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特表2025-500788低密度熱間圧延鋼、その製造方法及び車両部品を製造するためのかかる鋼の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-15
(54)【発明の名称】低密度熱間圧延鋼、その製造方法及び車両部品を製造するためのかかる鋼の使用
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250107BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20250107BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20250107BHJP
   C22C 21/00 20060101ALN20250107BHJP
   C22C 18/04 20060101ALN20250107BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/00 301W
C21D9/46 T
C21D9/46 Z
C22C38/58
C22C21/00 N
C22C18/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534239
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(85)【翻訳文提出日】2024-07-30
(86)【国際出願番号】 IB2021061543
(87)【国際公開番号】W WO2023105272
(87)【国際公開日】2023-06-15
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガラ,グザビエ
(72)【発明者】
【氏名】ロロンジニ,パスカル
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA09
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA14
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA28
4K037EA31
4K037EA35
4K037EA36
4K037EB05
4K037EB07
4K037EB08
4K037EB09
4K037EB11
4K037FA02
4K037FA03
4K037FC03
4K037FC04
4K037FC05
4K037FD02
4K037FD03
4K037FD04
4K037FE02
4K037FE03
4K037GA00
4K037JA06
(57)【要約】
低密度熱間圧延鋼は、0.12%≦炭素≦0.25%、3%≦マンガン≦10%、3.5%≦アルミニウム≦6.5%、0%≦リン≦0.1%、0%≦硫黄≦0.03%、0%≦窒素≦0.1%、0%≦ケイ素≦2%、0.01%≦ニオブ≦0.03%、0.01%≦チタン≦0.2%、0%≦モリブデン≦0.5%、0%≦クロム≦0.6%、0.01%≦銅≦2.0%、0.01%≦ニッケル≦3.0%、0%≦カルシウム≦0.005%、0%≦ホウ素≦0.01%、0%≦マグネシウム≦0.005%、0%≦ジルコニウム≦0.005%、0%≦セリウム≦0.1%を含み、残りが、鉄及び不可避不純物を含み、鋼板は、60%~80%のフェライト、10%~35%のカッパ炭化物(Fe,Mn)AlC(式中、xは1以下である)及び0%~10%のオーステナイトを含むミクロ組織を有し、4GPa未満のナノ硬度を有するミクロ組織の粒子は、45%を超えなければならず、5GPaを超えるナノ硬度を有するミクロ組織の粒子は、10%未満でなければならない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低密度熱間圧延鋼であって、重量で、
0.12%≦炭素≦0.25%、
3%≦マンガン≦10%、
3.5%≦アルミニウム≦6.5%、
0%≦リン≦0.1%、
0%≦硫黄≦0.03%、
0%≦窒素≦0.1%、
及び任意選択的に、以下の元素のうちの1つ以上
0%≦ケイ素≦2%、
0.01%≦ニオブ≦0.03%、
0.01%≦チタン≦0.2%、
