(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】厚さ変化分析を用いた滲出型AMD患者における液体追跡
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
A61B3/10 100
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538089
(86)(22)【出願日】2022-12-23
(85)【翻訳文提出日】2024-06-21
(86)【国際出願番号】 EP2022087708
(87)【国際公開番号】W WO2023126340
(87)【国際公開日】2023-07-06
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503317201
【氏名又は名称】カール ツァイス メディテック インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Carl Zeiss Meditec Inc.
(71)【出願人】
【識別番号】502303382
【氏名又は名称】カール ツアイス メディテック アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ダルビシュザデ バルチェイ、マハサ
(72)【発明者】
【氏名】ベッロ、シモン
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA09
4C316AA25
4C316AB02
4C316AB11
4C316AB16
4C316FB21
4C316FB27
4C316FZ01
4C316FZ03
(57)【要約】
本システム/方法/デバイスは、滲出型AMD患者の個人化されたモニタリングのための(例えば、自己使用型の)OCTシステムを使用する。患者は、OCTスキャンを自己で行い、OCTスキャンは自動的に分析され、投薬の適用または専門的な医療的なケアの必要性がある場合に、患者および/または指定された認可された医師/技術者に通知される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の眼の病状をモニタリングする方法であって、
光干渉断層撮影(以下、OCTとする)システムが、眼のOCTスキャンを収集するステップと、
プロセッサが、前記OCTスキャン内の黄斑の関心領域(以下、ROIとする)を指定するステップと、
前記プロセッサが、前記黄斑のROIの全体的な厚さの特徴である代表的な黄斑の厚さの測定値を決定するステップと、
前記プロセッサが、前記黄斑のROIについての患者個人化ベースライン厚さを決定するステップと、
前記プロセッサが、前記患者個人化ベースライン厚さに基づいて仕様上限を定義するステップと、
前記プロセッサが、前記患者個人化ベースライン厚さに基づいて仕様下限を定義するステップと、
前記プロセッサが、前記代表的な黄斑の厚さの測定値が前記仕様上限以上であることに応答して、医学的なケアの必要性を示す電子信号を発信するステップと、
前記プロセッサが、前記代表的な黄斑の厚さの測定値が前記仕様下限以下であることに応答して、前記代表的な黄斑の厚さの測定値に基づいて、前記患者個人化ベースライン厚さ、前記仕様上限、および前記仕様下限のうちの少なくとも1つを調整するステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記代表的な黄斑の厚さの測定値が、前記黄斑のROI内の複数の個別の黄斑の厚さの測定値に基づいており、前記代表的な黄斑の厚さの測定値が、前記黄斑のROI内の全ての個別の黄斑の厚さの測定値の平均、前記ROI内の最も高い個別の黄斑の厚さの測定値、または前記ROI内の最も高い個別の黄斑の厚さの測定値の2つ以上の平均として決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記患者個人化ベースライン厚さは、医療従事者がスケジュールした黄斑の厚さの検査時期に従って決定された、黄斑のROIの所定数の最低の以前の代表的な黄斑の厚さの測定値の平均に基づく、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記最低の以前の代表的な黄斑の厚さの測定値は、安定期間のみから抽出され、前記病状は、眼における加齢黄斑変性症(以下、AMDとする)であり、安定期間は、黄斑のROIの個別の黄斑の厚さの測定値が5%を超えて変化しなかった期間である萎縮型AMD期間、または眼に薬剤の注射が行われなかった期間のうちの1つまたは複数として定義される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記仕様上限および前記仕様下限のうちの少なくとも一方は、前記患者個人化ベースライン厚さからのオフセットとして定義されており、前記オフセットは、安定期間中に取得された被検眼の一般集団における対応する黄斑のROIからの黄斑の厚さの測定値の母集団の統計分析に基づくものであり、前記病状は、眼における加齢黄斑変性症(以下、AMDとする)であり、安定期間は、萎縮型AMD期間として定義され、前記萎縮型AMD期間は、被検眼の個別の黄斑の厚さの測定値が5%を超えて変化しなかった期間、または被検眼に薬剤の注射が行われなかった期間である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記統計分析は、黄斑の厚さの測定値の母集団間の統計的偏差を提供し、前記オフセットは、最大統計的偏差に基づく、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記患者個人化ベースライン厚さは、所定の範囲内で固定サイズの間隔でユーザ調整可能であり、ユーザ調整された患者個人化ベースラインは、以前に決定された患者個人化ベースライン厚さに上書きされる、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記代表的な黄斑の厚さの測定値が前記仕様下限以下であることに応答して、前記患者個人化ベースライン厚さは、現在の代表的な黄斑の厚さの測定値と、前記仕様下限以下である眼の1つまたは複数の以前の黄斑の厚さの測定値との平均に調整される、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記仕様下限以下である現在の代表的な黄斑の厚さの測定値が、前記仕様下限以下である眼の3回目以降の連続する代表的な黄斑の厚さの測定値である場合に、前記患者個人化ベースライン厚さが調整される、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記仕様上限および前記仕様下限のうちの少なくとも一方は、前記患者個人化ベースライン厚さとは無関係に調整される、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記患者個人化ベースライン厚さ、前記仕様上限、および前記仕様下限のうちの少なくとも1つは、所定の範囲内で事前設定された増分量だけ自動的に調整される、請求項1乃至7および9乃至10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記仕様上限および前記仕様下限のうちの少なくとも一方は、前記代表的な黄斑の厚さの測定値の値を前記仕様上限および前記仕様下限のうちの少なくとも一方の再計算に組み込むことによって自動的に調整される、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
黄斑の複数のROIが指定され、各ROIが互いに独立した個々の患者個人化ベースライン厚さを有する、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記黄斑の複数のROIが、異なる個々の仕様上限および仕様下限を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記黄斑の複数のROIのうちの選択された1つの上側オフセットおよび下側オフセットが、全ての前記黄斑の複数のROIの上側オフセットおよび下側オフセットとして設定される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記黄斑の複数のROIは、互いに同心である、請求項13乃至15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記黄斑の複数のROIの各々は、個々の患者個人化ベースライン厚さからの対応する上側オフセットおよび下側オフセットに基づく個々の仕様上限および仕様下限を有しており、
最も中心のROIの前記上側オフセットおよび前記下側オフセットは、全ての前記黄斑の複数のROIの前記上側オフセットおよび前記下側オフセットとして設定される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記仕様上限、前記仕様下限、および患者個人化ベースライン厚さのうちの少なくとも1つは、電気通信ネットワークを介して電子メッセージを受信することに応答して、認可されたユーザによって遠隔で調整可能である、請求項1乃至17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
眼の前記OCTスキャンが、自己適用型光干渉断層撮影システムを使用して収集される、請求項1乃至18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
光干渉断層撮影(以下、OCTとする)システムであって、
光ビームを生成するための光源と、
光の第1の部分を参照アームに誘導し、光の第2の部分をサンプルアームに誘導するためのビーム分割面を有するビームスプリッタと、
前記サンプルアームにおける光をサンプル上の1つまたは複数の場所に誘導するための光学系と、
前記サンプルアームおよび前記参照アームから戻る光を受信し、その光に応答して信号を生成するための検出器と、を備え、
前記OCTシステムは、請求項1乃至19のいずれか一項に記載の方法を実施するように構成されたプロセッサを備えることを特徴とする、OCTシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、滲出型(wet)AMD患者を(例えば、遠隔で)モニタリングし、眼内の液体のレベルが医師の診察および/または医療処置を必要とする時期を決定するためのシステムおよび方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
