(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】アトロロシンベースのレーキ
(51)【国際特許分類】
C09B 67/20 20060101AFI20241226BHJP
C09B 63/00 20060101ALI20241226BHJP
C09B 61/00 20060101ALN20241226BHJP
【FI】
C09B67/20 A
C09B63/00
C09B61/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024536443
(86)(22)【出願日】2023-01-05
(85)【翻訳文提出日】2024-08-15
(86)【国際出願番号】 EP2023050143
(87)【国際公開番号】W WO2023131632
(87)【国際公開日】2023-07-13
(32)【優先日】2022-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522483460
【氏名又は名称】クロモロジクス エーピーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】エダム,アンデルス セバスチャン ローセンクランス
(72)【発明者】
【氏名】トッドバーグ,サラ
(57)【要約】
本発明は、アトロロシンの新規な配合物、及びアトロロシンレーキを提供する。さらに、不活性金属媒染剤との結合によるそれらの製造のための改良された方法;さらには、食品品目及び/又は食品以外の品目用の、ならびに化粧品用の着色剤としての新規なレーキの使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の金属を含むアトロロシンレーキであって、レーキの少なくとも50~95%が水性溶液中に分散したままである、アトロロシンレーキ。
【請求項2】
アトロロシン対金属の比が、モル基準で1:1~1:3の間である、請求項1に記載のアトロロシンレーキ。
【請求項3】
金属が、アルミニウム、銅、ニッケル、コバルト、又は亜鉛から選択される、請求項1又は2に記載のアトロロシンレーキ。
【請求項4】
安定化剤をさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載のアトロロシンレーキ。
【請求項5】
安定化剤が、アラビアゴム、オクテニルコハク酸無水物(OSA)変性ワキシーデンプン、植物油、又は水である、請求項4に記載のアトロロシンレーキ。
【請求項6】
安定化剤溶液対アトロロシンレーキの比が、重量で10:1~1:10である、請求項4又は5に記載のアトロロシンレーキ。
【請求項7】
少なくとも1種のアルカリ土類金属をさらに含む、請求項1から6のいずれかに記載のアトロロシンレーキ。
【請求項8】
アルカリ土類金属が、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、及びバリウム(Ba)のいずれかである、請求項7に記載のアトロロシンレーキ。
【請求項9】
アルカリ土類金属が、マグネシウム(Mg)又はカルシウム(Ca)である、請求項7又は8に記載のアトロロシンレーキ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の分散されたレーキを含む、水性、油性、又は他の液体溶液。
【請求項11】
請求項1から9のいずれかに記載のアトロロシンレーキを製造する方法であって、
a)NaCO
3を使用せずに金属水酸化物/酸化物を作製することによって、金属をプライミングして両性にする工程と、
b)pHを3.5~4.5の間にゆっくりと下げることによって、アトロロシン染料を金属イオンにカップリングさせる工程と、
c)例えばろ過又は(噴霧)乾燥によって、沈殿物と液体の相分離を行う工程と、
d)任意選択により、工程e)の前にレーキ材料を洗浄する工程と、
e)例えば、安定化剤を添加したアトロロシンレーキをミリング処理することによって、粒子サイズを小さくする工程と
を含む、方法。
【請求項12】
工程e)の粒子サイズを、粒子の少なくとも90%が20μm未満であるように小さくする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から9のいずれかに記載のレーキ、又は請求項11もしくは12に記載の方法によって作製されたレーキを含む、組成物。
【請求項14】
ペットフード、コーティング用インク、塗料、木材用ステインなどのステイン、化粧品、食品、消費財、プラスチック材料、又は食品用包装材のリストから選択される製品を作製するための、請求項1から9のいずれかに記載のレーキ、請求項11もしくは12に記載の方法によって作製されたレーキ、又は請求項13に記載の組成物の使用。
【請求項15】
請求項1から9のいずれかに記載のレーキを含む又はそれで着色された、あるいは請求項11もしくは12に記載の方法によって作製されたレーキを含む又はそれで着色された、あるいは請求項13に記載の組成物を含む又はそれで着色された、製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然の食品着色料の分野に関する。具体的には、本発明は、食品着色料の配合物、着色料のレーキ、不活性金属媒染剤との結合によるそれらの製造方法、ならびに食品品目及び/又は食品以外の品目用の、及び化粧品用の着色剤としての新規な顔料の使用の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この10年間、一般消費者向けの化学が注目の的となっている。これには、食品及び食品以外の製品における香料、香味料、及び着色料が挙げられる。食品においては、ほとんどの会社がすでに合成着色料から天然着色料に切り替えているが、それは天然着色料の方が健康的で、安全で、信頼できると認識されているからである。食品、化粧品、及びホームケアなどの産業分野では、高性能の天然着色料に対する強力なマーケットプルが存在する。赤色は、食品内で最も幅広い用途を有する着色料であり、市場シェアの最大55%を占めている。
【0003】
アトロロシンは、Talaromyces atroroseusによって生合成される新しいクラスの着色料である。アトロロシンは、アザフィロン骨格を有しており、水において高い溶解度を有するため染料として作用する赤色着色料である。現在、天然着色料は需要が高いため、特に食品においてアトロロシンの使用が調査されているが、化粧品、コーティング、インク、及び塗料などの他の業界でも、石油ベースの着色料の代替品として検討されている。
