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特表2025-500265燃料電池作動におけるフラックス曝露に適合性のある有機非イオン性抑制剤を用いた熱伝導系
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  • 特表-燃料電池作動におけるフラックス曝露に適合性のある有機非イオン性抑制剤を用いた熱伝導系 図1
  • 特表-燃料電池作動におけるフラックス曝露に適合性のある有機非イオン性抑制剤を用いた熱伝導系 図2
  • 特表-燃料電池作動におけるフラックス曝露に適合性のある有機非イオン性抑制剤を用いた熱伝導系 図3
  • 特表-燃料電池作動におけるフラックス曝露に適合性のある有機非イオン性抑制剤を用いた熱伝導系 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】燃料電池作動におけるフラックス曝露に適合性のある有機非イオン性抑制剤を用いた熱伝導系
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/10 20060101AFI20241226BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20241226BHJP
【FI】
C09K5/10 E
H01M8/04 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024536108
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-08-14
(86)【国際出願番号】 IB2022000763
(87)【国際公開番号】W WO2023111687
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】63/291,258
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524226597
【氏名又は名称】シーシーアイ・ノース・アメリカ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】バイデ、ティモ
(72)【発明者】
【氏名】ガーシュン、アレクセイ
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127AB04
5H127CC06
(57)【要約】
バッテリー及び燃料電池に特に有用な水性クーラント組成物は、分子中に不飽和結合及び/若しくは硫黄結合を有する脂肪族アルコール、又は安定化非イオン性シリケートを含有する。組成物はまた、5員複素環式化合物であるアゾール誘導体も含有してもよい。クーラント組成物は、低い電気伝導性と良好な抗凍結特性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
約10~約90重量%のアルキレングリコール又はその誘導体;
約90~10重量%の水;
約0.005~5重量%の式(III)で表されるアゾール誘導体;並びに
約0.05~15重量%の、式(I)で表される化合物、式(II)で表される化合物、式(III)で表される化合物及び非イオン性シリケートパッケージの少なくとも1つ;
から本質的になり、全構成成分の和が100重量%である、非腐食性、フラックス安定性、非導電性クーラント組成物。
【請求項2】
前記アゾール誘導体が約0.0075~2.5重量%である、請求項1に記載の非腐食性、フラックス安定性、非導電性クーラント溶液。
【請求項3】
前記アゾール誘導体が約0.01~1重量%である、請求項2に記載の非腐食性、フラックス安定性、非導電性クーラント溶液。
【請求項4】
式(I)で表される化合物、式(II)で表される化合物、式(III)で表される化合物及び非イオン性シリケートパッケージの合計が、約0.1~10重量%である、請求項1に記載の非腐食性、フラックス安定性、非導電性クーラント溶液。
【請求項5】
式(I)で表される化合物、式(II)で表される化合物、式(III)で表される化合物及び非イオン性シリケートパッケージの合計が、約0.2~5重量%である、請求項1に記載の非腐食性、フラックス安定性、非導電性クーラント溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年12月17日に出願された米国仮特許出願第63/291,258号に基づき、その利益及び優先権を主張する。
【0002】
米国政府支援
該当なし。
【0003】
技術分野
本発明は、燃料電池及び/又はバッテリーを有する電気車両における、冷却系の熱伝導剤に関する。
【背景技術】
【0004】
背景技術の説明
内燃機関(ICE)のための熱伝導流体(例.クーラント)が公知である。このような流体は、通例、約50%の水及び50%のエチレングリコール(重量による)を、腐食抑制剤を含む微量の添加剤とともに含有する。このようなクーラントの欠点は、エチレングリコールの重大な毒性である。さらに、ICEは今後数十年以内に廃れる可能性があるため、ICEの将来性は疑わしい。電気車両(EV)は、最も可能性の高いICEの代替物である。EVは、車両に動力を供給するために、効率的な電気モータを使用して、電気を力学的エネルギーに変換する。EVには、可搬型の電源が不可欠である。現在、電気化学バッテリーが、EVの可搬型電源の有力な供給源である。バッテリーは、電力網からの電気エネルギーを化学的形態で貯蔵する。したがって、バッテリー駆動EVは、電力網に電気を供給するために使用されるエネルギー源と同程度にクリーンである。バッテリー式電気車両(BEV)は、バッテリー及びモータを冷却するために、依然として、典型的なICE型クーラントを使用する。
【0005】
燃料電池は、EVにおいて、電気化学バッテリーの見込みのある代替物として台頭している。一般に、燃料電池は、燃料の化学エネルギーを電気エネルギーに変換する電気化学デバイスである。燃料電池は、ICEに勝るいくつかの利点がある。燃料電池は、燃料からのエネルギー抽出より効率的である(例.ターボディーゼルエンジンの40%、ガソリンエンジンの30%と比較して、60~70%の効率)。さらに、燃料電池は静かであり、汚染物質を無視できる程度にしか排出しない。燃料電池によって駆動するEVでは、クーラントは、電気モータのためにも燃料電池自体のためにも、依然として重要である。バッテリー及び燃料電池電気系の直接及び間接的冷却が開発中であるが、電気系に理想的である低導電性クーラントは、安全上の理由から(グリコールの毒性のため、及び、非導電性クーラントによる偶発的な短絡を防止するため)、よりいっそう重要性を増し、場合によっては、将来的にエチレングリコール系クーラントに置きかわる可能性がある。
