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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】コーティングされた切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20241226BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20241226BHJP
   B23P 15/28 20060101ALI20241226BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B23B27/14 A
B23B27/20
B23P15/28 A
C23C14/06 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537318
(86)(22)【出願日】2022-10-10
(85)【翻訳文提出日】2024-08-09
(86)【国際出願番号】 EP2022078060
(87)【国際公開番号】W WO2023117172
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】21216688.8
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506297474
【氏名又は名称】ヴァルター アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】エンゲルハート, ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】シーア, ファイト
(72)【発明者】
【氏名】クルツァー, コルビニアン
(72)【発明者】
【氏名】セリンデル, トールビョルン
【テーマコード(参考)】
3C046
4K029
【Fターム(参考)】
3C046FF02
3C046FF10
3C046FF11
3C046FF20
3C046FF35
3C046FF38
3C046FF40
3C046FF41
3C046FF42
3C046HH06
4K029AA04
4K029BA58
4K029CA06
4K029DC39
(57)【要約】
本発明は、i)立方晶窒化ホウ素(cBN)と、TiC1-y(式中、0≦y≦1)を含む結合相とを含む基材であって、結合相が、e)エネルギー分散型X線分析(EDX)で測定される、基材中のTiに対するAlの正味強度比が0.50未満として表されるアルミニウム;および/またはf)基材中のTiに対するWの正味強度比が0.035未満として表されるタングステン;および/またはg)XRDで測定される、TiCN(200)ピークの正味ピーク高さに対するTiB(101)ピークの正味ピーク高さの比が0.09未満であるとして表される;および/またはh)XRDで測定される、TiCN(200)ピークの正味ピーク高さに対するα-アルミナ(116)ピークの正味ピーク高さの比が0.06未満であるとして表されるα-アルミナ(116)の不純物を含む結合相と、ii)元素の周期律表の第4族、第5族もしくは第6族に属する1つもしくは複数の元素の窒化物、または元素の周期律表の第4族、第5族もしくは第6族に属する1つもしくは複数の元素と一緒Alおよび/もしくはSiの窒化物から構成される少なくとも1つの窒化物を含む、基材上に堆積されたコーティングとを含むコーティングされた切削工具に関する。本発明はまた、そのようなコーティングされた切削工具をもたらすための方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)立方晶窒化ホウ素(cBN)と、TiC1-y(式中、0≦y≦1)を含む結合相とを含む基材であって、結合相が、
a)エネルギー分散型X線分析(EDX)で測定される、基材中のTiに対するAlの正味強度比が0.50未満として表されるアルミニウム;および/または
b)基材中のTiに対するWの正味強度比が0.035未満として表されるタングステン;および/または
c)XRDで測定される、TiCN(200)ピークの正味ピーク高さに対するTiB(101)ピークの正味ピーク高さの比が0.09未満であるとして表されるTiB(101);および/または
d)XRDで測定される、TiCN(200)ピークの正味ピーク高さに対するα-アルミナ(116)ピークの正味ピーク高さの比が0.06未満であるとして表されるα-アルミナ(116)
の不純物を含む基材と、
ii)元素の周期律表の第4族、第5族もしくは第6族に属する1つもしくは複数の元素の窒化物、または元素の周期律表の第4族、第5族もしくは第6族に属する1つもしくは複数の元素と一緒にAlおよび/もしくはSiの窒化物から構成される少なくとも1つの層を含む、基材上に堆積されたコーティングと
を含むコーティングされた切削工具。
【請求項2】
基材の表面が、交線法で測定される、表面積の少なくとも55%および95%未満である立方晶窒化ホウ素の被覆率を有する、請求項1に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項3】
基材中の立方晶窒化ホウ素の含有量が、基材の全体積に対して25~75体積%の範囲である、請求項1または2に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項4】
