(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】大型LNPを大量生産する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/51 20060101AFI20241226BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20241226BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20241226BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20241226BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20241226BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20241226BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241226BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20241226BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20241226BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20241226BHJP
【FI】
A61K9/51
A61K47/28
A61K47/34
A61K47/24
A61K47/10
A61K31/7105
A61K47/26
A61K47/36
A61K47/12
A61K47/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535362
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-07-11
(86)【国際出願番号】 EP2022087505
(87)【国際公開番号】W WO2023118450
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520265930
【氏名又は名称】イーザアールエヌーエー イムノセラピーズ エンヴェー
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【氏名又は名称】中島 彩夏
(74)【代理人】
【識別番号】100231647
【氏名又は名称】千種 美也子
(72)【発明者】
【氏名】ダクワー,ジョージ アール.
(72)【発明者】
【氏名】チャリス,フィリップ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA65
4C076AA95
4C076BB11
4C076DD37
4C076DD38
4C076DD41
4C076DD50
4C076DD63
4C076DD67
4C076DD70
4C076EE23
4C076EE38
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA38
4C086MA66
4C086NA13
(57)【要約】
本発明は、脂質ナノ粒子(LNP)の分野、より具体的には大型LNPを大量生産する方法に関する。本発明の方法では、大量のLNPを迅速に生産するスケーラブルな方法によって、約140 nmの最小平均直径を有することを特徴とするLNPを生産する。本発明は、活性剤の送達、より具体的には核酸分子、具体的にはmRNAの免疫原性送達のための大きなLNPを生産する、スケーラブルで大規模な、GMPに準拠した方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも140 nmの平均直径を有する脂質ナノ粒子(LNP)を含む組成物を大量生産する方法であって、
a)有機溶媒中のイオン性脂質、リン脂質、ステロール及びPEG脂質を含む第1の組成物と、酸性緩衝液中の1つ以上の活性剤を含む第2の組成物とを混合し、それにより混合後バルクを得る工程と、
b)工程a)の前記混合後バルクに、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)を適用する工程と、
c)工程b)の前記組成物に、pH<6.5を有する水溶液中で濾過工程を適用する工程と、
d)工程c)の前記組成物に、凍結保護物質を含むクライオバッファーを添加する工程と、
e)工程d)の前記組成物に、pH>6.5を有する水溶液中で濾過工程を適用する工程と、
f)工程e)の前記組成物を滅菌濾過し、それにより少なくとも140 nmの平均直径を有し、前記活性剤を含有する脂質ナノ粒子の組成物を得る工程と、
を含み、工程b)の前記TFFを4000/s未満の剪断速度で行うことを特徴とし、LNPが1 mol%未満のPEG化脂質を含む、方法。
【請求項2】
工程a)において、前記第1の組成物の混合流量が前記第2の組成物の混合流量よりも低い、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)において、前記第1の組成物と前記第2の組成物との混合流量の比率が約1:2である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程b)における前記タンジェンシャルフロー濾過が、他のタンジェンシャルフロー濾過工程と比較して低い剪断速度で行われる第1の限外濾過工程を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程b)における前記タンジェンシャルフロー濾過が、他のタンジェンシャルフロー濾過工程が4000/s未満の剪断速度で行われる一方で、3000/s未満の剪断速度で行われる第1の限外濾過工程を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記有機溶媒がクロロホルム、又はメタノール若しくはエタノール等のアルコール、特にエタノールである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記活性剤が核酸、抗体、タンパク質、ペプチド等の小分子及び生体分子を含むリストから選択され、特にmRNA分子である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記凍結保護物質がマルトース、マルトデキストリン、デキストラン、マンニトール、トレハロース、グルコース又はスクロースを含むリストから選択され、特にトレハロース又はスクロースである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記クライオバッファーが凍結保護物質と、クエン酸塩、Tris及びPBSの1つ以上、特にTRIS又はPBSの1つ以上とを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程a)の前記第1の組成物が30℃~45℃の温度である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程a)において得られる前記混合後バルクを工程b)の前に希釈する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程e)において得られる前記組成物を工程f)の前に希釈する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程c)及び/又はe)における前記濾過のフィルターサイズが0.20 μmである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程c)及び/又はe)の前記水溶液が水、特に注射用水である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
工程c)及び/又はe)の前記濾過が清澄濾過である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質ナノ粒子(LNP)の分野、より具体的には大型LNPを大量生産する方法に関する。本発明の方法では、大量のLNPを迅速に生産するスケーラブルな方法によって、約140 nmの最小平均直径を有することを特徴とするLNPを生産する。本発明は、活性剤の送達、より具体的には核酸分子、具体的にはmRNAの免疫原性送達(immunogenic delivery)のための大きなLNPを生産する、スケーラブルで大規模な、GMPに準拠した方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
生物活性物質の標的化送達の分野における大きな課題の1つは、多くの場合、それらの不安定性及び低い細胞透過能である。これは、具体的には核酸分子、特に(m)RNA分子の送達の場合である。したがって、核酸分子等の活性剤の適したパッケージングが適切な保護及び送達のために極めて重要である。したがって、核酸等の生物活性物質のパッケージングのための方法及び組成物が引き続き必要とされている。その点において、リポプレックス及びリポソーム等の脂質ベースのナノ粒子組成物が、細胞及び/又は細胞内区画への輸送を可能にする生物活性物質のパッケージングビヒクルとして使用されている。
【0003】
別のタイプのパッケージング組成物は、脂質ナノ粒子(LNP)である。LNPは、典型的には、カチオン性又はイオン性脂質、リン脂質、ステロール及びPEG化脂質の4つの脂質の混合物で構成され、全身投与後の肝臓へのsiRNA及びmRNAの非免疫原性送達のために開発されている。最適な肝細胞取込み及び発現を引き起こすために、これらのLNPは通例、70 nm~100 nmと小さなサイズを示す(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。
【0004】
LNPは、筋肉又は真皮への抗原をコードするmRNAの免疫原性送達にも使用されている(非特許文献4、非特許文献5)。この場合にも、小さなサイズ(80 nm~120 nm)のLNPが通例、かかるサイズの小ささが免疫原性に極めて重要であることが示されていることから使用されている。さらに、小型LNPは、注射により流入領域リンパ節に効率的に到達し得るが、より大型のLNPは、より頻繁に注射部位に保持される(非特許文献6を参照されたい)。
【0005】
近年、一般的な考え方とは対照的に、小型粒子がLNP媒介送達に有益であるが、140 nm超の直径を有するナノ粒子が、特に静脈内投与後の脾臓への活性剤(mRNA等)の送達の増強につながることが見出されている。このため、この目的で大きなLNPを生産する方法に関心が寄せられている。
【0006】
従来技術において、これらの大きな(100 nm超の)LNPを生産する方法が記載されているが、これらのLNPは、より小さな対応物と同様に首尾よく核酸をカプセル化する効力が低いという悪い形質が特定されている(非特許文献7及び非特許文献8)。また、GMPに準拠した大型LNPの大量生産は、依然として課題である。従来技術には、高いカプセル化率で効力のある大型LNPの大きなバッチを一貫して生産する方法はない。これらの大きなLNPは、脾臓への核酸等の活性剤の送達に特に有益であるため、少なくとも140 nmの平均直径を有するLNPを薬学的に適切な規模で一貫して生産する方法が有益である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Li et al., Nanoletters 2015
【非特許文献2】Thess et al. Mol ther 2015
【非特許文献3】Kauffman et al. Biomaterials 2016
【非特許文献4】Richner et al. Cell 2017
【非特許文献5】Liang et al., Mol Ther 2017
【非特許文献6】Reichmuth et al., 2016
【非特許文献7】MacLachlan, I., 2007
【非特許文献8】Chen, Sam, et al. 2016
【発明の概要】
【0008】
第1の態様においては、本発明は、本発明によるLNPを含む組成物を大量生産する方法であって、
a)有機溶媒中のイオン性脂質、リン脂質、ステロール及びPEG脂質を含む第1の組成物と、酸性緩衝液中の1つ以上の活性剤(核酸等)を含む第2の組成物とを混合し、それにより混合後バルクを得る工程と、
b)工程a)の上記混合後バルクに、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)を適用する工程と、
c)工程b)の上記組成物に、pH<6.5を有する水溶液中で濾過工程を適用する工程と、
d)工程c)の上記組成物に、凍結保護物質を含むクライオバッファーを添加する工程と、
e)工程d)の上記組成物に、pH>6.5を有する水溶液中で濾過工程を適用する工程と、
f)工程e)の上記組成物を滅菌濾過し、それにより少なくとも140 nmの平均直径を有し、上記活性剤を含む脂質ナノ粒子の組成物を得る工程と、
を含み、工程b)の上記TFFを4000/s未満の剪断速度で行うことを特徴とし、LNPが1 mol%未満のPEG化脂質を含む、方法を提供する。
【0009】
