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特表2025-500354神経線維腫症の治療的および診断的ターゲットとしての活性化されたRasおよびその用途{Activated Ras as a therapeutic and diagnostic target for neurofibromatosis and its uses}
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】神経線維腫症の治療的および診断的ターゲットとしての活性化されたRasおよびその用途{Activated Ras as a therapeutic and diagnostic target for neurofibromatosis and its uses}
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/47 20060101AFI20241226BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20241226BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20241226BHJP
   C12N 15/115 20100101ALI20241226BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20241226BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20241226BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20241226BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20241226BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241226BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241226BHJP
   A61K 31/4245 20060101ALI20241226BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20241226BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C07K14/47
C07K16/18
C07K16/46
C12N15/115 Z
C12N15/11 Z
C12N15/113 Z
C12Q1/06
C12Q1/6876 Z
A61P25/00
A61P43/00 105
A61K31/4245
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537415
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-08-19
(86)【国際出願番号】 KR2022020770
(87)【国際公開番号】W WO2023121199
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0183885
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515267910
【氏名又は名称】ジ アサン ファウンデーション
(71)【出願人】
【識別番号】517301162
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ ウルサン ファウンデーション フォー インダストリー コーオペレイション
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF ULSAN FOUNDATION FOR INDUSTRY COOPERATION
(71)【出願人】
【識別番号】523362386
【氏名又は名称】ヒューマンスケープ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】HUMANSCAPE INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】リ,ボム ヒ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ミン フ
(72)【発明者】
【氏名】ホ,スン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】ト,ヒョ サン
(72)【発明者】
【氏名】カン,ミン ジ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QR48
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS32
4B063QS33
4B063QX02
4B063QX10
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC71
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZB21
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
(57)【要約】
Ras活性を利用する神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用バイオマーカー組成物およびRas活性抑制剤を含む神経線維腫症予防または治療用医薬組成物に関するものであり、バイオマーカー組成物は個体の生物学的サンプルにおいてGTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質と活性化されたp-ERKタンパク質またはそれをコードする遺伝子の発現レベルを測定する簡単な方法を通じて、神経線維腫症治療剤に対する感受性を正確に診断することができ、医薬組成物はRasタンパク質の活性を抑制するため、Rasタンパク質の活性度が増加した神経線維腫症の予防または治療用途として有用に使用されるであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)GTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質および活性化されたp-ERKタンパク質からなる群から選択されるいずれか1つ以上のタンパク質と、
(2)前記タンパク質をコードする遺伝子との発現レベルを測定する製剤を含む、神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用バイオマーカー組成物。
【請求項2】
神経線維腫症治療剤は、下記の化学式1で表される化合物、またはその医薬的に許容される塩である、請求項1に記載の神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用バイオマーカー組成物。
【化1】
前記式で
Zはハロゲン、ヒドロキシル、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルコキシ、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のシクロアルキル、置換もしくは非置換のヘテロサイクル、または置換もしくは非置換のヘテロシクロアルキルであり、
Rは水素またはハロゲンである。
【請求項3】
前記の化学式1で表される化合物が3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1、2、4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸である、請求項2に記載の神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用バイオマーカー組成物。
【請求項4】
前記タンパク質の発現レベルを測定することができる製剤は、前記タンパク質に特異的に結合するモノクローナル(monoclonal)抗体、ポリクローナル(polyclonal)抗体、キメリック(chimeric)抗体、リガンド(ligand)、PNA(peptide nucleic acid)、アプタマー(aptamer)およびナノパーティクル(nanoparticle)からなる群から選択されるものである、請求項1に記載の神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用バイオマーカー組成物。
【請求項5】
前記タンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを測定することができる製剤は、前記遺伝子に特異的に結合するプライマー(primer)対、プローブ(probe)及びアンチセンスヌクレオチド(antisense nucleotide)からなる群から選択されるものである、請求項1に記載の神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用バイオマーカー組成物。