OCTは、光波を使用して組織を貫通して、眼などの組織内の異なる深さにおける画像情報を生成する非侵襲的撮像技術である。一般的に、OCTシステムは、参照ビームとOCTビームによって照射されたサンプルからの後方散乱光との干渉を検出することに基づく干渉撮像システムである。深さ方向(例えば、z軸または軸方向)における各散乱プロファイルは、軸方向スキャンまたはAスキャンに個別に再構成され得る。断面スライス画像(例えば、二次元(2D)分離スキャン、即ちBスキャン)およびボリューム画像(例えば、3Dキューブスキャン、即ちCスキャン)は、OCTビームがサンプル上の一組の横断(例えば、x軸および/またはy軸)位置を通してスキャン/移動する際に取得される複数のAスキャンから構築され得る。眼の網膜に適用されると、OCTは、一般的に、例えば、網膜の特有の組織層および血管構造を少なくとも部分的に確認することを可能にする構造データを提供する。OCT血管造影法(OCTA)は、OCTシステムの機能を拡張して、網膜組織における血流の存在または欠如も識別する(例えば、画像形式でレンダリングする)。例えば、OCTAは、同じ網膜領域の複数のOCTスキャンにおける経時的な差(例えば、コントラスト差)を識別し、所定の基準を満たすスキャンにおける差を血流として指定することによって、血流を識別し得る。
【0003】
また、OCTシステムは、組織ボリューム(例えば、眼の網膜等の、ターゲット組織スラブ(サブボリューム)またはターゲット組織層(単数または複数))の選択部分の平面(2D)正面ビュー(例えば、en face)画像の構築を可能にする。OCTシステムによって提供される眼科データの他の2D表現(例えば、2Dマップ)の例は、層厚マップおよび網膜曲率マップを含み得る。例えば、層厚マップを生成するために、OCTシステムは、en face画像、網膜の2D脈管構造マップ、および多層セグメンテーションデータを使用し得る。厚さマップは、網膜層境界間の測定された厚さの差に少なくとも部分的に基づき得る。脈管構造マップおよびOCT en face画像は、例えば、2つの層境界の間に画定されたサブボリューム(例えば、組織スラブ)を2D表面上に投影することによって生成され得る。投影は、サブボリュームの平均、合計、パーセンタイル、または他のデータ集計方法を使用し得る。従って、3Dボリューム(または、サブボリューム)データのこれらの2D表現の作成は、多くの場合、2D表現のベースとなる層を識別するための自動セグメンテーションアルゴリズムの有効性に依存する。
【0004】
滲出型黄斑変性症(または滲出型加齢黄斑変性症、滲出型AMD)は、網膜の下で成長する異常な血管を特徴とする慢性疾患である。眼の後部におけるこれらの血管からの液体漏出は、黄斑の腫脹および損傷をもたらし得る。この液体が制御されない場合、中心視力は徐々に悪化する。この液体を制御するのに役立ち、滲出型黄斑変性症の進行を遅らせ得る現在の処置は、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)薬の定期的な注射である(例えば、液体漏出の進行に応じて4~6週間毎)。抗VEGF療法に対する反応は、患者の年齢、病変の特徴、病変の持続期間、ベースラインの視力および特定の遺伝子型リスク対立遺伝子の有無を含む様々な因子に左右されることがわかっている。従って、患者によって抗VEGF投薬に対する反応は異なり得るため、個別の患者に必要とされる注射の間隔を短縮するか、または延長する必要があり得る。通常、注射の間隔を変更する必要があるかどうかを判断する唯一の方法は、OCTスキャンを受けるために眼科医に定期的に診療所診察を受けて、医師が、患者の視力、OCT Bスキャン、および黄斑の厚さマップを精査して、注射を処方すべきかどうか(例えば、是認すべきかどうか)を判断する。AMDモニタリングにおける専門家レベルのOCTシステム(例えば、医院で使用されるような)の使用、および網膜の厚さの変化が視力にどのような影響を及ぼし得るかの考察は、特許文献1および非特許文献1に見出され得る。
【0005】
しかしながら、滲出型AMDをモニタリングするために頻繁に医師の診察を受けることは、一般的に現実的ではない。滲出型AMDの遠隔(例えば、自宅)モニタリングのための選択肢が望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】エバンス(Evans)他著「抗血管内皮増殖因子薬による治療を受けた血管新生加齢黄斑変性病変を有する眼における網膜の厚さの変動と視力および解剖学的転帰との関連性(Associations of Variation in Retinal Thickness with Visual Acuity and Anatomic Outcomes in Eyes with Neovascular Age-related Macular Degeneration Lesions Treated with Anti-Vascular Endothelial Growth Factor Agents)」、ジャマ・オフタルモロジー(JAMA Ophthalmology)、2020年、第138巻、第10号、1043頁~1051頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、個別の患者にカスタマイズされた、滲出型AMDをモニタリングするための個人化分析を提供するシステムおよび方法を提供することである。
本発明の別の目的は、滲出型AMDの遠隔モニタリングのためのシステムおよび方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、滲出型AMDの分析を特定の患者の眼組織の特性に合わせて自動的にカスタマイズするシステムおよび方法を提供することである。
本発明のさらに別の目的は、黄斑の厚さの変化が有意であり、投薬による治療および/または現在の治療に対する変更を必要とする時期を医師が決定するのを支援するシステムおよび方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的は、患者(例えば、AMD患者)の眼科用OCTスキャンの自動分析などによって、眼の病状(加齢性黄斑変性症、AMDなど)のモニタリングを提供する方法/システムにおいて達成される。本システムおよび方法は、本明細書では、典型的には低コストのデバイスである遠隔(例えば、家庭用または自己適用型)OCTシステムに適用されるものとして提示されるが、任意選択的に、治療(抗VEFG注射を用いる等)を必要としない正常な網膜の厚さの変動と、重大で治療を必要とする網膜の厚さの変動とを区別することに役立つように、診療所または医院で使用される等、専門的グレードのOCTシステムで使用され得る。
【0011】
加齢黄斑変性症(AMD)、例えば滲出型AMDをモニタリングするための本システム/方法では、患者の眼がOCTシステムによりスキャンされる。例えば、患者は、家庭用(例えば、遠隔ケアまたは遠隔診療)OCTシステムを使用して、OCTスキャンを自己で行い得る。本システムは、眼の黄斑を自動的に識別し、OCTスキャン内の少なくとも1つの黄斑の関心領域(ROI)(または関心エリア/関心セクタ)を識別する。例えば、本システムは、少なくとも1つのセクタ、好ましくは2つ以上の(例えば、3つの同心円状の)セクタを特定し得る。任意選択的に、3つの同心円状の黄斑のROIは、典型的な早期治療糖尿病性網膜症研究(ETDRS:Early Treatment Diabetic Retinopathy Study)グリッドにおける複合グリッド形状にほぼ従い得る。例えば、第1の黄斑のROIは、ETDRSグリッドの中心サブフィールドに対応し、直径1mmの円形形状/ディスク形状を有し得る「中心」エリア/「中心」セクタであり得る。第1の黄斑のROIを取り囲む第2の黄斑のROIは、ETDRSグリッドの全ての内側サブフィールドの組み合わせに対応し、1mmの内径および3mmの外径を有する環状形状を有し得る「内側」エリア/「内側」セクタであり得る。第2の黄斑のROIを取り囲む第3の黄斑のROIは、3mmの内径および6mmの外径を有する典型的なETDRSグリッドの全ての外側サブフィールドの組合せに対応する「外側」エリア/「外側」セクタであり得る。
【0012】
次いで、本システム/方法は、(例えば、3つの)黄斑のROIの各々について代表的な黄斑の厚さの測定値を決定し、代表的な黄斑の厚さの測定値の各々は、その個々の黄斑のROIの全体的な厚さの特性である。例えば、代表的な黄斑の厚さの測定値は、個々の黄斑のROI内の平均黄斑の厚さ、黄斑のROI内の最高黄斑の厚さ、または個々の黄斑のROI内の最高黄斑の厚さの測定値の所定の数(例えば、2以上、または上位25%~50%)の平均であり得る。
【0013】
本システムは、各別個の黄斑のROIについて(例えば、中心セクタ、内側セクタ、および外側セクタについて)、(例えば、黄斑網膜組織の)別個の最低の以前の(または患者個人化された)ベースライン厚さを確立/決定する。従って、各個別の黄斑のROIの個々の患者個人化ベースライン厚さ(patient-personalized baseline thickness)は、互いに異なり得る。これらの患者個人化ベースライン厚さは、眼のOCTスキャンを受ける患者の個人的な医療履歴に基づき得る。例えば、各別個の黄斑のROIの患者個人化ベースライン厚さは、眼の萎縮型(dry)AMD期間(例えば、注射治療が行われなかった医師の診察)中の各対応する黄斑のROIに対する(例えば、代表的な)網膜黄斑の厚さの測定値の平均に基づき得る。代替的に、各別個の黄斑のROIの患者個人化ベースライン厚さは、各個々の黄斑のROIの所定の数(例えば、3つ)の最低の以前の(例えば、代表的な)網膜黄斑の厚さの測定値の平均に基づき得る。これらの以前の網膜黄斑の厚さの測定値は、以前の診察時に取得されたものであり得るか、または現在のOCTスキャンを行うために使用されたのと同じ自己使用型のOCTシステムによって取得されたものであり得る。任意選択的に、最低の以前の網膜黄斑の厚さの測定値の数は、以前にスケジュールされた黄斑の厚さの検査時期に対応する時間間隔(例えば4~6週間毎)での連続OCTスキャンによる測定値である。例えば、患者個人化ベースライン厚さは、例えば、医療従事者が検査時期をスケジュールする場合、医療従事者がスケジュールした黄斑の厚さの検査時期に従って決定された、黄斑のROIの所定数の最低の以前の代表的な黄斑の厚さの測定値の平均に基づき得る。別の例として、最低の以前の網膜黄斑の厚さの測定値の数は、薬剤の注射が眼に行われなかった(連続的または非連続的な)以前の診察から選択され得る。更に任意選択的に、各黄斑のROIの患者個人化ベースライン厚さは、任意の値を自由に入力することによって、または所定の範囲内で固定サイズの間隔(例えば、5μmの増分で15μm~30μmの範囲)で、ユーザ調整可能であり得る。
【0014】
黄斑のROIの各々について決定された代表的な黄斑の厚さの測定値は、次いで、対応する上側閾値オフセットおよび下側閾値オフセットを用いて、その対応する患者固有のベースライン厚さと比較される。例えば、個々の黄斑のROIに対する仕様上限(USL:upper specification limit)は、その対応する患者固有のベースライン厚さにその対応する上側閾値オフセットを加えたものとして定義され得る。同様に、個々の黄斑のROIについての仕様下限(LSL:lower specification limit)は、その対応する患者固有のベースライン厚さからその対応する下側閾値オフセットを引いたものとして定義され得る。いくつかの用途では、上側閾値オフセットおよび下側閾値オフセットは、個別に設定され得るか、または全ての黄斑のROIに対して同じであり得る。任意選択的に、上側閾値オフセットおよび下側閾値オフセットのうちの少なくとも一方は、患者の眼を含まない被検眼の母集団内の対応する黄斑のROIからの黄斑の厚さの測定値の母集団の統計分析に基づくものであり得るとともに、安定期間中に取得され得、安定期間は、萎縮型AMDの期間、または被検眼の黄斑の厚さが所定のパーセンタイル(例えば、5%)を超えて変化しなかった期間、または投薬(例えば、抗VEGF注射)が適用されなかった期間として定義され得る。統計分析は、黄斑の厚さの測定値の母集団の間の統計的偏差(例えば、標準偏差)を提供してもよく、その場合、上側閾値オフセットおよび下側閾値オフセットのうちの少なくとも一方は、統計分析に基づくものであり得る。
