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特表2025-500850タンパク質凝集を減少させる小分子薬
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-15
(54)【発明の名称】タンパク質凝集を減少させる小分子薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20250107BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250107BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20250107BHJP
   A61K 31/40 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61P43/00 105
A61P25/28
A61K31/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535421
(86)(22)【出願日】2022-12-13
(85)【翻訳文提出日】2024-08-13
(86)【国際出願番号】 US2022081454
(87)【国際公開番号】W WO2023114772
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】63/288,998
(32)【優先日】2021-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.NONIDET
(71)【出願人】
【識別番号】518365086
【氏名又は名称】バイオヴェンチャーズ リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】バラスブラマニアム ミーナクシスンダラム
(72)【発明者】
【氏名】アヤデヴァラ スリニヴァス
(72)【発明者】
【氏名】シュムクラー ライス ロバート ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】グリフィン スー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA151
4C084ZA161
4C084ZB211
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC07
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZB21
(57)【要約】
タンパク質凝集を減少させる小分子薬、及びそれらの使用方法が、本明細書に開示される。本発明の一態様においては、タンパク質凝集体中の凝集タンパク質の存在量を減少させる方法であって、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)に安定に結合する化合物の有効量を対象に投与することを含み、凝集タンパク質が、BSN、SYN1、MAP2、PLEC、RAB10、MAP1A、DCTN、TUBA4A、SPART、PRKDC、又はそれらの任意の組合せを含む、方法が提供される。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質凝集体中の凝集タンパク質の存在量を減少させる方法であって、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)に安定に結合する有効量の化合物を対象に投与することを含み、前記凝集タンパク質が、BSN、SYN1、MAP2、PLEC、RAB10、MAP1A、DCTN、TUBA4A、SPART、PRKDC、又はそれらの組合せを含む、方法。
【請求項2】
前記対象が神経変性疾患に罹患している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記神経変性疾患がアルツハイマー病(AD)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記化合物がMSR1である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
GFAPがリン酸化GFAPである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物が、α-チューブリン、β-チューブリン、又はそれらのオリゴマーに対し無視できるほどの親和性しか有しない、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物の、GFAPに対するΔGbindingが、-40kcal/モル 未満である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記凝集タンパク質が、BSN、SYN1、MAP2、PLEC、RAB10、MAP1A、DCTN、TUBA4A、SPART、及びPRKDCを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
神経変性疾患に罹患している対象の治療のための方法であって、GFAPに安定に結合する有効量の化合物を投与することを含む、方法。
【請求項10】
前記化合物がMSR1である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記神経変性疾患がADである、請求項9又は10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記GFAPがリン酸化GFAPである、請求項9~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記化合物が、α-チューブリン、β-チューブリン、又はそれらのオリゴマーに対し無視できるほどの親和性しか有しない、請求項9~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記化合物のΔGbindingが、-50kcal/モル 未満である、請求項9~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
タンパク質凝集体中の凝集タンパク質の存在量を増加させる方法であって、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)に安定に結合する有効量の化合物を対象に投与することを含み、前記凝集タンパク質が、CBX8、TSPYL5、CDK2、KRT33B、又はそれらの組合せを含む、方法。
【請求項16】
前記対象が神経変性疾患に罹患している、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記神経変性疾患がアルツハイマー病(AD)である、請求項18に記載の方法。
【請求項18】
前記化合物がMSR1である、請求項15~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記GFAPがリン酸化GFAPである、請求項15~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記化合物が、α-チューブリン、β-チューブリン、又はそれらのオリゴマーに対し無視できるほどの親和性しか有しない、請求項15~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記化合物のΔGbindingが、-40kcal/モル 未満である、請求項15~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記凝集タンパク質が、CBX8、TSPYL5、CDK2、及びKRT33Bを含む、請求項16~22のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年12月13日に出願された米国仮特許出願第63/288,998号の優先権の利益を主張するものであり、その内容は参照によりその全体が組み込まれる。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本発明は、米国国立衛生研究所から授与されたP01AG01241117A1及び退役軍人省から授与されたMerit 2 I01 BX001655の政府の支援のもとで行われた。政府は発明に対して一定の権利を有する。
【0003】
電子形式の配列表の参照
電子形式の配列表(169852.00108.xml;サイズ:9,341バイト;作成日:2022年12月12日)の内容の全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)は、主にアストロサイトに見出されるIII型中間径フィラメント構造タンパク質であり、加齢に関連するいくつかの神経病理に関与するとされてきた。GFAPは、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びアレキサンダー病などの進行性神経疾患と関連していることが示された(Helman et al., 2020;Ishiki et al., 2016;Kamphuis et al., 2012;Lee et al., 2017;Middeldorp and Hol, 2011;van Bodegraven et al., 2021)。GFAPの変異はローゼンタール線維の凝集をもたらし、これがアレキサンダー病の原因かつ徴候である(Lee et al., 2017)。GFAPの発現は転写レベルと翻訳後レベルの両方で調節されており、重要な細胞骨格機能に影響を与える。GFAPは複数の成長因子及び核内ホルモン受容体によって転写調節される(Laping et al., 1994)。GFAPの翻訳後修飾(PTM)としては、複数のキナーゼによる部位特異的リン酸化(Battaglia et al., 2019;Clairembault et al., 2014;Herskowitz et al., 2010;Leal et al., 1997;Sullivan et al., 2012)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)におけるアセチル化(Liu et al., 2013)、及びADにおける5個のアルギニン残基のシトルリン化(Ishigami et al., 2015)などが観察されている。その結果生じるGFAPの構造的コンフォメーションの変化は、外傷性脳損傷(Lazarus et al., 2015)又は自己免疫疾患(Jin et al., 2013)の一因となる可能性がある。GFAPのいくつかの一塩基多型は、アレキサンダー病と強い関連性がある(Lee et al., 2017)。
【0005】
従って、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びアレキサンダー病などの神経疾患、並びにそれらと関連する認知症の治療のために、GFAPを標的とする新規薬剤に対する需要が存在する。
