(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】細胞へのRNAの送達のためのアルファレトロウイルスをベースとする粒子
(51)【国際特許分類】
C12N 7/01 20060101AFI20241226BHJP
C12N 15/40 20060101ALI20241226BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20241226BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241226BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241226BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20241226BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20241226BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
C12N15/40
C12N15/113 Z
C12N5/10
A61K48/00
A61K35/76
A61K31/7105
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537348
(86)(22)【出願日】2022-12-21
(85)【翻訳文提出日】2024-08-06
(86)【国際出願番号】 EP2022087224
(87)【国際公開番号】W WO2023118290
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515195668
【氏名又は名称】メディツィーニシェ・ホーホシューレ・ハノーファー
【氏名又は名称原語表記】Medizinische Hochschule Hannover
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】シャムバッハ・アクセル
(72)【発明者】
【氏名】ガラ・メラニー
(72)【発明者】
【氏名】バロン・イヴォンヌ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA97X
4B065AA98Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA23
4B065CA44
4B065CA60
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZB21
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
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4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB21
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB21
(57)【要約】
新規アルファレトロウイルスベースの粒子は、動物細胞、例えばヒトまたはマウス細胞に高効率で一過的に形質導入するために好適であり、これは、アルファレトロウイルスベースの粒子中に含有されるコードおよび非コードRNAを標的細胞へ効率的に導入する。また、アルファレトロウイルスベースの粒子は、入ってくるRNAがその間に分解されないように保護するので、この粒子は、動物細胞へ導入されるRNAの高効率の活性および/または完全性を提供する。転移されるRNAは、非コード性のRNA(例えば、シングルガイド(sg)RNA、低分子ヘアピン(sh)RNA、マイクロRNAもしくは長鎖非コード(lnc)RNA)であってもよく、またはRNAは、タンパク質もしくはペプチド、例えば受容体、転写因子、細胞の酵素、ワクチン接種における使用のための抗原、遺伝子/タンパク質療法および/もしくは遺伝子編集ヌクレアーゼ、リコンビナーゼおよびトランスポザーゼをコードしてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MA-p2-p10-CA-NC-PRからなるアルファレトロウイルスドメイン、7~25個のアミノ酸のリンカーおよび少なくとも2つのMS2コートタンパク質(2xMS2CP)を含むタンパク質成分、シュードタイピングタンパク質、ならびに前記タンパク質成分と会合した、少なくとも1つの標的部位(TS)に連結された目的の遺伝子をコードする少なくとも1つのRNA構築物を含む、アルファレトロウイルスをベースとする(Gag.MS2)粒子。
【請求項2】
前記タンパク質成分が、MA-p2-p10-CA-NCからなることを特徴とする、請求項1に記載のアルファレトロウイルスをベースとする粒子。
【請求項3】
前記アルファレトロウイルスドメインが、前記リンカーの加水分解によって、前記少なくとも2つのMS2コートタンパク質から分離されることを特徴とする、請求項1または2に記載のアルファレトロウイルスをベースとする粒子。
【請求項4】
前記アルファレトロウイルスドメインの各々の間に、プロテアーゼ部位が配置されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一つに記載のアルファレトロウイルスをベースとする粒子。
【請求項5】
アルファレトロウイルスドメインと少なくとも2つのMS2ドメインとの間の前記リンカーが、ウイルスプロテアーゼ部位であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一つに記載のアルファレトロウイルスをベースとする粒子。
【請求項6】
前記アルファレトロウイルスドメインが、配列番号12のヌクレオチド1462~3573番によってコードされるアミノ酸配列(MA-p2-p10-CA-NC-PR)と、または配列番号1のヌクレオチド1462~3186番によってコードされるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有し、
前記7~25個のアミノ酸のリンカーが、配列番号1のヌクレオチド3187~3207番によってコードされるアミノ酸配列と、もしくは配列番号12のヌクレオチド3574~3594番によってコードされるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有するか、またはグリシンリンカーであり、
前記少なくとも2つのMS2コートタンパク質が、配列番号12のヌクレオチド3613~4389番によってコードされるアミノ酸配列と、または配列番号1のヌクレオチド3223~3999番によってコードされるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、
ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一つに記載のアルファレトロウイルスをベースとする粒子。
【請求項7】
前記RNA構築物が、コードおよび/もしくは非コードRNAを含むか、または自己増幅RNAレプリコンを含有し、前記RNA構築物が、少なくとも1つの標的部位(TS)に連結されたシングルガイド(sg)RNA、低分子ヘアピン(sh)RNA、マイクロRNA、shRNA/miRNAハイブリッド、自己増幅RNAレプリコン、DNAリコンビナーゼのコード配列、酵素のコード配列、受容体のコード配列、転写因子のコード配列、遺伝子編集ヌクレアーゼ、リコンビナーゼ、トランスポゾンのコード配列、抗原のコード配列、またはこれらのうちの少なくとも2つの組合せから選択されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一つに記載のアルファレトロウイルスをベースとする粒子。
【請求項8】
前記RNA構築物が、非コードRNAであり、その3’末端にポリTストレッチが連結されていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一つに記載のアルファレトロウイルスをベースとする粒子。
【請求項9】
各々が少なくとも1つの標的部位(TS)に連結された、少なくとも2つの異なるsgRNAを含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一つに記載のアルファレトロウイルスをベースとする粒子。
【請求項10】
前記RNA構築物が、少なくとも2つの標的部位(TS)と共に組み込まれたsgRNAを含有し、前記標的部位が、60~40ヌクレオチド分間隔をあけられ、前記sgRNAが、2つのTSドメインのヘアピンセクション間に配置されるか、または前記RNA構築物が、直接隣り合う少なくとも2つの標的部位(TS)の5’に配置されるsgRNAを含有することを特徴とする、請求項1~9のいずれか一つに記載のアルファレトロウイルスをベースとする粒子。
【請求項11】
前記標的部位(TS)が、配列番号2のヌクレオチド1943~1965および/またはヌクレオチド1982~2004、配列番号3のヌクレオチド1681~1701および/またはヌクレオチド1751~1771、配列番号14のヌクレオチド1755~1775および/またはヌクレオチド1794~1814、配列番号5のヌクレオチド5697~5719および/またはヌクレオチド5736~5758、配列番号6のヌクレオチド2337~2359および/またはヌクレオチド2376~2398から選択される少なくとも1つの配列と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%のヌクレオチド配列を有し、前記2xMS2CPが、配列番号1のヌクレオチド3223~3999番によってコードされるアミノ酸配列と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の同一性を有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一つに記載のアルファレトロウイルスをベースとする粒子。
【請求項12】
医学的治療における使用のための、請求項1~11のいずれか一つに記載のアルファレトロウイルスをベースとする粒子。
【請求項13】
エンベロープ糖タンパク質でシュードタイプ化され、このことにより、前記粒子を特定の細胞タイプに標的化させ、その標的範囲を導き得ることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一つに記載のアルファレトロウイルスをベースとする粒子。
【請求項14】
少なくとも1つのRNA構築物を、細胞へ導入するための、請求項1~13のいずれか一つに記載のアルファレトロウイルスをベースとする粒子の使用。
【請求項15】
プロデューサー細胞において、N末端からC末端へとアルファレトロウイルスMA-p2-p10-CA-NCまたはMA-p2-p10-CA-NC-PR、リンカー、および少なくとも1つのMS2コートタンパク質二量体(2xMS2CP)を含むかまたはこれらからなるタンパク質成分を発現させること、ならびにシュードタイピングタンパク質を発現させること、ならびに少なくとも1つの標的部位(TS)に連結された目的の遺伝子をコードする少なくとも1つのRNA構築物を発現させることによる、請求項1~10のいずれか一つに記載のアルファレトロウイルスをベースとする粒子を製造するための方法。
【請求項16】
