(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】バルプロ酸の新規類似体及びそれを用いた治療方法
(51)【国際特許分類】
C07C 53/128 20060101AFI20241226BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20241226BHJP
A61P 25/06 20060101ALI20241226BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20241226BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20241226BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20241226BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20241226BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20241226BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20241226BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241226BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241226BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20241226BHJP
A61K 31/225 20060101ALI20241226BHJP
C07B 59/00 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C07C53/128
A61P25/18
A61P25/06
A61P25/08
A61P9/10
A61P7/02
A61P13/12
A61P9/12
A61P1/16
A61P17/00
A61P27/02
A61P1/18
A61K31/225
C07B59/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538134
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-08-05
(86)【国際出願番号】 GB2022053318
(87)【国際公開番号】W WO2023118846
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524235359
【氏名又は名称】セレノ サイエンティフィク アクティエ ボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】フェックス,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】セルヨー,ヨナス ファイヤソン
【テーマコード(参考)】
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206DB29
4C206DB43
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA79
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZA36
4C206ZA42
4C206ZA45
4C206ZA54
4C206ZA59
4C206ZA81
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB20
4H006AB21
4H006AB23
4H006BS10
4H006CN10
(57)【要約】
本発明は、式Iの化合物に関し、式中、R1はH又はDのうちのいずれかであり、Dは重水素であり、又はその薬学的に許容される塩である。本発明はまた、過剰なフィブリン沈着、血栓形成、片頭痛、双極性障害、てんかんに関連する異常な状態、及びヒストンデアセチラーゼ(HDAC)の阻害が治療的利益を提供する関連状態を治療する方法に関する。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物であって、
【化1】
R
1は、H又はDのうちのいずれかであり、Dは重水素であり、
又はその薬学的に許容される塩である、化合物。
【請求項2】
式中、R
1がHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
R
1がDである、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記薬学的に許容される塩がナトリウム塩である、請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の化合物及び少なくとも1つの医薬ビヒクルを含む医薬組成物。
【請求項6】
血栓形成、過剰なフィブリン沈着及び/若しくは線維症に関連する異常な状態の治療及び/若しくは予防に使用するための、請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
双極性障害の治療に使用するための、請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
片頭痛の治療に使用するための、請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
てんかんの治療に使用するための、請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
治療を必要とする対象における血栓形成、過剰なフィブリン沈着及び/又は線維症に関連する異常な状態を治療する方法であって、請求項5に記載の医薬組成物の治療有効量を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項11】
血栓形成及び/若しくは過剰なフィブリン沈着に関連する前記異常な状態が、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞、虚血性脳卒中、深部静脈血栓症、表在静脈血栓症、血栓性静脈炎、肺塞栓症、播種性血管内凝固、腎血管疾患及び間欠性跛行からなる群から選択され、線維症に関連する前記異常な状態が、心臓線維症、動脈線維症、肺線維症、肺動脈性肺高血圧症に関連する線維症、血栓塞栓症に関連する線維症、NASHに関連する線維症、腎線維症、眼線維症、皮膚線維症、肝線維症、膵線維症及び他のGI管線維症からなる群から選択される、請求項6に記載の使用のための化合物又は請求項10に記載の方法。
【請求項12】
使用のための前記化合物又は医薬組成物が、経口、静脈内、腹腔内、皮内、筋肉内、皮下、鼻腔内、硬膜外、経口、舌下、鼻腔内、脳内、経皮、直腸及び局所からなる群から選択される投与経路を介して前記対象に投与される、請求項6に記載の使用のための化合物又は請求項10若しくは11に記載の方法。
【請求項13】
血栓形成、過剰なフィブリン沈着及び/若しくは線維症に関連する異常な状態の治療及び/若しくは予防に使用するための、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項14】
血栓形成及び/若しくは過剰なフィブリン沈着に関連する前記異常な状態が、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞、虚血性脳卒中、深部静脈血栓症、表在静脈血栓症、血栓性静脈炎、肺塞栓症、播種性血管内凝固、腎血管疾患及び間欠性跛行からなる群から選択され、線維症に関連する前記異常な状態が、心臓線維症、動脈線維症、肺線維症、肺動脈性肺高血圧症に関連する線維症、血栓塞栓症に関連する線維症、NASHに関連する線維症、腎線維症、眼線維症、皮膚線維症、肝線維症、膵線維症及び他のGI管線維症からなる群から選択される、請求項13に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項15】
前記医薬組成物は、経口、静脈内、腹腔内、皮内、筋肉内、皮下、鼻腔内、硬膜外、経口、舌下、鼻腔内、脳内、経皮、直腸及び局所からなる群から選択される投与経路を介して投与される、請求項13又は14項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項16】
治療有効量の請求項5に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む、治療を必要とする前記対象における双極性障害を治療する方法。
【請求項17】
使用のための前記化合物又は前記医薬組成物が、経口、静脈内、腹腔内、皮内、筋肉内、皮下、鼻腔内、硬膜外、経口、舌下、鼻腔内、脳内、経皮、直腸及び局所からなる群から選択される投与経路を介して前記対象に投与される、請求項7に記載の使用のための化合物又は請求項16に記載の方法。
【請求項18】
片頭痛の頻度の低減を必要とする対象において片頭痛の頻度を低減する方法であって、治療有効量の請求項5に記載の医薬組成物を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項19】
