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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】アノード電極のための新規複合体
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/00 20170101AFI20241226BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241226BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241226BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20241226BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241226BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20241226BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20241226BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20241226BHJP
【FI】
C01B32/00
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/134
H01M4/62 Z
H01M4/66 A
H01M4/587
H01M4/36 E
H01M4/1395
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538445
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-08-20
(86)【国際出願番号】 US2022082271
(87)【国際公開番号】W WO2023122748
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】63/293,442
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514082756
【氏名又は名称】ワンディー マテリアル、 インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】OneD Material, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】イミン・ジュ
(72)【発明者】
【氏名】チュンシェン・ドゥ
(72)【発明者】
【氏名】ゼナン・ユ
【テーマコード(参考)】
4G146
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AA17
4G146AB01
4G146AC02A
4G146AC02B
4G146AD23
4G146AD25
4G146BA02
4G146BA23
4G146BB10
4G146CB09
4G146CB10
4G146CB12
4G146CB19
4G146CB23
4G146CB35
5H017AA03
5H017DD05
5H017EE01
5H017EE06
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB29
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA10
5H050EA23
5H050EA24
5H050FA16
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA10
5H050HA01
(57)【要約】
電池のアノード電極に使用するための新規複合体を記載する。新規複合体は、上にポリマーが配置された、炭素系基材に付着したケイ素系ナノ構造体を含み、ポリマーは、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含む。複合体によって、不活物質の活物質に対する比が低く、湿式と乾式との両方のアノードコーティング技法による、改善された加工性を有する、アノード電極を調製することができる。複合体を含むアノード電極は、改善された一様性を有し、サイクル動作中の体積変化をより吸収する傾向にある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体を含む複合体であって、前記の複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材が、その上に配置されたポリマーを有し、前記ポリマーが、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含む、複合体。
【請求項2】
ポリマーが200℃未満の軟化点を有する、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
ポリマーが水に不溶性である、請求項1に記載の複合体。
【請求項4】
ポリマーがアルコールに可溶性である、請求項1に記載の複合体。
【請求項5】
アルコールがエタノールを含む、請求項4に記載の複合体。
【請求項6】
ポリマーがポリ(スチレン-co-アリルアルコール)である、請求項1に記載の複合体。
【請求項7】
ポリマーが、少なくとも25mol%の、アリルアルコールから形成されるモノマー単位を含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項8】
0.1質量%~10質量%のポリマーを含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項9】
0.5質量%~5質量%のポリマーを含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項10】
複数のケイ素系ナノ構造体が、ケイ素ナノワイヤ、ケイ素ナノ粒子、又はこれらの組合せである、請求項1に記載の複合体。
【請求項11】
複数のケイ素系ナノ構造体がケイ素ナノワイヤである、請求項1に記載の複合体。
【請求項12】
ケイ素ナノワイヤが、10nm~200nmの範囲内の直径を有する、請求項10に記載の複合体。
【請求項13】
複数のケイ素系ナノ構造体が、単結晶性コアとシェル層とを含み、シェル層が、非晶質ケイ素、多結晶性ケイ素、又はこれらの組合せを含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項14】
少なくとも90質量%の、炭素系基材に付着したケイ素系ナノ構造体を含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項15】
少なくとも95質量%の、炭素系基材に付着したケイ素系ナノ構造体を含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項16】
炭素系基材が炭素系粉末である、請求項1に記載の複合体。
【請求項17】
炭素系粉末が、5μm~50μmのD50を有する、請求項15に記載の複合体。
【請求項18】
炭素系基材が、グラファイト粉末、メソカーボンマイクロビーズ粉末、又はこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の複合体。
【請求項19】
炭素系基材がグラファイト粉末である、請求項1に記載の複合体。
【請求項20】
炭素系基材がグラファイト粉末であり、グラファイト粉末が、複数のグラファイト粒子を含み、各粒子が、その中に配置された複数の細孔を備え、ここで、ケイ素系ナノ構造体が、前記細孔を画定する表面に付着している、請求項1に記載の複合体。
【請求項21】
炭素系基材が、非コーティング天然グラファイト粒子を含むグラファイト粉末である、請求項1に記載の複合体。
【請求項22】
炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体が、1質量%~40質量%のケイ素を含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項23】
炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体が、2.5質量%~25質量%のケイ素を含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項24】
炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体が、5質量%~15質量%のケイ素を含む、請求項23に記載の複合体。
【請求項25】
複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材が、導電性炭素コーティングを更に含み、ここで、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーが、導電性炭素コーティング上に配置されている、請求項1に記載の複合体。
【請求項26】
導電性炭素コーティングが、炭化されたPSAAを含む、請求項25に記載の複合体。
【請求項27】
導電性炭素コーティングが、複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の上の内部コーティング層として提供されており、かつ、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーが、複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の上の外部コーティング層として提供されている、請求項26に記載の複合体。
【請求項28】
複合体を調製するための方法であって、
炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体と、
スチレン及びアリルアルコールから形成されたモノマー単位を含むポリマーの溶液と
を混合する工程、及び
前記の混合から得られる混合物を乾燥させる工程と
を含む、方法。
【請求項29】
ポリマーの溶液が、ポリマーとアルコール溶媒とを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
アルコール溶媒がエタノールを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
ポリマーの溶液が水を含まない、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
溶液が、0.05質量%~10質量%のポリマーを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項33】
溶液が、0.1質量%~3質量%のポリマーを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項34】
溶液が、(例えば0.5質量%~1.5質量%の)ポリマーを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
乾燥させる工程が、周囲圧力又は減圧(例えば真空下)において、20℃~150℃の温度で実施される、請求項27に記載の方法。
【請求項36】
乾燥させる工程が真空下で実施される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
乾燥させる工程が、30℃~130℃の温度で実施される、請求項27に記載の方法。
【請求項38】
乾燥させる工程が、不活性ガス下で実施される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
乾燥させる工程が、窒素下で実施される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体が、導電性炭素コーティングを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項41】
導電性炭素コーティングが、ケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の上に予備配置されたポリマー性コーティングを炭化させる工程によって形成される、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
ケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の上に予備配置されたポリマー性コーティングが、スチレン及びアリルアルコールから形成されたモノマー単位を含むポリマーである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
ケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の上に予備配置されたポリマー性コーティングを炭化させる工程が、200℃~750℃の温度において、ポリマー性コーティングがその上に予備配置されたケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材を加熱することを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
加熱が500℃~750℃の温度で実施される、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
加熱が不活性ガス下で実施される、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
加熱が窒素下で実施される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
第1のアノード層を含むアノード電極であって、第1のアノード層が、バインダ、及び炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体を含む複合体を含み、前記の複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材が、その上に配置されたポリマーを有し、前記ポリマーが、スチレン及びアリルアルコールから形成されたモノマー単位を含む、アノード電極。
【請求項48】
バインダが、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、ポリ(アクリルアミド-co-ジアリルジメチルアンモニウム)(PAADAA)、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、及びこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される、請求項47に記載のアノード電極。
【請求項49】
バインダが、スチレンブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)との混合物である、請求項47に記載のアノード電極。
【請求項50】
バインダが、30質量%~70質量%のブタジエンゴム(SBR)と、30質量%~70質量%のカルボキシメチルセルロース(CMC)とを含む、請求項49に記載のアノード電極。
【請求項51】
バインダがポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)である、請求項47に記載のアノード電極。
【請求項52】
第1のアノード層が、0.5質量%~10質量%のバインダを含む、請求項47に記載のアノード電極。
【請求項53】
第1のアノード層が、1質量%~6質量%のバインダを含む、請求項47に記載のアノード電極。
【請求項54】
第1のアノード層が、少なくとも90質量%の複合体を含む、請求項47に記載のアノード電極。
【請求項55】
第1のアノード層が導電性添加剤を更に含む、請求項47に記載のアノード電極。
【請求項56】
第1のアノード層が、0.2質量%~5質量%の導電性添加剤を含む、請求項55に記載のアノード電極。
【請求項57】
導電性添加剤が、カーボンブラック粒子、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、及びこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される、請求項55に記載のアノード電極。