前記タンパク質が、そのプロテアーゼ部位においてタンパク質分解されて、アルファレトロウイルスドメインを、前記少なくとも1つのMS2コートタンパク質から分離することを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞、例えばヒトまたはマウス細胞に高効率で一過的に形質導入するために好適であり、アルファレトロウイルスベースの粒子中に含有されるコードおよび非コードRNAを標的細胞へ効率的に導入するアルファレトロウイルスベースの粒子を提供する。また、アルファレトロウイルスベースの粒子は、進入するRNAが進入中に分解されないように保護するので、この粒子は、動物細胞へ導入されるRNAの高効率の活性および/または完全性を提供する。転移されるRNAは、非コード性のRNA(例えば、シングルガイド(sg)RNA、低分子ヘアピン(sh)RNA、マイクロRNAもしくは長鎖非コード(lnc)RNA)であってもよく、またはRNAは、タンパク質もしくはペプチド、例えば受容体、転写因子、細胞の酵素、ワクチン接種に使用するための抗原、遺伝子/タンパク質療法および/もしくは遺伝子編集ヌクレアーゼ、リコンビナーゼおよびトランスポザーゼをコードしてもよい。加えて、転移されるRNAは、言及されるRNAクラスのいずれかをコードする自己増幅RNAレプリコンであってもよい。アルファレトロウイルスベースの粒子は、少なくとも1つ、例えば少なくとも2または3つのRNA構築物を含有してもよく、RNA構築物は、コードもしくは非コードRNAまたはこれら両方の組合せからなり得る。遺伝子編集ヌクレアーゼは、例えば、転写アクチベーター様エフェクター(TALEN)、亜鉛フィンガー(ZFN)、および好ましくはRNAによりガイドされるCRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)/CRISPR関連(Cas)ヌクレアーゼ、とりわけCRISPR/Cas9から、またsgRNAと組み合わせて、選択され得る。リコンビナーゼは、例えば、Cre、Dre、Tre、Brec、Flpリコンビナーゼから選択され得、トランスポザーゼは、例えば、Sleeping Beauty、PiggyBacトランスポゾンから選択され得る。
【背景技術】
【0002】
Knoppら、Mol. Ther. Nucleic Acids 13、256~274頁 (2018)、「Transient retrovirus-based CRISPR/Cas9 All-in-One Particles for efficient, targeted gene knock-out」(非特許文献1)は、ヒトおよびマウス細胞を遺伝子操作するためのCRISPR/Cas9 RNAを送達するガンマレトロウイルスベースの粒子を説明する。
【0003】
Hoffmann D.ら、Detailed comparison of retroviral vectors and promoter configurations for stable and high transgene expression in human induced pluripotent stem cells、Gene Ther. 2017年5月;24(5):298~307頁(非特許文献2)は、EGFPについてのレポーター遺伝子構築物(ベクター名称=RRL.PPT.EFS.EGFP.PRE)を説明する。
【0004】
Heckl D、Kowalczyk MS、Yudovich D、Belizaire R、Puram RV、McConkey ME、Thielke A、Aster JC、Regev A、Ebert BL. Generation of mouse models of myeloid malignancy with combinatorial genetic lesions using CRISPR-Cas9 genome editing. Nat Biotechnol. 2014年9月;32(9):941~6頁(非特許文献3)は、Tet2についてのRFP657.Tet2レポーター遺伝子構築物を含有するベクター(ベクター名称=LKO5d.SFFV.tRFP657(Tet2.4).iPAC)を説明する。
【0005】
Galla、Schambach、Baum、Synthetic Messenger RNA and Cell Metabolism Modulation: Methods and Protocols, Methods in Molecular Biology 969巻 (2013)、Rabinovich編、第10章、「Retrovirus-Based mRNA Transfer for Transient Cell Manipulation」(非特許文献4)は、レトロウイルスベクター粒子の生産のための手技を説明する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Knoppら、Mol. Ther. Nucleic Acids 13、256~274頁 (2018)、「Transient retrovirus-based CRISPR/Cas9 All-in-One Particles for efficient, targeted gene knock-out」
【非特許文献2】Hoffmann D.ら、Detailed comparison of retroviral vectors and promoter configurations for stable and high transgene expression in human induced pluripotent stem cells、Gene Ther. 2017年5月;24(5):298~307頁
【非特許文献3】Heckl D、Kowalczyk MS、Yudovich D、Belizaire R、Puram RV、McConkey ME、Thielke A、Aster JC、Regev A、Ebert BL. Generation of mouse models of myeloid malignancy with combinatorial genetic lesions using CRISPR-Cas9 genome editing. Nat Biotechnol. 2014年9月;32(9):941~6頁
【非特許文献4】Galla、Schambach、Baum、Synthetic Messenger RNA and Cell Metabolism Modulation: Methods and Protocols, Methods in Molecular Biology 969巻 (2013)、Rabinovich編、第10章、「Retrovirus-Based mRNA Transfer for Transient Cell Manipulation」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、動物細胞、とりわけ、ヒト細胞に効率的に形質導入し、レシピエント細胞に少なくとも1つのRNA構築物を効率的に、一過性の様式で、送達するアルファレトロウイルスベースの粒子を提供することである。前記のレトロウイルスベースの粒子は、1つまたは複数の目的のRNA構築物種を同時に含有してもよく、これにより、後者の標的細胞への時空間共送達(例えば、RNA構築物から、例えば遺伝子編集ヌクレアーゼを単独で、あるいは非コードRNA、例えばsgRNAであるRNA構築物、および/または標的細胞ゲノムを改変するための導入遺伝子RNA構築物と組み合わせて、一過性に発現させるための)が可能となる。有利には、非組込み型アルファレトロウイルスベースの粒子は、挿入突然変異を引き起こさないRNA構築物を含有し、より好ましくは、レトロウイルスベースの粒子は、レシピエント細胞のみにおける一過的活性のためのRNA構築物を送達し、これによりまた、ある特定の導入遺伝子(例えば、SpCas9、Creリコンビナーゼ、ZFNヌクレアーゼ、Sleeping Beauty DNAトランスポザーゼ)および/または他のRNA種を安定的且つ長期的に過剰発現することによって媒介される細胞傷害性の可能性を回避するまたは低下させる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、特許請求の範囲の特徴によって目的を達成し、とりわけ、タンパク質成分と、少なくとも1つのRNA構築物であって、前記タンパク質成分および対応する結合RNAヘアピン構造を介して会合した(特に粒子にパッケージングされた)少なくとも1つのRNA構築物とを含むかまたはからなるアルファレトロウイルスベースの粒子であるレトロウイルス粒子を提供する。アルファレトロウイルスベースのタンパク質成分粒子は、アルファレトロウイルスマトリックスタンパク質(MA)、アルファレトロウイルスp2タンパク質(p2)、アルファレトロウイルスp10タンパク質(p10)、アルファレトロウイルスカプシドタンパク質(CA)、アルファレトロウイルスヌクレオカプシドタンパク質(NC)および任意に追加的なアルファレトロウイルスプロテアーゼタンパク質(PR)、ウイルスプロテアーゼ部位であってもよくもしくはプロテアーゼ部位を欠いていてもよいリンカー、ならびにMS2バクテリオファージ由来MS2コートタンパク質二量体(2xMS2CP)であり、好ましくはN末端からC末端へこの順序であるドメイン、ならびに好ましくはシュードタイピングタンパク質を含むかまたはからなり、シュードタイピングタンパク質は、任意に、標的化タンパク質、リガンドまたはペプチドを含み得る。アルファレトロウイルスベースの粒子の産生の間、このシュードタイピングタンパク質は、例えば、培養されるプロデューサー細胞において別の発現カセットから発現される。ドメイン間のタンパク質成分は、プロテアーゼ部位を含有するので、アルファレトロウイルスベースの粒子の産生の間、各々に2xMS2CPが続くMA-p2-p10-CA-NCまたはMA-p2-p10-CA-NC-PRのアルファレトロウイルスドメインを含むかまたはからなる1つのタンパク質が、ウイルスプロテアーゼによってタンパク質分解されて、例えば、MA、p2、p10、CAもしくはNCのアルファレトロウイルスドメインのうちの1つのみ、または少なくとも2つの接続されたアルファレトロウイルスドメインを含有する別々のタンパク質を生成し得る。アルファレトロウイルスドメインの各々の間に配置されるプロテアーゼ部位は、アルファレトロウイルスの天然のプロテアーゼ部位であり得る。プロデューサー細胞におけるプロテアーゼ活性の非存在下においては、Gag-MS2タンパク質成分は、1つの単鎖タンパク質として、アルファレトロウイルスベースの粒子において存在し得る。アルファレトロウイルスドメイン間にプロテアーゼ部位を含有するタンパク質成分を含有し、そのタンパク質成分が1本鎖(例えばMA-p2-p10-CA-NC-2xMSCPを含む)として存在する、本発明による完全に機能的な、例えば形質導入する能力のある、アルファレトロウイルスベースの粒子を、産生できることが見出された。あるいは、そのタンパク質成分は、ドメイン間のプロテアーゼ部位を欠いていてもよく、例えば、タンパク質成分のアルファレトロウイルスドメインは、プロテアーゼ部位ではないリンカーによって接続されてもよい。
【0009】
プロデューサー細胞における機能的アルファレトロウイルスベースの粒子の生産中に、アルファレトロウイルスタンパク質成分のC末端NCドメインとMS2コートタンパク質二量体との間に配置されたウイルスプロテアーゼ部位は、必ずしも加水分解されないことが見出された。それゆえ、任意に、MA-p2-p10-CA-NCまたはMA-p2-p10-CA-NC-PRのアルファレトロウイルスドメインは、プロテアーゼ部位を含有しない、とりわけウイルスプロテアーゼ部位を含有しないリンカー、例えば6~25個のアミノ酸、好ましくは最高で20個のアミノ酸の長さを有するリンカーによって、MS2コートタンパク質、例えば2xMS2CPに連結され得る。本明細書において、MA-p2-p10-CA-NCまたはMA-p2-p10-CA-NC-PRのアルファレトロウイルスドメイン(任意にこれらのドメインの各々の間にプロテアーゼ部位を含む)は、a.Gagとも称される。
【0010】
シュードタイピングタンパク質は、アルファレトロウイルスタンパク質ドメインをコードする発現カセットとは別の発現カセットから発現され得る。シュードタイピングタンパク質は、例えば、VSVg、VSVファミリーの他の株、RD114、BaeV、MARAV、COCV、同種指向性(ecotropic)または両指向性(amphotropic)MLV Env、GALV、麻疹エンベロープ、ニパVエンベロープから選択され得る。麻疹およびニパVエンベロープを盲検法(Blinded)により、標的化タンパク質、リガンド、scFvまたは受容体結合ドメインに融合し得る。本発明のアルファレトロウイルスベースの粒子の標的細胞特異性は、そのシュードタイピングタンパク質によって決定され得ることが見出された。
【0011】
