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特表2025-500417上部構造と、当該上部構造の後部に設けられた液化ガス貯蔵用タンクと、を備えた船舶
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  • 特表-上部構造と、当該上部構造の後部に設けられた液化ガス貯蔵用タンクと、を備えた船舶 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】上部構造と、当該上部構造の後部に設けられた液化ガス貯蔵用タンクと、を備えた船舶
(51)【国際特許分類】
   B63B 25/16 20060101AFI20241226BHJP
   B63B 25/04 20060101ALI20241226BHJP
   B63B 27/24 20060101ALI20241226BHJP
   B63B 27/34 20060101ALI20241226BHJP
   F17C 3/04 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B63B25/16 P
B63B25/04 Z
B63B25/16 103
B63B25/16 104
B63B27/24 B
B63B27/34
F17C3/04 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537941
(86)(22)【出願日】2022-12-21
(85)【翻訳文提出日】2024-08-20
(86)【国際出願番号】 EP2022087275
(87)【国際公開番号】W WO2023118320
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】2114273
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515220317
【氏名又は名称】ギャズトランスポルト エ テクニギャズ
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】ブアン ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】リム チン
(72)【発明者】
【氏名】マータネン ヨーナス
(72)【発明者】
【氏名】レウナモ ユーソ
(72)【発明者】
【氏名】クイスティアラ アニーナ
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB04
3E172BA06
3E172BB02
3E172BB12
3E172BB17
3E172BD02
3E172CA10
3E172CA32
3E172DA02
3E172EA03
3E172EB03
(57)【要約】
本発明は、上部構造と、長手方向(X’-X)において上部構造の後部に配置された密閉断熱タンク(2)と、を備えた船舶(1)に関するものである。タンクは底壁(22)と、2つの長手方向壁(24)と、それぞれ底壁(22)と長手方向壁とを連結する2つのチャンファ底壁(25)と、を備えている。一方のチャンファ底壁は底部縁部(32)において底壁に接すると共に、中間縁部(33)において隣の長手方向壁に接する。底壁の中央線(31)と中間縁部の間における横方向(Z’-Z)に対して平行な距離(B)と、底部縁部と中間縁部との間における横方向(Z’-Z)に対して平行な距離(C1)と、は、不等式C1≧0.45Bを満たす。特に、ばら固体製品を輸送するための船舶に適用可能である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶(1)であって、
前記船舶(1)の長手方向(X’-X)に延在する船殻(3)と、ただし当該船殻(3)は、底部(4)と、前記船舶(1)の鉛直方向(Y’-Y)において当該底部(4)から離隔する上甲板(5)と、を備えており、
前記長手方向(X’-X)における前記船舶(1)の後部最後の1/4の部分に位置すると共に前記鉛直方向(Y’-Y)において前記上甲板(5)の上方において延在する上部構造(6)と、
前記長手方向(X’-X)において前記上部構造(6)の後部に配置された、液化可燃ガスの貯蔵のための密閉断熱タンク(2)と、
を備えており、
前記密閉断熱タンク(2)は、底壁(22)と、当該底壁(22)から離隔した天井壁(23)と、2つの長手方向壁(24)と、それぞれ前記天井壁(23)と前記長手方向壁(24)とを連結する2つのチャンファ上壁(26)と、それぞれ前記底壁(22)と前記長手方向壁(24)とを連結する2つのチャンファ底壁(25)と、を含むタンク壁を備えており、
前記2つの長手方向壁(24)は互いに平行であると共に、前記船舶(1)の横方向(Z’-Z)において互いに離隔しており、
前記横方向(Z’-Z)は前記船舶(1)の長手方向(X’-X)と鉛直方向(Y’-Y)とに対して直角であり、
前記底壁(22)は、前記船舶(1)の長手方向(X’-X)に対して平行に延在する中央線(31)を有し、
一方の前記チャンファ底壁(25)は底部縁部(32)において前記底壁(22)に接すると共に、中間縁部(33)において隣の前記長手方向壁(24)に接し、
前記底壁(22)の中央線(31)と前記中間縁部(33)の間における前記横方向(Z’-Z)に対して平行な距離Bと、前記底部縁部(32)と前記中間縁部(33)との間における前記横方向(Z’-Z)に対して平行な距離C1と、は、不等式C1≧0.45Bを満たす
ことを特徴とする船舶(1)。
【請求項2】
前記距離Bと前記距離C1とは、不等式C1≧0.60Bを満たす、
請求項1記載の船舶(1)。
【請求項3】
前記密閉断熱タンク(2)は、前記鉛直方向(Y’-Y)に対して平行であると共に前記底壁(22)の中央線(31)を含む対称面(31P)を基準として対称的である、
請求項1又は2記載の船舶(1)。
【請求項4】
前記各タンク壁は多層構造を有し、
前記多層構造は前記密閉断熱タンクの外部から内部に向かって、二次断熱バリアと、当該二次断熱バリアに接して配された二次密閉メンブレンと、当該二次密閉メンブレンに接して配された一次断熱バリアと、当該一次断熱バリアに接して配された一次密閉メンブレンであって前記液化ガスと接触する一次密閉メンブレンと、を備えており、
前記チャンファ底壁(25)は、前記底壁(22)との間に45°に等しい角度(δ)をなすように前記底部縁部(32)において前記底壁に接する、
請求項1から3までのいずれか1項記載の船舶(1)。
