(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-15
(54)【発明の名称】ボリコナゾール吸入粉末を含む組成物、ならびにそれを製造及び使用する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/506 20060101AFI20250107BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20250107BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20250107BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20250107BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20250107BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20250107BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
A61K31/506
A61K9/12
A61P31/10
A61P11/00
A61P11/06
A61K9/72
A61K9/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535207
(86)(22)【出願日】2022-12-16
(85)【翻訳文提出日】2024-06-11
(86)【国際出願番号】 US2022081746
(87)【国際公開番号】W WO2023114966
(87)【国際公開日】2023-06-22
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522107795
【氏名又は名称】ティーエフエフ ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】クリステンセン,デイル ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】コレング,ジョン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA24
4C076AA93
4C076AA95
4C076BB27
4C076CC15
4C076CC31
4C076FF67
4C076FF68
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC42
4C086GA07
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA43
4C086MA55
4C086MA57
4C086NA05
4C086NA06
4C086NA07
4C086NA13
4C086ZA59
4C086ZB35
4C086ZC51
(57)【要約】
本発明は、概して、薄膜凍結を使用して非晶質形態で製造された吸入可能なボリコナゾールまたはその薬学的に許容される塩を含む組成物及び方法を包含する。様々な実施形態では、本発明は、例えば乾燥粉末吸入器を使用して、吸入することができ、真菌感染症を治療または予防するための毎日の処方として忍容性が良好な乾燥粉末ボリコナゾール製剤を含む。本発明の組成物及び方法は、ボリコナゾールの全身循環を回避または低減し、したがって、循環ボリコナゾールに関連する有害事象を克服する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真菌感染症を治療する必要がある対象においてそれを治療する方法であって、前記方法が、約20mg~約80mgの量でボリコナゾールまたはその塩を前記対象に吸入によって投与することを含み、前記吸入による投与が、1,000ng/mL未満のボリコナゾールの最大循環血漿濃度を達成する、前記方法。
【請求項2】
前記ボリコナゾールの最大循環血漿濃度が、500ng/mL未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ボリコナゾールの最大循環血漿濃度が、300ng/mL未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記真菌感染症が、Aspergillus fumigatus、Aspergillus flavus、Aspergillus niger、Aspergillus terreus、Candida albicans、Candida glabrata、Candida krusei、Candida parapsilosis、Candida tropicalis、Fusarium spp.、Fusarium solani、Scedosporium apiospermum、Candida lusitaniaeまたはCandida guilliermondiiによって引き起こされる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記真菌感染症が、侵襲性アスペルギルス症、カンジダ血症または食道カンジダ症である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記対象が、反応性気道障害に罹患している、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記反応性気道障害が、慢性閉塞性肺疾患(COPD)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記対象が、免疫不全である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記免疫不全が、好中球減少症、造血幹細胞移植(HSCT)、固形臓器移植、高用量コルチコステロイドを用いた長期の療法、血液悪性腫瘍、細胞傷害性療法、進行した後天性免疫不全症候群(AIDS)、慢性肉芽腫症、及び肝不全を患う患者を含む因子によって引き起こされる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記投与が、少なくとも1日1回である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記投与が、少なくとも1日2回である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ボリコナゾールまたはその塩の投与が、約40mg~約120mgの量を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ボリコナゾールまたはその塩の投与が、約60mg~約80mgの量を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ボリコナゾールまたはその塩の投与が、約80mgの量を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記ボリコナゾールまたはその塩が、ボリコナゾール吸入粉末である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
ボリコナゾールの肺への送達を増加させることを必要とする対象においてそれを増加させる方法であって、前記方法が、約20mg~約80mgの量でボリコナゾールまたはその塩を前記対象に吸入によって投与することを含み、吸入による前記ボリコナゾールの肺への送達が、投与に続く約12時間後にボリコナゾールの経口投与と比較して、前記肺における約50倍高い相対濃度をもたらす、前記方法。
【請求項17】
前記ボリコナゾールの肺への送達が、前記ボリコナゾールの経口投与と比較して、前記肺における約100倍高い相対濃度をもたらす、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ボリコナゾールの肺への送達が、前記ボリコナゾールの経口投与と比較して、前記肺における約200倍高い相対濃度をもたらす、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記対象が、Aspergillus fumigatus、Aspergillus flavus、Aspergillus niger、Aspergillus terreus、Candida albicans、Candida glabrata、Candida krusei、Candida parapsilosis、Candida tropicalis、Fusarium spp.、Fusarium solani、Scedosporium apiospermum、Candida lusitaniaeまたはCandida guilliermondiiによって引き起こされる真菌感染症に罹患している、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記対象が、侵襲性アスペルギルス症、カンジダ血症または食道カンジダ症によって引き起こされる真菌感染症に罹患している、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記対象が、免疫不全である、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記免疫不全が、好中球減少症、造血幹細胞移植(HSCT)、固形臓器移植、高用量コルチコステロイドを用いた長期の療法、血液悪性腫瘍、細胞傷害性療法、進行した後天性免疫不全症候群(AIDS)、慢性肉芽腫症、及び肝不全を患う患者を含む因子によって引き起こされる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記投与が、少なくとも1日1回である、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
前記投与が、少なくとも1日2回である、請求項16に記載の方法。
【請求項25】
前記ボリコナゾールまたはその塩の投与が、約40mg~約80mgの量を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項26】
前記ボリコナゾールまたはその塩の投与が、約60mg~約120mgの量を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項27】