【0006】
移動用の、特に自動車における燃料電池及び/又はバッテリーは、約-40℃までの低い外部温度で作動できなければならない;しかし、これらの電力供給源は、しばしば、冷却系を必要とする;燃料電池の場合、燃料電池の作動によって発生する熱に対処するために冷却が必要となることがあり、バッテリーの場合、迅速な充電又は放電によって発生する熱に対処するために冷却が必要となることがある。そのため、凍結保護クーラント回路が不可欠である。このような凍結保護熱伝導剤は、使用中に酸化されることで、イオン性物質を生成する場合がある。このようなイオン性物質は、クーラントの電気伝導性を上昇させ、動力源の「短絡」をもたらす可能性がある。そのため、燃料電池系のクーラント経路は、一般に、このようなイオン性物質を全て除去するために、イオン交換体又はイオン交換樹脂を備えている。イオン交換体は、イオン性物質の除去で「消費される」ため、イオン交換体の容量は、時間とともに低下する。そのため、イオン交換樹脂を交換し又は再生させて、冷却系に要求される純度を維持する必要がある。導電性の上昇及び故障をもたらす可能性がある、潜在的な腐食及びグリコール分解生成物の蓄積を防止するために、定期的に、クーラント及びイオン交換樹脂を交換しなければならない。
【0007】
内燃機関に使用されるもののような従来のクーラント組成物は、冷却チャネルが電気的に完全に絶縁されていない限り、燃料電池及び/又はバッテリー系では使用できない。これは、これらの従来の組成物が、望ましくないことに、腐食抑制剤として使用する塩及びイオン性化合物に起因して、高い電気伝導性を有するためである。溶液中に相当な数の陽イオン及び陰イオンが存在すると、「迷走電流」のための経路が提供される。このような迷走電流はいくつかの理由で制限されなければならない。第1に、このような迷走電流は、燃料電池の操作者に電気ショックの危険性をもたらすことがある。第2に、このような迷走電流は、冷却系内で、加水分解がもとで爆発性の高い水素ガスを発生させることがある。最後に、燃料電池によって発生した電気のかなりの部分が、流体を通じて短絡し、動力生成に向かわず、燃料電池アセンブリの効率が低下することがある。したがって、燃料電池用途に使用する熱伝導流体は、ICE用途に使用するものよりも低い電気伝導性(すなわち、高い電気抵抗)を有しなければならない。よって、低い電気伝導性及び良好な抗凍結特性の両者が、燃料電池及びバッテリー系の熱伝導流体に要求される。
【0008】
このクーラントの問題を解決するために、いくつかの先行技術の試みがあった。
【0009】
独国特許出願公開第19802490号(A)は、流動点は-40℃未満のパラフィン異性体混合物をクーラントとして使用した、凍結保護冷却回路を有する燃料電池を記載している。残念ながら、このような石油系クーラントの燃焼性は不利である。
【0010】
欧州特許出願公開第1009050(A)は、冷却媒体として空気を使用する、自動車のための燃料電池系を開示している。しかし、このアプローチには、空気が液体冷却媒体よりも大幅に低効率の熱伝導体であるという欠点がある。
【0011】
米国特許出願公開第2003/0198847号(A1)は、アルコール及びポリアルケンオキシドを含む燃料電池クーラントを記載している。
【0012】
国際公開第00/17951号は、クーラントとして添加剤を用いずに、1:1の純エチレングリコール/水混合物を使用する、燃料電池の冷却系を記載している。冷却系中に存在する材料に腐食保護を提供するため、冷却回路は、長期間、クーラントの純度を維持し、低い比導電性を確保するためのイオン交換ユニットを含み、これによって、短絡及び腐食が防止される。好適なイオン交換体として、強アルカリ性ヒドロキシル型などのアニオン性樹脂、スルホン酸基をベースとするものなどのカチオン性樹脂、及び活性炭などの他の濾過材料が挙げられる。
【0013】
国際公開第02/101848号は、特定のアゾール誘導体を含む、燃料電池ドライブ中の冷却系の抗凍結組成物及びその濃縮物を記載している。この抗凍結組成物は、アルミニウム試料では、良好な腐食保護を示すが、鉄及び非鉄金属の腐食について、現在の要件を満足しない。
【0014】
独国特許出願公開第10063951号(A)は、腐食抑制剤としてオルトケイ酸エステルを含む、燃料電池ドライブ中の冷却系のクーラントを記載している。
【0015】
国際公開第2018/095759号は、アルキレングリコール又はその誘導体をベースとし、特定のアゾール誘導体に加えて、腐食保護を改善するための追加の腐食抑制剤を含む、燃料電池及び/又はバッテリーを有する電気車両における冷却系のクーラントに関する。
【0016】
国際公開第2010/055160号(A2)は、金属表面を処理するための、チオジグリコールアルコキシレートを含有する酸性水性組成物に関する。この発明はまた、このクラスにおける少なくとも1種の化合物の、腐食抑制剤としての使用に関する。
【0017】
国際公開第2005/033364(8)号は、強酸性用途のための腐食抑制剤として、アルカノールアルコキシレートを記載している。
【0018】
既に説明したように、燃料電池及び/又はバッテリードライブの冷却系における重要な問題は、従来のクーラントと比較して、クーラント電気伝導性を低く維持して、燃料電池とそれに接続するバッテリーの安全で誤作動のない機能を確保し、短絡及び腐食を長期間防止することである。クーラント循環中のグリコールの劣化と腐食による導電性の上昇に加えて、クーラントは、CAB(制御アルミニウムろう付け)処理中のアルミニウム熱交換及びヒーターコアの組み立て中などの製造工程の結果として、意図せずに冷却系に残されたさまざまな金属、エラストマー及び材料にも曝露される可能性がある。
【0019】
そのため、本発明の目的は、アルミニウム以外の金属についても腐食を防止する抗凍結組成物を提供することである。したがって、クーラント中のイオン性物質の発生を阻止することにより、クーラントの低い電気伝導性を長期間維持する、燃料電池又はバッテリーユニットのための抗凍結クーラント組成物を提供することが、本発明の目的である。