【0015】
黄斑のROIのいずれかの代表的な黄斑の厚さの測定値がその個々の仕様上限よりも高い(またはそれに等しいか、またはそれ以上である)ことに応答して、本システムは、不規則性を示す信号(例えば、電子信号、音声信号、視覚信号、触覚信号など)を発信する。この不規則性は、医学的なケアが望ましいことを示していると解釈され得る。例えば、医療施術者、例えば、網膜専門医または医師は、患者を診察し、OCT画像および他の医療データを収集および検査することを含み得る精密検査に基づいて、医療診断を提供し得る。例えば、発信される信号は、電気通信ネットワーク(例えば、テキストメッセージ、電子メール、インターネット、電話等)によって患者の医師(または診療所)に遠隔で送信される電子メッセージであり得る。
【0016】
黄斑のROIのいずれかの代表的な黄斑の厚さの測定値がその個々の仕様下限よりも低い(またはそれに等しい)ことに応答して、対象の(affected)黄斑のROIの患者個人化ベースライン厚さが調整され得る。例えば、患者個人化ベースライン厚さは、対象の黄斑のROIの代表的な黄斑の厚さの測定値に基づいて調整し得る。いくつかの適用例では、対象の患者個人化ベースライン厚さは、測定値が仕様下限よりも低くなった最初のときに調整されるのではなく、眼の代表的な黄斑の厚さの測定値が仕様下限よりも低くなるのが2回目または3回目にわたって連続したときに調整される。対象の患者個人化ベースライン厚さは、仕様下限よりも低い眼の2つ以上の代表的な黄斑の厚さの測定値(任意選択的に、現在の値を含む)の平均に調整され得る。
【0017】
任意選択的に、対象の黄斑のROIの仕様上限および仕様下限のうちの少なくとも一方は、その代表的な黄斑の厚さの測定値が仕様上限よりも高い(または、それに等しい)か、または仕様下限よりも低い(また、それに等しい)ことに応答して調整され得る。例えば、仕様上限および/または仕様下限は、所定の範囲内で事前設定された増分量だけ自動的に調整され得る(例えば、任意選択的に、それらの個々のオフセット値を調整することによって)。代替的に、仕様上限および/または仕様下限(またはそれらの個々のオフセット)は、対象の黄斑のROIの代表的な黄斑の厚さの測定値を仕様上限および/または仕様下限の再計算に組み込むことによって自動的に調整され得る。この再計算は、例えば、対象の黄斑のROIの代表的な黄斑の厚さの測定値の偏差測定値を、仕様上限および/または仕様下限の基準となる偏差測定値と平均化することを含み得る。代替的に、この値は、上限/下限の基礎となる統計的偏差(複数可)を再計算して、この再計算に対象の黄斑のROIの代表的な黄斑の厚さの測定値を組み込むことによって組み込まれ得る。別の選択肢は、認可されたユーザが、電気通信ネットワークを介して電子メッセージを受信したことに応答して、仕様上限および/または仕様下限(または、それらの個々のオフセット値)を遠隔で調整することである。
【0018】
本発明のその他の目的および達成事項は、本発明のより十分な理解と共に、添付の図面と併せて解釈される以下の説明と特許請求の範囲を参照することにより明らかとなり、理解されるであろう。
【0019】
本発明の理解を容易にするために、本明細書においていくつかの刊行物を引用または参照している。本明細書で引用または参照される全ての刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0020】
本明細書で開示される実施形態は例にすぎず、本開示の範囲はそれらに限定されない。1つの請求カテゴリ、例えばシステムにおいて記載される何れの実施形態の特徴も、他の請求カテゴリ、例えば方法においても特許請求できる。付属の請求項中の従属性または後方参照は、形式的な理由のためにのみ選択されている。しかしながら、それ以前の請求項への慎重な後方参照から得られる何れの主題もまた特許請求でき、それによって請求項およびその特徴のあらゆる組合せが開示され、付属の特許請求の範囲の中で選択された従属性に関係なく、特許請求できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図面において、同様の参照番号/文字は同様の部材を指す。
【
図1A】網膜上の3つの指定されたセクタ(例えば、3つの黄斑関心領域、ROI)の例を提供し、本発明は、例えば、人の患者固有の(または患者に個人化された)ベースライン厚さおよび黄斑の厚さの変動閾値レベル(例えば、仕様上限および/または仕様下限)を決定するためなど、網膜の厚さの変化を調査/モニタリングする。
【
図1B】典型的な早期治療糖尿病性網膜症研究((ETDRS:Early Treatment Diabetic Retinopathy Study)グリッドの例を提供する。
【
図2】統計的研究において使用された22人の滲出型AMD患者のうちの1人の全ての利用可能な医師の診療所診察についての3つの対応する網膜セクタ(例えば、
図1に示されるような黄斑のROI)の各々の黄斑の厚さ(μm)の3つのデータプロットを示す。
【
図3A】2人の患者(例えば、患者Aおよび患者B)の2つの追加のデータプロットの例を示し、
図1の中心セクタ、内側セクタ、および外側セクタ(黄斑のROI)の黄斑の厚さデータを示す。
【
図3B】2人の患者(例えば、患者Aおよび患者B)の2つの追加のデータプロットの例を示し、
図1の中心セクタ、内側セクタ、および外側セクタ(黄斑のROI)の黄斑の厚さデータを示す。
【
図4A】滲出型AMD(wAMD)患者の安定期間中の中心セクタ、内側セクタ、および外側セクタの各々における網膜の厚さの標準偏差を示す。
【
図4B】22人の滲出型AMD患者の30回の安定期間にわたる正常な網膜の厚さの変動および標準偏差の要約を提供する表を示す。
【
図5A】2年間(
図5A)および3年間(
図5B)にわたる2人のwAMD患者の注射および診療所診察の概要を提供する。
【
図5B】2年間(
図5A)および3年間(
図5B)にわたる2人のwAMD患者の注射および診療所診察の概要を提供する。
【
図6】本発明による、wAMD患者における液体漏出の遠隔モニタリングのための(例えば、仕様下限/上限を設定するための)例示的なワークフローの2つの段階を示す。
【
図7】本発明による、wAMD患者における液体漏出の遠隔モニタリングのための(例えば、仕様下限/上限を設定するための)例示的なワークフローの2つの段階を示す。
【
図8A】8年間にわたる別のwAMD患者(患者C)の網膜の厚さのデータへの本発明の適用の第1の例を示す。
【
図8B】8年間にわたる別のwAMD患者(患者C)の網膜の厚さのデータへの本発明の適用の第1の例を示す。
【
図8C】8年間にわたる別のwAMD患者(患者C)の網膜の厚さのデータへの本発明の適用の第1の例を示す。
【
図8D】8年間にわたる別のwAMD患者(患者C)の網膜の厚さのデータへの本発明の適用の第1の例を示す。
【
図9A】8年間にわたる別のwAMD患者(患者D)の網膜の厚さのデータへの本発明の適用の第2の例を示す。
【
図9B】8年間にわたる別のwAMD患者(患者D)の網膜の厚さのデータへの本発明の適用の第2の例を示す。
【
図9C】8年間にわたる別のwAMD患者(患者D)の網膜の厚さのデータへの本発明の適用の第2の例を示す。
【
図9D】8年間にわたる別のwAMD患者(患者D)の網膜の厚さのデータへの本発明の適用の第2の例を示す。
【
図10】本発明と共に使用するのに適した眼の3D画像データを収集するために使用される一般化された周波数領域光干渉断層撮影システムを示す。
【
図11】例示的に、様々な標準的な網膜層および境界を識別する、人間の眼の正常な網膜の例示的なOCT Bスキャン画像を示す。
【
図13】脈管構造(OCTA)画像の例示的なBスキャンを示す。
【
図14】本発明とともに使用するのに適した例示的なコンピュータシステム(またはコンピューティングデバイスもしくはコンピュータ)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
網膜における液体漏出の進行をモニタリングする能力は、滲出型加齢黄斑変性症(滲出型AMD、wAMD)の遠隔モニタリングにとって重要である。遠隔モニタリングは、患者が定期的にOCTスキャンを取得することを必要とし、診療所診察、またはオペレータ/技術者がOCTスキャンを取得すること、または医師(または専門技術者)が全ての取得されたスキャンを精査することを必要としない。従って、家庭用または自己使用型または携帯用または遠隔/遠隔医療OCTデバイス/システム(例えば、遠隔モニタリングのために使用されるOCTデバイス)は、それ自体が液体漏出の進行をモニタリングすることが可能であることが望ましい。網膜生理学的変化の正常な変動を理解することにより、本システムは、変化が重大である時期(例えば、不規則である時期、または抗VEGF投薬および/または医師の診察の必要性の可能性を示す時期)を決定し、さらなる医療支援のために患者の医師に通知する(例えば、電子ディスプレイもしくはスピーカ上の電子メッセージ/信号を介して、またはインターネットもしくは他の有線/無線電気通信ネットワーク/システムおよび/もしくはコンピュータネットワークを介して、ローカルにまたはリモートに)ことが可能である。例えば、医療従事者、例えば、網膜専門医または医師は、患者を診察し、OCT画像および他の医療データを収集および検査することを含み得る精密検査に基づいて、医療診断を提供し得る。
【0023】
OCTスキャンに基づいて黄斑の厚さマップを生成することは、多くの市販のOCTシステムにおいて実施されている技術である。上述したように、現在、網膜専門医は、視力データ、Bスキャン、および厚さマップを使用して、患者のための最良の治療シナリオに関する決定を行うことができ、例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、アモアク(Amoaku)他著、「新生血管型AMDにおける抗VEGF療法に対する反応性の定義(Defining Response to Anti-VEGF Therapies in Neovascular AMD)」、アイ(Eye) 第29巻、2015年、721頁~731頁を参照されたい。さらに、シラス(CIRRUS(登録商標))および他の市販のOCTシステムは、現在、それらのデータベース内で利用可能な任意の2回の診察間の黄斑の厚さ変化分析を行い、これは、早期治療糖尿病性網膜症研究(ETDRS:Early Treatment of Diabetic Retinopathy Study)黄斑グリッドの各部位の変化を特定することに役立っている。しかしながら、これらのデータは、医師の診察により収集されるため、診療所診察中に患者のOCTスキャンを取得した後にのみ利用可能になる。
【0024】
