(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】血友病患者において患者報告アウトカムを改善するのに使用するためのフィツシラン
(51)【国際特許分類】
A61K 31/713 20060101AFI20241226BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20241226BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20241226BHJP
【FI】
A61K31/713
A61P7/04
C12N15/113 Z ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537896
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-08-05
(86)【国際出願番号】 US2022082213
(87)【国際公開番号】W WO2023122713
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500034653
【氏名又は名称】ジェンザイム・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】ショーナ・アンデション
(72)【発明者】
【氏名】ホセ・バルテルト-ホファー
(72)【発明者】
【氏名】プロナベッシュ・ダズマハパトラ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086GA13
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA06
4C086ZA53
4C086ZC54
(57)【要約】
本開示は、血友病A又は血友病B患者の患者報告アウトカム及び生活の質を改善するための新規治療として、二本鎖オリゴヌクレオチド化合物を使用することを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血友病患者において患者報告アウトカム(PRO)を改善する方法であって、それを必要とする血友病患者に治療有効量のフィツシランを皮下投与することを含み、任意選択的に、前記患者は、インヒビター保有又は非保有の血友病A又はB患者であり、任意選択的に、前記PROは、1つ又は複数の生活の質(QoL)ドメインにおいて改善される、方法。
【請求項2】
血友病患者において生活の質(QoL)を改善する方法であって、それを必要とする血友病患者にフィツシランを皮下投与することを含み、前記QoLは、1つ又は複数のQoLドメインにおいて改善され、任意選択的に、前記患者は、インヒビター保有又は非保有の血友病A又はB患者である、方法。
【請求項3】
前記フィツシランは、1用量当たり約10~約90mgで投与される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記1つ又は複数のQoLドメインは、QoL質問票のドメインであり、任意選択的に、前記QoL質問票は、成人のための血友病の生活の質質問票(Haem-A-QoL)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記投与は、前記質問票の総スコア、スポーツ及びレジャードメインスコア、並びに身体的健康ドメインスコアの1つ又は複数における7以上の単位(任意選択的に、8以上、9以上、又は10以上の単位)の減少によって示される臨床的に意味のある改善をもたらす、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ又は複数のQoLドメインは、QoL質問票のドメインであり、任意選択的に、前記QoL質問票は、子供及び青年のための血友病の生活の質質問票(Haemo-QoL)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記投与は、前記質問票の総スコアにおける7以上の単位(任意選択的に、8以上、9以上、又は10以上の単位)の減少によって示される臨床的に意味のある改善をもたらす。請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記1つ又は複数のQoLドメインは、QoL質問票のドメインであり、任意選択的に、前記QoL質問票は、血友病活動リスト(HAL)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記投与は、前記質問票の総スコアにおける7以上の単位(任意選択的に、8以上、9以上、又は10以上の単位)の増加によって示される改善をもたらす、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記1つ又は複数のQoLドメインは、QoL質問票のドメインであり、任意選択的に、前記QoL質問票は、小児血友病活動リスト(pedHAL)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記投与は、前記質問票の総スコアにおける7以上の単位(任意選択的に、8以上、9以上、又は10以上の単位)の増加によって示される改善をもたらす、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記1つ又は複数のQoLドメインは、QoL質問票のドメインであり、任意選択的に、前記QoL質問票は、薬物療法に対する治療満足度質問票バージョン9(TSQM-9)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記投与は、前記質問票の有効性、満足度、及び利便性ドメインスコアの1つ又は複数における7以上の単位(任意選択的に、8以上、9以上、又は10以上の単位)の増加によって示される改善をもたらす、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記1つ又は複数のQoLドメインは、QoL質問票のドメインであり、任意選択的に、前記QoL質問票は、EuroQol 5-ディメンション(EQ-5D-5L)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記投与は、前記質問票の総スコアにおける0.02以上の単位(任意選択的に、0.03以上、0.04以上、又は0.05以上の単位)の増加、或いは前記質問票の視覚的アナログ尺度(VAS)スコアにおける5以上の単位(任意選択的に、6以上、7以上、又は8以上の単位)の増加によって示される改善をもたらす、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記患者は、インヒビター保有又は非保有の血友病A又はBを有する12歳以上の成人又は青年患者である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記患者は血友病Aを有する、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記患者は、第VIII因子又はバイパス剤(BPA)による処置を受けている、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記患者はインヒビターを保有しており、任意選択的に、前記インヒビターのレベルは、ベセスダインヒビターアッセイで決定したときに0.6BU/mLを超える、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記患者はインヒビターを保有していない、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項21】
前記患者は血友病Bを有する、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記患者は、第IX因子又はBPAによる処置を受けている、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記患者はインヒビターを保有しており、任意選択的に、前記インヒビターのレベルは、ベセスダインヒビターアッセイで決定したときに0.6BU/mLを超える、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記患者はインヒビターを保有していない、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項25】
前記BPAは、活性型プロトロンビン複合体濃縮製剤(aPCC)及び/又は組換え活性型第VII因子(rFVIIa)である、請求項18~20又は22~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
複数用量の前記フィツシランを、1用量当たり約10mg、約20mg、約50mg、又は約80mgで前記患者に投与することを含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記フィツシランは、約4週間に1回若しくは約1か月に1回、又は約8週間に1回若しくは約2か月に1回、前記患者に投与される、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記フィツシランは、リン酸緩衝食塩水(pH7)中に約1~約200mg/mLの濃度、任意選択的に、約6.25、約12.5mg/mL、又は約100mg/mLの濃度で提供される、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記患者は、
(i)臨床的に有意な肝疾患の存在、
(ii)ALT>1.5×正常基準範囲の上限(ULN)、
(iii)AST>1.5×正常基準範囲の上限(ULN)、
(iv)C型肝炎、
(v)A型肝炎、
(vi)E型肝炎、及び/又は
(vii)B型肝炎
を有さない、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
請求項1~29のいずれか一項に記載の方法において使用するためのフィツシラン。
【請求項31】
請求項1~29のいずれか一項に記載の方法において使用するための製品。
【請求項32】
前記製品は、
i.約0.8mLのリン酸緩衝食塩水(pH7)中の約80mgのフィツシラン、
ii.約0.5mLのリン酸緩衝食塩水(pH7)中の約50mgのフィツシラン、
iii.約0.2mLのリン酸緩衝食塩水(pH7)中の約20mgのフィツシラン、又は
iv.約0.1mLのリン酸緩衝食塩水(pH7)中の約10mgのフィツシラン
を含有する使い捨ての容器である、請求項31に記載の使用のための製品。
【請求項33】
前記製品は、
i.約0.8mLのリン酸緩衝食塩水(pH7)中の約80mgのフィツシラン、
ii.約0.5mLのリン酸緩衝食塩水(pH7)中の約50mgのフィツシラン、
iii.約0.2mLのリン酸緩衝食塩水(pH7)中の約20mgのフィツシラン、又は
iv.約0.1mLのリン酸緩衝食塩水(pH7)中の約10mgのフィツシラン
を含有する使い捨ての充填済みシリンジである、請求項31に記載の使用のための製品。
【請求項34】
請求項1~29のいずれか一項に記載の方法において血友病A又はBを処置するための薬剤を製造するためのフィツシランの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本開示は、2021年12月22日に出願された米国特許出願第63/293,070号明細書;2022年2月1日に出願された同第63/305,550号明細書;2022年4月27日に出願された同第63/335,535号明細書;2022年7月8日に出願された同第63/359,717号明細書;2022年11月3日に出願された同第63/382,223号明細書;及び、2022年12月7日に出願された同第63/386,489号明細書からの優先権を主張する。これらの優先権出願の内容は、参照によってその全体が本明細書中に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、XML形式で電子的に提出された配列表を含有し、これは、その全体において参照により本明細書によって組み込まれる。前記XMLコピー(2022年12月21日に作成)は、名称が022548_WO087_SL.xmlであり、サイズが28,905バイトである。
【背景技術】
【0003】
正常な止血の維持は、同時に起こる調節された一連の凝血促進プロセス及び抗凝血プロセスに依存しており、ここでは、トロンビンが中心的役割を果たしている。血友病A及びBは、身体が血液凝固を制御できないことを特徴とする遺伝性の出血性障害である。これらはそれぞれ、第VIII因子及び第IX因子の欠損によって引き起こされる。血友病A及びBにおける出血は、トロンビンの不十分な産生から生じる(Peyvandi et al.,Lancet(2016)388(10040):187-97)。有効な処置を行わなければ、血友病を有する患者は再発性の出血を経験し、これは、慢性の関節血症(hemarthropathy)及び著しい痛みに起因する重度の障害に至り、生命を脅かすことがある(Pipe et al.,Haemophilia(2007)13 Suppl 4:1-16)。