使用のための前記化合物又は前記医薬組成物が、経口、静脈内、腹腔内、皮内、筋肉内、皮下、鼻腔内、硬膜外、経口、舌下、鼻腔内、脳内、経皮、直腸及び局所からなる群から選択される投与経路を介して前記対象に投与される、請求項8に記載の使用のための化合物又は請求項18に記載の方法。
【請求項20】
治療を必要とする対象においててんかんを治療する方法であって、治療有効量の請求項5に記載の医薬組成物を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項21】
前記医薬組成物が、経口、静脈内、腹腔内、皮内、筋肉内、皮下、鼻腔内、硬膜外、経口、舌下、鼻腔内、脳内、経皮、直腸及び局所からなる群から選択される投与経路を介して前記対象に投与される、請求項9に記載の使用のための化合物又は請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過剰な血栓形成、フィブリン沈着、てんかん、双極性疾患及び/若しくはヒストン脱アセチル化に関連する異常な状態を治療するのに有用な新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にVPAと略されるバルプロ酸は、発作を治療するための抗痙攣薬として最初に使用された周知の化合物であり、双極性障害を有する患者における躁病を治療するため、及び片頭痛を予防するためにも使用される。更に、VPAは、ヒストンデアセチラーゼ(histone deacetylases、HDAC)の阻害剤であり、したがって遺伝子発現を変化させることができる。そのため、VPAは、潜在的な抗癌治療薬として最近研究されている。しかしながら、HDAC阻害剤として作用するVPAの能力が、発作、双極性障害を治療し、片頭痛を予防するその能力に関連するかどうかは明らかではない。
【0003】
VPAの投与は治療的利益を提供し得るが、VPAに関連した有意な毒性が存在する。実際、VPA投与は、急性肝不全を含む有意な肝臓毒性と関連し得る。特に、VPAの一般的な代謝産物である4-エン-VPA(以下に示す)が、少なくとも部分的にVPAに関連する毒性の原因であるという証拠が増えている。
【0004】
【0005】
任意の活性医薬成分と同様に、VPAを投与することに伴うリスクが、任意のタイプの特定の治療のためにこの化合物を投与する利益を上回り得る場合がある。したがって、当技術分野を悩ます問題は、VPAが、有益である一方で、ある特定の患者を治療する際の使用に有用であるためには、あまりにも大きな毒性リスクを患者にもたらし得ることである。したがって、肝臓毒性などの副作用を最小限に抑えながら、上記の医学的適応症の少なくとも一部の治療を可能にする新規化合物及び/若しくは医薬組成物が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0143507号
【特許文献2】米国特許出願公開第2012/0071554号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Rettie,A.,et al.,J.Biol.Chem,263(27):13733-13738(1988)
【非特許文献2】Corrado E.,et al.An update on the role of markers of inflammation in atherosclerosis,Journal of Atherosclerosis and Thrombosis,2010;17:1-11
【非特許文献3】Koenig W.,Fibrin(ogen)in cardiovascular disease:a update,Thrombosis Haemostasis 2003;89:601-9
【非特許文献4】Langer,Science 249:1527-1533(1990)
【非特許文献5】Treat et al.,in Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer,Lopez-Berestein and Fidler(eds.),Liss,New York,pp.353-365(1989)
【非特許文献6】Sefton,1987,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201
【非特許文献7】Buchwald et al.,1980,Surgery 88:507
【非特許文献8】Saudek et al.,1989,N.Engl.J.Med.321:574
【非特許文献9】Medical Applications of Controlled Release,Langer and Wise(eds.),CRC Pres.,Boca Raton,Fla.(1974)
【非特許文献10】Controlled Drug Bioavailability,Drug Product Design and Performance,Smolen and Ball(eds.),Wiley,New York(1984)
【非特許文献11】Ranger and Peppas,1983,J.Macromol.Sci.Rev.Macromol.Chem.23:61
【非特許文献12】Levy et al.,1985,Science 228:190;During et al.,1989,Ann.Neurol.25:351.Howard et al.,1989,J.Neurosurg.71:105)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の目的は、前述の欠点のうちの1つ以上を克服するか、又は少なくとも軽減することである。更に、本開示の目的は、これまでに知られている技術によって提供されない利点及び態様を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本開示の本発明は、少なくとも1つの式Iの化合物を提供し
【0010】
【化2】
式中、R
1はH又はDのうちのいずれかであり、Dは重水素であり、又はその薬学的に許容される塩である。本発明はまた、過剰なフィブリン沈着、血栓形成、線維症、てんかん、片頭痛、双極性障害に関連する異常な状態、及びヒストンデアセチラーゼ(HDAC)の阻害が治療的利益を提供する関連する状態を治療する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の化合物で治療したマウスにおける出血時間の影響を示す。尾の出血時間を、生理食塩水又は100mg/kgのVPA、化合物Ia、化合物Ib、Rettie,A.,et al.,J.Biol.Chem,263(27):13733-13738(1988)参照4、‘507公報「D10」化合物、又は‘507公報「D11」化合物及び対照で治療したマウスにおいて評価した。対照、VPA、化合物Ia、化合物Ib、D10及びD11についてN=10。Rettie,A.,et al.,J.Biol.Chem.,263(27):13733-13738(1988)参照4化合物についてN=4。
【
図2】精巣挙筋レーザー誘発血栓症アッセイ(30mg/kg)における血小板蓄積を示す。
【
図3】精巣挙筋レーザー誘発血栓症アッセイ(30mg/kg)におけるフィブリン形成を示す。
【
図4】精巣挙筋レーザー誘発血栓症アッセイ(100mg/kg)における血小板蓄積を示す。
【
図5】VPA、化合物Ia(Cmpd Ia)及び化合物Ib(Cmpd Ib)における4-エン-VPA代謝産物の形成を示す。VPA中の4-エン-VPA代謝産物の形成を1.0に設定して、値を正規化した。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の発明は、少なくとも1つの式Iの化合物に関し
【0013】
【化3】
式中、R
1はH又はDのうちのいずれかであり、Dは重水素であり、又はその薬学的に許容される塩である。本明細書で使用される「本発明の化合物」という語句は、式Iの特定の化合物のうちのいずれか1つ以上を意味する。
【0014】
特定の実施形態では、式(I)の化合物が提供され、式中、R1は、Hを表す。
【0015】
更なる実施形態において、式(I)の化合物が提供され、式中R1はDを表する。
【0016】
本発明の特定の化合物には、化合物Ia及び/若しくはIb並びにその薬学的に許容される塩が含まれる。
【0017】
【0018】
化合物Iaは、本明細書において、2-(プロピル-2,2,3,3-d4ペンタン-4,4,5,5-d4酸、2-[(2,2,3,3-2H4)プロピル](4,4,5,5-2H4)ペンタン酸又は4,4,5,5-テトラデューテロ-2-(2,2,3,3-テトラデューテロプロピル)吉草酸(化合物1a)と称されてもよく、化合物Ibは、本明細書において、2-(プロピル-2,2,3,3-d4)ペンタン-2,4,4,5,5-d5酸又は2,4,4,5,5-ペンタデューテロ-2-(2,2,3,3-テトラデューテロプロピル)吉草酸(化合物1b)と称されてもよい。本発明の化合物は、特定の水素原子が重水素同位体(2H)で置換されているバルプロ酸(VPA)の新規な誘導体である(式I、化合物Ia及び化合物Ibにおいて「D」として表される)。本発明者らは、予期せぬことに、式Iの特定の重水素化パターンを有するバルプロ酸が、VPAの既知の毒性代謝産物のレベルを低減させる驚くべき代謝プロファイル、並びに過剰なフィブリン沈着及び/若しくは血栓形成に関連する状態を治療すること、及びこれらの状態を標的とする薬物においてしばしば見られる過剰な失血を低減させることの両方を行う高い安全性プロファイルを有することを見出した。
