IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ スクリプス リサーチ インスティテュートの特許一覧

特表2025-500766ヒトの癌を治療するためのswitchable CAR-T療法
<>
  • 特表-ヒトの癌を治療するためのswitchable  CAR-T療法 図1
  • 特表-ヒトの癌を治療するためのswitchable  CAR-T療法 図2
  • 特表-ヒトの癌を治療するためのswitchable  CAR-T療法 図3
  • 特表-ヒトの癌を治療するためのswitchable  CAR-T療法 図4
  • 特表-ヒトの癌を治療するためのswitchable  CAR-T療法 図5
  • 特表-ヒトの癌を治療するためのswitchable  CAR-T療法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-15
(54)【発明の名称】ヒトの癌を治療するためのswitchable CAR-T療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20250107BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20250107BHJP
   A61K 35/17 20250101ALI20250107BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250107BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20250107BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250107BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20250107BHJP
   A61K 31/7076 20060101ALI20250107BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20250107BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20250107BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20250107BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20250107BHJP
【FI】
A61K39/395 D ZNA
A61K39/395 N
A61K47/68
A61K35/17
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
A61K31/675
A61K31/7076
C12N5/10
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533834
(86)(22)【出願日】2022-12-06
(85)【翻訳文提出日】2024-08-02
(86)【国際出願番号】 US2022081010
(87)【国際公開番号】W WO2023107940
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】63/286,868
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501244222
【氏名又は名称】ザ スクリプス リサーチ インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100228980
【弁理士】
【氏名又は名称】副島 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ヤング,トラヴィス
(72)【発明者】
【氏名】ラボルダ,エドゥアルド
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C085
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE59
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA35
4C086EA18
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087MA02
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
4C087ZC75
(57)【要約】
本発明では、適切な用量のswitchable CAR-T細胞及び相補的スイッチ分子を用いてヒト対象のCD-19陽性悪性腫瘍を治療する方法が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象のCD19陽性悪性腫瘍を治療し、前記腫瘍の増殖を阻止しかつ/又は前記腫瘍の退縮を促進する方法であって、(a)配列番号2及び3としてそれぞれ示されている軽鎖可変領域及び重鎖可変領域配列を備える抗CD19Fab抗体を備えるキメラ抗原受容体T細胞スイッチ分子(CAR-Tスイッチ)と、(b)配列番号6に示されているCAR配列を備える相補的CAR-T細胞とを前記対象に投与し、これにより、前記対象のB細胞悪性腫瘍を治療し、前記腫瘍の増殖を阻止しかつ/又は前記腫瘍の退縮を促進するステップを含む方法。
【請求項2】
前記抗CD19Fab抗体は配列番号15及び16としてそれぞれ示されている軽鎖配列及び重鎖配列を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記対象には処置の開始時に前記CAR-T細胞の1回分の用量が投与され、前記処置の期間中に前記CAR-Tスイッチの複数回分の用量が投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記対象には前記CAR-T細胞の1回分の用量が注入され、その後、前記CAR-Tスイッチの1回以上の注入サイクルが行なわれ、各サイクルは約5~約9日間毎日前記CAR-Tスイッチを注入する「オン」フェーズと、約14~約28日間CAR-Tを投与しない「オフ」フェーズとを備える、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記対象に投与される前記CAR-T細胞の前記用量は細胞約60×10個、約80×10個、約100×10個、約120×10個、約140×10個、約160×10個、約180×10個、約200×10個、約300×10個、約400×10個、約500×10個、約600×10個、約700×10個、約800×10個、約900×10個、約1000×10個又はこれらを超える個数分である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記対象に投与される前記CAR-T細胞の前記用量は細胞約0.35×10個から約14×10個分である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記対象に投与される前記CAR-T細胞の前記用量は細胞約1.4×10個から約7×10個分である、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記対象に投与される前記CAR-T細胞の前記用量は細胞約1.4×10個分である、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記対象に投与される前記CAR-Tスイッチの用量は体重1kgあたり約0.01mg~約0.1mgである、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記対象に投与される前記CAR-Tスイッチの用量は体重1kgあたり約0.01mg、約0.025mg、約0.03mg、約0.04mg、約0.045mg、約0.05mg、約0.055mg、約0.06mg、約0.065mg、約0.070mg、約0.075mg、約0.085mg又は0.095mgである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記対象に投与される前記CAR-Tスイッチの用量は体重1kgあたり約0.045mg~約0.075mgである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記対象に投与される前記CAR-Tスイッチの用量は体重1kgあたり約0.06mgである、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記CD19陽性悪性腫瘍はCD19陽性B細胞癌である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記CD19陽性悪性腫瘍は再発性/難治性B細胞悪性腫瘍である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ヒト対象のCD19陽性の再発性/難治性B細胞悪性腫瘍を治療し、前記腫瘍の増殖を阻止しかつ/又は前記腫瘍の退縮を促進する方法であって、(a)CAR-T細胞約0.35×10個~約7×10個の1回分の用量を前記対象に投与するステップであって、前記CAR-T細胞は配列番号6に示されているCAR配列を備える、ステップと、(b)各々が(i)約5~約9日間の「オン」フェーズと(ii)約14~約28日間の「オフ」フェーズとを備える1つ以上のサイクル中にCAR-Tスイッチ分子を前記対象に投与するステップであって、前記「オン」フェーズで体重1kgあたり約0.045mg~約0.075mgの1日の用量が投与され、前記CAR-Tスイッチ分子は配列番号15及び16としてそれぞれ示されている軽鎖配列及び重鎖配列を備える抗CD19 Fab抗体を備える、ステップとを含み、これにより、前記対象の前記CD19陽性の再発性/難治性B細胞悪性腫瘍を治療し、前記腫瘍の増殖を阻止しかつ/又は前記腫瘍の退縮を促進する、方法。
【請求項16】
前記CAR-T細胞は前記対象の自家細胞である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記CAR-T細胞の注入用量は細胞約1.4×10個分であり、前記「オン」フェーズで注入される前記CAR-Tスイッチの1日の用量は体重1kgあたり約0.06mgである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記「オン」フェーズは約7日間であり、前記「オフ」フェーズは約21日間である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
CAR-Tスイッチ注入のサイクルの数は2、3、4、5、6、7又はこれらを超える、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記対象は前記CAR-T細胞及び前記スイッチ分子が投与される前にリンパ球枯渇化プレコンディショニングを受ける、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記リンパ球枯渇化プレコンディショニングはシクロホスファミド及びフルダラビンを用いる化学療法である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記CD19陽性の再発性/難治性B細胞悪性腫瘍はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、辺縁帯リンパ腫(MZL)、有毛細胞白血病(HCL)、原発性眼内リンパ腫、バーキットリンパ腫及びワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願の参照
本特許出願は米国仮特許出願第63/286,868号(2021年12月7日に出願され、現在係属中)の優先権を主張するものである。優先権出願の全開示の全体があらゆる目的で参照により本開示に援用される。
【背景技術】
【0002】
莫大な臨床的利点があるにもかかわらず、CAR-T細胞療法に関連する有害事象が依然として課題となっている。最も頻発する有害事象は患者への投与後に現在のCAR-T細胞製品の活性レベルを調整できないことによるサイトカイン放出症候群及び免疫エフェクタ細胞関連神経毒性症候群である。別の課題には、on target毒性、off tumor毒性及び抗原欠損が介在した疾患の再発が含まれる。
【0003】
これらの課題に対処するために、“switchable”CAR-T(sCAR-T)プラットフォームが開発され、このプラットフォームでは、抗体を用いたスイッチによってsCAR-T細胞の活性が制御される。スイッチは腫瘍抗原を標的とし、sCARはスイッチに埋め込まれた固有のペプチドを認識する。スイッチはsCAR-T細胞と腫瘍細胞との間にブリッジを形成し、sCAR-T細胞を活性化して腫瘍細胞の殺傷を誘発する。スイッチ細胞とsCAR-T細胞とを組み合せると、異種移植モデルと同種移植モデルとで腫瘍が完全に除去されるが、単独では各々は活性を持たないように設計されている。スイッチの半減期が短いことで、スイッチ投与を通じてsCART細胞の活性を素早く調整することができる。さらに、異なるスイッチに交換することで、モジュール方式を用いてsCAR-T細胞を他の腫瘍標的にリダイレクトすることができる。sCAR-T細胞の周期的なオン/オフ刺激により、sCAR-T細胞の記憶と持続性が改善されることが示されている。
【0004】