【請求項5】
前記船殻(3)の前記底部(4)と前記上甲板(5)との間に位置する複数の中間甲板をさらに備えており、
前記中間甲板は第1の中間甲板(12)を含み、
前記密閉断熱タンク(2)は、前記第1の中間甲板(12)から前記上甲板(5)の上方に向かって前記鉛直方向(Y’-Y)に延在する、
請求項1から4までのいずれか1項記載の船舶(1)。
【請求項6】
前記中間甲板はさらに、前記鉛直方向(Y’-Y)において前記第1の中間甲板(12)の上方に位置する第2の中間甲板(13)を含み、
前記中間縁部(33)は、前記鉛直方向において前記第2の中間甲板(13)と前記上甲板(5)との間に位置する、
請求項5記載の船舶(1)。
【請求項7】
前記密閉断熱タンク(2)を包囲する複数のコファダム壁(40)をさらに備えており、
前記各タンク壁はそれぞれ対向する前記コファダム壁に固定されている、
請求項1から6までのいずれか1項記載の船舶(1)。
【請求項8】
前記コファダム壁は、2つの長手方向コファダム壁(44)と、2つのチャンファコファダム壁(45)と、を含み、
前記密閉断熱タンク(2)の2つの前記各長手方向壁(24)がそれぞれ前記長手方向コファダム壁(44)に固定されており、
前記密閉断熱タンク(2)の2つの前記各チャンファ底壁(25)がそれぞれ前記チャンファコファダム壁(45)に固定されており、
一方の前記チャンファコファダム壁(45)は、中間コファダム縁部(49)において前記長手方向コファダム壁(44)に接し、
前記中間縁部(33)は前記船舶(1)の前記鉛直方向(Y’-Y)において前記中間コファダム縁部(49)の上方にある、
請求項7記載の船舶(1)。
【請求項9】
前記底壁(22)はサンプ(65)を備えており、
前記密閉断熱タンク(2)は、当該密閉断熱タンク(2)の内部容積(21)から液化可燃ガスをベントするポンプを備えており、
前記ポンプは、前記サンプ(65)に入ったポンプヘッドを備えている、
請求項1から8までのいずれか1項記載の船舶(1)。
【請求項10】
マストボディ(60C)及びマストヘッドを有するガスベントマスト(60)をさらに備えており、
前記船舶(1)の長手方向(X’-X)において前記上部構造(6)の後部に、かつ前記船舶(1)の鉛直方向(Y’-Y)において前記密閉断熱タンクの前記天井壁(23)の上方において、前記マストボディ(60C)の第1端(61)が前記船舶(1)に固定されており、
前記マストヘッドは前記マストボディ(60C)の第2端(62)に配置されると共に、前記密閉断熱タンク(2)に入った前記可燃ガスのベントを行える開口(63)を有し、
前記マストボディ(60C)は、前記船舶(1)の長手方向(X’-X)において前記第2端(62)の方が前記第1端(61)より前記上部構造(6)から離れるように傾いている、
請求項1から9までのいずれか1項記載の船舶(1)。
【請求項11】
液化可燃ガスを前記密閉断熱タンク(2)に搬送する少なくとも1つの液化可燃ガス吸入装置(90)をさらに備えており、
前記液化可燃ガス吸入装置(90)は前記上甲板(5)上に、前記船舶(1)の長手方向(X’-X)における前記上部構造(6)の前方に配置され、好適には前記船舶(1)の横方向(Z’-Z)における前記上甲板(5)の側方領域に配置されている、
請求項1から10までのいずれか1項記載の船舶(1)。
【請求項12】
さらに推進システム(80)を備えており、
前記密閉断熱タンク(2)は、前記推進システム(80)に可燃ガスを供給する、
請求項1から11までのいずれか1項記載の船舶(1)。
【請求項13】
前記推進システム(80)は主機関(81)と少なくとも1つの補助機関(82)とを備えており、
前記主機関(81)は前記船殻(3)内において、前記船舶(1)の長手方向(X’-X)における前記密閉断熱タンク(2)の前方に配置されており、
前記補助機関(82)は前記船殻(3)内に、前記船舶(1)の横方向(Z’-Z)において前記主機関(81)より外側に配置されている、
請求項12記載の船舶(1)。
【請求項14】
前記推進システム(80)は、前記主機関(81)及び前記補助機関(82)の両方に連結された燃焼ガスベントダクト(88)を備えており、
前記燃焼ガスベントダクト(88)は、前記船舶(1)の長手方向(X’-X)において前記密閉断熱タンク(2)と前記上部構造(6)との間で前記第2の中間甲板(13)を貫通する、
請求項6を引用する請求項13記載の船舶(1)。
【請求項15】
前記燃焼ガスベントダクト(88)は、前記船舶(1)の長手方向(X’-X)において前記密閉断熱タンク(2)と前記上部構造(6)との間に配置された煙突(8)に合流する、
請求項14記載の船舶(1)。
【請求項16】
前記液化可燃ガスは液化天然ガスである、
請求項1から15までのいずれか1項記載の船舶(1)。
【請求項17】
ばら固体製品を輸送するための少なくとも1つの船倉(9)を、前記船舶(1)の長手方向(X’-X)における前記上部構造(6)の前方に備えている、
請求項1から16までのいずれか1項記載の船舶(1)。
【請求項18】
液化可燃ガスの移送システムであって、
請求項1から17までのいずれか1項記載の船舶(1)と、
前記船舶(1)の前記密閉断熱タンク(2)を浮体式又は沿岸貯蔵設備(77)に連結するように配置された断熱パイプライン(73,79,76,81)と、
前記断熱パイプラインを介して前記浮体式若しくは沿岸貯蔵設備から前記船舶(1)の前記密閉断熱タンク(2)へ又は前記船舶(1)の前記密閉断熱タンク(2)から前記浮体式若しくは沿岸貯蔵設備へ液化可燃ガスの流れを駆動するためのポンプと、
を備えていることを特徴とする移送システム。
【請求項19】
請求項1から17までのいずれか1項記載の船舶(1)の積込みを行うための方法であって、
断熱パイプライン(73,79,76,81)を介して浮体式若しくは沿岸貯蔵設備(77)から前記船舶(1)の前記密閉断熱タンク(2)へ又は前記船舶(1)の前記密閉断熱タンク(2)から前記浮体式若しくは沿岸貯蔵設備(77)へ液化可燃ガスを搬送する
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部構造と、当該上部構造の後部に配置された液化可燃ガス低温貯蔵用の密閉断熱タンクと、を備えた船舶の分野に関するものである。タンクは、船舶の推進用燃料として供される液化可燃ガスを入れるものである。
【0002】
一実施形態では前記液化可燃ガスは、大気圧で約-162℃の温度で貯蔵される高メタン含有率の混合物である液化天然ガス(LNG)である。他の液化可燃ガスも可能であり、特にエタン、プロパン、ブタン、液化石油ガス(LPG)、エチレン、アンモニア、又はメタノール等が可能である。