コーティングが、前記少なくとも1つの窒化物層上に堆積されたZrN層をさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項5】
カロテストで測定される、基材に対する窒化物層の接着性ρが<0.6である、請求項1から4のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項6】
支持体をさらに含み、前記基材および前記コーティングが、支持体に取り付けられた刃先チップを構成する、請求項1から5のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項7】
前記刃先チップが、支持体上のろう付けされたチップとして設けられている、請求項6に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項8】
前記刃先チップが、前記支持体と前記基材との間の領域を被覆しているろう付けジョイントを介して前記支持体にろう付けされている、請求項6または7に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項9】
コーティングされた切削工具の基材が、FIB-SEM断面により測定される、山谷間距離RzcBNが0.60~3μmの範囲であるとして表される粗さを有する、請求項1から8のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項10】
結合相が、
b.基材中のTiに対するWの正味強度比が0.035未満として表されるタングステン;および
d.XRDで測定される、TiCN(200)ピークの正味ピーク高さに対するα-アルミナ(116)ピークの正味ピーク高さの比が0.06未満であるとして表されるα-アルミナ(116)
の不純物を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項11】
基材上に堆積されたコーティングが、少なくとも1つのTiAlNの層を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具。
【請求項12】
i)立方晶窒化ホウ素(cBN)と、TiC1-y(式中、0≦y≦1)を含む結合相とを含む焼結された複合体をイオンエッチングによって、焼結された複合体の少なくとも200nmの平均表面除去に相当する少なくとも200nmの平均深さにすることにより、基材を用意することであって、結合相が、
a)エネルギー分散型X線分析(EDX)で測定される、基材中のTiに対するAlの正味強度比が0.50未満として表されるアルミニウム;および/または
b)エネルギー分散型X線分析(EDX)で測定される、基材中のTiに対するWの正味強度比が0.035未満として表されるタングステン;および/または
c)XRDで測定される、TiCN(200)ピークの正味ピーク高さに対するTiB(101)ピークの正味ピーク高さの比が0.09未満であるとして表されるTiB(101);および/または
d)XRDで測定される、TiCN(200)ピークの正味ピーク高さに対するα-アルミナ(116)ピークの正味ピーク高さの比が0.06未満であるとして表されるα-アルミナ(116)
の不純物を含む、基材を提供することと、
ii)元素の周期律表の第4族、第5族もしくは第6族に属する1つもしくは複数の元素の窒化物、または元素の周期律表の第4族、第5族もしくは第6族に属する1つもしくは複数の元素と一緒にAlおよび/もしくはSiの窒化物から構成される少なくとも1つの層を含む、基材上に堆積されたコーティングと
を含む、コーティングされた切削工具を作製する方法。
【請求項13】
イオンエッチングが、交線法で測定される、立方晶窒化ホウ素の表面被覆率が、表面積の少なくとも55%になることが得られるまで実施される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
イオンエッチングが、プラズマイオンエッチングによって実施される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
エッチングの時間が、60~120分、好ましくは60~100分の範囲である、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
焼結された複合体が、400~1200nmの平均深さにエッチングされる、請求項12から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
窒化物層が、高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)によって基材上に堆積される、請求項12から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
結合相が、
b.エネルギー分散型X線分析(EDX)で測定される、基材中のTiに対するWの正味強度比が0.035未満として表されるタングステン;および
d.XRDで測定される、TiCN(200)ピークの正味ピーク高さに対するα-アルミナ(116)ピークの正味ピーク高さの比が0.06未満であるとして表されるα-アルミナ(116)