本明細書では、網膜の厚さの経時的な変化の分析が、滲出型AMD患者における液体追跡を評価するための有効なツールとして実証されている。出願人らは、特定の領域における黄斑の厚さの経時的な変化をモニタリングすることによって、本システムが、人の患者に個人化されたまたは患者固有の(例えば、個別化されたまたは個人化された)ベースライン厚さ(例えば、医療介入を必要としない標準レベル)および医療介入が必要とされる時期を示す患者固有の(上限/下限)閾値(例えば、仕様上限/仕様下限)を決定することができることを見出した。
図1Aは、人の患者固有のベースラインおよび(例えば、患者固有の)黄斑の厚さの変動閾値レベル(例えば、仕様上限および/または仕様下限)を決定するためなど、網膜の厚さの変化を調査するための網膜9上の3つのセクタ(または黄斑エリア/関心領域(ROI))の例を提供する。例示のために、
図1Bは、当該技術分野で知られている典型的なETDRSグリッド10の一例を提供する。
図1Aにおいて、3つのセクタ(例えば、3つの同心円状の黄斑のROI)は、典型的なETDRSグリッド(
図1BのC1)の中心サブフィールドに任意選択的に対応し得、かつ1mmの直径を有する円(または中実ディスク領域)11として示される中心エリア11と、ETDRSグリッド(S3、N3、I3、およびT3)の全ての内側サブフィールドの組合せに任意選択的に対応し得、中心エリア11と同心であるとともに、1mmの内径および3mmの外径を有する第1の環状体(または穴を有するシェルもしくはディスク)13として示される内側セクタ13と、ETDRSグリッド(S6、N6、I6、およびT6)の全ての外側サブフィールドの組合せに対応し得、かつここでは、内側セクタ13と同心であり、かつ3mmの内径および6mmの外径を有する第2の環状体(またはシェル)として示される外側セクタ15として識別されている。これらの3つのセクタまたは関心領域は、情報の収集を簡単にしながらも、本発明の目的に対して液体の位置(および変化)に関する十分な情報を提供することが分かっている。
【0025】
例示的な実施では、シラス(Cirrus(商標))OCTシステムを用いて3年間にわたって収集された22人の滲出型AMD患者のOCTスキャンを精査した。この3年の期間は、萎縮型AMDの約6ヶ月の期間および滲出型AMD(wAMD)の約30ヶ月の期間をカバーしていた。注射(例えば、抗VEGF注射)を伴うおよび伴わない診療所診察を示すために、データに適切に注釈を付けた。これらの22人の患者のそれぞれについて黄斑の厚さの経時的な変化をプロットした。一例として、
図2は、22人の滲出型AMD患者のうちの1人の全ての利用可能な診療所診察についての3つの対応するセクタ11、13、および15(
図1Aに示す)の各々の黄斑の厚さ(μm)の3つのプロット21、23、および25を示す。例えば、プロット21は、中心エリア11の黄斑の厚さに従い、プロット23は、内側セクタ13の黄斑の厚さを示し、プロット25は、外側セクタ15の黄斑の厚さを示す。プロットされた黄斑の厚さの測定値の各々は、そのそれぞれの黄斑のROIの全体的な厚さの特徴である代表的な黄斑の厚さの測定値である。例えば、複数の個別の厚さの測定値が各黄斑のROIにわたって分散して決定され得、黄斑のROIの代表的な黄斑の厚さの測定値は、これらの複数の個別の黄斑の厚さの測定値に基づき得る。例えば、黄斑のROIの代表的な厚さの測定値は、その全ての個別の黄斑の厚さの測定値の平均、またはその最も高い個別の黄斑の厚さの測定値、またはその最も高い個別の黄斑の厚さの測定値の2つ以上(例えば、10%~50%)の平均、またはこれらの手法の組み合わせとして決定され得る。
【0026】
図2において、3つのプロット21、23、および25上の各ドットは、OCTスキャンが行われたときの診療所診察で決定された代表的な網膜(例えば、黄斑)の厚さの測定値を示す。黄斑の厚さの変化をよりよく理解するために、対応する中心B-スキャンと黄斑の厚さマップ27a、27b、27c、および27dとのペアが、プロットの水平軸上の丸で囲まれた日付によって示されるように、4回の選択された診療所診察について示されている。縦破線は、注射が行われた診療所診察を示し、任意の診療所診察時に縦破線が存在しない場合は、注射が行われなかったことを示す。この例では、最初の6ヶ月間(2016年8月から2017年2月まで)、この特定の患者は、萎縮型期間(例えば、萎縮型AMDで、液体の蓄積が観察されなかった)であったが、2017年2月3日に、患者は最初の注射を受けた。これは、患者の萎縮型AMDが滲出型AMDに転換/進行したことを示す。
【0027】
本明細書中で使用される場合、「安定期間」という用語は、複数回(あるいは、3回以上)の診療所診察で、いずれのセクタの網膜の厚さも有意に変化がなかった期間(例えば、5%以下の変化、または眼に薬剤の注射が処方されなかったか、または眼に投与されなかった)であり、患者が注射を必要としなかった可能性が高い期間として定義される。一般的に、安定期間中には、Bスキャンでも有意な液体ポケットは見られない。患者が投薬に対して良好に反応する場合、このことは、典型的には、患者が3回の連続した注射を受けてから約1ヶ月後に(例えば、安定期間に入ることによって)明らかになることが観察されている。しかし、3回の連続した注射を受けた全ての患者が必ずしも安定期間に入るわけではなく、例えば、全ての患者が注射のレジメンに良好に反応するわけではないことが理解されるべきである。しかしながら、患者が安定期間に入った場合、その安定期間は、医療的なケアを必要とする次の大きなピークまで続く。一例として、
図2の患者の利用可能なスキャンに基づいて、3つの安定期間、即ち
- 第1安定期間:2017年7月11日~2017年11月3日(この期間は、最初の3回の連続注射を受けた後、注射の主要期間に続く)、
- 第2安定期間:2018年5月11日~2018年8月15日(この期間は、2018年2月の第1の大きなピークの後の3回の連続注射に続く)、
- 第3安定期間:2019年3月12日~2020年3月17日(この期間は、2018年9月の第2の大きなピークの後の3回の連続注射に続く)を特定することができる。
萎縮型期間中の網膜の厚さの変化の性質を考慮し、本発明者のデータに基づいて、各セクタ(黄斑のROI)の患者個人化ベースライン厚さは、萎縮型期間中の各対応するセクタの代表的な黄斑の厚さの測定値の平均として定義され得る。各患者は、個人の眼の生理機能に基づいて、個人自身の個別化された特定のベースラインを有していることを理解されたい。患者の萎縮型期間中の網膜の厚さ情報が利用可能でない場合、その患者の各セクタの患者個人化ベースライン厚さは、最も萎縮した点として知られる、治療中の各対応するセクタの最低の代表の黄斑の厚さの測定値の平均に基づいて決定され得る。
【0028】
例えば、
図3Aおよび
図3Bは、2人のそれぞれの患者(例えば、患者Aおよび患者B)からの2つの追加の例を示し、参照文字31A/B、33A/B、および35A/Bは、
図1において特定された3つのセクタ11、13、および15の各々に対応する黄斑の厚さの個々のプロットを特定する。
図3Aを参照すると、患者Aの黄斑の厚さのプロットは、萎縮型AMDの期間を含む患者の履歴を示しており、その厚さデータ値は領域30によって囲まれている。領域30内のプロット31A、33A、および35Aのデータ点のそれぞれの平均を使用して、患者Aの中心エリア、内側セクタ、および外側セクタのそれぞれの患者個人化ベースライン(黄斑)厚さの値が定義され得る。
【0029】
図3Bを参照すると、患者Bの黄斑の厚さのプロットは、滲出型AMDの発症前の連続的な萎縮型AMD期間を含んでいない患者履歴を示す。換言すれば、
図3Aのものと同様の方法でそれぞれの黄斑のベースライン厚さを定義するのに十分な萎縮型AMD期間中の患者Bの履歴がない。
図3Bの場合、患者個人化ベースライン(黄斑)厚さは、「萎縮ありの診察」または「最も萎縮のあった診察」(領域32、34、および36によって強調される)の間の平均厚さとして定義され得る。これらの診察は、医療従事者によってスケジュールされた医師の診察(例えば、検査時期)であり得る。本質的に、
図3Bは、注射がほぼ最初の診療所診察から行われたことを示しており、従って、萎縮型AMDの延長期間(例えば、3回の連続の診察)は存在しない。この場合、プロット31B、33B、および35Bの最低の3つの対応するデータ点(例えば、最も萎縮のあった診察)は、これらの診察時に注射が行われた場合であっても、データ群32、34、および36として別々に識別される。任意選択的に、これらは、注射が必要でなかった場合の診療所診察に対応し得るが、注射を伴わない診察に限定されるものではない。さらに任意選択的に、特定された領域は、3回の連続した医師の診察(例えば、以前にスケジュールされた黄斑の厚さの検査時期に対応する所定の間隔(例えば、4~6週間間隔)で行われたOCTスキャン)に対応し得るが、やはり、必ずしもそのように限定されるものではなく、連続した診察に限定されるものではない。領域32、34、および36内のプロット31B、33B、および35Bのデータ点のそれぞれの平均を使用して、患者Bの中心エリア、内側セクタ、外側セクタのそれぞれの黄斑のベースライン厚さの値が定義され得る。
【0030】
患者個人化ベースライン厚さに加えて、3つのセクタ(中心エリア/セクタ、内側セクタ、および外側セクタ)の各々に対する(一般集団の)網膜の厚さの正常な変動/典型的な変動も取得された。例示的な実施形態において、医療介入を必要としない網膜の厚さの正常な変動を、22人のwAMD患者の30回の安定期間にわたる3つのセクタの各々の網膜の厚さの変化を精査することによって決定した。
図4Aは、22人のwAMD患者についての安定期間(例えば、
図3Aおよび3Bにおける期間30、32、34および36)の間の3つのセクタの各々についての代表的な網膜の厚さの測定値の網膜の厚さの標準偏差(変動)を示す。
図4Bは、22人の滲出型AMD患者の30回の安定期間にわたる正常な網膜の厚さの変動の要約を提供する表を示す。
図4Bは、中心エリア/セクタ、内側セクタ、および外側セクタの各々についての黄斑の平均厚さの変動および厚さ変化の標準偏差を提供する。最小閾値(例えば、オフセット)値は、
図4Bのテーブルから定義され得、例えば、各セクタについて観測された統計的偏差に基づいて決定され得る。次いで、この閾値(例えば、オフセット)値を使用して、仕様上限(例えば、厚さ偏差が不規則である(基準外である)と見なされ得るとともに、投薬または医療的なケアが推奨され得る上側閾値)および/または仕様下限(例えば、萎縮期間を示し得る下側閾値)が定義され得る。例えば、患者の仕様上限は、患者の患者個人化ベースライン厚さに第1のオフセット(上側閾値オフセット)を加えたものとして決定され得、患者の仕様下限は、患者の患者個人化ベースライン厚さから第2のオフセット(下側閾値オフセット)を差し引いたものとして決定され得る。第1および第2のオフセットは同じであり得るか、または独立して決定され得る。例えば、中心エリア/セクタは、必ずではないが、典型的には、液体の蓄積に対してより敏感であることが観察されているため、偽陰性(例えば、本システムが、患者が多くの液体を有し、医療的なケアを必要としているにもかかわらず、遠隔モニタリングを推奨するような状況)を回避することを所望することがあっても、依然として、中心エリア/セクタ内の厚さの変動により多く注目することを所望し得る。
