(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-15
(54)【発明の名称】水素又は一酸化炭素のための電気化学生成器
(51)【国際特許分類】
C01B 3/02 20060101AFI20250107BHJP
C01B 32/40 20170101ALI20250107BHJP
【FI】
C01B3/02 Z
C01B32/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533811
(86)(22)【出願日】2022-12-05
(85)【翻訳文提出日】2024-06-05
(86)【国際出願番号】 US2022051784
(87)【国際公開番号】W WO2023107361
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522162325
【氏名又は名称】ユティリティ・グローバル・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Utility Global, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】ファランドス,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ドーソン,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ドーソン,ジン
(72)【発明者】
【氏名】ダナ,ジェイソン
(72)【発明者】
【氏名】スティルソン,トーマス
【テーマコード(参考)】
4G140
4G146
【Fターム(参考)】
4G140BA02
4G140BA03
4G140BB03
4G146JA01
4G146JB01
4G146JB02
4G146JB03
4G146JB05
4G146JC01
4G146JC33
(57)【要約】
本明細書において考察されるのは、電気化学反応器であって、第1の電極であって、第1の電極が、反応器が動作中であるとき液体である、第1の電極と、金属相及びセラミック相を有する第2の電極であって、金属相が、電子伝導性であり、セラミック相が、イオン伝導性である、第2の電極と、膜であって、膜が、第1の電極と第2の電極との間に位置決めされており、かつ第1の電極及び第2の電極と接触しており、膜が、混合伝導性である、膜と、を備える、電気化学反応器である。また、本明細書において考察されるのは、水素又は一酸化炭素を生成する方法であって、(a)アノード、カソード、及びアノードとカソードとの間の膜を有する電気化学反応器を提供することであって、アノードが、反応器が動作中であるとき液体であり、膜が、混合伝導性である、提供することと、(b)原料をアノードに導入することと、(c)流れをカソードに導入することであって、流れが、水又は二酸化炭素を含む、導入することと、を含む、方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学反応器であって、第1の電極であって、前記第1の電極が、前記反応器が動作中であるとき液体である、第1の電極と、金属相及びセラミック相を有する第2の電極であって、前記金属相が、電子伝導性であり、前記セラミック相が、イオン伝導性である、第2の電極と、膜であって、前記膜が、前記第1の電極と前記第2の電極との間に位置決めされており、かつ前記第1の電極及び前記第2の電極と接触しており、前記膜が、混合伝導性である、膜と、を備える、電気化学反応器。
【請求項2】
前記第2の電極が、Ni又はNiOと、YSZ、CGO、SDC、SSZ、LSGM、CoCGO、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される材料と、を含む、請求項1に記載の反応器。
【請求項3】
前記第2の電極が、多孔質である、請求項1に記載の反応器。
【請求項4】
前記第2の電極が、水を電気化学的に水素に還元するように、又は二酸化炭素を電気化学的に一酸化炭素に還元するように構成されている、請求項1に記載の反応器。
【請求項5】
前記第1の電極が、スズ(Sn)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、インジウム(In)、銀(Ag)、バビット金属、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の反応器。
【請求項6】
前記第1の電極が、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の反応器。
【請求項7】
前記第1の電極が、原料を搬送するように構成されている、請求項1に記載の反応器。
