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特表2025-500108リチウム二次電池用電着銅箔の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用電着銅箔の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 1/04 20060101AFI20241226BHJP
   C25D 3/38 20060101ALI20241226BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C25D1/04 311
C25D3/38 101
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518630
(86)(22)【出願日】2022-12-19
(85)【翻訳文提出日】2024-06-07
(86)【国際出願番号】 EP2022086789
(87)【国際公開番号】W WO2023118001
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】LU501043
(32)【優先日】2021-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520068685
【氏名又は名称】サーキット フォイル ルクセンブルグ
(74)【代理人】
【識別番号】100110319
【弁理士】
【氏名又は名称】根本 恵司
(74)【代理人】
【識別番号】100099472
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 猛
(74)【代理人】
【識別番号】100150773
【弁理士】
【氏名又は名称】加治 信貴
(72)【発明者】
【氏名】ジャクマン、ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】ロゼイン、ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ストリール、ミシェル
【テーマコード(参考)】
4K023
5H017
【Fターム(参考)】
4K023AA19
4K023BA06
4K023CA04
4K023DA06
5H017AA03
5H017AS02
5H017AS10
5H017BB16
5H017CC01
5H017EE01
5H017EE10
5H017HH06
(57)【要約】
本発明は、電着銅箔及びその製造方法に関する。銅箔は、52kgf/mm超の製造時引張強度を有し、35℃で120日後に50kgf/mm超の引張強度を示し、熱応力作用下で再結晶特性を示す。銅箔は、少なくとも60g/Lの濃度の銅;少なくとも60g/Lの濃度の硫酸;2mg/L未満の濃度のハロゲンイオン;0.001mg/L及び0.1mg/L間の濃度のチオ尿素-族電解質添加剤;10mg/L未満の電解質中のTOC、を含む電解質を使用して製造される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着銅箔が回転するドラム形状のカソード、固定アノード、電解質を含む電鋳セル内で連続的に形成される、電着銅箔の製造方法であって、
電解質が、
少なくとも60g/Lの濃度の、好ましくは銅イオンの形態の銅;
少なくとも60g/Lの濃度の硫酸;
2mg/L未満の濃度のハロゲンイオン;及び
0.001mg/L及び0.1mg/L間の濃度のチオ尿素-族電解質添加剤、を含み、
電解質中のTOC含有量が10mg/L未満である、
電着銅箔の製造方法。
【請求項2】
ハロゲンイオンは、電解質中で、1mg/L未満、好ましくは0.95、0.9、0.85又は0.8mg/L以下、より好ましくは0.6mg/L以下の濃度で存在する、請求項1に記載された方法。
【請求項3】
ハロゲンイオンは、塩化物及び/又は臭化物イオンである、請求項1又は2に記載された方法。
【請求項4】
チオ尿素-族電解質添加剤は、電解質中で、0.09mg/L以下、好ましくは0.085、0.080、0.075、0.070、より好ましくは0.05mg/L以下の濃度で存在する、請求項1から3のいずれか1項に記載された方法。
【請求項5】
チオ尿素-族電解質添加剤は、N-メチル-2-チアゾリジンチオン、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジンチオン、テトラメチルチオ尿素、N,N’-ジエチルチオ尿素、N,N’-ジメチルチオ尿素、N-アリルチオ尿素、チオセミカルバジド、2-イミノ-4-チオビウレット、2-イミダゾリジンチオン、アセチルチオ尿素、1,3-ジブチル-2-チオ尿素及びこれらの混合物から選択される、請求項1から4のいずれか1項に記載された方法。
【請求項6】
電解質中のTOCは、2.5mg/L未満である、請求項1から5のいずれか1項に記載された方法。
【請求項7】
銅は硫酸銅として電解質に添加される、請求項1から6のいずれか1項に記載された方法。
【請求項8】
