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特表2025-500088FENM及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤をベースとする新規相乗的組合せ
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  • 特表-FENM及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤をベースとする新規相乗的組合せ 図1
  • 特表-FENM及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤をベースとする新規相乗的組合せ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-08
(54)【発明の名称】FENM及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤をベースとする新規相乗的組合せ
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/13 20060101AFI20241225BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241225BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241225BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20241225BHJP
   A61K 31/55 20060101ALI20241225BHJP
   A61K 31/27 20060101ALI20241225BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20241225BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20241225BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20241225BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20241225BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20241225BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241225BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20241225BHJP
【FI】
A61K31/13
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61K31/445
A61K31/55
A61K31/27
A61K31/192
A61P25/28
A61P25/16
A61P21/02
A61P25/08
A61P25/00
A61P25/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024549574
(86)(22)【出願日】2022-11-08
(85)【翻訳文提出日】2024-07-05
(86)【国際出願番号】 EP2022081184
(87)【国際公開番号】W WO2023079187
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】2111841
(32)【優先日】2021-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521432627
【氏名又は名称】レスト・セラピューティクス
(71)【出願人】
【識別番号】504301959
【氏名又は名称】インスティテュート ナティオナル ド ラ サンテ エ ド ラ ルシェルシュ メディカル(インセルム)
(71)【出願人】
【識別番号】521240402
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ド モンペリエ
(71)【出願人】
【識別番号】517015661
【氏名又は名称】エコール プラティーク デ オート エテュード
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】モーリス タングイ
(72)【発明者】
【氏名】フレシン アリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ルビンステン ジル
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA06
4C084ZA16
4C084ZA94
4C084ZC20
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC21
4C086CB22
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA06
4C086ZA16
4C086ZA94
4C086ZC20
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA29
4C206FA29
4C206HA24
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZA06
4C206ZA16
4C206ZA94
4C206ZC20
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、フルオロエチルノルメマンチン(FENM)と少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤との相乗的組合せを含む組成物に関する。より詳細には、本発明は、医薬としてのその使用のための前記組成物、さらにより詳細には、タウオパチー、シヌクレイノパチー、アミロイドパチー、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、ハンチントン病、後部皮質萎縮症、ピック病、てんかん、血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、及び筋萎縮性側索硬化症から選択される病態の状態の処置におけるその使用のための前記組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-(2-フルオロエチル)アダマンタン-1-アミン(FENM)又はその薬学的に許容される塩のいずれか1種と、少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤又はその薬学的に許容される塩のいずれか1種との相乗的組合せを含む組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、タクリン、又はそれらの薬学的に許容される塩のいずれか1種の中から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
FENM用量が、20mg/日以下のFENM用量に適合する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が、10mg/日以下の投与量に適合する用量で存在するドネペジルである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が、3mg/日以下の投与量に適合する用量で存在するリバスチグミンである、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が、16mg/日以下の投与量に適合する用量で存在するガランタミンである、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
FENM/少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤のモル比が、4以下、3以下、2以下、好ましくは1以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
薬物としてのその使用のための、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
