(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】γサブユニットを標的とするミトコンドリアATP阻害剤は転移を予防する
(51)【国際特許分類】
A61K 31/675 20060101AFI20241226BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241226BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20241226BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241226BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
A61K31/675
A61P35/00
A61P35/04
A61P43/00 105
G01N33/53 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538004
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-07-30
(86)【国際出願番号】 IB2022062696
(87)【国際公開番号】W WO2023119232
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519333480
【氏名又は名称】ルネラ・バイオテック・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】リサンティ,マイケル・ピイ
(72)【発明者】
【氏名】ソギア,フェデリカ
(72)【発明者】
【氏名】フィオリロ,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】カンガスメッツァ,ユッシ
(72)【発明者】
【氏名】マウロ・リスカーノ,マルタ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA38
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZB26
(57)【要約】
ミトコンドリアATP合成酵素による多量のATP産生は、特に腫瘍の進行を予防するための、抗癌療法の新たな治療標的である。ミトコンドリアATP合成酵素のγサブユニット(ATP5F1C)を特徴とする、転移に関するミトコンドリア関連遺伝子シグネチャについて説明する。ATP5F1C発現のノックダウンにより、ATP産生、3D足場非依存性成長、及び細胞遊走が大幅に低減される。ベダキリン、又はTPP部分を有するベダキリン誘導体部分の投与は、インビトロでのATP5F1C発現を下方制御し、インビボでの自然転移を予防する。ミトコンドリアATP5F1Cは、転移性疾患の進行の予防のための将来の薬剤開発のための、有望な新規のバイオマーカー及び分子標的である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の体内での腫瘍の再発及び転移のうちの少なくとも一方を治療又は予防するための方法であって、前記方法は:
薬学的有効量の、TPP部分を有するベダキリン誘導体を、前記被験者に投与するステップを含む、方法。
【請求項2】
TPP部分を有する前記ベダキリン誘導体は:
【化1】
であり、ここでm及びnは互いに独立して0~16の整数であり;AはO、N、又はSであり;Xはハロゲン又は薬学的に許容可能なアニオンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
TPP部分を有する前記ベダキリン誘導体は:
【化2】
であり、ここでm及びnは互いに独立して0~16の整数であり;A及びBは互いに独立してO、N、S、又は不在であり;Xはハロゲン又は薬学的に許容可能なアニオンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
TPP部分を有する前記ベダキリン誘導体は:
【化3】
である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
TPP部分を有する前記ベダキリン誘導体は:
【化4】
である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
構造:
【化5】
の化合物であって、
ここでm及びnは互いに独立して0~16の整数であり;AはO、N、又はSであり;Xはハロゲン又は薬学的に許容可能なアニオンである、化合物。
【請求項7】
前記化合物は:
【化6】
である、請求項5に記載の化合物。
【請求項8】
前記化合物は:
【化7】
である、請求項5に記載の化合物。
【請求項9】
構造:
【化8】
の化合物であって、
ここでm及びnは互いに独立して0~16の整数であり;A及びBはO、N、S、又は不在であり;Xはハロゲン又は薬学的に許容可能なアニオンである、化合物。
【請求項10】
患者の体内での腫瘍の転移及び腫瘍の再発を予防する、並びに/又は腫瘍の転移及び腫瘍の再発の可能性を低減するための方法であって、前記方法は:
前記患者から、癌の生物学的試料を得るステップ;
ABCA2、ATP5F1C、COX20、NDUFA2及びUQCRBからなるATP関連転移遺伝子シグネチャの、前記生物学的試料中のバイオマーカーのレベルを決定するステップ、又は前記レベルが決定されていること;
決定された前記レベルを、前記バイオマーカーに関する閾値レベルと比較するステップ:並びに
決定された前記レベルが前記閾値レベルを超える場合、ベダキリン及びTPP部分を有するベダキリン誘導体から選択される活性化合物を含有する、薬学的有効量の組成物を投与するステップを含む、方法。
【請求項11】
TPP部分を有する前記ベダキリン誘導体は、請求項6~9のいずれか1項に記載の化合物である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
癌に罹患した個体を治療する方法であって、
前記方法は:
前記個体に、薬学的有効量の、TPP部分を有するベダキリン誘導体を投与するステップ
を含む、方法。
【請求項13】
TPP部分を有する前記ベダキリン誘導体は、請求項6~9のいずれか1項に記載の化合物である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記癌は乳癌である、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、癌幹細胞(CSC)の転移を予防する、又はその可能性を低減するための、ミトコンドリアATPの阻害に関する。
【背景技術】
【0002】
研究者は、新たな抗癌治療の開発に努力している。従来の癌療法(例えば放射線照射、シクロホスファミド等のアルキル化剤、5‐フルオロウラシル等の代謝拮抗剤)は、細胞成長及びDNA複製に関与する細胞メカニズムを妨害することによって、急速に成長する癌細胞を選択的に検出して根絶することを試みるものであった。他の癌療法は、急速に成長する癌細胞に対して変異型腫瘍抗原を選択的に結合させる免疫療法(例えばモノクローナル抗体)を使用している。残念ながら、これらの療法の後に、同一部位又は1つ以上の異なる部位において腫瘍が再発することが多く、これは全ての癌細胞が根絶されたわけではないことを示している。再発は、不十分な化学療法投与量、及び/又は療法に対して耐性を有する癌クローンの出現が原因である可能性がある。従って新規の癌治療戦略が必要である。
【0003】
変異分析の進歩により、癌の進行中に発生する遺伝子変異の詳細な研究が可能になった。ゲノムのランドスケープの知識があるにもかかわらず、現代の腫瘍学では、癌のサブタイプ全体にわたって一次ドライバの変異を特定するのが困難であった。この厳しい現実は、各患者の腫瘍が一意のものであり、単一の腫瘍が複数の異なるクローン細胞を含む可能性があることによるように思われる。従って必要となるのは、異なる複数の種類の癌の間の共通性に重点を置いた新たなアプローチである。腫瘍細胞と正常な細胞との間の代謝の差異を標的とすることは、新規の癌治療戦略として有望である。ヒト乳癌試料からの転写プロファイリングデータの分析により、ミトコンドリア生合成及び/又はミトコンドリア翻訳に関連する、95を超えるmRNA転写物の上昇が明らかになった(非特許文献1)。更に、95の上方制御されたmRNAのうちの35以上が、ミトコンドリアリボソームタンパク質(ミトコンドリアl ribosomal タンパク質:MRP)をコードする。また同様に、ヒト乳癌幹細胞のプロテオミクス分析により、複数のミトリボソームタンパク質、及びミトコンドリア生合成に関連する他のタンパク質の、有意な過剰発現が明らかになった(非特許文献2)。
【0004】
ミトコンドリアは、細胞の要件を満たし、かつ細胞微小環境に適応するための、定常的な分裂、伸長、及び互いとの接続による管状ネットワーク又は断片化された顆粒の形成において、非常に動的な細胞小器官である。ミトコンドリアの融合と分裂とのバランスは、ミトコンドリアの形態、存在量、機能、及び空間分布を決定し、従って、アデノシン三リン酸(adenosine triphosphate:ATP)産生、マイトファジー、アポトーシス、及びカルシウムの恒常性といった、ミトコンドリア依存性の多くの重要な生物学的プロセスに影響を及ぼす。そして、ミトコンドリアのダイナミクスは、ミトコンドリア代謝、呼吸、及び酸化ストレスによって調節できる。
【0005】
ATPは、原核生物である細菌及び真核生物である酵母といった微生物を含む全ての生細胞及び組織の、普遍的な生体エネルギ「通貨(currency)」である。真核生物では、ミトコンドリア細胞小器官が細胞の「発電所(powerhouse)」として機能する。ミトコンドリアは、TCAサイクル及び酸化的リン酸化(oxidative phosphorylation:OXPHOS)によって多量のATPを生成し、一方で解糖系は少量のATPに寄与する。反対に、ミトコンドリアの機能不全はATP枯渇を誘導し、ミトコンドリア駆動型アポトーシス(プログラム細胞死)及び/又は壊死をもたらす。従って本発明者らは、ATP枯渇療法が、「最も適合した(fittest)」癌細胞さえも標的にして根絶するための、実行可能な戦略となり得ることを提案している。
【0006】
MCF7乳癌細胞では、正常酸素圧条件下において、ミトコンドリア駆動型OXPHOSはATP産生の80~90%に寄与し、一方で解糖系は残りの10~20%に寄与する。従って通常の細胞と同様に、癌細胞はミトコンドリアATP産生に強く依存する。しかしながら、癌細胞中のATPレベルが、転移拡大の2つの特徴である3D足場非依存性成長及び細胞遊走に寄与しているかどうかは、依然としてほとんど分かっていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Sotgia et al., Cell Cycle, 11(23):4390‐4401 (2012)
【非特許文献2】Lamb et al., Oncotarget, 5(22):11029‐11037 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の目的は、抗癌療法のための、特に腫瘍の進行を予防するための、新規の治療標的を特定することである。本開示の別の目的は、特に腫瘍の再発及び/若しくは転移を予防する、並びに/又はその可能性を低減するために、抗癌活性を有する化合物を特定することである。本開示の別の目的は、上記治療標的に関連するコンパニオン診断薬を提供することである。
【0009】
上述の背景に鑑みて、本開示の目的は、CSC、特に腫瘍の再発及び/又は転移の原因となるCSCを根絶するために使用できる治療剤を説明することである。本開示の更なる目的は、腫瘍の再発及び/又は転移を含む癌の治療及び予防のための、医薬組成物等の組成物と方法とを説明することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ベダキリン(サチュロとして公知)は、薬剤耐性結核の治療に臨床使用されるFDA承認済み抗生物質である。ベダキリンは当初、マイコバクテリアのATP合成酵素のみに影響を及ぼすと考えられていたが、本発明者らの研究により、ベダキリンが酵母及びヒトのミトコンドリアATP合成酵素も強力に阻害することが示された。高解像度クライオEMでの研究により、ベダキリンが、トルク伝達に決定的に関与するミトコンドリアATP合成酵素の回転軸を形成するγサブユニット(ATP5F1C)に直接結合し、最終的にATP合成に必要な機械化学的エネルギを提供することが示された。
【0011】
本明細書に示されているように、ATP5F1Cへのベダキリンの結合は、生細胞中のATP5F1Cの分解を引き起こす。ベダキリンは、時間依存性及び濃度依存性の両方の様式で、ミトコンドリアATP枯渇を伴うATP5F1Cタンパク質発現の下方制御を誘導する。更に、ベダキリン治療によって誘導されるATP枯渇は、非腫瘍形成性ヒト細胞(MCF10A)又はニワトリ胚において有意な毒性を示すことなく、インビボでの自然転移を効果的にブロックする。
【0012】
本発明のアプローチでは、ミトコンドリアATP合成酵素のγサブユニット(ATP5F1C)が、腫瘍の再発及び/又は転移を含む攻撃的な癌細胞の挙動を軽減するための新規の治療標的として特定される。
