(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】鋼製部品と関連する鋼製部品とをバット溶接するための方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/322 20140101AFI20241226BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20241226BHJP
B23K 26/342 20140101ALI20241226BHJP
【FI】
B23K26/322
B23K26/21 F
B23K26/342
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535831
(86)(22)【出願日】2022-11-22
(85)【翻訳文提出日】2024-08-13
(86)【国際出願番号】 IB2022061253
(87)【国際公開番号】W WO2023042189
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2021/061816
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カヌルグ,ジャン-フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ゲエド,サドック
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA37
4E168BA85
4E168BA88
(57)【要約】
2つの鋼板をバット溶接するための方法であって、未修正の目標とする溶接シーム組成のガンマ因子が、厳密に0.39を超えるような組成を有する2つの鋼板を提供するステップと、修正された目標とする溶接シーム組成のガンマ因子が、0.39以下になるように、溶接部に組み込まれた追加材料でそれらを突合せレーザ溶接するステップと、を含み、ガンマ=C+Si/30+Mn/20+4.8*P+4*S-Al/20である、方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さth1及びth2を有する2つの鋼板(1、2)をバット溶接するための方法であって、
-A/未修正の目標とする溶接シーム組成のガンマ因子が、厳密に0.39を超えるように、化学組成及び場合によっては金属コーティングを有する2つの鋼板を提供するステップ、
-B/前記鋼板を並べて位置付けるステップ、
-C/少なくともレーザ源を使用し、かつ修正された目標とする溶接シーム組成のガンマ因子が、0.39以下になるように、溶接作業中に重量%で、%addMの量で溶接シーム(3)に組み込まれた追加材料addMを使用して、前記鋼板(1、2)をバット溶接するステップ、を含み、
所与の組成について、前記ガンマ因子が、以下の式で与えられ(すべての元素は重量%で表される):
ガンマ=C+Si/30+Mn/20+4.8*P+4*S-Al/20、
所与の化学元素Xについて、前記2つの鋼板(1)及び(2)が、前記化学元素Xの重量百分率X1、X2を有し、場合によっては、両方とも両面の厚さの合計がthcoat1及びthcoat2であり且つ重量%で元素XのXcoat1及びXcoat2を含有する金属コーティングによって覆われており、元素Xについて未修正の目標とする溶接シーム組成Xweld_unamendedが、
【数1】
によって与えられ、また、所与の化学元素Xについて、元素Xの重量パーセントXaddMを有する追加材料addMの%addM量の存在下で、前記修正された目標とする溶接シーム組成Xweld_amendedが、
【数2】
である、方法。
【請求項2】
前記2つの提供された被溶接鋼板のうちの少なくとも1つが、0.5重量%~3.0%の範囲のケイ素含有量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記2つの提供された被溶接鋼板が、0.5重量%~3.0重量%の範囲のケイ素含有量を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記追加材料addMが、フィラーワイヤの形態で供給される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記追加材料addMが、粉末の形態で供給される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記追加材料addMが、被溶接縁部のうちの少なくとも1つにコーティングの形態で供給される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記追加材料addMが、0.008重量%未満のPを含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記追加材料addMが、0.006重