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特表2024-547235耐オゾン腐食性高強度管およびその製造方法
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  • 特表-耐オゾン腐食性高強度管およびその製造方法 図1
  • 特表-耐オゾン腐食性高強度管およびその製造方法 図2
  • 特表-耐オゾン腐食性高強度管およびその製造方法 図3
  • 特表-耐オゾン腐食性高強度管およびその製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-12-27
(54)【発明の名称】耐オゾン腐食性高強度管およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20241220BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20241220BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20241220BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20241220BHJP
   C21D 8/00 20060101ALI20241220BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/00 301Z
C22C38/58
C22C38/14
C21D9/46 Z
C21D8/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539459
(86)(22)【出願日】2023-01-09
(85)【翻訳文提出日】2024-06-28
(86)【国際出願番号】 CN2023071256
(87)【国際公開番号】W WO2023134616
(87)【国際公開日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】202210038703.8
(32)【優先日】2022-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ボ
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ、スーハイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ジユ
(72)【発明者】
【氏名】リ、ザンヂエ
【テーマコード(参考)】
4K032
4K037
【Fターム(参考)】
4K032AA04
4K032AA13
4K032AA16
4K032AA20
4K032AA21
4K032AA25
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032BA01
4K032BA03
4K032CA02
4K032CA03
4K032CB02
4K032CC04
4K032CD06
4K032CE01
4K032CE02
4K032CG02
4K032CH05
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA12
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA21
4K037EA27
4K037EA31
4K037EB02
4K037EB06
4K037EB08
4K037EB09
4K037EB15
4K037FA02
4K037FB00
4K037FC04
4K037FC05
4K037FE01
4K037FE02
4K037FF05
4K037FG00
(57)【要約】
耐腐食性層および基層を厚さ方向に有する管が開示される。耐腐食性層は当該管の内壁上に少なくとも位置する。耐腐食性層は、Feおよび不可避的不純物に加えて、以下の化学元素をwt%でさらに含む:0<C≦0.08%; 0<Si≦0.75%; 0<Mn≦2.0%; Ni: 10.00-14.00%; Cr: 16.00-18.00%; Mo: 2.00-3.00%;およびN: 0.02-0.20%、Cr、MoおよびNは不等式:Cr+3.3×Mo+16×N≧25%を満足する。それに応じて、当該管を製造するための方法がさらに開示され:(1)耐腐食性層スラブおよび基層スラブを調製する工程;(2)耐腐食性層スラブおよび基層スラブを組み立て、クラッドスラブを得る工程;(3)加熱および圧延する工程:1100~1200℃の温度でクラッドスラブを加熱し、次いで多パス圧延を行い、ここで全圧下率は90%以上であり、そして最終圧延を900℃以上の温度で行い;(4)コイル巻きする工程:水冷後、コイル巻きを500~650℃の温度で行うよう制御し、熱間圧延コイルを得;(5)熱間圧延コイルに表面処理を行う工程;および(6)管を製造する工程を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐腐食性層および基層を厚さ方向に有する管であって、該耐腐食性層が当該管の内壁上に少なくとも位置し、かつ該耐腐食性層が、Feおよび不可避的不純物に加えて、以下の化学元素:
0<C≦0.08%;
0<Si≦0.75%;
0<Mn≦2.0%;
Ni: 10.00-14.00%;
Cr: 16.00-18.00%;
Mo: 2.00-3.00%;および
N: 0.02-0.20%;
を質量パーセントでさらに含み、
ここでCr、MoおよびNが以下の不等式:Cr+3.3×Mo+16×N≧25%
を満足する、管。
【請求項2】
耐腐食性層の化学元素が、質量パーセントで:
0<C≦0.08%;
0<Si≦0.75%;
0<Mn≦2.0%;
Ni: 10.00-14.00%;
Cr: 16.00-18.00%;
Mo: 2.00-3.00%;および
N: 0.02-0.20%;
残部がFeおよび不可避的不純物である;
であり、ここでCr、MoおよびNが以下の不等式:Cr+3.3×Mo+16×N≧25%
を満足する、請求項1に記載の管。
【請求項3】
耐腐食性層の化学元素が、質量パーセントで:
C: 0.005-0.03%;
Si: 0.3-0.6%;
Mn: 0.5-1.5%;
Ni: 12.00-14.00%;
Cr: 16.50-17.50%;
Mo: 2.50-3.00%;
N: 0.05-0.15%;および
Cr+3.3×Mo+16×N≧26%
の少なくとも1つを満足する、請求項2に記載の管。
【請求項4】
耐腐食性層において、不可避的不純物が:S≦0.030%;およびP≦0.045%を含む、請求項1または2に記載の管。
【請求項5】
単層耐腐食性層が管の全厚さの0.5%~20%を占める厚さを有し、かつ基層の化学元素が、質量パーセントで:
C: 0.01-0.20%;
Si: 0.10-0.50%;
Mn: 0.50-2.00%;
Al: 0.02-0.04%;
Ti: 0.005-0.018%;