【0013】
本明細書に記載されるのは、癌細胞のATP枯渇を誘導するための、FDA承認済み薬剤である、ベダキリンとしても知られる(1R,2S)‐1‐(6‐ブロモ‐2‐メトキシキノリン‐3‐イル)‐4‐(ジメチルアミノ)‐2‐ナフタレン‐1‐イル‐1‐フェニルブタン‐2‐オール、及びその誘導体の使用である。実験室での実験では、ベダキリンはMDA‐MB‐231乳癌細胞のATP枯渇を効果的に誘導した。例えばベダキリンでの8日間の処理は、腫瘍成長に影響を及ぼすことなく、インビボ異種移植片モデルにおいて自然転移の開始を予防するために、十分なものであった。ベダキリン及びその特定の誘導体は、ミトコンドリアATP合成酵素のγサブユニットであるATP5F1Cを特異的に標的とする。この標的は、ATP5F1Cが機能的バイオマーカーであり、転移の予防のための治療標的であることと一致している。
【0014】
本明細書には、トリフェニルホスホニウム(triphenylphosphonium:TPP)部分を有するベダキリン誘導体も記載される。これらの誘導体化合物はCSCのATP枯渇を誘導し、腫瘍の再発及び/若しくは転移を効果的に予防し、並びに/又はその可能性を効果的に低減する。上記ベダキリン誘導体はベダキリンよりも強力であり、CSCに対して選択的であり、正常で健康な細胞に対して無毒である。
【0015】
本発明のアプローチは、腫瘍の再発及び/又は転移の治療及び/又は予防のためにも使用できる。抗癌治療は多くの場合、特に手術後の腫瘍の再発又は転移を理由として失敗する。CSCのミトコンドリア活性は、少なくとも部分的に、これらの治療の失敗の原因を招くものであると理解されている。本発明のアプローチの実施形態は、腫瘍の再発及び/若しくは転移による治療の失敗を予防する、又はその可能性を低減するために、従来の癌療法が失敗する状況で、及び/又は抗癌治療と共に若しくは抗癌治療の前に使用できる。
【0016】
本発明のアプローチのいくつかの実施形態は、被験者の体内での腫瘍の再発及び転移のうちの少なくとも一方を治療又は予防するための方法の形態を取ることができる。上記方法は、薬学的有効量のベダキリン又はTPP部分を有するベダキリン誘導体を上記被験者に投与するステップを含む。様々なベダキリン誘導体が開示される。
【0017】
いくつかの実施形態では、本発明のアプローチは、患者の体内での腫瘍の転移及び腫瘍の再発を予防する、並びに/又はその可能性を低減するための方法の形態を取ることができる。上記患者から、癌の生物学的試料を得ることができる。ABCA2、ATP5F1C、COX20、NDUFA2及びUQCRBからなるATP関連転移遺伝子シグネチャの、上記生物学的試料中のバイオマーカーのレベルを決定し、閾値レベルと比較できる。決定された上記レベルが上記閾値レベルを超える場合、ベダキリン又はTPP部分を有するベダキリン誘導体を含有する薬学的有効量の組成物を投与できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】
図1Aは、ATP関連遺伝子(OXPHOS及びATP関連トランスポーター)の転写プロファイルを比較するヒートマップを示す。
【
図1B】
図1B、1Cはそれぞれ、GSE2034 GEOデータセット及びGSE59000 GEOデータセットのボルケーノプロットを示す。
【
図1C】
図1B、1Cはそれぞれ、GSE2034 GEOデータセット及びGSE59000 GEOデータセットのボルケーノプロットを示す。
【
図1D】
図1Dは、上記2つのGEOデータセットの交差を示すベン図である。
【
図1E】
図1Eは、ATP5F1Cと相関する遺伝子の表である。
【
図2A】
図2A~2Cはそれぞれ、ER(+)無再発生存(relapse‐free survival:RFS)、ER(+)無遠隔転移生存(distant metastasis‐free survival:DMFS)、及びER(+)LN陰性・タモキシフェン処理済みRFSに関するKMプロットである。
【
図2B】
図2A~2Cはそれぞれ、ER(+)無再発生存(relapse‐free survival:RFS)、ER(+)無遠隔転移生存(distant metastasis‐free survival:DMFS)、及びER(+)LN陰性・タモキシフェン処理済みRFSに関するKMプロットである。
【
図2C】
図2A~2Cはそれぞれ、ER(+)無再発生存(relapse‐free survival:RFS)、ER(+)無遠隔転移生存(distant metastasis‐free survival:DMFS)、及びER(+)LN陰性・タモキシフェン処理済みRFSに関するKMプロットである。
【
図3】
図3は、MCF7及びT47Dデータセットにおけるタンパク質のベン図を示し、各データセットにおける上方制御されたATP関連タンパク質の表を含む。
【
図4】
図4は、Tet‐Onシステムにおいて、ATP5F1Cを標的とするshRNAをコードするレンチウイルスベクターで安定的に形質導入された、MDA‐MB‐231細胞のウエスタンブロット分析を示す。
【
図5A】
図5A~5Dは、ATP産生、細胞遊走、及び3D足場非依存性成長における、ATP5F1Cノックダウンの結果を示す。
【
図5B】
図5A~5Dは、ATP産生、細胞遊走、及び3D足場非依存性成長における、ATP5F1Cノックダウンの結果を示す。
【
図5C】
図5A~5Dは、ATP産生、細胞遊走、及び3D足場非依存性成長における、ATP5F1Cノックダウンの結果を示す。
【
図5D】
図5A~5Dは、ATP産生、細胞遊走、及び3D足場非依存性成長における、ATP5F1Cノックダウンの結果を示す。
【
図6】
図6は、様々な濃度のベダキリンで処理されたMDA‐MB‐231 2D細胞単層のウエスタンブロット分析を経時的に示す。
【
図7】
図7は、対照と、ベダキリンで処理されたMDA‐MB‐231細胞との間で、BioTracker ATP‐Redの倍数変化(信号の平均)を比較したものである。
【
図8A】
図8A、8Bはそれぞれ、10μMのベダキリンで処理されたMDA‐MB‐231及びMCF10A細胞の単層成長を経時的に示す。
【
図8B】
図8A、8Bはそれぞれ、10μMのベダキリンで処理されたMDA‐MB‐231及びMCF10A細胞の単層成長を経時的に示す。
【
図9A】
図9Aは、ベダキリンの異なる複数の濃度(0.1、1.0、及び10μM)に関する、腫瘍様塊形成アッセイの結果を示す。
【
図9B】
図9Bは、ベダキリンで処理されたMDA‐MB‐231細胞の細胞周期の各段階の細胞のパーセンテージを示す。
【
図9C】
図9C、9Dはそれぞれ、対照、及びベダキリンで処理された細胞に関する、代表的なFACSトレースを示す。
【
図9D】
図9C、9Dはそれぞれ、対照、及びベダキリンで処理された細胞に関する、代表的なFACSトレースを示す。
【
図9E】
図9Eは、ベダキリンで処理されたMDA‐MB‐231細胞の遊走の代表的な画像を示し、
図9Fは対照と比較した上記遊走を表す。
【
図9F】
図9Eは、ベダキリンで処理されたMDA‐MB‐231細胞の遊走の代表的な画像を示し、
図9Fは対照と比較した上記遊走を表す。
【
図10A】
図10A~10Cは、ベダキリン(1、及び10μM)又はビヒクルのみで処理されたMDA‐MB‐231細胞に関する、それぞれ48、72、及び120時間後の、細胞周期集団を示す。
【
図10B】
図10A~10Cは、ベダキリン(1、及び10μM)又はビヒクルのみで処理されたMDA‐MB‐231細胞に関する、それぞれ48、72、及び120時間後の、細胞周期集団を示す。
【
図10C】
図10A~10Cは、ベダキリン(1、及び10μM)又はビヒクルのみで処理されたMDA‐MB‐231細胞に関する、それぞれ48、72、及び120時間後の、細胞周期集団を示す。
【
図10D】
図10D~10Fは、生細胞/死細胞分析の結果を示す。MDA‐MB‐231細胞をベダキリン(1及び10μM)又はビヒクルのみで48、72、及び120時間処理した後、FACSによる生/死分析に供した。
【
図10E】
図10D~10Fは、生細胞/死細胞分析の結果を示す。MDA‐MB‐231細胞をベダキリン(1及び10μM)又はビヒクルのみで48、72、及び120時間処理した後、FACSによる生/死分析に供した。
【
図10F】
図10D~10Fは、生細胞/死細胞分析の結果を示す。MDA‐MB‐231細胞をベダキリン(1及び10μM)又はビヒクルのみで48、72、及び120時間処理した後、FACSによる生/死分析に供した。
【
図10G】
図10Gは、120時間の処理後の、MDA‐MBにおけるPARP及びp21タンパク質発現に対するベダキリン(0、0.1、1、及び10μM)の影響のウエスタンブロット分析の結果を示す。
【
図11B】
図11Bは、CAMアッセイの各処理について生存している卵の個数を示し、
図11Cは同じデータを生存率として示す。
【
図11C】
図11Bは、CAMアッセイの各処理について生存している卵の個数を示し、
図11Cは同じデータを生存率として示す。
【
図11D】
図11Dは各処理後の平均腫瘍重量を示し、
図11Eは、対照と比較した場合の、各処理についての転移の相対量を示す。
【
図11E】
図11Dは各処理後の平均腫瘍重量を示し、
図11Eは、対照と比較した場合の、各処理についての転移の相対量を示す。
【
図12】
図12は、ベダキリンと、TPP部分を有する2つのベダキリン誘導体とに関する、腫瘍様塊形成アッセイの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の記述は、本発明のアプローチの実施形態を、本発明のアプローチを実践できるようにするために十分に詳細に説明する。本発明のアプローチはこれらの具体的実施形態を参照して記述されるが、本発明のアプローチは異なる形態で具現化できることが理解されるものとし、また本記述を、いずれの添付の請求項を本明細書に記載される具体的実施形態に限定するものとして解釈してはならない。むしろこれらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完全なものとなり、本発明のアプローチの範囲を当業者に十分に伝えるものとなるように、提供されている。
【0020】
本記述は、当該技術分野の通常の技能を有する者には理解されるはずの様々な用語を使用している。以下の説明は、誤解を避けるために行われるものである。
【0021】
用語「癌(cancer)」は、典型的には非制御下の細胞成長を特徴とする、哺乳類の生理学的状態を指す。この定義は、良性癌及び悪性癌を含む。癌の例としては、複数のタイプの癌、リンパ腫、芽腫(髄芽腫及び網膜芽細胞腫を含む)、肉腫(脂肪肉腫及び滑膜肉腫を含む)、神経内分泌腫瘍(カルチノイド腫瘍、膵島細胞腫瘍を含むがこれに限定されないガストリン産生腫瘍)、肉腫、シュワン細胞腫(聴神経腫瘍を含む)、髄様癌、腺癌、黒色腫、及び白血病若しくはリンパ球腫瘍が挙げられる。癌の具体例としては、膀胱癌、扁平上皮癌(squamous cell carcinoma)、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌、肺の扁平上皮癌(squamous epithelial cancer)を含む肺癌、腹膜癌、肝細胞癌、消化管癌又は胃癌(stomach cancer)を含む胃癌(gastric cancer)、膵臓癌、膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝臓癌、乳癌(転移性乳癌を含む)、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌又は子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌(kidney cancer又はrenal cancer)、前立腺癌、生殖器癌、甲状腺癌、肝臓癌、肛門癌、陰茎癌、精巣癌、食道癌、胆管腫瘍、頭頸部癌、及び複数の骨髄腫が挙げられる。
【0022】
本明細書中で使用される場合、用語「腫瘍(tumor)」は、新生物細胞の成長及び増殖を指し、上記新生物細胞は、良性であるか悪性であるかにかかわらず、前癌性及び癌性の細胞及び組織を含む。
【0023】
用語「転移(metastasis)」は、癌がその原発位置から体内の他の部分に広がることを指す。癌細胞は原発腫瘍から離脱してリンパ管及び血管に侵入し、血流を循環して、体内の他の場所の正常組織において、離れた病変として成長する又は「転移する(metastasize)」ことができる。複数の転移が局所的なものである場合もあれば、離間している場合もある。転移は、腫瘍細胞が原発腫瘍から離脱して血流を通って移動し、離れた部位で停止することを必要とする、一連のプロセスである。この新たな部位において、細胞が血液の供給を確立して成長し、生命を脅かす塊を形成する可能性がある。腫瘍細胞内の刺激性分子経路及び阻害性分子経路の両方がこの挙動を制御しており、また離れた部位における腫瘍細胞と宿主細胞との間の相互作用も重要である。
【0024】