【請求項8】
前記原料が、炭素、アンモニア、シンガス、水素、メタノール、一酸化炭素、炭化水素、バイオディーゼル、再生可能天然ガス、バイオガス、バイオマス、バイオ廃棄物、木炭、ペトコークス、調理油、又はそれらの組み合わせを含む、請求項7に記載の反応器。
【請求項9】
前記第1の電極が、原料を電気化学的に酸化するように構成されている、請求項1に記載の反応器。
【請求項10】
相互接続及び集電体を含まない、請求項1に記載の反応器。
【請求項11】
電気を生成せず、かつ電気を受容しない、請求項1に記載の反応器。
【請求項12】
前記膜が、電子伝導性相及びイオン伝導性相を含む、請求項1に記載の反応器。
【請求項13】
前記電子伝導性相が、ドープランタンクロマイト若しくは電子伝導性金属、又はそれらの組み合わせを含み、前記イオン伝導性相が、ガドリニウム又はサマリウムドープセリア、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、ランタンストロンチウムガレートマグネサイト(LSGM)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)、Sc及びCeドープジルコニア(SCZ)、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含む、請求項12に記載の反応器。
【請求項14】
前記膜が、CoCGO又はLST(ランタンドープチタン酸ストロンチウム)安定化ジルコニアを含む、請求項1に記載の反応器。
【請求項15】
前記安定化ジルコニアが、YSZ又はSSZ又はSCZ(スカンジアセリア安定化ジルコニア)を含み、前記LSTが、LaSrCaTiO
3を含む、請求項14に記載の反応器。
【請求項16】
前記膜が、ニッケル、銅、コバルト、又はニオブドープジルコニアを含む、請求項1に記載の反応器。
【請求項17】
水素又は一酸化炭素を生成する方法であって、(a)アノード、カソード、及び前記アノードと前記カソードとの間の膜を有する電気化学反応器を提供することであって、前記アノードが、前記反応器が動作中であるとき液体であり、前記膜が、混合伝導性である、提供することと、(b)原料を前記アノードに導入することと、(c)流れを前記カソードに導入することであって、前記流れが、水又は二酸化炭素を含む、導入することと、を含む、方法。
【請求項18】
前記アノード及び前記カソードの両方が、動作の全時間中、還元環境に曝露される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記アノードが、スズ(Sn)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、インジウム(In)、銀(Ag)、バビット金属、又はそれらの組み合わせを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記アノードが、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、又はそれらの組み合わせを含む、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、水素(H2)又は一酸化炭素(CO)の生成に関する。より具体的には、本発明は、水素(H2)又は一酸化炭素(CO)の電気化学的生成に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素(CO)は、空気よりもわずかに密度が低い無色、無臭、無味、及び可燃性のガスである。COはヘモグロビンと容易に結合して、カルボキシヘモグロビンを生成し、濃度があるレベルを超えると高毒性であるため、その中毒効果でよく知られる。しかしながら、COは、多くの化学及び工業プロセスにおいて重要な成分である。COは、例えば、金属-カルボニル触媒作用、ラジカル化学、カチオン及びアニオン化学など、化学の全ての分野にわたって広範囲の機能を有する。一酸化炭素は、強力な還元剤であり、何世紀にもわたって鉱石から金属を還元するために乾式冶金において使用されてきた。特殊化合物を作製するための一例として、COは、ビタミンAの生成において使用される。
【0003】
石油及び化学工業では、大量の水素(H2)が必要である。例えば、大量の水素は、化石燃料における改良、及びメタノール又は塩酸の生成において使用される。石油化学プラントは、水素化分解、水素化脱硫、水素化脱アルキルのために水素を必要とする。不飽和脂肪及び油の飽和レベルを増加させるための水素化プロセスもまた水素を必要とする。水素はまた、金属鉱石の還元剤である。水素は、水の電気分解、水蒸気改質、実験室規模の金属酸プロセス、熱化学的方法、又は嫌気性腐食から生成され得る。多くの国が、水素経済を目指している。
