(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】免疫防護型の植込み可能な細胞送達デバイス
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20241226BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20241226BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20241226BHJP
A61K 9/00 20060101ALI20241226BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20241226BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20241226BHJP
A61F 2/02 20060101ALI20241226BHJP
C12N 11/02 20060101ALN20241226BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20241226BHJP
【FI】
C12M1/00 Z
A61P3/10
A61K35/12
A61K9/00
A61K47/32
A61K47/34
A61F2/02
C12N11/02
C12N5/071
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538332
(86)(22)【出願日】2022-12-21
(85)【翻訳文提出日】2024-08-13
(86)【国際出願番号】 EP2022087335
(87)【国際公開番号】W WO2023118360
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515288959
【氏名又は名称】ユニフェルシテイト マーストリヒト
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITEIT MAASTRICHT
【住所又は居所原語表記】Minderbroedersberg 4-6 Maastricht The Netherlands
(71)【出願人】
【識別番号】517079054
【氏名又は名称】アカデミシュ ジーケンハウス マーストリヒト
【氏名又は名称原語表記】ACADEMISCH ZIEKENHUIS MAASTRICHT
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン アペルドールン、アールト アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】デ ボン、デニス フランソワーズ アントワネット
【テーマコード(参考)】
4B029
4B033
4B065
4C076
4C087
4C097
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC01
4B029GB04
4B029GB09
4B029GB10
4B033NA16
4B033NC06
4B033ND12
4B065AA90X
4B065AC14
4B065BD06
4B065BD50
4B065CA44
4C076AA51
4C076AA99
4C076BB32
4C076CC21
4C076EE05A
4C076EE16A
4C076EE23A
4C076EE24A
4C076GG01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087MA67
4C087NA05
4C087NA10
4C087ZC35
4C097AA30
(57)【要約】
【解決手段】本発明は、上部多孔性メンブレンと下部多孔性メンブレンの間にある封鎖された空間とメッシュとを備えた、対象に細胞を植え込むための免疫防護型の植込み可能な細胞送達デバイスに関する。メッシュは細胞のクラスター形成を防ぐために使用される。さらに本発明は、閉鎖型の植込み可能な細胞送達デバイスを構築する方法に関する。本発明は処置の方法において使用するための前記デバイスにも関係する。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象に細胞または細胞凝集体を植え込むための免疫防護型の植込み可能なデバイスであって、前記デバイスは下部メンブレンおよび上部メンブレンを備え、前記下部メンブレンおよび前記上部メンブレンは支持構造物に接合されることで、前記下部メンブレン、上部メンブレンおよび前記支持構造物が、植え込まれたときに免疫系によるアクセスが可能でない封鎖された内部空間を形成するようになっており、
前記下部メンブレンおよび前記上部メンブレンは、メンブレンを貫通して前記内部空間への栄養素および酸素の拡散を可能にする複数の細孔を備え、
前記デバイスは、前記細胞が凝集塊を形成しないように、前記細胞または細胞凝集体が前記デバイスの内部空間に含まれているときに細胞または細胞凝集体のための支持体となるような、前記デバイス内の前記内部空間に配置されたメッシュの存在を特徴とし、前記メッシュは60~300μmの細孔寸法を有する、
植込み可能なデバイス。
【請求項2】
前記下部メンブレンおよび/または前記上部メンブレン、そして任意で支持構造物が、非水溶性ポリマー製、好ましくはポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリ(エチレンオキシドテレフタレート)/ポリ(ブチレンテレフタレート)(PEOT/PBT)製、または水溶性コポリマーと混合されたPVDF製であり、好ましくは、前記メンブレンは細孔形成試薬をさらに含み、より好ましくは、前記細孔形成試薬はポリビニルピロリドン(PVP)である、
請求項1に記載の植込み可能なデバイス。
【請求項3】
前記下部メンブレンおよび前記上部メンブレンの孔径が、10~500nm、好ましくは50~450nm、より好ましくは100~400nmである、
請求項1または2に記載の植込み可能なデバイス。
【請求項4】
前記下部メンブレンおよび前記上部メンブレンが、10~200nm、好ましくは35~200nm、より好ましくは40~160nmの厚さを有する、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の植込み可能なデバイス。
【請求項5】
前記メッシュが非分解性ポリマーから構築され、好ましくは、前記非分解性ポリマーは、ナイロン、PVDF、PTFE、PP、PEまたはPETから選択される、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の植込み可能なデバイス。
【請求項6】
前記メッシュが60~200μm、好ましくは70~150μm、より好ましくは75~120μmの細孔寸法を有する、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の植込み可能なデバイス。
【請求項7】
前記デバイスは内部空間に細胞を含み、好ましくは、前記細胞は細胞凝集体および/またはオルガノイドであり、好ましくは、前記細胞凝集体は内分泌細胞もしくはサイトカイン産生細胞またはその凝集体であり、好ましくは、前記細胞凝集体は、島細胞、ヒト間葉系幹細胞、腎臓細胞、甲状腺細胞、胸腺細胞、精巣細胞、膵臓細胞、内分泌細胞、肝臓細胞、サイトカイン産生細胞から選択され、または好ましくは、前記オルガノイドは、腎臓オルガノイド、腸オルガノイド、膵臓オルガノイド、神経オルガノイド、肝オルガノイド、甲状腺オルガノイド、胃オルガノイド、卵巣オルガノイド、前立腺オルガノイド、脾臓オルガノイド、食道オルガノイド、乳房オルガノイド、膀胱オルガノイド、肺オルガノイド、眼オルガノイド、内耳オルガノイド、心オルガノイド、胆嚢オルガノイド、唾液腺オルガノイド、下垂体オルガノイド、リンパ組織オルガノイド、膀胱オルガノイド、舌オルガノイド、大脳/脳オルガノイド、脊髄オルガノイド、ファロピウス管オルガノイド、涙腺オルガノイド、皮膚オルガノイド、胸腺オルガノイド、精巣オルガノイド、上皮オルガノイド、ガストルロイド(胚オルガノイド)、ブラストイド(胚盤胞様オルガノイド)、網膜オルガノイドおよび海馬オルガノイドから選択される、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の植込み可能なデバイス。
【請求項8】
互いに積み重ねられ、積み重ねられた個々の植込み可能なデバイス間に、開放的な空間が作り出されるようにスペーサーで分離された、2つ以上の植込み可能なデバイスを備えた、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の植込み可能なデバイス。
【請求項9】
前記植込み可能なデバイスが細胞を含む、医薬として使用するための、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の植込み可能なデバイス。
【請求項10】
前記植込み可能なデバイスが膵島細胞またはインスリンを分泌するように工学的に操作された細胞を含む、糖尿病の処置において使用するための、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の植込み可能なデバイス。
【請求項11】
前記糖尿病が1型糖尿病である、
請求項10に記載の植込み可能なデバイス。
【請求項12】
前記使用が、それを必要とする対象に前記デバイスを植え込むことを含み、好ましくは、前記植込みは肝臓外部位に行われる、
請求項10または11に記載の植込み可能なデバイス。
【請求項13】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の植込み可能なデバイスを構築するための方法であって、
下部メンブレンを用意すること、
支持構造物を大まかに前記下部メンブレンの縁部に沿って中央空間が残るように配置すること、
前記下部メンブレンの上で前記中央空間中にメッシュを配置すること、
前記支持構造物の上に、上部メンブレンを、前記メッシュを備える前記中央空間を覆うことでそれを完全に封鎖して内部空間を作り出すように、配置すること、ならびに
前記上部および下部メンブレンを前記支持構造物に、好ましくは超音波溶着、ヒートシール、圧力シール、接着剤によって、またはより好ましくは超音波溶着によって、固定することを含む、
方法。
【請求項14】
前記上部および下部メンブレンが、デバイスに細胞を装填するための単一の開口部を残すように、支持構造物に固定される、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
植込み可能なデバイスに細胞を装填するための方法であって、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のデバイス、または請求項13もしくは14に記載の方法によって得られたもしくは得ることができるデバイスを用意すること、
細胞懸濁液を容器中に用意すること、
チューブを、一端が前記細胞懸濁液を含む前記容器の内部と開放的に接触するように、かつ他端が前記植込み可能なデバイスの前記内部空間中に開口部を通して挿入されるように、接続すること、および
前記容器中の前記細胞が前記チューブを通って前記植込み可能なデバイスの前記内部空間中に流れ出ることを可能にすること、および任意で、
前記植込み可能なデバイスにおける開口部を、前記チューブを除去した後で、好ましくは超音波溶着、ヒートシール、圧力シール、接着剤によって、またはより好ましくはヒートシールによって、閉じることを含む、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植込み可能な細胞送達デバイス、特に、植え込まれた細胞を宿主免疫細胞から隔離することを可能にする免疫防護型の植込み可能な細胞送達デバイスの技術分野に関する。本発明は、特に、細胞を包埋するためのメッシュを備えた免疫防護デバイスに関する。そのようなデバイスは、膵島細胞などの細胞を対象に植え込むために使用されうる。本発明はさらに、デバイスを構築するための方法、およびデバイスに細胞を装填する方法に関する。さらに本発明は、デバイスを対象に植え込むことによる、ある疾患または障害の処置における、細胞を内包する閉鎖型の植込み可能な細胞送達デバイスの使用に関する。
【技術背景】
【0002】
患者へのドナー細胞の移植はさまざまな疾患を処置するための有望なツールになる。例えば糖尿病患者には膵島細胞を移植しうる。
【0003】