用語「治療する(treat)」、「治療された(treated)」、「治療している(treating)」、及び「治療(treatment)」は、治療対象の状態、障害若しくは疾患、特に癌に関連する又はこれによって引き起こされる少なくとも1つの症状、減少又は改善を含む。特定の実施形態では、治療は、治療対象の癌に関連する又はこれによって引き起こされる少なくとも1つの症状を、本発明の化合物によって減少させる、及び/又は改善することを含む。いくつかの実施形態では、治療は、宿主の体内の特定の癌の、あるカテゴリの細胞、例えば転移又は再発に関与する可能性があるCSCの死を引き起こすことを含み、これは、例えばこれらの細胞からエネルギ生成メカニズムを奪うことによって、癌細胞の更なる伝播を防止すること、及び/又はCSC機能を阻害することにより、達成できる。例えば治療は、癌の1つ若しくは複数の症状の減少、又は癌の完全な根絶を含むことができる。別の例として、本発明のアプローチは、癌のミトコンドリア代謝の阻害、癌のCSCの根絶(増殖速度より速い速度での殺滅)、癌のTICの根絶、癌の循環腫瘍細胞の根絶、癌の増殖の阻害、CSCの標的化及び阻害、循環腫瘍細胞の標的化及び阻害、転移の防止又はその可能性の低減、再発の防止、化学療法剤に対する癌の増感、放射線療法に対する癌の増感、光線療法に対する癌の増感に使用できる。
【0025】
腫瘍の再発及び/又は転移の文脈において、用語「…を予防する(prevent)」、及び「…の可能性を低減する(reduce the likelihood of)」は、被験者の体内において、再発又は転移に関与する可能性が高いCSC、TIC、及び循環腫瘍細胞の存在を、腫瘍の再発及び/又は原発部位からの転移の可能性が対照(即ち腫瘍の再発及び/若しくは転移を予防する、又はその可能性を低減するための治療が行われない場合)に比べて低くなるレベルまで、減少させることを指す。実際には、本明細書に記載の、腫瘍の再発及び/若しくは転移の予防並びに/又はその可能性の低減のための治療は、CSC、TICを標的としてこれらを阻害又は根絶し、循環腫瘍細胞を阻害する。
【0026】
用語「癌幹細胞(cancer stem cell)」及び「CSC」は、動物宿主に移植されたときに自己複製、分化、及び腫瘍形成の能力を有する、腫瘍内の癌細胞の亜集団を指す。「大部分の(bulk)」癌細胞に比べて、CSCはミトコンドリア質量が大きく、ミトコンドリア生合成が強化され、ミトコンドリアタンパク質翻訳がより活性化されている。本明細書中で使用される場合、「循環腫瘍細胞(circulating tumor cell)」は、原発腫瘍から血管系又はリンパ管へと流れ、血液循環において身体中に運ばれる癌細胞である。CellSearch Circulating Tumor Cell Testを用いて、循環腫瘍細胞を検出できる。
【0027】
本明細書中で使用される場合、句「薬学的有効量(pharmaceutically effective amount)」は、タンパク質キナーゼ活性の調節、調整、若しくは阻害、例えばタンパク質キナーゼの活性の阻害、又は癌の治療といった治療的結果を達成するために、宿主に、又は宿主の細胞、組織、若しくは器官に投与する必要がある量を指す。当該技術分野の通常の技能を有する医師又は獣医師は、当該技術分野において公知でありかつ利用可能な方法を用いて、所与の被験者に必要な医薬組成物の有効量を容易に決定及び処方できる。例えば医師又は獣医師は、医薬組成物中に含まれる本発明の化合物の用量を、所望の治療効果を得るために必要なレベル未満で開始して、所望の効果が達成されるまで投薬量を漸増させることができる。
【0028】
本明細書中で使用される場合、句「活性化合物(active compound)」は、本明細書に記載のベダキリン又はベダキリン誘導体化合物を指し、これは、その薬学的に許容可能な塩、又は同位体類似体を含む場合がある。1つ以上の活性化合物は、当該技術分野の通常の技能を有する者には公知であるように、いずれの好適なアプローチによって被験者に投与できることを理解されたい。また、活性化合物の量及びその投与のタイミングは、治療対象の個々の被験者(複数の因子の中でも特に例えば年齢及び体重)、投与の方法、1つ以上の特定の活性化合物の薬物動態特性、並びに処方する医師の判断に左右され得ることを理解されたい。よって、被験者間のばらつきにより、本明細書に記載のいずれの投薬量は、初期ガイドラインとすることを目的としたものであり、医師は、該医師が被験者に関して適当であると考える治療を達成するために、化合物の用量を滴定できる。所望の治療の程度を考えて、医師は、被験者の年齢及び体重、既存の疾患の存在、並びに他の疾患の存在といった多様な因子のバランスを取ることができる。以下で更に詳細に説明されるように、医薬製剤は、限定するものではないが経口、静脈内、又はエアロゾル投与を含む、いずれの所望の投与経路のために調製できる。
【0029】
本明細書中で使用される場合、句「薬学的に許容可能なキャリア(pharmaceutically acceptable carrier)」は、薬学的に許容可能な材料、組成物、又はビヒクル、例えば液体若しくは固体充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、又はカプセル化材料を意味する。各キャリアは、製剤中の他の成分と適合し、また患者に害を与えないという意味で、「許容可能(acceptable)」でなければならない。薬学的に許容可能なキャリアとして機能できる材料のいくつかの例としては:(1)乳糖、ブドウ糖、ショ糖等の糖;(2)トウモロコシデンプン、バレイショデンプン等のデンプン;(3)カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、酢酸セルロース等の、セルロース及びその誘導体;(4)粉末トラガント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)タルク;(8)カカオバター、座薬用ワックス等の賦形剤;(9)落花生油、綿実油、紅花油、胡麻油、オリーブ油、トウモロコシ油、大豆油等の油;(10)プロピレングリコール等のグリコール;(11)グリセリン、ソルビトール、マンニトール、ポリエチレングリコール等のポリオール;(12)オレイン酸エチル、ラウリン酸エチル等のエステル;(13)寒天;(14)水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の緩衝剤;(15)アルギン酸;(16)パイロジェン非含有水;(17)等張生理食塩水;(18)リンゲル液;(19)エチルアルコール;(20)リン酸緩衝生理食塩水;並びに(21)医薬品製剤に採用されている他の非毒性の適合性物質が挙げられる。
【0030】
本明細書中で使用される場合、用語「誘導体(derivative)」は、言及されている化学部分に由来する、又は言及されている化学部分から合成される化学部分である。例えば本発明のアプローチによる化合物は、ベダキリン誘導体と呼ばれる場合があり、6‐ブロモ位又はジメチルアミノにおいてコンジュゲートしたTPP部分を有する。
【0031】
本明細書中で使用される場合、「トリフェニルホスホニウム(triphenylphosphonium)」又は「TPP」部分は、(例えばCl-又はBr-との)塩において以下のように示される、リンの第4級親油性カチオンP+、及び3つのフェニル基(置換又は非置換であってよい)である。
【0032】
【0033】
TPPカチオンは、小分子に結合した場合にミトコンドリア内に蓄積される能力があるため、小分子治療剤をミトコンドリアに対して標的化するために使用できる。全てのTPPコンジュゲートがこのように動作するわけではなく、一部のコンジュゲートでは、ミトコンドリアの取り込みは非共役治療剤に比べて、増加したとしてもわずかしか増加しないことを理解されたい。
【0034】
ベダキリン、及びTPP部分を有する特定のベダキリン誘導体を用いて、腫瘍の再発及び/又は転移の治療及び/又は予防のためにCSCを選択的に根絶できる。ベダキリンは、活動性結核、特に多剤耐性結核を治療するために現在使用されている薬剤であり、FDA承認済みである。機序としては、ベダキリンはマイコバクテリアのATP合成酵素のプロトンポンプをブロックする。細胞のエネルギ産生はATP産生に依存しており、ATP産生の喪失はマイコバクテリアの成長の阻害をもたらす。
【0035】
本明細書に記載されているように、インビトロ実験により、ベダキリンが悪性の哺乳類細胞のミトコンドリアATP合成酵素も標的とし、腫瘍の再発及び転移の率を低下させることが示されている。本発明のアプローチでは、薬学的有効量のベダキリン又は本明細書に記載のTPP部分を有するベダキリン誘導体を、癌を有する被験者に投与することによって、腫瘍の再発及び/又は転移を治療及び/又は予防できる。例えば、成人である被験者の治療に関するいくつかの実施形態では、400mgのベダキリンを錠剤の形態で1日1回、1~2週間にわたって投与してよく、続いて600mgのベダキリンを、これもまた錠剤の形態で、週3回、更に1~2週間にわたって投与してよい。この例示的な用量は、成人の多剤耐性結核の治療に現在使用されている。本発明のアプローチにおいて腫瘍の再発及び/又は転移の治療及び/又は予防に使用されるベダキリンの薬学的有効量は、当該技術分野において公知であるように、被験者(例えば年齢、体重、健康状態等)に応じて変動し得る。TPP部分を有するベダキリン誘導体に関わる本発明のアプローチの実施形態では、腫瘍の再発及び/又は転移の治療及び/又は予防に使用される薬学的有効量は、ベダキリンの薬学的有効量より少なくなる。薬学的有効量の決定は、本開示を検討した当業者にとって通常のレベルの技能の範囲内であると考えられる。治療サイクルは、結核の治療のための治療サイクルと同一若しくは同様であってよく、又は特定の実施形態、使用されるベダキリン誘導体、及び当該技術分野において公知の他の要因に応じて異なっていてもよいことを理解されたい。
【0036】
本発明者らは、まず癌細胞におけるATP合成の役割を探索し、次に癌細胞におけるATP産生の阻害の影響を分析することによって、本発明のアプローチを開発した。ATP阻害のための標的遺伝子の特定後、本発明者らは、腫瘍様塊形成アッセイ及び鶏卵絨毛尿膜(chick chorioallantoic membrane:CAM)アッセイといった様々なアッセイを用いて、様々な化合物をATP阻害活性に関して評価した。これ以降の段落は、ATP合成の役割の生物情報学的分析について説明する。この議論では、ミトコンドリアATP合成酵素のγサブユニットであるATP5F1Cの、癌転移における重要性を取り上げる。ATP5F1C遺伝子はミトコンドリアATP合成酵素のサブユニットをコードする。ミトコンドリアATP合成酵素は、酸化的リン酸化中に内膜を横断するプロトンの電気化学的勾配を用いて、ATP合成を触媒する。ミトコンドリアATP合成酵素の触媒部分は、5つの異なるサブユニット(α、β、γ、δ、ε)からなる。この遺伝子は、触媒コアのγサブユニットをコードする。
【0037】
本発明者らは、ミトコンドリアATP合成が3D足場非依存性成長及び転移の重要な決定因子であることを、生物情報学的アプローチを用いて決定した。最初のステップとして、GEO転写プロファイリングデータセットを分析して、トリプルネガティブ乳癌(triple‐negative breast cancer:TNBC)細胞株であるMDA‐MB‐231細胞の、2D成長、3D成長、及びインビボ腫瘍成長を比較した。ヒートマップが生成され、これらは、両方の3D成長条件(足場非依存性腫瘍及びインビボ腫瘍)下では、全て2D接着性成長に比べて、ATP関連遺伝子が転写的に上方制御されたことを強調するものである。
【0038】
図1Aは、過去にNCBIデータベースに寄託されていたGSE36953 GEOプロファイリングデータセットを用いてATP関連遺伝子(OXPHOS及びATP関連トランスポーター)の転写プロファイルを比較したヒートマップを示す。ヒートマップは典型的には、多数の比較可能な試料(例えば状態が異なる細胞、異なる複数の患者からの試料)をDNAマイクロアレイから得る際に、これらを横断して多数の遺伝子の発現のレベルを表現するために、分子生物学で使用される。ヒートマップは通常カラーで表示され、緑色の陰影は負の対数倍数変化(fold change:FC)値を示し、赤色の陰影は正の対数FC値を示す。陰影が明るくなるほど対数FCは大きくなる。PCT規則11.13により、
図1Aは白黒で表示される。
図1Aのカラーバージョンでは、緑色は、2D細胞に関するものである1列目に主に表示され、赤色の陰影は、3D及び異種移植片細胞に関するものである2列目及び3列目に主に表示される。
図1Aでは、より明るい陰影は、対数FCの絶対値がより大きいことを表しており、1列目の2D細胞は負の対数FCを示したことが分かる。全てのRNAは2D接着性成長、3D足場非依存性成長、及びインビボ腫瘍成長という3つの異なる成長条件下で、TNBC細胞株であるMDA‐MB‐231細胞から調製された。Affymetrix Human Genome U133 Plus 2.0 Arrayを用いて分析を実施した。ヒートマップは、QIAGEN OmicSoft Suite Softwareを用いて生成された。-4<対数FC>+4のヒートマップスケールバーが示されている。両方の3D成長条件(足場非依存性腫瘍及びインビボ腫瘍)下では、全て2D接着性成長に比べて、ATP関連遺伝子が転写的に上方制御されたことに留意されたい。
