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特表2025-500350リーシュマニア症に対するDNAワクチン
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】リーシュマニア症に対するDNAワクチン
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20241226BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20241226BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241226BHJP
   A61K 39/008 20060101ALI20241226BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20241226BHJP
   A61P 33/02 20060101ALI20241226BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20241226BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N15/31
C12N15/63 Z
A61K39/008
A61K39/39
A61P33/02
A61P37/04
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537399
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-08-19
(86)【国際出願番号】 EP2022087392
(87)【国際公開番号】W WO2023118394
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】21217516.0
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510000976
【氏名又は名称】インターベット インターナショナル ベー. フェー.
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100216839
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 敏幸
(74)【代理人】
【識別番号】100228980
【弁理士】
【氏名又は名称】副島 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】アラムニ・ゴンサルベス,ルシアナ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェットラート,ルイス・フェルナンド
(72)【発明者】
【氏名】ボノミ・バルフィ,フランシスコ
(72)【発明者】
【氏名】ファッチョリ・ロペス,ヘレナ
(72)【発明者】
【氏名】ラベロ・エンリケス,マイカ
(72)【発明者】
【氏名】フェレイラ・レアル・デ・フレイタス,ジャンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ローザ,シモーネ・クリスティーナ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084NA10
4C084NA14
4C084ZB091
4C084ZB092
4C084ZB371
4C084ZC611
4C085AA03
4C085AA38
4C085BA04
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE06
4C085FF18
4C085GG04
(57)【要約】
本発明は獣医学およびウイルス学の分野に関するものであり、リーシュマニア症に対するワクチンを提供する。特に、本発明は、(i)熱ショックタンパク質(hsp)65をコードする核酸を含む第1発現カセットと、(ii)LACK[活性化Cキナーゼの受容体のリーシュマニア(Leishmania)ホモログ]をコードする核酸を含む第2発現カセットとを含む単離されたポリヌクレオチドに関する。他の実施形態においては、本発明は、該ポリヌクレオチドを含むDNAプラスミド、リーシュマニア症の治療における使用のためのDNAワクチン、およびリーシュマニア症の感染に対して対象を免疫化する方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)熱ショックタンパク質(hsp)65またはその機能的断片をコードする核酸を含む第1発現カセット、および
(ii)LACK[活性化Cキナーゼの受容体のリーシュマニア(Leishmania)ホモログ]またはその免疫原性断片をコードする核酸を含む第2発現カセット
を含む単離されたポリヌクレオチド。
【請求項2】
hsp65が配列番号1のアミノ酸配列のアミノ酸48~583を含む、またはそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
LACKが配列番号2のアミノ酸配列を含む、またはそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1または2記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
hsp65およびLACKをコードする核酸が、異なるプロモーターの制御下にある、前記請求項のいずれか1項記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
hsp65をコードする核酸がサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下にある、前記請求項のいずれか1項記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
LACKをコードする核酸がEF1α-HTLVプロモーターの制御下にある、前記請求項のいずれか1項記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
第2発現カセットが1以上のCpGモチーフを更に含む、前記請求項のいずれか1項記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載のポリヌクレオチドを含むDNAプラスミド。
【請求項9】
hsp65およびLACKまたはそれらの免疫原性断片の組換え発現のための、請求項1~7のいずれか1項記載のポリヌクレオチドの、または請求項8記載のDNAプラスミドの使用。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項記載のポリヌクレオチドを含む、または請求項8記載のDNAプラスミドを含むDNAワクチン。
【請求項11】
薬学的に許容される担体を更に含む、請求項10記載のDNAワクチン。
【請求項12】
非アジュバント化ワクチンである、請求項10または11記載のDNAワクチン。
【請求項13】
アジュバントを含む、好ましくは、アジュバントがサポニンである、請求項10または11記載のDNAワクチン。
【請求項14】
リーシュマニア症の感染に対する対象の防御における使用のための、好ましくは対象がイヌである、請求項10~13のいずれか1項記載のDNAワクチン。
【請求項15】
感染がイヌリーシュマニア症によるものである、請求項14記載の使用のためのDNAワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は獣医学および寄生虫学の分野に関するものであり、リーシュマニア症に対するワクチンを提供する。特に、本発明は、(i)マイコバクテリア熱ショックタンパク質(hsp)65をコードする核酸を含む第1発現カセットと、(ii)LACK[活性化Cキナーゼの受容体のリーシュマニア(Leishmania)ホモログ]をコードする核酸を含む第2発現カセットとを含む単離されたポリヌクレオチドに関する。他の実施形態においては、本発明は、該ポリヌクレオチドを含むDNAプラスミド、リーシュマニア症の予防的治療における使用のためのDNAワクチン、およびリーシュマニア症の感染に対して対象を免疫化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
リーシュマニア症は、リーシュマニア(Leishmania)属の寄生原虫によって引き起こされる疾患である。それは雌のサシチョウバエの刺咬によって伝染する。サシチョウバエの多数の種が存在し、それらのうちのごく一部がリーシュマニアの可能な媒介動物である。イヌは、臨床症状を伴う場合も伴わない場合も、サシチョウバエに対して感染性であり、リーシュマニア原虫を伝染させうる。
【0003】