【0004】
処置の進歩にもかかわらず、全ての血友病集団について、まだ満たされていない大きなニーズ及び管理上の課題が引き続き存在している。第VIII因子又は第IX因子による補充療法に基づく予防は、血友病管理の基礎であると考えられるが、これには著しい制限がある。例えば、予防のための因子補充の注射は負担が大きく、実際的でなく、多くの場合、1週間に複数回の静脈内注入を必要とする(上記Peyvandi;Ljung and Andersson,Br J Haematol.(2015)169(6):777-86;Srivastava et al.,Haemophilia(2013)19(1):e1-47;Bauer,Am J Manag Care(2015)21(6 Suppl):S112-22;Mannucci and Franchini,Blood Transfus.(2013)11(Suppl 4):s77-81)。また因子補充は、静脈アクセスの難しさ及び感染のリスクによっても制限される(Balkaransingh and Young,Ther Adv Hematol.(2018)9(2):49-61;Valentino et al.,Blood Rev.(2011)25(1):11-5)。また因子補充の供給における制限は、世界中の血友病集団の大部分が最初の事例で予防処置にアクセスされないことにもつながる(Hemophilia,W.F.O.Treatment Safety and Supply.2020)。
【0005】
加えて、因子補充製品による処置は、阻害性同種抗体の発生をもたらし、因子処置を無効にし得る(Morfini et al.,Haemophilia (2007)13(5):606-12)。通常小児期に生じるこれらのインヒビターは処置選択肢を制限し、血友病の予後を劇的に悪化させる。さらに、持続性インヒビターを保有する患者は、インヒビターを保有しない患者と比較して、通常、生活の質がより低く、関節疾患がより多く、手術リスクがより高く、そして血友病関連の出血性合併症による死亡リスクがより高いことを含めて死亡率がより高い(上記Morfini;Oladapo et al.,Orphanet J Rare Dis.(2018)13(1):198)。持続性インヒビターを保有する個人のための現在の処置戦略には、免疫寛容誘導(ITI)、並びに活性型プロトロンビン複合体濃縮製剤(aPCC)及び組換え活性型第VII因子(rFVIIa)などのバイパス剤(BPA)による予防が含まれる(Benson et al.,Eur J Haematol.(2012)88(5):371-79;Collins et al.,Br J Haematol.(2013)160(2):153-70;Kempton et al.,Blood(2014)124(23):3365-72;Astermark et al.,Haemophilia(2007)13(1):38-45;Eichinger et al.,Eur J Clin Invest.(2009)39(8):707-13)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
血友病を有する患者のために、再発性の出血を予防し、全体的な生活の質を改善する治療及び処置方法を開発するという、まだ満たされていない差し迫ったニーズが残っている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、血友病患者を処置するための方法及び組成物を提供する。一態様では、本開示は、血友病患者(例えば、12歳以上の成人又は青年患者)において患者報告アウトカム(PRO)を改善する方法であって、それを必要とする血友病患者に治療有効量のフィツシランを皮下投与することを含む方法を提供しており、任意選択的に、患者は、インヒビター保有又は非保有の血友病A又はB患者であり、任意選択的に、PROは、1つ又は複数の生活の質(QoL)ドメインにおいて改善される。さらなる態様では、本開示は、血友病患者(例えば、12歳以上の成人又は青年患者)において生活の質(QoL)を改善する方法であって、それを必要とする血友病患者にフィツシランを皮下投与することを含む方法を提供しており、QoLは、1つ又は複数のQoLドメインにおいて改善され、任意選択的に、患者は、インヒビター保有又は非保有の血友病A又はB患者である。いくつかの実施形態では、フィツシランは、1用量当たり約10~約90mgで投与される。
【0008】
いくつかの実施形態では、1つ又は複数のQoLドメインは、QoL質問票のドメインである。さらなる実施形態では、QoL質問票は、成人のための血友病の生活の質質問票(Haem-A-QoL)である。特定の実施形態では、投与は、Haem-A-QoLの総スコア、スポーツ及びレジャードメインスコア、並びに身体的健康ドメインスコアの1つ又は複数における7以上の単位(任意選択的に、8以上、9以上、又は10以上の単位)の減少によって示される臨床的に意味のある改善をもたらす。
【0009】
いくつかの実施形態では、QoL質問票は、子供及び青年のための血友病の生活の質質問票(Haemo-QoL)である。特定の実施形態では、投与は、Haemo-QoLの総スコアにおける7以上の単位(任意選択的に、8以上、9以上、又は10以上の単位)の減少によって示される臨床的に意味のある改善をもたらす。
【0010】
いくつかの実施形態では、QoL質問票は、血友病活動リスト(HAL)である。特定の実施形態では、投与は、HALの総スコアにおける7以上の単位(任意選択的に、8以上、9以上、又は10以上の単位)の増加によって示される改善をもたらす。
【0011】
いくつかの実施形態では、QoL質問票は、小児血友病活動リスト(pedHAL)である。特定の実施形態では、投与は、pedHALの総スコアにおける7以上の単位(任意選択的に、8以上、9以上、又は10以上の単位)の増加によって示される改善をもたらす。
【0012】
いくつかの実施形態では、QoL質問票は、薬物療法に対する治療満足度質問票バージョン9(TSQM-9)である。特定の実施形態では、投与は、TSQM-9の有効性、満足度、及び利便性ドメインスコアの1つ又は複数における7以上の単位(任意選択的に、8以上、9以上、又は10以上の単位)の増加によって示される改善をもたらす。
【0013】
いくつかの実施形態では、QoL質問票は、EuroQol 5-ディメンション(EQ-5D-5L)である。特定の実施形態では、投与は、EQ-5D-5Lの総スコアにおける0.02以上の単位(任意選択的に、0.03以上、0.04以上、又は0.05以上の単位)の増加、或いはEQ-5D-5Lの視覚的アナログ尺度(VAS)スコアにおける5以上の単位(任意選択的に、6以上、7以上、又は8以上の単位)の増加によって示される改善をもたらす。
【0014】
いくつかの実施形態では、患者は血友病Aを有し、さらなる実施形態では、血友病A患者は、第VIII因子又はバイパス剤(BPA)による処置を受けている。いくつかの実施形態では、患者は血友病Bを有し、さらなる実施形態では、血友病B患者は、第IX因子又はBPAによる処置を受けている。
【0015】
いくつかの実施形態では、患者はインヒビターを保有しており、任意選択的に、インヒビターのレベルは、ベセスダインヒビターアッセイで決定したときに0.6BU/mLを超える。特定の実施形態では、BPAは、活性型プロトロンビン複合体濃縮製剤(aPCC)及び/又は組換え活性型第VII因子(rFVIIa)である。他の実施形態では、患者はインヒビターを保有していない。
【0016】
いくつかの実施形態では、本方法は、複数用量のフィツシランを、1用量当たり約10mg、約20mg、約50mg、又は約80mgで患者に投与することを含む。いくつかの実施形態では、フィツシランは、約4週間に1回若しくは約1か月に1回、又は約8週間に1回若しくは約2か月に1回、患者に投与される。いくつかの実施形態では、フィツシランは、リン酸緩衝食塩水(pH7)中に約1~約200mg/mLの濃度、任意選択的に、約6.25、12.5、又は100mg/mLの濃度で提供される。
【0017】
別の態様では、本開示は、本明細書中の処置方法において使用するためのフィツシランを提供する。さらに別の態様では、本開示は、本明細書中の処置方法において使用するための製品を提供する。いくつかの実施形態では、製品は、約0.8mLのリン酸緩衝食塩水(pH7)中の約80mgのフィツシラン、約0.5mLのリン酸緩衝食塩水(pH7)中の約50mgのフィツシラン、約0.2mLのリン酸緩衝食塩水(pH7)中の約20mgのフィツシラン、又は約0.1mLのリン酸緩衝食塩水(pH7)中の約10mgのフィツシランを含有する使い捨ての容器である。特定の実施形態では、製品は、約0.8mLのリン酸緩衝食塩水(pH7)中の約80mgのフィツシラン、約0.5mLのリン酸緩衝食塩水(pH7)中の約50mgのフィツシラン、約0.2mLのリン酸緩衝食塩水(pH7)中の約20mgのフィツシラン、又は約0.1mLのリン酸緩衝食塩水(pH7)中の約10mgのフィツシランを含有する使い捨ての充填済みシリンジである。さらに別の態様では、本開示は、本明細書中の処置方法において血友病A又はBを処置するための薬剤を製造するためのフィツシランの使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1-1】フィツシラン(ナトリウム形態)の拡張構造式、化学式、及び分子質量を示す。
【
図2】インヒビター保有患者の研究のための設計を示す図である。略語は以下の通りである:BPA、バイパス剤;HA、血友病A型;HB、血友病B型;R、無作為化。オンデマンド群では、患者は、地域の標準的な診療所ごとに医師によって日常的に処方されるオンデマンド因子濃縮製剤によって処置される。
【
図3】インヒビター非保有患者の研究のための設計を示す図である。略語は、
図2に記載される通りである。
【
図4】インヒビター保有血友病A及びB患者におけるフィツシランの第3相臨床試験に登録された患者の参加者内訳を示す図である。
【
図5】患者の終了インタビューに従って決定された血友病処置の重要な態様を示す棒グラフである。
【
図6】患者の終了インタビューに従って、フィツシラン予防処置による改善を示す棒グラフである。
【
図7】フィツシランで処置されたインヒビター保有患者における平均アンチトロンビンレベルを示す線グラフである。
【
図8】フィツシランで処置されたインヒビター保有患者におけるトロンビン産生を示す線グラフである。
【
図9】フィツシランで処置されたインヒビター非保有患者における平均アンチトロンビンレベルを示す線グラフである。
【
図10】フィツシランで処置されたインヒビター非保有患者におけるトロンビン産生を示す線グラフである。
【
図11】フィツシランで処置されたインヒビター保有患者(ATLAS-INH)及び非保有患者(ATLAS-A/B)におけるピークトロンビン産生の平均変化を示す。
【
図12】フィツシランで処置された患者について観察されたABRの中央値を示す。
【
図13】フィツシラン有効期間中の出血がゼロ回、又は3回以下である患者の割合を示す棒グラフである。
【
図14-1】フィツシラン有効期間中の患者による因子及びBPAの平均消費量を示す。
【
図15】フィツシラン有効期間中に因子又はBPAを使用しない患者の割合を示す。
【
図16-1】フィツシラン有効期間内に処置された出血及びBPA/因子注射の総数を示す。
【
図17】患者におけるBPA及び因子の平均年間注射率を示す。
【
図18】フィツシラン有効期間中の1回の出血当たりの投与されたBPA及び補充因子の体重調整用量を示す。
【
図19-1】有効期間内の出血事象を示す棒グラフを示す。パネルAは、負の二項モデルによって推定される処置出血の年間出血率を示し、パネルBは、処置出血の年間出血率の中央値を示す。略語は以下の通りである:ABR、年間出血率;BPA、バイパス剤;CI、信頼区間;IQR、四分位範囲。
【
図20】ベースライン因子による負の二項モデル(ITT Set)を用いたオントリートメント・ストラテジー(on-treatment strategy)に基づいた、有効期間内の処置出血の推定年間出血率のフォレストプロットである。血友病Bサブグループでは、サンプルサイズが限られているため、負の二項モデルの収束は疑わしい。有効期間は、29日目から、246日目又は出血フォローアップ最終日のいずれか早い方の日までである。解析はオントリートメント・ストラテジーに基づき、併発事象期間中の任意の出血事象を除外した。略語は以下の通りである:BPA、バイパス剤;ITT、治療企図(intent-to-treat);NA、該当なし;RR、率比。
【
