(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】式MaLibPcSdXe(I)の固体硫化物材料の調製方法
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20241226BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241226BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241226BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20241226BHJP
H01B 1/10 20060101ALI20241226BHJP
C01B 25/14 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01M10/052
H01M10/0562
H01B1/06 A
H01B1/10
C01B25/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535359
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-08-01
(86)【国際出願番号】 EP2022086150
(87)【国際公開番号】W WO2023111179
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523287012
【氏名又は名称】スペシャルティ オペレーションズ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】バートリー, ローラ
(72)【発明者】
【氏名】ダレンコン, ローリアーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ブライダ, マルク-ダヴィド
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA08
5G301CA16
5G301CA17
5G301CA19
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE02
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ02
5H029HJ02
(57)【要約】
本発明は、式(I):MaLibPcSdXe (I),
(式中、- Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表し;- a、b、c、d及びeは、実数であり;- aは、0≦a<9などの数を表し;- bは、0<b≦9などの数を表し;- 2.0≦a+b≦9であり;- cは、1.0≦c≦3.0などの数を表し;- dは、1.0≦d≦11.0などの数を表し;- eは、0<e≦3.0などの数を表し;- Mは、Na、K、Rb、Cs及びFrから選択されるアルカリ金属である)の固体硫化物材料の新しい調製方法並びに前記方法によって得られる製品、及びとりわけ固体電解質としてのその使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
M
aLi
bP
cS
dX
e (I)
(式中:
- Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表し;
- a、b、c、d及びeは、実数であり;
- aは、0≦a<9などの数を表し;
- bは、0<b≦9などの数を表し;
- 2.0≦a+b≦9であり;
- cは、1.0≦c≦3.0などの数を表し;
- dは、1.0≦d≦11.0などの数を表し;
- eは、0<e≦3.0などの数を表し;
- Mは、Na、K、Rb、Cs及びFrから選択されるアルカリ金属である)
の固体硫化物材料(A)の調製方法であって、
工程
(i)式(II):
M
a1Li
b1P
c1S
d1X
e1 (II)
(式中:
- Mは、Na、K、Rb、Cs及びFrから選択されるアルカリ金属であり;
- Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表し;
- a1、b1、c1、d1及びe1は、実数であり;
- a1は、0<a1≦9及びa<a1などの数を表し;
- b1は、0≦b1≦6.0及びb1<bなどの数を表し;
- 2.0≦a1+b1≦9であり;
- c1は、1.0≦c1≦3.0などの数を表し;
- d1は、1.0≦d1≦11.0などの数を表し;
- e1は、0<e1≦3.0などの数を表す)
の出発原料(B);
少なくとも1つのリチウム化合物LiY(式中、Yは、対アニオンである)、及び溶媒(S)を含む混合物(M1)を、固体硫化物材料(A)及び少なくとも1つの金属化合物MYを生み出す出発原料(B)とリチウム化合物LiYとの反応を促進するために撹拌する工程;
(ii)固体硫化物材料(A)、金属化合物MY、任意選択的に未反応リチウム化合物LiY及び溶媒(S)を含む混合物(M2)を得る工程;
(iii)固体硫化物材料(A)を混合物(M2)から回収する工程;
(iv)任意選択的に、工程(iii)において回収された固体硫化物材料(A)を熱処理に供する工程
を含む方法。
【請求項2】
出発原料(B)は、式(IIa)
Na
7-x-yLi
xPS
6-yX
y (IIa)
(式中、0≦x<7-y及び0<y≦3である)のものであり、固体硫化物材料(A)は、式(Ia)
Na
7-x1-yLi
x1PS
6-yX
y (Ia)
(式中、0<x1<7-y、x1>x及び0<y≦3である)
のものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
出発原料(B)は、式(IIGa)
(1-p)[7/2[(1-q)Na
2S・qLi
2S]・1/2P
2S
5]・p[(1-r)NaX・rLiX] (IIGa)
(式中、0<p≦0.50、0≦q<1及び0≦r<1であり、
Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
出発原料(B)は、式(IIGb)
(1-p)[4[(1-q)Na
2S・qLi
2S]・1P
2S
5]・p[(1-r)NaX・rLiX] (IIGb)
(式中、0<p≦0.50、0≦q<1及び0≦r<1であり、
Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
出発原料(B)は、式(IIGc)
(1-p)[3/2[(1-q)Na
2S・qLi
2S]・1/2P
2S
5]・p[(1-r)NaX・rLiX] (IIGc)
(式中、0<p≦0.50、0≦q<1及び0≦r<1であり、
Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
出発原料(B)は、式(IIGd)
(1-p)[7/2[(1-q)Na
2S・qLi
2S]・3/2P
2S
5]・p[(1-r)NaX・rLiX] (IIGd);
(式中、0<p≦0.50、0≦q<1及び0≦r<1であり、
Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
出発原料(B)は、式(IIGe)
(1-p)[[(1-q)Na
2S・qLi
2S]・P
2S
5]・p[(1-r)NaX・rLiX] (IIGe);
(式中、0<p≦0.50、0≦q<1及び0≦r<1であり、
Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
リチウム化合物LiYは、リチウムトリフレート、リチウム4,5-ジシアノ-2-(トリフルオロメチル)イミダゾール、六フッ化リン酸リチウム、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムビス(フルオロスルホニル)アミド(LiFSA)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、酢酸リチウム、炭酸リチウム、クエン酸リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、シュウ酸リチウム、ヨウ化リチウム、フッ化リチウム、炭酸リチウムメチル、炭酸リチウムエチル、リチウムメトキシド及びそれらの混合物からなるリストから選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