本技術では、sCAR-Tプラットフォームをヒト対象の治療に実際に適用することが強く求められている。本発明はこの要求と他の未解決の要求とに対処することを対象とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様では、本発明では、ヒト対象のCD19陽性悪性腫瘍を治療し、腫瘍の増殖を阻止しかつ/又は腫瘍の退縮を促進する方法が提供される。本方法は、(a)配列番号2及び3としてそれぞれ示されている軽鎖可変領域及び重鎖可変領域配列を備える抗CD19 Fab抗体を備えるキメラ抗原受容体T細胞スイッチ分子(CAR-Tスイッチ)と、(b)配列番号6に示されているCAR配列を備える相補的CAR-T細胞とを対象に投与し、これにより、対象のB細胞悪性腫瘍を治療し、腫瘍の増殖を阻止しかつ/又は腫瘍の退縮を促進するステップを含む。いくつかの実施形態では、用いられる抗CD19Fab抗体は配列番号15及び16としてそれぞれ示されている軽鎖配列及び重鎖配列を含む。いくつかの実施形態では、対象には処置の開始時にCAR-T細胞の1回分の用量が投与され、処置の期間中にCAR-Tスイッチの複数回分の用量が投与される。これらの実施形態のいくつかでは、対象にはCAR-T細胞の1回分の用量が注入され、その後、CAR-Tスイッチの1回以上の注入サイクルが行なわれる。注入サイクルの各々は約5~約9日間毎日CAR-Tスイッチを注入する「オン」フェーズと、約14~約28日間CAR-Tを投与しない「オフ」フェーズとを含む。
【0006】
様々な実施形態では、対象に投与されるCAR-T細胞の用量は細胞約60×10個、約80×10個、約100×10個、約120×10個、約140×10個、約160×10個、約180×10個、約200×10個、約300×10個、約400×10個、約500×10個、約600×10個、約700×10個、約800×10個、約900×10個、約1000×10個又はこれらを超える個数分である。いくつかの実施形態では、対象に投与されるCAR-T細胞の用量は細胞約0.35×10個から約14×10個分である。これらの実施形態のいくつかでは、対象に投与されるCAR-T細胞の用量は細胞約1.4×10個から約7×10個分である。一実施形態では、対象に投与されるCAR-T細胞の用量は細胞約1.4×10個分である。
【0007】
本発明のいくつかの方法では、対象に投与されるCAR-Tスイッチの用量は体重1kgあたり約0.01mg~約0.1mgである。様々な実施形態では、対象に投与されるCAR-Tスイッチの用量は体重1kgあたり約0.01mg、約0.025mg、約0.03mg、約0.04mg、約0.045mg、約0.05mg、約0.055mg、約0.06mg、約0.065mg、約0.070mg、約0.075mg、約0.085mg又は0.095mgであることが可能である。いくつかの実施形態では、対象に投与されるCAR-Tスイッチの用量は体重1kgあたり約0.045mg~約0.075mgである。一実施形態では、対象に投与されるCAR-Tスイッチの用量は体重1kgあたり約0.06mgである。
【0008】
本発明のいくつかの方法では、治療される対象のCD19陽性悪性腫瘍はCD19陽性B細胞癌である。いくつかの方法では、治療されるCD19陽性悪性腫瘍は再発性/難治性のB細胞悪性腫瘍である。
【0009】
関連する態様では、本発明では、ヒト対象のCD19陽性の再発性/難治性B細胞悪性腫瘍を治療し、腫瘍の増殖を阻止しかつ/又は腫瘍の退縮を促進する方法が提供される。本方法は、(a)CAR-T細胞約0.35×10個~約7×10個の1回分の用量を対象に投与するステップであって、CAR-T細胞は配列番号6に示されているCAR配列を含む、ステップと、(b)各々が(i)約5~約9日間の「オン」フェーズと(ii)約14~約28日間の「オフ」フェーズとを含む1つ以上の注入サイクル中に、配列番号15及び16としてそれぞれ示されている軽鎖配列及び重鎖配列を含む改変抗CD19 Fab抗体であるCAR-Tスイッチ分子を対象に投与するステップであって、「オン」フェーズで体重1kgあたり約0.045mg~約0.075mgの、対象に注入されるCAR-Tの1日の用量が用いられる、ステップとをともなう。好ましくは、投与されるCAR-T細胞は対象の自家細胞である。いくつかの実施形態では、CAR-T細胞の注入用量は細胞約1.4×10個分であり、「オン」フェーズで注入されるCAR-Tスイッチの1日の用量は体重1kgあたり約0.06mgである。これらの実施形態のいくつかでは、「オン」フェーズは約7日間であり、「オフ」フェーズは約21日間である。様々な実施形態では、CAR-Tスイッチ注入のサイクルの数は2、3、4、5、6、7、8、9、10又はこれらを超えることが可能である。
【0010】
いくつかの方法では、対象はCAR-T細胞及びスイッチ分子が投与される前にリンパ球枯渇化プレコンディショニングを用いて治療される対象である。これらの実施形態のいくつかでは、対象のリンパ球枯渇化プレコンディショニングを、シクロホスファミド及びフルダラビンを用いる化学療法により実現することができる。様々な実施形態では、対象において治療されるCD19陽性の再発性/難治性B細胞悪性腫瘍はたとえば、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、辺縁帯リンパ腫(MZL)、有毛細胞白血病(HCL)、原発性眼内リンパ腫、バーキットリンパ腫又はワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症であることが可能である。
【0011】
本発明の性質及び利点のさらなる理解を本明細書及び請求項の残りの部分を参照することによって実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ヒト初回(FIH)用量を決定するためのMABELを用いたアプローチによるin vivo試験を示す。
図2】CAR-Tスイッチ分子SWI019のヒト等価用量のシミュレーションを示す。
図3】患者の処置効果を示すCTスキャンを示す。
図4】治療された患者における毒性の解消を示す。
図5】sCAR-T療法の用量漸増第I相試験の概略図である。A.第I相用量漸増試験の設計。B.処置スケジュールの概要。
図6】clinical utility indexによるBAYDEモデルでの用量の推奨を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明はヒト患者におけるswitchable CAR-T療法の適切な用量を決定するための、本発明者によってなされた、以下に詳細に説明されている試験に一部基づいている。特に、用量漸増第I相ヒト臨床試験を通じて、本発明者はいくつかのCD19陽性悪性腫瘍の処置において、特異性を持つCD19ターゲティングsCAR-Tプラットフォームのスイッチ及び対応するCAR-T細胞の適切な用量を決定することができた。
【0014】
したがって、本発明では、本開示で説明されているsCAR-Tプラットフォームを用いて様々な癌、たとえば、CD19発現腫瘍に罹患したヒト患者を治療する方法及び投与レジメンが提供される。別段の記載のない限り、本発明は、たとえば、Methods in Enzymology,Volume 289:Solid-Phase Peptide Synthesis,J.N.Abelson,M.I.Simon,G.B.Fields(編集者),Academic Press、1st edition(1997)(ISBN-13:978-0121821906)、米国特許第4,965,343号及び第5,849,954号、Maniatis et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,USA(1982)、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(2nd ed.),Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,USA(1989)、Davis et al.,Basic Methods in Molecular Biology,Elsevier Science Publishing,Inc.,New York,USA(1986)、又はMethods in Enzymology:Guide to Molecular Cloning Techniques Vol.152,S.L.Berger及びA.R.Kimmerl編,Academic Press Inc.,San Diego,USA(1987)、Current Protocols in Protein Science(CPPS)(John E.Coligan,et.al.,編,John Wiley and Sons,Inc.),Current Protocols in Cell Biology(CPCB)(Juan S.Bonifacino et.al.編,John Wiley and Sons,Inc.)及びCulture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique by R.Ian Freshney,出版社:Wiley-Liss、5th edition(2005),Animal Cell Culture Methods(Methods in Cell Biology,Vol.57,Jennie P.Mather及びDavid Barnes編,Academic Press,1st edition,1998)に記載されている標準的な手順を用いて実行することができる。
【0015】
以下の記載箇所では、本発明の組成物及び方法を実施するための基本的説明をさらに記載する。
【0016】
I.定義
別段の定義のない限り、本開示で用いられているすべての技術用語及び科学用語は、本発明が関係する技術の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を持つ。本発明で用いられている多くの用語の一般的な定義については、Academic Press Dictionary of Science and Technology,Morris(編集),Academic Press(1st ed.,1992)、Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology,Smith et al.(編集),Oxford University Press(改訂版,2000)、Encyclopaedic Dictionary of Chemistry,Kumar(編集),Anmol Publications Pvt.Ltd.(2002)、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology,Singleton et al.(編集),John Wiley&Sons(3rd ed.,2002)、Dictionary of Chemistry,Hunt(編集),Routledge(1st ed.,1999)、Dictionary of Pharmaceutical Medicine,Nahler(編集),Springer-Verlag Telos(1994)、Dictionary of Organic Chemistry,Kumar及びAnandand(編集),Anmol Publications Pvt.Ltd.(2002)、並びにA Dictionary of Biology(Oxford Paperback Reference),Martin及びHine(編集),Oxford University Press(4th ed.,2000)を参照して当業者は理解する。以下、本発明に特に適用される当該用語のいくつかをさらに詳細に説明する。
【0017】
本開示及び添付の請求項で用いられている単数形「a」、「an」及び「the」は文脈上別段の明示がない限り、複数の指示対象を含むことに留意する。さらに、請求項を、一切の適宜選択可能な要素を除外するように作成することができることにも留意する。したがって、この記載は請求項の要素の記載又は「否定的な」限定の使用に関連して、「唯一」、「のみ」などの排他的な用語を用いるための前提として用いられることを意図している。
【0018】
用語「抗体」は通常、所定の抗原、1つ以上のエピトープに対する強い一価、二価又は多価の結合を示す1つ以上のポリペプチド鎖を指す。別段の断りのない限り、本発明で用いられる抗体又は抗体フラグメントは、特定の抗原結合活性を持たないいくつかの免疫グロブリン分子又はバリアント抗体、たとえば触媒抗体も含む。免疫グロブリンsは任意の脊椎動物種に由来する配列を持つことができる。これらを任意の適切な技術を用いて生成することができ、たとえば、ハイブリドーマ技術、リボソームディスプレイ、ファージディスプレイ、遺伝子シャッフリングライブラリ、半合成若しくは完全合成ライブラリ又はこれらの組合せを用いて生成することができる。別段の断りのない限り、本発明で用いられている用語「抗体」は、インタクト抗体、抗体フラグメント、及び以下で説明されていたり当該技術で公知であったりする他のデザイナ抗体を含む(たとえば、Serafini,J Nucl.Med.34:533-6,1993を参照)。
【0019】
インタクト「抗体」は通常、ジスルフィド結合によって相互に接続された少なくとも2つの重鎖(H鎖)(約50~70kD)と2つの軽鎖(L鎖)(約25kD)とを備える。抗体の連鎖をコードする免疫グロブリン遺伝子として認識されているものには、κ、λ、α、γ、δ、ε及びμ定常領域遺伝子と無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子とが含まれる。軽鎖はκ又はλのいずれかに分類される。重鎖はγ、μ、α、δ又はεに分類され、これらによって免疫グロブリンのクラスIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEがそれぞれ定められる。
【0020】
抗体の各重鎖は重鎖可変領域(V)と重鎖定常領域とで構成される。ほとんどのIgGアイソタイプ(サブクラス)の重鎖定常領域はCH1、CH2及びCH3の3つのドメインで構成され、IgMやIgEのようないくつかのIgGアイソタイプは4番目の定常領域ドメインCH4で構成される。各軽鎖は軽鎖可変領域(V)と軽鎖定常領域とで構成される。軽鎖定常領域は1つのドメインCで構成される。重鎖及び軽鎖の可変領域は抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は免疫系の様々な細胞と、古典的な補体系の第1成分(Clq)とを含む宿主の組織や因子に対する免疫グロブリンの結合を媒介することができる。
【0021】
抗体のV領域とV領域とは相補性決定領域(complementarity determining region:CDR)とも呼ばれる超可変領域にさらに細分化され、超可変領域にはより保存されたフレームワーク領域(FR)が点在する。各V及びVは3つのCDRと4つのFRとで構成され、これらはアミノ末端からカルボキシル末端に向かってFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順で配置されている。CDR領域及びFR領域の位置及び採番体系はたとえば、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,U.S.Department of Health and Human Services,U.S.Government Printing Office(1987年及び1991年)によって定められている。