リーシュマニアの23個を超える種が記載されており、それらのほとんどは人獣共通感染性である。家畜を冒す最も重要なリーシュマニア原虫はリーシュマニア・インファンタム(L.infantum)[ラテンアメリカにおいてはリーシュマニア・シャガシ(L.chagasi)としても公知である]である。イヌは、リーシュマニア・インファンタム(L.infantum)によって引き起こされるヒト内臓リーシュマニア症の主要保有宿主であり、該疾患はイヌおよびヒトにおいて潜在的に致命的である。イヌの内臓および皮膚が冒されるため、該イヌ疾患は内臓皮膚(viscerocutaneous)リーシュマニア症またはイヌリーシュマニア症と称される。ネコ、ウマまたは他の哺乳動物はリーシュマニア・インファンタム(L.infantum)または他のリーシュマニア属種(Leishmania species)に感染しうる。外皮(tegumentary)イヌリーシュマニア症の原因であるリーシュマニア・ブラジリエンシス(L.braziliensis)は南米の地域に広く分布している。
【0004】
イヌリーシュマニア症は、89を超える国々で流行している主要な人獣共通感染症である。それはヨーロッパ、アフリカ、アジアおよび中南米において蔓延しており、米国においてはイヌからイヌへと垂直感染している。それはまた、外国から持ち込まれる疾患が獣医学上および公衆衛生上の問題となっている非流行国においても懸念されている。イヌリーシュマニア症は、非常に多種多様な免疫応答および臨床症状を示す多臓器疾患である。流行地域においては、感染を有するイヌの分布率は、臨床疾患を示すイヌの分布率より遥かに高い。臨床疾患は、防御をもたらさない顕著な抗体応答を伴う。実際、免疫媒介性メカニズムがイヌリーシュマニア症の病理の多くに関与している。ほとんどの症候性のイヌにおいては、リーシュマニア感染による疾患の最初の徴候は最初の感染の約2~4か月後に現れる。症状には、皮膚のただれ、皮膚の剥離、潰瘍、体重減少、脱毛、結膜炎、失明、鼻水、筋萎縮、炎症、腫脹および臓器不全(軽度の心臓発作を含む)が含まれうる。
【0005】
罹患個体の診断および治療は特に複雑であり、このことは流行地域における感染制御を妨げている。イヌリーシュマニア症の治療に使用される主な化学療法プロトコルはN-メチルグルカミンアンチモニアートを含む。治療は、しばしば、病原体を消失させる治療をもたらさない。治療を受けたイヌは感染のキャリアのままとなる可能性があり、再発しうる。それらはサシチョウバエに対して感染性のままとなりうる。
【0006】
イヌリーシュマニア症を予防するための方法は局所殺虫剤の使用、予防的免疫療法およびワクチン接種を含む。2004年以降に、イヌリーシュマニア症に対する4つのワクチン、すなわち、ブラジルにおける2つ[Leishmune(登録商標)(その製造および販売の認可は2014年に取り消された)およびLeish-Tec(登録商標)]およびヨーロッパにおける2つ[CaniLeish(登録商標)およびLetiFend(登録商標)]が認可されている。Leish-Tec(登録商標)は、イヌ内臓リーシュマニア症(CVL)に対する、リーシュマニアA2抗原に基づく組換えワクチンである。数年間の販売の後、ワクチンの有効性および効果、ワクチン接種されたおよび感染した動物の潜在的感染性、またはリーシュマニア・インファンタム(L.infantum)の血清学的診断におけるワクチン誘導抗体の干渉に関する疑念が残っている。
【0007】
したがって、リーシュマニア症に対するワクチン接種による予防的治療が緊急に必要とされている。
【0008】
リーシュマニア症に対する予防ワクチン候補に関する研究が近年進展しており、幾つかのワクチン接種方法および幾つかの抗原が試験された。種々の不活化または弱毒化された寄生虫に基づく第1世代ワクチン、抗原タンパク質または組換えタンパク質に基づく第2世代ワクチン、および異種初回抗原刺激-追加抗原刺激リーシュマニアワクチンを含む抗原コード化DNAプラスミドに由来する第3世代ワクチンが、リーシュマニア症の制御および予防のために試験されている。CD4+ Tリンパ球およびCD8+ Tリンパ球が、内臓リーシュマニア症の防御および治癒をもたらすのに重要な役割を果たすことが、明らかになっている。裸DNAでの免疫化(DNAワクチン接種)は、CD4+ 媒介性応答およびCD8+ 媒介性応答の両方を促進する、そして感染に対する防御応答の誘導に役立つ新規アプローチである。
【0009】
伴侶動物と食用動物との両方における商業的使用に関して多数のDNAワクチンが既に承認されている。その作用メカニズムはDNAワクチンをリーシュマニア症の制御に魅力的なものとする。過去数年間、研究はGP63、CP、TSA、GP64、LmSTI1、LeIfおよびP8、p4およびLACKのような幾つかの抗原に焦点を合わせている(Jain KおよびJain NK.J.Immun.Methods,422(2015))。LACK(活性化Cキナーゼの受容体のリーシュマニアホモログ)は、サイトゾルおよび膜の外表面に局在する36kDaのタンパク質である。それは寄生虫のプロマスチゴート形態(前鞭毛型)とアマスチゴート形態(無鞭毛型)との両方において発現される。リーシュマニア属種の宿主-遺伝子相互作用に関与する遺伝子が特定され、Peacockら,Nat Genet.,2007において報告されている。
【0010】
マイコバクテリアHSP、主としてHsp65およびHsp70は、免疫系の自然免疫と適応免疫(細胞性および体液性)との両方を調節することが公知である。65kDaの熱ショックタンパク質(hsp65)としてマイコバクテリア抗原をコードするDNA構築物は有意な防御免疫を誘導することが示されている。マイコバクテリアhsp65を含有するDNAワクチン(DNAhsp65)が最近開発された。DNAhsp65は種々の疾患に対して広範な免疫療法特性を示すことが示された(Silva CL,Malardo TおよびTahyra ASC,Front.Med.Technol.2:603-690(2020))。
【発明の概要】
【0011】
発明の概括
本発明において、驚くべきことに、hsp65とLACK(活性化Cキナーゼの受容体のリーシュマニアホモログ)とを含むDNAワクチンを使用する65kDa熱ショックタンパク質hsp65およびLACKでのワクチン接種が、有効な免疫応答および寄生虫量の低減を達成することが判明した。この知見は特に驚くべきものである。なぜなら、LACK抗原によって誘導される免疫応答は実験的リーシュマニア感染に対する防御をもたらさないことが当技術分野において最近示されていたからである(Coelhoら,Infection and Immunity,71(7),2003)。
【0012】
したがって、第1の態様においては、本発明は、(i)熱ショックタンパク質(hsp)65またはその機能的断片をコードする核酸を含む第1発現カセットと、(ii)LACK(活性化Cキナーゼの受容体のリーシュマニアホモログ)またはその免疫原性断片をコードする核酸を含む第2発現カセットとを含む単離されたポリヌクレオチドを提供する。
【0013】
第2の態様においては、本発明は、本明細書に記載されているポリヌクレオチドを含むDNAプラスミドを提供する。
【0014】
第3の態様においては、本発明は、本明細書に記載されているポリヌクレオチドを含むDNAワクチンを提供する。
【0015】
第4の態様においては、DNAワクチンはリーシュマニア症の感染に対する対象の防御において使用される。
【0016】
第5の態様においては、本明細書に記載されているDNAワクチンの免疫遺伝学的に有効な量を対象に投与することを含む、リーシュマニア症の感染に対して対象を免疫化する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】DNAHSP-LACK: hsp65およびLACK遺伝子を含有する実施例1に記載されているプラスミドDNAベクターの概略図。
図2】マウスモデルにおける、生理食塩水に再懸濁されたワクチンおよび組合せの免疫原性および有効性の評価のための実験設計。
図3A】実施例3における免疫原性および有効性の結果からの代表的グラフ。3A - IFN-γ応答、3B - 限界希釈アッセイによる肝臓における寄生虫量。
図3B】実施例3における免疫原性および有効性の結果からの代表的グラフ。3A - IFN-γ応答、3B - 限界希釈アッセイによる肝臓における寄生虫量。
図4A】実施例4におけるリンパ節におけるqPCRによる寄生虫量の代表的グラフ:4A - チャレンジの43日後、4B - チャレンジの190日後、4C - チャレンジの302日後。
図4B】実施例4におけるリンパ節におけるqPCRによる寄生虫量の代表的グラフ:4A - チャレンジの43日後、4B - チャレンジの190日後、4C - チャレンジの302日後。
図4C】実施例4におけるリンパ節におけるqPCRによる寄生虫量の代表的グラフ:4A - チャレンジの43日後、4B - チャレンジの190日後、4C - チャレンジの302日後。
図5A】実施例4における骨髄におけるqPCRによる寄生虫量の代表的グラフ:5A - チャレンジの43日後、5B - チャレンジの190日後、5C - チャレンジの302日後。
図5B】実施例4における骨髄におけるqPCRによる寄生虫量の代表的グラフ:5A - チャレンジの43日後、5B - チャレンジの190日後、5C - チャレンジの302日後。
図5C】実施例4における骨髄におけるqPCRによる寄生虫量の代表的グラフ:5A - チャレンジの43日後、5B - チャレンジの190日後、5C - チャレンジの302日後。
【0018】
用語の定義
「核酸(配列)」または「ポリ核酸(配列)」なる語はRNAまたはDNA配列を含む。それは一本鎖または二本鎖でありうる。それは、例えば、ゲノム、組換え、mRNAまたはcDNAでありうる。本発明においては、ポリ核酸は典型的には二本鎖DNAである。