溶媒(S)は、アセトニトリル、アジポニトリル、グルタロニトリル、アセトン、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、ジエチルエーテル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、DMF、NMP、DMSO、テトラ(エチレングリコール)ジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン及びそれらの混合物からなるリストから選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
出発原料(B)及び固体硫化物材料(A)は、溶媒(S)に、リチウム化合物LiY及び金属化合物MYがそれに少なくとも部分的に可溶化される間懸濁される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法によって得られる固体硫化物材料(A)。
【請求項12】
固体電解質としての、請求項11に記載の固体硫化物材料(A)の使用。
【請求項13】
少なくとも請求項11に記載の固体硫化物材料(A)を含む固体電解質。
【請求項14】
請求項13に記載の固体電解質を含む電気化学デバイス。
【請求項15】
少なくとも:
- 金属基材;
- 金属基材と接触する組成物(C)であって、前記組成物(C)が、
(i)請求項11に記載の固体硫化物材料(A);
(ii)少なくとも1つの電気活性化合物(EAC);
(iii)任意選択的に、本発明による方法によって得られる固体硫化物材料以外の少なくとも1つのリチウムイオン-伝導性材料(LiCM);
(iv)任意選択的に少なくとも1つの導電性材料(ECM);
(v)任意選択的にリチウム塩(LIS);及び
(vi)任意選択的に少なくとも1つのポリマー系結合材料(P)
を含む組成物(C)から作られた少なくとも1つの層
を含む電極。
【請求項16】
少なくとも:
- 請求項11に記載の固体硫化物材料(A);
- 任意選択的に少なくとも1つのポリマー系結合材料(P);
- 任意選択的に少なくとも1つの金属塩、とりわけリチウム塩;及び
- 任意選択的に少なくとも1つの可塑剤
を含むセパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年12月16日出願の欧州特許出願第21306792.9号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、式(I):MaLibPcSdXe (I)
(式中:
- Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表し;
- a、b、c、d及びeは、実数であり;
- aは、0≦a<9などの数を表し;
- bは、0<b≦9などの数を表し;
- 2.0≦a+b≦9であり;
- cは、1.0≦c≦3.0などの数を表し;
- dは、1.0≦d≦11.0などの数を表し;
- eは、0<e≦3.0などの数を表し;
- Mは、Na、K、Rb、Cs及びFrから選択されるアルカリ金属である)
の固体硫化物材料の新しい調製方法、
並びに前記方法によって得られる製品、及びとりわけ固体電解質としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウム電池は、それらの高いエネルギー及び電力密度のため、携帯エレクトロニクス及び電気自動車に電力を供給するために使用されている。従来のリチウム電池は、有機溶媒中に溶解したリチウム塩から構成される液体電解質を利用している。前述のシステムは、有機溶媒が可燃性であるので安全性の問題を提起する。リチウムデンドライトが生じ、液体電解質媒体を通過すると、短絡を引き起こし、熱を生成し得、それは、重傷につながる事故をもたらす。
【0004】
不燃性の無機固体電解質は、安全性の問題に対する解決策を提供する。さらに、それらの機械的安定性は、リチウムデンドライト形成を抑制し、自己放電及び加熱問題を予防し、且つ電池の寿命を延ばすのに役立つ。
【0005】
固体硫化物電解質は、それらの高いイオン伝導性及び機械的特性のため、リチウム電池用途にとって有利である。これらの電解質は、ペレット化し、コールドプレスによって電極材料に取り付けることができ、それは、高温組み立て工程の必要性を排除する。高温焼結工程をなくすことで、リチウム電池においてリチウム金属アノードを使用することに対する課題の1つが取り除かれる。
【0006】
固体硫化物電解質が遭遇する問題は、材料が湿気と接触しているときに硫化水素(H2S)が放出されることである。硫化水素は、刺激臭を有し、有毒であり;それ故に、低い量のH2Sを放出する向上した化学的安定性を有する固体硫化物電解質が必要とされている。
【0007】
文献に報告されているような固体硫化物は、一般に、高温固相合成によってか、又は乾式若しくは湿式メカノケミカル経路によって調製される。エタノールなどの溶媒中に溶解された前もって形成された固体硫化物から出発する方法などの全溶液経路も提案されている。
【0008】
したがって、新しい固体硫化物電解質が、及び固体硫化物電解質を調製するための新しい方法が必要とされている。
【0009】
J.Chenらは、Chem.Lett.2019,48,863-865において、Li2NaPS4の合成が、Na3PS4からNa+/Li+イオン交換によって達成できたことを示している。しかしながら、著者らは、ハロゲンを含む硫化物材料に関わる類似のアプローチに関しては無言である。さらに、得られた硫化物材料のイオン伝導性へのこのイオン交換の影響について何も言っていないし、得られた材料の化学的安定性について何も言っていない。
【0010】
向上したイオン伝導性を有する硫化物ベースの固体電解質の製造のために使用することができる固体硫化物材料の新しい調製経路が依然として必要とされている。
【0011】
硫化リチウム、Li2Sの使用を控える又は抑制さえすることができる固体硫化物材料の新しい調製経路も必要とされている。実際に、Li2Sは、高価な原材料であり、調製する、精製する、取り扱うのが困難であり、これらの理由から、なおさら高純度グレードで、工業的に入手可能ではない。
【0012】
良好な化学的安定性を有する、且つ、例えば湿度の高い空気に曝された場合に低いH2Sの放出を示す固体硫化物材料の新しい調製経路も必要とされている。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、式MaLibPcSdXe(I)の固体硫化物材料(A)の新しい調製方法に関する。
【0014】
本発明は、本発明の方法によって得られる、式MaLibPcSdXe(I)の固体硫化物材料(A)にも関する。本発明は、固体電解質としてのそのような固体硫化物材料(A)の使用にも関する。本発明は、そのような固体硫化物材料(A)を含む固体電解質及び本発明による固体硫化物材料(A)を含む電気化学デバイスにも関する。本発明は、本発明の固体電解質を含む固体電池、及び固体電池を含む車両にも関する。
【0015】
本発明者らは、意外にも、本発明による方法によって調製された固体硫化物材料が、類似の組成を有するが高温固相合成又はメカノケミカル経路などの上述の従来法によって調製された固体硫化物材料と比較されるときに向上したイオン伝導性を有することを見いだした。実際に、本発明による方法において、Na+ベースの出発原料でのLi+によるNa+の置き換えが、得られた固体硫化物材料内の高いLi+可動性に関与しているように思われる。
【0016】
本発明者らはまた、本発明による新しい方法が、とりわけ高純度グレードで大量に得ることが困難な高価な原材料である、硫化リチウム、Li2Sの使用を控えながら、高いイオン伝導性を有する固体硫化物材料を調製することを有利にも可能にすることを見いだした。
【発明を実施するための形態】
【0017】
したがって、本発明は、式(I):
MaLibPcSdXe (I)
(式中:
- Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表し;
- a、b、c、d及びeは、実数であり;
- aは、0≦a<9などの数を表し;
- bは、0<b≦9などの数を表し;
- 2.0≦a+b≦9であり;