Nb: 0.005-0.020%;および
N≦0.006%;
残部がFeおよび不可避的不純物である
である、請求項1または2に記載の管。
【請求項6】
基層が:
0<B≦0.0003%;
0<Ni≦0.20%;
0<Cr≦0.20%;および
0<Mo≦0.10%
の少なくとも1つをさらに含む、請求項5に記載の管。
【請求項7】
基層の化学元素が、質量パーセントで:
C: 0.01-0.18%;
Si: 0.10-0.30%;
Mn: 0.50-1.50%;
Al: 0.02-0.03%;
Ti: 0.005-0.015%;および
Nb: 0.005-0.015%
の少なくとも1つを満足する、請求項5に記載の管。
【請求項8】
基層において、不可避的不純物が:S≦0.010%;およびP≦0.015%を含む、請求項5に記載の管。
【請求項9】
単層耐腐食性層が管の全厚さの0.5%~20%を占める厚さを有する、請求項1または2に記載の管。
【請求項10】
基層がフェライト+パーライトまたはフェライト+パーライト+ベイナイトの微細構造を有し;かつ耐腐食性層がオーステナイトの微細構造を有する、請求項1または2に記載の管。
【請求項11】
≧435 MPaの降伏強度、≧590 MPaの引張強度、≧30%の伸び、およびオゾン環境における耐腐食性層の≦0.05 mm/年の均一腐食速度を有する、請求項1または2に記載の管。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の管を製造するための方法であって:
(1)耐腐食性層スラブおよび基層スラブを調製する工程;
(2)耐腐食性層スラブおよび基層スラブを組み立て、クラッドスラブを得る工程、ここで単層耐腐食性層は、好ましくはクラッドスラブの全厚さの0.5%~20%、より好ましくはクラッドスラブの全厚さの2.5%~10%を占める厚さを有し;
(3)加熱および圧延する工程:1100~1200℃の温度でクラッドスラブを加熱し、次いで多パス圧延を行い、ここで全圧下率は90%以上であり、そして最終圧延を900℃以上の温度で行い;
(4)コイル巻きする工程:水冷後、コイル巻きを500~650℃の温度で行うよう制御し、熱間圧延コイルを得;
(5)熱間圧延コイルに表面処理を行う工程;および
(6)管を製造する工程
を含む、方法。
【請求項13】
工程(3)において、最終圧延を920~1000℃の温度で行う、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程(2)と工程(3)との間に予備加熱する工程をさらに含み、ここで予備加熱を1150~1250℃の温度で行う、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
工程(5)と工程(6)との間に冷間圧延および焼き鈍しをさらに含み、ここで焼き鈍しを好ましくは900~1000℃の温度で行う、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本開示は、管およびその製造方法、特に耐オゾン腐食性高強度管およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
よく知られているように、現在の給水施設において、水源を消毒および滅菌して水質を確保するためにオゾンが典型的に使用されている。実際の適用において、給水施設におけるオゾン発生器とオゾン注入装置との間のパイプラインは、典型的にはオゾンガスと直接接触する。予備-オゾン接触タンクおよびオゾン接触タンクの水出口パイプもまた、オゾンが溶解している水と接触する。これらの設備およびパイプラインが特別に処理されていない場合、それらはオゾン腐食の影響を非常に受けやすい。従って、これらの設備およびパイプラインがオゾンによって腐食されるのをできる限り防止するために、設備およびパイプラインは、現在一般に炭素鋼材料および316ステンレス鋼材料を用いて生産され製造されている。
【0003】
しかし、炭素鋼材料と比較して、316ステンレス鋼構造の強度は低く、そして同じ操作条件下で、より大きな厚さが要求され、これは使用される材料の量の増加をもたらす。同時に、316ステンレス鋼を用いる溶接、機械加工などはより困難である。さらに、316ステンレス鋼自体はCr、Ni、およびMoなどの有価金属元素をより多く含み、これは生産、製造、および設置の間の使用コストの増加をもたらす。従来の組成を有する316Lステンレス鋼の使用の間、主としてオゾン環境中での不十分な総合的腐食能のせいで、局所的な材料腐食が生じる。
【0004】
従って、炭素鋼管もまた一般に炭素鋼材料から製造され、そしてこのような炭素鋼管は予備-オゾン接触タンクおよびオゾン接触タンクのバルブの後方の水出口パイプとして使用され得、そしてパイプラインに輸送される水は少量の残留オゾンを含む。パイプラインの内壁の耐腐食性を向上させるために、内壁上に特殊なオゾン-耐性フルオロカーボンコーティングを付与する手段が一般に採用されている。しかし、パイプラインの内壁上のコーティングの損傷および剥離などの問題のせいで、炭素鋼パイプは依然として長期の使用および操作の間にオゾンによって不可避的に腐食され、水質汚染、およびパイプラインの漏出および破裂でさえも、もたらす。
【0005】
このことに基づいて、先行技術における上記欠陥および欠点を考慮して、本開示は、優れた耐オゾン腐食性ならびに良好な機械特性および経済効率を有し、大きな経済的および社会的利益を示す新たな管を提供することを意図する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要旨
本開示の目的の1つは、優れた耐オゾン腐食性を有するだけでなく、良好な機械特性および高い経済効率もまた有し、オゾン腐食性媒体環境における給水施設に使用される316ステンレス鋼または炭素鋼の本質的な悩みの種を解決し得、オゾン腐食性媒体環境における給水施設によって使用されるパイプラインおよび設備の耐腐食性および機械特性の増加する要求を満足し、そして水への二次汚染を回避しつつこれらのパイプラインおよび設備の適用性、安全性および耐久性を大いに改善し、大きな経済的および社会的利益を有する管を提供することである。
【0007】
上記目的を達成するために、本開示は、耐腐食性層および基層を厚さ方向に有する管であって、該耐腐食性層が当該管の内壁上に少なくとも位置し、かつ該耐腐食性層が、Feおよび不可避的不純物に加えて、以下の化学元素:
0<C≦0.08%;
0<Si≦0.75%;
0<Mn≦2.0%;
Ni: 10.00-14.00%;
Cr: 16.00-18.00%;
Mo: 2.00-3.00%;および
N: 0.02-0.20%;
を質量パーセントでさらに含み、
ここでCr、MoおよびNが以下の不等式:Cr+3.3×Mo+16×N≧25%
を満足する、管を提供する。
【0008】
好ましくは、耐腐食性層は以下の化学元素:
0<C≦0.08%;
0<Si≦0.75%;
0<Mn≦2.0%;
Ni: 10.00-14.00%;
Cr: 16.00-18.00%;
Mo: 2.00-3.00%;および