銅、硫酸それぞれは、電解質中で、60及び100g/L間の濃度で存在する、請求項1から7のいずれか1項に記載された方法。
【請求項9】
電着銅箔は、カソードとアノード間に、40及び80A/dm、好ましくは40及び60A/dm、より好ましくは45及び55A/dm間を含む電流密度を印加することによって形成される、請求項1から8のいずれか1項に記載された方法。
【請求項10】
電解質温度は35及び50℃間に維持される、請求項1から9のいずれか1項に記載された方法。
【請求項11】
電着銅箔は52kgf/mm超の製造時引張強度を有し、35℃で120日後に50kgf/mm超の引張強度を示し、かつ熱応力下で再結晶特性を示す、とくに請求項1から10のいずれか1項に記載された方法で製造されたか又は請求項20から24のいずれか1項に記載された電解質を用いて製造された電着銅箔。
【請求項12】
電着銅箔は52から65kgf/mmの範囲の製造時引張強度を有する、請求項11に記載された電着銅箔。
【請求項13】
電着銅箔は160℃で10分間の熱応力作用後に、約35から45kgf/mmの引張強度を有する、請求項11又は12に記載された電着銅箔。
【請求項14】
電着銅箔は190℃で1時間の熱応力作用後に、約20から30kgf/mmの引張強度を有する、請求項11,12又は13のいずれか1項に記載された電着銅箔。
【請求項15】
電着銅箔は190℃で1時間の熱応力作用後に、10から25%の範囲の伸びを有する、請求項11から14のいずれか1項に記載された電着銅箔。
【請求項16】
電着銅箔は2.5μm以下の表面粗さRzISOを有する、請求項11から15のいずれか1項に記載された電着銅箔。
【請求項17】
電着銅箔は4及び12μm間の厚さを有する、請求項11から16のいずれか1項に記載された電着銅箔。
【請求項18】
電着銅箔は99.8wt-%超の銅純度を有する、請求項11から17のいずれか1項に記載された電着銅箔。
【請求項19】
請求項10から18のいずれか1項に記載された電着銅箔及び銅箔上に配置された活性物質層を含む、二次電池用電極。
【請求項20】
請求項19の電極を含む、二次電池。
【請求項21】
少なくとも60g/Lの濃度の、好ましくは銅イオンの形態の銅;
少なくとも60g/Lの濃度の硫酸;
2mg/L未満の濃度のハロゲンイオン;及び
0.001mg/L及び0.1mg/L間の濃度のチオ尿素-族電解質添加剤、
を含み、
電解質中のTOC含有量が10mg/L未満である、電着銅箔を製造するための電解質。
【請求項22】
ハロゲンイオンは、電解質中で、1mg/L未満、好ましくは0.95、0.9、0.85又は0.8mg/L以下、より好ましくは0.6mg/L以下の濃度で存在する、請求項21に記載された電解質。
【請求項23】
ハロゲンイオンは、塩化物及び/又は臭化物イオンである、請求項21又は22に記載された電解質。
【請求項24】
チオ尿素-族電解質添加剤は、電解質中で、0.09mg/L以下、好ましくは、0.085、0.080、0.075、0.070以下、より好ましくは0.05以下の濃度で存在する、請求項21から23のいずれか1項に記載された電解質。
【請求項25】
チオ尿素-族電解質添加剤は、N-メチル-2-チアゾリジンチオン、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジンチオン、テトラメチルチオ尿素、N,N’-ジエチルチオ尿素、N,N’-ジメチルチオ尿素、N-アリルチオ尿素、チオセミカルバジド、2-イミノ-4-チオビウレット、2-イミダゾリジンチオン、アセチルチオ尿素、1,3-ジブチル-2-チオ尿素及びこれらの混合物から選択される、請求項21から24のいずれか1項に記載された電解質。
【請求項26】
TOCは2.5mg/L未満である、請求項21から25のいずれか1項に記載された電解質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して電着銅箔(electrodeposited copper foils)の分野に関し、より具体的には、リチウム二次電池に応用するための電着銅箔の製造方法、ならびに得られた電着銅箔に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、他の二次電池と比較して、比較的高いエネルギー密度、高い動作電圧、並びに優れた保存性や寿命特性など、多くの利点を有する。したがって、このようなリチウム二次電池は、パソコン、ビデオカメラ、携帯電話、携帯CDプレーヤー、PDA、電気自動車などの各種携帯電子デバイスに広く用いられている。
【0003】
電着銅箔は、通常、リチウム二次電池の負極集電体(アノード;anode)として使用される。知られているように、従来の電着銅箔は、容量維持率に影響を及ぼす「艶消し側」と「光沢側」の粗さの差を制限するために、通常両面が平滑である。
【0004】