【請求項6】
前記神経線維腫症は、NF1遺伝子に終止コドン突然変異を有するものである、請求項1に記載の神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用バイオマーカー組成物。
【請求項7】
第1項~第6項のいずれか一項に記載のバイオマーカー組成物を含む、神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用キット。
【請求項8】
個体から得られた生物学的サンプルにおいて、
(1)GTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質および活性化されたp-ERKタンパク質からなる群から選択されるいずれか1つ以上のタンパク質と、
(2)前記タンパク質をコードする遺伝子との発現レベルを測定するステップを含む、神経線維腫症治療剤に対する感受性予測に必要な情報を提供する方法。
【請求項9】
下記の化学式1で表される化合物、またはその医薬的に許容される塩を有効成分として含む、神経線維腫症の予防または治療用医薬組成物。
【化2】
前記式で
Zはハロゲン、ヒドロキシル、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルコキシ、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のシクロアルキル、置換もしくは非置換のヘテロサイクル、または置換もしくは非置換のヘテロシクロアルキルであり、
Rは水素またはハロゲンである。
【請求項10】
前記の化学式1で表される化合物が、3-[5-(2-フルオローフェニル)-[1、2、4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸である、請求項9に記載の神経線維腫症の予防または治療用医薬組成物。
【請求項11】
前記神経線維腫症は、NF1遺伝子に終止コドン突然変異を有するものである、請求項9に記載の神経線維腫症の予防または治療用医薬組成物。
【請求項12】
前記神経線維腫症は、Rasタンパク質の活性度が増加したものである、請求項9に記載の神経線維腫症の予防または治療用医薬組成物。
【請求項13】
神経線維腫症治療剤に対する感受性を予測するための、
(1)GTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質および活性化されたp-ERKタンパク質からなる群から選択されるいずれか1つ以上のタンパク質と、
(2)前記タンパク質をコードする遺伝子との発現レベルを測定することができる製剤を含むバイオマーカーの用途。
【請求項14】
個体から得られた生物学的サンプルにおいて、
(1)GTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質および活性化されたp-ERKタンパク質からなる群から選択されるいずれか1つ以上のタンパク質と、
(2)前記タンパク質をコードする遺伝子との発現レベルを測定するステップを含む、神経線維腫症患者の神経線維腫症治療剤に対する感受性を予測する方法。
【請求項15】
下記の化学式1で表される化合物、またはその医薬的に許容される塩を有効成分として含む組成物を個体に投与するステップを含む、神経線維腫症を予防または治療する方法。
【化3】
前記式で
Zはハロゲン、ヒドロキシル、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルコキシ、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のシクロアルキル、置換もしくは非置換のヘテロサイクル、または置換もしくは非置換のヘテロシクロアルキルであり、
Rは水素またはハロゲンである。
【請求項16】
下記の化学式1で表される化合物、またはその医薬的に許容される塩を有効成分として含む組成物を、神経線維腫症の予防または治療に使用するための治療剤の製造に使用するための用途。
【化4】
前記式で
Zはハロゲン、ヒドロキシル、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルコキシ、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のシクロアルキル、置換もしくは非置換のヘテロサイクル、または置換もしくは非置換のヘテロシクロアルキルであり、
Rは水素またはハロゲンである。
【請求項17】
(a)NF1遺伝子突然変異を有する生物学的試料を試験物質と接触させるステップと、
(b)前記接触した生物学的試料において、(1)GTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質および活性化されたp-ERKタンパク質からなる群から選択されるいずれか1つ以上のタンパク質と、(2)前記タンパク質をコードする遺伝子との発現レベルを測定するステップを含む、神経線維腫症治療剤のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
神経線維腫症の治療的および診断的ターゲットとしての活性化されたRasおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
神経線維腫症1型(neurofibromatosis type 1、NF1)は、常染色体優性遺伝疾患であり、世界的に3、000人あたり1人の頻度で比較的高い発症率を持っている遺伝疾患の1つである。NF1遺伝子突然変異によって発症し、多発性カフェオレ斑と皮膚の神経線維腫が特徴であり、様々なレベルの神経系、骨格系発現と新生物性発現が患者に大きな影響を与えることができる。NF1患者は中枢および末梢神経系腫瘍が発生するリスクがあり、これは一般人に比べて1、000倍高い比率である。
【0003】
既存の神経線維腫症1型の治療法としては、化学療法、放射線療法、外科的手術切除などの大衆療法だけが唯一の治療法であるが、多くの器官で多発的に発生する場合は手術が不可能な場合が多い。
【0004】
最近、神経線維腫症1型の患者の非侵襲的治療剤として、MEK抑制剤であるセルメチニブ(selumetinib)がFDAおよび国内の希少医薬品として承認された。他の治療剤としてチロシンキナーゼ抑制剤であるカルボザンチニブ(carbozantinib)が臨床実験の結果、安全性および腫瘍抑制効果を示すと報告されたが、様々な腫瘍を縮小させたりまたは完全に除去することはできないという限界点がある。また、神経線維腫症1型を有する患者が上記の治療剤に全て反応するわけではないため、より多くの治療剤が必要な状況である。
【0005】
一方、韓国人神経線維腫症患者の遺伝子突然変異の類型について調査した結果、約30%の患者が終止コドン突然変異(stop-codon mutation)を有していると報告された。また、近年早期終止コドンをread-throughするアタルレン(Ataluren;PTC THERAPEUTICS,USA)が、筋肉疾患治療剤として臨床研究されており、終止コドン突然変異を有する神経線維腫症患者の治療剤として言及されているが、これに対する薬効の研究はない状況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一態様は、Ras活性度またはp-ERKの活性度を利用して早期終止コドンをread-throughする化合物に対する神経線維腫症患者の感受性を予測することができるバイオマーカー組成物を提供することである。
【0007】
別の態様は、前記組成物を含む前記化合物に対する神経線維腫症患者の感受性予測用キットを提供することである。
【0008】
別の態様は、前記バイオマーカー組成物を利用して、前記化合物に対する神経線維腫症患者の感受性予測に必要な情報を提供する方法を提供することである。
【0009】
別の態様は、Ras活性を抑制することができる化合物を含む神経線維腫症の予防または治療用医薬組成物を提供することである。
【0010】
別の態様は、NF1遺伝子突然変異を有する生物学的試料を試験物質と接触させるステップと、前記接触された生物学的試料で(1)GTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質および活性化されたp-ERKタンパク質からなる群から選択されるいずれか1つ以上のタンパク質と、(2)前記タンパク質をコードする遺伝子との発現レベルを測定するステップを含む神経線維腫症治療剤のスクリーニング方法を提供することである。
【0011】
別の態様は、神経線維腫症治療剤に対する感受性を予測するための、(1)GTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質および活性化されたp-ERKタンパク質からなる群から選択されるいずれか1つ以上のタンパク質と、または(2)前記タンパク質をコードする遺伝子との発現レベルを測定することができる製剤を含むバイオマーカーの用途を提供することである。
【0012】
別の態様は、個体から得られた生物学的サンプルにおいて、(1)GTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質および活性化されたp-ERKタンパク質からなる群から選択されるいずれか1つ以上のタンパク質と、(2)前記タンパク質をコードする遺伝子との発現レベルを測定するステップを含む、神経線維腫症患者の神経線維腫症治療剤に対する感受性を予測する方法を提供することである。