【請求項58】
集電体を更に含む、請求項47に記載のアノード電極。
【請求項59】
集電体が、銅箔、又は炭素コーティングされた銅箔である、請求項58に記載のアノード電極。
【請求項60】
1つ又は複数の追加のアノード層を更に含み、各追加のアノード層が、独立して、活物質及びバインダを含む、請求項47に記載のアノード電極。
【請求項61】
第1のアノード層が、集電体と接触するように構成された(又は接触している)第1の表面、及び1つ又は複数の追加のアノード層と接触している第2の表面を含む、請求項60に記載のアノード電極。
【請求項62】
第1のアノード層が、集電体と接触している第1の表面を含む、請求項61に記載のアノード電極。
【請求項63】
第1のアノード層の第2の表面が、その上に配置された金属リチウムを含む、請求項61に記載のアノード電極。
【請求項64】
金属リチウムが、リチウム金属箔、安定化されたリチウム金属粉末、及びこれらの組合せから選択される、請求項63に記載のアノード電極。
【請求項65】
活物質が、グラファイト粉末、炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体、炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体を含む複合体(複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材は、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーが上に配置されている)、並びにこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される、請求項60に記載のアノード電極。
【請求項66】
1つ又は複数の追加のアノード層の少なくとも1つが、導電性添加剤を更に含み、導電性添加剤が、カーボンブラック粒子、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、及びこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される、請求項65に記載のアノード電極。
【請求項67】
アノード電極を調製するための方法であって、
炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体を含む複合体であって、前記の複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材が、その上に配置されたポリマーを有し、前記のポリマーが、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含む、複合体と、
バインダと
を混合して混合物を形成する、混合する工程、及び
前記混合物の層を適用する工程と
を含む、方法。
【請求項68】
前記の層が、集電体と接触状態となるように構成される、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記混合物が湿潤スラリーとして提供され、かつ、層を乾燥させる工程を更に含む、請求項67に記載の方法。
【請求項70】
前記混合物が固体として提供され、適用する工程が、固体混合物の層を形成する工程を含む、請求項67に記載の方法。
【請求項71】
前記の形成する工程が、押出又はカレンダー加工を含む、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
適用する工程が、前記混合物の層を集電体上に適用することを含む、請求項67に記載の方法。
【請求項73】
前記層上に1つ又は複数の追加のアノード層を適用することを更に含み、1つ又は複数の追加のアノード層が、各々独立に、活物質及びバインダを含む、請求項72に記載の方法。
【請求項74】
活物質が、グラファイト粉末、炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体、炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体を含む複合体(複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材は、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーが上に配置されている)、並びにこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
1つ又は複数の追加のアノード層の少なくとも1つが、導電性添加剤を更に含み、ここで、導電性添加剤が、カーボンブラック粒子、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、及びこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体を含む複合体を含む電池であって、前記の複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材が、その上に配置されたポリマーを有し、ここで、前記ポリマーが、スチレン及びアリルアルコールから形成されたモノマー単位を含む、電池。
【請求項77】
リチウムイオン電池である、請求項76に記載の電池。
【請求項78】
第1のアノード層を含むアノード電極を含む電池であって、前記第1のアノード層が、バインダ、及び炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体を含む複合体を含み、前記の複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材が、その上に配置されたポリマーを有し、ここで、前記ポリマーが、スチレン及びアリルアルコールから形成されたモノマー単位を含む、電池。
【請求項79】
リチウムイオン電池である、請求項78に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2021年12月23日に出願された、米国仮特許出願第63/293,442号の米国特許法119条(e)のもとでの利益を主張し、その内容は、参照によって全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
ここに記載する技術は、電池のアノード電極に使用するための複合体、並びに複合体を含むアノード電極及び電池(例えばリチウムイオン電池)、並びにこれらを調製するための方法に関する。特に、ここに記載する技術は、炭素系基材、例えば炭素系粉末に付着したケイ素系ナノ構造体を含む複合体に関する。
【背景技術】
【0003】
エネルギー貯蔵装置について、コストを低減すること及び性能を上昇させることに焦点を合わせた多大な努力がなされており、電気車両(EV)が広く採用されることに向けた目標は、この努力に大きな動機を与えてきた。性能向上のための新規アノード活物質(例えば、ケイ素-炭素アノード材料)の採用から、コスト低減のための新規セル製造方法の適用(例えば、乾式電極コーティング又はプレリチウム化)までにわたる戦略は、多くの者によって探求されており、ほとんどが、新たな材料と大規模生産方法とを組み合わせながら、同時にコストを低減するための困難なトレードオフによって無理やり行われ、不透明な結果を伴う。
【0004】
EVセル用の高エネルギー密度アノード電極の製造は、活物質、例えばケイ素及びグラファイトと、不活物質、例えば、バインダ及び導電性添加剤とを混合することを要する。不活物質は、アノードにおける可逆的なリチウム及び電子の貯蔵に寄与しないため、総質量を低減させながらEVセルのエネルギー密度を上昇させるために、不活物質の活物質に対する質量比を低減させる傾向にある。更に、グラファイトよりも高い比容量とわずかに高い電圧プラトーとを有するケイ素を、より多くアノードに組み込むことで、典型的には、アノード電極をより薄くし、より高速で充電することができる。しかしながら、リチウムイオンとケイ素との合金化に関係する体積変化(最大300%)は、リチウムイオンのグラファイトへのインターカレーションに関係する体積変化(典型的には10%未満)よりも遥かに大きい。これによって、アノード層の機械的及び電気的完全性と、集電箔への接着とを維持することができ、同時に、より多いケイ素アノード含有量を安全に可能にしながら、製造コストを低減することができるポリマーバインダの選択に、重大な問題が生じる。
【0005】
ケイ素系アノード電極のための水性電極製作における使用が認められる主要なバインダのいくつかは、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びポリアクリル酸(PAA)である。これらのバインダは、水に溶解性であり、高い機械的剛性及び硬さを与える。しかしながら、単独のバインダとして使用されるCMC及びPAAは、ケイ素-グラファイトアノード電極層においては高いバインダ含有量(例えば8質量%前後)を要し、これはアノードの剛性及び硬さを上昇させることがあり、電極巻回過程及び他の重要な生産過程に対する負の効果を有することがある。
【0006】
今日用いられている別の戦略は、可撓性、結合強度、接着及び凝集を改善する目的で、バインダとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)を使用することである。しかしながら、SBRは電極スラリー中で一様に分散させることが困難であり、電極性能に悪影響を及ぼすことがある。
【0007】
他の場合には、リチウムイオン電池のために利用可能なアノード材料として、ケイ素を発展させるための尽力は、典型的には、次のアプローチ:(a)少量の酸化ケイ素添加剤(例えば、xが1の値に近いSiOx)を、グラファイト粒子と混合すること、並びに/又は(b)ケイ素粒子を、非晶質炭素、ハードカーボン及び/若しくは熱分解ポリマーを含む炭素シェルに埋め込むこと、のうちの1つを対象としてきた。両アプローチにおいて、アノードは、アノード活物質をポリマーバインダと混合してスラリーをもたらし、次いで、これを使用してアノード層を銅集電箔上に形成することによって形成される。しかしながら、これらのアプローチは、いくつかの欠点を示す。例えば、アプローチ(a)による戦略は、技術的に複雑且つ相対的に高コストであり、ケイ素を少量のみ含有する配合物に限定されることを意味し、その結果、得られるアノードは90%未満の初回サイクル効率を呈し、したがって、補償するために高コストなカソード材料が必要である。アプローチ(b)による戦略は、ケイ素粒子を形成するためのケイ素前駆体と、シェルを形成するための炭素前駆体とを要する。アノードにおける、ケイ素前駆体の可逆的ケイ素容量への変換率が低いので、これらの炭素シェルを生成するためのコストは膨大である。更に、これら2つのアプローチによる戦略に関与する新たな材料及び粒子は、アノードスラリーのレオロジーに対して重大な効果を有することがあり、ひいては、アノードコーティングの均一性、アノード層内のケイ素分布の一様性、及びアノード層の集電箔への接着を損なうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第10,243,207号
【特許文献2】米国特許第9,812,699号
【特許文献3】米国特許第5,677,082号
【特許文献4】米国特許第6,303,266号
【特許文献5】米国特許第6,479,030号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の態様は、不活物質の活物質に対する比が低く、改善された加工性を提供し、スラリーの均一性及びアノード層におけるケイ素分布が上昇し、プレリチウム化過程を促進することができ、且つ/又は現在及び将来のセル生産設備を使用した、競争力のあるコストにおける大規模生産に好適な、改善されたケイ素系アノード材料を対象とする。
【0010】
第1の態様によれば、炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体を含む複合体であって、複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材が、その上に配置されたポリマーを有し、ポリマーが、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含む、複合体が提供される。
【0011】
第2の態様によれば、複合体を調製するための方法であって、炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体と、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーの溶液とを混合して混合物を形成する、混合する工程と、混合物を乾燥させる工程とを含む方法が提供される。
【0012】
第3の態様によれば、第2の態様の方法によって得た、直接的に得た、又は得られる複合体が提供される。
【0013】
第4の態様によれば、第1のアノード層を含むアノード電極であって、第1のアノード層が、バインダ及びここに記載する複合体を含む、アノード電極が提供される。
【0014】
第5の態様によれば、アノード電極を調製するための方法であって、ここに記載する複合体とバインダとを混合する工程と、その混合する工程から得られる混合物のアノード層を適用する工程とを含む、方法が提供される。
【0015】
第6の態様によれば、第5の態様の方法によって得た、直接的に得た、又は得られるアノード電極が提供される。
【0016】
第7の態様によれば、ここに記載する複合体及び/又はアノード電極を含む電池が提供される。
【0017】
上に列挙した開示、並びにその利点及び特徴を得ることができる方法を記載するために、添付図面に図示される具体例を参照することによって、上記原理のより特定的な記載を与える。これらの図は、本開示の例となる態様を描いているに過ぎず、そのため、その範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。これらの原理は、以下の図の使用を通じて、更に具体的且つ詳細に記載され、説明される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】本発明の態様に準拠した複合体における使用のための、非コーティング天然グラファイト(コーティングされていない天然グラファイト)の粒子の表面に付着したケイ素系ナノワイヤを示すSEM(走査型電子顕微鏡)画像を示す図である。
図1B】本発明の態様に準拠した複合体における使用のための、非コーティング天然グラファイトの粒子の一部を示すSEM画像を示す図である。グラファイト粒子における細孔の内壁表面、及びその上に付着したケイ素系ナノワイヤを示すために、粒子は、FIB(集束イオンビーム)切断法を使用して切断されている。
図1C】本発明の態様に準拠した複合体における使用のための、非コーティング天然グラファイトの粒子の一部を示すSEM画像を示す図である(1Cは、1Bの長方形部の拡大図である)。グラファイト粒子中の細孔の内壁表面、及びその上に付着したケイ素系ナノワイヤを示すために、粒子は、FIB(集束イオンビーム)切断法を使用して切断されている。
図2A】本発明の態様に準拠した、複合体を調製するための方法を示すフロー図である。
図2B】本発明の態様に準拠した、複合体を調製するための方法を示すフロー図である。
図3】本発明の態様に準拠した、アノード電極を調製するための方法を示すフロー図である。
図4】本発明の態様に準拠した、ハーフセルの性能を示す曲線を示すグラフである。
図5】本発明の態様に準拠した、フルセルにおけるアノードのサイクル動作性能を示す曲線を示すグラフである。
図6】本発明の態様に準拠した、ハーフセルを示す曲線を示すグラフである。図6A図6Cは、図6に示した曲線の一部の詳細図である。
図7A】本発明の態様に準拠した、一様なPSAA炭化層によってコーティングされた、ケイ素ナノワイヤ及びグラファイト粒子のTEM画像を示す図である。
図7B】本発明の態様に準拠した、一様なPSAA炭化層によってコーティングされた、ケイ素ナノワイヤ及びグラファイト粒子のTEM画像を示す図である。
図8】第1のサイクル動作プロトコルを使用した、ベースライン電池セルと、本発明の態様に準拠した電池セルとの間のサイクル動作性能を示すグラフである。