リチウム二次電池用の電着銅箔は、従来の電解セル(electrolytic cell)内で不溶性アノードと向き合った回転するカソード(cathode)ドラムで製造される。通常の電解槽(electrolytic bath)は、一般に、下記添加剤:3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸ナトリウム塩(MPS)又はビス(3-スルホプロピル)二硫化二ナトリウム塩(SPS)、窒素含有有機レベラー、及び高分子量多糖類から選択される有機ポリマーを含む銅硫酸電解質(copper sulfuric acid electrolyte)を含む。
【0005】
この製造プロセスにより、得られた電着銅箔は、通常、両面の粗さが2.5μm(Rz ISO)未満、引張強度が約320MPa、伸びが約8~10%である。
【0006】
当技術分野において知られているように、電着銅箔は室温再結晶現象の影響を受け、それによって、室温で保存すると、再結晶後にその引張強度が(以上で示したように平均値である約320MPaで)安定するまで、電着銅箔が徐々に軟らかくなる。室温での再結晶現象の原因として考えられるのは、電解析出(electrolytic deposition)による結晶欠陥の緩やかな緩和と、結晶粒界(grain boundary)での添加剤の吸着による結晶格子の変形である。
【0007】
電着銅箔の経時的な機械的挙動は、ユーザーにとって重要である。ユーザーは、輸送中及び保存中に安定した引張強度を有し、そのため電池電極を製造するための生産ラインに持ち込むときに望ましい(公称)引張強度を示す、電着銅箔を購入できることを望んでいる。ここで、室温再結晶現象は、結果として機械的特性に悪影響を与え得る。
【0008】
用途によっては、電池メーカーは、熱応力作用下で再結晶特性を示すように設計された電着銅箔を必要としている。この電着銅箔は、当初(つまり、製造時)に高い引張強度(例えば45kgf/mm超)を示し、製造工程、例えばラミネーション、による熱応力作用下では再結晶を起こすことが可能であり、引張強度は30又は25kgf/mm未満に低下し、伸びは非常に高くなる(10%超)。
【0009】
再結晶特性を有する市販の電着銅箔は、注目に値する先行技術の箔1であるPAF-1は、6と10μm間の厚さ、約46kgf/mmの高い当初引張強度を有する。設計再結晶特性により、175℃で1時間の熱応力作用後、引張強度は23.5kgf/mmに低下し、伸びは3~4%から8%超に増加する。
【0010】
したがって、PAF-1箔は、製造プロセスで望ましい厳しい熱応力作用下での再結晶による軟化(softening)挙動の設計に特徴がある。箔の軟化は、通常ラミネートプロセス等で起こる。しかしながら、この箔の1つの欠点は、室温での再結晶が起きるため、製造後にかなり急いで使用する必要があることである。
【0011】
対照的に、他のプロセスでは、ユーザーはそのような軟化挙動を示さない電着銅箔を採用することを望むことがあり得る。そのような市販の箔の例としては、注目に値する先行技術の箔2、PAF2が同様の厚さ範囲及び表面粗さを有し、室温又は熱応力作用時に再結晶を起こさず、応力緩和特性を示さずに高い引張強度を有する。例えば、PAF-2箔は、約46.4kgf/mmの当初引張強度を有し、経時的に実質的に変化しない8μmの電着銅箔であり得る。175℃で1時間の熱応力作用を受けた後でも、引張強度は、依然として45.9kgf/mmである。
【0012】
理解されるように、物流の観点から、電池メーカーにとって、電着銅箔を特性を変化させることなく一定期間保存できることが望ましい。以上で示したように、PAF-1などの熱応力作用下で再結晶する設計特性を持つ箔は、室温で数週間後に変化した引張強度を示すことがあり得る。
【発明の目的】
【0013】
本発明の目的は、設計により、熱応力作用下での再結晶特性を有し、しかし室温での再結晶は起き難い電着銅箔の製造方法を提供することである。
【発明の概要】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、電着銅箔が回転するドラム形状のカソード、固定アノード、電解質を含む電鋳セル内で連続的に形成される電着銅箔の製造方法を提案する。本発明によれば、電解質は、
-少なくとも60g/Lの濃度の、好ましくは銅イオンの形態の銅;
-少なくとも60g/Lの濃度の硫酸;
-2mg/L未満の濃度のハロゲンイオン;及び
-0.001mg/Lから0.1mg/L間の濃度のチオ尿素-族電解質添加剤(thiourea-family electrolytic additive)、
を含み、又はから成り、
電解質中のTOC含有量が10mg/L未満である。
【0015】
本発明は、室温で従来技術の電着銅箔よりも安定であり、かつしたがって貯蔵寿命が長い一方、熱応力作用下での再結晶特性を示し、リチウム二次電池の用途に適した電着銅箔の製造を可能にする、少量の添加剤を備えた特定の浴組成(bath composition)に関する本発明者らの知見に基づく。本発明は、ここで定められた少量の添加剤のみを有する硫酸銅電解質に基づく電解浴(電解槽)の使用に依存する。
【0016】
請求項1で規定するように、電解質は、低含有量のチオ尿素-族(ファミリー)電解質添加剤を有する。
さらに、従来TOCによって反映される電解質の有機含有量、つまり全有機炭素は10mg/L未満である。TOCの値が低いのは、電解質中の有機添加剤(organic additives)の含有量が全体的に低いことを反映している。