1型糖尿病(Type 1 diabetes:T1D)は、ランゲルハンス島中のインスリン産生β細胞が免疫系によって破壊される自己免疫疾患である。全世界で2000万~4000万人がT1Dを有すると見積もられている。インスリン投与は低血糖または高血糖を防ぐために厳格に管理される必要がある。というのも、低血糖や高血糖は、処置せずに放置すると生命にかかわりかねない組織および器官の損傷をもたらす場合があるからである。大半のT1D患者には毎日の外因性インスリンが処方されるが、血中グルコースレベルの厳格な管理の達成は、不十分な用量調整および患者のコンプライアンス不良ゆえに、依然として困難なままである。インスリンを使わずに正常血糖血中グルコースレベルを得るための方法の1つは、臨床島移植(clinical islet transplantation:CIT)によるものである。CITは、合併症がほとんどない低侵襲性治療であり、患者がおよそ5年間はインスリン非依存になることができるという利益がある。島はドナーの膵臓から単離され、レシピエントの肝門脈中に移植される。しかし、ドナーが不足していることと、あらゆる同種免疫または自己免疫の再発を防ぐために長寿命(long-life)の免疫抑制薬が必要であることとにより、CITは管理不良の糖尿病患者にしか利用できない。CITの効率には限界がある。移植された島の50~70%が、移植後早期に、即時型血液媒介性炎症反応(instant blood-mediated inflammatory reaction:IBMIR)によって失われるからである。IBMIRは、島が血液に直接さらされることによって惹起され、血小板の迅速な活性化と島への結合をもたらす。次に島は凝血塊に封入されることになり、それが最終的には移植された細胞の喪失につながる。閉じた(免疫防護)デバイスなどの肝臓外島送達デバイスを使用すれば、細胞送達を改良することができる。免疫系はデバイスの内側の細胞にはアクセスできないので、IBMIRが回避され、レシピエントは免疫抑制薬を必要としなくなるからである。
【0004】
既存の閉鎖(免疫防護)型デバイスの短所は、細胞または細胞クラスターがデバイスの内側で凝集しがちなことである。例えば米国特許出願公開第2021/022846号明細書は、細胞を植え込むための閉じたデバイスを記載しているが、細胞が凝集塊を形成するのを防ぐための手段は記載されていない。細胞の凝集は、栄養素と酸素の枯渇により、細胞塊の中心にある細胞の壊死を引き起こしがちである。凝集を防ぐための方法は、免疫防護デバイスの内側で細胞(または細胞クラスター)をヒドロゲルに包埋することである。しかし、ヒドロゲルに包埋することの短所は、それが、クラスター形成とその結果起こる壊死を防ぎはするものの、栄養素、ガスおよびタンパク質の拡散を、依然として邪魔することである。これは、そのような免疫防護型デバイスの拡散能を低下させすぎて、意図した治療(例えば1型糖尿病における島様細胞移植)にとって十分な細胞を内包することができないデバイスをもたらす。さらにヒドロゲルは、分泌因子(例えば島細胞の場合であればインスリン)が植込みデバイスの外に拡散するのを妨害する。とりわけこれらの理由により、改良された免疫防護型デバイスが必要とされている。
【0005】
さらにまた、国際公開第2018/114098号は開放型デバイスを開示しており、ここでは、細胞が移動または凝集するのを防ぐためにメッシュが使用されうる。米国特許第6008049号明細書は細胞培養デバイスを開示しており、そこではメッシュが使用されている。米国特許出願公開第2020/360566号明細書は、低酸素部位に植え込むための閉鎖型デバイスを記載しているが、これには、凝集塊の形成を防ぐためにビーズが使用されており、細胞はそのビーズに付着する。これらの文書は、例えばメッシュを使用することなどによって、細胞が凝集するのを防ぐための方法を記載しているが、これらの文書はいずれも、酸素および栄養素の拡散を可能にし、なおかつデバイスにおける細胞の均一な播種が可能になるような、閉じたデバイスにそれらを実装するための適切な方法を記載していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2021/022846号明細書
【特許文献2】国際公開第2018/114098号
【特許文献3】米国特許第6008049号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2020/360566号明細書
【0007】
本発明は、本願特許請求の範囲に記載する免疫防護型デバイスおよび方法によって、とりわけ上記の課題に対処する。
【発明の概要】
【0008】
第1の態様において、本発明は、対象に細胞または細胞凝集体を植え込むための免疫防護型の植込み可能なデバイスであって、デバイスは下部メンブレンおよび上部メンブレンを備え、下部メンブレンおよび上部メンブレンは支持構造物に接合されることで、下部メンブレン、上部メンブレンおよび支持構造物が、植え込まれたときに免疫系によるアクセスが可能でない封鎖された内部空間を形成するようになっており、下部メンブレンおよび上部メンブレンは、メンブレンを貫通して内部空間への栄養素および酸素の拡散を可能にする複数の細孔を備え、デバイスは、細胞が凝集塊を形成しないように、細胞または細胞凝集体がデバイスの内部空間に挿入されたときに細胞または細胞凝集体のための支持体となるような、デバイス内の内部空間に配置されたメッシュをさらに備え、メッシュは60~300μmの細孔寸法を有する、植込み可能なデバイスに関する。
【0009】
第2の態様において、本発明は、医薬として使用するための、本発明の第1の態様のいずれか1つによる植込み可能なデバイスであって、細胞または細胞凝集体を含む植込み可能なデバイスに関する。
【0010】
第3の態様において、本発明は、本発明の第1の態様に記載の植込み可能なデバイスを構築する方法であって、下部メンブレンを用意すること、支持構造物を大まかに下部メンブレンの縁部に沿って中央空間が残るように配置すること、下部メンブレンの上で中央空間中にメッシュを配置すること、支持構造物の上に、上部メンブレンを、メッシュを備える中央空間を覆うことでそれを完全に封鎖して内部空間を作り出すように、配置すること、ならびに上部および下部メンブレンを支持構造物に、好ましくは超音波溶着、ヒートシール、圧力シール、接着剤によって、より好ましくは超音波溶着によって、固定することを含む方法に関する。
【0011】
第4の態様において、本発明は、植込み可能なデバイスに細胞または細胞凝集体を装填するための方法であって、本発明の第1の態様によるデバイス、または本発明の第2の方法によって得られたもしくは得ることができるデバイスを用意すること、細胞または細胞凝集体の懸濁液を容器中に用意すること、チューブを、一端が細胞または細胞凝集体の懸濁液を含む容器の内部と開放的に接触する(in opne contace with)ように、かつ他端が植込み可能なデバイスの内部空間中に開口部を通して挿入されるように、接続すること、および容器中の細胞または細胞凝集体がチューブを通って植込み可能なデバイスの内部空間中に流れ出ることを可能にすること、および任意で、植込み可能なデバイスにおける開口部を、チューブを除去した後で、好ましくは超音波溶着、ヒートシール、圧力シール、接着剤によって、より好ましくはヒートシールによって、閉じることを含む方法に関する。
【0012】
定義
本発明に関して、次の用語を以下に定義する。
本明細書において使用される単数形の用語「A」、「an」および「the」には、別段の明確な指示がある場合を除き、複数の指示対象が含まれる。したがって、例えば「a cell」(細胞)への言及には、2つ以上の細胞の組合せなどが含まれる。本明細書において使用される場合、「細胞」(cellまたはcells)という用語には、特に、「細胞凝集体」(a cell aggregateまたはcell aggregates)も含まれる。
【0013】
本明細書において使用される「および/または」という用語は、言明された事例のうちの1つ以上が、単独で、または言明された事例のうちの少なくとも1つとの組合せとして、最大で言明されたすべての事例との組合せとして、起こりうる状況を指す。
【0014】
本明細書において使用される「少なくとも」ある特定値という用語(the term "at least" a particular value)は、その特定値以上を意味する。例えば「少なくとも2」は、「2以上」、すなわち2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、…などと同じであると理解される。本明細書において使用される「多くて」ある特定値という用語(the term "at most" a particular value)は、その特定値以下を意味する。例えば「多くて5」は、「5以下」、すなわち5、4、3、…、-10、-11などと同じであると理解される。
【0015】
本明細書において使用される「comprise」(を含む、を備える)という単語またはその変化形、例えば「comprises」または「comprising」は、言明した要素、整数もしくは工程、または要素、整数もしくは工程の群を含むが、他のいかなる要素、整数もしくは工程、または要素、整数もしくは工程の群も排除しないと理解されるだろう。「comprising」(を含む、を備える)という動詞には、「essentially consisting of」(から本質的になる)および「consisting of」(からなる)という動詞が包含される。
【0016】
本明細書において使用される「従来技法」という用語は、本発明の方法において使用される従来技法を実行する方法が当業者には明白であるだろう状況を指す。分子生物学、生化学、計算化学、細胞培養、組織工学、再生医学、組換えDNA、バイオインフォマティクス、ゲノミクス、シーケンシングおよび関連分野における従来技法の実際は、当業者には周知であり、例えば次の参考文献において論じられている:Sambrookら,「Molecular Cloning.A Laboratory Manual」,第2版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,コールドスプリングハーバー,ニューヨーク,1989、Ausubelら,「Current Protocols in Molecular Biology」,John Wiley&Sons,ニューヨーク,1987および定期改訂版、ならびに「Methods in Enzymology」シリーズ,Academic Press,サンディエゴ、Mozafariら,「Handbook of Tissue Engineering Scaffolds」第2巻,2019 Elsevier、Atalaら,「Principles of Regenerative Medicine」第3版,2019。
【0017】
本明細書において使用される「インビトロ」という用語は、それぞれの自然条件からは隔離された生物の構成要素を使って行われる実験または測定を指す。
【0018】
本明細書において使用される「対象」または「個体」または「動物」または「患者」または「哺乳動物」という用語は同じ意味で使用され、診断、予後または治療が望まれる任意の対象、特に哺乳動物対象を指す。哺乳動物対象には、ヒト、家畜、農用動物、および動物園動物、スポーツ動物、またはペット動物、例えばイヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、畜牛、乳牛、クマなどが含まれる。本明細書において定義される対象は、生きている場合も、死んでいる場合もありうる。試料は対象から死後に、すなわち死亡してから、採取することができ、および/または試料は生きている対象から採取することができる。
【0019】
本明細書において使用される「処置」、「処置する」、「緩和する」、「軽減する」または「寛解させる」という用語は、同じ意味で使用され、限定するわけではないが治療的利益などといった、有益な結果または望ましい結果を得るためのアプローチを指す。治療的利益とは、処置される基礎疾患の根絶もしくは寛解、またはその進行の低減(もしくは遅延)を意味する。また、治療的利益は、患者が依然として基礎疾患に冒されている場合があるにもかかわらず、改善または減退の減速もしくは低減が患者において観察されるような形での、基礎疾患に関連する生理学的症状のうちの1つ以上の根絶もしくは寛解またはその進行の低減(もしくは遅延)によって達成される。
【0020】
本明細書において使用される「植込み可能な細胞送達デバイス」という用語は、「植込みデバイス」、「細胞送達デバイス」、「植込み可能なデバイス」、「マクロ封入インプラント」、「細胞担体」または単に「デバイス」と同じ意味で使用され、細胞を保持するのに適した囲いであって、対象に植え込むことが意図されているものを指す。したがって本デバイスは、対象に細胞を植え込むための媒体として役立つ。それゆえに、本デバイスは対象への植込みに適した材料でできていて、本デバイスは生きている細胞を内包するのに適するように構築されると、想定されうる。
【0021】