工程a)の具体的な実施の形態においては、上記第1の組成物の混合流量は、上記第2の組成物の混合流量よりも低い。
【0010】
工程a)の別の具体的な実施の形態においては、第1の組成物と第2の組成物との混合流量の比率は約1:2である。
【0011】
別の具体的な実施の形態においては、工程b)の上記タンジェンシャルフロー濾過は、後続のタンジェンシャルフロー濾過工程(複数の場合もある)と比較して低い剪断速度で行われる第1の限外濾過工程を含む。
【0012】
別の具体的な実施の形態においては、工程b)の上記タンジェンシャルフロー濾過は、後続のタンジェンシャルフロー濾過工程が4000/s未満の剪断速度で行われる一方で、3000/s未満の剪断速度で行われる第1の限外濾過工程を含む。
【0013】
別の具体的な実施の形態においては、上記有機溶媒は、クロロホルム、又はメタノール若しくはエタノール等のアルコール、特にエタノールである。
【0014】
別の具体的な実施の形態においては、上記凍結保護物質はマルトース、マルトデキストリン、デキストラン、マンニトール、グルコース、トレハロース又はスクロースを含むリストから選択され、特にトレハロース又はスクロースである。
【0015】
また更なる実施の形態においては、上記活性剤は、小分子及び生体分子、特に抗体、ペプチド、タンパク質及び/又は核酸、より具体的にはmRNA分子又はDNA分子を含むリストから選択される。
【0016】
別の具体的な実施の形態においては、上記クライオバッファーは、凍結保護物質と、Tris、クエン酸塩、又はPBSの1つ以上、特にTRIS及び/又はPBSとを含む。
【0017】
別の具体的な実施の形態においては、工程a)の上記第1の組成物は30℃~45℃の温度である。
【0018】
別の具体的な実施の形態においては、工程a)の上記組成物を工程b)の前に希釈し、及び/又は工程e)の上記組成物を工程f)の前に希釈する。
【0019】
別の具体的な実施の形態においては、工程c)及び/又はe)における上記濾過のフィルターサイズ/カットオフは0.20 μmである。
【0020】
また更なる実施の形態においては、工程c)及び/又はe)の上記水溶液は水、特に注射用水である。
【0021】
別の具体的な実施の形態においては、工程c)及び/又はe)の上記濾過は清澄濾過である。
【0022】
これより図面を具体的に参照するが、示される詳細は、例として、本発明の種々の実施形態の例示的な説明のみを目的とするものであることが強調される。これらの図面は、本発明の原理及び概念的態様の最も有用で容易な説明であると考えられるものを提供するために提示される。この点に関して、本発明の基礎的理解に必要とされるものよりも詳細に本発明の構造的詳細を示す試みはなされていない。この説明は、図面とともに本発明の幾つかの形態を実際に具体化し得る方法を当業者に明らかとするものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例1の表1のサンプルの透過電子顕微鏡法分析から得られたサイズ分布を示す図である。平均粒径は、150 nm~200 nmの直径範囲である。
【
図2】実施例2の表2のサンプルの透過電子顕微鏡法分析から得られたサイズ分布を示す図である。平均粒径は、150 nm~200 nmの直径範囲である。
【
図3】水中でのTFF後のサイズ分布を示す図である(平均サイズ:直径141 nm、PDI:0.49)。
【
図4】水中での濾過後のサイズ分布を示す図である(平均サイズ:92.5 nm、PDI:0.45)。
【
図5】クライオバッファー中でのLNPの滅菌濾過後のサイズ分布を示す図である(平均サイズ:142 nm、PDI:0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書において上記で既に詳述したように、本発明は、当該分野で一般に用いられるよりも大きな直径を有する脂質ナノ粒子(LNP)を生産する、スケーラブルでGMPに準拠した方法を提供する。これらのLNPは、活性剤の送達、より具体的には核酸、具体的にはmRNAの免疫原性送達に非常に適していることが見出されており、それを必要とする被験体への投与(例えば静脈内投与)後の脾臓への送達の増強につながることが見出されている。「核酸分子の免疫原性送達」は、該核酸分子の細胞との接触、内在化及び/又は細胞内での発現が免疫応答の誘導をもたらす、細胞への核酸分子の送達を意味する。この大量生産は、本明細書において特定される方法に従って達成され、特に、驚くほど低い剪断速度のタンジェンシャルフロー濾過(TFF)及び驚くほど低い割合のPEG化脂質が方法に使用される。
【0025】
したがって、第1の態様においては、本発明は、イオン性脂質、リン脂質、ステロール、PEG脂質及び1つ以上の活性剤を含むLNPを大量生産する方法であって、上記LNPが約140 nm以上の平均直径を有する、方法を提供する。
【0026】
特に、本発明は、GMPに準拠した大型LNPを大量生産する方法であって、
a)有機溶媒中のイオン性脂質、リン脂質、ステロール及びPEG脂質を含む第1の組成物と、酸性緩衝液中の1つ以上の活性剤を含む第2の組成物とを混合し、それにより混合後バルクを得る工程と、
b)工程a)の上記混合後バルクに、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)を適用する工程と、
c)工程b)の上記組成物に、pH<6.5の水溶液中で濾過工程を適用する工程と、
d)工程c)の上記組成物に、凍結保護物質を含むクライオバッファーを添加する工程と、
e)工程d)の組成物に、pH>6.5の水溶液中で濾過工程を適用する工程と、
f)工程e)の上記組成物を滅菌濾過し、それにより活性剤を含み、少なくとも140 nmの平均直径を有する脂質ナノ粒子の組成物を得る工程と、
を含み、工程b)のTFFを4000/s未満の剪断速度で行うことを特徴とし、工程a)の第1の組成物が低い割合(1%未満)のPEG化脂質を含有する、方法を提供する。
【0027】
脂質ナノ粒子(LNP)は、異なる脂質の組合せから構成されるナノサイズ粒子として一般に知られている。多くの異なるタイプの脂質がそのようなLNPに含まれ得るが、本発明の方法によって生産されるLNPは、典型的には、イオン性脂質、リン脂質、ステロール及びPEG脂質の組合せから構成される。
【0028】
本明細書において使用される場合、「ナノ粒子」という用語は、粒子を特に核酸の活性剤の全身投与、特に静脈内投与に適したものにする直径を有し、典型的には、1000ナノメートル(nm)未満の直径を有する任意の粒子を指す。
【0029】