量%未満のPを含有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記追加材料addMが、0.004重量%未満のPを含有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記追加材料addMが、1.0重量%を超えるAlを含有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記追加材料addMが、2.0重量%を超えるAlを含有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記被溶接シート(1、2)間に少なくとも0.1mmの間隙(4)が残され、前記溶接シーム(3)内の追加材料addMの量%addMが、15%以上である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
レーザ溶接ブランクは、鋼板金属成形産業、特に自動車産業において広く使用されている解決策である。これにより、同じブランク、異なるグレード及び厚さのいくつかのサブブランクを組み合わせることが可能になる。これには多くの利点があり、最適な材料特性及び厚さがブランクの各領域で使用され、安全性、重量、環境フットプリントなどの点で最終部品の最適化された性能をもたらす。さらに、設計者がいくつかの部品を1つに組み合わせることを可能にする。また、材料を最大限に使用することができるため、それによってスクラップ、コスト及び環境フットプリントを削減することを可能にする。全体として、レーザ溶接ブランクは、生産工程全体を単純化し、生産性の向上、コストの制限及びCO2排出量の削減をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
非常に高い強度及び非常に高い成形性も有するコールドスタンピング用の新しいグレードの出現は、レーザ溶接ブランクを製造するための新しい課題を提示する。実際、より高い強度のより高い成形性グレードは、より多くの合金元素を伴い、これは溶接シームに新しい特性、現象及び破損リスクをもたらす。
【0003】
本発明は、結果として得られるレーザ溶接ブランクが、信頼性の高い耐性及び成形性を有するようにし、溶接シームが、後続の部品の構造的弱点を提示しないように、高強度を有する鋼を使用してレーザ溶接ブランクを製造する問題に対処することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の目的は、請求項2~12の特徴を任意に含む、請求項1に記載の2つの鋼板をバット溶接するための方法を提供することによって達成される。
【0005】
以下の図を参照して、本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】レーザ源を使用する突合せ溶接作業の概略図である。
【
図2A】溶接組立体を試験するための最先端の方法を表す図である。
【
図2B】溶接組立体を試験するために新たに開発された方法を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
鋼板は、平坦な鋼板を指す。それは、上面及び下面を有し、上側面及び下側面又は上表面及び下表面とも呼ばれる。前記面の間の距離は、シートの厚さとして示される。厚さは、例えばマイクロメータを使用して測定することができ、そのスピンドル及びアンビルは、上面及び下面に配置される。同様に、厚さは、成形部品上で測定することもできる。本発明における鋼板の厚さは、例えば0.5~5.0mm、好ましくは0.5~4.0mm、さらにより好ましくは0.5~3.5mmである。
【0008】
テーラードブランクは、その異なる領域における部品の性能を最適化し、全体的な部品重量を低減し、全体的な部品コストを削減するために、例えばレーザ溶接によって、サブブランクとして知られる鋼のいくつかのシート又は切欠きブランクを一緒に組み立てることによって作製される。
【0009】
極限引張強度、降伏強度及び伸びは、2009年10月に発行されたISO規格ISO6892-1に従って測定される。引張試験片を平坦領域から切り出す。必要に応じて、小サイズの引張試験サンプルを採取して、部品上の利用可能な全平坦領域を収容する。
【0010】
硬度は、機械的圧痕によって誘起される局所的な塑性変形に対する耐性の尺度である。これは、材料の機械的特性とよく相関しており、引張試験のために試料を切り出す必要がない有用な局所測定方法である。本発明では、硬度測定は、ISO 6507-1規格に従ってビッカース圧子を使用して行われる。ビッカース硬度は、単位Hvを使用して表される。
【0011】
図1を参照すると、突合せ溶接は、2つの被溶接鋼板1、2が、それぞれの縁部に沿って並んで配置され、溶接シーム3が、それぞれの縁部を溶融して、両方の鋼板と溶接工程をサポートするために使用される可能性がある外部材料との混合物を含有する溶融プールを形成することによって作り出される、特定のタイプの溶接作業である。溶融プールは、凝固して溶接シーム1を形成する。