【0004】
アトロロシンは、多くの天然染料と同様に、合成染料と比較して、紫外線による光酸化、他の化合物との化学的相互作用などの環境に対する安定性が低く、高水分活性マトリックス中での加水分解を受けやすい。この不安定性は、時間の経過とともに色調の変化又は変色を引き起こすおそれがあり、望ましくない。時には、これらの弱点は、他の添加剤を共配合するか、又は製品中の着色料を過飽和にすることによって隠すことができるが、これらの解決策は避けたい。
【0005】
これらの生理化学的弱点は、天然染料を不活性金属媒染剤で安定化させることによって克服することができる。これらの色材は、レーキ(laq又はlake)と呼ばれる。最もよく使用される媒染剤はアルミニウムであるが、マグネシウム、鉄、カルシウムなどの他の金属化合物もすべて提案されている。金属媒染剤による染料の安定化は、染料を顔料に変え、着色料の生理化学的特性を、pH、UV、温度、及び水分活性などの環境に対してさらにいっそう安定なものに変化させる。ミリング処理はくすんだ色から明るい色まで色調を明確にするのに役立ち得るため、環境因子に対する安定性を高め、アトロロシンレーキを水不溶性にすることは、色調の多様性をさらに高めることになる。しかし、アトロロシンレーキを作製する現在の方法は、液体中に完全に分散した状態を保つことができず且つ沈殿物を形成する、レーキを生成し、鮮やかでなく、あまり強力ではないレーキ色材をもたらす。本発明は、以前の方法で見られたよりも高度な分散を維持するアトロロシンレーキを作製する新規な方法を提供することによって、これらの問題の解決策を提供する。さらに、この新規な方法は、鮮やかで強力な色のレーキを提供する。
【0006】
WO2022/008503は、アトロロシンを製造するスケーラブルな方法、及びアトロロシンを含む組成物を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記を考慮して、本発明が対処する課題は、顔料に付与される色材がアトロロシンをベースとするものであり、アトロロシンレーキが水などの液体中に分散可能である、アトロロシン顔料の新規なサブセットであるアトロロシンレーキを提供することである。アトロロシン-(R)-X[式中、Rは、水素であるか、又はN-Rは、アミノ酸、ペプチド、アミノ糖、及び第一級アミンから選択され、Xは、アルミニウム、銅、ニッケル、コバルト、又は亜鉛から選択される金属である]。さらに、本発明は、鮮やかで強力な、安定で高分散性のレーキを作製する新規かつ改良された方法を提供することによって、ならびにアトロロシンレーキなどのレーキ、例えばアトロロシンEレーキなどを提供することによって、鮮やかで強力なレーキ色材を提供するという課題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様において、本発明は、少なくとも1種の金属を含むアトロロシンレーキであって、このレーキの少なくとも50~95%が水性溶液中に分散したままである、アトロロシンレーキを提供する。
【0009】
アトロロシンレーキが、高い水分活性を有する安定性の向上したマトリックスを有し、アトロロシン染料と比較して光酸化を受けにくいため、本発明によりこの課題は解決される。特に、本発明が提供するレーキは、液体中での分散性に関して改善を示す。
【0010】
第2の態様において、本発明は、顔料であるアトロロシンレーキを製造する方法であって、以下の工程:
a)NaCO3を使用せずに金属水酸化物/酸化物を作製することによって、金属をプライミングして両性にする工程と、
b)pHを3.5~4の間にゆっくりと下げることによって、アトロロシン染料を金属イオンにカップリングさせる工程と、
c)例えばろ過又は(噴霧)乾燥によって、沈殿物と液体の相分離を行う工程と、
d)任意選択により、工程e)の前にレーキ材料を洗浄する工程と、
e)例えば、安定化剤を添加したアトロロシンレーキをミリング処理することによって、粒子サイズを小さくする工程と
を含む、方法を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、又はバリウム(Ba)などのアルカリ土類金属から固体ヒドロキシイオンを補充したアトロロシンレーキを作製する方法を提供する。この補充は、アトロロシンレーキの外観及び生理化学的特性を変化させることができる。もう1つの利点は、アルミニウムを土類金属と置き換えることができるためにアルミニウムを減らせることである。アルミニウムは潜在的な健康被害をもたらすおそれがあるが、言い換えると、カルシウム及びマグネシウムには健康上の利点があると考えられているため、これは食品において特に興味深いものである。
【0012】
したがって、一実施形態では、工程b)でpHを下げる前に、アルカリ土類金属を添加する。
【0013】
さらに、本発明は、組成物を着色するためのパーツのキットであって、キットが、少なくとも1種のアトロロシンレーキ、少なくとも1種の安定化剤を含み、顔料が、容器に供給されており、組成物が、食品、食品以外の製品、及び化粧品から選択される、キットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】a)水性フォンダン(fondant)に分散した、従来のプロトコルのアトロロシンEレーキ、b)本発明の改良されたプロトコルによって作製されたアトロロシンEレーキを示す図である。水性フォンダンに分散した、アラビアゴムにより安定化されたアトロロシンEレーキ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
用語:
着色料:染料又は顔料のいずれかである着色物質(分子)。
染料:染料は、混合される液体/媒体に溶解する着色物質(分子)である。一般に、染料は、水に溶解する。
顔料:顔料は、混合される液体/媒体に溶解しない着色物質(分子)である。一般に、顔料は、水に溶解しない。
アトロロシン:化学式CQ3HQ406NRを有する着色料[式中、NRは、アミノ酸などの第一級アミンを含有する化合物であり、炭素2と炭素3の間の二重結合の配置はシスである](例えば、WO2022/008503を参照)。
レーキ:染料が金属塩に固定されて、不溶性になっている顔料。
色相角:CIEL*a*b*表色系では、L*は明度の尺度であり、a*は赤及び緑の尺度(負は緑を示し、正は赤を示す)であり、b*は青及び黄の尺度(負は青を示し、正は黄色を示す)であり、色相角は色調を表す方法である。赤色は、20~40の間の色相角を有する。40以上では色相にオレンジが見え、20以下ではマゼンタのような色である。