図21】Haem-A-QoLの総スコア及び身体的健康ドメイン変換スコア(副次的評価項目)におけるベースラインから治験終了までの改善を示す棒グラフである。臨床的に意味のある改善は、総スコアについては7ポイントの減少であり、身体的健康ドメインスコアについては10ポイントの減少であると定義した。共分散解析モデルには、固定効果として処置群及び治験前6か月間の出血回数の無作為化層(10以下、10超)、共変数としてベースラインスコアを含めた。Haem-A-QoLスコア範囲0~100;より低いスコア=改善されたHRQoL。略語は以下の通りである:BPA、バイパス剤;CI、信頼区間;Haem-A-QoL、成人のための血友病の生活の質質問票;HRQoL、健康関連の生活の質;LS、最小二乗平均)。
【
図22-1】ベースラインと比較したアンチトロンビンレベル(パネルA)、及びベースラインと比較したピークトロンビン産生(パネルB)の平均(±SE)変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示は、インヒビター保有又は非保有の血友病A(先天性第VIII因子欠損症)又は血友病B(先天性第IX因子欠損症)などの血友病を有する患者において、出血エピソードを防止するか又はその頻度を低減するための日常的な予防のためにフィツシランを使用する方法を特徴とする。いくつかの実施形態では、患者は、12歳以上の成人又は青年である。これらの方法は、血友病患者の生活の質を高める。特定の実施形態では、本方法は、患者の生活の質スコア、例えば、健康関連の生活の質(HRQOL)、身体活動、並びに治療満足度及び健康有用性などに関連するスコアを改善する。
【0020】
インヒビターを保有する血友病A又はB患者は、その患者が以前に受けたことがある因子(例えば、血友病A患者の場合は第VIII因子、又は血友病B患者の場合第IX因子)に対して、同種抗体が発現された患者を指す。インヒビターを保有する血友病A又はB患者は、凝固因子補充療法に不応性になり得る。インヒビターを保有しない患者は、このような同種抗体を有していない患者を指す。本処置方法は、インヒビター保有又は非保有の血友病A患者、及びインヒビター保有又は非保有の血友病B患者にとって有益である。
【0021】
I.フィツシラン医薬組成物
血友病はトロンビン産生の重度の欠損をもたらし、さらに、血友病の重症度は、トロンビンの産生不能と相関する。理論により拘束されるものではないが、フィツシラン媒介性のアンチトロンビン(AT)レベルの低下は、血友病患者において、トロンビン産生を増加させ、したがって止血を改善し得ると考えられる。アンチトロンビンは、SERPINC1遺伝子によってコードされる。
【0022】
フィツシラン(その構造は、本明細書に記載される)は、合成的に化学修飾された二本鎖の低分子干渉RNA(siRNA)オリゴヌクレオチドであり、これは、肝臓中のAT3 mRNAを標的とする3アンテナ型のN-アセチル-ガラクトサミン(GalNAc)リガンドに共有結合し、それにより、アンチトロンビンの合成を抑制する。フィツシランの各鎖中のヌクレオシドは、3’-5’ホスホジエステル又はホスホロチオエート結合のいずれかによって結合し、したがって、オリゴヌクレオチドの糖-リン酸骨格を形成する。
【0023】
フィツシランのセンス鎖及びアンチセンス鎖はそれぞれ、21個及び23個のヌクレオチドを含有する。センス鎖の3’末端は、ホスホジエステル結合を介して、GalNAc含有部分(L96とも呼ばれる)に結合される。センス鎖は、その5’末端に2つの連続するホスホロチオエート結合を含有する。アンチセンス鎖は、3’末端に2つ及び5’末端に2つの4つのホスホロチオエート結合を含有する。センス鎖の21個のヌクレオチドは、アンチセンス鎖の相補的な21個のヌクレオチドとハイブリダイズし、したがって、21個のヌクレオチド塩基対と、アンチセンス鎖の3’末端の2塩基のオーバーハングとを形成する。米国特許第9,127,274号明細書、米国特許第11,091,759号明細書、及び国際公開第2019/014187号パンフレットも参照されたい。
【0024】
フィツシランの2本のヌクレオチド鎖は以下に示される:
センス鎖:5’Gf-ps-Gm-ps-Uf-Um-Af-Am-Cf-Am-Cf-Cf-Af-Um-Uf-Um-Af-Cm-Uf-Um-Cf-Am-Af-L96 3’(配列番号1)、及び
アンチセンス鎖:5’Um-ps-Uf-ps-Gm-Af-Am-Gf-Um-Af-Am-Af-Um-Gm-Gm-Uf-Gm-Uf-Um-Af-Am-Cf-Cm-ps-Am-ps-Gm 3’(配列番号2)
(式中、
Af=2’-フルオロアデノシン(すなわち、2’-デオキシ-2’-フルオロアデノシン)
Cf=2’-フルオロシチジン(すなわち、2’-デオキシ-2’-フルオロシチジン)
Gf=2’-フルオログアノシン(すなわち、2’-デオキシ-2’-フルオログアノシン)
Uf=2’-フルオロウリジン(すなわち、2’-デオキシ-2’-フルオロウリジン)
Am=2’-O-メチルアデノシン
Cm=2’-O-メチルシチジン
Gm=2’-O-メチルグアノシン
Um=2’-O-メチルウリジン
「-」(ハイフン)=3’-5’ホスホジエステル結合ナトリウム塩
「-ps-」=3’-5’ホスホロチオエート結合ナトリウム塩
及びL96は、以下の式:
【化1】
を有する)。
【0025】
フィツシラン(ナトリウム形態)の拡張構造式、分子式、及び分子量は、
図1に示される。
【0026】
またフィツシランの構造は、以下の図:
【化2】
(式中、XはOである)
を用いて記載することもできる。
【0027】
本処置方法において使用するために、フィツシランは、フィツシランと、薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物で提供されてもよい。特定の実施形態では、フィツシランは、ナトリウム塩の形態である。
【0028】
いくつかの実施形態では、フィツシランは、約1~約200mg/mL(例えば、約50~約150mg/mL、約80~約110mg/mL、約90~約110mg/mL、約5~約25mg/mL、約7.5~約20mg/mL、又は約10~約15mg/mL)の濃度の水溶液で提供される。本明細書で使用される場合、記載された範囲及び値の中間の値も、本開示の一部であることが意図される。加えて、記載された値のいずれかの組合せを上限及び/又は下限として使用する値の範囲が含まれることが意図される。さらなる実施形態では、医薬組成物は、約6.25、約12.5、約50、約75、約100、約125、約150、又は約200mg/mLの濃度のフィツシランを含む。
【0029】
他に記載されない限り、フィツシランがそのナトリウム形態(水溶液中)で患者に皮下注射されるとしても、本開示で記載されるフィツシラン重量は、フィツシラン遊離酸(活性部分)の重量である。例えば、100mg/mLのフィツシランは、1mL当たり100mgのフィツシラン遊離酸(106mgのフィツシランナトリウム原薬に相当)を意味する。
【0030】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、リン酸緩衝食塩水中のフィツシランを含む。溶液中のリン酸濃度は、6.0~8.0のpHで、約1~約10mM(例えば、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、又は約9mM)であり得る。本明細書中の医薬組成物は、EDTAなどの保存剤を含み得る。或いは、医薬組成物は保存剤を含まない。特定の実施形態では、フィツシラン医薬組成物は保存剤を含まず、5mMのリン酸緩衝食塩水(PBS)溶液1mL当たり約100mgのフィツシランを含むか、それからなるか、又はそれから本質的になる。PBS溶液は、塩化ナトリウム、二塩基性リン酸ナトリウム(七水和物)、及び一塩基性リン酸ナトリウム(一水和物)から構成される。水酸化ナトリウム溶液及び希リン酸は、組成物のpHを7.0に調整するために使用され得る。
【0031】
医薬組成物は、容器(例えば、バイアル又はシリンジ)において提供され得る。容器は、単回又は複数回用量を含有し得る。いくつかの実施形態では、容器は、使い捨ての容器(例えば、使い捨てのアンプル又は使い捨てのシリンジ、例えば、使い捨ての充填済みシリンジ)であり、各容器は、約10~約100mgのフィツシラン(例えば、約10mg、約20mg、約25mg、約40mg、約50mg、又は約80mg)を含有する。フィツシランは、容器において固体形態で提供され、使用前に水溶液(例えば、PBS)中で再構成されてもよく、再構成された溶液は、約1~約150mg/mL(例えば、約6.25mg/mL、約12.5mg/mL、又は約100mg/mL)のフィツシランを含有する。いくつかの実施形態では、フィツシランは、使い捨てのガラスバイアル又は使い捨ての充填済みシリンジ(例えば、安全システムを有するもの)において、ナトリウム塩形態で提供される。さらなる実施形態では、各バイアル又はシリンジは、5mMのリン酸緩衝食塩水溶液(pH7.0)約0.8mL中の約80mgのフィツシラン(又は約0.5mL中の約50mgのフィツシラン、約0.2mL中の約20mgのフィツシラン、若しくは約0.1mL中の約10mgのフィツシラン)を含有し、溶液は、皮下注射によって患者に投与される。溶液は2~30℃(例えば、2~8℃)で貯蔵することができる。
【0032】
特定の実施形態では、皮下注射用のフィツシラン組成物は、0.64mMのNaH2PO4、4.36mMのNa2HPO4、及び84mMのNaClを含むpH7.0の5mMのリン酸緩衝食塩水中のフィツシランを含有する。特定の実施形態では、皮下注射用のフィツシラン溶液の組成は、以下の表1Aに示される。
【0033】
【0034】
特定の実施形態では、皮下注射用のフィツシラン溶液の組成は、以下の表1Bに示される。
【0035】
【0036】
本明細書に記載のフィツシラン投薬重量は、フィツシラン遊離酸(活性部分)の重量を指すが、本明細書におけるフィツシランの患者への投与は、薬学的に適切な水溶液(例えば、生理的pHのリン酸緩衝食塩水)中で提供されるフィツシランナトリウム(原薬)の投与を指す。
【0037】
II.フィツシランの治療的使用
フィツシランは、アンチトロンビン(AT)の肝産生を抑制することができる。抗凝固剤としてのその役割において、ATは、トロンビン産生を直接標的とすることによって、又は複合体を形成していないFXaを不活性化し、次にトロンビン産生を低下させることによって、止血を調節する(Quinsey et al.,Int J Biochem Cell Biol.(2004)36(3):386-9)。フィツシランは、止血に障害のある人を処置するために使用され得る。
【0038】
例えば、フィツシランは、出血エピソードを防止するか又はその頻度を低減するための日常的な予防のために、患者においてインヒビター保有又は非保有の血友病A又はBを処置するのに使用することができる。特定の実施形態では、フィツシランは、成人及び青年患者(12歳以上)において、インヒビター保有又は非保有の血友病A又はB(それぞれ、先天性第VIII因子又は第IX因子欠損症)を処置するために使用される。
【0039】
本方法は、それを必要とする血友病患者(例えば、血友病A又はB患者)に、治療有効量のフィツシランを投与することを含む。「治療有効量」は、患者が所望の臨床評価項目を達成するのを助けるフィツシランの量を指す。所望の臨床評価項目は、例えば、年間出血率(ABR)の低下(例えば、10超、20超、30超、40超、50超、60超、70超、80超、90超、又は100%)であり得る。所望の臨床評価項目は、患者のアンチトロンビンレベルの正常レベル(例えば、約64~210nM)への低下、年間出血率(ABR)の低下、自然出血率の低下、及び患者の生活の質(QoL)の改善であり得る。
【0040】
また所望の臨床評価項目は、以下にさらに記載されるように、患者報告アウトカム(PRO)の改善でもあり得る。いくつかの実施形態では、処置の有効性は、有効で信頼性の高いPRO手法に基づいて患者により評価される、疾患の兆候及び症状又は重症度の低下によって測定することができる。例えば、適切なスケールを用いて測定される疾患の兆候及び症状又は重症度の低下をもたらす任意の正の効果は、本明細書に記載される医薬組成物を使用する適切な処置を表す。
【0041】
血友病は、その関連の症状、機能的制限及び処置の負担を通して、患者の健康関連の生活の質(HRQoL)に直接影響を及ぼす。HRQoLの改善は、血友病の疾患管理の重要な態様である。本方法は、十分に設計された詳細な検証された質問票により決定される、患者のHRQoLを改善する。例えば、成人患者(17歳以上、例えば18歳以上)におけるHRQoLは、質問票Haem-A-QoL、EuroQol 5-ディメンション(EQ-5D-5L)(EuroQol Group,Health Policy(1990)16(3):199-208)、血友病活動リスト(HAL)、及び薬物療法に対する治療満足度質問票(TSQM-9)によって測定することができる。青年患者(12歳以上~17歳まで)におけるHRQoLは、例えば、ティーンエージャーのための血友病の生活の質質問票(Haemo-QoL)(例えば、Bullinger et al.,Value Health.(2009)12(5):808-20;及びRemor,Int J Behav Med.(2013)20(4):609-17を参照)、及び小児の血友病活動リスト(pedHAL)によって測定することができる。
