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特表2025-500666ナノセルロース系二次電池電極用水系バインダーおよびスラリー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】ナノセルロース系二次電池電極用水系バインダーおよびスラリー
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20241226BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20241226BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241226BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541682
(86)(22)【出願日】2022-03-10
(85)【翻訳文提出日】2024-09-05
(86)【国際出願番号】 KR2022003335
(87)【国際公開番号】W WO2023132404
(87)【国際公開日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】10-2022-0003527
(32)【優先日】2022-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519350498
【氏名又は名称】ハンソル ケミカル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HANSOL CHEMICAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】7-8F, 513, Teheran-ro, Gangnam-gu, Seoul 06169, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】クォン,ヒョンジ
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ジェヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム,チャンボム
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジヘ
(72)【発明者】
【氏名】リュ,ジェホ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ミヌ
(72)【発明者】
【氏名】チュン,キョンエ
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA14
5H050BA17
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA11
5H050EA23
5H050EA28
5H050HA01
(57)【要約】
本発明は、ゴム状ポリマーを含むコア;および前記コアの表面にアクリル系または非アクリル系モノマーが化学反応により結合して形成されるシェル;を含むコア-シェル構造のラテックス粒子;および前記ラテックス粒子表面の官能基と相互作用するナノセルロース;を含む、ナノセルロース系二次電池電極用水系バインダーおよびこれを含む二次電池電極用スラリーを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム状ポリマーを含むコア;および
前記コアの表面にアクリル系モノマーおよび非アクリル系モノマーからなる群より選択される1種または2種のモノマーが化学反応により結合して形成されるシェル;
を含むコア-シェル構造のラテックス粒子;および
前記シェル表面の官能基と相互作用するナノセルロース;を含む、ナノセルロース系二次電池電極用水系バインダー。
【請求項2】
前記ナノセルロースは、セルロースナノ繊維(Cellulose Nanofibers,CNF)、セルロースナノクリスタル(Cellulose Nanocrystal,CNC)およびバクテリアセルロース(Bacterial Cellulose,BC)からなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載のナノセルロース系二次電池電極用水系バインダー。
【請求項3】
前記ナノセルロースは、前記ラテックス粒子固形分の総質量に対して、0.01重量%~1.0重量%である、請求項1に記載のナノセルロース系二次電池電極用水系バインダー。
【請求項4】
前記化学反応は、重合反応である、請求項1に記載のナノセルロース系二次電池電極用水系バインダー。
【請求項5】
前記相互作用は、水素結合(hydrogen bond)である、請求項1に記載のナノセルロース系二次電池電極用水系バインダー。
【請求項6】
前記シェル表面の官能基は、カルボニル基、カルボキシ基およびニトリル基を含む群より選択される1種以上である、請求項1に記載のナノセルロース系二次電池電極用水系バインダー。
【請求項7】