タウオパチー、シヌクレイノパチー、アミロイドパチー、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、ハンチントン病、後部皮質萎縮症、ピック病、てんかん、血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、筋萎縮性側索硬化症の中から選択される病態の処置におけるその使用のための、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、タクリン、又はそれらの薬学的に許容される塩のいずれか1種の中から選択される少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤と相乗的に組み合わせた、FENM又はその薬学的に許容される塩であって、タウオパチー、シヌクレイノパチー、アミロイドパチー、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、ハンチントン病、後部皮質萎縮症、ピック病、てんかん、血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、筋萎縮性側索硬化症の中から選択される病態の処置において使用するための、FENM又はその薬学的に許容される塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経変性疾患の分野に関する。
より詳細には、本発明は、3(2-フルオロエチル)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン-1-アミン(フルオロエチルノルメマンチン、FENM)と少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤との相乗的組合せを含む組成物に関する。
本発明はまた、神経変性病態の処置、より詳細には、これらの病態の認知障害の防止及び/又は処置におけるその使用のためのこれらの組合せ又はそれらを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
世界保健機関(WHO)は、2050年までに、60歳を超える人の数が20億人に達すると推定している。この前例のない世界人口の高齢化は、加齢に伴う慢性疾患が医療システムに重圧をかけることを示唆している。認知症はその1つである。したがって、WHOは認知症患者の総数が2050年までに1億5000万人を超える予測を見積もっている。
認知症は、認知機能、特に記憶及び推論の劣化を特徴とし、これは患者の行動及び日常作業を行う彼らの能力に影響を与える。認知症は、特に神経変性及び神経細胞の死滅を含む、脳の様々な区域及び中枢神経系の他の領域に影響を及ぼす多様な病因を有する病態を含む症候群である。加齢に直接関連して、ミトコンドリア機能障害及び酸化ストレスが、神経変性疾患の病因において重要な役割を果たす。これらの病態及び症候群はまた、Aβアミロイドーシス、タウオパチー、シヌクレイノパチー、スーパーオキシドジスムターゼ-1(SOD1)の凝集、ポリグルタミン、TDP-43タンパク質で観察されるように、ある特定のタンパク質の異常蓄積、並びに/又は変異及び/若しくは異常折り畳みタンパク質の蓄積に関連していることが多い。
アルツハイマー病は認知症の最も一般的な原因であり、症例のうちの60~70%の原因であると考えられている(WHO出典)。
【0003】
今日、アルツハイマー病の対症処置において数種の分子が認められている。これらには抗コリンエステラーゼ、例えばドネペジル、リバスチグミン、又はガランタミンが含まれ、これらは軽症、中等症、又は中等重症の病期における単剤治療法としての販売承認の利益を得ている。NMDA受容体の非競合性電位依存性拮抗薬であるメマンチンは、中等症及び重症の病期で認められており、軽症の病期では認められていない。これらの化合物は臨床的有効性が乏しいため、早期の病期では推奨されない。加えて、それらの効果は対症的且つ限定的であり、臨床試験に含まれた患者のほぼ3分の2において短期間(平均6カ月)でしか実証されていない(出典、Haute Autorite de Sante、フランス)。商標名Acrescent(登録商標)のドネペジルとメマンチンの併用処置は、この組合せ(メマンチン20mg/ドネペジル10mg)の利益が、単独で使用される化合物に対して低いため、欧州医薬品庁(EMA)からその販売承認(MA)を拒否された(EMA、2012年10月18日)。唯一の関心は、認知機能障害を有する患者において2錠ではなく1錠を服用することと考えられ、しかしながら、この処置は米国でFDAにより承認されている。さらに、早期の病期における抗コリンエステラーゼの主張された効力は、この病期の患者で特に行われた単一の試験に基づくものであり、そこでは、ドネペジル10mg/日の用量に忍容性のあった患者においてのみ、多くはない利益が観察された。この試験は、軽症の病期でこの処置を開始することの関心について結論を下せないものとフランスの保健当局は考えている(出典Haute Autorite de Sante、フランス、2012年)。
【0004】
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤はまた、重篤な有害作用、又は生活の質を変え、及び/若しくは処置の中止を必要とし得る有害作用のリスクを伴う。これらには、消化器障害(下痢、嘔吐)、心血管障害(徐脈、失神)、又はさらには認知症の処置の場合に逆効果となる精神神経障害(めまい、精神錯乱)が含まれ得る。
6カ月を超えると利益が乏しいことに加え、処置の期間と共に増加する有害作用のリスクは、その短期間での使用の可能性に強く勝る。実際、これらの処置は、中等症又はさらには疾患の進行期において既に認知能力が機能障害である患者に適用される。
国際公開第2014/191424号には、NMDA受容体の分布及び薬物処置に対するそれらの反応を試験するために、NMDA受容体をマーキングするための18FでマーキングされたFENM及び陽電子放射断層撮影によるそれらの可視化が記載されている。国際公開第2019/115833号には、不安関連障害及びうつ病の処置におけるFENMが記載されている。
国際公開第2013/064579号には、認知機能障害の処置におけるその使用のための、コネキシン遮断剤(例えば、メクロフェナム酸)とアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(例えば、ドネペジル)の組合せが記載されている。
【0005】
アデュカヌマブは、脳内のアミロイド負荷を減少させるのに使用される抗アミロイドモノクローナル抗体である。アデュカヌマブは、アミロイド沈着の存在が証明された早期又は前駆期のアルツハイマー病の処置について、2021年にFDAにより発行されたMAを受けた。処置された患者の認知低下がより少ないことに関する結果が再現されなかったことを考えて、且つ治療解決策がないことを考慮して、MAはその臨床的関心を確認するための製品の再評価を条件とした(<www.fda.gov>)。処置された患者の約35%が脳微小出血及び脳浮腫を呈した(出典 France Alzheimer、<www.francealzheimer.org>)。毎月の静脈内投与が必要なその処置の費用は、年56,000ドルと見積もられる。
認知症又はアルツハイマー病の早期の診断により、可能な限り早く疾患の進行を止める又は遅らせるために、患者及びその家族によって処置が著しく必要とされることになる。現在、この必要性はまだ満たされていない。また、疾患のより後期の患者において、処置された症状と処置の有効期間の両方により有効な処置に対する重要な必要性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術の欠点を改善することを目的とする。特に、本発明は、神経変性疾患、特にアルツハイマー病(AD)における認知機能障害に対する新しい治療法を提案することを目的とする。この新しい治療法は、フルオロエチルノルメマンチン(FENM)と少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の組合せの作用に基づく。これらの分子間で特定された相乗作用により、一方では認知能力の維持において特に有効な効果を得ること、及び/又はこれらの化合物に関し使用される用量を低減させることが可能になる。この低減により、特に低用量でより大きな改善を達成しながら、有害作用のリスクを減少させること、又はさらには可能な処置期間を増加させることが可能になる。この有効性の改善により、疾患の早期であってもこの処置の使用を検討することが可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願人らは、FENMの効果とアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の効果の組合せが、アミロイドペプチドオリゴマーβ25-35(Aβ25-35)の脳内投与による中毒マウスモデルの認知症状の処置において相乗効果を有することを、非常に意外なことに発見した。この相乗作用は、短期の作業記憶、及びさらに長期の文脈記憶の認知テストにおいて観察される。このような相乗効果により、現在適用されている処置よりも有効な処置を検討することが可能になり、これらの処置の対象となる患者集団を、現在の慣行と比較して広げることが可能になる。
したがって、本発明の1つの目的は、3-(2-フルオロエチル)アダマンタン-1-アミン(FENM)又はその薬学的に許容される塩のいずれか1種と、少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤又はその薬学的に許容される塩のいずれか1種との相乗的組合せを含む組成物に関する。