【0042】
いくつかの実施形態では、本処置は、QoLドメイン(例えば、血友病に特異的なQoLドメイン)の1つ又は複数において、患者の生活の質を改善する。これらのQoLドメインには、例えば、身体的健康、感情、自己観(View of Self)、スポーツ及びレジャー、仕事及び学校、血友病への対処、処置、将来、家族計画、及び/又はパートナーシップ及びセクシュアリティに関するドメインが含まれる。これらのドメインにおける改善は、患者報告アウトカム(PRO)によって評価され、質問票によって補助され得る。例えば、これらのドメインにおける改善は、患者によってその医師に報告され得る、及び/又はQoL質問票によってスコア化され得る。
【0043】
PRO手法は、例えば、成人のための血友病の生活の質質問票(「Haem-A-QoL」;von Mackensen et al.,Haematologica(2005)90(s2):115-6,Abstract 0290;Wyrwich et al.,Haemophilia(2015)21(5):578-84)であり得る。特定の実施形態では、成人患者のHRQoLは、Haem-A-QoLのスコアによって測定される。例えば、von Mackensen et al.,Value in Health.(2005)8(6):A127;von Mackensen et al.,J Thrombosis and Haemostasis.(2005)3(Sup1):P0813;von Mackensen and Gringeri,“Quality of Life in Hemophilia”In:Handbook of Disease Burdens and Quality of Life Measures.Heidelberg:Springer;2009,pp.1910-1;及びBullinger et al.,Value in Health.(2009)12(5):808-20;上記Wyrwichを参照されたい。Haem-A-QoL質問票には、身体的健康(5項目)、感情(4項目)、自己観(5項目)、スポーツ及びレジャー(5項目)、仕事及び学校(4項目)、血友病への対処(3項目)、処置(8項目)、将来(5項目)、家族計画(4項目)、並びにパートナーシップ及びセクシュアリティ(3項目)を含む、10のドメインに寄与する46項目が含まれる。
【0044】
全てのHaem-A-QoL項目は、5ポイント頻度スケール(1=なし、2=まれ、3=時々、4=しばしば、及び5=常に)に基づいて測定される。その質問が参加者に適用されない場合、「スポーツ&レジャー」、「仕事&学校」及び「家族計画」のドメインについては「該当なし」の応答選択肢も可能である。また「総スコア」は、Haem-A-QoL質問票の10のドメイン全ての平均を表すために使用される。Haem-A-QoLドメインスコア及び総スコアは、0~100のスケールに変換され(手法に特異的なスコアリングシステムを使用)、スコアが高いほど、機能障害が大きいことを表す。対応するベースラインスコア(評価される処置前のスコア)に対するスコアの減少は、患者の生活の質の改善を示す。
【0045】
本フィツシラン治療は、Haem-A-QoLドメイン(例えば、身体的健康、感情、自己観、スポーツ及びレジャー、仕事及び学校、血友病への対処、処置、将来、家族計画、及び/又はパートナーシップ及びセクシュアリティ)の少なくとも1つからのスコアをベースラインから改善し、及び/又はHaem-A-QoL総スコアをベースラインから改善する。特に、本方法は、Haem-A-QoLの身体的健康スコア及び/又は総スコアで決定される、患者により報告される血友病関連症状(例えば、痛みを伴う腫脹及び関節痛)、及び身体機能(例えば、運動による痛み及び遠方への歩行困難)の改善(例えば、軽減及び消失)を含む、血友病患者の生活の質を改善し得る。臨床的に意味のある生活の質の改善には、例えば、総スコアの約7ポイント以上の減少、スポーツ及びレジャードメインスコアの約10ポイント以上の減少、及び/又は身体的健康ドメインスコアの約10ポイント以上の減少が含まれる。上記のWyrwichを参照されたい。いくつかの実施形態では、Haem-A-QoLの10のドメインスコア(例えば、身体的健康ドメインスコア又は総スコア)の1つ又は複数は、1以上の単位(例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、12以上、13以上、14以上、15以上、16以上、17以上、18以上、19以上、又は20以上の単位)減少される。
【0046】
17歳未満の患者の場合、特に年齢群II/III(8~16歳)の子供及び青年に対して使用される、Haem-A-QoLの短縮版であるHaemo-QoLを使用して、PROを測定することができる。Haemo-QoL調査は、身体的健康、感情、自己観、血友病への対処、処置、家族、友人、他、及びスポーツを含む9つのドメインを有する。また「総スコア」は、HaemoーQoL質問票の9つのドメイン全ての平均を表すために使用される。Haemo-QoL手法のスコアリングは、Haem-A-QoL手法について上で記載されたのと同じ方法に従う。いくつかの実施形態では、Haemo-QoLの9つのドメインスコア(例えば、身体的健康ドメインスコア又は総スコア)の1つ又は複数は、1以上の単位(例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、12以上、13以上、14以上、15以上、16以上、17以上、18以上、19以上、又は20以上の単位)減少される。
【0047】
EQ-5D-5Lは、QoLアウトカムの尺度として使用するための標準化された疾患汎用的な(disease-generic)手法である。これは、5つのディメンション(可動性、セルフケア、日常活動、痛み/不快感、及び不安/うつ状態、並びに視覚的アナログ尺度)に関する質問票からなる。質問票のスコアリングは、5段階の障害(なし、軽度、中程度、重度、又は極度)に基づく。EQ-5D-5L手法はさらに、独立した視覚的アナログ尺度(VAS)を含み、VASのスコアリングは、0(想像できる最悪の健康状態)から100(想像できる最良の健康状態)までの範囲である。スコアが高いほど、健康状態がより良好であることを示す。例えば、Herdman et al.,Qual Life Res(2011)20(10):1727-36も参照されたい。
【0048】
本フィツシラン療法は、EQ-5D-5Lディメンション(例えば、可動性、セルフケア、日常活動、痛み/不快感、及び不安/うつ状態)の少なくとも1つからのスコアをベースラインから改善する。いくつかの実施形態では、EQ-5D-5Lにおける5つのディメンションスコア又は総スコアの1つ又は複数は、0.01以上の単位(例えば、0.02以上、0.03以上、0.04以上、0.05以上、0.06以上、0.07以上、0.08以上、0.9以上、0.10以上、0.11以上、0.12以上、0.13以上、0.14以上、0.15以上、0.16以上、0.17以上、0.18以上、0.19以上、又は0.20以上の単位)増加される。いくつかの実施形態では、VASスコアは、1以上の単位(例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、12以上、13以上、14以上、15以上、16以上、17以上、18以上、19以上、又は20以上の単位)増加される。
【0049】
本方法は、薬物療法に対する治療満足度質問票(TSQM-9)を含む十分に設計された詳細な質問票により決定される、処置による患者満足度を改善する。TSQM-9は、薬物療法による患者満足度の一般的な尺度を提供する、検証された心理測定ツールである。例えば、Atkinson et al.,Health Qual Life Outcomes(2004)2:12及びBharmal et al.,Health Qual Life Outcomes(2009)7:36も参照されたい。TSQM-9質問票には、有効性、利便性、及び全般的満足度を含む3つのドメインに寄与する9項目が含まれる。TSQM-9ドメインスコアは0~100の範囲であり、スコアが高いほど、改善されたHRQoLを示す。対応するベースラインスコア(評価される処置前のスコア)に対するスコアの増加は、処置による患者の満足度の改善を示す。EQ-5D-5L及びTSQM-9調査は、18歳以上の患者に対して行われる。
【0050】
本フィツシラン治療は、TSQM-9ドメイン(すなわち、有効性、利便性、及び全般的満足度)の少なくとも1つからのスコアをベースラインから改善する。特に、本方法は、血友病患者の治療満足度を改善し得る。いくつかの実施形態では、TSQM-9における3つのドメインスコア(すなわち、有効性、利便性、及び満足度)の1つ又は複数は、1以上の単位(例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、12以上、13以上、14以上、15以上、16以上、17以上、18以上、19以上、又は20以上の単位)増加される。
【0051】
本方法は、血友病活動リスト(HAL)及び小児の血友病活動リスト(pedHAL)を含む十分に設計された詳細な質問票によって決定される、日常生活の活動を行う主観的な機能的能力を改善する。
【0052】
HALは、18歳以上の患者を評価するために使用され、pedHALは、18歳未満の患者を評価するために使用される。例えば、van Genderen et al.,Haemophilia(2006)12(1):36-46も参照されたい。HAL質問票には、横になる/座る/ひざまずく/立つこと、脚の機能、腕の機能、交通機関の使用、セルフケア、家事、レジャー活動及びスポーツ、基本的な下肢活動、上肢活動、並びに複雑な下肢活動を含む10のドメインに寄与する42項目が含まれる。また「総スコア」は、HAL質問票の10のドメイン全ての平均を表すために使用される。HALドメインスコアは0~100の範囲であり、スコアが高いほど、自己認知される機能的能力が高いことを表す。対応するベースラインスコア(評価される処置前のスコア)に対するスコアの増加は、患者の自己認知される機能的能力の改善を示す。
【0053】
pedHAL質問票には、横になる/座る/ひざまずく/立つこと、脚の機能、腕の機能、交通機関の使用、セルフケア、家事、並びにレジャー活動及びスポーツを含む7つのドメインに寄与する53項目が含まれる。pedHAL手法のスコアリングはHAL手法について上で記載されたのと同じ方法に従う。
【0054】
本フィツシラン治療は、HAL又はpedHALドメイン(すなわち、横になる/座る/ひざまずく/立つこと、脚の機能、腕の機能、交通機関の使用、セルフケア、家事、レジャー活動及びスポーツ、基本的な下肢活動(HALのみ)、上肢活動(HALのみ)、並びに複雑な下肢活動(HALのみ))の少なくとも1つからのスコアをベースラインから改善する。特に、本方法は、血友病患者の日常生活の活動を行うための主観的な機能的能力を改善し得る。いくつかの実施形態では、HAL又はpedHALのドメインスコアの1つ又は複数は、1以上の単位(例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、12以上、13以上、14以上、15以上、16以上、17以上、18以上、19以上、又は20以上の単位)増加される。
【0055】
上記の質問票の全てについて、質問票は、1つ又は複数(例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、又は6以上)の用量のフィツシランによる処置(例えば、約4週間に1回若しくは約1か月に1回、又は約8週間に1回若しくは約2か月に1回、約10、約20、約50、又は約80mgで皮下投与される)の前及び処置後に得ることができる。例えば、質問票は、フィツシラン処置の開始後8、12、16、20、24、28、32、35、36、37、又は38週目に得ることができる。質問票は、フィツシラン処置開始の約253日(例えば、250、251、252、253、254、又は255日)後に得ることができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、インヒビター保有又は非保有の血友病A又はBを有する患者は、約2か月ごと(又は約8週間ごと)に、1用量当たり約50mgの皮下用量のフィツシランで処置される。他の実施形態では、インヒビター保有又は非保有の血友病A又はBを有する患者は、ほぼ毎月(又は約4週間ごと)、約50mgの皮下用量のフィツシランで処置される。さらに他の実施形態では、インヒビター保有又は非保有の血友病A又はBを有する患者は、約2か月ごと(又は約8週間ごと)に、約80mgの皮下用量のフィツシランで処置される。さらに他の実施形態では、インヒビター保有又は非保有の血友病A又はBを有する患者は、ほぼ毎月(又は約4週間ごと)、約80mgの皮下用量のフィツシランで処置される。さらに他の実施形態では、インヒビター保有又は非保有の血友病A又はBを有する患者は、約2か月ごと(又は約8週間ごと)に、約20mgの皮下用量のフィツシランで処置される。さらに他の実施形態では、インヒビター保有又は非保有の血友病A又はBを有する患者は、ほぼ毎月(又は約4週間ごと)、約20mgの皮下用量のフィツシランで処置される。さらに他の実施形態では、インヒビター保有又は非保有の血友病A又はBを有する患者は、ほぼ毎月(又は約4週間ごと)、約10mgの皮下用量のフィツシランで処置される。