【背景技術】
【0003】
中国特許第110789663号明細書、韓国公開特許第10-2015-0082929号公報又は中国特許出願公開第108502102号明細書において、LNG貯蔵用の密閉断熱タンクが船舶の上部構造の後部に配置されている船舶が既に提案されている。これにより、海事分野において通常使用されるディーゼル油に代えて主にLNGを用いて、船舶の推進を行うことができ、またその全部をLNGによって行うことも可能であり、これは、特に特定の環境汚染廃棄物を抑え、また、船舶の貨物やペイロードの輸送に用いられてきた場所にタンクを配置することなく上記のことを実現することにより、一定の利点を奏する。
【0004】
しかし、例えば海又は風の状態等の気候条件の影響を受ける海上での船舶の運動は、タンク内の液体の攪拌を引き起こす。かかる液体の攪拌は一般に「スロッシング」と称されるが、タンクの壁に歪みを生じさせ、この歪みがタンクの完全性を損なうことがある。LNGのタンクにおいては、輸送される液体の可燃性又は爆発性の性質と、船舶の鋼製の船殻にコールドスポットが生じるリスクとを理由に、タンクの完全性が特に重要となる。
【0005】
また、上記の文献において提案されている船舶では、2つの異なる要因が存在することにより、スロッシングに起因するタンクの損傷のリスクが増大する。
【0006】
第一の要因は、タンクに入っているLNGは船舶の航行中に徐々に消費されるので、航行の大半の部分においてタンクは完全に満タンではなく完全に空でもない状態になるというものである。また、タンクが完全に満タンでも完全に空でもないことにより、スロッシングに起因する損傷のリスクが増大することも知られている。その理由は、タンクが空の場合にはタンク内に残留する液体の重量が限られ、かかる液体によりタンクの壁には弱い歪みしか生じないのに対し、タンクが満タンの場合には、タンク内のうち液体によって占められていない残留スペースは限られ、これによりタンク内における液体の運動の自由度が比例的に制限され、これによりタンク壁にかかる衝撃の力が制限されるからである。
【0007】
第二の要因は、船舶の後部に配置された上部構造6の後部にタンクを上述のように配置することにより、タンクが船舶のメタセンターから非常に離れた位置に配されることとなることであり、これにより、タンクに入った液体の運動が悪化し、ひいては、この液体の運動によりスロッシングに起因して生じるタンクへの損傷のリスクが悪化する。
【発明の概要】
【0008】
本発明の特定の側面の出発点は、タンクを上部構造の後部に配置することが望ましい場合、このようなタンクの配置によって、スロッシングに起因するタンクの損傷のリスクが増大しないことを保証することが重要であるとの考察である。
【0009】
よって、本発明の基礎となる一思想は、上部構造の後部にタンクを配置した場合であってもスロッシングに起因する損傷にタンクが耐え得る上記の形式の船舶を提案することである。
【0010】
よって、本発明が提案する船舶は、
-前記船舶の長手方向に延在する船殻であって、当該船殻は、底部と、前記船舶の鉛直方向において当該底部から離隔する上甲板と、
-前記長手方向における前記船舶の後部最後の1/4の部分に位置すると共に前記鉛直方向において前記上甲板の上方において延在する上部構造と、
-前記長手方向において前記上部構造の後部に配置された、液化可燃ガスの貯蔵のための密閉断熱タンクと、
を備えており、
前記タンクは、底壁と、当該底壁から離隔した天井壁と、2つの長手方向壁と、それぞれ前記天井壁と前記長手方向壁とを連結する2つのチャンファ上壁と、それぞれ前記底壁と前記長手方向壁とを連結する2つのチャンファ底壁と、を含むタンク壁を備えており、
前記2つの長手方向壁は互いに平行であると共に、前記船舶の横方向において互いに離隔しており、
前記横方向は前記船舶の長手方向と鉛直方向とに対して直角であり、
前記底壁は、前記船舶の長手方向に対して平行に延在する中央線を有し、
一方の前記チャンファ底壁は底部縁部において前記底壁に接すると共に、中間縁部において隣の前記長手方向壁に接し、
前記底壁の中央線と前記中間縁部の間における前記横方向に対して平行な距離Bと、前記底部縁部と前記中間縁部との間における前記横方向に対して平行な距離C1と、は、不等式C1≧0.45Bを満たす。
【0011】
「後部最後の1/4の部分」、「上部構造の後部」との記載はそれぞれ、長手方向における船舶の通常の前進方向を基準とするものとする。「~の前方」との記載も同様に、船舶の上記の前進方向を基準とする。
【0012】
本願出願人は、上記のようなタンク寸法設定により、スロッシングに起因するタンクの損傷のリスクが抑えられる傾向になることを発見した。よって本タンクは、上部構造の後部に配されてもスロッシングに起因する損傷に耐えることができる。
【0013】
複数の実施形態では、上記のような船舶は以下の構成のうち1つ又は複数を備えることができる:
【0014】
一実施形態では、前記距離Bと前記距離C1とは、不等式0.50B≧C1≧0.45Bを満たす。かかる寸法設定により、タンク建造の際にタンク内に足場を設置しやすくなる傾向となる。
【0015】
他の一実施形態では、前記距離Bと前記距離C1とは、不等式C1≧0.60Bを満たす。本願出願人は、上記のようなタンク寸法設定により、スロッシングに起因するタンクの損傷のリスクが非常に顕著に抑えられることを発見した。よって本タンクは、上部構造の後部に配されてもスロッシングに起因する損傷に耐えることが一層可能になる。
【0016】
さらに、タンクのチャンファ底壁が底壁と比較して大きいことにより、船殻内においてチャンファ底壁の下方に、船舶の他の装置を収容できる比較的大きな自由空間を空けることができる。
【0017】
一実施形態では、2つの前記チャンファ底壁が、前記鉛直方向に対して平行であると共に前記底壁の中央線を含む対称面を基準として対称的である。
【0018】
一実施形態では、前記タンクは、前記鉛直方向に対して平行であると共に前記底壁の中央線を含む対称面を基準として対称的である。
【0019】
一実施形態では前記対称面は、前記船舶の長手方向に対して平行に延在する前記船殻の中央平面と一致する。
【0020】
かかる構成により、タンクは対称面を基準として対称的であるだけでなく船舶の船殻に対してセンタリングされることにもなり、これはスロッシングを抑える傾向がある。
【0021】
一実施形態では、前記タンクの前記天井壁の表面積は当該タンクの前記底壁の表面積より大きい。
【0022】