【発明の概要】
【0006】
タンパク質凝集を減少させる小分子薬、及びそれらの使用方法が、本明細書に開示される。本発明の一態様においては、タンパク質凝集体中の凝集タンパク質の存在量を減少させる方法であって、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)に安定に結合する化合物の有効量を対象に投与することを含み、凝集タンパク質が、BSN、SYN1、MAP2、PLEC、RAB10、MAP1A、DCTN、TUBA4A、SPART、PRKDC、又はそれらの任意の組合せを含む、方法が提供される。いくつかの実施形態では、対象は、アルツハイマー病などの神経変性疾患を患っている。
【0007】
本発明の別の一態様においては、タンパク質凝集体中の凝集タンパク質の存在量を増加させることが提供され、この方法は、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)に安定に結合する化合物の有効量を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態では、凝集タンパク質は、CBX8、TSPYL5、CDK2、KRT33B、又はそれらの任意の組合せを含む。
本発明の非限定的な実施形態を、実施例により、添付の図面を参照しながら説明するが、これら図面は概略的なものであり、縮尺通りに描かれることを意図したものではない。図面に示されている同一又はほぼ同一の各構成要素は、通常、同じ数字で表されている。すべての図面ですべての構成要素の名称が表示されているわけではなく、また、本発明の各実施形態のすべての構成要素が示されているわけでもない。これは明瞭化のためであり、当業者が本発明を理解するためにそれらの説明が不要なためである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A図1A~1Cは、AMCにおけるよりも、AD凝集体においてGFAPが多く存在しており、より修飾されていることを示す。(図1A)Aβもしくはタウのイムノプルダウン(IP)によって単離されたサルコシル不溶性の凝集体における、又はIPなしの全凝集体における、GFAPのスペクトル数は、ヒトADでは年齢マッチ対照(AMC)の海馬におけるよりも多い。ADとAMCは異分散t検定において差がある:*P<0.05;**P<0.005。
図1B】(図1B)AMC[ApoE(3,3)](配列番号7)、AD[ApoE(3,3)](配列番号8)、又はAD[ApoE(4,4)](配列番号9)の海馬から単離したGFAPで観察された、翻訳後修飾の相違(PTM:Ser又はThr残基のリン酸化、又はMetの酸化)を示す。ペプチドカバレッジをハイライトで示す。
図1C】(図1C)AMC(3,3)と比較したAD(3,3)又はAD(4,4)の海馬凝集体のリン酸化GFAPを、ホスホGFAP(Ser13;ThermoFisher)に対する抗体で検出したウェスタンブロット。***各AD群とAMCの差は、両側異分散t検定においてP<0.0001である。
図2A図2A~2Eは、GFAP構造の分子動力学解析を示す。(図2A)GFAPの初期構造モデル。内部の空洞は、予測される薬剤結合ポケットである。
図2B】(図2B)GFAPの結合ポケット容積を、50ナノ秒間隔で500ナノ秒のスパンで予測したもの。
図2C】(図2C)200ナノ秒における、リガンド結合のための空洞の予測。
図2D】(図2D)AMC(未修飾)GFAPと、AD(3,3)及びAD(4,4)を模倣するためのリン酸化模倣置換を有するGFAPとを、500ナノ秒in silicoシミュレーションにおいて比較した際の、GFAP構造の二乗平均平方根偏差(RMSD)の経時変化。
図2E】(図2E)GFAP(432残基)全体における二乗平均平方根変動(RMSF)の分布。位置変動を残基ごとに示す。(図2D及び図2E図2D及び図2Eの右側のキーは、RMSD値及びRMSF値のカラーコードをそれぞれ示す。
図3A図3A~3Eは、GFAP、又はその推定されるキナーゼを標的とするRNAiノックダウンが、凝集に及ぼす影響を示す。(図3A)ヒト海馬凝集物で観察されたGFAPリン酸化と、その推定されるキナーゼ。
図3B】(図3B)GFAP又はその候補キナーゼを標的とするsiRNAコンストラクトでリポソームを介したトランスフェクションを行った後の、チオフラビンT染色ヒトSH-SY5Y-APPSw細胞の蛍光像。
図3C】(図3C)パネル3bと同様に染色した凝集体の、細胞あたりのチオフラビンT染色の平均±SEMを示すヒストグラム。
図3D】(図3D)記載のsiRNAコンストラクトでトランスフェクションした後の、チオフラビンT染色したヒトT98G細胞。
図3E】(図3E)パネル3dと同様の凝集体のチオフラビンT染色における平均±SEMのヒストグラム。(図3C~3E)バーの上の数字は、両側t検定による、処理群と対照群の差のP値である。ブラケット上の数字は、つないだグループ/バーに対して適用される。
図4A図4A~4Bは、ROCK1タンパク質レベルが、ApoE4導入遺伝子を過剰発現するT98G膠芽腫細胞において、ApoE3を過剰発現するT98G細胞におけるよりも高いことを示す。(図4A)ROCK1タンパク質に対する抗体をプローブとしたウェスタンブロット。
図4B】(図4B)独立したT98G細胞培養物のウェスタンブロットのバンド強度の平均±SEM(それぞれN=5)。t検定においてE4>E3(P<0.0001)。
図5A図5A~5Fは、薬剤MSR1がGFAPと特異的に結合し、それによって凝集におけるGFAPの役割を阻害すると予測されることを説明するものである。(図5A)in silicoスクリーニングで得られた上位3種の薬剤の、MM-GBSA溶媒和ドッキングによって予測された、GFAP結合の安定性(結合のギブス自由エネルギー)を示すヒストグラム。ChemBridge薬剤構造ライブラリーを、GFAPとの結合に関してスクリーニングした。スクリーニングは徐々にストリンジェンシーを増加させながら3段階で行い、その後、チューブリンに対して親和性がある薬剤を除外するためのカウンタースクリーニングを行った。
図5B】(図5B)SY5Y-APPSw細胞をチオフラビンT(緑色蛍光)で染色し、DAPIでカウンター染色した(図示せず)。
図5C】(図5C)細胞あたりのアミロイドが半減したことを示すヒストグラム(チオフラビンTの蛍光を、図5Bに示すような視野あたりのDAPI+核数で除したもの;***P≦0.0005)。
図5D】(図5D)SY5Y-APPSw細胞からの単離後にSYPRO-Rubyで染色した、総サルコシル不溶性凝集体タンパク質。
図5E】(図5E)GFAPのsiRNAノックダウンによって凝集体から完全に除去されたタンパク質のセットは、MSR1によって排除されたセットとほぼ同じである。ベン図は、未処理のSY5Y-APPSw細胞由来のサルコシル不溶性凝集体で同定された251種のタンパク質(≧7ヒット)のプロテオミクス上の重複を示すが、これらはGFAP siRNAを用いたトランスフェクションを行ってから、又は1μM MSR1による処理を行ってから、48時間後には検出されなかった。逆に、未処理細胞の凝集体に存在しなかった4種のタンパク質が、両方の処理細胞群で同定された。
図5F】(図5F)GFAP siRNA処理後(x軸)とMSR1処理後(y軸)の凝集体タンパク質存在量のlog2(倍率変化)の直線回帰。選択されたタンパク質には名称を表示してあり、凝集体架橋(Balasubramaniam et al., 2019)によってGFAPのすぐ近傍にあることが示されたもの(BSN、SYN1、MAP2、PLEC、RAB10、MAP1A、DCTN、TUBA4A、SPART、PRKDC、EEF2、PARP1、NFH、及びH14を含む赤いドット)を含む。破線の矩形内のドットは、いずれの処理によっても変化が2倍未満のものである。回帰はR=0.77であり、F検定による有意性はP<3E-280であった。
図6図6は、MSR-1、MSR-2、及びMSR-3の分子構造を示す。
図7A図7A~7Fは、ADのC.エレガンス(C.elegans)モデルにおいて、MSR1処理が凝集とそれに関連する表現形質を減弱させることを説明するものである。(図7A)C.エレガンスAM141株(Q40::YFPを筋肉で発現するハンチントン病のモデル)におけるBARK又はROCK1のRNAiノックダウンを、GFAPの最も近いC.エレガンスホモログであるIFP-1を標的としたRNAiの効果と比較する。
図7B】(図7B)C.エレガンスCL2355株(ヒトAβ1-42の汎ニューロン発現を示すADモデル)におけるROCK1、BARK、又はAKT2のRNAiノックダウン。
図7C】(図7C)ヒトT98G細胞におけるROCK1、AKT2又はBARKのRNAiノックダウンは、総凝集体負荷(サルコシル不溶性物質の総スペクトル数として測定)を減少させる。
図7D】(図7D)MSR1はC.エレガンスVH255株の筋肉で発現するタウの凝集を防ぐ。
図7E】(図7E)ヒトAβ1-42を汎ニューロンで発現させたADモデルである、C.エレガンスCL2355株の走化性。孵化後5日目の成虫について、n-ブタノールに対する走化性を測定した。
図7F】(図7F)黄色蛍光タンパク質(YFP)をコードする遺伝子にインフレームで融合させたポリグルタミン(Q40)が筋肉で発現することを特徴とするハンチントン病モデルである、C.エレガンスAM141株(q40::yfp)における、虫体あたりの平均凝集体蛍光の計算値。孵化後5日目の成虫でYFP陽性凝集体を計数した。(図7A~7F)対照との差は、両側異分散t検定において有意である(*P≦0.05;**P≦0.005;***P≦0.0005;****P≦0.00005)。実験は3~4回反復し、一貫した結果が得られた。
【発明を実施するための形態】
【0009】
GFAPを標的とし、タンパク質凝集を減少させる小分子薬が本明細書に開示される。本実施例は、アポリポタンパク質E[ε4,ε4]の遺伝子型ApoE(4,4)のAD海馬において、特にAD対象においては、年齢マッチ対照(AMC)と比較して、GFAPが顕著に過剰発現し、リン酸化が異なっていることを示す。AMCと比べ、AD脳の界面活性剤不溶性凝集体は、過剰リン酸化GFAPを特に多く含む。AD脳で観察されるGFAPの部位特異的リン酸化の原因の可能性がある4種のキナーゼ(ROCK1、BARK/GRK、PKA、及びAKT2)は、AMCと比較して、ADで発現が上方制御されており、SH-SY5Y-APPSwヒト神経芽腫細胞又はT98Gヒト膠芽腫細胞でこれらのキナーゼをノックダウンすると、アミロイドの蓄積が有意に減少した。アルツハイマー病様凝集のいくつかのモデル、及びハンチントン病で観察されるポリグルタミン凝集のモデルにおいて、C.エレガンスのオルソロガスなキナーゼをノックダウンすることによっても、タンパク質の凝集、及びそれに関連する行動特性が軽減した。in silicoでのスクリーニングにより、GFAPに安定かつ特異的に結合する、MSR1と呼ばれる薬剤候補が同定された。細胞凝集体は、MSR1曝露又はGFAP特異的RNAiノックダウンによって同程度減少し、枯渇する凝集タンパク質は極めてよく一致する。これらの実施例は、GFAPが、神経障害性凝集体の増加に大きな役割を果たしていることを示す。GFAPは、機能的標的でもあり、有用なバイオマーカーでもあり、また、ADなどの神経変性疾患を予防もしくは緩和するための新規治療標的でもある。