アルファレトロウイルスベースの粒子は、タンパク質成分と会合して、少なくとも1つのRNA構築物を含有する利点を有し、このRNA構築物は、非コードRNA、例えば、shRNA、sgRNA、lncRNA、miRNA、shRNA/miRNAハイブリッドであり得るか、または目的の遺伝子(GOI)とも呼ばれる少なくとも1つの導入遺伝子をコードするRNAであってもよく、導入遺伝子は、例えば、レシピエントにおいて免疫反応を誘発するための抗原、転写因子をコードする、タンパク質についてのコード配列、または遺伝子編集ヌクレアーゼ、例えばCas9をコードするコード配列であってもよく、好ましくは、遺伝子編集ヌクレアーゼをコードするコード配列は、少なくとも1つの追加のRNA構築物、例えばsgRNAと組み合わせ、任意に少なくとも2もしくは3つの追加の異なるsgRNAと組み合わせる。一般的に、各sgRNA(シングルガイドRNA)は、Cas9ヌクレアーゼと協同するために提供される。
【0012】
タンパク質をコードするRNA構築物について、RNA構築物は、好ましくは5’から3’へ、以下のエレメント:Cap-GOI-2xTS-任意にPRE-ポリA尾部を含有し、Capは、リボソーム開始部位として働く第1の転写されたヌクレオチドに連結されたN7-メチル化GTP分子からなるcap構造であり、GOIは、コード配列であり、2xTSは、2つの隣接したMS2標的部位である。
【0013】
抗原であるタンパク質をコードするアルファレトロウイルスベースの粒子は、ワクチン、例えば免疫応答を誘発することにおいて使用するため、ならびに/または例えばウイルスもしくは細菌である感染病原因子に対する免疫保護を生成するため、ならびに/または自己免疫疾患および/もしくはがん疾患の治療のためのワクチンである。例示的な抗原は、免疫保護の生成における抗原、例えば、コロナウイルス、例えばSARS-CoV2のスパイクタンパク質、HIV-1のGP120、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobaccterium tuberculosis)のAg85(例えばhttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23035231/による)、OVA(オボアルブミン)をコードする、あるいはがん治療のために、胚性がん抗原としてのCEA、腫瘍ネオ抗原(例えばNY-ESO-1、MAGE-A3)またはアスパラギニルエンドペプチダーゼレグマインをコードする、アルファレトロウイルスベースの粒子の使用のためのウイルス起源もしくは細菌起源のタンパク質、またはがん抗原である。
【0014】
アルファレトロウイルスベースの粒子に含有されるRNA構築物は、コードまたは非コードDNA配列からの転写産物として生産されるので、本明細書において概して、RNA構築物は、転写産物とも称され得る。
【0015】
アルファレトロウイルスベースの粒子に含有されるRNA構築物は、RNA構築物上に存在する対応するMS2標的部位(TS)と相互作用する、タンパク質成分の2xMS2CPを介して結合され、組み込まれる。TSは、各RNA構築物に存在する2つの遺伝学的に融合されたヘアピン構造を含むかまたはからなる。タンパク質をコードするRNA構築物において、TSは好ましくは、目的の遺伝子をコードするセクションに隣り合って、且つPREエレメント(その下流に隣り合ってポリA尾部が配置される)の5’に置かれる。
【0016】
例えば、sgRNA、shRNA、miRNA、shRNA/miRNAハイブリッドおよび/またはlncRNAであるRNA構築物において、TSドメインは、sgRNA、shRNA、miRNAおよび/もしくはlncRNAセクション内に組み込まれるか、またはsgRNA、shRNA、miRNAおよび/もしくはlncRNAセクションに隣り合って下流に、例えば3’に置かれる。同様に、他の非コードRNA構築物について、TSドメインは、組み込まれるかまたは隣り合って配置され得る。加えて、例えば非コードRNA、例えばsgRNAは、2つのTSドメインのヘアピンセクション間に配置してもよく、例えばsgRNA、shRNA、miRNA、lncRNAまたはこれらの少なくとも2つの組合せは、2つのTSヘアピンセクションを連結してもよく、とりわけ、2つのTSヘアピンセクションの2つのステムセクションを連結し得る。
【0017】
一般的に、本発明のアルファレトロウイルスベースの粒子は、プロデューサー細胞からそれらを派生させたことから生ずる脂質コートを有してもよく、例えば出芽のために、アルファレトロウイルスベースの粒子は、プロデューサー細胞の細胞膜の一部を含み得る。アルファレトロウイルスベースの粒子は、アルファレトロウイルスMA-p2-p10-CA-NC-2xMS2CPまたはMA-p2-p10-CA-NC-PR-2xMS2CPのドメインを、各場合において任意にこれらのドメインの各々の間にプロテアーゼ部位を伴って、含むかまたはからなるa.Gag MS2タンパク質成分を含むかまたはからなり、a.Gagタンパク質成分は、好ましくは配列番号1のヌクレオチド1462~3207番によってコードされるアミノ酸配列、例えば配列番号1のヌクレオチド1462~3186番によってコードされるアミノ酸配列との少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の同一性を有する。好ましいa.Gagタンパク質成分において、ドメインは、ウイルスプロテアーゼ部位によって分離され、これらのドメインは、例えば、配列番号1のヌクレオチド3187~3207によってコードされるアミノ酸配列との少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の同一性を有するウイルスプロテアーゼ部位であり得るかまたはこれを含有し得る第1のリンカー、任意に第1のリンカーとMS2コートタンパク質(2xMS2CP)との間の追加の第2のリンカーであって、例えば配列番号1のヌクレオチド3208~3222番によってコードされるアミノ酸配列との少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の同一性を有する第2のリンカー、および好ましくは配列番号1のヌクレオチド3223~3999番によってコードされるアミノ酸配列との少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の同一性を有する、MS2コートタンパク質二量体(2xMS2CP)、ならびにシュードタイピングタンパク質によって分離される。タンパク質成分と会合して、導入遺伝子コードおよび/または非コードRNA転写産物である少なくとも1つのRNA構築物は、少なくとも1つの標的部位(TS)、好ましくは少なくとも2つの標的部位(2xTS)へ連結される。プロデューサー細胞における産生の間に各RNA構築物の少なくとも1つのTS、好ましくは少なくとも2つのTSは、MS2コートタンパク質二量体(2xMS2CP)と会合し、RNA構築物がタンパク質成分と会合するかまたはこれにパッケージングされることをもたらす。シュードタイピングタンパク質VSVgは、配列番号4のヌクレオチド1241~2776によってコードされるアミノ酸配列を有し得る。一般的に、本発明は、参照により、その優先権出願EP21216354.7のすべてのアミノ酸配列およびすべてのヌクレオチド配列を含む。
【0018】
MS2標的部位(TS)の各々は、配列番号2のヌクレオチド1943~1965および/またはヌクレオチド1982~2004、配列番号3のヌクレオチド1681~1701および/またはヌクレオチド1751~1771、配列番号14のヌクレオチド1755~1775および/またはヌクレオチド1794~1814、配列番号5のヌクレオチド5697~5719および/またはヌクレオチド5736~5758、配列番号6のヌクレオチド2337~2359および/またはヌクレオチド2376~2398から選択される少なくとも1つの配列との少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%のヌクレオチド配列を有し得る。その中で、少なくとも2つの標的部位の各々は、同じまたは異なるヌクレオチド配列を有し得る。好ましくは、標的部位は、60~40ヌクレオチド(nt)分間隔があいており、例えば50nt分間隔があいており、この空間をあけるヌクレオチドは、非コードRNA、例えば、sgRNA、shRNA、miRNAを含み得る。2つの標的部位(2xTS)は、例えば、配列番号2のヌクレオチド1912~2045、および/または配列番号2のヌクレオチド1982~2004、またはヌクレオチド1681~1701のヌクレオチド配列を有し、60~40nt分、例えば50nt分間隔があいており、配列番号3のヌクレオチド1751~1771、例えば配列番号3のヌクレオチド1665~1800、または配列番号5のヌクレオチド5666~5799、または配列番号6のヌクレオチド2306~2439のヌクレオチド配列を有し得る。
【0019】
本発明によるアルファレトロウイルスベースの粒子は、少なくとも1つのRNA構築物を標的細胞へ導入するための、例えば目的の遺伝子をアルファレトロウイルスベースの粒子に含有されるそのmRNAから発現するため、および/またはRNA分子、例えば、少なくとも1つの、好ましくは少なくとも2つの非コードRNA、例えばsgRNA、siRNA、shRNA、lncRNA、tRNA、rRNAもしくはこれらのうちの少なくとも2つの組合せから選択される非コードRNA、および/またはタンパク質をコードするRNAを導入するための使用に好適である。加えて、上記のRNA種のいずれかをコードする自己増幅RNAレプリコンを転移してもよい。
【0020】
本発明によるアルファレトロウイルスベースの粒子を製造するためのプロセスにおいて、アルファレトロウイルスMA-p2-p10-CA-NCまたはMA-p2-p10-CA-NC-PRを含むa.Gag.MS2タンパク質成分、ウイルスプロテアーゼ部位(pr)を含有し得るリンカー、配列番号1のヌクレオチド1462~3208によってコードされるアミノ酸との少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の同一性を有するMS2コートタンパク質二量体(2xMS2CP)(ここで、MA-p2-p10-CA-NC-PR、ウイルスプロテアーゼ部位(pr)を含有し得るリンカー、MS2コートタンパク質二量体(2xMS2CP)は、配列番号12のヌクレオチド1462~3594番によってコードされるアミノ酸との少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%の同一性を有する)、およびシュードタイピングタンパク質、および少なくとも1つの標的部位(TS)に連結された、好ましくは少なくとも2つの標的部位(2xTS)に連結された目的の遺伝子および/またはコードもしくは非コードRNA種をコードする少なくとも1つのRNA構築物が、プロデューサー細胞において、例えば、ポリメラーゼII(Pol II)プロモーターエレメントの制御下またはポリメラーゼIII(Pol III)プロモーターエレメントの制御下、例えば、Pol IIプロモーターの例としてCMVプロモーター、PGKプロモーター、EF1aプロモーターまたはベータ-アクチンプロモーター、ならびにPol IIIプロモーターの例としてhU6およびH1の制御下において、発現カセットから、同時発現される。
【0021】
各々のa.Gag.MS2タンパク質成分をコードするか、またはGOIもしくはタンパク質コード配列を含有するRNA構築物をコードする発現カセットは、好ましくはそれらの3’末端において、ポリアデニル化シグナル(pA)、任意に、当該ポリアデニル化シグナルの5’末端と隣り合ったPREをコードする。RNAがアルファレトロウイルスベースの粒子中に含有される、GOIまたはタンパク質コード配列を含有する少なくとも1つのRNA構築物は、その5’末端にCap構造を有し、その3’末端においてポリアデニル化尾部を有する。
【0022】
驚くべきことに、a.Gag.MS2タンパク質成分は、RNA構築物、例えば少なくとも1、2または3つの異なるRNA構築物を1つのアルファレトロウイルスベースの粒子(そのタンパク質成分は、アルファレトロウイルスドメインMA、p2、p10、CA、NC、任意にPR、およびMS2コートタンパク質二量体(2xMS2CP)ならびにシュードタイピングタンパク質、例えばVSVgを含むかまたはからなる)内に有効にパッケージングすることが見出された。予想外に、タンパク質成分の2xMS2CP部分は、アルファレトロウイルスMA、p2、p10、CA、NCおよび任意にPRタンパク質ドメインならびにシュードタイピングタンパク質と共に、プロデューサー細胞において少なくとも1つのRNA構築物を含有するアルファレトロウイルスベースの粒子を形成する。さらに、これらの粒子が、ヒトまたはマウス標的細胞と有効に会合し、標的細胞にRNA構築物を輸送するために標的細胞を効率的に形質導入することは予想外であった。本明細書において概して、標的細胞は、本発明のアルファレトロウイルスベースの粒子が結合し、その結合が、例えば、アルファレトロウイルスベースの粒子のシュードタイピングタンパク質の選択によって決定される、任意の細胞である。