図9】第1とは異なる第2のサイクル動作プロトコルを使用した、ベースライン電池セルと、本発明の態様に準拠した電池セルとの間のサイクル動作性能を示すグラフである。
図10】異なるSiNW-炭素及びPSAAの組合せを含むアノード材料複合体を含む、4セットの電気化学セルの仕様、初回充電容量及び初回放電容量を示す図である。
図11】2タイプの電気化学セルについての数百サイクルにわたる放電比容量を示すグラフである。第1のタイプは、単一の表面処理を使用して調製したアノード複合体を含み、第2のタイプは、二重の表面処理を使用して調製したアノード複合体を含む。
図12】2タイプの電気化学セルについての数百サイクルにわたる%容量保持を示すグラフである。第1のタイプは、単一の表面処理を使用して調製したアノード複合体を含み、第2のタイプは、二重の表面処理を使用して調製したアノード複合体を含む。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
ここで使用する場合、「ナノ構造体」とは、約500nm未満、例えば、約200nm未満、約100nm未満、約50nm未満、又は更には約20nm未満の寸法を有する、少なくとも1つの領域又は特徴的寸法(characteristic dimension)を有する構造体である。典型的には、領域又は特徴的寸法は、構造の最小の軸に沿う。このような構造体の例としては、ナノワイヤ、ナノロッド、ナノチューブ、ナノファイバ及びナノ粒子等が挙げられる。ナノ構造体は、例えば、実質的に結晶性、実質的に単結晶性、多結晶性、非晶質又はこれらの組合せであってもよい。ある特定の実施形態では、ナノ構造体の3つの次元の各々は、約500nm未満、例えば、約200nm未満、約100nm未満、約50nm未満、又は更には約20nm未満の寸法を有する。
【0020】
ここで使用する場合、「アスペクト比」とは、ナノ構造体の第1の軸の長さを、ナノ構造体の第2及び第3の軸の長さの平均によって除したものであり、第2及び第3の軸は、その長さが互いに同等に最も近い2つの軸である。例えば、完全なロッドの場合のアスペクト比は、長軸の長さを、長軸に垂直な(直角な)断面の直径で除したものである。
【0021】
ここで使用する場合、ナノ構造体の「直径」とは、ナノ構造体の第1の軸に直角な断面の直径を指し、第1の軸は、第2及び第3の軸に対して最も大きな長さの差を有する(第2及び第3の軸は、長さが互いに同等に最も近い2つの軸である)。第1の軸は、必ずしもナノ構造体の最長の軸ではなく、例えば、円板形状のナノ構造体の場合、断面は、円板の短い長手方向軸に直角な、実質的に円形の断面である。断面が円形でない場合、直径は、断面のより長い軸とより短い軸との平均である。細長い、すなわち高アスペクト比のナノ構造体、例えばナノワイヤの場合、直径は、ナノワイヤの最長軸に垂直な断面の両端間で測定される。球状ナノ構造体の場合、直径は、ある側面から、球体の中心を通って他方まで測定される。
【0022】
ここで使用する場合、「結晶性」又は「実質的に結晶性」という用語は、ナノ構造体について使用する場合、ナノ構造体が、典型的には、構造体の1つ又は複数の次元の両端間で長距離秩序を呈するという事実を指す。単結晶についての秩序は、結晶の境界を越えて広がることはできないため、「長距離秩序」という用語は、特定のナノ構造体の絶対的サイズに依存することを、当業者は理解する。この場合、「長距離秩序」は、ナノ構造体のその次元の少なくとも大部分にわたる実質的な秩序を意味する。いくつかの例では、ナノ構造体は、酸化物若しくは他のコーティングを有することができ、又はコアと少なくとも1つのシェルとから構成されてもよい。このような例では、酸化物、シェル又は他のコーティングは、このような秩序を呈する必要はないことが理解される(例えば、非晶質、多結晶又はその他のものであってもよい)。このような例では、「結晶性」、「実質的に結晶性」、「実質的に単結晶性」又は「単結晶性」という語句は、ナノ構造体の中央コアを指す(一切のコーティング層又はシェルが除外される)。「結晶性」又は「実質的に結晶性」という用語は、ここで使用する場合、構造体が実質的に長距離秩序(例えば、ナノ構造体又はそのコアの少なくとも1つの軸の長さの少なくとも約80%にわたる秩序)を呈する限り、様々な欠陥、積層不整及び原子置換等を含む構造体を包含することも意図される。加えて、コアとナノ構造体の外側との間、又はコアと隣接シェルとの間、又はシェルと第2の隣接シェルとの間の界面は、非結晶性領域を含有してもよく、更には非晶質であってもよいことが理解される。これは、ナノ構造体が、ここで定義する結晶性又は実質的に結晶性であることを妨げない。
【0023】
ここで使用する場合、「単結晶性」という用語は、ナノ構造体について使用する場合、ナノ構造体が実質的に結晶性であり、且つ実質的に単一の結晶を含むことを示す。コアと1つ又は複数のシェルとを含むナノ構造ヘテロ構造体について使用する場合、「単結晶性」とは、コアが実質的に結晶性であり、且つ実質的に単一の結晶を含むことを示す。
【0024】
ここで使用する場合、「ナノ粒子」とは、各次元(例えば、ナノ構造体の3つの次元の各々)が、約500nm未満、例えば、約200nm未満、約100nm未満、約50nm未満、又は更には約20nm未満のナノ構造体である。ナノ粒子は、任意の形状のものであってよく、例えば、ナノ結晶、実質的に球状の粒子(約0.8~約1.2のアスペクト比を有する)、及び不規則形状の粒子が挙げられる。ナノ粒子は、任意選択により場合によって、約1.5未満のアスペクト比を有する。ナノ粒子は、非晶質、結晶性、単結晶性、部分的に結晶性、多結晶性又はそれ以外であってもよい。ナノ粒子は、材料特性において実質的に均一であってもよく、又はある特定の実施形態では、不均一であってもよい(例えばヘテロ構造体)。ナノ粒子は、本質的に任意の都合のよい材料から製造することができ、例えば、ナノ粒子は、「純粋な」材料、実質的に純粋な材料、及びドーピングされた材料等を含むことができる。
【0025】
「ナノワイヤ」とは、他の2つの主軸よりも長い、1つの主軸を有するナノ構造体である。その結果、ナノワイヤは、1よりも大きなアスペクト比を有し、この発明のナノワイヤは、典型的には、約1.5超、又は約2超のアスペクト比を有する。短いナノワイヤは、時としてナノロッドと呼ばれ、典型的には約1.5から約10の間のアスペクト比を有する。より長いナノワイヤは、約10超、約20超、約50超、又は約100超、又は更には約10,000超のアスペクト比を有する。ナノワイヤの直径は、典型的には約500nm未満、好ましくは約200nm未満、より好ましくは約150nm未満、最も好ましくは約100nm、約50nm若しくは約25nm未満、又は更には約10nm若しくは約5nm未満である。ナノワイヤは、材料特性において実質的に均一であってもよく、又はある特定の実施形態では、不均一であってもよい(例えばナノワイヤヘテロ構造体)。ナノワイヤは、本質的に任意の都合のよい材料から製造することができる。ナノワイヤは、「純粋な」材料、実質的に純粋な材料、及びドーピングされた材料等を含むことができ、絶縁体、導体及び半導体を含むことができる。ナノワイヤは、典型的には、実質的に結晶性且つ/又は実質的に単結晶性であるが、例えば、多結晶性又は非晶質であってもよい。いくつかの例では、ナノワイヤは、酸化物若しくは他のコーティングを有することでき、又はコアと少なくとも1つのシェルを含むことができる。このような例では、酸化物、シェル又は他のコーティングは、このような秩序を呈する必要はないことが理解される(例えば、非晶質、多結晶又はその他のものであってもよい)。ナノワイヤは、不定の直径を有することができ、又は実質的に一様な直径、すなわち、ばらつきが最大の領域にわたって、且つ少なくとも5nm(例えば、少なくとも10nm、少なくとも20nm、若しくは少なくとも50nm)の直線的寸法にわたって、約20%未満(例えば、約10%未満、若しくは約5%未満、若しくは約1%未満)の分散を示す直径を有することができる。典型的には、直径は、ナノワイヤの端部から離れたところで(例えば、ナノワイヤの中央20%、40%、50%又は80%にわたって)評価される。ナノワイヤは、その長軸の長さ全体にわたって、又はその一部にわたって、直線的であってもよく、又は例えば、曲線的若しくは屈曲していてもよい。ある特定の実施形態では、ナノワイヤ又はその一部は、2次元又は3次元的量子閉じ込めを呈することができる。ナノワイヤは、一部の実施形態では、カーボンナノチューブを明白に除外することができ、ある特定の実施形態では、「ウィスカ」又は「ナノウィスカ」、特に100nm超又は約200nm超の直径を有するウィスカを除外する。
【0026】
ここで使用する場合、「ケイ素系」とは、ナノ構造体に関して使用する場合、ナノ構造体が少なくとも約50質量%のケイ素を含むことを示す。好適には、ケイ素系ナノ構造体は、少なくとも約60質量%のケイ素、少なくとも約70質量%のケイ素、少なくとも約80質量%のケイ素、少なくとも約90質量%のケイ素、少なくとも約95質量%のケイ素、又は100%のケイ素を含めた約100質量%のケイ素を含む。
【0027】
ここで使用する場合、「炭素系基材」とは、少なくとも約50質量%の炭素を含む多孔質基材を指す。好適には、炭素系基材は、少なくとも約60質量%の炭素、少なくとも約70質量%の炭素、少なくとも約80質量%の炭素、少なくとも約90質量%の炭素、少なくとも約95質量%の炭素、又は100%の炭素を含めた約100質量%の炭素を含む。炭素系基材は、シート又は分離した粒子の形態であってもよく、架橋構造体であってもよい。炭素系基材は、具体的には、金属材料、例えば、ステンレス鋼を含めた鋼を除外する。典型的には、炭素系基材は、グラファイト粉末(例えば、人工グラファイト粉末又は天然グラファイト粉末)である。グラファイト粉末は、コーティング(例えば炭素コーティング)されていてもよく、コーティングされていなくてもよい。炭素系基材粒子は、本質的に任意の所望の形状のものであってよく、例えば、球状若しくは実質的に球状、細長いもの、楕円/長円形、及び/又はプレート状等(例えば、プレート、フレーク若しくはシート)であってもよい。同様に、炭素系基材(例えばグラファイト粒子)は、本質的に任意のサイズ及び多孔性のものであってよい。典型的には、炭素系基材(例えばグラファイト粒子)は、約0.5μmから約50μmの間のD50を有する。D50とは、積算ふるい下分布の50パーセンタイルに相当するメジアン粒子直径を指すものと理解される。使用する測定方法は、ISO標準番号13320に準拠したレーザー回折である。そのため、例えば、炭素系基材がグラファイト粉末である場合、0.5μm~50μmのD50とは、グラファイト粉末の試料が、ISO #13320に準拠したレーザー回折によって測定すると、0.5μm以上且つ50μm以下のD50を有することを意味することが理解される。この測定は、リチウムイオン電池製造によって使用される市販の炭素系基材(例えばグラファイト粉末)の仕様に通例使用され、そのため、当業者によってよく理解される。或いは、炭素系基材は、例えば、約0.5μmから約2μmの間、約2μmから約10μmの間、約2μmから約5μmの間、約5μmから約50μmの間、約10μmから約30μmの間、約10μmから約20μmの間、約15μmから約25μmの間、約15μmから約20μmの間、又は約20μmのD50を有してもよい。グラファイト粉末(例えば、コーティングされた又はコーティングされていない、天然グラファイト粉末又は人工グラファイト粉末)は、その中に配置された複数の細孔と、複数の細孔を画定する開口の内壁表面を含む表面領域とを備える粒子を含んでもよい。当業者には周知の通り、グラファイト粒子の多孔性は、様々なタイプの測定、例えば、「BET」又は「SSA」規格に準拠したガス吸収表面積、直接FIB SEM画像化、水銀多孔度測定法から推定することができる。多孔性についての標準的な定義は、製造された炭素及びグラファイトに関する用語の定義を有するASTM規格C709に見出される通り、「材料の総体積のうち、細孔が占める百分率」である。材料の見掛け密度を計算する場合、細孔体積は計算に含まれる。これによって、1.6g/cm~1.90g/cmという合成グラファイトの典型的な見掛け密度が得られ、2.26g/cmであるグラファイトの理論密度と比較する(グラファイトの比容量は、比密度の逆数である)。見掛け密度(細孔の体積を含む粒子体積で除した粒子質量)と理論密度(細孔のない単位体積当たりの質量)との間の差は、単位質量当たりの総細孔体積の尺度である。このとき、多孔性は、比容量と単位質量当たりの細孔体積との和によって除した、単位質量当たりの細孔体積の割合として定義することができる。アノード用途のための天然グラファイトの典型的な見掛け(バルク)密度は、天然グラファイトの多孔性が約5%~約50%の範囲内にある場合、1.2g/cm~2.14g/cmの範囲内にある。
【0028】
「約」という用語は、ここで使用する場合、所与の数量の値が、その値の±10%だけ、又は任意選択により場合によって、その値の±5%、又は一部の実施形態では記載された値の±1%だけ変動することを指す。
【0029】
別段定義されない限り、ここで使用するすべての技術的及び科学的用語は、本発明が属する分野における当業者に通例理解されるものと同じ意味を有する。以下の定義は、当技術分野における定義を補うものであり、本出願を対象とし、いかなる関連する又は関連しない事例にも、例えば、所有者が共通する特許又は出願にも、帰せられるべきではない。ここに記載するものに類似する、又は等価であるいかなる方法及び材料も、実際に使用することができるが、ある特定の材料及び方法をここに記載する。したがって、ここで使用する術語は、特定の実施形態を記載するためのものに過ぎず、限定するものであることを意図しない。
【0030】
この明細書の記載及び特許請求の範囲の全体を通じて、「含む(comprise)」(又は「含む(comprises)」、又は「含む(comprising)」)という用語を使用して主題事項をここに記載する場合、代わりに「からなる(consist of)」(若しくは「からなる(consists of)」若しくは「からなる(consisting of)」)、又は「から本質的になる(consist essentially of)」(若しくは「から本質的になる(consists essentially of)」若しくは「から本質的になる(consisting essentially of)」)の用語を使用して記載される同じ主題事項も企図される。
【0031】
この明細書の記載及び特許請求の範囲を通じて、文脈による別段の要求のない限り、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞を使用する場合、文脈による別段の要求のない限り、明細書は、複数及び単数を企図するものとして理解されるべきである。
【0032】
特定の態様、実施形態又は実施例とともに記載される特徴(及びそれらの相対的適性)は、不適合でない限り、ここに記載する任意の他の態様、実施形態又は実施例に適用できることが理解されるべきである。この明細書(任意の添付の請求項、要約及び図面を含む)に開示する特徴のすべて、並びに/又は開示する任意の方法(method若しくはprocess)の工程のすべては、このような特徴及び/又は工程の少なくともいくつかが相互に排他的である組合せを除いて、任意の組合せで組み合わせてもよい。本発明は、ここに列挙する具体的な実施形態のいずれかの詳細に制限されない。本発明は、この明細書(任意の添付の請求項、要約及び図面を含む)に開示する特徴の任意の新規の1つ、若しくは任意の新規の組合せ、又は開示される任意の方法(method若しくはprocess)の工程の任意の新規の1つ、若しくは任意の新規の組合せに及ぶ。
【0033】
別段特定されない限り、所定の生成物の特定の成分の数量又は濃度が、質量百分率(質量%(% by mass、wt%)又は%w/w)として特定される場合、前記質量百分率は、生成物全体の総質量に対する前記成分の質量による百分率を指す。生成物の全成分の質量百分率の和が合計100質量%であることは、当業者によって理解される。しかしながら、成分がすべて列挙されている訳ではない場合(例えば、生成物が1つ又は複数の特定の成分を「含む(comprise)」とされる場合)、任意選択により場合によって、100質量%までの残りの質量百分率を、不特定の成分が占めることもある。
【0034】
別段特定されない限り、ある範囲が提供される場合、その値は、その範囲内の任意の値、又は値の範囲でありうる。
【0035】
複合体及びその調製