【0008】
特定の実施形態において、前記少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、タクリン、又はそれらの薬学的に許容される塩のいずれか1種の中から選択される。実際、これらの分子は、MAから利益を得るか、又は既にヒトでテストされており、それらの薬物動態学的及び薬力学的特性は既に公知であり、これは特に有利である。
本発明による組成物の他の特徴によれば、
- 化合物は一緒に、又は別々に製剤化され、
- FENM及び/又は前記少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、薬学的に許容される賦形剤と混合される。
本発明者らによって発見されたFENMとアセチルコリンエステラーゼ阻害剤との間の相乗的相互作用により、単剤治療法と比較して、処置有効性の増加及び/又は投与される用量の減少、したがって本発明の組成物の活性化合物、すなわちFENM及び少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤に関連する可能性のある副作用の軽減と共に、患者のより良好な治療管理を考慮することが可能となる。しかしながら、これらの低用量で治療利益は維持され、さらには改善される。
【0009】
したがって、特定の独立した実施形態において、本発明による組成物中で、
- FENM用量は、20mg/日以下のFENM投与量に適合し、
- 前記少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、10mg/日以下の投与量に適合する用量で存在するドネペジルであり、
- 前記少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、3mg/日以下の投与量に適合する用量で存在するリバスチグミンであり、及び/又は
- 前記少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、16mg/日以下の投与量に適合する用量で存在するガランタミンである。
その特定の実施形態の別の1つにおいて、本発明による組成物中で、FENM/少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤のモル比は、4以下、3以下、好ましくは2以下、好ましくは1以下である。
本発明の特定の目的は、本明細書の上記でその実施形態のいずれか1つにおいて記載された、薬物として使用するための組成物に関する。
【0010】
より詳細には、実験部分において実証されるように、FENMと少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤との相乗的組合せを含む組成物は、神経変性病態モデルにおける認知機能障害に対抗するのに特に有効である。したがって、本発明の別の目的は、タウオパチー、シヌクレイノパチー、アミロイドパチー、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、ハンチントン病、後部皮質萎縮症、ピック病、てんかん、血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、筋萎縮性側索硬化症の中から選択される病態の処置におけるその使用のための、その上記の実施形態のいずれか1つの前記組成物に関する。
本発明の組成物において、前に記載した使用のいずれか1つの目的で、FENM及び少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、別々に、同時に、又は逐次的に投与される。例えば、これは、一方でFENM及び他方で少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の特定の製剤を使用することによって行われてもよく、その結果、単位組成物に含まれる化合物の各々について区別された注入動態が得られ;或いは別の実施例によれば、一方で少なくともFENM及び他方で組合せの少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が、個別化されたガレヌス形態で製剤及び投与される。
【0011】
本発明の別の目的は、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、タクリン、又はそれらの薬学的に許容される塩のいずれか1種の中から選択される少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤と相乗的に組み合わせた、FENM又はその薬学的に許容される塩であって、タウオパチー、シヌクレイノパチー、アミロイドパチー、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、ハンチントン病、後部皮質萎縮症、ピック病、てんかん、血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、筋萎縮性側索硬化症の中から選択される病態の処置において使用するための、FENM又はその薬学的に許容される塩である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(A)Y迷路テストにおけるオリゴマー化Aβ25-35ペプチドによって誘発された記憶機能障害に対するFENM、ドネペジル(DPZ)、又はFENM-DPZの組合せの対症効果;データ±標準誤差。ANOVA:F(14,200)=2.511、p=0.0026、ビヒクルで処置した非中毒対照でn=30~31/群、及び処置群で11~20。**p<0.01、***p<0.001 vs.ビヒクルで処置且つ非中毒;#p<0.05、##p<0.01、###p<0.001 vs.Aβ25-35オリゴマーで中毒且つビヒクルで処置;ダネット検定。(B)ドネペジル(DPZ)、FENM、又はFENM-ドネペジルのミックス(MIX)によってもたらされる保護(PP)のレベルを示す保護スケール。計算された組合せ指数は1未満である。100%は、Aβ25-35オリゴマーで中毒させず、ビヒクルで処置したマウスのパフォーマンスレベルに対応する。0%の保護は、ビヒクルで処置した中毒マウスのパフォーマンスレベルに対応する。S:相乗効果;V:ビヒクル。
図2】(A)受動的回避テストにおけるオリゴマー化Aβ25-35ペプチドでの中毒により誘発された記憶機能障害に対するドネペジルFENM(DPZ)又はFENM-DPZの組合せの対症効果。結果はノンパラメトリックデータであり、中央値及び25%~75%偏差として示す。トレーニングは9日目、最後の処置の48時間後に行われる。保持は10日目、トレーニングの24時間後にテストした。Kruskal-Wallis ANOVA:H=54.27、p<0.0001、ビヒクルで処置した非中毒対照動物でn=34~36/群、及びAβ25-35オリゴマーで中毒させて化合物で処置した群で11~20。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001 vs.非中毒且つビヒクル処置の群;#p<0.05、##p<0.01、###p<0.001 vs.Aβ25-35で中毒させ、ビヒクルで処置した群;Dunn検定。(B)ドネペジル(DPZ)、FENM、又はFENM-ドネペジルのミックス(MIX)によってもたらされる保護(PP)のレベルを示す保護スケール。計算された組合せ指数は1未満である。100%は、Aβ25-35オリゴマーで中毒させず、ビヒクルで処置したマウスのパフォーマンスレベルに対応する。0%の保護は、ビヒクルで処置した中毒マウスのパフォーマンスレベルに対応する。S:相乗効果;V:ビヒクル。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
本発明に関して、特定の薬物又は化合物についての言及は、具体的に挙げられた薬物又は化合物だけでなく、薬物の活性分子又は前記化合物のあらゆる塩、水和物、誘導体、異性体、ラセミ体、鏡像異性的に純粋な組成物、コンジュゲート、又は対応する薬学的に許容されるプロドラッグも含む。好ましくは、化合物についての言及は、具体的に挙げられた化合物、並びに前記化合物のあらゆる塩、水和物、異性体、ラセミ体、異性体、鏡像異性的に純粋な薬学的に許容される組成物を含む。より好ましくは、化合物の指定は、具体的に指定されたそれ自体の化合物、並びにそのあらゆる薬学的に許容される塩を指定することを意図する。しかしながら、別途に記載がない限り、本発明による組成物又は組合せの化合物の量の質量の単位又は1日当たりの質量の単位での言及は、指定された化合物自体を意味する。
【0014】