幾つかの実施形態において、本発明のLNPは、600 nm未満の平均直径を有する。幾つかの実施形態において、本発明のLNPは、400 nm未満の平均直径を有するが、いずれの場合にも、本発明のナノ粒子は、約140 nm超の平均直径を有する。具体的な実施形態において、本発明のLNPは約140 nm以上、約150 nm以上、約160nm以上、約170 nm以上、約180 nm以上、約190 nm以上又は約200 nm以上の平均直径を有する。明確にするために、複数のLNPの混合物が使用される場合、言及される平均直径は、該複数のLNPの平均直径を意味する。この例においては、例えば混合物は、140 nmよりも小さい平均直径を有する幾つかのLNPを、残りのLNPが140 nmよりも大きい平均直径を有し、全てのLNPを合わせた平均直径が少なくとも140 nmとなる限りにおいて含有し得る。本願において使用される場合、「直径」という用語は常に、具体的に指定されなくとも「平均直径」を意味する。本願において使用される場合、「大型LNP」という用語は常に、約140 nmよりも大きい直径を有するLNPを指す。
【0030】
LNPの粒径及び多分散指数は、Malvern Zetasizer動的光散乱(DLS)装置(Malvern Panalytical Ltd.、英国)を用いて測定することができる。本願において提示する粒径値は、粒径分布のZ-平均直径を表す。DLSは、拡散係数の分布を粒径分布に変換する拡散ベースの技術であるため、LNP-mRNAを含む媒体の粘度が、正確な平均直径を得るために重要な役割を果たす。
【0031】
サンプルを23℃で120秒間平衡化させ、以下のようにLNP-mRNAに基づく測定を行う:クライオバッファーの添加前に、LNP-mRNAサンプルは水中にあり、23℃での水の粘度値を用いて粒径を測定する。クライオバッファーの添加後に、23℃での凍結保護物質の存在を考慮した測定粘度値を用いる。したがって、特定の実施形態において、本発明のLNPは、23℃でLNPが存在する緩衝液の粘度値を考慮した動的光散乱(DLS)を用いて測定された、少なくとも140 nmの平均直径を有する。代替的には、LNPのサイズ分布は、他の好適な技術を用いて、例えば実施例2に詳述するように透過電子顕微鏡法(TEM)によって決定することができる。
【0032】
本発明の方法は、約140 nm超の平均直径を有するLNPを生産するための幾つかの工程を含む。方法はスケーラブルであり、産業的に有意な数の上記LNPを生産するために用いることができる。
【0033】
本発明の文脈において、「大量生産」という用語は、産業規模での生産、特に少なくとも250 mg、特に少なくとも500 mg、例えば約1 g、約2 g又はそれ以上の活性剤(例えばmRNA)の総負荷量を含有するようなLNPの大きなバッチの生産を意味する。
【0034】
本発明の文脈において、化合物又は脂質との関連における「イオン性」(又は代替的にはカチオン性)という用語は、イオン(通常はH+イオン)を得て、それ自体が正電荷を有するようになることで解離することが可能な上記化合物又は脂質中の任意の非荷電基の存在を意味する。代替的には、上記化合物又は脂質中の任意の非荷電基は、電子を得て、負電荷を有するようになってもよい。多くの場合、正電荷は第四級窒素原子の存在の結果である。
【0035】
本発明の文脈において、任意のタイプのイオン性脂質を適切に使用することができる。
【0036】
本発明の文脈において、「リン脂質」という用語は、2つの疎水性脂肪酸「尾部」と、リン酸基からなる親水性「頭部」とからなる脂質分子であることを意味する。これら2つの成分は、ほとんどの場合、グリセロール分子によって結合されるため、本発明のリン脂質は、好ましくはグリセロール-リン脂質である。さらに、リン酸基は、多くの場合、単純な有機分子で修飾され、例えばコリン(すなわち、ホスホコリンにする)又はエタノールアミン(すなわち、ホスホエタノールアミンにする)で修飾される。
【0037】
本発明の文脈において好適なリン脂質は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジリノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、5 1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジウンデカノイル-sn-グリセロ-ホスホコリン(DUPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(18:0Diether PC)、1-オレオイル-2-コレステリルヘミスクシノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(OChemsPC)、1-ヘキサデシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(C16 Lyso PC)、1,2-ジリノレノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、1,2-ジアラキドノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、1,2-ジドコサヘキサエノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(ME16.0 PE)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジリノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジリノレノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジアラキドノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジドコサヘキサエノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-rac-(1-グリセロール)ナトリウム塩(DOPG)、スフィンゴミエリン、及びそれらの混合物を含むリストから選択することができる。
【0038】
本発明の文脈において、任意の好適なステロール、例えばコレステロール、エルゴステロール、カンペステロール、オキシステロール、アントロステロール、デスモステロール、ニカステロール、シトステロール及びスチグマステロールを含むリストから選択されるステロールを使用することができ、好ましくはコレステロールである。
【0039】