前記ボリコナゾールまたはその塩の投与が、約80mgの量を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項28】
前記ボリコナゾールまたはその塩が、ボリコナゾール吸入粉末である、請求項16に記載の方法。
【請求項29】
ボリコナゾールの経口投与と比較して、ボリコナゾールの全身循環を低減するための方法であって、約20mg~約80mgの量でボリコナゾールまたはその塩を対象に吸入によって投与することを含み、前記吸入による投与が、1,000ng/mL未満のボリコナゾールの最大循環血漿濃度を達成する、前記方法。
【請求項30】
前記ボリコナゾールの最大循環血漿濃度が、500ng/mL未満である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記ボリコナゾールの最大循環血漿濃度が、300ng/mL未満である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記真菌感染症が、Aspergillus fumigatus、Aspergillus flavus、Aspergillus niger、Aspergillus terreus、Candida albicans、Candida glabrata、Candida krusei、Candida parapsilosis、Candida tropicalis、Fusarium spp.、Fusarium solani、Scedosporium apiospermum、Candida lusitaniaeまたはCandida guilliermondiiによって引き起こされる、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記真菌感染症が、侵襲性アスペルギルス症、カンジダ血症または食道カンジダ症である、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記対象が、免疫不全である、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
前記免疫不全が、好中球減少症、造血幹細胞移植(HSCT)、固形臓器移植、高用量コルチコステロイドを用いた長期の療法、血液悪性腫瘍、細胞傷害性療法、進行した後天性免疫不全症候群(AIDS)、慢性肉芽腫症、及び肝不全を患う患者を含む因子によって引き起こされる、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記投与が、少なくとも1日1回である、請求項29に記載の方法。
【請求項37】
前記投与が、少なくとも1日2回である、請求項29に記載の方法。
【請求項38】
前記ボリコナゾールまたはその塩の投与が、約40mg~約120mgの量を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項39】
前記ボリコナゾールまたはその塩の投与が、約60mg~約80mgの量を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項40】
前記ボリコナゾールまたはその塩の投与が、約80mgの量を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項41】
前記ボリコナゾールまたはその塩が、ボリコナゾール吸入粉末である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年12月17日に出願された米国仮特許出願第63/291,055号の利益及びそれに対する優先権を主張するものであり、この米国仮特許出願は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概して、薄膜凍結を使用してナノ結晶形態で製造された吸入可能なボリコナゾールまたはその薬学的に許容される塩を含む組成物及び方法を包含する。様々な実施形態では、本発明は、例えば乾燥粉末吸入器を使用して吸入することができ、真菌感染症を治療または予防するための毎日の処方として忍容性が良好な乾燥粉末ボリコナゾール製剤を含む。本発明の組成物及び方法は、ボリコナゾールの全身循環を回避または低減し、したがって、全身循環ボリコナゾールに関連する有害事象を克服する。
【背景技術】
【0003】
Aspergillusは、土壌、食品、植物破片及び屋内環境において一般的に見出される真菌である。胞子は、容易にエアロゾル化され、吸入される。気道粘膜では、胞子が菌糸へと成長し、これが粘膜に侵入し、侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)を引き起こし得る。先天性免疫応答及び炎症細胞の両方は、典型的には、真菌の増殖を制限し、大部分の個体における疾患を予防する。しかしながら、免疫欠陥またはそうでなければ易感染性の個体については、胞子の吸入は、重篤な、かつ多くの場合、致命的な感染症であり得る侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)及び侵襲性アスペルギルス症(IA)につながり得る疾患カスケードを誘起する場合がある。IPAについての主要な危険因子は、好中球減少症、造血幹細胞移植(HSCT)、固形臓器移植、高用量コルチコステロイドを用いた長期の療法、血液悪性腫瘍、細胞傷害性療法、進行した後天性免疫不全症候群(AIDS)、慢性肉芽腫症及び肝不全を患う患者などの複数の因子によって招かれる免疫不全である。更に、重度の慢性閉塞性肺障害(COPD)を患う患者及び重症患者を含む古典的な危険因子を有しない免疫欠陥患者におけるIPA報告文書の数が増加している。加えて、COPDを患う患者は、IPAに対する易感染性が増加し、これが罹患率の増加につながる場合がある。リスクの増加は、多くの因子によるものである。より最近では、IPAは、重篤なインフルエンザ及びSARS-CoV-2感染症と関連付けられた。
【0004】
侵襲性肺アスペルギルス症はまた、古典的な危険因子(好中球減少症、白血病、HSCT)を伴わない集中治療室(ICU)患者において懸念される感染疾患となっている。ある医療ICUの後ろ向き研究では、5.8%のIA発症率が見出され、ほとんどの症例で肺病変を有していた。症例の70パーセント(70%)は、白血病またはがんを患っていない患者に見出され、死亡率は、90%を超えていた。
【0005】
ボリコナゾールは、強力な広スペクトルトリアゾール抗真菌剤であり、その主な作用機序は、エルゴステロール生合成に不可欠な酵素であるそのヘム基に結合することによる、真菌シトクロムP450依存性14-α-ステロールデメチラーゼCYP51の阻害である。アスペルギルス症についての現在の治療ガイドラインは、IAのための第一選択療法として、経口及び/またはIVボリコナゾール(VFEND(登録商標))を推奨している。ボリコナゾールは、IPAに対する予防として骨髄または固形臓器移植後の患者にますます使用されているが、この適応症のためにはポサコナゾールのみが認可されている。病院環境では、患者が経口で医薬を摂取することができない場合、患者は、典型的には、最初にIVボリコナゾールによって治療される。この治療は、患者が安定し、経口投薬への忍容性が認められるとすぐに、経口ボリコナゾール(例えば、毎日2回200mgを摂取する)に切り替えられる。
【0006】
しかしながら、経口ボリコナゾールでは、CYP2C9、CYP2C19及びCYP3A4によるボリコナゾールの薬物代謝に起因する全身曝露のかなりの変動、ならびに食物に起因する吸収の低減がある(例えば、VFENDラベル)。代謝クリアランスの変動に加えて、CYP2B6、CYP2C9、CYP2C19及びCYP3Aを阻害するボリコナゾールの能力に起因する臨床薬物間相互作用(DDI)があり(例えば、VFENDラベル)、したがって、タクロリムスなどのCYP3Aによって代謝される免疫抑制療法の患者において特に潜在的に深刻な全身副作用を最小限に抑えながら、所望の抗真菌活性を達成するには少なすぎず多すぎない送達用量を処方することが臨床医の課題であり、タクロリムス全身曝露の非常に変動しやすく予測不可能な増加につながる。
【0007】
経口またはIV療法を受けている患者についてのボリコナゾール代謝及びDDIの課題に加えて、遠位臓器に広がる前にアスペルギルス感染症が局在化する臓器である肺に到達するボリコナゾールの量は、患者に投与される総ボリコナゾールのごく一部である。とりわけ、効力のために肺で達成しなければならないボリコナゾール濃度は、決定されていない。しかしながら、200mgの経口ボリコナゾールを用いた3日間で毎日2回(BID)投薬処方の最終用量の12時間後の気道上皮被覆液(ELF)濃度は、平均して8,827ng/mL(範囲4,369~35,172ng/mL)であり、一方、対応する血漿レベルは、1,224ng/mL(範囲535~2,341ng/mL)であったことが報告された。ELF体積の推定値は、平均的なヒトの肺における10~50mLの範囲である。
【0008】
薬物間相互作用及び毒性を低減しながらボリコナゾールの局所濃度を増加させる潜在性を考慮して、本発明者らは、患者、例えば、IPAを患うか、もしくはIPAのリスクが高い患者における潜在的な治療及び/または予防のためのボリコナゾールの送達を改善するために、乾燥粉末吸入製品としてのボリコナゾールを開発した。本発明者らは、乾燥粉末吸入製品としてのボリコナゾールが、用量制限副作用につながり得る全身曝露を低減しながら、ボリコナゾールの投薬の信頼性及び一貫性を改善し、IPAにおける標的臓器(すなわち、肺)への薬物送達を強化することを驚くべきことに発見した。本発明者らは、ボリコナゾールの吸入が、治療または予防のためのより信頼性が高く、汎用性が高い投薬パラダイムに変換される、多様な併用医薬に対する、患者における消化管吸収及び代謝に関連する変動性を直接的に避けることを更に見出した。
【発明の概要】
【0009】
様々な実施形態では、本発明は、真菌感染症を治療または予防する必要がある対象においてそれを治療または予防するための組成物または方法を包含し、方法は、約10mg~約80mgの量でボリコナゾールまたはその薬学的に許容される塩を上記対象に吸入によって投与することを含み、吸入による投与が、1,000ng/mL未満のボリコナゾールの最大循環血漿濃度を達成する。
【0010】
特定の実施形態では、ボリコナゾールまたはその薬学的に許容される塩の量は、約10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76、78または約80mgである。
【0011】