0%≦モリブデン≦0.5%、
0%≦クロム≦0.6%、
0.01%≦銅≦2.0%、
0.01%≦ニッケル≦3.0%、
0%≦カルシウム≦0.005%、
0%≦ホウ素≦0.01%、
0%≦マグネシウム≦0.005%、
0%≦ジルコニウム≦0.005%、
0%≦セリウム≦0.1%、
を含み、
残りが鉄及び不可避不純物を含み、鋼板が、面積分率で、60%~80%のフェライト、10%~35%のカッパ炭化物(Fe,Mn)AlC(式中、xは1以下である)及び0%~10%のオーステナイトを含むミクロ組織を有し、4GPa未満のナノ硬度を有するミクロ組織の粒子が、45%を超えなければならず、5GPaを超えるナノ硬度を有するミクロ組織の粒子が、10%未満でなければならない、低密度熱間圧延鋼。
【請求項2】
炭素の含有量が、0.13%~0.2%に含まれる、請求項1に記載の鋼。
【請求項3】
マンガンの含有量が、4%~9%に含まれる、請求項1又は2に記載の鋼。
【請求項4】
オーステナイト含有量が、0%~8%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項5】
カッパ炭化物含有量が、12%~35%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項6】
フェライト含有量が、65%~80%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項7】
鋼板が、金属コーティングによって被覆されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項8】
低密度熱間圧延鋼を製造するための方法であって、
組成が請求項1~3に従うスラブを供給するステップと、
かかるスラブを、1000℃を超える温度で再加熱し、少なくとも750℃の最終圧延温度でそれを熱間圧延するステップと、
熱間圧延の仕上げから620℃~740℃の巻取り温度範囲まで、1℃/s~150℃/sの冷却速度CR1で前記熱間圧延鋼を冷却するステップと、を含み、
その後、前記熱間圧延鋼が、620℃~740℃の温度で巻き取られ、
次いで、前記熱間圧延鋼が、1℃/h~50℃/hの冷却速度CR2で巻取り温度から室温まで冷却されて、低密度熱間圧延鋼を得る、
方法。
【請求項9】
最終圧延温度が、770℃以上である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
巻取り温度が、630℃~730℃に含まれる、請求項8及び9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
最終コーティングステップをさらに含む、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
車両の構造部品又は安全部品又は任意の他の部品を製造するための、請求項1~7のいずれか一項に記載の、又は請求項8~11のいずれか一項に記載の方法に従って得られる、鋼板の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低密度鋼に関する。本発明による鋼は、陸上自動車などの車両用部品の製造、又は冷間圧延鋼板及びその後の車両の部品を製造するためのさらなる加工に特に適している。
【背景技術】
【0002】
環境規制により、自動車メーカーは、車両のCO2排出量を継続的に削減することを強いられている。そのために、自動車メーカーにはいくつかの選択肢があり、その主な選択肢は、車両の重量を軽量化、又はエンジンシステムの効率の向上である。改善は、しばしば2つのアプローチを組み合わせることによって達成される。本発明は、第1の選択肢、すなわち自動車の軽量化に関する。まさにこの特定の分野には、2つの方法がある。
【0003】
第1の方法は、鋼の機械的強度のレベルを高めながら鋼の厚さを薄くすることからなる。残念なことに、この解決策には、機械的強度の向上に関連する避けられない延性の低下は言うまでもなく、ある特定の自動車部品の剛性が著しく低下したり、及び乗員に不快な状況を生じさせる音響的な問題が現われたりするため限界がある。
【0004】