【0013】
別の態様は、前記化合物またはその医薬的に許容される塩を有効成分として含む組成物を個体に投与するステップを含む神経線維腫症を予防または治療する方法を提供することである。
【0014】
別の態様は、前記化合物またはその医薬的に許容される塩を有効成分として含む組成物を、神経線維腫症の予防または治療に使用するための治療剤の製造に使用するための用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するために、一態様は、(1)GTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質および活性化されたp-ERKタンパク質からなる群から選択されるいずれか1つ以上のタンパク質と、(2)前記タンパク質をコードする遺伝子との発現レベルを測定する製剤を含む、神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用バイオマーカー組成物を提供する。
【0016】
「RASタンパク質」という用語は、低分子GTP(Guanosine triphoshate)結合タンパク質の一種であり、K-Rasタンパク質、H-Rasタンパク質、N-Rasタンパク質などのアイソフォーム(isoform)が存在するタンパク質を意味することができる。Rasタンパク質は、様々な細胞外刺激による細胞の増殖、分化、接着などのシグナルを上流のチロシンキナーゼ受容体から下流のエフェクターに仲介する機能を担うことができる。
【0017】
Rasタンパク質はGTP(Guanosine triphosphate)と結合した状態(Ras-GTP)が活性型であり、GDP(Guanosine diphosphate)と結合した状態(Ras-GDP)が非活性型であり、活性型と非活性型の状態変化を通じて細胞増殖などを調節することができる。一方、ヒトのがんではRasタンパク質が高い頻度で変異しており、この変異に起因してRasタンパク質が常に活性型となっていることが知られている。
【0018】
形質転換活性を有する活性型Rasは、GDPやGTPのグアニン環やリン酸基との相互作用に重要なアミノ酸変異があり、内在性GTP加水分解活性の低下やGDP解離速度の上昇を示すことができる。その発現によって細胞内でGTPを結合した活性型比率が増加し、細胞増殖制御に異常を起こすことがある。GTPが結合した活性型Rasは、Rafと結合することにより、RafからMAPリン酸化酵素に至るセリン-スレオニンリン酸化酵素の段階的連鎖を直接制御することができる。
【0019】
前記ERKは、Rasタンパク質によって調節されるSer/Thr protein kinaseのうち1つであり得る。活性化されていないERKは細胞質(cytoplasm)にあることができるが、活性化されたERKは核内に移動することができる。さらに、活性化されたERKは、ターゲットタンパク質のリン酸化または他のタンパク質リン酸化酵素(protein kinases)を活性化させ、シグナル伝達系を調節することができる。
【0020】
「感受性」という用語は、個々の神経線維腫症患者に対して特定の薬物が治療効果を示すかどうかを意味することができる。神経線維腫症の治療に有効であると認められている種類の治療剤であっても、個々の患者によって効果を示す場合と効果を示さない場合があることが知られている。このような個々の患者の神経線維腫症に対して治療剤が効果を示すか否かを治療剤に対する感受性と呼ぶことができる。前記「感受性」は「治療反応性」と互換的に使用することができ、「感受性予測用」は「治療反応性予測用」または「コンパニオン診断用」と互換的に使用することができる。
【0021】
「コンパニオン診断(Companion Diagnosis)」という用語は、患者の治療反応性を予測するための診断技法を意味することができる。
【0022】
前記コンパニオン診断用組成物は、神経線維腫症治療剤の投与の必要性と、神経線維腫症治療剤に対する薬剤耐性の発現の可能性と、神経線維腫症治療剤に対する感受性と、神経線維腫症治療剤による治療の予後予測に関する情報を提供するためのものであり得る。
【0023】
「バイオマーカー」という用語は、コンパニオン診断マーカーとしても使用することができ、生物学的サンプルにおいて患者の特定の薬物治療に対する反応性を予め予測することができる物質を意味することができる。正常個体から得られた生物学的サンプルに比べて、神経線維腫症患者から採取した生物学的サンプルにおいて増加または減少を示すポリペプチドまたは核酸(例えば、mRNAなど)、脂質、糖脂質、糖タンパク質、糖(例えば、単糖類、二糖類、オリゴ糖類など)などの有機生体分子などを含むことができる。
【0024】
一具体例において、前記神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用バイオマーカーは、GTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質またはそれをコードする遺伝子であり得る。その発現レベルが高いと神経線維腫症治療剤に対する感受性が高いと判断することができ、逆にその発現レベルが低い場合には神経線維腫症治療剤に対する感受性が低いと判断することができる。
【0025】
一具体例において、前記神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用バイオマーカーは、活性化されたp-ERKタンパク質またはそれをコードする遺伝子であり得る。その発現レベルが高いと神経線維腫症治療剤に対する感受性が高いと判断することができ、逆にその発現レベルが低い場合には神経線維腫症治療剤に対する感受性が低いと判断することができる。
【0026】
前記神経線維腫症治療剤は、下記の化学式1で表される化合物、またはその医薬的に許容される塩である、神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用バイオマーカー組成物であり得る。
【0027】
【化1】
前記式で
Zはハロゲン、ヒドロキシル、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルコキシ、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のシクロアルキル、置換もしくは非置換のヘテロサイクル、または置換もしくは非置換のヘテロシクロアルキルであり、
Rは水素またはハロゲンであり得る。
【0028】
「ハロゲン」という用語は、他に言及しない限り、F、Cl、BrまたはIを意味することができる。
【0029】
「ヒドロキシル」という用語は、他に言及がない限り、1個の水素原子と1個の酸素原子からなる一価の原子団であり、化学式-OHを有する基を意味することができる。
【0030】
「アルキル」という用語は、特に明記しない限り、線状または分枝状の飽和した炭化水素残基を意味することができる。例えば、「C1~10アルキル」は、1~10個の炭素で骨格が形成されたアルキルを意味する。具体的には、C1~10アルキルは、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、i-ペンチル、t-ペンチル、sec-ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなどを含むことができる。
【0031】
「アルコキシ」という用語は、特に明記しない限り、上記で定義したアルキル基が酸素原子を介して母化合物に付着されている化学式-O-アルキルを有する基を意味することができる。アルコキシ基のアルキル部分は、1~20個の炭素原子(すなわち、C1~20アルコキシ)、1~12個の炭素原子(すなわち、C1~12アルコキシ)、または1~6個の炭素原子(すなわち、C1~アルコキシ)を有することができる。適切なアルコキシ基の例には、メトキシ(-O-CHまたは-OMe)、エトキシ(-OCHCHまたは-OEt)、t-ブトキシ(-O-C(CHまたは-O-tBu)などがある。
【0032】
「アリール」という用語は、母芳香族環系の6個の炭素原子から1個の水素原子が除去されて誘導される芳香族炭化水素ラジカルを意味することができる。例えば、アリール基は、6~20個の炭素原子、6~14個の炭素原子、または6~12個の炭素原子を有することができる。
【0033】
「シクロアルキル」という用語は、環中に炭素原子のみを含む飽和モノサイクルまたはポリサイクルを指す。シクロアルキルは、モノサイクルとしては3~7個の炭素原子を、バイシクロアルキルとしては7~12個の炭素原子を、ポリサイクルとしては最大約20個の炭素原子を有することができる。
【0034】
「ヘテロサイクル」という用語は、1つ以上のヘテロ原子を有する芳香性または非芳香性の環を意味し、飽和または不飽和であってもよく、単環または多環であってもよい。例えば、「4~10員のヘテロサイクル」とは、ヘテロ原子および炭素原子を含む合計4~10個の原子炉骨格からなるヘテロサイクルを意味する。具体的には、4~10員のヘテロサイクルは、アゼチジン、ジアゼチジン、ピロリジン、ピロール、イミダゾリジン、イミダゾール、ピラゾリジン、ピラゾール、オキサゾリジン、オキサゾール、イソオキサゾリジン、イソオキサゾール、チアゾリジン、チアゾール、イソチアゾリジン、イソチアゾール、ピペリジン、ピリジン、ピペラジン、ジアジン、モポリン、チオモポリン、アゼパン、ジアゼパンなどを含むことができる。