- cは、1.0≦c≦3.0などの数を表し;
- dは、1.0≦d≦11.0などの数を表し;
- eは、0<e≦3.0などの数を表し;
- Mは、Na、K、Rb、Cs及びFrから選択されるアルカリ金属である)
の固体硫化物材料(A)の調製方法であって、
工程
(i)式(II):
Ma1Lib1Pc1Sd1Xe1 (II)
(式中:
- Mは、Na、K、Rb、Cs及びFrから選択されるアルカリ金属であり;
- Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表し;
- a1、b1、c1、d1及びe1は、実数であり;
- a1は、0<a1≦9及びa<a1などの数を表し;
- b1は、0≦b1≦6.0及びb1<bなどの数を表し;
- 2.0≦a1+b1≦9であり;
- c1は、1.0≦c1≦3.0などの数を表し;
- d1は、1.0≦d1≦11.0などの数を表し;
- e1は、0<e1≦3.0などの数を表す)
の出発原料(B);
少なくとも1つのリチウム化合物LiY(式中、Yは、対アニオンである)、及び溶媒(S)を含む混合物(M1)を、固体硫化物材料(A)及び少なくとも1つの金属化合物MYを生み出す出発原料(B)とリチウム化合物LiYとの反応を促進するために撹拌する工程;
(ii)固体硫化物材料(A)、金属化合物MY、任意選択的に未反応リチウム化合物及び溶媒(S)を含む混合物(M2)を得る工程;
(iii)固体硫化物材料(A)を混合物(M2)から回収する工程;
(iv)任意選択的に、工程(iii)において回収された固体硫化物材料(A)を熱処理に供する工程
を含む方法に関する。
【0018】
いかなる理論にも制約されることなく、本方法は、少なくとも1つのリチウム化合物LiYと、式Ma1Lib1Pc1Sd1Xe1(II)の出発原料(B)との間のカチオン交換であると考えられる。
【0019】
したがって、本方法中に起こると考えられる全反応は、
Ma1Lib1Pc1Sd1Xe1(II)+αLiY→MaLibPcSdXe(I)+αMY
(式中、M、X、Y、a1、a、b1、b、c1、c、d1、d、e1及びeは、前に定義されたとおりであり、
a=(a1-α)及びb=(b1+α)及びα≦a1である)
と表すことができる。
【0020】
最も不安定なNa+部位は、本発明による方法中にLi+によって置換され、一方、それほど不安定ではないNa+部位は、出発原料の構造モルフォロジを保つと考えられる。Li+イオン半径がNa+イオン半径よりも小さいので、改善された可動性、したがって改善されたイオン伝導性が、得られた固体硫化物材料(A)について観察されるとまた考えられる。
【0021】
Mは、Na、K、Rb、Cs及びFrから選択されるアルカリ金属である。好ましくは、MはNaである。Xは、Br、Cl、I及びそれらの混合物から選択される。好ましくは、Xは、Br、Cl及びそれらの混合物から選択され、より好ましくは、XはClである。いくつかの実施形態では、MはNaであり、XはClであり;いくつかの他の実施形態では、MはNaであり、XはBrであり;さらにいくつかの他の実施形態では、MはNaであり、Xは、Cl及びBrである。XがCl及びBrである場合、モル比Cl/Brは、一般に、0.01~100の範囲である。
【0022】
本発明による方法において、出発原料(B)は、一般に次式(II);
Ma1Lib1Pc1Sd1Xe1 (II)
(式中、M、X、a1、b1、c1、d1及びe1は、前に定義されたとおりである)
のものであり、本発明による方法によって調製される固体硫化物材料(A)は、式(I)
MaLibPcSdXe (I)
(式中、M、X、a、b、c、d及びeは、前に定義されたとおりである)
のものである。
【0023】
その上、式Ma1Lib1Pc1Sd1Xe1(II)の出発原料(B)は、特許及び非特許文献に記載される従来法によって調製することができる。
【0024】
いくつかの実施形態では、出発原料(B)は、Na、P、S及び任意選択的にLiを含む結晶性固体硫化物であり、ここで、S2-と置き換わるX-は、Na+空位及び/又はLiが存在する場合Li+空位を得るための戦略である。
【0025】
したがって、いくつかの実施形態では、出発原料(B)は、式(IIa)
Na7-x-yLixPS6-yXy (IIa)
(式中、0≦x<7-y及び0<y≦3である)のものであり、本発明による方法によって調製される固体硫化物材料(A)は、式(Ia)
Na7-x1-yLix1PS6-yXy (Ia)
(式中、0<x1<7-y、x1>x及び0<y≦3であり;
Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のものである。
【0026】
式(IIa)の固体硫化物(B)及び式(Ia)の固体硫化物材料(A)について、Xは、Br、Cl、I及びそれらの混合物から選択される。好ましくはXは、Br、Cl及びそれらの混合物から選択され、より好ましくはXはClである。XがCl及びBrである場合、モル比Cl/Brは、一般に0.01~100の範囲である。
【0027】
式(IIa)の固体硫化物(B)は、当業者により周知の任意の方法によって調製することができる。硫化ナトリウム(Na2S)、硫化リチウム(Li2S)、五硫化リン(P2S5)、ハロゲン化リチウム(LiX)及びハロゲン化ナトリウム(NaX)は、一般に、所望の硫化物組成物を形成するために好都合な化学量論で原材料として使用される。
【0028】
例示目的で、Na7-x-yLixPS6-yXyは、以下の化学量論:(7-x-2y)Na2S;(x) Li2S;1 P2S5;2y NaXを用いて調製することができる。
【0029】
NaXは、一般に、NaCl、NaBr、NaI及びそれらの混合物から選択される。LiXは、一般に、LiCl、LiBr、LiI及びそれらの混合物から選択される。市販の原材料を使用することができる。しかしながら、高度の純度を有するものが好ましい。原材料は、一般に、粉末の形態にある。
【0030】
いくつかの他の実施形態では、出発原料(B)は、Na、P、S及び任意選択的にLiを含む、二元Na2S-P2S5をベースとするガラスセラミック固体硫化物化合物、任意選択的に三次Na2S-Li2S-P2S5ガラス状材料であり、ここで、無機塩NaX及び任意選択的にLiXは、ナトリウムイオン濃度、任意選択的にリチウムイオン濃度を上げるために添加される。
【0031】
したがって、いくつかの実施形態では、出発原料(B)は、式(IIGa)
(1-p)[7/2[(1-q)Na2S・qLi2S]・1/2P2S5]・p[(1-r)NaX・rLiX] (IIGa)
(式中、0<p≦0.5、0≦q<1及び0≦r<1であり、Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである。
【0032】
特に、q=r=0である場合、出発原料(B)は、式(IIGa’)
(1-p)Na7PS6・pNaX (IIGa’)
(式中、0<p≦0.5であり、Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである。
【0033】
より特に、q=r=0及びp=0.5である場合、出発原料(B)は、式(IIGa’’)
Na8PS6X (IIGa’’)
(式中、Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである。
【0034】
いくつかの実施形態では、出発原料(B)は、式(IIGb)
(1-p)[4[(1-q)Na2S・qLi2S]・1P2S5]・p[(1-r)NaX・rLiX] (IIGb)
(式中、0<p≦0.5、0≦q<1及び0≦r<1であり、Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである。
【0035】
特に、q=r=0である場合、出発原料(B)は、式(IIGb’)
(1-p)Na8P2S9・pNaX (IIGb’)
(式中、0<p≦0.5であり、Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである。
【0036】
より特に、q=r=0及びp=0.5である場合、出発原料(B)は、式(IIGb’’)
Na9P2S9X (IIGb’’)
(式中、Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである。
【0037】