N: 0.02-0.20%;
残部はFeおよび不可避的不純物である;
を質量パーセントで含み、
ここでCr、MoおよびNは以下の不等式:Cr+3.3×Mo+16×N≧25%を満足する。
【0009】
管の耐オゾン腐食性を確保するために、耐腐食性層の耐オゾン腐食性が最初に確保される必要がある。
【0010】
現在の給水施設において、オゾン発生器とオゾン注入装置との間のパイプラインは、媒体として100%オゾンガスを輸送するか、または100%オゾンガスと接触する。予備-オゾン接触タンクおよびオゾン接触タンクにおけるフランジ、ブラインドシート、出口パイプ、および他の設備は、媒体として1mg/L~3mg/Lの溶解したオゾンを含む水を輸送するか、または100%オゾンガスと接触し、そして水はまた5ppmまでのCl-を含み得る。主要な腐食性媒体はオゾンであり、そして操作温度は0~40℃の範囲である。
【0011】
現在オゾン腐食性媒体環境における給水施設によって使用されるパイプラインおよび設備の上記操作条件に基づいて、本発明者らは、耐腐食性層の化学元素組成に関して多くの研究を行い、そして最適化設計を行い、耐腐食性層の耐オゾン腐食性を確保した。
【0012】
本開示において、耐腐食性層における化学元素の設計原理は以下の通りである。
【0013】
C: 本開示による耐腐食性層において、Cは強力なオーステナイト形成元素であり、これはニッケルをある程度まで置換し得、オーステナイト形成を促進し得、そしてオーステナイト構造を安定化し得、そしてそれと同時にステンレス鋼の強度を増加させ得る。しかし、Cの含有量は高すぎないべきであることに留意すべきである。炭素の含有量が高すぎる場合、炭素とクロムとの組み合わせは、粒界でクロム-豊富炭化物を形成し、粒間腐食を引き起こす。従って、Cの有益な効果を奏するために、本開示による耐腐食性層において、Cの質量パーセントは0<C≦0.08%を満足するように制御される。
【0014】
いくつかの好適な実施態様において、より良好な技術的効果を得るために、Cの質量パーセントは好ましくは0.005%と0.030%との間であるように制御される。
【0015】
Si: 本開示による耐腐食性層において、Siは製錬プロセスにおいて脱酸のために主として使用され、そしてそれゆえある量のケイ素が一般的に含まれる。しかし、Siの含有量も同様に高すぎないべきであることに留意すべきである。Siの含有量が高すぎる場合、窒素の溶解性が低下する。従って、本開示による耐腐食性層において、Siの質量パーセントは0<Si≦0.75%を満足するように制御される。
【0016】
いくつかの好適な実施態様において、より良好な技術的効果を得るために、Siの質量パーセントは好ましくは0.3%と0.6%との間、より好ましくは0.4と0.6%との間であるように制御される。
【0017】
Mn: 本開示による耐腐食性層において、Mnは強力なオーステナイト構造安定化元素であり、そして鋼中の窒素の溶解性を増加させ得る。しかし、マンガンは、同時にオーステナイトステンレス鋼の耐腐食性に対して負の効果を有する。従って、Mnの有益な効果と不利な効果とのバランスをとることによって、Mnの質量パーセントは、本開示による耐腐食性層において、0<Mn≦2.0%を満足するように制御される。
【0018】
いくつかの好適な実施態様において、より良好な技術的効果を得るために、Mnの質量パーセントは、好ましくは0.5%と1.5%との間、より好ましくは1.10%と1.25%との間であるように制御される。
【0019】
Ni: 本開示による耐腐食性層において、Niはオーステナイト相を形成しそして安定化するために最も重要な元素であり、そして適切な量のNiの添加は、室温でオーステナイト構造の形成を確保し得る。しかし、ニッケルは高価であり、そして比較的低コストを確保するために、Niの質量パーセントは、本開示による耐腐食性層において、10.00%と14.00%との間であるように制御される。
【0020】
いくつかの好適な実施態様において、より良好な技術的効果を得るために、Niの質量パーセントは、好ましくは12.00%と14.00%との間であるように制御される。
【0021】
Cr: 本開示による耐腐食性層において、Crはステンレス鋼のステンレス性および耐腐食性を得るための保証であり、そして一般に耐腐食性を得るための最少クロム含有量は10.5%である。クロムは耐腐食性を顕著に向上させる元素であるので、良好な耐腐食性を確保するために、本開示の鋼中のクロムの含有量は、16.0%以上であるように制御される。しかし、クロムは主要なフェライト形成元素であり、そしてクロムの含有量が高すぎる場合、室温でクラッド中にオーステナイト構造を確保することは困難である。従って、本開示による耐腐食性層において、Crの質量パーセントは16.00%と18.00%との間であるように制御される。
【0022】
いくつかの好適な実施態様において、より良好な技術的効果を得るために、Crの質量パーセントは好ましくは16.50%と17.50%との間であるように制御される。
【0023】
Mo: 本開示による耐腐食性層において、Moは耐腐食性を改善するために重要な元素であり、そしてその機構は、不動態皮膜を安定化し、そして不動態皮膜中でクロムの富化を促進することである。モリブデンはまた、窒素と相乗作用して耐孔食腐食性をさらに改善し得る。従って、モリブデンを添加する主要な機能は、耐腐食性を改善することである。Moの含有量も同様に高すぎないべきであることに留意すべきである。モリブデンの含有量が高すぎる場合、合金のコストが増加する。比較的低コストを確保するために、本開示による耐腐食性層において、Moの質量パーセントは2.00%と3.00%との間であるように制御される。
【0024】
いくつかの好適な実施態様において、より良好な技術的効果を得るために、Moの質量パーセントは好ましくは2.50%と3.00%との間であるように制御される。
【0025】
N: 本開示による耐腐食性層において、Nはオーステナイト領域を形成し、安定化し、そして広げる非常に強力な元素であり、そして適切な量のNの添加は、ステンレス鋼の耐孔食腐食性を効果的に増加させ得る。しかし、窒素の含有量が高すぎる場合、窒素含有金属間相の形成のリスクが増加し、そして同時に、製錬および熱加工の困難性が増加し、生産が困難となる。従って、本開示による耐腐食性層において、Nの質量パーセントは0.02%と0.20%との間であるように制御される。
【0026】
いくつかの好適な実施態様において、より良好な技術的効果を得るために、Nの質量パーセントは好ましくは0.05%と0.15%との間であるように制御される。
【0027】
従って、本開示による耐腐食性層において、1つの化学元素の質量パーセントを制御しつつ、元素Cr、MoおよびNを以下の不等式:Cr+3.3×Mo+16×N≧25%を満足するように制御することもまた好ましいことに留意すべきである。式中の各元素は、対応する元素の質量パーセントでの含有量を表す。このような制御により、耐腐食性層がオゾン環境において極めて優れた耐腐食性を示すことがさらに確保され得る。
【0028】
好ましくは、耐腐食性層の化学元素は、質量パーセントで:
C: 0.005-0.030%;
Si: 0.3-0.6%;
Mn: 0.5-1.5%;
Ni: 12.00-14.00%;
Cr: 16.50-17.50%;
Mo: 2.50-3.00%;
N: 0.05-0.15%;および
Cr+3.3×Mo+16×N≧26%
の少なくとも1つを満足する。
【0029】
好ましくは、耐腐食性層において、不可避的不純物は:S≦0.030%;およびP≦0.045%を含む。
【0030】
本開示による管の耐腐食性層において、PおよびSの両方とも不可避的不純物元素であり、そして鋼の品質を確保するために、条件が許せば、鋼中の不純物元素の含有量が低いほど良い。
【0031】
S: 本開示による耐腐食性層において、Sは有害な不純物元素である。従って、耐腐食性層中のSの質量パーセントは厳密に制御される必要があり、そしてS≦0.030%を満足するよう制御される。好ましくは、Sの質量パーセントは0-0.005%であるように制御され得る。
【0032】
P: 本開示による耐腐食性層において、Pは有害な不純物元素である。従って、耐腐食性層中のPの質量パーセントは厳密に制御される必要があり、そして:P≦0.045%を満足するよう制御される。好ましくは、Pの質量パーセントは0-0.035%であるように制御され得る。
【0033】
好ましくは、単層耐腐食性層は管の全厚さの0.5%~20%を占める厚さを有し、そして基層の化学元素は、質量パーセントで:
C: 0.01-0.20%;
Si: 0.10-0.50%;
Mn: 0.50-2.00%;
Al: 0.02-0.04%;
Ti: 0.005-0.018%;
Nb: 0.005-0.020%;および
N≦0.006%;
残部はFeおよび不可避的不純物である
である。
【0034】
好ましくは、基層は:
0<B≦0.0003%;
0<Ni≦0.20%;
0<Cr≦0.20%;および
0<Mo≦0.10%
の少なくとも1つをさらに含む。
【0035】
本開示の上記技術的解決法において、基層鋼の品質をさらに最適化するために、基層に元素B、Ni、CrおよびMoをさらに添加することが好ましい。
【0036】
好ましくは、基層の化学元素は、質量パーセントで:
C: 0.01-0.18%;
Si: 0.10-0.30%;
Mn: 0.50-1.50%;
Al: 0.02-0.03%;
Ti: 0.005-0.015%;および
Nb: 0.005-0.015%
の少なくとも1つを満足する。
【0037】
本開示において、本開示による管の良好な機械特性を確保するために、基層炭素鋼の化学元素組成は、高強度および良好な加工性の両方を確保するよう選択される。
【0038】
従って、本開示において、基層炭素鋼における各化学元素の設計原理は以下の通りである。
【0039】
C: 本開示の基層において、Cはオーステナイト安定化元素であり、これは鋼の固溶体強化として機能し得、そして鋼の強度を顕著に増加させ得る。しかし、鋼中のCの含有量は高すぎないべきであることに留意すべきである。鋼中のCの含有量が高すぎる場合、材料の溶接性および靭性が不利であるだけでなく、パーライトおよびマルテンサイト-オーステナイト島のような硬質相構造が増加する傾向にあり、これは鋼の耐腐食性に悪影響を与える。従って、鋼板の強度および靭性の調和および炭素鋼材料の耐腐食性の要求を考慮すると、本開示による基層鋼において、Cの質量パーセントは0.01%と0.20%との間であるように制御される。
【0040】
本開示において、添加されるCの量は0.01-0.20%であるように制御され、これは、鋼板が圧延後の空冷の条件下である程度の硬度および強度を得ることができることを確保し得るだけでなく、基層鋼の溶接性の悪化を回避し得る。特に全厚さの0.5%~20%を占める耐腐食性層の厚さを有する高度に耐腐食性のクラッド板(耐腐食性層スラブ+基層スラブ)について、基層鋼の炭素含有量は上記範囲内であるように制御されるべきである。
【0041】
より良好な技術的効果を得るために、Cの質量パーセントは好ましくは0.01%と0.18%との間であるように制御される。
【0042】
Si: 本開示の基層において、鋼にSiを添加することは、鋼の純度および脱酸を効果的に改善し得る。Siは鋼の固溶体強化において役割を果たし得るが、Siは材料の溶接性に寄与しない;本開示において、基層炭素鋼中のケイ素含有量は、0.5%以下であるよう制御され、これは耐腐食性層の耐腐食性に対していかなる影響も有さず、そして基層炭素鋼は良好な溶接性を有する。従って、本開示による基層において、Siの質量パーセントは0.10%と0.50%との間であるように制御される。
【0043】
より良好な技術的効果を得るために、Siの質量パーセントは好ましくは0.10%と0.30%との間であるように制御される。
【0044】
Mn: 本開示による基層において、鋼に適切な量のMnを添加することは、パーライト変態を遅らせ得、臨界冷却速度を低下させ得、そして鋼の焼入れ性を改善し得る;同時に、Mnはまた固溶体強化の機能を有し、そして鋼中の主要な固溶体強化元素である。しかし、Mnは過剰に添加されないべきであることに留意すべきである。鋼中のMnの含有量が高すぎる場合、偏析帯およびマルテンサイト構造が生じる傾向があり、これは鋼の靭性に対して不利な効果を有し、そして偏析帯はまた鋼の耐腐食性を低下させる。添加するMnの量は、主として鋼の強度グレードに依存する。一般に、低炭素マイクロ合金鋼のマンガン含有量は、2.0%を超えない。この場合、基層炭素鋼に含まれるMnは、耐腐食性層に悪影響を与えない。このことに基づいて、本開示による基層において、Mnの質量パーセントは、0.50%と2.00%との間であるように制御される。
【0045】
より良好な技術的効果を得るために、Mnの質量パーセントは好ましくは0.50%と1.50%との間であるように制御される。
【0046】
Al: 本開示による基層において、Alは強力な脱酸元素である。鋼中の酸素の含有量ができるだけ低いことを確保するために、Alの質量パーセントは0.02%と0.04%との間であるように制御される。脱酸後の過剰なAlは、鋼中のNと化合してAlN沈殿物を形成し得、それゆえ鋼の強度を改善し、そして熱処理の間に鋼のオーステナイト粒径を微細化する。より良好な技術的効果を得るために、Alの質量パーセントは好ましくは0.02%と0.03%との間であるように制御される。
【0047】
Ti: 本開示による基層において、Tiは強力な炭化物-形成元素であり、そして鋼に少量のTiを添加することは、鋼中にNを固定化するのに有益であり、そしてTiとNとの結合によって形成されるTiNは、ベーススラブを加熱する際に基層のマトリクスオーステナイト粒子が過度に成長しないようにし得、そして元のオーステナイト粒径を微細化し得る。さらに、Tiは鋼中の炭素および硫黄と化合してTiC、TiS、Ti4C2S2などを形成し得、これらは介在物および第二相粒子の形態で存在し得る。Tiのこれらの炭窒化物沈殿物はまた、溶接の間に熱影響部における粒子成長を防止し得、そして基層炭素鋼の溶接性を改善し得る。このことに基づいて、本開示による基層において、Tiの質量パーセントは0.005%と0.018%との間であるように制御される。