「薬学的に許容される塩」とは、本発明の意味において、本発明の化合物の薬学的に許容される比較的無毒性の無機又は有機酸付加塩と理解されるべきである。医薬塩の形成は、酸性、塩基性、又は双性イオン性の薬物分子を対イオンと結合させて、薬物の塩水バージョンを作成することを含む。中和反応では多様な化学種を用いることができる。したがって、本発明の薬学的に許容される塩には、当該化合物が塩基として機能する場合、それを無機酸又は有機酸と反応させて塩を形成することによって得られるもの、例えば、酢酸、硝酸、酒石酸、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、カンファースルホン酸、シュウ酸、マレイン酸、コハク酸、又はクエン酸の塩が含まれる。本発明の薬学的に許容される塩はまた、当該化合物が酸として機能する場合、前記化合物を好適な塩基と反応して、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、又はコリンの塩を形成するものを含む。所与の活性成分の大半の塩は生物学的に同等であるが、一部は、特に、向上した溶解性又は生物学的利用能の特性を有し得る。塩の選択は、現在、Stahl及びWermuthにより彼らのハンドブック(Stahl and Wermuth)で教示されるように、薬物開発プロセスにおける一般的な標準作業である。
【0015】
本発明によるFENMとアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の組合せを実施するのに使用可能な化合物の例を、以下の表1に示す。
【表1】
【0016】
好ましいドネペジル塩はドネペジル塩酸塩である。
好ましいガランタミン塩はガランタミン臭化水素酸塩である。
好ましいリバスチグミン塩はリバスチグミン酒石酸塩である。
好ましいFENM塩はFENM塩酸塩である。
特に好ましいFENM塩はFENM臭化水素酸塩である。
【0017】
本発明の意味における「組合せ」という用語は、少なくともFENM及び少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を対象に共投与して生物学的効果を引き起こす処置を意味する。本発明による併用治療法において、これらの少なくとも2種の化合物は、一緒に又は別々に、同時に又は逐次的に投与することができる。特に、FENM及び前記少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、異なる経路及び/又は投与プロトコルに従って投与してもよい。したがって、これらは一緒に製剤化し得るが、本発明の意味における組合せの要素としての化合物は、別々に製剤化することもできる。例えば、FENMを経口投与してもよく、本発明による組合せの前記少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を、例えば静脈内、皮下、又は経皮的に前記対象に注射してもよい。別の実施形態において、例えば、FENMを経口投与してもよく、前記少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤も、前記対象に同時に又は時間をずらして経口投与してもよい。好ましくは、組合せの活性成分(FENM及び前記少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤)の投与の順序は、前記活性成分又はその活性代謝物が、対象が前記組合せの最大効果から利益を得るように、それらの生物学的効果を同時に発揮するような順序である。したがって、特に好ましい様式において、FENM及び前記少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、血漿又は脳脊髄液、好ましくは脳脊髄液中でその最大濃度に同時に達するように投与する。
【0018】
本発明による組合せに適用される相乗作用という用語は、前記組合せの各活性成分で観察された又は公知の記憶促進又は抗健忘効果が、それらの生理学的効果が相互作用するように使用される時に加算又は乗算される組合せを意味する。特に、この相乗効果により、単剤治療法で適用される活性成分が効果を有しない又は限定された効果を有するであろう用量で記憶促進又は抗健忘効果を得ることが可能になり、これにより、副作用を軽減させること及び/又は用量漸増プロトコルの回避若しくは期間短縮が可能になり得る。さらに、本発明による組合せの化合物の効果の間のこの相乗作用により、実験部分で示されるように、これらの記憶促進又は抗健忘効果を増強すること、又は複雑な記憶タイプを改善することも可能になる。2種の分子間の相互作用を分析し、化合物の組合せの相乗効果を決定するための方法は、当業者に周知である。非限定的な例は、Fraser(1872年)によって記載され、例えばMartinら(2020年)によって実施された原理による、アイソボログラムの分析及び組合せ指数の決定である。したがって、相乗作用の存在は、実験部分で説明される数学的方法を適用することによって検出することができる。相乗作用は、例えば、病態に関連する認知パフォーマンス又は形態学的機能障害を評価するためのテストにより、病態の動物モデルにおいてインビボで実証することができる。相乗作用はインビトロで、例えば、科学界で認知されているモデルにおけるインビトロ細胞テスト、例えば細胞毒性テストに関して、細胞生存率、及び神経細胞の場合には神経突起の成長、シナプスの形成等に関連する様々なパラメータを測定することにより実証することができる。認知症及び/又はADに関して、これらのテストの説明は、例えばChumakovら(2015年)によりなされている。
【0019】
「対象」とは、本明細書において、動物界のあらゆるメンバー、好ましくは哺乳動物、さらにより好ましくはヒトであると理解されるべきである。本発明の併用処置を必要とする対象は、認知症及び関連する認知機能障害をもたらす神経変性病態に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがあると考えられる対象として定義される。例えば、これらの状態は、タウオパチー、シヌクレイノパチー、アミロイドパチー、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、ハンチントン病、後部皮質萎縮症、ピック病、てんかん、血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、筋萎縮性側索硬化症である。本発明の組成物、組合せ、及び方法は、その早期、中等症、又は進行期のアルツハイマー病に関連する認知障害の処置に特に好適である。したがって、特定の実施形態において、前記対象は、その早期、中等症、又は進行期のアルツハイマー病に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがあると考えられる。別の特定の実施形態において、前記対象は、早期、中等症、又は進行期のアルツハイマー病に関連する認知障害、好ましくは早期のアルツハイマー病に関連する認知障害に罹患している、罹患している疑いがある、又は罹患するリスクがあると考えられる。
【0020】
本明細書で使用する場合、「処置」という用語は、本明細書の上記の疾患又は障害によって引き起こされる症状又は原因の治療法、防止、予防、遅延、又は軽減を含む。特に、処置という用語は、疾患及び関連する症状の進行をモニタリングすることを包含する。特に、処置という用語は、アミロイドβによって引き起こされる毒性の影響からの保護、又は処置された対象におけるこれらの影響の軽減若しくは遅延を包含する。特に、処置という用語は、前述の疾患の認知症状の改善、停止、又は遅延を指す。
FENMと少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の組合せ
本明細書の以下に示す実験データで示されるように、FENM及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の記憶促進又は抗健忘効果の相乗的相互作用が発見され、Aβ25-35誘発毒性の実験動物モデルにおいて認知症状の改善がもたらされた。アミロイドペプチド中毒Aβ25-35によって引き起こされる認知低下に対するこの組合せの保護効果は、短期の作業記憶と長期記憶の両方で観察される。
したがって、第1の態様において、本発明は、FENM又はその薬学的に許容される塩のいずれか1種と、少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤又はその薬学的に許容される塩のいずれか1種との相乗的組合せに関する。
【0021】
特定の実施形態において、前記少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、又はタクリンの中から選択される。ドネペジル、ガランタミン、及びリバスチグミンは、20年を超えて承認されており、これらの副作用及び薬理学的特性が周知であるため、特に好ましい。タクリンは、その肝毒性のために、あまり好ましくない。しかしながら、認知症状からの保護に関する本明細書で強調される相乗効果により、この肝毒性が観察されない低用量の使用を検討することが可能となり得る。FENMとドネペジルの相乗的組合せが特に好ましい。
前述のように、本発明の組合せで観察される相乗効果により、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤がヒトで使用される最小用量又はこれらの最小用量よりも低い用量をヒトで使用することを検討することが可能になる。
