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特表2025-500839正極材料組成物、その製造方法及びそれを含む正極シート、二次電池及び電力消費装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-15
(54)【発明の名称】正極材料組成物、その製造方法及びそれを含む正極シート、二次電池及び電力消費装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/136 20100101AFI20250107BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20250107BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250107BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20250107BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20250107BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20250107BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20250107BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
H01M4/136
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M4/58
H01M4/1397
C01B25/45 H
C01B25/45 M
C01B25/45 Z
C08L83/04
C08K3/22
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535302
(86)(22)【出願日】2022-06-24
(85)【翻訳文提出日】2024-06-12
(86)【国際出願番号】 CN2022101330
(87)【国際公開番号】W WO2023245682
(87)【国際公開日】2023-12-28
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524304976
【氏名又は名称】香港時代新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】CONTEMPORARY AMPEREX TECHNOLOGY (HONG KONG) LIMITED
【住所又は居所原語表記】LEVEL 19, CHINA BUILDING, 29 QUEEN’S ROAD CENTRAL, CENTRAL, CENTRAL AND WESTERN DISTRICT, HONG KONG, CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】馬晴岩
(72)【発明者】
【氏名】趙玉珍
(72)【発明者】
【氏名】官英傑
(72)【発明者】
【氏名】温厳
(72)【発明者】
【氏名】黄起森
【テーマコード(参考)】
4J002
5H050
【Fターム(参考)】
4J002CP061
4J002CP081
4J002CP091
4J002CP171
4J002CP181
4J002DE096
4J002FD206
4J002GQ02
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA02
5H050EA08
5H050EA11
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA08
5H050HA09
5H050HA13
5H050HA14
5H050HA17
5H050HA20
(57)【要約】
本出願は、正極材料組成物、その製造方法及びそれを含む正極シート、二次電池及び電力消費装置を提供する。正極材料組成物は、コア-シェル構造を有する正極活物質及びオルガノポリシロキサン化合物を含み、ここで、正極活物質は、コアとコアを被覆するシェルとを含み、コアはLi1+xMn1-y1-zを含み、シェルは、コアを被覆する第1の被覆層と、第1の被覆層を被覆する第2の被覆層とを含む。本出願の正極材料組成物は、二次電池に高いエネルギー密度を有させるとともに、改善したサイクル性能、安全性能、及び/又はレート性能を兼ね備えさせることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア-シェル構造を有する正極活物質及びオルガノポリシロキサン化合物を含む正極材料組成物であって、
前記正極活物質は、コアと、前記コアを被覆するシェルとを含み、
前記コアは、Li1+xMn1-y1-zを含み、xは-0.100~0.100であり、選択可能的に、-0.100~0.006であり、yは0.001~0.500であり、選択可能的に、0.100~0.450であり、zは0.001~0.100であり、前記Aは、Zn、Al、Na、K、Mg、Mo、W、Ti、V、Zr、Fe、Ni、Co、Ga、Sn、Sb、Nb及びGeから選択される1種類又は複数種類であり、選択可能的に、Fe、Ti、V、Ni、Co及びMgのうちの1種類又は複数種類であり、前記Rは、B、Si、N及びSから選択される1種類又は複数種類であり、
前記シェルは、前記コアを被覆する第1の被覆層及び前記第1の被覆層を被覆する第2の被覆層を含み、前記第1の被覆層は、ピロリン酸塩MP及びリン酸塩XPOを含み、前記M及びXは、それぞれ独立にLi、Fe、Ni、Mg、Co、Cu、Zn、Ti、Ag、Zr、Nb及びAlから選択される1種類又は複数種類であり、前記第2の被覆層は、炭素を含む、
正極材料組成物。
【請求項2】
前記オルガノポリシロキサン化合物は、少なくとも1つの式1で示される構造単位を含み、
【数1】
、Rは、それぞれ独立に、-COOH、-OH、-SH、-CN、-SCN、アミノ基、リン酸エステル基、カルボン酸エステル基、アミド基、アルデヒド基、スルホニル基、ポリエーテルセグメント、C1~C20脂肪族炭化水素基、C1~C20ハロゲン化脂肪族炭化水素基、C1~C20ヘテロ脂肪族炭化水素基、C1~C20ハロゲン化ヘテロ脂肪族炭化水素基、C6~C20芳香族炭化水素基、C6~C20ハロゲン化芳香族炭化水素基、C2~C20ヘテロ芳香族炭化水素基、及びC2~C20ハロゲン化ヘテロ芳香族炭化水素基の官能基からなる群、又はHのうち少なくとも1種類を表し、
選択可能的に、R、Rは、それぞれ独立に、-COOH、-OH、-SH、アミノ基、リン酸エステル基、ポリエーテルセグメント、C1~C8アルキル基、C1~C8ハロゲン化アルキル基、C1~C8ヘテロアルキル基、C1~C8ハロゲン化ヘテロアルキル基、C2~C8アルケニル基、C2~C8ハロゲン化アルケニル基、及びフェニル基の官能基からなる群、又はHのうち少なくとも1種類を表し、
より選択可能的に、R、Rは、それぞれ独立に、-OH、-SH、アミノ基、リン酸エステル基、ポリエーテルセグメント、C1~C8アルキル基、C1~C8ハロゲン化アルキル基、C1~C8ヘテロアルキル基、C1~C8ハロゲン化ヘテロアルキル基、C2~C8アルケニル基、及びC2~C8ハロゲン化アルケニル基の官能基からなる群、又はHのうち少なくとも1種類を表す、
請求項1に記載の正極材料組成物。
【請求項3】
前記オルガノポリシロキサン化合物は、線状構造のポリシロキサン及び環状構造のポリシロキサンから選択される1種類又は複数種類を含み、選択可能的に、前記オルガノポリシロキサン化合物は線状構造のポリシロキサンから選択される、
請求項1又は2に記載の正極材料組成物。
【請求項4】
前記線状構造のポリシロキサンは、ブロッキング基をさらに含み、選択可能的に、前記ブロッキング基は、ポリエーテル、C1~C8アルキル基、C1~C8ハロゲン化アルキル基、C1~C8ヘテロアルキル基、C1~C8ハロゲン化ヘテロアルキル基、C2~C8アルケニル基、C2~C8ハロゲン化アルケニル基、C6~C20芳香族炭化水素基、C1~C8アルコキシ基、C2~C8エポキシ基、ヒドロキシル基、C1~C8ヒドロキシアルキル基、アミノ基、C1~C8アミノアルキル基、カルボキシル基、及びC1~C8カルボキシアルキル基からなる群のうち少なくとも1種類を含む、
請求項3に記載の正極材料組成物。
【請求項5】
前記線状構造のポリシロキサンは、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリメチルエチルシロキサン、ポリメチルビニルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、カルボキシル官能化ポリシロキサン、ポリメチルクロロプロピルシロキサン、ポリメチルトリフルオロプロピルシロキサン、パーフルオロオクチルメチルポリシロキサン、メルカプトプロピルポリシロキサン、アミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサン、メトキシ末端ポリジメチルシロキサン、ヒドロキシプロピル末端ポリジメチルシロキサン、アミノプロピル末端ポリジメチルシロキサン、末端エポキシポリシロキサン、末端ヒドロキシポリジメチルシロキサン、末端ポリエーテルポリジメチルシロキサン、側鎖アミノプロピルポリシロキサン、側鎖ヒドロキシルメチルポリシロキサン、側鎖ヒドロキシルプロピルポリシロキサン、側鎖ポリエーテルグラフトポリジメチルシロキサン、及び側鎖リン酸エステルグラフトポリジメチルシロキサンのうちの1種類又は複数種類を含み、選択可能的に、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルクロロプロピルシロキサン、ポリメチルトリフルオロプロピルシロキサン、メルカプトプロピルポリシロキサン、アミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサン、末端ヒドロキシジメチルシロキサン、末端ポリエーテルポリジメチルシロキサン、及び側鎖リン酸エステルグラフトポリジメチルシロキサンのうちの1種類又は複数種類を含み、及び/又は、
前記環状構造のポリシロキサンは、環状ポリジメチルシロキサン、環状ポリメチルビニルシロキサン、環状ポリメチルハイドロジェンシロキサン、及び環状ポリメチルトリフルオロプロピルシロキサンのうちの1種類又は複数種類を含み、選択可能的に、1,3,5,7-オクタメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラヒドロ-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、シクロペンタポリジメチルシロキサン、2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン、ヘキサデカメチルオクタシロキサン、及びテトラデカメチルシクロヘプタシロキサンのうちの1種類又は複数種類を含む、
請求項3又は4に記載の正極材料組成物。
【請求項6】
前記オルガノポリシロキサン化合物の数平均分子量が300000以下であり、選択可能的に400~80000である、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の正極材料組成物。
【請求項7】
前記オルガノポリシロキサン化合物における極性官能基の質量百分率はαであり、0≦α<50%であり、選択可能的に5%≦α≦30%である、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の正極材料組成物。
【請求項8】
前記オルガノポリシロキサン化合物の含有量は、0.01重量%~2重量%であり、選択可能的に0.1重量%~2重量%であり、前記正極材料組成物の総重量に基づいて計算される、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の正極材料組成物。
【請求項9】
前記第1の被覆層の被覆量は、0重量%を超え且つ7重量%以下であり、選択可能的に4重量%~5.6重量%であり、前記コアの重量に基づいて計算される、及び/又は、
前記第2の被覆層の被覆量は、0重量%を超え且つ6重量%以下であり、選択可能的に3重量%~5重量%であり、前記コアの重量に基づいて計算される、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の正極材料組成物。
【請求項10】
前記第1の被覆層のリン酸塩は、格子面間隔が0.345nm~0.358nmであり、結晶方位(111)の夾角が24.25°~26.45°であり、及び/又は、
前記第1の被覆層のピロリン酸塩は、格子面間隔が0.293nm~0.326nmであり、結晶方位(111)の夾角が26.41°~32.57°である、
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の正極材料組成物。
【請求項11】
前記コアにおいて、1-yに対するyの比は、1:10~10:1であり、選択可能的に1:4~1:1であり、及び/又は、
前記コアにおいて、1-zに対するzの比は、1:9~1:999であり、選択可能的に1:499~1:249である、
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の正極材料組成物。
【請求項12】
前記第1の被覆層におけるピロリン酸塩とリン酸塩との重量比は1:3~3:1であり、選択可能的に1:3~1:1であり、及び/又は、
前記第1の被覆層におけるピロリン酸塩及びリン酸塩の結晶化度はそれぞれ独立に10%~100%であり、選択可能的に50%~100%である、
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の正極材料組成物。
【請求項13】
前記Aは、Fe、Ti、V、Ni、Co及びMgから選択される少なくとも2種類である、
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の正極材料組成物。
【請求項14】
前記正極活物質は、以下の条件(1)~(4)のうちの少なくとも1つを満たし、
(1)前記正極活物質のLi/Mn反構造欠陥濃度が4%以下であり、選択可能的に2%以下である、
(2)前記正極活物質の格子変化率が8%以下であり、選択可能的に4%以下である、
(3)前記正極活物質の表面酸素の価数は-1.88以下であり、選択可能的に-1.98~-1.88である、
(4)前記正極活物質の3トン当たりの圧密度は、2.0g/cm以上であり、選択可能的に2.2g/cm以上である、
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の正極材料組成物。
【請求項15】
導電剤及び粘着剤をさらに含み、選択可能的に、前記粘着剤の含有量は、1.79重量%~10重量%であり、前記正極材料組成物の総重量に基づいて計算するものであり、選択可能的に、前記導電剤の含有量は、0.2重量%~10重量%であり、前記正極材料組成物の総重量に基づいて計算される、
請求項1乃至14のいずれか一項に記載の正極材料組成物。
【請求項16】
前記正極材料組成物の12MPaにおける粉末抵抗率は4Ω/cm~55Ω/cmであり、選択可能的に4Ω/cm~40Ω/cmであり、及び/又は、
前記正極材料組成物の比表面積は8m/g~20m/gであり、選択可能的に8m/g~15m/gである、
請求項1乃至15のいずれか一項に記載の正極材料組成物。
【請求項17】
正極材料組成物の製造方法であって、
コア材料を提供する工程であって、前記コアは、Li1+xMn1-y1-zを含み、ここで、xは-0.100~0.100であり、選択可能的に-0.100~0.006であり、yは0.001~0.500であり、選択可能的に0.100~0.450であり、zは0.001~0.100であり、前記Aは、Zn、Al、Na、K、Mg、Mo、W、Ti、V、Zr、Fe、Ni、Co、Ga、Sn、Sb、Nb及びGeから選択される1種類又は複数種類であり、選択可能的にFe、Ti、V、Ni、Co及びMgのうちの1種類又は複数種類であり、前記Rは、B、Si、N及びSから選択される1種類又は複数種類である、コア材料を提供する工程と、
被覆工程であって、MP粉末と、炭素源を含むXPO懸濁液を提供し、前記コア材料及びMP粉末を、炭素源を含むXPO懸濁液に加えて混合し、焼結して正極活物質を得、ここで、前記MとXは、それぞれ独立に、Li、Fe、Ni、Mg、Co、Cu、Zn、Ti、Ag、Zr、Nb及びAlから選択される1種類又は複数種類であり、得られた正極活物質は、前記コアと、前記コアを被覆するシェルとを含むコア-シェル構造を有し、前記シェルは、前記コアを被覆する第1の被覆層と、前記第1の被覆層を被覆する第2の被覆層とを含み、前記第1の被覆層は、ピロリン酸塩MP及びリン酸塩XPOを含み、前記第2の被覆層は炭素を含む被覆工程と、
混合工程であって、得られた正極活物質をオルガノポリシロキサン化合物、選択可能な粘着剤及び選択可能な導電剤と均一に混合して正極材料組成物を得る混合工程と、を含む、
正極材料組成物の製造方法。
【請求項18】
前記コア材料を提供する工程は、
マンガン源、元素A源及び酸を容器に混合して撹拌し、元素Aがドープされたマンガン塩粒子を得る工程(1)と、
前記元素Aがドープされたマンガン塩粒子をリチウム源、リン源及び元素R源と溶媒中で混合してスラリーを得て、不活性ガス雰囲気の保護下で焼結した後、元素A及び元素Rがドープされたリン酸マンガンリチウムを得、ここで、前記元素A及び元素Rがドープされたリン酸マンガンリチウムは、Li1+xMn1-y1-zであり、xは-0.100~0.100であり、選択可能的に-0.100~0.006であり、yは0.001~0.500であり、選択可能的に0.100~0.450であり、zは0.001~0.100であり、前記Aは、Zn、Al、Na、K、Mg、Mo、W、Ti、V、Zr、Fe、Ni、Co、Ga、Sn、Sb、Nb及びGeから選択される1種類又は複数種類であり、選択可能的にFe、Ti、V、Ni、Co及びMgのうちの1種類又は複数種類であり、前記Rは、B、Si、N及びSから選択される1種類又は複数種類である工程(2)と、を含む、
請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記工程(1)は、20℃~120℃、選択可能的に25℃~80℃の温度で行い、及び/又は、
前記工程(1)における前記撹拌は、500rpm~700rpmで60分間~420分間、選択可能的に120分間~360分間行われる、
請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記元素A源は、元素Aの単体、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、有機酸塩、酸化物又は水酸化物から選択される1種類又は複数種類であり、及び/又は、前記元素R源が元素Rの単体、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、有機酸塩、酸化物又は水酸化物及び元素Rの無機酸から選択される1種類又は複数種類である、
請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
前記MP粉末は、元素M源及びリン源を溶媒に添加し、混合物を得て、混合物のpHを4~6に調整し、撹拌して十分に反応させた後、乾燥、焼結することにより得られるという方法によって製造され、ここで、Mは、Li、Fe、Ni、Mg、Co、Cu、Zn、Ti、Ag、Zr、Nb及びAlから選択される1種類又は複数種類である、
請求項17乃至20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記乾燥工程は100℃~300℃、選択可能的に150℃~200℃で4時間~8時間乾燥し、及び/又は、
前記焼結工程は500℃~800℃、選択可能的に650℃~800℃で、不活性ガス雰囲気下で4時間~10時間焼結し、及び/又は、
前記被覆工程で正極活物質を得る時の焼結温度が500℃~800℃であり、焼結時間が4時間~10時間である、
請求項21に記載の方法。
【請求項23】
正極シートであって、
正極集電体と、正極集電体の少なくとも一方の表面に設けられた正極膜層とを含み、前記正極膜層が、請求項1乃至16のいずれか一項に記載の正極材料組成物又は請求項17乃至22のいずれか一項に記載の方法により製造された正極材料組成物を含み、前記正極材料組成物の前記正極膜層における含有量は、50重量%以上であり、選択可能的に90重量%~100重量%であり、前記正極膜層の総重量に基づいて計算するものである、