【0004】
フィッシャートロプシュプロセスでは、CO及びH2の両方は、必須のビルディングブロックであり、多くの場合、炭素リッチな原料(例えば、石炭)を変換することによって生成される。CO及びH2シンガスの混合物は、例えば、フィッシャートロプシュプロセスを介して、様々な液体燃料を生成するために結合することができる。シンガスはまた、より軽い炭化水素、メタノール、エタノール、又はプラスチックモノマー(例えば、エチレン)に変換することができる。CO/H2の比は、所望の化合物を生成するために、全てのかかるプロセスにおいて重要である。従来の技術は、ビルディングブロックとしてCO及びH2を得るために、広範かつ高価な分離及び精製プロセスを必要とする。
【0005】
これらのビルディングブロック及び貴重な生成物を生成するための新規の技術プラットフォームを開発する必要性及び関心が増加していることは明らかである。本開示は、効率的な電気化学経路を介した貴重な生成物の生成を考察する。更に、本明細書において開示される方法及びシステムは、従来の技術において必要とされるような広範かつ高価な分離及び精製プロセスを必要としない。
【発明の概要】
【0006】
本明細書において考察されるのは、電気化学反応器であって、第1の電極であって、第1の電極が、反応器が動作中であるとき液体である、第1の電極と、金属相及びセラミック相を有する第2の電極であって、金属相が、電子伝導性であり、セラミック相が、イオン伝導性である、第2の電極と、膜であって、膜が、第1の電極と第2の電極との間に位置決めされており、かつ第1の電極及び第2の電極と接触しており、膜が、混合伝導性である、膜と、を備える、電気化学反応器である。
【0007】
一実施形態では、第2の電極は、Ni又はNiOと、YSZ、CGO、SDC、SSZ、LSGM、CoCGO、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される材料と、を含む。一実施形態では、第2の電極は、多孔質である。一実施形態では、第2の電極は、水を電気化学的に水素に還元するように、又は二酸化炭素を電気化学的に一酸化炭素に還元するように構成されている。一実施形態では、第1の電極は、スズ(Sn)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、インジウム(In)、銀(Ag)、バビット金属、又はそれらの組み合わせを含む。一実施形態では、第1の電極は、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、又はそれらの組み合わせを含む。一実施形態では、第1の電極は、原料を運搬するように構成されている。
【0008】
一実施形態では、原料は、炭素、アンモニア、シンガス、水素、メタノール、一酸化炭素、炭化水素、バイオディーゼル、再生可能天然ガス、バイオガス、バイオマス、バイオ廃棄物、木炭、ペトコークス、調理油、又はそれらの組み合わせを含む。一実施形態では、第1の電極は、原料を電気化学的に酸化するように構成されている。一実施形態では、反応器は、相互接続及び集電体を含まない。一実施形態では、反応器は、電気を生成せず、かつ電気を受容しない。
【0009】
一実施形態では、膜は、電子伝導性相及びイオン伝導性相を含む。一実施形態では、電子伝導性相は、ドープランタンクロマイト若しくは電子伝導性金属、又はそれらの組み合わせを含み、イオン伝導性相は、ガドリニウム又はサマリウムドープセリア、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、ランタンストロンチウムガレートマグネサイト(LSGM)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)、Sc及びCeドープジルコニア(SCZ)、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含む。
【0010】
一実施形態では、膜は、CoCGO又はLST(ランタンドープチタン酸ストロンチウム)安定化ジルコニアを含む。一実施形態では、安定化ジルコニアは、YSZ又はSSZ又はSCZ(スカンジアセリア安定化ジルコニア)を含み、LSTは、LaSrCaTiO3を含む。一実施形態では、膜は、ニッケル、銅、コバルト、又はニオブドープジルコニアを含む。
【0011】