【0019】
「本発明の化合物」及び「本明細書に記載の化合物」という用語は、互換的に使用され、式Iの化合物、化合物Ia、化合物Ibを示すために使用することができる。
【0020】
水素が重水素で置換された薬理学的に活性な化合物は、一般に、それらの非重水素化対応物と同じ薬力学的効果を示す。しかしながら、重水素化は、予測不可能な方法で親化合物の代謝を変化させ得る。例えば、Rettie,A.,et al.,J.Biol.Chem,263(27):13733-13738(1988)(「Rettie」)は、VPAの特定の位置におけるVPAの重水素化が、4-エン-VPA代謝産物の形成を減少及び増加させることを報告した。具体的には、Rettieは、VPAの4位及び4’位における重水素化(4,4,4’,4’-D4VPA)が、VPAと比較してかなり少ない4-エン代謝産物の形成をもたらすことを指摘している。一方、Rettieは、5位及び5’位で完全に重水素化されたVPA(5,5,5,5’,5’,5D6VPA)が、VPAと比較して増加した量の4-エン-VPA代謝産物を形成したことを報告している。これらの結果は、VPAの4位及び/若しくは4’位における重水素化が、4-エン代謝産物の形成を減少させ得、したがって、おそらくVPA投与に関連する毒性を減少させ得ることを示唆する。しかし、これらの結果はまた、VPAの5位及び5’位における重水素化が、4-エン-VPA代謝産物の産生を増加させ、したがって、VPA投与に関連する毒性を増加させることを示唆する。したがって、Rettieは、VPAの5位及び/若しくは5’位の重水素化が回避されるべきであることを示唆する。
【0021】
重水素化VPAの一般概念は新しいものではない。例えば、上述したように、Rettieは重水素化VPA化合物を生成した。特に、Rettieは、4つの重水素化化合物:(4,4’-D2VPA)、(4,4,4’,4’-D4VPA)、(5,5,5-D3VPA)(5,5,5,5’,5’,5’D6VPA)を生成した。興味深いことに、4位及び4’位で重水素化された化合物は、代謝研究においてVPAよりも少ない4-エン-VPAを産生し、5位及び5’位で重水素化された化合物は、代謝研究においてVPAよりも多い4-エン-VPAを産生した。再び、これらのデータは、毒性を減少させるために、VPAにおける5位及び/若しくは5’位の重水素化を回避することを示唆する。
【0022】
継続出願が出願されずに放棄された米国特許出願公開第2010/0143507号もまた、重水素化VPA化合物の大きな属を開示している。しかしながら、‘507公報は、本発明の化合物の重水素化の特定のパターンを有する特定の重水素化分子を開示も示唆もしていない。更に、‘507公報は、どの特定の化合物が代謝されたときにより少ない4-エン-VPAを産生するか、又はどの特定の化合物が何らかの治療利益を提供し得るかについてのガイダンス又は示唆を提供していない。実際、‘507公報は、いかなる種類のいかなる活性又は代謝データも含んでいない。‘507公報が開示する数少ない特定の分子のうち、5位及び5’位は、完全に重水素化されているか、すなわち、化合物がこれらの2つの位置に6つの(6)2H同位体を有するか、又は完全に水素化されているか、すなわち、化合物がこれらの2つの位置に0個の(0)2H同位体を有するかのうちのいずれかである。
【0023】
継続出願が出願されずに放棄された米国特許出願公開第2012/0071554号(国際公開第2010/062656号)も、重水素化VPA化合物を開示している。しかしながら、‘554公報は、本発明の化合物の重水素化の特定のパターンを有する特定の重水素化分子を開示も示唆もしていない。更に、‘554公報は、どの特定の化合物が代謝されたときにより少ない4-エン-VPAを産生するか、又はどの特定の化合物が何らかの治療利益を提供し得るかについてのガイダンス又は示唆を提供していない。実際、‘554公報には、いかなる種類の活性、安定性又は代謝データも含まれていない。‘554公報が開示する数少ない特定の分子のうち、5位及び5’位は、完全に水素化されているか、すなわち、化合物がこれらの2つの位置に0個(0)の2H同位体を有するか、これらの位置のうちの1つのみが重水素化されているか、すなわち、化合物がこれらの2つの位置のうちの1つのみに3つ(3)2H同位体を有するか、又はこれらの位置のそれぞれにおいて1回のみ重水素化されているか、すなわち、化合物がこれらの2つの位置のそれぞれにおいて1つ(1)の2H同位体を有するかのうちのいずれかである。
【0024】
したがって、重水素化VPAの一般的概念は新規ではないかもしれないが、VPAの5位及び5’位のそれぞれで2個の水素を重水素化することを示唆するガイダンスは当技術分野にはない。実際、Rettie,A.,et al.,J.Biol.Chem.,263(27):13733-13738(1988)のデータは、VPAの5位及び/若しくは5’位の重水素化を完全に回避することを教示する。しかしながら、本発明者らは、5位及び5’位で4回重水素化されているすなわち、化合物がこれらの2つの位置のそれぞれに2つ(2)の
2H同位体を有する本発明の化合物が、毒性4-エン-VPA代謝産物への代謝において劇的減少していることを発見した。具体的には、4-エン-VPA代謝産物の形成は、実施例4及び
図5に提供されるように、VPAと比較した場合、化合物Iaについて約97%、化合物Ibについて約89%減少した。本発明の化合物からの毒性代謝産物の形成におけるこの劇的な減少は、予測できなかった。したがって、本発明は、重水素化VPAが単剤療法又は併用療法の一部として使用されるか、又は使用され得る状態を治療するための新規でより安全な化合物を提供する。以下に記載されるように、本発明の化合物はまた、VPAよりも予想外に優れた治療上の利点を有する。
【0025】
驚くべきことに、特定の重水素化パターンを有するVPAの新規誘導体である本明細書に記載の化合物は、毒性4-エン-VPA代謝産物の形成を減少させるだけでなく、VPAと比較して、投与された場合に過剰な出血を減少させることにおいて予想外に優れた性能も提供し得る。更に、これらの化合物は、VPAよりも血小板活性化及びフィブリン形成に関して有利な結果を提供し、このことは、これらの化合物が過剰な血栓形成及び/若しくはフィブリン沈着に関連する状態を治療する際に有用であることを示す。
【0026】
したがって、本発明はまた、血栓形成、過剰なフィブリン沈着、及び/若しくは線維症に関連する異常な状態を治療するために本発明の化合物を使用する方法を提供する。言い換えれば、本発明は、治療を必要とする対象において、血栓形成、過剰なフィブリン沈着及び/若しくは線維症に関連する異常な状態を治療する方法を提供する。血栓形成、過剰なフィブリン沈着及び/若しくは線維症に関連する異常な状態の治療方法は、本発明の化合物の1つ以上の治療有効量を、治療を必要とする対象に投与することを含む。
【0027】
血栓形成、過剰なフィブリン沈着及び/若しくは線維症に関連する異常な状態の治療及び/若しくは予防に使用するための、本明細書に記載の化合物、すなわち、本発明の化合物、又は本明細書に記載の医薬組成物も提供される。本明細書に記載される医薬組成物を投与することは、治療されている対象における過剰な失血を低減し得る。したがって、本明細書に記載される血栓形成、過剰なフィブリン沈着及び/若しくは線維症を特徴とする又はそれに関連する状態を治療又は予防する方法(及びそのような方法において使用するための化合物)はまた、治療される対象における過剰な失血を低減することを伴い得る。
【0028】
血栓形成、過剰なフィブリン沈着及び/若しくは線維症に関連する異常な状態の治療のための医薬品の製造のための、本明細書に記載される化合物又は本明細書に記載される医薬組成物の使用も提供される。
【0029】
したがって、本発明の更なる態様によれば、医薬品として使用するための本発明の化合物が提供される。
【0030】
本発明の化合物の1つ以上を使用して対象を治療及び/若しくは予防することができる血栓形成及び/若しくは過剰なフィブリン沈着を特徴とする又はそれに関連する状態の例としては、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞、虚血性脳卒中、深部静脈血栓症、表在静脈血栓症、血栓性静脈炎、肺塞栓症、播種性血管内凝固、腎血管疾患及び間欠性跛行が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態において、状態は、心筋梗塞、虚血性脳卒中、深部静脈血栓症及び肺塞栓症からなる群から選択される。本発明の化合物が治療及び/若しくは予防において有用であり得る、線維症に関連する特定の病理学的状態としては、心筋線維症などの心線維症、心房線維症、心肥大及びリモデリングに関連する線維症、心筋梗塞、心房細動及び心不全に関連する線維症、駆出率の低減及び維持を伴う右心不全及び左心不全、肺疾患に関連する心線維症、肺動脈高血圧症に関連する線維症、血栓塞栓性に関連する線維症、NASHに関連する線維症、肝硬変及び門脈圧亢進症、全身性高血圧を伴う腎線維症及び伴わない腎線維症、肺線維症(例えば、特発性肺線維症)、腹膜線維症、すなわち、腹膜の進行性線維性肥厚、結膜線維症、すなわち、眼瞼の内面及び眼球の前面の膜におけるI型コラーゲンの過剰産生、並びに/又は慢性腎疾患に関連する腎線維症が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