正極シート。
【請求項24】
前記正極シートは、以下の条件(1)~(6)のうちの少なくとも1つを満たし、
(1)前記正極膜層と非水有機溶媒との間の固液接触角は、3°~90°であり、選択可能的に3°~60°、さらに10°~30°である、
(2)前記正極膜層の空隙率は15%~50%であり、選択可能的に15%~30%である、
(3)前記正極膜層の抵抗は、0を超え且つ6Ω以下である、
(4)前記正極膜層と前記正極集電体との粘着力は0.5MPa以上である
(5)前記正極膜層の面密度は、0.006g/cm~0.065g/cmである、
(6)前記正極膜層の電解液に対する吸液速度は0.0125μg/s~100μg/sであり、選択可能的に0.5μg/s~40μg/sである、
請求項23に記載の正極シート。
【請求項25】
請求項1乃至16のいずれか1項に記載の正極材料組成物、又は請求項17乃至22のいずれか一項に記載の方法により製造された正極材料組成物、又は請求項23又は24に記載の正極シートを含む、
二次電池。
【請求項26】
請求項25に記載の二次電池を含む、
電力消費装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、電池の技術分野に属し、具体的には、正極材料組成物、その製造方法及びそれを含む正極シート、二次電池及び電力消費装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池は、水力、火力、風力及び太陽光発電所などのエネルギー貯蔵電源システムや、電動工具、電動自転車、電動バイク、電気自動車、軍事設備、航空宇宙などの多くの分野に広く用いられている。二次電池の応用及び普及に伴い、その安全性能がますます注目されている。リン酸マンガンリチウムは、容量が大きく、安全性能に優れ、原料供給源が豊富であるなどの利点を有するため、現在最も注目されている正極活物質の一つとなっているが、リン酸マンガンリチウムは、充電時にマンガンイオンの溶出が生じやすく、容量が急速に減衰してしまう。
【発明の概要】
【0003】
本出願は、正極材料組成物、その製造方法及びそれを含む正極シート、二次電池及び電力消費装置を提供することを目的とする。これにより、上記正極材料組成物を適用した二次電池は高いエネルギー密度を有するとともに、改善されたサイクル性能、安全性能、及び/又はレート性能を兼ね備えることができる。
【0004】
本出願の第1の態様は、コア-シェル構造を有する正極活物質及びオルガノポリシロキサン化合物を含む正極材料組成物であって、上記正極活物質は、コアと、上記コアを被覆するシェルとを含み、上記コアは、Li1+xMn1-y1-zを含み、xは-0.100~0.100であり、選択可能的には-0.100~0.006であり、yは0.001~0.500であり、選択可能的には0.100~0.450であり、zは0.001~0.100であり、上記Aは、Zn、Al、Na、K、Mg、Mo、W、Ti、V、Zr、Fe、Ni、Co、Ga、Sn、Sb、Nb及びGeから選択される1種又は複数種であり、選択可能的にはFe、Ti、V、Ni、Co及びMgのうちの1種又は複数種であり、上記Rは、B、Si、N及びSから選択される1種又は複数種であり、上記シェルは、上記コアを被覆する第1の被覆層及び上記第1の被覆層を被覆する第2の被覆層を含み、上記第1の被覆層は、ピロリン酸塩MP及びリン酸塩XPOを含み、上記M及びXは、それぞれ独立に、Li、Fe、Ni、Mg、Co、Cu、Zn、Ti、Ag、Zr、Nb及びAlから選択される1種又は複数種であり、上記第2の被覆層は、炭素を含む正極材料組成物を提供する。
【0005】
本出願は、リン酸マンガンリチウムに対して特定の元素ドープ及び表面被覆を行うことにより、リチウムの挿入・脱離過程におけるマンガンイオンの溶出を効果的に抑制しつつ、リチウムイオンの移動を促進することができる。本出願の正極活物質をオルガノポリシロキサン化合物と組み合わせて使用すると、正極活物質の表面に対する電解液の浸食を緩和し、マンガンイオンの溶出を減少させることができ、正極活物質の電気化学的性能の向上に有利である。したがって、本出願の正極材料組成物を用いた正極シート及び二次電池等の電力消費装置は、高いエネルギー密度及び改善されたサイクル性能、安全性能、及び/又はレート性能を兼ね備えることができる。
【0006】
本出願の任意の実施形態において、上記オルガノポリシロキサン化合物は、少なくとも1つの式1で示される構造単位を含み、
【数1】
、Rは、それぞれ独立に、-COOH、-OH、-SH、-CN、-SCN、アミノ基、リン酸エステル基、カルボン酸エステル基、アミド基、アルデヒド基、スルホニル基、ポリエーテルセグメント、C1~C20脂肪族炭化水素基、C1~C20ハロゲン化脂肪族炭化水素基、C1~C20ヘテロ脂肪族炭化水素基、C1~C20ハロゲン化ヘテロ脂肪族炭化水素基、C6~C20芳香族炭化水素基、C6~C20ハロゲン化芳香族炭化水素基、C2~C20ヘテロ芳香族炭化水素基、及びC2~C20ハロゲン化ヘテロ芳香族炭化水素基の官能基からなる群、又はHのうちの少なくとも1種類を表す。選択可能的に、R、Rは、それぞれ独立に、-COOH、-OH、-SH、アミノ基、リン酸エステル基、ポリエーテルセグメント、C1~C8アルキル基、C1~C8ハロゲン化アルキル基、C1~C8ヘテロアルキル基、C1~C8ハロゲン化ヘテロアルキル基、C2~C8アルケニル基、C2~C8ハロゲン化アルケニル基、及びフェニル基の官能基からなる群、又はHのうちの少なくとも1種類を表す。さらに選択可能的に、R、Rは、それぞれ独立に、-OH、-SH、アミノ基、リン酸エステル基、ポリエーテルセグメント、C1~C8アルキル基、C1~C8ハロゲン化アルキル基、C1~C8ヘテロアルキル基、C1~C8ハロゲン化ヘテロアルキル基、C2~C8アルケニル基、及びC2~C8ハロゲン化アルケニル基の官能基からなる群、又はHのうちの少なくとも1種類を表す。
【0007】
これにより、マンガンイオンの溶出がより減少され、二次電池のサイクル性能及び/又は高温安定性が顕著に改善される。
【0008】
本出願の任意の実施形態において、上記オルガノポリシロキサン化合物は、線状構造のポリシロキサン及び環状構造のポリシロキサンから選択される1種類又は複数種類を含み、選択可能的に、上記オルガノポリシロキサン化合物は線状構造のポリシロキサンから選択される。
【0009】
これにより、正極活物質の表面に対する電解液中の酸性物質の浸食がより緩和され、マンガンイオンの溶出が減少し、二次電池のサイクル性能及び貯蔵性能が顕著に改善される。環状構造のポリシロキサンの環において、電子が一定の非局在性を有するため、線状構造のポリシロキサンに比べて、そのSi-O骨格は電子がリッチな、Fを含むイオンに対する親和性が小さく、さらに電解液におけるFを含むイオンに対する除去率がやや低く、マンガンイオンの溶出を減少させる作用がやや弱く、二次電池のサイクル性能の改善効果にやや劣る。
【0010】
本出願の任意の実施形態において、上記線状構造のポリシロキサンは、ブロッキング基をさらに含み、選択可能的に、上記ブロッキング基は、ポリエーテル、C1~C8アルキル基、C1~C8ハロゲン化アルキル基、C1~C8ヘテロアルキル基、C1~C8ハロゲン化ヘテロアルキル基、C2~C8アルケニル基、C2~C8ハロゲン化アルケニル基、C6~C20芳香族炭化水素基、C1~C8アルコキシ基、C2~C8エポキシ基、ヒドロキシル基、C1~C8ヒドロキシアルキル基、アミノ基、C1~C8アミノアルキル基、カルボキシル基、及びC1~C8カルボキシアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種類を含む。
【0011】
本出願の任意の実施形態において、上記線状構造のポリシロキサンは、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリメチルエチルシロキサン、ポリメチルビニルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、カルボキシル官能化ポリシロキサン、ポリメチルクロロプロピルシロキサン、ポリメチルトリフルオロプロピルシロキサン、パーフルオロオクチルメチルポリシロキサン、メルカプトプロピルポリシロキサン、アミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサン、メトキシ末端ポリジメチルシロキサン、ヒドロキシプロピル末端ポリジメチルシロキサン、アミノプロピル末端ポリジメチルシロキサン、末端エポキシポリシロキサン、末端ヒドロキシポリジメチルシロキサン、末端ポリエーテルポリジメチルシロキサン、側鎖アミノプロピルポリシロキサン、側鎖ヒドロキシルメチルポリシロキサン、側鎖ヒドロキシルプロピルポリシロキサン、側鎖ポリエーテルグラフトポリジメチルシロキサン、及び側鎖リン酸エステルグラフトポリジメチルシロキサンのうちの1種類又は複数種類を含み、選択可能的に、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルクロロプロピルシロキサン、ポリメチルトリフルオロプロピルシロキサン、メルカプトプロピルポリシロキサン、アミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサン、末端ヒドロキシジメチルシロキサン、末端ポリエーテルポリジメチルシロキサン、及び側鎖リン酸エステルグラフトポリジメチルシロキサンのうちの1種類又は複数種類を含む
【0012】
本出願の任意の実施形態において、上記環状構造のポリシロキサンは、環状ポリジメチルシロキサン、環状ポリメチルビニルシロキサン、環状ポリメチルハイドロジェンシロキサン、及び環状ポリメチルトリフルオロプロピルシロキサンのうちの1種類又は複数種類を含み、選択可能的に、1,3,5,7-オクタメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラヒドロ-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、シクロペンタポリジメチルシロキサン、2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン、ヘキサデカメチルオクタシロキサン、及びテトラデカメチルシクロヘプタシロキサンのうちの1種類又は複数種類を含む。
【0013】
本出願の任意の実施形態において、上記オルガノポリシロキサン化合物の数平均分子量が300000以下であり、選択可能的に400~80000である。これにより、二次電池は、良好な動的性能と高温安定性とを兼ね備えることができる。
【0014】
本出願の任意の実施形態において、上記オルガノポリシロキサン化合物における極性官能基の質量百分率はαであり、0≦α<50%であり、選択可能的に5%≦α≦30%である。これにより、二次電池のサイクル性能及び/又は高温安定性をより良く改善することができる。
【0015】
本出願の任意の実施形態において、上記オルガノポリシロキサン化合物の含有量は、0.01重量%~2重量%であり、選択可能的に0.1重量%~2重量%であり、上記正極材料組成物の総重量に基づいて計算するものである。こにれより、二次電池のサイクル性能及び/又は高温安定性をより良く改善することができる。
【0016】
本出願の任意の実施形態において、上記第1の被覆層の被覆量は、0重量%を超え且つ7重量%以下であり、選択可能的に4重量%~5.6重量%であり、上記コアの重量に基づいて計算するものである。これにより、被覆層が厚すぎることによって二次電池の動的性能に影響を与えることなく、且つ第1の被覆層の機能を有効に発揮することができる。
【0017】
本出願の任意の実施形態において、上記第2の被覆層の被覆量は、0重量%を超え且つ6重量%以下であり、選択可能的に3重量%~5重量%であり、上記コアの重量に基づいて計算するものである。これにより、正極活物質のグラム容量(1グラムあたりの容量)を効果的に向上させることができる。
【0018】
本出願の任意の実施形態において、上記第1の被覆層のリン酸塩は、格子面間隔が0.345nm~0.358nmであり、結晶方位(111)の夾角が24.25°~26.45°である。これにより、二次電池のサイクル性能及びレート性能をさらに向上させることができる。
【0019】
本出願の任意の実施形態において、上記第1の被覆層のピロリン酸塩は、格子面間隔が0.293nm~0.326nmであり、結晶方位(111)の夾角が26.41°~32.57°である。これにより、二次電池のサイクル性能及びレート性能をさらに向上させることができる。
【0020】
本出願の任意の実施形態において、上記コアにおいて、1-yに対するyの比は、1:10~10:1であり、選択可能的に1:4~1:1である。これにより、二次電池のエネルギー密度及びサイクル性能をより向上させることができる。
【0021】
本出願の任意の実施形態において、上記コアにおいて、1-zに対するzとの比は、1:9~1:999であり、選択可能的に1:499~1:249である。これにより、二次電池のエネルギー密度及びサイクル性能をより向上させることができる。
【0022】
本出願の任意の実施形態において、上記第1の被覆層におけるピロリン酸塩とリン酸塩との重量比は1:3~3:1であり、選択可能的に1:3~1:1である。これにより、ピロリン酸塩とリン酸塩との相乗作用を果たすことに有利である。
【0023】
本出願の任意の実施形態において、上記第1の被覆層におけるピロリン酸塩及びリン酸塩の結晶化度はそれぞれ独立に10%~100%であり、選択可能的に50%~100%である。これにより、ピロリン酸塩がマンガンイオンの溶出及びリン酸塩の表面の不純物リチウム含有量を減少させ、界面での副反応を減少させる作用を十分に発揮することに有利である。
【0024】
本出願の任意の実施形態において、上記Aは、Fe、Ti、V、Ni、Co及びMgから選択される少なくとも2種類である。これにより、さらに表面酸素活性の低下及びマンガンイオンの溶出を抑制することができる。
【0025】
本出願の任意の実施形態において、上記正極活物質のLi/Mn反構造欠陥濃度は4%以下であり、選択可能的に2%以下である。これにより、正極活物質のグラム容量及びレート性能を向上させることができる。
【0026】
本出願の任意の実施形態において、上記正極活物質の格子変化率は8%以下であり、選択可能的に4%以下である。これにより、二次電池のレート性能を改善することができる。
【0027】
本出願の任意の実施形態において、上記正極活物質の表面酸素の価数は-1.88以下であり、選択可能的に-1.98~-1.88である。これにより、二次電池のサイクル性能及び高温貯蔵性能を改善することができる。
【0028】
本出願の任意の実施形態において、上記正極活物質の3トン当たりの圧密度は、2.0g/cm以上であり、選択可能的に2.2g/cm以上である。これにより、二次電池の体積エネルギー密度の向上に有利である。
【0029】
本出願の任意の実施形態において、導電剤及び粘着剤をさらに含む。選択可能的に、上記粘着剤の含有量は、1.79重量%~10重量%であり、上記正極材料組成物の総重量に基づいて計算するものであり、選択可能的に、上記導電剤の含有量は、0.2重量%~10重量%であり、上記正極材料組成物の総重量に基づいて計算するものである。
【0030】
本出願の任意の実施形態において、上記正極材料組成物の12MPaにおける粉末抵抗率は、4Ω/cm~55Ω/cmであり、選択可能的に4Ω/cm~40Ω/cmである。これにより、二次電池は、より良好な動的性能を有することができる。
【0031】
本出願の任意の実施形態において、上記正極材料組成物の比表面積は8m/g~20m/gであり、選択可能的に8m/g~15m/gである。これにより、二次電池は、より良好な電気化学的性能を有することができる。
【0032】
本出願の第2の態様は、コア材料を提供する工程と、被覆工程と、混合工程とを含む正極材料組成物の製造方法を提供する。
【0033】
コア材料を提供する工程において、上記コアは、Li1+xMn1-y1-zを含み、ここで、xは-0.100~0.100であり、選択可能的に-0.100~0.006であり、yは0.001~0.500であり、選択可能的に0.100~0.450であり、zは0.001~0.100であり、上記Aは、Zn、Al、Na、K、Mg、Mo、W、Ti、V、Zr、Fe、Ni、Co、Ga、Sn、Sb、Nb及びGeから選択される1種類又は複数種類であり、選択可能的にFe、Ti、V、Ni、Co及びMgから選択される1種類又は複数種類であり、上記Rは、B、Si、N及びSから選択される1種類又は複数種類である。
【0034】
被覆工程において、MP粉末と、炭素源を含むXPO懸濁液を提供し、上記コア材料及びMP粉末を、炭素源を含むXPO懸濁液に加えて混合し、焼結して正極活物質を得、ここで、上記MとXは、それぞれ独立に、Li、Fe、Ni、Mg、Co、Cu、Zn、Ti、Ag、Zr、Nb及びAlから選択される1種類又は複数種類であり、得られた正極活物質は、上記コアと、上記コアを被覆するシェルとを含むコア-シェル構造を有し、上記シェルは、上記コアを被覆する第1の被覆層と、上記第1の被覆層を被覆する第2の被覆層とを含み、上記第1の被覆層は、ピロリン酸塩MP及びリン酸塩XPOを含み、上記第2の被覆層は炭素を含む。
【0035】
混合工程として、得られた正極活物質をオルガノポリシロキサン化合物、選択的な粘着剤及び選択的な導電剤と均一に混合して正極材料組成物を得る。
【0036】
本出願の任意の実施形態において、上記コア材料を提供する工程は、マンガン源、元素A源及び酸を容器に混合して撹拌し、元素Aがドープされたマンガン塩粒子を得る工程(1)と、上記元素Aがドープされたマンガン塩粒子をリチウム源、リン源及び元素R源と溶媒中で混合してスラリーを得て、不活性ガス雰囲気の保護下で焼結した後、元素A及び元素Rがドープされたリン酸マンガンリチウムを得、ここで、上記元素A及び元素Rがドープされたリン酸マンガンリチウムは、Li1+xMn1-y1-zであり、xは-0.100~0.100であり、選択可能的に-0.100~0.006であり、yは0.001~0.500であり、選択可能的に0.100~0.450であり、zは0.001~0.100であり、上記Aは、Zn、Al、Na、K、Mg、Mo、W、Ti、V、Zr、Fe、Ni、Co、Ga、Sn、Sb、Nb及びGeから選択される1種類又は複数種類であり、選択可能的にFe、Ti、V、Ni、Co及びMgのうちの1種類又は複数種類であり、上記Rは、B、Si、N及びSから選択される1種類又は複数種類である工程(2)と、を含む。
【0037】
本出願の任意の実施形態において、上記工程(1)は、20℃~120℃で、選択可能的に25℃~80℃の温度で行うことができる。
【0038】
本出願の任意の実施形態において、上記工程(1)における上記撹拌は、500rpm~700rpmで60分間~420分間、選択可能的に120分間~360分間行われる。
【0039】
ドープ時の反応温度、撹拌速度及び混合時間を制御することにより、ドープ元素を均一に分布させ、また、焼結後の材料の結晶化度がより高くなり、正極活物質のグラム容量及びレート性能等を向上させることができる。
【0040】
本出願の任意の実施形態において、上記元素A源は、元素Aの単体、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、有機酸塩、酸化物又は水酸化物から選択される1種類又は複数種類である。
【0041】
本出願の任意の実施形態において、上記元素R源は、元素Rの単体、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、有機酸塩、酸化物又は水酸化物及び元素Rの無機酸から選択される1種類又は複数種類である。
【0042】
上記の範囲で各ドープ元素源を選択することにより、正極活物質の性能を効果的に改善することができる。
【0043】
本出願の任意の実施形態において、上記MP粉末は、元素M源及びリン源を溶媒に添加し、混合物を得て、混合物のpHを4~6に調整し、撹拌して十分に反応させた後、乾燥、焼結することにより得られる方法によって製造され、ここで、Mは、Li、Fe、Ni、Mg、Co、Cu、Zn、Ti、Ag、Zr、Nb及びAlから選択される1種類又は複数種類である。
【0044】
本出願の任意の実施形態において、MP粉末を製造する過程において、上記乾燥工程は、100℃~300℃、選択可能的に150℃~200℃で、4時間~8時間乾燥する。
【0045】
本出願の任意の実施形態において、MP粉末を製造する過程において、上記焼結工程は、500℃~800℃、選択可能的に650℃~800℃で、不活性ガス雰囲気下で4時間~10時間焼結する。
【0046】