一実施形態では、前記チャンファ底壁は前記底壁との間に45°に等しい角度をなすように前記底部縁部において前記底壁に接する。
【0023】
かかる構成により、メンブレンタンクについて知られている構造でタンク壁を、あるいは最低限でも底壁及びチャンファ底壁を製造することができ、これにより45°の角度での製造が可能になる。さらに、45°に等しい角度とすることにより、船殻内においてチャンファ底壁の下方に大きな自由空間を空けることができる。しかし、上記の角度を他の値にすることも可能である。
【0024】
一実施形態では、一方の前記チャンファ上壁が前記天井壁との間に45°に等しい角度をなすように上部縁部において前記天井壁に接すると共に、第2の中間縁部において隣の前記長手方向壁に接する。
【0025】
一実施形態では、前記底部縁部と前記上部縁部の間における前記船舶の鉛直方向に対して平行な距離Hと、前記第2の中間縁部と前記上部縁部との間における前記船舶の鉛直方向に対して平行な距離C3と、は、不等式C3≧0.17Hを満たす。
【0026】
一実施形態では、前記距離C1は厳密に前記距離C3より大きい。他の一実施形態では、前記距離C1は前記距離C3に等しい。
【0027】
一実施形態では、前記タンク壁はさらに、互いに平行であると共に前記船舶の長手方向において離隔している2つの横方向壁を含む。
【0028】
一実施形態では、前記各タンク壁は多層構造を有し、前記多層構造は前記タンクの外部から内部に向かって、二次断熱バリアと、当該二次断熱バリアに接して配された二次密閉メンブレンと、当該二次密閉メンブレンに接して配された一次断熱バリアと、当該一次断熱バリアに接して配された一次密閉メンブレンであって前記液化ガスと接触する一次密閉メンブレンと、を備えている。
【0029】
一実施形態では、前記船舶はさらに、前記船殻の前記底部と前記上甲板との間に位置する複数の中間甲板をさらに備えており、前記中間甲板は第1の中間甲板を含み、前記タンクは、前記第1の中間甲板から前記上甲板の上方に向かって前記鉛直方向に延在する。
【0030】
かかる構成によって、船舶の構成の他の残りの部分を大きく変更することなく、タンクにおける上甲板の上方に延在する部分の高さを単に変更するだけで、タンクの充填容量を変えることが可能になる。これにより、船舶の要求に応じて船舶の液化可燃ガスが入る容量を適宜調整することが可能になる。
【0031】
一実施形態では、前記中間甲板はさらに、前記鉛直方向において前記第1の中間甲板の上方に位置する第2の中間甲板を含み、前記中間縁部は、前記鉛直方向において前記第2の中間甲板と前記上甲板との間に位置する。
【0032】
一実施形態では前記船舶は、前記タンクを包囲する複数のコファダム壁をさらに備えており、前記各タンク壁はそれぞれ対向する前記コファダム壁に固定されている。
【0033】
コファダム壁は、船舶の船殻に固定されてタンクの全部を包囲し、船殻へのタンクの十分な構造的固定を保証し、タンクの一部が上甲板の上方に配置されるにもかかわらずタンクを外部要素から保護し、タンクからの漏洩事故が生じた場合に船殻と液化可燃ガスとの如何なる接触も防止する構造アセンブリを構成するものである。
【0034】
一実施形態では前記コファダム壁は、2つの長手方向コファダム壁と、2つのチャンファコファダム壁と、を含み、前記タンクの2つの前記各長手方向壁がそれぞれ前記長手方向コファダム壁に固定されており、前記タンクの2つの前記各チャンファ底壁がそれぞれ前記チャンファコファダム壁に固定されており、一方の前記チャンファコファダム壁は、中間コファダム縁部において前記長手方向コファダム壁に接し、前記中間縁部は前記船舶の前記鉛直方向において前記中間コファダム縁部の上方にある。
【0035】
一実施形態では、前記コファダム壁はさらに2つの横方向コファダム壁を含み、前記タンクの前記2つの各横方向壁はそれぞれ前記横方向コファダム壁に固定されている。
【0036】
一実施形態では、前記タンクは、当該タンクの内部容積から液化可燃ガスをベントするポンプを備えている。
【0037】
一実施形態では、前記底壁はサンプを備えており、前記ポンプは、前記サンプに入ったポンプヘッドを備えている。
【0038】
かかる構成により、ポンプによってポンピングできない液化可燃ガスの体積を顕著に低減することができる。
【0039】
一実施形態では前記船舶は、マストボディ及びマストヘッドを有するガスベントマストをさらに備えており、前記船舶の長手方向において前記上部構造の後部に、かつ前記船舶の鉛直方向において前記タンクの前記天井壁の上方において、前記マストボディの第1端が前記船舶に固定されており、前記マストヘッドは前記マストボディの第2端に配置されると共に、前記タンクに入った前記可燃ガスのベントを行える開口を有し、前記マストボディは、前記船舶の長手方向において前記第2端の方が前記第1端より前記上部構造から離れるように傾いている。
【0040】
かかる構成により、タンクに入っている可燃ガスをベントできる上記の開口が、上部構造から可能な限り離れた位置に配されることを保証することができる。このことは、タンクの重大な損傷及び/又は過圧が発生したときに船舶の乗員を保護することに寄与する。
【0041】
一実施形態では前記船舶は、液化可燃ガスを前記タンクに搬送する少なくとも1つの液化可燃ガス吸入装置をさらに備えており、前記液化可燃ガス吸入装置は前記上甲板上に、前記船舶の長手方向における前記上部構造の前方に配置され、好適には前記船舶の横方向における前記上甲板の側方領域に配置されている。
【0042】
一実施形態では、前記タンクの前記天井壁の上部に、ドーム構造を有するタンク接続スペースが設けられており、これに液化可燃ガス装入ダクトが通されて前記タンクの前記天井壁を貫通する。
【0043】
一実施形態では、前記船舶はさらに推進システムを備えており、前記タンクは、前記推進システムに前記可燃ガスを供給する。
【0044】
かかる構成により、主にタンクに入っている液化可燃ガスを燃焼させることで船舶の推進を行うことができ、これにより、船舶用ディーゼル油の燃焼に伴う特定の環境汚染廃棄物が抑えられ、また、船舶の貨物やペイロードの輸送に用いられてきた場所にタンクを配置することなく、上記のことを実現することができる。
【0045】
一実施形態では、前記船舶はさらに、前記タンクの前記天井壁の上方に配置された少なくとも1つのガス管理システムを備えており、前記ガス管理システムは、前記タンクに入った液化可燃ガスを前記推進システムに供給するように構成されている。
【0046】
一実施形態では、前記推進システムは主機関と少なくとも1つの補助機関とを備えており、前記主機関は前記船殻内において、前記船舶の長手方向における前記タンクの前方に配置されており、前記補助機関は前記船殻内に、前記船舶の横方向において前記主機関より外側に配置されている。