【0022】
本開示で用いられている抗体フラグメント(又は抗体の抗原結合フラグメント)は、他の非免疫グロブリンを考えたときの、少なくとも1つの抗体由来のV、V若しくはC免疫グロブリンドメイン又は抗体以外を由来とする成分を含む任意のタンパク質又はポリペプチドを指す。このような分子は(i)免疫グロブリンCドメインの全部若しくは一部を持つ受容体若しくは受容体成分を含む結合タンパク質のF融合タンパク質、(ii)V及び若しくはVドメインが別の分子足場に結合されている結合タンパク質、又は(iii)免疫グロブリンV及び/若しくはV及び/若しくはCドメインが、天然に存在する抗体若しくは抗体フラグメントには通常見られない仕方で組み合されかつ/若しくは組み立てられる分子を含むが、これらに限定されない。
【0023】
ヒト以外(たとえばげっ歯類(たとえばマウスやウサギ))の免疫グロブリンの「ヒト化」形態はヒト以外の免疫グロブリンに由来する最小配列を含む免疫グロブリンである。ほとんどの部分について、ヒト化免疫グロブリンは、レシピエントの超可変領域の残基が、所望の特異性、親和性及び能力を持つマウス、ラット、ハムスタ、ウサギ、ニワトリ、ウシやヒト以外の霊長類などのヒト以外の種の超可変領域の残基(ドナー抗体)に置き換えられたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基も、対応するヒト以外の残基に置き換えられる。さらに、ヒト化抗体はレシピエント抗体にもドナー抗体にも見られない残基を備えることができる。これらの変更は抗体の性能をさらに向上させるために行なわれる。一般的に、ヒト化免疫グロブリンは少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインのほぼすべてを備え、超可変ループのすべて又はほぼすべてがヒト以外の免疫グロブリンの超可変ループに対応し、FR領域のすべて又はほぼすべてがヒト免疫グロブリン配列のFR領域である。ヒト化免疫グロブリンは、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部も備えてもよく、典型的にはヒト免疫グロブリンの少なくとも一部を備えてもよい。さらなる詳細についてはJones et al.(1986)Nature 321:522-525、Riechmann et al.(1988)Nature 332:323-329及びPresta(1992)Curr.Op.Struct.Biol.2:593-596を参照する。
【0024】
本開示で用いられている用語「ヒト免疫グロブリン」はヒト生殖細胞免疫グロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域を有する免疫グロブリンを含むことを意図している。本発明のヒト免疫グロブリンはたとえばCDR、特にCDR3において、ヒト生殖細胞免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(たとえば、in vitroでのランダム特異的突然変異誘発や部位特異的突然変異誘発によって導入されたりin vivoでの体細胞突然変異によって導入されたりする突然変異体)を含むことができる。ただし、本開示で用いられている用語「ヒト免疫グロブリン」は、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列に移植されている免疫グロブリンを含むことは意図していない。
【0025】
リンパ球除去(LD)化学療法又はリンパ球除去プレコンディショニングは、内在性T細胞(及びTreg)を枯渇させることで、内在性T細胞が注入されるCAR-T細胞と拮抗し/これを抑制し、注入されるCAR-T細胞を拡大/増殖させようとしないように、CAR-T細胞注入前に対象に施される治療を指す。LDプレコンディショニングの一例は対象にフルダラビン+シクロホスファミド(FluCy)を投与することである。
【0026】
「特異的結合」又は「特異的に結合する」又は「に特異的」であるという用語は、免疫グロブリンや低分子薬品が標的分子や抗原(たとえば、特定のポリペプチド、ペプチドやその他標的(たとえば、糖タンパク質標的)上のエピトープ)に結合することなど、結合部分が結合標的に結合することを指し、特異的でない相互作用と測定可能な程度の差がある結合を意味する(たとえば、特異的でない相互作用はウシ血清アルブミンやカゼインに対する結合であることが可能である)。特異的結合については、たとえば、結合部分(たとえば低分子薬品)すなわち免疫グロブリンの標的分子に対する結合を、制御分子に対する結合と比較して決定することによって測定することができる。たとえば、標的に類似する制御分子(たとえば、標識のない標的が過剰にある)と競合させることによって特異的結合を決定することができる。この場合、標識のある標的のプローブに対する結合が標識のない過剰な標的によって競合的に阻害される場合、特異的結合が示される。
【0027】
特定の標的分子や、特定の標的分子上のエピトープに対する「特異的結合」又は「特異的に結合する」又は「特異的」であるという用語は、たとえば、標的に対するKが少なくとも約200nM又は少なくとも約150nM又は少なくとも約100nM又は少なくとも約60nM又は少なくとも約50nM又は少なくとも約40nM又は少なくとも約30nM又は少なくとも約20nM又は少なくとも約10nM又は少なくとも約8nM又は少なくとも約6nM又は少なくとも約4nM又は少なくとも約2nM又は少なくとも約1nM又はこれらを超える分子によって示すことができるものである。特定の場合には、用語「特異的結合」は、結合部分が特定の標的分子や、標的分子上のエピトープに結合し、その他一切の分子やエピトープにほぼ結合しない結合を指す。
【0028】
本開示では、用語「融合」は、出所の異なるアミノ酸配列を、これらをコードするヌクレオチド配列をフレーム内で組み合せることによって組み合せて1つのポリペプチド鎖にすることを指すのに用いられる。用語「融合」は、ポリペプチド鎖の末端の1つに対する融合に加えて、内部融合、すなわち、出所の異なる配列をポリペプチド鎖内に挿入することを明示的に含む。本開示では、用語「融合」は出所の異なるアミノ酸配列を組み合せることを指すのに用いられる。
【0029】
用語「エピトープ」は、免疫グロブリンに特異的に結合することができるあらゆる分子決定因子を含む。いくつかの態様では、エピトープ決定因子は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリルやスルホニルなどの分子の化学的に活性な表面群を含み、また、いくつかの態様では、特定の三次元構造特性及び/又は特定の電荷特性を持つことができる。エピトープは免疫グロブリンが結合する抗原の領域である。「結合領域」は結合分子が結合する結合標的上の領域である。
【0030】
用語「標的」又は「結合標的」は最も広い意味で用いられ、特にポリペプチドを含み、また、核酸、炭水化物、脂質、細胞、及び自然界に存在する生物学的機能を持ったり持たなかったりするその他の分子を含むが、これらに限定されない。いくつかの特定の実施形態では、用語「標的」は標的細胞、たとえば腫瘍細胞上の細胞表面の分子を指す。
【0031】
用語「抗原」は、免疫グロブリンに結合したり細胞免疫反応を引き起こしたりすることができる物質又はそのフラグメントを指す。免疫原は、有機体の免疫反応、具体的には動物の免疫反応、より具体的には、ヒトを含む哺乳動物の免疫反応を誘発することができる抗原を指す。用語「抗原」は上記で定義されている抗原決定基すなわちエピトープとして知られている領域を含む。
【0032】
核酸は別の核酸配列と機能的な関係にある場合に「機能的にリンクされている」。たとえば、プレ配列や分泌リーダのDNAがポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される場合に当該DNAがポリペプチドのDNAに機能的にリンクされたり、プロモータ又はエンハンサが配列の転写に影響を及ぼす場合に当該プロモータ又はエンハンサがコード配列に機能的にリンクされたり、リボソーム結合部位が翻訳を容易にするように配置される場合に当該リボソーム結合部位がコード配列に機能的にリンクされたりする。一般的に、「機能的にリンクされている」は、リンクされているDNA配列が連続していることを意味し、分泌リーダの場合、連続しておりかつ読取りフレーム内にあることを意味する。ただし、エンハンサは連続している必要はない。リンクは都合の良い制限部位での連結によって実現される。このような部位が存在しない場合、従来の仕方にしたがって合成オリゴヌクレオチドアダプタ又はリンカが用いられる。
【0033】
ペプチド配列又はポリペプチド配列、すなわち、本開示で特定されているscFV抗体ポリペプチド配列又はGCN4由来のペプチドに対する「パーセント(%)アミノ酸配列一致率(percent(%)amino acid sequence identity)」は、配列のアライメントを行ない、必要に応じてギャップを導入して最大パーセント配列一致率を実現し、いかなる従来の置換も配列一致率の一部として考慮しなかった後に、特異性を持つペプチド配列又はポリペプチド配列内のアミノ酸残基と同一である配列候補内のアミノ酸残基の割合として定義される。アミノ酸配列一致率のパーセントを決定するためのアライメントを、たとえば、BLAST、BLAST-2、ALIGNやMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公用のコンピュータソフトウェアを用いて当該技術の技術範囲内の様々な仕方で実現することができる。比較される配列の全長にわたる最大限のアライメントを実現するのに必要なアルゴリズムを含め、アライメントを測定するための適切なパラメータを当業者は決定することができる。2つの配列は、比較ウィンドウ、すなわち、公知の配列比較アルゴリズムの1つを用いて測定される指定領域にわたって最大の対応関係が構築された状態や、手動のアライメントと目視検査によって最大の対応関係が構築された状態で比較及びアライメントを行なったときに、2つの配列の同じアミノ酸残基又はヌクレオチドの割合が指定された割合である(すなわち、指定された領域(指定のない場合は配列全体)にわたって60%の一致率である(65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%や99%の一致率であってもよい))場合、「実質的に同一」である。
【0034】
「治療」又は「処置」は、治療的処置と予防的又は防止的措置との両方を指し、その目的は対象となる病状や障害の進行を止めたり遅らせ(軽減)たりすることである。処置を必要とする対象には、既に障害を抱えている対象だけでなく、障害を抱え易い対象や、障害の進行を止めるべき対象も含まれる。たとえば、対象又は哺乳動物が本発明の処置を受けた後、癌細胞数の減少若しくは癌細胞の消失、腫瘍サイズの減少、癌の軟部組織及び骨への拡散を含む周囲の器官への癌細胞の浸潤の抑制(すなわち、所定程度遅らせること、好ましくは、止めること)、腫瘍転移の抑制(すなわち、所定程度遅らせること、好ましくは、止めること)、腫瘍増殖の所定程度の抑制、並びに/又は特定の癌に関連する1つ以上の症状の所定程度の緩和、罹患率及び/若しくは死亡率の低下及び生活の質の問題の改善の1つ以上について減少を観察及び/又は測定することができたり消失したりすることが対象に見られる場合、対象又は哺乳動物の癌の「治療」が成功する。
【0035】
用語「保存的に改変されたバリアント」はアミノ酸配列と核酸配列との両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変されたバリアントは、同一又は本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸を指したり、核酸がアミノ酸配列をコードしていない場合は本質的に同一の配列を指したりする。遺伝コードが縮重しているので、いずれのタンパク質も多数の機能的に同一の核酸によってコードされる。たとえば、コドンGCA、GCC、GCG及びGCUはすべてアミノ酸アラニンをコードする。したがって、コドンによってアラニンが指定されているすべての位置で、コードされたポリペプチドを変更することなく、コドンを、記載されている対応するコドンのいずれかに変更することができる。このような核酸多様性は「サイレント多様性」と呼ばれ、保存的に改変された多様性の一種である。ポリペプチドをコードする本開示のすべての核酸配列が核酸のあらゆる可能なサイレント多様性も記述する。核酸内の各コドン(通常メチオニンの唯一のコドンであるAUGと、通常トリプトファンの唯一のコドンであるTGGとを除く)を改変して機能的に同一の分子を生成することができることを当業者であれば理解する。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント多様性は記述されている各配列に暗黙的に含まれる。
【0036】
ポリペプチド配列の場合、「保存的に改変されたバリアント」は、保存的アミノ酸置換がなされたバリアント、すなわち、アミノ酸残基が同様の電荷を持つ側鎖を有する他のアミノ酸残基に置き換えられたバリアントを指す。当該技術では類似の電荷を持つ側鎖を有するアミノ酸残基のファミリが定められている。これらのファミリは、塩基性側鎖(たとえば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(たとえば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、極性無電荷側鎖(たとえば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(たとえば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(たとえば、トレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(たとえば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸を含む。