【0057】
III.フィツシラン医薬組成物の投与
フィツシラン医薬組成物は、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下、経皮、又は肝門静脈投与を含むがこれらに限定されない、当技術分野で知られている任意の手段によって投与され得る。特定の実施形態では、医薬組成物は、例えば、1用量当たり約10~約100mg(例えば、約10~約90mg、約10~約80mg、約20~約80mg、約40~約90mg、約50~約100mg、約50~約90mg、約50~約85mg、又は約50~約80mg)の用量強度で皮下注射によって投与される。特定の実施形態では、フィツシランは、上記のPBS溶液中、1用量当たり約10、約20、約50又は約80mg(活性部分の重量)で皮下投与される。
【0058】
複数のフィツシラン用量は、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、若しくは約8週間、又は約1、約2、若しくは約3か月の間隔で対象に投与され得る。特定の実施形態では、固定用量のフィツシラン(例えば、約10mg、約20mg、約50mg、又は約80mgの皮下注射)が血友病患者(例えば、任意選択的に12歳以上であり、インヒビターが発現している又は発現していない血友病A又は血友病B患者)に、約4週間に1回若しくは約1か月に1回、又は約8週間に1回若しくは1か月おきに約1回投与される。
【0059】
いくつかの実施形態では、本医薬組成物は、他の医薬品及び/又は他の治療方法、例えば、出血性障害を処置するために現在使用されているものと共に投与することができる。例えば、特定の実施形態では、フィツシランは、血友病A及び/又はBを処置するのに有用な第2の薬剤と組み合わせて投与される。このような第2の薬剤の例は、新鮮凍結血漿(FFP);rFVIIa;aPCC;組換え又は血漿由来のFVIII又はFIX;ウイルス不活化vWF含有FVIII濃縮製剤;ステロイド又は静注用免疫グロブリン(IVIG)及びシクロホスファミドと共に大量のFVIII又はFIXを含み得る減感作療法;抗線溶療法の有無に関わらず、免疫抑制及びFVIII又はFIXの注入と併用される血漿交換療法;免疫抑制療法(例えば、シクロホスファミド、プレドニゾン、及び/又は抗CD20)の有無に関わらない免疫寛容誘導(ITI);デスモプレシン酢酸塩(DDAVP);アミノカプロン酸及びトラネキサム酸などの抗線溶剤;抗血友病剤;副腎皮質ステロイド;免疫抑制剤;及びエストロゲンである。フィツシラン組成物、並びに付加的な治療薬及び/又は処置は、同時に及び/又は同じ組み合わせで、例えば非経口的に投与されてもよく、或いは付加的な治療薬は、別々の組成物の一部として、又は別々の時間に、及び/又は当技術分野で知られているか若しくは本明細書に記載される別の方法によって投与することができる。
【0060】
IV.製品及びキット
また本発明は、本処置方法において使用するための医薬組成物を含むキットも提供する。このようなキットは、本発明の医薬組成物を含む1つ若しくは複数のバイアル又は1つ若しくは複数の充填済みシリンジと、使用説明書、例えば、治療有効量のフィツシランを投与するための説明書とを含む。キットは、任意選択的に、フィツシランを投与するための手段(例えば、注射デバイス)、又はSERPINC1の阻害を測定するための手段(例えば、SERPINC1 mRNAの阻害、SERPINC1によってコードされるタンパク質の発現、及び/又はSERPINC1活性を測定するための手段)をさらに含み得る。SERPINC1の阻害を測定するためのこのような手段は、例えば血漿サンプルなどの対象からのサンプルを得るための手段を含み得る。本発明のキットは、任意選択的に、治療有効量又は予防有効量を決定するための手段をさらに含み得る。
【0061】
用語及び例示的な実施形態の付加的な定義は実施例において記載され、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0062】
別途本明細書で定義されない限り、本開示に関連して使用される科学用語及び技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。例示的な方法及び材料を下記で説明するが、本明細書で説明されるものと類似の又は均等な方法及び材料も本開示の実施又は試験で使用し得る。矛盾が生じた場合、定義を含めて本明細書が優先する。一般に、本明細書で説明されている血液学、医学、医薬及び製薬化学、並びに細胞生物学に関連して使用される命名法及びこれらの技術は、当技術分野で公知であり、且つ一般に使用されるものである。さらに、別途文脈上必要でない限り、単数形の用語は、複数を含むものとし、複数形の用語は、単数を含むものとする。本明細書で言及される全ての刊行物及び他の参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。多くの文献が本明細書に引用されているが、この引用は、これらの文献のいずれも当技術分野における共通の一般知識の部分を形成することの承認を構成しない。本明細書で使用される場合、「およそ」又は「約」という語は、目的の1つ又は複数の値に適用される場合、記載されている参照値に類似する値を指す。特定の実施形態では、この用語は、別途言及されない限り又は文脈から明らかでない限り、記載されている参照値のいずれかの方向で(より大きいか又はより小さい)10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%又はそれ未満内に入る値の範囲を指す。
【0063】
本開示によると、従属請求項における後方参照は、後方参照によって示される請求項のありとあらゆる組合せの直接的且つ明白な開示に対する簡略表記を意味する。さらに、本明細書の見出しは、組織化を容易にするために作成されており、特許請求される本発明の範囲をいかなる形であっても限定することは意図されない。
【0064】
本発明をよりよく理解するために、以下の実施例を記載する。これらの実施例は、例示のみを目的としており、決して本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0065】
実施例1:臨床研究設計及び集団
本実施例は、インヒビター保有又は非保有の重度の血友病A又はBを有する男性患者に皮下投与されるフィツシランの研究で使用される第3相臨床試験プロトコルを説明する。
【0066】
研究評価
患者報告アウトカムを利用して、健康関連の生活の質(HRQOL)、身体活動、並びに治療満足度及び健康有用性を評価した。Haem-A-QoLは、17歳以上の患者に提供した。Haemo-QoL(年齢群II/III[8~16歳]の子供及び青年用の短縮版)は、17歳未満の患者に提供した。薬物療法に対する治療満足度質問票(TSQM)は、18歳以上の患者において、処置による患者満足度を評価するために使用した。18歳以上の患者ではHALが評価され、18歳未満の患者ではpedHALが評価される。EQ-5D-5Lは、18歳以上の患者におけるQOLアウトカムの尺度として使用した。
【0067】
研究設計
本明細書に記載される臨床試験は、予防的治療を受けていない、血友病A又はB(FVIII又はFIXに対する阻害性抗体を保有又は非保有)を有する12歳以上の男性患者において、フィツシランの有効性及び安全性を評価するために設計された非盲検の第3相研究である。研究設計は、
図2(インヒビター保有患者)及び
図3(インヒビター非保有患者)に記載される。
図4には、インヒビター保有血友病A及びB患者におけるフィツシランの第3相臨床試験に登録された患者の参加者内訳が記載される。
【0068】
適格患者を2:1比で以下の群に無作為化した:
i.フィツシラン処置群:破綻出血(breakthrough bleeding)エピソードの処置のためのオンデマンドBPA又は因子濃縮製剤の使用と共に、予防としてのフィツシラン80mgの月1回の皮下投与、及び
ii.オンデマンド群:破綻出血エピソードの処置のためのBPA又は因子濃縮製剤のオンデマンド(OD)使用。
【0069】
BPA又は因子濃縮製剤のオンデマンド使用は、必要に応じた偶発性の出血エピソードのためのこれらの薬剤の使用として定義され、自然出血の予防を意図した定期的なレジメンではない。研究全体を通して、フィツシラン処置群の患者は、状況に応じて、破綻出血エピソードに対してBPA又は因子濃縮製剤によるオンデマンド処置を受けた。臨床試験において、因子濃縮製剤は、凝固因子濃縮製剤(CFC)とも呼ばれる。
【0070】
全ての患者は合計9か月間処置され、フィツシラン処置群に無作為化された患者は、合計9回のフィツシランの皮下注射を受けた。フィツシランの完全なPD効果は、最初の用量を受けてから約28日後まで達成されないので、有効性は、研究の最後の8か月間(29日目~9カ月目)に評価した。したがって、全フィツシラン処置期間は、開始期間(最初の用量を受けた後1日目~28日目であり、この間、フィツシランのAT低下能力は増加しているが、まだ治療レベルに到達していない)に、有効期間(29日目以降であり、フィツシランのAT低下能力が治療目標範囲に到達している)を加えた期間と定義された。
【0071】
研究集団
選択基準は以下の通りであった:
i.12歳以上の男性、
ii.処置前のFVIIIレベルが1%未満であるか又はFIXレベルが2%以下であることについて中央検査室での測定又は文書化された医療記録の証拠によって証明された、インヒビター保有又は非保有の重度の血友病A又はB、及び
iii.処置直前の6か月以内に、BPA又は因子濃縮製剤の処置を必要とする最低6回の出血エピソード。
【0072】
インヒビターを保有する重度の血友病A又はB患者は、処置直前の少なくとも6か月間に出血エピソードを管理するためにBPAをオンデマンドで使用したことによって証明され、以下のナイメゲン変法ベセスダアッセイの結果基準の少なくとも1つを満たさなければならない:
i.処置前のインヒビター力価が0.6BU/mL以上であること、又は
ii.処置前のインヒビター力価が0.6BU/mL未満であり、連続した2回の力価が0.6BU/mL以上であるという医療記録の証拠があること、又は
iii.処置前のインヒビター力価が0.6BU/mL未満であり、既往反応の医療記録の証拠があること。
【0073】
インヒビターを保有しない重度の血友病A又はB患者は、処置直前の少なくとも6か月間に出血エピソードを管理するために因子濃縮製剤をオンデマンドで使用したことによって証明され、以下の基準のそれぞれを満たさなければならない:
i.ナイメゲン変法ベセスダアッセイのインヒビター力価が0.6BU/mL未満であること、
ii.少なくとも過去6か月間、出血エピソードを処置するためにBPAを使用していないこと、及び
iii.過去6か月以内に免疫寛容導入療法の履歴がないこと。
【0074】
除外基準は以下の通りであった:
i.血友病A又はB以外の既知の共存する出血性障害、すなわち、フォンウィルブランド病、付加的な因子欠損症、又は血小板障害、
ii.自然出血エピソードを防止するために設計された、定期的に投与される予防法としてのBPA(インヒビター保有患者の場合)又は因子濃縮製剤(インヒビター非保有患者の場合)の現在の使用、
iii.処置前のAT活性が60%未満であること、
iv.以下の状態のいずれかによって示される、臨床的に有意な肝疾患の存在:
1.INR>1.2、
2.ALT及び/又はAST>1.5×正常基準範囲の上限(ULN)、
3.総ビリルビン>ULN(ジルベール症候群患者では、>1.5×ULN)、
4.門脈圧亢進症、食道静脈瘤、又は肝性脳症の病歴、及び/又は
5.身体検査による腹水の存在、
v.以下の両方であるHCV感染の履歴を有する患者を除く、C型肝炎ウイルス抗体陽性:
1.登録の少なくとも12週間前に根治的治療を完了し、スクリーニング時に陰性HCV RNAによって実証される持続的なウイルス学的著効を達成しているか、又はスクリーニング時に陰性HCV RNAによって実証されるように感染が自然に排除されている、そして
2.以下の評価の1つに従う肝硬変の証拠がない:
a.FibroScan<12.5kPa(利用可能な場合)、又は
b.FibroTestスコア<0.75及びAPRI<2(FibroScanが利用できない場合)、
vi.急性肝炎、すなわちA型肝炎又はE型肝炎の存在、
vii.急性又は慢性のB型肝炎感染(IgM抗HBc抗体陽性又はHBsAg陽性)の存在、
viii.血小板数≦100,000/μL、