様々な実施形態では、対象に投与されるボリコナゾールまたはその塩の量は、約5mg、10mg、20mg、30mg、40mg、50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、110mg、120mg、130mg、140mg、150mg、160mg、170mg、180mg、190mgまたは約200mgである。特定の実施形態では、ボリコナゾールの量は、乾燥粉末吸入器を使用して、複数の単回投薬量、例えば、10mgカプセルの8回投与で投与される。
【0012】
特定の実施形態では、ボリコナゾールまたはその塩の投与は、約10mg~約120mg、好ましくは約40mg~約80mg、最も好ましくは約40mgまたは約80mgの量を含む。ボリコナゾールまたはその塩の投与は、約1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、1日5回、1日6回、1日7回、1日8回、1日9回または1日10回である。
【0013】
様々な実施形態において、ボリコナゾールの最大循環血漿濃度は、約1000ng/mL未満、900ng/mL、800ng/mL、700ng/mL、600ng/mL、500ng/mL、400ng/mL、300ng/mL、200ng/mL未満、または100ng/mL未満である。
【0014】
特定の実施形態では、ボリコナゾールの最大循環血漿濃度は、500ng/mL未満である。特定の実施形態では、ボリコナゾールの最大循環血漿濃度は、300ng/mL未満である。
【0015】
特定の実施形態では、真菌感染症は、Aspergillus fumigatus、Aspergillus flavus、Aspergillus niger、Aspergillus terreus、Candida albicans、Candida glabrata、Candida krusei、Candida parapsilosis、Candida tropicalis、Fusarium spp.、Fusarium solani、Scedosporium apiospermum、Candida lusitaniaeまたはCandida guilliermondiiによって引き起こされる。
【0016】
特定の実施形態では、真菌感染症は、侵襲性アスペルギルス症、カンジダ血症または食道カンジダ症である。
【0017】
特定の実施形態では、対象は、反応性気道障害に罹患している。特定の実施形態では、反応性気道障害は、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)または気管支感染症である。
【0018】
特定の実施形態では、対象は免疫不全である。特定の実施形態では、免疫不全は、好中球減少症、造血幹細胞移植(HSCT)、固形臓器移植、高用量コルチコステロイドを用いた長期の療法、血液悪性腫瘍、細胞傷害性療法、進行した後天性免疫不全症候群(AIDS)、慢性肉芽腫症、及び肝不全を患う患者を含む因子によって引き起こされる。
【0019】
特定の実施形態では、投与は、少なくとも1日1回である。他の実施形態では、投与は、少なくとも1日2回である。
【0020】
特定の実施形態では、ボリコナゾールまたはその塩は、ボリコナゾール吸入粉末である。
【0021】
特定の実施形態では、本発明は、ボリコナゾールの肺への送達を増加させることを必要とする対象の、それを増加させるための組成物及び方法を包含し、方法は、全身吸収を最小限に抑え、かつ薬物間相互作用を低減しながら、ボリコナゾールまたはその塩を上記対象に吸入によって投与することを含む。特定の実施形態では、薬物間相互作用の低減は、CYP3A阻害剤との相互作用である。特定の実施形態では、ボリコナゾールまたはその塩を上記対象に吸入によって投与することを含む方法は、シトクロムCYP3a酵素によって代謝される薬物を同時投与される対象における薬物相互作用を低減または回避する。したがって、特定の実施形態では、治療量のボリコナゾールまたはその塩を対象に吸入によって投与することは、経口的または全身的な(例えば、IV注射による)ボリコナゾールの投与に関連する薬物間相互作用を最小限に抑えるか、または克服する。
【0022】
他の実施形態では、本発明は、ボリコナゾールの肺への送達を増加させることを必要とする対象の、それを増加させるための組成物及び方法を包含し、方法は、約10mg~約200mg、好ましくは約20mg~約80mgの量でボリコナゾールまたはその塩を上記対象に吸入によって投与することを含み、吸入によるボリコナゾールの肺への送達が、投与に続く約12時間後にボリコナゾールの経口投与と比較して、肺における約50倍高い相対濃度をもたらす。
【0023】
様々な実施形態では、対象に投与されるボリコナゾールまたはその塩の量は、約1mg、2mg、4mg、6mg、8mg、10mg、20mg、30mg、40mg、50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、110mg、120mg、130mg、140mg、150mg、160mg、170mg、180mg、190mgまたは約200mgである。
【0024】
様々な実施形態では、ボリコナゾールまたはその塩の量は、約1mg、2mg、4mg、6mg、8mg、10mg、20mg、30mg、40mg、50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、110mg、120mg、130mg、140mg、150mg、160mg、170mg、180mg、190mgもしくは約200mgの量のボリコナゾールまたはその塩を含む剤形、例えばカプセル剤で対象に投与される。特定の実施形態では、剤形は、複数回、例えば、約1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、1日5回、1日6回、1日7回、1日8回、1日9回または1日10回投与される。
【0025】
特定の実施形態では、ボリコナゾールまたはその塩の投与は、約10mg~約120mg、好ましくは約40mg~約80mg、最も好ましくは約40mgまたは約80mgの量を含む。ボリコナゾールまたはその塩の投与は、約1日1回、1日2回、1日3回、1日4回または1日5回である。
【0026】
様々な実施形態では、吸入によるボリコナゾールの肺への送達は、投与に続く約12時間後にボリコナゾールの経口投与と比較して、肺における約10倍~約200倍高く、好ましくは約10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、80倍、90倍、100倍、150倍、200倍、最も好ましくは約50倍高い相対濃度をもたらす。様々な実施形態では、ボリコナゾールの経口投与と比較した肺におけるより高い相対濃度は、投与に続く約30分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間または約12時間後である。
【0027】
特定の実施形態では、ボリコナゾールの肺への送達は、ボリコナゾールの経口投与と比較して、肺における約100倍高い相対濃度をもたらす。
【0028】
特定の実施形態では、ボリコナゾールの肺への送達は、ボリコナゾールの経口投与と比較して、肺における約200倍高い相対濃度をもたらす。
【0029】
特定の実施形態では、対象は、Aspergillus fumigatus、Aspergillus flavus、Aspergillus niger、Aspergillus terreus、Candida albicans、Candida glabrata、Candida krusei、Candida parapsilosis、Candida tropicalis、Fusarium spp.、Fusarium solani、Scedosporium apiospermum、Candida lusitaniaeまたはCandida guilliermondiiによって引き起こされる真菌感染症に罹患している。
【0030】
ある特定の実施形態では、対象は、侵襲性アスペルギルス症、カンジダ血症または食道カンジダ症によって引き起こされる真菌感染症に罹患している。
【0031】
特定の実施形態では、対象は免疫不全である。
【0032】
特定の実施形態では、免疫不全は、好中球減少症、造血幹細胞移植(HSCT)、固形臓器移植、高用量コルチコステロイドを用いた長期の療法、血液悪性腫瘍、細胞傷害性療法、進行した後天性免疫不全症候群(AIDS)、慢性肉芽腫症、及び肝不全を患う患者を含む因子によって引き起こされる。
【0033】
特定の実施形態では、投与は、少なくとも1日1回である。他の実施形態では、投与は、少なくとも1日2回である。
【0034】
特定の実施形態では、ボリコナゾールまたはその塩は、ボリコナゾール吸入粉末である。
【0035】
特定の実施形態では、ボリコナゾールまたはその塩の投与は、約10mg~約120mgの量を含む。特定の実施形態では、ボリコナゾールまたはその塩の投与は、約40mg~約80mgの量を含む。特定の実施形態では、ボリコナゾールまたはその塩の投与は、約80mgの量を含む。
【0036】
特定の実施形態では、ボリコナゾールまたはその塩は、ボリコナゾール吸入粉末である。
【0037】
他の実施形態では、本発明は、ボリコナゾールの経口投与と比較して、ボリコナゾールの全身循環を低減するための方法及び組成物を包含し、約20mg~約80mgの量でボリコナゾールまたはその塩を上記対象に吸入によって投与することを含み、吸入による投与が、1,000ng/mL未満のボリコナゾールの最大循環血漿濃度を達成する。
【0038】
特定の実施形態では、ボリコナゾールの最大循環血漿濃度は、500ng/mL未満である。特定の実施形態では、ボリコナゾールの最大循環血漿濃度は、300ng/mL未満である。
【0039】
様々な実施形態では、対象に投与されるボリコナゾールまたはその塩の量は、約10mg、20mg、30mg、40mg、50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、110mg、120mg、130mg、140mg、150mg、160mg、170mg、180mg、190mgまたは約200mgである。特定の実施形態では、ボリコナゾールまたはその薬学的に許容される塩の量は、約10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76、78または約80mgである。
【0040】
特定の実施形態では、ボリコナゾールまたはその塩の投与は、約10mg~約120mg、好ましくは約40mg~約80mg、最も好ましくは約40mgまたは約80mgの量を含む。ボリコナゾールまたはその塩の投与は、約1日1回、1日2回、1日3回、1日4回または1日5回である。