【0047】
一実施形態では、前記主機関は、前記第1の中間甲板上と前記第2の中間甲板上とに設けられた主機関室内に、前記タンクの前記対称面の広がりの中で配置されており、前記補助機関は前記第2の中間甲板上に設けられた補助機関室内において、前記船舶の横方向において前記主機関室より外側に配置されている。
【0048】
一実施形態では前記推進システムは、前記主機関及び前記補助機関の両方に連結された可燃ガスベントダクトを備えており、前記可燃ガスベントダクトは、前記船舶の長手方向において前記タンクと前記上部構造との間で前記第2の中間甲板を貫通する。
【0049】
これにより、補助機関と主機関とに由来する燃焼ガスをベントするために必要な配管の全長が抑えられる。
【0050】
一実施形態では、前記燃焼ガスベントダクトは、前記船舶の長手方向において前記タンクと前記上部構造との間に配置された煙突に合流する。
【0051】
一実施形態では、前記液化可燃ガスは液化天然ガスである。一実施形態では前記液化可燃ガスは、エタン、プロパン、ブタン、液化石油ガス(LPG)、エチレン、アンモニア、及びメタノールから構成される群から選択された液化可燃ガスであり、特に、エタン、プロパン、ブタン、液化石油ガス(LPG)及びエチレンから構成される群から選択されたものである。
【0052】
一実施形態では前記船舶は、ばら固体製品を輸送するための少なくとも1つの船倉を、前記船舶の長手方向における前記上部構造の前方に備えている。
【0053】
一実施形態では前記船舶は、前記上甲板を貫通する装入開口を有し、当該装入開口を介して前記船倉内にばら固体製品を装入できるように構成されている。
【0054】
一実施形態では前記船舶は、当該船舶の長手方向において前記上部構造の前方に複数の船倉を備えており、当該船倉は前記船舶の長手方向において互いに離隔しており、複数の前記船倉は、前記上部構造に最も近い船倉を含む。
【0055】
一実施形態では、前記液化可燃ガス吸入装置は前記上甲板上に、前記船舶の長手方向における前記上部構造の前方かつ前記上部構造に最も近い前記船倉の装入開口の後方に配置されている。
【0056】
かかる構成により、液化可燃ガス吸入装置は上部構造の比較的近傍かつ全ての船倉装入開口の後方の比較的近傍に配置されることとなるので、液化可燃ガスをタンクに搬送するパイプラインの長さを抑えることができ、また、液化可燃ガス吸入装置における負荷が落ちるリスクを抑えることができる。
【0057】
一実施形態では、本発明は液化可燃ガスの移送システムを提供するものであり、当該移送システムは上記の船舶と、前記船舶の前記タンクを浮体式又は沿岸貯蔵設備に連結するように配置された断熱パイプラインと、前記断熱パイプラインを介して前記浮体式若しくは沿岸貯蔵設備から前記船舶の前記タンクへ又は前記船舶の前記タンクから前記浮体式若しくは沿岸貯蔵設備へ液化可燃ガスの流れを駆動するためのポンプと、を備えている。
【0058】
一実施形態では本発明は、上記の船舶の積込みを行うための方法を提供するものであり、当該方法は、断熱パイプラインを介して浮体式若しくは沿岸貯蔵設備から前記船舶の前記タンクへ液化可燃ガスを搬送する。
【0059】
添付の図面を参照して、本発明の複数の特定の実施形態についての以下の説明を読めば、本発明をより良好に理解できると共に、本発明の他の目的、詳細、特徴及び利点がより明らかとなる。以下の説明の特定の実施形態はあくまで例示であり、本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】船舶における液化可燃ガス貯蔵用の密閉断熱タンクが設けられた後方部分の断面図であり、当該タンクは、船舶の長手方向における当該船舶の上部構造の後部に配置されている。
図2図1の線 II-II における船舶の断面図である。
図3図1の線 III-III における船舶の断面図である。
図4図1の船舶のタンクの半分の概略的な断面図であり、同図はタンクの寸法設定の重要な量を例示するものである。
図5図1の平面 V に沿った船舶の断面図である。
図6図1の平面 VI に沿った船舶の断面図である。
図7図1の平面 VII に沿った船舶の断面図である。
図8】液化可燃ガス貯蔵用の密閉断熱タンクを備えた船舶と、当該タンクへの積込みを行うためのターミナルと、を示す概略図であり、タンクは船舶の上部構造の後部に配置されている。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下、図1~8を参照して、液化可燃ガス貯蔵用の密閉断熱タンクを備えた船舶1について説明する。このタンクは、船舶1の上部構造の後部に配置されている。
【0062】
図1は、船舶1の後方部分の断面図である。船舶1は同図では、ばら固体製品の輸送用に設計された船舶であるバルク運搬船である。よって、船舶1は自明の通り、当該船舶1の長手方向X’-Xにおける上部構造6の前方に、ばら固体製品を輸送するための1つ又は複数の船倉9を備えている。複数の上記の船倉9は、自明の通り、船舶1の長手方向X’-Xにおいて互いに離隔している。図1には船倉9のうち1つのみが概略的に示されており、すなわち、上部構造6に最も近い船倉9のみが示されている点に留意されたい。自明の通り、各船倉9には、上甲板5を貫通する装入開口99であって当該装入開口99を介してばら固体製品を各船倉9内に導入できる装入開口99からアクセスすることができる。
【0063】
しかし、下記で説明する事項は、船舶が上部構造6を備えていれば、バルク運搬船以外の種類の船舶にも適用可能である。
【0064】
今しがた述べたように、船舶1は、自明の構造の上部構造6を備えており、この上部構造6は、船舶1の長手方向X’-Xにおける当該船舶1の後部最後の1/4の部分に位置する。「後部最後の1/4の部分」、「上部構造6の後部」との記載はそれぞれ、長手方向X’-Xにおける船舶1の通常の前進方向Fを基準とするものとする。「~の前方」との記載も同様に、船舶1の上記の前進方向Fを基準とする。
【0065】
船舶1の船殻3は自明の通り、底部4と、船舶1の鉛直方向Y’-Yにおいて当該底部4から離隔する上甲板5と、を備えており、底部4は場合によっては二重壁であり、上部構造6は鉛直方向Y’-Yにおいて上甲板5の上方において延在する。また、上部構造6は自明の通り、船舶1の乗員のための各種デッキ6Dを覆う構造であると共に、船舶1の乗員が当該船舶1を操縦するための各種装置を収容するブリッジ6Pを上部に備えている。
【0066】