図4Aから、15μmの統計的偏差(例えば、中心エリア/セクタのμm単位の最大標準偏差/最高標準偏差)は、中心エリア/セクタにおける通常の厚さの変動に対応するだけでなく、内側セクタおよび外側セクタにおけるほとんどの偽陰性を回避するのに十分であり得ることが分かる。この場合、選択された1つのセクタ(中心エリア/セクタ)を使用して、共通のオフセットを設定して、全てのセクタ(黄斑のROI)についての仕様上限(および/または仕様下限)が決定され得る。代替的に、
図4Bに示されるような、6~7の標準偏差等の別の統計的偏差が、任意のセクタまたは全てのセクタに使用され得る。
【0031】
上記の分析は、(例えば、即時の)医療介入(例えば、抗VEGF薬の注射または診療所診察)を必要とし得ない患者の網膜の厚さの正常な変動を決定/特定するのに有益である。即ち、本システムは、患者の病状をモニタリングし得る。この分析を使用して、本システムは、(例えば、患者に最適化されるか、または個別化された)閾値(即ち、仕様上限)を設定して、患者が更なる医学的分析のために診療所の診察を受けることが有益であり得る(例えば、患者が診察を受けることが望ましい)ことを示し得る網膜の厚さの変化を特定することができ、その時点で、ヘルスケア提供者は、患者の状態が有意に変化したかどうか、および医療処置(例えば、抗VEGF薬の注射)を受けることが有益であるかどうかを決定することができる。例えば、本システムは、医師の診察が推奨されることを患者に通知し得るか、または通信ネットワークを使用して、医師(または所定の医療提供者)に自動アラートを発行するか、または医師の予約を依頼する要求を送信し得る。通信ネットワークは、有線通信ネットワーク、またはインターネット、セルラーネットワークなどの無線通信ネットワークであり得る。出願人は、各患者の個別化された(患者固有の)ベースラインおよび閾値が、患者の疾患状態、液体の種類、および治療に対する患者の眼の反応に左右されると判断した。例えば、一部の患者は、本質的により厚い網膜組織を有しているため、本質的により薄い網膜組織を有する患者よりも高いベースラインを必要とし得る。本システムは、患者の初期仕様上限(黄斑の厚さ閾値)を設定する際に上述のパラメータを考慮に入れることに加えて、治療過程中に(例えば、治療に対する患者の個人的な反応に基づいて)閾値パラメータを更に調整(例えば、変更/更新)し、更に、このパラメータを網膜専門医、医師、または他の認可された医療従事者が手動で調整することを可能にする。例えば、本システムは、特定の患者に対して個人化された閾値を提案し得るが、患者の医師は、システムが提案した(例えば、患者固有の上限および/または下限)閾値を上書きし、閾値を手動で調整し得る。いくつかの実施形態では、閾値は、15μm、20μm、25μm、または30μmの増分値で15μm~30μmの閾値範囲等の推奨範囲で一定の大きさの間隔で(例えば、医師、技術者、または他の認可されたユーザによって)調整可能であり得る。しかしながら、システムの推奨範囲外のより高い閾値またはより低い閾値(システムが推奨する増分値に限定されない)を、医師の意見に基づいて医師が設定することもできる。
【0032】
遠隔モニタリングOCTシステムにおけるこの作業における分析を実施することによって、本システムは、患者毎に治療を個人化することができ、これは、個人向け、遠隔向け、または家庭向けのOCT用途に非常に好適である。さらに、本研究の結果に基づいて、本システムは、過剰な量の液体(例えば、網膜液体漏出または網膜液体蓄積)を早期に特定して、適時に治療を誘導/推奨することが可能である。加えて、患者のOCTデータベース/履歴(例えば、遠隔OCTシステム内に以前のスキャン結果が保存され得る)を精査する本システムの機能により、システムが、治療に対する患者の個別化された反応を分析し、その患者にとってより良好な薬剤および治療間隔の選択を予測/推奨することが可能となる。
【0033】
図5Aおよび
図5Bは、上記の応用例をより良好に例示するために、2年間(
図5A)および3年間(
図5B)にわたる2人の他のwAMD患者の注射および診療所診察の概要を提供する。これらの2つの例は、滲出型AMDの遠隔モニタリングが医師により多くの情報を提供するのに役立ち得ることを示している。
図5Aは、2年間にわたる第1のwAMD患者による医師の診察のショーケースであり、各医師の診察において取得された厚さマップ50の例が示されている。2016年に、第1のwAMD患者は、定期的な診療所診察を開始し、期間51および注射記号52によって示されるように、最初は頻繁に注射を受けた。2017年に、投薬に対する良好な反応のために、第1のwAMD患者の医師は、治療および延長プロトコルを適用し、ここで、期間53によって示されるように、注射間の時間間隔は、必要に応じて広げられた。しかし、しばらくした後、第1のwAMD患者の網膜に大量の液体漏出があり、これは2018年1月まで確認されなかった(期間54を参照)。2017年9月から2018年1月までの間のデータの欠如に起因して、この大量の漏出は、後期段階/進行段階に達するまで認識されなかった。滲出型AMDの遠隔モニタリングが第1のwAMD患者に利用可能であった場合、大量の漏出が早期に捕捉/特定された可能性があり、永久的な視力低下を予防する見込みが改善されたであろう。
【0034】
図5Bは、全期間が3年にわたる第2のwAMD患者による診療所診察の例を提供する。
図5Aの例と同様に、第2のwAMD患者も、最初に、初期期間55中に頻繁に注射を受け、その後、治療および延長プロトコル期間56に移行し、注射間の時間間隔を必要に応じて広げた。しかし、治療に対する良好な反応に起因して、第2のwAMD患者は、2020年に(注射)投薬を必要としなかった/受けなかった。それにもかかわらず、第2のwAMD患者は、期間57によって示されるように、モニタリングのために診療所で定期的に受診しなければならなかった。滲出型AMDを有する患者は、高齢者が多く、診療所で受診することは、困難であり、かつ負担であり得る。wAMDの遠隔モニタリングが第2のwAMD患者に利用可能であった場合、頻繁かつ定期的な診療所診察の負担を排除または軽減することができた可能性がある。
【0035】
図6および
図7は、本発明による、wAMD患者における液体漏出の遠隔モニタリングのための例示的なワークフローの2つの段階を示す。
図6は、本発明による遠隔モニタリングシステムが家庭使用/遠隔使用のために初期化/準備される初期化段階を示す。滲出型AMD患者の網膜液体漏出の遠隔モニタリングを実施するために、第1のステップ61は、特定の患者について、上述の3つの眼セクタ(
図1参照)のうちの1つまたは複数、好ましくは3つの眼セクタについて、網膜の厚さの個人化されたベースライン(例えば、患者個人化ベースライン厚さ)を決定することである。このステップは、萎縮型AMD期間中の患者による診療所診察の医療履歴があればそれに基づいて、または最小量の液体での医師の診察に基づいて行われ得る。このベースラインは、医師の診察データが蓄積するにつれて調整され得る。代替的に、このデータは医師に利用可能であるため、医師(または指定された技師)は、患者に合わせた個人化ベースラインを決定することができる。さらに代替的に、医師は、本システムが提供する推奨閾値のリストから選択し得る。次のステップ63は、各眼セクタ(例えば、中心セクタ、内側セクタ、および外側セクタの各々)に閾値オフセットを割り当てることである。閾値オフセットは、全てのセクタに対して同じであってもよく(例えば、15μm)、またはセクタ間で異なっていてもよい(例えば、中心セクタに対して15μm、内側セクタに対して25μm、および外側セクタに対して20μm)。各眼セクタに対する仕様上限(USL)64および仕様下限(LSL)65は、決定されたベースライン値(単数または複数)および選択された閾値オフセット(単数または複数)に基づいて決定され得る。例えば、各眼セクタの仕様上限64は、各セクタの対応する患者個人化ベースライン厚さの値およびその選択された(例えば、上側の)閾値オフセットを加算することによって設定され得(ステップ67)、各眼セクタの仕様下限65は、各セクタの対応する患者個人化ベースライン厚さの値から各セクタの対応する選択された(例えば、下側の)閾値オフセットを減算することによって設定され得る(ステップ69)。
【0036】
図6の初期設定シーケンスの後、
図7のアクティブ遠隔モニタリング方法を開始することができる。ステップ711において、患者は、本発明による個人向けOCTシステム/携帯型OCTシステムを使用して、患者の眼のOCTスキャンを遠隔で取得/収集し得る。次いで、スキャンデータは、例えば、網膜層(単数または複数)ごとに(携帯型OCTシステムによって自動的に)セグメント化され(ステップ713)、3つの指定された眼セクタ(例えば、中心セクタ、内側セクタ、外側セクタ)のうちの少なくとも1つ、好ましくは全ての網膜の厚さの値(例えば、厚さマップが作成される)が算出され(ステップ715)、各セクタの個々の代表的な黄斑の厚さの値(例えば、セクタ内の個別の厚さの測定値またはセクタ平均厚さの測定値に基づく)が、そのそれぞれに指定された仕様上限(USL)と比較される(ステップ717)。OCTデータをセグメント化し、セグメント化されたデータから厚さの値を決定するための技法は、周知であり、本明細書で説明する必要はない。指定された眼セクタのいずれかの代表的な黄斑の厚さの値/測定値が、そのそれぞれの仕様上限を超える場合(ステップ719=是)、デバイスは、フラグ/信号を発行し、医師(および/または患者)に、ローカルにまたはリモートに、診療所診察の潜在的必要性を通知する(ステップ721)。いずれのセクタも、それぞれの上側閾値を超える代表的な黄斑の厚さの測定値を有していない場合(ステップ719=否)、代表的な黄斑の厚さの測定値は、それぞれの仕様下限(LSL)と比較される(ステップ723)。全ての厚さの測定値がそれぞれの仕様下限を超える場合(ステップ725=是)、現在のスキャンシーケンスが完了して、レポートが生成され、患者に次のスケジュールされた遠隔スキャンの通知が発行され得る(ステップ727)。いずれかの眼セクタの代表的な黄斑の厚さの測定値がそのそれぞれの仕様下限を超えない場合(ステップ725=否)、本システムは、任意選択的に、いずれかの厚さの測定値がそのそれぞれの仕様下限を下回るのが初めてであるかどうかをチェックし(ステップ729)、そうである場合(ステップ729=是)、プロセスは、再び、ステップ727に移行し、本スキャンシーケンスが完了して、レポートが生成され、患者に次のスケジュールされた遠隔スキャンの通知/リマインダが発行され得る。厚さの測定値がそのそれぞれの仕様下限値を下回ったのが初めてではない場合(ステップ729=否)、システムは、代表的な黄斑の厚さの測定値がそのそれぞれの仕様下限値を下回った連続回数(例えば、連続した、スケジュールされたOCTスキャン)をチェックし、対象のセクタ(例えば、代表的な黄斑の厚さの値(単数または複数)/測定値(単数または複数)がそのそれぞれの仕様下限値を下回った眼セクタ)について、患者の患者個人化ベースライン厚さ、仕様上限(USL)、および/または仕様下限(USL)(