本出願の任意の実施形態において、上記被覆工程において、正極活物質を得る時の焼結温度は500℃~800℃であり、焼結時間は4時間~10時間である。被覆時の焼結温度及び時間を制御することにより、正極活物質のグラム容量及びレート性能等をさらに向上させることができる。
【0047】
本出願の第3の態様は、正極シートであって、正極集電体と、正極集電体の少なくとも一方の表面に設けられた正極膜層とを含み、上記正極膜層が、請求項1乃至16のいずれか一項に記載の正極材料組成物又は請求項17乃至22のいずれか一項に記載の方法により製造された正極材料組成物を含み、上記正極材料組成物の上記正極膜層における含有量は、50重量%以上であり、上記正極膜層の総重量に基づいて計算するものである正極シートを提供する。
【0048】
本出願の任意の実施形態において、上記正極材料組成物の上記正極膜層における含有量は、90重量%~100重量%であり、上記正極膜層の総重量に基づいて計算するものである。
【0049】
本出願の任意の実施形態において、上記正極膜層と非水有機溶媒との間の固液接触角は、3°~90°、選択可能的に3°~60°、さらには10°~30°である。接触角が適切な範囲内にある場合に、二次電池は、高いエネルギー密度と、改善されたサイクル性能、安全性能、及び/又はレート性能とを兼ね備えることができる。
【0050】
本出願の任意の実施形態において、上記正極膜層の空隙率は15%~50%であり、選択可能的に15%~30%である。空隙率が適切な範囲内にある場合に、二次電池は、高いエネルギー密度と、改善されたサイクル性能、安全性能、及び/又はレート性能とを兼ね備えることができる。
【0051】
本出願の任意の実施形態において、上記正極膜層の抵抗は0を超え且つ6Ω以下である。これにより、二次電池は、より良好な動的性能を有する。
【0052】
本出願の任意の実施形態において、上記正極膜層と上記正極集電体との粘着力は0.5MPa以上である。これにより、二次電池性能の発揮に有利である。
【0053】
本出願の任意の実施形態において、上記正極膜層の面密度は、0.006g/cm~0.065g/cmである。これにより、二次電池の体積エネルギー密度の向上に有利である。
【0054】
本出願の任意の実施形態において、上記正極膜層の電解液に対する吸液速度は0.0125μg/s~100μg/sであり、選択可能的に0.5μg/s~40μg/sである。これにより、二次電池の電気化学的性能の向上に有利である。
【0055】
本出願の正極シートは、二次電池に用いられ、二次電池のエネルギー密度、サイクル性能、安全性能、及び/又はレート性能を改善することができる。
【0056】
本出願の第4の態様は、本出願の第1の態様の正極材料組成物、又は本出願の第2の態様の方法によって製造された正極材料組成物、又は本出願の第3の態様の正極シートを含む、二次電池を提供する。
【0057】
本出願の第5の態様は、本出願の第4の態様の二次電池を含む、電力消費装置を提供する。
【0058】
本出願の正極シート、二次電池、電力消費装置は、本出願の正極材料組成物を含むため、少なくとも上記正極活物質組成物と同様の利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
本出願の実施例の技術案をより明確に説明するために、以下、本出願の実施例に必要な図面を簡単に説明する。以下に説明された図面は本出願のいくつかの実施例のみであることは明確である。当業者であれば、創造的労働をしない前提であっても、図面に基づいて他の図面をさらに得ることができる。
図1】本出願の二次電池の一実施形態の模式図である。
図2図1の二次電池の実施形態の分解模式図である。
図3】本出願の電池モジュールの一実施形態の模式図である。
図4】本出願の電池パックの一実施形態の模式図である。
図5図4に示す電池パックの実施形態の分解模式図である。
図6】本出願の二次電池を電源とする電力消費装置の一実施形態の模式図である。
図7】実施例1-1で製造した正極活物質コアのXRDスペクトルとリン酸マンガンリチウムのXRD標準スペクトル(00-033-0804)との比較図である。 図面において、図面は必ずしも実際の縮尺で描かれていない。 符号の説明 1 電池パック、2 上ケース、3 下ケース、4 電池モジュール、5 二次電池、51 ケース、52 電極アセンブリ、53 カバープレート。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、本出願の正極材料組成物、その製造方法及びそれを含む正極シート、二次電池及び電力消費装置の実施形態を具体的に開示した図面を適宜に参照しながら詳細に説明する。しかし、必要でない詳細な説明を省略する場合がある。例えば、既知の事項の詳細な説明や、実質的に同一の構成の重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、添付図面及び以下の説明は、当業者が本出願を十分に理解するために提供されるものであり、特許請求の範囲に記載された主題を限定することを意図するものではない。
【0061】
本出願において開示される「範囲」は、下限及び上限の形式で規定され、所定範囲は、1つの下限及び1つの上限を選定することによって規定され、選定された下限及び上限は、特別な範囲の境界を限定している。このように限定される範囲は、端値を含む又は端値を含まない範囲であってもよく、任意に組み合わせてもよく、即ち、任意の下限は任意の上限と組み合わせて範囲を形成してもよい。例えば、特定のパラメータに対して60~120及び80~110の範囲を挙げられると、60~110及び80~120の範囲も予想されると理解される。また、最小範囲値1及び2と、最大範囲値3、4及び5が挙げられた場合、1~3、1~4、1~5、2~3、2~4及び2~5の範囲は、全て予想されてもよい。本出願において、他の説明がない限り、数値範囲「a~b」は、aからbの間の任意の実数の組み合わせの略語で表され、a及びbはいずれも実数である。例えば、数値範囲「0~5」は、本明細書において全て「0~5」の間の全ての実数を挙げることを示し、「0~5」は、これらの数値の組合せの略語である。また、あるパラメータが2以上(≧2)の整数であると表記すると、当該パラメータが、例えば、整数2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12などであることを開示することに相当している。
【0062】
特に説明がない限り、本出願のすべての実施形態及び選択可能的な実施形態は、互いに組み合わせて新しい技術案を形成してもよい。また、このような技術案は、本出願の開示内容に含まれると考えられる。
【0063】
特に説明がない限り、本出願のすべての技術的特徴及び選択可能的な技術的特徴は、互いに組み合わせて新しい技術案を形成してもよい。また、このような技術案は、本出願の開示内容に含まれると考えられる。
【0064】
特に説明がない限り、本出願のすべての工程は、順に行われてもよいし、ランダムに行われてもよいが、順に行われることが好ましい。例えば、上記方法が工程(a)及び(b)を含むことは、上記方法が順に行われる工程(a)及び(b)を含むことであってもよく、順に行われる工程(b)及び(a)を含むことであってもよいことを表す。例えば、上記方法が工程(c)をさらに含んでもよいと言及する場合、工程(c)は、任意の順序で上記方法に加えられてもよいことを表す。例えば、上記方法は、工程(a)、(b)及び(c)を含んでもよく、工程(a)、(c)及び(b)を含んでもよく、工程(c)、(a)及び(b)などを含んでもよい。
【0065】
特に説明がない限り、本出願に記載されている「備える」及び「含む」は、開放式であることを意味し、また、閉鎖式であってもよい。例えば、上記の「備える」及び上記「含む」は、挙げられていない他の成分をさらに「備える」又は「含む」こと、又は挙げられている成分のみを「備える」又は「含む」ことを表すことができる。
【0066】
特に説明がない限り、本出願において、用語「又は」は包括的なものである。例えば、「A又はB」という語句は、「A、B、又はAとBの両方」を表す。より具体的には、以下のいずれの条件も満たされる。Aが真(又は存在)であり且つBが偽(又は存在しない)であり、Aが偽(又は存在しない)であり且つBが真(又は存在する)であり、又はAとBの両方が真である(又は存在する)。
【0067】
本明細書において、メディアン径Dv50とは、材料累積体積分布百分率が50%に達した時に対応する粒子径である。本出願において、材料のメディアン径Dv50は、レーザー回折式粒度分析法により測定することができる。例えば、GB/T19077-2016を参照して、レーザー粒度分析計(例えば、Malvern Master Size 3000)を用いて測定する。
【0068】
本明細書において、化合物の置換基は、群又は範囲で開示されている。このような記載は、これらの群及び範囲のメンバーのそれぞれの個別のサブコンビネーションも含むことが明確に予想される。例えば、用語「C1~C8アルキル」は、C1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8、C1~C8、C1~C7、C1~C6、C1~C5、C1~C4、C1~C3、C1~C2、C2~C8、C2~C7、C2~C6、C2~C5、C2~C4、C2~C3、C3~C8、C3~C7、C3~C6、C3~C5、C3~C4、C4~C8、C4~C7、C4~C6、C4~C5、C5~C8、C5~C7、C5~C6、C6~C8、C6~C7及びC7~C8アルキル基を個別に開示することが明確に予想される。
【0069】
本明細書において、用語「脂肪族炭化水素基」はアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基を含み、用語「ヘテロ脂肪族炭化水素基」は脂肪族炭化水素基にヘテロ原子(例えばN、O、Sなど)を含むことを意味する。用語「ヘテロアルキル」とは、アルキル基にヘテロ原子(例えばN、O、Sなど)を含むことを意味し、例えばアルコキシ基、アルキルチオ基などであってもよい。
【0070】
本明細書において、用語「被覆層」とは、コアに被覆された物質層を指し、上記物質層は、完全に又は部分的にコアを被覆することができる。「被覆層」を使用することは単に説明の便宜上に過ぎず、本出願を制限することを意図するものではない。また、各被覆層は、完全に被覆されていてもよく、部分的に被覆されていてもよい。
【0071】
本明細書において、用語「ソース」とは、ある元素の由来となる化合物を指し、例として、上記「ソース」の種類は、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、単体、ハロゲン化物、酸化物及び水酸化物などを含むが、これらに限定されない。
【0072】
本明細書において、用語「複数」、「複数種類」は、2つ又は2つ以上を意味する。
【0073】
本明細書において、「約」のある数値は、1つの範囲を示し、当該数値の±10%の範囲を示す。
【0074】
本出願の発明者らの実際の作業による発見として、リン酸マンガンリチウムLiMnPOの正極活物質は、充放電深度が深い充放電過程において、マンガンイオンの溶出が深刻である。従来技術には、リン酸マンガンリチウムをリン酸鉄リチウムで被覆して、界面での副反応を減少させる試みがあるが、このような被覆は溶出したマンガンイオンが電解液中に遷移することを阻止できない。溶出したマンガンイオンは、負極に遷移した後、金属マンガンに還元される。これらの生成された金属マンガンは「触媒」に相当し、負極表面のSEI膜(solid electrolyte interphase、固体電解質界面膜)の分解を触媒することができる。生成した副生成物の一部がガスであり、電池が膨張しやすく、二次電池の安全性能に影響を与え、他の一部が負極表面に堆積し、リチウムイオンの負極へのチャネルが阻害され、二次電池の抵抗の増加を招き、二次電池の動的性能に影響を与える。また、損失のSEI膜を補充するために、電解液や電池内部の活性リチウムイオンも絶えず消費され、これにより二次電池の容量維持率にも不可逆的な影響を与える。
【0075】
発明者らは、鋭意に研究した上で、リン酸マンガンリチウムの正極活物質に対して、マンガンイオンの溶出が深刻、表面反応活性が高い等の問題は、リチウム脱離後のMn3+のヤーン・テラー効果及びLiチャネルの大きさの変化に起因する可能性があることを見出した。そこで、発明者らは、リン酸マンガンリチウムを改質することにより、マンガンイオンの溶出及び格子変化率を顕著に低下させ、さらに良好なサイクル性能、安全性能、及び/又はレート性能を備えた正極活物質を得た。同時に、本出願の発明者は、正極活物質とオルガノポリシロキサン化合物とを組み合わせて使用すると、正極活物質の表面に対する電解液の浸食が緩和され、正極活物質の電気化学的性能を十分に発揮するのに有利である。
正極材料組成物
【0076】
具体的には、本出願の第1の態様は、コア-シェル構造を有する正極活物質と、オルガノポリシロキサン化合物とを含む正極材料組成物を提供する。
【0077】
上記正極活物質は、コアと、上記コアを被覆するシェルとを含む。上記コアは、Li1+xMn1-y1-zを含み、xは-0.100~0.100であり、yは0.001~0.500であり、zは0.001~0.100であり、上記Aは、Zn、Al、Na、K、Mg、Mo、W、Ti、V、Zr、Fe、Ni、Co、Ga、Sn、Sb、Nb及びGeから選択される1種類又は複数種類であり、選択可能的にFe、Ti、V、Ni、Co及びMgのうちの1種類又は複数種類であり、上記Rは、B、Si、N及びSから選択される1種類又は複数種類であり、上記シェルは、上記コアを被覆する第1の被覆層と、上記第1の被覆層を被覆する第2の被覆層とを含み、上記第1の被覆層は、ピロリン酸塩MP及びリン酸塩XPOを含み、上記M及びXは、それぞれ独立に、Li、Fe、Ni、Mg、Co、Cu、Zn、Ti、Ag、Zr、Nb及びAlから選択される1種類又は複数種類であり、上記第2の被覆層は、炭素を含む。
【0078】
特に説明がない限り、上記化学式において、Aが2種類以上の元素である場合、上記のyの数値範囲に対する限定は、Aとなる元素毎の化学量論数に対して限定されるだけでなく、それぞれAとなる元素の化学量論数の和に対して限定される。例えば、Aが2種類以上の元素A1、A2、・・・、Anである場合、A1、A2、・・・、Anのそれぞれの化学量論数y1、y2、・・・、ynは、それぞれ本出願のyで限定される数値範囲内に入る必要があり、且つy1、y2、・・・、ynの和もこの数値範囲内に入る必要がある。類似的に、Rが2種類以上の元素である場合についても、本出願におけるRの化学量論数の数値範囲を限定することは上記意味を有する。
【0079】
本出願のリン酸マンガンリチウムの正極活物質は、2層の被覆層を有するコア-シェル構造であり、コアは、Li1+xMn1-y1-zを含む。上記コアは、リン酸マンガンリチウムのマンガンサイトにドープされた元素Aは、リチウム挿入・脱離過程におけるリン酸マンガンリチウムの格子変化率の減少に寄与し、リン酸マンガンリチウムの正極活物質の構造安定性を向上させ、マンガンイオンの溶出を大幅に減少させ、粒子表面の酸素活性を低下させる。リンサイトにドープされた元素Rは、Mn-O結合距離の変化の難易度を変化させ、リチウムイオンの移動障壁を低下させ、リチウムイオンの移動を促進し、二次電池のレート性能を向上させる。
【0080】
本出願の正極活物質の第1の被覆層は、ピロリン酸塩及びリン酸塩を含む。遷移金属のピロリン酸塩における移動障壁が高い(>1eV)ため、遷移金属イオンの溶出を効果的に抑制することができる。また、リン酸塩は、リチウムイオンの輸送能力に優れ、表面の不純物リチウム含有量を減少することができる。
【0081】
本出願の正極活物質の第2の被覆層は炭素含有層であるため、LiMnPOの導電性能及び脱溶剤化能力を効果的に改善することができる。また、第2の被覆層の「バリア」の作用により、マンガンイオンの電解液中への移動がさらに阻害され、正極活物質に対する電解液の浸食が減少される。
【0082】
したがって、本出願は、リン酸マンガンリチウムに対して特定の元素がドープされて表面を被覆することにより、リチウム挿入・脱離過程におけるマンガンイオンの溶出を効果的に抑制しつつ、リチウムイオンの移動を促進し、二次電池のサイクル性能、安全性能、及び/又はレート性能を改善することができる。
【0083】
本出願の正極材料組成物は、正極活物質と、オルガノポリシロキサン化合物とを含む。本出願の発明者らは、上記正極活物質とオルガノポリシロキサン化合物とを組み合わせて使用すると、正極活物質表面に対する電解液の浸食を緩和し、マンガンイオンの溶出を減少させ、正極活物質の電気化学的性能の向上に有利であることを見出した。可能な原因として、オルガノポリシロキサン化合物のSi-O骨格は、電解液中のFを含むイオンを除去することができ、これにより、電解液の酸性度を低下させ、正極活物質の表面に対する電解液中の酸性物質の浸食を緩和することができ、また、オルガノポリシロキサン化合物は、一定の撥水性を有し、これを正極活物質とともに正極シートを製造した後、得られた正極シートと電解液との間の接触角が増加するので、正極活物質表面に対する電解液の浸食を緩和することができる。
【0084】
したがって、本出願の正極材料組成物を用いた正極シート及び二次電池等の電力消費装置は、高いエネルギー密度及び改善されたサイクル性能、安全性能、及び/又はレート性能を兼ね備えることができる。
【0085】
なお、本出願の正極活物質コアは、LiMnPOのドープされた前の主要な特徴ピークの位置とほぼ一致しており、本出願のドープされたリン酸マンガンリチウムの正極活物質コアは不純物相がなく、二次電池性能は、不純物相ではなく、主に元素のドープにより改善される。
【0086】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、上記第1の被覆層の被覆量は、上記コアの重量に基づいて、0重量%を超え且つ7重量%以下であり、選択可能的に、4重量%~5.6重量%である。上記第1の被覆層の被覆量が上記範囲内にある場合に、マンガンイオンの溶出をさらに抑制しつつ、リチウムイオンの輸送をさらに促進することができる。また、以下の状況を効果的に避けることができる。第1の被覆層の被覆量が小さすぎると、マンガンイオンに対するピロリン酸塩の溶出抑制作用が不十分であるとともに、リチウムイオンの輸送性能の改善も顕著でない可能性があり、また、第1の被覆層の被覆量が大きすぎると、被覆層が厚すぎて電池の抵抗が増大し、二次電池の動的性能に影響を及ぼす可能性がある。
【0087】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、上記第2の被覆層の被覆量は、上記コアの重量に基づいて0重量%を超え且つ6重量%以下であり、選択可能的に、3重量%~5重量%である。第2の被覆層の炭素含有層として「バリア」機能を発揮し、正極活物質と電解液とが直接接触することを回避し、正極活物質に対する電解液の浸食を減少させ、二次電池の高温での安全性能を向上させることができる。また一方では、それは強い導電能力を有し、電池の内部抵抗を低下させ、二次電池の動的性能を改善することができる。しかしながら、炭素材料のグラム容量が低いため、第2の被覆層の量が大き過ぎると、正極活物質全体のグラム容量が低下するおそれがある。したがって、第2の被覆層の被覆量が上記範囲にあると、正極活物質のグラム容量を損なうことなく、二次電池の動的性能及び安全性能をさらに改善することができる。
【0088】
上記コアにおいて、xは、-0.100~0.100であり、例えば、xは、0.006、0.004、0.003、0.002、0.001、0、-0.001、-0.003、-0.004、-0.005、-0.006、-0.007、-0.008、-0.009、-0.100であってもよい。選択可能的に、xは-0.100~0.006である。
【0089】
上記コアにおいて、yは0.001~0.500であり、例えば、yは0.100、0.200、0.250、0.300、0.350、0.400、0.450であってもよい。選択可能的に、yは0.100~0.450である。
【0090】
上記コアにおいて、zは0.001~0.100であり、例えば、zは0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.100であってもよい。
【0091】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、上記コアにおいて、1-yに対するyの比は、1:10から10:1であり、選択可能的に1:4~1:1である。ここで、yはMnサイトのドープ元素の化学量論数の和を示す。上記条件を満たすと、二次電池のエネルギー密度及びサイクル性能をより向上させることができる。