船舶1は密閉断熱タンク2を備えており、以下、密閉断熱タンク2を便宜上「タンク2」と称する。タンク2は液化可燃ガスを貯蔵できるように構成されている。一実施形態では、液化可燃ガスは液化天然ガス(LNG)である。他の液化可燃ガスも可能であり、特にエタン、プロパン、ブタン、液化石油ガス(LPG)、エチレン、アンモニア、又はメタノール等が可能である。タンク2に入っている液化可燃ガスは、推進システム80に供給されるものであり、この推進システム80については、下記にて詳細に説明する。
【0067】
以下、タンク2の構造と、船舶1におけるタンク2の配置とについて詳細に説明する。
【0068】
全般的に、図1図6及び図7に示されているように、タンク2は長手方向X’-Xにおいて上部構造6の後部に配置されている。
【0069】
図1を参照すると、船舶1はさらに、第1の中間甲板11と、第2の中間甲板12と、第3の中間甲板13と、を備えている。これらの中間甲板11,12及び13は底部4と上甲板5との間に延在しており、鉛直方向Y’-Yにおいて互いに離隔している。
【0070】
図1図2及び図3を参照すると、タンク2は第2の中間甲板12から鉛直方向Y’-Yに、上甲板5の上方まで延在している。
【0071】
図2は、図1の平面 II-II に沿った船舶1の断面図であり、図3は、図1の平面 III-III に沿った船舶1の断面図である。従って、両図は船舶1の横方向Z’-Zにおけるタンク2の断面図ということである。横方向Z’-Zは、長手方向X’-Xと鉛直方向Y’-Yとに対して直角の方向である点に留意すべきである。
【0072】
図2及び図3を見ると分かるようにタンク2は、底壁22と、天井壁23と、2つの長手方向壁24と、2つのチャンファ底壁25と、2つのチャンファ上壁26と、を含むタンク壁を備えている。上記のタンク壁は、横方向Z’-Zに対して平行に延在する2つの横方向壁(不図示)と共に、液化可燃ガスを入れるタンク2の内部容積21を画定する。
【0073】
前記の各タンク壁は多層構造を有し、前記多層構造は前記タンクの外部から内部に向かって、二次断熱バリアと、当該二次断熱バリアに接して配された二次密閉メンブレンと、当該二次密閉メンブレンに接して配された一次断熱バリアと、当該一次断熱バリアに接して配された一次密閉メンブレンであって前記液化可燃ガスと接触する一次密閉メンブレンと、を備えている。かかるメンブレンタンクは特に、国際公開第2019/239048号、同第2014/057221号、仏国特許出願公開第号2691520明細書、及び同第2877638号明細書に例示として記載されている。メンブレンタンクは特に、本願出願人が開発した製品GTT(登録商標)Next1、Mark V(商標)、Mark III(商標)及びNO96(登録商標)に従ったものとすることができる。
【0074】
図3を見ると分かる通り、タンク2の天井壁23の上部には「タンク接続スペース」(TCS)50が設けられている。タンク接続スペース50は特にドーム構造29を有し、これに装入ダクト(不図示)が通されて天井壁23を貫通することにより、タンク2に液化可燃ガスが充填される。タンク接続スペース50は、天井壁23を貫通するダクトを船舶1の他の装置に結合する安全な(securise)スペースである。
【0075】
図3には、タンク2の天井壁23の上方に1つ又は複数の「燃料ガス処理システム」(FGHS)51が配置されているのも示されている。燃料ガス処理システム51は自明の通り、図面中に示されていないダクト及びバルブのセットを用いて、タンク2に入っている液化可燃ガスを推進システム80に供給するように構成されている。
【0076】
引き続き図3を参照すると、タンク接続スペース50の上部に「ガスベントマスト」60が設けられており、以下これについて詳細に説明する。
【0077】
自明の通り、タンク2の内部容積21には、タンクの内部容積21からドーム構造29を介して推進システム80へ液化可燃ガスを送るように構成された少なくとも1つのポンプが設けられており、これは図面中に示されていない。ポンプは例えば、タンクの内部容積21内に配置された自明のトリポッドマストによって支持されている。
【0078】
一実施形態では、タンク2の底壁22はサンプ65を備えており、ポンプは、このサンプ65に入ったポンプヘッドを備えている。かかる構成は、ポンプによってポンピングできない液化可燃ガスの体積を顕著に低減することができるので有利である。一変形形態として、図3に示されているように、タンク2は複数のポンプを備えており、底壁22に複数の別々のサンプ65を設けて、これら各サンプ65がそれぞれ対応するポンプのポンプヘッドを受けるように構成することができる。
【0079】
上記のタンク壁は、全体として符号40が付されているコファダム壁のセットによって包囲されており、このコファダム壁は、図2及び図3においてより具体的に視認することができる。各タンク壁はそれぞれ、コファダム壁40のセットのうち対向するコファダム壁に固定されている。
【0080】
より具体的には、コファダム壁40のセットは以下の構成を備える:
-タンク2の底壁22が固定された底部コファダム壁42、
-タンク2の天井壁23が固定された上部コファダム壁43、
-2つの長手方向コファダム壁44。タンク2の各長手方向壁24がそれぞれ長手方向コファダム壁44に固定されている、
-2つのチャンファコファダム壁45。タンク2の各チャンファ底壁25がそれぞれチャンファコファダム壁45に固定されている、
-横方向Z’-Zに対して平行に延在する2つの横方向コファダム壁(不図示)。タンク2の2つの各横方向壁(不図示)はそれぞれ横方向コファダム壁に固定されている。
【0081】
図2及び図3に示されているように、各チャンファコファダム壁45はそれぞれ、中間コファダム縁部49において隣の長手方向コファダム壁44に接している。
【0082】
コファダム壁40のセットは、船舶1の船殻3に固定されてタンク2の全部を包囲し、船殻3へのタンク2の十分な構造的固定を保証し、タンク2の一部が上甲板5の上方に配置されるにもかかわらずタンク2を外部要素から保護し、タンク2からの漏洩事故が生じた場合に船殻3と液化可燃ガスとの如何なる接触も防止する構造アセンブリを構成することが十分理解できる。
【0083】
船舶1の後部に配置された上部構造6の長手方向X’-Xにおける後部にタンク2を上述のように配置することにより、タンク2が船舶1のメタセンター(不図示)から非常に離れた位置に配されることとなる。これにより、タンク2に入った液化可燃ガスの運動が悪化し、ひいては、この液化可燃ガスの運動によりスロッシングに起因して生じるタンク2への損傷のリスクが悪化する。以下では、特に図4を参照して、タンク2が長手方向X’-Xにおける上部構造の後部に配されてもスロッシングに起因する損傷に耐えることができる当該タンク2の構成について説明する。