図6参照)を更新することができる。例えば、3つの眼セクタのいずれかにおける厚さの測定値が、2回以上(例えば、少なくとも3回)の連続セッションの間、そのそれぞれの仕様下限を下回る場合、これは、患者の眼が治療に良好に反応していることの指標であり得、対象のセクタ(単数または複数)の患者個人化ベースライン厚さが、対象のセクタ(単数または複数)の低い値を有するスキャンの平均厚さ(例えば、対象のセクタの3回の連続スキャンにおけるそのそれぞれの仕様下限を下回る厚さの測定値(単数または複数)の平均、または対象のセクタ(単数または複数)内の全ての厚さの測定値の平均)に変更され得る(ステップ731)。この時点で、患者個人化ベースライン厚さが更新され得、任意選択的に、自動的にまたは医師の承認/入力に応じて、仕様上限および/または仕様下限が変更され得る(ステップ733)。自動的である場合、仕様上限および/または仕様下限は、推奨範囲内で次に高い増分値または低い増分値に変更され得るか、または、上述したように、上側閾値オフセットおよび/または下側閾値オフセットを決定するための統計分析に低い値を有する患者の厚さの測定値を組み込むことによって変更され得る。代替的に、本遠隔OCTシステムは、任意選択的に、患者の減少した厚さの測定値およびベースライン、仕様上限、および/または仕様下限を調整するためのその推奨値(単数または複数)を医師に遠隔で(例えば、インターネットまたは他の電気通信システムもしくはネットワークを介して)通知し得る。医師は、次いで、本OCTシステムに、そのベースライン、仕様上限、および/または仕様下限を更新するように遠隔で指示し得る。次いで、遠隔OCTシステムは、ステップ727に移行し、現在のセッションを終了する。
【0037】
図8A~
図8Dおよび
図9A~
図9Dは、2人の例示的な試験患者(それぞれ患者Cおよび患者D)に本発明を適用することにより、医療介入の絶対的な必要性がある場合、および患者が診療所で診察を受ける必要がない場合をどのように識別することができたかを示す。この例は、その有効性の一例として、既存の医療履歴に遡及的に適用されているため、医師の入力なしに本発明の自動手順を適用している。
図8A~
図8Dは、8年間にわたるwAMD患者Cの網膜の厚さのレベルを示す。
図8Aは、3つのモニタリングされた網膜セクタ(即ち、中心セクタ、内側セクタ、および外側セクタ)の各々について、OCTスキャン(例えば、日付によって示されるように、診療所診察時に撮影されたもの)に基づいて決定された代表的な黄斑の厚さの測定値を示す。このデータは、患者Cの診療所診察中に取得され、OCTスキャンの日付が列挙され、注射(例えば、抗VEGF投薬)が行われたときを縦の点線によって示した。患者Cは、2012年1月11日から2016年3月2日までの最初の4年間について、最初に萎縮型AMDと診断された。6ヶ月後の2016年9月7日に、患者Cは、縦の点線によって示されるように、最初の注射を受けた。この最初の注射の後、患者Cは、次の2年半の間、約3ヶ月間隔で複数回の注射を受け、この観察期間中の最後の注射を2019年2月20日に受けた。患者Cは、その後、投薬を中止したが、患者Cは、OCTスキャンを受けて液体漏出の進行をモニタリングするために、本観察期間の残りの間、診療所診察を依然として継続しなければならなかった。
【0038】
本発明を患者Cの履歴に適用して、中心セクタ、内部セクタ、および外部セクタの各々について、患者個人化ベースラインを、安定期間中(例えば、患者Cの萎縮型AMD期間中)の網膜の厚さの平均として定義した。本例は、中心セクタ、内側セクタ、および外側セクタの各々のそれぞれの患者個人化ベースライン厚さから15ミクロンの上側閾値オフセットおよび下側閾値オフセットを使用して、それぞれの仕様上限および仕様下限を決定した。説明を簡単にするために、
図8Bは、
図8Aからの中心セクタの黄斑の厚さデータ上に、(本発明を使用して決定されるような、例えば、
図6および
図7を参照した)中心セクタの(患者個人化された)ベースライン(厚さ)、患者固有の上側閾値(仕様上限)、および患者固有の下側閾値(仕様下限)を重ね合わせたものである。同様に、
図8Cは、内側セクタの黄斑の厚さデータ上のベースライン(厚さ)、患者固有の上側閾値(USL)、および患者固有の下側閾値(LSL)を示し、
図8Dは、外側セクタの黄斑の厚さデータ上の決定されたベースライン(厚さ)および患者固有の上側閾値および下側閾値を示す。
【0039】
本例では、
図8Cおよび
図8Dに示されるように、患者Cの内側セクタおよび外側セクタの黄斑の厚さは、それらのそれぞれの上側閾値および下側閾値内に留まった。しかしながら、患者Cは、主に中心セクタにおいて著しい漏出が発生している。15ミクロンの現在の閾値を使用して、
図8Bでは、黄斑の厚さが中心セクタ内の上側閾値を超えた3つの事例(円81および83)が特定される。例示の目的で、2つのこれらの事例について、黄斑の厚さの値、Bスキャン、および厚さマップが示されている。これらの事例は、注射の必要性、または少なくとも直接的な医療介入/検査の必要性を示すトリガとなり得る。
【0040】
第2の例示的な試験患者である患者Dの場合、
図9A~
図9Dは、8年間にわたる網膜の厚さのレベルを示す。
図9Aは、3つのモニタリングされた網膜セクタ(即ち、中心セクタ、内側セクタ、および外側セクタ)の各々についてOCTスキャンによって決定された代表的な黄斑の厚さの測定値を示す。
図8Aと同様の方法で、このデータは、患者Dの診療所診察中に取得され、OCTスキャンの日付が列挙され、注射が行われた場面を縦の点線によって示した。
図9Aを参照すると、患者Dは、2012年11月21日から2019年1月約30日までの最初の7年間、萎縮型AMDを有していたことが示されている。しかしながら、患者Dは、最初の注射を受けたのは約4ヶ月後の2019年5月22日であった。患者Dは、8年間の観察期間のうちの残りの期間、注射処置を継続した。
【0041】
上記の例と同様に、
図9B、
図9C、および
図9Dはそれぞれ、患者Dの中心セクタ、内側セクタ、および外側セクタを、それらの決定されたベースライン、仕様上限、および仕様下限と共に示す。各個々の(患者に個人化された)ベースラインは、萎縮型AMD状態で医師の診察時に決定された(代表的な)網膜の厚さの測定値の平均(任意選択的に、3回の連続診察の移動平均)として定義される。第1の例と同様に、ベースラインから15μmのオフセットが、各眼セクタの仕様上限および仕様下限を定義するように設定される。
【0042】
図9Bに示されるように、患者Dの液体漏出の大部分は周辺領域にあるが、全てのセクタに対するこの15μmの閾値によって、2019年1月30日の中心セクタにおける第1のトリガイベントが特定される。
図9Cおよび
図9Dにそれぞれ示されるように、黄斑の厚さに基づく複数の他のトリガ事象も、その後、内側セクタおよび外側セクタにおいて見出される。本システムが患者Dの観察期間中に使用されていた場合、2019年1月30日の早期トリガ事象は、重大であり、かつ薬剤の注射を必要とするものとしてフラグ付けされていたであろう。そのようにすれば、患者Dは、患者が行ったよりも4ヶ月早く投薬治療を開始していた可能性がある。当該分野で公知のように、滲出型AMDの早期診断および処置は、液体漏出に起因する視力低下が現在のところ回復可能ではないため、重要である。
【0043】
従って、本発明はいくつかの利点を提供する。本システム/方法は、OCTスキャンおよび/または厚さマップによって得られるような網膜の厚の測定値の統計分析に基づいて、網膜安定性および液体漏出再発事象のモニタリングを提供する。本モニタリングシステムは、臨床医が設定した閾値、または自動的に決定/算出された閾値、または予め設定された固定値の閾値に基づいて、患者の網膜内に有意な量の液体が存在するときにフラグを立てることができる。加えて、本モニタリングシステムは、患者毎に個別に設定することができるとともに、患者が後続のOCTスキャンにおいて追加の黄斑の厚さの測定値を蓄積するにつれてさらに更新することができるベースラインおよび閾値(注射が必要とされる時期を示す)を提供する。従って、本モニタリングシステムは、黄斑の厚さの変化によって決定されるように、患者の眼が治療に対して良好に反応しているときに、ベースラインおよび閾値を調整することができる。また、本モニタリングシステムは、医師が、治療に対する患者の個別化された反応を理解し、かつ患者のための薬剤および治療間隔のより良好な選択を誘導することに役立ち得る。例えば、本モニタリングシステムでは、網膜の厚さの変化の統計的変動に基づいて、患者-治療スケジュールの最適化を決定することができる。
【0044】
以下に、本発明に好適な各種ハードウェアおよびアーキテクチャについて説明する。
光干渉断層撮影撮像システム
概して、光干渉断層撮影(OCT)は、低コヒーレンス光を使用して、生体組織の2次元(2D)および3次元(3D)内部ビューを生成する。OCTは、網膜構造の生体内撮像を可能にする。OCT血管造影(OCTA)は、網膜内からの血管の流れなどのフロー情報を生成する。OCTシステムの例は、米国特許第6741359号明細書および同第9706915号明細書に提供されており、OCTAシステムの例には、米国特許第9700206号明細書および米国特許第9759544号明細書があり、これらは全て、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。例示的なOCT/OCTAシステムが本明細書で提供される。
【0045】
図10は、本発明との使用に適した眼の3D画像データ収集用の一般型周波数領域光干渉断層撮影(FD-OCT)システムを図解する。FD-OCTシステムOCT_1は、光源LtSrc1を含む。典型的な光源には、時間コヒーレンス長が短い広帯域光源、または掃引レーザ源が含まれるがこれらに限定されない。光源LtScr1からの光のビームは、典型的に光ファイバFbr1によってサンプル、例えば眼Eを照明するように誘導され、典型的なサンプルは人間の眼内組織である。光源LrSrc1は、例えば、スペクトルドメインOCT(SD-OCT)の場合に時間コヒーレンス長が短い広帯域光源であり、掃引光源OCT(SS-OCT)の場合には波長可変レーザ光源であり得る。光は、典型的には、光ファイバFbr1の出力とサンプルEとの間のスキャナScnr1を用いてスキャンされ得、その結果、光のビーム(破線Bm)は、撮像されるべきサンプルの領域にわたって横方向にスキャンされる。スキャナScnr1からの光ビームは、走査レンズSLおよび眼科用レンズOLを通過し、撮像されるサンプルE上に合焦され得る。走査レンズSLは、複数の入射角でスキャナScnr1から光ビームを受け取り、実質的にコリメートされた光を生成し、眼科用レンズOLは、次いで、サンプル上に合焦させることができる。本例は、所望の視野(FOV)をスキャンするために2つの横方向(例えば、デカルト平面上のx方向およびy方向)にスキャンされる必要がある走査ビームを示す。この例は、サンプルを横切ってスキャンするためにポイントフィールドビームを使用するポイントフィールドOCTである。従って、スキャナScnr1は、2つのサブスキャナ、即ち、第1の方向(例えば、水平x方向)にサンプルにわたってポイントフィールドビームをスキャンするための第1のサブスキャナXscnと、交差する第2の方向(例えば、垂直y方向)にサンプル上でポイントフィールドビームをスキャンするための第2のサブスキャナYscnとを含むように例示的に示されている。走査ビームがラインフィールドビーム(例えば、ラインフィールドOCT)であり、一度にサンプルのライン部分全体をサンプリングし得る場合、所望のFOVに及ぶようにサンプルにわたってラインフィールドビームをスキャンするために、1つのスキャナのみが必要とされ得る。走査ビームがフルフィールドビーム(例えば、フルフィールドOCT)である場合、スキャナは必要とされなくてもよく、フルフィールド光ビームは、一度に所望のFOV全体にわたって照射されてもよい。