【0017】
本方法/電解槽(electrolytic bath)により、数週間から数ヶ月の保存が可能な安定した当初高引張強度と、熱応力作用下での再結晶特性を示す電着銅箔(電解銅箔ともいう)を得ることができる。
【0018】
特に、最初のテストでは、本方法/電解質により、以下の機械的特性を備えた電着銅箔を製造できることが確認された:
-製造時の引張強度:52kgf/mm超、特に52~65kgf/mmの範囲;
-35℃の室温で120日間保存した後での引張強度:>50kgf/mm
-190℃で1時間の熱応力作用後の引張強度:20から30kgf/mm
【0019】
したがって、本発明の方法で得られた電着銅箔は、製造時、52kgf/mmを超える高引張強度銅箔である。「製造時」という用語は、通常、特に焼きなましや熱処理を行わずに、生産ラインから得られた箔を示す。「製造時」の値は、通常、製造後数時間又は数日以内に測定し得る。箔は、通常の熱応力1時間-190℃で示されるように、厳しい熱応力作用後に再結晶可能であり、それによって引張強度が低くなり(<30kgf/mm)、かつ伸びが非常に高くなる(>10%)。
【0020】
なお、高温で再結晶している間、上限範囲の製造時TSを有する箔では、引張強度がいまだ50kgf/mmを超えるか、又は52kgf/mmを超えるため、120日後でも、銅箔は室温(35℃まで)でかなり安定している。
【0021】
ここで使用されているように、用語「再結晶特性」は、所定の熱応力(時間-温度)作用下で再結晶が生じ、それによって微細構造が柱状から粗粒(coarse grained)に変化し、引張強度をより低い範囲に低下させ、箔に高い伸縮性を付与する、高引張強度電着銅箔の能力を指す。
【0022】
これに関連して、高引張強度電着銅箔は、好ましくは、50kgf/mmを超える引張強度を有し、熱応力作用後の引張強度は30kgf/mm未満であり、伸びは10%を超え得る。
熱応力作用下での再結晶能力のテストは、190℃で1時間加熱することによる熱応力に存し得る、このことは通常、箔の完全な再結晶の原因になる。これは、リチウム電池業界で使用される従来のテストである。「短時間」版の代替テストの熱応力は、250℃で2分間の加熱を伴い得る。さらなる「短時間」の代替テストは、190℃、1時間で実施し得る。銅箔メーカーにとって、より短時間のテストは、熱応力作用下で再結晶特性を示す箔と、そのような特性を示さず、熱衝撃(thermal shock)後にも高いTSを維持する箔を簡単に見分ける上で有用である。概して、銅箔の完全な再結晶を得るための熱応力は、160から210℃の範囲の温度で約30から60分間、又は230から260℃の範囲で数分間で実施し得る。
【0023】
ここでの「引張強度」とは、従来、極限引張強度、即ち、材料が破断する前に引き伸ばされ/引っ張られたりしている間に耐えられる最大応力を指す。これは通常、引張テストを実行しかつ応力-ひずみ曲線を記録することによって決定される。ここで用いる「伸び」は、引張テストから決定することができるように、破断時の伸びを指す。
【0024】
実施形態において、電着銅箔は、99.8重量%超、好ましくは99.9重量%を超える銅純度を有する。電着銅箔の純度は、電気重量法により測定し得る。
【0025】
電解質添加剤は、槽(bath)中に0.1mg/L以下の濃度で存在するチオ尿素-族の分子である。
【0026】
実施形態において、チオ尿素-族電解質添加剤の濃度は、0.09mg/L以下、特に、0.085、0.080、0.075、0.070、又は0.060以下、特に0.05mg/L以下である。
【0027】
チオ尿素-族電解質添加剤は、0.001mg/Lの最小濃度を有する。
【0028】
実施形態において、チオ尿素-族電解質添加剤は、0.003、0.005、0.007、0.008、又は0.009の最小濃度を有し得る。
【0029】
チオ尿素-族電解質添加剤の規定濃度は、電解槽において重要である。それは再結晶特性と室温安定性の両方に影響を与えることが分かっており、かつそのためこれらのパラメータをある程度制御できるようにしている。特に、電解質中のチオ尿素-族電解質添加剤の濃度が0.1mg/Lを超えると、熱応力での所望の再結晶特性に障害を生じ、特に再結晶が不完全であるか、箔が20から30kgf/mmの引張強度を示すのに完全ではなくなる。逆に、チオ尿素-族電解質添加剤を使用しない場合や、0.001mg/L未満の濃度を使用した場合、製造された銅箔は室温で保存しても安定せず、箔の貯蔵寿命が延びない。
【0030】
なお、本明細書においてチオ尿素-族電解質添加剤とは、チオ尿素官能(thiourea-function)を含む、即ち、次の一般構造:RN-C(=S)-NR、を有する有機添加剤を意味する。ここで、Rは水素又は任意の炭素鎖であり、R基(groups)は同一又は異なる。
【0031】
実施形態において、チオ尿素-族電解質添加剤は、N-メチル-2-チアゾリジンチオン、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリジンチオン、テトラメチルチオ尿素、N,N’-ジエチルチオ尿素、N,N’-ジメチルチオ尿素、N-アリルチオ尿素、チオセミカルバジド、2-イミノ-4-チオビウレット、2-イミダゾリジンチオン、アセチルチオ尿素、1,3-ジブチル-2-チオ尿素及びこれらの混合物から選択される。