前記ゴム状ポリマーは、ブタジエンゴム、アクリルゴム、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム、イソプレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体ゴム、ポリオルガノシロキサン-ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム複合体、およびこれらの混合物からなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載のナノセルロース系二次電池電極用水系バインダー。
【請求項8】
前記アクリル系モノマーは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレートおよびイソボニル(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載のナノセルロース系二次電池電極用水系バインダー。
【請求項9】
前記非アクリル系モノマーは、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルカプロラクトン、スチレン、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジンおよび酢酸ビニルからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載のナノセルロース系二次電池電極用水系バインダー。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の水系バインダー、負極活物質および増粘剤を含む、ナノセルロース系二次電池電極用スラリー。
【請求項11】
前記増粘剤は、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、およびこれらのアンモニウム塩およびアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸、およびこれらのアンモニウム塩およびアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸またはアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸またはマレイン酸あるいはフマル酸とビニルアルコールの共重合体などのポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール;ポリエチレンオキシド;変性ポリアクリル酸;酸化スターチ;リン酸スターチ;カゼイン;およびアクリロニトリル-ブタジエン共重合体水素化物;からなる群より選択される1種以上である、請求項10に記載のナノセルロース系二次電池電極用スラリー。
【請求項12】
請求項11に記載のスラリーを利用して製造した、二次電池電極。
【請求項13】
製造過程で真空乾燥前の剥離強度が8.5gf/cm以上であり、真空乾燥後の剥離強度が9.0gf/cm以上である、請求項12に記載の二次電池電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用電極製造に使用するためのナノセルロース系の水系バインダーおよびスラリーに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池用電極は、一般に、活物質とバインダーを含むスラリーを金属集電体上に塗布し、乾燥させることにより製造される。電極作製用スラリーは、例えば、負極活物質、バインダー、分散剤を混合・混練して得られる。スチレン-ブタジエンゴム(SBR)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)からなる水性バインダーとして使用するためのスラリーは、当技術分野で知られている。このような従来のSBR水性バインダーを電極に塗布し乾燥させる過程で、均一に分散したSBR粒子が蒸発した水分とともに電極の上層に移動する現象(Migration)が発生し、電極の結着力が減少するという問題があった。そのため、この移動現象を抑制できる新たなバインダー関連技術の研究が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、コアシェル構造のラテックス粒子とナノセルロースを含有することによって、ラテックス粒子とナノセルロースとの間に強い水素結合が形成され、従来技術で発生するSBRの電極上層の移動現象(Migration)を抑制し、電極の結着力を向上させることができるナノセルロース系二次電池電極用水性バインダー及びスラリーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一実施形態に従うナノセルロース系二次電池電極用水系バインダーは、ゴム状ポリマーを含むコア;およびコアの表面上のアクリル系モノマーおよび非アクリル系モノマーからなる群より選択される1種または2種のモノマーの化学反応により形成されるシェル;を含むコア-シェル構造のラテックス粒子;およびシェルの表面上の官能基と相互作用するナノセルロース;を含むことができる。
【0005】
ナノセルロースは、セルロースナノ繊維(Cellulose Nanofibers、CNF)、セルロースナノクリスタル(Cellulose Nanocrystal、CNC)およびバクテリアセルロース(Bacterial Cellulose、BC)からなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0006】
ナノセルロースは、前記ラテックス粒子固形分の総質量に対して、0.01重量%~1.0重量%であってもよい。