【0023】
一般的に、核酸配列エレメントは、別に示されない限り、5’から3’へのそれらの配置において示され、アミノ酸配列は、N末端からC末端へのそれらの配置において示される。
【0024】
ここで、本発明は、より詳細に、図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
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図1A 比較のためのガンマレトロウイルスベースのg.Gag.MS2粒子の製造のための核酸構築物の概略図である。
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図1B 本発明によるa.Gag.MS2アルファレトロウイルスベースの粒子の生成のための核酸構築物の概略図である。
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図1C FLPリコンビナーゼインディケーター遺伝子カセットの概略図、および本発明によるFLPリコンビナーゼを転移する3種のアルファレトロウイルスベースの粒子(a.NC.MS2、a.NC.pr.MS2、a.PR.pr.MS2)の比較解析による、形質導入後のマウスSC1細胞におけるレポーター遺伝子カセットの組換えの結果を示す図であり、最もよく機能するバリアント(a.NC.pr.MS2)を四角で囲み、これを以下の図面においても使用する。
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図1D 比較のためのガンマレトロウイルスベースの粒子(g.Gag.MS2)および本発明による最もよく機能するアルファレトロウイルスベースの粒子(a.NC.pr.MS2)による、
図1Cからのレポーター細胞におけるFLP媒介性組換えの結果を示す。
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図1E 比較のためのガンマレトロウイルスベースの粒子(g.Gag.MS2)および本発明によるアルファレトロウイルスベースの粒子(a.NC.pr.MS2)による形質導入後の、ヒトiPSCにおけるリプログラミング遺伝子(OKSM)カセットのFLP媒介性切除の結果を示す。
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図1F 比較のためのガンマレトロウイルスベースの粒子(g.Gag.MS2)および本発明によるアルファレトロウイルスベースの粒子(a.NC.pr.MS2)による形質導入後の、ヒトHT1080細胞におけるホタルルシフェラーゼの発現の結果を示す。
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図1G 比較のためのガンマレトロウイルスベースの粒子(g.Gag.MS2)および本発明によるアルファレトロウイルスベースの粒子(a.NC.pr.MS2)による形質導入後の、初代ヒト新生児包皮線維芽細胞(NuFF)におけるホタルルシフェラーゼの発現の結果を示す。
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図2A 本発明によるアルファレトロウイルスベースの粒子(a.NC.pr.MS2)の上清、および比較のためのガンマレトロウイルスベースの粒子(g.Gag.MS2)におけるmRNAのコピー数を示す。
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図2B 本発明によるアルファレトロウイルスベースの粒子(a.NC.pr.MS2)による上清、ならびに比較のためのガンマレトロウイルスベースの上清(g.Gag.MS2)ならびに非レトロウイルス細胞外小胞対照(pcDNA3のみおよびVSVgのみ)のタイター(粒子/μL)を示す。
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図2C 本発明によるアルファレトロウイルスベースの粒子(a.NC.pr.MS2)、ならびに比較のためのガンマレトロウイルスベースの粒子(g.Gag.MS2)ならびに非レトロウイルス細胞外小胞対照(pcDNA3のみおよびVSVgのみ)の粒子サイズ測定の結果を示す。
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図2D 本発明のウイルス様粒子、ならびに各々の野生型(wt)ガンマレトロウイルスまたはアルファレトロウイルスGag-Pol(wt.g.Gag-Polおよびwt.a.Gag-Pol)をパッケージングした対照ベクター粒子を含む比較のためのウイルス様粒子の透過型電子顕微鏡写真を示す。
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図2E アルファレトロウイルス様粒子(a.NC.pr.MS2)および比較のためのガンマレトロウイルス様粒子(g.Gag.MS2)ならびに各々の組込み対照を形質導入した標的細胞におけるホタルルシフェラーゼ導入遺伝子発現の決定の結果を示す。
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図3A 標的細胞へCRISPR/Cas9成分を送達する比較のためのガンマレトロウイルスベースの粒子(g.Gag.MS2)の製造のために使用される成分を模式的に示す。
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図3B 本発明による、CRISPR/Cas9 RNAを送達するアルファレトロウイルスベースの粒子(a.NC.pr.MS2)の製造のために使用される成分を模式的に示す。
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図3C sgRNAスキャフォールド内に(TS.inc)またはsgRNAスキャフォールドと隣り合って(TS.adj)MS2標的部位を有するマウスTet2標的化sgRNAをパッケージングしたa.NC.pr.MS2ベースのCRISPR/Cas9粒子によるRFP657.Tet2レポーターノックアウト率を示す。
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図3D 本発明によるアルファレトロウイルスベースの粒子(a.NC.pr.MS2;ここではTet2.TS.adj)の上清、および比較のためのガンマレトロウイルスベースの(g.Gag.MS2;ここではTet2.TS.inc)上清中のCRISPR/Cas9 RNA(SpCas9.TS mRNAおよびTet2.TS sgRNA転写産物)のコピー数を示す。
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図3E ヒトHT1080標的細胞におけるRFP657.Tet2レポーター遺伝子構築物のノックアウト率を示す。
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図3F ヒトiPS細胞におけるTet2標的遺伝子レポーター構築物のノックアウト率を示す。
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図4 ガンマレトロウイルスベース(g.Gag.MS2)およびアルファレトロウイルスベース(a.NC.pr.MS2)のCRISPR/Cas9オールインワン粒子による、ヒトJurkat細胞における内因性CXCR4遺伝子のノックアウトを示す。(A)において、代表的なFACS結果を示し、(B)において、組み込みレンチウイルスLIT.CXCR4 CRISPR/Cas9オールインワン粒子および非標的化マウスTrp53対照Gag.MS2粒子と比較した、生物学的反復における実験を示す。
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図5A~5D 細胞当たりに施用されたSpCas9.TS mRNAコピーとして表される、様々な感染多重度(MOI)の施用による、(A)初代ヒトNuFF細胞、(B)初代ヒト肝細胞(PHH)、(C)ヒトCD34+造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)および(D)初代マウス胚線維芽細胞(MEF)における内因性ヒトTP53遺伝子の、アルファレトロウイルスベースの(a.NC.pr.MS2)粒子により媒介されるノックアウト率を示す。
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図6Aおよび6B 2つのsgRNA(
図6A、CXCR4およびRFP657.Tet2のノックアウト)または3つのsgRNA(
図6B、Aに加えてEGFPもまたノックアウトされた)を含有するCRISPR/Cas9を送達するアルファレトロウイルスベースの粒子の使用による多重化実験を示す。
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図7Aおよび7B
図7Aは、VEE自己増幅RNAレプリコン(非構造タンパク質nsP1、nsP2、NsP3、nsP4を有する)および目的の遺伝子としてのEGFPを含有するアルファレトロウイルスベースの粒子のための例示的な発現プラスミドを示す。
図7Bは、ヒトHT1080標的細胞に
図7Aのアルファレトロウイルスベースの粒子を形質導入した結果を示す。
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図8A~8F
図8A~8Cは、a.Gag.MS2粒子でもPBSでも処置しなかったがルシフェリンのみで処置した陰性対照としてのマウスを示す。
図8Dおよび
図8Fは、ウイルス粒子およびルシフェリンにより処置したマウスを示し、比較のために、
図8Eは、PBSのみおよびルシフェリンにより処置した対照マウスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
パッケージング細胞において、本発明による、mRNAを送達するアルファレトロウイルスベースの粒子(a.Gag.MS2粒子)を産生するための核酸構築物を、
図1Bに模式的に示し、
図1Aは、ガンマレトロウイルスベースの粒子(g.Gag.MS2粒子)を産生するための比較のための核酸構築物を模式的に示す。加えて、
図1Aおよび
図1Bは、野生型アルファレトロウイルス粒子(wt a.Gag-Pol)またはガンマレトロウイルス粒子(wt g.Gag-Pol)を発現するための核酸構築物を模式的に示す。
【0027】
図1Aは、mRNA転移ガンマレトロウイルスGag.MS2(g.Gag.MS2)粒子のパッケージングのための発現構築物を示す。293Tプロデューサー細胞に、g.Gag.MS2、エンベロープ糖タンパク質(VSVgによって例示される)および目的の遺伝子(GOI)を有するmRNAをコードする発現プラスミドをトランスフェクトした。また、後者は、2コピーのMS2ヘアピン構造(TS)をコードし、これにより、g.Gag.MS2内の遺伝学的に融合されたMS2コートタンパク質二量体(2xMS2CP)による、転写されたGOI.TS mRNAの、生ずる粒子への特異的パッケージングを可能にする。ウイルスプロテアーゼ(PR)を含むガンマレトロウイルスPol酵素は、g.Gag.MS2粒子生成中に添加されないので、MS2CP二量体タンパク質は、ここではリンカーとして機能する天然のウイルスプロテアーゼ部位(pr、薄灰色の囲み)によってガンマレトロウイルスヌクレオカプシド(NC)タンパク質から分離される。ガンマレトロウイルス野生型(wt)Gag-Polの構成は、上部に示される。CMV:サイトメガロウイルスプロモーター;PRE:ウッドチャック肝炎ウイルス(Woodchuck Hepatitis Virus)転写後調節エレメント;pA:ポリAシグナル。MA:ウイルスマトリックスタンパク質、p12:ウイルスp12タンパク質、CA:ウイルスカプシドタンパク質、RT:ウイルス逆転写酵素、IN:ウイルスインテグラーゼ。