したがって、特定の実施形態において、本発明による相乗的組合せで、少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤はドネペジルであり、1日当たり10mg以下、1日当たり5mg以下、1日当たり2.5mg以下の用量で投与されるが、それでもなお、対象の認知能力に及ぼす組合せの有益な効果を観察するのに十分である。
【0022】
別の特定の実施形態において、本発明による相乗的組合せで、少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤はガランタミンであり、1日当たり16mg以下、1日当たり8mg以下、1日当たり4mg以下、又は1日当たり2mg以下の用量で投与されるが、それでもなお、対象の認知能力に及ぼす組合せの有益な効果を観察するのに十分である。
別の特定の実施形態において、本発明による相乗的組合せで、少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤はリバスチグミンであり、1日当たり3mg以下、1日当たり1.5mg以下、又は1日当たり1mg以下の用量で投与されるが、それでもなお、対象の認知能力に及ぼす組合せの有益な効果を観察するのに十分である。
特定の実施形態において、FENMは、本発明による相乗的組合せで、1日当たり20mg以下、1日当たり10mg以下、又は1日当たり5mg以下の用量で使用されるが、それでもなお、対象の認知能力に及ぼす組合せの有益な効果を観察するのに十分である。
【0023】
ヒト対象の認知能力及びその経過は、当業者に周知のテストにより測定することができる。ヒト対象の認知評価に一般的に使用されるテストは、例えば、ミニメンタルステート検査(MMSE又はFolsteinテスト)、改訂ミニメンタルステート検査(すなわち3MSスケール)、簡易メンタルテストスコア(AMTS又は簡易メンタルテスト)、精神遅滞者のための認知症質問票(すなわちDMR質問票)、認知能力スクリーニング機器(CASI)、トレイルメイキングテスト、時計描画テスト、アルツハイマー病評価スケール-認知(ADAS-Cog)、認知の一般医評価(GPCOG)、モントリオール認知評価(MoCA)、又はローランドユニバーサル認知症評価スケール(RUDAS)、又はアルツハイマー病共同研究-日常生活動作(ADCS-ADL)である。
より詳細には、MMSEにより、主要な神経認知機能障害(認知症)を有するヒトを、特定の病態に縛られることなくスクリーニングすることが可能になる。MMSEはまた、ヒトの認知状態をモニタリングし、神経認知機能障害を有するヒトの認知機能の低下を測定するのに使用される。このテストは、方向、記録、注意、及び計算、記憶保持、言語、及び組立て実践を評価する。CERAD(Consortium to Establish a Registry for Alzheimer’s Disease(アルツハイマー病のレジストリ確立のためのコンソーシアム)の頭字語)は、MMSEで得られたスコアに関連した認知症重症度スケールを確立した。スコア19~24が軽症認知症に関連し、10~18が中等症認知症、及びスコア10未満が重症認知症に相当し、最高スコアは30である。スコアの2ポイントの変化は、臨床的関連があると一般的に考えられる。
【0024】
ADAS-Cogはアルツハイマー病スケールの認知のサブスケールであり、したがって認知症の認知関連の側面のみに関係する。したがって、これはあらゆるタイプの認知症の進行の評価(すなわち、スコアリング)及びモニタリングに使用することができる。ADAS-Cogは、方向、記憶、実行機能、視空間能力、言語、又は実践を評価し、スコアの範囲は0~70であり、スコアが高いほどより大きな欠損を示す。ADAS-CogはMMSEよりも感度が高いと考えられる。これは、抗認知症処置での販売承認の化合物候補の臨床評価のために、及びまた認知機能障害の経過を測定するために最も一般的に使用されるテストの1つである。
したがって、対象の認知能力に及ぼす、組合せの有益な効果を有する組合せは、所与の期間、同じ病期で未処置の対象に確立された通常の経過に関して、対象の認知能力の劣化の減速又は安定化を示すことになる。換言すると、例えばADAS-Cogの場合、対象の認知能力に及ぼす有益な効果は、同等の段階で同等の年齢の未処置の対象で観察されるスコアの通常の悪化と比較して、ADAS-Cogスコアの減少、安定化、又はより少ない強度の増加に対応することになる。スコアの悪化は病態の段階及び対象の年齢によるが、未処置のアルツハイマー病を有する対象において、ADAS-Cogスコアの年間5.82ポイントの増加が一般的に観察される(Zhangら、2020年)。MMSEに関しては、例えば、対象の認知能力に及ぼす有益な効果は、未処置の対象で観察されるMMSEスコアの通常の悪化と比較して、MMSEスコアのより少ない増加、安定化、又は強度の減少に対応することになる。未処置のアルツハイマー病を有する対象において、MMSEスコアの年間2.28ポイントの減少が一般的に観察される(Rossettiら、2010年)。
【0025】
意外なことに、FENMと少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の間の相乗作用は、非常に低いFENM/アセチルコリンエステラーゼ阻害剤のモル比で観察される。実際、現状でメマンチン及びドネペジルでテストされたモル比は、メマンチン20mg及びドネペジル10mgに基づく組合せを考えると4よりも大きく、これは特に、ドネペジル塩酸塩及びメマンチン塩酸塩に基づく、FDAによって承認されたNAMZARIC(登録商標)に含まれる比である。経口投与時のドネペジル及びメマンチンのヒトにおけるTmax値は同等であることに留意すべきであり、メマンチンでは3~8時間(Maekawaら、2019年)、及びドネペジルでは4.1±1.5時間(Rogers&Friedoff、1998年)である。実験データでは、本発明の組合せで発見された相乗効果がはるかに低いモル比で得られ、これはさらには逆になり得ることが示され、このことは、FENMをベースとする相乗的組合せの特異性を反映している。
【0026】
したがって、本発明によるFENMと少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤との相乗的組合せの特定の実施形態において、FENM/アセチルコリンエステラーゼ阻害剤のモル比は、4以下、3以下、2以下、好ましくは1以下、0.8以下、又は0.5以下である。前記FENM/アセチルコリンエステラーゼ阻害剤のモル比は0.1以上である。特に好ましい様式において、前記FENM/アセチルコリンエステラーゼ阻害剤のモル比は、1未満且つ0.1以上である。別の特定の実施形態において、前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤はドネペジルであり、FENM/ドネペジルのモル比は4以下、3以下、2以下、好ましくは1以下、0.8以下、又は0.5以下である。前記FENM/アセチルコリンエステラーゼ阻害剤のモル比は0.1以上である。特に好ましい様式において、前記FENM/ドネペジルのモル比は、1未満且つ0.1以上である。
【0027】
FENMと少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤との相乗的組合せを含む本発明による組成物。
別の態様において、本発明は、本明細書の上記に記載した相乗的組合せを含む組成物に関する。
この組成物において、FENM又はその薬学的に許容される塩のいずれか1種、及び少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤又はその薬学的に許容される塩のいずれか1種は、一緒に又は別々に製剤化される。
特定の形態において、FENM及び少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤のみが、前記組成物の活性成分である。換言すると、FENM及び少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤のみが、治療又は防止活性を有する組成物内の化合物である。
好ましくは、組成物は医薬品の形態で、例えば、限定されるものではないが、経口、局所(皮膚、経口、舌下)、又は非経口(皮下、筋肉内、又は静脈内)で対象に投与される。経口投与が特に好ましい。
【0028】
この組成物内の活性成分、すなわち少なくともFENM及び少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の量は、本発明の相乗的組合せについて本明細書の上記で決定した用量に適合する。換言すると、前記組成物が単位投与量の形態(丸剤、カプセル剤、散剤、乳剤、液剤の形態)である場合、前記投与量は、本発明の相乗的組合せについて決定された投与量の倍数又は割った数であるFENM又は少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の量を含み、それにより、1つ又は複数の用量で、上記で定義された適切な投与量を得ることが可能になる。特定の実施形態において、本発明による組成物は、ドネペジル10mg、ドネペジル7.5mg、ドネペジル5mg、又はドネペジル2.5mgを含む。別の特定の実施形態において、本発明による組成物は、ガランタミン16mg、ガランタミン8mg、ガランタミン4mg、又はガランタミン2mgを含む。別の特定の実施形態において、本発明による組成物は、リバスチグミン3mg、リバスチグミン1.5mg、又はリバスチグミン1mgを含む。