【0092】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、上記コアにおいて、1-zに対するzの比は、1:9~1:999であり、選択可能的に1:499~1:249である。ここで、yは、Pサイトのドープ元素の化学量論数の和を示す。上記条件を満たすと、二次電池のエネルギー密度及びサイクル性能をより向上させることができる。
【0093】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、Aは、Fe、Ti、V、Ni、Co及びMgから選択される少なくとも2種類である。
【0094】
リン酸マンガンリチウムの正極活物質におけるマンガンサイトに2種類以上の上記元素を同時にドープすることは、ドープ効果の向上に有利である。格子変化率をより小さくするため、マンガンイオンの溶出を抑制し、電解液及び活性リチウムイオンの消費を減少させる一方、表面酸素の活性をより低下させ、正極活物質と電解液との界面での副反応を減少させるため、二次電池のサイクル性能及び高温貯蔵性能を改善することに有利である。
【0095】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、上記第1の被覆層のリン酸塩の面間隔は0.345nm~0.358nmであり、結晶方位(111)の夾角は24.25°~26.45°である。
【0096】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、第1の被覆層のピロリン酸塩の面間隔は0.293nm~0.326nmであり、結晶方位(111)の夾角は26.41°~32.57°である。
【0097】
第1の被覆層におけるリン酸塩及びピロリン酸塩の面間隔と結晶方位(111)との夾角が上記範囲にあると、被覆層における不純物相を効果的に回避し、正極活物質のグラム容量、サイクル性能及びレート性能を向上させることができる。
【0098】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、上記第1の被覆層におけるピロリン酸塩とリン酸塩との重量比は、1:3~3:1である。選択可能的に上記第1の被覆層におけるピロリン酸塩とリン酸塩との重量比は、1:3~1:1である。ピロリン酸塩及びリン酸塩の適切な配合比は、両者の相乗作用を十分に発揮することに有利であり、マンガンイオンの溶出を効果的に阻害しつつ、表面の不純物リチウム含有量を効果的に減少させ、界面での副反応を減少させることができる。また、ピロリン酸塩が多すぎてリン酸塩が少なすぎると電池の抵抗が大きくなるおそれがあり、リン酸塩が多すぎてピロリン酸塩が少なすぎるとマンガンイオンの溶出を抑制する効果が顕著ではない状況を効果的に避けることができる。
【0099】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、上記第1の被覆層におけるピロリン酸塩及びリン酸塩の結晶化度は、それぞれ独立に、10%~100%である。選択可能的に、上記第1の被覆層におけるピロリン酸塩及びリン酸塩の結晶化度は、それぞれ独立に、50%~100%である。本出願のリン酸マンガンリチウムの正極活物質の第1の被覆層において、一定の結晶化度を有するピロリン酸塩及びリン酸塩は、第1の被覆層の構造を安定させ、格子欠陥を減少することに有利である。この点は、ピロリン酸塩がマンガンイオンの溶出を阻害する作用を十分に発揮することに有利であり、また一方、リン酸塩が表面の不純物リチウム含有量を減少させ、表面酸素の価数を低下させることに有利であり、これにより、正極活物質と電解液との界面での副反応を減少させ、電解液への消耗を減少させ、二次電池のサイクル性能及び安全性能を改善する。
【0100】
なお、本出願において、ピロリン酸塩及びリン酸塩の結晶化度は、例えば、焼結過程の例えば焼結温度、焼結時間等のプロセス条件を調整することにより調節することができる。ピロリン酸塩及びリン酸塩の結晶化度は、例えば、X線回折法、密度法、赤外分光法、示差走査熱量測定法、核磁気共鳴吸収法等の本分野の周知の方法により測定することができる。
【0101】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、上記正極活物質のLi/Mnの反構造欠陥濃度は4%以下であり、選択可能的に2%以下である。Li/Mnの反構造欠陥とは、LiMnPO結晶格子において、Li及びMn2+の位置が入れ替わることを意味する。Li/Mnの反構造欠陥濃度とは、正極活物質において、Mn2+と入れ替わるLiが、Liの合計量を占めるパーセントである。Li輸送チャネルは1次元チャネルであり、Mn2+は、Li輸送チャネルにおいて遷移しにくいため、反構造欠陥のMn2+は、Liの輸送を阻害する。本出願の正極活物質では、Li/Mnの反構造欠陥濃度を低レベルに制限することにより、正極活物質のグラム容量及びレート性能を向上させることができる。本出願において、反構造欠陥濃度は、例えば、JIS K 0131-1996に準拠して測定することができる。
【0102】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、上記正極活物質の格子変化率は8%以下であり、選択可能的に6%以下である、さらに選択可能的に、4%以下である。LiMnPOのリチウム挿入・脱離過程は、二相系反応である。二相の界面応力は格子変化率の大きさで決まり、格子変化率が小さいほど界面応力が小さく、Li輸送が容易である。したがって、コアの格子変化率を小さくすることは、Liの輸送能力の向上に有利であり、二次電池のレート性能を向上させる。
【0103】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、上記正極活物質のコイルセルの平均放電電圧は3.5V以上であり、放電グラム容量は140mAh/g以上であり、選択可能的に、平均放電電圧は3.6V以上であり、放電グラム容量は145mAh/g以上である。ドープされていないLiMnPOの平均放電電圧は4.0V以上であるが、その放電グラム容量は低く、通常120mAh/g未満であるため、二次電池のエネルギー密度が低い。ドープにより格子変化率を調整することにより、その放電グラム容量を大幅に向上させることができ、平均放電電圧がやや低下した場合に、二次電池全体のエネルギー密度が明らかに上昇する。
【0104】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、上記正極活物質の表面酸素の価数は、-1.88以下であり、選択可能的に、-1.98~-1.88である。これは、化合物における酸素の価数が高いほど電子を取得する能力が強く、すなわち酸化性が強いからである。本出願のリン酸マンガンリチウムの正極活物質において、酸素の表面価数を低いレベルに制御することにより、正極活物質の表面の反応活性を低下させ、正極活物質と電解液との界面での副反応を減少させ、二次電池のサイクル性能及び高温貯蔵性能を改善することができる。
【0105】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、上記正極活物質の3トン(T)における圧密度は2.0g/cm以上であり、選択可能的に、2.2g/cm以上である。正極活物質の圧密度が高いほど、即ち、体積当たりの活物質の重量が大きいほど、二次電池の体積エネルギー密度の向上に有利である。本出願において、圧密度は、例えばGB/T 24533-2009に準拠して測定することができる。
【0106】
いくつかの実施形態において、上記オルガノポリシロキサン化合物は、式1で示される構造単位の少なくとも1つを含む。
【数1】
、Rは、それぞれ独立に、-COOH、-OH、-SH、-CN、-SCN、アミノ基、リン酸エステル基、カルボン酸エステル基、アミド基、アルデヒド基、スルホニル基、ポリエーテルセグメント、C1~C20脂肪族炭化水素基、C1~C20ハロゲン化脂肪族炭化水素基、C1~C20ヘテロ脂肪族炭化水素基、C1~C20ハロゲン化ヘテロ脂肪族炭化水素基、C6~C20芳香族炭化水素基、C6~C20ハロゲン化芳香族炭化水素基、C2~C20ヘテロ芳香族炭化水素基、C2~C20ハロゲン化ヘテロ芳香族炭化水素基の官能基からなる群、又はHのうちの少なくとも1種類を表す。選択可能的に、R、Rは、それぞれ独立に、-COOH、-OH、-SH、アミノ基、リン酸エステル基、ポリエーテルセグメント、C1~C8アルキル基、C1~C8ハロゲン化アルキル基、C1~C8ヘテロアルキル基、C1~C8ハロゲン化ヘテロアルキル基、C2~C8アルケニル基、C2~C8ハロゲン化アルケニル基、フェニル基の官能基からなる群、又はHのうちの少なくとも1種類を表す。さらに選択可能的に、R、Rは、それぞれ独立に、-OH、-SH、アミノ基、リン酸エステル基、ポリエーテルセグメント、C1~C8アルキル基、C1~C8ハロゲン化アルキル基、C1~C8ヘテロアルキル基、C1~C8ハロゲン化ヘテロアルキル基、C2~C8アルケニル基、C2~C8ハロゲン化アルケニル基の官能基からなる群、又はHのうちの少なくとも1種類を表す。
【0107】
これらの官能基は、マンガンイオンを錯化する作用及び/又は電解液中の酸性物質と反応する作用を果たすことができる。これにより、マンガンイオンの溶出を減少させ、二次電池のサイクル性能及び/又は高温安定性をさらに改善することができる。
【0108】
これらの官能基は、電子吸引性を有する場合、オルガノポリシロキサン化合物のSi-O骨格中のSiをより電子不足にさせることができるため、電解液におけるFを含むイオンとの親和性をさらに強化し、電解液中の正極活物質の表面に対する酸性物質の浸食をさらに緩和し、マンガンイオンの溶出を減少させ、二次電池のサイクル性能及び/又は高温安定性を顕著に改善することができる。
【0109】
いくつかの実施形態において、上記オルガノポリシロキサン化合物は、線状構造のポリシロキサン、環状構造のポリシロキサンから選択される1種類又は複数種類を含み、選択可能的に、上記オルガノポリシロキサン化合物は線状構造のポリシロキサンから選択される。
【0110】
これにより、正極活物質の表面に対する電解液中の酸性物質の浸食をより緩和させ、マンガンイオンの溶出を減少させるため、二次電池のサイクル性能及び貯蔵性能を顕著に改善させることができる。環状構造のポリシロキサンは、環の電子が一定の非局在性を有するため、線状構造のポリシロキサンに比べて、そのSi-O骨格は電子がリッチな、Fを含むイオンに対する親和性が小さく、さらに電解液におけるFを含むイオンの除去率がやや低く、マンガンイオンの溶出を減少する作用がやや弱く、二次電池のサイクル性能の改善効果にやや劣る。
【0111】
いくつかの実施形態において、上記線状構造のポリシロキサンは、ブロッキング基をさらに含んでもよい。選択可能的に、上記ブロッキング基は、ポリエーテル、C1~C8アルキル基、C1~C8ハロゲン化アルキル基、C1~C8ヘテロアルキル基、C1~C8ハロゲン化ヘテロアルキル基、C2~C8アルケニル基、C2~C8ハロゲン化アルケニル基、C6~C20芳香族炭化水素基、C1~C8アルコキシ基、C2~C8エポキシ基、ヒドロキシル基、C1~C8ヒドロキシアルキル基、アミノ基、C1~C8アミノアルキル基、カルボキシル基、C1~C8カルボキシアルキル基からなる群から選択される少なくとも1種類を含む。
【0112】
いくつかの実施形態において、上記環状構造のポリシロキサンの分子式は式2のように示すことができ、nは式1に示される構造単位の重合度を表す。選択可能的に、n≦12、n≦11、n≦10、n≦9、又は、n≦8である。
【数2】
【0113】
例として、上記線状構造のポリシロキサンは、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリメチルエチルシロキサン、ポリメチルビニルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、カルボキシル官能化ポリシロキサン、ポリメチルクロロプロピルシロキサン、ポリメチルトリフルオロプロピルシロキサン、パーフルオロオクチルメチルポリシロキサン、メルカプトプロピルポリシロキサン、アミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサン、メトキシ末端ポリジメチルシロキサン、ヒドロキシプロピル末端ポリジメチルシロキサン、アミノプロピル末端ポリジメチルシロキサン、末端エポキシポリシロキサン、末端ヒドロキシポリジメチルシロキサン、末端ポリエーテルポリジメチルシロキサン、側鎖アミノプロピルポリシロキサン、側鎖ヒドロキシルメチルポリシロキサン、側鎖ヒドロキシルプロピルポリシロキサン、側鎖ポリエーテルグラフトポリジメチルシロキサン、側鎖リン酸エステルグラフトポリジメチルシロキサンのうちの1種類又は複数種類を含むが、これらに限定されない。選択可能的に、上記線状構造のポリシロキサンは、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルクロロプロピルシロキサン、ポリメチルトリフルオロプロピルシロキサン、メルカプトプロピルポリシロキサン、アミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサン、末端ヒドロキシジメチルシロキサン、末端ポリエーテルポリジメチルシロキサン、側鎖リン酸エステルグラフトポリジメチルシロキサンのうちの1種類又は複数種類を含む。
【0114】
例として、上記環状構造のポリシロキサンは、環状ポリジメチルシロキサン、環状ポリメチルビニルシロキサン、環状ポリメチルハイドロジェンシロキサン、環状ポリメチルトリフルオロプロピルシロキサンのうちの1種類又は複数種類を含むが、これらに限定されない。選択可能的に、上記環状構造のポリシロキサンは、1,3,5,7-オクタメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラヒドロ-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、シクロペンタポリジメチルシロキサン、2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン、ヘキサデカメチルオクタシロキサン、テトラデカメチルシクロヘプタシロキサンのうちの1種類又は複数種類を含む。
【0115】
いくつかの実施形態において、上記オルガノポリシロキサン化合物の数平均分子量は300000以下であり、例えば、400~300000、400~200000、400~100000、400~80000、400~50000、400~20000、400~10000、1000~100000、1000~50000、1000~20000、1000~10000であってもよい。オルガノポリシロキサン化合物の数平均分子量は、当該技術分野で周知の方法により、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。測定機器はPL-GPC220高温ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを採用することができる。本出願において、「オルガノポリシロキサン化合物」は、オリゴマーであってもよく、ポリマーであってもよい。
【0116】
オルガノポリシロキサン化合物の数平均分子量が適切な範囲内にあると、二次電池は、良好な動的性能と高温安定性とを兼ね備えることができる。また、オルガノポリシロキサン化合物の数平均分子量が小さ過ぎると、その疎水性が劣る恐れがあるため、正極膜層と電解液との間の接触角を効果的に増加させることができず、正極活物質の表面に対する電解液の浸食を効果的に緩和することができず、二次電池に対するサイクル性能及び/又は高温安定性の改善効果が顕著でない可能性がある、また、オルガノポリシロキサン化合物の数平均分子量が大きすぎると、その疎水性が強くなる恐れがあり、同時にスラリーの分散にも不利で、二次電池の性能の改善効果に影響を及ぼす、という状況を効果的に避けることができる。
【0117】
いくつかの実施形態において、上記オルガノポリシロキサン化合物における極性官能基の質量百分率はαであり、0≦α<50%であり、選択可能的に5%≦α≦30%である。
【0118】
本出願において、「オルガノポリシロキサン化合物における極性官能基の質量百分率」とは、オルガノポリシロキサン化合物中におけるR、R及びブロッキング基中の極性官能基の質量割合を意味する。本出願において、極性官能基は、-COOH、-OH、-SH、-CN、-SCN、アミノ基(-NH、-NH-を含む)、リン酸エステル基、カルボキシレート基(-COO-)、アミド基(-CONH-)、アルデヒド基(-CHO)、スルホニル基(-S(=O)-)、ポリエーテルセグメント、ハロゲン原子、アルコキシ基、エポキシ基のうちの1種類又は複数種類を含む。上記極性官能基がケイ素原子に直接結合している場合、αはこれらの極性官能基のオルガノポリシロキサン化合物における質量分率を表す。上記極性官能基とケイ素原子が直接結合されていない場合、αは極性官能基とそれに直接結合された2価~4価のメチル基(例えば-CH、-CH-、-C-等)のオルガノポリシロキサン化合物における質量分率の和を表し、ここで、「2価~4価のメチル基」は極性官能基に直接結合され且つ極性官能基とケイ素原子との間に位置する炭素原子及び炭素原子に結合された他の非極性官能基を表す。ポリメチルトリフルオロプロピルシロキサンを例とすると、αは、その中の-CFの質量百分率を意味し、その中のエチレン基を含まない。ポリメチルクロロプロピルシロキサンを例とすると、αは-CHClの質量百分率を意味し、その中のエチレン基を含まない。ヒドロキシプロピル末端ポリジメチルシロキサンを例とすると、αは-CHOHの質量百分率を意味する。オルガノポリシロキサン化合物における極性官能基の質量百分率は、当該技術分野で周知の方法により、例えば、滴定法(例えば、酸アルカリ滴定法、酸化還元滴定法、沈殿滴定法)、赤外分光法、核磁気共鳴分光法により測定することができる。
【0119】
オルガノポリシロキサン化合物における極性官能基の含有量が適切な範囲内にあると、電解液の酸性度を低下させ、電解液におけるFを含むイオンを除去する効果がより良好であり、これにより、正極活物質の表面に対する電解液中の酸性物質の浸食をより良く緩和し、二次電池のサイクル性能及び/又は高温安定性をより良く改善することができる。また、オルガノポリシロキサン化合物中の極性官能基の含有量が高すぎると、電解液の酸性度を低下させ、電解液におけるFを含むイオンを除去する作用がさらに向上することはないが、正極膜層と電解液との接触角が小さくなる可能性があり、これにより、二次電池のサイクル性能の改善効果が顕著でない状況を効果的に避けることができる。
【0120】
いくつかの実施形態において、上記オルガノポリシロキサン化合物の含有量は、正極材料組成物の総重量によるものであり、0.01重量%~2重量%であり、選択可能的に0.1重量%~2重量%である。オルガノポリシロキサン化合物の含有量が適切な範囲内にあると、電解液の酸性度を低下させ、電解液におけるFを含むイオンを除去する効果がより良好であり、これにより、正極活物質の表面に対する電解液中の酸性物質の浸食をより良く緩和し、二次電池のサイクル性能及び/又は高温安定性をより良く改善することができる。また、オルガノポリシロキサン化合物の含有量が高すぎると、正極膜層の電解液に対する濡れ性に影響を与え、二次電池の動的性能に影響を与える可能性があるとともに、オルガノポリシロキサン化合物が容量を提供しないため、その含有量が高すぎると、二次電池のエネルギー密度を低下させる状況、及びオルガノポリシロキサン化合物の含有量が低すぎると、電解液の酸性度を低下させ、電解液におけるFを含むイオンを除去する作用が顕著ではなく、正極活物質の表面に対する電解液中の酸性物質の浸食を効果的に緩和することができないため、二次電池のサイクル性能及び/又は高温安定性の改善効果が顕著ではない状況を効果的に避けることができる。
【0121】
いくつかの実施形態において、上記正極材料組成物は、粘着剤をさらに含んでもよい。上記粘着剤は、当該技術分野で既知の粘着効果を奏する物質であってもよい。選択可能的に、上記粘着剤は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-プロピレンの三元共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレンの三元共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、含フッ素アクリレート系樹脂の少なくとも1種類を含む。選択可能的に、上記粘着剤の含有量は、1.79重量%~10重量%であり、選択可能的に、2重量%~5重量%であり、上記正極材料組成物の総重量に基づいて算出するものである。
【0122】