【0010】
グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)は、主にアストロサイトに見出されるIII型中間径フィラメント構造タンパク質であり、加齢に関連するいくつかの神経病理に関与している(Hol and Capetanaki, 2017)。GFAPは、AD(Kamphuis et al., 2012)及びアレキサンダー病(Helman et al., 2020;Lee et al., 2017)の動物モデルに機能的に関連付けられてきた。ヒトCSF又は血清中のGFAPの検出は神経病理学の重要なバイオマーカーであり、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)、及び前頭側頭葉変性症(FTLD)の診断に貢献している(Bartl et al., 2021;Ishiki et al., 2016;Schulz et al., 2021)。
【0011】
GFAP変異はローゼンタール線維を形成する凝集を引き起こすことが多く、ローゼンタール線維はアレキサンダー病で見られるような慢性グリオーシスの原因かつ徴候である(Lee et al., 2017)。GFAPのいくつかの一塩基多型は、この脱髄障害と強く関連している(Lee et al., 2017)。GFAPの発現は複数の成長因子及び核内ホルモン受容体によって転写調節される(Laping et al., 1994)。以前に報告されたGFAPの翻訳後修飾(PTM)としては、アレキサンダー病(Battaglia et al. 2019)、PD(Clairembault et al., 2014)、及びFTLD(Herskowitz et al., 2010)と関連する部位特異的リン酸化;筋萎縮性側索硬化症(ALS)における6個のリジン残基のアセチル化(Liu et al., 2013);並びに、ADにおける5個のアルギニン残基のシトルリン化(Ishigami et al., 2015)などが挙げられる。GFAPのシトルリン化は、外傷性脳損傷(Lazarus et al., 2015)及び自己免疫疾患(Jin et al., 2013)の原因となる場合がある。
【0012】
GFAPは、17番染色体上の単一遺伝子によってコードされており、スプライス部位が異なる10種のアイソフォームとして発現される(Brodie et al., 1998;Kamphuis et al., 2012;Moeton et al., 2016;Thomsen et al., 2013)。主要なアイソフォームであるGFAP-α(432アミノ酸)は中枢神経系(CNS)のグリア細胞とニューロンで高発現しており、その一方、β(ベータ)、γ(ガンマ)、ε(イプシロン)、κ(カッパ)、及びζ(ゼータ)のアイソフォームは、CNSのニューロンとグリア以外にも多くの組織及び細胞型で発現している(Kamphuis et al., 2012;Moeton et al., 2016;Thomsen et al., 2013)。
疾患又は傷害によってニューロンのストレスが引き起こされると、それがアストロサイトの活性化を誘発し、肥大、増殖、及びGFAP発現の増加などの反応が生ずる(de Souza et al., 2020;Fan and He, 2016;Muccigrosso et al., 2016;Nawashiro et al., 1998)。傷害後の最初のグリア活性化は、脳損傷からの回復を可能にする急性期反応である(Dani et al., 2018;Donat et al., 2017)。しかし、長期的なニューロンの傷害又はストレスは、脳機能に悪影響を及ぼす慢性的な神経炎症を引き起こす(Calabrese et al., 2018;Streit et al., 2004)。ADは、タウ特異的なもつれやアミロイド斑などの神経病変を伴う、又はそれらの後に続く、認知症として診断される(Dani et al., 2018;Drummond et al., 2018;Hoenig et al., 2020)。AD患者の海馬では、年齢マッチ対照と比較して、GFAPの上昇が観察された(Ayyadevara et al., 2016b)。
【0013】
実施例は、タンパク質凝集におけるGFAPとそのPTMの役割を示す。実施例は、実質的なリン酸化を欠く年齢マッチ対照(AMC)のGFAPと比べ、ADの海馬のGFAPが過剰にリン酸化されていることを示す。AD特異的リン酸化は、修飾GFAP部位を標的とする可能性のある上流キナーゼのRNAiノックダウンによって減少し、それぞれのノックダウンが、in vitroにおいて、ヒト神経芽腫細胞及びグリオーマ細胞によるアミロイド沈着の顕著な減少をもたらした。ChemBridgeライブラリーから約75万個の小分子構造をスクリーニングし、部分的にアンフォールドされたGFAPに対して特異的な親和性を有する薬剤候補を同定した。これらのうちのひとつはMSR1(図6)と名付けられ、さまざまなADモデル(ヒト細胞又はC.エレガンス)において、タンパク質の凝集及び病変を減少させるのに特に効果的であった。
【0014】
本発明の一態様は、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)と安定に結合する化合物の使用を提供する。本発明の一態様は、凝集体中のタンパク質の存在量を減少させる方法を提供することである。この方法は、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)と安定に結合する化合物の有効量を対象に投与することを含む。「タンパク質凝集体」という用語は、細胞内又は細胞外プロセスで形成される、タンパク質とその他の構成成分の凝集体のことを指す。このプロセスが、ミスフォールドされた、又は本質的に不規則なタンパク質を、それらのコンフォメーションを介して互いに合体させ、不溶性の凝集体を生じさせる。これら凝集体は球状である場合もあり、フィブリルとして構成される場合もある。タンパク質凝集体は、サルコシル(ラウリルサルコシン酸ナトリウム)などの中程度の強度の界面活性剤に不溶性である場合がある。「凝集タンパク質」とは、タンパク質凝集体の中に見出される、又は見出され得るタンパク質のことを指す。
「凝集タンパク質の存在量を減少させる」という用語は、タンパク質の凝集を抑制することを指す。いくつかの実施形態では、タンパク質の凝集が50%以上抑制される。いくつかの実施形態では、タンパク質の凝集が55%、60%、65%、70%、75%、又はそれよりも多く抑制される。実施例で示されるように、MSR1は様々なモデル系でタンパク質の凝集を60~75%抑制した。
【0015】
複数の異なる凝集タンパク質の存在量を減少させる場合もある。いくつかの実施形態では、50種、100種、150種、200種、又は250種以上の凝集タンパク質が、タンパク質凝集体から部分的又は完全に除去される。低減され得る凝集タンパク質としては、限定されるものではないが、図5Fに示されるものが挙げられ、例えば、BSN、SYN1、DLG4、ANK2、GJA1、EPB41L3、SLC25A12、PFKP、PC、MAP2、PLEC、GCN1、RAB10、MAP1A、DCTN、TUBA4A、YWHAG、PRKDC、SPART、EEF2、及びその他のものが挙げられる。いくつかの実施形態において、凝集タンパク質は、GFAPのすぐ近傍のものを含む場合があり、それらの例として、BSN、SYN1、MAP2、PLEC、RAB10、MAP1A、DCTN、TUBA4A、SPART、PRKDC、EEF2、PARP1、NFH、H14、又はそれらの任意の組み合わせなどが挙げられる。「すぐ近傍の」とは、凝集物内の隣接のことを指す。それら以外タンパク質はGFAPに直接接触していない場合があるが、よりGFAPに近接した他のタンパク質を介してGFAPと「連結している」場合がある。タンパク質凝集体から部分的又は完全に除去され得る凝集タンパク質としては、RPS4X、SLC25A5、PSMC1、C11orf98、PRPF40A、TRMT6、CCT5、LARP1、MSH6、UBA1、CSDE1、TARS、EIF2A、UTP20、SNRPE、UQCRC2、CYFIP2、ALDOA、PDS5A、AHCTF1、BANF1、YWHAQ、EP400、SMARCA4、IPO5、DLST、MRPL49、PPP1CB、SLC25A13、GPI、MYH9、GSTM3、RIF1、CHD2、ELAVL4、VARS、SNRPD2、DPYSL3、NSD2、SEPTIN2、PHOX2A、HSPB1、GNAI2、AGO2、FLNB、YWHAB、CHD8、IQGAP1、RBM8A、PDS5B、MTHFD1、MRPL38、EMD、GNAI1、EXOSC7、NPEPPS、CEP170、GAK、PGK1、USP10、XPO5、DPYSL5、LUC7L、FYN、PRMT1、PYGB、NOC3L、ATP2A2、LRPPRC、SF3B1、PDHB、LYN、PDHA1、STRAP、MARS、FLII、FSCN1、TUBB1、TUBB、TUBB3、CDK18、IARS、FLOT2、TUBB6、AGO1、WDR1、RANBP2、CBX1、IPO7、TLN1、NDUFS3、ATAD5、TUBB4B、YWHAG、CRMP1、GLUD1、TUBB2B、NOC2L、GTF3C3、HSPA4、DYNLL2、COX4I1、SEPTIN6、ATP5F1B、SNRPA、RAB39A、TUBB2A、HEATR1、DYNLL1、ZMYM4、CDK12、RAB1B、CHD7、SEPTIN11、PRDX4、ARHGEF2、CLTC、GNA13、HCFC1、YES1、APEH、SIN3A、COX5A、COX5B、LARS、RPS23、AGO3、WDR33、RAB39B、YWHAH、DYNC1H1、PPP1CC、SEPTIN8、SPTBN1、PPP1CA、SART3、TUBB4A、CDK5、NAP1L1、RAB6A、SLC25A11、TUBA1B、SEPTIN7、EXOSC6、SOGA1、DDX19A、ATP13A1、MYO18A、CBR1、GNB2、TUBAL3、CAP1、MYO1B、CTNND1、PUF60、CWC22、MARK3、PLP1、USO1、TUBA4A、DPYSL4、ABCF2、CHD4、ALDOC、GCN1、DPYSL2、TUBA8、ZNF462、GDI1、HSPA4L、MBP、DLAT、FLOT1、PPIL1、HRNR、MAST3、YLPM1、MARK2、VDAC3、ACO2、KIF21A、GNAO1、NEFL、RAB10、INA、CAND1、SLC25A22、STXBP1、NEFM、GNB1、ATIC、AP1B1、AP2M1、CACNA2D1、NIPBL、MAP1B、RAC1、ACTN4、SUCLA2、ATP6AP1、DNAJB2、ALDH2、ATP2B3、CAMK2A、GOT2、DCTN1、AGAP3、MACF1、FARP1、DHX36、CD59、CDC42BPA、SPTAN1、AP2B1、DNM2、GFAP、CAMK2D、PLEC、ACTN1、ATP2B4、THY1、MAP1A、SPTBN2、CKMT1A、TUFM、MAP2、HSPA12A、ATP2B2、CNP、USP5、AP2A2、AARS、ATP1A1、NSF、CAMK2G、LONP1、AP2A1、CKB、ATP2B1、MYCBP2、WDR37、PFKL、EPB41L3、SLC25A12、PFKM、CNTN1、CAMK2B、SPTB、GLS、ATP6V0A1、ATP1A3、PFKP、DNM1、IARS2、ATP1A2、DNM3、DCLK1、PC、GJA1、DLG4、ANK2、CNTNAP1、BSN、SYN1、又はそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0016】