第2の方法は、鋼をアルミニウムなどの他の、より軽い金属と合金化することによって鋼の密度を低下させることからなる。これらの種類の鋼の中で、低密度鋼は、熱間圧延鋼の重量を大幅に低減することができる一方で、魅力的な機械的及び物理的特性を有する。特に、US2003/0145911は、良好な成形性及び高い強度を有するFe-Al-Mn-Si軽鋼を開示している。しかしながら、US2003/0145911の鋼は、鋼を加工するための重要な特性である低密度鋼の硬度を実証しておらず、したがって、鋼は、あらゆる形状の部品に対してその低密度の利点を十分に生かすことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0145911号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、7.3未満の相対密度、280Hv未満の鋼の硬度を提示する鋼板であって、4GPa未満のナノ硬度を有するミクロ組織の粒子が、45%を超えなければならず、5GPaを超えるナノ硬度を有するミクロ組織の粒子が、10%未満でなければならない、鋼板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
好ましい実施形態では、本発明による鋼板は、7.2未満の相対密度、270Hv未満の鋼の硬度並びに50%を超える、4GPa未満のナノ硬度を有するミクロ組織の粒子、及び8%未満、より好ましくは5%未満である、5GPaを超えるナノ硬度を有するミクロ組織の粒子を提示する。
【0008】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0009】
炭素の含有量は、0.12重量%~0.25重量%、より好ましくは0.13重量%~0.2重量%である。炭素は、カッパ炭化物を形成することによって鋼に強度を付与する。炭素の含有量は、有利には高い強度、伸びフランジ性を同時に得るために0.13%~0.2%である。
【0010】
マンガンの含有量は、3重量%~10重量%で存在する。マンガンは、主に炭素と共に、高温で粒界での炭化物の形成を制御し、それによって高温脆性を制御するという事実のために、この系ではマンガンは、重要な合金元素である。マンガンが10%を超えて存在する場合、それは、本発明の鋼の延性に有害な中心偏析をもたらし得る。3%未満で存在する場合のマンガンは、十分なカッパ炭化物(FeMn)AlCの形成を可能にしない。マンガンの存在の好ましい限界は、4%~9%、より好ましくは4%~8%である。
【0011】
アルミニウムの含有量は、3.5重量%~6.5重量%で存在する。本発明の鋼にアルミニウムを添加すると、その密度が効果的に低下する。アルミニウムは、アルファ生成元素であるため、フェライト、特にデルタフェライトの形成を促進する傾向がある。アルミニウムは、2.7の相対密度を有し、機械的特性に影響を及ぼす。アルミニウムの含有量が増加すると、転位の移動度の低下により、均一伸びは低下するが、機械的強度及び弾性限界も増加する。3.5%未満では、アルミニウムの存在による密度低下は、あまり有益ではなくなる。6.5%を超えると、フェライトの存在は、予想される限界を超えて増加し、本発明に悪影響を及ぼす。さらに、6.5%を超えるAlの存在は、Fe-Al、Fe-Al及び他の(Fe,Mn)Al金属間化合物などの金属間化合物を形成する場合があり、これは熱間圧延中に鋼の割れを引き起こす可能性がある脆性を製造物に付与し、また鋼の靱性に有害となる場合がある。好ましくは、アルミニウムの含有量は、脆性金属間析出の形成を防止するために、厳密に6.5%未満に制限され、したがって好ましい限界は、4%~6%、より好ましくは5%~6%である。
【0012】
硫黄及びリンは、粒界を脆化させる不純物である。それらのそれぞれの含有量は、十分な熱間延性を維持するために、0.03重量%及び0.1重量%を超えてはならない。
【0013】
窒素含有量は、凝固中のAlNの析出及び体積欠陥(ブリスター)の形成を防止するために、0.1重量%以下でなければならない。
【0014】
ケイ素は、鋼の密度を低下させることを可能にし、固溶体硬化に有効な任意元素である。それにもかかわらず、そのレベルを超えると、この元素は、表面欠陥を生じさせる強力な接着性酸化物を形成する傾向があるため、その含有量は2重量%に制限される。表面酸化物の存在は、鋼の濡れ性を損ない、潜在的な溶融亜鉛めっき作業中に欠陥を生じる場合がある。したがって、Si含有量は、好ましくは1.5%未満に制限される。