【0035】
「ヘテロアリール」という用語は、環内に少なくとも1つ以上のヘテロ原子を有する芳香族ヘテロシクリルを指す。ヘテロアリールの非限定的な例には、ピリジニル、ピロリル、オキサゾリル、インドリル、イソインドリル、フリニル、フラニル、チエニル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフェニル、カルバゾリル、イミダゾリル、チアゾリル、イソオキサゾリル、ピラゾリル、イソチアゾリル、キノリル、イソキノリル、ピリダジル、ピリミジル、ピラジル(これらは環に1つ以上の置換基を有してもよい)などがある。
【0036】
「ヘテロシクロアルキル」という用語は、環内に1つ以上のヘテロ原子を有する非芳香族ヘテロシクリルを指すことができる。ヘテロシクロアルキルは、二重結合の存在により環が芳香性(Aromatic)を有さない範囲で、環内に1つ以上の炭素-炭素二重結合または炭素-ヘテロ原子二重結合を有することができる。ヘテロシクロアルキルの非限定的な例には、アゼチジニル、アジリジンイル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジンイル、ホモピペラジンイル、モポリノ、チオモポリノ、テトラヒドロフランイル、テトラヒドロチオフランイル、テトラヒドロピランイル、ピランイル(これらは環に1つ以上の置換基を有してもよい)などがある。
【0037】
「ヘテロ原子」という用語は、炭素(C)以外の原子を意味し、具体的には窒素(N)、酸素(O)または硫黄(S)原子であり得る。
【0038】
「置換」という用語は、指定された原子上の原子が(Valence)を超えずにこのような置換から化学的に安定した化合物となるように、分子構造体内の水素原子を置換基で置き換えることを指すことができる。例えば、「グループAが置換基Bに置換」されるというのは、グループAの骨格を構成する炭素などの原子に結合された水素原子が置換基Bに置換され、グループAと置換基Bが共有結合を形成することを意味することができる。
【0039】
前記Zは、Zがp-トリルと(4-クロロメチル-フェニル)、(2-クロロ-ピリジン-3-イル)、(2-フルオロ-フェニル)、(3、4-ジフルオロ-フェニル)、(4-メトキシ-フェニル)、ベンゾ[1、3]ジオキソール-イル、(4-エチル-フェニル)、o-トリル、(2-クロロ-フェニル)、(3-メチル-チオフェン-2-イル)、ベンゾ[b]チオフェン-2-イル、(3-フルオロ-フェニル)、(4-tert-ブチル-フェニル)、(2-メトキシ-フェニル)、(2、ジフルオロ-フェニル)、チオフェン-2-イル、(2、4-ジフルオロ-フェニル)、(3-クロロ-フェニル)、m-トリル、(4-トリフルオロメチル-フェニル)、(4-フルオロ-フェニル)、(3-メトキシ-フェニル)、フェニル、(2、6-ジフルオロ-フェニル)、(2、ジメチル-フラン-3-イル)、(4-ピロール-1-イル-フェニル)、(3-ジメチルアミノ-フェニル)、ビフェニル-4-イル、(4-ジメチルアミノ-フェニル)、ベンゾ[1、2、5]オキサジアゾール-イル、m-トリル、(2-トリフルオロメチル-フェニル)、(6-クロロ-ピリジン-3-イル)、(3、ビス-トリフルオロメチル-フェニル)、ラン-2-イル、(4-ニトロ-フェニル)、(3、4-ジメトキシ-フェニル)、(3-トリフルオロメトキシ-フェニル)、ナフタレン-1-イル、シクロヘキシル、ピリジン-3-イル、ピリジン-4-イル、シクロペンチル、シクロプロピル、(4-ペンチルオキシ-フェニル)、(3、4、トリメトキシ-フェニル)、(4-イソブチル-フェニル)、シクロブチル、(1-アセチル-ピペリジン-4-イル)、イソオキサゾール-イル、[2-クロロ-6-フルオロ-フェニル)-メチル-イソオキサゾール-4-イル]または[2-クロロ-フェニル)-メチル-イソオキサゾール-4-イル]であり得る。具体的に、前記Zは(2-フルオロ-フェニル)と(3、4-ジフルオロ-フェニル)、(2-クロロ-フェニル)、(3-フルオロ-フェニル)、(2、5-ジフルオロ-フェニル)、(2、4-ジフルオロ-フェニル)、(3-クロロ-フェニル)、(4-フルオロ-フェニル)、または(2、6-ジフルオロ-フェニル)であり得る。
【0040】
前記の化学式1で表される化合物は、早期終止コドン(premature stop codons)をread-throughすることができる。
【0041】
前記の化学式1で表される化合物は、3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1、2、4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸であり得る。前記化合物は、下記の化学式2で表される。
【0042】
【化2】
前記の化学式2で表される化合物は、アタルレン(Ataluren)、PCT124、またはトランスラナ(Translarna)とも呼ばれ、早期終止コドンを(premature stop codons)をread-throughすることができる。
【0043】
前記神経線維腫症治療剤は、前記化合物の医薬的に許容される塩を含むことができる。前記医薬的に許容される塩は、ヒトに対する毒性が低くなければならず、母化合物の生物学的活性および物理化学的特性に何らの否定的な影響を及ぼさないものであり得る。
【0044】
例えば、前記医薬的に許容される塩は、アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)またはアルカリ土類金属塩(カリウム塩など)であり得る。前記アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩は、例えば、前記化合物を過剰のアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物の溶液中に溶解させ、未溶解の化合物の塩を濾過した後、濾液を蒸発および乾燥させることにより得ることができる。
【0045】
さらに、前記化合物は、キラル炭素中心を有してもよく、したがって、RまたはS異性体、ラセミ化合物、個々の鏡像異性体または混合物、個々のジアステレオマーまたは混合物の形態で存在してもよく、このような全ての立体異性体およびこれらの混合物は本発明の範囲に属することができる。
【0046】
さらに、前記化合物は、前記化合物の水和物および溶媒和物を含むことができる。前記水和物および溶媒和物は、公知の方法を使用して製造することができ、無毒性および水溶性であることが望ましい。特に、望ましくは、前記水和物および溶媒和物は、それぞれ水およびアルコール性溶媒(特にエタノールなど)の1~5個の分子が結合したものであり得る。
【0047】
前記Ras-GTPタンパク質および/または活性化したp-ERKタンパク質の発現レベルの測定は、神経線維腫症治療剤に対する感受性を予測するために、個体の生物学的サンプルにおいて前記タンパク質の存在およびそのタンパク質の発現の程度を確認する過程であり、前記タンパク質に対して特異的に結合する分子を利用してタンパク質の量を確認するものであってもよい。
【0048】
前記タンパク質の発現レベルを測定することができる製剤は、モノクローナル(monoclonal)抗体、ポリクローナル(polyclonal)抗体、キメリック(chimeric)抗体、リガンド(ligand)、PNA(peptide nucleic acid)、アプタマー(aptamer)およびナノパーティクル(nanoparticle)からなる群から選択されるいずれか1つ以上であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0049】
このための分析方法としては、ウェスタンブロッティング(Western blotting)、ELISA(enzyme linked immunosorbent assay)、放射線免疫分析(Radioimmunoassay;RIA)、放射線免疫拡散法(radioimmunodiffusion)、オウクテロニー(Ouchterlony)免疫拡散法、ロケット(rocket)、免疫電気泳動法、免疫沈降分析法(immunoprecipitation assay)、免疫組織化学的分析(immunohistochemical analysis)、補体固定分析法(Complement Fixation Assay)、FACS(Fluorescence activated cell sorter)、タンパク質チップ(protein chip)、2次元電気泳動分析、タンパク質質量分析、液体クロマトグラフィー質量分析(Liquid Chromatography-Mass Spectrometry,LC-MS)、LC-MS/MS(Liquid Chromatography-Mass Spectrometry/Mass Spectrometry)、MALDI-TOF(Matrix Desorption/Ionization Time of Flight Mass Spectrometry)分析、SELDI-TOF(Sulface Enhanced Laser Desorption/Ionization Time of Flight Mass Spectrometry)分析などがあるが、これに限定されるものではない。