本発明の文脈において、「PEG脂質」又は代替的には「PEG化脂質」という用語は、PEG(ポリエチレングリコール)基で修飾された任意の好適な脂質を意味する。特定の実施形態では、上記PEG脂質は、PEG修飾ホスファチジルエタノールアミン、PEG修飾ホスファチジン酸、PEG修飾セラミド、PEG修飾ジアルキルアミン、PEG修飾ジアシルグリセロール、PEG修飾ジアルキルグリセロール及びそれらの混合物を含むリストから選択される。かかるPEG脂質のより具体的な例は、C14-PEG2000(1,2-ジミリストイル-rac-グリセロール,メトキシポリエチレングリコール-2000(DMG-PEG2000))及びC18-PEG5000(1,2-ジステアロイル-rac-グリセロール,メトキシポリエチレングリコール-5000(DSG-PEG5000))を包含する。
【0040】
本明細書において使用される場合、第1の組成物は、本明細書において定義される様々な脂質とは別に、有機溶媒を更に含む。かかる有機溶媒は、それに含まれる脂質を溶液中に維持するために必要とされる。本発明の文脈において適切に使用され得る有機溶媒は、例えばクロロホルム又はアルコール、例えばメタノール又はエタノール、特にエタノールである。
【0041】
さらに、更なる具体的な実施形態において、上記第1の組成物は、僅かに上昇した温度、すなわち、室温より高いが沸点未満の温度に維持するのが好ましい。このような上昇した温度は、例えば30℃~60℃、例えば30℃~50℃、より具体的には30℃~45℃であり得る。この僅かに上昇した温度は、それに溶解する脂質の溶解性を向上させ、それにより混合プロセスの効率を高め、これはLNP生産プロセスにおいて有利であることが見出された。
【0042】
本発明の文脈において、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)という用語は、当該技術分野で既知の生体分子を分離及び精製する方法を意味する。TFFシステムは通例、フィルターデバイス、例えばカプセル、カセット及びホルダー、又は中空糸モジュール、ポンプ、チューブ、バルブ又はクランプ、並びに流体リザーバ、並びに任意に圧力計を備える。かかるTFFシステムは、フィルター膜の細孔の目詰まりなしに、高濃度の活性剤(例えば核酸)であっても連続的に使用することができる。TFFシステムの使用は、精製すべきLNPのハイスループット精製を可能にするため有利である。
【0043】
TFFは特に、供給流が膜面に対して平行に流れる、上記フィルターデバイスを通した液体の拡散を指す。流がフィルターに沿って流れるように供給リザーバに圧力を加え、より大きな粒子はフィルターを通過することができない。これらの粒子がフィルターを塞ぐのを防ぐために、上記供給リザーバに再循環させる。TFFは特定の剪断速度で行われ、これは供給物がフィルターに適用される速度である。LNP製造におけるTFFの主な用途は、濃縮及び透析濾過(緩衝液交換及び脱塩)である。
【0044】
LNP精製に使用するのに適したフィルター膜は、上記目的に適した任意のタイプの材料とすることができ、したがって精製すべきLNPと相互作用しない。フィルター膜の材料の例としては、修飾又は非修飾ポリエーテルスルホン(mPES又はPES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、酢酸セルロース、ニトロセルロース、混合セルロースエステル(ME)、超高分子量ポリエチレン(UPE)、ポリフルオロテトラエチレン(PTFE)、ナイロン、ポリスルホン(PS)、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)及びそれらの組合せが挙げられる。フィルター膜は、その分子量カットオフ(MWCO)値によって特徴付けられ、これは90%がフィルターに保持される粒子の最小分子量(ダルトン単位)を指す。フィルター膜は、LNPを保持する一方で、MWCO、ひいては細孔径よりも小さなサイズの成分が濾過液としてフィルター膜を通過するのを可能にするのに適切な細孔径を有するのが好ましい。
【0045】
本発明の幾つかの実施形態において、100 kDa~500 kDa、好ましくは100 kDa~300 kDa、より好ましくは100 kDa~200 kDa、最も好ましくは約100 kDaの分子量カットオフを有するフィルター膜がTFFに使用される。フィルター膜の細孔径が、フィルター膜を通過することができ、したがって濾過液に含まれるLNP等の粒子及び成分のサイズを決定するため、TFFに使用されるフィルター膜は重要である。
【0046】
TFFを用いたプロセスは、種々の変数を考慮して更に特徴付けることができ、膜間差圧、流量/剪断速度が2つの最も重要な変数である。
【0047】
「膜間差圧」(TMP)は、成分をフィルター膜に通過させる推進力を指す。幾つかの実施形態において、TFF工程における膜間差圧は、100 mbar~700 mbar、好ましくは100 mbar~500 mbar、より好ましくは200 mbar~400 mbarであり、代替的には、約2 psi~約8 psiの範囲のように圧力をpsiとして表すことができる。
【0048】
「流量(flow)」という用語は、TFFシステム、特にフィルター膜領域内を流れる溶液の体積を指し、「流量(flow rate)」又は「剪断速度」は、所与の時間内に上記システムを流れる溶液の体積を指す。この用語は、mRNA分子をTFFシステムに通して再循環させ、LNPをフィルター表面から洗い流すために必要とされる速度を意味する。このため、流量/剪断速度又はクロスフロー速度は、フィルター膜を介した溶液の流れの速度を指す。幾つかの実施形態において、本発明のTFF工程における剪断速度は、通例4000/s未満である。特定の実施形態において、第1の濃縮工程を約1300 mL/分に相当する約2800/sの剪断速度で行う一方で、透析濾過及び第2の限外濾過は、約1400 ml/分に相当する約3800/sの剪断速度で行う。
【0049】
LNP産生のための従来技術の方法では、本発明の方法において概説されるよりも高い剪断速度を用いる。
【0050】
剪断速度は、流がTFFフィルターに適用される速度の尺度であり、従来技術においては通例、5000/s超であるが、本発明の方法においては4000/s未満である。
【0051】
本発明の特に好ましい実施形態において、LNPを精製する方法は、連続TFFを用いて行われる。連続TFFとは、保持液がTFFの別のラウンドのための供給物として使用されるTFFシステムを指す。本明細書において、「供給物」という用語は、精製すべきLNPを含む溶液又は懸濁液を指す。したがって、LNPを含む最初の供給物を、TFFを用いる最初のラウンドの濾過に供し、LNPを含む得られる保持液を、少なくともLNPを循環させることにより、再びTFFの別のラウンドのための供給物として使用する。これは、システム間の移動によりLNPが失われるリスクを低減しながら、自動化された方法で精製工程を繰り返すことにより精製レベルを向上させるのに有利である。
【0052】