【発明の概要】
【0020】
本発明のクーラント組成物は、分子中に不飽和結合を有する少なくとも1種の脂肪族アルコール(A)又は安定化非イオン性シリケートを含有することを特徴とする。本発明のクーラント組成物は、分子中に硫黄結合を有する脂肪族アルコール(B)を含有することを特徴としてもよい。本発明のクーラント組成物は、分子中に5員複素環式化合物である
アゾール誘導体(C)を含有することを特徴とする。このクーラント組成物のベース構成成分は、低い電気伝導性及び良好な抗凍結特性の両者を有する。好ましくは、ベース構成成分は、水、グリコール、飽和アルコール及びグリコールエーテルからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有する。
【0021】
本発明は、50μS/cm以下、好ましくは25μS/cm以下、特に好ましくは10μS/cm以下、特に5μS/cm以下の導電性を有し、
(a)10~90重量%のアルキレングリコール又はその誘導体、
(b)90~10重量%の水、
(c)0.005~5重量%、特に0.0075~2.5重量%、とりわけ0.01~1重量%のアゾール誘導体(C)、並びに
(d)0.05~15重量%、特に0.1~10重量%、とりわけ0.2~5重量%の、化合物(A)及び(B)、並びに安定化非イオン性シリケートの少なくとも1つ
から本質的になり、全構成成分の和が100重量%である、そのまま使用できる水性クーラント組成物を提供する。
【0022】
本発明のそのまま使用できる水性クーラント組成物は、50μS/cm、特に25μS/cm、好ましくは10μS/cm、とりわけ5μS/cm以下の初期電気伝導性を有する。燃料電池又はバッテリーの長期作動中、特に冷却系が一体型イオン交換体を有する場合、導電性は、長期間この低いレベルに維持される。
【0023】
本発明のそのまま使用できる水性クーラント組成物のpHは、上記試薬(A)、(B)、(C)及び安定化非イオン性シリケートが添加されていない冷却液よりも、作動の期間、有意に緩やかに低下する。本発明による新しいクーラント組成物のpHは、通常4.5~7であり、長期間の作動後、通常3.5まで低下する。希釈のために使用するイオンを含まない水は、純粋な蒸留若しくは二回蒸留水、又は例えばイオン交換によって脱イオンした水であってもよい。
【0024】
そのまま使用できる水性クーラント組成物における、アルキレングリコール又はその誘導体と水との好ましい混合重量比は、20:80~80:20、特に25:75~75:25、好ましくは65:35~35:65、とりわけ60:40~40:60である。好適なアルコールとしては、一価又は多価アルコール、及びこれらの混合物が挙げられる。アルキレングリコール若しくはポリグリコール構成成分、又はこれらの誘導体として、特に、モノエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2プロピレングリコール、1,3プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセロール、1,2,6-ヘキサントリオール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール及びこれらの混合物だけでなく、モノプロピレングリコール、ジプロピレングリコール及びこれらの混合物、並びにグリコールエーテル、例えば、各場合において、単独で又はそれらの混合物としてのいずれかで、モノエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、モノエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、モノエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル及びテトラエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルを使用できる。好ましい一価アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、フルフロール及びテトラヒドロフルフリルアルコール(THFA)である。より好ましくは、アルコールは、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、グリセロール及びこれらの混合物である。単独のモノエチレングリコール、又は、主要構成成分としての、すなわち、濃縮物中で50重量%超、特に80重量%超、とりわけ95重量%超の含有量のモノエチレングリコールと、他のアルキレングリコール又はアルキレングリコールの誘導体との混合物が特に好ましい。
【0025】
本発明は、特に自動車における、特に好ましくは乗用車及び商用車における、燃料電池及び/又はバッテリーの冷却系用の抗凍結濃縮物を生成するための、アルキレングリコール又はその誘導体をベースとする化合物の少なくとも1つの使用も提供する。
【0026】
そのまま使用できる水性クーラント組成物が得られる、本発明の抗凍結濃縮物それ自体は、上記誘導体をアルキレングリコール又はその誘導体に溶解することで製造でき、無水の形態で、又は低含水量(最大約10重量%、好ましくは最大5重量%)の形態で使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、代表的な組成物A及びBの実験結果を示す写真である。
図2図2は、代表的な組成物C及びDの実験結果を示す写真である。
図3図3は、代表的な組成物Lの実験結果を示す写真である。
図4図4は、代表的な組成物Kの実験結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
発明の詳細な説明
以下の記載は、当業者が本発明を製造し、使用できるように提供され、発明者らによって企図される最良の態様を述べている。しかし、本発明の一般原理は、腐食を防止し、電気伝導性の上昇に抵抗するクーラント組成物を提供するように、明細書に具体的に規定されており、さまざまな改変が、当業者には容易に明らかである。
【0029】