本明細書において使用される「閉じた(閉鎖)」という用語は、植込み可能な細胞送達デバイスに関する場合には、内側に細胞を封止した後は、免疫細胞または宿主の血管新生がデバイスに侵入することを可能にするほど大きな開口部を、デバイスが有しないことを含意する。したがって、閉じた(閉鎖)という用語は、必須分子、例えば栄養素、ガス、低分子タンパク質またはペプチド、代謝産物、サイトカイン、ホルモン、および他の生体分子の物質輸送を可能にするために存在する細孔または開口部の存在を、必ずしも排除するものではない。本明細書において使用される場合、細孔という用語は、栄養素、ガス、低分子タンパク質またはペプチド、代謝産物、サイトカイン、ホルモンおよび他の生体分子の拡散(または物質輸送)を可能にする直径を持つが、その直径は、小さすぎて、デバイスの内側での血管新生を許さず、デバイスへの免疫細胞の進入を許すこともない、開口部を指す。
【0022】
本明細書にいう「孔径」、「細孔寸法」または「メッシュサイズ」とは、メッシュに関する場合には、メッシュの開口部のサイズを指し、開口部が実質上円形の場合は開口部の平均直径であり、また開口部が実質上正方形または長方形の場合は辺の平均サイズであると解釈されるべきである。
【0023】
発明の詳細な説明
本明細書において使用されるセクション見出しには構成上の目的しかなく、記載されている主題を限定すると解釈してはならない。
【0024】
本発明の一部には、著作権保護の対象となる資料(限定するわけではないが、例えば図表、デバイス写真、または本開示の他の任意の態様であって、任意の管轄区域において、それに対する著作権保護が利用可能であるか、または利用可能でありうるもの)が含まれる。著作権者は、特許商標庁の特許ファイルまたは記録に表示される形で、何びとかによって特許文書または特許発明が複製されることに対して異議を唱えないが、それ以外にはすべての著作権を留保する。
【0025】
本明細書および特許請求の範囲の全体を通し、本発明の方法、組成物、使用および他の態様に関して、さまざまな用語が使用される。そのような用語には、別段の表示がある場合を除き、本発明が関係する技術分野における、それぞれの通常の意味が与えられるものとする。他の具体的に定義される用語は、本明細書において提供される定義と合致するように解釈されるものとする。本明細書には好ましい材料および方法を記載するが、本明細書に記載するものと類似するまたは等価な方法および材料はいずれも、本発明の試験のための実施において使用することができる。
【0026】
別段の定義がある場合を除き、本明細書において使用される技術用語および科学用語はすべて、当技術分野における通常の技能を有する者が一般に理解しているものと同じ意味を有する。
【0027】
本発明は、例えば疾患を処置する手段などとして対象に細胞を植え込むことを意図した、免疫防護型の植込み可能な細胞送達デバイス、または閉じたデバイスに関する。植込み治療において使用することができるであろう典型的細胞は、糖尿病の処置における島細胞であるが、植込みによる治療方法において使用することができるであろう細胞は他にも当業者に知られている。
【0028】
島細胞などの細胞を移植に先立って封入することにより、現在の臨床細胞移植治療(例えば臨床島移植)が直面する難題を克服できる可能性がある。ただし、本デバイスは、例えば誘導多能性幹細胞または分化転換誘導細胞供給源などに基づく新規治療を含めて、細胞または細胞凝集体の移植の恩恵を受けるあらゆるタイプの処置に使用することができると理解される。ここに本発明者らは、多孔性メンブレン製の免疫防護島封入デバイスであって、細胞を免疫細胞から保護すると共に、栄養素の拡散を可能にすることによって細胞を生存可能で機能的な状態に保つデバイスの開発を記載する。現在の細胞封入デバイスの開発には大きく3つの難題がある。第1に、生体適合性材料を選択して異物応答を回避するかまたは異物応答を低減させることにより、本発明者らは潜在的生体材料をスクリーニングし、それらの結果に基づいて、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を典型的な候補生体適合性材料として選択した。第2に、封入された細胞への栄養素、ガス、低分子タンパク質またはペプチド、代謝産物、サイトカイン、ホルモンおよび他の生体分子の輸送を可能にすることにより、薄い多孔性メンブレンの作製により、最終的に、封入された細胞を、免疫細胞の通過を許さない細孔を持つ免疫防護メンブレンを使用することによって、免疫系から保護する(Second, by enabling the transport of nutrients, gases, small proteins or peptides, metabolites, cytokines, hormones and other biomolecules to the encapsulated cells, by the production of thin and porous membranes and finally protect the encapsulated cells against the immune system by using immunoprotective membranes with pores that do not allow passage of immune cells.)。
【0029】
第3に、よく見られる課題は、植込みデバイスに封鎖された細胞は凝集して大きな凝集体を形成しがちであり、その内部では、酸素および栄養素の欠如により、壊死(ネクローシス)が起こるということである。この課題は、例えば細胞または細胞クラスターを包埋するためにデバイスの内腔にヒドロゲルを使用することなどによって対処されてきた。この解決策は細胞が大きな凝集体へと凝集するのをある程度は防ぐが、ヒドロゲルの存在は、依然として酸素および栄養素の拡散を阻むと共に、細胞が産生する因子類(例えばインスリン)がデバイスの外に効率よく拡散するのも妨げることがわかった。
【0030】
本明細書において使用される場合、メンブレンおよびフィルムまたは薄膜という用語は、同じ意味で使用され、平坦なシート様の材料を指す。
【0031】
したがって、第1の態様において、本発明は、対象に細胞または細胞凝集体を植え込むための免疫防護型の植込み可能なデバイスであって、デバイスは下部メンブレンおよび上部メンブレンを備え、下部メンブレンおよび上部メンブレンは支持構造物に接合されることで、下部メンブレン、上部メンブレンおよび支持構造物が、植え込まれたときに免疫系によるアクセスが可能でない封鎖された内部空間を形成するようになっており、下部メンブレンおよび上部メンブレンは、メンブレンを貫通して内部空間への栄養素および酸素の拡散を可能にする複数の細孔を備え、デバイスは、細胞が凝集塊を形成しないように、細胞がデバイスの内部空間に含まれているときに細胞のための支持体となるような、デバイス内の内部空間に配置されたメッシュをさらに備え、メッシュは60~300μmの細孔寸法を有する、植込み可能なデバイスに関する。このように、メッシュの組入れは、大きな細胞塊の形成を防ぐか、または低減し、その結果、細胞または細胞凝集体は、より長く生き残り、より良く機能することになる。本明細書において使用される場合、凝集塊または凝集塊を形成するという用語は、大きな細胞凝集体(またはその形成)であって、細胞凝集体がその大きなサイズゆえに負の効果、例えば限定するわけではないが、壊死、成長障害または機能障害を起こすものを指す。
【0032】
メッシュを使用することで、細胞凝集塊形成という課題に効果的に対処できることがわかった。開放型細胞送達デバイスではメッシュが記載されているが(例えば米国特許出願公開第2017/182139号明細書)、本発明者らの知る限り、閉じた(免疫防護)デバイスにおける同様の解決策はない。そのようなデバイスに細胞または細胞凝集体を適正に収容することは極めて難しいというのが、その理由である。そのようなデバイスは、好ましくは細胞なしで、組立てと提供が行われ、使用時には、デバイスを対象に植え込む直前に、細胞が播種される。しかし、閉じたデバイスに狭い開口部を通して細胞を播種して、デバイス内のメッシュ全体への細胞(または細胞クラスター)の均一な分布を可能にすることは難易度が高く、一般に細胞は最終的にはデバイス内で大きな凝集塊になるだろう。
【0033】
理論的には、デバイスは、植込みに先立って最終組立てを受けることができる。つまり、細胞がメッシュ上に播種され、次にそのメッシュがデバイスの外層(メンブレン)の間に封鎖されて、メッシュ上の細胞の均一な分布を可能にする。しかし実際には、この解決策はうまくいかない。構成要素を1つに組み立てて固定することは細胞にとってはあまりに破壊的であり、細胞が死ぬかまたはデバイス内でずれる原因になる。本発明者らは、後述するように、デバイス中に細胞を播種する新しい方法を、ここに開発した。これにより、既に組み立てられたデバイス中に細胞(または細胞凝集体)を均一に播種することが可能になり、よってメッシュを持つ閉じたデバイスのための実用的な解決策が可能になる。
【0034】
どの移植部位または植込みでも懸念されるとおり、適正な栄養素の拡散は、移植された移植片の最適な生存および機能を保証するために不可欠である。例えば膵島は高い代謝活性を示し、それゆえに、生存するには酸素および栄養素の迅速なアクセスを必要とする。それゆえに、インプラントの内側の細胞への、および同細胞からの、拡散経路長を低減し、物質輸送時間を最小限に抑えるために、送達デバイスが可能な限り薄く、多孔性であることは、極めて重要である。それゆえに本発明は、とりわけ、細胞送達を実現するための免疫防護細胞送達デバイスを製作し、臨床的に妥当なデバイス寸法を有するインプラント設計を可能にするための方法を提供する。
【0035】
本発明の植込み可能な細胞送達デバイスは、対象に細胞を植え込むことを意図している。本特許に示す実施例は、本送達デバイスが、ベータ細胞と島だけに限定されるのではなく、例えばヒト間葉系幹細胞、アルファ細胞、または他の任意の関連する細胞タイプなど、細胞送達全般に使用されうることを例証している。実施例によれば、本植込み可能な細胞送達デバイスには、他の細胞タイプ、細胞タイプの混合物、オルガノイドまたは組織もしくは器官(のパーツ)を組み入れることができると理解される。本デバイスは対象への植込みを意図しているので、例えば使用材料が生体適合性でなければならないことや、デバイスの寸法などに、一定の制限がある。寸法はそのデバイスを植え込もうとしている対象に依存しうると理解される。本明細書において使用される場合、対象という用語は、齧歯動物もしくは哺乳動物などの動物、またはヒトを指しうる。したがって植込み可能な細胞送達デバイスに関するサイズ制限は、例えばマウスの場合はヒトと比べて異なるが、同じ種内であっても、例えば身体サイズなどの相違が、植込み可能な細胞送達デバイスのサイズを左右しうる。デバイスのサイズはさらに、植込み可能な細胞送達デバイスに組み入れようとする細胞タイプ、および細胞を植え込むことの機能または目的にも左右される。当業者は、インプラントのおおよその望ましいサイズを、とりわけ対象および植え込まれる細胞タイプに基づいて、見積もることができる。
【0036】
本発明の植込み可能な細胞送達デバイスは、下部メンブレンおよび上部メンブレンを備え、下部メンブレンおよび上部メンブレンは支持構造物に接合されることで、下部メンブレン、上部メンブレンおよび支持構造物が、植え込まれたときに免疫系によるアクセスが可能でない封鎖された内部空間を形成するようになっており、下部メンブレンおよび上部メンブレンは、メンブレンを貫通して内部空間への栄養素および酸素の拡散を可能にする複数の細孔を備えている。本デバイスは、デバイスの内部空間に配置されたメッシュを、さらに備えている。メッシュは、支持体およびスペーサー構造物として意図されている。メッシュを使用すれば、細胞培養でも、デバイス内に使用した場合にも、細胞または細胞クラスターの凝集が効果的に防止されることを、本発明者らは見いだした(例えば
図12参照)。細胞または細胞クラスターの凝集は望ましくなく、現在知られている細胞植込みデバイスに伴う課題である。細胞または細胞クラスターの凝集は、大きすぎる細胞凝集体をもたらし、そこでは、内部の細胞が栄養素および酸素を奪われ、結果として、とりわけ壊死、ならびに機能、力価(potency)および効力の喪失を起こす。それゆえに、細胞または細胞クラスターを互いに離れた状態に保つために、追加の手段が必要になる。本特許では、細胞送達デバイスの内側で細胞が凝集するのを、メッシュを使用することによって防ぐ方法が記載される。これにより、好都合なことに、細胞および細胞凝集体を互いに離れた状態に保ちつつ、栄養素の容易な拡散が可能になる。上部メンブレンと下部メンブレンはどちらも、細胞への栄養素と酸素の拡散、また任意で細胞からデバイス外への分泌因子の拡散を可能にする、多数の細孔を有する。分泌因子の非限定的な例はインスリンである。
【0037】
本明細書にいうメンブレンとは薄く平坦な材料を指す。本明細書にいうメンブレンの表面領域は上面および下面を指し、ここで上面および下面とは両者間の厚さが最も小さくて互いに相対する面である。本明細書にいう細孔とは、メンブレンを完全に貫通して、メンブレンの一方の面から他方の面への、好ましくは上面から下面への、分子などの通過を可能にする、メンブレン中の開口部または空洞を指す。