【0019】
「単離された」なる語は、意図的な行為または人間の介入によって、例えば生化学的精製のためのインビトロ操作によって、その天然環境から単離されたものと解釈されるべきである。
【0020】
典型的には、タンパク質(ここでは、本発明による抗原hsp65またはLACK)をコードする「(ポリ)核酸」または「(ポリ)核酸分子」または「遺伝子」はオープンリーディングフレーム(ORF)であり、これは、タンパク質への翻訳を途中で終了させる望ましくない終止コドンが存在しないことを示す。本発明では、核酸分子は、典型的には、hsp65またはLACKの完全なアミノ酸配列をコードする。あるいは、「核酸」または「核酸分子」は、対応する1以上の機能的断片(hsp65)または免疫原性断片(LACK)の組換え発現のために、hsp65またはLACKタンパク質の1以上の部分のみ、特にエピトープ領域のみをコードしうる。
【0021】
本発明では、本発明による核酸分子の厳密なヌクレオチド配列は重要ではない。ただし、ヌクレオチド配列は所望のアミノ酸配列(ここでは、所望のhsp65およびLACKタンパク質)の発現を可能にするものでなければならない。しかし、当技術分野でよく知られているとおり、「遺伝暗号の縮重」により、異なる核酸が同一タンパク質をコードしうる。
【0022】
本発明では、核酸分子はDNAまたはRNA分子でありうるが、典型的にはDNAである。これは、その単離に使用される原材料および意図される用途に左右される。種々の出発材料から1つのタイプまたはその他のタイプの分子を単離するための方法、および1つのタイプをその他のタイプに変換するための方法は、当業者によく知られている。
【0023】
本発明による「単離された(ポリ)核酸」は、それがDNA形態である場合、DNAプラスミドのようなベクターの環境(コンテキスト)において簡便に操作されうる。本発明による単離された(ポリ)核酸分子が本発明によるhsp65およびLACKを実際に発現することを可能にするためには、それは適切な発現制御シグナルおよび適切な環境を要し、これらは「発現カセット」の一部であり、それは、本明細書においては、関心のあるタンパク質(POI)の製造のためのDNAプラスミドからの組換え遺伝子発現のような組換え遺伝子発現に必要な全要素を含む(ポリ)核酸として定義される。
【0024】
例えば、核酸分子は上流プロモーター要素に機能的に連結されている必要があり、コード配列の先頭に翻訳開始点を、コード配列の終結部に翻訳停止点を含有する必要がある。したがって、hsp65およびLACKタンパク質の組換え発現用の発現カセットは、典型的には、機能的プロモーターの制御下にあるhsp65またはLACK遺伝子を少なくとも含む。また、発現レベルを増加させるために、コード領域の上流および/または下流に翻訳エンハンサーが含まれることが可能であり、これも発現カセットの一部でありうる。典型的には、特定の発現系の環境において使用されるプラスミドおよびベクターがそのような要素およびエンハンサーを提供する。また、転写および翻訳のための生体分子機構は、典型的には、ワクチン接種を受けた対象の細胞によって提供される。種々の要素およびエンハンサーを修飾することによって、本発明による抗原の発現が、例えば時機、レベルおよび質において最適化可能であり、これらは全て、当業者の通常の能力の範囲内である。したがって、好ましい実施形態においては、本発明による単離された核酸分子は発現制御シグナルを更に含む。
【0025】
「翻訳エンハンサー」は、翻訳を促進することによってタンパク質の産生を増加させる要素を構成するヌクレオチド配列である。典型的には、翻訳エンハンサーはmRNAの5’および3’非翻訳領域(UTR)に見出されうる。特に、関心のある遺伝子(GOI)の開始ATGコドンの直上流の5’-UTRのヌクレオチドは翻訳開始のレベルに顕著な影響を及ぼしうる。
【0026】
「発現ベクター」(同義語「発現構築物」)は、細胞内での組換え遺伝子発現のために設計された、通常はプラスミド、典型的にはDNAプラスミドである。ベクターは、特定の遺伝子を標的細胞内に導入するために使用され、遺伝子によってコードされる関心のあるタンパク質(POI)を生成させるために細胞のタンパク質合成メカニズムを使用しうる。POIを生成させるために組換え遺伝子を発現させるためには、発現ベクターは、典型的には、少なくとも、GOIの発現を駆動するプロモーターを含み、POIの収量を増加させるための1以上の翻訳エンハンサーを更に含みうる。
【0027】
本明細書中で用いる「ワクチン」なる語は、対象に投与されると、防御免疫応答を誘導または刺激する調製物を意味する。ワクチンは、特定の疾患に対して生物を免疫性にしうる。本発明の文脈においては、ワクチンはDNAプラスミドであることが可能であり、またはDNAプラスミドを含むことが可能であり、したがって「DNAワクチン」とも称され、それは、本明細書に記載されている適切な担体および/またはアジュバントを更に含有しうる。
【0028】
「DNAワクチン接種」は、病原体の抗原または免疫調節物質をコードするDNAプラスミドによる、すなわち「DNAワクチン」による免疫化を含む。
【0029】
「DNAワクチン」は、特定の抗原コード化DNA配列を、免疫化される種の細胞上に導入するタイプのワクチンである。DNAワクチンは、免疫応答の対象となる抗原をコードするDNA配列を含有する遺伝的に操作されたプラスミドを注入することによって働き、したがって、細胞は抗原を直接的に生成して、防御免疫応答を引き起こす。GOIは、適切な遺伝的要素、例えば転写制御用の真核生物プロモーター、安定で有効な翻訳のためのポリアデニル化シグナル配列および細菌の複製起点と共に、DNAプラスミド内に挿入される。プラスミドは、例えば直接注入、または適切な送達系による注入によって宿主細胞内にトランスフェクトされる。次いでGOIは宿主細胞機構による転写および翻訳に付されて、自然免疫応答および適応免疫応答(細胞性および体液性)を誘導しうる抗原タンパク質を生成する。
【0030】
DNAワクチンは、獣医学において特に関心が持たれる他のワクチン接種技術と比較して多数の利点を有する。それは他の市販ワクチンほどは高価にならない可能性がある。なぜなら、それは細菌によって大量に製造可能であり、典型的には、高い生物安全性レベルの高価な施設を要しないからである。それは温度に対して安定であり、安全に輸送でき、これらのことは、遠隔地に位置する農場にとって、または屋外で長期間放置されることを要する野生動物ワクチンにとって重要である。異なる遺伝子が同時に組合されることが可能であり、このことは、病原体の複数の株に対するワクチンの開発、および複数の病原体に対する組合せアプローチを可能にする。また、関連タンパク質が細胞内で産生され提示されるため、細胞性免疫応答と体液性免疫応答との両方が誘導され、このことは、後の時点で動物が自然感染に遭遇した際に、より効率的な免疫応答をもたらす。
【0031】
DNAワクチンは、免疫応答およびタンパク質分布を改変しうる幾つかの経路および技術によって投与されうる。典型的には、DNAワクチンは皮下注射または筋肉内注射によって投与される。
【0032】
したがって、本発明の文脈において、「DNAワクチン」なる語は、免疫調節因子hsp65および抗原LACKの核酸配列をコードするDNA配列を意味し、これらは、免疫応答を誘導するように、ワクチン接種を受けた対象において組換え発現される。
【0033】
「リーシュマニア感染に対して動物を防御する」は、一般に、リーシュマニアによる病原性感染の予防、改善または治癒を助けること、あるいはその感染から生じる障害の予防、改善または治癒を助けること、例えば、処置後(すなわち、ワクチン接種後)のリーシュマニア感染から生じる1以上の臨床徴候を予防または軽減することを意味する。本発明におけるワクチン接種によって軽減されうる典型的な臨床徴候には、皮膚のただれ、皮膚の剥離、潰瘍、体重減少、脱毛、結膜炎、失明、鼻水、筋萎縮、炎症、腫脹および臓器不全(軽度の心臓発作を含む)の1以上が含まれうる。
【0034】
特に、本発明のワクチンは対象における抗体および細胞性免疫応答の達成を助け、これはリーシュマニア感染後の寄生虫量の減少、および該疾患の臨床徴候の軽減または予防をもたらす。好ましい実施形態においては、本発明のワクチンはリーシュマニア感染の予防または改善に使用される。この実施形態においては、本発明のワクチンによるワクチン接種は感染後の臨床徴候の1以上の軽減および寄生虫量の減少を達成する。最も好ましくは、ワクチン接種はリーシュマニア感染の予防を達成する。
【0035】
「予防」または「予防する」なる語は予防的処置によるリーシュマニア感染の回避、遅延、阻止または妨害を意味すると意図される。ワクチンは、例えば、感染性リーシュマニアが対象に侵入することを予防し、またはその可能性を減少させうる。
【0036】
実施形態の詳細な説明
ポリ核酸およびDNAプラスミド
第1の態様のポリヌクレオチド(または同義語としての核酸)は、典型的には、例えば環状DNAプラスミドのようなDNAプラスミド(以下、DNAベクターまたは単にベクターとも称される)の形態であり、またはDNAプラスミドの一部である。したがって、もう1つの態様においては、本発明は、本明細書に記載されているポリヌクレオチドを含むDNAプラスミドを提供する。