いくつかの実施形態において、上記正極材料組成物は、導電剤をさらに含んでもよい。上記導電剤は、当該技術分野で既知の電子伝導効果を奏する物質であってもよい。選択可能的に、上記正極導電剤は、超電導カーボン、導電性黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケチェンブラック、炭素点、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンナノファイバーのうちの少なくとも1種類を含む。選択可能的に、上記導電剤の含有量は、0.2重量%~10重量%であり、選択可能的に0.5重量%~5重量%であり、上記正極材料組成物の総重量に基づいて算出するものである。
【0123】
いくつかの実施形態において、上記正極材料組成物の12MPaにおける粉末抵抗率は、4Ω/cm~55Ω/cmであり、選択可能的に4Ω/cm~50Ω/cmである。正極材料組成物の粉末抵抗率を適切な範囲に調整することにより、二次電池の動的性能をより良好にすることができる。正極材料組成物の粉末抵抗率は、当該技術分野で既知の方法により測定することができる。例えばGB/T 30835-2014を参照して、粉末抵抗率測定計を用いて試験することができる。一つの例示的な試験方法は、規定量の測定対象試料の粉末を秤量して専用金型に置き、試験圧力を設定すれば、異なる圧力下での粉末抵抗率を得ることができる工程を含む。本出願において、試験圧力は12Mpaに設定することができる。測定機器は、蘇州晶格ST2722-SZ型四探針法粉末抵抗率測定器であってもよい。
【0124】
いくつかの実施形態において、上記正極材料組成物の比表面積は、8m/g~20m/gであり、選択可能的に8m/g~15m/gである。正極材料組成物の比表面積を適切な範囲に調整することにより、それを用いた正極シートと電解液との界面での副反応を減少させ、二次電池の体積膨張を減少することができる。これにより、二次電池により良い電気化学的性能を有させることができる。正極材料組成物の比表面積は、当該技術分野で既知の方法により測定することができる。例えば、GB/T 19587-2017を参照して、窒素ガス吸着法比表面積分析試験方法によって試験し、BET(BrunauerEmmett Teller)法により算出することができる。窒素ガス吸着法比表面積分析試験は、米国Micromeritics社のTri-Star 3020型比表面積孔径分析試験機により行うことができる。
製造方法
【0125】
本出願の第2の態様は、本出願の第1の態様に係る正極材料組成物の製造方法を提供し、以下のコア材料を提供する工程、被覆工程及び混合工程を含む。
【0126】
コア材料を提供する工程において、上記コアは、Li1+xMn1-y1-zを含み、ここで、xは-0.100~0.100であり、選択可能的に-0.100~0.006であり、yは0.001~0.500であり、選択可能的に0.100~0.450であり、zは0.001~0.100であり、上記Aは、Zn、Al、Na、K、Mg、Mo、W、Ti、V、Zr、Fe、Ni、Co、Ga、Sn、Sb、Nb及びGeから選択される1種類又は複数種類であり、選択可能的にFe、Ti、V、Ni、Co及びMgから選択される1種類又は複数種類であり、上記Rは、B、Si、N及びSから選択される1種類又は複数種類である。
【0127】
被覆工程において、MP粉末と、炭素を含むソースのXPO懸濁液を提供し、上記コア材料、MP粉末を、炭素を含むソースのXPO懸濁液に加えて混合し、焼結して正極活物質を得、ここで、上記MとXは、それぞれ独立に、Li、Fe、Ni、Mg、Co、Cu、Zn、Ti、Ag、Zr、Nb及びAlから選択される1種類又は複数種類であり、得られた正極活物質は、コア-シェル構造を有し、上記コアと、上記コアを被覆するシェルとを含み、上記シェルは、上記コアを被覆する第1の被覆層と、上記第1の被覆層を被覆する第2の被覆層とを含み、上記第1の被覆層は、ピロリン酸塩MP及びリン酸塩XPOを含み、上記第2の被覆層は炭素を含む。
【0128】
混合工程において、得られた正極活物質をオルガノポリシロキサン化合物、選択可能的な粘着剤及び選択可能的な導電剤と均一に混合して正極材料組成物を得る。
【0129】
本出願の製造方法は、材料の由来に特に制限がない。選択可能的に、本出願の製造方法におけるコア材料は、市販されていてもよく、本出願の方法によって製造されてもよい。選択可能的に、上記コア材料は、以下の方法によって製造される。
【0130】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、上記コア材料を提供する工程は、以下の工程(1)及び工程(2)を含む。工程(1)において、マンガン源、元素A源及び酸を容器に混合して撹拌し、元素Aがドープされたマンガン塩粒子を得る。工程(2)において、上記元素Aがドープされたマンガン塩粒子をリチウム源、リン源及び元素R源と溶媒中で混合してスラリーを得て、不活性ガス雰囲気の保護下で焼結した後、元素A及び元素Rがドープされたリン酸マンガンリチウムを得、ここで、上記元素A及び元素Rがドープされたリン酸マンガンリチウムは、Li1+xMn1-y1-zであり、xは-0.100~0.100であり、選択可能的に-0.100~0.006であり、yは0.001~0.500であり、選択可能的に0.100~0.450であり、zは0.001~0.100であり、上記Aは、Zn、Al、Na、K、Mg、Mo、W、Ti、V、Zr、Fe、Ni、Co、Ga、Sn、Sb、Nb及びGeから選択される1種類又は複数種類であり、選択可能的にFe、Ti、V、Ni、Co及びMgから選択される1種類又は複数種類であり、上記Rは、B、Si、N及びSから選択される1種類又は複数種類である。
【0131】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、上記工程(1)は、20℃~120℃の温度で行うことができ、選択可能的に25℃~80℃の温度で行うことができる。
【0132】
いくつかの実施形態において、上記工程(1)における上記撹拌は、500rpm~700rpmで60分間~420分間、選択可能的に120分間~360分間行われる。
【0133】
ドープ時の反応温度、撹拌速度及び混合時間を制御することにより、ドープ元素を均一に分布させ、格子欠陥を減少させ、マンガンイオンの溶出を抑制し、正極活物質と電解液との界面での副反応を減少させ、正極活物質のグラム容量及びレート性能等を向上させることができる。
【0134】
なお、本出願において、ある元素源は、当該元素の単体、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、有機酸塩、酸化物又は水酸化物のうちの1種類又は複数種類を含んでもよい。その前提として、当該ソースは、本出願の製造方法を実現することができる。例として、上記元素A源は元素Aの単体、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、有機酸塩、酸化物又は水酸化物から選択される1種類又は複数種類であり、及び/又は、上記元素R源は元素Rの単体、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、有機酸塩、酸化物又は水酸化物及び元素Rの無機酸から選択される1種類又は複数種類である。
【0135】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、本出願におけるマンガン源は、単体マンガン、二酸化マンガン、リン酸マンガン、シュウ酸マンガン、炭酸マンガンから選択される1種類又は複数種類である。
【0136】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、元素Aは鉄であり、且つ選択可能的に、鉄源は、炭酸第一鉄、水酸化鉄、硫酸第一鉄から選択される1種類又は複数種類である。
【0137】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、工程(1)において、上記酸は、例えばシュウ酸などの有機酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸から選択される1種類又は複数種類であり、選択可能的に、シュウ酸である。いくつかの実施形態において、上記酸は、濃度が60重量%以下の希酸である。
【0138】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、元素Rの無機酸は、リン酸、硝酸、ホウ酸、亜ケイ酸、オルトケイ酸から選択される1種類又は複数種類である。
【0139】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、本出願におけるリチウム源は、炭酸リチウム、水酸化リチウム、リン酸リチウム、リン酸二水素リチウムから選択される1種類又は複数種類である。
【0140】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、本出願におけるリン源は、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸アンモニウム及びリン酸からなる群から選択される1つ又は複数である。
【0141】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、本出願における炭素源は有機炭素源であり、且つ、有機炭素源は、デンプン、スクロース、グルコース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、クエン酸から選択される1種類又は複数種類である。
【0142】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、本出願に係る製造方法において使用される溶媒は、当該技術分野で一般的に使用される溶媒である。例えば、本出願の製造方法における溶媒は、それぞれ独立にエタノール、水(例えば脱イオン水)から選択される少なくとも1種類であってもよい。
【0143】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、A元素がドープされたマンガン塩粒子を製造する過程において、溶液のpHを4~6に制御する。なお、本出願において、当該技術分野において一般的に用いられる方法により得られた混合物のpHを調節することができる。例えば、酸又はアルカリを添加することにより得ることができる。
【0144】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、工程(2)において、上記元素Aがドープされたマンガン塩粒子とリチウム源、リン源とのモル比は、1:(0.5~2.1):(0.5~2.1)である。
【0145】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、工程(2)において、焼結条件は、不活性ガス、又は不活性ガスと水素ガスとの混合雰囲気下で600℃~800℃で4時間~10時間焼結することである。これにより、焼結後の材料の結晶化度がより高くなり、正極活物質のグラム容量及びレート性能等を向上させることができる。
【0146】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、不活性ガスと水素ガスの混合物は、窒素ガス(70体積%~90体積%)+水素ガス(10体積%~30体積%)である。
【0147】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、上記MP粉末は、市販されている製品である。或いは、選択可能的に、上記MP粉末は、元素M源及びリン源を溶媒に添加して、混合物を得て、混合物のpHを4~6に調整し、撹拌して十分に反応させた後、乾燥、焼結することにより得られ、ここで、Mは、Li、Fe、Ni、Mg、Co、Cu、Zn、Ti、Ag、Zr、Nb及びAlから選択される1種類又は複数種類である。
【0148】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、MP粉末の製造過程において、上記乾燥工程は、100℃~300℃、選択可能的に150℃~200℃で、4時間~8時間乾燥する。
【0149】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、MP粉末の製造過程において、上記焼結工程は、500℃~800℃、選択可能的に650℃~800℃で、不活性ガス雰囲気下で4時間~10時間焼結する。
【0150】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、上記炭素源を含むXPO懸濁液は、市販されている。或いは、選択可能的に、それは、リチウム源、X源、リン源及び炭素源を溶媒中で均一に混合した後、反応混合物を60℃~120℃に昇温して2時間~8時間保持することにより、炭素源を含むXPO懸濁液を得ることで製造する。選択可能的に、炭素源を含むXPO懸濁液を製造する過程において、上記混合物のpHを4~6に調節する。
【0151】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、被覆工程において、上記A元素及びR元素がドープされたリン酸マンガンリチウム(コア)、MP粉末及び炭素を含むソースのXPO懸濁液の質量比は、1:(0.001~0.05):(0.001~0.05)である。
【0152】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、上記被覆工程において正極活物質を得る時の焼結温度は500℃~800℃であり、焼結時間は4時間~10時間である。
【0153】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、本出願の二層で被覆されたリン酸マンガンリチウムの正極活物質の一次粒子のメディアン径Dv50は50nm~2000nmである。
正極シート
【0154】
本出願の第3の態様は、正極シートを提供し、正極シートは、正極集電体と、正極集電体の少なくとも一方の表面に設けられた正極膜層とを含み、上記正極膜層は、本出願の第1の態様の正極材料組成物、又は本出願の第2の態様の方法によって製造された正極材料組成物を含み、且つ、上記正極材料組成物の上記正極膜層における含有量は、50重量%以上であり、上記正極膜層の総重量に基づいて算出するものである。上記正極集電体は、その厚み方向に対向する二つの表面を有し、上記正極膜層は、上記正極集電体の対向する二つの表面に設けられている。
【0155】
いくつかの実施形態において、選択可能的に、上記正極材料組成物の上記正極膜層における含有量は、90重量%~100重量%であり、上記正極膜層の総重量に基づいて算出するものである。
【0156】
正極膜層は、本出願の第1の態様の正極材料組成物、又は本出願の第2の態様の方法によって製造された正極材料組成物以外の他の成分を排除するものではない。例えば、正極膜層は、本出願の二層で被覆されたリン酸マンガンリチウムの正極活物質以外の他の正極活物質をさらに含んでもよい。選択可能的に、上記他の正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物及びその改質化合物のうちの少なくとも1種類を含んでもよい。例として、上記他の正極活物質は、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルト酸化物、リチウムマンガンコバルト酸化物、リチウムニッケルマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物及びそのそれぞれの改質化合物のうちの少なくとも1種類を含んでもよい。
【0157】
いくつかの実施形態において、上記正極集電体は、金属箔又は複合集電体を用いることができる。金属箔の例としては、アルミニウム箔を用いることができる。複合集電体は、高分子材料基層と、高分子材料基層の少なくとも一方の表面に形成された金属材料層とを含むことができる。例として、金属材料は、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀、銀合金から選択される少なくとも1種類であってもよい。例として、高分子材料基層は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などから選択することができる。
【0158】
いくつかの実施形態において、上記正極膜層と非水有機溶媒との間の固液接触角は、3°~90°、選択可能的に3°~60°、さらには10°~30°である。接触角が適切な範囲内にあると、二次電池は、高いエネルギー密度と、改善されたサイクル性能、安全性能、及び/又はレート性能とを兼ね備えることができる。また、接触角が小さすぎると、正極活物質の表面に対する電解液中の酸性物質の浸食を効果的に緩和することができず、サイクル性能を向上させる作用が顕著ではない可能性があり、接触角が大きすぎると、正極膜層への電解液の濡れ性が悪くなり、二次電池のレート性能及びサイクル性能などに影響を及ぼす可能性がある状況を効果的に避けることができる。正極膜層と非水有機溶媒との固液接触角は、当該技術分野の周知の意味を有し、当該技術分野において周知の方法を用いて試験を行うことができる。例えば、GBT 30693-2014を参照して測定することができる。一つの例示的な試験方法は、室温で、非水有機溶剤の液滴を正極シートの表面に滴下し、接触角測定装置により60秒間の接触角を測定する工程を含む。試験機器は、ドイツLAUDA Scientific社のLSA 200型光接触角測定器を使用することができる。非水有機溶媒は、当該技術分野で周知の二次電池の非水電解液に用いられる非水有機溶媒を用いることができる。選択可能的に、上記非水有機溶媒は、エチレンカーボネート(EC)を使用する。
【0159】
いくつかの実施形態において、上記正極膜層の空隙率は、15%~50%であり、選択可能的に15%~30%である。空隙率が適切な範囲内にあると、二次電池は、高いエネルギー密度と、改善されたサイクル性能、安全性能、及び/又はレート性能とを兼ね備えることができる。また、空隙率が小さすぎると、正極膜層への電解液の濡れ性が悪くなり、二次電池のレート性能やサイクル性能に影響を及ぼす可能性があり、空隙率が大きすぎると、二次電池全体のエネルギー密度に影響を及ぼす可能性がある。正極膜層の空隙率は、当該技術分野の周知の意味を有し、当該技術分野の周知の方法により測定することができる。例えば、粘着テープにより正極膜層を剥離した後にGB/T 24586-2009を参照して測定することができる。空隙率P=[(V2-V1)/V2]×100%である。V1(cm)は、真体積を表し、小分子径を有する不活性ガス(例えばヘリウムガス)を利用して置換法によりアルキメデスの原理とボーア法則を結合して測定することができる。V2(cm)は見かけの体積を表し、V2=S×H×A、S(cm)は面積を表し、H(cm)は厚さを表し、Aは試料数を表す。
【0160】
いくつかの実施形態において、上記正極膜層の抵抗は、0より大きく6Ω以下である。これにより正極シートが良好な導電能力を備え、二次電池がより良好な動的性能を有することを保証することができる。正極膜層の抵抗は当該技術分野の周知の意味を有し、当該技術分野の周知の方法を用いて試験を行うことができ、例えば、電極シート抵抗器を用いて試験を行う。1つの例示的な測定方法は、片面に塗布され、且つ冷間プレスされた正極シート(両面に塗布された正極シートであれば、先にその一方の面を拭き取った正極膜層)を電極シート抵抗器の2つの導電端子の間に平行に置き、一定の圧力を加えて固定することで、正極膜層の抵抗を得る。選択可能的に、導電端子の直径は14mmであってもよく、加えられる圧力は15MPaから27Mpaであってもよく、サンプル点の時間範囲は10秒から20秒であってもよい。試験機器は、IESTBER1000型電極シート抵抗器を採用することができ、元能科技有限公司からのものである。
【0161】
いくつかの実施形態において、上記正極膜層と上記正極集電体との粘着力は0.5MPa以上である。この範囲では、正極シートの粉落ち現象の発生を防止でき、二次電池性能の発揮に有利である。正極膜層と正極集電体との粘着力は、当該技術分野の周知の意味を有し、当該技術分野の周知の方法を用いて試験を行うことができる。1つの例示的な試験方法として、正極シートを長さ100mm、幅10mmの試験試料に切断し、幅25mmのステンレス板を1本取り、両面テープ(例えば、幅が11mmである)を貼り付け、試験試料をステンレス板の両面テープに貼り付け、2000gのプレスロールでその表面を3回往復させ(例えば、ロールプレス速度300mm/min)、試験試料を180°折り曲げ、手動で試験試料の正極膜層と正極集電体を25mm剥がし、当該試験試料を試験機(例えば、INSTRON336)に固定し、剥離面を試験機の力線に一致させ、試験機が30mm/minで連続的に剥離して剥離力曲線を得、平坦なセグメントの平均値を剥離力Fとし、正極膜層と正極集電体との粘着力は、F/試験試料の幅である。
