(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】PPG信号処理装置および対応するコンピュータ実装方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
A61B5/02 310A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535693
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-06-14
(86)【国際出願番号】 EP2022087548
(87)【国際公開番号】W WO2023118468
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520085512
【氏名又は名称】キューオムピウム
【氏名又は名称原語表記】QOMPIUM
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンヴィンケンロイ,アマウリ
(72)【発明者】
【氏名】デ ウィット,グレン
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA09
4C017AC28
4C017BC14
4C017BC21
4C017BD06
(57)【要約】
心房粗動を検出するように構成された光電式容積脈波記録法またはPPG信号処理装置であって、プロセッサおよびコンピュータプログラムコードを含むメモリを備え、PPG信号処理装置に、
人間または動物の少なくとも1つのPPG信号(200)を取得し(101)、
少なくとも1つのPPG信号(200)内の心拍(201、202、203、204、205、…)を検出し(102)、
少なくとも1つのPPG信号(200)内の連続する心拍の対(201-202、202-203、203-204、204-205、…)の拍動間隔(301、302、303、304、…)を決定し(103)、
拍動間隔ベースラインであって、各々の拍動間隔ベースライン(302-304)は、所定の許容値内で一定である複数の連続する拍動間隔(302、303、304)に対応する拍動間隔ベースラインを検出し(104)、
拍動間隔ベースライン(302-304)に対して、それぞれの平均拍動間隔値(401、402、…)を決定し(105)、
平均拍動間隔値(401、402、…;501、502、…)間の関係を検出する(110)
ようにさせるように構成された、光電式容積脈波記録法またはPPG信号処理装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心房粗動を検出するように構成された光電式容積脈波記録信号処理装置(略してPPG信号処理装置)であって、前記PPG信号処理装置は、少なくとも1つのプロセッサと、コンピュータプログラムコードを含む少なくとも1つのメモリとを備え、前記少なくとも1つのメモリおよび前記コンピュータプログラムコードは、前記少なくとも1つのプロセッサと共に、前記PPG信号処理装置に、
人間または動物の少なくとも1つの光電式容積脈波記録信号(200)(略してPPG信号)を取得し(101)、
前記少なくとも1つのPPG信号(200)内の心拍(201、202、203、204、205、…)を検出し(102)、
前記少なくとも1つのPPG信号(200)内の連続する心拍の対(201-202、202-203、203-204、204-205、…)の拍動間隔(301、302、303、304、…)を決定し(103)、
拍動間隔ベースラインであって、各々の拍動間隔ベースライン(302-304)は、所定の許容値内で一定である複数の連続する拍動間隔(302、303、304)に対応する拍動間隔ベースラインを検出し(104)、
前記拍動間隔ベースライン(302-304)のそれぞれに対して、それぞれの平均拍動間隔値(401、402、…)を決定し(105)、
前記平均拍動間隔値(401、402、…;501、502、…)間の関係を検出し(110)、それに対して:
下限値と上限値との間の1分当たりの整数拍動値から構成される心房レートのサブセットに対して、前記拍動間隔ベースラインの前記平均拍動間隔値(401、402、…;501、502、…)と、最も近い心房ライン(411、412、413;511、512、513)であって、心房ラインは、前記心房レートの整数部分に対応する最も近い心房ライン(411、412、413;511、512、513)との間のそれぞれの距離を決定し(106)、
前記心房レートのサブセット内の各々の心房レートに対して、前記平均拍動間隔値(401、402、…;501、502、…)と、前記心房レートに対して最も近い心房ライン(411、412、413;511、512、513)との間の平均距離を決定し(107)、
前記平均拍動間隔値(401、402、…;501、502、…)が心房ライン(411、412、413;511、512、513)に対して最小平均距離を有する前記心房レートを選択し(108)、
前記最小平均距離が所定の閾値距離よりも小さい場合に心房粗動を検出する(109)
ようにさせるように構成された、PPG信号処理装置。
【請求項2】
前記平均距離は、加重二乗距離に対応し、拍動間隔ベースライン(302-304)の長さまたは持続時間は、前記拍動間隔ベースライン(302-304)の前記平均拍動間隔値と前記平均距離内の最も近い心房ラインとの間の二乗距離に対するそれぞれの重みとして役立つ、請求項1に記載のPPG信号処理装置。
【請求項3】
前記心房レートのサブセットのうちの1つの心房レートに対する前記心房ライン(411、412、413;511、512、513)は、前記心房レート(411;511)の2分の1、前記心房レート(412;512)の3分の1、および前記心房レート(413;513)の4分の1に対応する、請求項1または2に記載のPPG信号処理装置。
【請求項4】
前記心房レートのサブセットは、下限値と上限値との間のすべての整数レートを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のPPG信号処理装置。
【請求項5】
拍動間隔ベースライン(302-304)の平均拍動間隔値(401、402、…;501、502、…)が、以下:
前記拍動間隔ベースライン(302-304)に属する拍動間隔値(302、303、304)の平均値、
前記拍動間隔ベースライン(302-304)に属する拍動間隔値(302、303、304)の中央値、
前記拍動間隔ベースライン(302-304)に属する拍動間隔値(302、303、304)の最頻値、または