【0037】
本発明のポリヌクレオチドは、マイコバクテリアの熱ショックタンパク質hsp65およびリーシュマニアのLACKタンパク質をコードする遺伝子の組換え発現のための少なくとも2つの発現カセットを含む。
【0038】
図1は、本発明によるDNAプラスミド(DNAHSP-LACK)の構築物の一例を示し、これは、本明細書に記載されている2つの発現カセット、すなわち、1つは免疫調節因子(hsp65)の発現用のもの、もう1つは抗原(LACK)の発現用のものを含む。
【0039】
第1発現カセット(i)は、熱ショックタンパク質(hsp)65またはその免疫原性断片をコードする核酸を含む。
【0040】
本明細書中で用いるHsp65は、リーシュマニア症を含む、異なるTh1/Th2免疫応答パターンを有する幾つかの疾患の実験モデルにおいて、免疫応答をモジュレーションおよび/または調節する能力を既に示しているマイコバクテリアhsp65遺伝子を意味する(Silva CL,Malardo TおよびTahyra ASC,Front.Med.Technol.2:603690(2020))。したがって、本発明のポリヌクレオチド構築物においては、マイコバクテリアの熱ショックタンパク質hsp65は免疫調節因子として機能する。
【0041】
hsp65のアミノ酸配列は配列番号1によって表示可能であり、これは、GenBankアクセッション番号AAA25354.1に由来するマイコバクテリア株マイコバクテリウム・レプラエ(Mycobacterium leprae)のhsp65のアミノ酸配列を指し、これは、GenBankアクセッション番号M14341.1(M.leprae 65kd抗原)として提供される核酸配列によってコードされうる。本発明には、免疫調節効果を達成するのに必須の該タンパク質の関連部分を含有する、hsp65タンパク質の機能的断片も含まれる。特に、配列番号1のアミノ酸48~583を含む機能的断片が好ましく使用される。なぜなら、配列番号1のアミノ酸1~47は、hsp65タンパク質のコード化および発現に関連していないからである。
【0042】
マイコバクテリア株間の自然配列変異のため、本発明は、タンパク質の保存領域内で配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するhsp65アミノ酸配列またはその機能的断片をも包含し、これは、好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも85%の配列同一性を有し、最も好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有し、例えば、Gene Bankアクセッション番号AAA25354.1のアミノ酸配列またはその機能的断片に対して91%、92%、93%、94%または95%、97%、98%または99%の配列同一性を有する。
【0043】
第2発現カセット(ii)は、LACKタンパク質またはその免疫原性断片をコードする核酸を含む。
【0044】
本明細書において言及されるLACK(活性化Cキナーゼ受容体のリーシュマニアホモログ)は36kDaのタンパク質であり、これはリーシュマニア・インファンタム(Leishmania infantum)のサイトゾルおよび外膜表面に天然に存在するタンパク質であり、寄生虫のプロマスチゴート形態(前鞭毛型)とアマスチゴート形態(無鞭毛型)との両方において発現される。本発明のワクチンにおいては、LACKは本発明のポリヌクレオチドから発現され、ワクチン接種を受けた対象においてLACKタンパク質に対する免疫応答を達成するための抗原として機能する。したがって、本発明のポリヌクレオチド構築物においては、リーシュマニアのLACKタンパク質は、免疫応答を誘導するための抗原として機能する。
【0045】
LACKのアミノ酸配列は配列番号2によって表示可能であり、GenBankアクセッション番号ALP73427.1のアミノ酸配列を指し、これは、GenBankアクセッション番号KT184317.1[リーシュマニア・インファンタム(Leishmania infantum)株MHOM/TR/2009/EP174活性化タンパク質キナーゼC受容体(LACK)遺伝子]として提供される核酸配列によってコードされうる。本発明にはまた、抗原結合に影響を及ぼし、ワクチン接種を受けた対象において免疫原性応答を達成するための関連エピトープを含有するLACKタンパク質の免疫原性断片も含まれる。
【0046】
リーシュマニア株間の自然配列変異のため、本発明はまた、配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する、好ましくは、配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも85%の配列同一性を有する、最も好ましくは、配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、例えば、Gene Bankアクセッション番号ALP73427.1のアミノ酸配列に対して91%、92%、93%、94%または95%、97%、98%または99%の配列同一性を有するLACKアミノ酸配列またはその免疫原性断片をも含む。
【0047】
Hsp65およびLACKは共に、ワクチン接種を受けた対象における該タンパク質の組換え発現に適した同一または個別のプロモーターの制御下で発現されうる。典型的には、hsp65およびLACKは個別のプロモーターの制御下で発現される。hsp65およびLACKの組換え発現に使用されうる適切なプロモーターは当技術分野でよく知られており、例えば、Poulain A.ら,J Biotechnol.2017 255:16-27;Kim SYら,J Biotechnol.2002;93(2):183-7;J.R.Deer,D.S.Allison,Biotech Progress 2004,20(3):880-889;R.V.Gopalkrishnanら,Nucleic Acids Research,1999 27(24):4775-4782;Wang X.ら,J.Cell.Mol:Med.2017 21(11):3044-3054に記載されており、これらの文献に記載されているプロモーターの全体を参照により本明細書に組み入れることとする。
【0048】
本発明のワクチンの構築には、EF1α/HTLVと称されるプロモーターが好ましく使用される。このプロモーターは、組換え遺伝子発現のための遺伝子の挿入に使用されうるNotIおよびEcoRI制限部位を含む。EF1α-HTLVプロモーターは、ヒト伸長因子1α(EF-1α)コアプロモーターとヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)1型長末端反復のRセグメントおよびU5配列の一部(R-U5’)とを含む複合プロモーターである。EF-1αプロモーターは強力な活性を示し、インビボでのトランスジーンの長期持続発現をもたらす。R-U5’は、RNAの安定性を増強するためにEF-1αコアプロモーターに結合している(Kim SYら,J Biotechnol.2002;93(2):183-7)。
【0049】
したがって、好ましい実施形態においては、hsp65はサイトメガロウイルスCMVプロモーターの制御下で発現され、LACKはEF1α/HTLVプロモーターの制御下で発現される。
【0050】
また、発現カセットは、発現エンハンサーまたは他のシス作用要素を含む、hsp65および/またはLACKの発現を調節または増強するために使用される1以上の要素を含有しうる。
【0051】
好ましい実施形態においては、発現カセットは1以上のCpGモチーフを含有する。プラスミド骨格におけるCpG配列はDNAワクチンにおいて重要なアジュバントの役割を果たす。これらの配列は同一DNA鎖上の非メチル化CpGジヌクレオチドのペアに相当する。例えば、プラスミド系の免疫原性を増強するために、1~10個、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個、好ましくは2~6個、例えば3、4または5個、最も好ましくは4個のCpGモチーフが付加されることが可能であり、典型的には、一方または両方の発現カセットのSV40ポリアデニル化部位の後に存在する。特に好ましい実施形態においては、LACK発現をもたらす発現カセットは4個のCpGモチーフを含む。
【0052】
もう1つの態様においては、本明細書に記載されているポリヌクレオチドまたはDNAプラスミドはhsp65およびLACKまたはその免疫原性断片の組換え発現に使用され、これらはリーシュマニア感染に対する防御のためのワクチンにおける組換えタンパク質として使用されうる。
【0053】
もう1つの態様においては、本発明は、リーシュマニア感染の予防のための医薬組成物または医薬の製造における使用のための、マイコバクテリアの熱ショックタンパク質hsp65遺伝子とリーシュマニアのLACK遺伝子とを含有するDNA構築物、例えばDNAプラスミドを提供する。
【0054】
もう1つの態様においては、本発明は、本明細書に記載されているポリヌクレオチドまたはDNAプラスミドを含むDNAワクチンを提供する。
【0055】
担体およびアジュバント
もう1つの態様においては、本発明は、薬学的に許容される担体および/またはアジュバントを更に含む、本明細書に記載されているDNAワクチンを提供する。