【0015】
ニオブは、結晶粒子の微細化を提供するために、本発明の鋼に0.01重量%~0.03重量%の量で任意元素として添加されてもよい。結晶粒子の微細化により、強度と伸びとの良好なバランスを得ることができる。しかし、ニオブは、熱間圧延及び焼鈍中の再結晶を遅らせる傾向があり、したがって限界は0.03%まで保持される。
【0016】
チタンは、ニオブと同様に、結晶粒子の微細化のために本発明の鋼に0.01重量%~0.2重量%の量で任意元素として添加されてもよい。
【0017】
銅は、鋼の強度を高め、その耐食性を改善するために、任意元素として、0.01重量%~2.0重量%の量で添加されてもよい。かかる効果を得るためには、最低0.01%が必要である。しかしながら、その含有量が2.0%を超えると、表面態様を低下させる可能性がある。
【0018】
ニッケルは、鋼の強度を高め、その靭性を改善するために、任意元素として0.01~3.0重量%の量で添加されてもよい。かかる効果を得るためには、最低0.01%が必要である。しかしながら、その含有量が3.0%を超えると、ニッケルは、延性低下を引き起こす。
【0019】
モリブデンは、本発明の鋼中に0重量%~0.5重量%で存在する任意元素として添加することができる。モリブデンは、少なくとも0.01%の量で添加されると、焼入れ性及び硬度を改善するのに有効な役割を果たす。Moはまた、熱間圧延製品の靭性にも有益であり、結果として製造がより容易になる。しかしながら、モリブデンの添加は、合金元素の添加コストを過度に増加させるので、経済的理由からその含有量は、0.5%に制限される。モリブデンの好ましい限度は、0%~0.4%であり、より好ましくは0%~0.3%である。
【0020】
クロムは、本発明の鋼の任意元素として添加することができ、0重量%~0.6重量%である。クロムは、鋼に強度及び硬化を提供するが、0.6%を超えて使用すると鋼の表面仕上げを損なう。クロムの好ましい限度は、0.01%~0.5%、より好ましくは0.01%~0.2%である。
【0021】
カルシウム、セリウム、ホウ素、マグネシウム又はジルコニウムなどの他の元素は、以下の重量割合で、個別に又は組み合わせて添加することができる:Ce≦0.1%、B≦0.01、Ca≦0.005、Mg≦0.005及びZr≦0.005。示された最大含有量レベルまで、これらの元素は、凝固中にフェライト粒子を精製することを可能にする。
【0022】
さらに、Sb、Snなどのいくつかの微量元素は、鋼の加工に由来し得る。これらの元素が許容され、本発明の鋼に有害ではない最大限度は、累積的又は単独で0.05重量%であり、本発明の鋼は、これらの元素の含有量を可能な限り低く、好ましくは0.03%未満にすることが好ましい。
【0023】
本発明による鋼板のミクロ組織は、面積分率で、60%~80%のフェライト、10%~35%のカッパ炭化物及び0%~10%のオーステナイトを含む。
【0024】
フェライトマトリックスは、本発明の鋼の主相として存在し、本発明の鋼中に面積分率で60%~80%、好ましくは面積分率で65%~80%、より好ましくは65%~78%存在する。フェライトは、液体鉄からのスラブの凝固及び熱間圧延後の冷却中に形成され、本発明のフェライトは、好ましくは2ミクロン~55ミクロン、より好ましくは2ミクロン~50ミクロンの平均バンド厚を有する縞状構造として形成され、より好ましくは2ミクロン~48ミクロンである。本発明におけるフェライトマトリックスの存在は、鋼に強度を付与する。しかし、本発明におけるフェライトの含有量の存在は、80%を超えると温度の上昇に伴ってフェライト中の炭素の溶解度が増加するため、悪影響を及ぼす場合がある。しかしながら、固溶体中の炭素は、転位の移動度を低下させるので、低密度鋼にとって非常に脆弱である。これは、アルミニウムの存在のために既に低くなっている。したがって、フェライトの含有量とカッパ炭化物との間のバランスは、必要な機械的特性を本発明に付与する上で、非常に重要である。
【0025】