彩度:彩度は、色の飽和度である。彩度の高い色は鮮やかな色であり、彩度の低い色はくすんだ色(淡い色)になる。
着色力:着色力(T*)は、効力又は色強度の尺度であり、色飽和度及び(彩度)と明度(L*)の両方を含む。着色力は、次のように計算することができる:
T*=(100-L*)+C*
【0016】
本方法は、アトロロシン染料を金属とカップリングさせる、アトロロシンレーキを調製する工程を含む。この金属はまた、アルカリ土類金属で補充されて、外観及び特性をさらに変えることができる。
【0017】
一実施形態において、顔料であるアトロロシンレーキを製造する方法は、以下の工程:
a)NaCO3を使用せずに金属水酸化物/酸化物を作製することによって、金属をプライミングして両性にする工程と、
b)pHを3.5~4の間にゆっくりと下げることによって、アトロロシン染料を金属イオンにカップリングさせる工程と、
c)例えばろ過又は(噴霧)乾燥によって、沈殿物と液体の相分離を行う工程と、
d)任意選択により、工程e)の前にレーキ材料を洗浄する工程と、
e)例えば、安定化剤を添加したアトロロシンレーキをミリング処理することによって、粒子サイズを小さくする工程と
を含む。
【0018】
別の一実施形態において、顔料であるアトロロシンレーキを製造する方法は、以下の工程:
a)NaCO3を使用せずに金属水酸化物/酸化物を作製することによって、金属をプライミングして両性にする工程と、
b)pHを3.5~4.0の間にゆっくりと下げることによって、アトロロシン染料を金属イオンにカップリングさせる工程と、
c)例えばろ過又は(噴霧)乾燥によって、沈殿物と液体の相分離を行う工程と、
d)任意選択により、工程e)の前にレーキ材料を洗浄する工程と、
e)例えば、安定化剤を添加したアトロロシンレーキをミリング処理することによって、粒子サイズを小さくする工程と
を含む。
【0019】
WO2022/008503に記載の方法により製造されたアトロロシンE塩(AtrE)から出発する。硫酸アルミニウムカリウム十二水和物を溶解させて0.5M溶液にし、かつ1MのNaOH又はKOHでpHを10に調整し、かつ80℃に加熱することによって、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)などの両性金属を調製する。AtrE:Al(OH)3を1:1~1:3の間のモル比で混合し、かつ撹拌しながら5MのHClでpHを3.5にゆっくり下げることによって、水酸化アルミニウムをアトロロシンEとカップリングさせる。次いで、このスラリーを50℃で1時間恒温放置し、その後、室温に置いて冷却する。pHを3.5~4に下げることによって、金属と染料の共有結合的で不可逆的な錯体が生じ、不溶性、無臭、及び無味の顔料が得られる。冷却後、ろ紙でのろ過によって、又は噴霧乾燥によって、顔料を液体から分離して、乾燥粉末にすることができる。次いで、この粉末を洗浄して、カップリングしていないアトロロシン又は金属を除去することができる。レーキ顔料は、例えば塗料に色を付与するためにそのまま使用することもでき、又はアラビアゴムなどの安定化剤と配合することもできる。配合は、金属又はセラミックビーズを用いた湿式ミリング処理の前に、安定化剤、例えば25%溶液をアトロロシンEレーキなどのアトロロシンレーキと2:1の比で混合することによって行われる。驚くべきことに、得られた顔料は、水溶液のブラウン運動と競合するのに十分な小ささの粒子サイズを有し、それによって、レーキの少なくとも50%が分散したままの、驚くほど不透明な水溶液が得られる。
【0020】
WO2022/008503の実施例8に記載されている以前の方法によって作製されたレーキには、水酸化アルミニウムを調製するための苛性剤として使用された炭酸ナトリウムの使用が含まれるが、水酸化ナトリウムも使用されるため、炭酸ナトリウムは不要となる。また、炭酸ナトリウムを省くと、洗浄工程で除去する不純物が少なくなり、より高い着色力が得られ、錯体形成工程でCO2が放出されず、発泡が最小限に抑えられるため、プロセスが簡略化される。
【0021】
カップリング工程では、pHをpH3.5よりも下げないことが重要であるが、それは、pH値がさらに低くなると、アトロロシンEが沈殿し始め、その結果、染料と金属との錯体形成が失敗するからである。生成したレーキは、黒色又は焦げた色のように見え、色を付与せず、分散することができないが、むしろ適切にミリング処理できない大きな凝集集合体として作用する。
【0022】
高い着色力及び強い彩度(色の飽和度)を有するレーキを作製するには、カップリング工程でアトロロシンE:水酸化アルミニウムのモル比を1:1~1:3の間に維持することも必要である。このモル比では、すべてのアトロロシンEがアルミニウムと結合して、顔料の分離後にほぼ透明な液体が残るが、過剰な水酸化アルミニウムが、顔料と共沈する残りのアニオンと塩を形成することはない。比を1:1~1:3の間よりも下げると、必要な出発材料の量が減り、したがって、硫酸アルミニウムカリウム十二水和物が減り、不要な共沈殿物を洗い流すのに必要な洗浄工程がさらに減る。WO2022/008503の実施例8では、比が1:6のアトロロシンE:水酸化アルミニウムが使用されており、本特許の実施例で見られるように、色がよりくすんでおり、着色力がより低い。本出願の実施例4は、新規な改良されたプロトコルにより作製されたレーキが、フォンダンベースで試験した場合、以前のプロトコルと比較して約1.5倍高い着色力を有し、この新規な改良されたプロトコルでは2倍高い彩度を有することを示している。
【0023】
アトロロシンのカップリングに土類金属を補充すると、分散したレーキの色相角を変えることが可能になる。カルシウム及びマグネシウムなどの土類金属を補充することのもう1つの利点は、レーキ中のアルミニウムの量を減らせることである。アルミニウムは潜在的な健康被害をもたらすおそれがあるが、言い換えると、カルシウム及びマグネシウムには健康上の利点があると考えられているため、これは食品用途において特に興味深いものである。
【0024】
本発明は、以前の方法で作製されたレーキよりも色が鮮やかで、溶液中に容易かつ均一に分散され、色が濃いアトロロシンレーキを作製する新規な方法を提供する。
【0025】
一部の実施形態において、本発明は、少なくとも1種の金属を含むアトロロシンレーキであって、このレーキの少なくとも50~95%が水性溶液中に分散したままである、アトロロシンレーキを提供する。
【0026】