【0028】
図1Bは、アルファレトロウイルスGag.MS2(a.Gag.MS2)粒子の製造のための発現構築物を示す。GOI mRNAを送達するa.Gag.MS2粒子のパッケージングを、3つの異なるアルファレトロウイルスa.Gag.MS2バリアント、a.NC.MS2、a.NC.pr.MS2およびa.PR.pr.MS2について示す。a.NC.MS2バリアントにおいて、MS2CP二量体は、アルファレトロウイルスNCドメインに直接的に融合され、一方でa.NC.pr.MS2において、NCおよびMS2CP二量体は、リンカーによって分離され、リンカーは、この場合、薄灰色の囲みによって示される天然ウイルスプロテアーゼ部位(pr)(延長されたリンカーを含む)である。a.PR.pr.MS2をパッケージングした粒子は加えて、出芽後に粒子成熟を促進するウイルスPRを含有する。このバリアントにおいて、MS2CP二量体は、この位置における天然ウイルスプロテアーゼ部位(pr;薄灰色の囲み)においてPRによって分離される。
図1Bにおいて模式的に示される通り、翻訳生成物として発現される、本発明のアルファレトロウイルスベースの粒子内のアルファレトロウイルスベースのa.Gag.MS2タンパク質成分は、ドメインがプロテアーゼ認識部位によって連結されるMA-p2-p10-CA-NC部分と、2xMS2CP部分とを含むかまたはからなり、これらは、1つの共通のコード配列のN末端MA-p2-p10-CA-NCとC末端2xMS2CPとの間に、リンカーとして、延長されたウイルスプロテアーゼ部位(pr)を含む、1つの融合タンパク質(a.NC.pr.MS2)として生成される。ウイルスプロテアーゼの存在下におけるMA-p2-p10-CA-NC部分のドメインは、ドメイン間に配置されるプロテアーゼ部位において分離可能である。この実施形態において、アルファレトロウイルス部分は、野生型Gagタンパク質のPRドメインを含有しないが、プロテアーゼ認識部位prおよび2xMS2CP部分を伴う、融合タンパク質中のMA-p2-p10-CA-NCからなる翻訳生成物として発現される。さらに、アルファレトロウイルス部分、およびそれぞれ、アルファレトロウイルスベースの粒子は、ウイルス酵素タンパク質を含有せず、例えば、逆転写酵素もしくはインテグラーゼおよび/またはウイルスプロテアーゼを含有しない。融合タンパク質の1つの共通のコード配列は、
図1Bにおいてa.Gag.MS2として示され、DNAとして配列番号1のヌクレオチド1462~3207のMA-p2-p10-CA-NC-ウイルスプロテアーゼ部位-2xMS2CPのコード配列を含有し、NCをMS2から分離する、プロテアーゼ部位およびグリシンを含有する延長されたリンカー、および配列番号1のヌクレオチド3223~3999によってコードされるMS2コートタンパク質二量体を含み、配列番号1のヌクレオチド232~819のCMVプロモーターによって例示される、プロモーターの制御下にあり、配列番号1のヌクレオチド4078~4302の3’末端ポリAシグナル(pA)を伴う。
【0029】
さらなる実施形態として、
図1Bは、NCドメインと延長されたウイルスプロテアーゼ部位リンカーとの間に配置されたPRドメインを含有するMA-p2-p10-CA-NC-PR-ウイルスプロテアーゼ部位-2xMS2CP(a.PR.pr.MS2)のコード配列の配置を示す。PRドメインは、アルファレトロウイルスプロテアーゼをコードする。MA-p2-p10-CA-NC-PR-ウイルスプロテアーゼ部位-2xMS2CPの1つの共通のコード配列は、配列番号12に含有され、ここで、コドン最適化配列において、ヌクレオチド1462~3594は、ポリタンパク質MA-p2-p10-CA-NC-PR-ウイルスプロテアーゼ部位をコードし、ヌクレオチド3595~3612は、隣り合うリンカーをコードし、ヌクレオチド3613~4389は、隣り合うMS2コートタンパク質二量体をコードし、これらのコード配列は、1つの融合タンパク質をコードする。配列番号12のプラスミド骨格は、pcDNA3由来である。
【0030】
図1Bは、NCドメインと2xMS2CPとの間に、延長されたウイルスプロテアーゼ認識部位リンカー(pr)を含有しないMA-p2-p10-CA-NC-2xMS2CP(a.NC.MS2)のコード配列の配置を示す。
【0031】
プロデューサー細胞においてアルファレトロウイルス粒子を産生する場合、DNAは、RNA、例えばコード配列を有するmRNAに転写される。ポリAシグナルは、mRNAへのポリアデニル化尾部の付加に影響を及ぼし、このmRNAは、タンパク質成分に翻訳される。ウイルスプロテアーゼの存在下においてはMA-p2-p10-CA-NCのドメイン間に配置されたウイルスプロテアーゼ部位のために、タンパク質分解が起こって複数のシングルドメインが生じ、少なくとも1つ、好ましくは2つまたはそれを超える標的部位(TS)を含有するRNA分子と会合したMS2コートタンパク質を含む、エンベロープに被包された/シュードタイプ化されたアルファレトロウイルスベースの粒子がアセンブリされる。アルファレトロウイルスドメイン間のプロテアーゼ部位についてのタンパク質分解活性の非存在下においてアルファレトロウイルスベースの粒子を産生する場合(例えば、配列番号1からのMA-p2-p10-CA-NC-ウイルスプロテアーゼ部位-2xMS2CP)、このタンパク質成分は、1つのアミノ酸鎖として存在し、ウェスタンブロットにおいて本質的にタンパク質分解プロセッシングは観察されないことが見出された。したがって、MA-p2-p10-CA-NC-ウイルスプロテアーゼ部位-2xMS2CPを含むかまたはからなる本発明のタンパク質成分において、ドメイン間のプロテアーゼ部位は、非機能性であってもよく、例えば、ドメインは、プロテアーゼ部位を含有しないリンカーによって連結してもよく、したがって、gagポリタンパク質成分は、1つの単一のタンパク質として存在し得る。このことは、gagポリタンパク質成分のアルファレトロウイルスドメイン間のプロテアーゼ部位は、本発明の機能的アルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子を産生する場合、タンパク質分解切断される必要はないことを示す。注目すべきことに、NCの3’、2xMS2CPの5’に、延長されたプロテアーゼ部位リンカー(プロテアーゼ部位およびグリシンリンカーから構成される)を有する延長されたリンカーの存在は、機能性に重要であった(
図1Cを参照されたく、a.NC.MS2およびa.NC.pr.MS2の比較によって示される)。
【0032】
プロテアーゼPRを含むタンパク質成分、例えば、配列番号12によってコードされるMA-p2-p10-CA-NC-PR-ウイルスプロテアーゼ部位-2xMS2CP(a.PR.pr.MS2)の実施形態において、また、ウイルスプロテアーゼの存在は、本発明の機能的アルファレトロウイルスベースの粒子の産生をもたらすことが見出された(
図1Bおよび1Cのa.PR.pr.MS2)。好ましくは、2xMS2CPは、アルファレトロウイルスGag(MA-p2-p10-CA-PR)部分から切断され得る。標的細胞の有効な形質導入、および転移されたRNAの活性により、a.NC.pr.MS2およびa.PR.pr.MS2バリアントから機能的a.Gag.MS2粒子が有効に形成されることが示される。両方のバリアントが機能的RNAを転移する能力があるという事実は、プロテアーゼ、およびGag.MS2サブドメインへのタンパク質切断が可能であることは、機能性にとって必須ではないことを示す。したがって、これらのa.Gag.MS2粒子において、ウイルスGagサブドメイン間、およびGagと2xMS2CPとの間のウイルスプロテアーゼ部位は、非加水分解性であってよく(例えば、a.NC.pr.MS2)、または任意に加水分解されて(例えば、a.PR.pr.MS2)、MA、p2、p10、CA、NC、PRの別々のまたは連結したドメインを生成してもよく、好ましくは2xMS2CPは、gag部分から切断され得る。
【0033】
プロデューサー細胞において、RNA構築物は、CMVプロモーターによって例示されるプロモーターの制御下においてDNAから転写され、目的の遺伝子(GOI)のコード配列、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つの標的部位およびポリAシグナルを含むかまたはからなり、任意にGOIとポリAシグナルとの間にPREを伴う(GOI.TS)。得られるRNAは、5’から3’へ、GOIのコード配列、少なくとも1つのTS、好ましくは少なくとも2つのTS、任意にPRE、および好ましくはポリアデニル化尾部からなる。例において、RNA構築物と会合し(パッケージングを含む)、a.Gag.MS2粒子を形成するためのMS2CPタンパク質と相互作用する、2つの標的部位(TS)が示される。GOIは、例えば、遺伝子編集ヌクレアーゼ、トランスポザーゼ、リコンビナーゼ、酵素または他の細胞タンパク質、非コードRNA、例えば、sgRNA、shRNA(低分子ヘアピンRNA)、miRNA、lncRNAまたはコードおよび非コードRNAの組合せであり得る。好ましくは、非コード構築物を含有するRNAは、ポリメラーゼIIIプロモーター、例えばヒトU6(hU6)またはH1プロモーターの制御下においてDNAから転写される。
【0034】
本発明によると、アルファレトロウイルスベースの粒子は、少なくとも1、2、3つまたはそれを超えるRNAコードおよび非コード構築物を含有してもよく、各RNA構築物は、分子に組み込まれる(例えば、組み込まれるかまたは隣り合う)TS、任意にPRE(転写後調節エレメント、例えばウッドチャック肝炎ウイルスのPRE)、ならびにとりわけタンパク質コードRNAおよびmiRNAについて、より好ましくは3’末端ポリアデニル化尾部を伴う。
【0035】
一般的に好ましくは、コードGOIおよび任意に非コードGOI、例えば、lncRNA、miRNAおよびshRNA/miRNAハイブリッドは、Pol.IIプロモーター、例えばCMVプロモーターの制御下においてDNAから転写されることができ、好ましくは、GOIの3’に、少なくとも1つの、隣り合うかまたは組み込まれたTS、ポリAシグナル、任意にPREが続く。非コードGOI、とりわけ、shRNA、sgRNAおよび他の短鎖非コードRNAは、Pol.IIIプロモーター、例えばhU6、H1プロモーターの制御下においてDNAから転写されることができ、非コードRNAの3’に、好ましくはPol.III終止シグナル(ポリTストレッチ、TTTTT)が続く。
【0036】
a.Gag.MS2粒子を生成するために、シュードタイプエンベロープタンパク質の付加が必要である。したがって、プロデューサー細胞は、CMVプロモーターによって例示されるプロモーターの制御下において、シュードタイピングタンパク質、例えばVSVg(水疱性口内炎ウイルスの糖タンパク質)、任意にイントロン、および3’末端ポリアデニル化シグナルを発現するための、トランスフェクトされたかまたは安定に発現される構築物を含有する(CMV-VSVg-pA)。シュードタイピングタンパク質は、プロデューサー細胞において発現される場合、アルファレトロウイルスベースの粒子の脂質エンベロープに組み込まれる。
【0037】
好ましくは、VSVg cDNAは、ガンマレトロウイルス、アルファレトロウイルスおよびレンチウイルスを含むレトロウイルスでベクターをシュードタイプ化するために好適である別のエンベロープタンパク質によって置き換えられてもよく、本明細書において説明されるa.Gag.MS2粒子を使用してもよい(上記に提供されるエンベロープタンパク質のリストを参照されたい)。
【0038】
例1:FLPリコンビナーゼまたはホタルルシフェラーゼmRNAを送達するアルファレトロウイルスベースの粒子のパッケージングおよび性能
アルファレトロウイルスベースのGag.MS2(a.Gag.MS2)粒子の産生のために使用される成分を、