このため、本発明に使用されるようなタンジェンシャルフロー濾過システムは、それぞれ異なる流量で行ってもよい複数の濾過工程を含み得る。特に、後続の濾過工程よりも低い流量で行われる第1の限外濾過工程が本発明の文脈において有利であることが見出された。したがって、本発明は、工程b)におけるタンジェンシャルフロー濾過が、3000/s未満の剪断速度で行われる第1の限外濾過工程を含む一方で、他のタンジェンシャルフロー濾過工程が、好ましくは4000/s未満の剪断速度で行われる方法を提供する。非常に具体的な実施形態においては、第1の限外濾過工程を約2800/sの剪断速度で行い、他の残りの限外濾過工程を約3800/sの剪断速度で行う。
【0053】
本発明の文脈において使用される剪断速度は、従来技術に通例使用される剪断速度と比較して低い。これらのより低い剪断速度は、大型粒子を得るプロセスにおいて有利であることが見出された。
【0054】
本発明の文脈において、「清澄濾過工程」という用語は、GMPプロセスに一般に使用される。この濾過工程は、固体不純物を可能な限り含まない液体組成物を回収することを目的とする。本明細書において使用されるフィルターは、液体中に浮遊する極小粒子を除去するように特別に設計される。この目的を達成するために、複数のシステムが開発されている。例えば、フィルターは、非常に狭い間隔で配置されたワイヤー又は繊維を用いて設計することができる。
【0055】
特に、酸性水性条件で本発明に適用される第1の濾過工程は、TFF工程中に正しく形成されなかった粒子、例えば更なる処理には大き過ぎる粒子が除去される精製をもたらすことを意図している。クライオバッファー中での第2の濾過工程は、「清澄濾過工程」とも称され、いわゆるバイオバーデンを保存前に低減することを意図している。
【0056】
本発明の文脈において、「滅菌濾過」という用語も、GMPプロセスに一般に用いられる濾過方法である工程である。この濾過工程は、流体から微粒子及び汚染を除去することを目的とする。通例、0.2マイクロメートルの細孔径で濾過することが、滅菌濾液を生成するために必要であると考えられる。
【0057】
本発明の文脈において、「クライオバッファー」という用語は、冷却しても凝固せず、それに含まれる分子の完全性及び/又は安定性を実質的に損なわない溶液を意味する。特に、本発明のクライオバッファーは、凍結保護物質と、クエン酸塩、Tris及びPBSの1つ以上、特にTris及び/又はPBSとを含む。
【0058】
本発明の文脈において、「凍結保護物質」という用語は、生体組織を凍結損傷から保護するために使用される物質を意味する。本発明の具体的な実施形態において、凍結保護物質は糖、例えばマルトース、マルトデキストリン、デキストラン、マンニトール、トレハロース、グルコース又はスクロースを含むリストから選択され、特にトレハロース又はスクロースであり得る。
【0059】
本発明の文脈において、「混合流量」という用語は、組成物が混合コンパートメントに添加される速度を意味する。本発明の有利な実施形態において、第1の組成物と第2の組成物との混合流量は、互いに異なる。より具体的には、第1の組成物の混合流量は、第2の組成物の混合流量と比較して低いのが好ましい。非常に具体的な実施形態において、第1の組成物の混合流量と第2の組成物の混合流量とを比較した比率は約1:2であり、これは第2の組成物の流量が第1の組成物の流量の約2倍であることを意味する。代替的には、第1の組成物と第2の組成物とを比較した混合流量の比率は約1:3、1:4、1:5、好ましくは約1:2である。
【0060】
混合の目的は、デバイスでの複数のサンプル(すなわち、脂質相及び核酸相)の完全及び迅速な混合を達成することである。そのような混合は、典型的には、異なる種の流れ間の拡散効果を高めることによって達成される。そこへ、例えば、Everset al., 2018に概説されるような幾つかの混合デバイスを使用することができる。
【0061】
本発明者らは、本発明の方法が、直径が約140 nmを超えるLNPの大量生産に特に適していることを見出した。本発明の方法はGMPに準拠している。本発明の方法はスケーラブルである。従来技術に取り上げられる方法は、小さな実験室規模でしか大きなLNPを開発することができず、スケーラブルではない。したがって、本発明は、大きなLNPを産業的に有意な量で生産する方法を提供し、このLNPはGMPに準拠している。
【0062】
本発明の文脈において使用される「活性剤」は、LNPに適切に配合することができる任意の成分、例えば小分子又は生体分子を指す。本発明は、抗体、タンパク質、ペプチド、核酸等の生体分子の配合に特に適している。
【0063】
本発明の文脈において、「核酸」は、デオキシリボ核酸(DNA)又は好ましくはリボ核酸(RNA)、より好ましくはmRNAである。核酸は、本発明の方法の組成物によると、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換えによって作製された分子及び化学的に合成された分子を含む。本発明はsiRNA分子、環状RNA/DNA、自己増幅RNA等の配合にも好適に用いることができる。
【0064】
核酸は、本発明の方法によれば、一本鎖又は二本鎖であり、線状又は共有結合閉環状(closed covalently to form a circle)である分子の形態であり得る。核酸は、例えば、DNA鋳型からin vitro転写によって作製され得るRNAの形態で細胞への導入、すなわち、細胞のトランスフェクションに用いることができる。RNAは、更に、配列の安定化、キャッピング、及び/又はポリアデニル化によって、適用前に修飾することができる。
【0065】
あらゆる誤解を避けるために、本発明の方法によって生産されるLNPは、単一の活性剤を含んでいてもよく、又は複数の活性剤、例えば1つ以上の活性剤、例えば免疫調節タンパク質をコードする核酸分子、及び/又は抗原特異的タンパク質及び/又は疾患特異的タンパク質をコードする1つ以上の核酸分子の組合せを含んでいてもよい。
【0066】
本明細書において上記で詳述したように、本発明の方法は、大型ナノ粒子を得るプロセスに大きく寄与することが見出された複数の濾過工程を含む。これらの工程は、安定性及び完全性を損なうことなく、かかる大型粒子を選択的に濃縮することができる。これは、これまでLNPの大量生産では実現不可能であると考えられてきたプロセスである。かかるプロセスの間に、本明細書において使用される濾過工程の1つ以上の前又は後に好適な緩衝液/溶液での希釈工程を適用することが有利であり得る。したがって、更なる実施形態において、工程b)の前に工程a)の組成物を希釈してもよい。更なる実施形態において、工程e)の組成物を希釈してもよい。適用される希釈倍率は、濾過される溶液の濃度に依存することがあり、当業者が決定することができる。