また、本明細書において考察されるのは、水素又は一酸化炭素を生成する方法であって、(a)アノード、カソード、及びアノードとカソードとの間の膜を有する電気化学反応器を提供することであって、アノードは、反応器が動作中であるとき液体であり、膜は、混合伝導性である、提供することと、(b)原料をアノードに導入することと、(c)流れをカソードに導入することであって、流れは、水又は二酸化炭素を含む、導入することと、を含む、方法である。一実施形態では、アノード及びカソードの両方が、動作の全時間中、還元環境に曝露される。一実施形態では、アノードは、スズ(Sn)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、インジウム(In)、銀(Ag)、バビット金属、又はそれらの組み合わせを含む。一実施形態では、アノードは、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、又はそれらの組み合わせを含む。
【0012】
更なる態様及び実施形態が、以下の図面、詳細な説明、及び特許請求の範囲において提供される。別途指定されない限り、本明細書において説明される特徴は、組み合わせ可能であり、かかる全ての組み合わせは、本開示の範囲内である。
【0013】
以下の図面は、本明細書において説明されるある実施形態を例解するために提供される。図面は単に例示であり、特許請求される発明の範囲を限定することを意図するものではなく、特許請求される発明の全ての潜在的な特徴又は実施形態を示すことを意図するものではない。図面は、必ずしも正確な縮尺で描かれるわけではなく、いくつかの例では、図面のある要素が、例解目的のために図面の他の要素に対して拡大される場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の一実施形態による、H
2又はCOを生成するための電気化学(EC)反応器又は電気化学生成器を例解する。
【
図2】本開示の一実施形態による、電気化学反応器又は電気化学生成器に関する管状構成を例解する。
【
図3】本開示の一実施形態による、複数の電気化学反応器管を有する生成システムを例解する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
概要
本明細書に別途定めがない限り、以下の用語及び語句は、以下に示される意味を有する。本開示は、本明細書で明示的に定義されていない他の用語及び語句を用いる場合がある。かかる他の用語及び語句は、当業者にとって、それらが本開示の文脈内で有するであろうという意味を有するものとする。場合によっては、用語又は語句は、単数形又は複数形で定義され得る。かかる例では、反対に明示的に示されない限り、単数形のいかなる用語も、その複数の対応物を含む場合があり、逆もまた同様であることが理解される。
【0016】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明白に別途指示されない限り、複数の指示対象を含む。例えば、「置換基」への言及は、単一の置換基、並びに2つ以上の置換基などを包含する。本明細書で使用される場合、「例えば(for example)」、「例えば(for instance)」、「などの(such as)」、又は「含む(including)」は、より一般的な主題を更に明確にする例を導入することを意味する。別途明示的に示されない限り、これらの例は、本開示において例解される実施形態を理解するための補助としてのみ提供され、いかなる方法でも限定的であることを意図するものではない。また、これらの語句は、開示された実施形態に対するいかなる種類の優先性を示すものではない。
【0017】
本明細書で使用される場合、組成物及び材料は、別途指定されない限り、互換的に使用される。各組成物/材料は、複数の要素、相、及び成分を有し得る。本明細書で使用される場合、加熱は、組成物又は材料にエネルギーを積極的に加えることを指す。
【0018】
本明細書で使用される場合、YSZは、イットリア安定化ジルコニアを指し、SDCは、サマリアドープセリアを指し、SSZは、スカンジア安定化ジルコニアを指し、LSGMは、ランタンストロンチウムガレートマグネサイトを指す。
【0019】
本開示では、実質的な量のH2が存在しないとは、水素の体積含有量が、5%以下、又は3%以下、又は2%以下、又は1%以下、又は0.5%以下、又は0.1%以下、又は0.05%以下であることを意味する。
【0020】
本明細書で使用される場合、CGOは、代替的に、ガドリニアドープセリア、ガドリニウムドープ酸化セリウム、酸化セリウム(IV)、ガドリニウムドープ、GDC又はGCO(式Gd:CeO2)としても知られるガドリニウムドープセリアを指す。別途指定されない限り、CGO及びGDCは、互換的に使用される。本開示におけるシンガス(すなわち、合成ガス)は、主に水素、一酸化炭素、及び二酸化炭素からなる混合物を指す。
【0021】