血栓形成、過剰なフィブリン沈着、及び/若しくは線維症に関連する異常な状態を治療するために本発明の化合物を使用する方法は、対象における過剰な失血を減少させ得る。
【0032】
本明細書中に記載されるように、いくつかの状態及びリスク因子は、血栓性事象(すなわち、血栓形成)にかかりやすくなることに関連する。これらには、アテローム性動脈硬化症、高血圧、腹部肥満、喫煙、座りがちな生活様式、及び軽度の炎症が含まれる。したがって、本発明の特定の実施形態では、治療又は予防は、1つ以上のそのような状態/リスク因子を有する患者におけるものである。
【0033】
より特定の実施形態では、過剰なフィブリン沈着及び/若しくは血栓形成に関連する病理学的状態を発症するリスクが高い患者は、
(i)代謝症候群(例えば、II型糖尿病)、腫瘍性疾患、心不全、腎不全及び/若しくは敗血症などの血栓形成のリスクの増加に関連する1つ以上の医学的状態に罹患している;
(ii)過剰なフィブリン沈着及び/若しくは血栓形成に関連する病理学的状態の1つ以上の発生、例えば、心筋梗塞、虚血性脳卒中及び肺塞栓症の1つ以上の発生(例えば、大虚血性脳卒中、小虚血性脳卒中又はTIAなどの虚血性脳卒中の1つ以上の発生)を以前に経験している;並びに/又は
(iii)喫煙者である、肥満である、及び/若しくは運動性が低下している(例えば、医療施設又は高齢者介護施設にいる患者など、患者が寝たきりである)など、リスクが増大している1つ以上の生活様式及び/若しくは環境因子を有する患者である。
【0034】
本発明の特定の実施形態において、本発明にしたがって治療又は予防され得る病理学的状態は、局所又は全身性炎症に起因するフィブリン沈着の増加及び/若しくは線維素溶解能の低下によって全体的に又は少なくとも部分的に引き起こされるものである。これらには、心筋梗塞、安定狭心症、不安定狭心症、間欠性跛行、虚血性脳卒中、一過性脳虚血発作、深部静脈血栓症及び肺塞栓症が含まれるが、これらに限定されない。
【0035】
局所又は全身性炎症を同定し得る特定のバイオマーカーとしては、高感度C反応性タンパク質(high sensitive C-reactive protein、hs-CRP)(2.0mg/l血清以上)及びフィブリノーゲン(3g/l血清以上)が挙げられる(Corrado E.,et al.An update on the role of markers of inflammation in atherosclerosis,Journal of Atherosclerosis and Thrombosis,2010;17:1-11,Koenig W.,Fibrin(ogen)in cardiovascular disease:a update,Thrombosis Haemostasis 2003;89:601-9)。
【0036】
一実施形態において、治療又は予防は、線維症の逆転及び予防を含む。より具体的な実施形態において、治療又は予防は、一次線維症若しくは二次線維症のうちのいずれか又は両方の逆転及び予防、リモデリング及び修復、並びに心血管疾患に関連する線維症、炎症性疾患、レニン-アンジオテンシン-系、ミネラルコルチコイド受容体及びPAI-1の活性化に関連する線維症、並びに他の全身性疾患に対する効果を含む。
【0037】
別の実施形態において、線維症は、心線維症、動脈線維症、肺線維症、肺動脈高血圧症に関連する線維症、血栓塞栓性に関連する線維症、NASHに関連する線維症、腎線維症、眼線維症、皮膚線維症、肝線維症、膵線維症及び他のGI管線維症からなる群から選択される。
【0038】
一実施形態において、本発明の1つ以上の化合物は、肺又は全身性血圧上昇に関連する疾患を治療及び/若しくは予防するために使用され得る。
【0039】
一実施形態において、本発明の1つ以上の化合物は、肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension、PAH)及び/若しくは慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension、CTEPH)を治療及び/若しくは予防するために使用され得る。
【0040】
一実施形態において、本発明の1つ以上の化合物は、肺動脈高血圧症(PAH)及び/若しくは慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)を含むが、これらに限定されない、肺動脈圧の増加に関連する血栓形成を治療及び/若しくは予防するために使用され得る。
【0041】
本発明はまた、ヒストンデアセチラーゼを阻害するために本発明の化合物を使用する方法を提供する。言い換えれば、本発明は、ヒストンデアセチラーゼの阻害を必要とする対象においてヒストンデアセチラーゼを阻害する方法を提供する。ヒストンデアセチラーゼを阻害する方法は、本発明の化合物の1つ以上の治療有効量を、そのヒストンデアセチラーゼの阻害を必要とする対象に投与することを含む。
【0042】
ヒストンデアセチラーゼの阻害のための医薬品の製造のための、本明細書に記載される化合物又は本明細書に記載される医薬組成物の使用も提供される。
【0043】
ヒストンデアセチラーゼの阻害に使用するための、本明細書に記載される化合物、又は本明細書に記載される医薬組成物も提供される。
【0044】
ヒストンデアセチラーゼの阻害における、本明細書に記載の化合物又は本明細書に記載の医薬組成物の使用も提供される。特定の実施形態において、そのような使用は、非治療的及び/若しくはex vivoとして記載され得る。
【0045】
本発明はまた、双極性障害を有すると診断された対象を治療するために本発明の化合物を使用する方法を提供する。言い換えれば、本発明は、双極性障害の治療を必要とする対象において双極性障害を治療する方法を提供する。双極性障害の治療方法は、治療有効量の1つ以上の本発明の化合物を、その治療を必要とする対象に投与することを含む。
【0046】
双極性障害の治療及び/又は予防に使用するための、本明細書に記載される化合物及び/又は本明細書に記載される医薬組成物もまた提供される。
【0047】
双極性障害の治療及び/又は予防に使用するための医薬品を製造するための、本明細書に記載される化合物及び/又は本明細書に記載される医薬組成物の使用もまた提供される。
【0048】
本発明はまた、てんかんを有すると診断された対象を治療するために本発明の化合物を使用する方法を提供する。言い換えれば、本発明は、てんかんの治療を必要とする対象においててんかんを治療する方法を提供する。てんかんの治療方法は、治療有効量の1つ以上の本発明の化合物を、その治療を必要とする対象に投与することを含む。
【0049】
てんかんの治療及び/又は予防に使用するための、本明細書に記載される化合物及び/又は本明細書に記載される医薬組成物もまた提供される。
【0050】
てんかんの治療及び/又は予防に使用するための医薬品を製造するための、本明細書に記載される化合物及び/又は本明細書に記載される医薬組成物の使用もまた提供される。
【0051】
誤解を避けるために、てんかんの治療方法は、治療有効量の1つ以上の本発明の化合物を、その治療を必要とする対象に投与することを含む。
【0052】
本発明はまた、対象における片頭痛を予防するために本発明の化合物を使用する方法を提供する。言い換えれば、本発明は、片頭痛の低減を必要とする対象において、片頭痛の可能性を低減するか、又は片頭痛の頻度を低減する方法を提供する。片頭痛の治療方法は、治療有効量の1つ以上の本発明の化合物を、その治療を必要とする対象に投与することを含む。
【0053】
片頭痛の治療及び/又は予防に使用するための、本明細書に記載される化合物及び/又は本明細書に記載される医薬組成物もまた提供される。
【0054】
片頭痛の治療及び/又は予防に使用するための医薬品を製造するための、本明細書に記載される化合物及び/又は本明細書に記載される医薬組成物もまた提供される。
【0055】
治療方法及び本発明の化合物を使用する方法は、本発明の化合物の1つ以上を、その治療を必要とする対象に投与することを含む。本発明の化合物の適切な用量範囲は、概して、1日当たり、体重1キログラム当たり約0.0001ミリグラム/用量~2000ミリグラム/用量の本発明の化合物である。本発明の特定の実施形態において、用量は、体重1キログラム当たり約0.001ミリグラム~約4000ミリグラム、又は体重1キログラム当たり約0.01ミリグラム~約3000ミリグラム、又は体重1キログラム当たり約0.1ミリグラム~約2000ミリグラム、又は体重1キログラム当たり約0.1ミリグラム~約1500ミリグラム、又は体重1キログラム当たり約0.1ミリグラム~約1000ミリグラム、又は体重1キログラム当たり約1ミリグラム~約500ミリグラム、又は体重1キログラム当たり約1ミリグラム~約100ミリグラム、又は体重1キログラム当たり約1ミリグラム~約90ミリグラム、又は体重1キログラム当たり約1ミリグラム~約80ミリグラム、又は約体重1キログラム当たり約1ミリグラム~約70ミリグラム、又は体重1キログラム当たり約1ミリグラム~約60ミリグラム、又は体重1キログラム当たり約1ミリグラム~約50ミリグラム、又は体重1キログラム当たり約1ミリグラム~約40ミリグラム、又は体重1キログラム当たり約1ミリグラム~約30ミリグラム、又は体重1キログラム当たり約1ミリグラム~約20ミリグラム、又は体重1キログラム当たり約1ミリグラム~約10ミリグラム、又は体重1キログラム当たり約1ミリグラム~約5ミリグラムである。他の実施形態において、本発明の化合物の1つ以上は、約1mg/kg、2mg/kg、3mg/kg、5mg/kg、7mg/kg、10mg/kg、15mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、35mg/kg、40mg/kg、45mg/kg、50mg/kg、55mg/kg、60mg/kg、65mg/kg、70mg/kg、75mg/kg、80mg/kg、85mg/kg、90mg/kg、95mg/kg又は100mg/kgの用量で投与される。他の特定の実施形態において、1日用量は、単回用量又は複数回用量で投与される、患者当たり約1~4000mg(例えば、患者当たり1~3000mg又は1~2000mg)の範囲である。他のより具体的な実施形態において、本発明の化合物の1つ以上は、約10mg~約2000mg、約50mg~約1300mg例えば、約100mg~約1200mg、又は約50mg~約1000mg例えば、約100mg~約800mg、約100mg~約600mg、又は約200mg~約600mg例えば、約100mg~約800mg、又は約200mg~約600mgの1日用量で投与される。1日用量は、単回ボーラス用量として投与されてもよく、又は総用量は、複数用量例えば、1日当たり2、3、4、5、6、7又は8用量に分割されてもよい。