前記拍動間隔ベースライン(302-304)に属する拍動間隔値(302、303、304)の中間値
のうちの1つに対応する、請求項1~4のいずれか一項に記載のPPG信号処理装置。
【請求項6】
前記複数の連続する拍動間隔に対して、拍動間隔ベースラインを形成する最小量を設定する手段をさらに備える、請求項1~5のいずれか一項に記載のPPG信号処理装置。
【請求項7】
前記所定の許容値を設定する手段をさらに備える、請求項1~6のいずれか一項に記載のPPG信号処理装置。
【請求項8】
心房粗動を検出するために光電式容積脈波記録信号(略してPPG信号)を処理するためのコンピュータ実装方法であって、
人間または動物の少なくとも1つの光電式容積脈波記録信号(200)(略してPPG信号)を取得するステップ(101)と、
前記少なくとも1つのPPG信号(200)内の心拍(201、202、203、204、205、…)を検出するステップ(102)と、
前記少なくとも1つのPPG信号(200)内の連続する心拍の対(201-202、202-203、203-204、204-205、…)の拍動間隔(301、302、303、304、…)を決定するステップ(103)と、
拍動間隔ベースラインであって、各々の拍動間隔ベースライン(302-304)は、所定の許容値内で一定である複数の連続する拍動間隔(302、303、304)に対応する拍動間隔ベースラインを検出するステップ(104)と、
前記拍動間隔ベースライン(302-304)のそれぞれに対して、それぞれの平均拍動間隔値(401、402、…;501、502、…)を決定するステップ(105)と、
前記平均拍動間隔値(401、402、…;501、502、…)間の関係を検出するステップ(110)と、それに対して:
下限値と上限値との間の1分当たりの整数拍動値から構成される心房レートのサブセットに対して、前記拍動間隔ベースラインの前記平均拍動間隔値(401、402、…;501、502、…)と、最も近い心房ライン(411、412、413;511、512、513)であって、心房ラインは、前記心房レートの整数部分に対応する最も近い心房ライン(411、412、413;511、512、513)との間のそれぞれの距離を決定するステップ(106)と、
前記心房レートのサブセット内の各々の心房レートに対して、前記平均拍動間隔値(401、402、…;501、502、…)と、前記心房レートに対して最も近い心房ライン(411、412、413;511、512、513)との間の平均距離を決定するステップ(107)と、
前記平均拍動間隔値(401、402、…;501、502、…)が心房ライン(411、412、413;511、512、513)に対して最小平均距離を有する前記心房レートを選択する(108)ステップと、
前記最小平均距離が所定の閾値距離よりも小さい場合に心房粗動を検出するステップ(109)と
を含む、コンピュータ実装方法。
【請求項9】
コンピュータ上でプログラムが実行されたときに請求項8に記載の方法を実行するためのコンピュータ実行可能命令を含む、コンピュータプログラム製品。
【請求項10】
請求項9に記載のコンピュータプログラム製品を含む、コンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、様々な生理学的パラメータを監視可能にする血液量の変化を検出する光学技術である光電式容積脈波記録法(PPG)に関するものである。本発明は特に、より広範囲の心拍リズムの問題の検出を容易にするために、人間または動物から取得された1つ以上のPPG信号の処理に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電式容積脈波記録法(PPG)は、末梢循環における血液量の変化を検出することで1つ以上の生理学的パラメータを監視できる光学技術である。PPGは、血液による光の吸収を利用して、これらの体積変化を追跡する。光源が皮膚を照らすと、血液の流れに応じて反射光が変化する。光センサは、その後、光反射のこれらの変化をデジタル信号、いわゆるPPG信号に変換する。PPG信号は通常、パルスオキシメータまたは光検出器(例えば、人間のスマートフォン、スマートウォッチ、またはその他のスマートなウェアラブルまたは非ウェアラブルデバイスなどの電子デバイスに統合されたカメラ)を使用して記録される。
【0003】
リモートPPGと接触型PPGは、区別される。リモートPPGは、監視対象者にとって邪魔にならないが、信号検出および信号処理に大きな課題をもたらす。その結果、リモートPPGの使用は、その精度と信頼性が医療用途には不十分であるため、レジャーまたはフィットネスなどの日常的な用途に限定されたままとなっている。測定コンポーネントが皮膚に直接接触する接触型PPGでは、信頼性がより高く、より正確なPPG信号が得られ、医療診断が容易になる。
【0004】
PPGは、他の用途の中でも、心拍数、心拍変動、血圧などの心血管系および血行動態パラメータを監視したり、ストレス、呼吸、自律機能などの他の生理学的変数を監視したりするために使用できる。PPGは、様々なノイズ源の影響を受ける可能性があるため、PPGによる正確なモニタリングの重要な部分の1つは、高品質でアーチファクトのない信号を取得することである。正確で信頼性の高いPPG測定の方法は、例えば、「Computer-Implemented Method and System for Direct Photoplethysmography (PPG)(直接光電式容積脈波記録法(PPG)のためのコンピュータ実装方法およびシステム)」と題される、出願人Qompiumの欧州特許出願公開EP3449820A1、および「Computer-Implemented Method and System for Direct Photoplethysmography (PPG) with Multiple Sensors(複数のセンサを備えた直接光電式容積脈波記録法(PPG)のためのコンピュータ実装方法およびシステム)」と題される、出願人Qompiumの欧州特許出願公開EP3473173に記載されている。
【0005】
医療の分野では、接触型PPGは主に、最も一般的な心臓リズム障害である心房細動(AF)のリスク検出に使用される。その他の心臓リズム障害は、通常、例えばホルターモニタリングシステムによって取得される心電図(ECG)を介して検出される。
【0006】