の不純物を含む、請求項12から17のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立方晶窒化ホウ素(cBN)ベースの基材上にコーティングを含むコーティングされた切削工具、およびそれを作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特に硬化鋼、例えば硬化された玉軸受鋼を機械加工するための立方晶窒化ホウ素ベースの基材を有するコーティングされた切削工具は、当技術分野で周知である。従来から作製されている工具は、cBN粒子が、Ti(C,N)結合相中に分散されているcBNベースの基材を含む。Ti(C,N)結合相は、一般に、例えば、W化合物、TiBおよびα-アルミナといった不純物を含む。現在これは、靱性および耐摩耗性の低下をもたらすおそれがあることが見出されている。そのような不純物は、原材料の処理中に非意図的に配合もしくは添加されるか、またはcBN粒子および結合相が、焼結された複合体を製造するために高圧高温の条件にさらされると、焼結プロセス中に形成されることがある。cBNベースの基材中にそのような不純物を有する結合相を含有する焼結された複合体のその後の研削は、表面を傷つけ、基材に堆積したコーティングの接着性の低下をもたらすことが多い。
【0003】
PVDでコーティングされた基材は、コーティングされていない基材と比較して耐摩耗性特性が改善される利点があることが知られている。しかし、PVDコーティングの接着性は、必ずしも満足できるものではなく、寿命が限られている。当技術分野では、接着性を改善するために、基材と、非金属層、金属層、または相互拡散層を含むコーティングとの間に、中間層を用いることが教示されている。これは、PVDコーティングは、基材と直接接するようには基材上に堆積されないことを意味する。そのような中間層は、一般に弱く、したがって最適な結合強度にはならない。したがって、基材とコーティングとの間の接着性をさらに改善し、工具寿命を延ばすことが望ましい。このように、本発明の目的は、中間層を用いないコーティング、特にcBNベースの基材上に堆積された(Ti,Al)Nコーティング、例えば、PVD法で堆積されたコーティングの接着性を改善することである。本発明のさらなる目的は、コーティングされた切削工具に対して、改善された耐摩耗性、耐寿命および靱性を付与することである。さらなる目的は、コーティングへの工作物材料の拡散を低減させることである。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、
i)立方晶窒化ホウ素(cBN)と、TiC1-y(式中、0≦y≦1)を含む結合相とを含む基材であって、結合相が、
a)エネルギー分散型X線分析(EDX)で測定される、基材中のTiに対するAlの正味強度比が0.50未満として表されるアルミニウム;および/または
b)基材中のTiに対するWの正味強度比が0.035未満として表されるタングステン;および/または
c)XRDで測定される、TiCN(200)ピークの正味ピーク高さに対するTiB(101)ピークの正味ピーク高さの比が0.09未満であるとして表されるTiB;および/または
d)XRDで測定される、TiCN(200)ピークの正味ピーク高さに対するα-アルミナ(116)ピークの正味ピーク高さの比が0.06未満であるとして表されるα-アルミナ
の不純物を含む基材と、
ii)元素の周期律表の第4族、第5族もしくは第6族に属する1つもしくは複数の元素の窒化物、または元素の周期律表の第4族、第5族もしくは第6族に属する1つもしくは複数の元素と一緒にAlおよび/もしくはSiの窒化物から構成される少なくとも1つの層を含む、基材上に堆積されたコーティングと
を含むコーティングされた切削工具に関する。
【0005】
一実施形態によれば、結合相は、上述のように少なくともb)およびd)の不純物を含む。
【0006】
一実施形態によれば、基材中に含まれている立方晶窒化ホウ素は、基材の全体積に対して、20~75、例えば25~70または30~70、好ましくは40~70、最も好ましくは50~70または55~70体積%の範囲の量で存在する。本明細書で使用される用語TiCN(200)ピークは、TiCNが、TiC0.70.3であるとみなす。
【0007】
一実施形態によれば、基材中に含まれている少なくとも70体積%、好ましくは少なくとも80体積%、最も好ましくは少なくとも90体積%、または少なくとも95体積%またはすべての硬質材料は、立方晶窒化炭素(cBN)である。
【0008】
好ましくは、結合相は、TiC1-yを主成分とし、(式中、例えば、0.4≦y≦0.9または0.6≦y≦0.8)遷移金属炭化物、窒化物または炭窒化物の添加の可能性がある。一実施形態によれば、結合相は、80~100、より好ましくは90~95体積%のTiC1-yを含む(式中、y<1)。
【0009】
他の実施形態によれば、結合相は、80~100、より好ましくは90~95体積%のTiCを含む。
【0010】
一実施形態によれば、結合相は、80~100、より好ましくは90~95体積%のTiNを含む。
【0011】
一実施形態によれば、結合相中のcBNの粒子は、それぞれ、0.1~1.2μmおよび2~6μm、好ましくは0.2から0.6μmおよび3~5μmの範囲の平均粒子径の双峰性の粒度分布を有する。規定範囲の双峰性の粒度分布を用いて、靱性の向上が得られることがある。
【0012】
多くの従来の基材において、処理装置からのWおよび大気からのOまたは混合する液体を含む不純物は、原材料処理および複合体の焼結中に取り込まれ、少量のAlは、焼結助剤として通常添加される。このことは、焼結中の高温高圧条件にさらされると、不純物を含有するW、ならびに結合相中に形成される特にTiBおよびα-Alの形成の原因となる。