【0056】
本発明の化合物は、式Iの化合物の薬学的に許容される塩を含む。「薬学的に許容される塩」という語句は、本明細書で使用される場合、本組成物で使用される化合物中に存在し得る酸性基又は塩基性基の塩を含むが、これらに限定されない。本質的に塩基性である本組成物に含まれる化合物は、様々な無機酸及び有機酸と多種多様な塩を形成することができる。このような塩基性化合物の薬学的に許容される酸付加塩を調製するために使用され得る酸は、非毒性の酸付加塩(すなわち、薬理学的に許容されるアニオンを含有する塩)を形成する酸であり、硫酸、クエン酸、マレイン酸、酢酸、シュウ酸、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、イソニコチン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、クエン酸塩、酸性クエン酸塩、酒石酸塩、オレイン酸塩、タンニン酸塩、パントテン酸塩、酒石酸水素塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチシン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、サッカリン酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩及びパモ酸塩(すなわち、1,1’-メチレン-ビス-(2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸))の塩が挙げられるが、これらに限定されない。アミノ部分を含む本組成物に含まれる化合物は、上記の酸に加えて、種々のアミノ酸と薬学的に許容される塩を形成し得る。本明細書に記載の化合物は、本質的に酸性であり、例えば、様々な薬理学的に許容されるカチオンと共に塩を形成することができる。このような塩の例としては、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特に、カルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩、亜鉛塩、カリウム塩、及び鉄塩が挙げられる。薬学的に許容される付加塩の特定の例としては、金属(例えば、カルシウム、マグネシウム、カリウム、又は好ましくはナトリウム等の金属)由来の付加塩が挙げられる。特定の実施形態において、このような塩は、「ヘミ塩」(すなわち、化合物対イオンの2:1の比)として存在し得る。本明細書に記載の化合物はまた、様々なアミンと共に錯体を形成してもよい。アミンの例としては、アルキルアミン、アミノアルコール(例えば、2-(ジメチルアミノ)エタノール)、塩基性アミノ酸(例えば、リジン)、第四級アミン(例えば、コリン)が挙げられる。
【0057】
本明細書で使用される場合、別段の指示がない限り、本組成物の「治療有効量」という語句は、障害の少なくとも1つの有害作用が改善又は緩和される、本発明の化合物の治療有効性によって測定される。
【0058】
「予防する」又は「予防」という用語は、対象が異常な状態又は障害に関連する望ましくない生理学的活性又は症状を経験する頻度又は可能性を低減すること(例えば、そのリスクを低減すること)を含むことが意図される。本明細書で使用される「予防する」又は「予防」という用語は、異常な状態の絶対的な予防を必要としない。一実施形態では、「治療」又は「治療する」は、疾患、障害、異常状態又は少なくとも1つの識別可能なその症状を低減又は改善することを指す。別の実施形態では、「治療」又は「治療する」は、必ずしも患者によって識別可能ではない、少なくとも1つの測定可能な物理的パラメータの改善を指す。更に別の実施形態では、「治療」又は「治療する」は、疾患又は障害の進行を、身体的に例えば識別可能な症状の安定化、生理学的に例えば身体的パラメータの安定化のうちのいずれか、又はその両方で阻害することを指す。更に別の実施形態では、「治療」又は「治療すること」は、疾患、障害又は異常状態の発症を遅延させることを指す。
【0059】
本明細書で使用される場合、当業者は、特定の状態を「予防する(Prevent)」又は特定の状態の「予防(Prevention)」への言及が、当該状態の「予防(Prohylaxis)」とも称され得、逆もまた同様であることを理解するであろう。したがって、本明細書における状態を「予防する(Preventing)」への各言及は、当該状態の「予防(Prophylaxis)」への言及と置き換えることができる。
【0060】
特定の実施形態において、本組成物は、患者、例えばヒトに投与される。本明細書では、対象及び患者という用語は互換的に使用される。対象は同様に非ヒト哺乳動物であり得る例えばコンパニオンペットのための、若しくは農業若しくは家畜動物のため獣医学的使用のためのものである。非ヒト対象の例としては、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、雌ウシ、ブタ、雄ウシ、ウマなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
本発明の化合物は、任意の便利な又は従来の経路、例えば経口よって、注入又はボーラス注射によって、上皮又は粘膜皮膚内層(例えば口腔粘膜、直腸及び腸粘膜)を介した吸収によってなどで投与されてもよく、別の生物学的に活性な医薬品と一緒に投与されてもよい。投与は、全身的又は局所的であってもよい。様々な送達系例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセル、カプセルなどへのカプセル化が公知であり、本発明の化合物又は組成物を投与するために使用することができる。投与方法としては、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、経口、舌下、鼻腔内、脳内、膣内、経皮、直腸内又は局所(例えば、耳、鼻、眼又は皮膚へ)が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態において、本発明の化合物は経口投与される。
【0062】
特定の実施形態では、本発明の1つ以上の化合物を、治療を必要とする領域に局所的に投与することが望ましい場合がある。これは、例えば、限定するものではないが、手術中の局所注入によって、例えば手術後の創傷包帯と併せた局所適用、注射によって、カテーテルを用いて、坐剤を用いて、又はインプラントを用いて達成することができ、インプラントは、シアラスティック膜などの膜又は繊維を含む多孔性、非多孔性、又はゼラチン状材料である。一実施形態では、投与は、動脈硬化プラーク組織の部位(又は以前の部位)への直接注射によるものであり得る。
【0063】
別の実施形態において、本発明の化合物は、小胞、例えばリポソーム中で送達することができる。Langer,Science 249:1527-1533(1990)、Treat et al.,in Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer,Lopez-Berestein and Fidler(eds.),Liss,New York,pp.353-365(1989)を参照。
【0064】
更に別の実施形態において、本発明の化合物は、制御放出系で送達することができる。一実施形態では、ポンプを使用することができる。Sefton,1987,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201、Buchwald et al.,1980,Surgery 88:507 Saudek et al.,1989,N.Engl.J.Med.321:574.を参照。別の実施形態では、ポリマー材料を使用することができる。Medical Applications of Controlled Release,Langer and Wise(eds.),CRC Pres.,Boca Raton,Fla.(1974);Controlled Drug Bioavailability,Drug Product Design and Performance,Smolen and Ball(eds.),Wiley,New York(1984);Ranger and Peppas,1983,J.Macromol.Sci.Rev.Macromol.Chem.23:61を参照。Levy et al.,1985,Science 228:190;During et al.,1989,Ann.Neurol.25:351.Howard et al.,1989,J.Neurosurg.71:105)も参照。