【0032】
実施形態において、電解質中のTOCは、7.5mg/L未満、好ましくは4.0mg/L未満、より好ましくは3.0mg/L未満又は2.5mg/L未満であり得る。一般に、TOCは0.5、1.0、又は1.5mg/L以上であり得る。
【0033】
実施形態において、ハロゲンイオンは、塩化物及び/又は臭化物イオンである。
【0034】
ハロゲンイオンは電解質中で2mg/L未満の濃度で存在する。ハロゲンイオンは、有利にも引張強度を制御するために所定の限度まで添加される。実際、電解質中のハロゲンイオン濃度が2mg/Lを超えると、製造時の銅箔の引張強度が低下して所望の要件を満たすことができず、特にそれは52kgf/mmを超えることはない。
【0035】
実施形態において、ハロゲンイオンは、電解質中で、1mg/L未満、好ましくは0.95、0.9、0.85又は0.8mg/L以下、より好ましくは0.6又は0.5mg/L以下の濃度で存在し得る。好ましくは、槽中のハロゲンイオンの最小濃度は、0.01、0.02、0.03、0.04または0.05mg/Lである。
【0036】
ここで述べた全ての濃度は、電鋳セルに提供される電解質のそれぞれの種々の成分の濃度に対応している。電解質は、電鋳セルの運転中に種々の成分を連続的に供給し、種々の成分の濃度が常に所定のそれぞれの範囲にあることを保証する。槽は、従来の不可避的な不純物や痕跡を含み得る。
【0037】
得られた電着銅箔は、用途に対して望ましいように、さらなる後続の処理工程に供し得る。例えば、電着銅箔の両面にクロメートコーティングを施し得る。
【0038】
さらに、第1のテストは、本発明によって製造された電着銅箔が、両面にリチウム二次電池用電極における使用に適した低表面粗さ(low profile roughness)を有することを示した。特に、艶消し側(電解質側)及び光沢側(ドラム側)は、いずれも2.5μm未満のRzISOを有する。
【0039】
電着銅箔は、カソードとアノードの間に、40及び80A/dm間、好ましくは40及び60A/dm間、より好ましくは45及び55A/dm間を含み得る電流密度を印加することによって形成される。
【0040】
電解質は、好ましくは35及び50℃間の温度に維持される。
【0041】
有利にも、この方法は連続プロセスであり、かつ電解質は、溶解される銅及び添加剤が連続的に供給される限り、無限の寿命を有する。
【0042】
実際には、電解槽中のチオ尿素-族電解質添加剤の濃度は、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定し得る。ハロゲンの濃度は、イオンクロマトグラフィー(IC)により測定し得る。
【0043】
別の態様によれば、本発明は、請求項20に記載された電着銅箔の製造のための電解質に関する。
【0044】
本発明の方法の利点及び実施形態に関して述べたことは、本発明の電解質に準用される。
【0045】
さらに別の態様において、本発明は、請求項10から17で請求される電着銅箔にも関する。上述のように、本電着銅箔は、工業用、特にリチウム二次電池の電極製造に好適な機械的特性を示す。より具体的には、本発明の電着銅箔は、数週間/数ヶ月にわたって安定し、かつ熱応力作用下での再結晶特性をも示す高い引張強度を有する。
【0046】
他の態様によれば、本発明は、請求項18で請求される、上述の銅箔を集電体(current collector)として含む二次電池用電極に関する。
【0047】
リチウム二次電池では、例えば、アルミニウム(Al)を含む箔は、概して、カソード活物質(cathode active material)と組み合わせたカソード(例えば正極(positive electrode))集電体として用いられ、かつ本電着銅箔(即ち、本プロセスで得られたもの)は、アノード活物質(anode active material)と組み合わせたアノード(例えば負極(negative electrode))集電体として用いられる。
【0048】
アノード活物質層(anode active material layer)は、アノード活物質を含み得、かつさらに、当該技術分野において公知の従来のバインダー及び/又は導電性材料を含み得る。
【0049】
アノード活物質としては、イオンのインターカレーション及びデインターカレーションが可能な化合物であれば特に制限はない。適用可能なアノード活物質の非限定的な例としては、それに限定するものではないが、炭素系及びシリコン系アノード活物質を含み得、加えて、リチウム金属又はその合金、及びリチウムを吸蔵(occluding)及び放出(releasing)することができ、リチウムに対して2V未満の電位を有するTiO、SnO及びLiTi12などの他の金属酸化物を使用し得る。
【0050】
上述した銅箔を用いた二次電池用電極の製造方法は、本発明に係る当業者に公知であるので、詳細な説明は省略する。
【0051】