いくつかの他の実施形態では、出発原料(B)は、式(IIGc)
(1-p)[3/2[(1-q)Na2S・qLi2S]・1/2P2S5]・p[(1-r)NaX・rLiX] (IIGc)
(式中、0<p≦0.5、0≦q<1及び0≦r<1であり、Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである。
【0038】
特に、q=r=0である場合、出発原料(B)は、式(IIGc’)
(1-p)Na6P2S8・pNaX (IIGc’)
(式中、0<p≦0.5であり、Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである。
【0039】
より特に、q=r=0及びp=0.5である場合、出発原料(B)は、式(IIGc’’)
Na7P2S8X (IIGc’’)
(式中、Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである。
【0040】
さらにより特に、q=r=0及びp=2/3である場合、出発原料(B)は、式(IIGc’’’)
Na4PS4X (IIGc’’’)
(式中、Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである。
【0041】
さらにいくつかの他の実施形態では、出発原料(B)は、式(IIGd)
(1-p)[7/2[(1-q)Na2S・qLi2S]・3/2P2S5]・p[(1-r)NaX・rLiX] (IIGd)
(式中、0<p≦0.5、0≦q<1及び0≦r<1であり、Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである。
【0042】
特に、q=r=0である場青、出発原料(B)は、式(IIGd’)
(1-p)Na7P3S11・pNaX (IIGd’)
(式中、0<p≦0.5であり、Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである。
【0043】
より特に、q=r=0及びp=0.5である場合、出発原料(B)は、式(IIGd’’)
Na8P3S11X (IIGd’’)
(式中、Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである。
【0044】
いくつかの他の実施形態では、出発原料(B)は、式(IIGe)
(1-p)[1[(1-q)Na2S・qLi2S]・1P2S5]・p[(1-r)NaX・rLiX] (IIGe)
(式中、0<p≦0.5、0≦q<1及び0≦r<1であり、Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである。
【0045】
特に、q=r=0である場合、出発原料(B)は、式(IIGe’)
(1-p)Na2P2S6・pNaX (IIGe’)
(式中、0<p≦0.5であり、Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである。
【0046】
より特に、q=r=0及びp=0.5である場合、出発原料(B)は、式(IIGe’’)
Na3P2S6X (IIGe’’)
(式中、Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表す)
のガラスセラミックである。
【0047】
上記のような式(IIGa)~(IIGe)、(IIGa’)~(IIGe’)、(IIGa’’)~(IIGe’’)及び(IIGc”’)のガラスセラミックは、当業者により周知の任意の方法によって調製することができる。Na2S、Li2S、P2S5、NaX及びLiXは、所望の組成物を形成するのに好都合な化学量論の原材料として使用される。NaXは、一般に、NaCl、NaBr、NaI及びそれらの混合物から選択される。LiXは、一般に、LiCl、LiBr、LiI及びそれらの混合物から選択される。市販の原材料を使用することができる。しかしながら、高度の純度を有するものが好ましい。原材料は、一般に、粉末の形態にある。
【0048】
単なる例示目的で、式(IIa)、(IIGa)~(IIGe)、(IIGa’)~(IIGe’)、(IIGa’’)~(IIGe’’)及び(IIGc”’)の固体硫化物化合物は、反応が機械的処理又は機械的ミリングによって誘導できる周知のメカノケミカル技法によって調製することができる。
【0049】
メカニカルミリングによる反応は、遊星ボールミルなどの様々なタイプの習知の機械的ミリング装置を用いて行うことができる。
【0050】
メカニカルミリングの回転速度及び回転時間は、特に限定されないが、回転速度が高ければ高いほど、固体硫化物の生成速度はより速くなり、回転時間が長ければ長いほど、所望の硫化物への出発原料の転化率はより高くなる。機械的処理は、1~130時間実施することができる。
【0051】
機械的処理は、液体の存在下(例えば湿式ボールミリング)で行うことができる。好適な液体は、一般に、液体炭化水素である。液体炭化水素は、多くの場合、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素及びそれらの混合物からなる群において選択される。脂肪族炭化水素は、例えば、ヘキサン、へプタン、オクタン又はノナンである。脂環式炭化水素は、例えば、シクロヘキサン、シクロペンタン又はシクロヘプタンである。芳香族炭化水素は、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン又は液体ナフテンである。使用することができる便利な液体炭化水素は、キシレンである。
【0052】
機械的処理は、アルゴン、窒素又はそれらの混合物などの不活性雰囲気下で行うことができる。
【0053】
一般に、機械的処理は、室温(約25℃)で実施されるが、より高い温度で実施されてもよい。
【0054】
機械的処理後に、得られた混合物は、一般に、150℃~600℃の範囲の温度で焼成される。焼成は、一般に、不活性雰囲気下で、例えばN2若しくはAr又はH2Sの雰囲気下で行われる。工程焼成の継続時間は、一般に、1~12時間である。焼成は、回転オーブン中で行うことができる。
【0055】
冷却後に、固体硫化物は、顆粒として回収することができ、それは、所望の粒径に達するためにふるい分けするか又はすり潰すことができる。
【0056】
焼成は、一般に、前もって乾燥されている混合物を使って行われる。これは、既に乾燥された出発原料を使用することによって又は混合物を乾燥させることによって行われ得る。湿式ボールミリングが使用されるとき、乾燥はまた、液体炭化水素の蒸発によって容易に且つ便利に行われ得る。液体炭化水素の蒸発は、好ましくは、100℃~150℃の温度で行われる。蒸発は真空下で行われ得る。蒸発の継続時間は、一般に、1時間~20時間である。
【0057】
式(IIa)の固体硫化物(B)はまた、例えばJournal of Power Sources 293(2015)941-945に記載されているような溶液プロセスによって調製することができる。
【0058】
硫化物ガラスは、反応を機械的処理又は機械的ミリングによって誘導できる周知のメカノケミカル技法によって調製することができる。例えば、そのような技法は、Na3PS4-NaIガラスセラミックの合成についてSolid State Ionics 270(2015)6-9に記載されている。
【0059】
ガラスセラミックはまた、例えば、Journal of Alloys and Compounds 798(2019)235-242に記載されているような、溶液プロセスによって、又は、例えば、Nature Reviews Chemistry,volume 3,pages 189-198(2019)に記載されているような、懸濁プロセスによって調製することができる。
【0060】
本発明は、改善されたイオン伝導性を有する固体硫化物材料の新しい調製方法に関する。
【0061】
既に述べられたように、本方法中に起こる全反応は、
Ma1Lib1Pc1Sd1Xe1(II)+αLiY→MaLibPcSdXe(I)+αMY
(式中、M、X、Y、a1、a、b1、b、c1、c、d1、d、e1及びeは、前に定義されたとおりであり、
a=(a1-α)及びb=(b1+α)及びα≦a1である)
と表すことができる。
【0062】