【0056】
薬学的に許容される担体は当技術分野でよく知られている。単なる例示に過ぎないが、そのような担体は、滅菌水、生理食塩水またはバッファー溶液(緩衝液)、例えばPBSのような単純なものでありうる。ワクチンは、単一の担体を、または2以上の担体の組合せを含みうる。好ましい実施形態においては、薬学的に許容される担体は水または生理食塩水であり、最も好ましくは生理食塩水である。
【0057】
本発明および/またはその実施形態によるワクチンおよびその使用または方法のための適切な担体は当技術分野でよく知られており、希釈剤、アジュバント、抗微生物剤、安定剤、保存剤、不活性化剤またはそれらの組合せを包含する。適切な希釈剤は蒸留水、塩、培地成分、滅菌水、バッファー、安定剤、保存剤、殺菌剤、抗生物質、および溶解を助ける化学物質を包含しうる。
【0058】
担体はNaCl、炭酸ナトリウム、チオメルサール、緩衝生理食塩水、スクロース、アジピン酸二ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム二水和物を包含しうる。
【0059】
ワクチンは、薬学的に許容される補助物質、例えばpH調整剤および緩衝化剤、張度調整剤、湿潤剤など、例えば酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ソルビタンモノラウラート、トリエタノールアミンオレアートなどを含有しうる。
【0060】
本発明によるワクチンにおける適切な賦形剤としては、加水分解ゼラチン、カゼイン、ソルビトールおよびリン酸二ナトリウム二水和物が挙げられる。
【0061】
安定剤は、例えば、ワクチンの貯蔵寿命を延長するために、または凍結乾燥効率を改善するために、または製品の外観を改善するために使用されうる。有用な安定剤としては、とりわけ、SPGA、炭水化物、例えばソルビトール、マンニトール、トレハロース、デンプン、糖、例えばスクロース、デキストラン、ラクトースまたはグルコース、アミノ酸、例えばグリシンおよびグルタミン酸一ナトリウム(アミノ酸の塩)、タンパク質、例えば(組換え)アルブミン、ゼラチン、加水分解コラーゲン、またはカゼインまたはその分解産物、およびバッファー、例えばリン酸アルカリ金属が挙げられる。
【0062】
もう1つの態様においては、本発明は、薬学的に許容される担体と本発明のワクチンとの液体組成物に関するものであり、ここで、担体は天然深共晶溶媒(NADES)、好ましくは、約0.8未満の水分活性を有するものである。NADES担体はWO 2019/122329(その全体を参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。
【0063】
更に、ワクチンはアジュバントを含有することが可能であり、あるいはアジュバントを含有していなくてもよい(非アジュバント化ワクチン)。アジュバントはそれらの成分の起源、それらの物理化学的特性またはそれらの作用メカニズムによって分類されうる。分子アジュバントは免疫刺激物質(例えば、免疫反応を刺激するTLRリガンド、サイトカイン、サポニンおよび細菌外毒素)として作用し、免疫系に直接作用して、抗原に対する免疫応答を増強しうる。
【0064】
本発明のワクチンは、本発明のポリヌクレオチドから発現されてアジュバントとして作用する免疫刺激性タンパク質としてhsp65を含んでいるため、本発明においては(追加的な)アジュバントの添加は必ずしも必要でない。しかし、ワクチン接種を受けた対象における増強したまたはより迅速な免疫応答をもたらすためには、更なるアジュバントの添加が望ましいかもしれない。
【0065】
適切には、本発明および/またはそのいずれかの実施形態によるワクチン組成物におけるアジュバントには、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、サポニン、コレステロールと複合体形成したサポニン、コレステロールおよび脂質と複合体形成したサポニン、非代謝性油、鉱物油および/または植物油/野菜油および/または動物油、ポリマー、カルボマー、界面活性剤、天然有機化合物、植物抽出物、炭水化物、コレステロール、脂質、油中水型エマルジョン、水中油型エマルジョン、水中油中水型エマルジョン、アクリル酸ポリマー、アクリル酸糖架橋ポリマー、アクリル酸ポリオール架橋ポリマーが含まれうる。
【0066】
適切には、本発明および/またはそのいずれかの実施形態によるワクチン組成物におけるアジュバントには、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、サポニン、Quil A、QS-21、GPI-0100、非代謝性油、鉱物油および/または植物油/野菜油および/または動物油、ポリマー、カルボマー、界面活性剤、天然有機化合物、植物抽出物、炭水化物、コレステロール、脂質、油中水型エマルジョン、水中油型エマルジョン、水中油中水型エマルジョン、HRA-3(アクリル酸糖架橋ポリマー)、綿実油(CSO)含有HRA-3、またはHRA-5(アクリル酸ポリオール架橋ポリマー)、ISCOMATRIXが含まれうる。適切には、アジュバントはサポニン、アクリル酸ポリマーおよび/または水酸化アルミニウムである。適切には、サポニンはQuil A、ISCOM、QS21、ISCOPREP 703、ISCOMATRIX、ASシリーズ、ISCOPREPサポニン、GPI0100、AbISCO、マトリックス(Matrix)M、マトリックスC、Posintroである。適切には、アクリル酸ポリマーはCarbopol、例えばHRA-3、HRA-5、Carbopol 940、Carbopol 941、Carbopol 934、Carbopol 971、Havlogen、CARBIGENである。
【0067】
適切なアジュバントとしては、サポニンに基づくアジュバントであり、より適切には、キラヤサポニンに基づくアジュバントである。サポニンに基づく例としては、Quil A、ISCOM、QS21、ISCOMATRIX、ISCOPREP 703、ASシリーズ、GPI0100、AbISCO、Posintroが挙げられる。適切なアジュバントとしては、コレステロールと複合体形成したサポニンである。適切なコレステロール複合サポニンとしては、AS01、AS15、AS02、ISCOM、ISCOMATRIX、Matrix-M、AbISCOである。
【0068】
適切には、アジュバントは、最終製品の体積に対して、容量%として約0.01~約50%の濃度、または約2%~約45%の濃度、または約5%~約40%の濃度、または約7%~約35%の濃度、または約10%~約30%の濃度である。適切には、アジュバントは約0.01~約10%の濃度、または約0.02~約5%の濃度、または約0.05~約2.5%の濃度、または約0.1~約2%の濃度、または約0.15~約1.5%の濃度、または約0.2~約1.2%の濃度、または約0.3~約1%の濃度、または約0.4~約0.8%の濃度、または約0.5~約0.7%の濃度である。
【0069】
したがって、好ましくは、本発明によるワクチンは凍結乾燥形態であり、すなわち、凍結乾燥物として提供される。
【0070】
ワクチンは、別の活性物質、例えば、LACK誘導性適応免疫応答の前に早期防御を刺激しうる活性物質を含むことが可能であり、またはそれを発現する能力を有しうる。活性物質はまた、ワクチン接種を受けた対象において別の疾患に対する免疫応答を誘導しうる別の抗原でありうる(混合ワクチン)。
【0071】
ワクチンおよびその製造
hsp65およびLACKの組換え発現用の2つの発現カセット(i)および(ii)を含む、本発明によるポリヌクレオチド分子を製造するためには、当業者に公知のインビトロ組換えDNA法が用いられうる。簡便には、これは、PCR断片の作製およびサブクローニングによって、またはデノボ(de novo)遺伝子合成技術によって行われうる。
【0072】
あるいは、本発明によるポリヌクレオチド分子は、細胞に基づくインビトロ発現系によって製造されうる。なぜなら、これは収量および安全性の面での利点をもたらすからである。該発現系は原核細胞または真核細胞に基づくものであることが可能であり、真核細胞の場合には、酵母、哺乳類、昆虫または植物由来の宿主細胞に基づくことが可能であり、これらは全て、先行技術において記載されている。
【0073】
したがって、本発明は更に、ワクチンの製造において使用される前記のポリヌクレオチド、例えばDNAプラスミドの製造に関する。特に、本発明のDNAプラスミドは対象のワクチン接種に使用されうる。好ましくは、DNAプラスミドは、該DNAプラスミドと1以上の薬学的に許容される担体および/またはアジュバントとを含む組成物中に配合される。
【0074】
もう1つの態様においては、本発明は、リーシュマニア感染に対する対象の防御における使用のためのDNAワクチンを提供する。対象は特に限定されず、動物またはヒトでありうる。好ましくは、対象はイヌであり、これは、イヌリーシュマニアに感染しやすい動物種である。したがって、本発明の実施形態の好ましい有用性は、特に、リーシュマニア症に対するイヌのワクチン接種のための、獣医学用途におけるものである。
【0075】