【0037】
用語「接触」はそれについての標準的な意味を持ち、2つ以上の薬品(たとえば、ポリペプチドやファージ)を組み合せること、薬品と細胞とを組み合せること又は異なる細胞の2つの集団を組み合せることを指す。接触はin vitroで生じる場合があり、たとえば、抗体と細胞とを混合したり、試験管や増殖培地内で抗体の集団と細胞の集団とを混合したりする。接触は細胞内すなわちin situでも生じる場合があり、たとえば、2つのポリペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドの細胞内での共発現によって2つのポリペプチドを細胞内で接触させたり、細胞溶解物内で2つのポリペプチドを接触させたりする。接触は対象の内部でin vivoで生じる場合もあり、たとえば、薬品を標的細胞に送達するために対象に薬品を投与することによって生じる場合がある。
【0038】
用語「対象」は多くの場合、ヒトとヒト以外の動物(特にヒト以外の哺乳動物)との両方を指す。別段の断りのない限り、開示されている治療法に関する場合は当該用語はヒト患者を指す方が優先される。
【0039】
人工T細胞受容体(キメラT細胞受容体、キメラ免疫受容体、キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)やT-bodyとしても知られている)は、免疫エフェクタ細胞に任意の特異性を組み込む遺伝子改変受容体(engineered receptor)である。通常、当該受容体はモノクローナル抗体の特異性をT細胞に組み込むのに用いられ、そのコード配列の移動はレトロウイルス若しくはレンチウイルスベクタ又はトランスポゾンによって促進される。CAR遺伝子改変T細胞(本開示ではCAR-T細胞やCART細胞とも略記)は、細胞外認識部位が抗体由来の認識ドメインで構成され、細胞内領域が1つ以上のリンパ球刺激部分に由来するキメラ受容体を備えた遺伝子的に改変されたT細胞である。試作段階のCARの構造はモジュール式の構造であり、様々な機能ドメインに収容することで、T細胞の特異性の選択と活性化の制御とを可能にするように設計されている。好ましい抗体由来の認識部位は、モノクローナル抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域との両方の特異性と結合残基とを組み合せる単鎖可変フラグメント(single chain variable fragment:scFv)である。最も一般的なリンパ球活性化部分には、T細胞誘発部分(たとえばCD3zeta)と直列するT細胞共刺激(たとえば、CD28及び/又は4-1BB)ドメインが含まれる。このようなキメラ受容体をエフェクタリンパ球(T細胞やナチュラルキラー細胞など)に設けることにより、既定の特異性により任意の所望の標的抗原に遺伝子改変細胞がHLA拘束のない仕方でリダイレクトされる。特定の患者の末梢リンパ球から採取したT細胞にCARコンストラクトがex vivoでレトロウイルス若しくはレンチウイルスベクタ又はトランスポゾンを用いて導入される。得られたCAR遺伝子改変T細胞を患者に注入するのに続いて、当該T細胞は移動して標的部位に達し、標的細胞や標的組織と相互作用すると、活性化を経て既定のエフェクタ機能を発揮する。CARアプローチの治療標的には、癌及びHIV感染細胞又は自己免疫エフェクタ細胞が含まれる。
【0040】
「ベクタ」はプラスミド、ファージ、コスミドなどのレプリコンであり、これに別のポリヌクレオチドセグメントを取り付けることで、取り付けられたセグメントの複製を引き起こすことができる。1つ以上のポリペプチドを対象としてコードする遺伝子の発現を誘導することができるベクタを「発現ベクタ」と称する。
【0041】
本開示で用いられる場合、sCAR-TプラットフォームはCAR-Tスイッチ分子及び相補的CAR-T細胞(本開示で用いられる際、sCAR-T細胞とも称する)を指す。CAR-Tスイッチ分子(CAR-Tスイッチ)は、標的細胞(たとえば腫瘍細胞)の表面上の標的分子に特異的に結合することができるターゲティング部分(たとえば、抗体や、その抗原結合フラグメント)を含む。CAR-Tスイッチは相補的CAR-T細胞のCARに結合することもできる。通常、CAR-T細胞のCARの細胞外ドメインは、CAR-TスイッチのCAR-IDドメイン(たとえば、ペプチドや低分子)を特異的に認識する抗体部分(たとえばscFv)を含む。
【0042】
II.ヒト患者を治療するためのswitchable CAR-Tプラットフォーム
本発明では、様々な癌、腫瘍や悪性腫瘍に罹患したヒト患者を治療するためのsCAR-T療法が提供される。いくつかの実施形態では、本方法は患者のCD-19陽性悪性腫瘍の症状を治療又は改善することを意図している。関連する実施形態では、本発明の新規の療法は対象の腫瘍の退縮を促進しかつ/又は腫瘍の増殖を阻止することを対象とする。いくつかの実施形態では、本発明の療法で治療される対象にリンパ球除去化学療法(別名はLDプレコンディショニング)を用いてプレコンディショニングがなされる。このLDプレコンディショニングは、対象にCAR-T細胞を実際に注入することが可能である前に必須のステップである。これにより、in vivoでのCAR T細胞の拡大及び生存に「好ましい(favorable)」環境が生成され、制御性T細胞を排除することによってこの環境が生成される可能性が高い。LDプレコンディショニングにより、腫瘍の免疫原性を向上させて疾患の制御を改善することができる。野生型T細胞との競合がなくなるとともに、生存/増殖促進サイトカイン、すなわちインターロイキン(IL)-7及びIL-15が増加することにより、養子移入されたT細胞の恒常性増殖を促進するようにLDプレコンディショニングが働くことが示されている。治療前のリンパ球枯渇化プレコンディショニングを当該技術で周知の方法、たとえば、本開示で例示されているシクロホスファミド及びフルダラビンコンディショニング化学療法によって容易に実行することができる。たとえば、Paplham et al.,Leuk Res Rep.3:28-31,2014、Bot et al.,Blood 126:4426,2015、Hirayama et al.,Blood 133:1876-1887,2019、Hay及びTurtle,Drugs 77:237-245,2017並びにYakoub-Agha et al.,Haematologica.105:297-316,2020を参照する。
【0043】
多くの場合、治療される対象(LD化学療法を受けた後であってもよい)には、対象が罹患している特定の癌、たとえばCD19陽性B細胞悪性腫瘍の処置用に設計されたswitchable CAR-T細胞プラットフォーム(sCAR-T)が投与される。switchable CAR-T細胞プラットフォームは(a)CAR-T細胞のCARに結合することができ、腫瘍細胞上の細胞表面分子を特異的に標的とするCAR-Tスイッチ(本開示では、CAR-Tスイッチ分子(CAR-TスイッチポリペプチドやCAR-Tスイッチ化合物を含む)とも称する)と、(b)スイッチが結合することができるCARを含む相補的CAR-T細胞とを含む。ヒト対象を治療する場合、投与されるCAR-Tスイッチ及び相補的CAR-T細胞がヒトのもの又はヒト化したものであることが好ましい。たとえば、CARがヒト化ポリペプチドであることが可能であり、CARが発現するT細胞が、ヒト細胞であることが可能である。これらの実施形態のいくつかでは、ヒト化CARを発現させるT細胞は治療される特定のヒト対象から単離された自家T細胞である。多くの場合、投与を免疫療法の標準的なプロトコールや、本開示に記載されているより詳細な基本的説明にしたがって実行することができる。いくつかの好ましい実施形態では、CAR-Tスイッチ及び相補的CAR-T細胞を注入によって対象に投与する。いくつかの実施形態では、本開示で説明されているsCAR-T処置方法を、癌を治療するのに用いられる他の既知の療法や治療薬、たとえば、化学療法、ホルモン療法、放射線療法や手術と組み合せて用いることができる。
【0044】
いくつかの方法では、相補的CAR-T細胞とともに1つ以上のCAR-Tスイッチを治療される対象に投与することができ、これらは腫瘍細胞上の異なる表面分子を標的とする。いくつかの好ましい実施形態では、異なるCAR-Tスイッチ分子が同じCAR-IDドメインを含み、これにより、異なるスイッチが同じ相補的CAR-T細胞と相互作用することが可能になる。このような処置は不均一性を持つ腫瘍に特に有用である。たとえば、白血病やリンパ腫に罹患している患者を(a)CD19ターゲティングCATR-TスイッチとCD20又はCD22ターゲティングスイッチとの両方と、(b)相補的CAR-T細胞とを含む医薬組成物を用いて治療することができる。これらの実施形態では、CAR-Tスイッチは逐次的に投与したり同時に投与したりすることができる。第1のスイッチが標的とする標的細胞上の第1の細胞表面分子のダウンレギュレーション後に標的細胞上の第2の細胞表面分子を標的とする第2のスイッチを投与してもよい。
【0045】
関連する態様では、本発明の方法を対象のCAR-T細胞の移植や拡大に広く用いることができる。通常、対象はCAR-T細胞によって治療することが意図されている疾患や症状(たとえば癌)に罹患している対象である。本方法では、(a)(i)キメラ抗原受容体相互作用ドメイン(chimeric antigen receptor-interacting domain:CAR-ID)と、(ii)対象が罹患している疾患や症状を発現させる分子(たとえば、腫瘍細胞表面分子)に特異的なターゲティング部分とを含むCAR-Tスイッチと、(b)単鎖可変フラグメント(scFv)を有する相補的CAR-T細胞であって、scFvが相補的CAR-T細胞のCARの細胞外ドメインでCAR-IDに特異的に結合する、相補的CAR-T細胞とが対象に投与される。
【0046】
通常、本発明の方法で用いられるswitchable CAR-T細胞プラットフォームは1つ以上のCAR-Tスイッチ分子と1つ以上の相補的CAR-T細胞とを含む。いくつかの実施形態では、投与される1つ以上のスイッチとそのCAR-T細胞とは互いに補い合う。通常、対象に投与されるCAR-Tスイッチはキメラ抗原受容体相互作用ドメイン(CAR-ID)とターゲティングドメインすなわちターゲティング部分とを含む。CAR-IDは相補的CAR-T細胞上のCARの細胞外ドメインに特異的に結合する。CAR-IDがCAR-T細胞のCARによって結合することができるように、CAR-TスイッチのCAR-IDは、本開示で説明されているターゲティング部分(たとえば、抗CD19抗体やその抗原結合部分)と融合したり接合したりそれ以外の仕方で取り付けたりすることができる任意の物質である。たとえば、CAR-IDはCAR結合タンパク質、CAR結合ペプチド、CAR結合低分子であってもよい。いくつかの好ましい実施形態では、CAR-IDは酵母転写因子GCN4ペプチド又はその誘導体若しくは相同体を含む。たとえば、Hinnebusch及びFink,Proc Natl Acad Sci USA 80:5374-8,1983、Arndt et al.,Proc Natl Acad Sci USA 83:8516-20,1986、国際公開第2015/057834号並びに国際公開第2015/057852号を参照する。これらの実施形態のいくつかでは、酵母転写因子GCN4ペプチドはBerger et al.FEBS Letters 450:149-153,199及びZahnd,C.,et al.,J.Biol.Chem.279:18870-18877,2004に記載されているようなGCN4(7P14P)ペプチド配列又はエピトープを含む。例として、CAR-ID内のGCN4由来のペプチドは配列NYHLENEVARLKKL(配列番号1)又は配列RMKQLEPKVEELLPKNYHLENEVARLKKLVGER(配列番号13)を含むことができる。
【0047】
用いられるCAR-Tスイッチのターゲティング部分は標的腫瘍細胞の表面に存在する任意の標的分子、たとえば、本開示で例示されているCD19に結合することができる。標的分子は抗原を含むことができることが好ましい。様々な実施形態では、標的分子はタンパク質、脂質部分、糖タンパク質、糖脂質、炭水化物、多糖類、核酸、MHC結合ペプチドやこれらの組合せであることが可能である。いくつかの好ましい実施形態では、ターゲティング部分はターゲティング抗体やその抗原結合フラグメントなどのターゲティングポリペプチドである(たとえば、本開示で例示されているFab)。ターゲティング抗体はヒト抗体、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、ヒト遺伝子改変抗体、ヒト以外の抗体及び/又はキメラ抗体であることが可能である。いくつかの実施形態では、CAR-Tスイッチに用いられるヒト以外の抗体をヒト化して、親のヒト以外の抗体の特異性及び親和性を保持しつつ、ヒトに対する免疫原性を抑えることができる。ヒト患者を治療する場合、ターゲティング抗体はヒト化抗体又はヒト抗体であることが好ましい。様々な実施形態では、ターゲティング抗体は腫瘍細胞上の異なる標的分子、たとえば、CD19、Her2、CLL1、CD33、CD123、EGFR、EGFRvIII、CD20、CD22、CS1、BCMA、CEAやこれらのフラグメントに特異的に結合することができる。
【0048】
いくつかの好ましい実施形態では、CAR-Tスイッチのターゲティング部分はヒト化重鎖配列及び/又はヒト化軽鎖配列を含む抗体又は抗原結合フラグメントである。本発明の方法に用いるために使用及び/又はヒト化することができる腫瘍ターゲティングCAR-Tスイッチのいくつかの具体的な例がたとえば、PCT/US2017/057460、PCT/US2014/060713、PCT/US2014/060684、PCT/US2016/024524、PCT/US2016/027997及びPCT/US2016/027990に記載されている。
【0049】