リチウム化合物LiYは、一般に、リチウムトリフレート、リチウム4,5-ジシアノ-2-(トリフルオロメチル)イミダゾール、六フッ化リン酸リチウム、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムビス(フルオロスルホニル)アミド(LiFSA)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、酢酸リチウム、炭酸リチウム、クエン酸リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、シュウ酸リチウム、ヨウ化リチウム、フッ化リチウム、炭酸リチウムメチル、炭酸リチウムエチル、リチウムメトキシド及びそれらの混合物からなるリストから選択される。Y対アニオンは、そのときそれぞれ、トリフレート、4,5-ジシアノ-2-(トリフルオロメチル)イミダゾレート、ヘキサフルオロホスフェート、ビス(オキサラト)ボレート、ビス(フルオロスルホニル)アミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、酢酸アニオン、炭酸アニオン、クエン酸アニオン、硝酸アニオン、塩化物アニオン、臭化物アニオン、ヨウ化物アニオン、フッ化物アニオン、メチル炭酸アニオン、エチル炭酸アニオン、メトキシド及びそれらの混合物から選択される。
【0063】
いくつかの実施形態では、リチウム化合物LiYは、リチウムビス(フルオロスルホニル)アミド(LiFSA)である。いくつかの他の実施形態では、リチウム化合物LiYは、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)である。
【0064】
いくつかの他の実施形態では、リチウム化合物LiYは、塩化リチウム、臭化リチウム又はそれらの混合物である。さらにいくつかの他の実施形態では、リチウム化合物LiYは硝酸リチウムである。
【0065】
一般に、出発原料(B)及びリチウム化合物LiYは、粉末形態にある。使用前に、前記粉末は、例えばジルコニウムすり鉢及びすりこぎ、若しくは遊星ボールミリング、又は所望の粒径を得るための類似のミリング工具を使用して粉砕することができる。
【0066】
一般に、混合物(M1)中のリチウム化合物LiYに対する出発原料(B)のモル比LiY/Bは、1~20の範囲であり、多くの場合LiY/Bは、2~7の範囲である。
【0067】
溶媒(S)は、一般に、アセトニトリル、アジポニトリル、グルタロニトリル、アセトン、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、ジエチルエーテル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、DMF、NMP、DMSO、テトラ(エチレングリコール)ジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン及びそれらの混合物からなるリストから選択される。
【0068】
いくつかの実施形態では、溶媒(S)はアセトニトリルである。いくつかの他の実施形態では、溶媒(S)はエチレンカーボネートである。いくつかの他の実施形態では、溶媒(S)はプロピレンカーボネートである。さらにいくつかの他の実施形態では、溶媒(S)はジメチルカーボネートである。
【0069】
一般に、溶媒(S)は無水である。無水とは、溶媒(S)が、0.1重量%未満、多くの場合0.01重量%未満、時として0.001重量%未満の水を含有することを意味する。
【0070】
いくつかの実施形態では、リチウム化合物LiYはリチウムビス(フルオロスルホニル)アミド(LiFSA)であり、溶媒(S)はアセトニトリルである。
【0071】
いくつかの他の実施形態では、リチウム化合物LiYはリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)であり、溶媒(S)はアセトニトリルである。
【0072】
さらにいくつかの他の実施形態では、リチウム化合物LiYはリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)であり、溶媒(S)はプロピレンカーボネートである。
【0073】
一般に、溶媒(S)の重量に対するリチウム化合物LiYの及び出発原料(B)の重量の重量比S/(B+LiY)は、1~50、多くの場合2~25、時として5~10の範囲である。
【0074】
混合物(M1)及び(M2)中に含まれる成分(A)、(B)、LiY及びMYは、溶媒(S)への異なる溶解挙動を有することができる。
【0075】
いくつかの実施形態では、リチウム化合物LiYは、溶媒(S)中に部分的に可溶化される。溶媒(S)中に部分的に可溶化されるとは、少なくとも1重量%及び99重量%以下のリチウム化合物LiYが溶媒(S)中に可溶化されることを意味する。
【0076】
いくつかの他の実施形態では、リチウム化合物LiYは、溶媒(S)中に完全に可溶化される。
【0077】
いくつかの実施形態では、金属化合物MYは、溶媒(S)中に部分的に可溶化される。溶媒(S)中に部分的に可溶化されるとは、少なくとも1重量%及び99重量%以下の金属化合物が溶媒(S)中に可溶化されることを意味する。
【0078】
いくつかの他の実施形態では、金属化合物MYは、溶媒(S)中に完全に可溶化される。
【0079】
いくつかの実施形態では、リチウム化合物LiY及び金属化合物MYは、溶媒(S)中に部分的に可溶化される。
【0080】
いくつかの他の実施形態では、リチウム化合物LiYは、溶媒(S)中に部分的に可溶化され、金属化合物MYは、溶媒(S)中に完全に可溶化される。
【0081】
さらにいくつかの他の実施形態では、リチウム化合物LiY及び金属化合物MYは、溶媒(S)中に完全に可溶化される。
【0082】
出発原料(B)は、一般に、溶媒(S)中に可溶化されない。多くの場合、出発原料(B)は、溶媒(S)中に懸濁される。いくつかの実施形態では、出発原料(B)は、溶媒(S)によって膨潤する。
【0083】
いくつかの実施形態では、出発原料(B)は、溶媒(S)中に懸濁され、一方、リチウム化合物LiYは、部分的に可溶化される。
【0084】
いくつかの実施形態では、出発原料(B)は、溶媒(S)中に懸濁され、一方、リチウム化合物LiYは、完全に可溶化される。
【0085】
固体材料(A)は、一般に、溶媒(S)中に可溶化されない。多くの場合、固体材料(A)は、溶媒(S)中に懸濁される。いくつかの実施形態では、固体材料(A)は、溶媒(S)によって膨潤する。
【0086】
いくつかの実施形態では、固体材料(A)は、溶媒(S)中に懸濁され、一方、リチウム化合物LiY及び金属化合物MYは、部分的に可溶化される。
【0087】
いくつかの実施形態では、固体材料(A)は、溶媒(S)中に懸濁され、一方、リチウム化合物LiY及び金属化合物MYは、完全に可溶化される。
【0088】
いくつかの実施形態では、出発原料(B)及び固体材料(A)は、溶媒(S)中に懸濁され、一方、リチウム化合物LiY及び金属化合物MYは、それ中に部分的に可溶化される。
【0089】
いくつかの他の実施形態では、出発原料(B)及び固体材料(A)は、溶媒(S)中に懸濁され、一方、リチウム化合物LiY及び金属化合物MYは、完全に可溶化される。
【0090】
さらにいくつかの他の実施形態では、出発原料(B)及び固体材料(A)は、溶媒(S)中に懸濁され、一方、リチウム化合物LiY及び金属化合物MYは、それ中に少なくとも部分的に可溶化される。少なくとも部分的に可溶化されるとは、LiY及びMYが、同時に又は同時にではなく、溶媒(S)中に完全に可溶化できることを意味する。
【0091】
一般に、出発原料(B)及びリチウム化合物LiYは、粉末形態にある。使用前に、前記粉末は、例えばジルコニウムすり鉢及びすりこぎ、若しくは遊星ボールミリング、又は所望の粒径を得るための類似のミリング工具を使用して粉砕することができる。
【0092】
いくつかの実施形態では、リチウム化合物LiYは、出発原料(B)の粉末が混合物(M1)を形成するために添加される前に、溶媒(S)中に部分的に可溶化されるか又は完全に可溶化される。
【0093】
いくつかの他の実施形態では、リチウム化合物LiYの粉末及び出発原料(B)の粉末は、混合物(M1)を形成するために同時に又は引き続いて溶媒(S)に添加される。
【0094】
本発明による方法の工程(i)は、出発原料(B)、少なくとも1つのリチウム化合物LiY(式中、Yは、対アニオンである)、及び溶媒(S)を含む混合物(M1)を、固体硫化物材料(A)及び少なくとも1つの金属化合物MYを生成する出発原料(B)とリチウム化合物LiYとの反応を促進するために撹拌することにある。