図1Bに模式的に示す。293Tプロデューサー細胞に、a.Gag.MS2(配列番号1)をコードする発現プラスミドをトランスフェクトし、VSVgエンベロープ糖タンパク質を、配列番号4から発現させ、目的の遺伝子(GOI)を有するmRNAを配列番号2(FLP)および配列番号6(ホタルルシフェラーゼ)から転写する。また、FLP GOIをコードするmRNAは、配列番号2のヌクレオチド1943~1965およびヌクレオチド1982~2004の2コピーのMS2ヘアピン構造(TS)をコードし、それらのTSは、生ずるアルファレトロウイルスベースの粒子のMS2コートタンパク質二量体(2xMS2CP)への、転写されたGOI.TS mRNAの特異的パッケージングを可能にする。対応して、また、ホタルルシフェラーゼをコードするmRNAは、配列番号6のヌクレオチド2337~2359およびヌクレオチド2376~2398の2コピーのMS2ヘアピン構造(TS)をコードする。
【0039】
比較のために、同じGOIをコードするmRNAを有するガンマレトロウイルスタンパク質成分g.Gag.MS2相関物を、比較のためのガンマレトロウイルス様粒子を産生するために使用する。
図1Aにおいて示される通り、比較のためのガンマレトロウイルスベースの粒子g.Gag.MS2も、レトロウイルスドメインと2xMSCPとの間に、延長されたプロテアーゼ認識部位pr(薄灰色の囲み)を含有し、また、VSVgによってシュードタイプ化された。
【0040】
CMV:サイトメガロウイルスプロモーター;PRE:ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント;pA:ポリAシグナル。
【0041】
アルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子を産生するために、標準のリン酸カルシウムDNA沈殿法を使用する293Tプロデューサー細胞の一過性トランスフェクション後に、ウイルス上清を生成した。簡潔に説明すると、トランスフェクションの前日に、10cmの直径の培養皿(Sarstedt社、Nuembrecht、ドイツ)1枚当たり細胞5~6x106個を播種した。ヒト胎児由来腎臓293T(293T)細胞に、a.Gag.MS2(配列番号1)、TSを伴うFLPリコンビナーゼまたはTSを伴うホタルルシフェラーゼのコード配列を含有するGOI.TS(FLPについて配列番号2、およびホタルルシフェラーゼについて配列番号6)ならびにPREおよびポリアデニル化シグナルをコードするプラスミドと、VSVg(配列番号4)のコード配列を含有する発現プラスミドとを同時トランスフェクトすることによって、ウイルス粒子を生成した。
【0042】
アルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子を、4℃において、82,740xgにて2時間、または13,238xgにて一晩の超遠心分離によって、100倍濃縮し、アルファレトロウイルスベースの粒子上清として使用した。
【0043】
比較のために、ガンマレトロウイルス粒子を、同じプロトコールを使用して、ただし、配列番号13のガンマレトロウイルスGag.MS2発現構築物のコード配列を使用して産生した。
【0044】
細胞ベースのFLPリコンビナーゼ(FLP)レポーター系を利用して、各々のアルファレトロウイルスGag.MS2粒子機能性、および粒子中に含有されるRNAの活性を評価した(
図1C)。この目的のために、GOI.TSとしてFLPリコンビナーゼ(FLP)mRNAを送達する様々なa.Gag.MS2粒子を、
図1Bにおいて示される通りに産生し、SC1ベースのFLPレポーター細胞について試験し、このレポーター細胞では、FLP媒介性組換えが、EGFPからdTomato発現への変換によって示される。
【0045】
FLPレポーター細胞は、レポーター構築物(FLPインディケーターカセット)を含有し、この構築物においては、EGFP(高感度緑色蛍光タンパク質)が、2つのFRT(FLP認識標的)部位によって挟まれており、この3’に、ATG開始コドンを欠く第2のレポーター遺伝子として赤色蛍光dTomatoを含有した。したがって、FLPの活性は、EGFPの切除をもたらし、dTomato発現を誘導する。細胞は、FLPインディケーターカセットを3つのコピー分、含有したので、FLPによるすべての3つの対立遺伝子の不完全な組換えは、dTomatoおよびEGFPの両方を発現する細胞ももたらす。それら、およびdTomatoのみを発現する細胞は、両方とも、グラフのY軸において示される通り組換え細胞と考えられた。
【0046】
バリアントa.NC.pr.MS2およびa.PR.pr.MS2は、バリアントa.NC.MS2よりも優れた性能を発揮した。最も優れているバリアントa.NC.pr.MS2を四角で囲み、以下の解析において使用する。これは、好ましくは、a.Gag.MS2タンパク質成分内において、2xMS2CPは、リンカー領域によってGagサブドメインから分離すべきであることを示す。
【0047】
図1Dは、最も優れているアルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子(a.NC.pr.MS2;(黒丸))による、それらのガンマレトロウイルスベースの相関物(g.Gag.MS2、
図1A、(白丸))と比較した、FLP mRNAの高効率の転移を示す。FLPインディケーターカセットを含有するSC-1ベースのFLPレポーター細胞を、示される体積のg.Gag.MS2.FLPまたはa.NC.pr.MS2.FLP上清で形質導入した。Y軸は、FRTに両側を挟まれたEGFPの、FLPにより媒介される切除から明らかになった、組換え細胞の百分率を示す。アルファレトロウイルスベースのa.NC.pr.MS2.FLP粒子は、増強されたFLP媒介性組換えを示す。
【0048】
図1Eは、目的の遺伝子としてFLPリコンビナーゼを含有する例示的なa.Gag.MS2粒子(a.NC.pr.MS2)による、ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)のゲノムからのリプログラミングベクターカセット(SFFV.OKSM)の高効率の除去の結果を示す。レポーターカセットを含有する1つのSFFV.OKSMベクター組込みを有するヒトiPSC細胞を、比較のためのガンマレトロウイルスベースの(白丸)g.Gag.MS2粒子上清またはアルファレトロウイルスベースの(黒丸)a.Gag.MS2粒子上清により処理した。
【0049】
図1Eにおいて模式的に示される、レポーターカセットからのSFFV.OKSMの切除(FLP媒介性OKSMカセット切除)を、OKSMリプログラミングカセットの一部であるコドン最適化(co)OCT4遺伝子(O)を検出するプライマーを使用する定量的リアルタイムPCRによって解析した(VCN:ベクターコピー数;LTR:末端反復配列;SIN/FRT:自己不活性化LTRおよびFRT部位)。結果は、FLP mRNAの送達は、ガンマレトロウイルスベースの粒子(42%)と比較して、アルファレトロウイルスベースの粒子によると、よりいっそう効率的である(97%)ことを示す。
【0050】
図1Aおよび1Bにおいて示される通り、さらなるGOIとして、ホタルルシフェラーゼmRNAを、アルファレトロウイルスベースのa.Gag.MS2粒子、および比較のためのガンマレトロウイルスベースのg.Gag.MS2粒子にパッケージングした(GOI.TS、配列番号6のヌクレオチド624~2439)。結果は、アルファレトロウイルスベースのa.Gag.MS2粒子によるホタルルシフェラーゼmRNAの優れた転移を示す。グラフは、ヒトHT1080細胞(
図1F)または初代ヒト新生児包皮線維芽細胞(NuFF)(
図1G)における全タンパク質について正規化した相対的光単位(RLU)を示す。
【0051】
Gag.MS2「mRNAのみ」の送達の場合、100倍濃縮された上清中のコードmRNAのコピー数を、定量的リアルタイムRT(逆転写)PCR(qRT-PCR)によって決定した。潜在的なプラスミド夾雑を除去するために、上清を、2ユニットのTURBO DNアーゼ(Ambion/Thermo Fisher Scientific社)により37℃において1時間処理した。続いて、QIAGEN RNeasy Micro Kit(QIAGEN社、Hilden、ドイツ)を使用して製造業者のプロトコールに従うがカラム上での追加のDNアーゼ消化ステップを伴って、Gag.MS2粒子からRNAを抽出した。抽出したRNAをcDNAに逆転写し、その後、QuantiTect Reverse Transcription Kit(QIAGEN社)を使用してqRT-PCRを行った。PCRのために、構築物上に存在するwPREに特異的なプライマーを使用した。プラスミド標準の連続希釈を利用して、絶対コピー数を計算した。
【0052】
図2Aは、本発明によるアルファレトロウイルスベースのa.Gag.MS2(a.NC.pr.MS2バリアント)粒子ベースの上清におけるFLPリコンビナーゼをコードするmRNAのコピー数(黒丸)、および比較のためのガンマレトロウイルスベースのg.Gag.MS2上清におけるFLPリコンビナーゼmRNA含有量(白丸)を測定した結果を示す。各データ点は、293Tプロデューサー細胞を利用して産生された、独立して調製された1つの粒子上清を反映する。結果は、アルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子を含有する上清について、より高い濃度の、FLPリコンビナーゼをコードする目的の遺伝子のmRNAを示す。
【0053】
全視野干渉(FFI:full-field interferometry;(白丸))により、またはナノ粒子トラッキング解析(NTA;(黒丸))により、同じ上清において粒子含有量を決定した。さらなる対照として、pcDNA3、またはVSVgをコードする発現プラスミドを単独でトランスフェクトした293Tプロデューサー細胞からの上清を解析した。
【0054】
図2Bは、pcDNA3(空のpcDNA3プラスミド)またはVSVgコードプラスミド(配列番号4)のみをトランスフェクトしたプロデューサー細胞からの濃縮された上清についての粒子数の結果を示す。両方の調製物を、アルファおよびガンマレトロウイルスベースのGag.MS2上清内の細胞外小胞の割合の見積もりのための対照として使用した。加えて、
図1A(g.Gag.MS2)または
図1B(a.Gag.MS2、配列番号1のa.NC.pr.MS2)において説明される通りに生成したガンマおよびアルファレトロウイルスベースのGag.MS2上清を解析した。結果は、より高濃度の、アルファレトロウイルスベースのGag.MS2タンパク質成分からなるウイルス様粒子を示す。
【0055】
図2Cは、NTAによる同じ上清のウイルス粒子サイズ測定の結果を示し、a.NC.pr.MS2からなり、FLP.TS mRNAを送達するアルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子(黒丸)は、比較のためのガンマレトロウイルスベースの粒子(白丸)と類似するサイズを示すことを明らかにする。
【0056】
図2Dは、
図1C~1Eおよび
図2A~2Cの構築物においても使用される、タンパク質成分MA-p2-p10-CA-NC-ウイルスプロテアーゼ部位-2xMS2CPを有し、3’末端TSを伴うFLPリコンビナーゼ(FLP.TS)をコードするmRNAを含有する、アルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子(a.NC.pr.MS2)、および同じmRNA構築物を含有する比較のためのガンマレトロウイルスベースのGag.MS2粒子(g.Gag.MS2)の透過型電子顕微鏡写真(TEM写真、同拡大、サイズバーは100nmである)を示す。比較のために、完全Gag-Polを有する野生型ウイルスベクター粒子を、アルファレトロウイルス(wt a.Gag-Pol)およびガンマレトロウイルス(wt g.Gag-Pol)由来ベクター粒子について示す。白色矢印は、高電子密度カプシドまたはそれらの部分を指し示す。黒色矢印は、高電子密度カプシドが不完全であるように見える領域において見ることができる膜の隆起を強調する。
【0057】