分散率(%)は、アトロロシンEレーキを含む水性溶液の515nmにおける吸光度を、混合時(t0)及び24時間後(t1)に測定することにより計算することができる。
【0027】
【0028】
515nmでの測定では赤色が測定され、24時間中に凝集体が沈殿し、そのため、515nmで測定した試料の色強度は減少する。
【0029】
驚くべきことに、この方法で製造されたアトロロシンレーキは、安定化剤を用いたボールミリング処理によって粒子サイズが著しく小さくなると、ブラウン運動と競合し、水溶液中に分散したままとなる。粒子サイズがどれほど小さいかに応じて、溶液は半透明又は不透明になるおそれがある。レーキ粉末の微細ミリング処理を行わず、粒子サイズを小さくするために乳鉢及び乳棒による方法のみを使用すると、レーキの粒子サイズはより大きくなり、レーキ粒子は水溶液中で凝集し、沈殿する。
【0030】
一部の実施形態において、本発明は、アトロロシン対金属の比がモル基準で1:1~1:3の間である、上記の実施形態によるアトロロシンレーキを提供する。
【0031】
ミリング処理をしたときに鮮やかな色(高い彩度とは高い飽和度を意味する)及び高い着色力を得るには、アトロロシン対金属の比は最適には、モル基準で1:1~1:3の間である。比を上げると、過剰な金属が残りのアニオン(Cl、SO4、アトロロシンからの他の不純物(クエン酸塩など))と塩を形成する。これらの塩は、色の濃さ及び彩度を薄めて色をくすませる。
【0032】
一部の実施形態において、本発明は、金属がアルミニウム、鉄、銅、ニッケル、コバルト、又は亜鉛から選択される、上記の諸実施形態によるアトロロシンレーキを提供する。
【0033】
粒子サイズを小さくすることができるように、安定化剤の存在下でレーキ粉末をミリング処理して、粒子間に残る閉じ込められた空気を除去する必要がある。安定化剤は、グラインディング/ミリング処理によって分子が過熱し燃焼しないように作用する。安定化剤を用いずにミリング処理すると、レーキの粒子サイズを小さくする効率が低くなり、したがって、ミリング処理プロセス中に安定化剤を添加した場合よりも、液体溶液中での分散の効率が低く、かつ永続性が低いレーキ粒子が提供されることになる。好適な安定化剤は、非限定的な例ではアラビアゴムのいずれか1種であり、OSA-デンプンは、食品グレードであるため試験済みである。他のものは、植物性油、さらには水である。
【0034】
したがって、本発明は、安定化剤をさらに含む、上記の諸実施形態のいずれかによるアトロロシンレーキを提供する。さらなる諸実施形態では、安定化剤がアラビアゴム又はオクテニルコハク酸無水物(OSA)変性ワキシーデンプン、又は植物油又は水のいずれかである、先の実施形態によるアトロロシンレーキを提供する。さらなる諸実施形態では、先の諸実施形態によるアトロロシンレーキは、安定化剤対アトロロシンレーキの比が重量で10:1~1:10である、安定化剤を含む。
【0035】
本発明者らは、驚くべきことに、レーキにアルカリ土類金属を補充することで、先行のレーキの色相(色調)及び彩度を変化させることができることを見出した。さらに、例えばアトロロシンEなどのアトロロシンに結合しているアルミニウムなどの他の金属の量を減らすことができ、アルミニウムをアルカリ土類金属と交換することができる。アルミニウムは潜在的な健康被害をもたらすおそれがあるが、言い換えると、カルシウム及びマグネシウムには健康上の利点があると考えられているため、これは食品において特に興味深いものである。
【0036】
したがって、本発明は、レーキが少なくとも1種のアルカリ土類金属をさらに含む、先の諸実施形態のいずれかによるレーキを提供した。一部のそのような実施形態において、アルカリ土類金属は、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、及びバリウム(Ba)のいずれかである。好ましい諸実施形態において、アルカリ土類金属は、カルシウム又はマグネシウムである。
【0037】
一部の実施形態において、先の諸実施形態のいずれか1つによるアトロロシンレーキは、アトロロシンEを用いて作製される。
【0038】
本発明のレーキは、非限定的な例では粉末の形態、又は非限定的な例では水性もしくは油性の溶液などの液体溶液中に分散された粉末の形態など、販売時に異なる形態を有してもよい。したがって、一部の実施形態において、本発明は、レーキが、水性又は油性又は他の液体溶液中に分散された粉末の形態である、上記の諸実施形態のいずれかによるアトロロシンレーキを提供する。一部の実施形態において、本発明は、先の実施形態のいずれか1つによる分散レーキを含む水性、油性、又は他の液体溶液を提供する。
【0039】
本発明によって提供されるアトロロシンレーキは、以前のまだ公開されていない方法によって作製されたものよりも明るく、より濃い色である。したがって、本発明は、例えば実施例4に見られるように、水性フォンダン中で測定した場合、着色力が少なくとも50であり、彩度が少なくとも20である、先の諸実施形態のいずれかによるアトロロシンレーキを提供する。
【0040】
アトロロシンレーキを作製するためのPCT/EP2021/068647の以前のまだ公開されていない方法には、色が淡く、沈殿するおそれのある不純物量が多いという問題があった。したがって、本発明は、両性金属がNaCO3を使用せずに作製される、アトロロシンレーキを作製するための改良された方法を提供する。
【0041】
以前の方法からNaCO3の工程を削除した理由は、NaCO3の存在がより多くの不純物の原因となり、本発明者らが両性金属はNaOHのみで作製できることを見出したためNaCO3が不要となったからである。アトロロシンEなどのアトロロシンだけでなく金属が金属塩になり沈殿するのも避けるために、pHをゆっくりと下げる。一部の実施形態において、本発明は、両性金属がNaCO3を使用せずに作製される、本発明によるレーキを作製する方法など、NaCO3を使用せずに、NaOHを使用して両性金属を作製する方法を提供する。
【0042】
本発明は、一部の実施形態において、先の諸実施形態のいずれかによるアトロロシン(E)レーキを製造する方法であって、以下の工程:
a)金属水酸化物/酸化物を作製することによって、金属をプライミングして両性にする工程と、
b)pHを3.5~4の間にゆっくりと下げることによって、アトロロシン染料を金属イオンにカップリングさせる工程と、
c)例えばろ過又は(噴霧)乾燥によって、沈殿物と液体の相分離を行う工程と、
d)任意選択により、レーキ材料を洗浄し、その後、粒子サイズを小さくする工程と