本発明の他の一態様は、タンパク質凝集体中の凝集タンパク質の存在量を増加させる方法を提供することである。この方法は、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)と安定に結合する化合物の有効量を対象に投与することを含む。「凝集タンパク質の存在量を増加させる」という用語は、タンパク質の凝集を抑制することを指す。いくつかの実施形態では、タンパク質の凝集が50%以上増加する。いくつかの実施形態では、タンパク質の凝集が55%、60%、65%、70%、75%、又はそれよりも多く増加する。複数の異なる凝集タンパク質の存在量を増加させる場合もある。増加し得る凝集タンパク質としては、限定されるものではないが、CBX8、TSPYL5、CDK2、KRT33B、又はそれらの任意組み合わせが挙げられる。
「安定に結合する」という用語は、タンパク質に対するΔGbindingが0kcal/モル未満(すなわち負エネルギー)の化合物のことを指す。いくつかの実施形態では、化合物のΔGbindingは-40kcal/モル未満である。いくつかの実施形態では、化合物のΔGbindingは、-43kcal/モル未満、-46kcal/モル未満、-49kcal/モル未満、-50kcal/モル未満、又は-52kcal/モル未満である。
「ΔGbinding」という用語は、結合のギブス自由エネルギーの変化のことを指し、これによって結合プロセスに関連するリガンドとタンパク質の間の予測親和性が推定される。結合親和性の大きさは、リガンドとタンパク質の間の相互作用の強さの尺度であり、従って、リガンドの有効性に直接関係することが多い。
「無視できるほどの親和性(negligible affinity)」という用語は、タンパク質に対するΔGbindingが-7kcal/モル以上の化合物のことを指す。
GFAPと安定に結合する化合物の例としては、限定されるものではないが、以下が挙げられる:MSR1、MSR2、又はMSR3。
「MSR1」という用語は、3-クロロ-N-{[トランス-4-(ヒドロキシメチル)シクロヘキシル]メチル}-4-ピロリジン-1-イルベンズアミドという化合物のことを指す。その分子式はC1927ClN22である。MSR1の構造を図6に示す。
「MSR2」という用語は、3-{[4-(5-クロロ-2-ピリジニル)-1-ピペラジニル]カルボニル}-5,6,7,8-テトラヒドロ-2(1H)-キノリノンという化合物のことを指す。その分子式はC1921ClN42である。MSR2の構造を図6に示す。
「MSR3」という用語は、1-(3-クロロ-4-ピロリジン-1-イルベンゾイル)-4-ピリジン-2-イルピペラジンという化合物のことを指す。その分子式はC2023ClN4Oである。MSR3の構造を図6に示す。
【0017】
いくつかの実施形態では、化合物が、α-チューブリン、β-チューブリン、又はそれらのオリゴマーに対し無視できるほどの親和性しか有しない。「α-チューブリン」及び「β-チューブリン」という用語は、タンパク質であるチューブリンのα及びβサブユニットのことを指す。チューブリンタンパク質は重合して長鎖又はフィラメントになり、それらが微小管を形成する。微小管は生細胞の細胞内骨格系として機能する中空繊維である。微小管には様々なコンフォメーションをとる能力があり、それによって細胞は有糸分裂を行うことができ、又は細胞内輸送を行うことができる。α-チューブリンは比較的広範に存在する微小管成分であるのに対し、β-チューブリンはニューロンの微小管に特異的である。α-及びβ-チューブリンはともに共重合して微小管になる。微小管は真核生物の細胞骨格の主要な成分である。
「オリゴマー」及び「ポリマー」という用語は、複数のサブユニット(ポリペプチド鎖)から構成されるタンパク質のことを指す。従って、オリゴマータンパク質は、タンパク質の構造の階層の中で最も高いレベルの構成と一般的に考えられている、四次構造を有している。オリゴマータンパク質は、同一のポリペプチド鎖だけをいくつかのコピー数有するものであってもよく、この場合、それらタンパク質はホモオリゴマーと呼ばれる。あるいは、2つ以上の異なる種類のポリペプチド鎖を少なくとも1コピーずつ有してもよい(ヘテロオリゴマー)。
【0018】
本明細書に開示された方法において使用される、GFAPと安定に結合する化合物は、以下を含む医薬組成物として製剤化してよい:(a)本明細書に記載の1つ以上のタンパク質分解剤(protein degrader)の治療有効量;及び、(b)1つ以上の薬学的に許容される担体、賦形剤、又は希釈剤。医薬組成物は、約0.1~5000mg(好ましくは約0.5~500mg、より好ましくは約1~100mg)の範囲で上記化合物を含んでよい。医薬組成物の投与を、約0.1~500mg/kg体重(好ましくは約0.5~20mg/kg体重、より好ましくは約0.1~10mg/kg体重)の1日用量で化合物を提供するように行ってよい。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、生物活性剤を更に含んでよい。
本明細書に開示された方法において利用される化合物は、固形剤形の医薬組成物として製剤化してもよいが、薬学的に許容される任意の剤形を利用することができる。固形剤形の例としては、限定されるものではないが、錠剤、カプセル剤、小袋、ロゼンジ、散剤、丸剤、又は顆粒剤などが挙げられる。固形剤形としては、例えば、速溶性剤形、放出制御剤形、凍結乾燥剤形、遅延放出剤形、徐放性剤形、パルス放出剤形、及び、速放性剤形と放出制御剤形の混合剤形、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
本明細書に開示された方法において利用される化合物は、担体を含む医薬組成物として製剤化してよい。担体は、例えば、タンパク質、炭水化物、糖、タルク、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、炭酸カルシウム、及びデンプン-ゼラチンペーストからなる群から選択してよい。
本明細書に開示された方法において利用される化合物は、結合剤、充填剤、滑沢剤、懸濁化剤、甘味剤、香料、保存料、緩衝剤、湿潤剤、崩壊剤、及び発泡剤のうち1つ以上を含む医薬組成物として製剤化してよい。
好適な希釈剤は、例えば、薬学的に許容される不活性充填剤であってよく、それらの例として、微結晶セルロース、ラクトース、リン酸水素カルシウム、糖類、及び前述のいずれかの混合物などが挙げられる。
好適な崩壊剤としては、軽度に架橋したポリビニルピロリドン、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、トウモロコシデンプン、変性デンプン、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、デンプングリコール酸ナトリウム、及びこれらの混合物が挙げられる。
発泡剤の例としては、有機酸と炭酸塩又は重炭酸塩などの、組み合わせ発泡剤(effervescent couple)が挙げられる。あるいは、組み合わせ発泡剤の重炭酸ナトリウム成分だけが存在してもよい。
本明細書に開示された方法において利用される化合物は、任意の適した経路による送達のための医薬組成物として製剤化してよい。例えば、医薬組成物は、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、及び肺経路で投与してよい。経口投与用の医薬組成物の例としては、カプセル剤、シロップ剤、濃縮物、散剤、及び顆粒剤が挙げられる。
本明細書に開示された方法で利用される化合物は、当該分野で周知の従来の手順に従って有効成分を標準的な医薬担体又は希釈剤と組み合わせることによって調製される、従来の剤形で投与してよい。これらの手順には、所望の製剤に適した成分の、混合、造粒、圧縮、又は溶解が含まれ得る。
上記化合物を含む医薬組成物は、任意の適切な経路による投与に対して適合させてよく、経路の例として、経口(口腔又は舌下を含む)、直腸、鼻腔、局所(口腔、舌下、又は経皮を含む)、膣、又は非経口(皮下、筋肉内、静脈内、又は皮内を含む)経路、腹腔内注射、及び点眼などによる局所投与が挙げられる。このような製剤は、例えば有効成分を担体又は賦形剤と結合させるなど、薬学分野で公知の任意の方法によって調製してよい。
製剤は、単位用量又は複数回用量の容器内で提供されてよい。
【0019】
本明細書に開示される組成物及び方法において使用される化合物は、医薬組成物として投与してよく、従って、この化合物を組み込んだ医薬組成物は、本明細書に開示される組成物の実施形態であると考えられる。このような組成物は、薬学的に許容される任意の物理的形態であってよく、例えば、経口投与用の医薬組成物とすることができる。このような医薬組成物は、開示された化合物の有効量を含み、この有効量は、投与される化合物の1日用量と関連する。各用量単位は、特定の化合物の1日用量を含んでもよい。あるいは、各用量単位は、1日用量の一部、例えば2分の1又は3分の1を含んでもよい。各用量単位に含まれる各化合物の量は、治療のために選択された特定の化合物が何であるのか、及び他の要因、例えば、何の適応症に対して化合物が投与されるかなどに部分的に依存し得る。本明細書に開示された医薬組成物は、患者への投与後に、有効成分の速放性、持続性、又は遅延性の放出が提供されるように、周知の手順を用いて製剤化してよい。本明細書に開示された方法に従って使用するための化合物は、単一の化合物として、又は化合物の組み合わせとして投与してよい。例えば、化合物は、単一の化合物として投与してもよいし、同一の、又は異なった薬理活性を有する別の化合物と組み合わせて投与してもよい。
【0020】
上記に示したように、開示された方法においては、上記化合物の薬学的に許容される塩が企図され、それらを利用してもよい。本明細書で使用する「薬学的に許容される塩」という用語は、生体に対して実質的に無毒な化合物の塩のことを指す。典型的な薬学的に許容される塩として、本明細書に開示される化合物を、薬学的に許容される鉱酸もしくは有機酸、又は有機もしくは無機塩基と反応させることによって調製される塩が挙げられる。このような塩は、酸付加塩及び塩基付加塩として知られている。本明細書に開示された化合物のほとんど、又はすべてが塩を形成可能であること、そして多くの場合、塩形態の医薬のほうが、遊離の酸又は塩基よりも結晶化及び精製が容易であるために、一般的に使用されるということが、当業者には理解されよう。