感染は、哺乳動物に感染する約30種の公知リーシュマニア属種のうちの20種以上によって引き起こされうる。本発明のワクチンは1以上のリーシュマニア属種に対する防御をもたらしうる。特に、LACK領域はリーシュマニア属種間で保存されているため、本発明のワクチンは広範なリーシュマニア属種に対する広範な防御を達成しうる。したがって、好ましい実施形態においては、本発明のワクチンは以下のリーシュマニア属種による感染に対する防御をもたらす:3つの種[リーシュマニア・ドノバニ(L.donovani)、リーシュマニア・インファンタム(L.infantum)およびリーシュマニア・シャガシ(L.chagasi)]を含むリーシュマニア・ドノバニ(L.donovani)複合物;3つの主要種[リーシュマニア・メキシカーナ(L.mexicana)、リーシュマニア・アマゾネンシス(L.amazonensis)およびリーシュマニア・ベネズエレンシス(L.venezuelensis)]を含むリーシュマニア・メキシカーナ(L.mexicana)複合物;リーシュマニア・トロピカ(L.tropica);リーシュマニア・メジャー(L.major);リーシュマニア・エチオピカ(L.aethiopica);および4つの主要種[リーシュマニア(V.)ブラジリエンシス(L.(V.)braziliensis)、リーシュマニア(V.)グヤネンシス(L.(V.)guyanensis)、リーシュマニア(V.)パナメンシス(L.(V.)panamensis)およびリーシュマニア(V.)ペルビアナ(L.(V.)peruviana)]を含むビアンニア(Viannia)亜属。感染の大多数はリーシュマニア・インファンタム(L.infantum)によって引き起こされる。異なる種は形態学的には識別不能であるが、それらはアイソザイム分析、分子的方法またはモノクローナル抗体によって識別されうる。
【0076】
ワクチンは、既存のリーシュマニア感染を治療するために、治療的に使用されうるが、好ましくは、感染を阻止し若しくはその可能性を低減するために、および/または感染の臨床徴候を改善するため、および/または該疾患の蔓延を予防し若しくはその可能性を低減するために、予防的に使用される。
【0077】
本発明はまた、本発明のワクチンの有効量を投与することにより、リーシュマニア感染に対して対象を防御する方法を提供する。リーシュマニア感染に対して対象を防御する方法は、前記のとおりにDNAプラスミドを製造し、所望により、薬学的に許容される担体および/またはアジュバントを添加し、対象にワクチンを投与する工程を含む。
【0078】
更に、本発明は、リーシュマニア感染に対して対象を防御するためのDNAワクチンの製造における使用のための、本明細書に記載されているポリヌクレオチドを提供する。
【0079】
投与
本発明は、本発明によるDNAワクチンの有効量を動物に少なくとも1回投与することを想定している。DNAワクチンは、いずれかの局所または全身投与方法を含む、当技術分野で公知のいずれかの方法で投与されうる。投与は、例えば、抗原を筋肉組織(筋肉内、IM)、真皮内(皮内、ID)、皮膚の下(皮下、SC)、粘膜の下(粘膜下、SM)、静脈内(静脈内、IV)、体腔内(腹腔内、IP)、経口、肛門などに投与することによって行われうる。現在のワクチンでは、IM、IDおよびSC投与が好ましい。
【0080】
本発明は以下の実施形態に関する。
【0081】
第1の実施形態においては、本発明は、
(i)熱ショックタンパク質(hsp)65またはその機能的断片をコードする核酸を含む第1発現カセット、および
(ii)LACK(活性化Cキナーゼの受容体のリーシュマニアホモログ)またはその免疫原性断片をコードする核酸を含む第2発現カセット
を含む単離されたポリヌクレオチドを提供する。
【0082】
実施形態2においては、本発明は、hsp65が配列番号1のアミノ酸配列のアミノ酸48~583を含む、またはそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、実施形態1記載のポリヌクレオチドに関する。
【0083】
実施形態3においては、本発明は、LACKが配列番号2のアミノ酸配列を含む、またはそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、実施形態1または2記載のポリヌクレオチドに関する。
【0084】
実施形態4においては、本発明は、hsp65およびLACKをコードする核酸が、異なるプロモーターの制御下にある、前記実施形態のいずれか1項記載のポリヌクレオチドに関する。
【0085】
実施形態5においては、本発明は、hsp65をコードする核酸がサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの制御下にある、前記実施形態のいずれか1項記載のポリヌクレオチドに関する。
【0086】
実施形態6においては、本発明は、LACKをコードする核酸がEF1α-HTLVプロモーターの制御下にある、前記実施形態のいずれか1項記載のポリヌクレオチドに関する。
【0087】
実施形態7においては、本発明は、第2発現カセットが1以上のCpGモチーフを更に含む、前記実施形態のいずれか1項記載のポリヌクレオチドに関する。
【0088】
実施形態8においては、本発明は、実施形態1~7のいずれか1項記載のポリヌクレオチドを含むDNAプラスミドに関する。
【0089】
実施形態9においては、本発明は、hsp65およびLACKまたはその免疫原性断片の組換え発現のための、実施形態1~7のいずれか1項記載のポリヌクレオチドの、または実施形態8記載のDNAプラスミドの使用に関する。
【0090】
実施形態10においては、本発明は、実施形態1~7のいずれか1項記載のポリヌクレオチドを含む、または実施形態8記載のDNAプラスミドを含むDNAワクチンに関する。
【0091】
実施形態11において、本発明は、薬学的に許容される担体を更に含む、実施形態10記載のDNAワクチンに関する。
【0092】
実施形態12においては、本発明は、非アジュバント化ワクチンである、実施形態10または11記載のDNAワクチンに関する。
【0093】
実施形態13においては、本発明は、アジュバントを含む、実施形態10または11記載のDNAワクチンに関する。
【0094】
実施形態14において、本発明は、アジュバントがサポニンである、実施形態13記載のDNAワクチンに関する。
【0095】
実施形態15においては、本発明は、リーシュマニア症の感染に対する対象の防御における使用のための、実施形態10~14のいずれか1項記載のDNAワクチンに関する。
【0096】
実施形態16において、本発明は、対象がイヌである、実施形態15記載の使用のためのDNAワクチンに関する。
【0097】
実施形態17においては、本発明は、感染がイヌリーシュマニア症によるものである、実施形態15または16記載の使用のためのDNAワクチンに関する。
【0098】
実施形態18においては、本発明は、実施形態10~14のいずれか1項記載のDNAワクチンの免疫遺伝学的に有効な量を対象に投与することを含む、リーシュマニア症による感染に対して対象を免疫化する方法に関する。
【0099】
本明細書に記載されている実施形態の組合せが予想され、簡潔にするために、幾つかの例示的な組合せのみが明示的に記載されていると理解されるべきである。しかし、これは、記載されている実施形態に限定されると解釈されるべきではない。
【化1】
実施例
実施例1:プラスミドpVAX_hsp65_lackの構築
hsp65遺伝子を含有するpVAX_hsp65プラスミドをpVAXベクター(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)から構築した。このプラスミドをBamHIおよびNotI(Gibco BRL,Gaithersburg,MD,USA)で消化し、次いで配列番号1のアミノ酸48-483を含む配列番号4のマイコバクテリウム・レプレ(M.leprae)hsp65遺伝子とCMVイントロンAとを挿入した。pVAXまたはpVAXhsp65で形質転換されたDH5α大腸菌(E.coli)を、カナマイシン(100μg/ml)を含有するLB液体培地(Gibco BRL,Gaithersburg,MD,USA)内で培養した。コンサート高純度マキシプレップ系(Concert High Purity Maxiprep System)(Gibco BRL,Gaithersburg,MD,USA)を使用して、該プラスミドを精製した。ジーン・クアントII装置(Gene Quant II apparatus)(Pharmacia Biotech,Buckinghamshire,UK)を使用して、λ=260および280nmでの分光光度測定によって、プラスミド濃度を測定した。
【0100】
プラスミドpVAX_hsp65に基づくリーシュマニアDNAワクチンの構築のために、EF1a/HTLVと称されるプロモーターを挿入した。この場合、NotIおよびEcoRI酵素の配列(GCGGCCGC-NotI酵素部位/GAATTC-EcoRI)を制限部位として有するLack遺伝子が挿入可能であった。EF1a-HTLVプロモーターは、ヒト伸長因子1α(EF-1α)コアプロモーターと、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)1型長末端反復のRセグメントおよびU5配列の一部(R-U5’)とを含む複合プロモーターである。したがって、DNAプラスミドの最終的な構築は、異なるプロモーター(hsp65ではCMVプロモーター、およびLackではEF1a/HTLV)内へのhsp65およびLack遺伝子の挿入に基づくものであった。