以下に、本発明による燃料電池及びバッテリー系のクーラント組成物を詳細に説明する。本発明のクーラント組成物は、分子中に(A)不飽和結合を有する少なくとも1種の脂肪族アルコール、又は安定化非イオン性シリケートを含有することを特徴とする。本発明のクーラント組成物は、分子中に(B)硫黄結合を有する脂肪族アルコールを含有することを特徴としてもよい。本発明のクーラント組成物は、分子中に5員複素環式化合物であるアゾール誘導体(C)を含有することを特徴とする。このクーラント組成物のベース構成成分は、低い電気伝導性及び抗凍結特性を有する。好ましくは、ベース構成成分は、水、グリコール、飽和アルコール及びグリコールエーテルからなる群から選択される少なくとも1つの成分を含有する。
【0030】
脂肪族アルコールは、分子中に不飽和結合(A)及び/又は硫黄結合(B)を有し、低い電気伝導性を維持する。安定化非イオン性シリケートも、低い電気伝導性を維持する。本発明によるクーラントの電気伝導性は、10μS/cm以下に維持され、長期使用中のクーラントの電気伝導性の変動は、0μS/cm~10μS/cmに維持される。
【0031】
本発明の脂肪族アルコールは、冷却系で一般に使用するイオン交換体では容易には除去されず、クーラントの低い電気伝導性を長期間維持できる。脂肪族アルコールはイオン交換によって除去されないため、イオン交換体のイオン交換容量を消耗することなく、本発明による脂肪族アルコールに期待される機能が長く続く。
【0032】
好ましくは、不飽和結合を有する脂肪族アルコール(A)は、1分子当たり2~20個の炭素原子を有する。式(I)にその一般的構造を示す。
【0033】
【化1】
【0034】
アルコキシル化にエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを使用するかに応じて、Rは、それぞれ、-H又は-CHのいずれかとなる。好ましくはnは1~5である。
【0035】
式(I)で表される脂肪族アルコールは、プロパ-2-イン-1-オール、アリルアルコール、2-ブチン-1,4-ジオール、2-ブテン-1-オール、3-ブテン-1-オール、1-ブテン-3-オール、2-メチル-2-プロペン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、1-ペンテン-3-オール、2-ペンテン-1-オール、2-メチル-3-ブテン-2-オール、3-メチル-2-ブテン-1-オール、3-メチル-3-ブテン-1-オール、2-ヘキセン-1-オール、3-ヘキセン-1-オール、4-ヘキセン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、1-ヘキセン-3-オール、6-ヘプテン-1-オール、2-ヘプテン-1-オール、4-ヘプテン-1-オール、7-オクテン-1-オール、2-オクテン-1-オール、3-オクテン-1-オール、5-オクテン-1-オール、3-オクテン-2-オール、1-オクテン-3-オール、2-ノネン-1-オール、3-ノネン-1-オール、6-ノネン-1-オール、8-ノネン-1-オール、1-ノネン-3-オール、2-デセン-1-オール、4-デセン-1-オール、9-デセン-1-オール、3,7-ジメチル-6-オクテン-3-オール、2-ウンデセン-1-オール、10-ウンデセンス-1-オール、2-ドデセン-1-オール、2-プロピン-1-オール、2-ブチン-1-オール、1-ブチン-3-オール、3-ブチン-1-オール、1-ペンチン-3-オール、2-ペンチン-1-オール、3-ペンチン-1-オール、4-ペンチン-1-オール、4-ペンチン-2-オール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、1-ヘキシン-3-オール、3-ヘキシン-1-オール、5-ヘキシン-3-オール、2-ヘキシン-1-オール、5-ヘキシン-1-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、2-シクロヘキセン-1-オール、2,4-ヘキサジエン-1-オール、1-ヘプチン-3-オール、2-ヘプチン-1-オール、3-ヘプチン-1-オール、4-ヘプチン-2-オール、5-ヘプチン-3-オール、5-メチル-1-ヘキシン-3-オール、3,4-ジメチル-1-ペンチン-3-オール、3-エチル-1-ペンチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、3-オクチン-1-オール、1-オクチン-3-オール、2,7-オクタジエノール、3,6-ジメチル-1-ヘプチン-3-オール、3-エチル-1-ヘプチン-3-オール、3-ノニン-1-オール、2,6-ノナジエン-1-オール、3,6-ノナジエン-1-オール、1-シクロヘキシル-2-ブテン-1-オール、2-デシン-1-オール、3-デシン-1-オール、2,4-デカジエン-1-オール、4-エチル-1-オクチン-3-オール、3,7-ジメチル-2,6-オクタジエン-1-オール、10-ウンデシン-1-オール、2,4-ウンデカジエン-1-オール、2,4-ドデカジエン-1-オール、3-メチル-1-ペンテン-4-イン-3-オール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-ブチン-1,4-ジオール、3-ブテン-1,2-ジオール、2-メチレン-1,3-プロパンジオール、7-オクテン-1,2-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3-ペンテン-2-オール、4-ペンテン-2-オール、2-メチル-3-ブテン-1-オール、5-ヘキセン-2-オール、3-メチル-1-ペンテン-3-オール、4-メチル-3-ペンテン-1-オール、4-メチル-2-シクロヘキセン-1-オール、5-デセン-1-オール、3,7-ジメチル-6-オクテン-3-オール、1,4-ペンタジエン-3-オール、1,5-ヘキサジエン-3-オール、1,6-ヘプタジエン-4-オール、2-メチル-3-ヘキシン-2-オール、1-エチニル-1-シクロペンタノール、10-ウンデシン-1-オール、1,5-ヘキサジエン-3,4-ジオール、及び3,5-シクロヘキサジエン-1,2-ジオールから選択してもよい。
【0036】