【0013】
詳細には、一定レベルのこれらの不純物は、基材に対するコーティングの接着性、ひいてはコーティングされた切削工具の工具寿命にも悪影響があることが見出された。
【0014】
一実施形態によれば、エネルギー分散型X線分析(EDX)で測定される、基材中のTiに対するOの正味強度比として表される不純物の酸素は、0.036未満であり、または0.030未満であり、または実質的に0であり、または0.005を上回り、または0.010を上回る、とはいえ本明細書で規定される任意の上限を下回る。
【0015】
一実施形態によれば、エネルギー分散型X線分析(EDX)で測定される、基材中のTiに対するWの正味強度比として表される不純物のタングステンは、0.030未満であり、または0.020未満であり、または0.010未満であり、例えば0.005未満であり、または0.0028未満であり、または0.0026未満であり、または実質的に0であり、または0.0010を上回る、または0.0015を上回る、とはいえ本明細書で規定される任意の上限を下回る。
【0016】
一実施形態によれば、エネルギー分散型X線分析(EDX)で測定される、基材中のTiに対するAlの正味強度比として表される不純物のアルミニウムは、0.49未満であり、または0.48未満であり、または0.47未満であり、または0.46未満であり、または実質的に0であり、または0.05を上回る、または0.20を上回る、または0.30を上回る、とはいえ本明細書で規定される任意の上限を下回る。
【0017】
本発明による基材のXRD測定は、事実上TiBの反射がなく、α-アルミナからの回折が弱いことは、焼結された複合体に対して起こり、焼結された複合体はTiBの含有量がない、または実質的にTiBの含有量がない、かつα-アルミナの含有量がわずかであることを意味することを示した。
【0018】
一実施形態によれば、XRDで測定される、TiCN(200)ピークの正味ピーク高さに対するTiB(101)ピークの正味ピーク高さの比として表されるTiBは、0.07未満、または0.05未満または0.03未満であり、またはより好ましくは0.02未満であり、または実質的に0であり、または0.005を上回るが、本明細書で規定される任意の上限を下回る。
【0019】
一実施形態によれば、XRDで測定される、TiCN(200)ピークの正味ピーク高さに対するα-アルミナ(116)ピークの正味ピーク高さの比として表されるα-アルミナは、0.056未満または0.055未満または0.054未満または0.053未満または0.052未満または0.051未満または0.050未満または0.040未満であり、または実質的に0であり、または0.01を上回り、または0.02を上回るが、本明細書で規定される任意の上限を下回る。
【0020】
一実施形態によれば、FIB-SEM断面により山谷間高さ測定(Peak-to-Valley height measurement)によって測定される、基材の表面粗さRzcBNは、0.60μm~3μm、好ましくは0.60μm~1.5μm、最も好ましくは0.75μm~1.00μmの範囲である。
【0021】
一実施形態によれば、基材の表面は、交線法(line intersecting method)で測定される、表面積の少なくとも55%および95%未満である立方晶窒化ホウ素の被覆率を有する。
【0022】
一実施形態によれば、基材の表面は、交線法で測定される、表面積の多くても95%、例えば多くても90%または多くても85%または多くても80%または多くても75%である立方晶窒化ホウ素の被覆率を有する。
【0023】
一実施形態によれば、基材表面の硬度は、2,200~3,000、好ましくは2,500~2,800、最も好ましくは2,600~2,700ビッカースの範囲である。硬度は、基材の刃先に沿って、最大荷重が2mNで100回測定することで算出される。
【0024】
一実施形態によれば、押し込み係数(indentation module)EITは、500~700GPa、好ましくは530~600GPaの範囲である。
【0025】
一実施形態によれば、結合相の含有量は、基材の全体積に対して25~75体積%の範囲である。
【0026】
一実施形態によれば、コーティングされた切削工具は、コーティングされた支持体をさらに備え、本明細書で規定される基材およびコーティングは、支持体に取り付けられた刃先チップを構成する。
【0027】
一実施形態によれば、刃先チップは、支持体上のろう付けされたチップとして設けられている。
【0028】
一実施形態によれば、刃先チップは、上記支持体と上記基材との間の領域を被覆しているろう付けジョイントを介して上記支持体にろう付けされている。
【0029】
本明細書で使用される用語「焼結された複合体」は、TiC1-yを含む結合相および少なくとも立方晶窒化ホウ素(cBN)の硬質材料から構成される任意の焼結体を含むものとする。好ましくは、「焼結された複合体」は、精密に研削され、例えば、当技術分野で周知のようにデジタル制御された精密な研削機を用いるダイヤモンド研削砥石、または基材を形成する他の既知の方法、例えばレーザ製造によって、基材を形成する。基材を形成する研削プロセスまたは他の方法において、cBNの焼結された複合体の表面は、cBN粒子のチッピングで、または結合相のスミアリングで、例えば靱性またはコーティング密着性が損失するまで損傷を受けることが度々ある。
【0030】