を含む、方法を提供する。
【0043】
さらなる一実施形態では、工程a)がNaCO3を使用しない、先の実施形態の方法である。
【0044】
上述したように、本発明者らは、レーキ粉末の粒子サイズが小さいことが、液体中に永続的に分散する能力にとって非常に重要であるが、レーキの色の明度、及び色の強度にも影響を及ぼすことを見出した。したがって、一部の実施形態において、本発明は、以下の工程をさらに含む、上記実施形態によるアトロロシンレーキを作製する方法を提供する
e)例えばアトロロシンレーキをミリング処理することによって、粒子サイズを小さくする工程。
【0045】
さらなる諸実施形態において、本発明は、工程e)が安定化剤を添加することを含む、先の諸実施形態による方法を提供する。さらなる一実施形態において、安定化剤は、アラビアゴム、オクテニルコハク酸無水物(OSA)変性ワキシーデンプン、植物油、及び水のいずれかから選択される。
【0046】
一部の実施形態において、本発明は、工程e)の粒子サイズを、20μm未満、例えば10μm未満、例えば2μm未満などに小さくする、先の諸実施形態のいずれかによる方法を提供する。一部のそのような実施形態において、ミリング処理工程(e)で作製された粒子の少なくとも90%を、20μm未満、例えば10μm未満、例えば2μm未満などに小さくする。一部のそのような実施形態において、ミリング処理工程(e)で作製された粒子の少なくとも95%、例えば少なくとも96%、例えば少なくとも97%、例えば少なくとも98%、例えば少なくとも99%などを、20μm未満、例えば10μm未満、例えば2μm未満などに小さくする。
【0047】
一部の実施形態において、本発明は、先の諸実施形態のいずれかによるレーキ又は先の諸実施形態のいずれかによる方法によって作製されたレーキを含む組成物を提供する。
【0048】
本発明によるレーキ、例えばアトロロシンレーキ、例えばアトロロシンEレーキなどは、ペットフード、コーティング用インク、塗料、木材用ステインなどのステイン、化粧品、食品、消費財、プラスチック材料、又は食品用包装材のいずれかを含む、多くの製品の着色において興味深いものである。
【0049】
したがって、一部の実施形態における本発明は、ペットフード、コーティング用インク、塗料、木材用ステインなどのステイン、化粧品、食品、消費財、プラスチック材料、又は食品用包装材のリストから選択される製品を作製するための、先の諸実施形態のいずれかによるレーキ、先の諸実施形態のいずれかによる方法によって作製されたレーキ、又は先の諸実施形態による組成物の使用に関する。
【0050】
一部の実施形態において、本発明は、先の諸実施形態のいずれかによるレーキを含むもしくはそれで着色された、又は先の諸実施形態のいずれかによる方法によって作製されたレーキを含むもしくはそれで着色された、又は先の諸実施形態のいずれかによる組成物を含むもしくはそれで着色された製品を提供する。さらなる諸実施形態においては、先の諸実施形態で提供される製品は、ペットフード、コーティング用インク、塗料、木材用ステインなどのステイン、化粧品、食品、消費財、プラスチック材料、又は食品用包装材のいずれか1つである。
【0051】
一部の実施形態において、本発明は、ペットフード、コーティング用インク、塗料、木材用ステインなどのステイン、化粧品、食品、消費財、プラスチック材料、又は食品用包装材のいずれか1つの作製に使用するための、先の諸実施形態のいずれかによるレーキを含むキットを提供する。
【0052】
項目
1.少なくとも1種の金属を含むアトロロシンレーキであって、このレーキの少なくとも50~95%が水性溶液中に分散したままである、アトロロシンレーキ。
2.アトロロシン対金属の比が、モル基準で1:1~1:3の間である、項目1に記載のアトロロシンレーキ。
3.金属が、アルミニウム、鉄、銅、ニッケル、コバルト、又は亜鉛から選択される、項目1及び2に記載のアトロロシンレーキ。
4.金属が、アルミニウム、銅、ニッケル、コバルト、又は亜鉛から選択される、項目1及び2に記載のアトロロシンレーキ。
4.安定化剤をさらに含む、項目1から3のいずれかに記載のアトロロシンレーキ。
5.安定化剤が、アラビアゴム、オクテニルコハク酸無水物(OSA)変性ワキシーデンプン、植物油、又は水である、項目4に記載のアトロロシンレーキ。
6.安定化剤溶液対アトロロシンレーキの比が、重量で2:1~1:10である、項目4又は5のいずれかに記載のアトロロシンレーキ。
7.少なくとも1種のアルカリ土類金属をさらに含む、項目1から6のいずれかに記載のアトロロシンレーキ。
8.アルカリ土類金属が、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、及びバリウム(Ba)のいずれかである、項目7に記載のアトロロシンレーキ。
9.アルカリ土類金属が、マグネシウム(Mg)又はカルシウム(Ca)である、項目7又は8に記載のアトロロシンレーキ。
10.アトロロシンが、アトロロシンEである、項目1から9のいずれか1つに記載のアトロロシンレーキ。
11.水性又は油性又は他の液体溶液中に分散された粉末の形態である、項目1から10のいずれかに記載のアトロロシンレーキ。
12.先の諸項目のいずれか1つに記載の分散レーキを含む、水性、油性、又は他の液体溶液。
13.着色力が少なくとも50であり、彩度が少なくとも20である、項目1から10のいずれかに記載のアトロロシンレーキ。
14.項目1から11及び13のいずれかに記載のアトロロシン(E)レーキを製造する方法であって、以下の工程:
a)金属水酸化物/酸化物を作製することによって、金属をプライミングして両性にする工程と、
b)pHを3.5~4の間にゆっくりと下げることによって、アトロロシン染料を金属イオンにカップリングさせる工程と、
c)例えばろ過又は(噴霧)乾燥によって、沈殿物と液体の相分離を行う工程と、
d)任意選択により、レーキ材料を洗浄し、その後、粒子サイズを小さくする工程と
を含む、方法。
15.項目1から11及び13のいずれかに記載のアトロロシンレーキを製造する方法であって、以下の工程:
a)金属水酸化物/酸化物を作製することによって、金属をプライミングして両性にする工程と、
b)pHを3.5~4.0の間にゆっくりと下げることによって、アトロロシン染料を金属イオンにカップリングさせる工程と、
c)例えばろ過又は(噴霧)乾燥によって、沈殿物と液体の相分離を行う工程と、
d)任意選択により、レーキ材料を洗浄し、その後、粒子サイズを小さくする工程と
を含む、方法。
16.項目1から11及び13のいずれかに記載のアトロロシン(E)レーキを製造する方法であって、以下の工程;