ix.処置前の急性感染の存在、
x.HIV陽性であることが知られており、CD4カウント<200細胞/μL、
xi.推定糸球体ろ過率≦45mL/分/1.73m2(腎疾患における食事の改善(Modification of Diet in Renal Disease)[MDRD]式を使用)、
xii.以下のいずれかの存在によって決定される、共存する血栓性(thrombophilic)障害:
1.FVライデン変異(ホモ接合又はヘテロ接合)、
2.プロテインS欠損症、
3.プロテインC欠損症、又は
4.プロトロンビン変異(G20210A;ホモ接合又はヘテロ接合)、
xiii.抗リン脂質抗体症候群の病歴、
xiv.動脈若しくは静脈血栓塞栓症、心房細動、重大な弁膜疾患、心筋梗塞、狭心症、一過性脳虚血発作、又は脳卒中の病歴(留置静脈アクセスに関連する血栓症を経験したことがある患者を除く)、
xv.処置前の2年以内の悪性腫瘍(治療が成功した皮膚の基底細胞癌又は扁平上皮癌を除く)、
xvi.重要な検査所見の異常又は病歴によって特定される、血友病とは無関係の著しく活動的でコントロール不良の(不安定な)心血管障害、神経障害、胃腸障害、内分泌障害、腎臓障害又は精神障害、
xvii.研究中に予想される手術の必要性、又は研究中に行われる予定の計画手術、
xviii.処置前の14日以内の外科手術の完了、又は手術後の止血のために付加的なBPA注入を現在受けていること、
xix.多剤アレルギーの履歴、又はオリゴヌクレオチド若しくはGalNAcに対するアレルギー反応の履歴、
xx.研究プロトコルで必要とされる採血を可能にするために不十分な静脈アクセス、
xxi.皮下注射に対する不耐性の履歴、
xxii.フィツシラン以外の治験薬又は治験用デバイスを含む、本研究中に行われる予定の別の臨床研究への現在又は将来の参加;本研究に参加するためには、患者は、投与(1日目)の少なくとも30日(又は治験薬の半減期の5倍、いずれか長い方)前に治験薬又は治験用デバイスを中止しなければならない、
xxiii.遺伝子療法治験への現在又は以前の参加、並びに
xxiv.処置前の12か月以内のアルコール乱用の履歴。アルコール乱用は、毎週定期的に14単位(単位:ワイン1グラス[約125mL]=スピリッツ1尺度(約1液量オンス)=ビール1/2パイント[約284mL])を超えて摂取することと定義される。ワインの1グラス[約125mL]=蒸留酒の1単位(約1液量オンス)=ビールの1/2パイント(約284mL))。
【0075】
各研究で処置された患者のベースライン人口統計は、表2に示される。ベースライン人口統計は、治療企図(ITT)解析セット(すなわち、全ての無作為化患者)に対するものである。全体として、ベースラインの患者特性は、群間で同様であった。
【0076】
【0077】
投与計画及び製剤
注射(皮下使用)用のフィツシラン(SAR439774)溶液は、滅菌溶液として供給した。フィツシラン処置群に無作為化された患者は、非盲検の80mgのフィツシランを、皮下注射として月1回、合計9か月間投与された。
【0078】
実施例2:フィツシラン処置による患者報告アウトカムの改善
フィツシランの第3相臨床試験研究の目的は、健康関連の生活の質(HRQOL)、身体活動、及び処置の認知を評価するために患者報告アウトカム(PRO)を評価することであった。無作為化時の患者の年齢により、年齢特有の質問票のどれが利用されるが決定され、これは、研究期間全体にわたって効力がある。
【0079】
本研究では、以下を用いてPROを収集した:
・ 成人のための血友病の生活の質質問票(Haem-A-QoL);
・ 子供のための血友病の生活の質質問票(Haemo-QoL);
・ 血友病活動リスト(HAL);
・ 小児の血友病活動リスト(pedHAL);
・ 薬物療法に対する治療満足度質問票バージョン9(TSQM-9);及び
・ EuroQol 5-ディメンション、5レベル(EQ-5D-5L)質問票。
【0080】
以下のセクションには、各手法の特性及び結果が記載される。全ての患者を評価した。この実施例で議論される各質問票について、報告された変化は、ベースラインから253日目までであり、これは、研究終了(EOS)とも呼ばれる。
【0081】
成人のための血友病の生活の質質問票(Haem-A-QoL)
Haem-A-QoLは、17歳以上の参加者に提供された。各項目のスコアリングは、5ポイントのリッカート尺度(なし、まれ、時々、しばしば、及び常に)に基づき、スコアが高いほど機能障害が大きいことを表す。負の値は、健康関連の生活の質(HRQoL)の改善を示す。ベースラインから253日目までのドメインごとのHaem-A-Qolにおける変化は、以下の表3に報告される。
【0082】
【0083】
身体的健康ドメインスコアは、インヒビター保有患者の研究及びインヒビター非保有患者の研究の両方のフィツシラン予防群おいて、ベースラインに対して臨床的に意味のある改善を示した。フィツシラン処置された参加者は、比較的改善された身体的健康(痛みを伴う腫脹、関節痛、運動による痛み、歩行困難、準備をする時間)を達成し、平均推定値は、インヒビター患者が非インヒビター患者よりもわずかに多くの利益を得ることを示唆する。
【0084】
Haem-A-QoLの総スコアも同様に、フィツシラン予防群で認知されたQoLの全体的な改善を示し、フィツシラン予防群では、臨床的に意味のあるベースラインからの平均減少が報告された。インヒビター患者及び非インヒビター患者はいずれもフィツシランによる処置の利益を得ており、インヒビター患者は、ベースラインからの改善に関してわずかに上回っている。
【0085】
Haem-A-Qolの追加解析(副次的評価項目)は、潜在的な研究交絡因子を制御する解析共分散モデル(ANCOVA)を用いて、総スコア及び身体的健康ドメインにおいて実施した。これらの追加解析の結果は、表4に示される。
【0086】
【0087】
身体的健康ドメインスコアは、解析方法(簡易解析及びANCOVA解析に基づく)にかかわらず、両方の研究のフィツシラン予防群においてベースラインに対して著しく意味のある改善を示した。フィツシラン処置された参加者は、比較的改善された身体的健康(痛みを伴う腫脹、関節痛、運動による痛み、歩行困難、準備をする時間)を達成し、平均推定値は、インヒビター患者が非インヒビター患者よりもわずかに多くの利益を得ることを示唆する。
【0088】
Haem-A-QoLの総スコアも同様に、フィツシラン予防群で認知されたQoLの全体的な改善を示し、解析方法(すなわち、簡易解析及びANCOVA解析に基づく)にかかわらず、フィツシラン予防におけるベースラインからの有意な平均減少が報告された。インヒビター患者及び非インヒビター患者はいずれもフィツシランによる処置の利益を示しており、インヒビター患者は、ベースラインからの改善に関してわずかに上回っている。
【0089】
子供のための血友病の生活の質質問票(Haemo-QoL)
Haemo-QoL質問は、17歳以下の血友病の参加者に対して心理測定的に試験されるQoL評価手法である。Haemo-QoL質問票及びプロキシ版は、青年及び子供のためのオリジナルの成人Haem-A-QoLから適応されたものである。負の値は、血友病関連の生活の質(HRQoL)の改善を示す。ドメイン及び研究ごとのHaemo-QoLの結果は、表5に表される。
【0090】
【0091】
インヒビター保有患者における研究の友人ドメイン、並びにインヒビター非保有患者の研究における友人及びスポーツドメインを除いて、フィツシラン患者は一般に、全てのドメインにおける改善を報告した。いずれの場合も、Haemo-QoLの総スコアは、フィツシランを投与された患者における改善を示した。
【0092】
血友病活動リスト(HAL)
HALスコアは、日常生活の活動(例えば、上肢及び下肢を伴う活動、下肢を伴う基本的な活動、及び下肢を伴う複雑な活動)を実行するための主観的な機能的能力を評価する。スコアは0~100の範囲であり、スコアが高いほど、機能的な制限が少ないことを示す。ドメイン及び研究ごとのHALの結果は、表6に提示される。
【0093】
【0094】
HALの総平均スコア(ベースラインからEOSまでの変化)は、両方の研究において、フィツシラン予防患者が総スコアの改善を示し、10のドメイン全てにわたって一貫していることを実証する。インヒビター保有患者の研究で観察されたより高い改善は、インヒビター保有患者がフィツシラン処置から最も利益を得ることを示唆する。
【0095】
小児の血友病活動リスト(pedHAL)
子供及び青年に特異的なpedHALスコアは、18歳未満の参加者について計算した(表7)。
【0096】
【0097】
総スコアついて、そして個々の手法のドメインのそれぞれにわたって、ベースラインからEOSまでの変化によって分かるように、フィツシラン予防は、インヒビター保有又は非保有の患者において有利な結果を示した。
【0098】
薬物療法に対する治療満足度質問票バージョン9
インヒビター保有及び非保有の血友病A又はB患者の研究では、薬物療法に対する治療満足度質問票バージョン9(TSQM-9)に従う患者報告アウトカムも評価した。TSQM-9は、検証された心理測定ツールであり、患者により報告される薬物療法の認知の一般的な尺度を提供し、有効性、利便性、及び全般的満足度のドメインを含む。ドメインスコアは0~100の範囲であり、スコアが高いほど、改善されたHRQoLを示す。ドメイン及び研究ごとのTSQM-9の結果は、表8に提示される。
【0099】
【0100】
平均TSQM-9スコア(ベースラインからEOSまでの変化)の全体的な結果は一貫して、3つのドメイン全てにおいてフィツシランの改善を示した。ここで再度、インヒビター患者における改善は、インヒビター保有患者がフィツシラン処置から最も利益を得ることを示唆する。
【0101】
EuroQol 5-ディメンション、5レベル(EQ-5D-5L)及びEuroQoL、視覚的アナログ尺度(EQ-VAS)
EQ-5D-5Lは、QoLアウトカムの尺度として使用するための標準化された疾患汎用的な手法である。これは、5つのディメンション(可動性、セルフケア、日常活動、痛み/不快感、及び不安/うつ状態)に関する質問票からなる。質問票のスコアリングは、5段階の障害(なし、軽度、中程度、重度、又は極度)に基づき、0(想像できる最悪の健康状態)~1(より良好な健康状態)のスケールである。スコアが高いほど、健康状態がより良好であることを示す。EQ VASは、0~100の範囲の連続スコアである。視覚的アナログ尺度のスコアリングは、0(想像できる最悪の健康状態)~100(想像できる最良の健康状態)の範囲の視覚的スケールに基づく。EQ-5D-5Lの総スコア及びVASスコアの結果は、表9に提示される。
【0102】
【0103】
EQ-5D-5L及びEQ VASからの結果は、両方の研究においてベースラインからの改善を示し、インヒビター保有患者では顕著な変化がみられた。
【0104】
終了インタビュー
終了インタビュー解析の目的は、血友病A又はB(インヒビター保有又は非保有)、及びフィツシランを含むその処置に関する患者及び介護者の経験と、この経験が臨床試験期間にわたってどのように変化したか、そして彼らの治験中に受けた処置に関する認知及び満足度とをより良く理解することであった。
【0105】
患者は、その経験を共有するために半構造化された終了インタビューに参加するように要請された。患者が参加できない場合(例えば、患者が18歳未満であるか、又は認知的にできない場合)、患者の介護者がインタビューに参加するように要請された。合計24人が60分間の電話インタビューに参加するように要請された。インタビュー全体で一貫性を保証するための半構造化インタビューガイドに従って、参加者は、フィツシラン治験のいずれかに参加する前の血友病及びその処置に関する経験を述べることが求められた。次に、参加者は、毎日の生活に対する血友病及びその処置の影響の認知、処置への期待、及び臨床試験中のフィツシランの経験について尋ねられた。参加者は、血友病処置の種々の態様(関節健康の改善、出血の減少、まる1か月にわたる出血からの保護、関節可動性の改善、出血の恐怖/不安の防止、血友病の管理における不安/ストレスの最小化、及び利便性)を「適度に重要」、「とても重要、」又は「極めて重要」として評価するように求められた。
【0106】
図5及び
図6に提示されるデータは、最初の10回のインタビューで実施された中間解析を反映する。8人の血友病A又はB患者及び2人の介護者がインタビューされた。全ての参加者は、関節健康の改善を極めて重要として評価し、ほとんどの参加者は、出血の減少(90%)、まる1か月にわたる出血からの保護(90%)、関節可動性の改善(90%)、出血の恐怖/不安の防止(80%)及び血友病の管理における不安/ストレスの最小化(80%)を血友病の処置における「極めて重要」な態様として評価した(
図5)。全ての参加者は、フィツシラン予防下で、これらの処置態様における改善を報告した。特に、これらの態様のそれぞれにおいて、患者の100%、100%、90%、100%、90%及び80%がそれぞれ、「かなりの改善」があると評価した(