ウェアラブルデバイスを通じて簡単に取得できるPPG信号を使用して、例えば頻脈または心房粗動のようなその他の異常な心拍リズムを検出することが望ましい。心房粗動は、心房と呼ばれる心臓の上室の異常な電気回路によって引き起こされる異常な心拍リズムの一種であり、心房を素早く拍動させる。正常に機能している心臓では、心臓の右心房にある洞結節(いわゆるSA結節)から電気パルスが送信される。このようにして、この結節は、心拍数と心拍のタイミングを制御する。心房粗動の場合、心房内に異常な電気回路が形成される。この異常な電気回路が心拍リズムと心拍数を支配し、上室の収縮を異常に頻発させる。
【0007】
心房粗動により、心臓の下室(いわゆる心室)の鼓動が速くなる場合もあるが、心房ほどは速くならないことがよくある。正常に機能している心臓では、心房レートまたはARは、心室レートまたはVRと等しい。心房粗動の場合、心室レートは通常、心房レートの整数分の1であり、ARとVRの比率(いわゆるAV伝導レート)は、2:1、3:1、または4:1に等しい。AV伝導レートは、一定となり得る。AV伝導レートが3:1のままであり、ARが300bpm(1分当たりの拍数)である一例では、VRは、100bpmとなる。AV伝導レートは、交互に変化することもある。AV伝導比が2:1、3:1、4:1の比率の間で交互に変化し、ARが300bpmの一例では、VRは、150bpm、100bpm、75bpmの間で交互に変化する。
【0008】
PPG信号では、心室レートは確認できるが、心房レートは確認できない。その結果、粗動波の存在は通常、光電式容積脈波またはPPGの信号プロットでは確認できない。したがって、心房粗動の確実な検出には、心電図またはECGによる確認が必要である。
【0009】
IEEE J Biomed Health Inform、2020年6月、1610-1618頁に掲載された、著者Eerikainen L.M.らの論文「Detecting Atrial Fibrillation and Atrial Flutter in Daily Life Using Photoplethysmography Data(光電式容積脈波記録データを使用した日常生活における心房細動と心房粗動の検出)」は、PPGを使用して心房粗動を検出する方法について説明しているように見える。しかしながら、EerikainenらによってPPG信号から抽出された特徴は、心房粗動の検出に特有のものではない。エントロピー、RMSSD、pNN70などの古典的な心拍変動の特徴が使用され、これらは文献に見られる伝統的な特徴である。これらの特徴によって心房粗動を確実に検出できるのであれば、これが医学文献でも確認されているはずである。この記事の基礎となる研究には心房粗動患者が5人しか含まれておらず、そのうち3人は、分類器の訓練に使用され、残りの2人がテストセットに残されている。限られた患者数によって結果に偏りが生じる可能性があるため、これによって与えられるパフォーマンスに関する洞察は限定される。さらに、Eerikainenらは、患者レベルで分類を実行しているのではなく、PPG信号の個々の30秒ストリップに対して分類を実行していることが分かる。
【0010】
PPGの最新技術によれば、心房粗動は、検出可能な不整脈の長いリストの中においてしばしば挙げられているが、既存の文献では、心房粗動を検出し、心房粗動を他の不整脈と区別するためにPPG信号をどのように処理する必要があるかについては説明されていない。
【0011】
「Arrhythmia Monitoring Using Photoplethysmography(光電式容積脈波記録法を用いた不整脈監視)」と題された米国特許出願公開US2020/0100693A1は、[0070]において、心房レートおよび心室レートを参照して「心房粗動」について記載している。[0076]では、D14では、平均RR間隔を心房粗動などの頻脈を検出するためのパラメータとして使用できると教示しているようであるが、この文書では、心房粗動を検出可能にするためにそのようなRR間隔をどのように処理する必要があるかは教示されていない。
【0012】
「Method to Analyse Cardiac Rhythms Using Beat-To-Beat Display Plots(心拍毎の表示プロットを使用して心拍リズムを分析する方法)」と題された米国特許出願公開US2021/0007621A1は、段落[0068]、[0074]、[0105]および
図10で、心房粗動が心拍毎の表示プロットから検出できることを示唆しているが、この文書には、心房粗動を他の心拍リズム疾患から確実に検出および区別できるようにするためのPPG信号の好ましい処理に関する助言は含まれていない。
【0013】
「Method, Electronic Apparatus and Computer Readable Medium of Constructing Classifier for Disease Detection(疾患検出用分類器を構築する方法、電子機器、およびコンピュータ可読媒体)」と題された米国特許出願公開US2017/0032221A1は、[0004]および
図1Cで、心房粗動の分類器に言及しているが、ECG信号の特徴、すなわちT波の終了とP波の開始との間の間隔の消失に依存している。
【0014】
「Calibrating for Blood Pressure Using Height Difference(高さの差を使用した血圧の較正)」と題された米国特許出願公開US2016/0302677A1では、段落[0126]、[0130]、および
図16Bで、正常な(または規則的な)心拍数と、RR
i+1がRR
iに対するプロットである
図16Bに示されるプロットの対角線からオフセットされたクラスタを通じて検出可能である、互いの倍数である心拍数の変化を探すことによって心房粗動を検出することが示唆されている。
【0015】
米国特許出願公開US2014/0221845A1の段落[0036]~[0038]には、PPG信号を取得し、PPG信号をフィルタリングしてその中のピーク(心拍)を検出することが記載されている。US2014/0221845A1では、ピークツーピーク間隔(RR間隔)の決定についてもさらに説明されている。RR間隔から心拍数のダイナミクスが確立され、不整脈の検出に有用である。しかしながら、US2014/0221845A1では、心房粗動を検出する技術については説明されていない。
【発明の概要】
【0016】
本発明の目的は、現在ではPPG信号に基づいて確実に検出または判別することが困難である心房粗動または他の異常な心拍リズムを検出するために有用な情報をPPG信号から抽出するためにPPG信号を処理する改良された技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の実施形態によれば、上記の目的は、請求項1に定義されるような、心房粗動を検出するように構成された光電式容積脈波記録信号処理装置(略してPPG信号処理装置)であって、PPG信号処理装置は、少なくとも1つのプロセッサと、コンピュータプログラムコードを含む少なくとも1つのメモリとを備え、少なくとも1つのメモリおよびコンピュータプログラムコードは、少なくとも1つのプロセッサと共に、PPG信号処理装置に、