図1は、レーザビーム11を放射するレーザビーム10が溶融プールを作り出すためのエネルギー源として使用されるレーザ突合せ溶接の場合を表す。溶接縁部は、直線状又は曲線状のいずれかであり得る。被溶接鋼板及び鋼板を溶融するために使用されるエネルギー源は、溶接速度として知られる速度で方向Wに従って溶接作業中に互いに対して移動する。具体的な実施形態では、鋼板1、2の間に間隙4を残すことができる。これにより、例えば、溶接シームの厚さ超過なく、溶融プール内にフィラーワイヤなどのかなりの量の追加材料を組み込むことが可能になる。そのような厚さ超過は、幾何学的欠陥と見なされ、溶接ブランクのさらなる加工に有害であり、例えば、スタンピング作業に有害である。
【0012】
レーザ溶接は、少なくともレーザ源を使用して鋼板を溶融するのに必要なエネルギーを提供する溶接作業を示す。特定の実施形態では、溶接エネルギーを提供するために、電気アーク、赤外線加熱などのような他のエネルギー源をレーザ源に関連付けることができる。
【0013】
幾何学的欠陥に関する溶接シームの品質は、「Laser welded tailored blanks-Technical delivery conditions」と題する欧州規格EN10359:2015によって定義される。
【0014】
図2Aは、溶接シームの強度が現在どのように評価されているかの最新技術を表す。2つの鋼板1及び2を接合する溶接シーム3が、引張強度Fと比較して試料の横方向の中央に配置された引張試験試料を準備する。この確立された方法は、試料を構成する異なる要素、すなわち2つの鋼板1、2及び溶接シーム3の相対強度の良好な評価を与える。この方法によれば、試料が溶接シームの外側で破断する場合、溶接シームは十分に強いと見なされる。言い換えれば、溶接シームは、2つの鋼板のうちの最も弱い鋼板よりも少なくとも硬い場合、良好な品質であると見なされ、これは、溶接が組立体内の弱いリンクではないことを意味する。
【0015】
上記の方法は、溶接シームの純粋な機械的強度の良好な評価を与えるが、実際には、溶接シームが実際の寿命条件で受ける異なる変形モードの現実を反映しない。レーザ溶接ブランクが打ち抜かれると、溶接シームは、横方向だけでなく全方向に変形する。
【0016】
本発明者らは、鋼板のうちの少なくとも1つが高強度、例えば590MPaを超える引張強度を有する鋼板をレーザ溶接する場合、溶接部が長手方向成分を有する変形を受ける領域において、溶接シームに対して垂直に小さな亀裂が開始される可能性があることを見出した。驚くべきことに、このタイプの亀裂は、高強度鋼でのみ観察され、低グレードでは観察されない。このタイプの亀裂が発生するリスクは、長手方向に変形されたときの溶接部の挙動が従来の試験方法では全く試験されないため、上記の方法を使用して評価することができない。さらに、このタイプの亀裂に関連する統計的要素がある。同じ鋼グレード及び同じレーザ溶接パラメータを伴う同じ部品形状の場合、一部の部品には亀裂がないが、他の部品には小さな亀裂が発生する可能性がある。これは、鋼板組成、溶接工程、スタンピング工程などの自然発生的な変動によるものである。したがって、これらの小さな亀裂は、完全には予測可能ではなく、それらを品質管理によって検出することは困難であるため、産業環境ではさらなる問題である。これらの亀裂は、成形部品上で小規模であり得るにもかかわらず、それらは部品の致命的な弱点を表し、部品の寿命の間に部品の破損をもたらし、場合によっては重大な安全上の問題を引き起こす。
【0017】
したがって、本発明者らは、これらの小さな亀裂が発生するリスクを評価するための新しい方法論を開発した。本発明者らは、
図2Bに示すように、溶接シームを引張強度に平行な引張試料の長手方向に配置すると、高強度鋼の少なくとも1つのブランクを伴うレーザ溶接組立体での小さな横方向の亀裂の発生に直面する可能性があることを見出した。さらに、本発明者らは、連続生産において小さな亀裂が発生しにくいことを確実にするための良好な基準が、長手方向に溶接された試料に対して一連の10回の引張試験を実行し、溶接組立体の一様伸びを鋼板の各々の一様伸びの加重平均と比較することであることを見出した。本発明者らは、溶接組立体の一様伸びUweldが、実行された10回の引張試験すべての加重平均(Usheet1*th1+Usheet2*th2)/(th1+th2)(式中、th1及びth2は、組み立てられた鋼板1、2の厚さであり、Usheet1、Usheet2は、それぞれの一様伸びである)の少なくとも50%である場合、亀裂発生のリスクが非常に低いことを見出した。
【0018】
説明の残りの部分では、Uweldが(Usheet1*th1+Usheet2*th2)/(th1+th2)よりも低い場合、試験試料は、脆性破損を示すと言われ、一方、Uweldが前記加重平均よりも高い場合、試験試料は、延性破損を示すと言われる。
【0019】