さらに別の態様によれば、本発明は、請求項19で請求される二次電池に関する。二次電池は、リチウム二次電池であり得る、具体的には、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池、リチウムイオンポリマー二次電池等を含み得る。二次電池は、液体又は固体電解質、例えばポリマー、酸化物又は硫化物族(ファミリー)を含み得る。
【0052】
一例では、リチウム二次電池は、カソード活物質を含むカソード(例えば、正極);アノード活物質を含むアノード(負極)、及びカソードとアノードの間に介在する電解質を含み得る。加えてセパレータをさらに含み得る。
【0053】
リチウム二次電池は、例えば、カソードとアノードとの間にセパレータを介在させ、次に電解質添加剤を添加した電解質を導入することにより、当該技術分野において公知の従来の方法を用いて製造し得る。
【0054】
電解質は、当該技術分野において公知の従来のリチウム塩;及び電解質溶媒を含み得る。
【0055】
セパレータとしては、多孔質セパレータ、例えば、ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリオレフィン系の多孔質セパレータを用い得るか、又は無機材料を含む有機/無機複合セパレータを用い得る。
【0056】
本明細書では、従来、電解質中に存在する有機炭素の総量(即ち、電解質中の有機炭素の総含有量)を指す「TOC量」、「TOC含有量」及び「TOC」をそれぞれ同義語及び同じ意味を持つものとして用いる。
【0057】
本明細書において、任意の所与の数値は、当該数値の-10%~+10%の値の範囲、好ましくは、当該数値の-5%~+5%の値の範囲、より好ましくは、当該数値の-1%~+1%の値の範囲を包含する。
【0058】
本発明のさらなる詳細及び利点は、添付の図面を参照して、いくつかの非限定的な実施形態についての以下の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
次に、以下の添付の図面を参照して、例として本発明を説明する。
図1】電鋳セルの概略図である。
図2】引張強度対温度のプロットであり、SEM(走査型電子顕微鏡)による熱処理前後の銅箔の図と、それに対応する微細構造のスケッチも示す。
図3】さまざまな温度での10分間作用する熱応力に対する引張強度(TS)の変化を示すグラフである。
図4】銅箔を35℃で保存した場合のTSの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0060】
まず、電鋳セルの動作原理について、電鋳セルの概略図である図1を用いて説明する。
上述のように、本発明は、電着銅箔の製造方法、即ち、電鋳セル内で連続的に形成される電着銅箔の製造方法、並びに電着銅箔を製造するための電解質、即ち表面粗さが非常に低く、欠陥がない電着銅箔を製造するための電解質を提供する。
【0061】
電着銅箔は、図1に示すように、電鋳セル10(業界ではめっき機(plating machine)と呼ぶ)を用いて銅箔18を製造することにより製造される。電鋳セル10において、電解質12は、回転するドラム形状のカソード14(表面はステンレススチール又はチタン製)及びカソード14に対向して設けられた固定アノード16(貴金属酸化物で覆われている鉛又はチタン電極)を含む装置を通り抜ける。両電極14,16に電流を流し、こうしてカソード14の表面に所望の厚さで銅を堆積させて電着銅箔18を形成する。次に、電着銅箔18をカソード14の表面から剥離し、貯留リール20に巻き取る。こうして調製された箔は、概して未処理銅箔と呼ばれる。
【0062】
続く工程において、電着銅箔18には、リチウム電池産業で使用するために、-通常、箔の両側に、クロメートコーティング工程(chromate coating step;図示せず)、及び/又は箔の片面又は両面に、任意の他の適切な処理工程を施し得る。
【0063】
本発明によって製造された電着銅箔は、高い製造時引張強度を有し、かつ、設計による、熱応力作用下での再結晶特性に特徴がある。即ち、箔は、その製造方法によって、厳しい熱応力が加えられると、引張強度の変移(transition)を示すように設計されている。つまり、箔は、製造時、通常は50~52kgf/mm超、特に50及び65kgf/mm間であるかなり高い引張強度を当初有している。熱応力作用の後、引張強度は、当初の引張強度と熱応力の条件に応じて、20と45kgf/mm間の範囲に低下する。その場合、伸びも10%を超え、20~25%まで増加する。
【0064】
電着銅箔の加熱中における微細構造の変化によるこの再結晶特性は、図2(引張強度対熱処理温度(持続時間=30分))に示されている。プロットが示すように、処理温度が上昇するとTSは大幅に低下する。電鋳セルから出た電着銅箔は、図2の左側に示す柱状粒子(columnar grain)構造を示す。熱応力作用中に加えられた熱は、銅箔の一種の焼きなましを引き起こし、その間に結晶が再配置され、図2の右側に示すようにかなり粗い粒子(coarse grain)を形成する。この粗い粒子構造は、引張強度を低下させる。
【0065】
当初の高い引張強度は、取り扱いの目的で望ましく、厚さのより薄い箔で、より高い能動負荷作用下での操作(operating)を可能にする。