【0041】
特定の実施形態では、ボリコナゾールまたはその塩は、ボリコナゾール吸入粉末である。
【0042】
様々な実施形態において、ボリコナゾールの最大循環血漿濃度は、約1000ng/mL未満、900ng/mL、800ng/mL、700ng/mL、600ng/mL、500ng/mL、400ng/mL、300ng/mL、200ng/mL未満、または100ng/mL未満である。
【0043】
特定の実施形態では、ボリコナゾールの最大循環血漿濃度は、500ng/mL未満である。特定の実施形態では、ボリコナゾールの最大循環血漿濃度は、300ng/mL未満である。
【0044】
特定の実施形態では、真菌感染症は、Aspergillus fumigatus、Aspergillus flavus、Aspergillus niger、Aspergillus terreus、Candida albicans、Candida glabrata、Candida krusei、Candida parapsilosis、Candida tropicalis、Fusarium spp.、Fusarium solani、Scedosporium apiospermum、Candida lusitaniaeまたはCandida guilliermondiiによって引き起こされる。
【0045】
特定の実施形態では、真菌感染症は、侵襲性アスペルギルス症、カンジダ血症または食道カンジダ症である。
【0046】
特定の実施形態では、対象は免疫不全である。
【0047】
特定の実施形態では、免疫不全は、好中球減少症、造血幹細胞移植(HSCT)、固形臓器移植、高用量コルチコステロイドを用いた長期の療法、血液悪性腫瘍、細胞傷害性療法、進行した後天性免疫不全症候群(AIDS)、慢性肉芽腫症、及び肝不全を患う患者を含む因子によって引き起こされる。
【0048】
特定の実施形態では、投与は、少なくとも1日1回である。特定の実施形態では、投与は、少なくとも1日2回である。
【0049】
特定の実施形態では、ボリコナゾールまたはその塩は、ボリコナゾール吸入粉末である。
【0050】
特定の実施形態では、ボリコナゾールまたはその塩の投与は、約10mg~約120mgの量を含む。特定の実施形態では、ボリコナゾールまたはその塩の投与は、約40mg~約80mgの量を含む。特定の実施形態では、ボリコナゾールまたはその塩の投与は、約80mgの量を含む。
【0051】
特定の実施形態では、ボリコナゾールまたはその塩は、ボリコナゾール吸入粉末である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】経口投与(左側、200mg)及び吸入投与(右側、40~80mg)に続くボリコナゾールの薬物沈着の理論図を示す。この例解図は、ボリコナゾールの吸入投与は、経口投与経路と比較して、より低い消化管及び全身曝露で、より高い百分率の薬物を肺に沈着させることを示す。
【
図2A】全てのSAD及びMAD対象についてのボリコナゾール血漿濃度時間プロット;単回吸入用量後の片対数(SADコホートとMADコホートとの組み合わせ)を示す。単回吸入後のボリコナゾール(平均+SD)濃度時間プロット。
【
図2B】代謝正常者(Extensive Metabolizer)のみについてのボリコナゾール血漿濃度時間プロット;片対数を示す。
【
図3】CYP2C19代謝正常者及び代謝不良者についてのボリコナゾール血漿濃度時間プロットを示す。代謝正常者(EM)及び代謝不良者(PM)を含めた、1日目のVIP用量の単回吸入後のボリコナゾール(個々または平均[+SD])血漿濃度時間プロット;組み合わせたSADコホート及びMADコホート。
【
図4】1日目及び7日目の40mg及び80mgのボリコナゾール血漿濃度時間プロットを示す。40mg及び80mgについてのボリコナゾール(平均+SD)血漿濃度時間プロット用量1(1日目)及び用量13(7日目)オーバーレイグラフ(代謝正常者のみ;片対数)。
【
図5】全ての対象(
図5A及び5B:パネルA)及び代謝正常者のみ(
図5A及び5B:パネルB)における用量対PKパラメータの両対数プロットを示す。
図5Aは、Cmaxを示し、
図5Bは、AUCtauを示す。Cmax(
図5A)及びAUCtau(
図5B)についての、1日目及び用量13(7日目)のボリコナゾールの用量対PKパラメータの両対数プロット。パネルAには全ての対象が含まれ、パネルBには代謝正常者のみが含まれる。
【
図6】結晶性固体を示したXRPDによるボリコナゾール/マンニトール(95:5w/w)混合物の特性評価を示す。
【
図7】マンニトールから相分離されたボリコナゾールを用いた薄膜凍結(TFF)プロセスの好適性を確認した50:50混合物のSEM-EDXを示す。
【
図9】用量レベルによる平均(+SD)ボリコナゾール血漿濃度対時間、SAD-全ての対象(対数線形軸)を示す。
【
図10】用量レベルによる平均(+SD)ボリコナゾール血漿濃度対時間、SAD-CYP2C19代謝正常者のみ(対数線形軸)を示す。
【
図11】MAD、全ての用量レベル、全ての対象からの、最初及び最後の用量後の平均(±SD)ボリコナゾール濃度を示す。
【
図12】MAD、全ての用量レベル:代謝正常者のみからの、最初及び最後の用量の後の平均(±SD)ボリコナゾール濃度を示す。
【
図13】TFF-V1-001及びTFF-V1-002における40mg及び80mgの単回用量ボリコナゾール吸入粉末後のボリコナゾール平均全身曝露を示す。
【
図14】TFF-V1-001及びTFF-V1-002における40mg及び80mgの反復用量ボリコナゾール吸入粉末後のボリコナゾール平均全身曝露を示す。
【
図15】吸入可能なボリコナゾールを使用して低減された薬物間相互作用の概念を支持する吸入ボリコナゾールの投与後にタクロリムスレベル/用量が変化しないままであることを示す。
【
図16】吸入可能なボリコナゾールの投与後の肺機能の安定化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
定義
本明細書において別に定義されない限り、本出願において使用される科学用語及び技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するものとする。概して、本明細書に記載される化学、分子生物学、細胞及びがん生物学、免疫学、微生物学、薬理学、ならびにタンパク質及び核酸化学と関連して使用される命名法、ならびにそれらの技法は、当技術分野でよく知られており、一般的に使用されているものである。
【0054】
本明細書で使用される場合、以下の用語は、特に明記されない限り、それらに与えられている意味を有する。
【0055】
値を指すときの「約」には、記述された値の記述された値+/-10%が含まれる。例えば、約50%には45%~55%の範囲が含まれ、一方、約20モル当量には18~22モル当量の範囲が含まれる。したがって、範囲を指すとき、「約」は、範囲の各端点の記述された値の記載された値+/-10%の各々を指す。例えば、約1~約3(重量/重量)の比には、0.9~3.3の範囲が含まれる。
【0056】
本明細書全体を通して、語句「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変形は、記述された整数(もしくは成分)または整数(もしくは成分)の群の包含を意味するが、任意の他の整数(もしくは成分)または整数(もしくは成分)の群を除外しないことが理解されよう。
【0057】
単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明確に指示しない限り、複数含む。
【0058】
用語「含む(including)」は、「含むが、これらに限定されない(including but not limited to)」を意味するために使用される。「含む(Including)」及び「含むが、これらに限定されない(including but not limited to)」は、互換的に使用される。
【0059】
用語「患者」、「対象」及び「個体」は、互換的に使用することができ、ヒトまたは非ヒト動物のいずれかを指す。これらの用語には、ヒト、霊長類、家畜動物(例えば、ウシ、ブタ)、愛玩動物(例えば、イヌ、ネコ)及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)などの哺乳動物が含まれる。用語「哺乳動物」は、ヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ハムスター、モルモット、ウサギ、家畜などの任意の哺乳動物種を指す。
【0060】
同じく提供されるのは、本明細書に記載される化合物の薬学的に許容される塩及び互変異性形態である。「薬学上許容される」または「生理学的に許容される」は、化合物、塩、組成物、剤形、及び他の材料であって、獣医学またはヒト医薬用途に適した医薬組成物の調製に有用であるものを示す。
【0061】
用語「薬学的に許容される塩」は、ボリコナゾールの生物学的有効性及び特性を保持し、かつ生物学的にまたはいずれにしろ望ましくないものではない塩を示す。「薬学上許容される塩」または「生理学的に許容される塩」として、例えば、無機酸との塩及び有機酸との塩が挙げられる。当業者なら、無毒の薬学上許容される付加塩を調製するのに使用可能な様々な合成がわかるだろう。薬学的に許容される酸付加塩は、無毒な無機酸及び有機酸から調製され得る。薬学的に許容される塩は、従来の化学的方法によって、塩基性または酸性部分を含有する親化合物から合成することができる。好適な塩のリストは、Remington’s Pharmaceutical Sciences,l7th Ed.,(Mack Publishing Company,Easton,1985),p.1418,Berge et al.,J.Pharm.Sci.,1977,66(1),1-19及びStahl et al.,Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,Selection,and Use,(Wiley,2002)に見出される。薬学的に許容される塩の非限定的な例としては、サルフェート、ピロサルフェート、ビサルフェート、サルファイト、ビサルファイト、ホスフェート、一水素-ホスフェート、二水素ホスフェート、メタホスフェート、ピロホスフェート、塩化物、臭化物、ヨウ化物、アセテート、プロピオネート、デカノエート、カプリレート、アクリレート、ホルメート、イソブチレート、カプロエート、ヘプタノエート、プロピオレート、オキサレート、マロネート、スクシネート、スベレート、セバケート、フマレート、マレエート、ブチン-1,4-ジオエート、ヘキシン-1,6-ジオエート、ベンゾエート、クロロベンゾエート、メチルベンゾエート、ジニトロベンゾエート、ヒドロキシベンゾエート、メトキシベンゾエート、フタレート、スルホネート、メチルスルホネート、プロピルスルホネート、ベシレート、キシレンスルホネート、ナフタレン-1-スルホネート、ナフタレン-2-スルホネート、フェニルアセテート、フェニルプロピオネート、フェニルブチレート、シトレート、ラクテート、γ-ヒドロキシブチレート、グリコレート、タルトレート及びマンデレートが挙げられる。他の好適な薬学的に許容される塩のリストは、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,21st Edition,Lippincott Williams and Wilkins,Philadelphia,Pa.,2006に見出される。