【0039】
ATP関連遺伝子(OXPHOS及びATP関連トランスポーター)の転写的発現を、ヒト乳癌の転移に関連する2つの別個のGEOデータセットで検査し、転移のバイオマーカーとして機能するATP関連遺伝子が明らかになった。
図1B、1Cはそれぞれ、GSE2034 GEOデータセット及びGSE59000 GEOデータセットのボルケーノプロットを示す。これらのタイプのプロットは通常、上述のヒートマップと同様にカラーである。白黒では、0の左側の陰影は(負の相関を示す)緑色を表し、0の右側の陰影は(正の相関を示す)赤色を表す。GSE2034は、乳癌の転移を乳癌の転移なしと比較する。GSE59000は、乳癌の転移を乳癌の原発腫瘍と比較する。これらのボルケーノプロットは、OncoLand Metastatic Cancer(QIAGEN OmicSoft Suite)中に存在するアノテーションを検査し、未補正のp値カットオフ<0.05でアノテーションが付された遺伝子に対して、Ingenuity Pathway Analysis Software(IPA;QIAGEN)を用いて機能的「コア分析(core analysis)」を実施することによって、作成された。両方のGEOデータセットにおいて、ATP関連遺伝子(OXPHOS及びATP関連トランスポーター)の転写プロファイルが増大し、転移に特に関連していたことに留意されたい。
【0040】
図1Dは、ABCA2、ATP5F1C、COX20、NDUFA2及びUQCRBからなる5メンバーのATP関連転移遺伝子シグネチャをもたらす、上記2つのGEOデータセットの交差を示すベン図である。
図1Eは、ATP5F1Cと相関する遺伝子の表である。最も注目すべき点として、ATP5F1C(ATP5C1としても公知)は、ミトコンドリアATP合成酵素である複合体Vの可溶性F1触媒コアのγサブユニットをコードする。
【0041】
真の(bona‐fide)乳癌転移病変では、ATP5F1Cの転写的発現は:i)5個の転移マーカー遺伝子(EPCAM、MKI67、RRP1B、VCAM1、CXCR4);ii)4個の細胞周期調節遺伝子(CDK1、CDK2、CDK4、CDK6);及びiii)11個の癌幹細胞(CSC)マーカー遺伝子(CDH1、ALDH2、ALDH1BA1、ALDH9A1、SOX2、VIM、CDH2、ALDH7A1、ALDH1B1、CD44、ALDH3B2、統計的有意性のランク順に列挙)の共発現と正の相関を有する。以下の表1~12は、ATP5F1Cと相関する様々な遺伝子群の発現データを示す。確認できるように、ATP5F1Cの転写的発現は、ミトコンドリア複合体I~V、mt‐DNAによってコードされる転写物、並びに上記5メンバー転移遺伝子シグネチャの他の3つのメンバー、即ちUQCRB、COX20、及びNDUFA2の共発現とも正の相関を有する。
【0042】
【表1】
Correlated Gene 相関する遺伝子
Cytoband サイトバンド
Spearman's... スピアマンの相関係数
p-Value p値
q-Value q値
表1.ATP5F1Cと相関する複合体I遺伝子転写物
【0043】
【表2】
Correlated Gene 相関する遺伝子
Cytoband サイトバンド
Spearman's... スピアマンの相関係数
p-Value p値
q-Value q値
表2.ATP5F1Cと相関する複合体II遺伝子転写物
【0044】
【表3】
Correlated Gene 相関する遺伝子
Cytoband サイトバンド
Spearman's... スピアマンの相関係数
p-Value p値
q-Value q値
表3.ATP5F1Cと相関する複合体III遺伝子転写物
【0045】
【表4】
Correlated Gene 相関する遺伝子
Cytoband サイトバンド
Spearman's... スピアマンの相関係数
p-Value p値
q-Value q値
表4.ATP5F1Cと相関する複合体IV遺伝子転写物
【0046】
【表5】
Correlated Gene 相関する遺伝子
Cytoband サイトバンド
Spearman's... スピアマンの相関係数
p-Value p値
q-Value q値
表5.ATP5F1Cと相関する複合体5遺伝子転写物
【0047】
【表6】
Correlated Gene 相関する遺伝子
Cytoband サイトバンド
Spearman's... スピアマンの相関係数
p-Value p値
q-Value q値
表6.ATP5F1Cと相関する全ATP遺伝子転写物
【0048】
【表7】
Correlated Gene 相関する遺伝子
Cytoband サイトバンド
Spearman's... スピアマンの相関係数
p-Value p値
q-Value q値
表7.ATP5F1Cと相関するmt‐DNA遺伝子転写物
【0049】
【表8】
Correlated Gene 相関する遺伝子
Cytoband サイトバンド
Spearman's... スピアマンの相関係数
p-Value p値
q-Value q値
表8.ATP5F1Cと相関するABC遺伝子転写物
【0050】
【表9】
Correlated Gene 相関する遺伝子
Cytoband サイトバンド
Spearman's... スピアマンの相関係数
p-Value p値
q-Value q値
表9.ATP5F1Cと相関する乳癌幹細胞マーカー遺伝子転写物
【0051】
【表10】
Correlated Gene 相関する遺伝子
Cytoband サイトバンド
Spearman's... スピアマンの相関係数
p-Value p値
q-Value q値
表10.ATP5F1Cと相関する転移マーカー遺伝子転写物
【0052】
【表11】
Correlated Gene 相関する遺伝子
Cytoband サイトバンド
Spearman's... スピアマンの相関係数
p-Value p値
q-Value q値
表11.ATP5F1Cと相関する細胞周期遺伝子転写物
【0053】
同様に、この転移遺伝子シグネチャの2つのメンバー、即ちATP5F1C及びUQCRBの発現は、最大酸素摂取量(VO2max)、及びヒト骨格筋組織における高い割合の(ミトコンドリアが豊富な)Type 1線維と機能的に相関していた。骨格筋におけるATP5F1Cの発現は、運動トレーニング後にも大幅に増大するが、これは患者の筋肉の健康状態の向上を反映している。反対に、ATP5F1Cレベルは加齢と共に低下し、早老症患者で減少した。これらの結果は、ATP5F1Cの発現が多いことが、細胞レベルでのミトコンドリアATP産生の増大のバイオマーカーであることを強く示唆している。
【0054】
カプランマイヤー(Kaplan‐Meier:K‐M)分析を用いて、ATP5F1Cが、特に診断時にリンパ節陰性でありかつタモキシフェンで治療されたER(+)患者(HR(RFS)=2.77;P=3.4E‐06;N=471)の、遠隔転移及び腫瘍の再発の予後バイオマーカーとなることが決定された。
図2A~2Cはそれぞれ、ER(+)無再発生存(「RFS」)、ER(+)無遠隔転移生存(「DMFS」)、及びER(+)LN陰性・タモキシフェン処理済みRFSに関するKMプロットである。ハザード比(hazard ratio:HR)がこれらの図に示されている。ATP5F1Cに対してK‐M分析を実施するために、オープンアクセスのオンライン生存分析ツールを用いて、乳癌患者からの公的に利用可能なマイクロアレイデータを調査した。このアプローチにより、腫瘍の再発のマーカーとしてのATP5F1Cの直接的なインシリコ検証が可能になった。
【0055】
更に本発明者らは、既存のGEOデータセットを用いて、ATP関連遺伝子及びOXPHOS遺伝子が患者の乳癌循環腫瘍細胞(circulating tumor cell:CTC)の転写バイオマーカーであることを決定した。GSE55470からのATP‐ABC及びOXPHOS遺伝子のヒートマップを用いて、CTCの高いATP含有量が、全血中のCTCを特定及び追跡するためのバイオマーカーとして有用となり得ることを決定した。これにより、癌の診断を改善して転移の広がりを予防できる可能性がある。
【0056】
また本発明者らは、2つの別個のER(+)乳癌細胞株、即ちMCF7及びT47Dの2D単層を3D腫瘍様塊と比較する既存のプロテオミクスプロファイリングデータを再調査した。全体として、これら2つの細胞株の1519個の共通のタンパク質のうち21個のATP関連タンパク質が、両方のデータセットにおいて3D腫瘍様塊で上方制御されていることが分かった。
図3は、両方のデータセットにおけるタンパク質のベン図を示し、各データセットにおける上方制御されたATP関連タンパク質の表を含む。これら21個のATP関連タンパク質から、ATP5F1B、ATP5F1C、ATP5IF1、ATP5MG、ATP5PB、ATP5PD、及びATP5POを含む、ミトコンドリアATP合成酵素の7個のサブユニットが検出された。
図3は、2つのER(+)乳癌細胞株(MCF7及びT47D)のプロテオミクスプロファイルを2D接着性成長条件及び3D足場非依存性成長条件下で比較するベン図である。共有されるATP関連遺伝子産物(OXPHOS及びATP関連トランスポーター)が、ベン図の下に列挙されている。1519個の共通のタンパク質のうち、21個のATP関連タンパク質が両方のデータセットで上方制御されていることが分かった。Ingenuity Pathway Analysis Software(IPA;QIAGEN)を用いて機能的「コア分析」を実施することによって、プロテオミクスデータを調査した。
【0057】
これらを総合すると、生物情報学的分析によって、ミトコンドリアATP合成の増加が、3D足場非依存性成長及び転移の重要な推進因子となり得ることが確認される。この確認と矛盾しないものとして、ATP5F1Cタンパク質発現の、shRNAを標的としたノックダウンによって、ATP産生、細胞遊走、及び3D足場非依存性成長が阻害されることを決定した。
【0058】
本発明者らはATP5F1Cを、癌の転移の臨床バイオマーカーとして特定した。潜在的な治療標的としての機能的関連性を更に検証するために、shRNAアプローチを用いて、単一のレンチウイルスベクターに組み込まれたTet‐Onシステムを利用することにより、ATP5F1Cの発現を誘導的に下方制御した。
図4は、Tet‐Onシステムにおいて、ATP5F1Cを標的とするshRNAをコードするレンチウイルスベクターで安定的に形質導入された、MDA‐MB‐231細胞のウエスタンブロット分析である。3つの異なるshRNA構築物(a、b、c)を試験した。並行してMDA‐MB‐231細胞もshRNA対照ベクターで形質導入した。ドキシサイクリン(10μM)での処理による48時間のshRNA誘導の後、ATP5F1Cのレベルをウエスタンブロットアッセイで評価した。+DOXに関する結果の周りの明灰色のボックスによって示されているように、shRNA構築物cのみがATP5F1C発現レベルの誘導性下方制御を示したことに留意されたい。結果として、shRNA対照と比較して、構築物cで形質導入した細胞だけを更なる実験に使用した。
【0059】
図4はこのアプローチを用いて、低レベルのドキシサイクリンを使用することによって、ATP5F1Cの発現が誘導的に良好に下方制御されることを示している。重要なことには、ATP5F1Cの発現を除去するこの遺伝学的アプローチを用いることにより、ATP5F1Cの喪失が、i)ATP産生、ii)細胞遊走、及びiii)3D足場非依存性成長を表現型的に阻害するために十分なものであることが示される。
【0060】
図5A~5Dは、ATP産生、細胞遊走、及び3D足場非依存性成長における、ATP5F1Cノックダウンの結果を示す。まず
図5Aは、対照とATP5F1Cノックダウンとの間で、BioTracker ATP‐Redの倍数変化(信号の平均)を比較したものである。誘導されたATP5F1Cの下方制御により、ATPレベルはshRNA対照に比べて約45%低下する。対応のないt検定、**p<0.005。
図5Bは、対照及びATP5F1Cノックダウンの両方についての、16時間後の細胞遊走の代表的な画像を示す。
図5Cはデータを対照のパーセンテージとして示す。確認できるように、誘導されたATP5F1Cの下方制御により、細胞遊走はshRNA対照に比べて約65%ブロックされる。MDA‐MB‐231細胞はドキシサイクリン(10μM)の存在下で32時間培養され、ドキシサイクリンの存在下で16時間にわたってTranswellに移された。対応のないt検定、**p<0.005。
図5Dは、腫瘍様塊形成アッセイの結果を示す。確認できるように、ATP5F1Cのノックダウンにより、3D足場非依存性成長が阻害される。誘導されたATP5F1Cの下方制御により、3D腫瘍様塊形成はshRNA対照に比べて約50%ブロックされる。対応のないt検定、***p<0.0005。
【0061】