いくつかの実施形態では、CAR-IDとターゲティング部分とが融合する。これらの実施形態のいくつかでは、CAR-IDの構造成分(たとえばペプチド末端)がポリペプチドターゲティング部分(たとえば、ヒト化抗CD19抗体やその抗原結合フラグメント)の末端につなげられたりリンクされたりする。いくつかの実施形態では、CAR-IDとターゲティング部分とがリンカを介して融合する。いくつかの実施形態では、CAR-IDがターゲティング部分に部位特異的に取り付けられる。部位特異的取付けは、ターゲティング部分上の所定の部位、たとえば、本開示で例示されているスイッチ分子にあるようなターゲティング抗体の軽鎖N末端にCAR-IDを取り付けることをともなってもよい。いくつかの実施形態では、部位特異的取付けは、ターゲティング部分の天然以外のアミノ酸にCAR-IDを取り付けることをともなってもよい。具体的な例として、本発明の方法で用いられるCAR-TスイッチはCD19ターゲティング分子SWI019である。これは、GGGGS(配列番号14)リンカを介してヒト化抗CD19 Fab分子の軽鎖のN末端と融合するGCN4由来のペプチドNYHLENEVARLKKL(配列番号1)を含む改変Fab抗体である。Fab分子の得られたGCNペプチド融合軽鎖可変領域配列は示されている配列番号2である。この軽鎖配列に加えて、SWI019スイッチ(改変Fab分子)は配列番号3に示されている重鎖可変領域配列も有する。定常領域を含めて、SWI019の軽鎖配列及び重鎖配列がそれぞれ配列番号15及び16に示されている。このCAR-Tスイッチの構造のより詳細な情報はたとえば、米国特許第11,174,306号及びRodgers DT,et al.,PNAS,2016;113(4):E459-68に記載されている。
【0050】
CAR-Tスイッチとともに、癌の処置のために相補的CAR-T細胞も対象に投与される。通常、CAR-T細胞は、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)を含む。細胞外ドメインは、用いられるCAR-TスイッチのCAR-ID(たとえば、GCN4、Flag、K4やE4ペプチドや、FITCなどの低分子)に特異的に結合することができる。いくつかの好ましい実施形態では、CARの細胞外ドメインはスイッチのCAR-IDに結合する抗体又は抗体フラグメント(たとえばscFv)を含む。抗体はヒト抗体、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、ヒト遺伝子改変抗体、ヒト以外の抗体及び/又はキメラ抗体であってもよい。ヒト患者を治療するためには、CAR-T細胞のCARの抗体がヒト抗体又はヒト化抗体であることが好ましい。CAR-T細胞のCARにいくつかの既知のタンパク質膜貫通ドメインを用いることができる。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインはCD8又はCD28の膜貫通ドメインであることが可能である。多くの場合、細胞内シグナル伝達ドメインがCD3ζ、FcR-γ、Syk-PTなどのシグナル伝達ドメインと、CD28、4-1BB、CD134などの共シグナル伝達ドメインとを含むことができる。いくつかの実施形態では、CARの細胞内シグナル伝達ドメインは(a)CD3ζドメインに加えて、(b)CD28ドメイン、4-1BBドメイン又はCD28ドメインと4-1BBドメインとの両方を含むことができる。いくつかの実施形態では、細胞外ドメインと膜貫通ドメインとを接続するヒンジ領域がCARに存在する。
【0051】
用いられるCAR-TスイッチのCAR-IDに応じて、様々なCAR-ID結合部分が相補的CAR-T細胞の細胞外ドメインに存在することが可能である。いくつかの実施形態では、CARの細胞外ドメインは酵母転写因子GCN4又はそのフラグメントを認識する抗体又は抗体フラグメントを含むことができる。たとえば、Rodgers et al.,Proc Natl Acad Sci USA113:E459-E468,2016を参照する。いくつかの実施形態では、CAR-T細胞のCARの細胞外ドメインは抗フルオレセインイソチオシアネート(anti-fluorescein isothiocyanate:FITC)抗体又はそのFITC結合部分を含むことができる。抗FITC抗体が抗FITC scFvであることが可能である。いくつかの実施形態では、CAR-T細胞のCARの細胞外ドメインは合成ペプチド(天然には存在しないペプチド)を認識する抗体又はフラグメントを含むことができる。たとえば、CARの抗体はFLAG(登録商標)タグ又はそのフラグメントを特異的に認識する抗体であることが可能である。いくつかの実施形態では、CARの細胞外ドメインは抗HTP抗体又はそのフラグメントを含むことができる。
【0052】
ヒト対象を治療する場合、投与されるCAR-T細胞のCARはヒトに対する免疫原性を抑えるために当然ヒトのCAR又はヒト化されているCARであることが好ましい。いくつかの実施形態では、投与されるCAR-T細胞のCARの細胞外ドメインは同時に投与されるスイッチのCAR-IDに結合するヒト化scFvを含む。ヒト化scFvはヒト免疫グロブリンフレームワークに組み込まれるヒト以外(たとえばマウス)のCDRを有するヒト化VH(可変重鎖)配列を備えることができる。いくつかの実施形態では、CARの細胞外ドメインはヒト化抗GCN4 scFvを含むことができる。このようなscFv分子はZahnd et al.,J.Biol.Chem.279:18870-77,2004に記載されている抗GCN4 scFvクローン52SR4から派生したものであることが可能である。ヒト化抗GCN4 scFv(たとえば、クローン52SR4のヒト化形態)はヒト化軽鎖を含んだりヒト化重鎖を含んだりヒト化軽鎖とヒト化重鎖とを含んだりする。ヒト化抗GCN4(たとえば、クローン52SR4のヒト化形態)はヒト免疫グロブリンフレームワークに組み込まれるヒト以外(たとえばマウス)のCDRを有するヒト化VH(可変重鎖)配列を含むことができる。本発明のCAR-T細胞に用いることができるこのようなヒト化抗GCN4 scFv分子の具体的な例には本開示で例示されているsCAR-T細胞にあるような配列番号7に示されている配列が含まれる。
【0053】
本発明で用いられる補完的かつ不活性なCAR-T細胞を当該技術で周知の方法や、たとえば、国際公開第2018/075807号、国際公開第2015/057834号、国際公開第2015/057852号やMarcu-Malina et al.,Expert Opinion on Biological Therapy,Vol.9,No.5に例示されている特定のプロトコールにしたがって調製することができる。一般的には、CARをコードする遺伝物質を任意の適切なT細胞、たとえば、セントラルメモリT細胞などのヒトT細胞に導入するのに組換え技術を用いることができる。例として、遺伝子改変CAR(たとえばヒト化CAR)を発現させるレンチウイルスベクタを用いたヒトT細胞の形質導入によって本発明の方法で用いられるCAR-T細胞を生成することができる。いくつかのヒト化CAR配列及び当該ヒト化CAR配列を内在するCAR-T細胞が当該技術で知られている。これらのすべてを、本発明の方法に用いる場合に容易に使用しかつ/又は適応させることができる。たとえば、国際公開第2018/075807号、Li et al.,Biomarker Research 8:36,2020及びMaude et al.,Blood 128:217,2016を参照する。
【0054】
具体的な例として、本発明の方法で用いられるCAR-TスイッチはGCN4ペプチドと融合するヒト化抗CD19抗体又はその抗原結合フラグメント(たとえばFab)を含むことができる。ヒト化抗CD19抗体は配列番号2及び3とそれぞれ同一又は実質的に同一(たとえば、少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%)の軽鎖可変領域配列及び重鎖可変領域配列を含むことができる。GCN4ペプチドCAR-IDは配列番号1と同一又は実質的に同一(たとえば、少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%)のアミノ酸配列を含むことができ、軽鎖のN末端にある抗CD19抗体と融合する。当該CAR-Tスイッチとともに用いられる相補的CAR-T細胞はその細胞外ドメインにヒト化抗GCN4抗体又はその抗原結合フラグメント(たとえばscFv)を含む。抗GCN4抗体の軽鎖可変領域配列及び重鎖可変領域配列が配列番号4及び5にそれぞれ示されている。GSリンカによって接続されるこれらの2つの可変領域配列を有する、特異性を持つ抗GCN4 scFv分子が配列番号7に示されている。当該CARには、scFvのC末端を膜貫通ドメインのN末端(配列番号9)に接続するヒンジ領域(配列番号8)が存在する。CARの細胞内ドメインがN末端からC末端に向かってCD28ドメイン(配列番号10)、4-1BBドメイン(配列番号11)及びCD3ζドメイン(配列番号12)を含む。CAR分子全体のアミノ酸配列が配列番号6に示されている。当該CD-19ターゲティングヒト化CAR-Tスイッチ及び相補的CAR-T細胞の合成及び製造については当該技術で説明されている。たとえば、国際公開第2018/075807号を参照する。本発明の方法に用いるのに適する他の多くのヒト化CAR-Tスイッチ及び相補的CAR-T細胞も知られている。たとえば、国際公開第2018/075807号及びViaud et al.,Proc.Natl.Acad Sci.USA 115:E10898-E10906,2018を参照する。
【0055】
配列番号2(N末端融合GCN4ペプチドを有するヒト化抗CD19軽鎖可変領域)
NYHLENEVARLKKLGGGGSDIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDISKYLNWYQQKPGKAVKLLIYHTSRLHSGVPSRFSGSGSGTDYTLTISSLQPEDFATYFCQQGATLPYTFGQGTKLEIK
配列番号3(ヒト化抗CD19重鎖可変領域)
QVQLQESGPGLVKPSETLSVTCTVSGVSLPDYGVSWIRQPPGKGLEWLGVIWGSETTYYNSALKSRLTISKDNSKNQVSLKMSSLTAADTAVYYCAKHYYYGGSYAMDYWGQGTLVTVSS
配列番号4(ヒト化抗GCN4軽鎖可変領域)
QAVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGAVTTSNYASWVQEKPDHLFRGLIGGTNNRAPGVPARFSGSLLGGKAALTISGAQPEDEAIYFCVLWYSDHWVFGGGTKLTVDG
配列番号5(ヒト化抗GCN4重鎖可変領域)
QVQLQQSGPGLVKPSETLSITCTVSGFLLTDYGVNWVRQPPGKGLEWLGVIWGDGITDYNPSLKSRLTVSKDTSKNQVSLKMSSLTDADTARYYCVTGLFDYWGQGTTLTVSS
配列番号6(ヒト化CARの全配列)
QAVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGAVTTSNYASWVQEKPDHLFRGLIGGTNNRAPGVPARFSGSLLGGKAALTISGAQPEDEAIYFCVLWYSDHWVFGGGTKLTVDGGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSQVQLQQSGPGLVKPSETLSITCTVSGFLLTDYGVNWVRQPPGKGLEWLGVIWGDGITDYNPSLKSRLTVSKDTSKNQVSLKMSSLTDADTARYYCVTGLFDYWGQGTTLTVSSESKYGPPCPPCPDFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVRSKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRSKRGRKKLLYIFKQPFMRPVQTTQEEDGCSCRFPEEEEGGCELRVKFSRSADAPAYKQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR
配列番号7(ヒト化抗GCN4 scFv)
QAVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGAVTTSNYASWVQEKPDHLFRGLIGGTNNRAPGVPARFSGSLLGGKAALTISGAQPEDEAIYFCVLWYSDHWVFGGGTKLTVDGGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSQVQLQQSGPGLVKPSETLSITCTVSGFLLTDYGVNWVRQPPGKGLEWLGVIWGDGITDYNPSLKSRLTVSKDTSKNQVSLKMSSLTDADTARYYCVTGLFDYWGQGTTLTVSS
配列番号8(ヒト化CARのヒンジ)
ESKYGPPCPPCPD
配列番号9(ヒト化CARの膜貫通ドメイン)
FWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWV
配列番号10(ヒト化CARの細胞内ドメインのCD28ドメイン)
RSKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRS
配列番号11(ヒト化CARの細胞内ドメインの4-1 BBドメイン)
KRGRKKLLYIFKQPFMRPVQTTQEEDGCSCRFPEEEEGGCEL
配列番号12(ヒト化CARの細胞内ドメインのCD3ζドメイン)
RVKFSRSADAPAYKQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR
配列番号15(CAR-TスイッチFab SWI019の全軽鎖配列)
NYHLENEVARLKKLGGGGSDIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDISKYLNWYQQKPGKAVKLLIYHTSRLHSGVPSRFSGSGSGTDYTLTISSLQPEDFATYFCQQGATLPYTFGQGTKLEIKRTVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
配列番号16(CAR-TスイッチFab SWI019の全重鎖配列)
QVQLQESGPGLVKPSETLSVTCTVSGVSLPDYGVSWIRQPPGKGLEWLGVIWGSETTYYNSALKSRLTISKDNSKNQVSLKMSSLTAADTAVYYCAKHYYYGGSYAMDYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSC
III.治療対象となるヒトの癌
本発明の方法は同時に投与されるCAR-Tスイッチによって認識される1つ以上の特定の標的分子(たとえばCD19)を担持するヒト対象の腫瘍細胞にsCAR-T細胞を誘導することによってヒトの癌を治療することを対象とする。スイッチは同じ標的分子(たとえばCD19)を発現する複数の標的細胞と相互作用してもよし、異なる標的分子(たとえば、CD19及びCD20)を発現する複数の標的細胞と相互作用してもよい。いくつかの方法では、本発明のsCAR-Tプラットフォームによって標的とされる癌細胞表面分子が受容体である。受容体は細胞外受容体であってもよい。受容体は細胞表面受容体であってもよい。限定を課さない例として、受容体はホルモン、神経伝達物質、サイトカイン、増殖因子や細胞認識分子に結合してもよい。受容体は膜貫通受容体であってもよい。受容体は酵素結合受容体であってもよい。受容体はGタンパク質共役受容体(G-protein couple receptor:GPCR)であってもよい。受容体は増殖因子受容体であってもよい。細胞表面分子が受容体以外の細胞表面タンパク質であってもよい。標的分子は分化タンパク質群であってもよい。限定を課さない例として、細胞表面分子をCD19、CD20、CD34、CD31、CD117、CD45、CD11b、CD15、CD24、CD114、CD182、CD14、CD11a、CD91、CD16、CD3、CD4、CD25、CD8、CD38、CD22、CD61、CD56、CD30、CD13、CLL1、CD33、CD123又はこれらのフラグメント若しくは相同体から選択してもよい。いくつかの好ましい実施形態では、標的分子は本開示で例示されているCD19である。
【0056】
本発明の方法により様々なヒトの癌を治療することができる。いくつかの実施形態では、治療される癌は不均一性を持つ。いくつかの実施形態では、治療される癌は血液細胞の悪性腫瘍である。たとえば、治療される癌は骨髄細胞やその他の血液細胞に由来することが可能である。これらの実施形態では、癌はB細胞、T細胞、単球、血小板、白血球、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、造血幹細胞や血管内皮細胞前駆体に由来することが可能である。いくつかの実施形態では、治療される癌は再発性の難治性B細胞悪性腫瘍である。いくつかの好ましい実施形態では、治療される癌はCD19陽性Bリンパ球に由来する。いくつかの実施形態では、癌は幹細胞に由来してもよい。たとえば、ターゲティング癌細胞が多能性細胞に由来してもよい。いくつかの実施形態では、標的とされる癌細胞は1つ以上の内分泌腺に由来することが可能である。内分泌腺はリンパ腺、下垂体、甲状腺、副甲状腺、膵臓、生殖腺や松果腺であってもよい。
【0057】
いくつかの好ましい実施形態では、本発明の方法は再発性/難治性B細胞悪性腫瘍に罹患しており、以前に処置を受けた対象を治療することを対象とする。このような疾患及び症状は当該技術で周知である。たとえば、World Health Organization Classification of Tumours,Lyon,France:IARC,Revised 4th Edition(2017)のSwerdlow et al.,WHO classification of tumours of haematopoietic and lymphoid tissues及びSwerdlow et al.,Blood 2016,127(20):2375-90を参照する。様々な実施形態では、当該対象はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B cell lymphoma:DLBCL)と古典的ホジキンリンパ腫との中間の特徴を持ち、分類不能なものを含む様々な形態のB細胞リンパ腫に罹患している対象であることが可能である。これらは、たとえば、DLBCL(NOS)、慢性炎症に関連するDLBCL、胚中心B細胞型、活性化B細胞型、慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia:CLL)/小リンパ球性リンパ腫(small lymphocytic lymphoma:SLL)、濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma:FL)やその他低悪性度に分類される組織(indolent histology)からDLBCLへの形質転換、リヒタ形質転換をともなうCLL、脾臓辺縁帯リンパ腫、脾臓B細胞リンパ腫/白血病、分類不能(脾臓びまん性赤脾髄小型B細胞リンパ腫及び有毛細胞白血病バリアント)、粘膜関連リンパ組織型節外性辺縁帯リンパ腫(MALTリンパ腫)、節性辺縁帯リンパ腫、マントル帯限局型マントル細胞腫瘍症(in situ mantle cell neoplasia)を含むマントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma:MCL)、濾胞性リンパ腫(FL)(胚中心限局型濾胞性腫瘍症と十二指腸型濾胞性リンパ腫とを含む)、IRF4再構成をともなう大細胞型B細胞リンパ腫、原発性皮膚濾胞中心リンパ腫、並びにエプスタインバーウイルス(epstein bar virus:EBV)+DLBCL(NOS)(EBV+DLBCLを含む)を含む。本発明の方法により治療するのに適した腫瘍は様々な原発性縦隔(胸腺)大細胞型B細胞リンパ腫も含む。これらは、たとえば、ALK+大細胞型B細胞リンパ腫、HHV8+DLBCL(NOS)、MYC並びにBCL2及び/又はBCL6再構成をともなう高悪性度B細胞リンパ腫、高悪性度B細胞リンパ腫(NOS)、並びにバーキットリンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫(lymphoplasmacytic lymphoma:LPL)(ワルデンシュトレームマクログロブリン血症(Waldenstrom macroglobulinemia:WM)を含む)を含む。
【0058】
本発明のいくつかの方法は白血病、たとえばCD-19陽性白血病の治療を対象とする。白血病の具体的な例には骨髄性白血病、リンパ芽球性白血病、骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、骨髄単球性白血病、好中球性白血病、骨髄異形成症候群、B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、大細胞リンパ腫、混合細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、再発性小リンパ球性リンパ腫、有毛細胞白血病、多発性骨髄腫、好塩基球性白血病、好酸球性白血病、巨核芽球性白血病、単芽球性白血病、単球性白血病、赤白血病、赤芽球性白血病及び肝細胞癌が含まれる。いくつかの実施形態では、治療される障害は血液悪性腫瘍である。いくつかの実施形態では、治療される障害はB細胞悪性腫瘍である。いくつかの実施形態では、治療される障害は慢性リンパ性白血病である。いくつかの実施形態では、治療される障害は急性リンパ性白血病である。いくつかの実施形態では、治療される障害はCD19陽性バーキットリンパ腫である。
【0059】
いくつかの好ましい実施形態では、治療される癌はCD19陽性腫瘍や悪性腫瘍である。これらの実施形態のいくつかでは、治療される癌はB細胞癌又はB細胞悪性腫瘍である。B細胞癌又はB細胞悪性腫瘍は非ホジキンリンパ腫(non-Hodgkin lymphomas:NHL)の大部分を占めるB細胞リンパ腫を含む。これらのB細胞癌の例には、たとえば、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫、慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、辺縁帯リンパ腫、バーキットリンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫(ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症)、有毛細胞白血病(hairy cell leukemia:HCL)、原発性中枢神経系(central nervous system:CNS)リンパ腫及び原発性眼内リンパ腫が含まれる。
【0060】
IV.投与及び用量
本開示で説明されているヒトの癌の治療を実施する際、処置を必要とする対象に、本開示で説明されているsCAR-Tプラットフォームの治療有効量を含む医薬組成物が投与される。本開示で説明されているように、治療有効量は、投与レジメンが適用される対象で許容不能な毒性が現れることがないように当然最適な量でもある。sCAR-Tプラットフォームに加えて、組成物は、1つ以上の薬学的に許容可能な担体や薬品、たとえば、塩類、賦形剤又は溶媒剤を含むことができる。薬学的に許容可能な担体はあらゆる適切な薬学的に許容可能な担体であることが可能である。これは、ヒト患者や患畜に対する投与に適する1つ以上の適合性のある固体又は液体の充填剤、希釈剤、別の賦形剤やカプセル化物質である(たとえば、生理学的に許容可能な担体や薬理学的に許容可能な担体)。sCAR-Tプラットフォームの投与はあらゆる順序で行なうことができる。たとえば、いくつかの実施形態では、CAR-Tスイッチの投与と同時にsCAR-T細胞を投与してもよい。他のいくつかの方法では、sCAR-T細胞の投与前にCAR-Tスイッチを投与してもよい。いくつかの好ましい実施形態では、本開示で例示されているように、CAR-Tスイッチ投与前にsCAR-T細胞を投与する。
【0061】
本発明の治療組成物の調製及び投与に関する概略的な基本的説明が当該技術で説明されている。たとえば、Goodman&Gilman’s The Pharmacological Bases of Therapeutics,Hardman et al.,eds.,McGraw-Hill Professional(10PthP ed.,2001)、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Gennaro,ed.,Lippincott Williams&Wilkins(20PthP ed.,2003)及びPharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,Ansel et al.(eds.),Lippincott Williams&Wilkins(7PthP ed.,1999)を参照する。治療組成物を対象に投与する方法を当該技術で日常的に実施されている手順に基づいて実現することができる。たとえば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Mack Publishing Co.,20th ed.,2000、Iwasaki et al.,Jpn.J.Cancer Res.88:861-6,1997、Jespersen et al.,Eur.Heart J.11:269-74,1990及びMartens,Resuscitation 27:177,1994を参照する。通常、sCAR-Tプラットフォームを含む組成物はリン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline:PBS)などの生理学的に忍容可能な媒体で投与される(たとえば、注入により投与される)。処置を必要とする対象に治療組成物をあらゆる適切な経路で投与することができる。いくつかの好ましい実施形態では、組成物は非経口投与によって対象に投与される。これらの実施形態では、投与される組成物は当然無菌水性製剤を含み、無菌水性製剤が投与を受ける対象の血液と等張であることが好ましい。
【0062】
対象の腫瘍の増殖を抑制し、腫瘍の退縮を促進するのに十分な量のCAR-Tスイッチ及び相補的sCAR-T細胞を対象に投与するべきである。腫瘍の種類、腫瘍の大きさ及び発達段階、投与の経路、治療される特定の対象の年齢並びに腫瘍の治療分野の当業者に容易に明確となるその他の要因に基づいて十分な細胞数を決定することができる。注入又は移植による投与についての概略的な基本的説明として、体重1kgあたり約1×10~約1×10個のCAR細胞を含むsCAR-T細胞用量1回分が治療される対象に投与される。sCAR-T細胞の1回分の用量が単回投与で対象に投与されることが好ましいが、本発明の実施の際に1回分の用量を複数回(たとえば、2回、3回や4回)の投与に分割することも妥当である。いくつかの実施形態では、用量は体重1kgあたり約5×10~約2×10個の細胞を含むことができる。様々な実施形態では、sCAR-T細胞用量は体重1kgあたり細胞約2.5×10個、約5×10個、約7.5×10個、約1×10個、約2.5×10個、約5×10個、約7.5×10個、約1×10個、約2.5×10個、約5×10個、約7.5×10個又はこれらを超える個数分を含むことができる。これの代わりに、正常体重(たとえば、70kg前後すなわち約50kgから約90kg)の対象にsCAR-T細胞の固定用量を投与することができる。様々な実施形態では、固定CART細胞用量は細胞約20×10個、約40×10個、約60×10個、約80×10個、約100×10個、約120×10個、約140×10個、約160×10個、約180×10個、約200×10個、約300×10個、約400×10個、約500×10個、約600×10個、約700×10個、約800×10個、約900×10個、約1000×10個又はこれらを超える個数分であることが可能である。
【0063】
いくつかの実施形態では、CART細胞約35×10~約700×10個(又は約1400×10個)分の固定用量を対象に投与することができる。体重70kgの患者の場合、このCART細胞用量は体重1kgあたり細胞約0.05×10~約1×10個(又は2×10個)分に相当する。これらの実施形態のいくつかでは、本開示で例示されているように、細胞約140×10個分から細胞約700×10個分の固定用量が対象に投与される。体重70kgの患者の場合、このCAR-T細胞用量は体重1kgあたり細胞約0.2×10~1×10個分に相当する。体重が大幅に異なる対象を治療する場合、これに応じて、体重1kgあたりを基準にしたCAR-T細胞用量を調節することができる。いくつかの好ましい実施形態では、細胞約140×10個分の固定用量が対象に投与され、これは、体重約70kgの対象の場合、体重1kgあたり細胞0.2×10個分に相当する。