【0062】
ボリコナゾールまたはその薬学的に許容される塩は、1つ以上の不斉中心を含む場合があり、したがって、エナンチオマー、ジアステレオマー及び他の立体異性体形態を生じさせることができ、それは絶対立体化学の観点から(R)-もしくは(S)-、またはアミノ酸に関しては(D)-もしくは(L)-と定義され得る。本開示は、そのような可能性のある全ての異性体、ならびにそれらのラセミ形態及び光学的に純粋な形態を含むことが意図される。光学的に活性な(+)及び(-)、(R)-及び(S)-、または(D)-及び(L)-異性体は、キラルシントンもしくはキラル試薬を使用して調製するか、または従来の技法、例えば、クロマトグラフィ及び分別晶析を使用して分割することができる。個々のエナンチオマーの調製/単離のための従来技術としては、好適な光学的に純粋な前駆体からのキラル合成、または、例えばキラル高圧液体クロマトグラフィ(HPLC)を使用した、ラセミ体(または塩もしくは誘導体のラセミ体)の分割が挙げられる。この態様は、特定のジアステレオマーまたはエナンチオマーが豊富な形態を包含するが、これに限定されないことが理解される。キラリティーが指定されていないが存在する場合、この態様は、特定のジアステレオマーもしくはエナンチオマーが豊富な形態、またはそのような化合物(複数可)のラセミ混合物もしくはスカレミック混合物のいずれかを目的とすることが理解される。本明細書で使用される場合、「スカレミック混合物」は、1:1以外の比での立体異性体の混合物である。
【0063】
「ラセミ体」は、エナンチオマーの混合物を指す。混合物は、等量または不等量の各エナンチオマーを含み得る。
【0064】
「立体異性体(stereoisomer)」及び「立体異性体(stereoisomers)」は、1つ以上の立体中心のキラリティーの差を指す。立体異性体は、エナンチオマー及びジアステレオマーを含む。ボリコナゾールは、それらが1つ以上の不斉中心、または非対称置換を有する二重結合を保有する場合、立体異性体形態で存在し得、したがって、個々の立体異性体または混合物として生成することができる。特に指示されない限り、本明細書は、個々の立体異性体及び混合物を含むことが意図される。立体化学の決定及び立体異性体の分離のための方法は、当該技術分野でよく知られている(例えば、Advanced Organic Chemistry,4th ed.,J.March,John Wiley and Sons,New York,1992の第4章を参照されたい)。
【0065】
本発明は、概して、薄膜凍結を使用してナノ結晶形態で製造されたボリコナゾールまたはその薬学的に許容される塩を含む組成物及び方法を包含する。様々な実施形態では、本発明は、例えば乾燥粉末吸入器を使用して吸入することができ、毎日の処方、好ましくは毎日2回として忍容性が良好である、本明細書において「ボリコナゾール乾燥粉末」と称される乾燥粉末製剤を含む。
【0066】
様々な実施形態では、本発明者らは、例えば、1日2回最大80mgの用量でのボリコナゾール吸入粉末を含む特許請求された組成物及び方法が、推奨される経口用量(すなわち、200mg BID)と比べて低い血漿曝露(例えば、Cmax、AUC)を送達し、これが患者に治療上の利益を提供することを見出した。
【0067】
様々な実施形態では、ボリコナゾール吸入粉末を含む組成物及び方法は、ボリコナゾールの経口または静脈内投与を用いた広範な薬物間相互作用(DDI)を克服するために、例えば、重症患者集団において、侵襲性真菌感染症の治療における治療薬として作用することができる。
【0068】
ボリコナゾールのDDIの潜在性は、現在市販されている薬物のおおよそ67%の代謝に関与するCYP 450酵素(例えば、CYP2B6、CYP2C9、CYP2C19及びCYP3A)のうちの4つの阻害剤であることに起因する。表1は、Ki及び2つの経口C
max値についての文献値、ならびに80mg用量でのボリコナゾール吸入粉末についての本研究で観察されたC
max値を示す。
【表1】
【0069】
CYP Kiは、CYP2B6(Ki<0.5μM)、CYP2C9(Ki=2.79μM)、CYP2C19(Ki=5.1μM)及びCYP3A(Ki=0.66μM)であり、PKデータを表2で示す。
【表2】
【0070】
表3及び4は、それぞれ、単回用量及び複数回用量の投与後の薬物動態パラメータを示す。
【表3】
【表4】
【0071】
本発明は、薬物間相互作用(DDI)を軽減または回避するボリコナゾール吸入粉末を含む組成物及び方法を更に包含する。特定の実施形態では、ボリコナゾール吸入粉末の吸入送達は、GI上皮内のCYP 450酵素によって代謝される薬物、例えば、固形臓器移植後に使用され、かつCYP3A5によって代謝される重要な免疫抑制剤であるタクロリムスの吸収及び代謝に影響を及ぼさない。
【0072】
他の実施形態では、最大約80mgの用量を含むボリコナゾール吸入粉末を含む組成物及び方法は、例えば、CYP2C19及びCYP2C9を含むCYP 450酵素による代謝に基づく全身性/肝臓DDIの潜在性を回避または低減する。
【0073】
他の実施形態では、ボリコナゾール吸入粉末を含む組成物及び方法は、経口投与と比較して、循環ボリコナゾールの低い全身濃度をもたらす。特定の実施形態では、ボリコナゾール吸入粉末を含む組成物及び方法は、血漿中の治療用トラフ濃度1.7μg/mLよりも低い80mgの吸入用量の後に全身曝露をもたらし、経口投与後、侵襲性真菌感染症に対する治療の成功を確実にするために必要とされる。しかしながら、このトラフ濃度では、タクロリムスなどの著しい臨床的DDIがあり、これは臓器拒絶反応が起こらないことを確実にする際に重要である。したがって、本発明者らは、驚くべきことに、肺に高濃度で吸入した後のボリコナゾール吸入粉末の全身投与に続くより低い曝露が、例えば肺移植を伴う患者の場合に、経口投与に対する優れた代替手段を提供することを見出した。
【0074】
他の実施形態では、ボリコナゾール吸入粉末を含む組成物及び方法は、約10mg~約80mgの用量、例えば、約10、20、30、40、50、60、70もしくは約80mgのボリコナゾールまたはその薬学的に許容される塩を含む。
【0075】
他の実施形態では、ボリコナゾール吸入粉末を含む組成物及び方法は、単回及び反復投与後の曝露における用量比例増加を示し、薬物のクリアランスは定常状態で比較的一貫している;10mg及び80mgについて、それぞれ約141L/h~約121L/hの範囲のCLss/F幾何学平均。様々な実施形態では、80mg吸入用量のCmaxは、2310ng/mLの経口200mg用量と比較して、約227ng/mLであった。
【0076】
特定の実施形態では、ボリコナゾール吸入粉末を含む組成物及び方法は、経口経路よりも、吸入経路による所与のmg用量に対して全身循環に到達するより少ないボリコナゾールを提供する。しかしながら、これは、吸入ボリコナゾールが侵襲性アスペルギルス症に対して有効でないことを意味するものではない。様々な実施形態では、ボリコナゾール吸入粉末を含む組成物及び方法は、吸入ボリコナゾールの50%の沈着及び50mLの肺の表面積を考慮すると、直接肺組織に利用可能な気道表面上の濃度を約1600μg/mL(80,000μg/50mL)提供し、これは、アスペルギルス属の全ての野生型及び耐性変異型を治療するのに十分である。したがって、ボリコナゾール吸入粉末を含む組成物及び方法は、吸入経路による全身性のボリコナゾールへのより低い曝露をもたらし、したがって、予防及び治療を可能にし、肺移植受容者の転帰を改善する。
【0077】
他の実施形態では、ボリコナゾール吸入粉末を含む組成物及び方法は、40mg及び80mgの用量でより長いt1/2を含み、投薬間隔内のこの薬物備蓄からの継続的な吸収に起因してより長い半減期につながる、肺におけるボリコナゾールの一時的な貯蔵所をもたらす。
【0078】
他の実施形態では、ボリコナゾール吸入粉末を含む組成物及び方法は、例えば、造血幹細胞移植を受けている免疫欠陥個体、及び投与されている他の治療薬に関連するDDIを回避する肺移植を伴う個体において、一次予防または治療オプションとして使用することができる。
【0079】
他の実施形態では、ボリコナゾール吸入粉末を含む組成物及び方法は、免疫欠陥個体に予防を提供し、ボリコナゾール吸入粉末を含む組成物及び方法などのあまり全身的に利用可能ではない薬剤を使用することにより、リスクと利益の比を改善する。
【0080】
様々な実施形態では、ボリコナゾール吸入粉末は、経口ボリコナゾール治療に対する代替手段として使用することができる。他の実施形態では、ボリコナゾール吸入粉末を含む組成物及び方法は、全身副作用と、多臓器毒性と、複数の潜在的なDDIと、全ての抗真菌剤に関しては、長期治療後の抗真菌耐性の出現についての懸念と、を含む、ボリコナゾールの経口または静脈内投与に関係する制限を回避または低減する。
【0081】
他の実施形態では、ボリコナゾール吸入粉末を含む組成物及び方法は、ボリコナゾールの感染した臓器(例えば、肺)への直接的な送達を含み、肺における感染症をより有効に治療する利点を伝達し、全身的な侵襲性アスペルギルス症への進行を低減する。
【0082】
ボリコナゾール吸入粉末の製剤