好ましい一実施形態において、基材は、研削前に、ろう付けまたは焼結によって支持体に取り付けられる。一実施形態によれば、支持体は、1つまたは複数のさらなる硬質な材料、例えばタングステンカーバイド(WC)を含んでもよい。
【0031】
焼結された複合体の状況での用語「表面」は、堆積されたコーティングと接触する表面から焼結された複合体のバルクに対して垂直に延在しているゾーンを含むものとする。ゾーンの厚みは、研磨材料の粒子径と比較され得、例えば、最大で約3,000nmもしくは1,500nm、例えば最大で1,200nmもしくは500nmまたは最大で200nmになることがある。
【0032】
一実施形態によれば、上記少なくとも1つの窒化物層は、好ましくはCrN、TiN、CrAlN、TiAlN、NbN、TiSiN、より好ましくはCrN、CrAlN、TiAlN、NbN、およびTiSiN、ならびに最も好ましくはTiAlNまたはTiAl1-xNとして表されることが望ましい(式中、xは、0.3から0.7の範囲である)。
【0033】
一実施形態によれば、コーティングは、上記少なくとも1つの窒化物層上に堆積されたZrN層をさらに含む。
【0034】
一実施形態によれば、カロテストで測定される、基材に対する上記少なくとも1つの窒化物層の接着性ρは、<0.6、好ましくは<0.5または<0.35または<0.2である。
【0035】
一実施形態によれば、上記少なくとも1つの窒化物、例えば(Ti,Al)N層の粒子は、柱状粒子の平均幅を有し、(Ti,Al)N層の下側接触面から最大で2μm、すなわち基材表面から2μm、80~250nm、好ましくは80~175nm、最も好ましくは100~150nmの距離で測定される。
【0036】
一実施形態によれば、上記少なくとも1つの窒化物、例えば(Ti,Al)Nは、0.1~15μm、例えば0.5~10μm、好ましくは1~6μm、最も好ましくは2~4μmまたは2~3μmの厚みを有する。
【0037】
一実施形態によれば、上記少なくとも1つの窒化物の多層中の副層タイプ、例えば多層中の(Ti,Al)N副層タイプは、好ましくは、1~100nm、好ましくは1.5~50nm、最も好ましくは2~20nmの平均厚みを有する。
【0038】
一実施形態によれば、異なる窒化物副層タイプ、例えば(Ti,Al)N副層タイプにおいて、異なる(Ti,Al)N副層タイプ間の平均厚みの比は、0.5~2、好ましくは0.75から1.5である。
【0039】
一実施形態によれば、窒化物層、例えば(Ti,Al)N層は、≧3000HV(15mN荷重)、好ましくは3,500~4,200HV(15mN荷重)のビッカース硬度を有する。硬度測定は、15mNの最大荷重でビッカースピラミッドを用いる、硬度測定装置PICODENTOR(商標登録)HM500(HelmutFischerGmbH、Sindelfingen-Maichingen、Germany)によって、20秒の負荷持続時間および負荷軽減持続時間ならびに5秒の荷重保持持続時間で実施された。測定の評価は、オリバー・ファー法(Oliver-Pharr method)に従って行われた。
【0040】
一実施形態によれば、コーティングは、単一のモノリシック層、または、例えば、1~100nmの範囲である平均厚みを有することがある副層のそれらの組成物が異なる2つ以上の交互の(Ti,Al)N副層タイプの多層のどちらか一方である(Ti,Al)N層を含む。
【0041】
一実施形態によれば、(Ti,Al)Nの粒子は、柱状であり、(Ti,Al)N層の増加する厚みのある増加する(Ti,Al)Nの粒子幅を有することが好ましい。
【0042】
本発明は、
i)立方晶窒化ホウ素(cBN)と、TiC1-yを含む結合相とを含む焼結された複合体をイオンエッチングによって、焼結された複合体の少なくとも200nmの平均表面除去に相当する少なくとも200nmの平均深さにすることにより、基材を用意することであって、結合相が、
a)エネルギー分散型X線分析(EDX)で測定される、基材中のTiに対するAlの正味強度比が0.50未満として表されるアルミニウム;および/または
b)基材中のTiに対するWの正味強度比が0.035未満として表されるタングステン;および/または
c)XRDで測定される、TiCN(200)ピークの正味ピーク高さに対するTiB(101)ピークの正味ピーク高さの比が0.09未満であるとして表されるTiB;および/または
d)XRDで測定される、TiCN(200)ピークの正味ピーク高さに対するα-アルミナ(116)ピークの正味ピーク高さの比が0.06未満であるとして表されるα-アルミナ
の不純物を含む、基材を用意することと、
ii)元素の周期律表の第4族、第5族もしくは第6族に属する1つもしくは複数の元素の窒化物、または元素の周期律表の第4族、第5族もしくは第6族に属する1つもしくは複数の元素と一緒にAlおよび/もしくはSiの窒化物から構成される少なくとも1つの層を含む、基材上に堆積されたコーティングと
を含む、コーティングされた切削工具を作製する方法に関する。
【0043】
一実施形態によれば、結合相は、b)およびd)の不純物を含む。
【0044】
一実施形態によれば、交線法で測定される、立方晶窒化ホウ素の表面被覆率は、表面積の少なくとも55%、例えば、少なくとも65%または少なくとも75%である。
【0045】
一実施形態によれば、交線法で測定される、基材の表面は、立方晶窒化ホウ素の被覆率が、依然として表面積の多くても95%、例えば多くても90%または多くても85%または多くても80%または多くても75%であるような程度に、イオンエッチングされている。