【0162】
いくつかの実施形態において、上記正極膜層の面密度は、0.006g/cm~0.065g/cmである。これにより、二次電池の体積エネルギー密度の向上に有利である。正極膜層の面密度は、当該分野の周知の意味を有し、当該分野の周知の方法を用いて試験を行うことができる。1つの例示的な試験方法において、片面に塗布され、冷間プレスされた正極シート(両面に塗布された正極シートであれば、先にそのうちの一方の面の正極膜層を拭き取る)を、面積がSの小さいウェハに打ち抜き、その重量を秤量してMと記録され、その後、上記秤量した正極シートの正極膜層を拭き取り、正極集電体の重量を秤量し、Mと記録され、正極膜層の面密度は、(M-M)/Sである。
【0163】
いくつかの実施形態において、電解液に対する上記正極膜層の吸液速度は0.0125μg/s~100μg/sであり、選択可能的に0.5μg/s~40μg/sである。これにより、電解液が電極アセンブリに対して良好な濡れ性を有することを確保し、電解液を電極アセンブリの内部に迅速に入らせ、正極シートの表面に新しいSEI膜をタイムリーに形成するため、二次電池の電気化学的性能を向上させることができる。
【0164】
上記正極膜層は、通常、正極スラリーを正極集電体に塗布し、乾燥、冷間プレスして形成される。上記正極スラリーは、通常、正極活物質と、選択可能的な導電剤と、選択可能的な粘着剤と、任意の他の成分とを溶媒に分散させて均一に撹拌することによって形成される。溶媒は、N-メチルピロリドン(NMP)であってもよいが、これに限定されない。
【0165】
なお、本出願の提供した各正極膜層のパラメータ(例えば接触角、空隙率、抵抗、粘着力、面密度、電解液に対する吸液速度など)は、いずれも正極集電体の片側の正極膜層のパラメータを指す。正極膜層が正極集電体の両側に設けられている場合、いずれか一方の正極膜層のパラメータが本出願を満たすと、本出願の保護範囲内に入ると考えられる。
【0166】
また、上記正極膜層に対する各パラメータの試験は、正極シート又は電池の製造過程においてサンプリングして試験してもよく、製造した電池からサンプリングして試験してもよい。
【0167】
上記試験試料が製造された電池からサンプリングされる場合に、例として、電池を放電処理(安全のために、一般的に電池を完全放電状態にする)を行い、電池を解体した後に正極シートを取り出し、ジメチルカーボネート(DMC)を用いて正極シートを一定時間(例えば、2時間~10時間)浸漬した後、正極シートを取り出して一定の温度及び時間で乾燥処理(例えば、60℃、4時間)し、乾燥した後に正極シートを取り出し、この時、乾燥後の正極シートをサンプリングして本出願の上記の正極膜層に関する各パラメータを試験することができる。
二次電池
【0168】
本出願の第4の態様は、本出願の第3の態様の正極シートを含む二次電池を提供する。
【0169】
二次電池は、充電電池又は蓄電池とも呼ばれ、電池の放電後に充電により活物質を活性化させて使用を継続することができる電池である。通常、二次電池は電極アセンブリと電解質を含み、電極アセンブリは正極シート、負極シート及びセパレータを含む。セパレータは、正極シートと負極シートとの間に設けられ、主に、正負極の短絡を防止する役割を果たし、同時に、活性イオンを通過させることができる。電解質は、正極シートと負極シートとの間で活性イオンを伝導する役割を果たす。
[正極シート]
【0170】
本出願の二次電池に用いられる正極シートは、本出願の第3の態様のいずれかの実施例に記載の正極シートである。
[負極シート]
【0171】
いくつかの実施形態において、上記負極シートは、負極集電体と、上記負極集電体の少なくとも一方の表面に設けられ、負極活物質を含む負極膜層とを含む。例えば、上記負極集電体は、厚み方向に対向する二つの表面を有し、上記負極膜層は、上記負極集電体の対向する二つの表面のいずれか1つ又は両者に設けられている。
【0172】
上記負極活物質としては、当該技術分野の周知の二次電池用の負極活物質を用いることができる。例として、上記負極活物質は、天然黒鉛、人造黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、シリコン系材料、スズ系材料、チタン酸リチウムのうちの少なくとも1種類を含むが、これらに限定されない。上記ケイ素系材料は、単体ケイ素、ケイ素酸化物、ケイ素炭素複合物、ケイ素窒素複合物、ケイ素合金材料のうちの少なくとも1種類を含んでもよい。上記スズ系材料は、単体スズ、スズ酸化物及びスズ合金材料のうちの少なくとも1種類を含んでもよい。本出願はこれらの材料に限定されず、二次電池の負極活物質として用いられる従来周知の他の材料を用いてもよい。これらの負極活物質は、1種類のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0173】
いくつかの実施形態において、上記負極膜層は、選択可能的に、負極導電剤をさらに含んでもよい。本出願において、上記負極導電剤の種類は特に制限されない。例として、上記負極導電剤は、超電導カーボン、導電性黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンナノファイバーのうちの少なくとも1種類を含んでもよい。
【0174】
いくつかの実施形態において、上記負極膜層は、選択可能的に、負極粘着剤をさらに含んでもよい。本出願において、上記負極粘着剤の種類は特に制限されない。例として、上記負極粘着剤は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水溶性不飽和樹脂SR-1B、水性アクリル樹脂(例えば、ポリアクリル酸PAA、ポリメタクリル酸PMAA、ポリアクリル酸ナトリウムPAAS)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ナトリウム(SA)、カルボキシメチルキトサン(CMCS)のうちの少なくとも1種類を含んでもよい。
【0175】
いくつかの実施形態において、上記負極膜層は、選択可能的に、他の助剤をさらに含んでもよい。例として、他の助剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、PTCサーミスタ材料等の増粘剤を含んでもよい。
【0176】
いくつかの実施形態において、上記負極集電体は、金属箔又は複合集電体を用いることができる。金属箔の例としては、銅箔を用いることができる。複合集電体は、高分子材料基層と、高分子材料基層の少なくとも一方の表面に形成された金属材料層とを含むことができる。例として、金属材料は、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀、銀合金から選択される少なくとも1種類であってもよい。例として、高分子材料基層は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などから選択することができる。
【0177】
上記負極膜層は、通常、負極スラリーを負極集電体に塗布し、乾燥、冷間プレスして形成される。上記負極スラリーは、通常、負極活物質、選択可能的な導電剤、選択可能的な粘着剤、他の選択的な助剤を溶媒に分散させて均一に撹拌して形成される。溶媒は、N-メチルピロリドン(NMP)又は脱イオン水であってもよいが、これらに限定されない。
【0178】
上記負極シートは、上記負極膜層以外の他の付加機能層を排除しない。例えば、いくつかの実施例において、本出願に係る負極シートは、上記負極集電体と上記負極膜層との間に挟まれ、上記負極集電体の表面に設けられた導電プライマ層(例えば、導電剤と粘着剤とからなる)をさらに含む。いくつかの他の実施例において、本出願に記載の負極シートは、上記負極膜層の表面を覆う保護層をさらに含む。
[電解質]
【0179】
本出願において、上記電解質の種類は特に限定されず、要求に応じて選択されることができる。例えば、上記電解質は、固体電解質及び液状電解質(電解液)から選択される少なくとも1種類であってもよい。
【0180】
いくつかの実施形態において、上記電解質は電解液を採用している。上記電解液は、電解質塩及び溶媒を含む。
【0181】
上記電解質塩の種類は特に限定されず、実際の要求に応じて選択することができる。いくつかの実施形態において、例として、上記電解質塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF)、ビスフルオロスルホニルイミドリチウム(LiFSI)、ビストリフルオロメタンスルホニルイミドリチウム(LiTFSI)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiTFS)、ジフルオロシュウ酸ホウ酸リチウム(LiDFOB)、ジシュウ酸ホウ酸リチウム(LiBOB)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)、ジフルオロジシュウ酸リン酸リチウム(LiDFOP)、テトラフルオロシュウ酸リン酸リチウム(LiTFOP)のうちの少なくとも1種類を含んでいてもよい。
【0182】
溶媒の種類は特に限定されず、実際の要件に応じて選択することができる。いくつかの実施形態において、例として、溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、メチルエチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ギ酸メチル(MF)、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、酢酸プロピル(PA)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、プロピオン酸プロピル(PP)、酪酸メチル(MB)、酪酸エチル(EB)、1,4-ブチロラクトン(GBL)、スルホラン(SF)、ジメチルスルホン(MSM)、メチルエチルスルホン(EMS)及びジエチルスルホン(ESE)のうちの少なくとも1種類を含んでもよい。
【0183】
いくつかの実施形態において、上記電解液は選択可能的に添加剤をさらに含んでもよい。例えば、上記添加剤は、負極成膜添加剤を含んでもよく、正極成膜添加剤を含んでもよく、例えば、電池の過充電性能を改善する添加剤、電池の高温性能を改善する添加剤、電池の低温電力性能を改善する添加剤などの電池の一部の性能を改善できる添加剤を含んでもよい。
[セパレータ]
【0184】
電解液を用いた二次電池や、固体電解質を用いた二次電池においては、セパレータも含まれる。上記セパレータは、上記正極シートと上記負極シートとの間に設けられ、主に、正負極の短絡を防止する役割を果たし、同時に、活性イオンを通過させることができる。本出願において、上記セパレータの種類は特に制限されず、任意の周知の良好な化学的安定性及び機械的安定性を有する多孔質構造セパレータを選択することができる。
【0185】
いくつかの実施形態において、上記セパレータの材質は、ガラス繊維、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリフッ化ビニリデンのうちの少なくとも1種類を含んでもよい。上記セパレータは、単層フィルムであってもよく、多層複合フィルムであってもよい。上記セパレータが多層複合フィルムである場合、各層の材料は、同一であってもよく、異なってもよい。
【0186】
いくつかの実施形態において、上記正極シート、上記セパレータ及び上記負極シートは、巻回プロセス又は積層プロセスにより電極アセンブリを製造することができる。
【0187】
いくつかの実施形態において、二次電池は、外装を含んでもいい。当該外装は、上述した電極アセンブリ及び電解質の封止に用いられる。
【0188】
いくつかの実施形態において、上記二次電池の外装は、例えば硬質プラスチックケース、アルミケース、スチールケースなどのハードパッケージであってもよい。上記二次電池の外装はソフトパッケージ、例えばバック型ソフトパッケージであってもよい。上記ソフトパッケージの材質はプラスチックであってもよく、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンサクシネート(PBS)などのうちの少なくとも1種類である。
【0189】
本出願において、二次電池の形状は特に限定されず、円柱形、角形又は他の任意の形状であってもよい。図1は、一例としての角型構造の二次電池5である。
【0190】
いくつかの実施形態において、図2に示すように、外装は、ケース51とカバープレート53とを含んでもいい。ケース51は、底板と、底板に接続された側板とを含み、底板と側板とが囲まれて収容室を形成する。ケース51は、収容室と連通する開口を有し、カバープレート53は、上記収容室を封止するように上記開口を覆設する。正極シート、負極シート及びセパレータは、巻回プロセス及び/又は積層プロセスにより電極アセンブリ52を形成することができる。電極アセンブリ52は、上記収容室にパッケージングされる。電解液は、電極アセンブリ52に浸潤する。二次電池5に含まれる電極アセンブリ52の数量は、1つ又は複数であってもよく、要求に応じて調整されてもよい。
【0191】
本出願の二次電池の製造方法は周知である。いくつかの実施形態において、正極シート、セパレータ、負極シート及び電解液を組み立てて二次電池を形成することができる。例として、正極シート、セパレータ、負極シートを巻回プロセス又は積層プロセスにより電極アセンブリを形成し、電極アセンブリを外装内に置き、乾燥した後に電解液を注入し、真空封入、静置、化成、整形などの工程を経て、二次電池を得ることができる。
【0192】
本出願のいくつかの実施例において、本出願の二次電池は、電池モジュールに組み立てられてもよく、電池モジュールに含まれる二次電池の数量は、複数であってもよく、具体的な数量は、電池モジュールの応用及び容量に応じて調整されてもよい。
【0193】
図3は、例としての電池モジュール4の模式図である。図3に示すように、電池モジュール4において、複数の二次電池5は、電池モジュール4の長手方向に沿って順に並んで設けられていてもよい。もちろん、他の任意の方式で配置されてもよい。さらに、この複数の二次電池5を留め具により固定してもよい。
【0194】
選択可能的に、電池モジュール4は、収容空間を有するケースをさらに含み、複数の二次電池5は、当該収容空間に収容される。
【0195】
いくつかの実施形態において、上記電池モジュールは、電池パックに組み立てられてもよい。電池パックに含まれる電池モジュールの数量は、電池パックの用途及び容量に応じて調整されてもよい。
【0196】
図4及び図5は、例としての電池パック1の模式図である。図4及び図5に示すように、電池パック1は、電池ケースと、電池ケースに設けられた複数の電池モジュール4とを含んでもよい。電池ケースは、上ケース2と下ケース3とを含み、上ケース2が下ケース3を覆設して電池モジュール4を収容するための密閉空間を形成する。複数の電池モジュール4は、任意の方式で電池ケースに配置されてもよい。
電力消費装置
【0197】
本出願の第5の態様は、本出願の二次電池、電池モジュール、又は電池パックのうちの少なくとも1種類を含む電力消費装置を提供する。上記二次電池、電池モジュール又は電池パックは、上記電力消費装置の電源として用いられてもよいし、上記電力消費装置のエネルギー貯蔵手段として用いられてもよい。上記電力消費装置は、モバイル機器(例えば、携帯電話、ノートパソコンなど)、電気自動車(例えば、純粋な電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動自転車、電動スクーター、電動ゴルフカート、電気トラックなど)、電車、船舶、及び衛星、エネルギー貯蔵システムなどであってもよいが、これらに限定されない。
【0198】
上記電力消費装置は、需要に応じて二次電池、電池モジュール又は電池パックを選択することができる。
【0199】
図6は、一例としての電力消費装置の模式図である。この電力消費装置は、純粋な電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車などである。この電力消費装置の高出力及び高エネルギー密度の要求を満たすために、電池パック又は電池モジュールを採用することができる。
【0200】
別の例としての電力消費装置は、携帯電話、タブレットコンピュータ、ノートパソコンなどであってもよい。この電力消費装置は、通常、薄型化が求められており、電源として二次電池を採用することができる。
実施例
【0201】
以下の実施例は本出願の内容をより具体的に説明するものであるが、これらの実施例は例示的な説明に過ぎず、本出願の開示内容の範囲内で様々の修正及び変更を行うことは当業者にとって明らかである。以下の実施例において記載されているすべての数量、百分率、及び比の値は、特記しない限り、すべて質量基準に基づくものである。また、実施例において使用されるすべての試薬は、市販されているか、又は従来の方法に従って合成されてもよく、また、さらなる処理を必要とせずにそのまま使用することができる。また、実施例において使用される装置は、いずれも市販されている。
【0202】
【表0】
実施例1-1
正極活物質の製造
(1)共ドープしたリン酸マンガンリチウムコアの製造
【0203】
Fe、Co及びVが共ドープされたシュウ酸マンガンの製造:炭酸マンガン(MnCOで計算する、以下同じ)689.5g、炭酸第一鉄(FeCOで計算する、以下同じ)455.2g、硫酸コバルト(CoSOで計算する、以下同じ)4.6g、二塩化バナジウム(VClで計算する、以下同じ)4.9gを混合機で6時間十分に混合する。混合物を反応釜に移し、脱イオン水5リットルとシュウ酸二水和物1260.6g(C.2HOで計算する、以下同じ)を加える。反応釜を80℃に加熱し、反応が終了するまで(気泡発生なし)600rpmの回転速度で6時間撹拌して、Fe、Co、V及びSが共ドープされたシュウ酸マンガン懸濁液を得る。その後、上記懸濁液を濾過し、ケーキを120℃で乾燥し、次に研磨して、メディアン径Dv50が100nmであるFe、Co及びVが共ドープされたシュウ酸マンガン二水和物粒子を得る。
【0204】
Fe、Co、V及びSが共ドープされたリン酸マンガンリチウムの製造:前工程で得られたシュウ酸マンガン二水和物粒子(1793.4g)、炭酸リチウム369.0g(LiCOで計算する、以下同じ)、濃度60%の希硫酸(60%HSOで計算する、以下同じ)1.6g、リン酸二水素アンモニウム1148.9g(NHPOで計算する、以下同じ)1148.9gを脱イオン水20リットルに加え、混合物を10時間撹拌して均一に混合させ、スラリーを得る。上記スラリーを噴霧乾燥機器に移して噴霧乾燥して造粒を行い、乾燥温度を250℃に設定し、4時間乾燥させ、粉末材料を得る。窒素ガス(90体積%)+水素ガス(10体積%)の保護雰囲気中で、上記粉末材料を700℃で4時間焼結し、Fe、Co、V及びSが共ドープされたリン酸マンガンリチウムであるコア1572.1gを得る。
(2)ピロリン酸鉄リチウム及びリン酸鉄リチウムの製造
【0205】
ピロリン酸鉄リチウム粉末の製造:炭酸リチウム4.77g、炭酸第一鉄7.47g、リン酸二水素アンモニウム14.84g、シュウ酸二水和物1.3gを脱イオン水50mLに溶解する。混合物のpHは5であり、2時間撹拌して反応混合物を十分に反応させる。その後、反応後の溶液を80℃に昇温して当該温度で4時間保持し、LiFePを含む懸濁液を得、懸濁液をろ過し、脱イオン水で洗浄し、120℃で4時間乾燥し、粉末を得る。上記粉末を650℃、窒素ガス雰囲気下で8時間焼結し、室温まで自然に冷却した後、研磨してLiFeP粉末を得る。
【0206】
リン酸鉄リチウム懸濁液の製造:炭酸リチウム11.1g、炭酸第一鉄34.8g、リン酸二水素アンモニウム34.5g、シュウ酸二水和物1.3g、スクロース(C122211で計算する、以下同じ)74.6gを脱イオン水150mLに溶解して混合物を得た後、6時間撹拌して上記混合物を十分に反応させる。その後、反応後の溶液を120℃まで昇温して当該温度で6時間保持し、LiFePOを含む懸濁液を得る。
(3)被覆
【0207】
上記Fe、Co、V及びSが共ドープされたリン酸マンガンリチウム(コア)1572.1gと、上記ピロリン酸鉄リチウム(LiFeP)粉末15.72gを、前工程で製造されたリン酸鉄リチウム(LiFePO)懸濁液に加え、均一に撹拌混合した後、真空オーブンに移して150℃で6時間乾燥させる。その後、生成物をサンドミルにより分散させる。分散した後、得られた生成物を窒素ガス雰囲気中、700℃で6時間焼結し、目的生成物である二層で被覆されたリン酸マンガンリチウム、即ち正極活物質を得る。