【0066】
一方、LIB電池の電極に一体化する銅箔の使用を考慮すると、より柔軟な挙動(softer behavior)が好ましい。電池の製造中、銅箔は熱応力を受ける。このプロセス中に、電池の充放電時のアノードの膨潤(swelling)に対して(特に、高Si含有量-又は他の高膨潤材料-のアノードに対して)、より良好に対応し得る高伸度銅箔を得るために、銅箔が再結晶することが望ましい。
【0067】
したがって、本発明のプロセスに従って製造される電着銅箔は、設計上再結晶特性を有する。
しかしながら、以下の例から明らかなように、本発明のプロセスに従って製造された電着銅箔は、引張強度を実質的に変化させることなく、室温35℃まででかつ120日まで保存することができる。
【0068】
本発明の(本プロセスに従って製造された)箔の特性は、本発明の銅箔(丸)を背景技術の項で述べた従来技術の箔PAF-1(三角)と比較する図3及び図4からも理解されよう。
【0069】
図3のプロットは、20℃から250℃の範囲の温度で10分間作用する熱応力に対して、図2と同じ挙動を示している。明らかなように、本発明の箔は当初は高い引張強度を有し、その強度は160℃を超える熱応力の作用で著しく低下する。本発明の箔の再結晶特性は、PAF-1等の従来の再結晶箔に匹敵する。
しかしながら、図4から明らかなように、この発明の銅箔は、PAF-1などの従来の再結晶箔と比較して、室温でかなり安定した引張強度を有している。特にTSは、35℃で120日後も50kgf/mmを超えている。
【0070】

電着銅箔は、本発明による方法(例1から3)又は本発明の一部を形成しない比較方法(比較例1から4)のいずれかを用いて製造した。
種々の電解質組成物例が以下の表1に示されており、ここでMPSは3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸塩を表し、HECはヒドロキシエチルセルロースを表している。
【0071】
表1に示す濃度は、電鋳セルに供給される電解質の種々の化合物の濃度に対応する。電鋳セル(又はめっき機)を起動する前に、各電解質は、表1に示す化合物を適量の水中で可溶化することによって調製される。各電解質には、金属銅を酸化して硫酸で電解質に溶解する銅も含まれている。銅濃度は80g/Lである。電鋳セルの運転中、種々の成分の濃度が常に所定のそれぞれの範囲にあることを保証するため、各成分には種々の成分が連続的に供給される。
【0072】
【表1】
【0073】
なお、TOCは、電解質溶液の全有機体含有量を反映する、電解質溶液の全有機炭素の尺度である。これは添加物ではなく、当該技術分野において知られた有機体含有量の尺度である。TOC含有量がむしろ低いということは、電解質は添加物が少ないという事実を反映している。
【0074】
次に、得られた(即ち、製造時の)電着銅箔を分析して、引張強度や伸びなどの機械的特性を決定した。得られた測定値は、表2の「製造時」に記されている。
なお、得られた例1から3の電着銅箔は、いずれも厚さ8μmを有し、両面で2.5μm未満のRzISO粗さを示している。
【0075】
これらの箔の一部は、190℃で1時間の熱応力の作用を受け、その結果得られた引張強度と伸びの値は、表2の4~5列に示されている。これらの箔の別の部分を35℃で120日間保存し、その後の引張強度と伸びの測定値は表2の6~7列に示されている。
【0076】
【表2】
【0077】
表2の測定は、熱応力の作用を受けたサンプルについて、室温で、即ち冷却後に実施した。
明らかなように、例1~3の電着銅箔は、50kgf/mm超の高い当初引張強度を有し、厳しい熱応力(ここでは190℃で1時間)後に再結晶挙動を示すが、引張強度を顕著に低下させることなく約3ヶ月間保存することができる。
【0078】
これに対し、-添加剤としてMPS、HEC及びゼラチンを備えた電解質から製造した-比較例1の箔は、所定の熱応力作用下での再結晶特性がなく、低く安定した引張強度を有している。
単独の添加剤として塩化物を備えた硫酸銅電解質を用いると、比較例2に示すように、当初引張強度が高く、熱応力作用後の再結晶特性を有する箔をもたらす。しかしながら、この箔は、120日後には製造時箔の半分未満の引張強度となるため、実質的に室温再結晶の影響を受けている。
【0079】
比較例3及び4は、例2の電解質にチオ尿素-族添加剤(0.5から5mg/Lの範囲内)を添加することで、室温での(高い)引張強度が安定化するが、箔は熱応力作用下で所望の再結晶特性を示さないことを示している。
【0080】
結果的に、本発明に対応する電解質組成物、即ち、ハロゲンイオンとチオ尿素-族電解質添加剤を規定濃度以内に含むもののみが、数週間/数ヶ月にわたって安定し、熱応力作用下で再結晶特性を示す高い引張強度を有する電着銅箔の製造を可能にする。
【0081】
引張強度と伸びの決定
引張強度の測定は、IPC-TM-650番号2.4.18の規格に従って行われた。
引張強度、より正確には極限引張強度は、ゲージ長2.0インチ(50.8mm)の万能テスト機Instron5564 SP 2962(UTM)を使用して測定した。クロスヘッド速度は2.0インチ/分に設定した。サンプルは、幅0.5インチ、長さ6インチの短冊状に切断された。