【0046】
一実施形態によれば、イオンエッチングは、プラズマイオンエッチングによって実施される。
【0047】
一実施形態によれば、イオンエッチングの時間は、30~300分、例えば60分~200分または60~150分または90~150分の範囲である。一実施形態によれば、エッチングの時間は、60~120分の範囲である。
【0048】
一実施形態によれば、焼結された複合体は、平均深さ>200nm、好ましくは200~1,500nm、より好ましくは400~1,200nm、最も好ましくは600~1,000nm、例えば700~900nmにエッチングされている。
【0049】
一実施形態によれば、上記窒化物から構成される少なくとも1つの層は、高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)によって基材上に堆積されている。
【0050】
一実施形態によれば、コーティングは、PVD法、例えば陰極スパッタリング(スパッタ堆積)、陰極の真空アーク蒸着(アークPVD)、イオンプレーティング、電子ビーム蒸着およびレーザアブレーションで基材上に堆積されている。陰極スパッタリング、例えばマグネトロンスパッタリング、反応性マグネトロンスパッタリングおよび高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)ならびにアーク蒸着堆積は、コーティングの堆積用に使用され得る切削工具のコーティングのための最も高い頻度で使用されるPVDプロセスの一部である。一実施形態によれば、コーティングは、高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)によって堆積されることが好ましい。
【0051】
高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)において、マグネトロンは、パルスモードにおいて高い電流密度で操作され、さらに密な層の形で、詳細にはスパッタリングされた材料の改善されたイオン化に起因して、改善された層構造をもたらす。HIPIMSプロセスにおける標的の電流密度は、通常、標準的なDC-MSの電流密度を上回る。材料に応じて、HIPIMSによってスパッタリングされた粒子の最大で100%のイオン化は、達成され得る。同時に、標的に作用する短期高電力および放電電流密度は、それぞれ、成長メカニズムおよび下の材料に対する層の結合を変化させ得るイオン化の程度の向上を付与し、その結果、層特性への影響力を有する。
【0052】
HIPIMSプロセスにおける、微細な結晶さらには柱状の結晶層構造も実現され得、DC-MS層と比較して、それに関連した改善された摩耗挙動およびより長い耐用年数で特徴付けられる。
【0053】
一実施形態によれば、ZrN層は、上記の少なくとも1つの窒化物層、例えば(Ti,Al)N層上に堆積されてもよく、ZrNの単層または重なり合って配置された複数の層からなってもよい。しかしながら、被覆層が、重なり合って配置されたZrNの複数の層からなる場合、これらは、1つまたは複数のZr標的から堆積されるが、異なる堆積パラメータを有するHIPIMSプロセスの複数の工程において堆積される。
【0054】
一実施形態によれば、1nm~700nm、好ましくは100nm~300nmの全厚を有するZrNの1つまたは複数の層は、窒化物から構成される少なくとも1つの上記層、例えば(Ti,Al)N層上に堆積される。
【0055】
ZrN層は、装飾機能を有することがあるが、摩耗検出としても機能することがあり、したがって、その摩耗度で工具が、すでに使用されたかどうか、使用されたときのその摩耗度を示す。Zr層上に配置される層がこれ以上ない場合、ZrN被覆層は、工具を黄金色にし、この色は、HIPIMSプロセスパラメータの調整により異なる色合いの間で変化させられ得る。例えば、黄金色の色合いの輝度は、HIPIMSプロセスにおける窒素分圧をそれぞれ調整することで変化させられ得る。HIPIMSプロセスにおけるZrN層の堆積は、TiAlN層と同様、被覆層に対する機能層の堆積に由来するプロセス制御の観点から利点を有する。さらに、ZrN層の提供は、詳細には、例えば航空宇宙産業および機械加工のステンレス鋼において使用されているチタン合金の機械加工において摩擦化学的利点を有する。ZrN層の堆積のために、ZrN層のために堆積される材料からなるスパッタリング標的に印加する必要がない。
【0056】
好ましくは、TiAlNは、プロセスの第1の部分および第2の部分の間に窒素ガスの分圧を変えることで堆積され、それにより窒素は、プロセスの第2の部分の間はより高分圧を有し、かつプロセスの第1の部分の間はより低分圧を有する。WO2016/128504は、TiAlNがどのように堆積されることができるのか、本発明において適用されることもできるのかというプロセス条件をさらに開示する。
【0057】
一実施形態によれば、任意のコーティング層の堆積は、>0.2kW/cm、好ましくは>0.4kW/cm、最も好ましくは>0.7kW/cmのピーク電力密度、好ましくは>0.2A/cm、より好ましくは>0.3A/cm、最も好ましくは>0.4A/cmのピーク電流密度;ならびに好ましくは≧1,000Vからの最大ピーク電圧で実施される。
【0058】
一実施形態によれば、(Ti,Al)N層および任意選択で任意の追加層は、高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)によって堆積され、電気パルスは、堆積される材料からなるそれぞれのスパッタリング標的にコーティングチャンバー内で印加され、電気パルスは、≧1,000W/cmのパルスにおいて最大出力密度を上回るエネルギーの量をスパッタリング標的に伝達する。