【0007】
シェルを形成する化学反応は、重合反応であってもよい。
【0008】
相互作用は水素結合(hydrogen bond)であってもよい。
【0009】
シェル表面の官能基は、カルボニル基、カルボキシ基およびニトリル基を含む群より選択される1種以上であってもよい。
【0010】
ゴム状ポリマーは、ブタジエンゴム、アクリルゴム、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム、イソプレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体ゴム、ポリオルガノシロキサン-ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム複合体、およびこれらの混合物からなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0011】
アクリル系モノマーは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレートおよびイソボニル(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0012】
非アクリル系モノマーは、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルカプロラクトン、スチレン、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジンおよび酢酸ビニルからなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0013】
本発明の一実施形態に従うナノセルロース系二次電池電極用スラリーは、上述した水系バインダー、負極活物質および増粘剤を含むことができる。
【0014】
増粘剤は、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、およびこれらのアンモニウム塩およびアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸、およびこれらのアンモニウム塩およびアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸またはアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸またはマレイン酸あるいはフマル酸とビニルアルコールの共重合体などのポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール;ポリエチレンオキシド;変性ポリアクリル酸;酸化スターチ;リン酸スターチ;カゼイン;およびアクリロニトリル-ブタジエン共重合体水素化物;からなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0015】
本発明の一実施形態による二次電池電極は、上述したスラリーを利用して製造したものであってもよい。
【0016】
本発明の一実施形態による二次電池電極は、製造過程において、真空乾燥前の剥離強度が8.5gf/cm以上であり、真空乾燥後の剥離強度が9.0gf/cm以上であるものであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態に従うナノセルロース系二次電池電極用水性バインダーは、電極の乾燥に伴うバインダーの移動を抑制し、その結果、電極中にバインダーが均一に分布し、優れた電極結着力を有する。
【0018】
また、本発明の一実施形態に従うナノセルロース系二次電池電極用スラリーは、粘度が向上し、優れたスラリー安定性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の比較例3、実施例1および実施例2で製造したバインダーの凝集有無および表面状態を肉眼で観察した写真である。
図2】本発明の比較例2および実施例1~3のスラリーのせん断変形率と粘度の関係を対数スケールで示したグラフである。
図3】本発明の比較例2、比較例3および実施例1~3の電極を製造した後、製造過程における電極の真空乾燥前および真空乾燥後の状態の結着力をそれぞれ比較したグラフである。
図4】本発明の実験例5で実施したSAICAS測定方法の概略図である。
図5】本発明の比較例2、比較例3および実施例1~3を用いて製造された合材層の異なる切削深さにおけるSAICAS測定時に作用する水平方向の力を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
第1、第2および第3などの用語は、様々な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、構成要素、領域、層またはセクションを他の部分、構成要素、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で説明する第1の部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲で、第2の部分、成分、領域、層またはセクションとして言及することができる。
【0021】
