ酸、酢酸、塩酸、リン酸を含むグループから選択される、請求項
1記載の電気化学センサ。
【請求項11】
前記ハウジング(11)の前記内部空間(20)は、親水性充填材(19)で充填されており、前記ハウジング(11)は、複数の電解質入口開口部(17)を有している、請求項1記載の電気化学センサ。
【請求項12】
前記ガス入口(12)は、前記作業電極(14)の直前に存在し、前記作業電極(14)の前で前記ガス入口(12)の前に、疎水性膜(13)が配置されている、請求項1記載の電気化学センサ。
【請求項13】
請求項1から
12までのいずれか1項に対応する嚥下可能な電気化学センサを提供するための方法において、
前記方法は、次のステップ:
a.充填されていない電気化学センサ(10)を提供するステップと、
b.電解質溶液を提供するステップと、
c.前記充填されていない電気化学センサ(10)を前記電解質溶液中に浸漬するステップと、
d.予め充填された電気化学センサ(10)を提供するステップと
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項14】
前記方法は、その他に、次のステップ:
e.前記予め充填されたセンサ(10)を、胃酸との接触の際に自己分解する層でコーティングするステップを含む、請求項
13記載の方法。
【請求項15】
前記ステップbに対応して提供される電解質浴は、クエン酸、ギ酸、酢酸、塩酸、リン酸、好適にはクエン酸、ギ酸、塩酸もしくはリン酸、極めて好適にはクエン酸、塩酸もしくはリン酸を含むグループから選択された電解質を有する、請求項
13記載の方法。
【請求項16】
腸内ガスを検知するためのキットであって、前記キットは、請求項1から
12までの少なくとも1項に対応する充填されていない電気化学センサ、ならびに電解質製剤を有する、キット。
【請求項17】
前記電解質製剤は、すぐに使用できる流体製剤、濃縮された流体製剤、または粉末として存在する、請求項
16記載のキット。
【国際調査報告】