【0038】
本発明の植込み可能な細胞送達デバイスは、実質的に下部メンブレンの表面領域および上部メンブレンの表面領域の周囲に配置された支持構造物をさらに含み、その支持構造物は上部メンブレンおよび下部メンブレンの表面領域の平面内に配置されるようになっている。支持構造物は例えば楕円形または円形でありうるが、支持構造物はあらゆる種類の形状を有しうると理解される。理想的には、支持構造物の形状は上部および下部メンブレンの輪郭に沿う。例えば下部および上部メンブレンが楕円形の形状を有する場合、支持構造物は好ましくは下部および上部メンブレンの縁部に沿う楕円形のリングである。支持構造物は切れ目または空隙を有してもよいと理解され、例えば支持構造物はU字形であってもよい。
【0039】
本デバイスは追加の支持構造物を含みうると理解される。例えば本発明の免疫防護型の植込み可能な細胞送達デバイスは、1つ以上の追加支持構造物を含んでもよく、その場合、好ましくは、1つ以上の追加支持構造物は、下部および上部メンブレンに関して、より中央に配置される。
【0040】
支持構造物の機能は、デバイスに多少の剛性を与えることである。植込み可能な細胞送達デバイスにはある程度の柔軟性が望ましいが、構造的完全性は保証されなければならない。下部および上部メンブレンは栄養素と酸素の拡散を許容する必要があるため、メンブレンの厚さには制限があり、それは一般に極めて薄く、したがって脆弱である。支持構造物は、メンブレンの引裂きまたは破裂を避けるのに役立つ。さらに、支持構造物を組み入れることにより、デバイスの折り畳みまたは屈曲が防止される。これらは、防止しなければ内部空間の増加につながり、結果として、デバイスのレシピエントにとって望ましくない拡散経路の増加および細胞機能の低減が起こる。したがって支持構造物は、一般に、下部および上部メンブレンの厚さを上回る厚さを有する。例えば、上部および下部メンブレンの厚さが、それぞれ個別に10~250μm厚、好ましくは35~200μm、より好ましくは40~160μmでありうるのに対し、支持構造物は75~500μm厚前後、好ましくは100~400μm以上、例えば200μm厚前後などでありうる。
【0041】
支持構造物はさらに、下部および上部メンブレンを取り付けるための足場を提供する。メンブレンは、支持構造物がメンブレンの縁部間に挟まれるような形で、支持構造物に取り付けてもよいし、あるいはメンブレンは、支持構造物の1つの面に、例えば上面または下面に、一緒に取り付けてもよい。メンブレンは、例えば超音波溶着、ヒートシール圧力シールまたは接着剤によって取り付けることができるが、超音波溶着が好ましい。
【0042】
本発明の植込み可能な細胞送達デバイスは、植え込まれたときに内部空間を実質的に、好ましくは完全に、封止するように、支持構造物に1か所または複数個所で取り付けられた、下部メンブレンおよび上部メンブレンを、さらに有する。したがって、デバイスは、植え込む準備が整ったときには、細孔を通した栄養素および酸素などの分子の拡散しか許さず、したがって栄養素の拡散はメンブレンの孔径を制御することによって制御することができる。ただし、細胞をデバイス中に装填する必要があるので、デバイスは、後述するように細胞をデバイスに挿入することが可能になるように、上部および/または下部メンブレンと支持構造物との間に開口部を残すように構築される。細胞をデバイスに挿入し終えたら、栄養素の拡散は細孔を通してのみ起こることができ、したがって、栄養素の拡散を許す、免疫細胞にとっての障壁が作り出されるように、その開口部は封止されることになる。したがって、本明細書にいう細孔とは、そのサイズゆえにデバイス中への免疫細胞の通過を許さないデバイス中の開口部であると解釈されるべきである。
【0043】
本デバイスはPVDFから好ましく構築されることがわかった。PVDFは、機械的強度を維持しつつも、他の適切な材料と比べて改良された多孔性を有するからである。さらなる利点は、PVDFが生体適合性であるため、免疫応答が大幅に低減することである。つまり、生体適合性でないために大幅に強い免疫応答を呈するデバイスと比べて免疫応答が著しく低減するため、デバイス中の細胞が受ける影響は小さくなる。PVDFは、適切な材料と、例えば限定するわけではないがポリビニルピロリドン(PVP)と、組み合わせうると理解される。
【0044】
したがって、ある実施形態において、下部メンブレンおよび/または上部メンブレン、そして任意で支持構造物は、非水溶性ポリマー製、好ましくはポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリ(エチレンオキシドテレフタレート)/ポリ(ブチレンテレフタレート)(PEOT/PBT)製、または水溶性コポリマーと混合された非水溶性ポリマー製であり、好ましくは、メンブレンは細孔形成試薬をさらに含み、より好ましくは、細孔形成試薬はポリビニルピロリドン(PVP)である。
【0045】
デバイスを製造するための材料としてPVDFを使用することのさらなる利点は、それにより、スポット溶着が可能になることである。したがって、ある実施形態において、上部および下部メンブレンはスポット溶着によって支持構造物に取り付けられる。スポット溶着には、免疫反応の引き金を引く可能性があり、生体適合性でない可能性があり、さらには毒性である可能性さえあり、あるいは時間と共に溶解してデバイスの構造的欠損をもたらす可能性がある、グルーなどの追加材料を使用する必要がないという利点がある。
【0046】
イメージングのためのマーカーをデバイス中またはデバイス上に組み入れることも、さらに想定される。これは、外科的処置を必要とすることなく対象におけるデバイスの位置を特定することが可能になるので、有利でありうる。したがって、ある実施形態において、デバイスはイメージング用の1つ以上のマーカーを含み、好ましくは、1つ以上のマーカーは、上部メンブレン、下部メンブレンおよび/または支持構造物のPVDF中に注入されるか、または同PVDF上にコーティングされた、放射線不透過剤を含み、より好ましくは、放射線不透過剤は、硫酸バリウムなどのバリウム系、三酸化ビスマス、次炭酸ビスマスもしくはオキシ塩化ビスマスなどのビスマス系であるか、または放射線不透過剤はタングステンもしくは酸化グラフェンである。
【0047】
本明細書にいう放射線不透過剤は、放射線造影剤とも呼ばれ、電磁スペクトルのラジオ波およびx線波部分にとって不透明な(つまりその種の電磁放射線は相対的にその特定材料を透過することができない)物質である。放射線造影剤の非限定的な例として、チタン、タングステン、硫酸バリウム、酸化ビスマスおよび酸化ジルコニウムが挙げられる。いくつかの解決策は、界面臨界性の低い、より均一な材料を得るために、ポリマー鎖への重元素、例えばヨウ素の直接的結合を伴う。
【0048】
さらに、薬物または化合物をデバイスに含めることは有利でありうると、想定される。したがって、ある実施形態において本デバイスは、上部および下部メンブレンならびに/または支持構造物などのPVDFメンブレン中に注入されたまたはPVDFメンブレン上にコーティングされた、薬物または化合物を含む。例えば本デバイスは、線維性のカプセルが形成されるのを避けるための薬物、または異物応答を調節するための薬物でコーティングされていてもよい。あるいは、デバイスが対象における処置選択肢として植え込まれる場合には、治療薬を同時処置として含めうる。非限定的な例は、がんを処置するための化学治療剤、免疫チェックポイント阻害剤、細胞クラスターおよび/またはオルガノイドの、術後早期の生存を助ける、細胞ストレス阻害薬、または術後のインプラントを追跡するためのイメージングマーカーである。デバイス内での血管伸長を促進するための血管新生因子の組入れも、さらに想定される。
【0049】
上部および下部メンブレン中の細孔は、デバイス中の細胞への栄養素および酸素の拡散を可能にする。理想的には、平均孔径は、構造的完全性を維持し、かつ細胞がデバイスから出るのを防ぎつつも、最大限の拡散を可能にするように選ばれる。ある実施形態では、可溶性ポリマーをフィルムに組み入れることによって細孔が作り出され、これにより、フィルムにおける細孔の作出が可能になる。したがって、ある実施形態において、下部メンブレンおよび上部メンブレンの(平均)孔径は、10~500nm、好ましくは50~450nm、より好ましくは100~400nmである。孔径は、例えばフィルム製造中に使用される非可溶性ポリマーに対する(水)可溶性ポリマーの比を制御することなどによって、変更しうる。当業者に知られる他の方法も使用することができると理解される。さらに、細孔は免疫細胞がデバイス内に入ることを許してはならないので、孔径は免疫細胞によって制限されると理解される。上部メンブレンと下部メンブレンにおける平均孔径は同じであっても異なってもよい。
【0050】
メンブレンの厚さは構造的完全性(structural integrity)と栄養素を拡散させる能力との兼ね合いであると想定され、メンブレンが厚いほど強さは増すが、許される拡散は少なくなり、逆もまた同様である。したがって、ある実施形態では、下部メンブレンおよび上部メンブレンが、10~200nm、好ましくは35~200nm、より好ましくは40~160nmの厚さを有する。これらの値では、強さと拡散能とのバランスが良いことがわかった。
【0051】
メッシュは任意の非分解性ポリマーから構築できることがわかったが、生体適合性ポリマーが好ましい。したがって、ある実施形態において、メッシュは非分解性ポリマーから構築され、好ましくは、非分解性ポリマーは、ナイロン、PVDF、PTFE、PP、PEまたはPETから選択される。ある実施形態において、メッシュは、島細胞を収容するために、50~300μm、好ましくは60~200μm、より好ましくは70~150μm、最も好ましくは75~120μmの細孔寸法を有するが、異なる細胞タイプまたはオルガノイドについては、異なる細孔寸法を持つメッシュが望ましいと理解される。当業者は、それぞれの細胞タイプまたはオルガノイドに適した細孔寸法を決定することができる。
【0052】
ある実施形態において、デバイスは内部空間に細胞を含み、好ましくは、細胞は細胞凝集体および/またはオルガノイドであり、好ましくは、細胞凝集体は内分泌細胞もしくはサイトカイン産生細胞またはその凝集体であり、好ましくは、細胞凝集体は、島細胞、ヒト間葉系幹細胞、腎臓細胞、甲状腺細胞、胸腺細胞、精巣細胞、膵臓細胞、内分泌細胞、肝臓細胞、サイトカイン産生細胞から選択され、または好ましくは、オルガノイドは、腎臓オルガノイド、腸オルガノイド、膵臓オルガノイド、神経オルガノイド、肝オルガノイド、甲状腺オルガノイド、胃オルガノイド、卵巣オルガノイド、前立腺オルガノイド、脾臓オルガノイド、食道オルガノイド、乳房オルガノイド、膀胱オルガノイド、肺オルガノイド、眼オルガノイド、内耳オルガノイド、心オルガノイド、胆嚢オルガノイド、唾液腺オルガノイド、下垂体オルガノイド、リンパ組織オルガノイド、膀胱オルガノイド、舌オルガノイド、大脳/脳オルガノイド、脊髄オルガノイド、ファロピウス管オルガノイド、涙腺オルガノイド、皮膚オルガノイド、胸腺オルガノイド、精巣オルガノイド、上皮オルガノイド、ガストルロイド(胚オルガノイド)、ブラストイド(胚盤胞様オルガノイド)、網膜オルガノイドおよび海馬オルガノイドから選択される。細胞凝集体は、切除された組織または器官の一片、例えばドナー生物から得られるものを指す場合もある。
デバイスのサイズは、意図する応用(例えば処置方法またはデバイスに内包される細胞のタイプ)に応じて、また対象に基づいて、拡大・縮小することができると理解される。ヒト対象への植込みを意図したデバイスは、齧歯動物への植込みを意図したデバイスより大きい必要があることは、当業者には明白だろう。デバイスは本質的に二次元であり、つまりくぼみを持つ単一の平面が存在するので、一部の応用については、ヒトなどの大型の哺乳動物ではデバイスを非現実的なサイズまで拡大する必要があると予想される。それゆえに、複数の小さなバージョンのデバイスを互いに積み重ねるか、または対象に別々に植え込むことが、さらに想定される。したがって、ある実施形態において、本発明は、本発明の第1の態様の植込み可能なデバイスであって、互いに積み重ねられ、積み重ねられた個々の植込み可能なデバイス間に、開放的な空間が作り出されるようにスペーサーで分離された、2つ以上の植込み可能なデバイスを備えたデバイスに関する。追加の支持構造物は、本質的には、個々のデバイス間のスペーサーとして機能する。
【0053】