ここで使用される専門用語は、単に特定の実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書で使用される単数形は、文言が明確に反対の意味を示さない限り、複数形も含む。本明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、ステップ、動作、要素及び/又は成分を具体化するものであり、他の特性、領域、整数、ステップ、動作、要素及び/又は成分の存在又は付加を排除するものではない。
【0022】
ある部分が他の部分「上」または「の上」にあると記載されている場合、それはまさに他の部分の上または上にある可能性があり、またはその間に他の部分を伴う可能性がある。 対照的に、ある部分が他の部分の「直上」にあると記載されている場合、その間に他の部分が介在することはない。
【0023】
特に記載がない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。別に定義していないが、ここで使用される技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同じ意味を持つ。通常使用される辞書で定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に合致する意味を持つものとさらに解釈され、定義されない限り、理想的または非常に正式な意味に解釈されない。
【0024】
以下、本発明の実施形態について、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳細に説明する。しかしながら、本発明は様々な異なる形態で実施することができ、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0025】
[ナノセルロース系二次電池電極用水系バインダー]
【0026】
本発明の一実施形態に従うナノセルロース系二次電池電極用水系バインダーは、ゴム状ポリマーを含むコア;およびコアの表面上のアクリル系モノマーおよび非アクリル系モノマーからなる群より選択される1種または2種のモノマーの化学反応により形成されるシェル;を含むコア-シェル構造のラテックス粒子;およびシェルの表面上の官能基と相互作用するナノセルロース;を含むことができる。具体的に、シェルは、コアの表面上のアクリル系モノマーおよび非アクリル系モノマーからなる群より選択される1種または2種のモノマーの重合反応により形成され得る。具体的に、シェルは、コアの表面上のアクリル系モノマーおよび非アクリル系モノマーの重合反応により形成され得る。ナノセルロースを含むことにより、下記で説明するようにナノセルロースと強い水素結合を形成することができるコア-シェル構造のラテックス粒子がナノセルロースによって固定されるので、電極製造過程で蒸発される水分と共にコア-シェル構造のラテックス粒子が電極の上層に移動する現象(Migration)を抑制することができる。したがって、電極製造時に乾燥過程を経ても電極内のバインダーの分布が均一に維持される。
【0027】
ナノセルロースは、セルロースナノ繊維(Cellulose Nanofibers,CNF)、セルロースナノクリスタル(Cellulose Nanocrystal,CNC)およびバクテリアセルロース(Bacterial Cellulose,BC)からなる群より選択される1種以上であってもよい。具体的に、ナノセルロースは、セルロースナノクリスタル(CNC)であってもよい。
【0028】
シェル表面の官能基は、カルボニル基、カルボキシ基およびニトリル基を含む群より選択される1種以上であってもよい。具体的に、カルボニル基およびニトリル基を含む群より選択される1種または2種であってもよい。シェル表面の官能基が前記官能基を含むことにより、ナノセルロースのヒドロキシ基(-OH)と強い水素結合(hydrogen bond)を形成することができる。
【0029】
ナノセルロースは、前記ラテックス粒子固形分の総質量に対して、0.01重量%~1.0重量%であってもよい。具体的に、0.05重量%~0.9重量%であることもでき、より具体的に、0.05重量%~0.8重量%であってもよい。ナノセルロースの添加量が少なすぎると、バインダーの分散性向上効果、電極製造過程におけるコア-シェル構造ラテックス粒子の移動現象(Migration)の抑制効果およびこれを用いて製造された電極の結着力向上効果が十分に発揮されなく、多すぎると、バインダー内部でナノセルロース間の水素結合およびナノセルロースとコア-シェル構造のラテックス粒子との間の水素結合が著しく多くなり、凝集が形成されるため、バインダーの分散性およびこれを利用して製造された電極の結着力が大きく低下する可能性がある。
【0030】
ゴム状ポリマーは、ブタジエンゴム、アクリルゴム、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム、イソプレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体ゴム、ポリオルガノシロキサン-ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム複合体、およびこれらの混合物からなる群より選択される1種以上であってもよい。具体的に、ゴム状ポリマーは、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムであってもよい。
【0031】