一態様では、実施形態は、炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体を含む複合体であって、複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材が、その上に配置されたポリマーを有し、ポリマーが、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含む、複合体を提供する。
【0036】
厳格な調査の結果、本発明者らは、驚くべきことに、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー部分(モノマー由来単位)を含むポリマーを、炭素系基材に付着したケイ素系ナノ構造体に適用することで、得られる複合体の分散能力及び結合能力が大きく増強され、複合体を、他の活物質及び不活物質(例えば、バインダ、導電性添加剤等)で直接的且つ安価に加工することができ、非常に一様なアノード材料が形成されることを発見した。特に、本発明者らは、ケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材上に配置されるポリマーの特徴が、電池アノード材料の調製において、バインダとして通例用いられる材料との好ましい結合相互作用を生じさせることを解明した。アノードスラリー成分同士の間のこの改善された相互作用によって、湿式と乾式との両方の加工法を使用して、活物質の不活物質に対する高い比を有し、充電又は放電がより多くの電流を含む場合でさえ、より長いサイクル寿命、すなわち、より多くの充電/放電サイクルにわたって、より高いアノード可逆容量を提供する能力も有するアノード材料を調製することができる。更に、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー部分(モノマー由来単位)を含むポリマーは、ケイ素系ナノ構造体と半固体/固体状態電解質との間により安定な界面を形成することができ、充電/放電サイクル中のケイ素系ナノ構造体に起こる体積変化に耐える能力の改善を示す。その結果として、ここに記載する複合体を組み込んだ電池は、改善された電気特性(例えば、比容量、及び/又は初期クーロン効率(ICE)、及び/又は高Cレートにおいてさえ、多くの充電/放電サイクルにわたる容量保持)を提供する。
【0037】
本複合体は、アノード電極、特にリチウムイオン電池のアノード電極における使用に好適である。
【0038】
複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材上に配置されたポリマーについて、スチレンから形成されるモノマー単位は、その反復がポリスチレン鎖を生成する(末端基を無視する)反復単位を指すことが理解される。同様に、アリルアルコール(すなわち、プロパ-2-エン-1-オール)から形成されるモノマー単位は、その反復がポリ(アリルアルコール)鎖を生成する(末端基を無視する)反復単位を指すことが理解される。スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位は、下に描いた通りである。
【0039】
【化1】
【0040】
理論によって束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーの構造及び/又は特性が、他のアノードスラリー成分との相互作用の改善を促進し、ひいては、炭素系基材に付着したケイ素系ナノ構造体の分散能力を改善し、アノード材料をより一様にすると仮定している。特に、ポリマー上に存在する官能基/構造モチーフは、スラリー中に含まれるバインダ上に存在しうる官能基/構造モチーフとの分子間相互作用に自由に関与する。例として、ポリマーのヒドロキシル基は、バインダ上に存在する基(例えば、カルボキシメチルセルロース上に存在するヒドロキシル基)との水素結合に関与することができ、且つ/又はポリマーのフェニル基は、バインダ上に存在する基(例えば、スチレン-ブタジエンゴム上に存在するフェニル基)とのπ-πスタッキングに関与することができる。炭素系基材に付着したケイ素系ナノ構造体の分散能力の改善は、乾式コーティング法によってアノード性材料を調製する場合に、例えば、炭素系基材に付着したケイ素系ナノ構造体の固体混合物を、無溶媒条件下で熱可塑性ポリマーバインダ(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)中に分散させ、次いで、集電体上にフィルムとして積層させる場合に特に重要である。
【0041】
スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーは、ケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の上に、コーティング(例えば、部分的又は完全コーティング)を形成しうる。好適には、ポリマーは、ケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の上に、実質的に一様に配置(例えばコーティング)される。
【0042】
スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーは、好適には、200℃未満の軟化点を有する。このようなポリマーは、典型的には、アノードスラリーにおいて使用されるバインダとのより良好な適合性を示す。より好適には、ポリマーは、50℃~100℃の軟化点を有する。最も好適には、ポリマーは、60℃~90℃の軟化点を有する。
【0043】
スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーは、ガス透過クロマトグラフィー(gas permeation chromatography)(GPC)によって決定して、800gmol-1~5000gmol-1の分子量(M)を有しうる。好適には、ポリマーは、1000gmol-1~3000gmol-1の分子量(M)を有する。最も好適には、ポリマーは、1200gmol-1~2000gmol-1の分子量(M)を有する。
【0044】
スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーは、好適には、アルコール溶媒、特にエタノールに可溶性である。これらの溶解性の特徴を示すポリマーは、得られる複合体の乾燥を促進する。水溶性ポリマーの使用とは対照的に、例えばエタノールに可溶性であるポリマーの溶液は、ケイ素系ナノ構造体上に、電池性能に悪影響を及ぼすことがある溶媒残留物を一切残すことなく、より低温で直接的に乾燥させることができる。より好適には、ポリマーは水に不溶性である。ポリマーは、カーボネート系電解質、例えば、リチウムイオン電池の調製に使用されるものに不溶性であってもよい。好適には、エタノールは、乾燥過程中に回収され、再使用されてもよく、これによってコストが低下し、廃棄物が減少する。
【0045】
スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーは、少なくとも20mol%(例えば、20mol%~50mol%)の、アリルアルコールから形成されるモノマー単位を含んでもよい。好適には、ポリマーは、25mol%~45mol%の、アリルアルコールから形成されるモノマー単位を含む。最も好適には、ポリマーは、30mol%~36mol%の、アリルアルコールから形成されるモノマー単位を含む。加えて、ポリマーは、少なくとも50mol%の、スチレンから形成されるモノマー単位を含んでもよい。
【0046】
特定の実施形態では、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーは、ポリ(スチレン-co-アリルアルコール)(PSAA)である。ポリマーは、前述の特性のいずれかを有しうる。PSAAは、安価、環境配慮型且つ非毒性のポリマーであり、エタノールに容易に溶解する。
【0047】
複合体は、0.1質量%~10質量%の、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマー(例えばPSAA)を含んでもよい。好適には、複合体は、0.5質量%~5質量%(例えば0.7質量%~2質量%)のポリマーを含む。
【0048】
ケイ素系ナノ構造体は炭素系基材に付着しており、これらは互いに電気的関係のある状態にある。典型的には、ケイ素系ナノ構造体は、炭素系基材の外表面に付着する。しかしながら、炭素系基材が多孔質(例えば、多孔質グラファイト粉末)である場合、ケイ素系ナノ構造体は、炭素系基材の内表面(細孔を画定する表面)と外表面との両方に付着しうる。これは、当技術分野において公知である複数の方法によって達成することができる。例えば、ケイ素系ナノ構造体(例えばケイ素ナノワイヤ)は、気相-液体-固体(VLS)又は気相-固体-固体(VSS)化学気相成長法によって、炭素系基材(例えばグラファイト粒子)上に堆積させた触媒粒子から成長させることができる。或いは、ケイ素系ナノ構造体(例えばケイ素ナノワイヤ)は、炭素系基材(例えばグラファイト粒子)上に電気化学的に堆積させることができる。米国特許第10,243,207号及び同第9,812,699号が参照され、これらは、参照によって全体が本明細書に組み込まれる。一部の実施形態では、ケイ素系ナノ構造体は、炭素系基材に機械的に付着させる。一部の実施形態では、ケイ素系ナノ構造体は炭素系基材に付着しており、これらは互いに、導電性ポリマーの使用を要することなく電気的関係のある状態にあり、機械的及び電気的接続が達成される。一部の実施形態では、電気的関係は、サイクル動作時の低い電気インピーダンス経路を介する。
【0049】
特定の実施形態では、ケイ素系ナノ構造体は、好適には、ケイ素系ナノワイヤ、例えばケイ素ナノワイヤである。ケイ素系ナノ構造体(例えばケイ素ナノワイヤ)の寸法は、ここに以前に記載されている。好適には、ケイ素系ナノワイヤ(例えばケイ素ナノワイヤ)は、10nm~200nmの範囲内の直径を有する。ケイ素系ナノ構造体は、単結晶性コアとシェル層とを含んでもよく、シェル層は、非晶質ケイ素、多結晶性ケイ素又はこれらの組合せを含む。
【0050】
炭素系基材は複数の粒子として提供され、ケイ素系ナノ構造体がこれらの粒子に(例えば、これらの粒子の表面に)付着している。いくつかの粒子が、付着したケイ素系ナノ構造体を、他のものよりも多く有してもよい。炭素系基材は、コーティング(例えば炭素コーティング)されていても、コーティングされていなくてもよい、グラファイト粉末(例えば、人工グラファイト粉末若しくは天然グラファイト粉末)、メソカーボンマイクロビーズ粉末(産業用途では「MCMB」とも呼ばれる)、又はこれらの組合せから選択されうる。最も好適には、炭素系基材はグラファイト粉末である。炭素系基材の寸法は、これより前に記載している。好適には、炭素系基材(例えばグラファイト粉末)は、産業で標準的な慣行及び設備によって測定して、約5μm~約50μmの範囲内のD50を有する。好適には、炭素系基材(例えばグラファイト粉末)は、当技術分野において公知である上記の方法によって測定して、約10%~30%の範囲内の多孔性を有する。ここに提供する例では、Brunauer-Emmett-Teller(BET)測定法及び直接FIB SEM画像化法を使用して細孔を測定し、図に示す通り、ナノワイヤ及びPSAAコーティングを可視化した。
【0051】
複数のケイ素系ナノ構造体(例えばケイ素ナノワイヤ)及び炭素系基材(例えばグラファイト粉末)が、合わせて複合体の90質量%以上を占めてもよい。好適には、複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材が、合わせて複合体の95質量%以上を占めてもよい。
【0052】
実施形態では、ケイ素系ナノ構造体は、10nm~200nmの範囲内の直径を有するケイ素ナノワイヤである。好適には、ケイ素ナノワイヤ及び炭素系粉末が、複合体の90質量%以上を占める。
【0053】
炭素系基材(例えばグラファイト粉末)に付着した複数のケイ素系ナノ構造体(例えばケイ素ナノワイヤ)は、1質量%~40質量%のケイ素を含んでもよい。好適には、炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体は、2.5質量%~25質量%のケイ素を含む。最も好適には、炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体は、5質量%~15質量%のケイ素(例えば、8質量%~11質量%のケイ素)を含む。
【0054】
実施形態では、ケイ素系ナノ構造体は、10nm~200nmの範囲内の直径を有するケイ素ナノワイヤであり、炭素系基材は、5μm~50μmの範囲内のD50を有するグラファイト粉末である。好適には、グラファイト粉末に付着したケイ素系ナノワイヤは、1質量%~40質量%(例えば、5質量%~15質量%)のケイ素を含む。
【0055】
実施形態では、複合体は、90質量%以上の、複数のケイ素系ナノ構造体(例えばケイ素ナノワイヤ)及び炭素系基材(例えばグラファイト粉末)、並びに0.1質量%~10質量%の、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマー(例えばPSAA)を含む。好適には、複合体は、95質量%以上の、複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材、並びに0.5質量%~5質量%(例えば0.7質量%~2質量%)の、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーを含む。ケイ素は、炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体の2質量%~40質量%(例えば5質量%~15質量%)を占めてもよい。
【0056】
ある特定の実施形態では、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマー(例えばPSAA)は、複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の上に、外部コーティング層(部分的又は完全)として提供されうる。このような実施形態では、複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材は、内部コーティング層として提供されている導電性炭素コーティングを更に含んでもよい。内部コーティング層は、複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材と、外部コーティング層との間に位置する。導電性炭素コーティングは、ケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の上に予備配置されたポリマー性コーティングを炭化(例えば、200℃から750℃の間の温度で)させることによって形成されてもよく、前記ポリマー性コーティングは、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマー(例えばPSAA)でありうる。
【0057】
一部の実施形態では、複合体は、ケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の上に直接的に配置された、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーを有するケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の集団と、介在する導電性炭素コーティングを介して、ケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の上に間接的に配置された、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーを有する、ケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の集団とを含む。
【0058】