【0048】
より良好な技術的効果を得るために、Tiの質量パーセントは好ましくは0.005%と0.015%との間であるように制御される。
【0049】
Nb: 本開示の基層において、Nbは強力な炭化物-形成元素であり、そして少量のNbが鋼に添加され、主として再結晶温度を上昇させて、続く圧延プロセスにおいて基層スラブおよび耐腐食性層スラブによって形成されるクラッド板の高い最終圧延温度と調和させ、その結果、基層の粒子は圧延後に再結晶および非-再結晶帯において微細化され、これは基層の低温衝撃靭性の改善に有益である。このことに基づいて、本開示による基層において、Nbの質量パーセントは0.005%と0.020%との間であるように制御される。
【0050】
より良好な技術的効果を得るために、Nbの質量パーセントは好ましくは0.005%と0.015%との間であるように制御される。
【0051】
N: 本開示の基層において、Nはチタンおよびアルミニウムと第2相粒子を形成して粒子を微細化しそして強度を改善し得る。しかし、Nの質量パーセントが高すぎる場合、形成されるTiNの量が多すぎ、そして粒子が粗すぎ、本開示のクラッド基材の塑性に影響を与える。このことに基づいて、本開示による基層において、Nの質量パーセントはN≦0.006%であるように制御される。
【0052】
B: 本開示において、Bは鋼の焼入れ性を大いに改善し得る。高度に耐腐食性のクラッド板(耐腐食性層スラブ+基層スラブ)の圧延後の空冷を考慮して、特に耐腐食性層の厚さが全厚さの0.5%~5%の範囲内である高度に耐腐食性の鋼板およびストリップのために、できるだけ多くのフェライト+パーライトの構造を得ること、およびベイナイトの形成を阻害することが要求される。従って、本開示において、基層中のBの添加量を0<B≦0.0003%を満足するよう制御することが要求される。
【0053】
Ni: 本開示において、Niはオーステナイトを安定化するための元素であり、そして鋼の強度を改善するのにある役割を果たす。さらに、適切な量のNiを鋼、特に焼入れ焼き戻しした鋼に添加することは、鋼の低温衝撃靭性を多いに改善し得る。このことに基づいて、本開示による基層において、適切な量のNiが添加され得、そしてNiの添加量は0<Ni≦0.20%を満足するよう制御される。
【0054】
Cr: 本開示において、Crの偏析傾向は、Mnの偏析傾向よりも小さい。基層炭素鋼のMn含有量が高く、そして鋼中に明らかな偏析帯および縞模様構造が存在する場合、Mnの含有量は適切に減少させ得、そして不足部分はCrで置き換えられる。第2に、適切な量のCrをマトリクス炭素鋼に添加することは、耐腐食性層のCrの基層への拡散を抑制するのにも有益である。このことに基づいて、本開示による基層において、0<Cr≦0.20%を満足するCrが添加され得る。
【0055】
Mo: 本開示において、Moは粒子を顕著に微細化し得、そして鋼の強度および靭性を改善し得る。さらに、Moはまた、鋼の焼き戻し脆性を低下させ得、同時に、極微細炭化物が焼き戻しの間に沈殿し得、これは鋼のマトリクスを顕著に強化する。さらに、Moの添加はまた、空冷の間に鋼板に容易に発生する自己-焼き戻し脆性を抑制するのに寄与する。このことに基づいて、本開示による基層において、適切な量のMoが添加され得、そしてMoの添加量は0<Mo≦0.10%を満足するよう制御される。
【0056】
好ましくは、基層において、不可避的不純物は:S≦0.010%;およびP≦0.015%を含む。
【0057】
本開示の上記技術的解決法において、PおよびSの両方とも基層中の不可避的不純物元素に属し、そしてSは鋼中のMnと化合して硫化マンガンの塑性介在物を形成し、これは鋼の横方向塑性および靭性に特に好ましくなく、従って基層中のSの含有量はできる限り低くあるべきである。さらに、Pもまた鋼中の有害な元素であり、これは鋼板の塑性および靭性を著しく損なう。
【0058】
本開示について、PおよびSの両方とも不可避的不純物元素であり、従って含有量が少ないほど良い。製鋼所の実際の製鋼レベルを考慮して、本開示の基層において、SおよびPは:S≦0.010%;およびP≦0.015%を満足するよう制御される。
【0059】
好ましくは、単層耐腐食性層は管の全厚さの0.5%~20%を占める厚さを有する。
【0060】
本開示において、操作条件に従って、耐腐食性層の厚さの選択は、管の良好な耐腐食性、機械特性および成形性を得るのに主要な役割を果たす。耐腐食性層が厚すぎる場合、材料の機械特性および生産コストは影響を受ける;しかし、耐腐食性層が薄すぎる場合、材料の耐腐食性および耐用年数は減少する。この理由のため、本開示において、耐腐食性層は好ましくはクラッドスラブの全厚さの0.5%~20%、より好ましくは管の全厚さの2.5%~10%を占めるよう制御された厚さを有する。
【0061】
好ましくは、基層はフェライト+パーライトまたはフェライト+パーライト+ベイナイトの微細構造を有し;そして耐腐食性層はオーステナイトの微細構造を有する。
【0062】
好ましくは、管は、≧435 MPaの降伏強度、≧590 MPaの引張強度、≧30%、好ましくは≧32%の伸び、およびオゾン環境における耐腐食性層の≦0.05 mm/年の均一腐食速度を有する。
【0063】
それに応じて、本開示の別の目的は、単純でかつ実行可能であり、上述の管を効率的に調製し得、そして耐腐食性層の厚さの制限を破り得、および耐腐食性層の厚さを管の全厚さの0.5%~20%の範囲内に制御し得る、上述の管を製造するための方法を提供することである。
【0064】
上記目的を達成するために、本開示は、以下の工程を含む、上述の管を製造するための方法を提供する:
(1)耐腐食性層スラブおよび基層スラブを調製する工程;
(2)耐腐食性層スラブおよび基層スラブを組み立て、クラッドスラブを得る工程、ここで単層耐腐食性層は、好ましくはクラッドスラブの全厚さの0.5%~20%、より好ましくはクラッドスラブの全厚さの2.5%~10%を占める厚さを有し;
(3)加熱および圧延する工程:1100~1200℃の温度でクラッドスラブを加熱し、次いで基層スラブおよび耐腐食性層スラブのオーステナイト再結晶化および非-再結晶化温度範囲内で多パス圧延を行い、ここで全圧下率は90%以上であり、そして最終圧延を900℃以上の温度で行い;
(4)コイル巻きする工程:水冷後、コイル巻きを500~650℃の温度で行うよう制御し、熱間圧延コイルを得;
(5)熱間圧延コイルに表面処理を行う工程;および
(6)管を製造する工程。
【0065】
本開示において、化学組成の合理的な設計に基づいて、本発明者らは、広範囲の研究を通じて最適化された様式で新規の製造方法を設計し、そして耐オゾン腐食性高強度管はこの方法によって効率的に調製され得る。
【0066】