【0064】
CAR-Tスイッチ分子の場合、1日の用量は体重1kgあたり約0.0001mg~約10mgの範囲であることが可能である。いくつかの実施形態では、投与されるスイッチの1日の用量は体重1kgあたり約0.00025mg~約2.5mgである。いくつかの実施形態では、投与されるスイッチの1日の用量は体重1kgあたり約0.0005mg(すなわち、0.00075mgや0.001mg)から約0.5mg(すなわち、1mg、1.5mgや2mg)の任意の量である。いくつかの実施形態では、投与されるスイッチの1日の用量は体重1kgあたり約0.01mg(又は0.005mg)から約0.1mg又は約1mgの任意の量である。いくつかの実施形態では、投与されるスイッチの1日の用量は体重1kgあたり約0.045mg~約0.075mgの任意の量である。様々な実施形態では、投与されるCAR-Tスイッチ分子の1日の用量は体重1kgあたり約0.0001mg、約0.00025mg、約0.0005mg、約0.00075mg、約0.001mg、約0.0025mg、約0.005mg、約0.0075mg、約0.01mg、約0.025mg、約0.05mg、約0.06mg、約0.075mg、約0.1mg、約0.25mg、約0.5mg、約0.75mg、約1mg、約1.5mg、約2mg、約2.5mg、約3mg、約4mg、約5mg又はこれらを超えることが可能である。いくつかの実施形態では、投与されるCAR-Tスイッチ分子の1日の用量は約0.01mg、約0.025mg、約0.03mg、約0.04mg、約0.045mg、約0.05mg、約0.055mg、約0.06mg、約0.065mg、約0.070mg、約0.075mg、約0.085mg又は0.095mgであることが可能である。いくつかの好ましい実施形態では、投与されるCAR-Tスイッチ分子の1日の用量は約0.06mgである。CAR-T細胞の投与と同様に、示されている用量(CAR-Tスイッチ分子)も単回投与で投与したり複数回投与で投与したりすることができる。
【0065】
いくつかの実施形態では、治療される対象にCAR-T細胞が処置の開始時にのみ投与される(たとえば、1回又は2回の投与)一方で、その後、CAR-Tスイッチ分子が処置の期間中、たとえば、最初の数週間や数ヶ月間にわたって「オン/オフスケジュール」に基づいて複数回投与される。本開示で例示されているように、オン/オフスケジュールは複数のサイクルを備え、各サイクルは「オン」フェーズと「オフ」フェーズとを含む。「オン」フェーズではCAR-Tスイッチが対象に投与される一方で、「オフ」フェーズではCAR-Tスイッチが投与されない。様々な実施形態では、特定の期間(たとえば、約1日から数週間の任意の長さ)続く「オン」フェーズ中に、1日2回、毎日、1日毎、3日毎又はこれらよりも長い頻度でスイッチ分子を対象に投与することができる。サイクルの「オフ」フェーズは「オン」フェーズの投与間隔よりも長い任意の期間であることが可能である。したがって、たとえば、「オン」フェーズで投与が毎日又は1日毎に行なわれる場合、「オフ」フェーズは約数日から約数年の任意の長さの期間続くことが可能である。様々な実施形態では、「オン」フェーズがたとえば、1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週間、2週間、3週間又はこれらを超え、投与が毎日、2日毎、3日毎又はこれらよりも長い頻度で行なわれることが可能である。これらの「オン」フェーズの各々に対して、「オフ」フェーズがたとえば、4日間、5日間、6日間、1週間、2週間、3週間、4週間、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、1年又はこれらよりも長いことが可能である。「オン」フェーズ及び「オフ」フェーズの期間の長さが複数のサイクルでそれぞれ同じであることが可能である。これの代わりに、「オン」フェーズ及び/又は「オフ」フェーズの継続期間が異なるサイクル間で異なることが可能である。以下で詳細に説明されている具体的な例として、処置が少なくとも約6サイクルを含むことができる。各サイクルは28日間続き、本開示で例示されているように、オンフェーズ及びオフフェーズがそれぞれ7日間及び21日間である。
【0066】
細胞数及び投与頻度は処置が予防目的か治療目的かによっても異なる。予防用途では、比較的少数の細胞を長期間にわたって比較的低頻度の間隔で投与することができる。対象によっては生涯にわたって処置を受け続ける場合がある。治療用途では、腫瘍の増悪が軽減するかなくなるまで、好ましくは、対象の腫瘍が部分的又は完全に退縮することが見られるまで、比較的短い間隔で比較的多数の細胞が必要になる場合がある。その後、対象に予防レジメンを施すことができる。
【0067】
いくつかの実施形態では、本開示で開示されているsCAR-Tプラットフォームを吸収又は封入させた膜、スポンジやその他適切な材料を患部に埋め込むことによって本開示で説明されている治療組成物を局所的に投与することができる。埋め込みデバイスを用いる場合、デバイスをあらゆる適切な組織や器官に埋め込んでもよく、本開示に開示されているCAR-Tプラットフォームの送達を、デバイスを通じてボーラスにより直接行なったり、連続投与により直接行なったり、連続注入を用いるカテーテルを介して直接行なったりすることができる。
【0068】
具体的な例として、本発明のいくつかの治療法は、まず、CD19陽性の再発性/難治性B細胞悪性腫瘍が存在する対象に、配列番号6に示されているCAR配列を含むCAR-T細胞約0.35×10~約7×10個分の用量1回分を投与し(たとえば、注入により投与)、その後、配列番号2及び3にそれぞれ示されている軽鎖可変領域配列及び重鎖可変領域配列を含む抗CD19 Fab抗体であるCAR-Tスイッチ分子を1つ以上の注入サイクルで対象に投与するステップをともなう。各注入サイクルは(i)約5~約9日間の「オン」フェーズと、(ii)約14~約28日間の「オフ」フェーズとを含む。オンフェーズでは、体重1kgあたり約0.045mg~約0.075mgのスイッチの用量が毎日投与される。これらの実施形態のいくつかでは、用いられるCAR-T細胞は対象の自家細胞である。いくつかの実施形態では、CAR-T細胞の注入用量は細胞約1.4×10個分であり、「オン」フェーズで注入されるCAR-Tスイッチの1日の用量は体重1kgあたり約0.06mgである。いくつかの実施形態では、「オン」フェーズは約7日間であり、「オフ」フェーズは約21日間である。様々な実施形態では、CAR-Tスイッチの投与の注入サイクルの数は2、3、4、5、6又はこれらを超えることが可能である。いくつかの実施形態では、CAR-T細胞及びスイッチ分子の注入前に、リンパ球枯渇化プレコンディショニングが対象に施される。これらの実施形態のいくつかでは、リンパ球枯渇化プレコンディショニングはシクロホスファミド及びフルダラビンを用いる化学療法により行なわれる。
【0069】
本開示で説明されているsCAR-Tプラットフォームを癌治療に用いられる他の既知のレジメンと組み合せて用いることができる。別の治療薬品と同時に投与する方法が当該技術で周知である。たとえば、Hardman,et al.(編集)(2001)Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,10th ed.,McGraw-Hill,New York,N.Y.、Poole及びPeterson(編集)(2001)Pharmacotherapeutics for Advanced Practice:A Practical Approach,Lippincott,Williams&Wilkins,Phila.,Pa.並びにChabner及びLongo(編集)(2001)Cancer Chemotherapy and Biotherapy,Lippincott,Williams&Wilkins,Phila.,Paを参照する。
【0070】

以下の例は本発明をさらに説明するために提供されており、本発明の範囲を限定するために提供されてはいない。本発明の他の変形例が当業者には容易に明確となり、添付の請求項に含まれる。
【0071】
例1.ヒト癌患者に対するsCAR-T療法のIND-enabling studies
“switchable”CAR-T(sCAR-T)療法は、sCAR-T細胞の活性が抗体を用いたスイッチによって制御されることを含む。スイッチは腫瘍抗原を標的とし、sCARはスイッチに埋め込まれた固有のペプチドを認識する。スイッチはsCAR-T細胞と腫瘍細胞との間にブリッジを形成し、sCAR-T細胞を活性化して腫瘍細胞の殺傷を誘発する。発明者が用いたsCAR-T処置プラットフォームはヒト化不活性CAR-T細胞(本開示ではCLBR001とも称する)と、対応するスイッチ分子(本開示ではSWI019とも称する)とを含む。CAR-T細胞のCARの細胞外ドメイン(配列番号6)が、スイッチ分子のGCN4誘導体ペプチド(配列番号1)に特異的に結合するヒト化scFv抗体フラグメント(配列番号7)を含む。スイッチ分子はCD19ターゲティングFab抗体(配列番号3及び2にそれぞれ示されている重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列を有する)をさらに含み、当該抗体の軽鎖N末端がGCN4ペプチドと融合する。このsCAR-Tプラットフォームに関するより詳細な情報がたとえば国際公開第2018/075807号で報告されている。スイッチ分子とsCAR-T細胞との各々は単独では活性を持たないように設計されているが、これらを組み合せると、異種移植モデルと同種移植モデルとで腫瘍が完全に除去されたことが実証されている。スイッチの半減期が短いことで、スイッチ投与を通じてsCART細胞の活性を素早く調整することができる。さらに、異なるスイッチに交換することで、モジュール方式を用いてsCAR-T細胞を他の腫瘍標的にリダイレクトすることができる。さらに、sCAR-T細胞の周期的なオン/オフ刺激により、sCAR-T細胞の記憶と持続性とが改善されることが示されている。
【0072】
この例示されているsCAR-Tプラットフォームを用いて、発明者はsCAR-T療法のヒト初回(FIH)臨床試験を用意し、裏付けるのに際してIND-enabling studiesを行なった。sCAR-T細胞が存在しない場合に固有活性を欠く抗体を用いたスイッチ分子と組み合され、内在性抗原標的を欠くsCAR-T細胞を含むプラットフォームの前臨床開発には新規のアプローチの開発が必要であった。このようなシステムの正確性(fidelity)は制御に不可欠であるので、CLBR001細胞が正常組織の存在下では活性化しないことを確認するために、SWI019の存在下又は非存在下のCLBR001細胞と、14個の初代細胞のパネルとを共培養することによってin vitroでの活性試験を行なった。このパネルは身体全体の主要組織の概観を表わしている。結果から、CLBR001が試験された14種類の細胞タイプのいずれにおいても活性を示さなかったことが示され、SWI019に対するCLBR001の認識の正確性が高いことが裏付けられている。
【0073】
CLBR001細胞が存在しない場合にSWI019に活性がないので、ヒト初回開始用量(first in human starting dose)を裏付ける「無副作用量」(no adverse effect level:NOAEL)を特定するための従来の毒性学的試験の適用対象とはならなかった。このような場合、予測されるCmaxに基づいて開始ヒト用量(starting human dose)を裏付けるのに推定最小薬理作用量(minimal anticipated biological effect level:MABEL)が一般的に用いられる。しかし、CLBR001と組み合されたSWI019のフェムトモルレベルのin vitroでの活性の結果、開始用量は可能な臨床活性の範囲をはるかに超えるようにモデル化されたものとなった。このため、MABELを決定するin vivoを用いたアプローチが開発された。この試験では、CD19+Nalm-6細胞腫瘍が存在するNSGマウスにCLBR001細胞を投与し、SWI019の単回用量漸増を行なった。抗腫瘍活性、末梢サイトカイン、及び末梢血中のCLBR001細胞に対するSWI019有効用量(ED50)値の比較により、Nalm-6腫瘍負荷の減少が、最も感度の高い活性マーカであったことが示された。末梢血からのCLBR001細胞の血管外漏出及び3つすべてのサイトカイン(IFN-γ、IL-2及びTNF-α)が弱いED50値を示した。したがって、抗腫瘍活性(Nalm-6腫瘍負荷の減少)を、in vivo MABELを決定するのに用いられるパラメータとして選択した。マウスとNHP SWI019 PKデータとを用いた相対成長スケーリングを用いることで、in vivo MABEL試験のED20に対応するヒトにおけるSWI019推奨用量をモデル化した。in vitro MABELアプローチを用いてモデル化された用量と比較して、in vivo MABELアプローチではヒト初回開始点が約13,000倍高いことが分かった。この試験の結果から、安全性と患者のベネフィットの可能性とのバランスを取るヒト初回試験の優れた開始点が得られる。
【0074】
図1及び図2には以下の試験に関連するより詳細ないくつかの情報が示されている。
【0075】
図1はFIH用量を評価するためのin vivo MABELを用いたアプローチに関する。in vitro MABELシミュレーションからこのような少量の送達についての問題が提示され、治療用量に達するまでに患者の多数の投与コホートを要する可能性があった。このため、Nalm-6異種移植を用いてin vivo MABELアプローチが開発された。当該試験では、腫瘍負荷の減少、サイトカイン、及び末梢血中のsCAR-Tが検査された。
【0076】
図2はSWI019スイッチのヒト等価用量のシミュレーションをまとめたものである。これらはCLBR001 CAR-T細胞とSWI019スイッチとを組み合せた処置におけるin vitro薬理学的分析及びin vivo薬理学的分析で監視される最も感度の高いマーカに基づいている。
【0077】
結論として、in vivo MABELアプローチにより、in vitro MABELシミュレーションと比較して約13,000倍高い、ヒト初回(FIH)開始スイッチ用量(9.7μg/kg)を決定することができた。このアプローチにより、安全性と患者のベネフィットの可能性とのバランスを取るヒト初回試験の優れた開始点が得られる。