複合体は、導電性添加剤を更に含んでもよい。電池のアノード材料の調製に有用な導電性添加剤は当業者にはよく知られており、カーボンブラック粒子、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、グラファイト粒子、グラフェン粒子、メソカーボンマイクロビーズ粒子及びこれらの2種以上の組合せが挙げられる。ここで使用する場合、「カーボンブラック」とは、石油製品の不完全燃焼によって生成する材料を指す。カーボンブラックは、極めて大きな表面積の体積に対する比を有する非晶質炭素の形態である。「グラフェン」とは、シートとして形成される炭素の単一原子層を指し、グラフェン粉末として調製することができる。米国特許第5,677,082号、同第6,303,266号及び同第6,479,030号が参照され、これらの各々の開示は、参照によって全体が本明細書に組み込まれる。特に好適な導電性添加剤はカーボンブラックである。導電性添加剤が存在する場合、導電性添加剤は、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマー(例えばPSAA)の上に配置されうるか、又はその全体にわたって分散することができる。一部の実施形態では、炭化PSAAから形成される導電性炭素コーティングの使用によって、追加の導電性添加剤の必要性が排除されうる。
【0059】
複合体は、好適には、複数の粒子として提供される。複合体の正確な形態は、ケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の性質に依存する。例えば、複合体は、粉末(例えば自由流動粉末)として提供されうる。ケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の外表面上に、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーが存在することで、室温又はポリマーの軟化点未満の温度における、個々の複合体粒子間の凝集が、あるとしてもわずかになる。
【0060】
第2の態様では、実施形態は、複合体を調製するための方法を提供する。この方法は、例えば図2Aに図示されている。図2Aに示す通り、方法(100)は、炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体と、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーの溶液とを混合して混合物を形成する混合工程(104)と、混合物を乾燥させる工程(108)とを含む。
【0061】
第1の態様に関してこれより前にも記載した第2の態様の特徴は、前述の定義のいずれかを有しうることが理解される。
【0062】
炭素系基材に付着したケイ素系ナノ構造体は、VLS又はVSS化学気相成長法によって、炭素系基材の表面に堆積させた触媒粒子から、ケイ素系ナノ構造体(例えばケイ素ナノワイヤ)を成長させることによって調製されうる。一部の実施形態では、炭素系基材は、各々が複数の細孔を備える複数のグラファイト粒子を含む、グラファイト粉末(例えば、天然グラファイト粉末又は人工グラファイト粉末)であり、ケイ素系ナノ構造体(例えばケイ素ナノワイヤ)は、VLS又はVSS化学気相成長法によって、グラファイト粒子の外表面及び内表面(すなわち、細孔を画定する表面)に堆積させた触媒粒子(例えば、銅、銅化合物及び/又は銅合金を含む触媒ナノ粒子)から成長させ、これによって、グラファイト粒子の外表面及び内表面に付着したケイ素系ナノ構造体を得る。図1A図1Cは、グラファイト粒子の内表面(すなわち、細孔を画定する表面)に付着したケイ素ナノワイヤを含めた、グラファイト粒子の表面に付着したケイ素系ナノワイヤを含む、非コーティング天然グラファイト粒子のSEM画像を示す。
【0063】
ポリマー(例えばPSAA)の溶液は、ポリマー及びエタノールを含んでもよい。水溶性ポリマーの使用とは対照的に、エタノールに可溶性であるポリマーは、ケイ素系ナノ構造体上に、電池性能に悪影響を及ぼすことがある溶媒残留物を一切残すことなく、低温且つ/又は大気圧よりも低い圧力下で直接的に乾燥させることができる。乾燥中に除去されるエタノールは、回収し、プロセスにおいて再利用することができる。好適には、この溶液は5質量%未満の水しか含まない。より好適には、溶液は水を含まない。
【0064】
ポリマーの溶液は、0.05質量%~10質量%のポリマー(例えば、エタノール中、0.05質量%~10質量%のポリマー)を含んでもよい。好適には、溶液は、0.1質量%~3質量%のポリマーを含む。
【0065】
乾燥させる工程は、周囲圧力又は減圧(例えば真空下)において、20℃~150℃の範囲内の温度で実施されうる。好適には、乾燥させる工程は、30℃~130℃の温度で実施される。工程(b)は、不活性ガス(例えば窒素)下で実施されうる。
【0066】
別の態様では、実施形態は、例えば図2Bに図示した、複合体を調製するための方法を提供する。図2Bに示す通り、方法(プロセス)(150)は、炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体と、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーの溶液とを混合して混合物を形成する混合する工程(154)と、混合物を乾燥させる工程(158)とを含む。
【0067】
実施形態では、複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材は、その上に配置された導電性炭素コーティングを有する。コーティングは、部分的であっても、完全(全体)であってもよい。導電性炭素コーティングは、図2Bに示す通り、複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の上に予備配置されたポリマー性コーティングを炭化させる工程(162)によって形成されうる。ポリマー性コーティングは、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含んでもよい(例えばPSAA)。ポリマー性コーティングは、複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材を、ポリマー性材料の溶液(例えば、エタノール中PSAAの溶液、例えばエタノール中、5~10質量%のPSAAの溶液)と混合することによって、複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の上に予備配置されうる。次いで、200℃~750℃(例えば、500℃~750℃)の温度まで、任意選択で場合によっては不活性雰囲気において(例えば窒素下で)、ポリマー性材料がその上に配置された複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材を加熱することによって、複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の上に予備配置されたポリマー性材料を炭化させる。そのため、一部の実施形態では、乾燥させることによって得られる複合体は、ケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材上に提供された炭化PSAAコーティング層上に配置されたPSAAを含みうる。
【0068】
乾燥させることによって得られる複合体は、好適には粉末(例えば、自由流動粉末)である。スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマー(特にPSAA)を使用することで、複合体粒子間の凝集がほとんど乃至まったく生じない。
【0069】
図2Bに示す通り、本方法(150)は、炭素系基材に付着した炭素コーティングSi系ナノ構造体と、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーの溶液とを混合する工程(166)と、混合物を乾燥させて、炭素系基材に付着した炭素コーティングSi系ナノ構造体上に配置されたポリマーコーティングを含む複合体を得る、乾燥させる工程(170)とを更に含んでもよい。
【0070】
第3の態様では、実施形態は、第2の態様の方法によって得た、直接的に得た、又は得られる複合体を提供する。
【0071】
アノード電極及びその調製
第4の態様では、実施形態は、第1のアノード層を含むアノード電極であって、第1のアノード層が、バインダ及びここに記載する複合体を含む、アノード電極を提供する。
【0072】
ここに記載する、炭素系基材に付着したケイ素系ナノ構造体上に配置された、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー部分を含むポリマーを含むアノード電極は、改善された一様性、湿式又は乾式電極コーティング法による加工の容易さ、体積変化を吸収する能力の改善、並びに集電体及び任意の追加のアノード層を含めた、他のアノードの成分への優れた接着を含めた、ここで以前に論じた有利な特性を有する。したがって、本発明のアノード電極を組み込んだ電池は、改善された電気的性能(例えば、比容量及び/又は初期クーロン効率(ICE))を提供する。
【0073】
第1、第2又は第3の態様に関して本明細書で先に記載した第4の態様の特徴は、前述の定義のいずれかを有しうることが理解される。
【0074】
第1のアノード層は、好適には密接且つ実質的に均一な混合物中に、バインダ及び第1の態様の複合体を含む。第1のアノード層において、任意の好適なバインダを使用してよい。好適には、バインダは、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、ポリ(アクリルアミド-co-ジアリルジメチルアンモニウム)(PAADAA)、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)及びこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される。特定の実施形態では、バインダは、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースとの混合物である。例えば、バインダは、30質量%~70質量%のスチレンブタジエンゴム、及び30質量%~70質量%のカルボキシメチルセルロース、より好適には、40質量%~60質量%のスチレンブタジエンゴム、及び40質量%~60質量%のカルボキシメチルセルロースを含む、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースとの混合物でありうる。他の実施形態では、バインダはポリ(テトラフルオロエチレン)であり、これは第1のアノード層が乾式コーティング法によって調製される場合に特に有用である。
【0075】
第1のアノード層は、加えて、導電性添加剤を、好適には0.2質量%~5質量%の量で、含んでもよい。好適な導電性添加剤は、本明細書で先に記載されている。特に好適な導電性添加剤は、カーボンブラックである。導電性添加剤は、バインダの全体にわたって分散していてもよく、且つ/又は複合体、バインダ及び導電性添加剤が、第1のアノード層内で、密接且つ実質的に均一な混合物を形成してもよい。スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマー(例えばPSAA)は、導電性添加剤上に配置されうる。
【0076】
第1のアノード層は、好適には、90質量%以上の複合体を含む。本明細書で先に記載した通り、複合体中に存在する、炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体は、1質量%~40質量%のケイ素を含んでもよい。やはり本明細書で先に記載した通り、複合体は、0.1質量%~10質量%の、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマー(例えばPSAA)を含んでもよい。
【0077】
第1の態様の複合体における、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーの存在によって、バインダの量が低減したアノード電極を調製することができ、アノード電極は、不活物質の活物質に対する比が低い。例えば、第1のアノード層は、0.5質量%~10質量%のバインダを含んでもよい。好適には、第1のアノード層は、1質量%~6質量%のバインダを含む。
【0078】
第1のアノード層は、0.5質量%~10質量%のバインダと、90質量%~99.5質量%の複合体とを含んでもよい。好適には、第1のアノード層は、1質量%~6質量%のバインダと、94質量%~99質量%の複合体とを含む。複合体内で、炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体は、1質量%~40質量%のケイ素を含んでもよい。複合体は、0.1質量%~10質量%の、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマー(例えばPSAA)を含んでもよい。
【0079】
一部の実施形態では、第1のアノード層は、0.5質量%~10質量%のバインダと、90質量%~99.5質量%の複合体とを含み、複合体は、0.1質量%~10質量%(例えば0.5質量%~5質量%)の、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマー(例えばPSAA)を含む。好適には、バインダは、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースと(例えば、30質量%~70質量%のスチレンブタジエンゴムと、30質量%~70質量%のカルボキシメチルセルロースと)の混合物である。第1のアノード層は、0.2質量%~5質量%の導電性添加剤(例えばカーボンブラック)を更に含んでもよい。
【0080】
一部の実施形態では、第1のアノード層は、1質量%~6質量%のバインダと、94質量%~99質量%の複合体とを含み、複合体は、0.1質量%~10質量%(例えば0.5質量%~3質量%)の、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマー(例えばPSAA)を含んでもよい。好適には、バインダは、カルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムと(例えば40質量%~60質量%のスチレンブタジエンゴムと、40質量%~60質量%のカルボキシメチルセルロースと)の混合物である。第1のアノード層は、0.2質量%~5質量%の導電性添加剤(例えばカーボンブラック)を更に含んでもよい。
【0081】
第1のアノード層が単一のアノード層であるように、アノード電極は単層アノード電極であってよい。
【0082】
あるいは、アノード電極は、1つ又は複数の追加のアノード層を含むように、アノード電極は多層アノード電極であってもよい。各追加のアノード層は、好適には密接且つ実質的に均一な混合物において、独立して、活物質及びバインダを含んでもよい。前述のバインダのいずれか1つ又は複数が使用されうる。活物質は、グラファイト粉末、炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体、第1の態様の複合体、及びこれらの2種以上の組合せからなる群から選択されうる。各追加のアノード層は、任意選択により場合によっては、ここに記載する1種又は複数の導電性添加剤を含んでもよい。多層アノード電極は、アノード層のスタック(例えば、第1のアノード層、及び1つ又は複数の追加のアノード層)として記述されうる。多層アノードでは、アノード層のうちの1つ又は複数が、異なる炭素系基材、及び異なる量の、炭素系基材に付着したケイ素系ナノ構造体を含んでもよい。層の各々はまた、D50がそれぞれ異なる炭素系基材を含んでもよい。層の各々はまた、異なる多孔性を有してもよい。スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマー(例えばPSAA)は、すべての層において、又は一部の層のみにおいて、ケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材に適用されうる。
【0083】
アノード電極は、集電体を更に含んでもよい。本発明のアノード電極において、任意の好適な集電体を使用してよい。好適には、集電体は、銅箔又は炭素コーティング銅箔である。
【0084】
電流が電解質から集電体に流れることができるように、第1のアノード層、及び任意の追加のアノード層は、集電体と電気的に通じた状態にあることが意図される。集電体は、アノード電極の一部を形成しうる。
【0085】