人間または動物の少なくとも1つの光電式容積脈波記録信号(略してPPG信号)を取得し、
少なくとも1つのPPG信号内の心拍を検出し、
少なくとも1つのPPG信号内の連続する心拍の対の拍動間隔を決定し、
拍動間隔ベースラインであって、各々の拍動間隔ベースラインは、所定の許容値内で一定である複数の連続する拍動間隔に対応する拍動間隔ベースラインを検出し、
拍動間隔ベースラインのそれぞれに対して、それぞれの平均拍動間隔値を決定し、
平均拍動間隔値間の関係を検出し、それに対して:
下限値と上限値との間の1分当たりの整数拍動値から構成される心房レートのサブセットに対して、拍動間隔ベースラインの平均拍動間隔値と、最も近い心房ラインであって、心房ラインは、心房レートの整数部分に対応する最も近い心房ラインとの間のそれぞれの距離を決定し、
心房レートのサブセット内の各々の心房レートに対して、平均拍動間隔値と、心房レートに対して最も近い心房ラインとの間の平均距離を決定し、
前記平均拍動間隔値が心房ラインに対して最小平均距離を有する心房レートを選択し、
最小平均距離が所定の閾値距離よりも小さい場合に心房粗動を検出するようにさせるように構成された、PPG信号処理装置によって実現される。
【0018】
実際、単一の人間または動物のPPG信号(複数可)に基づいて検出されたベースライン(RRベースラインとも呼ばれる)の中心または平均拍間値間の関係の存在および/または関係の性質により、例えば交代性心房粗動のような特定の不整脈を確実に検出できる場合がある。このようにして検出できるその他の心臓不整脈としては、例えば、房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)、房室回帰性頻拍(AVRT)、心房頻拍、多源性心房頻拍がある。これらの不整脈は、上室性頻拍のカテゴリーの一部であり、上で説明したように、心房粗動もこれに属する。
【0019】
本発明の実施形態によれば、単一の人間または動物に対して1つ以上のPPG信号が得られる。これらのPPG信号では、その人間または動物の心拍に対応するPPG信号のピークを決定し、そのようなピークのタイミングを決定する最先端のアルゴリズムを使用して心拍が検出される。その後、RR間隔またはピークツーピーク間隔とも呼ばれる拍動間隔が決定される。これは、PPG信号(複数可)内の連続する心拍の各々の対に対して、これらの心拍間の時間間隔が決定されることを意味する。心臓不整脈を示す心拍変動を検出するために心拍数の変動を探す代わりに、本発明に係るPPG処理装置は、拍動間隔または心拍数が実質的に一定、すなわち、拍動間隔ベースライン内の心拍変動に対して所定の許容値内で一定を維持する短い期間である、拍動間隔ベースラインを探す。したがって、設定された許容値内で等しい連続するすべての拍動間隔は、単一の拍動間隔ベースラインの一部を共に形成する。本発明によれば、単一の人間または動物に対して、その人間または動物に対して取得された1つまたは複数のPPG信号にわたって、複数の拍動間隔ベースラインが検出される。これらの異なる拍動間隔ベースラインは、通常、異なる長さを持つが、各々の拍動間隔ベースラインは、実質的に等しい複数の後続の拍動間隔を含む必要がある。拍動間隔ベースラインと見なされるために一定でなければならない後続の拍動間隔の最小量に対応する、拍動間隔ベースラインの最小長さを設定することが可能である。各々の拍動間隔ベースライン内で、拍動間隔が平均化され、こうして心拍数が実質的に一定のままである各々の検出期間の連続する心拍間の時間の平均値または中心値が得られる。そして、これらの平均拍動間隔間の関係性の存在が検索され、出力される。例えば、平均拍動間隔は、(許容範囲内で)等しくなり得る、平均拍間値は、(許容範囲内で)最小値の整数倍となり得る、平均拍間値は、(許容範囲内で)公倍数値の整数部分となり得るなどである。
【0020】
本発明は、光検出器を備えた便利なウェアラブルを使用して、同じ患者、人間、または動物に対して時間にわたって複数回収集されたPPG信号から、特定の不整脈(特に、上室性頻脈のカテゴリーの一部である不整脈)を確実に検出できるという利点をもたらす。
【0021】
単一の人間または動物の異なる拍動間隔ベースラインに対して決定された中心拍動間隔値間の関係の存在を確立するために、これらの中心拍動間隔値を心房ラインと比較することができる。心房ラインは、公倍数値の整数部分に対応し、公倍数値は、心房レートまたはAR値を表す。単一のAR値、例えば180bpmの場合、最初の3つの心房ラインは、0.67秒(または90bpm、ARの1/2)、1.00秒(または60bpm、ARの1/3)、および1.33秒(または45bpm、ARの1/4)に対応する。各々の中心拍動間隔値に対して、どの心房ライン(0.67秒、1.00秒、または1.33秒)が最も近いかが決定され、最も近い心房ラインまでの距離が決定される。次に、心房レートのサブセット(例えば、180bpm、182bpm、184bpm、…、300bpm)に対してこれを繰り返す。単一のARの中心拍動間隔と心房ラインとの間の距離が小さいことは、検出された拍動間隔ベースライン(後続の心拍または心拍数の間隔が実質的に一定のままである期間)がすべて、人間の心房が特定のレートで拍動しているときに発生することを示している。
【0022】
単一の人間または動物に対して検出された拍動間隔ベースラインが、その人間または動物の心房が特定のレート(AR)で拍動しているときに発生するかどうかを確認するために、それぞれの中心拍動間隔と、そのARの最も近い心房ラインとの間で測定された距離が平均化される。このようにして、一定の拍動間隔を持つ短期間の間の人間のベースライン拍動間隔と、単一のARに対するそれぞれの最も近い心房ラインとの間の距離をすべてのPPG信号にわたって表す単一の値が得られる。このような単一の値は、考慮されるAR値のサブセット内の各々のAR値に対して決定され得る。
【0023】
拍動間隔ベースラインの中心拍動間隔値が心房ラインと比較される心房レートのサブセットから、心房ラインに対する拍動間隔ベースラインの平均距離が最小となる心房レートが選択される。拍動間隔ベースラインが特定のARで発生する場合、そのように選択された心房レートは、その特定のARに最良な候補である。
【0024】