図2Eは、Gag.MS2媒介性導入遺伝子発現を決定した結果を示し、これは一過性であることが示される。HT1080細胞に、ホタルルシフェラーゼmRNA転移Gag.MS2粒子を形質導入した後のホタルルシフェラーゼの発現を、経時的にモニターした。各々のアルファおよびガンマレトロウイルス組込み転移ベクター粒子(g.RITおよびa.RIT)を、陽性対照として使用した。この実験において、アルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子からのホタルルシフェラーゼの一過性の発現は、ガンマレトロウイルスベースのGag.MS2粒子からの一過性の発現よりも一貫して高いことが見出された。比較のための組込み構築物g.RITおよびa.RITは、連続的な高発現を示す。このアッセイの前に、qRT-PCRにより、上清中のレポーターmRNA(ホタルルシフェラーゼ)の含有量を決定し、等しい量のホタルルシフェラーゼmRNAコピーを標的細胞へ施用するために上清の体積を調節した。興味深いことに、両方のGag.MS2粒子系の一過性の性質に加えて、a.NC.pr.MS2からなるa.Gag.MS2粒子は、粒子施用の1時間後に、より高いルシフェラーゼ発現を示し、a.Gag.MS2粒子について、上清体積当たりのより機能的な粒子、より効率的な細胞侵入、および/または標的細胞形質導入中の他の利点を示唆する。
【0058】
例2:CRISPR/Cas9 RNA(SpCas9 mRNAおよび各々のsgRNA)を送達するアルファレトロウイルスベースのa.Gag.MS2粒子のパッケージングおよび性能
アルファレトロウイルスベースのa.Gag.MS2粒子の産生のために使用される成分を、
図3Bに模式的に示す。
図3Bにおいて示される発現カセットである、CMVプロモーターの制御下においてMA-p2-p10-CA-NC-ウイルスプロテアーゼ部位-2xMS2CP(a.Gag.MS2、配列番号1のヌクレオチド1462~3999)をコードする発現カセットと、ブタテッショウウイルス(teschovirus)-1のP2Aプロテアーゼ部位のコード配列に融合され、EGFPのコード配列、2コピーのMS2標的部位ヘアピン(TS)、PREエレメントおよびポリアデニル化シグナル(pA)が続くストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)Cas9(SpCas9)のmRNAを産生するための、CMVプロモーターの制御下におけるVSVg(配列番号4)をコードする別の発現ベクターとを含有する粒子を、293Tプロデューサー細胞において産生した。後者の構築物を、SpCas9.TS(配列番号5)と命名する。この構築物は、TS、PREおよびpAに連結されたSpCas9-P2A-EGFPのmRNAをコードする。この構築物から、SpCas9(目的の遺伝子)およびEGFP(レポーター)は、単一のmRNA転写産物として転写され、P2A部位によって媒介されるペプチド結合スキッピングにより翻訳中に分離される。
【0059】
標的細胞においてSpCas9酵素と協同させるためのシングルガイドRNA(sgRNA)sgRNA TS.adjまたはsgRNA TS.incを、Pol IIIヒトポリメラーゼプロモーターU6(hU6)プロモーターを利用して発現し、2つのMS2 TSコピーに連結し、ポリTストレッチにより、好ましくは配列TTTTTまたはTTTTにより終結させる。加えて、これらの構築物は、CMVプロモーターの制御下においてDsRedexpを発現し、ポリアデニル化シグナル(pA)により終結される。sgRNA TS.inc構築物(配列番号3)は、sgRNA骨格内に組み込まれるTSコピーを有し、一方で、sgRNA TS.adj(配列番号14)構築物においては、TSコピーは、sgRNA骨格の3’に(隣り合って)置かれた。両方のsgRNA構築物は、各々のプロトスペーサー配列、すなわち、レシピエント細胞ゲノム内の意図されるDNA標的部位への結合を与えるsgRNAの部分が容易に置換されること(各々のsgRNA.TS骨格に影響を及ぼすことなく)を可能にするように設計された。
【0060】
レポーター遺伝子DsRedexpによって代表されるGOIの追加のコード配列を有するこれらのsgRNA構築物において、sgRNAは、GOIとpAとの間に配置される。これらの核酸構築物は、トランスフェクトされた標的細胞における、発現についてのレポーター遺伝子としてのDsRedexp(イソギンチャクモドキ(Discosoma sp.)赤色蛍光タンパク質、DsRed-Express、BD Clontech社から入手可能、製品番号6995-1)のヒトコドン最適化コード配列を含有し、このコード配列は、トランスフェクトされた標的細胞においてsgRNAの転写を制御するプロモーターhU6に連結されている。
【0061】
また、DsRedexpによって例示されるGOIのmRNAは、配列番号3のヌクレオチド1681~1701およびヌクレオチド1751~1771における2コピーのMS2ヘアピン構造(TS)をコードし、このTSは、転写されたGOI.TS mRNAを、生ずるアルファレトロウイルス粒子のMS2コートタンパク質二量体(2xMS2CP)へ特異的にパッケージングすることを可能にする。タンパク質成分は、MA-p2-p10-CA-NC-ウイルスプロテアーゼ部位-2xMS2CP内の融合タンパク質としてコードされる(a.Gag.MS2)。この実施形態は、低分子非コードRNAの一例としてのsgRNAは、TSの領域へ組み込まれ得ること、例えば、sgRNAが2つのヘアピン構造の間に、および/またはヘアピン構造の5’に直接隣り合って配置されることを示す。一例として、配列番号3は、ヌクレオチド1560~1668においてBsmBI-スタッファー(BsmBI-stuffer)と呼ばれるセクションを含み、その部分またはそれは、完全に、sgRNAのプロトスペーサー配列に交換され得る。例示的なsgRNA配列は、マウスメチルシトシンジオキシゲナーゼTet2を標的化するためのsgRNAについて配列番号7、マウス細胞腫瘍抗原p53を標的化するsgRNAについて配列番号8、ヒト細胞腫瘍サプレッサー遺伝子p53を標的化するsgRNAについて配列番号9、ヒトC-X-Cケモカイン受容体4を標的化するsgRNAについて配列番号10、高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)を標的化するsgRNAについて配列番号11として示される。
【0062】
図3Aは、a.Gag.MS2とは対照的に、各々のg.Gag.MS2バリアント、同じシュードタイピングタンパク質VSVg、および機能的に同一のRNA核酸構築物を含有する、比較のためのガンマレトロウイルスベースのGag.MS2粒子の産生に使用される成分を模式的に示す。
【0063】
図3Cは、マウスTetメチルシトシンジオキシゲナーゼ2遺伝子(Tet2)に対して方向付けられるTS.inc sgRNAをパッケージングしたアルファレトロウイルスベースのa.NC.pr.MS2 CRISPR/Cas9粒子は、それらのsgRNA.Tet.TS.adj相関物よりも優れていることを示す。ヒトHT1080細胞におけるRFP657.Tet2のCRISPR/Cas9媒介性ノックアウト(Hecklら、上記の引用による)の成功は、RFP657発現の喪失によって示される。したがって、a.NC.pr.MS2 CRISPR/Cas9およびsgRNA.TS.inc転写産物を、次の図面において使用した。レポーターカセットを模式的に示し、Tet2認識部位はRFP657のコード配列内に(ATG開始コドンのすぐ下流に)配置されるので、CRISPR/Cas9は、DNA二本鎖の切断を誘導し、不正確なDNA修復は、フレームシフト、それゆえ、RFP657発現の喪失をもたらす。SFFV:脾フォーカス形成ウイルス由来のプロモーター。
【0064】
図3Dは、TSに連結されたSpCas9コードmRNA、およびTSに連結されたマウスTetメチルシトシンジオキシゲナーゼ2遺伝子(Tet2)標的化sgRNAについての、アルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子(a.Gag.MS2)および比較のためのガンマレトロウイルスベースのGag.MS2粒子(g.Gag.MS2)に含有されるmRNAの転写産物数を示す。結果は、アルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子は、各々ガンマレトロウイルスベースのGag.MS2粒子と比較して、およそ8倍高い、より高い数のSpCas9 mRNAを含有するが、およそ2.3倍低い数のsgRNAを含有することを示す。a.Gag.MS2粒子に、Tet2.TS.incをパッケージングし、一方で、g.Gag.MS2粒子に、Tet2.TS.adj sgRNAをパッケージングした。
【0065】
アルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子または比較のためのGag.MS2ガンマレトロウイルスベースの粒子を形質導入した様々な標的細胞におけるsgRNAと組み合わせたSpCas9酵素の活性を、
図3E、3Fに示す。
【0066】
sgRNAは、マウスTetメチルシトシンジオキシゲナーゼ2遺伝子(Tet2)(プロトスペーサー、配列番号7を参照されたい)について特異的であり、ウイルスベースの粒子のmRNAによってコードされるSpCas9酵素との協同により、
図3Cにおいても使用される、5’コード領域(ATG開始コドンの下流)において対応するTet2認識部位(配列番号7)を有するRFP657レポーター遺伝子を含有する標的細胞において、RFP657のノックアウトをもたらす。このレポーター遺伝子は、脾フォーカス形成ウイルス(SFFV)プロモーター(
図3Cおよび3E)により、またはCBX.EFSプロモーター(最小遍在性クロマチンオープニングエレメント(minimal ubiquitous chromatin-opening element)CBX3、および伸長因子1アルファ短(EFS)プロモーター(elongation factor 1 alpha short (EFS) promoter)からなるエピジェネティック(epigenetic)サイレンシング抵抗性プロモーター)により発現される(
図3F)。
【0067】
CRISPR/Cas9をコードする核酸構築物を含有するアルファレトロウイルスベースの粒子a.Gag.MS2による、Tet2認識部位を伴うレポーターカセットを含有するヒトHT1080線維芽細胞(
図3E)およびヒトiPSC(
図3F)におけるレポーター遺伝子RFP657の優れたノックアウト活性、またはJurkat細胞における内因性CXCR4標的遺伝子の優れたノックアウト活性(例3、
図4)が、他の点では同様のガンマレトロウイルスベースの粒子と比較して見出された。標的細胞におけるRFP657.Tet2のCRISPR/Cas9媒介性ノックアウトの成功は、RFP657発現の喪失によって示される。
【0068】
例3:内因性遺伝子を操作するためのCRISPR/Cas9 RNAを送達するアルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子のパッケージングおよび性能
内因性遺伝子の一例として、ヒトCXCR4遺伝子を、本発明によるアルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子によって標的化した。アルファおよびガンマレトロウイルスベースのGag.MS2粒子に、配列番号10のプロトスペーサー配列を含むsgRNAを含有する内因性ヒトCXCR4標的化sgRNA.TS転写産物をパッケージングした。マウスTrp53遺伝子(配列番号8に示される対応するプロトスペーサー)に対して方向付けられたsgRNA.TS転写産物を含有する各々の粒子を、非標的化陰性対照として使用した。
図4Aおよび4Bの結果は、アルファレトロウイルスベースの粒子は、ガンマレトロウイルスベースの粒子よりも天然の内因性CXCR4標的遺伝子を操作することにおいてもまたより有効であることを示す。興味深いことに、a.Gag.MS2粒子は、レンチウイルス組込みCRISPR/Cas9オールインワンベクター対照(LIT.CXCR4)よりも優れていた。
【0069】
図4Aは、Jurkat細胞における内因性CXCR4遺伝子のノックアウトの代表的なFACSデータを示す。非形質導入細胞を偽(Mock)対照として使用した。アルファおよびガンマレトロウイルスベースのGag.MS2粒子に、CXCR4を標的化するsgRNA.TS転写産物をパッケージングした(g.Gag.MS2:CXCR4.TS.adj;a.Gag.MS2 CXCR4.TS.inc)。マウスTrp53遺伝子に対して方向付けられた各々のsgRNA.TS転写産物を含有する粒子を、陰性対照として使用した。
図4Aの挿入図は、各々のsgRNA.TSによって標的化される内因性CXCR4遺伝子のノックアウトは、ガンマレトロウイルスベースの粒子(g.Gag.MS2)によっては15%のみであったが、本発明のアルファレトロウイルスベースの粒子(a.NC.pr.MS2)については91%であったことを示す。