【0078】
例2.腫瘍の治療に用いられるswitchable CAR-T細胞プラットフォームのヒト試験
上記のIND-enabling animal studiesの結果に基づいて、再発性/難治性B細胞悪性腫瘍の治療に用いられるオン/オフsCAR-T療法(CLBR001+SWI019)のヒト臨床試験(NCT04450069)を開始した。CD19ターゲティングキメラ抗原受容体(CAR)T細胞は再発性の難治性B細胞悪性腫瘍の患者に対するトランスフォーマティブな処置選択肢である。重治療歴を持つ患者では顕著な反応が見られるものの、腫瘍抗原欠損に関連する再発とともに、サイトカイン放出症候群(cytokine release syndrome:CRS)や免疫エフェクタ細胞関連神経毒性症候群(ICANS)を含む毒性に関する課題が残っている。本開示で説明されているsCAR-T処置はこのような課題に対処することを意図している。
【0079】
第1相の非盲検の用量漸増試験は再発性/難治性B細胞悪性腫瘍が存在する患者におけるCLBR001とSWI019との組合せの安全性、忍容性、薬物動態、薬物動態及び臨床活性を評価することを意図した。集中製造施設で患者由来のアフェレシス材料から自家CLBR001 sCAR-T細胞を製造した。シクロホスファミド及びフルダラビンによるリンパ球枯渇化後、患者にCLBR001細胞の1回分の用量を投与し、その後、7日間毎日SWI019を注入した。CAR-T細胞の用量は細胞約140×10から約700×10個分である。体重70kgの患者の場合、このCAR-T細胞の1回分の用量は体重1kgあたり細胞約0.2×10~1×10個分に相当する。SWI019スイッチ分子を28日間のサイクルで最大6サイクル分投与した。各サイクルは7日間毎日IV静脈注射により投与することと、その後21日間投与しないことからなる。CLBR001及びSWI019の用量漸増を初期コホートで[3+3]設計よって決定し、その後、ベイジアン・アダプティブ・デザイン(BAYDE)決定規則の実施によって決定した。
【0080】
コホート1(CAR-T細胞140×10個+SWI019スイッチ10μg/kg)の3人の患者(濾胞性リンパ腫2人及びマントル細胞リンパ腫1人)にデータカットオフ時点で評価可能な安全性及び反応データが見られる。CLBR001+SWI019の忍容性は高く、コホート1ではDLTが観察されなかった。CLBR001細胞注入の忍容性は高く、SWI019投与前の観察期間中にいずれの患者にも細胞製品に起因する有害事象が生じず、このことから、SWI019が存在しない場合にCLBR001細胞が活性を持たないことが示された。SWI019の投与後にのみ、血清サイトカイン濃度の上昇と末梢血中のCLBR001の増殖とが観察された。SWI019のの投与の忍容性は高く、サイクル2でグレード1のCRSとグレード2のICANSとが同時に発生した症例が1件あった。この事象はデキサメタゾンの投与後24時間以内に沈静化し、SWI019の用量を減量(50%)して投与することを継続するとCRSの再発は観察されず、これにより、プラットフォームが調整可能であることが裏付けられた。第1のコホートでは、3人の患者のうち2人がLugano基準による完全奏効を経験した。
【0081】
これはB細胞悪性腫瘍が存在する患者中のswitchable CAR-T細胞プラットフォームの最初の報告である。B細胞悪性腫瘍が存在する患者でCLBR001+SWI019の組合せの安全性及び忍容性は高く、CLBR001とSWI019との両方の最低用量を用いたコホート1で有望な臨床活性ががあることが分かった。
【0082】
ヒトの療法の設計及び結果に関する詳細な情報が図3及び図4に示されている。
【0083】
図3は処置前、処置後のサイクル3、処置後のサイクル6のCTスキャンによって示されている1人の患者の処置の効果を示している。患者デモグラフィック、病歴、処置反応が上部にまとめられている。下部の3つのCTスキャン画像は3つの時点での腸間膜リンパ節の標的病変をそれぞれ示している。結果から、ベースライン(処置前)に腸間膜リンパ節、鼠径部リンパ節、腸骨リンパ節、大動脈周囲リンパ節の5つの標的病変があったことが示されている。腸間膜リンパ節腫瘤の大きさは14.1cmであった。PETによる全体Deauville 5PSスコア(overall Deauville 5PS score)は4であった。処置後、5つのFDG-avidな標的病変のすべてが減少した。新たな標的腫瘤は観察されず、IHCによる骨髄中のリンパ腫のエビデンスはない。処置開始から11ヶ月後にLugano及びRECILによる患者の完全奏効(complete response:CR)が継続した。
【0084】
図4は治療された別の患者における毒性の急速な解消を示している。パネルAには患者デモグラフィック、病歴、処置反応がまとめられている。パネルBは、サイクル1の7日目(C1D7)にスイッチの投与を中止すると、CAR-Tが継続的に増殖するのにもかかわらず発熱が急速に解消され、機能的な「オフ」スイッチ能力が実証されたことを示している。パネルCは、SWI019のサイクル2の1日目の投与でグレード1のサイトカイン放出症候群(Gr1 CRS)/グレード1の免疫エフェクタ細胞関連神経毒性(Gr1 ICAN)がデキサメタゾンで急速に解消され、50%の用量(5μg/kg)で継続的に投与すると、さらなる毒性が誘発されなかったことを示している。
【0085】
ヒト臨床試験の結果から、CLBR001 sCAR-T細胞+SWI019スイッチ分子の組合せの安全性及び忍容性が高いことが示されている。この組合せはB細胞悪性腫瘍が存在する患者における臨床的活性の有望な兆候を示している。まとめると、SWI019投与前にはCLBR001に関連する有害事象は存在せず、CLBR001細胞単独の安全性と、CBLR001+SWI019の相互作用の正確性(すなわち、CLBR001が内在性のヒト標的と作用しない)とが示された。最大グレードのCRS/ICANS=1の場合にCLBR001及びSWI019の最低用量(コホート1:CAR-T細胞140×10個、SWI019 10μg/kg)でCRが2件実現された。サイクル2以降でのSWI019によるCLBR001の再活性化によりプラットフォームの機能的可逆性が示されている。SWI019の用量レベルを維持又は減少させることによって毒性が急速に解消され、CLBR001+SWI019プラットフォームを用いて高い安全性が得られる可能性が示された。
【0086】
例3.第II相の推奨用量(RP2D)を特定するための臨床試験
図5に示されているように、B細胞悪性腫瘍が存在する対象に対するCLBR001+SWI019 switchable CAR-T処置の最適な投与レジメンを調べるために用量漸増第I相ヒト臨床試験を行なった(CBR-sCAR19-3001、NCT04450069)。図5Aは第I相ヒト試験の設計の概要を示している。対象適格事項には、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、辺縁帯リンパ腫(marginal zone lymphoma:MZL)及びその他の組織学的所見を含む再発性/難治性B細胞悪性腫瘍が含まれる。急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia:ALL)の患者、以前にCAR-T細胞療法を受けた患者、以前に同種幹細胞移植を受けた患者を除外した。試験の最初の2つのコホートでは、3+3用量漸増設計で10μg/kgから開始し、30μg/kgまで進行するスイッチ(SWI019)の用量漸増を試験した。最初の2つのコホートの対象にはSWI019を投与する前にCAR+細胞140e6個を投与した。次のコホートでベイジアンアダプティブ用量漸増(Bayesian adaptive dose escalation:BAYDE)設計を用いて最適な用量を決定した。コホート4ではCAR+細胞140e6個を用いて60μg/kgのSWI019を評価し、コホート5ではCAR+細胞420e6個を用いて30μg/kgのSWI019を評価した。コホート5で、BAYDEモデルによって決定された用量をテストすることが可能であってもよい。設計の目標を、将来の試験で用いられる推奨される第II相のCAR+細胞とSWI019との用量を立証することとした。立証したCLBR001細胞用量を将来の試験でSWI019とともに用いたり他のスイッチと組み合せて用いたりすることができる。
【0087】
図5Bに示されている処置スケジュールの概要に示されているように、CBR-sCAR19-3001試験で登録された対象を以下のように治療した。まず対象に同意することを求め、その後、対象の適格性を審査した。既定の採用基準及び除外基準を満たすと判断された対象については、白血球除去製品を集中製造施設に発送することがなされ、当該施設でT細胞を単離し、sCARベクタを用いて形質導入を行なった。細胞製品を製造して出荷した後、対象を処置する場所に返送した。対象がリンパ球除去化学療法(通常、シクロホスファミド及びフルダラビン)を受けた後、CLBR001細胞を注入した。その後、28日のサイクルで、SWI019を7日間毎日投与し、その後、21日間投与しないというSWI019のサイクルで対象を治療した。対象を特に、用量規定毒性、反応(必要に応じて28日毎にPET/CTを用いた)、薬力学バイオマーカ(末梢血中のサイトカイン)について評価した。
【表1】
データカットオフ時点で利用可能なデータが存在する最初の9人の対象のうち、7人が部分奏効(PR)又は完全奏効(CR)(78%)を示し、6人がCR(67%)を示した。対象9人のうち2人にグレード3以上のサイトカイン放出症候群(CRS)が見られた、対象のいずれにもグレード3以上の免疫エフェクタ細胞関連神経毒性(ICANS)が見られなかった。最初の9人の対象のうち、いずれのグレードのCRSの解消までの時間の中央値も1日であり、いずれのグレードのICANSの解消までの時間の中央値も3日であった。これは、FDAが承認した3つのCAR-T細胞製品のCRS又はICANSの解消までの時間の中央値と比較して、良好である。CRSの継続期間の短縮は従来のCAR-T細胞製品では不可能であったSWI019の投与を控えたり減らしたりすることができる能力に起因すると予想される。
【0088】
CBR-sCAR19-3001試験で治療された最初の4つのコホートの最初の14人の対象の結果が表2に示されている。最初の3つのコホートでは用量規定毒性(dose limiting toxicity:DLT)が生じず、コホート4では2件のDLTが生じた。DLTを、コホート1及び2でSWI019の初回投与後35日目に生じ、コホート3及び4でSWI019の初回投与後28日目に生じた、DLT期間中に生じた処置関連有害事象として定めた。遅発性DLT反応を、DLTウィンドウ後に発生した、DLT基準を満たす処置関連有害事象として定めた。有効性反応を、PR又はCRを経験した対象として定めた。データカットオフ時点で、2件の対象で保留であり、1件の対象で不明であった。薬力学的反応(Pharmacodynamic response:PD)を、SWI019投与後に末梢血サイトカイン濃度がベースラインの3倍に増加した対象として定めた。
【表2】
最適なスイッチ及びCLBR001の用量(OSD)を決定するために、上記の表のデータを用いたBAYDEモデルを採用した(図6)。BAYDEは、ベイジアンアダプティブモデリングとベイジアンロジスティック回帰モデル(bayesian logistic regression model:BRLM)とにより、安全かつ有効かつ効果的な投与レジメンを推奨するために、過去の試験データと累積試験データとに基づく用量と毒性/反応との関係曲線を用いる用量探索設計である。推奨用量は用量範囲にわたって最適に選択される。BAYDEアプローチにより、過去の安全性データ、毒性データ、PDデータ及び有効性データに基づく初期用量関係、より適切に構築されたベイズモデリングアプローチ並びに試験中に更新された用量関係を用いてより適切な意思決定がサポートされる。用量選択の目標を(a)利用可能なデータを用いて最適な用量の推奨を提供すること、(b)最大耐量(maximum tolerated dose:MTD)を特定すること又は(c)MTDよりも低く、許容可能なPD反応及び/若しくは有効性反応を示すOSDレベルを特定することとする。用量レベルは(a)DLT率が33%を超えるリスクが25%未満(安全性許容閾値)である場合に安全であり、(b)推定反応率が少なくとも50%である場合に許容可能なPD反応及び/又は有効性反応を示す。この試験のBAYDEモデルでは、用量選択に1:標準DLTのバイナリ変数、2:遅発性DLTのバイナリ変数、3:有効性反応のバイナリ変数、4:PD反応のバイナリ変数という4つのエンドポイントを用いた。許容用量範囲はSWI019で10~1000μg/kgであり、CLBR001でCAR+細胞140~700e6個であった。
【0089】
CLBR001投与とSWI019投与との組合せをランク付けするためのclinical utility indexを計算するために、モデルに累積的対象データを入力し、反応モデルを更新し、ベイズ法とシミュレーションとを用いて事後確率を推定した。図6に示されているclinical utility indexは、有効性と毒性の可能性との適切なバランスを示す100で最適である。上記のclinical utility indexでは、保留とした対象の有効性が「yes」であり、不明とした対象の有効性が「no」であると仮定した。このようにして、増殖するように選択された最適なスイッチ及びCLBR001の用量はSWI019 60μg/kgかつCAR+細胞140e6個であった。
【0090】
前述の発明は理解を容易にするために図示及び例によってある程度詳細に説明されているが、本発明の教示に照らして、添付の請求項の精神又は範囲から逸脱しない限りにおいて教示に特定の変更及び修正を加えることができることは当業者には容易に明確になる。
【0091】
本明細書で引用されているすべての刊行物、データベース、GenBank配列、特許及び特許出願は、各々が参照により援用されることが具体的かつ個別に示されているかのように、参照により本開示に援用される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2025500766000001.xml
【国際調査報告】