【0029】
特定の実施形態において、本発明による組成物は、FENM20mg、FENM10mg、FENM7.5mg、FENM5mg、又はFENM2.5mgを含む。
別の実施形態において、本発明による組成物は、FENM20mg及びドネペジル10mg、ドネペジル7.5mg、ドネペジル5mg、又はドネペジル2.5mgを含む。別の実施形態において、本発明による組成物は、FENM10mg及びドネペジル10mg、ドネペジル7.5mg、ドネペジル5mg、又はドネペジル2.5mgを含む。別の実施形態において、本発明による組成物は、FENM7.5mg及びドネペジル10mg、ドネペジル7.5mg、ドネペジル5mg、又はドネペジル2.5mgを含む。別の実施形態において、本発明による組成物は、FENM5mg及びドネペジル10mg、ドネペジル7.5mg、ドネペジル5mg、又はドネペジル2.5mgを含む。別の実施形態において、本発明による組成物は、FENM2.5mg及びドネペジル10mg、ドネペジル7.5mg、ドネペジル5mg、又はドネペジル2.5mgを含む。
【0030】
別の実施形態において、本発明による組成物で、FENM/アセチルコリンエステラーゼ阻害剤のモル比は、4以下、3以下、2以下、好ましくは1以下、0.8以下、又は0.5以下である。前記比は0.1以上である。特に好ましい様式において、前記FENM/アセチルコリンエステラーゼ阻害剤のモル比は、1未満且つ0.1以上である。別の特定の実施形態において、前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤はドネペジルであり、FENM/ドネペジルのモル比は4以下、3以下、2以下、好ましくは1以下、0.8以下、又は0.5以下であり、前記比は0.1以上である。特に好ましい様式において、前記FENM/ドネペジルのモル比は、1未満且つ0.1以上である。
用量は、1日を通して分配された複数の用量で投与してもよく、1日を通しての用量の数によって所望の1日用量を得ることが可能になる。したがって、特定の実施形態において、考慮される用量は、1~4回の1日用量、例えば1回、例えば2回、例えば3回、又は4回で投与してもよい。
【0031】
好ましい実施形態において、前記組成物で、FENM又は少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の組合せは、あらゆる操作、例えば体積測定、錠剤の秤量又は分割を必要とせずに、1用量に相当する用量を提供するように調整され、これによりあらゆる特定の計算又は操作が回避されるので、これは認知機能障害を有する対象において特に有利である。
例えば、FENM又は少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、別個の散剤、微小顆粒剤、顆粒剤、又は丸剤の形態で別々に製剤化し、その後、摂取を容易にするようにカプセル剤中に組み合わせる。
医薬組成物は、従来の製薬慣行(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (23rd ed.), ed. Adeboye Adejare, 2020を参照のこと)及び活性成分のPK/PD特性に従って製剤化してもよい。従来、本発明による組成物において、FENM及び/又は前記少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、薬学的に許容される賦形剤と混合する。
【0032】
一実施形態において、前記組成物は錠剤又は丸剤の形態である。前記錠剤又は丸剤は、1、2、3、又は4片(複数可)に分割可能であり、前記錠剤の1、2、又は3片を使用して摂取に必要な用量を対象に提供することができてもよい。これは、例えば処置に用量増加の期間が必要とされる場合に特に関心が持たれることであり、目標1日用量に到達するために、剤片が増加ステップに対応し、錠剤又は丸剤全体が処置の目標用量に対応してもよい。
一実施形態において、前記組成物で、FENM及び少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、同じ錠剤又は丸剤内で同じ賦形剤と混合する。特定の実施形態において、FENM及び少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、前記錠剤又は丸剤とは異なる区画に、それに特有の賦形剤と共に存在し、これは、それらの物理化学的特性又は薬物動態学的特性に依存する。
別の実施形態において、特にPK/PDプロファイルが異なる分子の場合に関心が持たれることであるが、FENMと少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、この錠剤内で別々に存在する。したがって、特定の実施形態において、FENM及び少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、前記錠剤又は丸剤とは異なる区画に存在し、例えば、一方の化合物は前記錠剤又は丸剤の外側に位置し、他方の化合物は内側に位置し、これにより、これらの化合物を別々に時間をずらして投与することが可能になる。
【0033】
本発明による組成物の一実施形態において、FENM及び/又は少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、実質的に投与直後に、あらゆる時間に、又は投与後の所定の期間に放出されるように、すなわち、制御された方法で体内に放出されるように製剤化してもよい。制御放出製剤には、(i)長期間にわたって体内で化合物又はその活性誘導体の実質的に一定の濃度を作り出す製剤、(ii)所定の待ち時間後、長期間にわたって体内で化合物又はその活性誘導体の実質的に一定の濃度を作り出す製剤、(iii)活性化合物又はその誘導体の作用を、前記化合物又はその活性誘導体の比較的一定で有効なレベルを体内で維持することにより、所定の期間維持し、前記化合物又はその活性誘導体の血漿中レベルの変動に関連する望ましくない副作用を同時に最小化することをさらに可能にする製剤;(iv)化合物又はその活性誘導体の作用を、例えば、疾患組織若しくは臓器の近傍若しくは中に、又は特定の身体区画に局在化させる製剤;及び(v)担体又は化学誘導体を用いて特定の標的細胞型に薬物を送達するように、前記化合物又はその活性誘導体の作用を向ける製剤が含まれる。
【0034】
制御放出製剤の形態での化合物の投与は、化合物が(i)狭い治療指数(すなわち、有害な影響、副作用、又は毒性反応につながる血漿中濃度と治療効果につながる血漿中濃度との差が小さく、一般に、治療指数TIは、致死量の中央値(DL50)と有効量の中央値(DE50)の比として定義される);(ii)消化管における吸収の狭いウィンドウ;又は(iii)生物学的半減期が非常に短く、血漿中レベルを有効治療レベルで維持するには頻繁な投与が必要であることを有する場合に特に好ましい。検討される薬物の代謝に適合した化合物又はその活性誘導体の放出速度を有する放出を得るために、様々な戦略を追求してもよい。制御放出は、例えば、当業者に公知の多様な種類の制御放出組成物及びコーティングを含む、多様な製剤パラメータ及び成分の適切な選択によって達成してもよい。したがって、化合物は、投与時に前記化合物を制御された方法で放出する医薬組成物(丸剤又はカプセル剤、油性液剤、懸濁剤、乳剤、マイクロカプセル剤、マイクロスフェア剤、ナノ粒子剤、貼付剤、及びリポソーム剤の単位又は複数の組成物)に好適な賦形剤と共に製剤化される。
さらにより特定の実施形態において、特定の技術的手段、例えばリザーバ、ポンプ、又は経皮貼付剤(換言すると、物質を経皮的に分注する自己接着貼付剤)が、少なくともFENM及び/又は少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の制御放出に寄与し得る。
【0035】
別の実施形態において、前記組成物は液体形態で製剤化する。これは、アンプル等の容器中に単位用量の形態で、又は適切な用量を得るためのサンプリング及び任意に所望の体積の送達を可能にする装置と関連するボトル又はバイアル等の容器中に包装してもよい。
本発明による相乗的組合せ又は組成物の治療的使用。
FENMと少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の組合せで、本発明者らによって発見された新規の相乗効果は、実験部分に記載されているように、新規の治療的解決策を形成する。
したがって、別の態様によれば、本発明は、特に、薬物としてのその使用のための、その全ての実施形態において前に記載した組成物又は相乗的組合せに関する。好ましい実施形態において、本発明は、薬物としてのその使用のための、その全ての実施形態において本明細書の上記で記載したFENMとドネペジルとの相乗的組合せ又はそれを含む組成物に関する。
