(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】特定のNi/NiO比と温度選択によるメルカプタン回収プロセス
(51)【国際特許分類】
C10G 25/00 20060101AFI20241226BHJP
B01J 20/06 20060101ALI20241226BHJP
B01D 15/00 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C10G25/00
B01J20/06 A
B01D15/00 K
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535627
(86)(22)【出願日】2022-12-12
(85)【翻訳文提出日】2024-08-07
(86)【国際出願番号】 EP2022085354
(87)【国際公開番号】W WO2023110732
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591007826
【氏名又は名称】イエフペ エネルジ ヌヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100199369
【氏名又は名称】玉井 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100228175
【氏名又は名称】近藤 充紀
(72)【発明者】
【氏名】フェカン アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ユゴン アントワーヌ
【テーマコード(参考)】
4D017
4G066
4H129
【Fターム(参考)】
4D017AA04
4D017AA05
4D017BA04
4D017CA06
4D017CB01
4D017DA01
4D017DB02
4D017DB03
4D017EA01
4G066AA02B
4G066AA20C
4G066AA22C
4G066AA27B
4G066AA63C
4G066BA25
4G066BA26
4G066CA25
4G066DA09
4G066FA37
4H129AA02
4H129CA04
4H129DA07
4H129KA18
4H129KB03
4H129KC03X
4H129KC03Y
4H129KC04X
4H129KC10X
4H129KC28X
4H129KD24X
4H129KD24Y
4H129NA02
(57)【要約】
硫黄含有炭化水素原料中に含まれるメルカプタンを捕捉するためのプロセスであって、170℃~220℃の温度で、0.2MPa~5MPaの圧力で、捕捉塊体の容積当たりの入口における原料の容積流量として定義される毎時空間速度が0.1h-1~50h-1で、還元形態で前記捕捉塊体中に存在するニッケルの、酸化物形態で前記捕捉塊体中に存在するニッケルに対する重量比が0.25~4であるニッケルベースの活性相と、アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、および粘土から成る群から選択される無機担体と、を含む捕捉塊体の存在下で行われるプロセス。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄含有炭化水素原料中に含まれるメルカプタンを捕捉するためのプロセスであって、170℃~220℃の温度で、0.2MPa~5MPaの圧力で、捕捉塊体の容積当たりの入口における原料の容積流量として定義される毎時空間速度が0.1h
-1~50h
-1で、還元形態で前記捕捉塊体中に存在するニッケルの、酸化物形態で前記捕捉塊体中に存在するニッケルに対する重量比が0.25~4であるニッケルベースの活性相と、アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、および粘土から成る群から選択される無機担体と、を含む捕捉塊体の存在下で行われるプロセス。
【請求項2】
前記捕捉塊体中に還元形態で存在するニッケルの、前記捕捉塊体中に酸化物形態で存在するニッケルに対する重量比が0.4~3である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記捕捉塊体中に還元形態で存在するニッケルの、前記捕捉塊体中に酸化物形態で存在するニッケルに対する重量比が0.5~2.5である、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記プロセスは180℃~210℃の温度で実施される、請求項1乃至3の何れか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記ニッケルの含有量は、前記捕捉塊体の総重量に対してニッケル元素が20重量%~70重量%である、請求項1乃至4の何れか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記捕捉塊体は、150m