【0095】
混合物(M1)の撹拌は、一般に、当業者により周知の任意の手段によって行われる。
【0096】
一般に、撹拌は、15℃~70℃の範囲の温度で行われる。多くの場合、撹拌は、15℃~40℃の範囲の温度で行われる。典型的には、撹拌は、20℃~30℃の範囲の温度で行われる。
【0097】
出発原料(B)とリチウム化合物LiYとの反応は、時として、固体硫化物材料(A)を生成するための出発原料(B)の完全な反応まで行われる。
【0098】
工程(ii)において得られる混合物(M2)は、固体硫化物材料(A)、金属化合物MY、任意選択的に未反応リチウム化合物LiY及び溶媒(S)を含む。
【0099】
いくつかの実施形態では、混合物(M2)において、固体硫化物材料(A)は、溶媒(S)中に懸濁されており、一方、金属化合物MY及び任意選択的に、存在する場合未反応リチウム化合物LiYは、溶媒(S)中に部分的に可溶化されている。
【0100】
いくつかの他の実施形態では、混合物(M2)において、固体硫化物材料(A)は、溶媒(S)中に懸濁されており、一方、金属化合物MY及び任意選択的に、存在する場合未反応リチウム化合物LiYは、溶媒(S)中に完全に可溶化されている。
【0101】
さらにいくつかの他の実施形態では、混合物(M2)において、固体硫化物材料(A)は、溶媒(S)中に懸濁されており、一方、金属化合物MY及び任意選択的に、存在する場合未反応リチウム化合物LiYは、溶媒(S)中に少なくとも部分的に可溶化されている。少なくとも部分的に可溶化されるとは、MY及び、存在する場合、LiYは、同時に又は同時にではなく、溶媒(S)中に完全に可溶化されることを意味する。
【0102】
工程(iii)において、固体硫化物材料(A)は、混合物(M2)から回収される。回収は、懸濁固体硫化物材料(A)を沈澱されるための混合物(M2)の遠心分離、引き続き上澄みの排除によって行うことができる。得られた固体硫化物材料(A)は、次いで、例えば撹拌下に新鮮な溶媒(S)中に懸濁させ、新たなサイクルの遠心分離/上澄みの排除によって回収することができる。幾つかのサイクルが、金属化合物MY及び未反応リチウム化合物LiYを排除するために必要とされ得る。
【0103】
いくつかの実施形態では、固体硫化物材料(A)は、混合物(M2)の単一の濾過、任意選択的に引き続く金属化合物MY及び未反応リチウム化合物LiYを排除するための新鮮な溶媒(S)でのリンスによって回収することができる。
【0104】
いくつかの実施形態では、回収された固体硫化物材料(A)は、工程i)~iii)を含む幾つかのサイクルに供される。
【0105】
工程iii)において回収された固体硫化物材料(A)は、任意選択的にさらに工程iv)における熱処理に供される。熱処理は、一般に、50℃~550℃の範囲の温度で行われる。
【0106】
工程iv)の熱処理は、工程(iii)において回収された固体硫化物材料(A)中の残存溶媒(S)の蒸発を含み得る。残存溶媒(S)の蒸発は、一般に、50℃~150℃の範囲の温度で行われる。蒸発は、真空下で行われ得る。蒸発の継続時間は、一般に1~20時間、より特に2~20時間又は3~7時間である。蒸発の終わりに、固体硫化物材料(A)は、いくらかの残留溶媒(S)を含み得る。残留溶媒の量は、一般に、固体硫化物材料(A)中の炭素含有量が2.0重量%未満であるようなものである。炭素含有量は、0.01~1.0重量%であり得る。
【0107】
工程iv)の熱処理はまた、150℃超及び550℃以下の温度での熱処理を含み得る。
【0108】
いくつかの実施形態では、熱処理は、50℃~150℃の範囲の温度での残存溶媒(S)の蒸発並びに150℃超及び550℃以下の温度での熱処理を含む。
【0109】
いくつかの他の実施形態では、熱処理は、50℃~150℃の範囲の温度での残存溶媒(S)の蒸発からなる。
【0110】
一般に、固体硫化物材料(A)は、粉末の形態で回収され、それは、例えばジルコニウムすり鉢及びすりこぎ、若しくは遊星ボールミリング、又は所望の粒径を得るための類似のミリング工具を使用して粉砕することができる。
【0111】
本発明はまた、本発明による方法によって調製される、前に定義されたような固体硫化物材料(A)に関する。
【0112】
本発明はまた、固体電解質としてのそのような固体硫化物材料の使用に関する。
【0113】
本発明はまた、本発明による方法によって調製される、前に定義されたような固体硫化物材料(A)を少なくとも含む固体電解質を含む電気化学デバイスに関する。
【0114】
好ましくは、電気化学デバイス、特に再充電可能な電気化学デバイスにおいて、固体電解質は、カソード、アノード及びセパレータからなる群から選択される電気化学デバイスのための固体構造の構成要素である。
【0115】
本明細書において好ましくは、固体電解質は、電気化学デバイスのための固体構造の構成要素であり、ここで、固体構造は、カソード、アノード及びセパレータからなる群から選択される。したがって、本発明による方法によって調製される固体硫化物材料(A)は、単独で又はカソード、アノード若しくはセパレータなどの、電気化学デバイスのための固体構造を製造するための追加の構成要素と組み合わせて使用することができる。
【0116】
放電中に正味の負電荷が発生する電極は、アノードと呼ばれ、放電中に正味の正電荷が発生する電極は、カソードと呼ばれる。セパレータは、電気化学デバイスにおいてカソードとアノードとを互いに電子的に分離する。
【0117】
好適な電気化学的に活性なカソード材料及び好適な電気化学的に活性なアノード材料は、当技術分野において周知である。本発明による電気化学デバイスにおいて、アノードは、好ましくは、黒鉛炭素、金属リチウム、Si、SiOxなどのケイ素化合物、Li4Ti5O12などのチタン酸リチウム又はSnなどのアノード活物質としてのリチウムを含む金属合金を含む。
【0118】
本発明による電気化学デバイスにおいて、カソードは、好ましくは、式LiMeQ2(式中、Meは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr及びVなどの遷移金属から選択される少なくとも1つの金属であり、Qは、O又はSなどのカルコゲンである)の金属カルコゲナイドを含む。これらの中で、式LiMeO2(式中、Meは、上で定義されたものと同じものである)のリチウム系複合金属酸化物を使用することが好ましい。その好ましい例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiNixCo1-xO2(0<x<1)、並びにスピネル構造化LiMn2O4及びLiMn1.5Ni0.5O4が挙げられ得る。その別の好ましい例としては、式LiNixMnyCozO2(x+y+z=1、NMCと言われる)、例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2のリチウム-ニッケル-マンガン-コバルト系金属酸化物及び式LiNixCoyAlzO2(x+y+z=1、NCAと言われる)、例えばLiNi0.8Co0.15Al0.05O2のリチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウム系金属酸化物が挙げられ得る。カソードは、LiFePO4などのリチウム化又は部分リチウム化遷移金属オキシアニオン系材料を含み得る。
【0119】
例えば、電気化学デバイスは、円筒形様形状又はプリズム形状を有する。電気化学デバイスは、スチール若しくはアルミニウム又は多層フィルムポリマー/金属箔製であることができるハウジングを含むことができる。
【0120】
本発明のさらなる態様は、電池に、より好ましくはアルカリ金属電池に、特に少なくとも1つ、例えば2つ以上の発明電気化学デバイスを含むリチウム電池に言及する。電気化学デバイスは、発明アルカリ金属電池において互いに、例えば直列接続又は並列接続で組み合わせることができる。
【0121】
本発明はまた、本発明による方法によって得られる固体硫化物材料(A)を少なくとも含む、電池、好ましくはリチウム電池に関する。
【0122】
本発明による方法によって得られる固体硫化物材料(A)が使用される電池は、リチウムイオン電池又はリチウム金属電池であることができる。
【0123】