a)金属水酸化物/酸化物を作製することによって、金属をプライミングして両性にする工程と、
b)pHを3.5~4.4の間にゆっくりと下げることによって、アトロロシン染料を金属イオンにカップリングさせる工程と、
c)例えばろ過又は(噴霧)乾燥によって、沈殿物と液体の相分離を行う工程と、
d)任意選択により、レーキ材料を洗浄し、その後、粒子サイズを小さくする工程と
を含む、方法。
17.項目1から11及び13のいずれかに記載のアトロロシンレーキを製造する方法であって、以下の工程:
a)金属水酸化物/酸化物を作製することによって、金属をプライミングして両性にする工程と、
b)pHを3.5~4.5の間にゆっくりと下げることによって、アトロロシン染料を金属イオンにカップリングさせる工程と、
c)例えばろ過又は(噴霧)乾燥によって、沈殿物と液体の相分離を行う工程と、
d)任意選択により、レーキ材料を洗浄し、その後、粒子サイズを小さくする工程と
を含む、方法。
18.工程a)が、NaCO3の使用を含まない、項目14から17のいずれかに記載の方法。
19.以下の工程:
e)例えばアトロロシンレーキをミリング処理することによって、粒子サイズを小さくする工程
をさらに含む、項目14から17のいずれかに記載の方法。
20.工程e)が、安定化剤を添加することを含む、項目19に記載の方法。
21.工程e)の粒子サイズを、粒子の少なくとも90%が20μm未満であるように小さくする、項目20に記載の方法。
22.項目1から11及び13のいずれかに記載のレーキ、又は項目14から21のいずれかに記載の方法によって作製されたレーキを含む、組成物。
23.ペットフード、コーティング用インク、塗料、木材用ステインなどのステイン、化粧品、食品、消費財、プラスチック材料、又は食品用包装材のリストから選択される製品を作製するための、項目1から11及び13のいずれかに記載のレーキ、項目14から21のいずれかに記載の方法によって作製されたレーキ、又は項目22に記載の組成物の使用。
24.項目1から11及び13のいずれかに記載のレーキを含むもしくはそれで着色された、又は項目14から21のいずれかに記載の方法によって作製されたレーキを含むもしくはそれで着色された、又は項目22に記載の組成物を含むもしくはそれで着色された製品。
25.ペットフード、コーティング用インク、塗料、木材用ステインなどのステイン、化粧品、食品、消費財、プラスチック材料、又は食品用包装材のいずれかから選択される、項目24に記載の製品。
【実施例】
【0053】
実施例1:小規模でのアトロロシンE塩の製造
この実施例は、WO2022/008503の実施例1である
AU490が約12のアトロロシンE顔料を含む発酵ブロス(WO2018206590の方法に従って製造)5Lを、ミラクロスでろ過して、バイオマス及び他のマクロサイズの成分を除去し、その結果、AU490が約10のアトロロシンE顔料を含む透過液4Lを得た。透過液4Lを10kDaカットオフの限外ろ過膜でさらにろ過して、タンパク質及びペプチドの大部分を除去した。透過液3.5Lは、AU490が約7のアトロロシンE顔料を含んでいた。
【0054】
透過液のpHを、5MのHCl60mLを添加して、pH1.34に低下させた。透過液を撹拌しながら5℃で24時間保存した。この間に、アトロロシンE顔料は沈殿した。24時間後、混合物を0.8μmのセルロース膜でろ過した。未透過物(retentate)を収集し、pH6の20mMクエン酸緩衝液2Lに溶解させた。この得られた混合物は、AU490が約13のアトロロシンE顔料を含んでいた。混合物を凍結し、その後、凍結乾燥した。得られた粉末9.5gを回収し、測定からE1%が20であることが分かった。
【0055】
実施例の文脈では、E1%は以下のとおりである:
E1%は着色力の比較である
特定の吸光度での1%(10g/L)の生成物の吸光度、但し、これは通常、極大吸収波長(nm)である。極大吸収波長は、着色料がどの媒体に溶解されているかに依存し得る。
【0056】
純粋な着色料の場合、E1%吸収は、次式におけるモル吸光係数に関連する:
E1%
cm=10*ε/M
【0057】
実施例2:アルミニウムアトロロシンレーキの製造
両性水酸化アルミニウムは、硫酸アルミニウムカリウム(AlK(SO4)2)*12H2Oを水酸化ナトリウム(NaOH)と混合することによって調製した。100mlのAlK(SO4)2*12H2Oは、20.3gを100mlの脱イオン水に溶解することによって調製した。溶液を80℃に加熱し、撹拌して、硫酸アルミニウムカリウムをすべて溶解させた。水酸化アルミニウムAl(OH)3は、生ぬるい100mlのAlKSO4及び150mLの1MのNaOH及び0.3mlの5MのHClを混合して、最終pHを10にすることによって調製した。
【0058】
アルミニウムアトロロシンEレーキは、水酸化アルミニウム溶液を可溶性アトロロシンE(100ml中20g(例えば実施例1に記載の方法による最終生成物))と混合し、5MのHClでpHを3.5に調整することによって調製した。スラリーを50℃で1時間加熱し、続いて、室温で一晩恒温放置した。
【0059】
一晩相分離させた後、スラリーをWhatmanフィルタグレード50のフィルタでろ過した。余分な顔料がある場合は、水及びエタノールで簡単に濯いだ。ろ過後、レーキを乾燥させ、秤量した。
【0060】
実施例3:アルミニウムアトロロシンレーキの代替製造
アルミニウムアトロロシンレーキはまた、AlK(SO4)2*12H2O(酸性)を染料混合物に添加し、顔料形成のためにpHをpH3.5に上昇させるという別の方法によって製造することができる。この方法は、以下の工程:
・ アトロロシンE塩(AtrE)を水に溶解させることから開始する工程と、
・ 硫酸アルミニウムカリウム十二水和物(pH2.3)を、アルミニウム対AtrEのモル比が1:1~1:3になるように添加する工程と、
・ pHをpH3.0~4.5に上昇させ、好ましくはpH3.5で停止させる工程と、
・ 実施例2に記載したように、スラリーを1時間結合させるなど、残りのプロトコルに従う工程と
を有する。
【0061】
このように、Al-AtrE錯体の作製を触媒するAl(OH)3は、事前に調製するのではなく、AtrEの存在下で生成される。ここでも最も重要な要素は、pH3.0~4.5である。
【0062】
実施例4:アルミニウムアトロロシンレーキのミリング処理及び分散
安定化剤の一例であるアラビアゴムを、実施例2からのアルミニウムアトロロシンEレーキとともに試験して、食品での使用に適したアトロロシンレーキを配合した。