混合伝導性膜は、電子及びイオンの両方を輸送することができる。イオン伝導性は、酸素イオン(又は酸化物イオン)、プロトン、ハロゲン化物アニオン、カルコゲン化物アニオンなどのイオン種を含む。様々な実施形態では、本開示の混合伝導性膜は、電子伝導性相及びイオン伝導性相を含む。
【0022】
本開示では、管状部の軸方向断面は、円形であることが示されるが、これは例示的なものであり、限定するものではない。管状部の軸方向断面は、当業者に既知であるように、正方形、角が丸い正方形、長方形、角が丸い長方形、三角形、六角形、五角形、楕円形、不規則な形状などの任意の好適な形状である。
【0023】
本明細書で使用される場合、セリアは、酸化セリック、二酸化セリック、又は二酸化セリウムとしても知られる酸化セリウムを指し、希土類金属セリウムの酸化物である。ドープセリアは、サマリアドープセリア(SDC)、又はガドリニウムドープセリア(GDC若しくはCGO)などの他の元素でドープされたセリアを指す。本明細書で使用される場合、クロマイトは、クロム酸化物の全ての酸化状態を含むクロム酸化物を指す。
【0024】
本明細書で使用される場合、不浸透性である層又は物質は、それが流体の流れに対して不浸透性であることを指す。例えば、不浸透性層又は物質は、1マイクロダルシ未満、又は1ナノダルシ未満の浸透性を有する。
【0025】
本開示では、焼結は、材料を液化の程度まで溶融することなく、熱若しくは圧力、又はそれらの組み合わせによって材料の固体塊を形成するためのプロセスを指す。例えば、材料粒子は、加熱されることによって固体又は多孔質の塊に凝集され、材料粒子内の原子は、粒子の境界を越えて拡散し、粒子をともに融合させ、1つの固体片を形成させる。
【0026】
本開示における「原位置」という用語は、同じ場所で、又は同じデバイス内のいずれかで実施される処理(例えば、加熱又は分解)プロセスを指す。例えば、アノードにおいて電気化学反応器内で起こるアンモニア分解は、原位置とみなされる。
【0027】
電気化学は、測定可能かつ定量的な現象としての電位と、識別可能な化学的変化との間の関係に関連する物理化学の分野であり、電位は、特定の化学的変化の結果か、又はその逆かのいずれかである。これらの反応は、イオン伝導性膜及び電子絶縁性膜(又は溶液中のイオン種)によって分離された、電子伝導性相(典型的には、必ずしもそうではないが、外部電気回路)を介して電極間を移動する電子を伴う。化学反応が、電気分解中など、電位差によって影響を受けるとき、又はバッテリ若しくは燃料電池のような化学反応から電位が生じる場合、それは電気化学反応と呼ばれる。化学反応とは異なり、電気化学反応では、電子(及び必然的に得られるイオン)は、分子間で直接移送されるのではなく、それぞれ、前述の電子伝導性回路及びイオン伝導性回路を介して移送される。この現象は、電気化学反応を、化学反応と区別するものである。
【0028】
電気化学反応器及び使用方法に関連して、電極及び膜などの反応器の様々な構成要素が、構成要素の構成材料とともに説明される。以下の説明は、本明細書に開示される本発明の様々な態様及び実施形態について詳述する。特定の実施形態が、本発明の範囲を定義することを意図したものではない。むしろ、実施形態は、特許請求される発明の範囲内に含まれる様々な組成物及び方法の非限定的な例を提供するものである。本説明は、当業者の観点から読まれるべきである。したがって、当業者に既知の情報は、必ずしも含まれない。
【0029】
電気化学デバイス(例えば、燃料電池)内の相互接続は、多くの場合、個々のセル又は繰り返しユニットの間に配置される金属又はセラミックのいずれかである。その目的は、電気を分配するか又は結合することができるように、各セル又は繰り返しユニットを接続することである。相互接続はまた、電気化学デバイスにおけるバイポーラプレートとも称される。本明細書で使用される場合、不浸透性層である相互接続は、流体の流れに対して不浸透性である層であることを指す。
【0030】
本開示では、バイオマスは、酸化される燃料として使用される植物又は動物材料である。バイオマスの例は、木材、草、サトウキビ、米、エネルギー作物、及び森林、庭、又は農場からの廃棄物である。
【0031】
電気化学反応器
従来とは違い、混合伝導性膜を含む、電気化学反応器が見出されており、この反応器は、電気入力なしで水から水素を電気化学的に生成することができる。反応器はまた、電気入力なしで二酸化炭素から一酸化炭素を電気化学的に生成することができる。電気化学反応は、膜を通した酸化物イオンの交換を伴って、燃料(例えば、炭素)を酸化させる。混合伝導性膜はまた、電子も伝導させて、電気化学反応を完了する。このように、反応器は、相互接続又はバイポーラプレートを備えない。追加的に、反応器は電気を発生させず、燃料電池ではない。様々な実施形態では、電極は、それらに取り付けられた集電体を有しない。様々な実施形態では、反応器は、いずれの集電体も含有しない。明らかに、かかる反応器は、いずれの電気分解デバイスとも、又はいずれの燃料電池とも根本的に異なる。