本明細書に開示された化合物の任意の塩の一部を形成する特定の対イオンは、その塩が全体として薬理学的に許容され、対イオンが塩全体に望ましくない性質を与えない限り、化合物の活性にとって重要でない場合がある。望ましくない性質として、望ましくない溶解性又は毒性を含む場合がある。
化合物の薬学的に許容されるエステル及びアミドもまた、本明細書に開示した組成物及び方法に用いることができる。好適なエステルの例としては、アルキル、アリール、及びアラルキルエステル、例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ドデシルエステル、及びベンジルエステルなどが挙げられる。好適なアミドの例としては、無置換アミド、一置換アミド、及び二置換アミド、例えば、メチルアミド、ジメチルアミド、及びメチルエチルアミドなどが挙げられる。
更に、本明細書に開示した方法は、上記化合物、又はそれらの塩、エステル、及び/もしくはアミドの、溶媒和物の形態を用いて実施してもよい。溶媒和物の形態としては、エタノール溶媒和物及び水和物などが挙げられる。
【0021】
本技術の一態様は、GFAPと安定的に結合する化合物を必要とする対象の、治療のための方法を提供する。好適には、方法は、GFAPと安定に結合する化合物の有効量を対象に投与することを含んでよい。本明細書で使用する「治療(treating)」又は「治療すること(to treat)」という用語は、それぞれ、症状を緩和すること、症状が生じた原因を一時的又は永続的に排除すること、及び/又は、特定の疾患又は障害によって生じる症状の出現を予防もしくは遅延させること、あるいは進行もしくは重症度を逆転させることを意味する。従って、本明細書に開示された方法は、治療的投与と予防的投与の両方を包含する。
本明細書で使用する「対象」は、「患者」又は「個体」と互換的であってよく、治療を必要とする動物のことを意味し、動物はヒト又は非ヒト動物であってよい。「治療を必要とする対象」としては、本明細書に開示される化合物を単独で用いた治療又はそれを別の生物活性剤と併用した治療に反応する疾患、障害又は状態を有する対象が挙げられる。疾患、障害、又は状態の例としては、アルツハイマー病もしくはパーキンソン病などの神経変性疾患、外傷性脳損傷、その他の神経学的状態、又は心血管系の状態が挙げられるが、これらに限定されない。「生物活性剤」という用語は、生物活性を有する薬剤として本化合物と組み合わせて使用される、結合体以外の薬剤であって、本化合物の使用目的である治療、阻害、及び/又は予防(prevention/prophylaxis)の達成を補助する薬剤のことを表すために使用される。
【0022】
本明細書で使用する「有効量」という用語は、対象への単回又は複数回の投与時などにおいて所望の効果をもたらす、化合物の量又は用量のことを指す。例えば、癌の治療に関して、有効量は、腫瘍成長速度を減少させ、腫瘍量を減少させ、転移数を減少させ、腫瘍進行までの時間を増加させ、又は、生存時間を少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも100%増加させる、治療薬の量を表す。感作に関して、有効量とは、上記の対象又は細胞の感作をもたらす治療薬の量のことを指す。
有効量は、当業者としての担当診断医が、既知の技術を用いて類似の環境下で得られた結果を観察することにより、決定することができる。投与する化合物の有効量又は用量を決定する際、担当診断医は多くの要素を考慮することができ、それらの例として、対象の種;対象の大きさ、年齢、及び全体的な健康;関係する疾患又は障害の、関連度又は重症度;対象個体の反応;投与される特定の化合物;投与様式;投与される製剤のバイオアベイラビリティ特性;選択される用法;併用薬の使用;並びに、その他の関連する状況;が挙げられる。
【0023】
いくつかの実施形態において、対象は神経変性疾患を有する。「神経変性疾患」という用語は、脳又は末梢神経系の神経細胞が時間とともに機能を失い、最終的に死滅する疾患の一種のことを指す。神経変性疾患は、脳内の不溶性タンパク質凝集体の蓄積によって示される、タンパク質恒常性の破綻によって特徴づけられる。一般的な神経変性疾患としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、プリオン病、運動ニューロン病、ハンチントン病、脊髄小脳失調症、脊髄性筋萎縮症、筋萎縮性側索硬化症、フリードライヒ失調症、レビー小体病、多系統萎縮症、及び進行性核上性麻痺などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
いくつかの実施形態では、対象はアルツハイマー病(AD)を有する。「アルツハイマー病」という語は、脳が収縮(萎縮)し、脳細胞が死滅する進行性の神経疾患のことを指す。ADは、認知症と、思考力、行動力、及び社会性の継続的低下の最も一般的な原因である。AD患者では、脳細胞の結合及び細胞そのものが変性及び死滅し、最終的には記憶と、その他の重要な精神機能が破壊される。
【0024】
他に断りがない限り、又は文脈によって示されない限り、「a」、「an」、「the」という用語は、「1つ以上」を意味する。例えば、「a molecule」は「1つ以上の分子」を意味する解釈されるべきである。
本明細書で使用される「約(about)」、「およそ(approximately)」、「大幅に(substantially)」、及び「かなり(significantly)」という用語は、当業者によって理解され、また、それらの語が使用される文脈によってある程度異なりうる。用語が用いられる文脈において、その使用が当業者にとって不明確である場合、「約(about)」及び「およそ(approximately)」は特定の用語の±10%以内のことを意味し、「大幅に(substantially)」及び「かなり(significantly)」という用語は特定の用語の±10%超のことを意味する。
本明細書において、「含む(include)」及び「含むこと(including)」という語は、「含む(comprise)」及び「含むこと(comprising)」と同じ意味を有する。「含む(comprise)」及び「含むこと(comprising)」という用語は、特許請求の範囲に記載された構成要素に更に追加的な構成要素を含めることを可能にする、「オープンな」移行語であると解釈すべきである。「なる(consist)」及び「からなる(consisting of)」という用語は、特許請求の範囲に記載された構成要素に追加的な構成要素を含めることができない「クローズドな」移行語であると解釈すべきである。「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語は、部分的にクローズドであり、請求項に記載された主題の性質を根本的に変えない追加的な構成要素のみを含めることを可能にすると解釈すべきである。
本明細書に記載されるすべての方法は、本明細書中で他に断りがない限り、又は文脈と明確に矛盾しない限り、任意の適した順番で行われうる。本明細書で提供されるあらゆる実施例、又は例示的な言葉(「など(such as)等」)の使用は、発明をより良く説明することのみを意図しており、他に断りがない限り、本発明の範囲に制限を与えるものではない。本明細書中のいかなる言葉も、請求項に記載されていないいずれかの要素が本発明の実施にとって不可欠なものであることを示すと解釈されるべきではない。
本明細書中に引用されている刊行物、特許出願、及び特許を含む全ての参考文献は、参照により、各参考文献が個々に具体的に参照により本明細書に組み込まれるように示され、その全体が明記された場合と同程度に本明細書に組み込まれるものとする。
本発明の好ましい態様を、本願発明者らが知る、本発明を実施するための最良の形態を含めて、本明細書に記載する。前述の説明を読むことにより、これらの好ましい態様の変形が当業者に明らかになるであろう。本願発明者らは、当業者が適宜このような変形を採用することを期待しており、本願発明者らは、本明細書に具体的に記載された以外の方法で本発明が実施されることを意図している。従って、本発明は、適用される法律によって許可される限り、本明細書に添付の特許請求の範囲に記載された主題のすべての改変物及び均等物を含む。更に、本明細書に別段の断りがない限り、又は文脈上明らかに矛盾する場合を除き、あらゆる可能な変形における上記要素のいずれの組み合わせも本発明に包含される。
【実施例
【0025】
方法
C.エレガンス株:本研究で用いた線虫の株は、すべてCaenorhabditis Genetics Center(CGC;Minneapolis、MN)から入手した。アルツハイマー病様アミロイドーシスの線虫モデルは、ヒトAβ1-42を筋肉で発現するCL4176[smg-1ts;myo-3p::Aβ1-42::let-851 3’-UTR;rol-6(su1006)];及びヒトAβ1-42を全ニューロンで発現するCL2355[smg-1ts;snb-1::Aβ1-42::3’-UTR(long);mtl-2::gfp]であった。AM141株は筋肉中でポリグルタミンレポーター(Q40::YFP)を発現することから、ハンチントン病及び他のいくつかの神経病理で観察されるものと類似したグルタミントラクト凝集のモデルとなっている(Morley et al., 2002)。特に断りのない限り、すべての株は、大腸菌OP50株で被覆した、線虫増殖培地(NGM)を含む2%(w/v)寒天プレート上で20℃にて増殖させた。
【0026】
AβトランスジェニックC.エレガンスCL2355株及びCL4176株における走化性及び麻痺アッセイ。ニューロン(CL2355)又は筋肉(CL4176)でAβ1-42を発現するトランスジェニックC.エレガンス株を、十分な大腸菌(OP50)を用いて20℃で増殖させ、成虫の1日目に虫体を溶解して卵を放出させ、同調コホートを生成した。その後、卵を、GFAPオルソログを標的とするRNAi発現細菌(大腸菌HT115)、又は空ベクター対照細菌を播種した100mmのNGM寒天シャーレに置いた。L3~L4移行期の虫体を、25.5℃にアップシフトしてヒトAβ1-42導入遺伝子の発現を誘導し、48時間後にアッセイを行った。走化性(Dosanjh et al., 2010)及び麻痺(Dostal and Link, 2010)アッセイを既報に従って実施した(Ayyadevara et al., 2017;Ayyadevara et al., 2016b;Ayyadevara et al., 2016d;Kakraba et al., 2019)。
【0027】
ヒトタウ発現C.エレガンスVH255株を用いた麻痺アッセイ。ヒトタウを汎ニューロン的に発現するC.エレガンスVH255株(Brandt et al., 2009)を、大腸菌(OP50)の菌叢を敷いた寒天プレート上で25℃にて維持する。虫体をアルカリ性次亜塩素酸塩溶液で溶解することで未産卵の卵を取得し、それらを用いて同調培養物を生成する。その後、卵を100mmのNGM寒天プレートに移し、MSR1又はMSR2を最終濃度1μMになるようにプレートに加えた。ifp-1のRNAiノックダウンには、二本鎖ifp-1 RNAのエクソンセグメントを発現するHT115株からなる菌叢を用いた(次節参照)。虫体は隔日で洗浄し、新しい薬剤平衡化プレートに加えた。3日目の成虫でアッセイを行い、麻痺した虫体の割合を評価した。