【0050】
一具体例によれば、前記Ras-GTPタンパク質の発現レベルを測定することができる製剤は、Ras-GTPタンパク質に特異的に結合し、Ras-GDPタンパク質には結合しないものであり得る。
【0051】
一具体例によれば、前記活性化されたp-ERKタンパク質の発現レベルを測定することができる製剤は、p-ERKタンパク質に特異的に結合するものであり得る。
【0052】
前記タンパク質をコードする遺伝子の発現レベルの測定は、神経線維腫症治療剤に対する感受性を予測するために個体の生物学的サンプルにおいて前記タンパク質をコードする遺伝子の存在の有無とその遺伝子の発現の程度を確認する過程であり、前記遺伝子に特異的に結合する分子を利用して遺伝子の量を確認するものであり得る。
【0053】
前記タンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを測定することができる製剤は、前記遺伝子に特異的に結合するプライマー(primer)対、プローブ(probe)およびアンチセンスヌクレオチド(antisense nucleotide)からなる群から選択されるいずれか1つ以上であり得るが、これに限定されるものではない。
【0054】
そのための分析方法としては、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(reverse transcriptase-polymerase chain reaction;RT-PCR)、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(real time-polymerase chain reaction)、RNase保護分析法(RNase保護分析法(RNase protection assay;RPA))、ノーザンブロッティング(Northern blotting)およびDNAチップなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
前記神経線維腫症は、NF1遺伝子に終止コドン突然変異を有するものであり得る。
【0056】
「終止コドン突然変異(stop codon mutation)」という用語は、突然変異によって塩基配列の一部が終止コドンであるUAG、UAA、UAGのうち1つになり、ポリペプチドの合成が中断されることを意味することができる。
【0057】
前記終止コドン突然変異は、DNA塩基が他の塩基と置換される点、突然変異(point mutation)のうち1つであるナンセンス突然変異(nonsense mutation)または構造移動突然変異(Frameshift mutation)によるものであり得る。
【0058】
「ノンセンス突然変異(nonsense mutation)」という用語は、DNA塩基配列がタンパク質に転換されるとき、塩基配列の一部が終止コドン(UAG、UAA、UGAの1つ)に転換され、これ以上はタンパク質の合成が行われない突然変異を意味する。
【0059】
「構造移動突然変異(Frameshift mutation)」という用語は、DNA塩基配列に1個または2個または3の倍数ではない数のヌクレオチドの挿入(insert)または欠失(deletion)になる変異によって遺伝子の転写、翻訳過程を経て生成されるタンパク質のアミノ酸配列は大きく異なる突然変異を意味することができる。
【0060】
一具現例において、前記終止コドン突然変異は、i)NF1遺伝子のDNA塩基配列において5242番目の塩基であるシチジン(C)がチミン(T)に置換されてNF1タンパク質を構成する1748番目のアミノ酸であるアルギニン(Arg、R)が終止コドンに転換、ii)NF1遺伝子のDNA塩基配列において2560番目の塩基であるシチジン(C)がチミン(T)に置換されてNF1タンパク質を構成する854番目のアミノ酸であるグルタミン(Gln、Q)が終止コドンに転換、iii)NF1遺伝子のDNA塩基配列において4537番目の塩基であるシチジン(C)がチミン(T)に置換されてNF1タンパク質を構成する1513番目のアミノ酸であるアルギニン(Arg、R)が終止コドンに転換、iv)NF1遺伝子のDNA塩基配列において2978番目の塩基であるチミン(T)がグアニン(G)に置換されてNF1タンパク質を構成する993番目のアミノ酸であるロイシン(Leu、L)が終止コドンに転換、v)NF1遺伝子のDNA塩基配列において7486番目の塩基であるシチジン(C)がチミン(T)に置換されてNF1タンパク質を構成する2496番目のアミノ酸であるアルギニン(Arg、R)が終止コドンに転換されたものであり得る。
【0061】
他の具現例において、神経線維腫症患者の中でNF1遺伝子に終止コドン突然変異を有する患者を選別し、選別された患者の線維芽細胞でRas-GTP活性度を測定した後、アタルレンを処理した結果、Ras-GTP発現が健常者と比較して有意に増加した患者群でRas-GTPおよびp-ERKタンパク質の発現が有意に減少することを通じて、アタルレンが神経線維腫症の治療効果を有することを確認することができる。したがって、NF1遺伝子に終止コドン突然変異を有する神経線維腫症患者のうち、活性状態のRas(Ras-GTP)および/または活性化されたp-ERKタンパク質の発現の増減の有無によって、アタルレンに対する感受性を予測することができる。
【0062】
別の態様は、前記バイオマーカー組成物を含む神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用キットを提供する。
【0063】
前記キットは、個体から単離された生物学的サンプルを利用して前記神経線維腫症治療剤に対する感受性を予測することができる。具体的には、前記キットは個体から採取した線維芽細胞を利用して前記神経線維腫症治療剤に対する感受性を予測することができる。
【0064】
前記キットには、前記タンパク質または遺伝子の発現レベルを測定するための製剤だけでなく、免疫学的分析に一般的に使用されるツール、試薬などが含まれ得る。
【0065】
前記ツールまたは試薬の一例として、適切な担体、検出可能なシグナルを生成することができる標識物質、発色団、溶解剤、洗浄剤、緩衝剤、安定化剤などが含まれ得るが、これらに限定されるものではない。標識物質が酵素である場合には、酵素活性を測定することができる基質および反応停止剤を含むことができる。担体は可溶性担体、不溶性担体があり、可溶性担体の一例として当該技術分野で公知の生理学的に許容される緩衝液、例えばPBSがあり、不溶性担体の一例としてポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、フッ素樹脂、架橋デキストラン、ポリサッカロイド、ラテックスに金属をメッキした磁性微粒子のような高分子、その他の紙、ガラス、金属、アガロースおよびこれらの組み合わせであり得る。
【0066】
前記バイオマーカー組成物については、前記で説明した通りである。
【0067】
別の態様は、個体から得られた生物学的サンプルにおいて、(1)GTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質および活性化されたp-ERKタンパク質からなる群から選択されるいずれか1つ以上のタンパク質と、(2)前記タンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを測定することを含む、神経線維腫症治療剤に対する感受性予測に必要な情報を提供する方法を提供する。
【0068】
前記方法は、活性化されたRas-GTPタンパク質またはそれをコードする遺伝子の発現レベルが、正常個体から得られた生物学的サンプルで測定された発現レベルより増加した場合、神経線維腫症治療剤に対する感受性が高いと判断し、逆にその発現レベルが低い場合は神経線維腫症治療剤に対する感受性が低いと判断するステップをさらに含むことができる。
【0069】
前記方法は、活性化されたp-ERKタンパク質またはそれをコードする遺伝子の発現レベルが、正常個体から得られた生物学的サンプルで測定された発現レベルより増加した場合、神経線維腫症治療剤に対する感受性が高いと判断し、逆にその発現レベルが低い場合は神経線維腫症治療剤に対する感受性が低いと判断するステップをさらに含むことができる。
【0070】
「生物学的サンプル」という用語は、一態様によるRas-GTPタンパク質またはそれをコードする遺伝子の発現レベルおよび/またはp-ERKタンパク質またはそれをコードする遺伝子の発現レベルを測定することができる個体から得られたすべてのサンプルを意味することができる。
【0071】
前記生物学的サンプルは、血液、血漿、血清、尿、唾液、喀痰、脳脊髄液、細胞、細胞培養液、組織抽出物または腫瘍組織であり得るが、これらに限定されるものではない。具体的には、前記生物学的サンプルは、個体から採取した線維芽細胞であり得る。前記生物学的サンプルは、当技術分野で通常使用されている方法で処理して準備することができる。
【0072】
別の態様は、下記の化学式1で表される化合物、またはその医薬的に許容される塩を有効成分として含む神経線維腫症の予防または治療用医薬組成物を提供する。
【0073】
【化3】
前記式で