上記データは、ATP5F1Cが腫瘍の再発及び転移の治療のための好適な標的であることを実証している。本発明者らは、ベダキリン又はベダキリンの特定のコンジュゲートによるATP5F1Cの標的化により、ATP産生、細胞遊走、3D足場非依存性成長、及び転移がインビボで予防されることを決定した。ベダキリン(下記の構造[1])は、多剤耐性結核(TB)の治療のために保存されているFDA承認済み抗生物質である。これについては、2009年3月3日発行の米国特許第7,498,343号、及び2013年10月1日発行の米国特許第8,546,428号で更に説明されており、これらの特許文献は参照によりその全体が本出願に援用される。化学的には、ベダキリンはマイコバクテリアATP合成酵素を機序的に阻害する。しかしながら、本明細書に記載の研究は、ベダキリンがヒトミトコンドリアATP合成酵素にも特異的に結合し、その活性を強力に阻害することを強調するものである。超微細構造的には、詳細なクライオEMでの研究により、ベダキリンの結合部位が、ミトコンドリアATP合成酵素のγサブユニット、即ちATP5F1Cと密接に接触しているCリング(ATP5G1/2/3)との、直接の接触を含むことが示された。
【0062】
【0063】
ベダキリンがATP5F1Cにその場で結合することにより、タンパク質の分解が誘導される。
図6は、ベダキリン(0、0.1、1、及び10μM)で処理されたMDA‐MB‐231 2D細胞単層の、4つの時点(インキュベーション24、48、72、及び120時間)におけるウエスタンブロット分析を示す。ATP5F1Cタンパク質発現のレベルは、ビヒクル単独の(DMSO)対照に比べて、特に10μMのベダキリンにおいて持続的に低下したことに留意されたい。これらの結果は、ATP5F1Cの発現がベダキリン処理に応答して下方制御されたことを示す。この効果は、時間及び濃度の両方に依存するものであった。
【0064】
更に、ベダキリン処理によって誘導されたATP5F1Cの発現の喪失は、最大75%のミトコンドリアATPの枯渇をもたらした。
図7は、対照と、ベダキリンで処理されたMDA‐MB‐231細胞との間で、BioTracker ATP‐Redの倍数変化(信号の平均)を比較したものである。確認できるように、ベダキリンはミトコンドリアATPの産生を減少させる。ミトコンドリアATPレベルを特異的に検出するためにBioTracker ATP‐Red 1を用いて評価すると、ベダキリンは10μMの濃度において、MDA‐MB‐231細胞のミトコンドリアATP産生を時間依存的に有意に阻害したことに留意されたい。120時間の処理で75%という最大の阻害が観察された。
図7のデータは二元配置分散分析、Sidak多重比較検定に基づくものであり、*p<0.05、**p<0.005、***p<0.0005、****p<0.0001である。
【0065】
ベダキリンによって誘導されるATP枯渇は、2D単層でのMDA‐MB‐231細胞の成長も阻害したが、非腫瘍原性ヒト乳房上皮細胞株であるMCF10A細胞には影響を及ぼさなかった。
図8A、8Bはそれぞれ、10μMのベダキリンで処理されたMDA‐MB‐231及びMCF10A細胞の単層成長を経時的に示す。ベダキリンは10μMの濃度において、MDA‐MB‐231細胞の2D成長を時間依存的に効果的に阻害する。正常対照ヒト乳房上皮細胞株と考えられるMCF10Aでは影響が観察されなかった。対応のないt検定、*p<0.05、**p<0.005。これは、ベダキリンでの処理が腫瘍原性細胞に対して選択的であることを示す。
【0066】
更に、ベダキリンによって誘導されるATP枯渇は、MDA‐MB‐231細胞の3D足場非依存性成長及び細胞遊走も阻害し、同様にベダキリン処理は、おそらくS期のレベルで作用して細胞周期の進行をブロックすることによって細胞死を誘導するために十分なものであった。
図9Aは、ベダキリンの異なる複数の濃度(0.1、1.0、及び10μM)に関する、腫瘍様塊形成アッセイの結果を示す。3D腫瘍様塊形成の阻害は濃度依存性であり、ベダキリンは濃度10μMにおいて、MDA‐MB‐231細胞での3D腫瘍様塊形成を約65%、効果的にブロックする。一元配置分散分析、Dunnett多重比較検定、**p<0.005、***p<0.0005。
【0067】
ベダキリンによるATP枯渇はDNA合成も阻害し、細胞死を誘導する。
図9Bは、ベダキリンで処理されたMDA‐MB‐231細胞の細胞周期の各段階の細胞のパーセンテージを示す。120時間の処理後、S期のMDA‐MB‐231細胞は1/2に減少し、同時にSub‐G0~G1集団が2倍に増加した。二元配置分散分析、Sidak多重比較検定、ns=有意でない(not significant)、***p<0.0005。
図9C、9Dはそれぞれ、対照、及びベダキリンで処理された細胞に関する、代表的なFACSトレースを示す。
【0068】
ベダキリンでの処理は細胞遊走も阻害する。
図9Eは、ベダキリンで処理されたMDA‐MB‐231細胞の遊走の代表的な画像を示し、
図9Fは対照と比較した上記遊走を表す。確認できるように、ベダキリンはMDA‐MB‐231細胞遊走を約50%ブロックする。MDA‐MB‐231細胞はベダキリン(10μM)の存在下で32時間培養され、ベダキリン(10μM)の存在下で16時間にわたってTranswellに移された。対応のないt検定、**p<0.005。
【0069】
更なる細胞周期の分析によって、MDA‐MB‐231細胞のベダキリン処理が、用量及び時間依存的に、S期の細胞の集団を有意に減少させて細胞死を増加させることが示されている。
図10A~10Cは、ベダキリン(1、及び10μM)又はビヒクルのみで処理されたMDA‐MB‐231細胞に関する、それぞれ48、72、及び120時間後の、細胞周期集団を示す。細胞周期の分析はFACSを用いて実施された。48時間の時点では影響は検出されなかった。しかしながら、72時間及び120時間の時点では、S期集団の減少、及びこれと同時のSub‐G0~G1集団の増加を、
図10B、10Cにおいて確認できる。二元配置分散分析、Sidak多重比較検定、ns=有意でない、*p<0.01、**p<0.001、***p<0.0005。
【0070】
図10D~10Fは、生細胞/死細胞分析の結果を示す。MDA‐MB‐231細胞をベダキリン(1及び10μM)又はビヒクルのみで48、72、及び120時間処理した後、FACSによる生/死分析に供した。48時間の時点では影響は検出されなかった。しかしながら、72時間及び120時間の時点(
図10E、10F)では、生細胞集団の減少及び死細胞集団の増加を確認できる。しかしながら、アポトーシス細胞集団(早期又は後期)の増加は認められなかった。これは細胞死が壊死によるものであったことを示唆する。二元配置分散分析、Sidak多重比較検定、ns=有意でない、*p<0.01、**p<0.001、***p<0.0005。
【0071】
図10Gは、120時間の処理後の、MDA‐MBにおけるPARP及びp21タンパク質発現に対するベダキリン(0、0.1、1、及び10μM)の影響のウエスタンブロット分析の結果を示す。PARP及びp21が濃度依存的に減少したことに留意されたい。βアクチンを同等の負荷の対照として使用した。
【0072】
次に、インビボ活性を試験するために、十分に確立されているCAMアッセイをMDA‐MB‐231細胞と共に用いて、腫瘍の成長、自然転移、及び胚毒性に対するベダキリンの影響を測定した。
図11Aは、CAMアッセイのタイムラインを示す。1×10
6個のMDA‐MB‐231細胞の接種物を各卵のCAMに加えた(E9日目)後、卵を複数のグループにランダムに分けた。E10日目に腫瘍は検出可能となり、これらの腫瘍を、ビヒクルのみ(PBS中の1%DMSO)、又はベダキリンで8日間毎日処置した。薬剤投与の8日後のE18日目に全ての腫瘍を計量し、CAMの下部を回収して、ヒトAlu配列に対して特異的なプライマを用いたqPCRによって分析される転移細胞数を評価した。各薬剤投与の前に、生きたニワトリ胚と死んだニワトリ胚との個数をスコア化することにより、治療忍容性を評価した。
【0073】
図11Bは、各処理について生存している卵の個数を示し、
図11Cは同じデータを生存率として示す。このデータは、ベダキリン処理が、インビボで試験された全ての濃度において、ニワトリ胚に対して有毒ではなかったことを示す。
図11Dは各処理後の平均腫瘍重量を示す。ベダキリンは腫瘍成長に対して統計的に有意な影響を及ぼさなかった。しかしながら、ひときわ対照的なことには、ベダキリンは自然転移を用量依存的に阻害し、阻害は最大で、120μMでの処理における84%であった。
図11Eは、対照と比較した場合の、各処理についての転移の相対量を示す。上記結果は、ベダキリンによるミトコンドリアATP合成酵素の薬理学的標的化は、ATP枯渇を誘導することにより、毒性を引き起こすことなく腫瘍細胞の転移を選択的に予防できることを示す。
【0074】
ベダキリンは、塩の形態(例えばフマル酸ベダキリン)及び遊離塩基の形態で利用可能であることを理解されたい。CSCでのミトコンドリアATP枯渇の誘導に関しては、後者は前者よりも効果的となり得る。相対的な有効性及び最低阻害濃度についての更なる評価が進行中である。
【0075】
上で議論されているデータは、非共役ベダキリン化合物に関するものである。ベダキリンはTPP部分とコンジュゲートして、ミトコンドリアの取り込みを増大させ、その結果として化合物の阻害強度を高めることができることに留意されたい。このTPP部分により、治療剤をより効果的にミトコンドリア膜に浸透させて、細胞ミトコンドリアに蓄積させることができる。更に、CSCの代謝の上昇により、ベダキリン‐TPPコンジュゲートは、正常で健康な細胞よりもCSCに対する優先を示すようになる。初期評価は、本明細書に記載のベダキリン誘導体の有効性が、非共役ベダキリン化合物と比較した場合に10%から1桁以上改善されていることを示している。例えば、以下に記載の構造[2B]、及び[3B]を有するベダキリン誘導体の初期評価は、これらのベダキリン誘導体が、ATP枯渇の誘導、腫瘍様塊の形成の阻害、及び自然転移の阻害に関して、非共役ベダキリンの少なくとも2~5倍強力であることを示している。
【0076】
一般にTPP部分は、リンカーを介してカルボン酸エステルに結合でき、ベダキリン構造のキノリンの利用可能な任意の位置に、置換基として付加できる。好ましくは、上記TPP部分はキノリンの6炭素に結合する。例えばいくつかの実施形態では、上記TPP部分は、構造のキノリン部分における臭素の置換により、連結基を介してコンジュゲートできる。以下の一般構造[2A]は、6炭素位置にTPP部分を有するベダキリンを示し、ここでm及びnは互いに独立してそれぞれ0~16の整数であり;AはO、N、又はSであり;Xはハロゲン又は薬学的に許容可能な他の任意のアニオンである。
【0077】
【0078】
いくつかの好ましい実施形態では、n及びmは互いに独立して3~16、より好ましくは4~14、更に好ましくは4~10であってよい。以下に示す構造[2B]は、nが4であり、mが11であり、AがOであり、XがBrであり、それによってTPP部分がカルボン酸エステルリンカーを介してベダキリンとコンジュゲートする、ある好ましい実施形態を示す。IUPAC命名法における構造[2B]の名称は、12‐[4‐[3‐[(1R,2S)‐4‐(ジメチルアミノ)‐2‐ヒドロキシ‐2‐(1‐ナフチル)‐1‐フェニル‐ブチル]‐2‐メトキシ‐6‐キノリル]ブトキシ]‐12‐オキソ‐ドデシル]‐トリフェニル‐ホスホニウム臭化物である。
【0079】
【0080】
いくつかの実施形態では、上記TPP部分は、炭酸塩、カルバメート、又は尿素を介して、アルキルリンカーによって、構造のキノリン部分の利用可能な任意の位置にコンジュゲートできる。以下に示す一般構造[3A]は、キノリンの6炭素位置に結合したTPP部分を有するベダキリンを示し、ここでm及びnは互いに独立して0~16の整数であり;A及びBは互いに独立してO、N、若しくはS、又は不在であり;Xはハロゲン又は薬学的に許容可能な他の任意のアニオンである。
【0081】
【0082】
以下に示す構造[3B]は、nが4であり、mが5であり、AがOであり、Bが不在であり(従って一般構造[2A]の産物にも類似している)、XがClであり、それによってTPP部分がベダキリンとコンジュゲートする、ある好ましい実施形態を示し、本明細書では「TPP部分を有するベダキリン誘導体」とも呼ばれる。
【0083】
【0084】
構造[3B]は、ATPの阻害、3D腫瘍様塊の形成の阻害、転移の相対量の低減といった特性(即ちCAMアッセイによる特性)において、非共役ベダキリンに比べて少なくとも2~5倍の有意な改善を示す。比較用の腫瘍様塊形成アッセイの結果を
図12に示し、以下で議論する。
【0085】
本発明のアプローチは上で示されているリンカーに限定されないことを理解されたい。いくつかの実施形態は、以下に示す一般構造[4]を有する化合物の形態を取ることができ、ここでRは、一端がTPP部分で、他端がカルボキシル末端で終了し、リンカー上のヘテロ原子とカルボキシルアミド、エステル、又はチオエステルとして共有結合を形成する、いずれのC1~C9アルキル、アルキルシクロアルキル、シクロアルキル、アルキルアリール、アリール、アルキルヘテロアリール、ヘテロアリール、アルキルヘテロシクロ、ヘテロシクロであってよい。
【0086】
【0087】
リンカーは上記のものであってよい。あるいはリンカーは、以下の非排他的な例から選択してもよい:
【0088】
【0089】
ここでm及びnは互いに独立して0~16の整数である。このような実施形態では、TPP部分とアルキル鎖とを接続するカルボキシルはリンカー上のヘテロ原子と反応して、場合に応じてエステル、アミド、又はチオエステルを形成できる。