さらなる態様によれば、本発明は、タウオパチー、シヌクレイノパチー、アミロイドパチー、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、ハンチントン病、後部皮質萎縮症、ピック病、てんかん、血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、筋萎縮性側索硬化症の中から選択される病態の処置におけるその使用のための、前に記載した組成物又は相乗的組合せに特に関する。特定の実施形態において、前記処置は、その早期、中等症、又は進行期のアルツハイマー病、好ましくは、その早期のアルツハイマー病の処置に関する。特定の実施形態において、前記処置は、タウオパチー、シヌクレイノパチー、アミロイドパチー、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、ハンチントン病、後部皮質萎縮症、ピック病、てんかん、血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、筋萎縮性側索硬化症の中から選択される病態のうちのいずれか1つに関連する認知障害の処置に関する。
【0036】
特定の実施形態は、早期、中等症、又は進行期のアルツハイマー病、好ましくは早期に関連する認知障害の処置におけるその使用のための、前述の組成物又は相乗的組合せに関する。実際、実験データでは、長期文脈記憶機能障害の処置において特に重要な相乗効果が示され、これは、疾患の早期の患者の場合に特に有利である。
別の特定の実施形態は、タウオパチー、シヌクレイノパチー、アミロイドパチー、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、ハンチントン病、後部皮質萎縮症、ピック病、てんかん、血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、筋萎縮性側索硬化症の中から選択される病態のうちのいずれか1つに関連する
- 短期記憶、
- 中期記憶、
- 空間記憶、又は
- 認識及び/若しくは学習能力
の変化のためのその使用のための、前に記載した組成物又は相乗的組合せに関する。特定の実施形態において、短期記憶、中期記憶、空間記憶、又は認識及び/若しくは学習能力の前記機能障害は、早期、中等症、又は進行期のアルツハイマー病、好ましくは早期に関連する。
【0037】
別の態様によれば、本発明は、タウオパチー、シヌクレイノパチー、アミロイドパチー、アルツハイマー病、パーキンソン病、多系統萎縮症、ハンチントン病、後部皮質萎縮症、ピック病、てんかん、血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、筋萎縮性側索硬化症の中から選択される病態を処置するための方法であって、FENM又はその薬学的に許容される塩のいずれか1種と、少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤又はその薬学的に許容される塩のいずれか1種との相乗的組合せを、必要とする対象に投与することを含む方法に関する。
前記方法において、前記相乗的組合せは、全ての実施形態において前に記載した通りである。一実施形態において、前記方法は、本明細書の上記で記載した本発明による組成物を投与することを含んでもよい。
【0038】
特定の実施形態において、前記方法は、FENMと少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤とを別々に、同時に、又は逐次的に投与することを含む。この実施形態において、FENMと少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、同一の経路、例えば経口、非経口、又は経皮経路を介して対象に別々に投与してもよい。代替の実施形態において、FENMと少なくとも1種のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、異なる経路を介して対象に投与してもよい。例えば、一方は経口経路で、他方は経皮又は非経口経路である。特定の例は、Exelon(登録商標)の名称で販売されているリバスチグミン又はドネペジル(米国においてAdlarity(登録商標)の名称で治験中)の経皮形態である。
【実施例
【0039】
略語
Aβ25-35:APPペプチドのNt-GSNKGAIIGLM-Ct配列(配列番号1)の11アミノ酸の断片。
FENM:3(2-フルオロエチル)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン-1-アミンブロモハイドレート(また、フルオロエチルノルメマンチンブロモハイドレート)。
DPZ:ドネペジル塩酸塩。
YMT:Y迷路における自発的交替テスト、「Y迷路テスト」。
PAT:受動的回避テスト、「Passive Avoidance Test」又は「ステップスルー受動的回避テスト」。
ICV:脳室内。
IP:腹腔内。
CI:組合せ指数。
iChE:アセチルコリンエステラーゼ阻害剤。
PP:保護パーセント。
CNS:中枢神経系。
AD:アルツハイマー病。
【0040】
1.装置及び方法
動物実験は、欧州連合指令第2010/63号の規定に従って行い、フランス共和国の国家倫理諮問委員会(CCNE)及びARRIVE指令(Kilkennyら、2010年)により正式に認可されている。
1.1.動物
インビボ実験は、7~9週齢、質量32±2gの雄スイスOF-1マウス(1月、St Berthevin、フランス)で行った。動物は、制御された環境(12:00昼夜サイクル、照明は午前7:00に点灯し、行動実験は午前9:00~午後5:00に行われる)で、制御された雰囲気及び音環境で、8~10匹の個体の群でプラスチックケージに収容し、餌及び飲み物に自由にアクセスする。
1.2.テスト化合物及びペプチド
DPZ及びFENMストック溶液。
DPZはEisai Co.Ltd(東京、日本)から入手した。FENMはM2i Life Sciences(Saint-Cloud、フランス)から入手した。化合物のストック溶液は、5mg/Kgの用量に相当する2mg/mLの濃度でNaCl緩衝液(0.9%、ビヒクル)に溶解することにより得た。これらのストック溶液は4℃で最大2週間保存する。
【0041】
アミロイドペプチド[25-35]のストック溶液;オリゴマーの形成。
Aβ25-35と表記されるアミロイドペプチド[25-35](Eurogentec、Angers、フランス)を3mg/mLの濃度で滅菌蒸留水に溶解し、こうして形成したストック溶液を分注し、使用するまで-20℃で保存した。
Aβ25-35オリゴマーは、動物に注射する前に37℃で4日間インキュベートした場合に、Mauriceら(1996年)により記載されたように形成する。ビヒクル溶液又は対照ペプチドは、投与前に同じ処理にかける。ビヒクル溶液(蒸留水)の注射は、Aβ25-35と同じアミノ酸をランダムな順序で含み、オリゴマー化しない対照ペプチドSc Aβ(対照ペプチド)の注射と同じ効果の欠如となることが既に実証されている。
動物への投与
化合物は、体重20g当たり体積100μLでIP投与する。FENM/DPZの組合せの投与は、体重20g当たり体積100μLで行う。実験部分で言及した化合物の用量は、使用した化合物の塩の用量であり、化合物自体の質量当量ではない。モル単位で表した投与した用量を表2に示す。各化合物について、投与した用量は0.01、0.03、0.1、0.3、及び1mg/kgである。組合せの場合、ドネペジル及びFENMの共投与した用量は、それぞれ0.03及び0.01mg/kgであった。
【0042】
mMol/Kg単位で表した対応する用量を以下の表2に示す。
【表2】

Aβ25-35オリゴマー溶液とビヒクル(滅菌蒸留水)は、Mauriceら(1996年)に記載されているように、ICV注射によってマウスに投与する。
【0043】
1.3.認知/行動テスト
Aβ25-35オリゴマーのICV注射モデルは、現状で周知のモデルである。このモデルは、化合物の神経保護活性に関連するスクリーニングモデルであり、より詳細にはアルツハイマー病の関連する第一選択モデルであると考えられる。Aβ25-35オリゴマーは、マウスの神経細胞に対して細胞毒性があり、空間及び作業記憶障害を誘発することが公知である。この欠損は、特に海馬におけるミトコンドリアストレス、酸化ストレス、及び細胞のアポトーシス、並びに中枢神経系の炎症の発生に付随して起こる。
Aβ25-35オリゴマーによって誘発される神経変性の認知症状を減少させる化合物及びその組合せの能力をテストする。この目的で、テスト化合物の投与は、Aβ25-35オリゴマーの注射と同じ日に行い、Aβ25-35オリゴマーの注射後7日目まで毎日続け、その後、Aβ25-35オリゴマーの注射後8日目にマウスをYMTテスト又はPATに供する。
【0044】
受動的回避テスト(PAT)