2/g~250m
2/gの比表面積を有する、請求項1乃至5の何れか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記捕捉塊体は、水銀ポロシメトリーにより測定された総細孔容積が0.20ml/g~0.70ml/gである、請求項1乃至6の何れか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記捕捉塊体中のアルミニウム元素および/またはケイ素元素の含有量は、前記捕捉塊体の総重量に対して5重量%~45重量%である、請求項1乃至7の何れか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記担体はアルミナである、請求項1乃至7の何れか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記炭化水素原料は、触媒水素化脱硫工程によって部分的に脱硫された原料である、請求項1乃至9の何れか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
処理される前記炭化水素原料は、350℃未満の沸点を有し、前記原料の総重量に対して、オレフィンを5重量%~60重量%含有し、硫黄を100重量ppm未満含有する部分脱硫接触分解ガソリンである、請求項10に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリン留分、特に流動床接触分解装置から生じるガソリン留分を水素化処理する分野に関する。より詳細には、本発明は、炭化水素原料中に含まれるメルカプタン型化合物を、特定の捕捉塊体の存在下で捕捉するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用燃料の規格では、これらの燃料、特にガソリンに含まれる硫黄分を大幅に削減することが求められている。この削減は、特に自動車の排気ガス中の硫黄分と窒素酸化物の含有量を制限することを目的としている。欧州で2009年から施行されているガソリン燃料の規格では、硫黄分の最大含有量を重量比で10ppm(百万分率)と定めている。このような規格は他の国、例えば米国や中国でも施行されており、2017年1月から同じ硫黄含有量の上限が要求されている。これらの規格を達成するためには、脱硫工程を経てガソリンを処理する必要がある。
【0003】
ガソリンベースの主な硫黄源は「分解」ガソリンで、主に原油の常圧蒸留残渣または減圧蒸留残渣の接触分解プロセスから得られるガソリン留分である。接触分解によるガソリン留分は、平均でガソリンベースの40%を占め、実際にはガソリン中の硫黄分の90%以上を占めている。従って、低硫黄ガソリンの製造には、接触分解ガソリンの脱硫工程が必要である。硫黄を含む可能性のあるガソリンの他の供給源としては、コーカーガソリン、ビスブレーカーガソリン、あるいは、より少ない程度ではあるが、常圧蒸留や水蒸気分解から得られるガソリンを挙げることができる。
【0004】
ガソリン留分から硫黄を除去するには、水素の存在下で脱硫処理を行い、硫黄分を多く含むガソリンを特別に処理する必要がある。これらは水素化脱硫(HDS)プロセスと呼ばれる。しかし、これらのガソリン留分、より詳細には接触分解(FCC)ガソリンは、良好なオクタン価に寄与するモノオレフィン(約20重量%~50重量%)、ジオレフィン(0.5重量%~5重量%)および芳香族の形態の不飽和化合物を多く含む。これらの不飽和化合物は不安定で、水素化脱硫処理中に反応する。ジオレフィンは、水素化脱硫処理中に重合してガムを形成する。このガム形成は、水素化脱硫触媒を徐々に失活させたり、反応器を徐々に詰まらせたりする。その結果、これらのガソリンに何らかの処理を施す前に、水素化処理によってジオレフィンを除去しなければならない。従来の処理プロセスでは、モノオレフィンの大部分を水素化することで非選択的にガソリンを脱硫するため、オクタン価の損失が大きく、水素消費量も多い。最新の水素化脱硫プロセスでは、モノオレフィンの水素化、ひいてはオクタン価の低下を抑制しつつ、モノオレフィンを多く含む分解ガソリンを脱硫することが可能である。このようなプロセスは、例えば欧州特許出願公開第1077247号明細書および欧州特許出願公開第1174485号明細書に記載されている。