これらの中でも、プロパ-2-イン-1-オール及び2-ブチン-1,4-ジオール誘導体が好ましく、エトキシル化及び/又はプロポキシル化された、プロパ-2-イン-1-オール及び2-ブチン-1,4-ジオール誘導体が特に好ましい。特に、非アルコキシル化誘導体に勝る毒物学的及び生態学的利点に起因して、アルコキシル化不飽和アルコールが特に好ましい。不飽和結合を有するアルコキシル化アルコールは、n=1~5という所望の平均アルコキシル化率に達するまで、プロパ-2-イン-1-オール及び2-ブチン-1,4-ジオールを、エチレン又はプロピレンオキシドと、塩基性条件下で反応させることによって製造される。2-(プロパ-2-イニル)-エタノールが特に好ましい。
【0037】
好ましくは、硫黄結合を有する脂肪族アルコール(B)は、平均分子量が500~1000のエトキシル化又はプロポキシル化チオジグリコール誘導体である。オキシランとの2,2’-チオビスエタノールポリマーが、特に好ましい。式(II)に一般的構造を示す。
【0038】
【化2】
【0039】
対称的にアルコキシル化された分子の場合、好ましくはnは1~10である。
【0040】
好ましくは、5員複素環式化合物(アゾール誘導体)(C)は、通常、ヘテロ原子として、2個のN原子を有しS原子を有さないか、3個のN原子を有しS原子を有さないか、1個のN原子と1個のS原子を有する。具体的なアゾール誘導体の好ましい一群は、一般式(IIIa)及び式(IIIb)で表される縮合イミダゾール及び縮合1,2,3-トリアゾールであり、式(IIIa)は芳香族ベンゼン環を有し、式(IIIb)はシクロヘキシル環を有する。
【0041】
【化3】
【0042】
式中、Rは、水素又はC~C10アルキル、好ましくはメチル又はエチルであり、Xは、窒素原子又はCH基である。
【0043】
一般式(III)で表されるアゾール誘導体(C)の代表的で好ましい例は、ベンゾイミダゾール(X=CH、R=H)、ベンゾトリアゾール(X=N、R=H)及びトリルトリアゾール(X=N、R=CH)である。一般式(III)で表されるアゾール誘導体の代表的な例は、水素化1,2,3-トリルトリアゾール(トリルトリアゾール)(X=N、R=CH)である。
【0044】
具体的なアゾール誘導体の更に好ましい一群は、一般式(IIIc)で表されるベンゾチアゾールである。
【0045】
【化4】
【0046】
式中、Rは、式(IIIa)及び式(IIIb)で定義したとおりであり、R’は、水素、C~C10アルキル、好ましくはメチル若しくはエチル、又はメルカプト基(-SH)である。一般式(IIIc)で表されるアゾール誘導体の代表的な例は、2-メルカプトベンゾチアゾールである。
【0047】
更に好適なアゾール誘導体は、一般式(IIId)で表される非縮合アゾール誘導体である。
【0048】
【化5】
【0049】
式中、X及びYは合わせて、2個の窒素原子又は1個の窒素原子とCH基であり、例えば、1H-1,2,4-トリアゾール(X=Y=N)、又は好ましくはイミダゾール(X=N、Y=CH)である。
【0050】
本発明の目的上、アゾール誘導体としては、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、水素化トリルトリアゾール又はこれらの混合物が挙げられる(ベンゾトリアゾール又はトリルトリアゾールが、非常に特に好ましい)。
【0051】
好ましくは、非イオン性安定化シリケートパッケージを加える。非イオン性シリケートパッケージは、別途、事前に製造される。この場合、適量の式(V)で表される有機シラン化合物を、式(IV)で表されるオルトシリケートエステルの水溶液又は水/グリコール溶液に加え、混合物を20℃~60℃、好ましくは30℃~40℃で、10~24時間撹拌する。触媒及び湿潤剤/乳化剤も加える。典型的な湿潤剤は、脂肪族アルコールアルコキシレート(FAE)、及び、MOMENTIVE又は他の供給業者から入手可能なポリシロキサン又はシロキサン-ポリエーテルコポリマーのような非イオン性界面活性剤である。代表的な一態様では、シロキサン系乳化剤としては、SILWET L-77、SILWET L-7657、SILWET L-7650、SILWET L-7600、SILWET L-7200及びSILWET L-7210等が挙げられる。オルトシリケートエステルと有機シラン安定剤との比は、1:1~10:1、好ましくは2:1~6:1である。次いで、2つの反応物質の和に基づいて、約20~90重量%、好ましくは30~75重量%のシラン(式(V))及びオルトシリケートエステル(式(VI))を含有する、得られた有機シラン/オルトシリケートエステルコポリマーを、残りの構成成分を含有する抗凍結クーラント調合物に加えることができる。クーラント濃縮物のSiOとしてのケイ素含有量は、重量比で100ppm~1000ppm、好ましくは200ppm~800ppm、最も好ましくは300ppm~600ppmである。ケイ素含有量は、非イオン性シリケートパッケージのSi含有量に従って調整できる。有機シラン化合物は、水の存在下で加水分解して、シラノール、すなわち、水酸化ケイ素(Si-OH結合)を含む化合物を形成できるものである。安定化非イオン性シリケートパッケージは、規定のSi含有量で入手可能であるため、種々の顧客のSi含有量の仕様又は要求事項に応じて、ブレンディングの複雑さを最小限にしながら、特注の調合物を容易に製造できる。この場合、非イオン性シリケートパッケージが加えられた標準抑制剤パッケージをグリコール及び水で希釈すると、顧客の要求によって必要とされる完成品のクーラントを得る、超濃縮物戦略を適用できる。
【0052】
非イオン性シリケートパッケージは、式:
Si(OH) (IV)
[式中、R基は、C~C20アルキル:例えば、テトラメチルオルトシリケート及びテトラエチルオルトシリケート等、C~C20アルケニル、C~C20ヒドロキシアルキルから選択される、同一の基であっても異なる基であってもよく、又は、特別な場合、置換C~C12アリール、若しくは一般式(CH-CH-O)のグリコールエーテル残基(Rは水素であり、若しくはRはC~Cアルキル残基であり、nは1~5である)、及びこれらの組合せが好ましい]
で表されるオルトシリケートエステルを含有する。アルコキシアルキルシラン、好ましくは、トリエトキシメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、トリメトキシメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン及びメトキシトリメチルシランを使用することもできる。一定の条件下では、ビス-(トリエトキシシリル)-エタンのようなダイポーダル疎水性又は親水性シランを、以前に説明した試薬と組み合わせて使用できる。RSiNHSiR型の有機ジシラザン[式中、Rは、C~C36のアルキル若しくはアリール基であってもよい]、SiRNH(C=O)R型のアセトアミド[式中、Rは、C~C36のアルキル又はアリール基であってもよい]、又はRSi(N=CR)-OSiR型のアセトアミド[式中、Rは、C~C36のアルキル又はアリール基であってもよい]も使用できる。