【0101】
これらのプラスミド系の大きな利点は、それが、hsp65の免疫調節活性を維持することを可能にし、リーシュマニアによって引き起こされる感染に対するイヌの特異的防御における使用のためのLACK免疫原性遺伝子の挿入を考慮することを可能にすることである。
【0102】
多目的プラスミド系の免疫原性を増強するために、LACK遺伝子発現カセットのSV40ポリアデニル化部位の後に4つのCpGモチーフをも付加した。
【0103】
hsp65遺伝子の非存在下でLack遺伝子のみを含有するDNAプラスミドの構築物も作製し、免疫原性およびワクチン有効性研究における対照として使用した。したがって、以下のプラスミドDNAを構築した:
(i)pVAX_hsp65(対照)
(ii)pVAX_lack(対照)
(iii)pVAX_hsp65_lack
(iv)pVAX_A2(参照対照)
(v)pVAX_hsp65_A2(参照対照)。
【0104】
組換えタンパク質(LACK)および特異的抗体(抗LACK)を得るために、プラスミドpET28a_lackおよびpET28a_A2を標準的な方法によって製造した。これらのプラスミドをLackタンパク質の発現のための大腸菌系統BL21株の形質転換に使用した。抗Lackポリクローナル抗体の製造、ならびにマウスおよびイヌにおけるDNAワクチンの免疫原性評価実験において、タンパク質を使用した。フロイト不完全アジュバントと共に投与されるタンパク質のそれぞれによる免疫化によって、マウスにおいて、マウス抗Lackポリクローナル抗体の製造を行った。プラスミドpVAX_hsp65、pVAX_hsp65_lack、pVAX_lackを、制限酵素消化後のポリアクリルアミドゲル分析による各プラスミドにおけるクローン化遺伝子の精製および特徴付けのために、大腸菌TOP10系統内に形質転換された。
【0105】
実験室規模の製造の後、該プラスミドのそれぞれによるHEK293細胞のトランスフェクション、ならびにそれぞれのワクチン構築物における内因性hsp65およびlackタンパク質の実証を行った。抗hsp65および抗LACKポリクローナル抗体を使用するウェスタンブロット技術によって、タンパク質の発現を特徴付けした。
【0106】
特異的プライマーを使用するRT-PCRによってmRNAを検出した。標準的な方法を用いて、pVAX_hsp65、pVAX_hsp65_lackおよびpVAX_lackワクチンを約10mgの量で実験室規模で製造した。ベンチ規模での製造の後、DNAプラスミドを以下の点で特徴付けした:制限酵素消化による同一性;外観、濃度、純度(A260/280は1.7~2.0);均質性(スーパーコイル形態が90%超);ゲノムDNA(5%未満);および内毒素(業界向け指針-FDA-2007 40EU/mg未満)。ワクチンのそれぞれの特徴付けの後、それらをマウスにおける免疫原性および有効性の研究に使用した。実験室規模の製造および品質管理試験の後、ワクチン構成物pVAX_hsp65、pVAX_hsp65_lackおよびpVAX_lackは、マウスにおけるリーシュマニア症の実験モデルにおける免疫原性および有効性に関して試験される準備が整った。
【0107】
プラスミドpVAX_hsp65上のlack遺伝子のクローニングはGeneScript社によって行われ、プラスミドpVAX_hsp65_lackが得られた。lack遺伝子と共に、プロモーター領域(二重EF1α/HTLプロモーター)、ポリアデニル化シグナル(SV40)およびCPG配列も、標準的な技術を用いて前記のとおりにクローニングされた。
【0108】
得られたプラスミドpVAX_hsp65_lackは配列番号3のものであり、図1の模式図で示される。
【0109】
A2抗原を含有するプラスミド(iv)および(v)を、LACK含有抗原に関して前記に記載されているのと同じ手順に従って構築した。免疫調節活性が既に確認されているDNAhsp65をワクチンプラットフォーム(原型)として使用し、そのプラスミドにリーシュマニアのA2コード化遺伝子を付加して、構築物pVAX_hsp65_A2(v)を得た。プラスミドpVAX_A2(iv)は、GeneScript社によってプラスミドpVAX_hsp65_A2からhsp65遺伝子を除去することによって構築された。
【0110】
実施例2:プラスミドpVAX_hsp65_lackの特徴付け
GeneScript社によって構築されたプラスミドpVAX_hsp65_lackを増殖および貯蔵のために大腸菌系統TOP10内に形質転換した。構築中にlack遺伝子の末端に付加されたNotIおよびEcoRI酵素による、ならびにhsp65遺伝子のクローニングにおいて使用されたBamHIおよびApaI酵素による制限分析によって、プラスミドを特徴付けした。消化においては、1μg(各消化につき)のプラスミド、1μLの各酵素を最終的に20μLの反応において使用し、これを37℃で30分~1時間インキュベートした。1% アガロースゲル上で、サンプルにGelRedを添加して、消化の評価を行った。
【0111】
プラスミドpVAX_hsp65_lackを、HEK293細胞のトランスフェクション、ウエスタンブロットによるlackおよびhsp65タンパク質発現の評価、ならびに特異的プライマーを使用するRT-PCRによるlackおよびhsp65に関するmRNAの特定にも使用した。プラスミドpVAX_hsp65_lackによるHEK細胞のトランスフェクションを行って、この新たなプラスミド構築物が転写産物(mRNA)およびタンパク質を生成する能力を評価した。DNAプラスミドの存在下でHEK細胞を24時間培養した後、培地を除去し、細胞をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄し、Trizol(Invitrogen)を加えた。細胞をホモジナイズし、収集し、-70℃で凍結した。RNA抽出を製造業者の説明に従い行った。抽出および定量の後、1μgのRNAをDNAseIで処理し、cDNA生成反応に付した。全てのトランスフェクション(pVAX、pVAX_hsp65およびpVAX_hsp65_lackによるもの)からのRNAを同じ方法で処理した。
【0112】
プラスミドpVAX_hsp65_lackによってコードされた転写産物の検出を、特異的オリゴヌクレオチドを使用するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって行った。陽性対照反応として、PCR特異的プライマーを、GAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)プライマーに使用した。DNAプラスミドの存在下でHEK細胞を24時間培養した後、培地を除去し、細胞をPBSで洗浄し、PBSまたはCelLyticM(Sigma)で収集してウエスタンブロットによって評価した。
【0113】
結果は、プラスミドpVAX_hsp65_lackが正しく構築されたことを示した。なぜなら、遺伝子lackおよびHsp65が、それぞれの遺伝子のクローニング部位に特異的な制限酵素によってプラスミドpVAX_hsp65_lackにおいて特徴付けられたからである。pVAX_hsp65_lackでトランスフェクトされたHEK細胞において、Lackおよびhsp65 mRNAの発現をPCRによって特徴付けした。また、Hsp65およびlackタンパク質を、pVAX_hsp65_lackプラスミドでトランスフェクトされたHEK細胞の上清において、ウェスタンブロット分析によって特徴付けした。
【0114】
実施例3:マウスモデルにおけるpVAX_hsp65_lackの免疫原性および有効性
マウスモデルにおいて、生理食塩水に再懸濁した異なるプラスミド構築物および組合せを試験した。そのために、マウス(ムス・ムスクルス(Mus musculus)-Balb/c)における実験的感染後の免疫原性および有効性を評価するための実験を設計した。合計128匹のマウスを以下の8つの実験群に無作為に分割した。
【0115】
・ 群A-pVAX_hsp65(対照)
・ 群B-pVAX_A2(参照対照)
・ 群C-Leish-Tec(登録商標)(対照)
・ 群D-pVAX_hsp65_lack
・ 群E-pVAX_hsp65_A2(参照対照)
・ 群F-pVAX_hsp65_lack+pVAX_hsp65_A2
・ 群G-pVAX_lack(対照)
・ 群H-生理食塩水(陰性対照)
次いで実験群を、それぞれ8匹の動物を含む2つ(免疫原性および有効性)に分割した。各用量間の15日間隔で皮下適用される3用量で動物をワクチン接種した。次いで、3回目のワクチン接種の15日後に、リーシュマニア・インファンタム(L.infantum)シャガシ(chagasi),cepaNCL/IOCL3241の10匹の寄生虫を実験的に動物に腹腔内経路で感染させた(図2)。
【0116】
3回目のワクチン投与から15日後、免疫原性を評価するために、ELISA試験による抗原特異的(Hsp65、LackおよびA2)抗体IgG1およびIgG2定量のために、血液サンプルを採取した。また、市販キットにおけるIFN-g定量のために、製造業者の説明に従い、動物の脾臓サンプル(群あたり8匹)を採取した。
【0117】