【0067】
例えば、混合後バルクの最初の希釈について、水での6倍希釈が、時間の関数としての粒径及びカプセル化効率の点で安定した混合後バルクをもたらすことが見出された。特に、有機溶媒及び酸性緩衝液中の混合後バルクは、僅かに不安定であり、凝集する傾向がある。したがって、クリーンルームへの移送及び/又は大量の取扱い等、異なる方法工程間でのより良好な保存/安定性のために、希釈工程により、TFFが開始するまで、より長時間にわたってバルクが安定していることを確実にする。
【0068】
2回目の希釈については、バイアル内の生成物を所望の濃度、例えば100 μg/ml等の当該分野で通例使用される濃度に希釈することが望ましい場合がある。
【0069】
本発明の方法によって生産される、より大きなLNPを用いて、上記1つ以上の活性剤(例えば核酸分子)の免疫原性送達のための医薬組成物又はワクチンを達成することができる。これは脾臓へのそれらの選択的標的化によるものである。しかしながら、大きなLNPを得るための従来技術の方法は、小規模の実験室での方法である。
【0070】
大きなLNPの大量生産をもたらす本発明の方法の驚くべき側面は、実施例部分に詳述するように、上記第1の組成物中のPEG化脂質の割合が低いこと(1%未満)に加えて、TFF段階に用いられる低い剪断速度と組み合わせた複数の濾過工程である。
【実施例】
【0071】
実施例1-大型LNPの生産方法
本実施例においては、本発明の方法を行い、大きなLNPを開発する可能性を調べた。
【0072】
Coatsome SS/EC(イオン性脂質)、DOPE(リン脂質)、コレステロール及びDSG-PEG 2000脂質(PEG化脂質)の混合物をエタノール緩衝液中で混合して、64:8:27:0.5の規定のモル比にし、全脂質濃度を10.13 mg/mLとした。次いで、この混合物を水浴内で41℃に加熱した。
【0073】
mRNAを含有する水溶液を、核酸のストックを200 mM酢酸ナトリウムで希釈することによって調製し、pH 4.0の100 mM酢酸ナトリウム緩衝液中のmRNA濃度が0.126 mg/mL mRNAの溶液を得た。
【0074】
ポンプを備える混合デバイスにおいて、上記の工程からの脂質及びmRNAの混合物を混合した。脂質及びmRNAの組成物を混合デバイスに送り込む速度は、それぞれ66.7 mL/分及び133.3 mL/分とした。次いで、この全混合物を注射用水で6倍希釈してから、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)による緩衝液交換及び濃縮に供した。このTFFは、3つのサブステップからなるものであった。最初に、内径0.5 mm及びカットオフ100 kDaの中空繊維カートリッジを用い、2800/sの剪断速度で達成される濃縮(70倍)。次いで、4回の洗浄量の注射用水に対して3800/sの剪断速度での緩衝液交換。最終段階は、内径0.5 mm及びカットオフ100 kDaの中空繊維カートリッジを用い、3800/sの剪断速度で達成される濃縮(2倍)である。
【0075】
この段階で、混合物をSartopore 2(0.45+0.2 μm)滅菌フィルターに通して注射用水中で清澄濾過してから、pH 7.4となるように137 mM塩化ナトリウムを含有する466 mMトレハロース二水和物、18 mM Tris(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタモール)緩衝液で希釈した。この時点で製剤が開発された。
【0076】
この製剤をSartopore 2(0.45+0.2 μm)滅菌フィルターに通して注射用水中で再び清澄濾過してから、pH 7.4の137 mM塩化ナトリウムを含有する466 mMトレハロース二水和物、18 mM Tris(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタモール)で希釈し、0.110mg/mL mRNAの濃度とした。Sartopore 2(0.45+0.2μm)滅菌フィルターを通した最終滅菌濾過を行った。
【0077】
上記に概説される方法を更に2回繰り返した。粒径、mRNA含量及びカプセル化、脂質含有率、pH及びオスモル濃度は、方法全体を通して異なる段階で測定した。3回の繰返しについて、分析を表1(全mRNAバッチ250 mg)、表2(全mRNAバッチ250 mg)及び表3(全mRNAバッチ100 mg)に見ることができる。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
これらの表から本発明の方法の再現性が確認される。さらに、これらの表から明らかなように、それに適用される異なる工程のそれぞれが、方法全体を通した平均粒径の規則的な増加に寄与し、最終的に大型ナノ粒子の大きなバッチの達成を可能にする。
【0082】
実施例2-LNPバッチのサイズ検証
実施例1においては、動的光散乱(DLS)を用いてLNPサイズを決定した。本実施例においては、異なる技術、すなわち透過電子顕微鏡法(TEM)を用いて、これらの粒径を検証した。
【0083】
TEMを行って超微細構造を可視化し、脂質ナノ粒子のサイズを分析した。評価したサンプルは、実施例1の表1及び表2に定義したENGバッチ1及びENGバッチ2(凍結融解後)である。全てのサンプルを、TEM分析用のグリッドを作製するまで-80℃に維持した。全ての実験を室温(20℃~25℃)で行った。サンプルを融解した後、グリッドを直接作製し、TEMにおいて評価した。サンプルをTris緩衝液で10倍希釈した。希釈したサンプルの小滴を、300メッシュ炭素被覆銅グリッド(EM Resolutions、英国、シェフィールド)上にグリッドのグロー放電の直後に置いた。2%酢酸ウラニルによるネガティブ染色を用いてナノ粒子にコントラストをつけた。グリッドが完全に乾燥した後(±30分)、サンプルを可視化し、FEI Tecnai Spirit G2 BioTwinTEM(ThermoFisher Scientific、ベルギー、ザベンテム)を用いて120 kVで評価した。少なくとも15枚の画像をグリッド全体にわたって無作為に撮影した。
【0084】
粒径の評価は、FIJIオープンソース無料画像解析ソフトウェアを用いて行った。粒子のセグメンテーションは、強度閾値に基づき、選択した各粒子の面積を測定した。この面積に基づいて、各粒子の平均直径を算出した。粒子の直径の度数分布をexcelでプロットした。50 nmの間隔を用い、50 nm~350 nmの直径をグラフにプロットした。グラフは、各直径範囲について、特定の直径範囲に属する粒子の割合を示す。
図1及び