【0090】
本明細書に記載の共役化合物は、当該技術分野において公知の一般的な合成技法を用いて、ベダキリンから合成できることを理解されたい。ベダキリンから始まる例示的な合成スキームを以下に記載する。
【0091】
【化9】
Dioxane ジオキサン
Intermediate 1 中間物1
【0092】
中間物1、(1R,2S)‐1‐[6‐[4‐[tert‐ブチル(ジメチル)シリル]オキシブチル]‐2‐メトキシ‐3‐キノリル]‐4‐(ジメチルアミノ)‐2‐(1‐ナフチル)‐1‐フェニル‐ブタン‐2‐オールの合成を確認した;LC‐MS 663.7 [M+H]+、RT 5.57分。
【0093】
【化10】
Intermediate 1 中間物1
Intermediate 2 中間物2
【0094】
中間物2、((1R,2S)‐4‐(ジメチルアミノ)‐1‐[6‐(4‐ヒドロキシブチル)‐2‐メトキシ‐3‐キノリル]‐2‐(1‐ナフチル)‐1‐フェニル‐ブタン‐2‐オールの合成を確認した;LC‐MS 549.2 [M+H]+、RT 4.62分。
【0095】
【化11】
Intermediate 2 中間物2
【0096】
上記の例示的な合成スキームにより、IUPAC命名法における名称が[6‐[4‐[3‐[(1R,2S)‐4‐(ジメチルアミノ)‐2‐ヒドロキシ‐2‐(1‐ナフチル)‐1‐フェニル‐ブチル]‐2‐メトキシ‐6‐キノリル]ブトキシ]‐6‐オキソ‐ヘキシル]‐トリフェニル‐ホスホニウム;塩化物である構造[3B]が得られる。構造[3B]の合成を確認した;LC‐MS 907.6 [M+H]+、RT 4.33分。
【0097】
構造[2B]及び[3B]の化合物の早期評価により、これらのベダキリン誘導体が、ATP枯渇、腫瘍様塊の形成の阻害、及び自然転移の阻害において、非共役ベダキリンの少なくとも5倍強力であることが示されている。
図12は、0.5μM~10μMの範囲の濃度でベダキリンと構造[2B]及び構造[3B]のベダキリン誘導体とを比較した、腫瘍様塊形成アッセイの結果を示す。確認できるように、TPP部分を有する上記ベダキリン誘導体は、試験した全ての濃度において非共役ベダキリンよりも強力である。これらのベダキリン誘導体はいずれも、より高い濃度において優れた腫瘍様塊形成阻害を示し、非共役ベダキリンと比較して数倍の上昇を示した。
【0098】
このアプローチに使用できる他のATP合成酵素阻害剤としては、レスベラトロール、トランスレスベラトロール、クエルセチン、ピセアタンノール、Bz423(7‐クロロ‐1,3‐ジヒドロ‐5‐(4‐ヒドロキシフェニル)‐1‐メチル‐3‐(2‐ナフタレニルメチル)‐2H‐1,4‐ベンゾジアゼピン‐2‐オンとしても公知)、及びGboxin(酸化的リン酸化阻害剤、2‐エチル‐1‐メチル‐3‐[2‐[[(1R,2S,5R)‐5‐メチル‐2‐(1‐メチルエチル)シクロヘキシル]オキシ]‐2‐オキソエチル]‐1H‐ベンズイミダゾリウムとしても公知)が挙げられる。
【0099】
本明細書中で開示されるデータは主に乳癌細胞株に基づくものであるが、本発明のアプローチの化合物は他のタイプの癌に対しても有効性を有する。以前の研究において本発明者らは、ミトコンドリア生合成阻害剤が、複数の腫瘍タイプからの広範な細胞株において、腫瘍球形成を良好に阻害することを実証した。以下の表12は、ミトコンドリア生合成阻害剤に対する感受性を有することが示されている癌細胞株を列挙している。これは、広範なタイプの癌が、腫瘍の再発及び転移を含む成長に関して、ATPに強く依存していることを示す。従って、これらのタイプの癌のCSCにおけるATP産生を阻害することにより、腫瘍様塊の形成が阻害され、結果として腫瘍の再発及び/又は転移が予防及び/又は低減されると期待される。従って、これらの結果からすると、本発明のアプローチは多くのタイプの癌に有効である。
【0100】
【表12】
表12.ミトコンドリア生合成の阻害は、広範なタイプの癌に対して有効である。
【0101】
これ以降の段落は、本明細書に記載のデータを生成するために使用した材料及びアッセイを説明する。当該技術分野の通常のレベルの技能を有する者であれば、本明細書に記載されたものと同じアッセイを実施でき、並びに/又は当該技術分野において公知の他のアッセイを利用して、本明細書に記載の化合物の物理的、化学的、及び薬学的特性を評価できることを理解されたい。
【0102】
生物情報学的分析:MCF7及びT47D乳癌細胞株を用いて、2D単層と3D腫瘍様塊とを比較する不偏ラベルフリープロテオミクスを実施した。本発明のアプローチから逸脱することなく、他の細胞株を使用してもよいことを理解されたい。情報学的分析は、NCBIデータベースにアーカイブされている、3D成長、転移、及び循環腫瘍細胞(CTC)に関連する、公的に利用可能な多様なGEOデータセット(GSE36953;GSE2034;GSE59000;GSE55470)を用いて実施した。これらのGEOデータセットから遺伝子発現プロファイリングデータを抽出した。QIAGEN OmicSoft Suite Softwareを用いてヒートマップを生成した。OncoLand Metastatic Cancer(QIAGEN OmicSoft Suite)中に存在するアノテーションを検査することにより、ボルケーノプロットを生成した。更に、アノテーションが付された遺伝子に対して、Ingenuity Pathway Analysis Software(IPA;QIAGEN)を用いて機能的「コア分析」を実施した。cBioPortal(https://www.cbioportal.org/)を用いて、The Metastatic Breast Cancer Project Provisional(2020)から遺伝子共発現プロファイルを抽出し、146人の患者からの転移性乳癌試料のRNAシーケンシングによって、mRNA発現プロファイリング(RNA Seq V2 RSEM)を実施した。
【0103】
ATP5F1Cに対してカプランマイヤー(K‐M)分析を実施した。オープンアクセスのオンライン生存分析ツールを用いて、最高3,951人の乳癌患者からの公的に利用可能なマイクロアレイデータを調査した。この目的のために、ER(+)患者からのデータを分析した。偏りのあるアレイデータは分析から除外した。これにより、ATP5F1C(ATP5C1としても公知)を、重要な予後マーカーとして特定できた。自動選択された最も良好なカットオフでハザード比を計算し、ログランク検定を用いてp値を計算して、Rでプロットした。K‐M曲線は、(高解像度TIFFファイルとしての)K‐Mプロッターを使用し、単変量分析を用いてオンラインで生成した:https://kmplot.com/analysis/index.php?p=service&cancer=breast。このアプローチにより、腫瘍の再発(RFS、無再発生存)及び遠隔転移(DMFS、無遠隔転移生存)のマーカーとしてのATP5F1Cのインシリコ検証を直接実施できるようになった。これら全ての分析には、データベースの最新の2020年バージョンを利用した。
【0104】
試薬、及びモデル細胞株:本発明のアプローチから逸脱することなく、他の細胞株を使用してもよいことは明らかであるはずである。BioTracker ATP‐Red 1(#SCT045)をMerck‐Millipore, Incから購入した。トリプルネガティブヒト乳癌細胞株であるMDA‐MB‐231を、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection:ATCC)から入手した。非腫瘍原性ヒト乳房上皮細胞株であるMCF10A細胞も、ATCCから入手した。MDA‐MB‐231細胞を、10%のウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum:FBS、Sigma Aldrich)、2mMのGlutaMAX(Gibco、Life Technologies、米国マサチューセッツ州ウォルサム)、及び1%のペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco、Life Technologies)を補充したDMEM(高グルコース)で培養した。MCF10A細胞株を、0.4%のウシ脳下垂体抽出物(Bovine pituitary extract:BPE)、0.1%のインスリン、0.1%のhEGF、0.1%のヒドロコルチゾン、0.1%のGA‐1000、及び100ng/mLのコレラ毒素を補充した乳腺上皮細胞成長培地(mammary epithelial cell growth medium:MEGM;Lonza、バーゼル(スイス))中に維持した。全ての細胞株は、加湿雰囲気下で、37℃、5%CO2で培養した。
【0105】
BioTracker ATP‐Red 1を用いたATPアッセイ:様々な処理の後、細胞をBioTracker ATP‐Red 1で染色した。30分のインキュベーション後、細胞をDPBSで2回洗浄して回収し、40μmセルストレーナーで単一細胞懸濁液へと分離させた。Attune NxTフローサイトメーターを用いて細胞を分析した。(570nmにおける)信号の平均を比較した。
【0106】
3D足場非依存性成長アッセイ:このアッセイは腫瘍様塊形成アッセイとも呼ばれる。酵素による解砕、及び手動での解砕(25gニードル)を用いて、単一細胞懸濁液を調製した。次に細胞を、「腫瘍様塊プレート」と呼ばれる、(2‐ヒドロキシエチルメタクリレート)(poly‐HEMA、Sigma Aldrich Inc.)で予備コーティングされた培養皿内において、非接着条件下で、腫瘍様塊培地(DMEM‐F12+1X B‐27+補充物+20ng/ml EGF+Pen/Strep)中に、500個/cm2の密度でプレーティングした。細胞を5日間成長させ、加湿されたインキュベータ内で37℃に維持した。5日間の培養後、50μmより大きな3D腫瘍様塊を、接眼レンズ(「目盛り(graticule)」)を用いて計数し、プレーティングされた細胞のうち球状塊を形成したもののパーセンテージを計算した。これをパーセント腫瘍様塊形成と呼ぶ。これを1(1~100%MFE)までで正規化した。3D腫瘍様塊形成効率(mammosphere formation efficiency:MFE)を、細胞の低ATP亜集団及び高ATP亜集団の両方で分析した。全ての3D腫瘍様塊実験は三重に実施され、これを独立して少なくとも3回繰り返した。
【0107】
shRNAレンチウイルス形質導入:レンチウイルスプラスミド、パッケージング細胞、及び試薬を、Genecopoeiaから購入した。播種から48時間後、293Taパッケージング細胞を、誘導性U6プロモーターであるCMVプロモーター‐TetR‐SV40プロモーター‐eGFP‐IRES‐ピューロマイシンを伴うレンチウイルスpsi‐LVRInU6TGPベクター中の、ヒトATP5F1Cの3つのバリアント全てに対する3つの構築物のshRNAクローンセットをコードするレンチウイルスベクターで形質導入した。並行して、スクランブル対照psi‐LVRInU6TGPベクター(sh‐Control)をトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後、レンチウイルス含有培養培地を0.45μmのフィルタに通し、5μg/mlのポリブレンの存在下で標的細胞(MDA‐MB‐231)に添加した。感染細胞を1.5μg/mlのピューロマイシン濃度で選択した。
【0108】
ウエスタンブロット:細胞を、緩衝液10mLあたり1錠のcOmplete TM阻害剤混合物(Roche Applied Science、インディアナポリス)及び1錠のPhosSTOP(商標)リン酸塩阻害剤を含有するRIPA緩衝液(Sigma Aldrich, Inc.)中に溶解させ、SDS‐ポリアクリルアミドゲルに載せた。Trans‐Blot Turbo Transfer System(Bio‐Rad, Inc.)を用いて、上記ゲルを0.2μmのニトロセルロース膜に移した。膜を、トリス緩衝生理食塩水である0.1%のTween 20(Sigma Aldrich, Inc.)及び5%のウシ血清アルブミン(Bovine Serum Albumin:BSA、Sigma Aldrich Inc.)(TBST)中に希釈された各一次抗体と共にインキュベートし、4℃で一晩インキュベートした。次にブロットを洗浄し、適切な二次抗体と共にインキュベートし、G‐Box(Syngene, Inc)を使用してSuperSignal West Pico化学発光基質(Thermo Scientific,Inc.)を用いて検出した。ウエスタンブロット分析に使用した抗体及びその希釈物は、以下の通りであった:マウス抗ATP5F1C 1:500、マウス抗βアクチン 1:10,000、ウサギ抗PARP 1:1,000、ウサギ抗p21 1:1,000。以上の結果としての免疫ブロット画像は、GeneSys Software(Syngene, Inc.)を用いて取得した。
【0109】
FACSによる細胞周期分析:Attune NxTフローサイトメーターを用いたFACS分析によって、高低ATP細胞亜集団及び低ATP細胞亜集団に対して細胞周期分析を実施した。簡潔に述べると、トリプシン処理後、再懸濁した細胞を、製造元(Merck Millipore, Inc.)の推奨に従ってヨウ化プロピジウムと共にインキュベートした。条件毎に少なくとも25,000件のイベントを分析した。ゲートされた細胞を複数の細胞周期段階に分類した。