【0028】
C.エレガンスにおけるRNAi。RNA媒介干渉(RNAi)は、mRNA標的のエクソン断片に対応する二本鎖RNAを発現する細菌を摂食することで達成される(Ayyadevara et al., 2016c;Fire et al., 1991;Fire et al., 1998;Kakraba et al., 2019)。簡単に説明すると、アルカリ性次亜塩素酸塩による溶解によって未産卵の卵を放出させることで、虫体の培養物を同調させた。空ベクターL4440(pPD129.36)を有する細菌(大腸菌HT115[DE3])を播種した、又は、ifp-1(ヒトGFAPに相同)、let-502(ヒトROCK1とオルソロガス)、akt-2(AKT2)、kin-1(PKA)、もしくはgrk-1(BARK)を発現する細菌クローンを播種した、IPTG含有NGMプレート上に、孵化前の卵又はL4後期の幼虫を置いた。成虫3日目(孵化後5.5日目)の虫体を撮像して全凝集体蛍光(AM141株)の評価を行ったか、又は麻痺(VH255)もしくはn-ブタノールに対する走化性(CL2355)の評価を行った。
【0029】
ヒト細胞のsiRNAノックダウン及びチオフラビンT染色。対数増殖期の培養物から得たSH-SY5Y-APPSw細胞をトリプシン処理し、リンスした後、96ウェルプレートにウェル当たり10,000細胞ずつプレーティングし、10%ウシ胎児血清(FBS)を添加した「DMEM+F12」(Life Technologies)中、37℃で16時間増殖させた。約40%コンフルエントの細胞に、GFAP(SAS1_Hs01 00227618)、AKT2(SAS1_Hs01 00035058)、ROCK1(SAS1 Hs 00065571)、BARK(SAS1 Hs 00039321)、又はPKA(SAS1 Hs 00217223)を標的とする短鎖干渉RNA(siRNA)コンストラクト(いずれもMillipore-Sigma(St.Louis、USA)から得たもの)をトランスフェクトした。RNAiMax reagent(Life Technologies)を用いて、使用説明書に従い、上記siRNAのトランスフェクションを行った。トランスフェクションの48時間後の細胞を4%(v/v)ホルムアルデヒドで固定し、暗所容器中で0.1%(w/v)チオフラビンTにより染色した。細胞をPBS内で4回洗浄した後、Antifade+DAPI(EMD-ミリポア)で覆い、自動化されたウェルごとのイメージングのためのモーター駆動ステージ付きKeyence蛍光顕微鏡を用いて、各ウェル9視野の蛍光を緑と青のチャンネルでキャプチャーした。チオフラビンT蛍光強度を各ウェルのDAPI+核数で除して細胞あたりのアミロイド比を決定し、平均値±SDとしてまとめた。
【0030】
SH-SY5Y-APPSw細胞のMSR1処理。ヒト神経芽腫(SH-SY5Y-APPSw)細胞を、既報に従って増殖させた(Kakraba et al., 2019;Liu et al., 2005)。凝集傾向を示す「Swedish」二重変異体アミロイド前駆体タンパク質(APPSw)を発現するSH-SY5Y-APPSw細胞を、DMEM+10%(v/v)FBS中で37℃にて培養した。細胞を、トリプシン/EDTA中に懸濁し、バッファー中でリンスしてから再プレーティング又は回収を行った。アッセイ直前に、細胞をDMSO(最終濃度0.02%)に溶解した10μMのMSR1の存在下で、又は対照細胞については0.02% DMSO(溶媒のみ)中で、48時間増殖させた。細胞を回収し、全タンパク質を単離して、凝集体タンパク質を以下のように精製した。
【0031】
pGFAP及びROCK1に対する、グリア(T98G)細胞のウェスタンブロット分析。ヒト膠芽腫細胞(T98G)を、10%FBS(v/v)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Invitrogen/Life Technologies、Grand Island、NY)で維持した。細胞を回収し、溶解バッファー(50mM Tris-HCl(pH7.5)、150mM NaCl、1%(w/v)Nonidet P40、0.1% SDS、0.5% デオキシコール酸ナトリウム)中で細胞のタンパク質を抽出して、Bradford試薬(Bio-Rad)を用いて定量を行った。タンパク質のアリコート(50μg)を4~20%勾配のビス-トリスアクリルアミドゲル(BioRad Life Science、Hercules、CA)上で100Vにて2時間電気泳動し、ニトロセルロース膜に移した。ブロット膜をBSAブロッカー(Pierce)とともにプレインキュベートした後、pGFAP又はROCK-1に対するウサギ抗体(Cell Signaling、1:100希釈)をプローブとして、4℃で一晩反応させた。洗浄後、膜を、二次抗体(HRP結合ヤギ抗ウサギIgG(AbCam、1:10,000希釈)又はウサギ抗ヤギIgG(Rockland Immuno-chemicals、Gilbertsville、PA))とともに室温で1時間インキュベートし、ECL化学発光検出キット(Pierce)を用いて発色させた。データをデジタル化し、ImageJソフトウェア(NIH)を用いて解析した。
【0032】
凝集タンパク質の単離。培養ヒト細胞を回収し、液体窒素中で急速冷凍し、非イオン性界面活性剤(1%(v/v)NP40、20mM Hepes(pH7.4)、300mM NaCl、2mM MgCl2、及びプロテアーゼ/ホスファターゼ阻害剤[CalBiochem])を含む緩衝液の存在下、0℃でホモジナイズした[11、12、37]。ライセートを遠心分離(5分間、3000rpm、4℃)し、デブリを除去した。遠心分離(18分間、13,000×g、4℃)により細胞質タンパク質(1% NP40非イオン性界面活性剤に可溶性)を除去した後、タンパク質ペレットを1%(v/v)サルコシル(ラウリルサルコシン酸ナトリウム)と5mM EDTAとを含む0.1M HEPESバッファーでpH7.4にし、100,000×gで30分間遠心分離した。ペレットタンパク質(サルコシル不溶性画分)をLaemmliローディングバッファー(50mMジチオスレイトール及び2%(v/v)SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含む)中に再懸濁し、95℃で5分間加熱することによって、このバッファーに可溶なタンパク質を溶解し、1%(v/v) SDSを含む4~20%ポリアクリルアミド勾配ゲル上で電気泳動により分離した。ゲルをSYPRO Ruby(ThermoFisher)又はCoomassie Blueで染色し、タンパク質を可視化した。ゲルのレーンをロボット制御によって切断して1mmの薄片にし、トリプシンを用いて完全に消化した。各薄片中のタンパク質を、既報に従って質量分析により同定した(Ayyadevara et al., 2015;Ayyadevara et al., 2016a;Ayyadevara et al., 2016b;Ayyadevara et al., 2016c;Ayyadevara et al., 2016d;Balasubramaniam et al., 2018)。
【0033】
GFAP構造のモデリング及びMDシミュレーション。GFAPの3次元構造を、I-TASSERサーバーベースのアルゴリズムによって実行される、フォールド認識及び非経験的分子軌道法による構造予測法を用いてモデル化した。I-TASSERによって生成された5つの異なるモデルの中から、最も低いエネルギーの配座異性体(conformer)を選び、更に処理を進めた。分子動力学(MD)シミュレーションでは、Schrodinger Desmondシミュレーションスイートのタンパク質作製ウィザードを使用して、モデル構造を作製した。シミュレーション中に生理的条件を近似するため、単純点電荷(SPC)水で満たされた斜方晶系シミュレーションボックスを作成し、局所的に帯電した部位を適切な対イオン(Na+、Cl-)で中和し、更に0.15M NaClを加えて生理的等張状態を達成した。平衡化のため、温度及び圧力をそれぞれ300°K及び110.23kPa(1.1023バール)に保つ。ランダムサンプリングの入力シードを実行ごとに変更し、それぞれ200~500ナノ秒のシミュレーションを少なくとも3回繰り返す。Maestroの「Mutate residue」プラグインの使用により、リン酸化を行うシミュレーションを組み込み、指定された残基をリン酸化された形態に変換した。トラジェクトリー(trajectory)をVMDで可視化し、BIOVIA Discovery Studio(Dassault Systemes)を用いて解析した。
【0034】
分子構造ライブラリーに対する標的タンパク質の仮想スクリーニング。GFAPへのドッキングを目的としたChemBridge分子構造ライブラリーのハイスループット仮想スクリーニングを、まず、Schrodinger Suite Glideモジュールを用いて行った。ChemBridge構造の2Dフォーマットでの取得及び作製を、LigPrepウィザード(Schrodinger Suite)を用いて行った。仮想薬剤スクリーニングの効率を向上するため、3段階の戦略を採用した:(i.)約75万個の分子構造のライブラリー全体を、Glideの高スループットモードでGFAPタンパク質に仮想的にドッキングした;(ii.)高スループットスクリーニングで得られた構造の上位1%を、Glideの標準精度モードでGFAPに再度ドッキングした;そして、(iii.)標準精度ドッキングで得られた構造の上位1%に対し、Schrodinger Suite Primeモジュールを使用して、MM-GBSA条件下で結合自由エネルギーを予測した。最も親和性(avidity)が高い(ΔGbindingが最も低い)タンパク質-リガンド複合体に対してSchrodinger Desmondモジュールを用いてシミュレーションを行い、それらの経時的な安定性を評価した。
【0035】
統計分析。タンパク質凝集、走化性、及び麻痺の反復アッセイのため、対照群と実験群の差の有意性を、各実験を1点として扱ったFisher-Behrensの異分散t検定(不等分散又は未知の分散の標本に対して適切)により評価した。実験内において、割合(麻痺又は走化性の割合)の差を、適宜サンプル数に基づいてカイ二乗検定又はフィッシャーの正確確率検定で評価した。
【0036】
結果
アルツハイマー病の海馬で形成された凝集体は、グリア線維性酸性タンパク質を多く含み、過剰リン酸化しており、そして酸化されている。概して非構造化タンパク質であるグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)は、ADの海馬から得られた界面活性剤不溶性凝集体の3つのサブクラスにおいて、年齢マッチ対照(AMC)の海馬と比較して、2~2.5倍多く含まれる(図1A)。対照凝集体のGFAPには優勢な翻訳後修飾(PTM)はないが、AD凝集体のGFAPでは、3~5個のセリン又はスレオニン残基がリン酸化されている(図1B)。注目すべきことに、GFAPリン酸化シグネチャーは、ApoEアレルε3,ε3又はε4,ε4(それぞれ「3,3」及び「4,4」と略記)を持つ個体間で、高い再現性で異なっていた。AD(3,3)及びAD(4,4)試料のウェスタンブロットでは、ADの組織には、AMCと比較して、過剰リン酸化GFAP(hP-GFAP)が有意に多く含まれることが確認された(図1C)。各遺伝子型群はAMC(3,3)対照試料とP<0.0001で相違する。