【0059】
さらなる実施形態では、窒化物層例えば(Ti,Al)N層および任意のさらなる(Ti,Al)N層上に堆積された層は、高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)によって印加され、それにより電気パルスは、堆積される材料からなるそれぞれのスパッタリング標的に、コーティングチャンバー内で印加され、電気パルスは、≧1A/cm、好ましくは≧3A/cmのパルスの放電電流密度を有する。
【0060】
一実施形態によれば、最大ピーク電圧は、1,000~3,000V、好ましくは1,500~2,500Vの範囲である。
【0061】
一実施形態によれば、マグネトロンスパッタリング中の基材温度は、350~600℃、または400~500℃であることが好ましい。
【0062】
一実施形態によれば、HIPIMSプロセスに用いられるDCバイアス電圧は、20~150V、好ましくは30~100Vである。
【0063】
一実施形態によれば、HIPIMSプロセスにおける平均出力密度は、20~100W・cm-2、好ましくは30~75W・cm-2の範囲である。
【0064】
一実施形態によれば、HIPIMSプロセスに用いられるパルス長は、2μs~200ms、好ましくは10μs~100ms、より好ましくは20μs~20ms、最も好ましくは40μs~1msの範囲である。
【0065】
一実施形態によれば、切削工具は、インサート、ドリルまたはエンドミルである。
【0066】
本発明はまた、硬化鋼、例えば、玉軸受鋼または40HRcよりも高い、好ましくは55HRcよりも高い、最も好ましくは59HRcよりも高い硬度を有する他の硬化鋼を機械加工するためのコーティングされた切削工具の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1】カロテストの模式図である。
図2】カロテスト後の基材とコーティングとの間の境界線を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0068】
方法
EDX:cBN基材の結合相中のアルミニウム、酸素、およびタングステンの含有量は、エネルギー分散型X線分光法(EDX)分析で、チタン含有量に対する正味強度比として推定され、示された。結合相分析は、15keVの電子エネルギーを用いる走査型電子顕微鏡、およびOctanePlusX線検出器(MnKピークでのエネルギー分解能130eV、検出エリア10mm、ペルチェ冷却)が付いたEDAX分析システムを用いることで、金属組織用の研磨片で行われた。W、OおよびAlの正味の積分されたそれぞれのピーク強度は、チタン含有量に対する正味強度比としてそれぞれの元素W、OおよびAlの含有量を示すために、正味の積分されたTiピークと分離された。
【0069】
XRD(SeifertGE3003PTS、CuX線源、ポリキャピラリーピンホール(polycapillary pinhole)1mm、平行平板コリメーター0.4°、エネルギー分散型検出器Meteor0D);TiCN結合相中の不純物相AlおよびTiBの含有量を推定するために、X線回折データは、Bragg-Brentanoジオメトリで記録された。α-アルミナ(116)ピークおよびTiB(101)ピークの正味ピーク高さは、TiCN(200)ピークの正味ピーク高さで除算され、結合相の不純物相含有量の測定として不純物相の相対ピーク高さ比を得た。
【0070】
カロ分析:
カロテストは、図1に示されているように、回転金属小球(3)による研削によってコーティングに研削痕(=カロ)を作ることによって実施された。カロから光学顕微鏡像を入手する。金属小球(3)は、磁石で固定されたインサートと軸との間に位置する。軸の回転により小球(3)が回転し、1μmのダイヤモンドサスペンションを用いて研削によってコーティングに穴が作られる。軸の回転速度および研削時間は、基材(1)が、カロの中心に露出するようになるまでコーティングを貫通する穴が生じるように選択される。基材(1)とコーティング(2)との間の鮮明な境界線は、良好な接着性を示す。コーティング(2)と基材(1)との間のズタズタな境界線は、不良な接着性を示す。
【0071】
目に見える最も深い基材の直径は、約d=200μm~450μmの範囲内であった。測定は、コーナーに近い、それぞれのエッジから約1mm離れたところで実施された。接着性の品質を判定するとき、半径r1およびr2は、測定された。r1は、半径r2の、基材とコーティングとの接触面から距離tにあるコーティングの半径に対応する。r1およびr2の測定、ならびに回転する小球Rの半径(本発明の実施例では1.5cm)を知ることで、半径r2から半径r1までの、基材とコーティングの接触面から垂直に延在している厚みtは、式(1)に従って計算され得る(図1および2を参照)。
t=sqrt(R-r1)-sqrt(R-r2) (1)
【0072】
半径r2は、半径r1およびr2によって囲まれているように、剥がれた材料の面積を実測することで算出された。
【0073】
全コーティングの全厚みは、半径r3とr2の差に対応し、すなわち以下のとおりである。
total coating=r3-r2 (2)
【0074】