ある特定の実施形態では、第1のアノード層は、集電体と接触するように構成された(又は接触している)第1の表面、及び1つ又は複数の追加のアノード層と接触している第2の表面を含む。第1のアノード層の第2の表面は、その上に配置された金属リチウムを含んでもよい。金属リチウムは、リチウム金属箔、安定化リチウム金属粉末及びこれらの組合せから選択されうる。
【0086】
他の実施形態では、アノード電極は、第1のアノード層と集電体との間に配置された、ここに記載する1つ又は複数の追加のアノード層を含む。
【0087】
第1のアノード層及び任意の追加のアノード層は、溶媒残留物を実質的に含まなくてもよく(例えば全く含まない)、且つ/又は各々、自立型フィルムとして提供されてもよい。このようなアノード層は、例えば、乾式コーティング法(例えば、押出及び/又はカレンダー加工)によって形成することができる。実施形態では、アノード電極は多層アノード電極であり、すべてのアノード層が、溶媒残留物を実質的に含まない(例えば全く含まない)(例えば、乾式コーティング法によって形成されている)。
【0088】
複合体中に存在する、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマー(例えばPSAA)は、乾式コーティング法によるアノード層の形成に典型的に使用されるバインダ(例えば、ポリ(テトラフルオロエチレン))と、好ましい相互作用を示す。室温において、ポリマー(例えばPSAA)を含む複合体は、典型的には粉末として提供され、粒子の凝集がほとんど乃至全くない。複合体(例えば複合体粉末)は、直接的にバインダと混合して、密接且つ実質的に均一な、凝集がほとんど乃至全くない粉末を提供することができる。温度を控えめに上昇させることで(例えば、50℃~200℃、又は60℃~180℃まで)、複合体のポリマー(例えばPSAA)が軟化し、バインダ粒子への接着が促進され、乾燥したアノード層をフィルム、例えば自立型フィルムに形成(例えば、押出及び/又はカレンダー加工)することができる。
【0089】
実施形態では、第1のアノード層のバインダはポリ(テトラフルオロエチレン)であり、第1のアノード層は、溶媒残留物を実質的に含まない(例えば全く含まない)。アノード電極は、単層アノード電極であってもよい。或いは、アノード電極は多層アノード電極であってもよく、1つ又は複数の追加のアノード層も、バインダとしてポリ(テトラフルオロエチレン)を含む。多層アノード電極は、すべてのアノード層が溶媒残留物を実質的に含まない(例えば全く含まない)ものであってもよい。
【0090】
第1のアノード層、及び任意の追加のアノード層は、1g・cm-3~1.7g・cm-3の密度を有してもよい。好適には、第1のアノード層、及び任意の追加のアノード層は、1.3g・cm-3~1.5g・cm-3の密度を有してもよい。
【0091】
第5の態様では、実施形態は、図3に示すように、アノード電極を調製するための方法(200)を提供する。図3の方法は、ここに記載する複合体とバインダとを混合して混合物を形成する、混合する工程(204)と、混合物の層を適用する工程(208)とを含む。
【0092】
第1、第2、第3又は第4の態様に関して本明細書で先に記載した第5の態様の特徴は、前述の定義のいずれかを有しうることが理解される。例えば、第5の態様の複合体は、まず、第2の態様に概説した工程によって調製してもよいことが理解される。
【0093】
混合する工程中に混合される成分には、導電性添加剤を更に含むことができる。好適な導電性添加剤は、本明細書で先に記載されている。特に好適な導電性添加剤は、カーボンブラックである。スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマー(例えばPSAA)は、導電性添加剤上に配置されうる。導電性添加剤の量は、複合体及び(乾燥)バインダの質量に対して、0.2質量%~5質量%であってもよい。
【0094】
適用される層は、集電体と接触状態となるように構成される。例えば、混合物の層を適用する工程は、集電体と電気的に通じているように、混合物の層を適用することを含んでもよい。
【0095】
ある特定の実施形態では、混合物が湿潤スラリーとして提供され、本方法は、適用された層を乾燥させる工程を更に含む。例えば、バインダは、溶液(例えば水性溶液)として提供されてもよい。次いで、乾燥した層を、集電体上でカレンダー加工してもよい。
【0096】
他の実施形態では、混合物が固体として提供される。このような実施形態では、層を適用する工程は、固体混合物の層(例えばフィルム)を形成すること(例えば、押出及び/又はカレンダー加工によって)を含んでもよい。形成する前に、固体混合物を、50℃~200℃(例えば、60℃~180℃)の温度に加熱してもよく、これによって、複合体及びバインダの接着を促進することができ、これによって、より一様な層が得られる。形成(例えば押出及び/又はカレンダー加工)された層は、任意選択により場合によって溶媒残留物を含まない自立型フィルムであってもよい。次いで、形成(例えば押出及び/又はカレンダー加工)された層(例えば、自立型フィルム)を、集電体上に積層させてもよい。
【0097】
混合物の層を適用する工程は、混合物の層を集電体上に適用することを含んでもよい。適用された層は単一のアノード層であるように、アノード電極は単層アノード電極であってもよい。或いは、アノード電極は、多層アノード電極であってもよく、その結果、本方法は、適用された層の上に、1つ又は複数の追加のアノード層を適用する工程を更に含み、1つ又は複数の追加のアノード層は、独立して、活物質及びバインダを含む。1つ又は複数の追加のアノード層の層上への適用は、アノード層のスタックを形成することとして記述することができる。
【0098】
追加の態様では、実施形態は、アノード電極を調製するための方法であって、炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマー、並びにバインダを混合して混合物を形成する、混合する工程と、混合物の層を適用する工程とを含む方法を提供する。
【0099】
第1、第2、第3、第4、又は第5の態様に関して、本明細書で先に記載したこの追加の態様の特徴は、前述の定義のいずれかを有しうることが理解される。
【0100】
第6の態様では、実施形態は、任意の本明細書で先に記載したアノード電極を調製するための方法によって得た、直接的に得られる、又は得られるアノード電極を提供する。
【0101】
電池
第7の態様では、実施形態は、本明細書に記載している複合体及び/又はアノード電極を含む電池を提供する。
【0102】
そのアノードが、炭素系基材に付着したケイ素系ナノ構造体上に配置された、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー性部分を含むポリマーを含む電池は、改善されたアノードの一様性、体積変化を吸収する能力の改善、及びアノード成分の優れた完全性を含めた、本明細書で先に論じた有利な特性を有する。したがって、ここに記載する電池は、改善された電気的性能(例えば、比容量及び/又は初期クーロン効率(ICE))をもたらす。
【0103】
最も好適には、電池はリチウムイオン電池である。
【0104】
番号付き記述
以下の番号付き記述1~64は請求項ではなく、特定の態様及び実施形態を記載するものである。
1.炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体を含む複合体であって、複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材が、その上に配置されたポリマーを有し、ポリマーが、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含む、複合体。
2.ポリマーが200℃未満の軟化点を有する、記述1の複合体。
3.ポリマーが水に不溶性である、記述1又は2の複合体。
4.ポリマーがアルコール(例えばエタノール)に可溶性である、記述1、2又は3の複合体。
5.ポリマーがポリ(スチレン-co-アリルアルコール)である、先行する記述のいずれか1つの複合体。
6.ポリマーが、少なくとも25mol%の、アリルアルコールから形成されるモノマー単位を含む、先行する記述のいずれか1つの複合体。
7.0.1質量%~10質量%のポリマーを含む、先行する記述のいずれか1つの複合体。
8.0.5質量%~5質量%のポリマーを含む、先行する記述のいずれか1つの複合体。
9.複数のケイ素系ナノ構造体が、ケイ素ナノワイヤ、ケイ素ナノ粒子又はこれらの組合せである、先行する記述のいずれか1つの複合体。
10.複数のケイ素系ナノ構造体がケイ素ナノワイヤである、先行する記述のいずれか1つの複合体。
11.ケイ素ナノワイヤが、10nm~200nmの範囲内の直径を有する、記述10の複合体。
12.複数のケイ素系ナノ構造体が、単結晶性コアとシェル層とを含み、シェル層が、非晶質ケイ素、多結晶性ケイ素又はこれらの組合せを含む、先行する記述のいずれか1つの複合体。
13.90質量%以上の、炭素系基材に付着したケイ素系ナノ構造体を含む、先行する記述のいずれか1つの複合体。
14.95質量%以上の、炭素系基材に付着したケイ素系ナノ構造体を含む、先行する記述のいずれか1つの複合体。
15.炭素系基材が炭素系粉末である、先行する記述のいずれか1つの複合体。
16.炭素系粉末が、5μm~50μmのD50を有する、記述15の複合体。
17.炭素系基材が、グラファイト粉末、メソカーボンマイクロビーズ粉末又はこれらの組合せからなる群から選択される、先行する記述のいずれか1つの複合体。
18.炭素系基材がグラファイト粉末である、先行する記述のいずれか1つの複合体。
19.炭素系基材がグラファイト粉末であり、グラファイト粉末が、複数のグラファイト粒子を含み、各粒子が、その中に配置された複数の細孔を備え、ケイ素系ナノ構造体が、前記細孔を画定する表面に付着している、先行する記述のいずれか1つの複合体。
20.炭素系基材が、非コーティング天然グラファイト粒子を含むグラファイト粉末である、先行する請求項のいずれか1つの複合体。
21.炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体が、1質量%~40質量%のケイ素を含む、先行する記述のいずれか1つの複合体。
22.炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体が、2.5質量%~25質量%のケイ素(例えば5質量%~15質量%のケイ素)を含む、先行する記述のいずれか1つの複合体。
23.複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材が、導電性炭素コーティング(例えば、炭化PSAA)を更に含み、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマー(例えばPSAA)が、導電性炭素コーティング上に配置されている、先行する記述のいずれか1つの複合体。
24.導電性炭素コーティング(例えば炭化PSAA)が、複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の上の内部コーティング層として提供されており、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマー(例えばPSAA)が、複数のケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の上の外部コーティング層として提供されている、記述23の複合体。
25.複合体を調製するための方法であって、
炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体と、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーの溶液とを混合して混合物を形成する、混合する工程と、
混合物を乾燥させる工程と
を含む、方法。
26.ポリマーの溶液が、ポリマーとアルコール溶媒(例えばエタノール)とを含む、記述25の方法。
27.ポリマーの溶液が水を含まない、記述25又は26の方法。
28.溶液が、0.05質量%~10質量%のポリマーを含む、記述25、26又は27の方法。
29.溶液が、0.1質量%~3質量%のポリマー(例えば、0.5質量%~1.5質量%)を含む、記述25~28のいずれか1つの方法。
30.乾燥させる工程が、周囲圧力又は減圧(例えば真空下)で、20℃~150℃の温度で実施される、記述25~29のいずれか1つの方法。
31.乾燥させる工程が、任意選択で、不活性ガス(例えば窒素)下で、30℃~130℃の温度で実施される、記述25~30のいずれか1つの方法。
32.炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体が、導電性炭素コーティングを含む、記述25~31のいずれか1つの方法。
33.導電性炭素コーティングが、ケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の上に予備配置されたポリマー性コーティングを炭化させる工程によって形成される、記述32の方法。
34.ケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の上に予備配置されたポリマー性コーティングが、スチレン及びアリルアルコールから形成されるモノマー単位を含むポリマーである、記述33の方法。
35.ケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材の上に予備配置されたポリマー性コーティングを炭化させる工程が、200℃~750℃(例えば、500℃~750℃)の温度で、任意選択で、不活性雰囲気において(例えば窒素下で)、ポリマー性コーティングがその上に予備配置されたケイ素系ナノ構造体及び炭素系基材を加熱することを含む、記述33又は34の方法。
36.第1のアノード層を含み、第1のアノード層が、バインダ、及び記述1~24のいずれか1つにおける複合体を含む、アノード電極。
37.バインダが、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、ポリ(アクリルアミド-co-ジアリルジメチルアンモニウム)(PAADAA)、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)及びこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される、記述36のアノード電極。
38.バインダが、スチレンブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)との混合物である、記述36又は37のアノード電極。
39.バインダが、30質量%~70質量%のブタジエンゴム(SBR)と、30質量%~70質量%のカルボキシメチルセルロース(CMC)とを含む、記述38のアノード電極。
40.バインダがポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)である、記述36又は37のアノード電極。
41.第1のアノード層が、0.5質量%~10質量%のバインダを含む、記述36~40のいずれか1つのアノード電極。
42.第1のアノード層が、1質量%~6質量%のバインダを含む、記述36~41のいずれか1つのアノード電極。
43.第1のアノード層が、90質量%以上の複合体を含む、記述36~42のいずれか1つのアノード電極。
44.第1のアノード層が導電性添加剤を更に含む、記述36~43のいずれか1つのアノード電極。
45.第1のアノード層が、0.2質量%~5質量%の導電性添加剤を含む、記述44のアノード電極。
46.導電性添加剤が、カーボンブラック粒子、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、及びこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される、記述44又は45のアノード電極。
47.集電体を更に含む、記述36~46のいずれか1つのアノード電極。
48.集電体が、銅箔又は炭素コーティング銅箔である、記述47のアノード電極。
49.1つ又は複数の追加のアノード層を更に含み、各追加のアノード層が、独立して、活物質及びバインダを含む、記述36~48のいずれか1つのアノード電極。
50.第1のアノード層が、集電体と接触するように構成された(又は接触している)第1の表面、及び1つ又は複数の追加のアノード層と接触している第2の表面を含む、記述49のアノード電極。