【0084】
船舶1の長手方向X’-Xに対して平行に延在する底壁22の中央線31を定めることができる。「中央」との用語は、中央線31が底壁22を半分に分割して等しい表面積の2つの半壁を得ることを意味する。図示の例では、中央線31はタンク2の高さ方向の中心軸に相当する。よって、底壁22に対して直角であり中央線31を含む平面31Pは、タンク2の内部容積21を2つの等しい容積の部分に分割する。
【0085】
タンク2の高さ方向の中心軸は場合によっては、図2及び図3に示されているようにドーム構造29を貫通することができる。
【0086】
図2図3及び図4を参照すると、チャンファ底壁25は底部縁部32において底壁22との間に45°に等しい角度δ(図4参照)をなすように底壁22に接している。さらに、チャンファ底壁25は中間縁部33において、隣の長手方向壁24に接している。
【0087】
図2及び図3を参照すると、中間縁部33は鉛直方向Y’-Yにおいて中間甲板13と上甲板5との間に位置することができ、及び/又は、中間縁部33は鉛直方向Y’-Yにおいて中間コファダム縁部49の上方に位置することができる。
【0088】
図4を参照すると、以下のように定義される:
-中央線31と中間縁部33との間における横方向Z’-Zに対して平行な距離B、
-底部縁部32と中間縁部33との間における横方向Z’-Zに対して平行な距離C1、
-底部縁部32と中間縁部33との間における鉛直方向Y’-Yに対して平行な距離C2。
【0089】
距離C1,C2及びBは共に、タンク2のチャンファ底壁25及び底壁22の相対的な寸法であると解される。また、チャンファ底壁25は底部縁部32において底壁22との間に45°に等しい角度δをなすように底壁22に接するので、C1=C2であることが分かる。
【0090】
さらに、距離C1及びBは、不等式C1≧0.60Bを満たすように設定される。
【0091】
タンク2の寸法が今しがた説明したように設定されると、チャンファ底壁25は底壁22より比較的大きくなり、また底壁22に対して45°傾斜することとなる。本願出願人は、かかる構成により、特にタンク2に入った液化可燃ガスがチャンファ上壁26に突進するリスクが抑えられることにより、より一般的には、チャンファ底壁25が液化可燃ガスの衝撃をより多く吸収できるようになることにより、スロッシングに起因してタンク2が損傷するリスクを非常に顕著に抑えることができることを観察した。
【0092】
一変形形態として、距離C1及びBは不等式C1≧0.45Bを満たすように設定され、例えば0.5B≧C1≧0.45Bとなるように設定される。かかる寸法設定は、C1≧0.60Bの場合より抑えられる程度は小さくなるものの、スロッシングに起因してタンク2が損傷するリスクを抑える傾向がある。さらに、上述の寸法設定は、底壁22の表面積がタンク2の建造の際にタンク2内に足場を設置するために十分なものとなることを保証する傾向があり、これにより、上述のような足場を設置しやすくする傾向がある。
【0093】
図面中に示されているように、タンク2又は少なくともチャンファ底壁25は、平面31Pを基準として対称的とすることができる。
【0094】
なお平面31Pは、船舶1の長手方向X’-Xに対して平行に延在する船殻3の中央平面(符号なし)と一致することができる。よって、タンク2は平面31Pを基準として対称的であるだけでなく、船舶1の船殻3を基準としてセンタリングもされており、この構成はスロッシングを抑える傾向がある。
【0095】
また、底部縁部32においてチャンファ底壁25と底壁22とによって形成される角度δは45°以外の値とすることができることに留意されたい。例えば、この角度δの値は約135°程度とすることができ、又は、メンブレンタンクにおいて実現可能な任意の他の値とすることができる。
【0096】
図2図3及び図4を再度参照すると、チャンファ上壁26が上部縁部35において天井壁23との間に45°に等しい角度ζ(図4参照)をなすように天井壁23に接している。さらに、このチャンファ上壁26は中間縁部34において、隣の長手方向壁24に接している。
【0097】
図4を再度参照すると、以下のように定義される:
-底部縁部32と上部縁部35との間における鉛直方向Y’-Yに対して平行な距離H、
-中間縁部34と上部縁部35との間における鉛直方向Y’-Yに対して平行な距離C3、
-中間縁部34と上部縁部35との間における横方向Z’-Zに対して平行な距離C4。
【0098】
距離C3,C4及びHは共に、タンク2のチャンファ上壁26及び天井壁23の相対的な寸法であると解される。また、チャンファ上壁26は上部縁部35において天井壁23との間に45°に等しい角度ζをなすように天井壁23に接するので、C3=C4であることが分かる。
【0099】
さらに、距離C3及びHは、不等式C1≧0.17Hを満たすように設定される。
【0100】
さらに一部の実施形態では、距離C1は厳密に距離C3より大きく、及び/又は、タンク2の天井壁23の表面積は当該タンク2の底壁22の表面積より大きい。
【0101】
他の実施形態では、距離C1は距離C3に等しく、C1=C2=C3=C4とすることもできる。
【0102】
上記にて図面を参照して説明したタンク2の配置はあくまで一例であり、タンク2が長手方向X’-Xにおいて上部構造6の後部に配される限り、タンク2の他の種々の配置が可能である。
【0103】
既に述べたように、タンク接続スペース50の上部に「ガスベントマスト」60が設けられている。例えば国際公開第2019/097131号に記載されているように、マスト60はマスト本体60Cと、当該マスト本体60Cの一端62に配置されたマストヘッド(不図示)と、を有し、マストヘッドには、タンク2に入っている可燃ガスをベントすることができる開口63が設けられており、この構成は自明の事項である。
【0104】
また自明の通り、ガスベントマスト60は、タンク2の重大な損傷及び/又は過圧が発生したときにタンク2に入っている可燃ガスをベントできるように設けられており、また、このようにタンク2内の可燃ガスのベントを行うことによりタンク2の重大な破壊及び/又は爆発を回避するように設けられている。
【0105】
マスト本体60Cの上記の一端62とは反対側の端部61は、タンク2の天井壁23の上方かつ上部構造6の後部において船舶1に固定されている。例えば、図1及び図3に示されているように、端部61はタンク接続スペース50の上方に固定されている。