2つ以上のデバイスは、原則的に、よりコンパクトなデザインが得られるように積み重ねることができる。ただし、細胞への栄養素および酸素の適正な拡散が保証されることが前提である。このことは、3層以上を積み重ねる場合に、中間の層(デバイス)に関して、特に重要になる。それゆえに、積み重ねられた層(デバイス)はスペーサーによって分離されるべきであることを、本発明者らは見いだした。好ましくは、スペーサーは、層間の空間がスペーサーによって完全には封鎖されず、デバイス間での分子の容易な拡散が可能になるように構築される。したがって、いくつかの小さなスペーサーを使用してもよいし、あるいはスペーサーが開口部を有してもよい。スペーサーは追加の支持構造物とみなしうるので、本明細書にいうスペーサーを「追加の支持構造物」という場合もある。好ましくは、スペーサーも、生体適合性を保証するためにPVDFから構築される。支持構造物とスペーサー(追加の支持構造物)とが1つの連続した構造物であることが、さらに想定される。スペーサーは、超音波溶着、ヒートシール、圧力シール、または接着剤を使って、より好ましくは超音波溶着によって、支持構造物またはメンブレンに取り付けうる。
【0054】
デバイスは医療方法または処置の方法において使用されうると、想定される。したがって、第2の態様において本発明は、医薬として使用するための本発明の免疫防護型の植込み可能な細胞送達デバイスに関する。本発明はさらに、疾患の処置、防止または寛解に使用するための、本発明の第1の態様の免疫防護型の植込み可能なデバイスに関する。本デバイスは、好ましくは細胞、より好ましくは細胞凝集体またはオルガノイドを含む。それゆえに、ある実施形態において本発明は、疾患の処置、防止または寛解に使用するための、本発明の、細胞、好ましくは細胞凝集体および/またはオルガノイドを含む、免疫防護型の植込み可能な細胞送達デバイスに関する。あるいは、本発明は、ある疾患または状態を処置し、防止し、または寛解させる必要がある対象において、その疾患または状態を処置し、防止し、または寛解させる方法であって、細胞、好ましくは細胞凝集体またはオルガノイドを含むデバイスを対象に植え込むことを含む方法に関する。
【0055】
いくつかの処置選択肢が本デバイスに関して想定される。例えばデバイスは糖尿病の処置に使用しうる。それゆえに、ある実施形態において、処置は糖尿病の処置、好ましくは1型糖尿病の処置である。好ましくは、処置が糖尿病の処置である場合、デバイスはインスリン分泌細胞、例えば島細胞またはインスリンを分泌するように工学的に操作された細胞を含む。
【0056】
しかし、本デバイスの使用が糖尿病の処置に限定されないことは、当業者には明らかだろう。本デバイスは、あらゆるタイプの細胞、細胞凝集体またはオルガノイドの組込みに対応できるからである。本デバイスは、例えば、ある治療において有益でありうる細胞外因子を排出する細胞を植え込むために使用しうる。細胞外因子の非限定的な例として、インスリン、グルカゴン、サイトカイン、成長因子、ホルモン、炭水化物、および凝固因子などのペプチドおよびタンパク質が挙げられる。
【0057】
したがって本デバイスは、限定するわけではないが、免疫関連障害、例えば多発性骨髄腫、黒色腫、関節リウマチ、炎症性腸疾患、ループス、強皮症、溶血性貧血、血管炎、1型糖尿病、グレーブス病、多発性硬化症、グッドパスチャー症候群、悪性貧血、ミオパチー、ライム病、重症複合型免疫不全症(SCID)、ディジョージ症候群、高免疫グロブリンE症候群(ヨブ症候群とも呼ばれる)、分類不能型免疫不全症(CVID)、慢性肉芽腫症(CGD)、ウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS)、自己免疫性リンパ球増殖症候群(ALPS)、高IgM症候群、白血球接着不全症(LAD)、NF-κB基本調節因子(NF-κB essential modifier:NEMO)変異、選択的免疫グロブリンA欠損症、X連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA;ブルトン型無ガンマグロブリン血症とも呼ばれる)、X連鎖リンパ増殖性疾患(XLP)、毛細血管拡張性運動失調症または後天性免疫不全症候群(AIDS)の処置に使用されうる。さらに、本デバイスは、がんなどの成長因子関連疾患の処置にも使用されうる。さらに、本デバイスは、ホルモンまたは内分泌関連障害、例えば腎機能不全、アジソン病、クッシング病、クッシング症候群、巨人症(先端巨大症)、甲状腺機能亢進、グレーブス病、甲状腺機能低下、下垂体機能低下症、多発性内分泌腫瘍症I型およびII型(MEN IおよびMEN II)、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)または思春期早発症においても使用されうる。さらに、本デバイスは、凝固障害、例えば第V因子ライデン、プロトロンビン遺伝子変異、凝固を防ぐ天然タンパク質(例えばアンチトロンビン、プロテインCおよびプロテインS)の欠損、ホモシステインレベルの上昇、フィブリノゲンまたは機能障害性フィブリノゲンのレベルの上昇(異常フィブリノゲン血症)、第VIII因子ならびに第IX因子および第XI因子を含む他の因子のレベルの上昇、線維素溶解系異常、例えば低プラスミノゲン血症、異常プラスミノゲン血症およびプラスミノゲンアクチベーターインヒビター(PAI-1)のレベルの上昇、がん、肥満、妊娠、補充エストロゲンの使用、例えば経口避妊ピル(産児制限ピル)、ホルモン補充治療、長期床上安静または不動、心臓発作、うっ血性心不全、卒中および活動低下につながる他の病気、ヘパリン誘発性血小板減少症、抗リン脂質抗体症候群、深部静脈血栓症または肺塞栓症の既往歴、骨髄増殖性障害、例えば真性赤血球増加症または本態性血小板増加症、発作性夜間ヘモグロビン尿症、炎症性腸症候群、HIV/AIDSまたはネフローゼ症候群の処置にも使用されうる。さらに、本デバイスは、再生医学適応症、例えば限定するわけではないが、脊髄傷害、1型糖尿病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、心臓疾患、卒中、熱傷、がんおよび変形性関節症においても使用されうる。
第3の態様において、本発明は、請求項1~8のいずれか一項に記載の植込み可能なデバイスを構築する方法であって、下部メンブレンを用意すること、支持構造物を大まかに下部メンブレンの縁部に沿って中央空間が残るように配置すること、下部メンブレンの上で中央空間中にメッシュを配置すること、支持構造物の上に、上部メンブレンを、メッシュを備える中央空間を覆うことでそれを完全に封鎖して内部空間を作り出すように、配置すること、ならびに上部および下部メンブレンを支持構造物に、好ましくは超音波溶着、ヒートシール、圧力シール、接着剤によって、より好ましくは超音波溶着によって、固定することを含む方法に関する。ある実施形態では、上部および下部メンブレンが、デバイスに細胞を装填するための単一の開口部を残すように、支持構造物に固定される。
【0058】
本明細書において使用される「スポット溶着」という用語は、好ましくは、超音波スポット溶着を指す。超音波スポット溶着は、高周波の超音波音響振動が、一緒に保持された被加工物に加圧下で局所的に適用されて固体の溶着部を作り出す、工業プロセスである。これは一般的にはプラスチックに使用される。
【0059】
本発明者らが知る限り、メッシュを備えた免疫防護型の植込み可能な細胞送達デバイスは、他にない。その理由は、デバイスに細胞を装填できる方法が簡単ではないなど、そのようなデバイスの構築にはいくつかの障壁があるからだろう。1つの方法は、デバイスの組立てに先立って下部層に細胞を播種することだろうが、そこには実用的でない点がいくつかある。というのも、デバイスは、そのデバイスを使用することになる外科医もしくは研究者に、またはそのデバイスを受容することになる患者もしくは対象に、好ましくは組み立てられた形態で輸送されるからである。その上、細胞の近くにポリマー層を溶着することは、細胞の生存率の激しい喪失につながるだろう。これらの問題を克服するために、本発明者らは、デバイスに播種する方法であって、播種後にデバイスの組立てを必要としない方法、つまりデバイスを完全に組み立ててからデバイスに播種する方法を開発した。したがって、第4の態様において本発明は、植込み可能なデバイスに細胞を装填するための方法であって、本発明の第1の態様によるデバイスまたは本発明の第2の態様の方法によって得られたもしくは得ることができるデバイスを用意すること、細胞懸濁液を容器中に用意すること、チューブを、一端が細胞懸濁液を含む容器の内部と開放的に接触する(in open contact with)ように、かつ他端が植込み可能なデバイスの内部空間中に開口部を通して挿入されるように、接続すること、および容器中の細胞がチューブを通って植込み可能なデバイスの内部空間中に流れ出ることを可能にすること、および任意で、植込み可能なデバイスにおける開口部を、チューブを除去した後で、好ましくは超音波溶着、ヒートシール、圧力シール、または接着剤によって、より好ましくはヒートシールによって、閉じることを含む方法に関する。
【0060】
構築後のデバイスは、播種用インレットを除いて、完全に閉じられる。細胞は、デバイスをほぼ水平に保持することにより、播種用インレットを介して播種されることになる。細胞懸濁液を含むチューブが、デバイスの内部において、上部メンブレンとメッシュの間で、単一の開口部に挿入される。このようにして、細胞、細胞クラスターまたはオルガノイドが、メッシュ構造の内側に捕捉される。
【0061】
したがって、ある実施形態では、細胞は重量によりチューブを通って、免疫防護型の植込み可能な細胞送達デバイスの内部空間に移動する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】作製されたPVDFおよびPVDF/PVPメンブレンの表面モルフォロジーおよび断面の代表的SEM像。200μmでキャストした15%(w/w)PVDFメンブレン(A~C)および200μmでキャストした15%(w/w)PVDF+5%(w/w)PVDFメンブレン(D~F)。(A~F)ガラス側、倍率5,000倍および25,000倍(A、D)、空気側、倍率5,000倍および25,000倍(B、E)、ならびに断面(C、F)の図。A、B、DおよびEにおいてスケールバーは4μmを表す。CおよびFにおいてスケールバーは50μmを表す。(G)SEM断面から測定された、作製されたメンブレンの厚さ。(H)空気ばく露部位で測定された、作製されたメンブレンの細孔直径。データは平均±SDとして表されている(n=3)。
*P<0.05、t検定による。
【
図2】作製されたPVDF単体メンブレンおよびPVDF/PVPメンブレンの物理的性質。(A)作製されたメンブレンの両側からの水接触角。データは平均±SDとして表されている(n=9)。
*P<0.05、スチューデントt検定による。(B)作製されたメンブレンの水接触角測定の代表的画像。(C~F)ヤング率(C)、ピーク応力(D)、破断ひずみI、および破断応力(F)によって特徴づけられる、作製されたメンブレンの機械的性質。データは平均±SDとして表されている(n=5)。
*P<0.05、スチューデントt検定による。
【
図3】作製されたPVDF単体メンブレンおよびPVDF/PVPメンブレンの間接的細胞毒性試験および化学組成。(A)MTTアッセイ中にさまざまなばく露媒体と接触させたINS-1E細胞の代謝活性のレベル。データは平均±SDとして表されている(N=3)。
*P<0.05、一元配置ANOVA。(B)さまざまなばく露媒体と接触させたINS-1E細胞のLDH放出の測定。データは平均±SDとして表されている(N=3)。
*P<0.05、一元配置ANOVA。(C)作製されたメンブレンのFTIRスペクトル。約1660cm-1の緑色の線はPVDF/PVPメンブレン中に存在するC=Oピークを示す。約1400および約1180cm-1のそれぞれ赤色および黒色の線は、PVDF基本構造中に存在するCH2およびCF2に対応する。
【
図4】2チャンバー拡散装置(A~J)または組み立てられたデバイス(K~L)における、作製されたPVDF単体メンブレンおよびPVDF/PVPメンブレン越しのさまざまな分子の拡散特性。(A~C)200分にわたる2mg/mLの3~5kDa蛍光標識デキストランビーズの拡散(A)、その流束計算値(B)および拡散係数(C)。データは平均±STDとして表されている(n=5)。
*P<0.05、スチューデントt検定による。(D~F)200分にわたる20mMのD-グルコースの拡散(D)、そのflI計算値(E)および拡散係数(F)。データは平均±STDとして表されている(n=5)。
*P<0.05、スチューデントt検定による。(G~I)計24時間後のパーセンテージとしてのFITC標識インスリンの拡散、その流束計算値(H)および拡散係数(I)。データは平均±STDとして表されている(n=5)。
*P<0.05、スチューデントt検定による。(J)計3時間後のパーセンテージとしてのIgGの拡散。データは平均±STDとして表されている(n=4)。(K~L)21%酸素から5%酸素への酸素の拡散(K)および酸素拡散の曲線下面積(AUC)(L)。データは平均±STDとして表されている(N=3)。
【