アクリル系モノマーは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレートおよびイソボニル(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上であってもよい。具体的に、アクリル系モノマーは、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレートおよび2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートからなる群より選択される1種以上であり、より具体的に、ブチル(メタ)アクリレートおよび2-エチルヘキシルメタクリレートのうち1種以上であってもよい。より具体的に、ブチル(メタ)アクリレートおよび2-エチルヘキシルメタクリレートであってもよい。
【0032】
非アクリル系モノマーは、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニルカプロラクトン、スチレン、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジンおよび酢酸ビニルからなる群より選択される1種以上であってもよい。具体的に非アクリル系モノマーは、(メタ)アクリロニトリルであってもよい。
【0033】
[ナノセルロース系二次電池電極用スラリー]
【0034】
本発明の一実施形態に従うナノセルロース系二次電池電極用スラリーは、上述したナノセルロース系二次電池電極用水系バインダー、負極活物質および増粘剤を含むことができる。スラリーが上述したナノセルロース系二次電池電極用水系バインダーを含むことにより、スラリーの粘度が向上する。
【0035】
ナノセルロース系水系バインダーについては、前述と同様であるため、繰り返しの説明は省略する。スラリー製造に添加されるナノセルロース系水系バインダーの量は、スラリー固形分100重量部に対して1~5重量部であってもよい。具体的に、スラリー固形分100重量部に対して1~3重量部であってもよい。
【0036】
負極活物質は、リチウムイオンの挿入(intercalation)と脱離(deintercalation)が可能な炭素および黒鉛材料、Si系材料、リチウムと合金が可能な金属および化合物、金属およびその化合物と炭素および黒鉛材料の複合物、リチウム含有窒化物などからなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0037】
炭素および黒鉛材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、炭素繊維、難黒鉛化性炭素、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボンがある。
【0038】
Si系材料としては、Si、SiOx(0<x<2)、Si-Y合金(前記Yは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族元素、14族元素、遷移金属、希土類元素またはこれらの組み合わせである。)、Si-C複合体またはこれらの組み合わせのSi系化合物などがある。
【0039】
リチウムと合金が可能な金属および元素としては、Al、Si、Sn、Ag、Bi、Mg、Zn、In、Ge、Pb、Pd、Pt、Tiなどがある。具体的に、負極活物質は、炭素および黒鉛材料であってもよい。
【0040】
スラリー製造に添加される負極活物質の量は、スラリー100重量部に対して95~99重量部であってもよい。
【0041】
増粘剤は、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマー、およびこれらのアンモニウム塩およびアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸、およびこれらのアンモニウム塩およびアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸またはアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸またはマレイン酸あるいはフマル酸とビニルアルコールの共重合体などのポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール;ポリエチレンオキシド;変性ポリアクリル酸;酸化スターチ;リン酸スターチ;カゼイン;およびアクリロニトリル-ブタジエン共重合体水素化物;からなる群より選択される1種以上であってもよい。具体的に、増粘剤は、カルボキシメチルセルロースであってもよい。
【0042】
スラリーの粘度が低すぎると、層分離が起こり、スラリーの粘度が高すぎると、均一な電極塗布ができないため、スラリーに増粘剤を添加することで、スラリーを適切な粘度に調節し、電極塗布性を付与することができる。
【0043】
スラリー製造に添加される増粘剤の量は、スラリー100重量部に対して0.5~1.5重量部であってもよい。
【0044】
本発明の一実施形態に従うスラリーは、必要に応じて溶媒をさらに含むことができる。溶媒としては、N-メチルピロリドン、アセトンまたは水などが使用できるが、これらに限定されず、当該技術分野で使用できるものであればいずれも使用することができる。
【0045】
[二次電池電極]
【0046】