【0063】
25gのアラビアゴムを100mlの脱イオン水に溶解することによって、25%安定化剤溶液を調製した。
【0064】
10mlの25%GA及び1gのアトロロシンEレーキを使用して、アトロロシンEレーキを安定化剤の溶液に添加した。溶液をゆっくり撹拌して混合し、溶液中に閉じ込められた空気の量を減らした。次いで、分散液を、5mmの金属ビーズの添加によってミリング処理し、遊星ボールミルでミリング処理した。容器にビーズの3分の1を充填し、その後、アトロロシンレーキアラビアゴム溶液を添加した。この溶液を550RPMで15分間隔でミリング処理した。
【0065】
実施例5:プロセスではpHが重要である
両性水酸化アルミニウムは、硫酸アルミニウムカリウム(AlK(SO4)2)*12H2Oを水酸化ナトリウム(NaOH)と混合することによって調製した。100mlのAlK(SO4)2*12H2Oは、20.3gを100mlの脱イオン水に溶解することによって調製した。溶液を80℃に加熱し、撹拌して、硫酸アルミニウムカリウムをすべて溶解させた。水酸化アルミニウムAl(OH)3は、生ぬるい100mlのAlKSO4及び150mLの1MのNaOH及び0.3mlの5MのHClを混合して、最終pHを10にすることによって調製した。
【0066】
アルミニウムアトロロシンEレーキは、水酸化アルミニウム溶液を可溶性アトロロシンE(100ml中20g(例えば実施例1に記載の方法による最終生成物))と混合し、5MのHClでpHを調整することによって調製した。pHは、以下の表1に従って調整した。一晩相分離させた後、スラリーをWhatmanフィルタグレード50のフィルタでろ過した。余分な顔料がある場合は、水及びエタノールで簡単に濯いだ。ろ過後、レーキを乾燥させ、秤量した。実施例4に従ってミリング処理を行い、50gの水に50mgを添加することによって0.1%水性分散液を調製した。
【0067】
【0068】
様々なpHにおいて作製したレーキに基づく分散液の着色力の計算値は、pHが重要なパラメータであることを示している。
【0069】
実施例6:アトロロシンEレーキ分散液の分散性
実施例3からのアトロロシンEレーキ分散液の0.3%溶液は、300mgを100mlの脱塩水に添加することによって調製した。十分に撹拌した後、レーキの515nmにおける吸光度を測定した。分散性は、粒子の沈降が生じた24時間後のレーキの515nmにおける2回目の吸光度測定によって計算した(表2を参照)。
【0070】
【0071】
【0072】
また、分散性を写真で可視化した。WO2022/008503の実施例8に示される方法により調製したアトロロシンEレーキを、実施例2と同じプロトコルでミリング処理した。150mgのレーキを、12mlの水に88gの粉糖を含むものからなる水フォンダン(water fondant)に分散させることによって。
図1の写真から、WO2022/008503のレーキはフォンダン中に均一に分散していないのに対し、実施例2からのレーキは均一に分散していることが明らかである(
図1を参照)。
【0073】
実施例7:アトロロシンEレーキの着色力
実施例4(改良されたプロトコル)からのアトロロシンEレーキ分散液の0.3%溶液は、150mgを100gの水性フォンダン(12mlの水に88gの粉糖を含むもの)に添加することによって調製した。
【0074】
WO2022/008503から調製したアトロロシンEレーキを実施例3(以前のプロトコル)と同じプロトコルでミリング処理し、150mgを水性フォンダン100gに添加することによって0.3%水性分散液を調製した。
【0075】
フォンダンを、Hunterlab製のColorFlex EZでCIEL*a*b*値について測定して、着色力、彩度、及び色相角を比較した(表3を参照)。
【0076】
【0077】
本特許の新規な改良されたプロトコルの着色力の計算値は、WO2022/008503の実施例8の方法によって作製されたアトロロシンEレーキと比較して、50%増加し、彩度は100%増加した。しかし、どちらのレーキも似たような色相を有するが、以前のプロトコルのレーキがくすんだ色であるのに対して、改良されたプロトコルのレーキの彩度はより高くなり、より鮮やかなレーキが得られる。
【0078】
実施例8:アルミニウムアトロロシンレーキを含むソーダ飲料溶液の低温殺菌。
モデルの飲料媒体濃縮物:
ショ糖:43%
水:56%
クエン酸:1%
【0079】
低温殺菌は過酷な処理であるが、ソーダ飲料の熱安定性評価には良い試験でもある。ベタニンのようないくつかの食品着色料は低温殺菌できないため、これらを含むソフトドリンクは殺菌工程の後に着色料を添加する必要がある。赤色の飲料は通常、0~50の間の色相角を有し、ピンクからオレンジがかった赤色に見える。
【0080】
実施例4からのアトロロシンレーキ分散液を、250ml容のPET1ボトルにおいて78.97%の水及び0.01%のアトロロシンレーキを含む21%の濃縮物と混合した。
【0081】
比較のため、アトロロシンE塩及びベタニンを試験し、さらに低温殺菌を実施して、低温殺菌に対する安定性を試験した。アトロロシンE及びベタニンの濃度は、それぞれ0.045%及び0.241%であった。低温殺菌は、ボトルを90℃のウォーターバスで5分間加熱することで行った。
【0082】
【0083】
表4から分かるように、低温殺菌は、アトロロシンE塩又はベタニンと比較して、アトロロシンEレーキの明度(L*)、彩度、及び色相角にほとんど影響を及ぼさなかった。ΔEは、色の変化の尺度であり、0~1の間の値は訓練を受けた人の目で通常見えず、2~3.5の間のΔEは訓練を受けていない人の目で明らかに分かる中程度の違いがあり、6超のΔEは色に非常に大きな違いがある。
【0084】
実施例9:水溶液中でのアトロロシンレーキ分散液のpH安定性
実施例3からのアトロロシンEレーキ分散液の0.3%溶液は、300mgを所与のpHに調整した100mlのMcIlvaine緩衝系に添加することによって調製した。アトロロシンEレーキ溶液を撹拌し、室温で24時間保存した。
【0085】
試料を、Hunterlab製のColorFlex EZでCIEL*a*b*値について測定して、彩度及び色相角を比較した。
【0086】
【0087】
表5のデータから分かるように、pHは、アトロロシンEレーキのpH3~pH7の間の彩度及び色相角にほとんど影響を及ぼさない。このわずかな変動は、アトロロシンEレーキの添加レベルのわずかな変動に起因するものである。したがって、本発明のアトロロシンEレーキは、pHレベルが変化しても非常に安定である。