典型的には、リチウム固体電池は、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、正極活物質層と負極活物質層との間に形成された固体電解質層とを含む。正極活物質層、負極活物質層、及び固体電解質層の少なくとも1つは、上で定義されたような固体電解質を含む。
【0124】
全固体電気化学デバイスのカソードは、通常、カソード活物質に加えて固体電解質を含む。同様に、全固体電気化学デバイスのアノードは、典型的には、アノード活物質に加えて固体電解質を含む。
【0125】
電気化学デバイスのための、特に全固体リチウム電池のための固体構造の形態は、特に、製造される電気化学デバイスそれ自体の形態に依存する。本発明は、さらに、電気化学デバイスのための固体構造を提供し、ここで、固体構造は、カソード、アノード及びセパレータからなる群から選択され、ここで、電気化学デバイスのための固体構造は、本発明による方法によって得られる固体硫化物材料(A)を含む。
【0126】
複数の電気化学セルは、固体電極及び固体電解質を両方とも有する、全固体電池に組み合わせられ得る。
【0127】
本発明はまた、本発明による方法によって得られる固体硫化物材料(A)を少なくとも含む電極に関する。
【0128】
上に開示された本発明による方法によって得られる固体硫化物材料(A)は、電極の調製に使用され得る。電極は、正極又は負極であり得る。
【0129】
電極は、典型的には、少なくとも:
- 金属基材;
- 金属基材と接触する組成物(C)の層であって、前記組成物(C)が、
(i)本発明による方法によって得られる固体硫化物材料(A);
(ii)少なくとも1つの電気活性化合物(EAC);
(iii)任意選択的に、本発明による方法によって得られる固体硫化物材料(A)以外のLiイオンを伝導する少なくとも1つの材料;
(iv)任意選択的に、少なくとも1つの導電性材料(ECM);
(v)任意選択的にリチウム塩(LIS);
(vi)任意選択的に少なくとも1つのポリマーバインダー材料(P)
を含む組成物(C)の層
を含む。
【0130】
電気活性化合物(EAC)は、電気化学デバイスの充電段階及び放電段階中にリチウムイオンをその構造中に組み入れるか又は挿入すること及び放出することができる化合物を意味する。EACは、リチウムイオンをその構造中に挿入する及び脱離することができる化合物であり得る。正極について、EACは、式LiMeQ2(式中:
- Meは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr、Al及びVからなる群において選択される少なくとも1つの金属であり;
- Qは、O又はSなどのカルコゲンである)
の複合金属カルコゲナイドであり得る。
【0131】
EACは、より特に、式LiMeO2のものであり得る。EACの好ましい例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNixCo1-xO2(0<x<1)、LiNixCoyMnzO2(0<x、y、z<1及びx+y+z=1)、例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2、LiNi0.8Mn0.1Co0.1O2、Li(NixCoyAlz)O2(x+y+z=1)並びにスピネル構造化LiMn2O4及びLi(Ni0.5Mn1.5)O4が挙げられる。
【0132】
EACはまた、式M1M2(JO4)fE1-f(式中:
- M1は、M1の20%未満を表す別のアルカリ金属によって部分的に置換され得るリチウムであり;
- M2は、+1~+5の酸化レベルでの、且つ0を含めて、M2金属の35%未満を表す1つ以上の追加の金属によって部分的に置換され得る、Fe、Co、Mn、Ni又はそれらの混合物から選択される+2の酸化レベルでの遷移金属であり;
- JO4は、JがP、S、V、Si、Nb、Mo又はそれらの組合せのいずれかである任意のオキシアニオンであり;
- Eは、フッ化物アニオン、水酸化物アニオン又は塩化物アニオンであり;
- fは、一般に、0.75~1に含まれるJO4オキシアニオンのモル分率である)
のリチウム化又は部分リチウム化遷移金属オキシアニオン系電気活物質であり得る。
【0133】
上で定義されたようなM1M2(JO4)fE1-f電気活物質は、好ましくは、ホスフェート系である。それは、規則的構造又は変性カンラン石構造を示し得る。
【0134】
正極について、EACはまた、硫黄又はLi2Sであり得る。
【0135】
正極について、EACはまた、FeS2又はFeF2又はFeF3などの変換型材料であり得る。
【0136】
負極について、EACは、リチウムを挿入できる黒鉛炭素からなる群において選択され得る。このタイプのEACに関するさらなる詳細は、Carbon 2000,38,1031-1041に見いだされ得る。このタイプのEACは、典型的には、粉末、フレーク、繊維又は球体(例えば、メソカーボンマイクロビーズ)の形態で存在する。
【0137】
EACはまた、リチウム金属;リチウム合金組成物(例えば、米国特許第6,203,944号明細書に及び国際公開第00/03444号パンフレットに記載されているもの);一般に、式Li4Ti5O12で表される、チタン酸リチウム(これらの化合物は、一般に、可動イオン、すなわちLi+を取り込むと低レベルの物理的膨張を有する、「ゼロ歪み」挿入材料と見なされる);高いLi/Si比のケイ化リチウムとして一般に知られる、リチウム-ケイ素合金、特に式Li4.4Siのケイ化リチウム;及び式Li4.4Geの結晶相を含む、リチウム-ゲルマニウム合金であり得る。EACはまた、ケイ素及び/又は酸化ケイ素入り炭素質材料、とりわけ黒鉛炭素/ケイ素及び黒鉛/酸化ケイ素に基づく複合材料であり得、ここで、黒鉛炭素は、リチウムを挿入できる1つ又は幾つかの炭素から構成される。
【0138】
ECMは、典型的には、導電性炭素質材料及び金属粉末又は繊維からなる群において選択される。導電性炭素質材料は、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、黒鉛、グラフェン及び黒鉛繊維並びにそれらの組合せからなる群において選択され得る。カーボンブラックの例としては、ケッチェンブラック及びアセチレンブラックが挙げられる。金属粉末又は繊維には、ニッケル及びアルミニウム粉末又は繊維が含まれる。
【0139】
リチウム塩(LIS)は、LiPF6、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、LiB(C2O4)2、LiAsF6、LiClO4、LiBF4、LiAlO4、LiNO3、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiC(SO2CF3)3、LiN(SO3CF3)2、LiC4F9SO3、LiCF3SO3、LiAlCl4、LiSbF6、LiF、LiBr、LiCl、LiOH及びリチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾールからなる群において選択され得る。
【0140】
ポリマー系結合材料(P)の機能は、組成物の成分を結び付けることである。ポリマー系結合材料は、通常、不活性である。それは、好ましくは、また化学的に安定であり、且つ電子的及びイオン的輸送を容易にするべきである。ポリマー系結合材料は、当技術分野において周知である。ポリマー系バインダー材料の非限定的な例としては、とりわけ、フッ化ビニリデン(VDF)系(コ)ポリマー、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)及びポリ(アクリロニトリル)(PAN)(コ)ポリマーが挙げられる。
【0141】
組成物中の本発明による方法によって得られる固体硫化物材料(A)の割合は、組成物の総重量を基準として、0.1重量%~80重量%であり得る。特に、この割合は、1.0重量%~60重量%、より特に5重量%~30重量%であり得る。電極の厚さは、特に制限されず、用途において必要とされるエネルギー及び電力に関して調整されるべきである。例えば、電極の厚さは、0.01mm~1,000mmであり得る。
【0142】
本発明はまた、本発明による方法によって得られる固体硫化物材料(A)を少なくとも含むセパレータに関する。
【0143】
本発明による方法によって得られる固体硫化物材料(A)はまた、セパレータの調製に使用され得る。セパレータは、電池のアノードとカソードとの間に配置されるイオン透過性の膜である。その機能は、電子を遮断し、且つ電極間の物理的分離を確実にしながら、リチウムイオンを透過させることである。