【0046】
使用されるビームの種類に関係なく、サンプルから散乱された光(例えば、サンプル光)が収集される。本実施例では、サンプルから戻る散乱光は、照明のために光をルーティングするために使用される同じ光ファイバFbr1に収集される。同じ光源LtSrc1から派生する参照光は別の経路に沿って移動し、この場合、これには光ファイバFbr2および調整可能な光学遅延を有する逆反射板RR1が含まれる。当業者であればわかるように、透過性参照経路も使用でき、調整可能遅延はサンプルまたは干渉計の参照アームの中に設置できる。集光されたサンプル光は、例えばファイバカプラCplr1において参照光と結合され、OCT光検出器Dtctr1(例えば、光検出器アレイ、デジタルカメラ等)内の光干渉を形成する。1つのファイバポートが検出器Dtctr1に到達するように示されているが、当業者であればわかるように、干渉信号のバランスまたはアンバランス検出のために様々な設計の干渉計を使用できる。検出器Dtctr1からの出力は、プロセッサ(例えば、内部または外部コンピューティングデバイス)Cmp1に供給され、それが観察された干渉をサンプルの深さ情報へと変換する。深さ情報は、プロセッサCmp1に関連付けられるメモリ内に保存され、および/またはディスプレイ(例えば、コンピュータ/電子ディスプレイ/スクリーン)Scn1に表示されてよい。処理および保存機能は、OCT機器内に局在化されてよく、または機能は、収集されたデータが転送される外部プロセッサ(例えば、外部コンピュータシステム)にオフロードされてもよい(例えば、外部プロセッサ上で実行されてもよい)。
図14に、コンピューティングデバイス(またはコンピュータシステム)の一例を示す。このユニットは、データ処理専用とすることも、またはごく一般的で、OCTデバイス装置に専用ではないその他のタスクを実行することもできる。プロセッサ(コンピューティングデバイス)Cmp1は例えば、1つまたは複数のホストプロセッサおよび/または1つまたは複数の外部コンピューティングデバイスとシリアル方式および/または並列化方式で処理ステップの一部または全体を実行し得るフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、デジタル信号プロセッサ(DSP)、特定用途集積回路(ASIC)、グラフィクス処理ユニット(GPU)、システムオンチップ(SoC)、中央処理ユニット(CPU)、汎用グラフィクス処理ユニット(GPGPU)、またはそれらの組合せを含んでいてよい。
【0047】
干渉計内のサンプルアームと参照アームは、バルク光学系、ファイバ光学系、またはハイブリッドバルク光学システムで構成でき、また、当業者の間で知られているように、マイケルソン、マッハ・ツェンダ、または共通光路系設計等、異なるアーキテクチャを有することができる。光ビームとは、本明細書において使用されるかぎり、慎重に方向付けられるあらゆる光路と解釈されるべきである。ビームを機械的にスキャンする代わりに、光の場が網膜の1次元または2次元エリアを照明して、OCTデータを生成できる(例えば、米国特許第9332902号明細書、ディー.ヒルマン(D.Hillmann)他著、「ホロスコピ-ホログラフィック光干渉断層撮影(Holoscopy-holographic optical coherence tomography)」オプティクスレターズ(Optics Letters)、第36巻(13)、p.2290、2011年、ワイ.ナカムラ(Y.Nakamura)他著、「ラインフィールドスペクトルドメイン光干渉断層撮影法による高速3次元ヒト網膜撮像(High-Speed three dimensional human retinal imaging by line field spectral domain optical coherence tomography)」、オプティクスエクスプレス(Optics Express)、第15巻(12)、p.7103、2007年、ブラスコヴィッチ(Blazkiewicz)他著、「フルフィールドフーリエドメイン光干渉断層撮影法の信号対ノイズ比の研究(Signal-to-noise ratio study of full-field Fourier-domain optical coherence tomography)」、アプライド・オプティクス(Applied Optics)、第44巻(36)、p.7722(2005年)参照)。時間領域システムでは、参照アームは干渉を生じさせるために調整可能な光学遅延を有する必要がある。バランス検出システムは典型的にTD-OCTおよびSS-OCTシステムで使用され、分光計はSD-OCTシステムのための検出ポートで使用される。本明細書に記載の発明は、何れの種類のOCTシステムにも応用できる。本発明の様々な態様は、何れの種類のOCTシステムにも、またはその他の種類の眼科診断システムおよび/または、眼底撮像システム、視野試験装置、および走査型レーザ偏光計を含むがこれらに限定されない複数の眼科診断システムにも適用できる。
【0048】
フーリエドメイン光干渉断層撮影法(FD-OCT)において、各測定値は実数値スペクトル制御干渉図形(Sj(k))である。実数値スペクトルデータには典型的に、背景除去、分散補正等を含む幾つかの後処理ステップが行われる。処理された干渉図形のフーリエ変換によって、複素OCT信号出力Aj(z)=|Aj|eiφが得られる。この複素OCT信号の絶対値、|Aj|から、異なる経路長での散乱強度、したがってサンプル内の深さ(z-方向)に関する散乱のプロファイルが明らかとなる。同様に、位相φjもまた、複素OCT信号から抽出できる。深さに関する手散乱のプロファイルは、軸方向スキャン(A-スキャン)と呼ばれる。サンプル内の隣接する位置において測定されたA-スキャンの集合により、サンプルの断面画像(断層画像またはB-スキャン)が生成される。サンプル上の横方向の異なる位置で収集されたBスキャンの集合が、データボリュームまたはキューブを構成する。特定のデータボリュームについて、速い軸とは1つのB-スキャンに沿ったスキャン方向を指し、遅い軸とは、それに沿って複数のB-スキャンが収集される軸を指す。「クラスタスキャン」という用語は、血流を識別するために使用されてよいモーションコントラストを解析するために、同じ(または実質的に同じ)位置(または領域)での反復的取得により生成されるデータの1つのユニットまたはブロックを指してよい。クラスタスキャンは、サンプル上のほぼ同じ位置において比較的短い時間間隔で収集された複数のA-スキャンまたはB-スキャンで構成できる。クラスタスキャンのスキャンは同じ領域のものであるため、静止構造はクラスタスキャン中のスキャン間で比較的変化しないままであるのに対し、所定の基準を満たすスキャン間のモーションコントラストは血液流として識別されてよい。
【0049】
B-スキャンを生成するための様々な方法が当業界で知られており、これには、水平またはx方向に沿ったもの、垂直またはy方向に沿ったもの、xおよびyの対角線に沿ったもの、または円形若しくは螺旋パターンのものが含まれるがこれらに限定されない。B-スキャンは、x-z次元内であってよいが、z次元を含む何れの断面画像であってもよい。ヒトの眼の正常な網膜の例示的なOCT Bスキャン画像が
図11に示されている。網膜のOCT Bスキャンは、網膜組織の構造のビューを提供する。例示目的のために、
図11は、種々の正規の網膜層および層の境界を識別する。識別された網膜境界層は、(上から下へ順に)内境界膜(ILM:inner limiting membrane)層1、網膜神経線維層(RNFL:retinal nerve fiber layerまたはNFL)層2、神経節細胞層(GCL:ganglion cell layer)層3、内網状層(IPL:inner plexiform layer)層4、内顆粒層(INL:inner nuclear layer)層5、外網状層(OPL:outer plexiform layer)層6、外顆粒層(ONL:outer nuclear layer)層7、視細胞の外節(OS:outer segments)と内節(IS:inner segments)との間の接合部(参照符号層8によって示される)、外限界膜または外境界膜(ELM:external limiting membrane またはOLM:outer limiting membrane)層9、網膜色素上皮(RPE:retinal pigment epithelium)層10、およびブルッフ膜(BM:Bruch’s membrane)層11を含む。
【0050】
OCT血管造影法または関数型OCTにおいて、解析アルゴリズムは、動きまたは流れを解析するために、サンプル上の同じ、またはほぼ同じサンプル位置において異なる時間に収集された(例えば、クラスタスキャン)OCTデータに適用されてよい(例えば、米国特許出願公開第2005/0171438号明細書、同第2012/0307014号明細書、同第2010/0027857号明細書、同第2012/0277579号明細書、および米国特許第6549801号明細書を参照されたく、これらの全ての全体を参照によって本願に援用する)。OCTシステムでは、血流を識別するために多くのOCT血管造影法処理アルゴリズム(例えば、モーションコントラストアルゴリズム)のうちの何れの1つを使用してもよい。例えば、モーションコントラストアルゴリズムは、画像データから導出される強度情報(強度に基づくアルゴリズム)、画像データからの位相情報(位相に基づくアルゴリズム)、または複素画像データ(複素に基づくアルゴリズム)に適用できる。en face画像は3D OCTデータの2D投射である(例えば、個々のA-スキャンの各々の強度を平均することにより、これによって、各A-スキャンが2D投射内のピクセルを画定する)。同様に、en face脈管構造画像は、モーションコントラスト信号を表示する画像であり、その中で深さに対応するデータディメンション(例えば、A-スキャンに沿ったz方向)は、典型的にはデータの全部または隔離部分を加算または集積することによって、1つの代表値(例えば、2D投射画像内のピクセル)として表示される(例えば、米国特許第7301644号明細書を参照されたく、その全体を参照によって本願に援用する)。血管造影機能を提供するOCTシステムは、OCT血管造影(OCTA)システムと呼ばれてよい。
【0051】
図12は、en face脈管構造画像の例を示す。データを処理し、当業界で知られるモーションコントラスト法の何れかを用いてモーションコントラストをハイライトした後に、網膜の内境界膜(ILM:internal limiting membrane)の表面からのある組織深さに対応するピクセル範囲を加算して、その脈管構造のen face(例えば、正面図)画像が生成されてよい。
図13は、脈管構造(OCTA)画像の例示的なBスキャンを示す。図示されるように、血流が複数の網膜層を横断することで、