図5】作製されたメンブレンPVDFおよびPVDF/PVPの免疫防護特性(A)さまざまな多孔性トランスウェルインサート(0.4、1、3および8μmの細孔)または作製されたメンブレンの上に播種された固定ヒト初代マクロファージの代表的SEM像。細孔を通って遊走することができた細胞を代表的下部像に見ることができる。どの画像においてもスケールバーは10μmを表す。(B)24ウェルプレートの下部上の遊走したヒト初代マクロファージの定量。データは平均±STDとして表されている(N=3)。(C)24時間後の3μmおよび8μmトランスウェルのウェルプレート下部の代表的光学顕微鏡像。スケールバーは200μmを表す。
【
図6】デバイス作製および島播種の略図。(A)デバイスの3層、2つのメンブレンシート(明灰色)および中間の支持リング(暗灰色)。(B)デバイスの3層を超音波溶着で封止する。(C)播種用インレットを持つ組み立てられたデバイス。(D)播種用インレットを通した島の播種。(E)播種用インレットをヒートシールで閉じる。(F)細胞が装填されたデバイスの培養。
【
図7】封入デバイスの作製と試験。(A)封入デバイスの組立ての略図。(B)組み立てられた封入デバイス。(C)組み立てられた封入デバイスの取り扱い。漏出に関するデバイス試験のカメラ画像(D~E)。(D)漏出が起こらないデバイスと、漏出が起こるデバイス(leakinlevice)(E)。ヒートシールおよび超音波溶着シールの機械的性質(F~G)。シールの(F)破断応力および(G)破断ひずみ。データは平均±stdとして表されている(n=5)。
*P<0.05、スチューデントt検定による。
【
図8】免疫防護デバイスの内側で培養されたヒト島。(A)8日間の培養後の封入デバイスの内側のヒト島の代表的画像。赤色チャンネルは死細胞を表し、緑色チャンネルは生細胞を表す。スケールバーはすべての写真において200μmを表す。(B)封入デバイスの内側での、または対照としてのデバイスなしでの、8日間の培養後のヒト島生存率の定量。データは平均±STDとして表されている(N=3)。(C)総インスリンに対して正規化された、デバイスの内側で8日間培養した後のGSIS時のヒト島のインスリン放出プロファイル。
*P<0.05、一元配置ANOVAによる。(D)8日目の刺激指数。データは平均±SEMとして表されている(N=3)。
*P<0.05、クラスカル・ウォリス検定による。
【
図9】さまざまなメッシュサイズの模式的概観。この図は、さまざまなメッシュサイズを模式的に描いている。表示したマイクロメートル単位のサイズは島細胞の場合の目安であり、他の細胞タイプまたはオルガノイドには異なるサイズのメッシュが必要になるだろう。メッシュが小さすぎて(左)細胞が依然としてクラスターを形成しうる状況、細胞が互いに隔離されている理想的なメッシュサイズ(中央)、またはメッシュが大きすぎて(右)、細胞がメッシュから落ちて、やはりクラスターを形成しうる状況(上段:平面図、下段:断面図)が、模式的に描かれている。
【
図10】デバイスの模式的断面。上部および下部メンブレン、メッシュおよびメッシュ上に包埋されたデバイス内側の細胞が描かれている。さらに、支持構造物(この場合は支持リング)が示されている。
【
図11】積み上げられたデバイスの断面を示している。互いに積み重ねられ、栄養素の拡散が可能になるように追加の支持構造物によって分離された、2つのデバイスが描かれている。
【
図12】メッシュ上で培養された島細胞は凝集しない。組織培養ディッシュにおいて、メッシュなしで(左)またはメッシュと共に(右)、培地中で培養された膵島細胞。
【
図13】メッシュ上で培養された島細胞は凝集しない。本明細書記載の植込みデバイスの内側において、メッシュなしで(左)またはメッシュと共に(右)、培養された膵島細胞。
【
図14】デバイス内でhMSC細胞クラスターを培養することができる。本明細書記載のデバイスの外側または内側で培養されたhMSC細胞のクラスターを図示している。図示されているのは染色(示されていない)によって決定された生存細胞クラスターである。
【
図15】デバイス内でアルファ-TC細胞クラスターを培養することができる。本明細書記載のデバイスの外側または内側で培養されたアルファ-TC細胞のクラスターを図示している。図示されているのは染色(示されていない)によって決定された生存細胞クラスターである。
【
図16】メッシュ(孔径400μm)を持つデバイスおよびメッシュを持たないデバイスの内側へのヒト島の播種。 上段は、細胞を播種した後の、メッシュを持たない(左)またはメッシュを持つ(右)デバイスの全体像の写真である。孔径400μmのデバイスを使用した。下段の写真は個々の細胞クラスターを示す拡大像である。
【
図17】約50μmメッシュを持つデバイスへのベータ細胞凝集体の播種。 左の写真は、細胞を播種した後の、50μmメッシュを持つデバイスの全体像である。右は、個々の細胞クラスターを示す拡大像である。
【
図18】80μmの細孔を持つメッシュの上への疑似島の播種。 A)メッシュを持たないデバイスに、2つの異なる濃度(左:2mLにつき1000クラスター、右:1.5mL中に3000クラスター)で播種した後、4日間成長させた細胞を図示している。B)80μmメッシュを持つデバイスに、4つの異なる濃度(左から右に向かって、1mLにつき1000クラスター、2mLにつき1000クラスター、5mLにつき1000クラスター、および1.5mL中に3000クラスター)で播種した後、4日間成長させた細胞を図示している。写真はメッシュの下側(上段)およびメッシュの上(下段)から撮られている。
【実施例】
【0063】
実施例1
材料および方法
多孔性メンブレンの作製
15%(w/w)ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(Kynar720、Foster、ドイツ)をN,N-ジメチルアセトアミン(DMA)(Sigma-Aldrich、オランダ)に溶解することによってキャスティング溶液を作り、ポリビニルピロリドン(PVP)含有メンブレンの場合は、5%(w/w)PVP(40kDa)(Kollidon(登録商標)30、BTC、オランダ)を加えた。気泡のない均一な溶液が得られるまで、溶液をローラーバンク上、室温(RT)で、一晩混合した。次に、200μmキャスティングナイフを装着した自動フィルム塗布装置(Elcometer、オランダ)を使って、溶液をガラス板上にキャストし(RT、相対湿度<30%において)、その後ただちに、そのガラス板を凝固浴(RTの蒸留水)に直接浸漬した。その凝固浴からメンブレンを収集し、ティッシュペーパーに挟んで2日間乾燥させてから使用した。
【0064】
走査型電子顕微鏡(SEM)
カーボンテープを使ってメンブレン試料を金属走査型電子顕微鏡スタブ上に固定し、Cressingtonスパッタコーター(Cressington 108 auto、英国)を使って金コーティングした。イメージングに先立ち、メンブレンを液体窒素に浸漬してから、各試料を半分に割ることによって、メンブレンの断面を作った。電子顕微鏡像は、高真空下で走査型電子顕微鏡(SEM)(Teneo、FEI、オランダ)を使用し、ETD検出による二次電子モード、作動距離10mmおよび加速電圧5.00kVを使って取得した。
【0065】
支持リングの作製
PVDFペレットを、金型(200μm厚、内製)に挟み、ホットプレス(Specac、英国)内で、180℃で1分間、予熱した。次に、20kNを適用してペレットを1分間軟化させることで、固形フィルムを作出した。最後に、金型をホットプレスから取り出し、RTで5分間冷却してから、鋳型から固形PVDFフィルムを取り外した。
【0066】
メンブレンの湿潤性
メンブレンをスライドガラス上に水平にマウントした。蒸留水(室温)4μLの小滴をメンブレンの表面に10μL/分の速度で供給し、高解像度画像を撮影した。液滴形状アナライザーを装備したDrop Shape Analysis4ソフトウェア(Kruss、Germany)を使用することによって、接触角を測定した。各メンブレンにつき9個の小滴の測定を行った。
【0067】
機械的引張試験
作製されたフィルムおよび封止方法の機械的引張特性を、機械的引張試験機(45kNロードセル、Electroforce3230-ESシリーズIII、英国)によって決定した。試験試料の寸法は35×10mmで、クランプ間の有効領域は15×10mmだった。ランプ速度は0.05mm/sとした。各条件を5回試験した。得られた応力-ひずみ曲線を使って、ピークひずみ、破断応力、破断ひずみおよびヤング率を算出した。異なるデバイス構成要素は、比較のために2つの異なる方法、すなわちフラットワイヤーインパルスシーラー(Durapak、米国)によるヒートシールおよび超音波溶着(LPX、Branson Ultrasonic、オランダ)を使って、互いにアニールした。次に、シールの強さを機械的張力で決定した。
【0068】
細胞培養
INS-1Eラットインスリノーマ細胞(Addexbio Technology、米国)は、10%(v/v)ウシ胎仔血清(FBS)(Sigma-Aldrich、オランダ)、10mM HEPES(Thermo Fisher Scientific、オランダ)、1mMピルビン酸ナトリウム(Thermo Fisher Scientific、オランダ)、5mMグルコース(Thermo Fisher Scientific、オランダ)、23.8mM重炭酸ナトリウム(Thermo Fisher Scientific、オランダ)および50mMベータ-メルカプトエタノール(Thermo Fisher Scientific、オランダ)を補足した、L-グルタミン(Sigma-Aldrich、オランダ)を含むロズウェルパーク記念研究所(RPMI)培地で培養した。P38~P43のINS-1Eを使用した。ヒト初代マクロファージ(Celprogen、米国)は、10%(v/v)FBS(Sigma-Aldrich、オランダ)を補足したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)高グルコース(Thermo Fisher Scientific、オランダ)で培養した。P6~P10のマクロファージを使用した。細胞はすべて37℃および5%CO2で培養した。
【0069】
ヒト島培養
ヒト島は、臨床目的でのヒト島の分離をオランダ政府から許可されているライデン大学医療センター(Leiden University Medical Centre:LUMC、オランダ)のHuman Islet Isolation Laboratoryによって提供された。臓器ドナー(男性2人、性別不明のドナー1人)の平均年齢は43±14歳だった。平均島純度は75±5%であった。島は、10%(v/v)FBS(Sigma-Aldrich、オランダ)、10mM HEPES(Thermo Fisher Scientific、オランダ)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific、オランダ)および10μg/mLシプロフロキサシン(Sigma-Aldrich、オランダ)を補足したCMRL-1066培地(Pan Biotech、ドイツ)で培養した。島は37℃および5%CO2で培養した。
【0070】
MTTアッセイ
3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)のホルマザンへの変換を測定することによって、細胞の代謝活性を評価した。この過程は代謝的に活性な細胞においてのみ起こる。試験材料をRPMI細胞培養培地(細胞培養の項参照)中で24時間培養することによって、抽出試料を生成させた。RPMI中の1%Triton X-100(VWR、オランダ)を陰性対照として使用した。一方、陽性対照としては、無処理の培地を使用する。INS-1E細胞を96ウェルプレートに5×105細胞/mLで播種し(100μL)、一晩インキュベートすることで、RPMI培地中に50%コンフルエントの単層を形成させた。24時間後に培地を取り除き、100μLの抽出試料を加え、一晩インキュベートした。24時間後に培地を、リン酸緩衝食塩水(PBS)(Sigma-Aldrich、オランダ)中の12mM MTT(Thermo Fisher Scientific、オランダ)溶液10μLを補足した100μLの新鮮な細胞培養培地に置き換えて、4時間インキュベートした。25μLを残して培地をすべて除去し、100μLのDMSO(VWR、オランダ)と混合し、37℃で10分間インキュベートした。吸光度は、CLARIOstarマイクロプレートリーダー(BMG Labtech、ドイツ)を使って540nmで測定した。細胞生存率は式1で算出した(OD540e=試験試料の抽出物の光学密度測定値、OD540b=ブランクの光学密度測定値)。
【0071】
【0072】
乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)細胞毒性アッセイ