【0110】
細胞遊走アッセイ:簡潔に述べると、0.1%のBSAを含む0.5mlの血清非含有DMEM中の、3.5×104個の細胞を、孔径8μmの、非コーティング膜修飾ボイデンチャンバのウェル(Transwell)に加えた。下部のチャンバはDMEM中に10%のウシ胎児血清を含有し、これによって化学誘引物質として機能するものであった。細胞を37℃でインキュベートし、16時間にわたって遊走させた。浸潤していない細胞を、綿棒でこすることによって、膜の上面から除去した。チャンバを、100%のメタノール中に希釈した0.5%のクリスタルバイオレットで、30~60分間染色し、水ですすいで、明視野顕微鏡下で検査した。膜1つにつき5個の視野について計数を行う(20倍の対物レンズ)ことによって、浸潤及び遊走に関する値を取得した。これは3回の独立した実験の平均を表す。
【0111】
腫瘍成長、転移、及び胚毒性アッセイ:異種移植片アッセイは、INOVOTION(企業識別コード:811310127)(フランス、ラ・トロンシュ)によって実施された。白色レグホンの受精卵を、37.5℃、相対湿度50%で9日間インキュベートした。この時点(E9)において、卵殻を介して気嚢に小さな穴を穿孔することによって漿尿膜(CAM)を落とし、CAMの上方の卵殻に1cm2の窓を開けた。MDA‐MB‐231腫瘍細胞株を、10%のFBS及び1%のペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM培地で培養した。E9の日に細胞をトリプシンで剥離し、完全培地で洗浄し、移植培地中に懸濁した。1×106個のMDA‐MB‐231細胞の接種物を各卵のCAMに加えた(E9)後、卵を複数のグループにランダムに分けた。10日目(E10)に腫瘍が検出可能となり、それ以降、ビヒクルのみ(PBS中の1%のDMSO)で、又は3つの異なる投薬量のベダキリン若しくは本明細書に記載のベダキリンコンジュゲートで、腫瘍を8日間にわたって1日1回処理した。18日目(E18)に、CAMの上部を各卵から除去し、PBSで洗浄した後、パラホルムアルデヒドに直接移して(48時間固定)、計量した。腫瘍成長アッセイのために、グループごとに少なくとも14個の腫瘍試料を収集して分析した(n≧14)。E18日目に、グループあたり少なくとも7個の試料(n≧7)において、下部CAMの1cm2の部分を回収し、転移細胞の数を評価した。CAMからゲノムDNAを抽出し(市販のキット)、ヒトAlu配列に対して特異的なプライマを用いたqPCRによって分析した。各試料のCqの計算、平均Cq、及び各グループの転移の相対量は、Bio‐Rad(登録商標)CFX Maestroソフトウェアによって直接管理される。全てのデータに対して、事後検定による一元配置分散分析が実施された。各投与前に、生きた胚及び死んだ胚の数をスコアリングすることによって、治療の忍容性を評価した。
【0112】
化合物の合成:LCカラムは、Waters Sunfire C18 30x4.6mmであった。グラジエント溶離剤:0.05%のギ酸を含有する5~100%メタノール/水。時間:0~10分。上述の合成例において以下の略語を使用した:テトラキス(ジメチルアミノ)エチレン(TDAE)、酢酸エチル(EtOAc)、テトラヒドロフラン(THF)、パラトルエンスルホン酸ピリジニウム(PyTs)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、硫酸マグネシウム(MgSO4)、メタノール(MeOH)、4‐ジメチルアミノピリジン(DMAP)、ジクロロメタン(DCM)、水酸化アンモニウム(NH4OH)。
【0113】
中間物1、(1R,2S)‐1‐[6‐[4‐[tert‐ブチル(ジメチル)シリル]オキシブチル]‐2‐メトキシ‐3‐キノリル]‐4‐(ジメチルアミノ)‐2‐(1‐ナフチル)‐1‐フェニル‐ブタン‐2‐オールは、以下のように合成した。乾燥ジオキサン(4ml)中のベダキリン(0.22g、0.40mmol)、コバルト(II)フタロシアニン(5.8mg,0.01mmol)、及び(dibbpy)Ni(ii)Br2(14.1mg、0.028mmol)の撹拌された懸濁液に、(4‐ヨード‐ブトキシ)‐tert‐ブチルジメチルシラン(260μl、1.00mmol)及びTDAE(187μl、0.80mmol)を、室温かつ窒素雰囲気下で添加した。混合物を+80℃で24時間撹拌し、固体残留物をろ過によって除去し、減圧下で溶媒を蒸発させて、粗産物を得た。シリカゲル(イソヘキサン中の10~15%EtOAc)上での精製により、(1R,2S)‐1‐[6‐[4‐[tert‐ブチル(ジメチル)シリル]オキシブチル]‐2‐メトキシ‐3‐キノリル]‐4‐(ジメチルアミノ)‐2‐(1‐ナフチル)‐1‐フェニル‐ブタン‐2‐オール(87.9mg)を得た。LC‐MS 667.7 [M+1]+、RT 5.75分。
【0114】
中間物2、(1R,2S)‐4‐(ジメチルアミノ)‐1‐[6‐(4‐ヒドロキシブチル)‐2‐メトキシ‐3‐キノリル]‐2‐(1‐ナフチル)‐1‐フェニル‐ブタン‐2‐オールは、以下のように合成した。窒素雰囲気下のTHF(8ml)と水(0.4ml)との混合物中の(1R,2S)‐1‐[6‐[4‐[tert‐ブチル(ジメチル)シリル]オキシブチル]‐2‐メトキシ‐3‐キノリル]‐4‐(ジメチルアミノ)‐2‐(1‐ナフチル)‐1‐フェニル‐ブタン‐2‐オール(85mg、0.128mmol)の撹拌された溶液に、PyTs(80g、0.318mmol)を添加し、+50℃で4時間撹拌した。反応混合物を濃縮し、残留物をEtOAc(20ml)に溶解させ、飽和NaHCO3(10ml)、食塩水(10ml)で洗浄し、MgSO4上で乾燥させ、固体残留物をろ過によって除去し、減圧下で溶媒を蒸発させた。粗産物をシリカゲル(イソヘキサン中の20%EtOAc、及びEtOAc中の1%MeOH)上で精製して、(1R,2S)‐4‐(ジメチルアミノ)‐1‐[6‐(4‐ヒドロキシブチル)‐2‐メトキシ‐3‐キノリル]‐2‐(1‐ナフチル)‐1‐フェニル‐ブタン‐2‐オール(66.5mg)を得た。LC‐MS 549.4 [M+1]+、RT 4.62分。
【0115】
化合物[3B]、[6‐[4‐[3‐[(1R,2S)‐4‐(ジメチルアミノ)‐2‐ヒドロキシ‐2‐(1‐ナフチル)‐1‐フェニル‐ブチル]‐2‐メトキシ‐6‐キノリル]ブトキシ]‐6‐オキソ‐ヘキシル]‐トリフェニル‐ホスホニウム臭化物は、以下のように合成した。窒素雰囲気下の乾燥DCM(4ml)中の中間物2、即ち(1R,2S)‐4‐(ジメチルアミノ)‐1‐[6‐(4‐ヒドロキシブチル)‐2‐メトキシ‐3‐キノリル]‐2‐(1‐ナフチル)‐1‐フェニル‐ブタン‐2‐オール(45mg、0.082mmol)と、5‐カルボペンチル(トリフェニル)ホスホニウム臭化物(37mg、0.082mmol)と、DMAP(11mg、0.082mmol)との撹拌された溶液に、DIC(13μl、0.082mmol)を添加し、混合物を室温で2時間撹拌した。減圧下で溶媒を蒸発させた。粗産物をシリカゲル(DCM中の3%MeOH、及び1%NH4OH:3%MeOH:DCM)上で精製して、無色の固体として53mgの[6‐[4‐[3‐[(1R,2S)‐4‐(ジメチルアミノ)‐2‐ヒドロキシ‐2‐(1‐ナフチル)‐1‐フェニル‐ブチル]‐2‐メトキシ‐6‐キノリル]ブトキシ]‐6‐オキソ‐ヘキシル]‐トリフェニル‐ホスホニウム臭化物を得た。LC‐MS 907.4 [M+]、RT 4.31分。
【0116】
化合物[2B]、[12‐[4‐[3‐[(1R,2S)‐4‐(ジメチルアミノ)‐2‐ヒドロキシ‐2‐(1‐ナフチル)‐1‐フェニル‐ブチル]‐2‐メトキシ‐6‐キノリル]ブトキシ]‐12‐オキソ‐ドデシル]‐トリフェニル‐ホスホニウム臭化物は、中間物2と、11‐カルボキシルウンデシル(トリフェニル)ホスホニウム臭化物とから、上述の化合物[3B]に関する方法に従って合成され、これにより、無色の固体として35mgの12‐[4‐[3‐[(1R,2S)‐4‐(ジメチルアミノ)‐2‐ヒドロキシ‐2‐(1‐ナフチル)‐1‐フェニル‐ブチル]‐2‐メトキシ‐6‐キノリル]ブトキシ]‐12‐オキソ‐ドデシル]‐トリフェニル‐ホスホニウム臭化物を得た。LC‐MS 991.6 [M+]、RT 4.82分。
【0117】
統計分析:全ての分析はGraphPad Prism 6を用いて実施された。データを平均±SD(又は指示されている場合には±SEM)として示した。全ての実験は独立して少なくとも3回実施され、(例えば1つの代表的なデータが示されている場合等、特段の記載がない限り)試験された各実験条件について4回以上の技術的反復が行われた。統計的有意差はスチューデントのt検定又は分散分析(analysis of variance:ANOVA)検定を用いて決定された。複数の群の間での比較については、一元配置分散分析を用いて統計的有意性を決定した。P<0.05が有意であるとみなされた。
【0118】
本発明のアプローチのいくつかの実施形態は、転移の防止及び/又は転移の可能性の低減のための組成物といった、医薬組成物の形態を有することができることを理解されたい。本発明のアプローチの医薬組成物は、活性化合物としてのベダキリン又はTPP部分を有するベダキリン誘導体を、いずれの薬学的に許容可能なキャリア中に含んでよい。溶液が望ましい場合、水は、水溶性化合物又はその塩にとって選択されるキャリアとなり得る。水溶性に関しては、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、又はこれらの混合物といった有機ビヒクルが好適となり得る。更に、水溶性を向上させる方法を、本発明のアプローチから逸脱することなく使用できる。後者の場合、有機ビヒクルは相当な量の水を含むことができる。そしていずれの場合においても、溶液を、当該技術分野で公知の好適な手段、例えば0.22マイクロメートルのフィルタを通したろ過によって、滅菌できる。滅菌後、溶液を、脱パイロジェンガラスバイアル等の適切な容器に分注できる。この分注は任意に無菌的な方法で実施される。その後、滅菌された閉鎖器具をバイアル上に配置でき、また必要に応じてバイアルの内容物を凍結乾燥できる。本発明のアプローチは、特に明記されていない限り、ある特定の投与形態に限定されることを意図したものではない。
【0119】
活性化合物に加えて、本発明のアプローチの医薬製剤は、当該技術分野で公知の他の添加剤を含有できる。例えばいくつかの実施形態は、酸(例えば塩酸)及び塩基又は緩衝液(例えば酢酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、リン酸ナトリウム)といった、pH調整剤を含んでよい。いくつかの実施形態は、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコールといった抗菌防腐剤を含んでよい。抗菌防腐剤は多くの場合、製剤を複数回投与用に設計されたバイアルに入れるときに含まれる。本明細書に記載の医薬製剤は、当該技術分野で公知の技法を用いて凍結乾燥できる。
【0120】
活性化合物の経口投与を伴う実施形態では、医薬組成物は、カプセル、錠剤、丸剤、粉剤、溶液、懸濁液等の形態を取ることができる。クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等の様々な賦形剤を含む錠剤は、ポリビニルピロリドン、スクロース、ゼラチン、アカシアといった結合剤と合わせた、デンプン(例えばジャガイモ又はタピオカデンプン)及び特定の複合ケイ酸塩といった様々な崩壊剤と共に使用できる。更に、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、タルクといった潤滑剤を、打錠を目的として含めてよい。同様のタイプの固体組成物を、軟質及び硬質充填ゼラチンカプセル中の充填剤として利用してよい。これに関連する材料には、乳糖、及び高分子量ポリエチレングリコールも含まれる。水性懸濁液及び/又はエリキシルが経口投与に望ましい場合、本開示の主題の化合物を、様々な甘味剤、香味剤、着色剤、乳化剤、及び/又は懸濁剤、並びに水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、及びこれらの様々な同様の組み合わせといった希釈剤と、組み合わせることができる。
【0121】
本明細書中で提供される更なる実施形態としては、本明細書中で開示されている活性化合物のリポソーム製剤が挙げられる。リポソーム懸濁液を形成するための技術は、当該技術分野で公知である。化合物が水溶性の塩である場合、従来のリポソーム技術を用いて、これを脂質小胞に組み込むことができる。このような場合、活性化合物の水溶性により、活性化合物を、リポソームの親水性の中心又はコアに実質的に納めることができる。利用される脂質層は、いずれの従来の組成のものとすることができ、またコレステロールを含むことも、コレステロールを含まないものとすることもできる。関心対象の活性化合物が非水溶性である場合、ここでも従来のリポソーム形成技術を利用して、塩を、リポソームの構造を形成する疎水性脂質二重層の中に実質的に納めることができる。いずれの場合においても、製造されるリポソームは、標準的な超音波処理及び均質化技法を使用した場合と同様に、サイズを小さくすることができる。本明細書中で開示されている活性化合物を含むリポソーム製剤を凍結乾燥して凍結乾燥物を製造でき、これを、水等の薬学的に許容可能なキャリアで再構成して、リポソーム懸濁液を再生成できる。