形成されたカロ円のサイズと無関係である比ρは、コーティングのr3に対応する全厚みで除算したr2のコーティング厚みとして定義され、すなわち以下のとおりである。
ρ=t/t全コーティング (3)
【0075】
ρの値が低いほど、接着性は良い。
【0076】
交線法:
コーティングされていない基材上のcBN粒子の表面被覆率は、走査型電子顕微鏡写真の適切な倍率、例えば2,000倍で、長さを測定する60μmの線を引くこと、およびその後にcBN粒子を二等分するすべての線分をマーキングすることで推定された。次に、これらのすべての線分の組み合わされた長さは、加算され、全線長さで除算され、cBN被覆率数が得られた。合計5つの線が引かれ、cBN粒子の表面被覆率は、5つのcBN被覆率数の平均として計算された。
【0077】
断面分析:
Zeiss Crossbeam 540 FIB(集束イオンビーム分析)装置は、Gaイオンを用いるイオンビームミリングでcBN基材の断面を製造するために使用された。基材の表面粗さは、25.3μmの測定長さを超える断面における基材表面と垂直な山谷間距離RzcBNの測定で算出された。測定(高さ測定)のために使用される山および谷は、測定された長さの中でそれぞれ最も高い山および最も低い谷に相当する。
【実施例
【0078】
実施例1
以下で規定するとおり、市販の基材、Element SixからのDHA650およびIljin DiamondからのSBS600は、イオンエッチング、およびその次に表6に記載されているプロセス条件でのコーティング工程によって処理した。イオンエッチングを、Oerlikon Balzers Ingeniaシステムで実施した。イオンエッチング速度は、エッチングしたすべての試料で7.5nm/minとした。
装置タイプ: Balzers Ingenia S3P
温度: 430℃
バイアス電圧:200V
基材回転: 50%
アルゴン: 570sccm
出力: 2×15kW
Tパルス: 0.05m秒
【0079】
基材:
DHA650:65体積%のcBNならびに35体積%のTiCNベースの結合相(TiC0.70.3)および不可避的不純物を組み合わせたもの。EDXで測定される、不純物のTiに対する不純物正味強度比は、次のとおりであった:
【0080】
XRDで測定される、不純物相相対ピーク高さは、次のとおりであった:
【0081】
および、cBN粒子の表面被覆率は、線交差法(line intersection method)で、次のとおり測定された(結果%単位):
【0082】
SBS600(参照の基材):60体積%のcBNならびに40体積%のTiCNベースの結合相および不可避的不純物を組み合わせたもの。Tiに対する不純物正味強度比は、次のとおりであった:
【0083】
XRDで測定される、不純物相相対ピーク高さは、次のとおりであった:
【0084】
コーティング:
W:(Ti40Al60)N/ZrN
T:(Ti40Al60)N/(Ti75Si25)N
【0085】
62HRcまで通し焼き入れされた100CrMo7-3スチールの連続回転中に、コーティングされた切削工具の性能を評価した。切削速度は220m/分、切り込み深さは0.2mm、送り量0.15mm/revであった。逃げ面の摩耗痕を測定し、工具寿命の終期を、逃げ面摩耗がv=0.20mmに達したときと設定した。
【0086】
表1で言及され得るように、本発明DHA650/W(イオンエッチング時間70分)の工具寿命は、19分の工具寿命を有するDHA650/T(イオンエッチング時間15分)と比較し得る28分であった。TおよびWのコーティングの両方とも、基材DHA650上に堆積された同じTi40Al60N層を有しているので、WおよびTのコーティングは、十分に同等であった。その結果、処理された基材と直接接触するTi40Al60N層を有するWおよびTのコーティングの両方にとって、同じ処理で同じ接着性が得られることとなった。したがって、9分のより長い工具寿命の差(47%の増加)を、15分の指定されたイオンエッチング速度ではなく(112.5nm平均エッチング深さ)、70分(525nmの平均エッチング深さに対応する)でDHA650基材をイオンエッチングすることで得た。より長いイオンエッチング時間で基材を露光するとき、向上した接着性を得たことに起因して工具寿命の延長を実現した。
【0087】
さらに上記の効果は、比較例のSBS600基材/Tコーティング(参照)よりも、DHA650基材/Wコーティング(発明)に生じたフレーキングが少ないことであった。
【0088】
カロテストにおいて、参照のSBS600/Tでは測定ρ値が2/3であったこととは対照的に、DHA650/W(本発明による)では1/6の測定ρ値が得られ、接着の改善が認められた。当業者であれば、TiCN結合相、すなわち増強されたcBN被覆率を有する基材表面上で得られた接着性と比較して、cBN材料上に堆積されたコーティングの接着性が弱いことを予測したであろうから、エッチング深さの向上(一定のエッチング速度でのより長いエッチング時間の直接の影響として)に続き、かつ本発明のより高いcBN表面被覆率に付随した、より長い工具寿命および改善された接着性は、驚くべきことであった。
【0089】
刃先に沿っての最大荷重が2mNの測定を100回行うことで得られたエッチングされた基材表面の硬度は、以下のとおりであった:
15分エッチング EIT=456GPa HV=2,145ビッカース
105分エッチング EIT=560GPa HV=2,650ビッカース
【0090】
エッチング効果は、逃げ面、レーキおよびエッジで均一であった。
図1
図2
【国際調査報告】