細胞培養培地中のLDHレベルによる測定を行うことによって、細胞毒性を評価した。INS-1E細胞を96ウェルに5×105細胞/mLで播種し(100μL)、一晩インキュベートした。次に、10μLの抽出試料を加え(MTTアッセイ参照)、45分間インキュベートした。50μLの各試料を96ウェルプレートに移し、50μLの反応混合物(Pierce LDH,Thermo Fisher Scientific、オランダ)を加え、遮光下に、RTで30分間、インキュベートした。次に、50μLの停止溶液を加え、混合してから、CLARIOstarマイクロプレートリーダーで490nmおよび680nmにおける吸光度を測定した。細胞毒性は式2で算出した。
【0073】
【0074】
フーリエ変換赤外分光法(FTIR)
フーリエ変換赤外分光法(FTIR)(Nicolet iS50-FT-IR、Thermo Scientific、オランダ)を使って、作製されたメンブレンの化学組成を分析した。赤外スペクトルを400~4000cm-1の波長範囲で記録した。化学結合に関係するピークを特定するためにSpectraGryph(バージョン1.2.13、ドイツ)を使って結果を解析した。
【0075】
封入デバイスの組立て
メンブレンおよび支持リングを、カッティングマシン(Curio、Silhouette、オランダ)を使って、楕円形状(44×28mm)に裁断した。支持リングを2つのメンブレンシートの間に置き、特注鋳型(IDEE、オランダ)の内側において、超音波溶着(LPX、Branson Ultrasonic、オランダ)によってそれらをアニールすることにより、デバイスを作製した。組み立てられたデバイスを、気泡試験によって漏出について試験した。簡単に述べると、組み立てられたデバイスを、インレットからデバイス中に空気(約4L/分)を吹き込みながら、水に沈める。そして、デバイスから気泡が漏れているのが観察された場合は、漏出が検出されたことになる。
【0076】
メンブレンの拡散特性
メンブレンを70%エタノール中で2分間プリウェットし、次にエタノールを除去するために蒸留水で2分間洗浄した。ドナーチャンバーとレシーバーチャンバーを備えるインライン型平衡拡散セル(Sigma-Aldrich、オランダ)に、濡らしたメンブレンを入れた。ドナーチャンバーを、2mg/mL 3~5kDa FITC-デキストラン(Sigma-Aldrich、オランダ)、20mM D-グルコース溶液(Sigma-Aldrich、オランダ)もしくは0.5mg/mL FITC標識ヒトインスリン(Sigma-Aldrich、オランダ)を含有するPBS溶液、または1mg/mL IgG溶液(Sigma-Aldrich、オランダ)を含有するNaCl溶液(150mM)で満たした。レシーバーチャンバーは、デキストラン、グルコースもしくはインスリン拡散についてはPBSで、またIgG拡散については150mM NaClで満たした。両方のチャンバーから10μlの試料を、0、5、10、20、30、60、120、180分の時点で取り出し、インスリン拡散の場合は、1440分の時点で追加の試料を採取した。拡散したFITC-デキストランおよびFITC-インスリンの定量的分析は、CLARIOstarマイクロプレートリーダーを使った蛍光強度(励起波長および蛍光波長=480nmおよび530nm)に基づいて決定した。グルコースの量は、比色グルコースアッセイ(Bio-connect Diagnostic、オランダ)を製造者のプロトコールに従って使用することによって測定した。簡単に述べると、試料を収集し、PBSに希釈した。50μLのグルコース溶液を50μLの反応混合物と共に37℃で20分間インキュベートした。CLARIOstarマイクロプレートリーダー(励起波長=555nm)を使って吸光度を測定した。IgGの量は、IgG ELISA(Thermo Fisher Scientific、オランダ)で、製造者のプロトコールに従って測定した。特定時点において関心対象の分子がどのくらい多くメンブレン越しに拡散するかについての洞察を得るために、式3を使って流束値を算出した(Cレシーバー=レシーバーチャンバーにおける濃度、Vレシーバー=レシーバーチャンバーの体積、A=メンブレンの面積、t=時刻)。拡散係数は式4を使って算出した(ΔC=ドナーとレシーバーの間の濃度差、I=メンブレンの厚さ)。各条件を少なくとも4回は試験した。
【0077】
【0078】
【0079】
デバイスの内側における酸素拡散特性
デバイスに培地を充填する前に、組み立てられたデバイスを70%エタノールで2分間プリウェットし、次にエタノールを除去するために蒸留水で2分間洗浄した。デバイスに500μLのRPMI細胞培養培地を充填することによって、酸素拡散を測定した。培地が充填されたデバイスをヒートシールし、100mLの新鮮な細胞培養培地が入っている100mLビーカーの内側に置いた。次に、デバイスが入っているビーカーを、5%O2の加湿インキュベータに、37℃で置いた。デバイス内および外側の酸素濃度を、酸素計(OXY-10、Presen、ドイツ)に接続された較正済みニードル型酸素マイクロセンサ(NTH-PSt7、Presens、ドイツ)を使って、24時間にわたって記録した。酸素測定の継続中は常にデバイスを培地に沈んだ状態に保った。各条件、対照および両デバイスを、独立に3回試験した。
【0080】
メンブレンの免疫防護能
0.33cm2空トランスウェルインサート(Corning、オランダ)上にメンブレンをグルー(Bison、オランダ)およびO-リング(Erik、オランダ)でマウントした。グルーを一晩乾燥させた後、インサートを70%エタノールで滅菌した。ヒト初代マクロファージを、24ウェルプレート中の各インサートの上部コンパートメントに播種し(100μL中に100,000細胞)、600μLの培地を各ウェルに加えた。細胞を24時間培養した(37℃、5%CO2)。ノイバウエル血球計算盤を使って下部コンパートメントに遊走した細胞を手動で計数した。細胞の付着とメンブレン越しの浸潤を観察するために、メンブレンを、PBS中の3.6%ホルムアルデヒド(VWR、オランダ)で、RTにおいて30分間固定し、次に新鮮なPBSで複数回すすいでから、メンブレンをインサートから切り出した。試料をエタノール上昇系列(30、50、70、90、96、100および100%エタノール)(VWR、オランダ)でそれぞれ10分間脱水した。脱水試料を臨界点乾燥装置(Leica、オランダ)で処理した。次に、乾燥メンブレン試料を調製し、先に述べたように走査型電子顕微鏡を使って撮像した。
【0081】
封入デバイスへの島播種
70%エタノール中で一晩インキュベートすることによってデバイスを滅菌した後、滅菌PBSで洗浄した。デバイス中に島を播種する前に、デバイスを培地中で一晩インキュベートした(37℃、5%CO2)。培地500μL中の3,000ヒト島当量(islet equivalent:IEQ)を各デバイスの内側に播種した。対照試料については、12μm細胞培養インサート(Merck、オランダ)に30IEQを播種した。播種用インレットをヒートシール(Durapak、米国)で閉じた。デバイスを8日間培養し(37℃、5%CO2)、培地を1日おきに新しくした。
【0082】
ヒト島の生存率
生細胞と死細胞にそれぞれliveーdead蛍光色素、カルセインAMとエチジウムホモダイマー1(Thermo Fisher Scientific、オランダ)を使って、ヒト島の生存率を評価した。8日間の培養後に、デバイスを切開し、PBSでデバイスから島を流し出した。次に島を、2.5μMカルセインAMおよび4μMエチジウムホモダイマー1と共にPBS中で30分間インキュベートし(遮光下)、蛍光顕微鏡(Eclipse Ti-S倒立顕微鏡、Nikon、オランダ)で可視化した。生細胞の面積を細胞の総面積(生細胞および死細胞)で割ることによって生存百分率を定量した。
【0083】
グルコース刺激中のヒト島機能
デバイスの内側におけるヒト島のインスリン放出を評価するために、グルコース刺激インスリン分泌(GSIS)アッセイを行った。25mM HEPES(Sigma-Aldrich、オランダ)、115mM塩化ナトリウム(Sigma-Aldrich、オランダ)、26mM重炭酸ナトリウム(Sigma-Aldrich、オランダ)、5mM塩化カリウム(Sigma-Aldrich、オランダ)、1mM塩化マグネシウム二水和物(Sigma-Aldrich、オランダ)、25mM塩化カルシウム二水和物(Sigma-Aldrich、オランダ)を、2%ウシ血清アルブミン(BSA)(VWR、オランダ)と共に、MilliQに、pH7.3~7.5で溶解することによってクレブス緩衝液を調製し、滅菌濾過した。低グルコース溶液および高グルコース溶液は、クレブス緩衝液中に、それぞれ1.67および16.7mM D-グルコースを含有した。8日間の培養後に、デバイスおよび島を低グルコース溶液中で3回洗浄し、次に低グルコース中で1時間プレインキュベートした(37℃、5%CO2)。次に、デバイスおよび島を低-高-低グルコース溶液にそれぞれ1時間ばく露し(37℃、5%CO2)、その後、上清を収集して、分析を行うまで-30℃で保存した。高グルコースばく露後はデバイスおよび島を低グルコース溶液で3回洗浄した。最後のインキュベーション工程後にデバイスを開き、細胞の内側のインスリンをすべて放出させるために、島を酸エタノールにばく露した。インスリン分泌は、ヒトインスリンELISAキット(Mercodia、スウェーデン、またはSanbio、オランダ)により、製造者のプロトコールに従って決定した。グルコース刺激指数は、高グルコース溶液におけるインスリン分泌を低グルコース溶液における基礎インスリン分泌で割ることによって算出した。
【0084】
データ解析
結果は、別段の指定がある場合を除き、平均±標準偏差(STD)として表す。実験は、指定がない限り、3重に行った。各実験では、1実験条件あたり3つの試料を採取した。統計解析はGraphPad Prism9(GraphPad Software、米国)を使って行った。2つの群間の統計的差異は、対応のないスチューデントのt検定を使って行い、複数の群間では、クラスカル・ウォリス検定、または一元配置ANOVA検定と多重比較を使って行った。p<0.05である場合に統計的に有意とみなした。
【0085】
結果
メンブレンの製作および物理化学的特徴づけ
溶媒/非溶媒キャスティング法を使って、15%(w/w)PVDF+5%(w/w)PVP(PVDF/PVP)溶液および15%(w/w)PVDF(PVDF単体)溶液をガラス板上にキャストすることにより、薄い多孔性メンブレンを作った。PVP有りおよびPVP無しのPVDFメンブレンの表面はどちらも、滑らかで一様な外観を有する。メンブレンのガラス側(
図1Aおよび
図1D)にはメンブレンの空気側(
図1Bおよび
図1E)と比較して大きな細孔が観察された。PVDF/PVPメンブレンにおけるガラス側の細孔は、0.51±0.15μmの平均直径を有し、一方、PVDFメンブレンにおけるガラス側の細孔は0.25±0.12μmの平均直径を有した(データ省略)。PVPの存在は空気ばく露側(
図1Bおよび
図1E)の孔径を増加させ、PVDF単体メンブレン(51±2nm)と比べて、平均直径は113±4nmと2倍以上に増加した(
図1H)。PVDF単体メンブレンの断面は、PVDF/PVPメンブレン(137±19μm)と比べて、密であり、薄かった(45±4μm)(
図1C、
図1F、
図1G)。
【0086】
作製されたメンブレンの親水性/疎水性を決定するために、静的固着液滴法によって接触角測定を行った。ガラスばく露側(どちらもおよそxx(both approximately xx))とは異なり、PVDF/PVPメンブレンの空気ばく露側の表面湿潤性は、PVDFメンブレンと比較して有意に低かった(80±3°対99±4°;
図2Aおよび
図2B)。
【0087】
作製されたメンブレンの機械的性質を機械的引張試験で決定した。ヤング率測定((PVDF/PVPでは0.32±0.04MPa、PVDF単体では0.87±0.11MPa;
図2C)およびピーク応力測定(PVDF/PVPでは0.97±0.03MPa、PVDF単体では4.95±0.16MPa;
図2D)で決定した場合、PVDF/PVPメンブレンは、PVDFメンブレンと比べて有意に低い機械的強度を示した。さらにまた、破断ひずみ(
図2E)および破断応力(
図2F)はどちらも、PVDF/PVPメンブレンでは、PVDF単体メンブレンと比べて有意に低かった:それぞれ0.92±0.06MPa対4.78±0.07MPaおよび11±1%対84±8%(:0.92 ± 0.06 MPa v. 4.78 ± 0.07 MPa and 11 ± 1% v. 84 ± 8%, respectively)。
【0088】
メンブレンの細胞毒性
作製されたPVDFメンブレンおよび支持リングのINS-1E細胞に対する細胞毒性を決定するために、LDHアッセイおよびMTTアッセイを行った。細胞生存率は、PVDF/PVPメンブレンでは、PVDF単体メンブレンと比べて、わずかに、ただし有意に低かった(92±8対106±9%;
図4A)。どちらのメンブレンも陽性対照と比べて細胞毒性に有意差は示さなかった(PVDFメンブレンおよびPVDF/PVPメンブレンについてそれぞれ-7±15と10±14%;