【0032】
反応器内で起こる電気化学反応は、電気化学ハーフセル反応を含む。様々な実施形態では、ハーフセル反応は、三相境界で行われ、三相境界は、電子伝導性相及びイオン伝導性相と細孔との交差部である。様々な実施形態では、膜は、流体の流れに対して不浸透性である。一実施形態では、反応器は、金属相及びセラミック相を含む多孔質電極を備え、金属相は、電子伝導性であり、セラミック相は、イオン伝導性である。
【0033】
図1は、本開示の一実施形態による、水素生成のための電気化学反応器又は電気化学(EC)生成器100を例解する。EC反応器100は、第1の電極101、膜103、及び第2の電極102を備える。様々な実施形態では、第1の電極101は、反応器が動作中であるとき原料104を運搬、懸濁、又は循環させるように構成された金属又は炭酸塩であり、金属又は炭酸塩は、液体になる。金属は、スズ(Sn)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、インジウム(In)、銀(Ag)、バビット金属、又はそれらの組み合わせを含む。炭酸塩は、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、又はそれらの組み合わせを含む。
【0034】
原料104は、炭素、アンモニア、シンガス、水素、メタノール、一酸化炭素、炭化水素、バイオディーゼル、再生可能天然ガス、バイオガス、バイオマス、バイオ廃棄物、木炭、ペトコークス、調理油、又はそれらの組み合わせを含む。炭素は、石油コークス(コークス又はペトコークス)、カーボンブラック、チャー、グラファイト、石炭、バイオ廃棄物、バイオマスなど、当業者に既知の任意の供給源から得ることができる。炭化水素の例は、メタン、エタン、プロパン、ブタンである。様々な実施形態では、第1の電極中の固体原料(例えば、炭素)の体積含有量は、30体積%以下である。第1の電極101では、原料104は、膜103を通って輸送される酸化物イオンを介して酸化される。例えば、炭素は、一酸化炭素又は二酸化炭素(すなわち、炭素酸化物)に変換される。流れ106は、第1の電極からの排気を表す。
【0035】
第2の電極102は、105で示されるように、水(例えば、蒸気)を受容するように構成されている。一実施形態では、流れ105はまた、水素を含有し、水素の量は、水未満である。第2の電極102では、水は、電気化学的に水素に還元される。流れ107は、第2の電極からの排気を表す。水は、反対側の電極において原料を酸化するために必要な酸化物イオン(膜を通って輸送される)を提供するため、このシナリオでは水が酸化剤とみなされる。このように、第1の電極101は、還元環境で酸化反応を実施し、第2の102電極は、還元環境で還元反応を実施している。一実施形態では、第2の電極102は、Ni-YSZ又はNiO-YSZを含む。様々な実施形態では、電極102は、Ni又はNiOと、YSZ、CGO、SDC、SSZ、LSGM、CoCGO、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される材料と、を含む。様々な実施形態では、両方の電極は、動作の全時間中、還元環境に曝露される。
【0036】
COが生成される実施形態では、第2の電極102は、105で示されるように、二酸化炭素(CO2)を受容するように構成されている。いくつかの場合では、第2の電極はまた、少量のCOを受容する。CO2は、反対側の電極において燃料を酸化させるために必要な酸化物イオン(膜を通って輸送される)を提供するため、このシナリオでは、CO2が酸化剤とみなされる。CO2の還元は、COを生成する。このように、第1の電極101は、還元環境において酸化反応を実施し、第2の電極102は、還元環境において還元反応を実施している。いくつかの場合では、かかる環境は、名目上、還元環境とみなされる。様々な実施形態では、両方の電極は、動作の全時間中、還元環境に曝露される。
【0037】
様々な実施形態では、103は、酸化物イオン伝導性膜を表す。一実施形態では、酸化物イオン伝導性膜103はまた、電子を伝導する。したがって、反応器は、集電体又は相互接続部を含有しない。電気を必要とせず、かかる反応器は、電気分解装置ではない。これは、本開示のEC反応器の主な利点である。膜103は、電子を伝導するように構成されており、そのため、混合伝導性、すなわち、電子伝導性及びイオン伝導性の両方である。一実施形態では、膜103は、酸化物イオン及び電子を伝導する。これらの実施形態では、アノード及びカソードにおける電気化学反応は、反応器に電位/電気を適用する必要がなく、自発的である。
【0038】