PPG信号処理装置は、心房粗動、房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)、房室回帰性頻拍(AVRT)、心房頻拍、多源性心房頻拍のような上室性頻拍のカテゴリーの一部である心臓不整脈を検出するために使用できる。本発明の実施形態は、単一の不整脈に対する単一の分類器を含んでもよく、または複数の不整脈を検出するために複数の分類器を含んでもよい。心房レートのサブセットに対する拍動間隔ベースライン中の拍動間隔と心房ライン間の最小平均距離は、人間または動物が心房粗動を患っているかどうかを判断する分類器の入力パラメータとして機能し得る。
【0025】
実装が簡単な心房粗動分類器は、得られた最小平均距離(心房レートのサブセットに対する心房拍動間隔ベースライン中の心房拍動間隔と最も近い心房ラインとの間の距離)を所定の距離閾値と比較することができる。最小平均距離がこの所定の距離閾値を下回る場合、異なる拍動間隔ベースライン中の拍動間隔が心房ラインに非常に近づく心房レートが見つかる。言い換えれば、心房が特定の心房レートで拍動しているときに、拍動間隔ベースラインが発生する可能性が非常に高くなる。異なる拍動間隔ベースラインの拍動間隔は、大幅に異なる場合があるが、それらはすべて、その特定の心房レートの心房ラインのうちの1つとほぼ一致する。これは、心房粗動の兆候であり、したがって分類器は、人間または動物を心房粗動患者として確実に分類できる。
【0026】
閾値ベースの分類器は、単独でも使用でき、これは、最も近い心房ラインセットまでの平均距離を何らかの閾値と比較して、人間/動物を心房粗動患者として分類できることを意味していることが分かる。平均距離値が閾値を下回る場合、心房粗動である。平均距離値が閾値を超えている場合は、心房粗動ではない。閾値ベースの分類器は、他の方法と組み合わせて使用して、PPG記録から情報を抽出することもできる。現在の方法は、その後、最も近い心房ラインセットまでの平均距離である特徴を計算するのに役立つ。この特徴は、その後、他の方法で計算された他の特徴と共に、1つまたはいくつかの不整脈の分類器(決定木、サポートベクターマシン、k近傍法、ニューラルネットワークなど)を訓練するために使用できる。一例として、以下のこと:
・最も近い心房ラインセットまでの平均距離、
・平均心拍数、
・RR間隔の標準偏差、
・PPG心拍の平均振幅、
・PPG心拍の振幅の標準偏差
を決定し、これらの特徴のサブセットまたはすべてを使用して分類器を訓練することができる。一般的に言えば、本発明は、心拍リズムの変動性の特徴を計算する方法を提供することに貢献する。
【0027】
本発明に係るPPG信号処理装置の実施形態では、請求項2に定義されるように、平均距離は、加重二乗距離に対応し、拍動間隔ベースラインの長さまたは持続時間は、拍動間隔ベースラインの拍動間隔値と平均距離内の最も近い心房ラインとの間の二乗距離に対するそれぞれの重みとして役立つ。
【0028】
拍動間隔ベースラインの中心拍動間隔値と心房レートのそれぞれの最も近い心房ラインとの間の平均距離は、平均値、中央値、最頻値などとして決定することができるが、本発明の好ましい実施形態では、平均距離を加重二乗距離値として決定する。加重二乗距離値では、拍動間隔ベースラインの中心拍動間隔値と対応する最も近い心房ラインとの間の各々の距離が二乗され、拍動間隔ベースラインの長さまたは持続時間に比例するそれぞれの重み値で重み付けされる。このように、より長い拍動間隔ベースラインに対して決定された距離値は、より短い拍動間隔ベースラインに対して決定された距離値に割り当てられた重みまたは重要度よりも高い、全体の平均距離における重みまたは重要度を得る。拍動間隔ベースラインの長さを使用して最も近い心房ラインまでの距離に重み付けすることで、PPG信号処理装置の信頼性とそれに基づく疾患分類が向上する。
【0029】
本発明に係るPPG信号処理装置の実施形態では、請求項3に定義されるように、心房レートのサブセットのうちの1つの心房レートに対する心房ラインは、心房レートの2分の1、心房レートの3分の1、および心房レートの4分の1に対応する。
【0030】
実際、交代性心房粗動の場合、RRベースラインの拍動間隔は、基本心房レートの整数分の1のライン上にあり、AV伝導比は、2:1、3:1、または4:1に等しいと想定され得る。したがって、サブセット内の各々の心房レートに対して、心房レートの2分の1、3分の1、または4分の1に対応する心房ラインを考慮するだけで十分である。
【0031】
本発明に係るPPG信号処理装置の実施形態では、請求項4に定義されるように、心房レートのサブセットは、下限値と上限値との間、好ましくは180拍/分から400拍/分までのすべての整数レートを含む。
【0032】
したがって、RRベースラインの拍動間隔が心房ラインに最も近づく心房レートを決定するために、心房レートの限定されたサブセットが考慮され得る。この限定されたサブセットには、例えば、最低心房レートと最高心房レートとの間のすべての整数値が含まれ得る。最低心房レートは、例えば180bpmに等しく選択され得る。最高心房レートは、例えば400bpmに等しく選択され得る。代替実装形態では、最低心房レートおよび/または最高心房レートは、異なって選択することができ、各々の整数値の代わりに、考慮される2つの連続する心房レート間のステップまたは距離に対応するステップ値が設定され得る。
【0033】
本発明に係るPPG信号処理装置の実施形態では、請求項5に定義されるように、拍動間隔ベースラインの平均拍動間隔値は、以下:
拍動間隔ベースラインに属する拍動間隔値の平均値、
拍動間隔ベースラインに属する拍動間隔値の中央値、
拍動間隔ベースラインに属する拍動間隔値の最頻値、または
拍動間隔ベースラインに属する拍動間隔値の中間値
のうちの1つに対応する。
【0034】
本発明の実施形態は、上で説明したように、各々のRRベースライン内における拍動間隔の平均値または中心値を決定する。拍動間隔がRRベースライン内で実質的に一定であるため、拍間値は、等しいか、またはほぼ等しいと想定される。それでも、平均値または中心値を継続的な処理(例えば、そのような平均値または中心値と、心房レートの心房ラインとの比較)のために決定することは意味がある。平均値または中心値は、例えば中央値または最頻値のように、外れ値に対する感度が低くなるように選択できる。あるいはまた、変動許容範囲の結果として外れ値が存在しない可能性があるため、平均値または中間値を使用して平均値または中心値を決定することもできる。
【0035】
本発明に係るPPG信号処理装置の実施形態は、請求項6に定義されるように、複数の連続する拍動間隔に対して、拍動間隔ベースラインを形成する最小量を設定する手段をさらに備える。