【0065】
当技術分野で公知であり、バルプロ酸及び薬学的に許容されるその塩について記載されている全ての製剤は、本発明の化合物を投与する際に使用することができる。例えば、薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤又は担体と混合されたバルプロ酸を含む公知の薬学的製剤において、本組成物及び方法は、これらの公知の製剤中のVPAを1つ以上の本発明の化合物で置換することを企図する。
【0066】
特定の実施形態では、患者への適切な投与のための形態を提供するために、適切な量の薬学的に許容されるビヒクルと共に、治療有効量の本発明の化合物を含有する。
【0067】
本明細書で使用される「薬学的に許容される」という用語は、連邦若しくは州政府の規制機関によって承認されること、又は動物、より具体的にはヒトで使用するために米国薬局方、若しくは他の一般に認められた薬局方に記載されることを意味する。「ビヒクル」という用語は、本発明の化合物と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又は担体を指す。そのような医薬ビヒクルは、水、及びピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油などの石油、動物、植物又は合成起源のものを含む油などの液体であり得る。医薬ビヒクルは、生理食塩水、アカシアゴム、ゼラチン、デンプンペースト、タルク、ケラチン、コロイド状シリカ、尿素などであり得る。更に、補助剤、安定化剤、増粘剤、滑沢剤及び着色剤を使用してもよい。水は、本発明の化合物が静脈内投与される場合、ビヒクルであり得る。生理食塩水、並びにデキストロース及びグリセロール水溶液も、特に注射可能な溶液の場合、液体ビヒクルとして用いることができる。好適な医薬ビヒクルとしてはまた、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどの賦形剤が挙げられる。好適な医薬ビヒクルの他の例は、A.R.Gennaroによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載されている。本組成物は、所望であれば、少量の湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤を含有することもできる。
【0068】
本組成物は、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、ペレット剤、カプセル剤、液体を含有するカプセル剤、散剤、徐放性製剤、坐剤、乳剤、エアロゾル剤、スプレー剤、懸濁剤の形態、又は使用に適した任意の他の形態をとり得る。
【0069】
別の実施形態において、本発明の化合物は、ヒトへの静脈内投与に適合された医薬組成物として、通常の手順にしたがって製剤化される。典型的には、静脈内投与のための本発明の化合物は、滅菌等張水性緩衝液中の溶液である。必要であれば、組成物は可溶化剤を含んでもよい。静脈内投与用の組成物は、注射部位の痛みを和らげるためにリグノカインなどの局所麻酔薬を任意選択で含んでもよい。一般に、成分は、別々に供給されるか、又は単位剤形に一緒に混合されて、例えば、活性剤の量を示すアンプル又はサシェなどの密封容器中の凍結乾燥粉末又は無水濃縮物として供給される。本発明の化合物が注入によって投与される場合、それは、例えば、滅菌医薬品グレードの水又は生理食塩水を含有する注入ボトルを用いて投薬され得る。本発明の化合物が注射によって投与される場合、成分が投与前に混合され得るように、注射用滅菌水又は生理食塩水のアンプルが提供され得る。
【0070】
経口送達のための製剤は、例えば、錠剤、トローチ剤、水性若しくは油性懸濁剤、顆粒剤、散剤、乳剤、カプセル剤、シロップ剤、又はエリキシル剤の形態であり得る。経口投与される組成物は、1つ以上の任意選択の医薬品、例えば、フルクトース、アスパルテーム又はサッカリンなどの甘味剤、ペパーミント、冬緑油又はチェリーなどの香味剤、着色剤、薬学的に口当たりのよい調製物を提供するための保存剤を含有してもよい。更に、錠剤又は丸剤の形態である場合、組成物は、胃腸管における崩壊及び吸収を遅延させ、それによって長期間にわたる持続作用を提供するためにコーティングされてもよい。浸透圧的に活性な駆動化合物を取り囲む選択的透過性膜も、経口投与される本発明の化合物に適している。これらの後者のプラットフォームでは、カプセルを取り囲む環境からの流体が駆動化合物によって吸収され、それが膨潤して開口部を通して医薬品又は医薬品組成物を移動させる。これらの送達プラットフォームは、即時放出製剤のスパイクプロファイルとは対照的に、本質的に0次の送達プロファイルを提供することができる。モノステアリン酸グリセロール又はステアリン酸グリセロールなどの時間遅延材料も使用することができる。経口組成物は、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的なビヒクルを含むことができる。
【0071】
当業者は、式(I)の化合物(式(Ia)及び(Ib)の化合物を含む)が当業者に公知の技術を用いて調製され得ることを理解するであろう。
【0072】
特定の実施形態では、式(Ia)の化合物若しくは式(Ib)の化合物、
【0073】
【化5】
又はその薬学的に許容される塩の調製プロセスであって、式(II)の化合物を、
【0074】
【化6】
当業者に既知の条件下で(適切な温度で適切な期間加熱すること、例えば、一晩160℃で加熱することなどによって)、任意選択でD
2Oの存在下で脱炭酸するステップを含むプロセスがあり、
D
2Oの非存在下での反応は、式(Ia)の化合物の調製をもたらし、D
2Oの存在下(例えば、D
2Oが溶媒として使用される場合など、過剰のD
2Oの存在下)での反応は、式(Ib)の化合物の調製をもたらし、
式(Ia)又は(Ib)の化合物は、薬学的に許容される塩の形態であり、任意選択で、適切な塩対イオンと反応させる(すなわち、適切な塩基などの塩を形成するのに適した化合物と反応させる、例えば、塩がナトリウム塩又はヘミナトリウム塩である場合、適切な量の水酸化ナトリウム)更なるステップを含む。
【0075】
当業者はまた、式Iの化合物の調製において使用される出発物質が、当業者に公知の技術を使用して調製され得ることを理解するであろう。
【0076】
特定の実施形態では、式(III)の化合物を、
【0077】
【化7】
当業者に既知の条件下で(適切な塩基、例えば水性水酸化ナトリウムなどの水性塩基の存在下での加水分解などによって)加水分解するステップを含む、式(II)の化合物の調製プロセスが提供される。
【0078】
特定の実施形態では、式(IV)の化合物を、
【0079】
【化8】
当業者に既知の条件下(適切な触媒、例えばロジウム触媒の存在下など)及び適切な重水素源(例えば重水素ガス)の存在下で水素化するステップを含む、式(III)の化合物の調製プロセスが提供される。
【0080】
特定の実施形態では、式(IV)の化合物の調製プロセスであって、
【0081】
【化9】
適切な卑金属(例えば、水素化ナトリウムなどの金属水素化物)との反応、続いて適切なアルキル化剤(例えば、プロパルギル臭化物などの適切なアルキルハロゲン化物)との反応などによって、当業者に既知の条件下での式(V)の化合物のアルキル化のステップを含むプロセスが提供される。
【0082】
特定の実施形態では、式(I)の化合物(すなわち、式(Ia)又はIb)の化合物)の調製プロセスであって、
本明細書に記載の式(IV)の化合物を調製するためのプロセス、
続いて、本明細書に記載の式(III)の化合物を調製するためのプロセス、
続いて、本明細書に記載の式(II)の化合物を調製するためのプロセス、
続いて、本明細書に記載の式(I)の化合物を調製するためのプロセスを含む、プロセスが提供される。
【0083】
当業者は、式(II)、(III).(IV)及び(V)の化合物は新規であり得ることを理解するであろう。したがって、式(II)、(III).(IV)及び/若しくは(V)の化合物、並びにそれらの薬学的に許容される塩も提供される。
【0084】
式(V)の化合物は、市販されているものでもよく、及び/若しくは当業者に公知の技術を用いて合成されてもよい。
【0085】
そのような化合物は、それらの反応混合物から単離され、必要に応じて、当業者に既知の慣用的な技術を使用して精製され得る。したがって、本明細書に記載される本発明の化合物の調製プロセスは、最終ステップとして、本発明の化合物の単離及び任意選択の精製(例えば、式Iの化合物の単離及び任意の精製)を含んでもよい。
【実施例】
【0086】
本発明は、本発明の範囲を限定することを意図しない以下の実施例を参照することによって更に説明される。
【0087】
命名法と、図で描写されている任意の化合物との間に不一致がある場合、(提供され得る実験上の詳細のうちのいずれかと相反しない限り、又は文脈から明らかでない限り)後者が優先される。
【0088】
実施例1-合成経路
化合物Ia及び化合物Ibの合成
ステップ1.