【0005】
しかし、分解ガソリンの脱硫を非常に徹底的に行う必要がある場合、分解ガソリン中に存在するオレフィンの一部は、一方では水素化され、他方ではメルカプタンを形成するためH2Sと再結合する。化学式R-SH、ここでRはアルキル基、で表されるこの化合物のグループは、一般的に再結合メルカプタンと呼ばれ、脱硫ガソリンの残留硫黄の20重量%~80重量%を占める。再結合メルカプタンの含有量の低減は、触媒的水素化脱硫によって達成されてもよいが、これはガソリン中に存在するモノオレフィンの大部分を水素化することに繋がり、ガソリンのオクタン価を大きく低下させ、水素の過剰消費にもつながる。さらに、目標とする硫黄含有率が低い程、即ち原料中に存在する硫黄化合物を徹底的に除去しようとする程、水素化脱硫工程におけるモノオレフィンの水素化によるオクタン価の低下が比例して大きくなることが知られている。
【0006】
これらの理由から、この部分的に水素化脱硫されたガソリンは、オクタン価を維持するために、存在するモノオレフィンを水素化することなく、分解ガソリン中に最初に存在し、変換されなかった硫黄化合物と再結合メルカプタンを同時に除去することが可能な、慎重に選択された吸着技術によって処理することが望ましい。
【0007】
炭化水素留分からこれらのメルカプタンを抽出する為に、吸着タイプのプロセス、あるいは水素化脱硫または吸着工程を組み合わせた様々な解決策が文献で提案されている。しかし、対象となるガソリンのオクタン価を低下させる原因となる水素化反応を抑制する為に、メルカプタン抽出のための、より効率的な捕捉塊体が依然必要とされている。
【0008】
例えば、米国特許出願第2003/0188992号明細書には、最初の水素化脱硫工程でガソリンを処理した後、研磨工程でメルカプタン型硫黄化合物を除去することによるオレフィン系ガソリンの脱硫プロセスが記載されている。この研磨工程は、主に洗浄によるメルカプタンの溶媒抽出から成る。
【0009】
米国特許第5,866,749号明細書は、周期律表のIB族、IIB族およびIIIA族から選ばれた還元金属上を処理すべき混合物を通過させ、37℃未満の温度で行うことにより、オレフィン系留分中に含まれる元素状硫黄およびメルカプタンを除去するための解決策を提案している。
【0010】
米国特許第特許6,579,444号明細書には、コバルトとVIB族金属を含む固体を用いてガソリン中の硫黄、または部分的に脱硫されたガソリン中に残る硫黄を除去するプロセスが開示されている。
【0011】
米国特許出願第2003/0226786号明細書には、吸着によってガソリンを脱硫するプロセス、および吸着剤を再生する幾つかの方法が記載されている。想定されている吸着剤は水素化処理触媒であり、より詳細には、単独のまたはVI族金属と混合されたVIII族金属ベースであり、触媒の総重量に対してVIII族金属を2重量%~20重量%含む。
【0012】
仏国特許第2908781号明細書は、少なくとも1つのVIII族、IB族、IIB族またはIVA族の金属を含む吸着剤の存在下で、部分的に脱硫された炭化水素原料から硫黄化合物を捕捉するプロセスを開示しており、吸着剤は水素の非存在下、40℃を超える温度で、還元形態で使用される。
【0013】
本出願人は、驚くべきことに、還元形態(すなわち元素形態のNi°)で捕捉塊体中に存在するニッケルと酸化物形態(NiO)で捕捉塊体中に存在するニッケルとの特定の重量比を有するニッケルベースの活性層を含む捕捉塊体をメルカプタン保持能力が最大化することが可能な正確な温度範囲で使用することにより、一方では生成物の損失を、他方では捕捉された硫黄の量当たりのエネルギー消費を抑制しつつ、メルカプタン捕捉プロセスの性能を飛躍的に向上させることが可能であることを発見した。いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、捕捉塊体の特定のNi°/NiO比と捕捉プロセスを実施するための温度範囲の選択との間の相乗効果により、メルカプタンを捕捉するために捕捉塊体上に存在する活性部位の割合と働きを最大化しつつ、クラッキング反応を回避することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1077247号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1174485号明細書