【0106】
図1を参照すると、マストボディ60Cは、長手方向X’-Xにおいて上記の一端62の方が端部61より上部構造6から離れるように傾いている。かかる構成により、タンク2に入っている可燃ガスをベントできる上記の開口63が、上部構造から可能な限り離れた位置に配され、これにより開口63がデッキ6D及びブリッジ6Pから可能な限り離れた位置となることを保証することができる。このことは、タンク2の重大な損傷及び/又は過圧が発生したときに船舶1の乗員を保護することに寄与する。また、船舶1が前進方向Fに前進しているときにタンク2の深刻な損傷及び/又は過圧が発生した場合、船舶1の慣性に起因する相対風が可燃ガスを上部構造6からさらに押し戻す傾向が生じ、これが乗員の保護にさらに寄与することとなることが分かる。
【0107】
既に述べたように、タンク2に入っている液化可燃ガスは推進システム80に供給されるものである。以下、図1及び図5をより具体的に参照して、推進システム80と船舶1における推進システム80の配置とについて説明する。
【0108】
推進システム80は主機関81を備えている。主機関81は、対応する駆動軸7A(図1参照)を介してプロペラ7を駆動する。主機関81は、タンク2からの液化可燃ガスを消費できるものであれば、いかなる公知の形式のものとすることも可能である。不図示の一部の変形形態では、複数の主機関81を設けることができる。
【0109】
推進システム80はさらに3つの補助機関82(図5参照)を備えている。補助機関82は例えば、船舶1の推進用ターボ電動機(moteur de propulsion turboelectrique)及び/又は船舶1の各種電装品に給電するために使用される発電機である。補助機関82は、タンク2からの液化可燃ガスを消費できるものであれば、いかなる公知の形式のものとすることも可能である。一変形形態として、設ける補助機関82の数を別の数とすることができる。
【0110】
図5を参照すると、主機関81は船殻3内に、長手方向X’-Xにおいてタンク2の前方に配置されている。例えば、主機関81の中心軸をタンク2の上記の平面31Pとアライメントすることができる。また、補助機関82は船殻3内において、横方向Z’-Zにおいて主機関81より外側に配置される。例えば、主機関81は、中間甲板11及び12上に設けられた主機関室121内に、タンク2の平面31Pの広がりの中で配置されており、これに対して補助機関82は中間甲板12上に設けられた補助機関室122内において、横方向Z’-Zにおいて主機関室121より外側に配置されている。
【0111】
今しがた説明した主機関81及び補助機関82の配置により、1つの燃焼ガスベントダクト88(図1参照)を介して主機関81及び補助機関82から出る燃焼ガスのベントを行うことができ、このことにより、燃焼ガスのベントに必要な配管の全長が抑えられる。図1を参照すると、ダクト88は長手方向X’-Xにおいてタンク2と上部構造6との間で中間甲板13を貫通する。図1図5及び図6を参照すると、ダクト88は長手方向X’-Xにおいてタンク2と上部構造6との間に配置された煙突8に合流する。
【0112】
図5を再度参照すると、横方向Z’-Zにおいて主機関室121より外側であって補助機関室122とは反対側に、「船舶用ディーゼル油」を入れるタンク89を設けることができる。
【0113】
図1及び図7を参照すると、タンク2に液化可燃ガスを取り込むために、船舶1に自明の少なくとも1つの液化可燃ガス吸入装置(「バンカーステーション」とも称される)90が設けられている。図示の例では、装置90は横方向Z’-Zにおける船舶1の両側に1つずつ、より具体的には横方向Z’-Zにおける上甲板5の側方領域に1つずつ、全部で2つ設けられている。
【0114】
装置90は上甲板5において、長手方向X’-Xにおける上部構造6の前方に配されている。より具体的には、図示の例では装置90は上甲板5上において、長手方向X’-Xにおける上部構造6の前方かつ上部構造6に最も近い開口99の後部に配される。かかる構成により、タンク2に液化可燃ガスを搬送するパイプライン99Cの長さが抑えられ、装置90における負荷が落ちるリスクが抑えられる。
【0115】
図8を参照すると、上記にて説明した形式の船舶1が、当該船舶1の船殻3内において当該船舶1の上部構造6の後方に搭載された密閉断熱タンク2を備えているのが示されている。自明の通り、LNGの貨物をタンク2へ移送するために適切なコネクタを用いて、船舶積込みパイプラインを海上又は港湾ターミナルに結合することができる。
【0116】
図8は、荷役ステーション75と海中ダクト76と沿岸設備77とを備えた海上ターミナルの一例を示す。荷役ステーション75は、可動アーム74と、当該可動アーム74を支持するタワー78とからなる固定式の沖合設備である。可動アーム74は、船舶の積込みパイプラインに接続可能な断熱可撓パイプ79の束を支持する。方向調整可能なこの可動アーム74は、あらゆる船舶型式に適合する。タワー78の内部には、不図示の連結ダクトが延在する。積込みステーション75は、沿岸設備77から船舶1へのLNG燃料の積込み又は船舶1から沿岸設備77へのLNG燃料の揚げ荷を行えるものである。沿岸設備77は、液化ガス貯蔵タンク80と、海中ダクト76によって積込みステーション75に連結される連結ダクト81と、を備えている。海中ダクト76は、積込みステーション75と沿岸設備77との間で例えば5km等の長距離にわたって液化ガスを移送可能なものであり、これにより、積込み作業中に船舶1を海岸から遠距離の場所に離した状態に維持することができる。
【0117】
液化ガスの移送に必要な圧力を発生させるため、船舶1に搭載されたポンプ及び/又は沿岸設備77に装備されたポンプ及び/又は積込みステーション75に装備されたポンプが使用される。
【0118】
複数の特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明はこれらの特定の実施形態に何ら限定されず、上記の手段の技術的均等物や、上記の手段の技術的に均等な組み合わせは全て、本発明の範囲に属するものであれば本発明に含まれることが明らかである。
【0119】
動詞「含む(include)」又は「含む(comprise)」及びその共役形の使用は、請求項に記載されたもの以外の要素又はステップの存在を排除しない。
【0120】
特許請求の範囲において、いかなる括弧書きの符号も、特許請求の範囲の限定と解すべきものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】