【0036】
RRベースラインを構成する拍動間隔の最小量をユーザが設定できるようにすることで、装置の精度と信頼性を制御するためのパラメータがユーザに提供される。RRベースラインの最小長さを長く設定すると、心拍数が偶然一定のままである短い期間を、特定の心拍リズム疾患を示すRRベースラインと見なすリスクがこのように低減するため、精度が向上する。
【0037】
本発明に係るPPG信号処理装置の実施形態は、請求項7に定義されるように、前記所定の許容値を設定する手段をさらに備える。
【0038】
実際、変動許容範囲は、構成可能にすると、ユーザに装置の精度および信頼性を制御可能にする第2のパラメータを構成する。変動許容範囲値が小さいほど、RRベースラインとして考慮される実質的に拍動間隔が一定の期間が少なくなる(変動許容範囲外の値のため、期間がRRベースラインと見なされるために必要な最小の長さに達しない場合がある)。さらに、RRベースライン内では、拍動間隔の値は、一般的に互いに近くなる(それらの違いは、変動許容範囲以下であり得る)。変動許容範囲が減少すると、心拍数が偶然に一定のままである短い期間を、特定の心拍リズム疾患を示すRRベースラインと見なすリスクが低減し、その逆も同様である。
【0039】
PPG信号処理装置に加えて、本発明は、請求項8に定義されるように、心房粗動を検出するために光電式容積脈波記録信号(略してPPG信号)を処理するための対応するコンピュータ実装方法であって、
人間または動物の少なくとも1つの光電式容積脈波記録信号(略してPPG信号)を取得するステップと、
少なくとも1つのPPG信号内の心拍を検出するステップと、
少なくとも1つのPPG信号内の連続する心拍の対の拍動間隔を決定するステップと、
拍動間隔ベースラインであって、各々の拍動間隔ベースラインは、所定の許容値内で一定である複数の連続する拍動間隔に対応する拍動間隔ベースラインを検出するステップと、
拍動間隔ベースラインのそれぞれに対して、それぞれの平均拍動間隔値を決定するステップと、
平均拍動間隔値間の関係を検出するステップと、それに対して:
下限値と上限値との間の1分当たりの整数拍動値から構成される心房レートのサブセットに対して、拍動間隔ベースラインの平均拍動間隔値と、最も近い心房ラインであって、心房ラインは、心房レートの整数部分に対応する最も近い心房ラインとの間のそれぞれの距離を決定するステップと、
心房レートのサブセット内の各々の心房レートに対して、平均拍動間隔値と、心房レートに対して最も近い心房ラインとの間の平均距離を決定するステップと、
平均拍動間隔値が心房ラインに対して最小平均距離を有する心房レートを選択するステップと、
最小平均距離が所定の閾値距離よりも小さい場合に心房粗動を検出するステップと
を含む、コンピュータ実装方法に関するものでもある。
【0040】
さらなる一態様によれば、本発明は、請求項9に定義されるような、コンピュータ上でプログラムが実行されたときに、本発明に係る方法を実行するためのコンピュータ実行可能命令を含む、コンピュータプログラム製品に関するものでもある。
【0041】
さらに別の一態様によれば、本発明は、請求項10に定義されるような、本発明に係るコンピュータプログラム製品を含む、コンピュータ可読記憶媒体に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】
図1は、本発明に係るPPG処理装置の例示的一実施形態によって実行される一連のステップを示す。
【
図2】
図2は、本発明に係るPPG処理装置の例示的一実施形態によって実行される場合のPPG信号200内の心拍を検出するステップを示す。
【
図3】
図3は、本発明に係るPPG処理装置の例示的一実施形態によって実行される場合の、
図2のPPG信号200に基づいて拍動間隔を決定するステップ、およびRRベースラインを決定するステップを示す。
【
図4】
図4は、本発明に係るPPG処理装置の例示的一実施形態によって実行される場合の、
図3で検出されたようなRRベースラインの中心拍動間隔を決定するステップ、およびRRベースラインを300bpmの心房レートの心房ラインと比較するステップを示す。
【
図5】
図5は、本発明に係るPPG処理装置の例示的一実施形態によって実行される場合の、中心RRベースライン値までの平均距離が最小の心房ラインを有する心房レートを選択するステップを示す。
【
図6】
図6は、本発明に係るPPG処理装置の例示的一実施形態を実現するのに適したコンピューティングシステム600を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1~
図5は、RRベースラインを検出し、そのようなRRベースラインを心房レートに対応する心房ラインと比較して心房粗動を検出するように構成されたPPG処理装置の一実施形態を示す。
【0044】
101で示される第1のステップでは、PPG処理装置は、ある人間に対して1つまたは複数のPPG信号を取得する。
図2は、ステップ101である人間に対して取得された60秒間のPPG信号200を示す。
【0045】
102で示される第2のステップでは、PPG処理装置がPPG信号内の心拍を検出する。
図2において、点201、202、203、204、205等は、PPG信号200内で検出された心拍を表す。これらの心拍は、PPG信号200またはPPG信号200の一部に適用される最先端のピーク検出アルゴリズムによって検出される。
【0046】
103で示される第3のステップでは、PPG処理装置は、PPG信号内の連続する心拍の対に対して拍動間隔の長さを決定する。これらの拍動間隔は、出力したり、
図3に示されるもののようなタコグラムにプロットしたりすることができる。
図3において、点301は、PPG信号202で検出された第1の心拍201と第2の心拍202との間の拍動間隔を表す。拍動間隔は、心拍201と心拍202との間に経過した時間に対応し、秒単位で表される。
図3から、心拍201と心拍202との間の拍動間隔301は、0.7秒に相当することが分かる。同様に、三角形302は、PPG信号202で検出された第2の心拍202と第3の心拍203との間の拍動間隔を表す。この第2の拍動間隔302は、1.40秒に相当する。さらに、三角形303は、PPG信号202で検出された第3の心拍203と第4の心拍204との間の拍動間隔を表す。この第3の拍動間隔303は、1.45秒に相当する。
図3の三角形304は、PPG信号202で検出された第4の心拍204と第5の心拍205との間の拍動間隔を表す。この第4の拍動間隔304は、1.42秒に相当する。