【0053】
非イオン性シリケートパッケージは、式:
Si(OR4-n(R 式(V)
[式中、nは、1~3の整数又は小数であり、Rは、炭素-酸素結合によって酸素原子と結合した有機基、水素原子又はアルカリ金属であり、Rは、ケイ素-炭素結合によってケイ素原子と結合した有機基である]
で表される有機シランを用いて安定化される。
【0054】
有機シランのRが、1~10個の炭素原子を有する直鎖状若しくは分枝アルキル、又は環状アルキル、アリール、又は6~14個の炭素原子を有するアルキルであることを特徴とする、抗凍結組成物。有機シランのRが、1~10個の炭素原子を有する直鎖状若しくは分枝アルキル、又は環状アルキル、アリール、又は6~14個の炭素原子を有するアルキルであり、アミノ基又はエポキシ基等のような官能基の形態で、N、S又はO等のようなヘテロ原子を含むことができることを特徴とする、抗凍結組成物。市販の有機シラン化合物の非限定例としては、MOMENTIVE及び他の供給業者製のSILQUEST及びFORMASIL界面活性剤が挙げられる。代表的な態様では、シロキサン系腐食抑制剤、又はSi安定剤は、MOMENTIVE及び他の供給業者から入手可能な、FORMASIL 891、FORMASIL 593、FORMASIL 433、SILQUEST Y-5560(ポリアルキレンオキシド-アルコキシシラン)、SILQUEST A-186(2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-エチルトリメトキシシラン)、SILQUEST A-187(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、又は他のSILQUEST有機シラン化合物を含む。本明細書における使用のための有機シラン化合物の他の非限定例としては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、及び前述のものと同様の構造を有するが、炭素原子の数が異なる有機シラン化合物が挙げられる。最も好ましくは、有機シランのRが、式:
-CHCHCH-(OCHRCH-OR
[式中、mは、1~20の整数又は小数であり、Rは、水素原子又はアルキルであり、Rは、1~10個の炭素原子を有するアルキルである]
を有することを特徴とする、抗凍結組成物。上記試薬から誘導されるオリゴマー性シランのような、構造が未知である、又はこの式の範囲外である有機シラン化合物も、シロキサン系腐食抑制剤又はSi安定剤としての使用に適している。
【0055】
グリコールは、好ましくは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール及びヘキシレングリコールからなる群から選択される。
【0056】
飽和アルコールは、好ましくは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール及びオクタノールからなる群から選択される。
【0057】
グリコールエーテルは、好ましくは、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル及びテトラエチレングリコールモノブチルエーテルのような、ポリオキシアルキレングリコールのアルキルエーテルであってもよい。
【0058】
本発明のクーラント組成物は、消泡剤、湿潤剤、着色剤等を更に含有してもよい。
【0059】
本発明によれば、本発明の抗凍結組成物は、式(I)で表される化合物、式(II)で表される化合物、式(III)で表される化合物、非イオン性シリカパッケージ及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む。これらの中でも、式(II)で表される化合物及び式(III)で表される化合物が好ましく、非イオン性シリカパッケージがとりわけ好ましい。式(I)の誘導体及び式(II)の誘導体の混合物は、同じ群からの誘導体の混合物に対して、相乗効果を示すことが観測されている。硫黄結合を有する脂肪族アルコールの誘導体(II)のみを有する調合物は、最も効果が低い。アルキレングリコール/水をベースとする冷却系における低い電気伝導性の継続期間は、少量のアゾール誘導体を加えるだけで延長できることも判明した。
【0060】
したがって、本発明者らは、アルキレングリコール又はその誘導体をベースとし、窒素及び硫黄からなる群から2個又は3個のヘテロ原子を有する1種以上の5員複素環式化合物(アゾール誘導体)を含み、硫黄原子を含まないか、又は、1個以下の硫黄原子含み、芳香族又は飽和6員縮合環を有することができ、式(I)で表される化合物、式(II)で表される化合物又は非イオン性シリカパッケージの少なくとも1つを更に含むことができる、50μS/cm以下の導電性を有する、そのまま使用できる水性クーラント組成物が生じる、燃料電池及び/又はバッテリーにおける冷却系の熱伝導流体組成物を見いだした。合計0.05~5重量%、好ましくは0.075~2.5重量%、より好ましくは0.1~1重量%の上記アゾール誘導体を含む熱伝導流体組成物が好ましい。合計0.05~15重量%、好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.2~5重量%の、式(I)で表される化合物、式(II)で表される化合物及び非イオン性シリカパッケージの少なくとも1つを含む流体組成物が好ましい。
【0061】