【0037】
PEAKSソフトウェア(PTMモジュール)を使用し、他のいくつかのPTMをスクリーニングしたが、ADとAMCを区別する上で有用なものはなかった。すべてのグループで、R88とK95においてメチル化されたアルギニン及びリジンが観察され、K107はジメチル化されており、いずれも90%超であった。脱アミド化は、いずれのGFAPペプチドにおいてもスペクトル数の10%超で観察されることはなく、ピログルタミンは25%を超えることはなかった(不掲載データ)。
【0038】
分子動力学シミュレーションはGFAPのアンフォールディングを予測し、ドラッガブルなポケットを同定する。AD凝集体で観察されるhP-GFAP構造の分子動力学シミュレーション(リン酸化模倣置換によるレンダリング)によれば、AMC凝集体で見られる非リン酸化GFAPと比べ、ApoE(3,3)個体ではより順応性が高いGFAP構造が予測され、一方でAD(4,4)ではより高度な構造上の厳格さが予測される(図2A~2E)。GFAPは概して不規則なタンパク質であるため、その全長構造は実験的に決定されていない。そこで、I-TASSERのフォールド認識及び非経験的分子軌道法(Yang et al., 2015)の手順を用いて、その3次元構造を予測した。得られた仮想的な構造はヘリックスとループを含み(図2A)、タンパク質の内溝の近くに小型のポケット又は空洞を形成している。
【0039】
その不規則な性質を考慮すると、予測されるタンパク質構造は不安定であり、自然にほどけて、ポケットの向き及び薬剤のアクセス性が変化すると予想される。タンパク質のアンフォールディングのトラジェクトリーを調査するため、完全に溶媒和したGFAPの予測される構造を0.5マイクロ秒(500ナノ秒)間シミュレートした。ドラッガブルなポケットの容積(図2B)、及び原子位置の変動に関するいくつかの尺度(下記参照)から、構造変化の有用な記述子が提供される。これらの解析は、予想されていたGFAPの初期構造のアンフォールディングを支持するものであり、シミュレーションの過程でドラッガブルなポケット(図2A及び2C)が拡大する。小分子の結合をスクリーニングするため、中間的な準安定構造(シミュレーションの200ナノ秒の時点;図2C)を選択した。
【0040】
AD凝集体で観察されたGFAPのリン酸化の差(図1A~1C)は、GFAPの構造的動態に影響を及ぼす可能性があると予想される。この可能性を評価するため、観察されたリン酸化部位をグルタミン酸に「変異」させ(リン酸化模倣置換)、得られた構造を0.5マイクロ秒間シミュレートした。結果は、AD脳におけるGFAPの過剰リン酸化が、GFAPの構造安定性を変化させる可能性が高いという予想を支持する。この時間間隔におけるGFAP原子座標の二乗平均平方根偏差(RMSD)は、AD(3,3)凝集体で観察されるものと同様のリン酸化模倣構造である「AD(3,3) GFAP」よりも、非修飾分子である「AMC(3,3) GFAP」の方が一貫して低い(図2D)。「AD(4,4) GFAP」(AD(4,4)凝集体で観察されるGFAPのリン酸化模倣体)は、最初はAMC(3,3) GFAPよりもやや変動が大きいが、約235ナノ秒以降維持される比較的安定した構造を達成する(図2D)。
【0041】
個々の残基の平均二乗平均平方根変動(RMSF)を経時的にプロットしたところ、AMC(3,3)とAD(3,3)の両構造はGFAP分子全体で中程度から高度の位置変動を示し(図2E)、このことはAD(4,4)リン酸化模倣構造が比較的厳格であるのとは対照的であることが示された。これらのデータ(図2D及び2E)を合わせると、ADと関連したリン酸化の相違はGFAPの構造を変化させることができ、その変化はApoE(3,3)ではやや不安定である一方で、ApoE(4,4)では比較的不変のコンフォメーションを生成するという予測が支持される。
【0042】
GFAPリン酸化を媒介する可能性のあるキナーゼの同定。リン酸化予測ソフトウェアNetPhos(http://www.cbs.dtu.dk/services/NetPhos)及びGPS(http://gps.biocuckoo.org/ online.php)を用いて、各推定GFAP標的残基の上流キナーゼを予測した(表1及び図3A)。GFAPを修飾部位でリン酸化すると予測された関連キナーゼ(AKT2、ROCK1、BARK/GRK、及びPKA)は、すべて、これまでにADの発症又は進行と関連があるとされたものであった(Banerjee et al., 2021;Henderson et al., 2016;Ko et al., 2019;Obrenovich et al., 2009a;Obrenovich et al., 2009b;Obrenovich et al., 2006;Russo, 2019;Taylor et al., 2021;Zhang et al., 2020)。そこで、ヒト神経芽腫細胞(SH-SY5Y-APPSw図3B及び3C)及びヒト膠芽腫細胞(T98G;図3D及び3E)におけるタンパク質凝集に対する個々のキナーゼのノックダウンの効果を調べるため、siRNAを介したノックダウン有り又は無しで試験を行った。各キナーゼ遺伝子のKDによってSH-SY5Y-APPSw細胞の凝集体が60~70%減少し、これはGFAP siRNAの効果と同様な(又はそれを超える)ものであった(図3C)。T98G細胞では、AKT2 siRNAのみがGFAP siRNAと同程度の効率で凝集を緩和した(図3E)。
【表1】
【0043】
更に、タンパク質凝集のC.エレガンスモデルにおいて、キナーゼを標的としたノックダウンの影響を比較するため、これらのヒトキナーゼと最も近い線虫オルソログをサイレンシングするRNAiコンストラクトを用いた。ポリグルタミンアレイの凝集によるハンチントン病を模した凝集モデル(AM141株)、アミロイドを形成するAβ1-42ペプチドのニューロンにおける発現を用いた、アルツハイマー病を模した凝集モデル(CL2355株)、又は、麻痺をもたらす毒性凝集体を形成する、筋肉におけるヒトタウの発現を模した凝集モデル(VH255株)を使用した。ハンチントンモデルでは、各虫体の総凝集体強度(図7A)、すなわち各虫体の凝集体数と凝集体あたりの平均YFP蛍光の積は、BARK/GRK又はROCK1にオルソロガスなC.エレガンス遺伝子のノックダウンによって50~60%減少し(それぞれP<0.00005)、これはifp-1(GFAPの部分的ホモログ)に対するRNAiの効果と同様であった。AD様ニューロンアミロイドーシスのC.エレガンスモデル(CL2355)では、Aβ導入遺伝子をニューロンで誘導すると、走化性が低下し、n-ブタノール(化学誘引物質)に向かって移動する虫体が減少した。ROCK1、AKT2、又はBARK/GRKオルソログ(それぞれlet-502、akt-2、及びgrk-2)のRNAiノックダウンは、ヒトGFPと相同性のある中間径フィラメントタンパク質であるifp-1のKDと少なくとも同程度に、走化性障害を回復させた(図7B)。C.エレガンスにおけるこれらの結果は、ヒト膠芽腫細胞株T98Gで観察された、ROCK1、AKT2、又はPKAのsiRNA KDが総凝集タンパク質を50~60%減少させた結果(図7C)と類似している。
【0044】
ROCK1はApoE発現膠芽腫細胞で増加している。軽度認知障害及びADではRho関連プロテインキナーゼ1(ROCK1)のタンパク質レベルが上昇しており、ヘミ接合体ノックアウトによってROCK1を減少させると、ADのマウスモデルで見られる高アミロイドレベルが緩和された(Henderson et al., 2016)。培養中のヒト細胞、及びインタクトなC.エレガンス凝集モデルの両者において、ROCK1レベルを低下させることによる有意な効果が観察されたことから、APOE3又はAPOE4のいずれかのアレルを過剰発現しているT98G膠芽腫細胞において、そのレベルを測定した。APOE4アレルを過剰発現するヒトグリア細胞では、APOE3導入遺伝子を発現する同じ細胞よりもROCK1タンパク質レベルが少なくとも6倍高く(P<0.0001;図4A及び4B)、このことが、ApoE(4,4)個体から得たAD凝集体をApoE(3,3)個体と比較した際に追加的なGFAPリン酸化部位が観察された原因となっている可能性がある(図1B、1C)。
【0045】
GFAPに安定に結合すると予測される新規小分子の、計算スクリーニングによる同定。新規GFAP特異的阻害剤を同定するため、約75万個の小分子を含むChemBridgeライブラリーから、in silicoドッキングシミュレーションによって構造をスクリーニングした。ターゲットベースのドッキングのために、GFAPの過渡的構造において予測されるドラッガブルなポケット(図2C、200ナノ秒)を選んだ。予測スループットを向上させるため、Schrodinger Glideドッキングモジュール(Balasubramaniam et al., 2020)において、3段階の計算スクリーニングを行い、各段階でドッキングストリンジェンシーを増加させた(詳細については方法を参照)。まず、ハイスループットモードでChemBridgeライブラリー全体の仮想ドッキングを行い、その後、標準精度モードで上位1%のリード分子の再ドッキングを行った。第2段階で得られた分子の上位1%(74個の構造)について、SchrodingerのMM-GBSAモジュール(Balasubramaniam et al., 2020)を用いて、陰溶媒(implicit solvent)ベースの相互作用の自由エネルギーを分析した。次に、GFAPに対するΔGbindingが最も低いと予測される分子について、in vivoでのタンパク質凝集に対する影響を調べた。ドッキングをシミュレートするこの3段階の手順により、GFAPの標的ポケットに最も高い親和性で安定に結合すると予測される分子のセットが生成された。最良の3つの候補(MSR1、MSR2、及びMSR3と呼ぶ)は、-46kcal/モル超のΔGbindingを有し、モデル化されたGFAPポケット内にうまく収まると予測された(図2C)。チューブリンへの結合に関するカウンタースクリーニングでは、これらの薬剤は、α又はβチューブリン、あるいはα及びβチューブリンのオリゴマーに対し無視できるほどの親和性しか有しない(ΔGbinding≧-7kcal/モル)と予測されたが、上位にランクされた薬剤のほとんどは、GFAPと結合するのと同程度の親和性でチューブリンと結合すると予測された(不掲載データ)。
【0046】