図6)。ほぼ全ての参加者(n=9)は、その以前の血友病処置よりもフィツシラン予防を好み、全ての参加者は、特に、出血を予防するその能力、効果の永続性、及び利便性に関して、フィツシラン処置に「非常に満足している」と報告した。インタビュー中に記録された引用の中で、血友病A又はB患者は、例えば、「フィツシランの摂取後に、普通の人のようになった」、「フィツシランを摂取すれば、出血は起こらないと言えるので、非常に自信がある」と報告した。
【0107】
これらの終了インタビューは、インヒビター保有又は非保有の血友病A又はB患者、及びその介護者の経験について、励みになる前向きな中間洞察を提供する。フィツシランによる予防的処置は、インヒビター状態に関係なく、血友病A又はB患者における付加価値を実証し、特に、関節健康の改善、出血の減少、及び関節可動性の改善をもたらし、処置の負担を全体的に低減した。
【0108】
実施例3:フィツシラン処置による付加的な臨床評価項目の改善
アンチトロンビンレベル及びトロンビンの産生
インヒビター保有患者においてフィツシランを毎月投与することにより、アンチトロンビンレベルの持続的な低下が得られた(
図7)。29日目に、アンチトロンビン活性レベルがベースラインから平均84.1%低下し、43日目以降、87.6~89.9%の低下が維持された。さらに、トロンビン産生はアンチトロンビンの低下と共に増加し、29日目にピークトロンビン産生の増加は平均30.8nMであり、43日目以降は、36.8~47.5nMの増加が維持された。ピークトロンビン産生は、43日目までに平均46.67nMに達し(
図8)、
図8の青い点線で示されるような、健康なボランティアで以前に観察されたピークトロンビン産生の低位レベルである64nMに近づいた。フィツシラン予防を受けている参加者は、29日目までにアンチトロンビンの低下及びトロンビン産生の増加の目標薬力学的効果に到達し、これらは、フィツシラン処置の過程において持続され、研究期間中の止血が維持及び持続されることが実証された。フィツシラン予防は、健康なボランティアで以前に観察された低位レベル近くまで、ピークトロンビン産生レベルを上昇させた。
【0109】
インヒビター非保有患者についても同様の結果が観察された。29日目に、アンチトロンビン活性レベルがベースラインから平均79.8%低下した(
図9)。フィツシラン予防は、アンチトロンビンレベルの持続的な低下(
図9)と、トロンビン産生の持続的な増加(
図10)とをもたらした。インヒビター非保有患者では、29日目に、ピークTGがベースラインから平均24.4nM増加した(
図11)。
【0110】
インヒビター保有患者(ATLAS-INH)又は非保有患者(ATLAS-A/B)におけるピークトロンビン産生のベースラインからの平均変化は、
図11に示される。全研究期間中、TGは上昇したままであった。本知見は、インヒビター保有又は非保有の血友病A又はBを有する人々において、フィツシランが止血のバランスを取り戻し、持続的な定常状態の出血保護を提供する可能性を有することを示唆する。
【0111】
安全性及び忍容性
インヒビター非保有患者の第3相研究において、処置中に発現した血栓症の有害事象は報告されなかった(表10)。報告された有害事象は一般に、以前に特定されたフィツシランのリスクと一致していた。
【0112】
【0113】
出血率の低下
フィツシラン予防は、インヒビター保有又は非保有の血友病A又はBを有する人々において、出血からの持続的な保護をもたらした(
図12及び13)。各フィツシラン処置群におけるABRの中央値は0.0であった。
【0114】
BPA及びCFCの消費量
aPCC及びrFVIIaの平均総消費量は、オンデマンドBPA群と比較して、フィツシラン群では97.5%及び98.2%少なく、FVIII及びFIXの平均総消費量は、フィツシラン群では、オンデマンド補充因子群よりも少なかった(それぞれ、95.9%及び94.7%)(
図14;表11)。
【0115】
【0116】
インヒビター保有患者の治験では、フィツシランを投与された参加者は、オンデマンドBPAを投与された参加者と比較して、1回の出血当たりの必要とされる平均注射回数が少なく(1.2対3.7)、平均BPA用量が少なかった(表12)。インヒビター非保有患者の治験では、両方の群の参加者が1回の出血当たり平均1.2回の注射を必要とした。フィツシランを投与された参加者は、オンデマンド補充因子を受けた参加者と比較して、必要とされる補充因子の平均用量が少なかった。
【0117】
BPA/因子使用がゼロの参加者の割合は、オンデマンドBPA/因子処置群と比較してフィツシラン予防群でより大きく(
図15)、処置出血及びBPA/因子注射の総数は、オンデマンドBPA/因子群と比較してフィツシラン予防群ではより少なかった(
図16;表12)。処置出血の総数は、オンデマンドBPA及び因子群と比較して、フィツシラン群ではそれぞれ82.0%及び79.2%少なかった。
【0118】
【0119】
【0120】
BPA及びCFCの平均年間注射率は、フィツシラン予防処置では、オンデマンドBPA/CFC処置と比較して低かった(
図17)。さらに、出血を処置するために必要とされるBPA/CFCの用量は、フィツシランで予防的に処置された患者では、オンデマンドBPA/CFCと比較して少なかった(
図18;表12)。特に、
・ aPCC用量は、フィツシランでは43.5%少なかった。
・ rFVIIa用量は、フィツシランでは87.2%少なかった。
・ FVIII用量は、フィツシランでは57.8%少なかった。
・ FIX用量は、フィツシランでは58.5%少なかった。
【0121】
要約すると、フィツシラン予防を受けている患者では、オンデマンド/偶発性のBPA/CFC処置を有する患者と比較して、BPA/CFC消費量の減少と、出血を処置するために必要とされる注射数の減少並びにBPA及びCFC用量の低下とが観察された。
【0122】
実施例4:青年サブグループ解析
全体として、33人の青年(12~17歳)が登録された(インヒビター保有患者10人及びインヒビター非保有患者14人)。ABR中央値は、オンデマンドCFC及びBPA群ではそれぞれ18.4及び16.8であるのと比較して、フィツシラン群では、1.7(インヒビター保有患者)及び3.4(インヒビター非保有患者)であった。フィツシラン予防はHRQoLを改善し、変換総スコアのベースラインから9か月目までの平均変化は、オンデマンドBPA及びCFC処置群ではそれぞれ-2.1及び4.3であるのと比較して、-18.2(インヒビター保有患者)及び-10.8(インヒビター非保有患者)であった。青年におけるフィツシランの安全性プロファイルは、成人参加者で観察されたものと一致した。
【0123】
要約すると、インヒビター保有又は非保有の血友病A又はBを有する青年では、フィツシラン予防により、出血表現型における改善が実証された。Haemo-QoLスコアの減少は、CFC及びBPA処置と比較して、フィツシラン予防によるHRQoLの広範な改善を支持する。利益/リスク評価は、有利なものであった。
【0124】
実施例5:インヒビター保有の血友病A又はBを有する人におけるフィツシラン予防の有効性及び安全性(ATLAS-INH)
この多施設無作為化非盲検の第3相研究は、12か国の26施設で実施された。以前にバイパス剤(BPA)でオンデマンド処置されたことがあるインヒビター保有の重度の血友病A又はBを有する12歳以上の男性を、月1回80mgの皮下フィツシラン予防を受ける群、又はBPAオンデマンドを9か月間継続する群に2:1で無作為化した。主要評価項目は、有効期間中の年間出血率(ABR)であった。安全性及び忍容性を評価した。
【0125】
参加者
適格参加者は、重度の血友病A(スクリーニング時に、FVIII<1%についての中央検査室での測定又は文書化された医療記録の証拠によって定義される)又は血友病B(FIX≦2%)を有し、FVIII又はFIXに対する阻害性抗体(スクリーニング時にナイメゲン変法ベセスダアッセイで0.6ベセスダ単位/mL以上と定義される)を有し、スクリーニング前の6か月以内にオンデマンドBPA処置を必要とする6回以上の出血エピソードを経験したことがある12歳以上の男性であった。
【0126】
参加者は、中央検査室での測定により決定したときに60%未満であるアンチトロンビン活性をスクリーニング時に有するか、又は動脈若しくは静脈血栓塞栓症、心房細動、重大な弁膜疾患、心筋梗塞、狭心症、一過性脳虚血発作、又は脳卒中の病歴を有する場合に除外された。留置静脈アクセスに関連する血栓症の履歴のある参加者は、登録が許可された。任意の治験関連手順を行う前に書面による同意書を得た。
【0127】
無作為化及びマスキング
破綻出血の処置のためのオンデマンドのBPA使用と共に、月1回80mg皮下投与される(0.8mL)フィツシラン予防を受ける群、又は出血エピソードの処置のためにオンデマンドBPAを継続する群に、適格参加者を2:1で無作為化した。層別置換ブロック無作為化(stratified permuted block randomization)(ブロックサイズ3)により、参加者を研究群に割り当てた。BPAのオンデマンド使用は、偶発性出血事象のための必要に応じたこれらの薬剤の使用と定義された(表13)。無作為化は、スクリーニング前の6か月における出血エピソードの数によって層別化した(≦10対>10)。治験責任医師又はその代理人は、参加者が全ての選択基準を満たしていることを確認した後、対話型応答システムに連絡した。治験は非盲検であり、参加者及び治験責任医師の両方が処置の割り当てを認識していた。
【0128】
【0129】
手順
治験は、以下のいくつかの期間から構成された:フィツシランが徐々にアンチトロンビン低下という目標薬力学的効果に到達する、1日目~28日目の開始期間(Pasi et al.,N Engl J Med(2017)377(9):819-28);29日目から246日目までの有効期間、並びに開始期間及び有効期間の両方からなる処置期間。フォローアップ期間は、最終用量後にアンチトロンビンレベルが約60%に戻るまで、又は非盲検の延長研究への登録まで、1か月~6か月間続いた。
【0130】
処置出血エピソードは、BPAの投与を必要とする出血症状の任意の発生と定義された。出血エピソードタイプの定義は、International Society on Thrombosis and Hemostasisの推奨に従った(表14)。
【0131】
【0132】
健康関連の生活の質(HRQoL)は、検証された成人のための血友病の生活の質質問(Haem-A-QoL)手法を用いて、17歳以上の成人において1日目及び処置期間の最後に評価した(例えば、von Mackensen et al.,Haemophilia(2017)23(3):383-91を参照)。
【0133】
安全性評価は、処置中に発現した重篤な有害事象(TESAE)及び処置中に発現した特に興味深い有害事象(TEAESI)を含む処置中に発現した有害事象(TEAE);バイタルサイン及び心電図を含む身体検査;並びに凝固マーカーを含む臨床検査から構成された。
【0134】
薬力学的評価のために、投与前4時間以内に採取された血液サンプルからアンチトロンビン活性レベルを測定し、最終のフィツシラン用量の後に概算の活性レベルが60%に戻るまで(参加者が非盲検延長研究でフィツシランを継続することを選択した場合を除く)、1日目から1か月間隔でモニターした。トロンビン産生も1か月間隔で評価した。フィツシランに対する抗薬物抗体(ADA)は、1日目、1か月目及び3か月目、並びに処置の最後に、検証された酵素結合免疫吸着アッセイ法を使用して、処置投与の4時間以内に採取された血清サンプルから測定した。
【0135】
アウトカム
主要有効性評価項目は、有効期間中のABRであった。ABRは、適格な出血エピソードの数を有効期間の総日数で除し、365.25を乗じたものであると定義された。主要評価項目の事前指定されたサブグループ解析は、有効期間中、血友病の型(A型対B型)、研究前の6か月間の出血エピソードの数(≦10対>10)、及び年齢群(<18、18~64、65歳以上)に従って実施した。副次的評価項目には、処置期間中のABR、有効期間中の年間自然出血率(AsBR)、及び有効期間中の年間関節出血率(AjBR)が含まれた。処置期間中のHaem-A-QoLの身体的健康ドメイン及び総スコアにおけるベースラインからの変化も、副次的評価項目として評価した。
【0136】
安全性及び忍容性評価項目には、有害事象の発生率、重症度、重篤度、及び関連性が含まれた。TEAESIは、正常上限(ULN)の3倍を超えるアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)又はアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の上昇、疑いのある又は確認された血栓症、重度又は重篤な注射部位反応、及び全身性の注射関連反応として事前に定義された。
【0137】
事前指定された探索的評価項目には、有効期間中の標的関節出血エピソードの数、フィツシランの薬物動態及び薬力学的効果(アンチトロンビン活性及びトロンビン産生を含む)、並びにフィツシラン予防群におけるADAの発生率及び力価が含まれた。探索的アウトカムについては多重度を考慮しなかった。