カッパ析出物は、本発明の鋼にとって必須の微量成分であり、面積分率で10%~35%存在する。本発明におけるカッパ炭化物は、化学量論が(Fe,Mn)AlC(式中、xは1以下である)である炭化物によって規定される。カッパ炭化物の面積分率は、35%まで上昇することができ、本発明のカッパ炭化物は、好ましくは0.01ミクロン~0.2ミクロン、より好ましくは0.02ミクロン~0.18ミクロンの平均ラメラ厚を有するラメラ構造を有し、本発明のカッパ炭化物のこれらのラメラは、好ましくは0.02ミクロン~0.45ミクロン、より好ましくは0.02ミクロン~0.40ミクロンのラメラ距離を有する。35%を超えると、本発明の鋼の硬度は、非常に高く、これは延性及び伸びを低下させる。10%未満では、目標とする機械的特性が達成されない。好ましくは、カッパ炭化物の面積分率は、12%~35%、より好ましくは15%~30%であるべきである。
【0026】
オーステナイトは、本発明の鋼の任意微量成分であり、0~10%存在し、本発明のオーステナイトは、好ましくは2ミクロン~12ミクロン、より好ましくは2ミクロン~10ミクロンの平均粒径を有する。オーステナイトは、フェライトよりも炭素の溶解度が高いことが知られており、効果的な炭素トラップとして作用する。10%を超えるレベルで存在するオーステナイトは、カッパ炭化物及びフェライトの形成を損ない、それによって本発明の鋼の求められる特性を損なうことによって、本発明に悪影響を及ぼす。したがって、オーステナイトの存在の好ましい限界は、0%~8%、より好ましくは0%~5%である。
【0027】
上記のミクロ組織成分に加えて、本発明のミクロ組織は、45%以上の4GPa未満のナノ硬度を有する本鋼のミクロ組織の粒子を有し、本発明の鋼のこの特徴は、冷間圧延、押出、プレス、スタンピング、ハイドロフォーミング、ヘミング加工、パンチング及び延伸などの多様な製造工程のための熱間圧延鋼のさらなる加工を容易にする。ミクロ組織の45%以上の粒子のナノ硬度を4GPa未満に保持することにより、本発明の鋼は、熱間圧延鋼が製造工程にとってあまり硬くならないと同時に、鋼が機械的特性のために柔らかくなりすぎないことを確実にする。4GPa未満のナノ硬度を有する粒子の好ましい限界は、50%を超え、より好ましくは55%である。
【0028】
さらに、本発明の熱間圧延鋼は、5GPaを超えるナノ硬度を有する本鋼のミクロ組織の粒の存在も10%以下に制限する。これは、5GPaのナノハーネスを有する粒子が10%を超えて存在する場合は常に、自動車産業用部品の製造に使用される産業機械に過度の摩耗を与え、例えば、鋼がナノ硬度5GPa以上を有するミクロ組織の粒子を10%以上含有する場合、いかなる事前の熱処理もなしに冷間圧延を実行することが不可能であるためである。そのため、ナノ硬度5GPa以上の粒子を有することが好ましく、5%未満であることがより好ましく、より好ましくは3%未満である。
【0029】
上記のミクロ組織に加えて、熱間圧延低密度鋼のミクロ組織は、マルテンサイト及びベイナイトなどの微量構成成分を含まない。
【0030】
本発明による鋼板は、任意の適切な製造方法によって製造することができ、当業者は、それを規定することができる。しかしながら、本発明による方法を使用することが好ましい。方法は、以下のステップを含む:
本発明による鋼板は、好ましくは、上述の組成を有する本発明による鋼で製造されたスラブ、薄スラブ又はストリップなどの半製品を鋳造し、鋳造されたインプットストックをまず室温まで冷却し、次いで1000℃超、好ましくは1150℃超、より好ましくは1200℃超の温度に再加熱する方法か、又は鋳造された半製品を、中間冷却なしにかかる温度で直接使用することができる方法によって製造される。本方法の半製品は、スラブと見なされる。
【0031】
次いで、再加熱されたスラブは、熱間圧延を受ける。熱間圧延仕上げ温度は、少なくとも750℃、好ましくは少なくとも770℃でなければならない。熱間圧延仕上げは、50%~100%のデルタフェライトを有する領域で熱間圧延が完了しなければならないことを確実にするために、750℃を超えて保持される。
【0032】
次いで、このようにして得られた熱間圧延ストリップは冷却され、かかる冷却は、熱間圧延の終了直後に開始され、熱間圧延ストリップは、熱間圧延の終了から620℃~740℃の巻取り温度範囲まで、1℃/s~150℃/sの冷却速度CR1で冷却される。好ましい実施形態では、冷却速度CR1は、4℃/s~120℃/sであり、好ましい巻取り温度範囲は630℃~730℃である。この冷却中に、本発明の鋼は、デルタフェライトからカッパ炭化物、フェライト及び場合によってはオーステナイトへの変態を開始する。
【0033】