上位にランクされた薬剤は、in vitro及びin vivoでの凝集をGFAPのノックダウンと同程度に効果的に抑制し、同じ共凝集成分を抑制する。ΔGbindingの予測値が最も低かった3つのリード化合物(図5A)について、神経変性アミロイドーシスのヒト細胞培養物モデル、及びAD様凝集のC.エレガンス全動物(whole animal)モデルでの実験的検証を進めた。MSR3は、最初の試験において、神経芽腫細胞に対して細胞毒性があり、試験したすべての用量でC.エレガンスの成長を遅延させることが判明した(不掲載データ)ため、検証を行わなかった。MSR1とMSR2については、まず、SH-SY5Y-APPSw神経芽腫細胞におけるin vivoでの有効性を試験した。このモデルにおける凝集は、MSR1によって特によく抑制された(図5B及び5C)。すべてのアッセイにおいて、MSR1の有効性はMSR2より優れているか、又は同等であった。図5Bは、SH-SY5Y-APPSw神経芽腫細胞を、ビヒクル(対照)又はMSR1に曝露した後、チオフラビンTでアミロイド染色したものである。複数の実験において、MSR1処理細胞では、チオフラビンの蛍光がほぼ半減した。全サルコシル不溶性凝集タンパク質を単離し、アクリルアミド-SDSゲル上で分離した後、タンパク質をSYPRO Rubyで染色した。ゲルのレーン(図5D、左から右)は、ビヒクル処理した対照細胞、GFAPを標的とする短鎖干渉RNA(siRNA)で48時間処理した細胞、又はGFAPに安定的かつ選択的に結合すると予測される薬剤であるMSR1又はMSR2で48時間処理した細胞を示す。GFAP siRNAは凝集タンパク質を65~80%抑制し、MSR1は60~75%抑制したが、MSR2は凝集タンパク質の量を有意に減少させなかった。
SH-SY5Y-APPSw細胞のサルコシル不溶性凝集体中のタンパク質をプロテオミクスにより同定したところ、対照細胞のサルコシル不溶性凝集体中に存在し(スペクトル数7以上)、MSR1処理により完全に排除された(ヒット数0)タンパク質は、GFAPのsiRNAノックダウンにより排除されたタンパク質と驚くほどよく一致する(一致率87%)ことが明らかになった(図5E)。一方、4つのタンパク質(CBX8、TSPYL5、CDK2、及びKRT33B)は、いずれの処理によっても実質的に発現が上昇制御されることが分かった。除外されたグループには、微小管の組み立て及び/又は相互作用に関与するいくつかのタンパク質が含まれる:プレクチン、ダイナクチン-1、シナプシン-1、アンキリンB、MAP1A、MAP2、及びα-チューブリン。MSR1とGFAP siRNAは治療の効果がよく相関している(R=0.77、P<3E-280;図5F)。MSR1とGFAP RNAiが凝集体組成に対してこのような高度に一致した、相関性のある効果を示したという観察は、MSR1が凝集を低下させる際の主な機能的標的がGFAPであるということに対して、説得力のある証拠を提供する。
薬剤MSR1及びMSR2を、ヒト神経変性疾患のいくつかのC.エレガンスモデルでも試験した。C.エレガンスの筋肉に正常なヒトタウを発現するタウオパチーモデル株(VH255)では、タウの凝集が麻痺(刺激に反応して動くことができないこと)を引き起こしたが、1μMのMSR1によって、又は、GFAPの最も近い線虫ホモログであるifp-1に対するsiRNAで処理することによって、同程度に緩和された(図7D)。MSR1はまた、ヒトAβ42の汎ニューロン発現によって化学誘引物質への移動が障害される、C.エレガンスのニューロンアミロイドーシスモデル(CL2355)においても、走化性の有意な回復をもたらした。MSR1を0.1μMで添加することにより、走化性は約90%まで回復し(図7e)、野生型又は未誘導の虫体と同程度となった(図示せず)。筋肉にQ40::YFPを発現する株では、年齢とともに蛍光を発する筋肉の凝集体が蓄積する。この株は、ハンチンチンタンパク質のポリグルタミンアレイの閾値までの拡大、すなわちヒトではハンチントン病、線虫では麻痺の症状を引き起こすのに十分な長さを模倣したものである。図7Fは、孵化後5日齢の各虫体における凝集強度を示す。10μMのMSR1では約50%の減少であったのに対し、0.1μMでは35%の減少であった(それぞれの処理において、ビヒクルのみの対照とはP<0.005で差があった)。
【0047】
考察
加齢は、各種認知症だけでなく、高齢者に対して、また医療制度に対して大きな負担を強いる他の多くの生活習慣病にとっても、最も影響の大きい非遺伝的危険因子である(Niccoli and Partridge, 2012)。AD、パーキンソン病、及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患、並びに高血圧(Ayyadevara et al., 2016d)、サルコペニア(Ayyadevara et al., 2016c)、更にはいくつかの癌(Ano Bom et al., 2012)さえも含む広範な疾患は、いずれも疾患特異的な「診断」タンパク質を特徴とする独特な凝集体の形成を示す。発明者らは、免疫精製した凝集体サブセット内の多くのタンパク質を同定し(Ayyadevara et al., 2016b)、架橋による凝集体内タンパク質-タンパク質界面の同定を行った(Balasubramaniam et al., 2019)。
【0048】
GFAPは、年齢マッチ対照と比較してAD凝集体に多量に存在する数多くのタンパク質の一つであるが(Ayyadevara et al., 2016b)、現在では、疾患特異的な過剰リン酸化を示す神経病理関連タンパク質の小さなセットに加えられている。これらには、タウ(AD、PD、ALS)、Aβ1-42(AD)TDP43(ALS)、及びαシヌクレイン(PD)が含まれる(Ayyadevara et al., 2016b;Bai et al., 2021;Ferrer et al., 2021;Mavroudis et al., 2020;Sternburg et al., 2021;Xu et al., 2015;Zhang et al., 2019)。発明者らは、AD(3,3)個体の海馬から単離された凝集体において高度にリン酸化されている3つのGFAPセリンを同定し、更に、AD(4,4)の凝集体でのみリン酸化が観察される、N末端及びC末端近傍の別のセリン及びスレオニンを同定した(図1C)。APOE3又はAPOE4ホモ接合体組織のみが調査対象であったが、APOE3/E4ヘテロ接合体についても、中間的な結果を期待することが妥当である。
【0049】
ADにおいてGFAPのリン酸化が観察された部位は、これまでにADの発症に関与することが予測されてきたいくつかのキナーゼの既知の標的と一致している。これらには、AKT2(2つの哺乳類AKTパラログのうちの1つ)、Rho関連キナーゼ1(ROCK1)、Gタンパク質共役受容体キナーゼ2(BARK/GRK2)、及びプロテインキナーゼA(PKA)が含まれる。インスリンシグナル伝達の変化がADに関与するとされており、AKTはインスリン/インスリン様シグナルを伝達するキナーゼカスケードの重要な下流エフェクターである(Chen et al., 2012;Yang et al., 2018;Zheng and Wang, 2021)。GRK2(BARKとしても知られる)もまた、心血管疾患の発症の一因であることが示された。cAMP依存性キナーゼであるPKAは、複数のシグナル伝達経路に関与し、タウの過剰リン酸化に影響を及ぼし、AD、PD、及びHDを含むいくつかの神経変性疾患の進行に関与しているとされている(Carlyle et al., 2014;Dagda et al., 2011;Greggio et al., 2017;Li et al., 2018;Taylor et al., 2021)。PKAは糖尿病(Li et al., 2018)、及び不安に関連した行動(Keil et al., 2016)にも関与することが示されている。
【0050】
観察されたGFAPの過剰リン酸化の原因となり得るいくつかのキナーゼのノックダウンにより、C.エレガンス、及びアミロイド前駆体タンパク質を発現するヒト神経芽腫細胞において、タンパク質の凝集とそれに伴う生理的減退が緩和された。注意すべきは、これらと同じキナーゼのいくつかは、他のAD関連タンパク質、例えば微小管関連タンパク質のタウなどに標的部位を有すると推定され、これによって更に影響力が増加すると予想されることである。これらのキナーゼがADを助長する標的を複数持つということは、いくつかのキナーゼのノックダウンが、GFAPそのもののノックダウンと比較して、より効果的なAD様形質からの回復をもたらすという、図3C及び3Eに示す結果から示唆される。しかしながら、これらの実験では、ニューロンに対するsiRNAノックダウンの有効性はモニターされておらず、典型的にはニューロンでは他の標的細胞よりも有効性が低いことから、前述の比較は誤解を招く可能性があることに注意されたい。
【0051】
今回のデータに基づくと、GFAPは、AD及び他の凝集関連疾患における凝集負荷を軽減する、新規標的である。そこで、強力なフォールド認識と非経験的分子軌道法の手順によって予測されたGFAPの3次元構造から開始して、GFAPを特異的に標的とする小分子をスクリーニングした(Yang et al., 2015)。初期の最もΔGの低い構造は、小さな、ドラッガブルなポケットを有する(図2A)。GFAPの構造について経時的な分子動力学シミュレーションを行ったところ、準安定状態への移行で結合空洞が初期容積の約3倍に拡大することが明らかになった。200ナノ秒におけるGFAPの分子構造(図2C)を、薬剤スクリーニングの標的として選択した。シミュレーション中のGFAP構造の変化をモニターするために、いくつかの記述子(RMSD、RMSF、及びポケット容積)を使用した。
【0052】
脳凝集体のプロテオミクスにより、AD組織由来のGFAPのリン酸化が顕著に異なっていることが示された。リン酸化模倣置換は実際のタンパク質のリン酸化を完全に模倣するものではないが、観察された擬似リン酸化部位を組み込んだAD(3,3)及びAD(4,4)の予測される構造のコンピューターシミュレーションは、リン酸化状態がGFAPの構造ダイナミクスを変化させ得るという仮説と矛盾がなかった。シミュレーションデータからは、個々のキナーゼ標的のリン酸化がGFAP構造の不安定化にどの程度関与しているのか、あるいは、その後に修飾されるキナーゼ部位へのアクセスをどの程度促進し得るのかを推測することはできない。
【0053】
GFAP結合に関する3回の連続したスクリーニングから得られた上位3つの候補を試験し、また、チューブリンに結合する薬剤を除外するためのカウンタースクリーニングを行って、様々な凝集モデル系で有効性をテストした。各アッセイにおいては、これらのうち、MSR1が、GFAPノックダウン(GFAP又はその最も近い線虫ホモログに対するRNAiを使用)とほぼ同等の有効性を示し、また、凝集体のプロテオーム解析によれば、凝集体から枯渇又は排除されるタンパク質のセットもほぼ同じであることが明らかになった。
【0054】
これらの結果は、神経障害性凝集のヒト細胞モデル及びC.エレガンスモデルでのタンパク質の凝集に対する、GFAP及びその予測されるキナーゼの影響、そして、抗凝集効果のin vivoでの実証を示している。
【0055】
参考文献













図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
【配列表】
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【国際調査報告】