上述の新たに開発された溶接シームの統計的長手方向試験により、本発明者らは、多数の鋼板における小さな亀裂の問題を調査することができた。小さな亀裂を示す試料の破損ゾーンの断面を観察すると、本発明者らは、破断面が延性特徴と脆性特徴との混合を示すことを見出した。
【0020】
より具体的には、脆性特徴部分は、いくつかの場合には典型的な脆弱な破損特徴と、いくつかの場合には溶接シーム3内の樹枝状形状及びいくつかの空隙と関連付けられた。これらの観察は、いくつかの機構が小さな亀裂の形成に関与しており、すべて溶接プールが凝固する方法に関連していることを示唆している。デンドライト及び空隙は、収縮の問題を指摘し、脆弱な破断面は、場合によっては凝固中の偏析の問題に関連する高温割れの問題を指摘する。実際、理論に束縛されることを望まないが、溶接中に溶接プールの特定の組成をもたらす高強度鋼板の特定の組成は、溶接プールの特定の凝固問題をもたらし、溶接シームの脆弱性をもたらす可能性がある。
【0021】
これらの観察に基づいて、本発明者らは、溶接シーム3の未修正の目標とする化学作用が以下の条件(濃度は重量%で表される)を検証した場合、小さな亀裂が発生する可能性があったことを見出した:
ガンマ>0.39%
式中、ガンマ=C+Si/30+Mn/20+4.8*P+4*S-Al/20
【0022】
溶接シームの未修正の目標とする化学作用とは、溶接シームに入るすべての化学元素の加重平均を意味する。厚さth1及びth2、並びに化学元素Xの濃度X1、X2を有する2つの鋼板1及び2であって、場合によっては、両方とも両面の厚さの合計がthcoat1及びthcoat2であり且つ化学元素XのXcoat1及びXcoat2を含有する金属コーティングによって覆われているものに関して、元素Xについての未修正の目標とする溶接シームの組成Xweld_unamendedは、
【0023】
【0024】
これらの観察により、本発明者らは、溶接化学作用を調整することによって重要な組立体における小さな亀裂の問題をさらに解決することができた。これは、例えば、フィラーワイヤを通して追加材料addMを溶接プールに添加することによって、又は溶接プール内に金属粉末を注入することによって、又は溶接作業の前に少なくとも1つの被溶接縁部に材料を添加することによって、例えば追加の局所金属コーティングの形態で、若しくは塗料の形態で、又はコールドスプレー若しくは任意の他の利用可能な技術的手段によって、それを適用することによって行うことができる。
【0025】
この追加材料により、溶接シームのガンマ因子を0.39%以下に下げることができ、これは溶接組立体を小さな亀裂の発生から保護する。
【0026】
より具体的には、修正された目標とする溶接シーム組成は、追加材料addMを使用して0.39%以下に低下させる必要があり、前記追加材料の量%addMは、溶接シーム3に組み込まれる。
【0027】
化学元素Xの濃度XaddMを有する追加材料addMの%addMの存在下で、修正された目標とする溶接シーム化学作用Xweld_amendedは、以下によって定義される:
【0028】
【0029】
例えば、追加材料addMは、ガンマ因子式において正の係数を有する元素(C、Si、Mn、P又はS)を希釈し、したがってガンマ因子を下げる効果を有する組成を有する。ガンマ係数の配列から分かるように、最も重要な元素は、P及びSであり、これらは樹枝状欠陥、偏析及び高温割れの問題に関連する。したがって、P及びSの濃度が非常に低い追加材料を使用する必要がある。例えば、追加材料のP含有量は、0.008重量%未満、より好ましくは0.006重量%未満、さらにより好ましくは0.004重量%未満である。
【0030】
例えば、有意な量のアルミニウムを含有する追加材料を使用することによってガンマ因子を調整することも可能である。実際、アルミニウムは、ガンマ因子式において負の係数を有し、したがって、溶接シームのアルミニウム含有量を増加させると、そのガンマ因子が減少する。例えば、追加材料のAl含有量は、1.0重量%を超え、より好ましくは2.0重量%を超える。
【0031】
例えば、有意な量のアルミニウム並びに非常に少量のP及びSを含有するフィラーワイヤを使用することによって、2つの実施形態を組み合わせることも可能である。
【0032】
すべての場合に考慮される別の重要な要因は、使用される追加材料addMの量%addMである。
【0033】
追加材料の量を増加させ、材料の過剰による溶接部の厚さ超過などの有害な欠陥なしに、良好な溶接形状を保つために、2つの被溶接シート間の間隙4を増加させることが可能である。例えば、シート間の間隙は、0.1mmを超えて増加する。例えば、0.1mm以上の間隙を使用する場合、フィラーワイヤの量は、15%を超える。
【0034】
フィラーワイヤを使用する場合、フィラーワイヤの量%addMは、フィラーワイヤ送給速度と溶接速度との比を調節することによって調整することができる。
【0035】
金属粉末を使用する場合、%addMの量は、噴射速度を調整することによって調整することができる。