正極シートの製造
【0208】
正極活物質、導電剤としてのアセチレンブラック、粘着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びアミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサン(極性官能基が-CHNH及び-CHNH-、質量百分率αが約12%、数平均分子量が3700)を、重量比93.4:1.5:4.5:0.6で撹拌機において材料が均一に混合するまで撹拌して、正極材料組成物を得る。次に、上記正極材料組成物をN-メチルピロリドン(NMP)に加え、撹拌して均一に混合させ、正極スラリーを得る。その後、正極スラリーを塗布面密度0.018g/cmでアルミニウム箔に均一に塗布し、乾燥、冷間プレス、スリットを経て正極シートを得る。
負極シートの製造
【0209】
負極活物質の人造黒鉛、ハードカーボン、導電剤としてのアセチレンブラック、粘着剤としてのスチレンブタジエンゴム(SBR)、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)を重量比で90:5:2:2:1で溶剤としての脱イオン水に溶解させ、撹拌して均一に混合した後、負極スラリーを製造する。負極スラリーを塗布面密度0.0075g/cmで負極集電体の銅箔に均一に塗布し、乾燥、冷間プレス、スリットを経て負極シートを得る。
電解液の製造
【0210】
アルゴンガス雰囲気のグローブボックス中(HO<0.1ppm、O<0.1ppm)に、有機溶媒としてエチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)を体積比3/7で均一に混合し、上記有機溶媒に12.5重量%(上記有機溶媒の重量に基づいて計算する)のLiPFを加えて溶解させ、均一に攪拌し、電解液を得る。
セパレータの製造
【0211】
市販の厚さ20μm、平均孔径80nmのPP-PE共重合体の微孔フィルム(卓高電子科技公司、型式20)を用いる。
フルセルの製造
【0212】
上記で得られた正極シート、セパレータ、負極シートを順に積層し、セパレータを正極と負極との間にして分離の機能を発揮し、巻回して電極アセンブリを得る。電極アセンブリを外装内に入れ、上記電解液を注入して封止し、フルセルを得る。
コインセルの製造
【0213】
正極活物質、導電剤としてのアセチレンブラック、粘着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びアミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサン(極性官能基が-CHNH及び-CHNH-、質量百分率αが約12%、数平均分子量が3700)を重量比89.4:5:5:0.6で撹拌機において材料が均一に混合するまで撹拌して、正極材料組成物を得る。その後、上記正極材料組成物をNMPに加え、乾燥室で撹拌してスラリーとする。アルミニウム箔に上記スラリーを塗布し、乾燥し、冷間プレスして正極シートを製造する。塗布面密度は0.015g/cm、圧密度は2.0g/cmである。
【0214】
負極としてリチウムシートを採用し、体積比1:1:1のエチレンカーボネート(EC)+ジエチルカーボネート(DEC)+ジメチルカーボネート(DMC)に1mol/LのLiPFの溶液を電解液として採用し、上記で製造した正極シートとともに、コインセルボックスにコインセルを組み立てる。
実施例1-2~実施例1-33
【0215】
正極活物質の製造を除いて、他の工程は実施例1-1のプロセスと同様である。
実施例1-2~実施例1-6
【0216】
正極活物質の製造:共ドープされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において、二塩化バナジウム及び硫酸コバルトを用いず、炭酸第一鉄463.4g、60%濃度の希硫酸1.6g、リン酸二水素アンモニウム1148.9g及び炭酸リチウム369.0gを用いた以外は、実施例1-2~実施例1-6におけるリン酸マンガンリチウムコアの製造条件は実施例1-1と同様である。また、ピロリン酸鉄リチウム及びリン酸鉄リチウムの製造過程及び第1の被覆層及び第2の被覆層を被覆する過程において、使用した原料を表1に示す被覆量と実施例1-1に対応する被覆量との比に応じて調整することで、実施例1-2~実施例1-6におけるLiFeP/LiFePOの使用量がそれぞれ12.6g/37.7g、15.7g/47.1g、18.8g/56.5g、22.0g/66.0g、及び25.1g/75.4gとなり、実施例1-2~実施例1-6におけるスクロースの使用量は37.3gとなることを除いて、他の条件は実施例1-1と同様である。
実施例1-7~実施例1-10
【0217】
正極活物質の製造:第2の被覆層としての炭素層の対応被覆量をそれぞれ31.4g、62.9g、78.6g及び94.3gになるように、スクロースの使用量をそれぞれ74.6g、149.1g、186.4g及び223.7gとしたことを除いて、実施例1-7~実施例1-10の条件は実施例1-3と同様である。
実施例1-11~実施例1-14
【0218】
正極活物質の製造:ピロリン酸鉄リチウム及びリン酸鉄リチウムの製造過程において、表1に示す被覆量に応じて各種類の原料の使用量を調整することで、LiFeP/LiFePOの使用量がそれぞれ23.6g/39.3g、31.4g/31.4g、39.3g/23.6g及び47.2g/15.7gとなることを除いて、実施例1-11~実施例1-14の条件は実施例1-7と同様である。
実施例1-15
【0219】
正極活物質の製造:共ドープされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において、炭酸第一鉄の代わりに炭酸亜鉛492.80gを用いたことを除いて、実施例1-15の条件は実施例1-14と同様である。
実施例1-16~実施例1-18
【0220】
正極活物質の製造:実施例1-16では、共ドープされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において、炭酸第一鉄の代わりに炭酸ニッケル466.4g、炭酸亜鉛5.0g及び硫酸チタン7.2gを用い、実施例1-17では、共ドープされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において、炭酸第一鉄455.2g及び二塩化バナジウム8.5gを用い、実施例1-18では、共ドープされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において、炭酸第一鉄455.2g、二塩化バナジウム4.9g及び炭酸マグネシウム2.5gを用いたことを除いて、実施例1-16~実施例1-18の条件は実施例1-7と同様である。
実施例1-19~実施例1-20
【0221】
正極活物質の製造:実施例1-19では、共ドープされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において、炭酸リチウム369.4gを用い、且つ希硫酸の代わりに60%濃度の希硝酸1.05gを用い、実施例1-20は、共ドープされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において、炭酸リチウム369.7gを用い、希硫酸の代わりに亜ケイ酸0.78gを用いたことを除いて、実施例1-19~実施例1-20の条件は、実施例1-18と同様である。
実施例1-21~実施例1-22
【0222】
正極活物質の製造:実施例1-21は、共ドープされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において、炭酸マンガン632.0g、炭酸第一鉄463.30g、二塩化バナジウム30.5g、炭酸マグネシウム21.0g及び亜ケイ酸0.78gを用い、実施例1-22は、共ドープされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において、炭酸マンガン746.9g、炭酸第一鉄289.6g、二塩化バナジウム60.9g、炭酸マグネシウム42.1g及び亜ケイ酸0.78gを用いたことを除いて、実施例1-21~実施例1-22の条件は実施例1-20と同様である。
実施例1-23~実施例1-24
【0223】
正極活物質の製造:実施例1-23は、共ドープされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において、炭酸マンガン804.6g、炭酸第一鉄231.7g、リン酸二水素アンモニウム1156.2g、ホウ酸1.2g(質量分率99.5%)及び炭酸リチウム370.8gを用い、実施例1-24は、共ドープされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において、炭酸マンガン862.1g、炭酸第一鉄173.8g、リン酸二水素アンモニウム1155.1g、ホウ酸1.86g(質量分率99.5%)、炭酸リチウム371.6gを用いたことを除いて、実施例1-23~実施例1-24の条件は実施例1-22と同様である。
実施例1-25
【0224】
正極活物質の製造:実施例1-25は、共ドープされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において、炭酸リチウム370.1g、亜ケイ酸1.56g及びリン酸二水素アンモニウム1147.7gを用いたことを除いて、実施例1-25の条件は実施例1-20と同様である。
実施例1-26
【0225】
正極活物質の製造:実施例1-26は、共ドープされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において、炭酸リチウム368.3g、質量百分率60%の希硫酸4.9g、炭酸マンガン919.6g、炭酸第一鉄224.8g、二塩化バナジウム3.7g、炭酸マグネシウム2.5g及びリン酸二水素アンモニウム1146.8gを用いたことを除いて、実施例1-26の条件は実施例1-20と同様である。
実施例1-27
【0226】
正極活物質の製造:実施例1-27は、共ドープされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において、炭酸リチウム367.9g、濃度60%の希硫酸6.5g及びリン酸二水素アンモニウム1145.4gを用いたことを除いて、実施例1-27の条件は実施例1-20と同様である。
実施例1-28~実施例1-33
【0227】
正極活物質の製造:実施例1-28~実施例1-33は、共ドープされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において、炭酸マンガン1034.5g、炭酸第一鉄108.9g、二塩化バナジウム3.7g及び炭酸マグネシウム2.5gを用い、炭酸リチウムの使用量がそれぞれ367.6g、367.2g、366.8g、366.4g、366.0g及び332.4gであり、リン酸二水素アンモニウムの使用量がそれぞれ1144.5g、1143.4g、1142.2g、1141.1g、1139.9g及び1138.8gであり、濃度60%の希硫酸の使用量がそれぞれ8.2g、9.8g、11.4g、13.1g、14.7g及び16.3gであることを除いて、実施例1-28~実施例1-33の条件は実施例1-20と同様である。
実施例2-1~実施例2-3
【0228】
正極活物質の製造の以外に、他の条件は実施例1-1のプロセスと同様である。
実施例2-1
【0229】
正極活物質の製造:ピロリン酸鉄リチウム(LiFeP)の製造過程において粉末焼結工程における焼結温度を550℃とし、焼結時間を1時間として、LiFePの結晶化度が30%となるように制御し、リン酸鉄リチウム(LiFePO)の製造過程において被覆焼結工程における焼結温度を650℃とし、焼結時間を2時間として、LiFePOの結晶化度が30%となるように制御したことを除いて、他の条件は実施例1-1と同様である。
実施例2-2
【0230】
正極活物質の製造:ピロリン酸鉄リチウム(LiFeP)の製造過程において粉末焼結工程における焼結温度を550℃とし、焼結時間を2時間として、LiFePの結晶化度が50%となるように制御し、リン酸鉄リチウム(LiFePO)の製造過程において被覆焼結工程における焼結温度を650℃とし、焼結時間を3時間として、LiFePOの結晶化度が50%となるように制御したことを除いて、他の条件は実施例1-1と同様である。
実施例2-3
【0231】
正極活物質の製造:ピロリン酸鉄リチウム(LiFeP)の製造過程において粉末焼結工程における焼結温度を600℃とし、焼結時間を3時間として、LiFePの結晶化度が70%となるように制御し、リン酸鉄リチウム(LiFePO)の製造過程において被覆焼結工程における焼結温度を650℃とし、焼結時間を4時間として、LiFePOの結晶化度が70%となるように制御したことを除いて、他の条件は実施例1-1と同様である。
実施例3-1~実施例3-5
【0232】
フルセルの製造及びコインセルの製造において、正極材料組成物中のアミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサンの重量百分率を調整したことを除いて、他の条件はいずれも実施例1-1のプロセスと同様である。
実施例3-1
【0233】
フルセルの製造:正極活物質、導電剤としてのアセチレンブラック、粘着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びアミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサン(極性官能基が-CHNH及び-CHNH-、質量百分率αが約12%、数平均分子量が3700)を重量比93.99:1.5:4.5:0.01で撹拌機において材料が均一に混合するまで撹拌して、正極材料組成物を得る。
【0234】
コインセルの製造:正極活物質、導電剤としてのアセチレンブラック、粘着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びアミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサン(極性官能基が-CHNH及び-CHNH-、質量百分率αが約12%、数平均分子量が3700)を重量比89.99:5:5:0.01で撹拌機において材料が均一に混合するまで撹拌して、正極材料組成物を得る。
実施例3-2
【0235】
フルセルの製造:正極活物質、導電剤としてのアセチレンブラック、粘着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びアミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサン(極性官能基が-CHNH及び-CHNH-、質量百分率αが約12%、数平均分子量が3700)を重量比93.9:1.5:4.5:0.1で撹拌機において材料が均一に混合するまで撹拌して、正極材料組成物を得る。
【0236】
コインセルの製造:正極活物質、導電剤としてのアセチレンブラック、粘着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びアミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサン(極性官能基が-CHNH及び-CHNH-、質量百分率αが約12%、数平均分子量が3700)を重量比89.9:5:5:0.1で撹拌機において材料が均一に混合するまで撹拌して、正極材料組成物を得る。
実施例3-3
【0237】
フルセルの製造:正極活物質、導電剤としてのアセチレンブラック、粘着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びアミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサン(極性官能基が-CHNH及び-CHNH-、質量百分率αが約12%、数平均分子量が3700)を重量比93:1.5:4.5:1で撹拌機において材料が均一に混合するまで撹拌して、正極材料組成物を得る。
【0238】
コインセルの製造:正極活物質、導電剤としてのアセチレンブラック、粘着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びアミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサン(極性官能基が-CHNH及び-CHNH-、質量百分率αが約12%、数平均分子量が3700)を重量比89:5:5:1で撹拌機において材料が均一に混合するまで撹拌して、正極材料組成物を得る。
実施例3-4
【0239】
フルセルの製造:正極活物質、導電剤としてのアセチレンブラック、粘着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びアミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサン(極性官能基が-CHNH及び-CHNH-、質量百分率αが約12%、数平均分子量が3700)を重量比92:1.5:4.5:2で撹拌機において材料が均一に混合するまで撹拌して、正極材料組成物を得る。
【0240】
コインセルの製造:正極活物質、導電剤としてのアセチレンブラック、粘着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びアミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサン(極性官能基が-CHNH及び-CHNH-、質量百分率αが約12%、数平均分子量が3700)を重量比88:5:5:2で撹拌機において材料が均一に混合するまで撹拌して、正極材料組成物を得る。
実施例3-5
【0241】
フルセルの製造:正極活物質、導電剤としてのアセチレンブラック、粘着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びアミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサン(極性官能基が-CHNH及び-CHNH-、質量百分率αが約12%、数平均分子量が3700)を重量比89:1.5:4.5:5で撹拌機において材料が均一に混合するまで撹拌して、正極材料組成物を得る。
【0242】
コインセルの製造:正極活物質、導電剤としてのアセチレンブラック、粘着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びアミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサン(極性官能基が-CHNH及び-CHNH-、質量百分率αが約12%、数平均分子量が3700)を重量比85:5:5:5で撹拌機において材料が均一に混合するまで撹拌して、正極材料組成物を得る。
実施例3-6~実施例3-23
【0243】
フルセルの製造及びコインセルの製造において、正極材料組成物中のアミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサンをそれぞれ以下のオルガノポリシロキサン化合物に置き換えたことを除いて、他の条件は実施例1-1のプロセスと同様である。
【0244】
実施例3-6:ポリジメチルシロキサン(極性官能基の質量百分率αが約0%、数平均分子量が1200)。
【0245】
実施例3-7:ポリメチルクロロプロピルシロキサン(極性官能基が-CHCl、質量百分率αが約30.2%、数平均分子量が約2500)。
【0246】
実施例3-8:ポリメチルトリフロロプロピルシロキサン(極性官能基が-CF、質量百分率αが約44.0%、数平均分子量が約1400)。
【0247】
実施例3-9:メルカプトプロピルポリシロキサン(極性官能基が-CHSH、質量百分率αが約15.0%、数平均分子量が2000)。
【0248】
実施例3-10:末端ヒドロキシポリジメチルシロキサン(極性官能基が-OH、質量百分率αが3.4%、数平均分子量が1000)。
【0249】
実施例3-11:メトキシ末端ポリジメチルシロキサン(極性官能基がメトキシ基、質量百分率αは約3.1%、数平均分子量が2800)。
【0250】
実施例3-12:末端ポリエーテルポリジメチルシロキサン(極性官能基がポリエーテルセグメント、質量百分率αが約10.0%、数平均分子量が2110)。
【0251】
実施例3-13:側鎖リン酸エステルグラフトポリジメチルシロキサン(極性官能基がリン酸エステル基、質量百分率αが約1.4%、数平均分子量が15600)。
【0252】