ボリコナゾール吸入粉末を含む組成物は、経口吸入投与経路を介して乾燥粉末として製剤化されたボリコナゾール薬物製品を肺に送達することを意図した薬物-デバイスの組み合わせを含む完成した薬物製品を含む。特定の実施形態では、製剤化されたボリコナゾール吸入粉末は、カプセル、例えば、市販の乾燥粉末吸入器(DPI)デバイスを使用して投与するための硬い2ピースのHPMCカプセル(例えば、サイズ3)中に供給される。特定の実施形態では、ボリコナゾール吸入粉末は、DPIに直接挿入することができる10mgのボリコナゾールカプセルとして利用可能である。特定の実施形態では、Plastiape S.p.A.(Osnago,Italy)によって製造されたカプセル系DPIデバイス(例えば、RS00 Model 8 Monodose)は、ボリコナゾール吸入粉末の投与に使用される。様々な実施形態では、治療レベルのボリコナゾールを達成するために、1回以上の10mg用量、例えば、1回の10mg用量、2回の10mg用量、3回の10mg用量、4回の10mg用量、5回の10mg用量、6回の10mg用量、7回の10mg用量、8回の10mg用量以上の用量を投与して、適切な量のボリコナゾールを達成することができる。
【0083】
一実施形態では、ボリコナゾール吸入粉末は、カプセル、例えば、硬い2ピースのHPMCカプセル(例えば、サイズ3)中の95:5%w/wボリコナゾール/マンニトールで構成される。
【0084】
以下の表5は、本発明のボリコナゾール吸入粉末製剤の例解的な実施形態を提供する。
【表5】
【0085】
別の実施形態では、ボリコナゾール吸入粉末の製剤は、カプセル(例えば、サイズ3)中のステアリン酸マグネシウム(93.1:4.9:2%w/wのボリコナゾール/ロイシン/ステアリン酸マグネシウム)と乾燥ブレンドされた、TFF処理ボリコナゾール及びロイシンで構成されている。
【0086】
以下の表6は、本発明のボリコナゾール吸入粉末製剤の別の例解的な実施形態を提供する。
【表6】
【0087】
多様な賦形剤(増量剤、脱凝集剤及び疎水剤)を用いて、最初に製剤スクリーニングをボリコナゾールに対して実施した。混合物を、Plastiape RS01(高抵抗、低抵抗及びより長いマウスピースを有する低抵抗)を使用してエアロゾル化し、Malvernスプレーテックレーザ回折(LD)分析器を使用して評価した。空気力学的粒度パラメータを見積もった。表7は、ボリコナゾールと併せて評価した賦形剤について要約している。
【表7】
【0088】
XRPDによるボリコナゾール/マンニトール(95:5w/w)混合物の特性決定は、
図6で示される結晶性固体を示した。マンニトールから相分離されたボリコナゾールを用いた薄膜凍結(TFF)プロセスの好適性を確認した50:50混合物のSEM-EDX(
図7を参照されたい)。
【0089】
本発明で使用され得る賦形剤及びアジュバントは、概して、活性剤の効率及び/または効力を強化する化合物として本出願のために定義される。所与の製剤中に、2つ以上の賦形剤、アジュバントまたは更には活性剤を有することも可能である。本発明に従って作製されるべき溶液に含まれ得る追加の薬剤の非限定的な例としては、界面活性剤、充填剤、安定剤、ポリマー、プロテアーゼ阻害剤、酸化防止剤及び吸収促進剤が挙げられる。薬物粒子が適切な投与のために均質に混和されることを可能にするために、薬物粒子が形成される前または後のいずれかで、賦形剤を選択し、薬物/有機混合物または水溶液のいずれかに添加することができる。好適な賦形剤としては、ポリマー、吸収促進剤、溶解性促進剤、溶解速度促進剤、安定性促進剤、生体接着剤、制御放出剤、流動助剤及び加工助剤が挙げられる。より具体的には、好適な賦形剤としては、セルロースエーテル、アクリル酸ポリマー及び胆汁塩が挙げられる。他の好適な賦形剤は、参照により本明細書に組み込まれる関連部分である、アメリカ薬剤協会(American Pharmaceutical Association)及び英国薬学会(The Pharmaceutical Society of Great Britain),the Pharmaceutical Press,1986によって共同で発行されたHandbook of Pharmaceutical Excipientsに詳細に記載されている。そのような賦形剤は、市販されており、及び/または当該技術分野で知られている技法によって調製することができる。
【0090】
賦形剤はまた、単独でまたは組み合わせて選定して、流動またはバイオアベイラビリティを改善することによって有効成分の意図される機能を変更するか、または有効成分の放出を制御または遅延させることができる。特定の非限定的な例としては、Span 80、Tween 80、Brij 35、Brij 98、Pluronic、sucroester 7、sucroester 11、sucroester 15、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸、laureth-9、laureth-8、ラウリン酸、ビタミンE TPGS、Gelucire 50/13、Gelucire 53/10、Labrafil、ジパルミトイルホスファジチルコリン(dipalmitoyl phosphadityl choline)、グリコール酸及び塩、デオキシコール酸及び塩、フシジン酸ナトリウム、シクロデキストリン、ポリエチレングリコール、ラブラソール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ならびにチロキサポール、セルロース誘導体、ならびにポリエトキシル化ヒマシ油誘導体が挙げられる。本発明のプロセスを使用して、有効成分の形態を変更し、高度に多孔質な粒子及び吸入性凝集体をもたらすことができる。
【0091】
吸入器及び噴霧器
ボリコナゾール吸入粉末の肺への送達は、噴霧器、乾燥粉末吸入器または定量吸入器を含む任意の好適な送達手段を通して達成することができる。肺送達の当業者は、そのようなデバイスを操作する詳細を理解するであろう。そのようなデバイスの操作についてのより多くの情報はまた、例えば、“The Mechanics of Inhaled Pharmaceutical Aerosols:An Introduction”,by W.H.Finlay,Academic Press,2001、及び“Inhalation Aerosols” edited by A.J.Hickey,Marcel Dekker,New York,1996に見出すことができ、これらの両方が参照により本明細書に組み込まれる。
【0092】
特定の実施形態では、Plastiape Monodose RS00高抵抗デバイスは、Plastiape RS01高抵抗及び中抵抗デバイス、ならびにRS00高抵抗デバイスを含むボリコナゾール吸入粉末とともに使用される。特定の実施形態では、RS00高抵抗デバイスは、デバイスを通る圧力降下の関数として一貫した性能を示した。他の実施形態では、カプセル系DPIデバイス(例えば、Plastiapeによって製造されたRS00 Model 8 Monodose[RS00-0601212V1-M.8])は、ボリコナゾール吸入粉末の投与に使用される。
【0093】
当業者であれば、DPI自体の性能が、薬物、カプセル及びDPIデバイス自体の特徴の組み合わせであることを認識するであろう。特定の実施形態では、DPIデバイスは、入ってくる空気を使用して、カプセル(例えば、硬い2ピースのサイズ3のカプセル)を効率的に空にし、一方、遠心分離スピン回転作用が粉末製剤のエアロゾル化を最大化する。デバイスは、小型、軽量であり、かつ高抵抗デバイスとして設計されている。
【0094】
製造プロセス開発
薄膜凍結(TFF)プロセスは、極低温で冷却された固体表面上で原薬及び賦形剤の溶液を急速に凍結することを伴う。このプロセスでは、多孔質ナノ構造凝集体粒子で構成される低密度の薬学的粉末を生成することが示されている。TFF処理粉末は、市販の乾燥粉末吸入器(例えば、Plastiape Monodose)でエアロゾル化したとき、非常に吸入性である。TFFプロセスは、低密度のナノ構造形態を有する粉末を達成するように設計される。ボリコナゾール吸入粉末の製造プロセスのフロー図を
図8に示す。
【0095】
ボリコナゾールは、例えば、以下の合成手順を使用して、市販の試薬及び出発物質を使用して作製することができる。
【化1】
【0096】
ボリコナゾールは2つのキラル中心を有し、したがって、可能な4つの立体異性体(すなわち、ボリコナゾール(I)、そのエナンチオマー(II)、ならびに2つのジアステレオマーIII及びIV(ラセミ混合物#2S、3S/2R、3R)がある。これらの化学構造を以下に示す。
【化2】
【0097】
(2R,3S)-2-(2,4-ジフルロ-フェニル)-3-(5-フルオロ-4-ピリミジニル)-1(1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)2-ブタノールを形成するための高収率ジアステレオ選択的プロセスを開発した。エナンチオマー(II)は、HPLCによってNMT0.13%の限界を有する完成製品仕様において制御される。ジアステレオマー(III)及び(IV)は、HPLCによる関連物質のNMT0.5%を有するジアステレオマー不純物(すなわち、ラセミ混合物2S、3S/2R、3R)として、VOC1(上記)中間仕様において制御される。ボリコナゾールが一貫して(2R,3S)異性体であり、残りの立体異性体エナンチオマー(II)及びジアステレオマー(III及びIV)が原薬中で制御されることを決定した。
【0098】
溶液濃度、凍結温度及び凍結乾燥サイクル(棚温度及び保持時間/昇温速度を含む)を、重要なプロセスパラメータを識別するために体系的に変動させる。ボリコナゾールをアセトニトリル中に溶解し、マンニトールを連続撹拌によって水に溶解した。有機相及び水相を連続撹拌と組み合わせて、共溶媒混合物を形成した。最終溶液(総体積2.0~3.7L)は、10~30mg/mLの総固形物を含有するアセトニトリル:水50:50(v:v)からなっていた。要約を表8に示す。
【表8】
【0099】
次いで、溶液を、回転する(例えば、20rpm)極低温鋼表面(液体窒素で約-150℃まで予冷した)上に8チャネルポンプヘッドを介して約10cmの高さから滴加することによって凍結し、薄膜を生成した。凍結したフィルムをスクレーパーによって鋼表面から取り外し、予め冷却されたステンレス鋼トレイに収集した。
【0100】
トレイを充填するために十分な凍結材料(0.7~1.2L)を収集すると、トレイを、約-55℃に予め冷却された棚温度を有する3つの棚凍結乾燥機に迅速に移した。3つのトレイ全てに凍結材料(総量2~3.7L)を充填し、凍結乾燥機に入れたときに、凍結乾燥サイクルを開始した。溶媒を、約100mTorrの最終チャンバ圧力でおおよそ60~65時間にわたって昇華させ、一方、棚温度を約-40℃から約+25℃まで徐々に昇温させた。
【0101】