【0036】
金属コーティング、塗料、スプレーなどを使用する場合、%addMの量は、溶接プール内で溶融される追加材料の厚さ及び全体積を調整することによって調整することができる。
【0037】
特定の実施形態では、化学組成、微細構造及び機械的特性に関する被溶接鋼板のうちの少なくとも1つの特徴は、以下の表の行のうちの1つに対応する(化学組成は重量%で表され、残部はFe及び精緻化工程に由来する不可避不純物であり、鋼板の微細構造中の%残留オーステナイトは、断面の表面%で表され、YPはMPaで表される降伏点を表し、UTSはMPaで表される極限引張強度を表し、El%は上記のISO 6892規格に従って測定される伸びである)。
【0038】
【0039】
特定の実施形態では、被溶接鋼板のうちの少なくとも1つのケイ素含有量は、0.5%~3.0%、好ましくは0.9%~3.0%、さらにより好ましくは0.9%~2.5%の範囲(下限及び上限は範囲に含まれる)である。有利には、ケイ素は、鋼を強化するように作用し、また室温で鋼板の微細構造にオーステナイトの一部を保持するようにオーステナイトを安定化する。これにより、非常に高い機械的特性と高い伸びとの組み合わせに達することが可能になる。
【0040】
特定の実施形態では、被溶接鋼板のうちの少なくとも1つのマンガン含有量は、1%~4%、好ましくは1%~3%、さらにより好ましくは2%~3%の範囲(下限及び上限は範囲に含まれる)である。有利には、マンガンは、鋼を強化するように作用し、また室温で鋼板の微細構造にオーステナイトの一部を保持するようにオーステナイトを安定化する。これにより、非常に高い機械的特性と高い伸びとの組み合わせに達することが可能になる。
【0041】
ここで、本発明を以下の実施例によって説明するが、これらは決して限定的なものではない。
【0042】
表1は、計算されたガンマ因子と共に、以下の実施例で使用された鋼組成を列挙する。組成は重量%で表されている。
【0043】
【0044】
実施例では、追加材料addMは、フィラーワイヤの形態である。使用したフィラーワイヤ組成を、それらの関連する算出されたガンマ因子と共に表2に列挙しており、組成は重量%で表されている。
【0045】
【0046】
溶接組立体は、表3に詳述されている異なるモダリティに従って、上に列挙した鋼組成及びフィラーワイヤ組成を使用して形成した。本発明の方法を使用して生産された試料は、Iで始まる試料参照を有し、本発明の方法の範囲外である組立体は、Rで始まる試料参照を有する。さらに、本発明の範囲外で生産された試料の場合、本発明の範囲外であるパラメータに下線が引かれている。
【0047】
溶接部の破損のタイプは、溶接部が長手方向に位置付けられている10個の溶接組立体に対して、上述の試験方法を使用して評価した。これらの試験の結果も表3に報告する。
【0048】
【0049】
溶接シームの未修正の目標とするガンマ因子は、溶接シームの修正された目標とするガンマ因子と共に表3に報告されている。フィラーワイヤが使用されない組立体の場合、修正されたガンマ因子は、未修正のガンマ因子と同じであり、これは修正されたガンマ及び未修正のガンマの式を考えると明らかであることに留意されたい。また、使用されたすべての試料は、ガンマ因子に含まれる元素のいずれも担持していない金属コーティングでコーティングされていないか、又はコーティングされていたため、ガンマ因子の計算に金属コーティングが介在しなかったことに留意されたい。
【0050】
溶接組立体はすべて、上記の新規な長手方向統計試験方法に従って試験した。表3では、10個の引張試験試料の中の少なくとも1つが脆性破損を呈した場合に「はい」、すべての試験試料が延性破損を呈した場合に「いいえ」と、小さな亀裂の発生が報告されている。
【0051】
本発明の範囲外である組立体R1~R5は、0.39を超える未修正のガンマを有し、それらの未修正のガンマも0.39を超えるように追加材料を使用して溶接されておらず、これは小さな亀裂の発生のリスクをもたらす。
【0052】
本発明の範囲外である試料R6~R9は、0.39を超える未修正のガンマを有し、追加材料を使用して溶接した。しかしながら、使用されたフィラーワイヤの特定の組成と添加されたフィラーワイヤの量との組み合わせは、修正されたガンマ因子を0.39未満にするのに十分ではなく、その結果、結果として得られる組立体は、依然として小さな亀裂の発生のリスクに供される。
【0053】