一実施形態では、膜103は、ドープランタンクロマイト、若しくは電子伝導性金属、又はそれらの組み合わせを含有する電子伝導性相を含み、膜は、ガドリニウムドープセリア(CGO)、サマリウムドープセリア(SDC)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、ランタンストロンチウムガレートマグネサイト(LSGM)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)、Sc及びCeドープジルコニア、コバルトドープガドリニウムドープセリア(CoCGO)、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含有するイオン伝導性相を含む。一実施形態では、ドープランタンクロマイトは、ストロンチウムドープランタンクロマイト、鉄ドープランタンクロマイト、ストロンチウム及び鉄ドープランタンクロマイト、ランタンカルシウムクロマイト、又はそれらの組み合わせを含み、伝導性金属は、Ni、Cu、Ag、Au、Pt、Rh、Co、又はそれらの組み合わせを含む。一実施形態では、膜103は、ガドリニウムドープセリア、サマリウムドープセリア、焼結助剤、又はそれらの組み合わせを含む。一実施形態では、膜は、CoCGOを含む。一実施形態では、膜は、CoCGOからなる。一実施形態では、焼結助剤は、二価若しくは三価の遷移金属イオン又はそれらの組み合わせを含む。一実施形態では、遷移金属は、Co、Mn、Fe、Cu、又はそれらの組み合わせを含む。
【0039】
一実施形態では、膜は、電子伝導性相及びイオン伝導性相を含む。いくつかの場合では、電子伝導性相は、ドープランタンクロマイト、若しくは電子伝導性金属、又はそれらの組み合わせを含み、イオン伝導性相は、ガドリニウム又はサマリウムドープセリア、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、ランタンストロンチウムガレートマグネサイト(LSGM)、スカンジア安定化ジルコニア(SSZ)、Sc及びCeドープジルコニア(SCZ)、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含む。一実施形態では、膜は、CoCGO又はLST(ランタンドープチタン酸ストロンチウム)安定化ジルコニアを含む。一実施形態では、安定化ジルコニアは、YSZ又はSSZ又はSCZ(スカンジアセリア安定化ジルコニア)を含む。一実施形態では、LSTは、LaSrCaTiO3を含む。一実施形態では、膜は、ニッケル、銅、コバルト、又はニオブドープジルコニアを含む。
【0040】
一実施形態では、膜は、コバルト-CGO(CoCGO)、すなわち、コバルトドープCGOを含む。一実施形態では、膜は、本質的に、CoCGOからなる。一実施形態では、膜は、CoCGOからなる。一実施形態では、膜は、LST(ランタンドープチタン酸ストロンチウム)-YSZ、又はLST-SSZ、又はLST-SCZ(スカンジアセリア安定化ジルコニア)を含む。一実施形態では、膜は、本質的に、LST-YSZ、又はLST-SSZ、又はLST-SCZからなる。一実施形態では、膜は、LST-YSZ、又はLST-SSZ、又はLST-SCZからなる。本開示では、LST-YSZは、LST及びYSZの複合体を指す。様々な実施形態では、LST相及びYSZ相は、互いに浸透する。本開示では、LST-SSZは、LST及びSSZの複合体を指す。様々な実施形態では、LST相及びSSZ相は、互いに浸透する。本開示では、LST-SCZは、LST及びSCZの複合体を指す。様々な実施形態では、LST相及びSCZ相は、互いに浸透する。YSZ、SSZ、及びSCZは、安定化ジルコニアのタイプである。
【0041】
一実施形態では、EC反応器100は、第2の電極102からH
2又はCO(流れ107内)を、及び第1の電極101から二酸化炭素(流れ106内)を同時に生成するように構成されている。生成された二酸化炭素(又は流れ106)は、隔離のために炭素捕捉ユニットに送られる。一実施形態では、電極102及び膜103は、管状である(例えば、
図2を参照)。一実施形態では、電極102及び膜103は、平面である。
【0042】
H
2又はCOの電気化学的生成
図2は、本開示の一実施形態による、(正確な縮尺ではない)電気化学(EC)反応器又はEC生成器200の管状構成を例解する。反応器又は生成器200は、電極として内側管状構造体(内側管)202を備え、この場合は、カソードである。様々な実施形態では、内側管(カソード)は、多孔質である。反応器又は生成器200はまた、混合伝導性膜である、外側管状構造体(外側管)203を備える。様々な実施形態では、膜は、流体の流れに対して不浸透性である。内側管202及び外側管203は、互いに接触し、反応器又は生成器200に対するアノードである液体201に浸漬される。原料204は、液体201中で運搬される。