【0144】
本発明のセパレータは、典型的には、少なくとも:
- 本発明による方法によって得られる固体硫化物材料(A);
- 任意選択的に少なくとも1つのポリマー系結合材料(P);
- 任意選択的に少なくとも1つの金属塩、とりわけリチウム塩;
- 任意選択的に少なくとも1つの可塑剤
を含む。
【0145】
電極及びセパレータは、当業者に周知の方法を用いて調製され得る。これは、通常、適切な溶媒中で成分を混合し、溶媒を除去することを含む。例えば、電極は、以下の工程:
- 組成物の成分と少なくとも1つの溶媒とを含むスラリーを金属基材上に塗布する工程;
- 溶媒が除去される工程
を含む方法によって調製され得る。
【0146】
当業者に公知の通常の技術は、以下のもの:コーティング及びカレンダー加工、乾式及び湿式押出、3D印刷、多孔質フォームの焼結、引き続く含浸である。電極の及びセパレータの通常の調製技術は、Journal of Power Sources,2018 382,160-175に提供されている。
【0147】
電気化学デバイス、とりわけ本明細書で記載される固体電池などの電池は、自動車、コンピュータ、携帯端末、携帯電話、時計、カムコーダー、デジタルカメラ、温度計、計算機、ラップトップBIOS、通信設備又はリモートカーロック、及びパワープラントのためのエネルギー貯蔵デバイスなどの定置型応用品を製造する又は運転するために使用することができる。
【0148】
電気化学デバイス、とりわけ本明細書で記載される固体電池などの電池は、とりわけ、動力車、電動機によって運転される自転車、ロボット、航空機(例えば、ドローンなどの無人航空機)、船又は定置型エネルギー貯蔵所に使用することができる。車両、例えば自動車、自転車、航空機、又はボート若しくは船などの水上車両などのモバイルデバイスが好ましい。モバイルデバイスの他の例は、携帯可能であるもの、例えばコンピュータ、特にラップトップ、電話機又は、例えば建設部門からの電動工具、特にドリル、電池駆動スクリュードライバー若しくは電池駆動鋲打ち機である。
【0149】
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が、ある用語を不明確にし得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【実施例】
【0150】
特性評価:
イオン伝導率は、インピーダンス分光法によって加圧(500MPa)ペレットに関して測定することができる。
【0151】
イオン伝導率の測定は、一般に、加圧ペレットに関して行う。典型的には、加圧ペレットは、一軸圧力又は平衡圧を用いて製造する。一軸圧力を適用してペレットを形成する場合、100MPa超、有利には300MPa超の圧力を、少なくとも30秒の継続時間の間適用する。測定は、典型的には2MPa~200MPaの一軸圧力下で行う。
【0152】
電流コレクタとして使用される、事前に乾燥させたカーボン紙電極間にペレットを挟み、次いで気密性の高いサンプルホルダ内へロードする。ACインピーダンススペクトルは、Biologic VMP3デバイスを用いることによって集める。サンプルをバインダー恒温槽に入れて異なる温度でインピーダンス測定を行う。各スペクトルは、目標温度での2時間の安定化後に取得する。温度範囲は、10℃のステップで-20℃から60℃まで変わる。インピーダンス分光法は、20mVの振幅及び1MHz~1kHz周波数の範囲でPEISモード(10当たり25点及び周波数点当たり平均50の測定)で取得する。イオン伝導率値は、ZViewソフトウェアを用いて等価回路モデルへデータをはめ込むことによって得られる。σT対1/Tプロットの傾きを計算して方程式1:
方程式1:
【数1】
を用いて活性化エネルギー値を決定する。
【0153】
本発明者らは、これによって意外にも、本発明による方法によって調製された固体硫化物材料(A)が、類似の組成を有するが高温固相合成又はメカノケミカル経路などの従来法によって調製された固体硫化物材料と比較されるときに向上したイオン伝導率を有することを見いだした。
【0154】
製造例
Ar充満グローブボックス中で、Li2S(Lorad Chemical)、LiCl(Sigma-Aldrich)、Na2S(Sigma-Aldrich)及びP2S5(Sigma-Aldrich)を秤量し、化学量論的割合で混合してLi5.8Na0.2PS5Clの8gの所望の組成物を得た。次いで、混合物を、5mmジルコニア(YSZ)ボールで満たされている2つの45mLのZrO2ジャーへ移した。ボール対粉末比を16.5に固定した。ジャーを密封し、グローブボックスから取り出し、Fritsch Planetary Micro Mill Pulverisette 7中に入れた。混合物を、30分のミリング毎に15分の中断を用いながら500RPM回転速度で2時間ボールミルにかけた。粉末をAr充満グローブボックス(<1ppm H2O、<1ppm O2)中で回収した。得られた粉末を、カーボン紙ボックスの密閉SiC坩堝(Papyex)中へ移した。
【0155】
坩堝を、N2雰囲気下のチューブ炉中で5℃/分の加熱速度で500℃まで加熱し、この温度で12時間保った。その後、サンプルを室温まで冷却した。それを、Ar充満グローブボックス中で回収し、すり鉢中で解砕した。
【0156】
2重量%レベルでのLi2S不純物が存在する9.86Åの格子パラメータの硫銀ゲルマニウム鉱相を特定した。
【0157】
実施例1
2MのLiTFSIを含有するプロピレンカーボネート電解質を、リチウム塩を混合し、72時間中室温で溶解させることによって調製した。
【0158】
500mgの製造例を、72時間中2mLの電解質と撹拌し、次いでPVDFフィルター(45μm)上で濾過した。粉末及び液体を分離回収し、粉末を130℃で12h中、Buchiオーブン中で真空下に乾燥させた。
【0159】
30℃でのイオン伝導率は、1.2mS/cmであり、0.42eVの活性化エネルギーと関連していた。
【0160】
実施例2
2MのLiTFSIを含有するアセトニトリル電解質を、リチウム塩を混合し、72時間中室温で溶解させることによって調製した。
【0161】
500mgの製造例を、72時間中2mLの電解質と撹拌し、次いでPVDFフィルター(45μm)上で濾過した。粉末及び液体を分離回収し、粉末を130℃で12h中、Buchiオーブン中で真空下に乾燥させた。
【0162】
30℃でのイオン伝導率は、2.47mS/cmであり、0.41eVの活性化エネルギーと関連していた。
【0163】
比較例3
500mgの製造例を、72時間中2mLのプロピレンカーボネートと撹拌し、次いでPVDFフィルター(45μm)上で濾過した。粉末及び液体を分離回収し、粉末を130℃で12h中Buchiオーブン中で真空下に乾燥させた。
【0164】
30℃でのイオン伝導率は、0.7mS/cmであり、0.40eVの活性化エネルギーと関連していた。
【0165】
比較例4
500mgの製造例を、72時間中2mLのアセトニトリルと撹拌し、次いでPVDFフィルター(45μm)上で濾過した。粉末及び液体を分離回収し、粉末を130℃で12h中、Buchiオーブン中で真空下に乾燥させた。
【0166】
30℃でのイオン伝導率は、1.1mS/cmであり、0.41eVの活性化エネルギーと関連していた。
【0167】
むしろ純粋なプロピレンカーボネートでよりも、本発明の方法に従って、プロピレンカーボネート中で式Li5.8Na0.2PS5Clの製造例をリチウム化合物LiTFSIで処理すると、結果として生じる粉末材料のイオン伝導率を向上させることが明らかである。実際に、比較例3で得られた結果として生じる粉末のイオン伝導率が0.7mS/cmであるにすぎないときに、実施例1で得られた結果として生じる粉末のイオン伝導率は1.2mS/cmである。
【0168】
同様に、むしろ、純粋なアセトニトリルでよりも、本発明の方法に従って、アセトニトリル中の式Li5.8Na0.2PS5Clの製造例をリチウム化合物LiTFSIで処理すると、結果として生じる粉末材料のイオン伝導率を向上させることが明らかである。実際に、比較例4で得られた結果として生じる粉末のイオン伝導率が1.1mS/cmであるにすぎないときに、実施例3で得られた結果として生じる粉末のイオン伝導率は2.47mS/cmである。
【国際調査報告】