Zはハロゲン、ヒドロキシル、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルコキシ、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のシクロアルキル、置換もしくは非置換のヘテロサイクル、または置換もしくは非置換のヘテロシクロアルキルであり、
Rは水素またはハロゲンであり得る。
【0074】
前記の化学式1で表される化合物およびその医薬的に許容される塩は、前記で説明した通りである。
【0075】
前記の化学式1で表される化合物は、3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1、2、4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸であり得る。
【0076】
前記神経線維腫症は、NF1遺伝子に終止コドン突然変異を有するものであり得る。
【0077】
前記神経線維腫症は、Rasタンパク質の活性度が増加したものであり得る。
【0078】
前記神経線維腫症については、前記で説明した通りである。
【0079】
一具現例において、神経線維腫症患者の中でNF1遺伝子に終止コドン突然変異を有する患者を選別し、選別された患者の線維芽細胞でRas-GTP活性度を測定した後、アタルレンを処理した結果、Ras-GTP活性度が健常者と比較して有意に増加した患者群でRas-GTPおよびp-ERKタンパク質の発現が有意に減少することを通じて、アタルレンが神経線維腫症の治療効果を有することを確認することができる。したがって、アタルレンは、活性状態のRas(Ras-GTP)の発現が増加したNF1遺伝子に終止コドン突然変異を有する神経線維腫症患者の治療用途に使用することができる。
【0080】
前記医薬組成物は、有効成分として前記化合物を組成物の総重量を基準に約0.1重量%~約90重量%、具体的には約0.5重量%~約75重量%、より具体的には約1重量%~約50重量%で含有することができる。
【0081】
前記医薬組成物は、通常の方法に従って製剤に配合される一般的で無毒性の医薬的に許容される添加剤を含むことができる。例えば、前記医薬組成物は、医薬的に許容される担体、希釈剤または賦形剤をさらに含むことができる。
【0082】
前記医薬組成物に使用される添加剤の例には、甘味剤、結合剤、溶媒、溶解補助剤、湿潤剤、乳化剤、等張化剤、吸収剤、崩壊剤、酸化防止剤、保存剤、潤滑剤、滑沢剤、充填剤、香味剤などを含むことができる。例えば、前記添加剤は、ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、グリシン、シリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン、ステアリン酸マグネシウム、アルミノケイ酸マグネシウム、デンプン、ゼラチン、トラガカントアルギン酸、ナトリウムアルギネート、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、寒天、水、エタノール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、オレンジエッセンス、イチゴエッセンス、バニラ香などを含むことができる。
【0083】
前記医薬組成物は、経口投与(例えば、錠剤、丸剤、散剤、カプセル剤、シロップまたはエマルジョン)または非経口投与(例えば、筋肉内、静脈内または皮下注射)のための様々な製剤形態で配合されることができる。
【0084】
具体的には、前記医薬組成物は経口投与用製剤として配合することができ、このとき使用される添加剤には、セルロース、カルシウムシリケート、トウモロコシデンプン、ラクトース、スクロース、デキストロース、リン酸カルシウム、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ゼラチン、タルク、界面活性剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤などが含まれ得る。また、滑沢剤(Glidant)の例には、コロイド状二酸化ケイ素(Colloidal Silicon Dioxide)、マグネシウムシリケート(Magnesuim Sillicate)などがあり、希釈剤(Diluent)の例には、微結晶セルロース(Microcrystalline Cellulose)、ラクトース無水物(Lactose Anhydrous)、ラクトース一水和物(Lactose Monohydrate)、ケイ化(silicified)MCC HD90などがあり、崩壊剤(Disintegrant)の例には、クロスカルメロースナトリウム(Croscarmellose Sodium)、クロスポビドン(Crospovidone)などがあり、潤滑剤(Lubricant)の例には、マグネシウムステアレート(Magnesium Stearate)、ラウリル硫酸ナトリウム(Sodium Lauryl Sulfate)、ステアリン酸(Stearic Acid)などがある。
【0085】
また、経口投与のための液状製剤には、懸濁剤、乳剤、シロップ剤などが例示されることができ、一般的に使用される単純希釈剤である水、液体パラフィン以外の様々な賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれ得る。
【0086】
さらに、非経口投与用のための製剤には、滅菌水溶液剤、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤および坐剤が含まれる。非水性溶剤、懸濁剤には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物油、エチルオレートのような注射可能なエステルなどが使用されてもよい。座制の基剤には、ウィテプソル、マクロゴール、ツイン61、 カカオジ、ラウリンジ、グリセロゼラチンなどが使用されてもよい。一方、注射剤には、溶解剤、等張化剤、懸濁化剤、乳化剤、安定化剤、防腐剤などの従来の添加剤が含まれてもよい。
【0087】
前記医薬組成物は、治療学的に有効な量または医薬的に有効な量で患者に投与されてもよい。
【0088】
「治療学的に有効な量」または「医薬的に有効な量」という用語は、対象疾患を予防または治療するのに有効な化合物または組成物の量であり、医学的治療に適用可能な合理的な利益/リスク比率で疾患を治療するのに十分であり、副作用を引き起こさない程度の量を意味する。前記有効量のレベルは、患者の健康状態、疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する感受性、投与方法、投与時間、投与経路および排出比率、治療期間、配合または同時使用される薬物を含む要素および他の医学分野においてよく知られている要因によって決定され得る。
【0089】
前記医薬組成物は、個々の治療剤として投与するか、他の治療剤と組み合わせて投与することができ、従来の治療剤と順次または同時に投与することができ、単一または複数投与することができる。前記の要素のすべてを考慮して、副作用なしに最小限の量で最大の効果を得ることができる量を投与することが重要であり、これは当業者によって容易に決定され得る。
【0090】
具体的には、前記医薬組成物において前記化合物の有効量は、患者の年齢、性別、体重に応じて変わることができ、一般的には、体重1kg当たり約0.1mg~約1,000mg、または約5mg~約200mgを毎日あるいは、1日1回~3回に分けて投与することができる。しかしながら、投与経路、疾病の重症度、性別、体重、年齢などによって増減することができるので、範囲はこれに限定されない。
【0091】
さらに、前記医薬組成物は、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン治療、骨髄移植、幹細胞代替治療、他の生物学的治療、外科的介入、またはそれらの組み合わせと併用して腫瘍療法のために投与されてもよい。例えば、長期的に進行される他の治療戦略と共に補助療法として使用されるか、または重症患者における腫瘍退縮または化学予防療法後の患者の状態を維持するために使用されてもよい。
【0092】
別の態様は、(a)NF1遺伝子突然変異を有する生物学的試料を試験物質と接触させるステップと、(b)前記接触した生物学的試料において、(1)GTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質および活性化されたp-ERKタンパク質からなる群から選択されるいずれか1つ以上のタンパク質と、(2)前記タンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを測定するステップを含む、神経線維腫症治療剤のスクリーニング方法を提供する。
【0093】
前記生物学的試料は、細胞または動物モデルであり得る。前記試料は、神経線維腫症患者から単離された試料であり得る。
【0094】
一具体例によれば、前記スクリーニング方法は、前記試験物質と接触させた後の生物学的試料のRas-GTPタンパク質またはそれをコードする遺伝子の発現レベルが、試験物質と接触させる前と比較して減少した場合、前記試験物質を神経線維腫症治療剤と判断するステップを含むことができる。
【0095】