図4B)。PVPは水溶性であるが、残存する潜在的に細胞毒性のPVP粒子が、メンブレン製作後も残っていて、それが細胞毒性測定に影響を及ぼしたのかもしれない。そこで、FTIR分析を行って、PVP残渣がまだ存在するかどうかを決定した(
図3C)。PVDF単体メンブレンでは、PVDFの基本構造中に存在するCH
2伸縮基とCF
2伸縮基に対応する約1400cm
-1と約1180cm
-1にピークが存在した。PVDF/PVPでは、PVP中に存在するC=O基に対応する約1660cm
-1に、追加のピークが観察された(
図3C中の緑色の点線)。
【0089】
膜越しの低分子の拡散
メンブレンを横切るさまざまな分子の輸送についての洞察を得るために、本発明者らは、4種類の分子、すなわちデキストラン、グルコース、インスリン、およびIgGについて試験した。メンブレンを2つのチャンバー、すなわちドナーチャンバーとレシーバーチャンバーの間に置いた。所定の時点において各チャンバーでさまざまな分子の濃度測定を行うことで、拡散動態を算出した。PVDF/PVP越しのデキストラン(3~5kDa)の拡散は、PVDFメンブレンの場合より、ほぼ3倍高く(
図4A)、算出された流束および拡散係数は有意に高かった(
図4Bおよび
図4C)。同様に、グルコース分子も、PVDF/PVPメンブレン越しに、より速く拡散し、3時間後には平衡(2つのチャンバーで等しい)に達したのに対し、PVDFメンブレン越しに拡散するグルコースは同じ時点で30%に過ぎなかった(
図4D)。この観察結果は、PVDF/PVPメンブレンでのグルコース流束10*10
-4g・m
-2秒
-1および拡散係数4.0*10
-7cm
2s
-1が、PVDF単体の場合(それぞれ4*10
-4g・m
-2秒
-1および1.1*10
-7cm
2s
-1)と比べて有意に高いことによって裏付けられた(
図4Eおよび
図4F)。グルコースはメンブレンには吸収されなかった。グルコースの総濃度は経時的に変化しなかったからである。FITC標識インスリンは、PVDF/PVPメンブレンでは、24時間後には47±2%のインスリンが拡散して平衡に達した。一方、これに比して、PVDFメンブレンでは、同じ時点で28±5%が拡散していた(
図4G)。このインスリン拡散能は、PVDF/PVPメンブレンでの流束1.91*10
-5g・m
-2秒
-1および拡散係数1.31*10
-8cm
2s
-1が、PVDFメンブレンの場合(それぞれ0.35*10
-5g・m
-2秒
-1および0.08*10
-8cm
2s
-1)と比べて有意に高いことによって裏付けられた(
図4Hおよび
図4I)。IgGについては、1.6±0.7%だけがPVDF/PVPメンブレンを透過したが、PVDF単体メンブレンのレシーバーチャンバーでは検出されず、拡散は起こらないことが示唆された(
図4J)。
【0090】
自由溶液(細胞培養培地)における酸素の輸送は、曲線下面積が同等であったので、PVDFに基づくメンブレンデバイスとPVDF/PVPに基づくメンブレンデバイスのどちらと比べても、有意に相違しなかった(
図4Kおよび
図4L)。
【0091】
PVDFメンブレンの免疫防護機能
作製されたメンブレン(PVDFおよびPVDF/PVP)の免疫防護特性を評価するために、本発明者らは、特定のメンブレンで固定されたトランスウェルインサートの上部から下部へのマクロファージの遊走を評価した。SEM像で示されるように(
図5A)、PVDFおよびPVDF/PVPメンブレンならびに0.4μmの細孔を持つものの下部側では、マクロファージが検出されなかった。3および8μmの細孔を持つメンブレンの下部側ではマクロファージが検出された。ただし、8μmの細孔の場合にのみ、マクロファージは下部ウェルに完全に遊走することができた(
図5Bおよび
図5C)。ヒトマクロファージの核は1μmの細孔を通って遊走することができなかったが、それらの細孔は、細胞外環境を感知する細胞アンテナである糸状仮足の移動を可能とするには十分な大きさだった(
図5A)。
【0092】
免疫防護封入デバイスの組立て
封入デバイスを組み立てるために、
図6Aに図解するように、2枚のメンブレンシートを、その間に支持リングを使って、高周波超音波溶着またはヒートシールで互いに溶着した。小さな一部分は、デバイス中に細胞を装填するためのインレットとして役立つように、溶着しなかった(
図6D)。各デバイスを加圧気泡試験で漏出について検査した。溶着欠陥は、気泡の漏れを目視検査することによって検出した(補足
図4D(Supplementary figure 4D))。溶着欠陥を持つデバイスはその後の実験には使用しなかった。
【0093】
封入デバイスの内側におけるヒト島の生存率および機能
ヒト島を閉じた免疫防護デバイスの内側で8日間培養することで、それらの生存率と島機能とを、それぞれlive-dead染色およびGSISアッセイを使って評価した。対照と比較して、PVDFデバイスおよびPVDF/PVPデバイスの内側で培養された島の間で、生存率に有意差は観察されなかった(
図8Aおよび
図8B)。PVDF/PVP封入デバイスの内側での8日間の培養後に92±4%のヒト島が生存可能であった。対照条件では、島がグルコースレベルの変化に応答して、8日間後に高グルコース条件下でのインスリン放出を増加させ、刺激指数は2.3±0.4だった(
図8Cおよび
図8D)。高グルコース条件時のインスリン分泌の増加が、PVDF/PVPデバイスにおいて観察された(
図8C)。PVDF/PVPデバイスの刺激指数はPVDFデバイスの刺激指数より有意に高く、それぞれ3.2±0.7と1.3±0.2だった(
図8D)。
【0094】
実施例2
より良い細胞分布のためのメッシュ(80um)の使用
膵臓ベータ細胞クラスターをメッシュの存在下または非存在下で成長させた。メッシュがない条件では、すべての細胞凝集体が互いに近接しあい、培養期間を延ばすと、それがさらなる細胞凝集体をもたらすことを観察することができる。メッシュがある条件では、細胞凝集体がより分散していることを観察することができる。これは、培養期間を延ばしたときに、細胞凝集体が集まってクラスター形成することを防止するためだろう。メッシュはクラスター形成を防ぐために細胞の分布を強化すると結論する。結果を
図12に図示する。画像は同じ倍率で作成され、同じ濃度の凝集体が同じ培養面積に播種された。
【0095】
封入デバイスにおける試験
閉じた封入デバイスの内側に置いた場合のメッシュの効果は、ペトリ皿実験(上記参照)と比較して、類似する結果をもたらす。メッシュを持たないデバイスでは、細胞凝集体が互いに近接する(円参照)。メッシュを持つデバイスでは、細胞クラスターがデバイスの内側により均等に分布し、クラスター形成は少ない。メッシュの使用は、デバイスの内側でのより良い細胞凝集体分布にとって有益であることができると結論する。結果を
図13に図示する。画像は同じ倍率で作成され、同じ濃度の凝集体が同じ培養面積に播種された。
【0096】
閉じた封入デバイスの内側での7日間の培養後の細胞クラスターの生存率
クラスターを形成した細胞(アルファ-TC細胞およびhMSC)はどちらも、閉じた封入デバイスの内側での7日間の培養後に、生存可能なままだった。生存率レベルは、封入デバイスの内側で培養されなかった細胞凝集体と同等だった。封入デバイスは、ランゲルハンス島を生きた状態に保つのに役立ちうるだけでなく、さまざまな細胞タイプを閉じた封入デバイスの内側で細胞クラスターの生存率に影響を及ぼすことなく培養することが可能であると、結論することができる。結果を
図14および
図15に図示する。
【0097】
実施例3-さまざまなメッシュサイズ
参照実験1
目標:デバイスの内側での島の分布を観察する。
方法:
同等サイズのデバイスをメッシュありおよびメッシュなしで作った。使用したメッシュは400μmの細孔直径を有した。メッシュを、1つのメンブレンシートと支持構造物の間に置いた。およそ3,000島当量(islet equivalence:IEQ)を500μLの液量で、デバイス中に播種した。メッシュが入っているデバイスの場合:島細胞をメッシュの上に(島がメッシュの内側に捕捉された状態になりうるように)播種した。
観察:デバイスおよび細胞を
図16に図示する。
結論:デバイスの内側におけるこのメッシュの存在が島の分布を助けることはなかった。これは、拡大像に図示されているように、メッシュ構造が非常に開いていて、島が開口部から落ち、島が保持されることがないからである。
【0098】
参照実験2
目標:約50μmメッシュを内側に持つ透明なデバイスを作製する。目的は、メッシュが、デバイスに播種された疑似島の凝集塊形成を防ぐのに役立つかどうか、および細孔は、疑似島が細孔から落ちるのを防止できるほど十分に小さいかどうかを検証することである。
方法:約50μmメッシュを使って2つのデバイスを作った。メッシュを、1つのメンブレンシートと支持構造物の間に置いた。およそ2,500個の疑似島を500μLの液量で、デバイス中に播種した。メッシュが入っているデバイスの場合:島細胞をメッシュの上に(島がメッシュの内側に捕捉された状態になりうるように)播種した。
観察結果:デバイスおよび細胞を
図17に図示する。播種された疑似島はこの細孔からは落ちなかった。疑似島は表面上に均一には分布していなかった。
結論:播種された疑似島はメッシュから落ちなかった;これはおそらく、細孔直径が播種された疑似島の直径より小さかったからだろう。疑似島の分布は、メッシュがないデバイスと比較すると、メッシュがあるデバイスの方が良好だった。しかし、疑似島は互いに近接して定着する傾向があり、この細孔の内側には捕捉されなかった。したがって、互いに離れた状態を保ったのは、播種された細胞のうちの一部だけだった。より良い分布のためには、これよりわずかに大きい細孔が必要である。
【0099】
実験3
目標:80μmメッシュを使ってウェルプレートにおける疑似島分布を評価し、浮遊対照と比較する。
【0100】
パート1:
方法:メッシュ(80μmの細孔)を6ウェルプレートに入れた。80μmの細孔を持つメッシュの上の疑似島の上に疑似島を播種する(Seed pseudo-islets on top of pseudo-islets on top of a mesh with 80 μm pores.)。疑似島はおよそ150μmの直径を有する。備考:組織で処理していない6ウェルプレート(non tissue treated 6 well plates)を対照として使用した。
播種密度:
・C1:2mL中に1,000個の凝集体
・C2:2mL中に3,000個の凝集体
・M1:1mL中に1,000個の凝集体
・M2:2mL中に1,000個の凝集体
・M3:5mL中に1,000個の凝集体
・M4:1.5mL中に3,000個の凝集体
結果:対照における凝集体は自由に移動することができ、中央に集まろうとする。メッシュが存在すると、凝集体の一部はメッシュ構造の内側に捕捉され、凝集体の一部は依然として浮遊している。体積が大きいほどより多くの凝集体が浮遊して、メッシュ上のいくつかの領域に集中する結果になる。
【0101】
パート2:4日間の培養後に、疑似島の生存能を可視化するためにlive/dead染色を行った。
観察および画像-結果を
図18に図示する。C1:多少大きなクラスターが見られ、それらは浮遊していた。クラスターの一部はウェルプレートに付着した。C2:クラスターの大半は浮遊しており、ウェルプレートに付着しなかった。生存率はわずかに低かった。クラスターはC1ほど丸くはなかった。M1:クラスターの大半はメッシュに付着し、分散した。メッシュの下に移動した凝集体はほんのわずかだった。M2:クラスターの一部がメッシュの下に移動し、凝集し始めた。しかし、それらの大半は依然としてメッシュの上にあり、メッシュに付着して、メッシュによって分離されていた。M3:比較的多量のクラスターがメッシュの下に移動し、凝集し始めたが、大きなクラスターは形成されなかった。メッシュ上のクラスターは互いに離れた状態のままである。M4:比較的多量のクラスターがメッシュの下に移動し、凝集し始めたが、大きなクラスターは形成されなかった。メッシュ上のクラスターは互いに離れた状態のままである。
結論:対照条件では疑似島が4日間の培養期間で合体し、その結果、大きなクラスターが形成された(C1およびC2)。メッシュ条件では疑似島がその場にとどまり、大きなクラスターを形成しなかった。生存率は高いままだったので、メッシュは封入された疑似島の生存率に影響しなかった。したがってメッシュは、疑似島を互いに離れた状態に保つことにおいて、正の効果を示した。
【0102】
本実施例における実験から、メッシュサイズは400μm未満、例えば350、300、250、200もしくは150μm、またはそれ未満であることが好ましいと結論することができる。さらに、メッシュサイズは、50μm超、例えば60、70、75もしくは80μm、またはそれ以上であることが好ましいと結論することができる。
【国際調査報告】