本開示による製造方法において、耐腐食性層スラブおよび基層スラブは、化学組成設計に従って製錬および鋳造によって調製され得、次いで耐腐食性層スラブおよび基層スラブは組み立てられて高度に耐腐食性のクラッド板(耐腐食性層板+基層板)を得る。得られた高度に耐腐食性のクラッド板は、次いで加熱され、圧延され、そしてコイル巻きされてクラッド層間構造を有する熱間圧延コイルを得、そして熱間圧延コイルは表面処理に供され、次いで管製造に供され、そのようにして本開示による管を得る。
【0067】
本開示において、本発明者らは、工程(3)における加熱および圧延プロセスを最適化された様式で設計し、ある厚さを有する遷移層構造が加熱および圧延などのプロセスによって高度に耐腐食性のクラッド板の耐腐食性層と基層との間に形成され得ることを確保し、そのようにして耐腐食性層および基層の完全な冶金学的組み合わせを実現し、それによって耐オゾン腐食性および機械特性を確保しつつ、材料の適用性および経済効率を改善する。
【0068】
本発明による製造方法の工程(2)において、調製した耐腐食性層スラブおよび基層スラブは前処理され得、スラブの結合表面の周辺は溶接および封止され、そして溶接および封止された結合表面は真空処理されてスラブの組み立てが完了する。
【0069】
それに応じて、工程(5)において、熱間圧延コイルは表面処理に供され、これは酸洗または機械的脱スケールによって達成され得る。さらに、工程(6)における管製造プロセスにおいて、成形および溶接のために従来のスパイラル溶接法または縦方向溶接法が採用され得る。溶接方法は、サブマージアーク溶接、金属ガスアーク溶接、タングステン不活性ガス溶接、プラズマアーク溶接、溶接棒アーク溶接、高周波溶接、またはレーザー溶接から選択され得る。
【0070】
好ましくは、本開示による製造方法において、工程(3)において、最終圧延が行われる温度は、920~1000℃であるように制御される。
【0071】
好ましくは、本開示による製造方法において、予備加熱が工程(2)と工程(3)との間にさらに含まれ、ここで予備加熱は1150~1250℃の温度で行われる。
【0072】
本開示による製造方法において、最終製品の性能要求に応じて、工程(2)と工程(3)との間に予備加熱プロセスを行うかどうかもまた決定され得る。予備加熱プロセスにおいて、スラブを組み立てることによって得られるクラッドスラブは1150~1250℃の温度で加熱され得、その結果均一なオーステナイト化された構造がクラッドスラブの表面上の耐腐食性層中に得られ得、そして以前はあり得る炭化物はできる限り多く完全に溶解され得、そして同時に、炭素鋼中のニオブおよびチタンなどの合金元素の化合物は完全にまたは部分的に溶解され得;耐腐食性層および炭素鋼基層の元素は界面で拡散して安定な遷移層を形成し、次いで室温までゆっくり冷える。
【0073】
好ましくは、本開示による製造方法において、冷間圧延および焼き鈍しは工程(5)と工程(6)との間にさらに含まれる。
【0074】
本開示による製造方法において、管製造前の標的製品が実際の使用において熱間圧延コイルの代わりに冷間圧延コイルである場合、冷間圧延および焼き鈍し工程は工程(5)と工程(6)との間にさらに追加され得、これらは標的厚さに冷間圧延し次いで焼き鈍しすることによって達成され得る。好ましくは、焼き鈍しは900~1000℃の温度で行われる。
【0075】
従って、本開示において、耐オゾン耐腐食性層は、耐腐食性層および基層の組成設計ならびに比率設計によって、炭素鋼板の基層の表面上に圧延プロセスによって形成され、そして耐オゾン腐食性、良好な機械特性および高い経済効率を有する板/ストリップが最終的に形成され、これは、オゾン腐食性媒体環境における給水施設のためのパイプラインおよび設備における使用のために、管にさらに加工される。
【0076】
本開示における設計における困難性は以下を含むことに留意すべきである:
1)耐腐食性層および基層の組成設計は、材料の全体的特性を満足する必要がある。耐腐食性層の組成は、オゾン腐食の特徴に従って設計され、作動条件下で耐腐食性の要求を満足する必要がある。基層の炭素鋼の組成設計について、機械特性の要件を満足することに加えて、耐腐食性層と基層との接合部での遷移層の炭素含有量が高い場合、安定化元素を欠き、そして界面の接合部での炭素鋼の片面上に明らかな脱炭素層が存在し、そして炭素鋼基材の構造が不均一であり、その結果、加工後、表面欠陥が生じる傾向があり、そして機械特性もまた基準を満足し得ないことを考慮する必要もある。
2)マトリクス金属に対する耐腐食性層の比、および材料特性の差異は、加熱プロセス、圧延プロセス、および熱処理プロセスを制御困難にする。例えば、加熱プロセスの間の不均一な温度は、変形および膨れを生じ得、基層との結合を不能にする。例えば、圧延の間にマトリクスから分離して亀裂が生じる可能性があり、そして厚さの均一性を確保するのが困難である。
3)オゾン発生器、オゾン注入装置、ならびに予備-オゾン接触タンクおよびオゾン接触タンクの水出口パイプの間のパイプラインなどの、オゾン腐食性媒体環境における給水施設のためのパイプラインおよび設備について、最初のクラッドが完全ではなくそして結合品質が劣っている場合、酸洗、管製造および成形、溶接などの続く加工工程後、最終製品の耐腐食性層の連続性および均一性は保証することができない。これは、設備およびパイプラインの適用性、安全性、および耐久性に著しい危険を課す。
【0077】
本開示において、本発明者らは、合理的な設計によって上記困難性を成功裏に克服し、そして本開示による耐オゾン腐食性高強度管を調製し得た。
【0078】
先行技術と比較して、本開示による耐オゾン腐食性高強度管およびその製造方法は、以下の利点および有益な効果を示した:
本開示において、本発明者らは、現在のオゾン腐食性媒体環境における給水施設のためのパイプラインおよび設備の作動条件を考慮する。耐腐食性層および基層の組成設計および比率設計によって、耐腐食性層および基層は結合および組み立てられ、そして適切な加熱、圧延およびコイル巻きプロセス、ならびに管製造プロセスに供され、そうして耐オゾン腐食性、良好な機械特性、および高い経済効率を有する管を得る。管は、≧435 MPaの降伏強度、≧590 MPaの引張強度、≧30%の伸び、およびオゾン環境における耐腐食性層の≦0.05 mm/年の均一腐食速度を有する。
【0079】
本開示において、ある厚さを有る遷移層構造は、加熱、圧延などのプロセスによって耐腐食性層と基層との間に形成され、そして耐腐食性層と基層との完全な冶金学的結合が達成され、そうして耐オゾン腐食性および機械特性を確保しつつ、材料の適用性および経済効率を改善する。
【0080】
上記組成設計およびプロセス制御方法によって製造される管を用いることによって、オゾン腐食性媒体環境における給水施設によって使用される316ステンレス鋼または炭素鋼の本質的な悩みの種が解決され得;管は、オゾン発生器、オゾン注入装置、ならびに予備-オゾン接触タンクおよびオゾン接触タンクの出口パイプの間のパイプラインなどの、オゾン腐食性媒体環境における給水施設において使用されるパイプラインおよび設備として使用され得、これらのパイプラインおよび設備の、耐オゾン腐食性および機械特性についての要求を満足し得、これらのパイプラインおよび設備の適用性、安全性および耐久性を大いに改善し、そして水への二次汚染を回避しつつ、大きな経済的および社会的利益を示す。