【特許文献3】米国特許出願第2003/0188992号明細書
【特許文献4】米国特許第5,866,749号明細書
【特許文献5】米国特許第特許6,579,444号明細書
【特許文献6】米国特許出願第2003/0226786号明細書
【特許文献7】仏国特許第2908781号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、触媒的水素化脱硫の工程により生じる、任意選択で部分的に脱硫された硫黄含有炭化水素原料中に含まれるメルカプタンを捕捉するためのプロセスであって、170℃~220℃の温度で、0.2MPa~5MPaの圧力で、捕捉塊体の容積当たりの入口における原料の容積流量として定義される毎時空間速度が0.1h-1~50h-1で、還元形態(即ち、元素形態のNi°)で前記捕捉塊体中に存在するニッケルの、酸化物形態(NiO)で前記捕捉塊体中に存在するニッケルに対する重量比が0.25~4であるニッケルベースの活性相と、アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、および粘土から成る群から選択される無機担体と、を含む捕捉塊体の存在下で行われるプロセスに関する。
【0016】
1つ以上の実施形態によれば、前記捕捉塊体中に還元形態で存在するニッケルの、前記捕捉塊体中に酸化物形態で存在するニッケルに対する重量比が0.4~3である。
【0017】
1つ以上の実施形態によれば、前記捕捉塊体中に還元形態で存在するニッケルの、前記捕捉塊体中に酸化物形態で存在するニッケルに対する重量比が0.5~2.5である。
【0018】
1つ以上の実施形態によれば、前記プロセスは180℃~210℃の温度で実施される。
【0019】
1つ以上の実施形態によれば、前記ニッケルの含有量は、前記捕捉塊体の総重量に対してニッケル元素が20重量%~70重量%である。
【0020】
1つ以上の実施形態によれば、前記捕捉塊体は、150m2/g~250m2/gの比表面積を有する。
【0021】
1つ以上の実施形態によれば、前記捕捉塊体は、水銀ポロシメトリーにより測定された総細孔容積が0.20ml/g~0.70ml/gである。
【0022】
1つ以上の実施形態によれば、前記捕捉塊体中のアルミニウム元素および/またはケイ素元素の含有量は、前記捕捉塊体の総重量に対して5重量%~45重量%である。
【0023】
1つ以上の実施形態によれば、前記担体はアルミナである。
【0024】
1つ以上の実施形態によれば、前記炭化水素原料は、触媒的水素化脱硫工程によって部分的に脱硫された原料である。
【0025】
1つ以上の実施形態によれば、処理される前記炭化水素原料は、350℃未満の沸点を有し、前記原料の総重量に対して、オレフィンを5重量%~60重量%含有し、硫黄を100重量ppm未満含有する部分脱硫接触分解ガソリンである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、化学元素のグループはCAS分類に従って示される(CRCハンドブック化学と物理学(CRC Handbook of Chemistry and Physics)、CRCプレス(CRC Press)発行、編集長D.R.ライド(Lide)、第81版、2000年-2001年)。例えば、CAS分類によるVIII族は、新しいIUPAC分類による第8、9、10列の金属に相当する。
【0027】
BET比表面積は、ローケロル F.(Rouquerol F)、ローケロル J.(Rouquerol J.)およびシン K.(Singh K.)著「粉末と多孔質固体による吸着:原理、方法および応用(Adsorption by Powders & Porous Solids: Principles, Methodology and Applications)」アカデミックプレス社(Academic Press)1999年に記載されている方法である、標準ASTM D3663-03に従って窒素物理吸着により測定される。
【0028】
本発明の以下の説明において、捕捉塊体または担体の「総細孔容積」(TPV)は、標準ASTM D4284-83に従って、4000バール(400MPa)の最大圧力で、484ダイン/cmの表面張力および140°の接触角を用いて水銀圧入ポロシメトリーにより測定された容積を意味すると理解される。濡れ角は、ジャン・シャルパン(Jean Charpin)およびベルナール・ラスヌール(Bernard Rasneur)著「エンジニアの技術、分析、特性評価(Techniques of the Engineer, Analysis and Characterization Treatise)」1050-5頁の推奨に従って140°とした。