51.第1のアノード層の第2の表面が、その上に配置された金属リチウムを含む、記述50のアノード電極。
52.金属リチウムが、リチウム金属箔、安定化リチウム金属粉末及びこれらの組合せから選択される、記述51のアノード電極。
53.活物質が、グラファイト粉末、炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体、記述1~24のいずれか1つにおける複合体、及びこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される、記述49~52のいずれか1つのアノード電極。
54.1つ又は複数の追加のアノード層の少なくとも1つが、導電性添加剤を更に含み、導電性添加剤が、カーボンブラック粒子、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、及びこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される、記述53のアノード電極。
55.アノード電極を調製するための方法であって、
記述1から24のいずれか1つにおける複合体、及びバインダを混合して混合物を形成する、混合する工程と、
混合物の層を適用する工程と
を含む、方法。
56.層が、集電体と接触状態となるように構成される、記述55の方法。
57.混合物が湿潤スラリーとして提供され、方法が、層を乾燥させる工程を更に含む、記述55又は56の方法。
58.混合物が固体として提供され、適用する工程が、固体混合物の層を形成することを含む、記述55又は56の方法。
59.適用する工程が、混合物の層を集電体上に適用することを含む、記述55~58のいずれか1つの方法。
60.前記層上に1つ又は複数の追加のアノード層を適用することを更に含み、1つ又は複数の追加のアノード層が、各々独立して、活物質及びバインダを含む、記述59の方法。
61.活物質が、グラファイト粉末、炭素系基材に付着した複数のケイ素系ナノ構造体、記述1~24のいずれか1つにおける複合体、及びこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される、記述60の方法。
62.1つ又は複数の追加のアノード層の少なくとも1つが、導電性添加剤を更に含み、導電性添加剤が、カーボンブラック粒子、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、及びこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される、記述61の方法。
63.記述1~24のいずれか1つにおける複合体、及び/又は記述36~54のいずれか1つにおけるアノード電極を含む電池。
64.リチウムイオン電池である、記述63の電池。
【実施例
【0105】
添付の図を参照し、説明のみを目的として、本発明の1つ又は複数の実施例をここに記載する。
図4は、実施例2に記載するハーフセル1~3の性能を示す。
図5は、実施例2に記載する3種のアノードのサイクル動作性能を示す。
図6は、実施例2に記載するハーフセル1~3の性能を示す。
図7A及び図7Bは、実施例3におけるPSAA炭化後のSiNW-炭素粉末の高倍率のSEM画像を示し、薄いコーティング層が、ケイ素とグラファイトとの両方の表面上にあることを示している。
図8は、実施例4に記載する2種のNCAパウチセルの性能を示す。
図9は、実施例5に記載する2種のNCAパウチセルの性能を示す。
図10は、異なるSiNW-炭素及びPSAAの組合せを含むアノード材料複合体を含む、4セットの電気化学セルの仕様、初回充電容量及び初回放電容量を示す。
図11は、2タイプの電気化学セルについての数百サイクルにわたる放電比容量を示し、第1のタイプは、単一の表面処理を使用して調製したアノード複合体を含み、第2のタイプは、二重の表面処理を使用して調製したアノード複合体を含む。
図12は、2タイプの電気化学セルについての数百サイクルにわたる%容量保持を示し、第1のタイプは、単一の表面処理を使用して調製したアノード複合体を含み、第2のタイプは、二重の表面処理を使用して調製したアノード複合体を含む。
【0106】
(実施例1)
複合体の調製
以下の薬剤を組み合わせた。
・ 1kgの、グラファイト粒子に機械的且つ導電的に付着した、Siの質量%が9.7%に等しいケイ素ナノワイヤ(ここでは以後、SiNW-炭素粉末と称する)。このケイ素ナノワイヤは、20nm~100nmの範囲内の直径を有し(FESEMを用いて測定される)、グラファイト粒子は、D50=14ミクロンの市販の天然グラファイトからなる。ケイ素ナノワイヤは、参照によって全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第10,243,207号に記載される通り、CVD反応器内で、グラファイト粒子上に配置された酸化銅(I)ナノ粒子触媒によって、シランガス前駆体の分解を使用して、グラファイト粒子上に成長させた。
・ 20.2gの、50質量%のEtOH中のPSAA溶液(計算上、10.1gのPSAAポリマー含有量)。これはSigma-Aldrich社から入手し、分子量Mが約1600である。
・ 1000gのエタノール。
【0107】
複合体は、以下のようにして調製した。
a)5リットルステンレス鋼容器内で、1000gのエタノールを、20.2gの50質量%エタノール中PSAA溶液と、5分にわたってプロペリング(撹拌翼による撹拌)によって混合して、約10.1gのPSAAポリマーを含む、1020.2gの希釈されたPSAA溶液を得た。
b)5リットル容器内で、1kgのSiNW-炭素粉末をPSAA溶液に浸漬させ、30分にわたって混合して、その上にPSAAポリマーが一様に配置されたSiNW-炭素粉末を含む混合物を得た。
c)5リットル容器内の混合物を、40℃から120℃の間の温度で乾燥させるために、窒素下でおよそ2時間にわたってオーブンに入れ、1010.1gの乾燥複合体粒子を得た。PSAAコーティングSiNW-炭素粉末を、ミル粉砕又はふるい分けを一切せずに、分離した粒子の粉末に形成した。
【0108】
(実施例2)
ハーフセルの検討
以下の一般的プロトコルに従って、3種のハーフセルを調製した。
a)遊星型ニーダー容器内で、6.12gの1.5質量%のCMCストック溶液(DI水中)を、3.97gのDI(脱イオン)水に徐々に加え、次いで、600rpmで15分にわたって混合した。得られた混合物を30℃に保った。
b)5.94gのSiNW-炭素粉末(その上に配置されたPSAAあり又はPSAAなし)を、工程a)から得た混合物に徐々に加えた。得られた混合物を、遊星型ニーダー容器(ノンバブリングニーダー、NBK-1)内で、400rpmで15分にわたって混合した。
c)0.23gの40質量%のSBR懸濁液を、工程b)から得た混合物に加えた。次いで、得られた混合物を400rpmで15分にわたって混合した。
d)工程c)から得たスラリーを、40℃の浴に2分にわたって入れ、次いで、再び混合して、30℃のスラリー温度を達成した。
e)次いで、工程d)から得たスラリーを使用して、銅箔上に、ドクターブレードを使用してアノード電極をコーティングした。次いで、電極を90℃で60分にわたって乾燥させた。
f)室温で60分後、次いで、工程e)から得た電極を、1~1.65g・cm-3の密度にカレンダー加工し、1.4g・cm-3の密度を実施例として使用した。
【0109】
ハーフセル1を使用して、1.5質量%のCMC、1.5質量%のSBR、1質量%のSuper P(登録商標)(カーボンブラック)導電性添加剤、及び9.7質量%のSiを含有するSiNW-炭素粉末(PSAAなし)96質量%を有するアノードについて、ベースライン性能を設定した。対電極(対極)としてリチウム箔を使用した。図4及び表1(下)に示す通り、脱リチウム化の際に観測された初回比容量は629.03mAh/gであり、観測された初期クーロン効率(ICE)は90.00%であった。
【0110】
ハーフセル2:95.54質量%のSiNW-炭素粉末(9.7質量% Si)、1.5質量%のCMC、1.5質量%のSBR、1質量%のSuper P(登録商標)(カーボンブラック)導電性添加剤及び1質量%のPSAA(50質量%のEtOH中PSAA溶液由来)を混合することによって、水性スラリーを調製した。このスラリーを使用して、銅箔上にアノード電極をコーティングした。1.5質量%のCMC、1.5質量%のSBR及び1質量%のSuper P、並びに95.54質量%のSiNW-炭素粉末(9.7質量% Si)を含むスラリーに、1質量%のPSAAを加えると、図4及び表1(下)に示される通り、得られるアノードは、633.08mAh/gの脱リチウム化の際の初回比容量、及び90.13%の初期クーロン効率(ICE)を示す。この結果は、PSAAをアノードに組み込むことで、ベースラインアノードハーフセル1に対して、高い脱リチウム容量及び高いICEを生じることを示している。
【0111】
ハーフセル3:実施例1に概説した堆積法に従って、1質量%のPSAAで前処理したSiNW-炭素粉末(9.7質量% Si)96質量%、1.5質量%のCMC、1.5質量%のSBR及び1質量%のSuper P(登録商標)(カーボンブラック)導電性添加剤を混合することによってスラリーを調製した。このスラリーを使用して、銅箔上にアノード電極をコーティングした。1質量%のPSAAで前処理したSiNW-炭素粉末を使用する場合、図4及び表1(下)に示される通り、得られるアノードは、634.89mAh/gという更に上昇した脱リチウム化の際の初回比容量、及び90.92%という更に改善されたICEを示す。この結果は、PSAAがSiNW-炭素粉末上に存在することで、CMC/SBRバインダとの好ましい相互作用が生じうることを実証している。これらの相互作用によってアノードがより一様となり、リチウムイオンの活物質(SiNW及びグラファイト)への良好なアクセスをもたらし、これによって、改善された比容量及びICEが生じる。
【0112】
これら3種のアノードハーフセルの性能を、表1にまとめ、図4に図示する。
【0113】
【表1】
【0114】
図4及び表1に示されている通り、PSAAの適用によって、ICEが1%近く上昇する。アノード及びカソード比容量のN/P比(すなわち、N/P=1.05)によって、アノードICEが約1%高いことで、グラファイト材料よりも最大5倍高価であるカソード材料が、約1%節約され、EVセル作製業者に有意な節約をもたらす。
【0115】
同じスラリー組成物を使用して、3種のアノードを形成し、これらをNCAパウチセルに使用した。NCA材料はBASF社から購入した。N/P比は1.05であった。1サイクルにわたる4.2Vと2.5Vとの間のC/20、それぞれ1サイクルにわたる4.2Vと3Vとの間のC/10及びC/5における、必然的な充電/放電における形成過程が完了したら、図5に示す通り、3種のセルを4.2Vと3Vとの間で、C/3充電及びC/2放電においてサイクル動作させた。サイクル動作性能を測定し、図5に概略を示す通り比較した。
【0116】
1.5質量%のCMC/1.5質量%のSBR、1質量%のSuper P及びSiNW-炭素粉末(9.7質量% Si)を使用したベースラインアノードで、サイクル動作性能を設定する。図5に示される通り、1質量%のPSAAをスラリーに加えると、得られるアノードは、ベースラインNCAセルと比べて、NCAフルセルサイクル動作性能におけるいくらかの改善を示した。図5に示されている通り、1質量%のPSAAで前処理したSiNW-炭素粉末を含有するアノードを使用すると、更なる改善が達成された。この結果は、PSAAで前処理したSiNW-炭素粉末によって、とりわけ、低含有量のCMC/SBRバインダを使用したアノードにおける、SiNW-炭素アノードフルセルの性能を著しく改善することができることを実証している。
【0117】
(実施例3)
PSAAの炭化の検討
以下の薬剤を組み合わせた。
・ 1kgの、グラファイト粒子に機械的且つ導電的に付着した、Siの質量%が9.7%に等しいケイ素ナノワイヤ(ここでは以後、SiNW-炭素粉末とも称する)。このケイ素ナノワイヤは、20nm~100nmの範囲内の直径を有し(FESEMを用いて測定される)、グラファイト粒子は、D50=14ミクロンの市販の天然グラファイトからなる。このケイ素ナノワイヤは、参照によって全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第10,243,207号に記載される通り、CVD反応器内で、グラファイト粒子上に配置された酸化銅(I)ナノ粒子触媒によって、シランガス前駆体の分解を使用して、グラファイト粒子上に成長させた。
・ 160.0gの50質量% EtOH中のPSAA溶液(計算上、80.0gのPSAAポリマー含有量)。これはSigma-Aldrich社から入手し、分子量Mが約1600である。
・ 1000gのエタノール。
【0118】
複合体は、以下の通り調製した。
a)5リットルステンレス鋼容器内で、1000gのエタノールを、160.0gの50質量%エタノール中PSAA溶液と、5分にわたってプロペリング(撹拌翼による撹拌)によって混合して、80.0gのPSAAポリマーを含む560.0gの希釈PSAA溶液を得た。
b)5リットル容器内で、1kgのSiNW-炭素粉末をPSAA溶液に浸漬させ、30分にわたって混合して、その上にPSAAポリマーが一様に配置されたSiNW-炭素粉末を含む混合物を得た。
c)5リットル容器内の混合物を、40℃から120℃の間の温度で乾燥させるために、窒素下でおよそ2時間にわたってオーブンに入れ、1080.0gの乾燥複合体粒子を得た。PSAAコーティングSiNW-炭素粉末を、ミル粉砕又はふるい分けを一切せずに、分離した粒子の粉末に形成した。
【0119】
このSiNW-炭素粉末上のPSAAは、窒素ガス下、1時間にわたる700℃で炭化させることができる。
【0120】
比較のため、アセチレン/窒素(1:1)ガスを使用して、1時間にわたる700℃で、同じSiNW-炭素粉末上の非晶質炭素コーティングを調製した。
【0121】
以下の一般的プロトコルに従って、3種のハーフセルを調製した。
a)遊星型ニーダー容器内で、6.12gの1.5質量% CMCストック溶液(DI水中)を、3.97gのDI(脱イオン)水に徐々に加え、次いで、600rpmで15分にわたって混合した。得られた混合物を30℃に保った。
b)5.94gのSiNW-炭素粉末(その上に配置されたPSAAあり又はPSAAなし)を、工程a)から得た混合物に徐々に加えた。得られた混合物を、遊星型ニーダー容器(ノンバブリングニーダー、NBK-1)内で、400rpmで15分にわたって混合した。
c)0.23gの40質量%のSBR懸濁液を、工程b)から得た混合物に加えた。次いで、得られた混合物を400rpmで15分にわたって混合した。
d)工程c)から得たスラリーを、40℃バスに2分にわたって入れ、次いで、再び混合して、30℃のスラリー温度を達成した。
e)次いで、工程d)から得たスラリーを使用して、銅箔上に、ドクターブレードを使用してアノード電極をコーティングした。次いで、電極を90℃で60分にわたって乾燥させた。
f)室温で60分後、次いで、工程e)から得た電極を、1~1.65g・cm-3の密度にカレンダー加工し、1.4g・cm-3の密度を実施例として使用した。
【0122】
ハーフセル1を使用して、1.5質量%のCMC、1.5質量%のSBR、及び9.7質量%のSiを含有するSiNW-炭素粉末(PSAAなし)97質量%を有するアノードについて、ベースライン性能を設定した。対電極としてリチウム箔を使用した。脱リチウム化の際に観測された初回比容量は、648.27mAh/gであった。観測された初期クーロン効率(ICE)は、92.41%であった。
【0123】
ハーフセル2:97質量%の、非晶質炭素コーティングを有するSiNW-炭素粉末(9.7質量% Si)、1.5質量%のCMC及び1.5質量%のSBRを混合することによって、水性スラリーを調製した。このスラリーを使用して、銅箔上にアノード電極をコーティングした。得られたアノードは、632.46mAh/gの脱リチウム化の際の初回比容量、及び91.78%の初期クーロン効率(ICE)を示し、非晶質炭素コーティングされたSiNW-炭素粉末アノードは、ハーフセル1における非コーティングSiNW-炭素粉末アノードよりもわずかに低い脱リチウム化容量を有し、したがって、低いICEを有することを示している。
【0124】