その後、熱間圧延鋼は、620℃~740℃の温度で巻き取らなければならず、好ましくは、巻取りは、630℃~730℃で実行され、より好ましくは、巻取りは、640℃~720℃で実行される。
【0034】
熱間圧延鋼は、1℃/h~50℃/hの冷却速度CR2で巻取り温度から室温まで冷却される。好ましい実施形態では、冷却速度CR2は、低密度熱間圧延鋼を得るために10℃/h~40℃/hである。
【0035】
その後、任意選択の酸洗又は任意の他のスケール除去工程を実行して、熱間圧延鋼を車両の部品に製造するためのさらなる加工、例えば冷間圧延、矢板への切断、成形、押出、プレス、スタンピング、ハイドロフォーミング、ヘミング加工、パンチング及び延伸などを容易にし得る。
【0036】
室温まで冷却した後、熱間圧延鋼は、腐食に対するその保護を改善するために、任意選択的に金属コーティング操作に供されてもよい。使用されるコーティング工程は、本発明の鋼に適合した任意の工程であり得る。ジェット蒸着に特に重点を置いて、電解又は物理蒸着を挙げることができる。金属コーティングは、例えば、亜鉛又はアルミニウムをベースとすることができる。
【0037】
好ましくは、アルミニウム系コーティングは、15%未満のSi、5.0%未満のFe、任意選択的に0.1%~8.0%のMg及び任意選択的に0.1%~30.0%のZnを含み、残余はAlである。
【0038】
有利には、亜鉛ベースのコーティングは、0.01~8.0%のAl、任意選択的に0.2~8.0%のMgを含み、残余はZnである。
【実施例
【0039】
本明細書に提示される以下の試験、実施例、図式化した例示及び表は、本質的に非限定的であり、例示のみを目的として考慮されなければならず、本発明の有利な特徴を示す。
【0040】
異なる組成を有する鋼で製造された鋼板を表1にまとめ、それぞれ表2に規定された工程パラメータに従って鋼板を製造する。その後、表3は、試験中に得られた鋼板のミクロ組織をまとめ、表4は得られた特性の評価結果をまとめている。
【0041】
表1-組成
表1
【0042】
【表1】
下線付き値:本発明によるものではない。
【0043】
表2-工程パラメータ
本発明の鋼及び基準鋼を1200℃で再加熱する。
【0044】
【表2】
下線付き値:本発明によるものではない。
【0045】
次いで、得られたサンプルを分析し、対応するミクロ組織の要素及び機械的特性をそれぞれ表3及び4にまとめた。
【0046】
表3は、XRD並びに本発明の鋼及び参照試験の両方のミクロ組織の組成を決定するための光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡などの様々な顕微鏡で規格に従って行われた試験の結果をまとめている。オーステナイトの分率をXRDによって測定した。カッパ炭化物及びマルテンサイトの面積分率は、少なくとも4つの画像の分析を通して光学及び走査型電子顕微鏡法によって決定した。フェライトの面積分率は、他のすべての相の分率の合計を100%に差し引くことによって計算した。
【0047】
表3
【0048】
【表3】
I=本発明による、R=基準、下線付き値:本発明によるものではない。
【0049】
上記の表から、本発明による試験はすべてミクロ組織の目標を満たすことが分かる。
【0050】
表4は、本発明の鋼及び基準鋼の両方の機械的及び表面特性をまとめたものである。
【0051】
表4:試験の機械的特性
硬度は、ISO6507規格に従って行われるビッカース硬度試験によって測定される。鋼の相対密度を決定するために、鋼サンプルの体積は、一方の側でヘリウムを使用するガス置換ピクノメトリによって測定され、その対応する質量は、他方の側で測定される。次いで、g/cm単位の鋼の体積当たりの質量比を計算し、1g/cmに達する4℃での水の体積当たりの質量比でさらに割ることができる。結果値は単位がなく、鋼の相対密度である。ナノインデンテーションを決定するために、サンプルは、3mNの荷重でナノインデンテーション試験を実行する前に、OPU研磨(8分、50%に希釈)によって調製される。押し込み格子の点の間に8μmの間隔を選定する。
【0052】
【表4】
I=本発明による、R=基準、下線付き値:本発明によるものではない。
【0053】
実施例は、本発明による鋼板が、それらの具体的な組成及びミクロ組織のおかげですべての目標とする特性を示す唯一のものであることを示している。
【国際調査報告】