図3の各々の後続の点または三角形は、PPG信号200で検出された連続する心拍の対の間の拍動間隔に対応する。
図3で行われているようにタイムライン上にプロットすると、これらの拍動間隔は、タコグラムを構成する。
【0047】
図1の104で示される第4ステップでは、PPG処理装置は、RRベースラインを決定する。RRベースラインは、(変動許容範囲内で)等しい複数の連続した拍動間隔に対応する。
図3では、検出されたRRベースラインが三角形で表されている。RRベースラインの一部ではない拍動間隔は、点で表されている。例えば、拍動間隔302、303、および304は、連続した拍動間隔であり、それぞれの値が0.05秒未満で変化するため(これは、
図3の変動許容範囲であると想定される)、第1のRRベースラインを構成する。
図3は、拍動間隔302、303、および304によって形成されるRRベースラインに加えて、PPG信号200に基づいて検出された5つの追加のRRベースラインを示している。2つのパラメータ、すなわちRRベースラインの最小長さ(
図3では3拍動間隔に設定される)と、RRベースライン内で許容される変動性(
図3では0.05秒に設定される)が、RRベースライン検出ステップの精度を規定する。RRベースラインの最小長さを増やすこと、および/または変動許容範囲を減らすことは、これらのパラメータ変更によって、心拍数が偶然に一定のままでRRベースラインとみなされる時間間隔が短くなる(偽陽性が減る)ため、PPG処理装置の精度と信頼性を改善する。
【0048】
図1の105で示される第5のステップでは、PPG処理装置は、ステップ104で検出された各々のRRベースラインに対して中心拍動間隔値を決定する。中心値または平均値は、例えば、RRベースラインのすべての拍動間隔値の平均値に対応することができる。あるいはまた、中央値、最頻値、中間値、または別の中心値を考慮することもできる。
図3の例では、平均値は、RRベースラインの拍間値に対する中心値として決定される。したがって、拍動間隔302、303、304を含むRRベースラインの場合、この中心値は、(1.40+1.45+1.42)/3=1.42秒に相当する。同様に、検出されたRRベースラインの各々に対して中心ベースライン値が決定される。1つまたは複数のPPG信号にわたって1人の人間に対して取得されたこれらの中心ベースライン値は、
図4および
図5で行われているように、インデックスに対してプロットすることができる。
【0049】
監視する1つまたは複数の不整脈に応じて、特定の関係が存在するかどうかを確認するために、その後、中心RRベースライン値が分析される。これは、
図1の110によって示されている。心房粗動が監視される一例では、PPG処理装置は、例えば、中心RRベースライン値が公倍数値(心房レート)の交互の整数部分(心房ライン)に実質的に対応するかどうかを検出するように構成することができ、交互の整数部分は、公倍数値の2分の1、3分の1、または4分の1のいずれかを表す。PPG信号処理装置によって他の不整脈が検出される場合は、中心RRベースライン値間の他の関係の存在を調査することができる。
【0050】
RRベースラインを心房ラインと比較するために、検出されたRRベースラインの中心拍間値と心房レートに対応するそれぞれの心房ラインとの間の距離が決定され、最も近い距離が維持される。これは
図4によって示されており、401は、第1のRRベースラインの中心拍間値を表し、402は、第2のRRベースラインの中心拍間値を表すなどである。
図4では、300bpmの心房レートが考慮され、このレートに対応する3つの心房ラインは、破線411(心房レートの2分の1が150bpmまたは0.40秒の拍動間隔に相当する)、点線412(心房レートの3分の1が100bpmまたは0.60秒の拍動間隔に相当する)、および一点鎖線413(心房レートの4分の1が75bpmまたは0.80秒の拍動間隔に相当する)で表される。第1のRRベースラインの場合、中心拍動間隔値401に最も近い心房ラインは、ライン412であるため、中心拍動間隔値401と心房ライン412との間の距離が維持される。第2のRRベースラインの場合、中心拍動間隔値402に最も近い心房ラインは、ライン413であるため、中心拍動間隔値402と心房ライン413との間の距離が維持される。同様に、
図4の点によって表されている各々の中心拍動間隔値と、心房ライン411、412、413との間の距離が決定され、最小距離(すなわち、最も近い心房ラインまでの距離)が維持される。
図1のステップ106では、
図4で300bpmの心房レートに対して示されているこのプロセスが、心房レートのサブセット(例えば、180bpmから400bpmまでのすべての整数心房レート値)に対して繰り返される。
【0051】
例えば、
図5は、188bpmの心房レートに対応する心房ラインまでの上記の距離の決定を示している。それぞれのRRベースラインの中心拍動間隔値を表す
図5の点は、
図4の点に対応している。この場合、拍動間隔値501は、拍動間隔値401に対応し、拍動間隔値502は、拍動間隔値402に対応し、以下同様である。188bpmの心房レートに対応する3つの心房ラインは、破線511(心房レートの2分の1が94bpmまたは0.64秒の拍動間隔に相当する)、点線512(心房レートの3分の1が62.7bpmまたは0.96秒の拍動間隔に相当する)、および一点鎖線513(心房レートの4分の1が47bpmまたは1.28秒の拍動間隔に相当する)で表される。第1のRRベースラインの場合、中心拍動間隔値501に最も近い心房ラインは、ライン511であるため、中心拍動間隔値501と心房ライン511との間の距離が維持される。第2のRRベースラインの場合、中心拍動間隔値502に最も近い心房ラインは、ライン512であるため、中心拍動間隔値502と心房ライン512との間の距離が維持される。同様に、
図5の点で表されている各々の中心拍動間隔値と心房ライン511、512、513との間の距離が決定され、最小距離(すなわち、最も近い心房ラインまでの距離)が維持される。
【0052】
心房レートのサブセットからの各々の心房レートに対して、
図1のステップ107の距離基準に従って、RRベースラインの中心拍動間隔値から最も近い心房ラインまでの平均距離が決定される。距離基準は、例えば、RRベースライン全体にわたる平均二乗距離とすることができる。距離は、重みがRRベースラインの長さに対応する加重平均二乗距離とすることもできる。言い換えれば、RRベースラインが長いほど、距離基準においてより高い重みまたは重要度を得ることができる。当業者であれば、各々の心房レートに対してRRベースラインの中心距離間隔値から最も近い心房ラインまでの平均距離を決定するために他の距離基準が考慮され得ることを理解するであろうが、これらはすべて本発明に包含される。