【0029】
より良い精度を得る為に、以下の文章で示されるml/g単位の総細孔容積の値は、試料で測定されたml/g単位の全水銀容積(水銀ポロシメーターによる圧入によって測定された総細孔容積)の値から、30psi(約0.2MPa)に相当する圧力に対して同じ試料で測定されたml/g単位の水銀容積の値を差し引いた値に相当する。
【0030】
ニッケル含有量は蛍光X線で測定される。
【0031】
還元形態のニッケル(Ni°)と酸化物形態のニッケル(NiO)の重量比は、銅Kα1放射線(λ=1.5406Å)を用いた従来の粉末法を用いた回折計によるX線回折によって測定される。従って、捕捉塊体のディフラクトグラムは、担体の特徴的な線に加えて、金属または酸化物の形態のニッケルの特徴的な線を有することができる。当業者であれば、ICDD(国際回折データセンター)の表を参照して、これらの線の位置を決定することができる。例えば、酸化ニッケル(NiO)の線の位置は表00-047-1049に報告されており、ニッケル(Ni°)の線の位置は表00-004-0850に報告されている。
【0032】
Ni°/NiO重量比を測定するために、捕捉塊体のディフラクトグラムが使用した担体のディフラクトグラムから差し引かれ、Ni°(51.8° 2θ)とNiO(43.3° 2θ)の主線下の面積の比をNi°/NiO比とみなす。
【0033】
メルカプタンの捕捉
本発明は、硫黄含有炭化水素原料中に含まれるメルカプタンを捕捉するためのプロセスに関し、前記原料は、有利には、捕捉塊体の存在下、触媒的水素化脱硫工程によって部分的に脱硫されている。
【0034】
メルカプタンの捕捉工程は、170℃~220℃、好ましくは180℃~210℃の温度で行われる。170℃を超える温度であれば、金属チオレートの抽出を防止することができる。220℃未満の温度であれば、処理する原料の気化を防ぐことができる。
【0035】
前記プロセスは、一般的に、0.1h-1~50h-1、好ましくは0.5h-1~20h-1、好ましくは0.5h-1~10h-1の毎時空間速度(捕捉塊体の容積あたりの入口における原料の容積流量として定義される)で行われる。
【0036】
前記メルカプタン捕捉プロセスは、一般的に水素の非存在下で行われる。原料は好ましくは液体のままでなければならず、そのためには原料の気化圧力よりも高い十分な圧力が必要である。前記メルカプタン捕捉プロセスは、一般的に0.2MPa~5MPa、好ましくは0.2MPa~2MPaの圧力で行われる。
【0037】
有利なことに、捕捉プロセスの反応部は、置換可能反応器システムのPRSという用語または「リード&ラグ」という用語で呼ばれる2~5個の反応器を備え、これらは置換可能モードで運転される。
【0038】
任意で部分的に脱硫される硫黄含有炭化水素原料は、好ましくはオレフィン化合物を含有するガソリン、好ましくは接触分解プロセスから得られるガソリン留分である。処理された炭化水素原料は、一般的に350℃未満、好ましくは300℃未満、非常に好ましくは250℃未満の沸点を有する。好ましくは、原料は、前記原料の総重量に対して5重量%~60重量%のオレフィンを含む。好ましくは、炭化水素原料は、前記原料の総重量に対して100重量ppm未満の硫黄、好ましくは50重量ppm未満の硫黄を、特にメルカプタンの形態で含有する。好ましくは、部分的に脱硫された炭化水素原料は、原料の総重量に対して、メルカプタンの形態で50重量ppm未満の硫黄を含有し、好ましくは、メルカプタンの形態で30重量ppm未満の硫黄を含有する。
【0039】
好ましくは、処理される原料は、メルカプタン捕捉プロセスの前に部分脱硫処理を受け、この工程は、水素化脱硫を行うのに適した1つ以上の触媒を含む直列に配置された1つ以上の水素化脱硫反応器中で、硫黄含有原料留分を水素と接触させることから成る。好ましくは、この工程の運転圧力は一般的に0.5MPa~5MPa、非常に好ましくは1MPa~3MPaであり、温度は一般的に200℃~400℃、非常に好ましくは220℃~380℃である。好ましくは、各反応器において使用される触媒の量は、一般的に、標準条件下において1時間当たりのm3で表される処理されるガソリンの流量と1m3当たりの触媒との比が、0.5h-1~20h-1、非常に好ましくは1h-1~10h-1となるような量である。好ましくは、水素流量は、一般的に、標準条件下において、通常1時間当たりのノルマルm3で表される水素流量(Nm3/h)と、1時間当たりのm3で表される処理される原料流量との比が、50Nm3/m3~1000Nm3/m3、非常に好ましくは70Nm3/m3~800Nm3/m3となるような流量である。好ましくは、この工程は、選択的に、即ちモノオレフィンの水素化度を80重量%未満、好ましくは70重量%未満、非常に好ましくは60重量%未満として水素化脱硫を行う目的で行われる。