本発明の一実施形態に従う二次電池電極は、上述したスラリーを利用して調製したものであってもよい。スラリーについては、前述と同様であるので、繰り返しの説明は省略する。上述したスラリーを利用することにより、結着力に優れた二次電池電極を調製することができる。
【0047】
二次電池電極は、負極であってもよい。負極は、導電性を有する負極集電体上に蒸溜水、負極活物質、カルボキシメチルセルロース、前記ナノセルロース系二次電池電極用水系バインダーの混合物の負極スラリーをアプリケータ、ドクターブレード、浸漬、刷毛塗りなどを用いて塗布した後、80℃~150℃で5分~60分間真空乾燥して調製することができる。真空乾燥後の前記負極の厚さは、20μm~150μmであってもよい。
【0048】
集電体は、活物質の電気化学的反応で電子の移動が起こる部位である。負極集電体は、5μm~30μmの厚さで製造することができる。負極集電体は、当該電池に化学的変化を誘発せず、導電性を有するものであれば特に限定されず、例えば、銅箔、ニッケル箔、ステレンス鋼箔、チタニウム箔、ニッケル発泡体(foam)、銅発泡体、導電性金属が被覆されたポリマー基材またはこれらの組み合わせであるものを使用することができる。
【0049】
二次電池電極は、製造過程で真空乾燥前の剥離強度が8.5gf/cm以上であり、真空乾燥後の剥離強度が9.0gf/cm以上であってもよい。
【実施例
【0050】
以下、本発明の実施例について、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳細に説明する。しかし、本発明は様々な異なる形態で実施することができ、ここで説明する実施例に限定されない。
【0051】
[比較例1]
(1)バインダー調製
高圧反応器を利用して蒸溜水140重量部にアニオン性界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1~0.5重量部、SBRシードとして4:6比率の1,3-ブタジエンおよびスチレンの混合物3重量部、イタコン酸1~3重量部を添加して乳化させた。4:6比率の1,3-ブタジエンおよびスチレン混合物100重量部を追加的に添加して攪拌して乳化させた後、分解開始剤である硫酸カリウムを0.3重量部添加して乳化重合反応を行い、SBRバインダーを調製した。
【0052】
(2)スラリーおよび電極調製
スラリー固形分合計100重量部を基準に、活物質として黒鉛(Graphite)97.4重量部、前記で収得したバインダー粒子1.5重量部、カルボキシメチルセルロース1.1重量部を混合し、ここに蒸溜水を添加してスラリーの固形分を20重量%~80重量%に調節した後、これを厚さが10μmのCu薄膜にアプリケータを用いて均一に塗布し、乾燥させた後、ロールプレスで圧延して負極を調製した。
【0053】
[比較例2]
比較例1と同様の方法でSBRバインダーを調製し、4時間後、SBRバインダー1重量部に対して、4重量部のアクリルモノマー(ブチル(メタ)アクリレート0.6重量部、アクリロニトリル0.2重量部および2-エチルヘキシルメタクリレート3.2重量部)と分解開始剤の硫酸カリウムを0.2重量部添加して乳化重合反応を行い、SBR-Acrylのコア-シェル構造のバインダーを重合した。得られたバインダーを用い、比較例1と同様の方法でスラリーおよび電極を調製した。
【0054】
[比較例3]
比較例2と同様の方法で調製したSBR-Acrylのコア-シェル構造のバインダーに、SBR-Acryl固形分に対してナノセルロース(CNC)を5重量%添加してバインダーを調製した。得られたバインダーを用い、比較例1と同様の方法でスラリーおよび電極を調製した。
【0055】
[実施例1]
比較例2と同様の方法で調製したSBR-Acrylのコア-シェル構造のバインダーに、SBR-Acryl固形分に対してナノセルロース(CNC)を0.1重量%添加してバインダーを調製した。得られたバインダーを用い、比較例1と同様の方法でスラリーおよび電極を調製した。
【0056】
[実施例2]
比較例2と同様の方法で調製したSBR-Acrylのコア-シェル構造のバインダーに、SBR-Acryl固形分に対してナノセルロース(CNC)を0.5重量%添加してバインダーを調製した。得られたバインダーを用い、比較例1と同様の方法でスラリーおよび電極を調製した。
【0057】
[実施例3]
比較例2と同様の方法で調製したSBR-Acrylのコア-シェル構造のバインダーに、SBR-Acryl固形分に対してナノセルロース(CNC)を0.75重量%添加してバインダーを調製した。得られたバインダーを用い、比較例1と同様の方法でスラリーおよび電極を調製した。
【0058】
[実験例1]
前記比較例3、実施例1および実施例2で調製したバインダーの凝集有無および表面状態を肉眼で観察して図1に示した。これにより、実施例1および実施例2のバインダーは表面が滑らかであることが確認できるが、比較例3のバインダーは内部凝集により表面に屈曲が多いことが確認できる。これは、SBR-Acryl固形分に対してナノセルロース(CNC)の添加量が過剰で、バインダー内部におけるナノセルロース間の水素結合およびナノセルロースとSBR-Acrylバインダーのカルボニル基またはニトリル基との間の水素結合が著しく多くなり、凝集が生じた結果である。
【0059】
[実験例2]
前記比較例1、比較例2および実施例1で調製したバインダーをそれぞれ蒸溜水と混合し、バインダー固形分を0.05~0.1重量%含むバインダー懸濁液組成物を調製した後、常温で前記バインダー懸濁液組成物のゼ-タ電位(Zeta Potential)を測定し、その結果を下記表1に示した。