実験感染の30日後、qPCRおよび限界希釈アッセイを用いて、肝臓および脾臓における寄生虫量によって、ワクチン製剤の有効性を評価した。
【0118】
結果:
免疫原性の結果はワクチン接種群における抗体応答を示した。pVAX_hsp65_lackでワクチン接種された群におけるIFN-γ応答の増加が観察され(図3A)、これはTh1調節応答を示している。
【0119】
特に、pVAX_hsp65_lackワクチンの抗体応答は市販ワクチンLeish-Tecの約2倍であった。また、同じpVAXプラスミド骨格が使用されているがhsp65およびLack遺伝子の一方のみを含むDNAワクチンと比較して、IFN-γ細胞免疫応答は有意に高かった。更に、抗原としてのLackは、免疫調節因子hsp65と組合された場合、高いIFN-γ応答を達成した。一方、A2抗原を含むワクチンは、ワクチンpVAX_hsp65_lackに類似した抗体応答を達成したが、hsp65免疫調節因子とのその組合せからの利益は得られなかった。なぜなら、hsp65_A2組合せ構築物に関しては、該免疫調節因子を含有しないA2構築物と比較して、IFN-γ応答が低かったからである。興味深いことに、pVAX_hsp65_lackとpVAX_hsp65_A2との両方の組合せ構築物の組合せは、単一の構築物と比較して、抗体応答の増強をもたらさなかった。
【0120】
また、有効性評価においては、30日間のチャレンジの後のワクチン接種群pVAX_hsp65_lackの肝臓における寄生虫量は非ワクチン接種群(生理食塩水)よりも10単位低かった(図3B)。
【0121】
特に、寄生虫量の有意な減少を何ら達成しなかった市販ワクチンLeish-TecよりもpVAX_hsp65_lackワクチンにおいて、寄生虫量の減少が高かった。また、同じpVAXプラスミド骨格が使用されているがhsp65およびLack遺伝子の一方のみを含むDNAワクチンと比較して、寄生虫量は低かった。また、A2抗原を使用する比較ワクチンのいずれにおいても、寄生虫量の有意な減少は全く観察できなかった。したがって、pVAX_A2ワクチンは、ワクチンpVAX_hsp65_lackに類似した抗体応答を達成したが、この抗体応答は寄生虫量の有意な減少をもたらさなかった。pVAX_hsp65_lackとpVAX_hsp65_A2との両方の組合せ構築物の組合せも、単一の構築物と比較して、測定抗体応答を反映している寄生虫量の有意な減少をもたらさなかった。
【0122】
結論として、マウスモデル実験は、pVAX_hsp65_lack抗原でワクチン接種された群で観察された免疫応答および防御が、その他の実験群より優れていることを示した。特に、驚くべきことに、pVAX_hsp65_lackでワクチン接種された群においては、pVAX_hsp65_A2でワクチン接種された群と比較して、抗体および細胞免疫応答ならびに寄生虫量が優れていることが観察された。このことは、hsp65免疫調節因子とLACK抗原との組合せによって、hsp65とA2抗原との組合せよりも優れた結果が達成されうることを示している。この結果は特に驚くべきものである。なぜなら、LACK抗原によって誘導される免疫応答は実験的リーシュマニア感染に対する防御をもたらさず、A2抗原の場合より弱いことが、当技術分野において最近示されたからである(Coelhoら,Infection and Immunity,71(7),2003)。
【0123】
また、本発明のDNAワクチンは、リーシュマニアのA2抗原に基づく市販ワクチンである先行技術ワクチンLeish-Tec(登録商標)でワクチン接種された対象と比較して、免疫応答(細胞性および体液性)の増加および寄生虫量の減少を達成することを示すことが可能であった。このことは、先行技術ワクチンと比較して顕著な改善を示すものである。
【0124】
実施例4:イヌモデルにおけるpVAX_hsp65_lackの免疫原性および有効性
この研究の目的は、イヌにおけるリーシュマニア・インファンタム(Leishmania infantum)に対する実験的ワクチンの有効性および安全性を評価することである。
【0125】
血清学的検査および骨髄PCRにおいてリーシュマニア・インファンタム(L.infantum)に関して陰性であった6~12月齢の予め去勢された48頭の健康な通常飼育の子イヌ(雄および雌)を研究に使用した。研究は盲検化され、無作為化され、各群10~11頭の動物を含む4つの群からなるものであった。各動物は実験ユニットを代表する。動物を、年齢、体重、性別に応じて無作為に実験群に割り当てた。リーシュマニア・インファンタム(L.infantum)に対する2つの実験用ワクチンを試験し、それらの結果を陰性対照群および陽性対照群(ブラジルの商域において入手可能な競合ワクチン)と比較した。
【0126】
全ての群は、皮下経路で21日間隔で投与される3用量プロトコルでワクチン接種を受けた(表1)。
【表1】
ワクチンの第3用量の投与の14週間後、全ての動物をリーシュマニア・インファンタム(L.infantum)接種物で静脈内経路によってチャレンジした。この時点から、検査マーカーおよび臨床徴候を考慮して、イヌリーシュマニア症に関連する臨床変化の発生に関して動物をモニタリングした。
【0127】
ワクチンに対する体液性免疫応答および細胞性免疫応答の免疫原性評価のために、第21日(第2用量の投与前)、第42日(第3用量の投与前)、第56日、第141日(チャレンジの直前)、第184日、第219日、第254日、第331日、第388日、443日目に血液サンプルを採取した。
【0128】
チャレンジ前の動物における寄生虫感染の非存在を証明するために、またはチャレンジ後の寄生虫量を定量するために、リーシュマニア・インファンタム(L.infantum)DNAの検出のために、骨髄およびリンパ節(膝窩または前肩甲骨)からの吸引穿刺を行った。骨髄サンプルをPaparconeら(2013)の方法に従い採取した。チャレンジ直前のリーシュマニア・インファンタム(L.infantum)遺伝物質の非存在を証明するために、第56日および第141日に、骨髄サンプルおよび膝窩リンパ節サンプルを得た。この後、リアルタイムqPCRによって寄生虫量を定量するために、第184日、第254日、第331日、第388日および第443日に、同じ組織からのサンプルを採取した。
【0129】
図4A、4Bおよび4Cはチャレンジ後の第43日、第190日および第302日のリンパ節におけるqPCRによる寄生虫量(個別データおよび中央値)を示す。生理食塩水群はワクチン接種を受けず、群Vac5およびVac6は本発明のpDNAワクチン(pVAX_hsp65_lack)の投与を受け、参照群は、商業的に入手可能なLeish-Tecの投与を受けた。Vac5は、pDNAとサポニンとを含有するワクチンであり、Vac6は、pDNAと生理食塩水とを含有するワクチンである。リーシュマニア・インファンタム(L.infantum)の寄生虫量を定量するために、寄生虫キネトプラストの環状DNA(kDNA)を標的とするプライマー[順方向:5’-GTGGGGGGGAGGGGCGTTCT-3’(配列番号5)、および逆方向:5’-ATTTTACACCAACCCCCAGTT-3’(配列番号6)]を使用するqPCRを用いた。qPCR反応は、SYBR(登録商標)Greenプローブを使用して10ngの精製ゲノムDNAで標準化した。
【0130】
図5A、5B、5Cは、図4に記載されているのと同じ動物群に関して、チャレンジ後の第43日、第190日および第302日の骨髄におけるqPCRによる寄生虫量(個別データおよび中央値)を示す。
【0131】
リーシュマニアチャレンジ後の第247日および第302日に臨床検査を行った。臨床症状の幾つかの例には、耳の皮膚炎、爪甲剥離症、リンパ節腫大、筋萎縮、耳の皮膚炎、皮膚の剥離、脱毛症、色素脱失、皮膚潰瘍、角質増殖症、眼瞼炎が含まれた。使用したチャレンジモデルが動物において臨床的変化を引き起こしうることは明らかであり、これは、研究において使用したワクチンの潜在的防御を際立って示している状況である。そのような変化を示す動物は全ての実験群で観察され、それらの群のそれぞれにおいて、多少なりとも臨床的に影響を受けた動物の頻度に差が見られた。
【0132】
それらの群のそれぞれにおける各イヌに関して得られた知見に基づいて、表2を作成した。この表は、身体検査における変化およびイヌリーシュマニア症に関連する検査マーカーにおいて見出された変化を示す、群ごとの動物の頻度を示す。これは、試験ワクチン製剤の潜在的防御効果を際立って示す主要エンドポイントであることが判明した。
【表2】
表2において認められうるとおり、本発明によるワクチン(Vac5、Vac6)の投与を受けた群は、症候性疾患を有する動物の最小数を示し、無症候性疾患を有する動物の最大数を示している。
【0133】
リンパ節および骨髄における寄生虫量は、チャレンジの302日後まで、全てのイヌ群にわたって類似しているが、生理食塩水群および参照ワクチン接種群で得られた臨床徴候および検査変化を比較すると、プラスミドpVAX_Lack_Hsp65に基づく実験ワクチンは疾患の重症度を軽減したと結論付けられうる。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
【配列表】
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【国際調査報告】