【0040】
この水素化脱硫工程で達成される脱硫の程度は、一般的に50%を超え、好ましくは70%を超えることにより、メルカプタン捕捉工程で使用される炭化水素留分は、100重量ppm未満の硫黄、好ましくは50重量ppm未満の硫黄を含む。
【0041】
予備水素化脱硫工程では、任意の水素化脱硫触媒を使用することができる。好ましくは、オレフィン水素化反応と比較して、水素化脱硫反応に関して高い選択性を有する触媒が使用される。このような触媒は、少なくとも1つの多孔性無機担体、VIB族金属、VIII族金属を含む。VIB族金属は、優先的にはモリブデンまたはタングステンであり、VIII族金属は、優先的にはニッケルまたはコバルトである。担体は、一般的に、アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、炭化ケイ素、単独でまたはアルミナ若しくはシリカ-アルミナとの混合物としてのチタン酸化物と、単独でまたはアルミナ若しくはシリカ-アルミナとの混合物としてのマグネシウム酸化物とによって構成される群から選択される。好ましくは、担体は、アルミナ、シリカおよびシリカ-アルミナによって構成される群から選択される。好ましくは、追加の水素化脱硫工程で使用される水素化脱硫触媒は、以下の特徴を有する。
・VIB族元素の含有量は、触媒重量に対してVIB族元素の酸化物が1重量%~20重量%である。
・VIII族元素の含有量は、触媒重量に対して第VIII族元素の酸化物が0.1重量%~20重量%である。
・(VIII族元素/VIB族元素)のモル比は0.1~0.8である。
【0042】
金属がコバルトまたはニッケルの場合、金属含有量はそれぞれCoОおよびNiОで表される。金属がモリブデンまたはタングステンの場合、金属含有量はそれぞれMoО3、WО3で表される。
【0043】
非常に好ましい水素化脱硫触媒は、コバルトとモリブデンを含み、上述の特徴を有する。さらに、水素化脱硫触媒はリンを含んでもよい。この場合、リンの含有量は、触媒の総重量に対して、好ましくは0.1重量%~10重量%のP2О5であり、VIB族元素に対するリンのモル比は0.25以上、好ましくは0.27以上である。
【0044】
好ましくは、処理される原料は、部分脱硫処理の後であってメルカプタン捕捉プロセスの前に、相補的な研磨水素化脱硫処理を受ける。研磨水素化脱硫工程は、主に、部分脱硫処理中に生成した再結合メルカプタンを少なくとも部分的にオレフィンとH2Sに分解するために行われるが、第1水素化脱硫工程が主に硫黄化合物の大部分をH2Sに変換するために行われるのに対して、より難溶性の硫黄化合物を水素化脱硫することも可能にする。残りの硫黄化合物は本質的に難溶性硫黄化合物であり、生成したH2Sの添加によって生じる再結合メルカプタンである。
【0045】
研磨水素化脱硫工程は、一般的に280℃~400℃、好ましくは300℃~380℃、好ましくは310℃~370℃の温度で行われる。この研磨工程の温度は、一般的に、第1水素化脱硫工程の温度より少なくとも5℃、好ましくは少なくとも10℃、非常に好ましくは少なくとも20℃高い。この工程は、一般的に、0.5h-1~20h-1、好ましくは1h-1~10h-1の毎時空間速度(触媒容積当たりの入口における原料の容積流量として定義される)で行われる。このプロセスは一般的に、標準的な条件下で、通常1時間当たりのノルマルm3で表される水素流量(Nm3/h)と、1時間当たりのm3で表される処理原料流量との比が、10Nm3/m3~1000Nm3/m3、好ましくは20Nm3/m3~800Nm3/m3になるような水素流量で行われる。
【0046】
このプロセスは一般的に、0.5MPa~5MPa、好ましくは1MPa~3MPaの圧力で行われる。
【0047】