【0043】
流れ205は、水素生成のために内側管202に導入される少量の水素を有する水(又は蒸気)を表す。CO生成の場合、205は、CO2含有流を表し、いくつかの場合では、ある程度の量のCOも含有する。カソード排気は、電気化学的に生成されたH2又はCOを含有する流れ207によって表される。流れ207は、水素が水から分離されるか、又は一酸化炭素が二酸化炭素から分離される、分離器に送られ得る。流れ206は、アノード排気を表す。炭素が原料である実施形態では、流れ206中の二酸化炭素は、更なる分離又は精製なしに、直接隔離されるか又は利用される(例えば、ウェルに注入される)十分な純度である。
【0044】
一実施形態では、反応器は、600℃~1000℃の範囲内にある温度で動作される。一実施形態では、反応器は、600℃~900℃の範囲内にある温度で動作される。一実施形態では、反応器は、600℃~800℃の範囲内にある温度で動作される。
【0045】
図3に例解されるように、本開示の一実施形態による、複数の反応器管を備えるH
2又はCO生成システムが示される。いくつかの場合では、これらの反応器管は、カソード入力及び出力のために直列に接続される。いくつかの場合では、これらの反応器管は、カソード入力及び出力のために並列に接続される。全ての好適な構成及び配置が企図され、本開示の範囲内にある。反応器管の断面は、任意の好適な形状であり得、
図2及び
図3に例解されるものによって限定されない。
【0046】
利点
本開示によるH2又はCO生成のプロセス及びシステムは、様々な利点を有する。本開示のプロセスは、効率的な電気化学経路を利用するが、まだ電気を必要としない。このように、このプロセスの実装は、グリッド電力供給がない遠隔地にあり得る。カソード排気中の水素の水からの分離は、容易かつ安価である。カソード排気中の二酸化炭素からの一酸化炭素の分離もまた、容易かつ安価である。このように、本開示の方法及びシステムは、資本設備及び運用費用の両方でコスト競争力がある。生成されたH2若しくはCO、又はその両方は、更に利用されて、メタノール、エタノール、炭化水素、プラスチックモノマー、ポリエチレン、又はそれらの組み合わせなどの貴重な生成物を生成し得る。
【0047】
加えて、燃料として本明細書において考察されるような原料からのH2又はCOの生成は、かかる燃料源が豊富かつ安価であるため、望ましい。炭素が利用されるときに生成される二酸化炭素は、高純度であり、かつ容易に隔離されるため、温室効果ガスの排出量を低減させる。更に、エネルギー業界及び鉄鋼業界は現在、世界中に廃棄物を送って、CO2に燃焼させ、大気中に放出している。本開示の方法及びシステムは、さもなければ環境に放出されるであろう廃棄物流から炭素の捕捉を可能にし、同時に、クリーンで純粋なH2若しくはCO、又はその両方を生成する。例えば、炭素含有固体廃棄物は、井戸口に輸送され、直接注入のために現場で二酸化炭素に変換され得、一方、H2若しくはCO又はその両方は、クリーンエネルギー消費者又は貴重な化学物質生成のために同時に生成される。
【0048】
本開示は、本発明の異なる特徴、構造、又は機能を実装するための例示的な実施形態を説明することを理解されるものとする。構成要素、配置、及び構成の例示的な実施形態は、本開示を簡略化するために説明されるが、これらの例示的な実施形態は、単に例として提供され、本発明の範囲を限定することを意図しない。本明細書に提示されるような実施形態は、別途指定されない限り、組み合わされ得る。かかる組み合わせは、本開示の範囲から逸脱するものではない。
【0049】
追加的に、ある用語は、特定の構成要素又はステップを指すために、説明及び特許請求の範囲全体にわたって使用される。当業者であれば理解するように、様々なエンティティは、同じ構成要素又はプロセスステップを異なる名前で指す場合があり、そのため、本明細書に記載される要素の命名規則は、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。更に、本明細書において使用される用語及び命名規則は、名前が異なるが機能においては異ならない構成要素、特徴、及び/又はステップを区別することを意図するものではない。
【0050】
本開示は、様々な修正及び代替的な形態を受け入れるが、その具体的な実施形態は、図面及び説明において例として示される。しかしながら、図面及び詳細な説明は、開示される特定の形態に本開示を限定することを意図するものではなく、逆に、本開示の趣旨及び範囲内にある全ての修正、等価物、及び代替物を対象にすることを意図することを理解されたい。
【国際調査報告】