図2に、実施例1の表1及び表2のLNPのそれぞれについて、TEM分析から得られたサイズ分布を定義する。これらの図から明らかなように、DLSを用いて決定された粒径(実施例1)は、TEMによって決定された粒径と非常に類似しており、それによりDLSサイズ決定法の有効性が確認される。
【0085】
実施例3-本発明の方法の条件を変化させることの影響
大型LNPの生産における主な難点の1つは、その本質的な不安定性であり、これは本発明において意図されるような少量のPEG脂質を使用する場合には更に増大する。したがって、小型LNPを生産する標準的な方法は、大型LNPに容易には転換可能でなく、以下の実験の詳細によって分かるように、プロセスの様々なパラメーターを微調整する必要があった。
【0086】
具体的には、本発明者らは、4000/sを超える特定の剪断速度が、生成物の沈殿をもたらすため、生産プロセスにおいては不適切であることを見出した(表4を参照されたい)。
【0087】
表4:TFFプロセス中に剪断速度を変化させることの影響
【表4】
*TFFプロセス終了時ベースの値。
【0088】
表4のデータから2つの結論を導き出すことができる:
他のLNP製品に用いられる剪断速度(4000/s~6000/s)は、大型LNPの生産には適していない。
低い剪断速度であっても、TFFプロセス中にTBS及び/又は凍結保護物質を含むTBSを添加することで沈殿が生じる。
【0089】
したがって、これらのデータから、特許請求される4000/s未満の剪断速度とは対照的に、より高い剪断速度が大型LNPの生産に適していないことが明らかである。
【0090】
加えて、本発明者らは、剪断速度だけでは、目的のLNPを首尾よく生産するのに十分でないと証明されることを見出した。具体的には、更なる分析により、TFF工程後のLNPサイズ分布に2つの異なるLNP集団が存在し、PDI値が高いことが分かった(
図3を参照されたい)。したがって、本発明者らは、目的のLNP粒径を有する集団を得るために更なる対策を講じる必要があった。したがって、適用される方法の次の工程は、水(pH 6.5未満)中での濾過であった。しかしながら、表5及び
図4から明らかなように、この濾過工程自体が、平均LNP粒径を100 nm未満に顕著に減少させた。クライオバッファーでの希釈及び滅菌濾過を含む更なる処理工程後に初めて、LNPの平均粒径が再び少なくとも140 nmに達し、今度はPDIが非常に低くなり、単一のサイズ集団となった(表5及び
図5を参照されたい)。
【0091】
表5:LNP生産プロセス中の異なる段階におけるLNPサイズ
【表5】
【0092】
結論として、TFF中のより低い剪断速度及び水中での追加の濾過工程の両方が、大型の低PEG含有LNPの所望の品質属性を得るのに非常に重要である。低剪断速度での水中でのTFFに続く水中での濾過の組合せは、一貫したロバストな大規模製造プロセスを得る唯一の方法である。
【0093】
参考文献
Reichmuthet al., 2016 - mRNA vaccine delivery using lipid nanoparticles - TherapeuticDelivery
Vol. 7, N°5.
Li et al.,2015 - An Orthogonal Array Optimization of Lipid-like Nanoparticles 5 for mRNADelivery
in Vivo -Nano Letters 15(12) pg. 8099-8107.
Thess etal., 2015 - Sequence-engineered mRNA without Chemical Nucleoside Modifications
Enables anEffective Protein Therapy in Large Animals - Molecules Therapy Vol. 23, Issue
9 pg.1456-1464.
Kauffmanet al., 2016 - Materials for non-viral intracellular delivery of messenger RNA
therapeutics- Journal of Controlled Release, Vol. 240, pg. 227-234.
MacLachlan,I. Liposomal formulations for nucleic acid delivery. Antisense Drug Technol.Princ. Strat. Appl. 2007, 2, 237-270.
Richner etal., 2017 - Modified mRNA vaccines protect against Zika virus infection - Cell,Vol.
168, Issue6 pg. 1114-1125
Liang etal., 2017 - Efficient Targeting and Activation of Antigen-Presenting Cells InVivo after
15Modified mRNA Vaccine Administration in Rhesus Macaques - Molecular Therapy,vol. 25
Issue 12pg. 2635-2647.
Evers etal., 2018; State-of-the-Art Design and Rapid-Mixing Production Techniques ofLipid Nanoparticles for Nucleic Acid Delivery. Small Methods 2018, 2, 1700375
Chen, S.,Tam, Y.Y.C., Lin, P.J., Sung, M.M., Tam, Y.K. and Cullis, P.R., 2016. Influenceof particle size on the in vivo potency of lipid nanoparticle formulations ofsiRNA. Journal of Controlled Release, 235, pp.236-244.
【0094】
図面訳
図1
Percentage ofparticles in a range 範囲内の粒子の割合
Range diameterof particles 粒子の直径範囲
図2
Percentage ofparticles in a range 範囲内の粒子の割合
Range diameterof particles 粒子の直径範囲
図3
Intensity(Percent) 強度(%)
Size サイズ
図4
Intensity(Percent) 強度(%)
Size サイズ
図5
Intensity(Percent) 強度(%)
Size サイズ
【国際調査報告】