一方、本発明の方法に従って生産された試料I1~I8は、0.39を超える未修正のガンマを有し、フィラーワイヤの追加により、0.39未満の修正されたガンマを有し、これは小さな亀裂の発生が生じにくい組立体をもたらす。より具体的には、試料I1~I5では、15%以下の量の非常に低いC、Mn、S及びPフィラーワイヤを使用し、2つのシート間の0.1mm未満の狭い間隙を保つことによってこの改善がもたらされる。試料I6及びI7の場合、I5と同じワイヤ組成が使用されるが、2つの鋼板間のより大きな間隙と組み合わせて、より大量のワイヤが追加される。これにより、修正されたガンマ因子をさらに低下させ、0.39の閾値に向かって安全マージンを有することが可能になる。試料I8は、高アルミニウム含有量のフィラーワイヤを使用して生産され、修正されたガンマ因子を0.42から0.35に下げることを可能にする。これは、使用されるフィラーワイヤ組成(ワイヤ7)が、使用される他のフィラーワイヤほど低いP含有量を有さず、これはコストがかかる可能性があるが、依然として何とかガンマ因子を効率的に低下させており、したがって小さな亀裂の発生のリスクを防止することができるため、興味深い。
【0054】
本発明の範囲外である残存試料R11~R16はすべて、鋼板の化学組成により0.39未満である未修正のガンマ因子を有する。それらは、リスクのない溶接を得るために追加材料を必要とせず、特定の対策なしで既に小さな亀裂がない。
【0055】
結論として、本発明による方法を適用することにより、特定の対策が導入されなければ小さな亀裂の発生のリスクをもたらすような化学組成を有する非常に高い強度の鋼を用いて溶接組立体を生産することが可能である。
【手続補正書】
【提出日】2024-08-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さth1及びth2を有する2つの鋼板(1、2)をバット溶接するための方法であって、
-A/未修正の目標とする溶接シーム組成のガンマ因子が、厳密に0.39を超えるように、化学組成及び場合によっては金属コーティングを有する2つの鋼板を提供するステップ、
-B/前記鋼板を並べて位置付けるステップ、
-C/少なくともレーザ源を使用し、かつ修正された目標とする溶接シーム組成のガンマ因子が、0.39以下になるように、溶接作業中に重量%で、%addMの量で溶接シーム(3)に組み込まれた追加材料addMを使用して、前記鋼板(1、2)をバット溶接するステップ、を含み、
所与の組成について、前記ガンマ因子が、以下の式で与えられ(すべての元素は重量%で表される):
ガンマ=C+Si/30+Mn/20+4.8*P+4*S-Al/20、
所与の化学元素Xについて、前記2つの鋼板(1)及び(2)が、前記化学元素Xの重量百分率X1、X2を有し、場合によっては、両方とも両面の厚さの合計がthcoat1及びthcoat2であり且つ重量%で元素XのXcoat1及びXcoat2を含有する金属コーティングによって覆われており、元素Xについて未修正の目標とする溶接シーム組成Xweld_unamendedが、
【数1】
によって与えられ、また、所与の化学元素Xについて、元素Xの重量パーセントXaddMを有する追加材料addMの%addM量の存在下で、前記修正された目標とする溶接シーム組成Xweld_amendedが、
【数2】
である、方法。
【請求項2】
前記2つの提供された被溶接鋼板のうちの少なくとも1つが、0.5重量%~3.0%の範囲のケイ素含有量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記2つの提供された被溶接鋼板が、0.5重量%~3.0重量%の範囲のケイ素含有量を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記追加材料addMが、フィラーワイヤの形態で供給される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記追加材料addMが、粉末の形態で供給される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記追加材料addMが、被溶接縁部のうちの少なくとも1つにコーティングの形態で供給される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記追加材料addMが、0.008重量%未満のPを含有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項8】
前記追加材料addMが、0.006重量%未満のPを含有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記追加材料addMが、0.004重量%未満のPを含有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記追加材料addMが、1.0重量%を超えるAlを含有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項11】
前記追加材料addMが、2.0重量%を超えるAlを含有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記被溶接シート(1、2)間に少なくとも0.1mmの間隙(4)が残され、前記溶接シーム(3)内の追加材料addMの量%addMが、15%以上である、請求項
1に記載の方法。
【国際調査報告】