研磨水素化脱硫工程では、任意の水素化脱硫触媒を使用することができる。好ましくは、触媒は、少なくとも1つの多孔性無機担体とVIII族金属を含む。VIII族金属は、優先的にはニッケルである。担体は、一般的に、アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナ、炭化ケイ素、単独またはアルミナ若しくはシリカ-アルミナとの混合物としての酸化チタン、および単独またはアルミナ若しくはシリカ-アルミナとの混合物としての酸化マグネシウムによって構成される群から選択される。好ましくは、担体は、アルミナ、シリカおよびシリカ-アルミナによって構成される群から選択される。好ましくは、研磨水素化脱硫工程で使用される水素化脱硫触媒は、以下の特徴を有する。
・VIII族元素の含有量は、触媒重量に対してVIII族元素の酸化物が0.1重量%~30重量%である。
・使用される担体はアルミナベースの担体である。
【0048】
好ましくは、研磨水素化脱硫処理後の炭化水素原料は、有機化合物に由来する硫黄を100重量ppm未満、好ましくは有機化合物に由来する硫黄を50重量ppm未満、特にメルカプタンおよび難溶性硫黄化合物の形で含有する。
【0049】
水素化脱硫工程の最後に、流出液に対し、溶解したH2Sが、メルカプタン捕捉プロセスによって下流で処理される炭化水素留分中に存在する全硫黄の最大で30重量%、更には最大で20重量%、更には最大で10重量%を占めるような液体流出物を回収するように、当業者に公知の任意の方法(脱着器、安定化カラム等)による水素とH2Sを分離する工程が行われる。
【0050】
捕捉塊体
本発明によるプロセスの文脈で使用される捕捉塊体は、捕捉塊体中に還元形態で存在するニッケル(Ni°)の捕捉塊体中に酸化物形態で存在するニッケル(NiO)に対する重量比が0.25~4、好ましくは0.4~3、より優先的には0.5~2.5であるニッケルベースの活性相から成る。
【0051】
ニッケルの含有量は、好ましくは捕捉塊体の総重量に対してニッケル元素が10重量%~80重量%、好ましくは20重量%~70重量%、非常に好ましくは30重量%~70重量%である。「重量%」の値は、ニッケルの元素形態に基づく。
【0052】
本発明に従って使用される捕捉塊体は、有利には、120m2/g~350m2/g、好ましくは150m2/g~250m2/g、より優先的には155m2/g~220m2/gの比表面積を有する。
【0053】
本発明に従って使用される捕捉塊体は、好ましくは、0.20ml/g~0.70ml/g、好ましくは0.30ml/g~0.60ml/gの、水銀ポロシメトリーにより測定される総細孔容積を有する。
【0054】
前記捕捉塊体はまた、アルミナ、シリカ、シリカ-アルミナおよび粘土から成る群から選択される無機担体を含む。
【0055】
本発明の代替的な実施形態によると、捕捉塊体中のアルミニウム元素および/またはケイ素元素の含有量は、好ましくは捕捉塊体の総重量に対して5重量%~45重量%、非常に好ましくは5重量%~30重量%である。
【0056】
本発明の代替的な実施形態によると、無機担体はアルミナである。
【0057】
一変形例によれば、本発明に従って使用される前記捕捉塊体は、少なくとも1つのIA族またはIIA族元素、好ましくはナトリウムまたはカルシウムを含んでもよい。前記捕捉塊体が少なくとも1つのIA族またはIIA族元素を含む場合、その含有量は、捕捉塊体の総重量に対して、好ましくは0.01重量%~5重量%、非常に好ましくは0.02重量%~2重量%である。
【0058】
本発明に従って使用される前記捕捉塊体は、有利には、0.5~10mmの平均直径を有する粒の形態である。粒は、当業者に公知の任意の形状、例えば、ビーズ(好ましくは、1~6mmの間の直径を有する)、押出物、錠状または中空円筒の形状を有してもよい。好ましくは、捕捉塊体は、0.5mm~10mm、好ましくは0.8mm~3.2mmの平均直径を有する押出物の形態であるか、または0.5mm~10mm、好ましくは1.4mm~4mmの平均直径を有するビーズの形態である。押出物の「平均直径」という用語は、これらの押出物の断面に外接する円の平均直径を意味すると理解される。
【0059】
本発明によるプロセスの文脈で使用される捕捉塊体は、当業者に公知の任意の方法に従って調製することができる。一例として、成形された多孔性無機担体に活性相前駆体を乾式含浸させる方法、または活性相の前駆体と構造化相の前駆体とを共練りし、次いで成形する方法を挙げることができる。活性化される前に、捕捉塊体は乾燥され、少なくとも一部が酸化物形態(NiO)の活性ニッケル相を得る為に任意で焼成される。
【0060】