【0138】
サンプルサイズの決定
両側第I種過誤率が0.05の負の二項回帰モデルを用いて、BPAオンデマンド群の参加者14(平均[SD]ABRを18[14]と仮定)及びフィツシラン予防群の参加者28(平均[SD]ABRを4[6]と仮定)の推定サンプルサイズは、主要評価項目における処置の差を検出するために90%を超える能力を提供すると予測された。計画されたサンプルサイズは、20%のドロップアウト率を仮定して、無作為化参加者54であった。
【0139】
統計解析
全ての統計解析は、SAS統計ソフトウェアバージョン9.4を用いて実施した。治療企図解析セット(全ての無作為化参加者)において一次解析を実施した。いずれかの中国人参加者が80mg皮下投与フィツシラン予防を受ける群に無作為化され得る前に、最初の3人の参加者は、中国特有の非無作為化フィツシラン群に登録され、中国のFDA委員会の規制要件に準拠するためのプロトコルで計画されるように、初期開始用量50mgから、観察期間後に80mgまで上昇させて、4週間ごとに皮下投与フィツシラン予防を受けた。これらの参加者は治療企図集団には含まれなかったが、安全性セットには含まれた。
【0140】
有効期間中の出血エピソード数は、処置群、及び研究参加前6か月間の出血エピソード数(≦10対>10)の固定効果による負の二項モデルを用いて解析した。解析される出血エピソードデータと一致する、有効期間中に各参加者が費やした日数の対数は、早期離脱や手術などによる不均等なフォローアップ時間を考慮するためにオフセット変数として含めた。このモデルから、両方の処置群における推定平均ABRが、その95%信頼区間(CI)と共に提示された。中央値及びIQRを含むABRの要約統計量も各群について計算した。有効性アウトカムについて感度解析を実施した。
【0141】
AsBR及びAjBRは、一次解析と同じ方法を用いて解析した。Haem-A-QoLの身体的健康スコア及び総スコアにおけるベースラインからの最小2乗(LS)平均変化は、処置群、ベースラインのHaem-A-QoL身体的健康スコア及び総スコア、並びに登録6か月前の出血エピソード数(≦10対>10)の固定効果による共分散解析モデルを用いて解析した。主要及び副次的評価項目の試験においてファミリーワイズエラー率を制御するために、階層的な試験アプローチを使用した。
【0142】
安全性、薬物動態、薬力学、及び免疫原性の結果は、記述的に要約した。安全性集団において、全ての参加者は、少なくとも1回のフィツシラン用量を受けるか、又はオンデマンド群に無作為化された;安全性解析セットに基づく全ての処置別解析は、実際に受けた処置に従った。
【0143】
本治験は、識別子NCT03417102でwww.clinicaltrials.govに登録された。
【0144】
結果
合計85人の参加者をスクリーニングし、そのうち25人がスクリーニングに不合格であり、3人が無作為化されず、57人の参加者が、BPAオンデマンド群(n=19)及びフィツシラン予防群(n=38)に無作為化された。無作為化された全ての参加者は研究を完了した。ベースラインの人口統計及び臨床的特徴は、安全性セットにおいて、両方の群間で類似していた(表15);ほとんどの参加者は、血友病A(n=48、80%)を有し、ベースライン時に複数の標的関節が存在した(参加者の67%が1つ以上の標的関節を有していた)。フィツシラン曝露期間の中央値は252.0日(最小203日;最大271日)であった。
【0145】
【0146】
有効期間中の負の二項モデルによって推定される平均ABRは、BPAオンデマンド群(18.1[95%CI:10.6、30.8];表16、
図19)と比較して、フィツシラン予防群(1.7[95%CI:1.0、2.7])において統計的に有意に低く、統計的及び臨床的に有意な90.8%(95%CI:80.8、95.6%)の出血率の低下に相当し、フィツシラン予防群に有利であった(p<0.0001)。ABR中央値は、これらの知見と一致した:フィツシラン予防群では0.0(IQR:0.0、1.7)、BPAオンデマンド群では16.8(IQR:6.7、23.5)(表16、
図19)。有効期間中、処置出血がゼロである参加者は、フィツシラン予防群では25人(66%)であったのに対して、BPAオンデマンド群では1人(5%)であった。フィツシラン群では、13人の参加者が処置出血を経験し、そのうち2人はaPCCを受け、11人はrFVIIaを受けた。BPAオンデマンド群では、18人の参加者が処置出血を経験し、そのうち9人はaPCCを受け、13人はrFVIIaを受けた(n=4人は両方を受けた)。処置期間中の年間出血率は、主要評価項目と同様の結果を実証した。血友病サブタイプにより解析した場合、有効期間中のABR中央値は、血友病A患者(それぞれ、0.0[IQR:0.0、0.0]対15.9[IQR:6.7、23.5])及び血友病B患者(それぞれ、1.7[IQR:0.0、5.0]対18.4[IQR:5.1、23.5])の両方において、BPAオンデマンド群と比較して、フィツシラン予防群の方が低かった(表17)。
【0147】
【0148】
【0149】
サブグループ解析により、主要評価項目が確認された。全てのサブグループにおいて、推定されるABR結果は、フィツシラン予防に有利であった(
図20、表17)。感度解析の結果は主要有効性アウトカムを支持し、表18に報告される。
【0150】
【0151】
有効期間中、AsBR中央値は、フィツシラン予防群及びBPAオンデマンド群において、それぞれ0.0(IQR:0.0、0.0)及び13.4(IQR:3.4、21.8)であった。フィツシラン予防群では、BPAオンデマンド群(11%)に対して、より大部分の参加者が自然出血ゼロであった(76%)。AjBR中央値は、フィツシラン予防群及びBPAオンデマンド群において、それぞれ0.0(IQR:0.0、1.7)及び11.7(IQR:3.4、16.8)であった。フィツシラン予防群では、11人(29%)の参加者に1回以上の関節出血が見られ、比較してBPAオンデマンド群では、18人(95%)の参加者であった;それぞれ2人(5%)及び13人(68%)の参加者に、3回を超える関節出血があった。1つ以上の標的関節がベースラインで特定された参加者では、フィツシラン予防群及びBPAオンデマンド群においてそれぞれ4/26人(15%)及び12/12人(100%)の参加者が、有効期間中に標的関節の自然出血事象を処置された。フィツシラン予防群のほとんどの参加者(85%)は、標的関節の出血事象がゼロであり、比較してBPAオンデマンド群では、標的関節の出血がゼロである参加者(0%)はいなかった(表19)。
【0152】
【0153】
研究中に重大なプロトコル逸脱が特定された参加者の割合は、処置群間で同様であり、BPAオンデマンド群では68.4%(n=13)、フィツシラン予防群では76.3%(n=29)であった。
【0154】
Haem-A-QoL身体的健康ドメインの変換スコアのLS平均(95%CI)は、フィツシラン予防群(-30.7[-36.9、-24.4])では、BPAオンデマンド群(-1.9[-10.3、6.4])と比較してベースラインに対して統計的に有意に減少(改善)し、LS平均差は、-28.7(-39.1、-18.4)であり、フィツシラン予防に有利であった(p<0.0001)(
図21)。統計的に有意な減少は、BPAオンデマンド群(-0.4[-5.7、4.8])と比較して、フィツシラン予防群(-15.3[-19.3、-11.2])において、Haem-A-QoL変換総スコアでも観察され、LS平均差は、-14.9(-21.4、-8.3)であり、フィツシラン予防に有利であった(p<0.0001)(
図21)。
【0155】
全体として、フィツシラン予防群の38人(93%)の参加者及びBPAオンデマンド群の11人(58%)の参加者は少なくとも1つのTEAEを経験し;最も一般的なTEAE(フィツシラン予防群の参加者の5%超で報告される)は、表20に要約される。TESAEは、フィツシラン予防群の7人の参加者(17%)及びBPAオンデマンド群の5人の参加者(26%)で報告された。フィツシラン予防群では、1人の参加者(2%)は、フィツシランに関連する可能性があると治験責任医師によって評価され、研究薬の中止をもたらす2つのTESAE(脊髄血管障害及び血栓症「[脊髄血管血栓症が疑われる])を経験した。研究の離脱をもたらすTEAE、及び死に至るTEAEはなかった。
【0156】
【0157】
フィツシラン予防群では、「任意のALT又はASTの上昇>3×ULN」のTEAESIが10人(24%)の参加者で報告された(表20)。ほとんどの参加者では、事象の発生は、フィツシラン開始の60日以内に起こった。全ての事象は、治験責任医師により、重篤でない重症度及び軽度~中程度の重症度に分類された。これらの事象の結果、3人(7%)の参加者では、フィツシラン予防が中断され(これは、ALT又はASTの上昇>5×ULNに起因して必要とされる)、フィツシラン予防が中止された参加者はいなかった。治験責任医師により、フィツシラン予防が中断された3人の参加者全員で、事象が回復又は解決されたと報告され;事象の解決までの時間の中央値は、42日(最小5日;最大50日)であった。これらの参加者の1人において、反復性の上昇>3×ULNが報告された。フィツシラン予防を継続した7人の参加者のうち、治験責任医師により、4人の参加者で、この事象が回復又は解決されたと報告され;事象の解決までの時間の中央値は、76.5日(最小24日;最大148日)であった。これらの参加者の1人において、反復性の上昇>3×ULNが報告された。Hyの法則と一致する検査所見の異常は特定されなかった。BPAオンデマンド群では、「任意のALT又はASTの上昇>3×ULN」の報告はなかった。
【0158】
フィツシラン予防群では、2人(5%)の参加者において「疑いのある又は確認された血栓塞栓症事象」の4つのTEAESIが報告された(表20)。これらの事象は、中心静脈アクセスの設定及び関連の合併症において、単一の参加者での深部静脈血栓症(非重篤)、鎖骨下静脈血栓症(重篤)、及び上肢を含む表在性血栓性静脈炎(非重篤)であった。これらの事象の3つは全て、フィツシランの中断をもたらし、治験責任医師により、研究薬に関連する可能性が低いと評価された。これらの事象の発生前のこの参加者のアンチトロンビン値は、11.9%であった。第2の参加者では、血栓症(脊髄血管血栓症が疑われる)の事象は、治験責任医師により、重篤であり、研究薬に関連する可能性があると評価され、フィツシラン予防が中止された。事象発生前のこの参加者の定常状態のアンチトロンビン値は、7.8%~11.6%の範囲であった。BPAオンデマンド群では、「疑いのある又は確認された血栓塞栓症事象」のTEAESIは報告されなかった。
【0159】
重度若しくは重篤な注射部位反応、又は全身的な注射関連反応のTEAESIは、報告されなかった。
【0160】
フィツシラン群では、6人の参加者が、胆嚢炎及び/又は胆石症のTEAEを経験した。これらの6人の参加者のうち、3人の参加者では胆嚢炎及び胆石症が同時に報告され、1人の参加者では無石胆嚢炎が報告され、2人の参加者では胆石症のみが報告された。胆嚢炎及び/又は胆石症の事象は、1人の参加者では、胆嚢摘出により管理された。胆嚢炎又は胆石症の事象は、BPAオンデマンド群では報告されなかった。
【0161】
フィツシラン予防による月1回の投与は、ベースラインの平均104%(SD:10.5)から、アンチトロンビン活性レベルの持続的な低下をもたらし、15日目までにベースラインから平均77%(SD:8.6)減少し、29日目までに平均84%(SD:7.2)減少した(
図22パネルA)。アンチトロンビンレベルは、29日目から治験終了まで、84~90%減少したままであった。研究評価項目では、平均ATレベルは11%(SD:2.9)であった。予想されるように、BPAによる処置は、アンチトロンビンレベルに影響を与えなかった。フィツシラン群では、15日目にピークトロンビン産生がベースラインから平均(SD)21.9nM(16.4)増加し、ピーク平均トロンビン産生は、29日目に40.3nM(17.9)に増加し、43日目までに46.7nM(23.0)(ベースラインからの540%の変化に相当)に増加し、フィツシラン予防群では治験中、上昇したままであった(
図22パネルB)。
【0162】
全体として、フィツシラン予防群の1人(3%)の参加者は29日目に、50(アッセイの必要最小希釈率と同等)の低ADA力価でADA陽性であることが確認され;これは一過性なものであり、参加者は、3カ月目及び8か月目のその後の評価では陰性であった。
【0163】
結論
インヒビター保有の血友病A又はBを有する人々では、月1回の80mgの皮下予防フィツシランにより、ABR中央値ゼロ、出血がゼロの参加者の高い割合(65.8%)、及び生活の質の改善がもたらされ、それにより、本研究の主要評価項目を満たした。これらの結果は、インヒビター保有者において、フィツシラン予防が出血に対して一貫した保護を提供することの有効性を実証する。
【配列表】
【国際調査報告】