【0082】
艶消し面の表面粗さの決定
銅箔の粗さは、表面上を滑動するダイヤモンド針(スタイラス)からなる接触式粗面計(profilometer)で測定した。この測定値から、表面の2Dプロファイルが作成され、Rzは8つのサンプリング長にわたる最高峰と最低谷の間の平均距離として計算される。ここで、表面粗さRzはISO(4287:1997)を指す。
【0083】
電解質溶液のTOC含有量の決定
TOC(全有機炭素)分析は、全炭素分析装置を用いて行われる。任意の適切なTOC分析装置/方法が使用できる。
当該技術分野において知られているように、TOC分析装置は、水サンプル中の炭素の量を決定する。現在、市販されているTOC分析装置は実際に全炭素を測定するため、TOC分析では、常に存在する無機炭素(inorganic carbon)をある程度考慮する必要がある。1つの分析手法には、通常TC-ICと呼ばれる2段階のプロセスが含まれている。それは、酸化した一定分量(acidified aliquot)のサンプルから放出された無機炭素(IC)の量と、サンプル中に存在する全炭素(TC)の量を測定する。TOCは、サンプルのTCからIC値を差し引いて計算される。別の形体では、サンプルを酸化して二酸化炭素を放出させ、それを無機炭素(IC)として測定し、残りの一掃不可能な(non-purgeable)有機炭素(NPOC)を酸化して測定する。これをTIC-NPOC分析と呼ぶ。より一般的な方法は、サンプルを再びpH値2以下に酸性化して、サンプル中のTOCを直接測定するが、ICガスをこの場合は測定用ではなく空気中へ解放する。一定分量の液体(liquid aliquot)に含まれる残りの一掃不可能なCOガスは、次にガスを解放するために酸化される。これらのガスは、測定のために検出器に送られる。
【0084】
TOCの分析は、TC-IC法でもNPOC法でも、大きく3つの段階に分けられる:
1.酸性化(Acidification)
2.酸化(Oxidation)
3.検出及び定量化
第1段階は、ICと一掃可能な有機炭素ガスを除去するためのサンプルの酸性化である。酸の添加と不活性ガスのガス抜き(purging)により、全ての重炭酸イオンと炭酸イオンが二酸化炭素に変換され、このIC製品は、存在していた一掃可能な有機炭素(POC)とともに発散される。これらのガスが測定用の検出器に解放されるか、空気中に解放されるかは、前者はTC-IC用、後者はTOC(一掃不可能な有機炭素)のいずれのタイプの分析対象かによって異なる。
【0085】
第2段階は、残りのサンプル中の炭素を二酸化炭素(CO)及びその他のガスの形体で酸化することである。最新のTOC分析装置は、高温燃焼(時としてPt触媒を使用)、高温接触酸化、光酸化、熱化学的酸化(主に加熱された過硫酸塩供給源を使用)、光化学的酸化(主に紫外線と過硫酸塩供給源を使用)、又は電解酸化のいずれかによってこの酸化工程を実行する。
【0086】
第3段階は、形成されたCOの検出及び定量化である。導電率、紫外分光光度法、非分散型赤外方式(NDIR)は、市販のTOC分析装置で使用される最も一般的な3つの検出方法である。
【0087】
今回のTOC測定方法
TOC含有量を決定するために電解槽を分析するための1つの詳細なしかし非限定的な方法を以下で開示する。この方法は、表1の例及び反例のTOCを決定するために用いられた。この方法によれば、TOC(全有機炭素)分析は、酸化剤(ペルオキシ二硫酸塩)とサンプル酸化のための非常に効果的なUV放射供給源の両方で動作する湿式化学TOC分析装置を使用して実施される。実行されるTOC測定法は、TIC-NPOC分析である。
【0088】
(複雑なマトリックス効果による検出器の飽和を避けるために)(電解槽の)サンプルを、超純水で希釈(好ましくは5倍)し、かつサンプルから無機炭素(大気から溶存CO)を除去するために、10%w/wのリン酸で酸性化してpHを2未満にする。実際、酸性媒体中では、炭酸は-重炭酸塩の形態ではなく-プロトン化された形で存在し、脱水反応を通じてCOと炭酸とが平衡するために、溶液からCOをほぼ完全に除去することができる。得られたCOは、ベクターガスによってサンプルから廃棄物(waste)に拡散可能である(後記参照)。
【0089】
次に、サンプルに含まれる有機分子は、強酸化化学物質(ペルオキシ二硫酸塩)と非常に効果的なUV放射供給源の組み合わせによって完全に(COガスに)酸化される。
次に、ベクターガス(窒素)をサンプルに注入し、この二酸化炭素をサンプルから検出器に移動する。次に、赤外線検出器(焦点放射NDIR検出器)を使用して、キャリアガスと共に形成した混合体からCO分子が検出される。
【0090】
表1の例及び反例のTOCを決定するために用いたTOC分析装置は、Analytik Jena社製の市販の装置モデル「MULTI N/C UV HS BU」である。酸性化、及びそれ以降の全ての工程は、機械内部で自動的に実行される(希釈段階のみが手動/外部で行われる)。

図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】