このテストは、長期の非空間(文脈)記憶を測定する。このテストに使用する装置は、2つのコンパートメント(15×20×高さ15cm)を有する箱であり、一方は白色PVC壁で照らされ、他方は黒色PVC壁及びメッシュ床を有し暗闇である。コンパートメントはギロチン扉で仕切られている。60Wのランプが箱の40cm上に位置し、白色のコンパートメントを照らす。ジェネレーター(Lafayette Instruments、Lafayette、米国)により電気ショック(3秒間0.3mA)を格子状の床に加えることができる。試験は、学習セッション及びテストセッションからなる。トレーニングセッション中はギロチン扉は閉じている。各マウスを白色のコンパートメントに入れる。5秒後、ドアを上げる。マウスが暗闇コンパートメントに入り、その4本の足がメッシュに接触した際にドアが閉まり、放電を3秒間加える。マウスが暗闇コンパートメントに入るまでにかかる時間(STL-Tg)及びショック感度のレベル(0=兆候なし;1=サージ;サージ及び発声)を記録する。テストセッションは学習セッションの24時間後に行う。各マウスを照らされた白色コンパートメントに戻し入れる。5秒後、ドアを上げ、待ち時間(STL-R)、すなわちマウスが暗闇コンパートメント内に行くのにかかる時間を測定する。最大時間は300秒である。STL-Tg及びSTL-Rが10秒未満且つ感度レベルが低いマウスはテストで考慮しない。損耗率は通常5%である。機能障害の記憶能力を有するマウスは、正常な能力を有するマウスよりも低いSTL-Rを有することになる。結果は四分位数(25%~75%)と共にそれらの中央値で示す。
【0045】
Y迷路自発的交替テスト(YMT)
自発的交替テストを使用して、げっ歯類の(超短期の)空間作業記憶を試験する。迷路は不透明な灰色のポリ塩化ビニル(PVC)で作製されている。各アームは長さが40cm、高さが13cm、及び幅がその底面で3cm、その頂部で10cmである。アームは互いに1点で収束し、異なるアーム間の角度は等しい。簡単に述べると、各マウスをアームの端に置き、8分間のセッションの間、自由に動くように放置する。マウスをドロップしたアームを含め、マウスの各アームの進入を記録する。交替は、動物が3つの異なるアームに連続して入ることと定義する。したがって、交替の最大数は、各アームの進入の総数から2を引いたものであり、交替パーセントは式:
【数1】
に従って計算される。
極端な行動(交替パーセント20%未満又は90%超)を示す動物データは計算に考慮しない。損耗率は通常5%である。正常な条件下で、マウスは各アームの探索を自発的に交互に行うことになる。機能障害の記憶力及び/又は方向感覚を有するマウスは、その交替パーセントが減少することになる。
【0046】
1.4.統計分析-組合せ指数(CI)の計算
統計分析
分析はPrism v5.0(GraphPad Software、San Diego、米国カリフォルニア州)を用いて行った。データは、単方向分散分析(ANOVA、F値)、それに続くDunnett検定、又はノンパラメトリックKruskal-Wallis ANOVA(H値)、それに続くDunn比較検定を用いて分析した。統計的有意レベルはp < 0.05、p < 0.01、及びp < 0.001である。
組合せ指数
所与の効果レベルにおける2種の化合物の相互作用の性質は、アイソボログラム分析によって評価した(Martinら、2020年;Mauritius、2016年)。アイソボログラムの表現はFraserの概念(1872年)に従う。用量反応曲線は二相効果に従い、曲線の上昇部分のみを計算に考慮した。化合物A(ICx,A)及び化合物B(ICx,B)について、所与の効果(例えば、ICx=IC50)をもたらすのに必要な濃度を決定し、2座標プロットのx及びy軸に示し、2点、(ICx,A,0)及び(0,ICx,B)を形成する。この2点を接続する線が相加線である。薬物A+Bの混合物において、同じ効果をもたらす組合せに含まれるA及びBの濃度は、座標(CA,x,CB,x)で表される。
【0047】
組合せ指数(CI)は以下:
IC=CA,x/ICx,A+CB,x/ICx,B
の通りに計算し、式中、CA,x及びCB,xは、最大組合せ効果のx%を生じる組合せで使用される化合物A及びBの濃度である。
CIは組合せ指数である。ICx,A及びICx,Bは、最大効果のx%をもたらすのに単独で必要な化合物A及びBの濃度である。1より小さい/1に等しい/1より大きいCIは、それぞれ相乗作用/相加作用/拮抗作用を示す。アイソボログラムの表現に基づいてCIを計算するために、交替のパーセント及び受動的回避待ちを各処置群について保護パーセント(PP)として表し、PP(V/V)を100%及びPP(Aβ25-35/V)を0%とした(Martinら、2020年;Mauritius、2016年)。
【0048】
2.結果
2.1.Aβ中毒モデルにおける短期作業記憶(YMT)に及ぼすFENM-iChE組合せの相乗効果。
Aβ25-35オリゴマーに誘発される短期作業記憶の障害に及ぼすFENM及びDPZの抗健忘効果がデータにより確認される。
無効用量、すなわち、単独で投与された際に有意の限界でFNEM誘発障害に及ぼす効果が観察される化合物の用量、又は最初に有意に活性のある用量のすぐ下の用量を最初に調査した。
【0049】
Aβ25-35で中毒させ、FENMを単独で投与したマウスのパフォーマンスは、0.03mg/Kgの時点で対照と比較して有意に改善する(図1)。0.01mg/Kgの用量で投与したマウスで観察される改善は、統計的有意性の限界である。0.03mg/kgの時点で、FENMはAβ25-35で中毒させたマウスの交替パーセントを有意に改善し、さらに、これらのパフォーマンスは非中毒マウスのものと有意差はなかった。ドネペジルの単独の投与でも、このテストで測定された動物の記憶能力の改善が可能となる。しかしながら、0.01mg/Kgで改善は観察されなかった(示さず)。0.03mg/Kgで投与した場合、DPZは中毒動物のパフォーマンスに統計的に有意な改善を与えない。0.1mg/kgで投与した場合、DPZは記憶症状の改善を与え、これは、中毒処置動物のパフォーマンスは、非中毒未処置動物のものと有意差がないからであり;しかしながら、これらのパフォーマンスは、未処置中毒マウスで観察されたものとも有意差がない。
FENM及びDPZをそれぞれ0.01及び0.03mg/kgで中毒マウスを併用処置すると、交替パーセントの改善がもたらされ、これは非中毒マウスと有意差がない。この併用処置におけるFENM/DPZのモル比は0.5である。
【0050】
これらの実験の組合せ指数データを以下の表3に示す。
【表3】

無効濃度のFENM-DPZの組合せで0.3のIC(表3)が測定される。このICは、図1に表される保護パーセントスケールで示されるように、FENMとDPZの間の強い相乗的相互作用を反映している。この強い相乗的相互作用により、用量にかかわらず、分子単独で投与したマウスでは到達しない保護パーセントが得られる。自発的交替テストにおいて、これは、分子単独で処置した動物と比較して、FENM-DPZの組合せで処置した中毒動物の記憶パフォーマンスの改善(図1)となる。
【0051】
2.2.Aβ中毒モデルにおける長期記憶(PAT)に及ぼすFENM-iChE組合せの相乗効果。
Aβ25-35オリゴマーに誘発される長期作業記憶の障害に及ぼすFENM及びDPZの抗健忘効果がデータにより確認される。
Aβ25-35で中毒させ、用量0.3mg/kg又は1mg/kgのFENMをIP投与したマウスは、対照の非中毒未処置マウスと有意差のないパフォーマンスを示し(図2);これらのパフォーマンスは、未処置中毒マウスと有意差がある。低用量でのFENMの投与では、マウスはAβ25-35中毒による記憶障害から保護されない。テストした最高用量のDPZ(1mg/kg)のみが、Aβ25-35オリゴマーでの中毒の健忘の影響を打ち消すのに有効であることが証明され、動物の待ち時間は、未処置中毒動物のものと有意差がある。しかしながら、これらの待ち時間は未処置非中毒動物の待ち時間と未だ有意差があるため、改善は、動物のパフォーマンスを完全に回復させるには十分ではない。
【0052】
FENM及びDPZを、FENM及びDPZの最も低く最も効果の低い用量のそれぞれ0.01及び0.03mg/kgで併用投与すると、未処置中毒マウスと比較して、中毒マウスの長期記憶能力の有意な保護がもたらされる(図2)。特に関心が持たれる様式において、これらの用量は、このテストで特定された最初の有効用量よりも1桁を超えて低く、長期記憶に及ぼす化合物の特に重要な相乗効果を反映している。
【0053】
以下の表4に示すように、化合物の低用量でのこのような保護は、実質的に低いが、各化合物の特に有意な相乗作用によって説明することができ、特に低い組合せ指数によって支持され、これは特に有意な相乗効果を反映している。
【表4】
【0054】
3.結論
これらのデータでは、短期作業記憶と長期作業記憶の両方について、iChEの保護効果と組み合わせたFENMの保護効果の相乗作用が示される。さらに、この相乗作用は、FENMをメマンチンで置き換えた組合せでは観察されないため、FENMの使用に特有である。
これらの結果から、AD又は関連病態の記憶症状の処置について現在承認された治療解決策のない患者、例えば早期の病期の患者に、FENM-iChEの組合せの使用を検討することが可能になる。また、観察された相乗作用により、有害作用がほとんど又は全く予測されない特に低用量の化合物で治療効果を得ることが可能になる。
【0055】
参考文献
図1
図2
【配列表】
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【国際調査報告】