ハーフセル3:97質量%の、PSAAで前処理したSiNW-炭素粉末(9.7質量%Si)を混合することによってスラリーを調製し、窒素下、700℃で炭化させた。バインダは、1.5質量%のCMC及び1.5質量%のSBRであった。このスラリーを使用して、銅箔上にアノード電極をコーティングした。得られたアノードは、638.69mAh/gの脱リチウム化の際の初回比容量、及び91.89%のICEを示した。リチウム化は、CVD法におけるアセチレン分解由来の非晶質炭素コーティングSiNW-炭素粉末アノードと同等である。しかしながら、脱リチウム化は、非晶質炭素コーティングSiNW-炭素粉末アノードよりも良好であり、より高いICEを生じた。
【0125】
図6において、X軸は、完全リチウム化容量によって正規化した容量%であり、実施例3の3種のハーフセルについてのリチウム化曲線を図示している。図6に示されている通り、炭化PSAAについてのリチウム化曲線は、SiNW-炭素粉末上でアセチレンを熱分解した非晶質炭素コーティングについての曲線と同様である。図6Aに示されている通り、炭化PSAAコーティングSiNW-炭素アノード及び非晶質炭素コーティングSiNW-炭素アノードは、炭化層によって、非コーティングSiNW-炭素アノードに対してリチウム化が同様に促進される。図6Bに示されている通り、炭化PSAAコーティングSiNW-炭素アノードの場合の脱リチウム化は、非晶質炭素コーティングSiNW-炭素アノード及び非コーティングSiNW-炭素アノードよりも低い電位で起こる。図6Cに示されている通り、炭化PSAAコーティングSiNW-炭素アノードは、良好な初期クーロン効率を維持する。図6に示されている通り、PSAA由来炭素コーティングは、アセチレンガスの熱分解のより伝統的な方法と比較して、より一様であり、より少ない廃棄物でより容易に適用され、SiNWの脱リチウム化が促進された。
【0126】
(実施例4)
フル電気化学セルのサイクル動作(片面NCAカソード+PSAA単一表面処理なし又はありの単層SiNW-炭素粉末アノード)
以下の薬剤を準備した。
・ 非コーティング天然グラファイト粒子に機械的且つ導電的に付着した、1kgのSi-C複合体中のSiの質量%が9.73%に等しいケイ素ナノワイヤ 0.0973kg(ここでは以後、実施例においてSiNW-炭素粉末と称する)。このケイ素ナノワイヤは、20nm~100nmの範囲内の直径を有し(FESEMを用いて測定して)、このグラファイト粒子は、D50=14ミクロンの市販の非コーティング天然グラファイトからなる。ケイ素ナノワイヤは、参照によって全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第10,243,207号に記載される通り、CVD反応器内で、グラファイト粒子上に配置された酸化銅(I)ナノ粒子触媒から、シランガス前駆体の分解を使用して、グラファイト粒子上に成長させた。
・ EtOH中の11.111質量%のPSAA溶液 1000g(計算上、111.11gのPSAAポリマー含有量)。これはSigma-Aldrich社から入手したものであり、分子量Mnは約1600である。
・ 888.89gのエタノール
【0127】
以下の混合物を調製した。
a)5-リットルステンレス鋼容器内で、888.89gのエタノールを、111.11gの11.111質量%のエタノール中PSAA溶液と、5分にわたって撹拌翼による撹拌によって混合して、111.11gのPSAAポリマーを含む1000gの希釈PSAA溶液を得た。
b)5-リットル容器内で、1kgのSiNW-炭素粉末をPSAA溶液に浸漬させ、30分にわたって混合して、その上にPSAAポリマーが一様に配置されたSiNW-炭素粉末を含む混合物を得た。
c)5-リットル容器内の混合物を、40℃から120℃の間の温度で乾燥させるために、窒素下で少なくとも2時間にわたってオーブンに入れ、1111.11gの、複合体中に10%のPSAAを有する乾燥された複合体粒子を得た。PSAAコーティングSiNW-炭素粉末を、ミル粉砕又はふるい分けを一切せずに、分離した粒子の粉末に形成した。
【0128】
炭化処理前の表面上のPSAA含有量は、1質量%~80質量%、又は5質量%~30質量%でありうることに留意されたい。この具体例では、10質量%のPSAAを使用した。
【0129】
炭化工程は、反応器内で、不活性ガス環境下で行うことができる(例えば、反応器温度を700℃へ昇温中に、10%のPSAAを有するSiNW-炭素粉末1kg当たり1.0LPMでNを流し、次いで、1時間にわたって温度を700℃に保ってPSAAの炭化を完了させ、次いで、Nを流し続けて、反応器を300℃未満の温度に冷却した後、処理されたSiNW-炭素粉末を反応器から取り出す)。炭化温度は、450℃~900℃の範囲内でありうる。炭化時間は、30分~5時間でありうる。N流は、0.1LPM/kg SiNW-炭素粉末~5LPM/kg SiNW-炭素粉末で変動させることができる。N流の目的は、空気/O及び分解ガスを反応器から除去すること、並びに炭化表面コーティングが酸化されるのを防止することである。
【0130】
PSAAはSiNW-炭素粉末表面に、すなわち、グラファイトとSiナノワイヤとの両方の表面に、容易且つ一様にコーティングすることができるため、炭化表面コーティングも一様であり、例えば、炭化処理後、Siナノワイヤが20.7nmの直径を有する、図7A及び図7BのTEM画像において、Siナノワイヤ表面とグラファイト表面との両方の上に、一様な1.9nmコーティング層を観測することができる。
【0131】
2セットのNCAパウチセルを、1つ目はPSAA炭化処理有りで、2つ目は処理なしで調製した。
a)100gの4質量%CMCストック溶液(DI水中)を、遊星型ニーダー容器に入れた。容器を30℃に保った。
b)46gのSiNW-炭素粉末(PSAA炭化処理有りのセットについては、上に炭化PSAAが配置されており、処理なしのセットについてはPSAAなし)を、工程a)から得た混合物に徐々に加えた。得られた混合物を、遊星型ニーダー容器(ノンバブリングニーダー、NBK-1)内で、400rpmで15分にわたって混合した。
c)工程b)から得たスラリーを、40℃の浴に2分にわたって入れ、次いで、再び混合して、30℃のスラリー温度を達成した。
d)次いで、工程c)から得たスラリーを使用して、銅箔上に、ドクターブレードを使用してアノード電極をコーティングしたが、2種のNCAセルの各々について、1つ目はPSAA炭化処理を有し、2つ目は処理なしであった。次いで、電極を90℃で60分にわたって乾燥させた。
e)室温で60分後、次いで、工程d)から得た電極を、1.4g・cm-3の密度にカレンダー加工した(典型的には、1g・cm-3から1.65g・cm-3の間の密度を使用することができる)。
【0132】
NCAカソードをSiNW-炭素粉末アノード電極と対にすることによって、2セットの電気化学セルを構築した。SiNW-炭素粉末アノード電極は、8質量%のCMCと、9.73質量%のSiを含有するSiNW-炭素粉末 92質量%でコーティングされていた。第1のセットは、炭化PSAAを有するSiNW-炭素粉末を含有しており、第2のセットは、PSAAを一切塗布されていないSiNW-炭素粉末を含有していた。
【0133】
図8及び図9に示す通り、2セットの電気化学セルのサイクル動作性能を、異なるサイクル動作プロトコルを使用して、500サイクルにわたって比較した。
【0134】
電気化学セルを、OCVから4.25Vの間の充電電流についてはC/20を用いて、4.25Vから2.5Vの間の放電電流についてはC/20を用いて、単純な形成プロトコル(formation protocol)に供した。電極のプレリチウム化は行わなかった。あるサイクルについてはC/10で、別のサイクルについてはC/5で、セルを特性評価した。次いで、図8に示す通り、充電についてはC/3、放電についてはC/3で、500サイクルにわたってセルをサイクル動作させた(第1のサイクル動作プロトコル)。処理なしのアノードを使用したセルは、500回目のサイクルにおいて71%の容量保持を示した。処理をしたアノードを使用したセルは、より良好なサイクル動作を示し、500回目のサイクルにおいて74%の容量保持を示した。処理によってサイクル動作中の容量保持が改善し、より遅い容量減衰をもたらした。図9(第2のサイクル動作プロトコル)において、C/3充電及びC/2放電で、セルをサイクル動作させた。100サイクル毎に、C/10でセルを使用して容量を確認し、容量スパイクを生じたが、これは、Siナノワイヤが電気化学的に活性であり続け、C/10において完全容量が実現したことを示している。2つのC/10サイクルでの容量確認によって、Liイオン拡散チャネルが活性化し、したがって、容量スパイクには遅い減衰が尾を引いて続いた。結果として、処理なしのアノードを使用したセルは、500回目のサイクルにおいて70.5%の容量保持を示した。処理をしたアノードを使用したセルは、より良好なサイクル動作を示し、500回目のサイクルにおいて75.5%の容量保持を示した。これによって、炭化PSAA表面処理でサイクル動作挙動が改善し、容量減衰が遅くなったことが今一度明らかとなった。
【0135】
(実施例5)
フル電気化学セルのサイクル動作(片面NCAカソード+単一及び二重PSAA表面処理有りの単層SiNW-炭素粉末アノード)
実施例4に記載した工程に従って、市販の非コーティング天然グラファイト粒子に機械的且つ導電的に付着した、Siの質量%が9.73%に等しいケイ素ナノワイヤを、まず、5~20%のPSAA(例えば20%のPSAA)を使用して一様にコーティングし、次いで、最高700℃の温度で炭化させた。炭化加工の後、炭化SiNW-炭素粉末上に、0.1~5%のPSAAを使用することによって、第2の表面コーティングを一様に適用した(二重表面処理)。この実施例では、0.3質量%のPSAAを使用した。第2のPSAAコーティングは、先の実施例に記載したものと同じ手順に従って適用し、炭化させなかった。
【0136】
4セットの電気化学セル(SiNW-炭素粉末アノード及びNCAカソードを用いたフルセル)を調製して、異なるタイプのアノード材料とPSAAコーティングとの組合せについて、フルセル性能を評価し、比較した。
1)8質量%のCMCと、Si質量%が9.7%に等しいSiNW-炭素粉末 92質量%とを用いたアノードを使用した電気化学セル(表面処理なし)。
2)8質量%のCMCと、Si質量%が9.7%に等しいSiNW-炭素粉末 92質量%とを用い、5~20%のPSAA(例えば20%のPSAA)のコーティング層を一様にコーティングし、最高700℃の温度で炭化させたアノードを使用した電気化学セル(単一表面処理)。
3)わずか5質量%のCMCと、5質量%のC65カーボンブラック導電性添加剤(IMERYS Graphite & Carbon社製)と、Si質量%が9.7%に等しいSiNW-炭素粉末 90質量%とを用い、5~20%のPSAA(例えば20%のPSAA)を使用したコーティング層を一様にコーティングし、最高700℃の温度で炭化させたアノードを使用した電気化学セル(単一表面処理)。
4)わずか5質量%のCMCと、5質量%のC65カーボンブラック導電性添加剤(IMERYS Graphite & Carbon社製)と、Si質量%が9.7%に等しいSiNW-炭素粉末 90質量%とを用い、5~20%のPSAA(例えば20%のPSAA)を使用した第1のコーティング層を一様にコーティングし、最高700℃の温度で炭化させ、次いで、0.1~5%のPSAA(例えば0.3質量%)を使用した第2のコーティング層を一様にコーティングし、炭化させなかったアノードを使用した電気化学セル(二重表面処理)。
【0137】
各セットに使用したアノード材料のタイプを概説した4セットの電気化学セルのまとめ、及び初期セル性能を、図10に示す。
【0138】
電気化学セルを、OCVから4.25Vの間の充電についてはC/20において、4.25Vから2.5Vの間の放電についてはC/20において、単純な形成プロセスにかけた。アノード及びカソードについて、プレリチウム化は行わなかった。あるサイクルについてはC/10で、別のサイクルについてはC/5で、セルを特性評価した。充電についてはC/3、放電についてはC/3で、500サイクルにわたってセルをサイクル動作させた。図11及び図12は、先の段落に記載した、第3のタイプの電気化学セル(炭化表面を有する単一表面処理、5%のCMC)と、第4の電気化学セル(炭化表面上に0.3%のPSAAがコーティングされた二重表面処理、5%のCMC)との間の放電比容量と容量保持とを比較した、2つのチャートを含む。
【0139】
異なるサイクル動作プロトコルを使用して、500サイクルにわたってサイクル動作性能を比較した。図11及び図12におけるチャートは、単一表面処理を用いた電気化学セル及び二重表面処理を用いた電気化学セルについて、500サイクルにわたる放電比容量及び%容量保持を示している。
【0140】
二重表面処理を用いた電気化学セルは、単一表面処理を用いた電気化学セルと比較して、より安定なサイクル動作性能を呈することが、チャートから推測される。チャートに示される通り、400mAh/gの可逆的容量には、単一表面処理を用いたセルの場合、200サイクル後に達し、二重表面処理を用いたセルの場合、400サイクル後に達する。
【0141】
二重表面処理によって、より少ないポリマーバインダ(例えば、わずか5%のCMC)を使用することが可能となり、セル性能の安定性が改善する。理論によって束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、二重表面処理によって、表面積が低下し、材料と電解質との間の界面を安定化すると仮説を立てている。
【0142】
本発明の態様に準拠したこれらの新規PSAA表面コーティングは、ケイ素ナノワイヤ、グラファイト粒子、又は他の種類の粒子(例えば、炭素、金属、又はその酸化物若しくは合金)に適用することができる。これらのコーティングは、ケイ素ナノワイヤ及びグラファイト粒子の表面を一様にすることに寄与する。表面の一様性がより大きいことで、SEI形成が改善し、より良好な安定性及びサイクル動作性能に寄与する。本発明の態様に準拠したPSAAコーティングは、廉価であり、粉末を壊すための追加のミル粉砕加工を使用することなく、SiNW-炭素粉末材料に一様な表面処理を適用する都合のよい方法を提供する。ケイ素ナノワイヤとグラファイト粒子との両方に一様に適用されたPSAA表面コーティングは、任意選択により場合によって、ケイ素ナノワイヤ及びグラファイト粒子への一様な炭素コーティング層を作製するために、本発明の態様に準拠して炭化させることができ、これによって、導電性添加剤の必要性を低減し、電極における種々のバインダポリマーとの相互作用(親和性)を増強することができる。
【0143】
参照及び説明を目的として本発明の具体的な実施形態をここに記載したが、添付の特許請求の範囲において定義される本発明の範囲から逸脱しない様々な変更が、当業者には明らかとなる。
【0144】
本開示の実施形態の記載は、網羅的であること、又は本開示を厳密な開示された形態に限定することを意図するものではない。関連する技術分野の当業者には認識されるように、本開示の具体的な実施形態及び実施例は、説明のためにここに記載されており、本開示の範囲内で、様々な等価の変更が可能である。例えば、方法の工程又は機能が所与の順序で提示されるが、代替的な実施形態では、異なる順序で機能を実行してもよく、又は複数の機能を実質的に同時に実行してもよい。ここに提供する開示の教示は、適宜、他の手順又は方法に適用することができる。ここに記載する様々な実施形態同士を組み合わせて、更なる実施形態を提供することができる。本開示の態様は、必要な場合、上記参照の組成物、機能及び概念、並びに本開示のまた更なる実施形態を提供する応用を用いるために、変更することができる。これらの及び他の変化は、詳細な記載に照らして、本開示に対して行うことができる。このような変更はすべて、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【0145】
前述の実施形態のいずれかの具体的な要素は、組み合わせること、又は他の実施形態における要素で置換することができる。更に、本開示のある特定の実施形態に関係する利点は、これらの実施形態の文脈で記載してきたが、他の実施形態もこのような利点を呈することがあり、すべての実施形態が、必ずしも、本開示の範囲内にあるこのような利点を呈する必要がある訳ではない。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】