【0081】
給水施設におけるオゾン発生器、オゾン注入装置、ならびに予備-オゾン接触タンクおよびオゾン接触タンクの出口パイプの間のパイプラインとして使用される316ステンレス鋼管と比較して、本開示による管は、より高い強度、より単純な溶接および機械加工、より良好な耐腐食性、およびより高い経済効率を示す。予備-オゾン接触タンクおよびオゾン接触タンクのバルブの後方の水出口パイプにおいて使用される炭素鋼管と比較して、本開示による管について、炭素鋼管が調和させることができない耐腐食性および耐久性を示しつつ、管に耐腐食性コーティングを付与するプロセスを省略することが可能であり、そしてよりエネルギーを節約し、環境にやさしく、かつメンテナンスフリーである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
図1図1は、本開示の1つの実施態様による管の層間構造の模式図である;
図2図2は、本開示の別の実施態様による管の層間構造の模式図である;
図3図3は、実施例5における管の基層と耐腐食性層との間の結合界面の微細構造の写真である;および
図4図4は、実施例5における管の基層の微細構造の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0083】
詳細な説明
本開示による管およびその製造方法は、添付の図面および特定の実施態様を参照してさらに説明および解説されるが、これらは本開示の技術的解決法を不当に限定するとは意図されない。
【0084】
実施例1~6および比較例1
表1は、実施例1~6および比較例1における管の耐腐食性層の化学元素を質量パーセントで記載する。
【0085】
【表1】
【0086】
表2は、実施例1~6および比較例1における管の基層の化学元素を質量パーセントで記載する。
【0087】
【表2】
【0088】
本開示の実施例1~6および比較例1における管は、以下の工程によって製造した:
(1)表1および表2に示す化学組成に従って、製錬および鋳造を行い、それぞれ耐腐食性層スラブおよび基層スラブを調製した。
(2)耐腐食性層スラブおよび基層スラブを組み立て、クラッドスラブを得た:耐腐食性層の厚さを、クラッドスラブの全厚さの0.5%~20%であるよう制御し、腐食性層スラブおよび基層スラブを予備処理に供し、スラブの結合表面の周辺を溶接および封止し、そして溶接および封止した結合表面を真空処理し;予備加熱プロセスを行うかどうかを、スラブを組み立てた後の最終製品の性能要求に応じて決定し、そして予備加熱を要求した場合、予備加熱温度を1150~1250℃であるよう制御した。
(3)加熱および圧延:クラッドスラブを1100~1200℃の温度で加熱し、次いで多パス圧延を、基層スラブおよび耐腐食性層スラブのオーステナイト再結晶および非再結晶の温度範囲内で行い、全圧下率を90%以上であるよう制御し、そして最終圧延を900℃以上の温度で行い、好ましくは、最終圧延を920℃と1000℃との間の温度で行った。
(4)コイル巻き:水冷後、コイル巻きを500~650℃の温度で行うよう制御し、熱間圧延コイルを得た。
(5)酸洗または機械的脱スケールを採用して、熱間圧延コイルに表面処理を行った;標的製品が冷間圧延コイルである場合、冷間圧延および焼き鈍しプロセスをさらに行い、続いて冷間圧延後に標的厚さまで焼き鈍しを行った。
(6)管製造:成形および溶接のためにスパイラル溶接法または縦方向溶接法を採用した;および管製造を、サブマージアーク溶接、金属ガスアーク溶接、タングステン不活性ガス溶接、プラズマアーク溶接、溶接棒アーク溶接、高周波溶接またはレーザー溶接から選択される溶接方法によって行った。
【0089】
本開示において、本開示の実施例1~6における管は全て、上記工程(1)-(6)のプロセスを用いて製造し、そして化学組成および関連するプロセスパラメーターは全て本開示の設計仕様の制御要求を満足したことに留意すべきである。
【0090】
表3は、上記の製造プロセスの工程における実施例1~6および比較例1における管の特定のプロセスパラメーターを記載する。
【0091】
【表3】
【0092】
上記表3に示すプロセスパラメーターに従って、実施例1および3において、熱間圧延コイルに表面処理を行う工程(5)後、冷間圧延および焼き鈍しをさらに行い、それによって冷間圧延板を得;および実施例2、実施例4、実施例5、実施例6および比較例1において、工程(5)後に熱間圧延板を得たことに留意すべきである。
【0093】
従って、実施例および比較例に従って調製した板は、工程(6)における管製造プロセスにおいて対応する管を調製するためにさらに使用することができる。
【0094】
上記プロセスを用いて調製した実施例1~6および比較例1における管を、それぞれサンプリングし、実施例1~6および比較例1におけるサンプル管の微細構造をさらに観察し、そして管の微細構造を観察した後、実施例1~6および比較例1におけるサンプル管を機械的特性試験および耐オゾン腐食性試験にさらに供し、そして試験結果を以下の表4に示す。
【0095】
関連する性能試験方法は以下の通りであった:
機械的特性試験:GB/T 6396-2008 クラッド鋼板-機械的および技術的試験に従い、実施例1~6および比較例1におけるサンプル管の降伏強度、引張強度および伸びを得た。
【0096】
耐オゾン腐食性試験:「特定の用途シナリオのためのクーポン試験法(Coupon testing method for specific application scenarios)」を用いて、試験クーポンを給水施設の予備-オゾン接触タンクの水出口パイプに設置した;そして3か月後、試験クーポンを取り出して耐腐食性層の表面状態を観察し、何かしらの腐食現象があるかどうかを調べ、それによって実施例1~6および比較例1におけるサンプル管の耐オゾン腐食性を得た。
【0097】
表4は、実施例1~6および比較例1における管の微細構造、機械特性および耐オゾン腐食性の試験結果を記載する。
【0098】
【表4】
【0099】
上記表4と組み合わせて、本開示において、実施例1~6における管は、435 MPa~516 MPaの降伏強度、590 MPa~650 MPaの引張強度および30.0%~40.0%の伸びを示し、そして優れた耐オゾン腐食性を示し、いずれの耐腐食性層もオゾン環境において3か月後に腐食しなかった;一方、比較例1における最終腐食層は、本開示の設計要求を満足しない耐腐食性層の組成設計のせいでわずかに腐食したことが分かる。
【0100】
上記実施例から分かるように、良好な機械特性および耐オゾン腐食性を有する管は、適切な材料選択、組成設計、圧延および熱処理プロセスならびに管製造によって得ることができ、これは、現在オゾン腐食性媒体環境における給水施設によって使用される316ステンレス鋼または炭素鋼の本質的な悩みの種を解決し得、オゾン腐食性媒体環境における給水施設によって使用されるパイプラインおよび設備の、耐腐食性および機械特性についての増加する要求を満足し、そして大きな経済的および社会的利益を有する。
【0101】
図1は、本開示の1つの実施態様による管の層間構造の模式図である。