[0054]表1は、本発明の実施例A~L及び比較例それぞれの構成成分を示す。凍結保護ベース構成成分は、50:50%v/vの脱イオン水とエチレングリコールとの混合物からなる。実施例Aには、エトキシル化チオジグリコール及びベンゾトリアゾールを加えた。実施例Cには、エトキシル化チオジグリコール、プロパルギルアルコールプロポキシレートB及びベンゾトリアゾールを加えた。実施例Dには、エトキシル化チオジグリコール、プロパルギルアルコールエトキシレート及びベンゾトリアゾールを加えた。実施例Eには、エトキシル化チオジグリコール、2-ブチン-1,4-ジオール及びベンゾトリアゾールを加えた。実施例Fには、プロパギルアルコールエトキシレート、2-ブチン-1,4-ジオール及びベンゾトリアゾールを加えた。実施例Hには、プロパギルアルコールプロポキシレートB、2-ブチン-1,4-ジオール及びベンゾトリアゾールを加えた。実施例Kには、エトキシル化チオジグリコール、プロパギルアルコールプロポキシレートA及びベンゾトリアゾールを加えた。実施例Lには、ベンゾトリアゾール及び非イオン性シリケートパッケージを加えた。最終溶液のSi含有量は、Siとして100ppmに調整した。全ての試薬は、工業グレード試薬であり、特別には精製しなかった。抑制剤含有量は、重量部として記載する。組成物A~Lを、高温で浸漬スクリーニング試験に供した(スクリーニング酸化処理=SOT)。
【0062】
【表1】
【0063】
各実施例及び比較例の酸化処理後の電気伝導性、pH及び外観を測定又は評価した。pH及び伝導性の変化には特別に注意した。結果を表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
各試料のスクリーニング酸化処理(SOT)は、流体に沈めたASTM D1384の鋼(UNS G102000)、アルミニウム(UNS A23190)及び銅(UNS C11000)クーポンを用いて、75℃で168時間実行した。表2に示すとおり、比較試料及び態様A~Lは、低い初期導電性及び中性pHを有していたが、酸化後の導電性及びpH変化は、比較試料、及びエトキシル化チオジグリコールとベンゾトリアゾールのみを含有する試料Aでは、はるかに大きかった。図1は、酸化後の試料A及びBの外見を示す。対照的に、不飽和結合を有する少なくとも1種の脂肪族アルコール(I)を含有する、試料C、D、E、F、H及びKのpH及び導電性変化は、全て、酸化後に、2.52~5.80μS/cmで低いままであった。不飽和結合を有する脂肪族アルコール(I)及び硫黄結合を有する脂肪族アルコール(II)を含有する実施例C、D及びKは、最も低いpH及び導電性に表される、予想外の相乗効果を示している。これはとりわけ、外観に反映される - 実施例C及びD、特に実施例Kは、酸化後に黄色味を帯び、透明なままである。図2は、実施例C及びDを示す。不飽和結合を有する脂肪族アルコール(A)の中でも、試料Eで示すように、2-ブチン-1,4-ジオールは最も効果が低い。非イオン性シリケートコポリマーを用いた実施例Lは、最も効果が高く、固形物の形成のない透明溶液であることで傑出している。調合物K及びLについて、実験室で改変したASTM D-1384「ガラス器具中のエンジンクーラントについての腐食試験のための標準試験法」条件、より過酷な腐食試験を行った。参考のため、ASTM標準のアニュアルブック、セクション15を参照されたい。
【0066】
組成物K及びLを製造し、ASTM D1384の条件(以下に説明するように改変)で評価した。ASTM D1384とは、内燃機関の冷却系及び/又は加熱系で通常見られる、多様な金属の一般的な腐食についての標準試験法である。燃料電池アセンブリに使用する金属を評価するために、ASTM D1384を改変した。このような金属としては、ステンレス鋼、アルミニウム合金及び銅が挙げられる。ステンレス鋼は非常に不活性な材料であり、炭素鋼とは異なり、容易には腐食しない。そのため、より過酷な試験とするため、ステンレス鋼の代わりに炭素鋼を使用した。試験調合物K及びLが、「腐食性の水」(すなわち、全てNa塩として加えた、SO、HCO及びClを100ppm含有するDI水)で希釈されないように、ASTM D1384を更に改変した。このような希釈は、伝統的な抗凍結濃縮物に加えられる水の変動を説明するものであるが、これは燃料電池熱伝導流体については行わなくてもよい。
【0067】
組成物K及びLを製造し、ASTM D1384に示された試験手順を行った(金属試験片を、熱伝導組成物中に336時間浸漬させ、88℃に維持した)後、金属試験片の重量変化を測定した。銅、真鍮、鋼及び鋳鉄については10mg、アルミニウム及びはんだについては30mgの重量減少が、ASTM D1384に合格するための最大値である。結果を表3に示す。
【0068】
表3に示すとおり、本発明の熱伝導組成物は、アルミニウム及び銅に一般的な腐食抑制を提供する。例えば、実施例K及びLは、10mg未満/クーポンの銅の減少、及び30mg未満/クーポンのアルミニウムの減少を示した。組成物L(図3)の安定化非イオン性シリケートは、試料K(図4)と比較して、炭素鋼を腐食から保護できる。
【0069】
改変ASTM D1384試験の完了後、組成物K及びLについて、電気抵抗を測定した。表3に示すとおり、本発明の組成物は、長期の試験で種々の金属表面に曝露した後であっても、高い電気抵抗を提供する。
【0070】
【表3】
【0071】
式(I)で表される化合物、式(II)で表される化合物、非イオン性シリケートパッケージ及び式(III)で表される化合物は、燃料電池及びバッテリーにおけるクーラント組成物の使用において、鉄及び非鉄金属の腐食を低減し、低い導電性を維持するのに特に適しており、したがって、本発明の方法でクーラント組成物に添加される。本発明の流体組成物に含まれる脂肪族アルコールは、クーラントのベース構成成分の酸化によるイオン性物質の発生を防止し、長期間クーラントの低い電気伝導性を維持できる。誘導体(I)が、カチオン性及び/又は場合によりアニオン性腐食保護を示すことの根拠もある。さらに、本発明のクーラント組成物中の脂肪族アルコールは、冷却系中のイオン交換体によって容易には除去されないため、イオン交換体の有効性の継続期間が延長される。安定化「非イオン性シリケート」は、内燃機関用クーラントと同様、通常のシリケートのように機能すると考えられ、腐食によるイオン性物質の発生を防止し、長期間クーラントの低い電気伝導性を維持できる。
【0072】