一具体例によれば、前記スクリーニング方法は、前記試験物質と接触させた後の生物学的試料の活性化されたp-ERKタンパク質またはそれをコードする遺伝子の発現レベルが、試験物質と接触させる前と比較して減少した場合、前記試験物質を神経線維腫症治療剤と判断するステップを含むことができる。
【0096】
前記スクリーニング方法は、前記試験物質と接触した生物学的試料のRas-GTPタンパク質またはそれをコードする遺伝子の発現レベルを測定した結果と、試験物質と接触していない生物学的試料から測定された結果とを比較するステップを含むことができる。
【0097】
前記スクリーニング方法は、前記試験物質と接触した生物学的試料の活性化されたp-ERKタンパク質またはそれをコードする遺伝子の発現レベルを測定した結果と、試験物質と接触していない生物学的試料から測定された結果とを比較するステップを含むことができる。
【0098】
別の態様は、神経線維腫症治療剤に対する感受性を予測するための、(1)GTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質および活性化されたp-ERKタンパク質からなる群から選択されるいずれか1つ以上のタンパク質と、(2)前記タンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを測定することができる製剤を含むバイオマーカーの用途を提供する。
【0099】
別の態様は、個体から得られた生物学的サンプルにおいて、(1)GTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質および活性化されたp-ERKタンパク質からなる群から選択されいずれか1つ以上のタンパク質と、(2)前記タンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを測定するステップを含む、神経線維腫症患者の神経線維腫症治療剤に対する感受性を予測する方法を提供する。
【0100】
別の態様は、下記の化学式1で表される化合物、またはその医薬的に許容される塩を有効成分として含む組成物を個体に投与するステップを含む、神経線維腫症を予防または治療する方法を提供する。
【0101】
【化4】
前記式で
Zはハロゲン、ヒドロキシル、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルコキシ、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のシクロアルキル、置換もしくは非置換のヘテロサイクル、または置換もしくは非置換のヘテロシクロアルキルであり、
Rは水素またはハロゲンであり得る。
【0102】
別の態様は、下記の化学式1で表される化合物、またはその医薬的に許容される塩を有効成分として含む組成物を神経線維腫症の予防または治療に使用するための治療剤の製造に使用するための用途を提供する。
【0103】
【化5】
前記式で
Zはハロゲン、ヒドロキシル、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルコキシ、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のシクロアルキル、置換もしくは非置換のヘテロサイクル、または置換もしくは非置換のヘテロシクロアルキルであり、
Rは水素またはハロゲンであり得る。
【0104】
重複する内容は、本明細書の複雑性を考慮して省略し、本明細書で他に定義されていない用語は、本発明が属する技術分野において一般的に使用される意味を有するものである。
【発明の効果】
【0105】
一態様による神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用バイオマーカー組成物を利用すると、個体の生物学的サンプルにおいてGTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質またはそれをコードする遺伝子および/または活性化されたp-ERKタンパク質またはそれをコードする遺伝子の発現レベルを測定する簡単な方法を通じて、神経線維腫症治療剤に対する感受性を正確に診断することができる。
【0106】
一態様による神経線維腫症の予防または治療用医薬組成物を利用すると、Rasタンパク質の活性を抑制するため、Rasタンパク質の活性度が増加した神経線維腫症の予防または治療用途として有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
図1図1は、一態様によりNF1遺伝子に終止コドン突然変異が存在すると選別された神経線維腫症患者の終止コドン突然変異情報を示す図である。
図2図2は、一態様によりNF1遺伝子に終止コドン突然変異が存在すると選別された神経線維腫症患者のGTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質の発現量を測定した結果である。
図3図3は、一態様によりNF1遺伝子に終止コドン突然変異が存在すると選別された神経線維腫症患者のうち、Ras-GTPの発現量が高い患者の線維芽細胞にアタルレン(PTC)30μg/mlを投与する前と後のRas-GTPの発現量の変化を測定した結果である。
図4図4は、一態様によりNF1遺伝子に終止コドン突然変異が存在すると選別された神経線維腫症患者のうち、Ras-GTPの発現量が高い患者の線維芽細胞にアタルレン(PTC-124)20μg/mlまたは30μg/mlを投与する前と後のp-ERKの発現量を比較するために電気泳動した結果である。
図5図5は、一態様によりNF1遺伝子に終止コドン突然変異が存在すると選別された神経線維腫症患者のうち、Ras-GTPの発現量が高い患者の線維芽細胞にアタルレン(PTC-124)20μg/mlまたは30μg/mlを投与する前と後のERKとp-ERKの発現比率を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0108】
以下、本発明を実施形態によりさらに詳細に説明する。しかしながら、これらの実施形態は、本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0109】
実施形態1 神経線維腫症患者のうち、NF1遺伝子に終止コドン変異が存在する患者の選別
神経線維腫症患者から抽出したDNAを対象に神経線維腫症の原因遺伝子であるNF1遺伝子をポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction、PCR)を利用して増幅した後、サンガーシーケンシング(sanger sequencing)を行った。分析結果に基づいて、NF1遺伝子に終止コドン変異が存在する22人の患者を選別した。選別された患者のNF1遺伝子に存在する終止コドン変異情報は、以下の表1に記載される通りである(図1)。
【0110】
【表1】
実施形態2 選別された神経線維腫症患者のRASタンパク質の活性度の測定
健常者と実施形態1で選別された神経線維腫症患者の皮膚線維芽細胞において、以下のような方法でRASタンパク質の活性度を比較した。
【0111】
供与された健常者および神経線維腫症患者のそれぞれの皮膚線維芽細胞をDMEM+10%FBS+1%Penicillin-Streptomycinの培地で培養した。細胞密度が容器の70~80%になるように培養した後、FBSを除いた培地に交換した後、細胞を培養して24時間のstarvation過程を経た。次に、細胞をFBSが含まれた培地に移動させた後、Ras活性剤(activator)であるEGF(epidermal growth factor)を100ng/ml濃度に希釈して処理し、5分間37℃で反応させて各サンプルを準備した。RASタンパク質の活性度分析は、従来の測定方式であるPull-down assayの欠点を補完して少量の細胞と同時に多くのサンプルが測定可能なCytoskeleton社のG-LISA Ras activation Assay Biochem Kit(Absorbance Based)(Cytoskeleton,Cat No. BK131)を使用した。
【0112】
RASタンパク質の活性度分析方法を簡単に説明すると、EGF処理後にキットに含まれた細胞溶解(cell lysis)溶液を利用して細胞を溶解させ、上清液のみ取得した後、上清液に含まれているタンパク質を定量化した。全てのサンプルの同様のタンパク質量を、Ras-GTP結合タンパク質(Ras-GTP binding protein)が結合したプレートのウェルに入れ、撹拌機で300rpmの速度で撹拌しながら4℃で30分間反応させた。その後、洗浄液で3回洗浄した後、結合されていないタンパク質を除去してからanti-Ras抗体を入れて常温で45分間300rpmの速度で撹拌機で反応させた後、3回の洗浄過程を経た。洗浄液を完全に除去してから2次抗体を入れた後、1次抗体反応過程と同様に常温で45分間400rpm速度で攪拌機で反応させた後、3回の洗浄過程を経た。これらの過程を通じて活性状態(active state)であるGTPに結合したRas(GDP-bound Ras)タンパク質は残り、非活性状態(inactive state)であるGDPに結合したRas(GDP-bound Ras)タンパク質は洗浄過程で除去される。次に、HRP detection reagentを入れて15分間常温で反応させた後、490nmで吸光度を測定することにより、Ras-GTPの存在量を通じてRasタンパク質の活性度を測定する方式である。