【0122】
医薬組成物に関して、本明細書に記載の活性化合物(例えばベダキリン又はTPP部分を有するベダキリン誘導体)の薬学的有効量は、医療従事者によって決定され、また患者の状態、サイズ及び年齢、並びに送達経路に左右される。ある非限定的な実施形態では、約0.1~約200mg/kgの投薬量が治療的効力を有し、この重量比は、塩が使用される場合を含む活性化合物の重量の、被験者の体重に対する比である。いくつかの実施形態では、投薬量は、最高約1~5、10、20、30、又は40μMの活性化合物の血清濃度を提供するために必要な、活性化合物の量とすることができる。いくつかの実施形態では約1mg/kg~約10mg/kg、またいくつかの実施形態では約10mg/kg~約50mg/kgの投薬量を、経口投与のために使用できる。典型的には、約0.5mg/kg~5mg/kgの投薬量を、筋肉内注射のために使用できる。いくつかの実施形態では、投薬量は、静脈内又は経口投与に関して、約1μmol/kg~約50μmol/kg、又は任意に約22μmol/kg~約33μmol/kgの化合物とすることができる。経口剤形は、例えば錠剤又は他の固体剤形あたり5mg~50、100、200、又は500mgを含む、いずれの適切な量の活性化合物を含むことができる。
【0123】
医薬組成物は活性化合物を、遊離塩基として又は塩として使用できる。一般的な塩としては一水和物及び塩酸塩水和物が挙げられ、後者は可溶性の向上に有用であり得る。例示的な医薬組成物を提供するが、これらは単なる非限定的な例であることが意図されている。カプセル形態では、上記組成物は50mg又は100mgの活性化合物をベースとして含んでよい。他の成分としては、ゼラチン、ステアリン酸マグネシウム、シェラックグレーズ、ラウリル硫酸ナトリウム、デンプン、キノリンイエロー(E104)、エリスロシン(E127)、パテントブルーV(E131)、二酸化チタン(E171)、四酸化三鉄(E172)、及びプロピレングリコールが挙げられる。遅延放出性錠剤形態は、60mg又は120mgの活性化合物と、それぞれ3.6mg又は7.2mgのナトリウムと、乳糖一水和物;微結晶性セルロース;ラウリル硫酸ナトリウム;塩化ナトリウム;タルク;無水乳糖;トウモロコシデンプン;クロスポビドン;ステアリン酸マグネシウム;及びセルロースポリマーコーティングを含む非活性成分とを含んでよい。本発明のアプローチから逸脱することなく、他の医薬組成物を使用してもよく、本発明のアプローチは何らかの特定の製剤に限定されるように設計されたものではないことを理解されたい。
【0124】
いくつかの実施形態では、活性化合物は、フマル酸塩等の塩として存在してよい。活性化合物のフマル酸塩は非水溶性である。いくつかの実施形態では、医薬組成物は錠剤の形態であってよく、活性化合物は、コロイド状二酸化ケイ素、クロスポビドン、ヒプロメロース2910、ポリソルベート20、ケイ化微結晶セルロース、フマル酸ステアリルナトリウムといった不活性成分と共に存在してよい。いくつかの実施形態では、医薬組成物は錠剤の形態であってよく、活性化合物は、コロイド状二酸化ケイ素、コーンスターチ、クロスカルメロースナトリウム、ヒプロメロース219、乳糖一水和物、ステアリン酸マグネシウム、微結晶セルロース、ポリソルベート20といった不活性成分と共に存在してよい。正確な配合は特定の実施形態に依存し、通常のレベルの技能を有する者であれば、当技術分野において公知でありかつ利用可能な配合方法を使用できる。
【0125】
いくつかの実施形態では、本発明のアプローチは、薬学的有効量の1つ以上医薬組成物と、薬学的に許容可能なキャリアとを、それを必要とする患者に投与するステップを含む、治療方法の形態を取ってよい。例えば本発明のアプローチは、転移を引き起こしそうなCSCの集団を根絶することによって、元のCSC集団からの転移及び再発を防止するか、又は転移及び再発の可能性を低減するために、使用してよい。
【0126】
本発明のアプローチは、腫瘍の再発、転移の予防及び/又はその可能性の低減のために使用できる。抗癌治療は多くの場合、特に手術後の腫瘍の再発又は転移を理由として失敗する。CSCのミトコンドリア活性は、少なくとも部分的に、これらの治療の失敗の原因を招くものである。本発明のアプローチの実施形態は、腫瘍の再発及び/若しくは転移による失敗を予防する、又はその可能性を低減するために、従来の癌療法が失敗する状況で、及び/又は抗癌治療と共に使用できる。活性化合物としてベダキリン又は本明細書に記載のTPP部分を有するベダキリン誘導体を含有する、薬学的有効量の医薬組成物を、患者に投与してよい。上記患者は癌に罹患していてよく、又は癌に罹患するリスクを有していてよく、又は腫瘍の再発及び/若しくは転移のリスクを有していてよい。
【0127】
本出願人による、同時係属中である2018年6月19日出願の米国仮特許出願第62/686,881号、及び2018年9月14日出願の米国仮特許出願第62/731,561号(上記仮特許出願は参照によりその全体が本出願に援用される)に記載されているように、e‐CSCは、増殖に関連するCSC表現型を表す。バルク癌細胞及びCSCに加えて、本発明のアプローチを、本発明者らがe‐CSCと呼ぶ過剰増殖性細胞亜集団を標的とするために使用してもよいことを理解されたい。このe‐CSCは、幹細胞性マーカー(ALDH活性及び腫瘍様塊形成活性)の漸増、ミトコンドリア量の強い上昇、並びに解糖活性及びミトコンドリア活性の上昇を示す
【0128】
以上に鑑みて、本発明のアプローチは実施形態に応じて多様な形態を取ることができることを理解されたい。例えば本発明のアプローチの実施形態は、組成物、特に医薬組成物の形態を取ることができる。治療用化合物が活性成分であってよく、薬学的有効量で存在できる。
【0129】
本発明のアプローチの実施形態は、腫瘍の再発及び転移のうちの少なくとも一方を予防する、又はその可能性を低減するための方法の形態も取ることができる。いくつかの実施形態では、ベダキリンを活性化合物として有する、有効量の組成物を投与してよい。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のTPP部分を有するベダキリン誘導体を活性化合物として有する、有効量の組成物を投与してよい。
【0130】
本発明のアプローチのいくつかの実施形態は、本明細書に記載のATP関連遺伝子シグネチャを用いたコンパニオン診断薬の形態を取ることができる。上記遺伝子シグネチャをコンパニオン診断薬として使用することによって、上述のように、ベダキリン又はTPP部分を有するベダキリン誘導体を用いたATP阻害療法から利益を得ることができる癌患者を特定できる。特定後、候補者に、活性化合物、ベダキリン又はTPP部分を有するベダキリン誘導体を活性化合物として含む、薬学的有効量の組成物を投与してよい。
【0131】
癌の生物学的上皮試料を得ることができ、当該技術分野において公知でありかつ利用可能である、バイオマーカー発現を測定するための方法を用いて、上記生物学的試料の、選択された遺伝子シグネチャの各バイオマーカーのレベルを決定できる。決定された上記レベルを、上記シグネチャの各バイオマーカーに関する閾値レベルと比較し、遺伝子シグネチャのバイオマーカーの決定されたレベルが閾値レベルを超えた場合に、薬学的有効量のATP阻害剤を投与する。好ましくは、遺伝子シグネチャの全てのバイオマーカーに関する決定されたレベルが、上記バイオマーカーに関する閾値レベルを超える場合に、ATP阻害剤を投与する。各バイオマーカーに関する閾値レベルは、同じ被験者からの非癌性上皮試料を用いて決定できる。
【0132】
本明細書中で本発明の説明に使用した用語法は、特定の実施形態の説明のみを目的としており、本発明を限定することを意図したものではない。本発明の説明及び添付の請求項において使用される場合、「ある(a、an)」及び「上記、前記(the)」は、文脈によって明確に指示されていない限り、複数形も同様に含むことを意図したものである。本発明は、以下の「発明を実施するための形態」の考察から明らかになるような多数の代替形態、修正形態及び均等物を含む。
【0133】
用語「第1の(first)」、「第2の(second)」、「第3の(third)」、「a)」、「b)」、及び「c)」等は、本明細書において、本発明の様々な要素を説明するために使用され得るものであり、特許請求の範囲がこれらの用語によって限定されるものではないことを理解されたい。これらの用語は、本発明のある要素を別の要素と区別するためだけに使用されている。よって、以下に記載される「第1の要素(first element)」は、本発明の教示から逸脱することなく、ある要素の態様と呼ぶこともでき、また同様に第3の要素と呼ぶこともできる。よって、用語「第1の」、「第2の」、「第3の」、「a)」、「b)」、及び「c)」等は、関連する要素にある順序又はその他の序列を与えることを必ずしも意図せず、単に識別を目的として使用される。動作(又はステップ)の順序は、請求項に提示されている順序に限定されない。
【0134】
特段の定義がない限り、本明細書中で使用される全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。更に、一般に使用される辞書で定義されているような用語は、本出願及び関連分野の文脈における上記用語の意味と矛盾しない意味を有するものとして解釈されるものとし、本明細書中でそのように明らかに定義されていない限り、理想的な意味又は過度に形式的な意味で解釈してはならない。本明細書中での本発明の説明に使用した用語法は、特定の実施形態の説明のみを目的としており、本発明を限定することを意図したものではない。本明細書中で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、参照によりその全体が本出願に援用される。用語法の衝突が発生する場合、本明細書が支配的なものである。
【0135】
また、本明細書中で使用される場合、「及び/又は(and/or)」は、関連して列挙された項目のうちの1つ以上の、いずれのあらゆる可能な組み合わせ、及び二者択一(「又は(or)」)と解釈される場合には組み合わせの欠如を指し、またこれらを包含する。
【0136】
句「治療サイクル(treatment cycle)」は、定期的に又は事前に定義された基準で繰り返される投薬スケジュールといった、治療の過程を指す。1回の治療サイクルは、数日間の治療と、それに続く数日間の休息とを含むことができる。単なる例として、4週間の治療サイクルにわたって、ある作用剤を1日1回2週間投与した後、治療を2週間行わないものとすることができる。治療サイクルは、各個人について所望の応答を引き出すために、その個人の病状、年齢、性別、及び体重、並びに1つ以上の特定の作用剤及び/又は方法論といった、多数の要因に左右され得ることを理解されたい。
【0137】
文脈によって明確に指示されていない限り、本明細書に記載の発明の様々な特徴をいずれの組み合わせで使用できることが、具体的に意図されている。更に、本発明は、本発明のいくつかの実施形態において、本明細書に記載のいずれの特徴又は特徴の組み合わせを排除又は省略できることも考慮している。例示として、明細書に「ある複合体が成分A、B及びCを含む」と記載されている場合、A、B若しくはCのうちのいずれ、又はその組み合わせのうちのいずれを、省略して放棄できることが、具体的に意図されている。
【0138】
本明細書中で使用される場合、移行句「本質的に…からなる(consisting essentially of)」(及びその文法的変化型)は、記載されている材料又はステップと、請求対象の発明の「基本的な新規の1つ以上の特徴に実質的に影響しないもの(those that do not materially affect the basic and novel characteristic(s))」とを包含するものとして解釈されたい。従って、本明細書中で使用される場合、用語「本質的に…からなる」は、「…を含む、備える(comprising)」と同等として解釈してはならない。
【0139】
例えば量又は濃度等といった測定可能な数値に言及する際に本明細書中で使用される用語「約(about)」は、明記された量の、±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%、又はわずか±0.1%の変動を包含することを意図したものである。測定可能な値に関して本明細書中で提供される範囲は、その範囲内の他のいずれの範囲及び/又は個々の値を含んでよい。
【0140】
このように、本発明の特定の実施形態を説明したが、以下で請求されるような本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、本発明の多数の明らかな変形形態が可能であるため、添付の請求項によって定義される本発明は、以上の説明に記載された特定の詳細によって限定されることはないことを理解されたい。
【国際調査報告】