周囲空気を凍結乾燥チャンバに送給して、大気圧に平衡化した後、乾燥粉末を凍結乾燥機から取り出し、次いで、バッグの間に乾燥剤を入れた状態で結束バンドで結んだ二重LDPEバッグ内に室温で保管した。
【0102】
ボリコナゾール吸入粉末をカプセル(例えば、サイズ3のHPMCカプセル)に充填し、Plastiape RS01低抵抗乾燥粉末吸入器を使用してエアロゾル化し、次世代インパクター(NGI)を使用して空気力学的性能を試験した。
【実施例】
【0103】
実施例1
対象の継続的なモニタリングを確実にするための、居住式クリニック環境で健常な成人に高抵抗吸入器デバイスであるPlastiape Monodose RS00を使用して経口吸入投与した後のボリコナゾール吸入粉末の薬物動態分析。
【0104】
第1のパートは、4つの段階的に増加させた用量コホートにおけるSAD処方(パート1)で構成され、各用量レベルで医療モニター及び独立したデータ安全性モニタリング委員会(DSMB)によって見積もられる、これらの対象における安全性及び忍容性の実証に続いて、研究のパート2は、4つの段階的に増加させた用量コホートにわたるMAD処方(13回の用量をBIDで7日間にわたって送達した)として始めた。パート1(SAD)における全てのコホートを順次完了し、パート2(MAD)投薬を、SADパートにおける毎日の総投与用量の安全性の確立に続いて始めた(すなわち、MADパートにおける10mg/kg BIDの投薬は、SADパートにおける20mg/kg/日が安全であることが示されたときに始めた)。
【0105】
投薬を段階的に増加させるか、試験を停止するか、または対象の安全性を強化するための追加の措置を講じるようにスポンサーに勧告するために、独立した医学的に認定されたDSMBが研究を監督し、非盲検安全性データの再考察を担当した。
【0106】
適格な健常ボランティアは、7日間BID摂取したボリコナゾール吸入粉末の単回漸増用量(SAD-パートA)及び複数回漸増用量(MAD-パートB)を服用した。この研究の目的は、プラセボに対するボリコナゾール吸入粉末の段階的に増加させた単回用量の安全性及びPKプロファイルを評価することであった。身体検査、臨床試験、視覚検査及びECG測定を含む安全性は、SADパート及びMADパートの両方で投薬の過程全体を通して実施した。
【0107】
合計33名の研究対象がパートA(SAD)に参加した。8名の研究対象(6名の活性薬物、2名のプラセボ)の4つのコホートを、10から80mgまで段階的に増加させた用量で試験した。安全性評価に加えて、各用量レベルでの24時間にわたるPK評価のために試料を収集した。32名の対象がパートB(MAD)に参加し、同じ用量レベルの複数回用量で投与された。対象は、合計13回の用量を服用し、BIDで投与された(12時間毎)。SAD用量レベル2からの安全性結果が再考察され、進行が主任研究員及びTFF医療モニターによって認可された後に、研究のMAD部分を開始した。薬物動態試料を、最初及び最後の用量投与後に集中的に収集した。
【0108】
全ての研究対象において、ボリコナゾール血漿濃度を各用量投与後に測定した。
図9は、用量レベルの各々についての平均濃度±標準偏差(SD)を示し、各用量レベルからのPKパラメータを表9に示す。
【表9】
【0109】
これらのデータは、ボリコナゾールの肺送達が非常に急速な吸収をもたらし、全ての用量レベルについて吸入直後に最大濃度(Cmax)を生じることを示す。血漿濃度は、IV及び経口投与と比較して相対的に低く、与えられた低用量の因子の可能性が高い。ボリコナゾール濃度は、ボリコナゾール関連AEに関連する濃度をはるかに下回る。
【0110】
ボリコナゾールは主にCYP2C19によって代謝され、ボリコナゾールの体内動態はこの酵素の遺伝子発現によって影響を受けることが知られている。対立遺伝子プロファイリングは、全ての研究対象においてCYP2C19について実行し、特定された1名の代謝不良者を80mg群に登録した。表10及び
図10は、代謝不良者を除いたこれらの投与からの体内動態の要約を提供する。
【表10】
【0111】
ボリコナゾールは、非線形PKを示すことも知られている。非線形性は、用量関連及び時間関連の両方であるようにみえる。しかしながら、利用可能な文献は、非線形性に関連する用量を決定するために、この研究で投与される用量ほど低い用量でPKを提供していない。代謝正常者のみからのPK結果の再考察は、40mg用量を通して線形性が持続することを示唆し、40mgを上回ると非線形性を示す。
【0112】
集中的な試料収集を、ボリコナゾールのBID(12時間毎)投与からの最初及び最後の用量の後に実行した。用量1及び用量13の両方からの平均(±SD)測定値を
図11に提供する。
【0113】
20mgコホートにおける2名の対象については、1名は同意の撤回によるものであり、もう1名はAEによるものであった。合計で、活性薬物に対してランダム化された6名の対象のうちの4名が、20mg BID群において本明細書で要約されたPK結果を提供した。
【0114】
最初及び最後の用量(それぞれ用量1及び13)から推定されるPKパラメータの要約を表11に提供する。半減期は、10、20及び40mgのコホートについては非常に短く、蓄積が存在しないことを示唆していた。Cmax及び0から12時間までの濃度-時間曲線下面積(AUC(0-12))値は、その前提を支持する。SADからわかるように、ボリコナゾール体内動態は、40mgを含む40mgまでが線形に見える;用量1及び用量13のPKの要約は、それに合致する。
【0115】
40mg(例えば、80mg)を上回る投薬は、非線形性の導入を示唆する。用量1におけるPK曝露は、他の用量と比較したとき、比例増加よりも低いことを示す。しかしながら、継続的な投薬は、ボリコナゾールの半減期の延長、及び用量13の後の他の用量と比べた全体的な曝露の比例増加を超えることを示す。この観察は、経口及びIV投与後のボリコナゾールPKについて知られているものと一致する。
【表11】
【0116】
研究のこの部分に登録された2名の対象を、代謝不良者として特定した。両方の対象は、20mg BIDコホートのパートであった。
図12は、代謝正常者のみについての平均濃度を示す。20mg BID群における2名の対象を、用量1から代謝正常者として特定し、3名の対象を、用量13から代謝正常者として特定した(代謝正常者対象のうちの1名は、用量1からの定量可能な限界を下回る全てのボリコナゾール濃度を有していた)。
【表12】
【0117】
実施例2
喘息を患う成人対象におけるボリコナゾール吸入粉末の安全性、忍容性及びPKを見積もるために実施した追加の研究が、本明細書に含まれる予備データを用いて進行中である。本研究は、40mgもしくは80mgのいずれかのボリコナゾール吸入粉末またはプラセボの7回の用量(3.5日にわたる)を服用する、各々3:1の比(6名が活性及び2名がプラセボ)でランダム化された8名の対象の2つのコホートを伴う。
【0118】
血漿PKを、用量1(1日目)及び用量7(4日目)の後の連続血液採取から見積もった。個々の対象のために試験治療停止規則が含まれていた。
【0119】
コホート1及び2の個体からの1日目及び4日目の平均品質管理濃度データ(40mg及び80mgのボリコナゾール吸入粉末)を、実施例1からの40mg及び80mgのコホートからの平均濃度時間と比較した。実施例1のMAD及びSADのコホートを、CYP2C19の代謝不良者及び代謝正常者を分離することなく組み合わせ、1日目との比較は、40mg及び80mgの単回用量投与からの反応性気道疾患を患う対象と健常な対象との間の、4~6時間を通したボリコナゾールの全身曝露の類似したピークレベル及びクリアランスを示す(
図13)。6時間及びその後に観察した平均濃度の差は、4つのコホート集団間のCYP2C19遺伝の差に関係し得る。40mgのTFF-V1-002コホートについての6時間時点は、LLOQを上回る単一の対象であり、一方、他の5名はBLQであり、平均の生成のために0の値を割り当てたことに留意されたい。
【0120】
両方の研究からの40mg及び80mgのコホートの両方についてのボリコナゾール平均全身曝露をプロットした。ボリコナゾール吸入粉末をBIDで3.5日間(7回投与)の実施例1で投与し、実施例2ではBIDで6.5日間(13回投与)投与した。両方の用量レベルでの反復投与した後の平均全身曝露は類似していた。実施例2における80mgコホート平均は、354ng/mLで281ng/mLと比較してわずかに高かったが、標準偏差(提示せず)は明らかに重なり合っており、統計的差は示唆されなかった(
図14)。4つのコホートのうちの3つについての片対数プロット(40mgの実施例2を除く)は、反応性気道疾患を患う対象と健常な対象との間で反復投与した後の、40mgまたは80mgのいずれかの用量についての全身循環へのボリコナゾールの類似した吸収率及びクリアランス率を示唆している。実施例2の、4日目の40mgコホート終末相クリアランスで観察した差は、CYP遺伝に関係し得る。
【0121】
比較例1
本明細書に提示されるボリコナゾールのPKは、全身投与されたボリコナゾール(例えば、経口またはIV)を表す。ボリコナゾールPKは、健常な対象、特別な集団及び患者において特性決定されている。ボリコナゾールは、代謝の飽和に起因する用量依存性の非線形挙動を示す。用量の増加に伴う曝露の比例増加を超えている。複数回用量投与での蓄積結果。IV投与及び経口投与の両方からの単回及び複数回用量投与後の曝露の要約を表13に示す。
【表13】
【0122】
健常な対象(N=207)におけるプールデータの集団PK分析に基づいて、ボリコナゾールの経口バイオアベイラビリティを96%(変動係数、CV13%)と推定する。200mgの錠剤と40mg/mLの経口懸濁液との間の生物学的同等性を確立した。
【0123】
最大血漿濃度(Cmax)は、投薬の1~2時間後に達成される。複数回用量のボリコナゾールを高脂肪食とともに投与するとき、平均Cmax及びAUCτは、錠剤として投与するときにそれぞれ34%及び24%低減し、経口懸濁液として投与するときにそれぞれ58%及び37%低減する。
【0124】
健常な対象では、ボリコナゾールの吸収は、胃のpHを上昇させることが知られている経口ラニチジン、シメチジンまたはオメプラゾールの同時投与による影響を受けない。
【0125】
経口投与またはIV投与からの分布
ボリコナゾールの定常状態での分布体積は4.6L/kgと推定され、組織への広範な分布を示唆している。血漿タンパク質結合は、58%であると推定され、200mgまたは300mgの単回及び複数回の経口用量(おおよその範囲:0.9~15μg/mL)に続いて達成する血漿濃度とは無関係であることを示した。種々の程度の肝臓及び腎臓の機能障害は、ボリコナゾールのタンパク質結合には影響しない。