【0113】
その結果、健常者と比較して、ほとんどの神経線維腫症患者由来の線維芽細胞でRas-GTPのシグナルが高く測定されることを通じて、Rasタンパク質の活性度が増加していることを確認した(図2)。
【0114】
実施形態3 アタルレン(Ataluren)処理によるRASタンパク質活性度の変化の測定
供与された健常者および神経線維腫症患者の皮膚線維芽細胞をDMEM+10%FBS+1%Penicillin-Streptomycinの培地でアタルレンを20μg/mlおよび30μg/mlの濃度でそれぞれ処理した後、3日間培養した。細胞密度が容器の70~80%になるように培養した後、FBSを除いた培地に交換した後、細胞を培養して24時間のstarvation過程を経た。次に、細胞をFBSが含まれた培地に移動させた後、Ras活性剤であるEGF(epidermal growth factor)を100ng/ml濃度に希釈して処理し、5分間37℃で反応させて各サンプルを準備した。各サンプルにおけるRasタンパク質の活性度の測定は、実施形態2に記載した方法と同様に行った。
【0115】
その結果、健常者と比較してRasタンパク質の活性度が増加している神経線維腫症患者の皮膚線維芽細胞にアタルレンを処理した場合に、Ras-GTPのシグナルが有意に減少することを確認した(図3)。これを通じて、アタルレンはRasタンパク質の活性度を低下させることにより神経線維腫症治療効果があることが分かった。
【0116】
実施形態4 アタルレン処理によるp-ERK/ERKタンパク質発現量の変化の測定
NuPAGETM 4~12% Bris-Tris Gel(Invitrogen)を利用して実施形態3でRas活性度を測定した同様のタンパク質を電気泳動した。
【0117】
その結果、健常者の線維芽細胞では、アタルレン処理による活性状態のリン酸化されたERK(p-ERK)発現の変化はなかったが、アタルレン処理によるRasタンパク質の活性度が減少した神経線維腫症患者の繊維芽細胞ではp-ERK発現が減少することを確認した(図4)。
【0118】
ERK活性度をより正確に比較するために、前記で電気泳動したタンパク質をhybond-ECL membraneに移動(transfer)させた後、3% skim milkを利用してmembraneをブロッキング(blocking)した。次に、membraneにERKとp-ERK抗体を4℃で24時間反応させた後、TBSTで3回洗浄した。2次抗体を常温で1時間反応させた後、TBSTで3回洗浄した。洗浄が終わったmembraneでERKとp-ERKの発現比率を測定した。
【0119】
その結果、健常者の線維芽細胞ではアタルレン処理によるp-ERKタンパク質の発現程度が多少増加したが、アタルレン処理によるRasタンパク質の活性度が減少した神経線維腫症患者の線維芽細胞ではp-ERK発現が減少することを確認した(図5)。
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-08-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)GTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質および活性化されたp-ERKタンパク質からなる群から選択されるいずれか1つ以上のタンパク質と、
(2)前記タンパク質をコードする遺伝子との発現レベルを測定する製剤を含む、神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用バイオマーカー組成物。
【請求項2】
神経線維腫症治療剤は、下記の化学式1で表される化合物、またはその医薬的に許容される塩である、請求項1に記載の神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用バイオマーカー組成物。
【化1】
前記式で
Zはハロゲン、ヒドロキシル、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルコキシ、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のシクロアルキル、置換もしくは非置換のヘテロサイクル、または置換もしくは非置換のヘテロシクロアルキルであり、
Rは水素またはハロゲンである。
【請求項3】
前記の化学式1で表される化合物が3-[5-(2-フルオロ-フェニル)-[1、2、4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸である、請求項2に記載の神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用バイオマーカー組成物。
【請求項4】
前記タンパク質の発現レベルを測定することができる製剤は、前記タンパク質に特異的に結合するモノクローナル(monoclonal)抗体、ポリクローナル(polyclonal)抗体、キメリック(chimeric)抗体、リガンド(ligand)、PNA(peptide nucleic acid)、アプタマー(aptamer)およびナノパーティクル(nanoparticle)からなる群から選択されるものである、請求項1に記載の神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用バイオマーカー組成物。
【請求項5】
前記タンパク質をコードする遺伝子の発現レベルを測定することができる製剤は、前記遺伝子に特異的に結合するプライマー(primer)対、プローブ(probe)及びアンチセンスヌクレオチド(antisense nucleotide)からなる群から選択されるものである、請求項1に記載の神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用バイオマーカー組成物。
【請求項6】
前記神経線維腫症は、NF1遺伝子に終止コドン突然変異を有するものである、請求項1に記載の神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用バイオマーカー組成物。
【請求項7】
第1項~第6項のいずれか一項に記載のバイオマーカー組成物を含む、神経線維腫症治療剤に対する感受性予測用キット。
【請求項8】
個体から得られた生物学的サンプルにおいて、
(1)GTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質および活性化されたp-ERKタンパク質からなる群から選択されるいずれか1つ以上のタンパク質と、
(2)前記タンパク質をコードする遺伝子との発現レベルを測定するステップを含む、神経線維腫症治療剤に対する感受性予測に必要な情報を提供する方法。
【請求項9】
下記の化学式1で表される化合物、またはその医薬的に許容される塩を有効成分として含む、神経線維腫症の予防または治療用医薬組成物。
【化2】
前記式で
Zはハロゲン、ヒドロキシル、置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアルコキシ、置換もしくは非置換のアリール、置換もしくは非置換のヘテロアリール、置換もしくは非置換のシクロアルキル、置換もしくは非置換のヘテロサイクル、または置換もしくは非置換のヘテロシクロアルキルであり、
Rは水素またはハロゲンである。
【請求項10】
前記の化学式1で表される化合物が、3-[5-(2-フルオローフェニル)-[1、2、4]オキサジアゾール-3-イル]-安息香酸である、請求項9に記載の神経線維腫症の予防または治療用医薬組成物。
【請求項11】
前記神経線維腫症は、NF1遺伝子に終止コドン突然変異を有するものである、請求項9に記載の神経線維腫症の予防または治療用医薬組成物。
【請求項12】
前記神経線維腫症は、Rasタンパク質の活性度が増加したものである、請求項9に記載の神経線維腫症の予防または治療用医薬組成物。
【請求項13】
神経線維腫症治療剤に対する感受性を予測するための、
(1)GTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質および活性化されたp-ERKタンパク質からなる群から選択されるいずれか1つ以上のタンパク質と、
(2)前記タンパク質をコードする遺伝子との発現レベルを測定することができる製剤を含むバイオマーカーの用途。
【請求項14】
個体から得られた生物学的サンプルにおいて、
(1)GTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質および活性化されたp-ERKタンパク質からなる群から選択されるいずれか1つ以上のタンパク質と、
(2)前記タンパク質をコードする遺伝子との発現レベルを測定するステップを含む、神経線維腫症患者の神経線維腫症治療剤に対する感受性を予測する方法。
【請求項15】
(a)NF1遺伝子突然変異を有する生物学的試料を試験物質と接触させるステップと、
(b)前記接触した生物学的試料において、(1)GTPが結合して活性化されたRAS(Ras-GTP)タンパク質および活性化されたp-ERKタンパク質からなる群から選択されるいずれか1つ以上のタンパク質と、(2)前記タンパク質をコードする遺伝子との発現レベルを測定するステップを含む、神経線維腫症治療剤のスクリーニング方法。
【国際調査報告】