【0089】
【化10】
ジメチル2-(2,2,3,3-テトラデューテリオプロピル)プロパンジオエート
【0090】
ジメチルプロパルギルマロネート(10.0g、58.8mmol)及びトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロライド(1.6g、1.8mmol、3%)を100mlのトルエン中で混合した。反応フラスコを排気し、窒素で繰り返しフラッシュした。反応フラスコを水素化マニホールドに接続し、反応フラスコを排気し、重水素でフラッシュした。混合物を重水素下で撹拌した。完全に還元した後、反応混合物をセライトで濾過し、水及び塩水で洗浄した。有機層をMgSO4で乾燥させ、濾過し、濃縮した。残留物をクーゲルロール蒸留(10mbar@130℃)により精製した。無色透明の油が得られた(7.2g、69%)、1H NMR(400MHz、クロロホルム-d)δ3.73(s、6H)、3.37(t、J=7.6Hz、1H)、1.87(d、J=7.6Hz、2H)、0.88(s、1H)。
【0091】
ステップ2.
【0092】
【化11】
ジメチル2-プロパ-2-イニル-2-(2,2,3,3-テトラデューテリオプロピル)プロパンジオエート
【0093】
水素化ナトリウム(鉱油中60%、5.55g、139mmol)を、窒素下、氷上で冷却した200mlのTHF中でスラリー化した。50mlのTHF中のジメチル2-(2,2,3,3-テトラデューテリオプロピル)プロパンジオエート(16.5g、92.6mmol)を滴下した。30分後、50mlのTHF中の臭化プロパルギル(14.3g、120mmol)を滴下した。反応混合物を0℃で2時間撹拌し、飽和NH4Cl(100ml)を添加することによってクエンチした。ヘプタン(200ml)を添加し、相を分離した。有機相を飽和NaHCO3及び塩水で洗浄し、MgSO4で乾燥させ、濾過し、濃縮した。淡褐色の油を得た(18g)。粗製物は鉱油を含有し、そのまま使用した。1H NMR(400MHz,クロロホルム-d)δ3.74(s,6H),2.82(d,J=2.7Hz,2H),2.05-1.96(m,3H),0.89(s,1H)。
【0094】
ステップ3.
【0095】
【化12】
ジメチル2,2-ビス(2,2,3,3-テトラデュテリオプロピル)プロパンジオエート
【0096】
ジメチル2-プロパ-2-イニル-2-(2,2,3,3-テトラデューテリオプロピル)プロパンジオエート(18g、83mmol)及びトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロライド(1.54g、1.66mmol、2%)を300mlのトルエン中で混合した。反応フラスコを排気し、窒素で繰り返しフラッシュした。反応フラスコを水素化マニホールドに接続し、反応フラスコを排気し、重水素でフラッシュした。
【0097】
混合物を重水素下で撹拌した。1、2及び3日後、0.5g以上のロジウム触媒を添加し、反応を再開した。完全に還元した後、溶媒を減圧下で除去した。ヘプタン(200ml)を添加した。30分間撹拌した後、沈殿物をセライトで濾過することにより除去した。母液を濃縮し、残留物をクーゲルロール蒸留(30mbar@160℃)によって精製した。透明な無色の油が得られた(13g、70%)、1H NMR(400MHz、クロロホルム-d)δ3.70(s、6H)、1.83(s、4H)、0.86(s、2H)。
【0098】
ステップ4.
【0099】
【化13】
2,2-ビス(2,2,3,3-テトラデューテリオプロピル)プロパン二酸
【0100】
水酸化ナトリウム(13.9g、348mmol)を100mlの水に溶解した。50mlのメタノール中のジメチル2,2-ビス(2,2,3,3-テトラデューテリオプロピル)プロパンジオエート(13g、58mmol)を添加した。反応混合物を還流下で5時間撹拌し、室温で一晩撹拌した。反応混合物を2×50mlのDCMで洗浄した。水相を真空下で濃縮して、微量のDCMを除去した。溶液を氷上で冷却し、80mlの5 M HClを添加した。白色沈殿物が形成された。混合物を氷上で1時間撹拌し、沈殿物を濾過により回収し、少量の水で洗浄した。白色固体(11g、97%)、1H NMR(500MHz,クロロホルム-d)δ1.92(s,4H),0.88(s,2H)。
【0101】
ステップ5.
【0102】
【化14】
「化合物Ia」、2-[(2,2,3,3-2H4)プロピル](4,4,5,5-2H4)ペンタン酸。
【0103】
2,2-ビス(2,2,3,3-テトラデューテリオプロピル)プロパン二酸(11 g、56mmol)を、スチールボンベへのガラスインサート中で100mlの水と混合した。ボンベを160℃に一晩加熱した。室温に冷却した後、水/油混合物をヘプタンと共に分離フラスコに移した。水性相をヘプタンで3回抽出した。合わせた有機相を塩水で洗浄し、(Na2SO4)で乾燥し、濾過し、濃縮して明褐色の油(8.0 g、94%)を得た。微量のヘプタンを含有する、1H NMR(400MHz,クロロホルム-d)δ2.42-2.30(m,1H),1.60(dd,J=13.4,8.9Hz,2H),1.43(dd,J=13.4,5.3Hz,2H),0.86(s,2H)。
【0104】
ステップ6.