アルミニウムはんだ付け処理で残ったフラックス残渣は、クーラントに含まれるシリケート腐食抑制剤の望ましくない析出及びゲル化をもたらし、そのため、フラックス残渣が存在する可能性がある場合、シリケートは、腐食抑制剤として一般に使用されなくなった。しかし、表3に示すとおり、組成物Lは、優れたフラックス安定性を示し、Siの消耗又はゲル化を示さない。ここでは、40mlのクーラントを、ねじ式キャップを有する100mlのPEボトルに入れ、初期Si含有量をICP(誘導結合プラズマ)原子吸光分光光度法によって決定した。この混合物に、60mgのNOCOLOK(登録商標)フラックスを加え、振盪によって混合物を均一化させ、続いて、クーラント混合物を加熱し、90℃で72時間保存した。クーラントが再び室温に達したら、5mlの各クーラントを0.45μmフィルタで濾過し、続いて、ケイ素含有量を再び決定した。シリカの消耗は観測されなかった。これらの結果は、安定化非イオン性シリケートが、優れた腐食保護及びフラックス安定性の両者を兼ね備えるため、とりわけ驚くべきことである。これは、現在の最先端の燃料電池クーラントに欠けている特性である。
【0073】
したがって、次の特許請求の範囲は、上に具体的に説明及び記載したもの、概念的に等価であるもの、並びに明らかに置換できるものを含むものと理解される。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、まさしく記載した好ましい態様のさまざまな調節及び改変を構築できることを認識する。説明した態様は、例示の目的で述べたに過ぎず、本発明を限定するものとして受け取るべきではない。そのため、特許請求の範囲内で、本発明は、本明細書に具体的に記載したものとは異なる方法で実施してもよいことが理解される。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2024-08-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリケート含有熱伝導流体であって、前記熱伝導流体は、金属表面に腐食保護を提供し、水、アルキレングリコール、シリケート及びアゾール誘導体を含み、導電性が50μS/cm以下で、前記熱伝導流体の非イオン性添加剤が、以下の成分:
平均アルコキシル化率が1~5である、エトキシル化及び/又はプロポキシル化プロパ-2-イン-1-オール又は2-ブチン-1,4-ジオール誘導体;
平均分子量が500~1000のエトキシル化及び/又はプロポキシル化チオジグリコール誘導体;並びに、
はんだ付け処理からのフラックス残渣に曝露した場合にシリケートの沈殿を引き起こさない、有機シランで製造される安定化非イオン性シリケート成分;
の少なくとも1つから選択され、合計で0.05~15重量%有することを特徴とする、シリケート含有熱伝導流体。
【請求項2】
消泡剤、湿潤剤、着色剤の1つ以上を更に含有する、請求項1に記載のシリケート含有熱伝導流体。
【請求項3】
前記安定化非イオン性シリケートは、オルトシリケートエステル及び安定化シランから、触媒及び界面活性剤とともに、水/アルキレングリコール溶液中で事前に製造され、その後、他の成分に添加される、請求項1に記載のシリケート含有熱伝導流体。
【請求項4】
前記安定化非イオン性シリケートは、一般式:
Si(OR)
[式中、RはC1~C20アルキルから選択される]
で表されるオルトシリケートエステルと、式:
Si(OR4-n(R
[式中、nは1~3の整数又は小数であり、Rは炭素-酸素結合によって酸素原子と連絡した有機基又は水素原子であり、Rは、ケイ素-炭素結合によってケイ素原子と結合した非イオン性の有機基であって、1~10個の炭素原子を有する直鎖状若しくは分枝アルキル若しくは環状アルキル、若しくは6~14個の炭素原子を有するアリールで、ヘテロ原子を含有することができ、又は、式:
-CHCHCH-(OCHRCH-OR
(式中、mは1~20の整数又は小数であり、Rは水素原子又はアルキルであり、Rは1~10個の炭素原子を有するアルキルである)
である]
で表される安定化有機シランから製造される、請求項1~3のいずれか一項に記載のシリケート含有熱伝導流体。
【請求項5】
前記オルトシリケートエステルSi(OR)と前記安定化有機シランSi(OR4-n(RのSiの比は、1:1~10:1である、請求項4に記載のシリケート含有熱伝導流体。
【請求項6】
SiOとしてのケイ素濃度が100ppm~1000ppmである、請求項1に記載のシリケート含有熱伝導流体。
【請求項7】
SiOとしてのケイ素濃度が300ppm~600ppmである、請求項6に記載のシリケート含有熱伝導流体。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0073
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0073】
したがって、次の特許請求の範囲は、上に具体的に説明及び記載したもの、概念的に等価であるもの、並びに明らかに置換できるものを含むものと理解される。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、まさしく記載した好ましい態様のさまざまな調節及び改変を構築できることを認識する。説明した態様は、例示の目的で述べたに過ぎず、本発明を限定するものとして受け取るべきではない。そのため、特許請求の範囲内で、本発明は、本明細書に具体的に記載したものとは異なる方法で実施してもよいことが理解される。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 約10~約90重量%のアルキレングリコール又はその誘導体;
約90~10重量%の水;
約0.005~5重量%の式(III)で表されるアゾール誘導体;並びに
約0.05~15重量%の、式(I)で表される化合物、式(II)で表される化合物、式(III)で表される化合物及び非イオン性シリケートパッケージの少なくとも1つ;
から本質的になり、全構成成分の和が100重量%である、非腐食性、フラックス安定性、非導電性クーラント組成物。
[2] 前記アゾール誘導体が約0.0075~2.5重量%である、[1]に記載の非腐食性、フラックス安定性、非導電性クーラント溶液。
[3] 前記アゾール誘導体が約0.01~1重量%である、[2]に記載の非腐食性、フラックス安定性、非導電性クーラント溶液。
[4] 式(I)で表される化合物、式(II)で表される化合物、式(III)で表される化合物及び非イオン性シリケートパッケージの合計が、約0.1~10重量%である、[1]に記載の非腐食性、フラックス安定性、非導電性クーラント溶液。
[5] 式(I)で表される化合物、式(II)で表される化合物、式(III)で表される化合物及び非イオン性シリケートパッケージの合計が、約0.2~5重量%である、[1]に記載の非腐食性、フラックス安定性、非導電性クーラント溶液。
【国際調査報告】