実施例3-14:1,3,5,7-オクタメチルシクロテトラシロキサン(極性官能基の質量百分率αが約0%、分子量が280)。
【0253】
実施例3-15:シクロペンタポリジメチルシロキサン(極性官能基の質量百分率αが約0%、分子量が370)。
【0254】
実施例3-16:末端ポリエーテルポリジメチルシロキサン(極性官能基がポリエーテルセグメント、質量百分率αが約55.0%、数平均分子量が25132)。
【0255】
実施例3-17:ポリジメチルシロキサン(極性官能基の質量百分率αが約0%、数平均分子量が400)。
【0256】
実施例3-18:ポリジメチルシロキサン(極性官能基の質量百分率αが約0%、数平均分子量が10000)。
【0257】
実施例3-19:ポリジメチルシロキサン(極性官能基の質量百分率αが約0%、数平均分子量が50000)。
【0258】
実施例3-20:ポリジメチルシロキサン(極性官能基の質量百分率αが約0%、数平均分子量が80000)。
【0259】
実施例3-21:ポリジメチルシロキサン(極性官能基の質量百分率αが約0%、数平均分子量が100000)。
【0260】
実施例3-22:ポリジメチルシロキサン(極性官能基の質量百分率αが約0%、数平均分子量が300000)。
【0261】
実施例3-23:ポリジメチルシロキサン(極性官能基の質量百分率αが約0%、数平均分子量が400000)。
比較例1~比較例7
【0262】
正極活物質を以下の方法で製造し、且つフルセルの製造及びコインセルの製造において、正極材料組成物にアミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサンを添加しないことを除いて、その他はいずれも実施例1-1のプロセスと同様である。
比較例1
【0263】
シュウ酸マンガンの製造:炭酸マンガン1149.3gを反応釜に入れ、脱イオン水5リットルとシュウ酸二水和物1260.6g(C・2HOで計算する、以下同じ)を加える。反応釜を80℃に加熱し、反応が終了するまで(気泡発生なし)600rpmの回転速度で6時間撹拌して、シュウ酸マンガン懸濁液を得る。その後、上記懸濁液を濾過し、ケーキを120℃で乾燥し、次に研磨し、メディアン径Dv50が100nmであるシュウ酸マンガン二水和物粒子を得る。
【0264】
炭素で被覆されたリン酸マンガンリチウムの製造:上記で得られたシュウ酸マンガン二水和物粒子1789.6g、炭酸リチウム369.4g(LiCOで計算する、以下同じ)、リン酸二水素アンモニウム1150.1g(NHPOで計算する、以下同じ)、スクロース(C122211で計算する、以下同じ)31gを脱イオン水20リットルに加え、混合物を10時間撹拌して均一に混合させて、スラリーを得る。上記スラリーを噴霧乾燥機器に移して噴霧乾燥造粒を行い、乾燥温度を250℃に設定し、4時間乾燥させ、粉末材料を得る。窒素ガス(90体積%)+水素ガス(10体積%)の雰囲気中で、上記粉末材料を700℃で4時間焼結し、炭素で被覆されたリン酸マンガンリチウムを得る。
比較例2
【0265】
炭酸マンガン689.5gを用い、且つ炭酸第一鉄463.3gを追加したことを除いて、比較例2の他の条件は比較例1と同様である。
比較例3
【0266】
リン酸二水素アンモニウム1148.9gと炭酸リチウム369.0gを用い、60%濃度の希硫酸1.6gを追加したことを除いて、比較例3の他の条件は比較例1と同様である。
比較例4
【0267】
炭酸マンガン689.5g、リン酸二水素アンモニウム1148.9g、炭酸リチウム369.0gを用い、炭酸第一鉄463.3g、濃度60%の希硫酸1.6gを追加したことを除いて、比較例4の他の条件は比較例1と同様である。
比較例5
【0268】
ピロリン酸鉄リチウム粉末の製造:炭酸リチウム9.52g、炭酸第一鉄29.9g、リン酸二水素アンモニウム29.6g、シュウ酸二水和物32.5gを脱イオン水50mLに溶解させる。混合物のpHは5であり、2時間撹拌して反応混合物を十分に反応させる。その後、反応後の溶液を80℃に昇温して当該温度で4時間保持し、LiFePを含む懸濁液を得、懸濁液をろ過し、脱イオン水で洗浄し、120℃で4時間乾燥し、粉末を得る。上記粉末を500℃、窒素ガス雰囲気下で4時間焼結し、室温まで自然に冷却した後に研磨し、LiFePの結晶化度が5%となるように制御し、炭素で被覆された材料を製造した場合、LiFePの使用量は62.8gである。上記工程を別に追加したことを除いて、比較例5のその他の条件は比較例4と同様である。
比較例6
【0269】
リン酸鉄リチウム懸濁液の製造:炭酸リチウム14.7g、炭酸第一鉄46.1g、リン酸二水素アンモニウム45.8g、シュウ酸二水和物50.2gを脱イオン水500mLに溶解した後、6時間攪拌して混合物を十分に反応させ、そして、反応後の溶液を120℃に昇温して当該温度で6時間保持してLiFePOからなる懸濁液を得る工程を追加したことを除いて、且つ、リン酸鉄リチウム(LiFePO)の製造過程において被覆焼結工程における焼結温度を600℃、焼結時間を4時間として、LiFePOの結晶化度が8%となるように制御したことを除いて、且つ、炭素で被覆された材料を製造する場合、LiFePOの使用量は62.8gであることを除いて、比較例6のその他の条件は比較例4と同様である。
比較例7
【0270】
ピロリン酸鉄リチウム粉末の製造:炭酸リチウム2.38g、炭酸第一鉄7.5g、リン酸二水素アンモニウム7.4g、シュウ酸二水和物8.1gを脱イオン水50mLに溶解する。混合物のpHは5であり、2時間撹拌して反応混合物を十分に反応させる。その後、反応後の溶液を80℃に昇温して当該温度で4時間保持し、LiFePを含む懸濁液を得、懸濁液をろ過し、脱イオン水で洗浄し、120℃で4時間乾燥し、粉末を得る。上記粉末を500℃、窒素ガス雰囲気下で4時間焼結し、室温まで自然に冷却した後に研磨し、LiFePの結晶化度が5%となるように制御する。
【0271】
リン酸鉄リチウム懸濁液の製造:炭酸リチウム11.1g、炭酸第一鉄34.7g、リン酸二水素アンモニウム34.4g、シュウ酸二水和物37.7g、スクロース37.3g(C122211で計算する、以下同じ)を1500mL脱イオン水に溶解後、6時間攪拌して混合物を十分に反応させる。その後、反応後の溶液を120℃まで昇温して当該温度で6時間保持し、LiFePOを含む懸濁液を得る。
【0272】
被覆:得られたピロリン酸鉄リチウム粉末15.7gを、上記リン酸鉄リチウム(LiFePO)及びスクロースの懸濁液に加え、製造過程において被覆焼結工程における焼結温度を600℃、焼結時間を4時間として、LiFePOの結晶化度が8%となるように制御する以外に、比較例7の他の条件は比較例4と同様であり、非晶質ピロリン酸鉄リチウム、非晶質リン酸鉄リチウム、炭素で被覆された正極活物質を得る。
比較例8
【0273】
フルセルの製造及びコインセルの製造において、アミノエチルアミノプロピルポリジメチルシロキサンを添加しないことを除いて、他の条件は実施例1-1のプロセスと同様である。
相関パラメータの試験
1.コアの化学式及び異なる被覆層の組成の測定:
【0274】
球面収差補正走査透過型電子顕微鏡(ACSTEM)を用いて正極活物質の内部のミクロ構造及び表面構造に対して高空間分解能の特徴付けを行い、三次元再構成技術を結合して正極活物質のコアの化学式及び第1の被覆層、第2の被覆層の組成を得る。
2.コインセルの初期のグラム容量への試験:
【0275】
上記で得られたコインセルを0.1Cで4.3Vまで充電した後、4.3Vの定電圧で電流が0.05mA以下になるまで充電し、5分間静置した後、0.1Cで2.0Vに放電し、この時の放電容量が初期のグラム容量であり、D0と記す。
3.コインセルの平均放電電圧(V)への試験:
【0276】
上記で得られたコインセルを25℃の定温環境下で、5分間静置し、0.1Cで2.5Vまで放電し、5分間静置し、0.1Cで4.3Vまで充電し、その後、4.3Vの定電圧で電流が0.05mA以下になるまで充電し、5分間静置し、その後、0.1Cで2.5Vに放電し、この時の放電容量が初期のグラム容量であり、D0と記し、放電エネルギーが初期エネルギーであり、E0と記し、コインセルの平均放電電圧VがE0/D0である。
4.フルセルの60℃での膨張試験:
【0277】
100%充電状態(SOC)の、上記で得られたフルセルを60℃で貯蔵する。電池の開回路電圧(OCV)及び交流内部抵抗(IMP)を貯蔵前後及び貯蔵中で測定してSOCを監視し、電池の体積を測定する。48時間貯蔵毎にフルセルを取り出し、1時間静置した後に開回路電圧(OCV)、内部抵抗(IMP)を試験し、室温まで冷却した後、排水法で電池の体積を測定する。排水法は、まず、文字板データを自動的に単位変換する天秤で電池の重力Fを単独で測定し、次に電池を完全に脱イオン水(密度が既知であり、1g/cmとする)に置き、この時の電池の重力Fを測定し、電池が受ける浮力FはF-Fであり、そしてアルキメデスの原理F=ρ×g×Vに基づいて、電池の体積V=(F-F)/(ρ×g)を算出する。
【0278】
OCV、IMPの試験結果から見れば、本試験過程において貯蔵が終了するまで、全ての実施例の電池は常に99%以上のSOCを保持する。
【0279】
30日間貯蔵後、電池の体積を測定し、貯蔵前の電池の体積に対する、貯蔵後の電池の体積の増加のパーセントを算出する。
5.フルセルの45℃でのサイクル性能の試験:
【0280】
上記で得られたフルセルを、45℃の定温環境下で、1Cで4.3Vまで充電した後、4.3Vの定電圧で電流が0.05mA以下になるまで充電する。5分間静置した後、1Cで2.5Vまで放電し、このときの放電容量をD0記す。放電容量がD0の80%まで低下するまで、前述の充放電サイクルを繰り返す。このときの電池のサイクル回数を記録する。
6.遷移金属の溶出試験:
【0281】
容量が80%に減衰したまで45℃でサイクルするフルセルを0.1Cレートでカットオフ電圧2.0Vまで放電した。その後、電池を解体して負極シートを取り出し、負極シート上に単位面積(1540.25mm)のウエハをランダムに30個取り、Agilent ICP-OES730で誘導結合プラズマ発光スペクトル(ICP)を試験する。ICP結果から、Fe(正極活物質のMnサイトにFeがドープされている場合)及びMn量を算出し、サイクル後のMn(及びMnサイトにドープしたFe)の溶出量を算出する。試験基準はEPA-6010D-2014に準拠する。
7.格子変化率の測定方法:
【0282】
25℃の定温環境下で、上記で得られた正極活物質の試料をXRD(型式Bruker D8 Discover)に置き、1°/分で試料を試験し、試験データに対して整理分析を行い、標準PDFカードを参照し、この時の格子定数a0、b0、c0及びv0を算出した(a0、b0及びc0は単位格子の各方向における長さの大きさを示し、v0は単位格子の体積を示し、XRDによる修正結果から直接取得できる)。
【0283】
上記のコインセルの製造方法を採用して、上記正極活物質の試料をコインセルに製造し、上記コインセルを0.05Cの小いレートで電流が0.01Cに減少するまで充電する。次に、コインセル中の正極シートを取り出し、ジメチルカーボネート(DMC)に8時間浸漬する。その後、乾燥し、粉を掻き落とし、粒径が500nm未満の粒子を選別する。サンプリングして上記試験新鮮試料と同様にしてその単位格子の体積v1を算出し、(v0~v1)/v0×100%をそのリチウムの完全挿入・脱離前後の格子変化率(単位格子の体積変化率)として表に示す。
8.Li/Mn反構造欠陥濃度の試験:
【0284】
「格子変化率測定方法」で測定したXRD結果を標準結晶のPDF(Powder Diffraction File)カードと比較し、Li/Mn反構造欠陥濃度を得る。具体的には、「格子変化率測定方法」で測定したXRD結果を、一般的な構造解析システム(GSAS)のソフトウェアに導入し、異なる原子のサイト情報を含む仕上げ結果を自動的に取得し、仕上げ結果からLi/Mn反構造欠陥濃度を取得する。
9.表面酸素の価数の試験:
【0285】
上記製造された正極活物質の試料5gを、上記のコインセルの製造方法に従って、コインセルに製造する。また、コインセルに対して電流が0.01Cに低下するまで0.05Cの小さいレートで充電する。次に、コインセル中の正極シートを取り出し、ジメチルカーボネート(DMC)に置いて8時間浸漬する。その後、乾燥し、粉を掻き落とし、粒径が500nm未満の粒子を選別する。得られた粒子を電子エネルギー損失スペクトル(EELS、使用した機器の型式:Talos F200S)で測定し、エネルギー損失の端構造(ELNES)を取得し、元素の状態密度とエネルギー準位分布の状況を反映する。状態密度とエネルギー準位分布から、価電子帯の状態密度を積分することで、占有する電子数を算出し、充電後の表面酸素の価数を推算する。
10.圧密度の測定:
【0286】
上記製造した正極活物質粉末5gを、締固め専用金型(米国CARVER金型、型式13mm)に置き、金型を圧密度計にセットする。3T(トン)のプレス力を加え、プレス力下の粉末の厚さ(脱圧後の厚さ、試験のための容器の面積は1540.25mmである)を機器上で読み出し、ρ=m/vにより圧密度を算出する。
11.X線回折法でピロリン酸塩及びリン酸塩の結晶化度を測定する:
【0287】
上記で得られた正極活物質粉末5gを取り、X線により総散乱強度を測定し、それは空間物質全体の散乱強度の和であり、一次放射線の強度、化学構造、回折に参加する総電子数(即ち、質量)のみにやや関連し、試料の秩序状態に関係なく、回折パターンから結晶散乱及び非結晶散乱を分離し、結晶化度は総散乱強度に対する結晶部分散乱の比である。
12.格子面間隔及び夾角:
【0288】
上記で得られた各正極活物質粉末1gを50mLの試験管に充填し、試験管に10mLの質量分率75%のアルコールを注入した後、十分に撹拌して30分間分散させた後、きれいなディスポーザブルプラスチックピペットで適量の上記溶液を取って300メッシュの銅メッシュに滴下し、この時、一部の粉末は銅メッシュ上に残り、銅メッシュ及び試料をTEM(TalosF200sG2)の試料室に移して試験し、TEM試験の原画像を得る。
【0289】
上記TEM試験により得られた原画像をDigitalMicrographソフトウェアで開き、フーリエ変換(クリック操作を行った後、ソフトウェアにより自動的に完成する)を行って回折模様を得て、回折模様における回折スポットから中心位置までの距離を測ることにより、格子面間隔を得ることができ、夾角は、ブラッグの方程式に基づいて計算することにより得られる。
13.粉末抵抗率の測定:
【0290】
適量のフルセル製造用正極材料組成物の試料粉末を、粉末抵抗率測定機の専用金型に置き、試験圧力を設定すれば、異なる圧力での粉末抵抗率を得ることができる。本出願において、試験圧力は12Mpaである。試験機器は、蘇州晶格ST2722-SZ型四探針法粉末抵抗率測定器である。
14.比表面積の試験:
【0291】
フルセル製造用正極材料組成物の試料粉末を5g採取し、米国Micromeritics社のTri-Star 3020型の比表面積孔径解析試験機により比表面積を試験する。比表面積の算出方法は、BET(BrunauerEmmett Teller)法である。
15.接触角の試験:
【0292】
室温で、エチレンカーボネート(EC)液滴を正極膜層の表面に滴下し、ドイツのLAUDA Scientific社のLSA 200型の光学式接触角測定器を用いて60秒間の固液接触角を測定する。
【0293】
表1は、実施例1-1~実施例1-33、比較例1~比較例8の正極活物質の組成を示す。
【0294】
表2は、実施例1-1~実施例1-33、実施例2-1~実施例2-3、実施例3-1~実施例3-23における正極材料組成物におけるオルガノポリシロキサン化合物の種類及びその含有量を示す。
【0295】
表3は、実施例1-1~実施例1-33、比較例1~比較例8の正極活物質、正極材料組成物、正極シート、コインセル又はフル電を上記性能試験方法に従って測定した性能データを示す。
【0296】
表4は、実施例2-1~実施例2-3の正極活物質、正極材料組成物、正極シート、コインセル又はフル電を上記性能試験方法に従って測定した性能データを示す。
【0297】
表5は、実施例3-1~実施例3-23の正極材料組成物、正極シート、コインセル又はフル電を上記性能試験方法に従って測定した性能データを示す。
【0298】
【表1-1】
【表1-2】
【0299】
【表2】
【0300】
【表3-1】
【表3-2】
【0301】
【表4】
【0302】
【表5】
【0303】
実施例1-1~実施例1-33及び比較例1~比較例8から分かるように、第1の被覆層の存在は、得られた材料のLi/Mnの反構造欠陥濃度及びサイクル後のFe及びMn溶出量を減少させ、電池のグラム容量を向上させ、電池の安全性能及びサイクル性能を改善することに有利である。Mnサイト及びリンサイトにそれぞれ他の元素をドープすると、得られる材料の格子変化率、反構造欠陥濃度及びFe及びMnの溶出量を著しく低下させ、電池のグラム容量を向上させ、電池の安全性能及びサイクル性能を改善することができる。実施例1-1~実施例1-33の正極活物質をオルガノポリシロキサン化合物と組み合わせて使用した後、正極活物質の表面に対する電解液の浸食をさらに緩和し、Fe及びMnの溶出量を減少させることができるため、電池のサイクル性能をさらに改善することができる。
【0304】
実施例1-2~実施例1-6から分かるように、第1の被覆層の量が3.2%から6.4%に増加するにつれて、得られた材料のLi/Mnの反構造欠陥濃度が徐々に低下し、サイクル後にFe及びMnの溶出量が徐々に低下し、対応する電池の安全性能及び45℃でのサイクル性能も改善されるが、グラム容量はやや低下する。選択可能的に、第1の被覆層の総量が4重量%~5.6重量%である場合、対応する電池の総合性能が最適である。
【0305】
実施例1-3及び実施例1-7~実施例1-10から分かるように、第2の被覆層の量が1%から6%に増加するにつれて、得られた材料のサイクル後のFe及びMnの溶出量が徐々に低下し、対応する電池の安全性能及び45℃でのサイクル性能も改善されるが、グラム容量はやや低下した。選択可能的に、第2の被覆層の総量が3重量%~5重量%である場合、対応する電池の総合性能が最適である。
【0306】
実施例1-11~実施例1-15及び比較例5~比較例6から分かるように、第1の被覆層において、LiFeP及びLiFePOが同時に存在し、特にLiFePとLiFePOとの重量比が1:3~3:1であり、特に1:3~1:1であると、電池性能の向上がより顕著となる。
【0307】
図7は実施例1-1で製造した正極活物質コアのXRDスペクトルとリン酸マンガンリチウムのXRD標準スペクトル(00-033-0804)との比較図である。図7に示すように、本出願の正極活物質コアは、リン酸マンガンリチウムのドープ前の主要な特徴ピークの位置とほぼ一致しており、本出願の正極活物質コアに不純物相がなく、二次電池性能の改善は、不純物相ではなく、主に元素ドープによるものであることを表す。
【0308】
表4から分かるように、第1の被覆層におけるピロリン酸塩及びリン酸塩の結晶化度が徐々に増加するにつれて、対応する材料の格子変化率、Li/Mnの反構造欠陥濃度及びFe及びMnの溶出量が徐々に減少し、電池のグラム容量が徐々に増加し、安全性能及びサイクル性能も徐々に向上する。
【0309】
表5から分かるように、正極活物質が同じである場合、適切な極性官能基の含有量、数平均分子量、添加量のうちの1つ又は複数を満たすオルガノポリシロキサン化合物を選択して正極活物質と組み合わせて使用することにより、エネルギー密度及び動的性能に影響を与えないことを前提として、電池のサイクル性能をさらに改善することができる。
【0310】
実施例1-1、実施例3-1~実施例3-5からさらに分かるように、オルガノポリシロキサン化合物の添加量が増加するにつれて、正極活物質組成物の粉末抵抗が低下した後に増加する。可能性のある原因としては、オルガノポリシロキサン化合物の添加量がある範囲内であると、疎水性を有するため、導電剤同士の相互作用を減少し、導電剤の凝集を緩和することができ、これにより、より良好な導電ネットワークを形成することができることである。
【0311】
なお、本出願は上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本出願の技術的範囲において技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いずれも本出願の技術的範囲に含まれる。また、本出願の趣旨を逸脱しない範囲において、当業者が想到できる、実施形態に対して様々な変形を行う、及び実施形態における一部の構成要素を組み合わせて構築される他の形態も、本出願の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】