【0105】
【化15】
「化合物Ia、ナトリウムヘミ塩」、2-[(2,2,3,3-2H4)プロピル](4,4,5,5-2H4)ペンタン酸及びナトリウム2-[(2,2,3,3-2H4)プロピル](4,4,5,5-2H4)ペンタノエート
【0106】
化合物Ia(8.00g、52.5mmol)及び微粉砕水酸化ナトリウム(1.05g、26.3mmol)を20mlのMTBE中で混合した。混合物を50℃で30分間撹拌した。透明な淡褐色溶液が得られた。氷冷した後、80mlのアセトニトリルを加えた。大量の沈殿物が形成された。氷浴上で1時間撹拌した後、沈殿物を濾過によって回収し、アセトニトリルで洗浄した。固体を真空下で一晩乾燥させた。白色固体(6.79g,79%,推定ヘミ塩),1H NMR(400MHz,DMSO-d6)δ2.06(ddd,J=14.1,9.0,5.2Hz,1H),1.41(dd,J=12.9,9.0Hz,2H),1.19(dd,J=13.0,5.2Hz,2H),0.77(s,2H),LCMS(ESI-):m/z[M-H]-計算値:151,実測値:151。
【0107】
化合物Ibを上記のように調製したが、D2O中で最終脱炭酸を行うことを加えた。
【0108】
実施例2-過剰出血アッセイ
本発明の化合物に関連する過剰な出血のリスクを決定するために、マウスの尾の最後の5mmを切除して、血管が適切に凝固し、血液の過剰な損失を防ぐのに必要な時間を特定した。簡潔に述べると、マウスに化合物Ia(式Ia)、化合物Ib(式Ib)、Rettie,A.,et al.,J.Biol.Chem.,263(27):13733-13738(1988)からの「2H4-VPA」(「参照4」化合物)、米国特許出願公開第2010/0143507号からの請求項11の化合物(「D11」)、米国特許出願公開第2010/0143507号からの請求項12の化合物(「D10」)、VPA又はビヒクル対照(塩化ナトリウム生理食塩水)を投与し、出血時間アッセイを実施した。
【0109】
10~12週齢のC57BL/6野生型マウスを、これらの実験のためにJackson Laboratoriesから購入した。様々な化合物を、切除の前に5日間、100mg/kgの化合物の用量で1日1回、IP注射によってマウスに投与した。
【0110】
マウスを250μLのケタミン溶液(850μLの生理食塩水中のケタミン(100μL)/キシラジン(50μL))で鎮静させた。次いで、マウスをビーズ浴の上部のヒートパッド上に顔を下にして置いて、尾を生理食塩水を満たしたチューブに引き込むことができるようにした。5mmの尾をメスで切断し、尾を生理食塩水を満たしたチューブに入れ、タイマーをスタートさせた。出血が止まったときにタイマーを停止したが、最初の出血が止まってから10分後から再出血の可能性が観察された。マウスが10分間連続して出血した場合、実験を停止し、マウスを安楽死させた。出血時間の統計的有意性を決定するために、多重比較検定のためのダネット補正を伴う一元配置分散分析を行った。
【0111】
図1に示すように、対照マウスの出血時間は約100秒であった。興味深いことに、100mg/kgのVPA及び参照D10は、対照と比較して出血時間の有意な増加をもたらした。化合物Iaを除く全ての化合物による治療は、対照時間と比較して、出血時間の増加をもたらした。注目すべきは、Rettie,A.,et al.,J.Biol.Chem.,263(27):13733-13738(1988)からの参照4化合物は、化合物Iaよりも著しく高い出血時間を示した。総合すると、このデータは、化合物Iaが、試験した全ての化合物の過剰出血のリスクに関して最良の安全性プロファイルを有することを示す。
【0112】
実施例3-本発明の化合物の血栓症評価
血餅形成の能力及びタイミングに対する本発明の化合物及びVPAの効果を決定した。具体的には、10~12週齢のマウス(Jackson Laboratoriesから購入したC57BL/6野生型マウス)における血管へのレーザー誘導性傷害後に、非閉塞性血餅を形成する際の精巣挙筋動脈における血小板蓄積及びフィブリン形成を測定した。
【0113】
バルプロ酸(VPA)を、Sigma-Aldrichから粉末として購入し、0.9%塩化ナトリウム(生理食塩水)に再懸濁して、各化合物の最終ストック溶液を調製した。VPA及び他の化合物(化合物Ia及び化合物Ib)を、30mg/kg及び100mg/kgの最終濃度でIP注射によってマウスに投与した。
【0114】
血小板蓄積及びフィブリン形成を評価するために、Zeiss Axio Examiner Z1蛍光マルチチャンネル生体内顕微鏡を使用した。顕微鏡は、(1)固体レーザー発射システム(LaserStack;Ablate!Photoablation system,Intelligent Imaging Innovations)、(2)高速sCMOSカメラ、及び(3)レーザーアブレーションシステム(Intelligent Imaging Innovations,Denver,CO,USA)を装備していた。画像記録及び分析のためのSlideBook 6.0デジタル顕微鏡ソフトウェアも使用した。両方とも市販されている抗血小板抗体及び抗フィブリン抗体を、画像化目的のために使用した。
【0115】
インビボでの損傷部位における血栓内の血小板及びフィブリンの動的蓄積を、レーザー誘導性損傷に応答した精巣挙筋細動脈において、生体内顕微鏡下で評価した。成体雄マウス(10~12週齢)を、損傷前に、30mg/kg及び100mg/kgで5日間治療し、ケタミン/キシラジン(それぞれ100及び10mg/kg)の腹腔内注射によって麻酔し、頚静脈にカニューレを挿入した。呼吸を容易にするために気管チューブを挿入した。精巣挙筋細動脈を外科的に調製し、実験を通して予熱した重炭酸生理食塩水緩衝液で灌流した。
【0116】
DyLight 488結合ラット抗マウス血小板GP1bβ抗体(0.1μg/g;EMFRET Analytics)及びAlexa Fluor 647結合抗フィブリン(0.3μg/g)を、血管損傷前に頸静脈カニューレを介して静脈内投与した。微小循環をモニターし、マルチチャンネル生体内顕微鏡下で記録した。
【0117】
複数の独立した血栓(各マウスにおいて6~8個の血栓)を、レーザーアブレーションシステムによって各マウスの細動脈(直径30~50μm)に誘導した。損傷した細動脈の部位での血栓形成の画像を、固体レーザー発射システム(LaserStack;Intelligent Imaging Innovations)及び高速sCMOSカメラを搭載したZeiss Axio Examiner Z1蛍光顕微鏡を用いて63倍水浸対物レンズ下でリアルタイムで取得した。Slidebookプログラムを使用して蛍光バックグラウンドを差し引いた後、全ての捕捉画像を、血栓形成の過程にわたる蛍光強度の変化について分析した。統計的有意性を評価するために、多重比較のためのダネット検定を伴う一元配置分散分析を行った。
【0118】
図2及び
図3に示されるように、30mg/kgの用量の化合物Iaは、この血栓症アッセイにおいて、VPAを上回る血小板蓄積及びフィブリン形成の両方の一貫した減少をもたらし、これは、化合物Iaが、VPA及び化合物Ibと比較した場合、過剰なフィブリン沈着に関連する状態の治療又は予防において有益であることを示す。加えて、100mg/kgの用量で投与された化合物Ia及び化合物Ibは、この血栓症アッセイにおいて、VPAを上回る血小板蓄積の一貫した減少をもたらした(
図4)。
【0119】
実施例4-2-プロピル-4-ペンテン酸(4-エン代謝産物)の形成。
VPA及び本発明の化合物を用いたCyp 2C9インビトロ実験における2-プロピル-4-ペンテン酸(4-エン代謝産物)の形成。VPA、化合物Ia及び化合物Ib(1mMの全ての化合物)を、5mMの塩化マグネシウム及び2mMのNADPHを含有する100mMのリン酸カリウム緩衝液pH 7.4中、ヒトCYP2C9 0.2pmol/μlバクトソーム(Cypex,UK)と共にインキュベートした。試料を、NADPHの添加前(時間0)及びNADPHの添加後の異なる時点(30、60及び180分)で回収した。試料を同容量の氷冷アセトニトリルに添加し、ボルテックスし、10000×gで遠心分離し、分析まで+4℃で保存した。分析感度を増加させるために、試料上清をN-(3ジメチルアミノプロピル)-N
’-エチルカルボジイミド)及び3-ニトロフェニルヒドラジン塩酸塩で誘導体化した。得られた生成物を、LC-MS/MS(UHPLC Agilent 6495、XSelect HSS T3 XPカラム)を使用して分析した。形成された4-エン代謝産物の曲線下面積の計算は、トラペゾイド則に基づき、形成は%4-エン
*分として表した。化合物Ia及びIbについて形成された4-エン代謝産物の量を、VPAについて形成された4-エン代謝産物の量と比較した。化合物Iaについて、形成された4-エン代謝産物の減少は、VPAと比較した場合、967%であった。化合物Ibについて、形成された4-エン代謝産物の減少は、VPAと比較した場合、888%であった(
図5参照)。
【国際調査報告】