図11に示されるような構造的OCT Bスキャンにおけるよりも複数の網膜層を不明確にし得るため、構造的情報は明確ではない場合がある。それにもかかわらず、OCTAは、網膜および脈絡膜の微小血管系を撮像するための非侵襲的技法を提供し、これは、様々な病変を診断および/またはモニタリングするために重要であり得る。例えば、OCTAは、微小動脈瘤、血管新生複合体を識別し、中心窩無血管ゾーンおよび非灌流領域を定量化することによって、糖尿病性網膜症を識別するために使用され得る。さらに、OCTAは、網膜における血管の流れを観察するために色素の注入を必要とする、より伝統的であるがより回避的な技術である蛍光血管造影(FA:fluorescein angiography)と良好に一致することが示されている。さらに、萎縮型加齢黄斑変性において、OCTAは、脈絡膜毛細血管板フローの全般的な減少をモニタリングするために使用されている。同様に、滲出型加齢黄斑変性において、OCTAは、脈絡膜新生血管膜の定性的および定量的分析を提供することができる。OCTAはまた、血管閉塞を研究するために、例えば、非灌流領域の評価ならびに浅神経叢および深層神経叢の完全性の評価のために使用されている。
【0052】
コンピューティングデバイス/システム
図14は、例示的なコンピュータシステム(またはコンピューティングデバイスまたはコンピュータデバイス)を図解する。幾つかの実施形態において、1つまたは複数のコンピュータシステムは本明細書において記載または図解された機能を提供し、および/または本明細書において記載または図解された1つまたは複数の方法の1つまたは複数のステップを実行してよい。コンピュータシステムは、何れの適当な物理的形態をとってもよい。例えば、コンピュータシステムは、埋込みコンピュータシステム、システムオンチップ(SOC)、またはシングルボードコンピュータシステム(SBC)(例えば、コンピュータ・オン・モジュール(COM)またはシステム・オン・モジュール(SOM)等)、デスクトップコンピュータシステム、ラップトップ若しくはノートブックコンピュータシステム、コンピュータシステムのメッシュ、携帯電話、携帯型情報端末(PDA)、サーバ、タブレットコンピュータシステム、拡張/仮想現実装置、またはこれらのうちの2つ以上の組合せであってよい。適当であれば、コンピュータシステムはクラウド内にあってよく、これは1つまたは複数のクラウドコンポーネントを1つまたは複数のネットワーク内に含んでいてよい。
【0053】
幾つかの実施形態において、コンピュータシステムはプロセッサCpnt1、メモリCpnt2、ストレージCpnt3、入力/出力(I/O)インタフェースCpnt4、通信インタフェースCpnt5、およびバスCpnt6を含んでいてよい。コンピュータシステムは、任意選択により、ディスプレイCpnt7、例えばコンピュータモニタまたはスクリーンも含んでいてよい。
【0054】
プロセッサCpnt1は、コンピュータプログラムを構成するもの等、命令を実行するためのハードウェアを含む。例えば、プロセッサCpnt1は、中央処理ユニット(CPU)または汎用コンピューティング・オン・グラフィクス処理ユニット(GPGPU)であってもよい。プロセッサCpnt1は、命令を内部レジスタ、内部キャッシュ、メモリCpnt2、またはストレージCpnt3から読み出し(またはフェッチし)、この命令を復号して実行し、1つまたは複数の結果を内部レジスタ、内部キャッシュ、メモリCpnt2、またはストレージCpnt3に書き込んでよい。特定の実施形態において、プロセッサCpnt1は、データ、命令、またはアドレスのための1つまたは複数の内部キャッシュを含んでいてよい。プロセッサCpnt1は、1つまたは複数の命令キャッシュ、1つまたは複数のデータキャッシュを、例えばデータテーブルを保持するために含んでいてよい。命令キャッシュ内の命令は、メモリCpnt2またはストレージCpnt3内の命令のコピーであってもよく、命令キャッシュはプロセッサCpnt1によるこれらの命令の読出しをスピードアップするかもしれない。プロセッサCpnt1は、何れの適当な数の内部レジスタを含んでいてもよく、1つまたは複数の算術論理演算ユニット(ALU:arithmetic logic units)を含んでいてよい。プロセッサCpnt1は、マルチコアプロセッサであるか、または1つ若しくは複数のプロセッサCpnt1を含んでいてよい。本開示は特定のプロセッサを説明し、図解しているが、本開示は何れの適当なプロセッサも想定している。
【0055】
メモリCpnt2は、処理を実行し、または処理中に中間データを保持するプロセッサCpnt1のための命令を保存するメインメモリを含んでいてよい。例えば、コンピュータシステムは、命令またはデータ(例えば、データテーブル)をストレージCpnt3から、または他のソース(例えば、他のコンピュータシステム)からメモリCpnt2にロードしてもよい。プロセッサCpnt1は、メモリCpnt2からの命令とデータを1つまたは複数の内部レジスタまたは内部キャッシュにロードしてもよい。命令を実行するために、プロセッサCpnt1は内部レジスタまたは内部キャッシュから命令を読み出して復号してもよい。命令の実行中またはその後に、プロセッサCpnt1は1つまたは複数の結果(これは、中間結果でも最終結果でもよい)を内部レジスタ、内部キャッシュ、メモリCpnt2、またはストレージCpnt3に書き込んでよい。バスCpnt6は、1つまたは複数のメモリバス(これは各々、アズレスバスとデータバスを含んでいてよい)を含んでいてよく、プロセッサCpnt1をメモリCpnt2および/またはストレージCpnt3に連結してよい。任意選択により、1つまたは複数のメモリ管理ユニット(MMU)は、プロセッサCpnt1とメモリCpnt2との間のデータ伝送を容易にする。メモリCpnt2(これは、高速揮発性メモリであってもよい)には、ランダムアクセスメモリ(RAM)、例えばダイナミックRAM(DRAM)またはスタティックRAM(SRAM)が含まれていてよい。ストレージCpnt3には、データまたは命令のための長期または大容量メストレージを含んでいてよい。ストレージCpnt3はコンピュータシステムに内蔵されても外付けでもよく、ディスクドライブ(例えば、ハードディスクドライブHDD、またはソリッドステートドライブSSD)、フラッシュメモリ、ROM、EPROM、光ディスク、磁気光ディスク、磁気テープ、ユニバーサルシリアルバス(USB)-アクセス可能ドライブ、またはその他の種類の不揮発性メモリのうちの1つまたは複数を含んでいてよい。
【0056】
I/OインタフェースCpnt4は、ソフトウェア、ハードウェア、またはそれら両方の組合せであってよく、I/Oデバイスと通信するための1つまたは複数のインタフェース(例えば、シリアルまたはパラレル通信ポート)を含んでいてよく、これはヒト(例えば、ユーザ)との通信を可能にしてもよい。例えば、I/Oデバイスとしては、キーボード、キーパッド、マイクロフォン、モニタ、マウス、プリンタ、スキャナ、スピーカ、スチールカメラ、スタイラス、テーブル、タッチスクリーン、トラックボール、ビデオカメラ、他の適当なI/Oデバイス、またはこれら2つ以上の組合せが含まれていてよい。
【0057】
通信インタフェースCpnt5は、他のシステムまたはネットワークと通信するためのネットワークインタフェースを提供してもよい。通信インタフェースCpnt5は、Bluetooth(登録商標)インタフェースまたはその他の種類のパケットベース通信を含んでいてよい。例えば、通信インタフェースCpnt5は、ネットワークインタフェースコントローラ(NIC)および/または、無線ネットワークとの通信のための無線NIC若しくは無線アダプタを含んでいてよい。通信インタフェースCpnt5は、WI-FIネットワーク、アドホックネットワーク、パーソナルエリアネットワーク(PAN)、無線PAN(例えば、Bluetooth WPAN)、ローカルエリアネットワーク(LAN)、ワイドエリアネットワーク(WAN)、メトロポリタンエリアネットワーク(MAN)、携帯電話ネットワーク(例えば、汎欧州デジタル移動電話方式(Global System for Mobile Communications)(GSM(登録商標))ネットワーク等)、インターネット、またはこれらの2つ以上の組合せとの通信を提供してよい。
【0058】
バスCpnt6は、コンピューティングシステムの上述のコンポーネント間の通信リンクを提供してよい。例えば、バスCpnt6は、アクセラレーテッド・グラフィックス・ポート(Accelerated Graphics Port)(AGP)若しくはその他のグラフィクスバス、拡張業界標準(Enhanced Industry Standard)アーキテクチャ(EISA)バス、フロントサイドバス(FSB)、ハイパートランスポート(HyperTransport)(HT)インタコネクト、業界標準アーキテクチャ(ISA)バス、インフィニバンド(InfiniBand)バス、low-pin-count(LPC)バス、メモリバス、マイクロチャネルアーキテクチャ(MCA)バス、ペリフェラル・コンポーネント・インターコネクト(Peripheral Component Interconnect)(PCI)バス、PCI-Express(PCIe)バス、シリアル・アドバンスト・テクノロジ・アタッチメント(serial advanced technology attachment)(SATA)バス、ビデオ・エレクトロニクス・スタンダーズ・アソシエーション・ローカル(Video Electronics Standards Association local)(VLB)バス、若しくはその他の適当なバス、またはこれらの2つ以上の組合せを含んでいてよい。
【0059】
本開示は、特定の数の特定のコンポーネントを特定の配置で有する特定のコンピュータシステムを説明し、図解しているが、本開示は何れの適当な数の何れの適当なコンポーネントを何れの適当な配置で有する何れの適当なコンピュータシステムも想定している。
【0060】
本明細書において、コンピュータ可読非一時的記憶媒体は、1つまたは複数の半導体ベースまたはその他の集積回路(IC)(例えば、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)若しくは特定用途IC(ASIC))、ハードディスクドライブ(HDD)、ハイブリッドハードドライブ(HHD)、光ディスク、光ディスクドライブ(ODD)、磁気光ディスク、磁気光ドライブ、フロッピディスケット、フロッピディスクドライブ(FDD)、磁気テープ、ソリッドステートドライブ(SSD)、RAM-ドライブ、SECURE DIGITALカード若しくはドライブ、その他のあらゆる適当なコンピュータ可読非一時的記憶媒体、または適当であればこれらの2つ以上あらゆる適当な組合せを含んでいてよい。コンピュータ可読非一時的記憶媒体は、揮発性、不揮発性、または適当であれば揮発性と不揮発性の組合せであってよい。
【0061】
本発明は幾つかの具体的な実施形態と共に説明されているが、当業者にとっては明白であるように、上記の説明を参照すれば多くのその他の代替案、改良、および変形型が明らかである。それゆえ、本明細書に記載の発明は、付属の特許請求の範囲の主旨と範囲に含まれるかもしれないあらゆるこのような代替案、改良、応用、および変形型の全てを包含することが意図されている。
【国際調査報告】