【0088】
実施例10:ミリング処理時間に応じたアトロロシンEレーキ
25%アラビアゴム溶液1mlあたり2.5gのアトロロシンEレーキを添加することによって、アトロロシンEレーキの3種の試料を調製した。ミリング処理前に溶液をゆっくり撹拌して、閉じ込められた空気の量を減らした。ミリング処理前に、0.5mmサイズの金属ビーズ40個(チャンバー容積の1/3)を各試料に添加した。ミリング処理は、550RPMで15分、30分、又は60分間実施した。
【0089】
ミリング処理後、試料を水溶液に添加して、最終濃度が0.4%のアトロロシンE分散液とした。
【0090】
試料を、Hunterlab製のColorFlex EZでCIEL*a*b*値について測定して、着色力、彩度、及び色相角を比較した。
【0091】
【0092】
表6から分かるように、ミリング処理時間を長くするとL*値は低くなる。これは、試料がより暗くなることを意味する。色相角も減少して、より赤く見える。15分の試料と60分の試料との間にはかなり視覚的な違いがあり、60分の試料の方が明らかに暗い。
【0093】
実施例11:カルシウム又はマグネシウムを補充したアルミニウムアトロロシンレーキの製造
両性水酸化アルミニウムは、硫酸アルミニウムカリウム(AlK(SO4)2)*12H2Oを水酸化ナトリウム(NaOH)と混合することによって調製した。100mlのAlK(SO4)2*12H2Oは、20.3gを100mlの脱イオン水に溶解することによって調製した。溶液を80℃に加熱し、撹拌して、硫酸アルミニウムカリウムをすべて溶解させた。水酸化アルミニウムAl(OH)3は、生ぬるい100mlのAlKSO4及び150mLの1MのNaOH及び0.3mlの5MのHClを混合して、最終pHを10にすることによって調製した。
【0094】
アルミニウムアトロロシンE錯体は、水酸化アルミニウム溶液を可溶性アトロロシンE(100ml中20g)と混合することによって調製した。0.25Mの水酸化カルシウム又は0.08Mの水酸化マグネシウムスラリー(硫酸マグネシウム七水和物1mlあたり1g、NaOHでpH12に調整)を溶液に添加した。連続撹拌下、溶液を5MのHClでpH3.5に調整して、水酸化カルシウムを溶解させた。スラリーを50℃で1時間加熱し、続いて、室温で一晩恒温放置した。
【0095】
一晩相分離させた後、スラリーをWhatmanフィルタグレード50のフィルタでろ過した。余分な顔料がある場合は、水及びエタノールで簡単に濯いだ。ろ過後、レーキを乾燥させ、秤量した。実施例3に従ってミリング処理を行った。レーキの0.3%水溶液は、150mgを100gの水性フォンダン(12gの水に88gの粉糖を含むもの)に添加することによって調製した。
【0096】
フォンダンは、Hunterlab製のColorFlex EZでCIEL*a*b*値について測定して、着色力、彩度、及び色相角を比較した。
【0097】
【0098】
得られたレーキは、実施例7のアルミニウムレーキと比較して、異なる着色力を示し、別の色相角を有していた。補充されたレーキの色相角はどちらも、アルミニウムレーキのみと比較して、よりオレンジ色がかった色合いを有する。
【手続補正書】
【提出日】2024-09-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アトロロシンレーキを製造する方法であって、
a)NaCO
3を使用せずに金属水酸化物/酸化物を作製することによって、金属をプライミングして両性にする工程と、
b)pHを3.5~4.5の間にゆっくりと下げることによって、アトロロシン染料を金属イオンにカップリングさせる工程と、
c)例えばろ過又は(噴霧)乾燥によって、沈殿物と液体の相分離を行う工程と、
d)任意選択により、工程e)の前にレーキ材料を洗浄する工程と、
e)例えば、安定化剤を添加したアトロロシンレーキをミリング処理することによって、粒子サイズを小さくする工程と
を含む、方法。
【請求項2】
工程e)の粒子サイズを、粒子の少なくとも90%が20μm未満であるように小さくする、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1の記載の方法によって得られたアトロロシンレーキであって、
少なくとも1種の金属を含むアトロロシンレーキり、レーキの少なくとも50~95%が水性溶液中に分散したままである、アトロロシンレーキ。
【請求項4】
アトロロシン対金属の比が、モル基準で1:1~1:3の間である、請求項3に記載のアトロロシンレーキ。
【請求項5】
金属が、アルミニウム、銅、ニッケル、コバルト、又は亜鉛から選択される、請求項3に記載のアトロロシンレーキ。
【請求項6】
安定化剤をさらに含む、請求項3に記載のアトロロシンレーキ。
【請求項7】
安定化剤が、アラビアゴム、オクテニルコハク酸無水物(OSA)変性ワキシーデンプン、植物油、又は水である、請求項6に記載のアトロロシンレーキ。
【請求項8】
安定化剤溶液対アトロロシンレーキの比が、重量で10:1~1:10である、請求項6に記載のアトロロシンレーキ。
【請求項9】
少なくとも1種のアルカリ土類金属をさらに含む、請求項3に記載のアトロロシンレーキ。
【請求項10】
アルカリ土類金属が、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、及びバリウム(Ba)のいずれかである、請求項9に記載のアトロロシンレーキ。
【請求項11】
アルカリ土類金属が、マグネシウム(Mg)又はカルシウム(Ca)である、請求項9に記載のアトロロシンレーキ。
【請求項12】
請求項3に記載の分散されたレーキを含む、水性、油性、又は他の液体溶液。
【請求項13】
請求項
3から
11のいずれかに記載のレーキ、又は請求項
1もしくは
2に記載の方法によって作製されたレーキを含む、組成物。
【請求項14】
ペットフード、コーティング用インク、塗料、木材用ステインなどのステイン、化粧品、食品、消費財、プラスチック材料、又は食品用包装材のリストから選択される製品を作製するための、請求項
3から
11のいずれかに記載のレーキ、請求項
1もしくは
2に記載の方法によって作製されたレーキ、又は請求項13に記載の組成物の使用。
【請求項15】
請求項
3から
11のいずれかに記載のレーキを含む又はそれで着色された、あるいは請求項
1もしくは
2に記載の方法によって作製されたレーキを含む又はそれで着色された、あるいは請求項13に記載の組成物を含む又はそれで着色された、製品。
【国際調査報告】