【0053】
図1のステップ108では、PPG処理装置は、ステップ106および107に従って、RRベースライン中心距離間隔値と最も近い心房ラインとの間の最小平均距離が決定された心房レートを選択する。
図2~
図5に示される例では、
図5によって示される188bmpの心房レートの平均距離が最も小さくなる。
【0054】
図1のステップ109によれば、PPG処理装置は、最小平均距離を所定の閾値と比較する。最小平均距離がこの所定の閾値を下回る場合、その人間は、心房粗動患者として分類される。
【0055】
上記の実施形態では、粗動心拍リズムには、同じ値を有する連続するRRまたは拍動間隔を含むパターンが含まれており、いわゆるRRベースライン(通常、非常に規則的な心拍を伴う短い時間間隔)を形成していると仮定されている。第2の仮定は、RRベースラインの拍動間隔が、すべて共通の基本心房レートの整数分の1のライン上にあり、AR/VR比またはいわゆるAV伝導比が、2:1、3:1、または4:1であるということである。
【0056】
図6は、本発明の一実施形態に係る適切なコンピューティングシステム600を示す。コンピューティングシステム600は、本発明に従ってPPG処理装置の実施形態を実装するのに適している。コンピューティングシステム600は、概して、適切な汎用コンピュータとして形成され、バス610、プロセッサ602、ローカルメモリ604、1つ以上の任意選択の入力インターフェース614、1つ以上の任意選択の出力インターフェース616、通信インターフェース612、ストレージ要素インターフェース606、および1つ以上のストレージ要素608を備える。バス610は、コンピューティングシステム600のコンポーネント間の通信を可能にする1つ以上の導体を含むことができる。プロセッサ602は、プログラミング命令を解釈して実行する任意のタイプの従来のプロセッサまたはマイクロプロセッサを含むことができる。ローカルメモリ604は、プロセッサ602によって実行される情報および命令を格納するランダムアクセスメモリ(RAM)または別の種類の動的ストレージデバイス、および/またはプロセッサ602によって使用される静的情報および命令を格納する読み取り専用メモリ(ROM)または別の種類の静的ストレージデバイスを含むことができる。入力インターフェース614は、例えば、キーボード620、マウス630、ペン、音声認識および/または生体認証メカニズム、カメラなど、オペレータまたはユーザがコンピューティングデバイス600に情報を入力できるようにする1つ以上の従来のメカニズムを含むことができる。出力インターフェース616は、例えばディスプレイ640など、オペレータまたはユーザに情報を出力する1つ以上の従来のメカニズムを含むことができる。通信インターフェース612は、コンピューティングシステム600が他のデバイスおよび/またはシステム、例えば他のコンピューティングデバイス681、682、683と通信できるようにする、例えば1つ以上のイーサネットインターフェースなど、トランシーバのようなメカニズムを含むことができる。コンピューティングシステム600の通信インターフェース612は、ローカルエリアネットワーク(LAN)または、例えばインターネットなどのワイドエリアネットワーク(WAN)によって、このような別のコンピューティングシステムに接続され得る。ストレージ要素インターフェース606は、バス610を1つ以上のローカルディスク(例えば、SATAディスクドライブ)などの1つ以上のストレージ要素608に接続するための、例えばシリアルATA(SATA:Serial Advanced Technology Attachment)インターフェースまたはスモールコンピュータシステムインターフェース(SCSI)などのストレージインターフェースを含み、これらのストレージ要素608との間のデータの読み取りおよび書き込みを制御することができる。上記のストレージ要素608は、ローカルディスクとして説明されているが、一般的に、リムーバブル磁気ディスク、CDまたはDVDなどの光学記憶媒体、-ROMディスク、ソリッドステートドライブ、フラッシュメモリカードなど、他の適切なコンピュータ可読媒体を使用することができる。本発明に係る方法全体は、例えば管理センター内またはクラウドシステム内のサーバで集中的に実行することも、あるいは、例えばユーザが装着する遠隔電子デバイス上で部分的に実行し、中央サーバ上で部分的に実行することもできることに留意されたい。したがって、コンピューティングシステム600は、中央で利用可能な処理システムまたは電子デバイスで利用可能な処理システムに対応することができる。
【0057】
本発明を特定の実施形態を参照して説明してきたが、本発明は、前述の例示的な実施形態の詳細に限定されるものではなく、本発明は、その範囲を逸脱することなく様々な変更および修正を加えて具体化できることは当業者には明らかであろう。したがって、本実施形態は、あらゆる点で例示的であり、限定的ではないとみなされるべきであり、本発明の範囲は、前述の説明ではなく添付の特許請求の範囲によって示され、したがって、特許請求の範囲の意味および均等性の範囲内にあるすべての変更は、特許請求の範囲に含まれるものとする。言い換えれば、基礎となる基本原理の範囲内にあり、その必須の属性が本特許出願で特許請求されるあらゆる修正、変形、または均等物を網羅することが考えられる。さらに、本特許出願の読者は、「備える(comprising)」または「備える(comprise)」という言葉は、他の要素またはステップを排除するものではなく、「1つの(a)」または「1つの(an)」という言葉は、複数を排除するものではなく、コンピュータシステム、プロセッサ、または別の統合ユニットなどの単一の要素は、特許請求の範囲に記載されたいくつかの手段の機能を果たすことができることを理解するであろう。請求項内のいかなる符号も、該当するそれぞれの請求項を限定するものとして解釈されるものではない。「第1」、「第2」、「第3」、「a」、「b」、「c」などの用語は、説明または特許請求の範囲で使用される場合、類似の要素またはステップを区別するために導入されたものであり、必ずしも連続的または時系列的な順序を説明するものではない。同様に、「上部」、「下部」、「上」、「下」などの用語は、説明の目的で導入されており、必ずしも相対的な位置を示すものではない。このように使用される用語は、適切な状況下では交換可能であり、本発明の実施形態は、本発明に従って、他の順序、または上で説明または図示したものとは異なる方向で動作可能であることを理解すべきである。
【国際調査報告】