【0126】
治療の3日後(6mg/kg 12時間毎 IV×2用量、次いで4mg/kg IV 12時間毎)、血漿及び気管支肺胞洗浄(BAL)試料の両方においてボリコナゾール濃度を測定した。最終ボリコナゾール用量の4、8及び12時間後に、気道上皮被覆液(ELF)及び肺胞マクロファージ(AM)において測定を実施する。表14に示す結果は、血漿と比較したときにBAL及びAMにおいて実質的により高い濃度を示し、アスペルギルス属のMIC
90をはるかに上回っていることを示す。
【表14】
【0127】
別の研究では、肺移植患者における予防的なボリコナゾール用途の使用を再考察し、移植後2、4または8週間での適合する血漿及びELF濃度を決定した。患者は、6mg/kg IV 12時間毎×2用量、次いでおおよそ4ヶ月間の200mg経口BIDで服用した。合計12名の肺移植患者をこの見積りに含め、結果を表15に示す。全ての場合において、肺ELF中のボリコナゾール濃度は血漿中の濃度を超えており、11の平均(SD)ELF:血漿の比を有していた。
【表15】
【0128】
比較例2
1:噴霧したときのVFEND IV溶液の吸入から
ボリコナゾールは、血漿及びBALにおいて決定した濃度を用いた吸入(例えば、噴霧)によって投与している。小規模な研究では、ボリコナゾール40mgを2日間BIDで吸入し、1日目に経口ボリコナゾール400mgのBID、2日目に200mgのBIDと比較した。血液採取を1日目の投薬の15、30及び60分後に行い、BAL及び血液試料を最後の用量の12時間後に採取した。ボリコナゾールをこれらの採取からのELF及び血漿において測定した。ELF及び2日目の血漿における決定から決定した濃度を表16に示す。40mgの吸入からの濃度は、予想されるように、ELF及び血漿の両方においてはるかに低かった。しかしながら、ELF:血漿の比は経口経路(中央値比=8)と比較したときに吸入投与(中央値比=21)の方が高かった。経口投与後のELF:血漿の比は、表16に提示した結果と一致している。
【表16】
【0129】
代謝
インビトロ研究では、ボリコナゾールがヒト肝CP450酵素、CYP2C19、CYP2C9及びCYP3A4によって代謝されることが示された。インビボ研究では、CYP2C19がボリコナゾールの代謝に著しく関与していることが示されている。この酵素は、遺伝的多型を示し、代謝及びPKの変動を加えることができる。野生型CYP2C19*1の対立遺伝子多型(主に、CYP2C19*2、CYP2C19*3[不活性対立遺伝子]及びCYP2C19*17[超活性対立遺伝子])は、CYP2C19発現のために存在し、欧州人のおおよそ3~5%及びアジア人集団の15~20%が、CYP2C19機能を有しない代謝不良者である(CYP2C19 *2/*2、CYP2C19 *2/*3またはCYP2C19 *3/*3のディプロタイプ発現)。
【0130】
ボリコナゾールの主要な代謝物は、N-オキシドであり、これは血漿中の循環放射性標識代謝物の72%を占める。この代謝物は最小限の抗真菌活性を有するため、ボリコナゾールの全体的な効力には寄与しない。
【0131】
排泄
ボリコナゾールは、肝代謝を介して排除され、排泄される用量の2%未満は尿中で変化しない。経口またはIVボリコナゾールのいずれかの単回放射性標識用量の投与後、複数回の経口またはIV投薬に先立って、放射能のおおよそ80%~83%が尿中で回収される。総放射能の大部分(>94%)は、経口投薬及びIV投薬の両方の後、最初の96時間で排泄される。
【0132】
非線形PKの結果として、ボリコナゾールの終末相半減期は、用量依存性であり、したがって、ボリコナゾールの蓄積または排除を予測するのには有用ではない。
【0133】
薬物相互作用:ボリコナゾール薬物動態に対する他の薬物の影響
ボリコナゾールは、ヒト肝シトクロムP450酵素CYP2C19、CYP2C9及びCYP3A4によって代謝される。インビトロ代謝研究の結果は、ボリコナゾールの親和性がCYP2C19について最も高く、続いてCYP2C9であり、CYP3A4についてはかなり低いことを示している。これら3つの酵素の阻害剤または誘導剤は、それぞれ、ボリコナゾール全身曝露(血漿濃度)を増加または減少させ得る。
【0134】
リファンピン、リトナビル、セントジョーンズワート、カルバマゼピンまたは長時間作用性バルビツレートと同時投与したとき、ボリコナゾール濃度の著しい低減が予想され得る。これらの薬物は全て、ボリコナゾールとは禁忌であるとみなされる。
【0135】
薬物相互作用:他の薬物の薬物動態に対するボリコナゾールの影響
アゾール抗真菌化合物であるボリコナゾールは、強力なCYP3A阻害剤であることが知られている薬物の群に属する。ボリコナゾールも例外ではない。インビトロ研究は、ボリコナゾールがCYP2C19、CYP2C9及びCYP3A4の代謝活性を阻害することを示している。インビトロ研究はまた、ボリコナゾールの主要な代謝物であるボリコナゾールN-オキシドがCYP2C9及びCYP3A4の代謝活性を阻害することを示している。したがって、ボリコナゾールは、他の薬物との著しい相互作用を有する潜在性を有する。
【0136】
ボリコナゾールは、シロリムス、テルフェニジン(terfenidine)、アテミゾール(atemizole)、シサプリド、ピモジド、キニジン、エベロリムス及び麦角アルカロイドの濃度を潜在的に危険な値まで増加させる場合があるため、以下のCYP3A4基質とは禁忌である。
【0137】
ボリコナゾールは、以下の薬物の曝露を増加させることが予想され、下方への用量調整が必要であり得る:アルフェンタニル、フェンタニル、オキシコドン、メタドン、シクロスポリン、タクロリムス、ワルファリン/クマリン、スタチン薬、ベンゾジアゼピン、カルシウムチャネル遮断薬(ニフェンジピン(nifendipine)、フェロジピン、ニカルジピンなど)、スルホニル尿素(トルブタミド、グリピジド、グリブリドなど)、ビンカアルカロイド、オメプラゾール及びいくつかの非ステロイド性抗炎症薬(NSAID、イブプロフェン、ジクロフェナク)。
【0138】
双方向の相互作用
いくつかの相互作用は、ボリコナゾール及び別の同時投与薬物の両方に影響を及ぼし得る。
【0139】
ボリコナゾールは、互いに対する各薬物の影響に基づいて、リファブチン(CYP3A4誘導剤及び基質)及びエファビレンツ(CYP3A4阻害剤/誘導剤及び基質)とは禁忌である。
【0140】
CYP2C9基質及びCYP誘導剤であるフェニトインは、フェニトイン及びボリコナゾールの両方の頻繁なモニタリングを必要とする。フェニトインの通常よりも低い用量及びボリコナゾールの通常よりも高い用量が必要な場合がある。経口避妊薬及びボリコナゾールを一緒に与えると、各々がもう一方の濃度を増加させる場合がある。経口避妊薬またはボリコナゾールのいずれかに関係するAEについてのモニタリングが推奨される。
【0141】
ヒトにおける薬力学
ボリコナゾールを用いたプライマリーPDエンドポイントは、感染症の治癒である。ボリコナゾールの使用はまた、肝毒性及び神経毒性を含むいくつかの安全性因子に関係し得る。
【0142】
VFEND製品情報には、10件の臨床試験のうちの6件(N=280)からの患者データのPK/PD分析が平均、最大または最小の血漿ボリコナゾール濃度と効力との間の正の関連を検出することができなかったと記述されている。しかしながら、全10件の臨床試験(N=1121)からのデータのPK/PD分析は、血漿ボリコナゾール濃度と、肝機能検査異常及び視覚障害の両方の割合との間の正の関連を特定した。
【0143】
ボリコナゾール濃度の抗真菌効力及び毒性に対する関係
メタ分析を、IVまたは経口療法のいずれかで治療された1158名の患者を伴う21件の研究にわたって実施した。トラフ血漿ボリコナゾール濃度をこれらの患者において決定し、抗真菌効力及び毒性について評価した。この分析は、トラフ濃度>0.5μg/mLが著しく高い抗真菌効力をもたらすことを見出したが、>1.0μg/mLであることを示唆した結果の再考察がより良い指標であり得る。肝毒性のリスクの増加は、トラフボリコナゾール濃度>3.0μg/mLによって見出され、濃度>4.0μg/mLは、神経毒性のリスクの増加と関連していた。他の刊行物は、より高い成功率を確実にするために1.0~2.0μg/mLの血漿濃度が必要であることを示唆しているが、これらの研究はより少数の患者に基づいていた。治療薬物のモニタリングは、全身ボリコナゾールを使用した標準治療であり、吸入ボリコナゾールの第2相及び第3相試験が計画されるであろう。
【0144】
実施例3薬物動態的/薬力学的な要約
ボリコナゾール吸入粉末のPKは、実施例1で考察した完了した第1相試験から要約されている。経口及びIVボリコナゾールPKは、様々な文献ソース及びVFEND処方情報から要約されている。経口経路及びIV経路による薬物投与では毎日2回の投薬が適切であり、これは吸入経路でも期待される。
【0145】
IVまたは経口投与後に測定された肺ELFボリコナゾール濃度は、同時に収集した血漿濃度よりも8~11倍(平均で)高い。吸入のために噴霧されたボリコナゾールで実施した小規模な研究では、IV投与または経口投与よりも低い用量で効力が示されている。噴霧されたボリコナゾールは、IVまたは経口ボリコナゾールと比較したとき、より高いELF:血漿の比を提供し、肺真菌感染症に対する標的送達による低用量の可能性を示唆する。これらの低用量は、ボリコナゾールに対してより高い安全性を提供することができ、潜在的に、肝臓及び神経毒性に関連する血漿ボリコナゾール濃度を達成する機会を低減する。
【0146】
治療薬物モニタリングは、ボリコナゾールに関係するAEの発生率を低減することができる。CYP2C19遺伝子スクリーニングはまた、最適な抗真菌療法を強化することができる。
【0147】
特許、特許出願、論文、テキスト本などを含む、本明細書に引用される全ての参考文献、及び本明細書に引用される参考文献は、それらがまだ引用されていない限り、それら全体が参照により本明細書に組み込まれる。比較例1及び2を、公的に入手可能な情報に基づいてまとめた。
【0148】
前述の記述は、当業者が本発明を実施することを可能にするのに十分であるとみなされる。前述の記載及び実施例は、本発明の特定の好ましい実施形態を詳述し、発明者によって企図される最良のモードについて記載する。しかしながら、前述したものがテキストでどれほど詳細に示されても、本発明は多くの方法で実践することができ、本発明は添付の特許請求の範囲及びその任意の等価物に従って解釈されるべきであることと理解されよう。
【国際調査報告】