図4Bは、アルファレトロウイルスベースの粒子による、このより高い率の、内因性CXCR4標的遺伝子の遺伝子操作をグラフで示す。
【0070】
例4:様々な初代ヒトおよびマウス細胞種における、内因性ヒト腫瘍サプレッサー遺伝子TP53を標的化するアルファレトロウイルスベースのGag.MS2 CRISPR/Cas9粒子の性能(
図5)
アルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子のタンパク質成分は、上記の例において説明された成分であった。各々のアルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子は、SpCas9をコードするmRNA、ならびに続いて2コピーのTSヘアピン(SpCas9.TS)、任意にPRE、およびポリA尾部、ならびにヒトTP53遺伝子に特異的な別のsgRNA転写産物およびそのsgRNA骨格に組み込まれたTSヘアピン(TS.inc)を含有する。核酸構築物は、SpCas9ヌクレアーゼをコードするmRNAについて配列番号5、および配列番号3のBsmBIスタッファーセクションを置換するプロトスペーサーについて配列番号9である。
【0071】
アルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子を、293Tプロデューサー細胞において産生し、粒子を含有する上清を、標的細胞に形質導入するために使用した。任意に、上清を超遠心分離によって濃縮した。上清を、SpCas9.TS mRNAの濃度についてqRT PCRによって解析し、図面に示されるコピー数のmRNAを含有するアルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子上清の体積を、ヒトNuFF(
図5A)、初代ヒト肝細胞(PHH)(
図5B)、ヒト臍帯血由来CD34+造血幹細胞・前駆細胞(CD34+HSPC)(
図5C)またはマウス胚線維芽細胞(MEF;CF1もしくはC3Hマウスに由来する)(
図5D)に形質導入するために使用した。適用したSpCas9.TS mRNA用量(コピー/細胞)を、X軸に示し、ここで、2x4150(
図5Aを参照されたい)または2x4800(
図5Dを参照されたい)は、2用量のアルファレトロウイルスベースのa.Gag.MS2粒子を示し、各々は、それぞれ、4150または4800個のmRNAコピーを有する。Y軸は、標的細胞のTP53遺伝子における欠失の百分率を示す。
【0072】
これらの結果は、アルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子は、ヒトおよびマウス初代細胞に有効に形質導入できること、およびコードされる遺伝子編集ヌクレアーゼ、例えばsgRNAと組み合わせたSpCas9は、標的細胞ゲノムと有効に反応することを示す。さらに、これらの結果は、標的細胞に対するアルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子の活性は、用量依存的であることを示す。
【0073】
例5:標的細胞において2または3つの遺伝子/標的部位を同時編集するためのCRISPR/Cas9をコードするアルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子の性能
この例は、本発明のアルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子は、細胞の2または3つの標的遺伝子を特異的に操作する、すなわち、遺伝学的に操作するかまたは同時編集することにおいて有効であることを示す。
【0074】
アルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子のタンパク質成分は、上記の例において説明された成分であり、上流でTSに連結されたSpCas9 mRNA(SpCas9.TS、配列番号5)をコードするパッケージングされたmRNA、および同時に標的細胞内の2つの遺伝子を編集するための核酸構築物を含有するアルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子の一実施形態としての、ヒトCXCR4遺伝子に特異的なプロトスペーサー配列(配列番号10)を含有する第1のsgRNA.TS.inc構築物と、マウスTet2遺伝子に特異的なプロトスペーサー配列(配列番号7)を含有する第2のsgRNA.TS.inc構築物との組合せ(
図6A)を伴う。
【0075】
さらなる実施形態として、標的細胞内の3つの遺伝子/標的部位を同時編集するためのアルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子。SpCas9.TS.mRNAに加えて、ヒトCXCR4遺伝子に特異的なプロトスペーサー配列(配列番号10)を含有する第1のsgRNA.TS.inc構築物と、マウスTet2遺伝子に特異的なプロトスペーサー配列(配列番号7)を含有する第2のsgRNA.TS.inc構築物と、EGFP遺伝子に特異的なプロトスペーサー(配列番号11)をコードする第3のsgRNA.TS.inc構築物とを含有するアルファレトロウイルスベースの粒子を製造した。標的遺伝子のノックアウトに特異的なsgRNAの代替としてもしくはこれに加えて、またはSpCas9.TS.mRNAに加えて、さらなるGOIをコードするmRNAを、アルファレトロウイルスベースの粒子によって導入することができる。
【0076】
各実施形態は、同じタンパク質成分、つまり、アルファレトロウイルスのドメインMA、p2、p10、CAおよびNCによる、NCへのリンカー(このリンカーはウイルスプロテアーゼ部位を含有し得る)を介して連結されるタンパク質、配列番号1から発現されるMS2コートタンパク質二量体(2xMS2CP)、および配列番号4から発現されるVSVgからなっていた。
【0077】
標的細胞は、CXCR4を内因的に発現し、EGFPの発現カセットおよび/またはRFP657.Tet2レポーター遺伝子の発現カセットを含有する核酸構築物をレンチウイルスベクターによって形質導入した(Hoffmannら(上記の引用による)、Hecklら(上記の引用による)、およびKnoppら(上記の引用による)に従って)Jurkat細胞であった。
【0078】
図6Aは、CXCR4に特異的なsgRNA.TS.incとTet2に特異的なsgRNA.TS.incとの組合せの、コードmRNA SpCas9.TSを含有するアルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子についての結果を示す。非形質導入/無処理細胞を、陰性対照(偽)として使用した。代表的なFACSプロットは、CXCR4遺伝子およびRFP657.Tet2レポーター遺伝子の両方(CXCR4/Tet2)は、アルファレトロウイルスベースのGag.MS2 CRISPR/Cas9粒子によって有効にノックアウトされたことを示す。3回の生物学的反復のFACS結果を表す列は、細胞におけるノックアウト%の数を示し、細胞当たりの増加するSpCas9.TS mRNAコピーとして表される、アルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子の用量依存性および正の相関、ならびに処理された培養物中の遺伝子編集された細胞の量を実証する。
【0079】
図6Bは、ヒトCXCR4、マウスTet2およびEGFPを標的化する、追加の3つのsgRNA.TS.inc転写産物との組合せの、遺伝子編集ヌクレアーゼSpCas9をコードするmRNAを含有するアルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子の形質導入後の、Jurkat標的細胞のFACS結果を示す。非処理偽細胞を、陰性対照(偽)として使用し、示される代表的なFACSプロットにおいて示される通り、非処理偽細胞は、すべての3つのレポーター遺伝子、すなわち、CXCR4、Tet2、EGFPについて高く陽性であった。対照的に、アルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子を形質導入した標的細胞は、すべての3つの標的化レポーター遺伝子について有効なノックアウトを示した。CXCR4について64%まで陰性である細胞は、RFP657およびEGFPレポーター遺伝子について58%の追加のノックアウトを示した。棒グラフは、標的細胞当たりのSpCas9.TS mRNAコピーとして決定される、増加する量のアルファレトロウイルスベースのGag.MS2粒子は、SpCas9およびすべての3つのsgRNA.TS.inc転写産物によって遺伝学的に操作された3重陰性標的細胞の増加する割合をもたらすことを示し、例えば、68 SpCas9.TS mRNAコピー/細胞においておよそ25%、および170 SpCas9.TS mRNAコピー/細胞においておよそ30%であった。
【0080】
例6:アルファレトロウイルスベースの粒子による、細胞への自己増幅RNAの形質導入
さらなるRNAの一実施形態として、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEE)に由来する自己増幅RNAレプリコンを、本発明のアルファレトロウイルスベースの粒子によって細胞へ導入した。この場合、GOIとしてEGFPを転移した。しかしながら、転移されるRNAはまた、非コードRNA、例えば、miRNAまたはlncRNAであってもよい。
【0081】
図7Aは、EGFPを転移し、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEE)由来の自己増幅RNAレプリコンをコードする、アルファレトロウイルスベースのa.Gag.MS2粒子(a.NC.pr.MS2)の核酸構築物を模式的に示す。上部に、VEE自己増幅RNAレプリコンの生成のための発現プラスミドを示す。nsP1~4:VEE非構造タンパク質;RBZ:HDVアンチゲノムリボザイム;VEEプロモーター:VEEサブゲノムプロモーター。
図7Bは、a.NC.pr.MS2ベースのVEEレプリコン粒子を形質導入したHT1080細胞の代表的なFACSプロットを示す。右側に、多数の生物学的反復の要約を示す。100倍濃縮した上清の増加する量は、EGFP陽性細胞の百分率の増加をもたらした。
【0082】
これは、本発明のアルファレトロウイルスベースの粒子が、ここではEGFPのコードmRNAによって例示されるGOIを含む自己増幅RNAレプリコンを含有し得ることを示す。
【0083】
例6:アルファレトロウイルスベースの粒子によるin vivo形質導入
本発明のアルファレトロウイルス粒子に含有される目的の遺伝子の代表例として、アルファレトロウイルスベースのホタルルシフェラーゼをコードするa.Gag.MS2粒子(
図1Bにおいて模式的に示される、a.NC.pr.MS2、およびGOIとしてルシフェラーゼをコードするGOI.TS)であって、
図1Fおよび1Gの結果に使用される粒子を、Balb/Cマウスに、
図8Dにおいて4x10
9mRNAコピーにて、
図8Fにおいて6x10
9mRNAコピーにて脾臓内注射した。
【0084】
8時間後、ホタルルシフェラーゼ基質D-ルシフェリンを腹腔内投与し、マウスを生物発光画像化で調べた。際立ったことに、PBSのみで処置した対照マウスにおけるバックグラウンドシグナル(
図8Eにおける色スケール上の0.1x10
7以下の放射輝度値)と比較して、a.Gag.MS2粒子により処置したマウスについて、より強い肝臓特異的シグナルを検出することができた(より大きな領域およびより高い放射輝度、
図8Dにおけるカラースケール上のおよそ0.18x10
7~0.25x10
7の値、ならびにさらにより大きな領域およびより高い放射輝度、
図8Fにおけるカラースケール上のおよそ0.3x10
7~0.6x10
7の値)。さらに、シグナルの強さは、施用した粒子の用量と相関した。ルシフェリンのみで処置した、
図8A~Cの陰性対照は、生物発光を示さなかった。
【0085】
この例は、本発明のアルファレトロウイルス粒子は、哺乳動物への投与において、アルファレトロウイルス粒子に含有されるRNA構築物内にコードされる目的の遺伝子の発現をもたらすことを示す。
【配列表】
【国際調査報告】