【0060】
ゼ-タ電位の測定は、一般に粒子が有する電気的二重層の表面電位を測定するものである。ゼ-タ電位値が±30mV~±60mVの時(絶対値数値が30~60mVの時)、分散性が安定していると判断し、絶対値が大きいほど表面電位値が高いため、より安定していると判断できる。
【0061】
【表1】
【0062】
表1を参照すると、比較例1に比べて比較例2のゼ-タ電位絶対値がより大きいことから、SBR-Acrylコア-シェル構造を形成することでバインダーの分散性が向上したことを確認できるが、ナノセルロース(CNC)を過剰に添加した比較例3の場合、実験例1において肉眼で確認したように、バインダー内部の凝集が多量に発生し、分散性が著しく低下することを確認できる。比較的分散性が安定した比較例2よりもはるかに高いゼ-タ電位絶対値を示す実施例1~3を通じて、SBR-Acrylコア-シェル構造のバインダーに適正量のナノセルロース(CNC)を添加する場合、バインダーの分散性がさらに向上することが分かる。
【0063】
[実験例3]
図2は、前記比較例2および実施例1~3のスラリーのせん断変形率と粘度の関係を対数スケールで示すグラフである。これを参照すると、比較例2のスラリーに比べて、SBR-Acrylコア-シェル構造のバインダーに適正量のナノセルロース(CNC)を添加して調製した実施例1~3のスラリーの粘度が増加したことが確認できる。これは、SBR-Acrylコア-シェル構造のバインダーとナノセルロース(CNC)間に水素結合が形成されたことによりスラリーの粘度が向上したものであり、これにより、スラリーの安定性が増加し、粘度増加により、さらに均一な塗布が可能になったことが示される。
【0064】
[実験例4]
前記比較例2、比較例3および実施例1~3で調製製造した電極を幅25mm、長さ100mmの大きさに裁断した。幅40mm、長さ100mm面積のアクリル板(acryl plate)に幅20mm、長さ40mm面積の両面テープを貼り付けた。調製した電極を両面テープの上に貼り付けた後、ハンドローラー(hand roller)で軽く5回押して、これをUTM(20kgf Load cell)に装着して負極の一側部分の約25mmを剥がした後、電極を引張強度計の上側クリップに、電極の一面に貼ったテープを下側クリップに固定し、100mm/minの速度で剥がしながら、180°剥離強度(Peel strength)を測定し、図3に示した。サンプルごとに5つ以上の試片を製作し、電極の真空乾燥前(VD(Vacuum Dry)前)と真空乾燥後(VD(Vacuum Dry)後)の値を測定し、その平均値を計算した。真空乾燥は110℃で4時間行われた。図3の結果を下記表2にまとめた。
【0065】
【表2】
【0066】
前記表2の結果から、SBR-Acrylコア-シェル構造のバインダーに本発明で提案した含有量のナノセルロース(CNC)を添加すると、ナノセルロース(CNC)を添加しない場合に比べてバインダーの電極結着力が向上する一方、過剰のナノセルロース(CNC)を添加すると、ナノセルロース(CNC)を添加しない場合よりもむしろバインダーの電極結着力が低下することを確認できる。
【0067】
[実験例5]
比較例2、比較例3および実施例1~3を対象に、SAICAS(Surface and Interfacial cutting analysis system)を通じてバインダーの分散性を比較した。具体的には、10μmのCu薄膜上に比較例2、比較例3および実施例1~3のスラリーを適正量均一に塗布した後、乾燥させて1~1000μmの合材層を形成した後、この合材層を切削および剥離しながら結着特性を分析した。マイクロ刃で合材層を特定の深さまで切削し、Cu薄膜と合材層の境界面と平行な方向に一定の速度で剥離しながら作用する水平方向の力を結着力に換算し、この過程を簡略に図で表現して図4に示した。この時、合材層の上層面から30%、60%および90%の深さで切削し、水平方向に剥離しながら、各水平方向の力を測定して図5に示し、これを下記表3にまとめた。これにより、バインダーの分散性を類推することができる。
【0068】
【表3】
(単位:kN/m)
【0069】
表3から分かるように、実施例1~3は、比較例2および比較例3と異なり、切削深さと関係なく、水平方向に作用する力の偏差が小さく、バインダーの分散性に優れていることが確認できる。これは、SBR-Acrylコア-シェル構造のバインダーに本発明で提案した含有量のナノセルロース(CNC)を添加することで、スラリー内でバインダーとナノセルロース(CNC)との間に強い水素結合が形成され、電極乾燥時にバインダーの移動(Migration)が抑制されるため、電極乾燥後にもバインダーが電極乾燥前と同様に合材層全体に均一に分布した状態で維持されるからである。
【0070】
本発明は、実施例に限定されるものではなく、異なる様々な形態で製造することができ、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や本質的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施することができることを理解できるであろう。したがって、前記で説明した実施例は、すべての点で例示的なものであり、限定的ではないと理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】