捕捉塊体は活性化工程を経るため、ニッケル元素の少なくとも一部は還元形態となり、Ni°/NiOの重量比は0.25~4、好ましくは0.4~3、更に優先的には0.5~2.5となる。好ましくは、還元剤は気体であり、非常に好ましくは、還元剤は水素である。水素は、純粋物、または混合物(例えば、水素/窒素、水素/アルゴンまたは水素/メタンの混合物)として使用してもよい。水素が混合物として使用される場合、任意の割合を想定してもよい。前記還元処理は、優先的には200℃~500℃、好ましくは300℃~450℃の温度で行われる。還元処理の時間は一般的に1時間~40時間、好ましくは1時間~24時間である。所望の還元温度までの昇温は一般的に遅く、例えば0.1℃/分~10℃/分、好ましくは0.3℃/分~7℃/分に設定される。捕捉塊体を活性化する工程をその場の外で、即ち本発明によるメルカプタン捕捉プロセスの反応器の外で行う場合には、捕捉塊体を保護するために不動態化工程を行うことが有利である。この不動態化工程は、当業者に公知の任意の方法に従って、酸化性ガスの存在下で実施することができる。不動態化工程の後、最終活性化工程は、有利には、その場で、即ち、本発明によるメルカプタン捕捉プロセスの反応器中で、水素のような還元性ガス流下で、または処理される原料流下で、100℃~300℃、好ましくは100℃~250℃の温度で行われる。
【0061】
本発明は、その範囲を限定することなく、以下の実施例によって説明される。
【実施例】
【0062】
実施例1:捕捉塊体
アルミナ担体が、直径1.6mm、比表面積213m2/g、細孔容積0.53ml/gの押出成形品(アクセンス(Axens)(登録商標)社から販売)の形態で提供される。
【0063】
14重量%のNiを含む硝酸ニッケル水溶液(パラケム(Parchem)(登録商標)社製)も提供される。
【0064】
捕捉塊体は、アルミナ担体50gに硝酸ニッケル水溶液21.9mlを乾式含浸し、次いで空気中で120℃、12時間乾燥し、次いで450℃、6時間焼成することにより調製する。乾燥含浸とその後の熱処理の操作を、回収した固体に対して6回繰り返す。
【0065】
捕捉塊体は、固体の総重量に対して35.1重量%のニッケル元素を含む。これは、174m2/gの比表面積を有する。
【0066】
実施例2:捕捉塊体の活性化
10mlの捕捉塊体は、1分あたり1℃の勾配で、様々な温度で2時間、10l/hの純水素流下で活性化処理を受ける。以下の表1は、活性化温度に応じて得られたX線回折測定によるさまざまなNi°/NiO比を示している。
【0067】
【0068】
実施例3:メルカプタンの捕捉に関する捕捉塊体の性能の評価
捕捉塊体の性能評価は、炭化水素マトリックス中のヘキサンチオールの動的捕捉性能をモニターすることによって行われる。
【0069】
直径1cmの試験カラムに、不活性雰囲気下で、水素存在下で予め活性化された固体10mlを予め導入しておく。2000重量ppmの硫黄と10重量%のオレフィンを含むマトリックスを得るように、ヘプタン、1-ヘキセンおよび1-ヘキサンチオールを混合することで、原料と呼ばれる炭化水素マトリックスを予め調製する。次に、固体を含むカラムを、200℃、1.7MPaの圧力下、ヘプタン流下に、毎時空間速度が8h-1(固体10ml当たり1時間当たり原料80ml)で静置する。実験は、ヘプタン流が、様々な温度で、1.7MPaの圧力下、毎時空間速度が8h-1の原料流で置き換えられた時点で開始する。カラムを出た流出物を分析することで処理したマトリックスの硫黄濃度を測定すると共に、原料投入量に対する液体流出物を計量することで歩留まり損失を測定する。
【0070】
固体の動的性能は、流出物の硫黄濃度が原料濃度の10分の1に相当するときに固体が保持する硫黄の量に相当する。
【0071】
硫黄化合物の捕捉のエネルギー効率は、周囲温度20℃から開始される、システムへの供給が要求されるエネルギーの量として、次の式、E=mCPΔTを用いて測定される。「E」はシステムに供給されるエネルギー量(kJ単位)であり、「m」は流出物中の硫黄濃度が原料濃度の10分の1に相当する際の処理された原料の質量(kg単位)であり、「Cp」は原料の比熱容量(kJ/kg/K単位で、2.7とする)であり、「ΔT」は試験温度と周囲温度(20℃とする)の差である。そして、「E」の値を硫黄保持量で割ることにより、エネルギー効率を硫黄保持量当たりのシステムに供給されるエネルギー量(kJ/gS)として表現することが可能になる。
【0072】
結果は以下の表2にまとめた。
【0073】
【0074】
これらの実施例から、170℃~220℃の温度および0.25~4のNi°/NiO重量比で発明に従って実施した場合のみ、歩留まり損失を抑えプロセスのエネルギー効率を最適化しつつ、ヘキサンチオールメルカプタンの捕捉において高い性能を達成できることが明らかになった。
【国際調査報告】