【0102】
図1に示すように、この実施態様において、本開示による管は、管の内表面および外表面上に位置する2つの耐腐食性層、および該2つの耐腐食性層の間に位置する基層を含み得る。
【0103】
図2は、本開示の別の実施態様による管の層間構造の模式図である。
【0104】
図2に示すように、この実施態様において、本開示による管は、管の内表面上に位置する耐腐食性層、および管の外表面上に位置する基層を含み得る。
【0105】
図3は、実施例5における管の基層と耐腐食性層との間の結合界面の微細構造の写真である。
【0106】
図3に示すように、実施例5において、管の基層の微細構造はフェライト-パーライト-ベイナイトであった;耐腐食性層の微細構造はオーステナイトであった;従って、耐腐食性層および基層の元素は結合界面で拡散し、50~100μmの拡散距離を有する安定な遷移層を形成した。
【0107】
図4は、実施例5における管の基層の微細構造の写真である。
【0108】
図4に示すように、実施例5において、管の基層の微細構造はフェライト-パーライト-ベイナイトであった。
【0109】
本開示の保護範囲における先行技術部分は、本開示の文書に記載された実施例に限定されず、先行特許文献、先行刊行物、先行公用等を含むがこれらに限定されない、本開示の解決手段と矛盾しない全ての先行技術が本開示の保護範囲に含まれ得ることに留意すべきである。さらに、本開示の特徴の組み合わせは、請求項または特定の実施例に記載された組み合わせに限定されず、本開示に記載の特徴は全て、互いに矛盾しない限り、自由に組み合わせたり、任意の方法で組み合わせたりすることができる。
【0110】
また、上記実施態様は、本開示の特定の実施態様に過ぎないことに留意すべきである。明らかに、本開示は上記実施態様に限定されるものではなく、そしてそれに応じてなされる同様の変更または変形は、本開示の開示内容から直接由来し得るか、または本開示の開示内容から当業者が容易に想到し得、そして本開示の保護範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2024-06-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐腐食性層および基層を厚さ方向に有する管であって、該耐腐食性層が当該管の内壁上に少なくとも位置し、かつ該耐腐食性層が、Feおよび不可避的不純物に加えて、以下の化学元素:
0<C≦0.08%;
0<Si≦0.75%;
0<Mn≦2.0%;
Ni: 10.00-14.00%;
Cr: 16.00-18.00%;
Mo: 2.00-3.00%;および
N: 0.02-0.20%;
を質量パーセントでさらに含み、
ここでCr、MoおよびNが以下の不等式:Cr+3.3×Mo+16×N≧25%
を満足する、管。
【請求項2】
耐腐食性層の化学元素が、質量パーセントで:
0<C≦0.08%;
0<Si≦0.75%;
0<Mn≦2.0%;
Ni: 10.00-14.00%;
Cr: 16.00-18.00%;
Mo: 2.00-3.00%;および
N: 0.02-0.20%;
残部がFeおよび不可避的不純物である;
であり、ここでCr、MoおよびNが以下の不等式:Cr+3.3×Mo+16×N≧25%
を満足する、請求項1に記載の管。
【請求項3】
耐腐食性層の化学元素が、質量パーセントで:
C: 0.005-0.03%;
Si: 0.3-0.6%;
Mn: 0.5-1.5%;
Ni: 12.00-14.00%;
Cr: 16.50-17.50%;
Mo: 2.50-3.00%;
N: 0.05-0.15%;および
Cr+3.3×Mo+16×N≧26%
の少なくとも1つを満足する、請求項2に記載の管。
【請求項4】
耐腐食性層において、不可避的不純物が:S≦0.030%;およびP≦0.045%を含む、請求項1または2に記載の管。
【請求項5】
単層耐腐食性層が管の全厚さの0.5%~20%を占める厚さを有し、かつ基層の化学元素が、質量パーセントで:
C: 0.01-0.20%;
Si: 0.10-0.50%;
Mn: 0.50-2.00%;
Al: 0.02-0.04%;
Ti: 0.005-0.018%;
Nb: 0.005-0.020%;および
N≦0.006%;
残部がFeおよび不可避的不純物である
である、請求項1または2に記載の管。
【請求項6】
基層が:
0<B≦0.0003%;
0<Ni≦0.20%;
0<Cr≦0.20%;および
0<Mo≦0.10%
の少なくとも1つをさらに含む、請求項5に記載の管。
【請求項7】
基層の化学元素が、質量パーセントで:
C: 0.01-0.18%;
Si: 0.10-0.30%;
Mn: 0.50-1.50%;
Al: 0.02-0.03%;
Ti: 0.005-0.015%;および
Nb: 0.005-0.015%
の少なくとも1つを満足する、請求項5に記載の管。
【請求項8】
基層において、不可避的不純物が:S≦0.010%;およびP≦0.015%を含む、請求項5に記載の管。
【請求項9】
単層耐腐食性層が管の全厚さの0.5%~20%を占める厚さを有する、請求項1または2に記載の管。
【請求項10】
基層がフェライト+パーライトまたはフェライト+パーライト+ベイナイトの微細構造を有し;かつ耐腐食性層がオーステナイトの微細構造を有する、請求項1または2に記載の管。
【請求項11】
≧435 MPaの降伏強度、≧590 MPaの引張強度、≧30%の伸び、およびオゾン環境における耐腐食性層の≦0.05 mm/年の均一腐食速度を有する、請求項1または2に記載の管。
【請求項12】
請求項1または2に記載の管を製造するための方法であって:
(1)耐腐食性層スラブおよび基層スラブを調製する工程;
(2)耐腐食性層スラブおよび基層スラブを組み立て、クラッドスラブを得る工程、ここで単層耐腐食性層は、好ましくはクラッドスラブの全厚さの0.5%~20%、より好ましくはクラッドスラブの全厚さの2.5%~10%を占める厚さを有し;
(3)加熱および圧延する工程:1100~1200℃の温度でクラッドスラブを加熱し、次いで多パス圧延を行い、ここで全圧下率は90%以上であり、そして最終圧延を900℃以上の温度で行い;
(4)コイル巻きする工程:水冷後、コイル巻きを500~650℃の温度で行うよう制御し、熱間圧延コイルを得;
(5)熱間圧延コイルに表面処理を行う工程;および
(6)管を製造する工程
を含む、方法。
【請求項13】
工程(3)において、最終圧延を920~1000℃の温度で行う、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程(2)と工程(3)との間に予備加熱する工程をさらに含み、ここで予備加熱を1150~1250℃の温度で行う、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
工程(5)と工程(6)との間に冷間圧延および焼き鈍しをさらに含み、ここで焼き鈍しを好ましくは900~1000℃の温度で行う、請求項12に記載の方法。
【国際調査報告】