(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-15
(54)【発明の名称】オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20250107BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20250107BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20250107BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
C22C38/00 302A
C22C38/58
C21D9/46 Q
C21D8/02 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535605
(86)(22)【出願日】2022-10-25
(85)【翻訳文提出日】2024-06-13
(86)【国際出願番号】 KR2022016305
(87)【国際公開番号】W WO2023113206
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】10-2021-0180891
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン, ソクウォン
(72)【発明者】
【氏名】パク, ミナム
【テーマコード(参考)】
4K032
4K037
【Fターム(参考)】
4K032AA04
4K032AA13
4K032AA14
4K032AA15
4K032AA17
4K032AA21
4K032AA23
4K032AA24
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA32
4K032BA01
4K032CF03
4K032CG02
4K032CH04
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA12
4K037EA13
4K037EA16
4K037EA18
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA28
4K037EB05
4K037EB07
4K037EB08
4K037EB09
4K037FF03
4K037FF05
4K037FG00
4K037FJ05
4K037JA07
(57)【要約】
【課題】本発明は、優れた降伏強度と延伸率を確保しながらも原価競争力に優れており、耐食性が高く、産業用素材として使用可能なオーステナイト系ステンレス鋼を提供する。
具体的には、本発明による超細粒製造技術を通じて自動車外板用、建築部品用などに使用可能な高強度-高延性オーステナイト系ステンレス鋼板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】重量%で、炭素(C):0.005~0.060%、シリコン(Si):0.1~1.5%、マンガン(Mn):5.0~10.0%、ニッケル(Ni):0%超過3%以下、クロム(Cr):14.0~18.0%、銅(Cu):0%超過2.0%以下、窒素(N):0.01~0.25%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避的な不純物からなり、下記式(1)で定義されるα値が10,000以上であることを満たし、下記式(2)で定義されるβ値が100以上であることを満たすことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
式(1):α=YS×EL-200(8[Ni]+[Cr]+3[Mn])
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.005~0.060%、シリコン(Si):0.1~1.5%、マンガン(Mn):5.0~10.0%、ニッケル(Ni):0%超過3%以下、クロム(Cr):14.0~18.0%、銅(Cu):0%超過2.0%以下、窒素(N):0.01~0.25%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避的な不純物からなり、
下記式(1)で定義されるα値が10,000以上であることを満たし、
下記式(2)で定義されるβ値が100以上であることを満たすことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
式(1):α=YS×EL-200(8[Ni]+[Cr]+3[Mn])
前記式(1)及び式(2)において、
[Ni]、[Cr]、[Mn]は、各元素の含量(重量%)を意味し、
YSは、降伏応力(MPa)を意味し、
ELは、延伸率(%)を意味し、
ASP(Austenitic Stability Parameter)は、下記式(2-1)で計算される値であり、dは、厚み中心部の平均結晶粒径(μm)を意味する。
式(2-1):ASP=551-462([C]+[N])-9.2[Si]-8.1[Mn]-13.7[Cr]-29([Ni]+[Cu])
前記式(2-1)において、[C]、[N]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Ni]、[Cu]は、各元素の含量(重量%)を意味する。
【請求項2】
前記厚み中心部の平均結晶粒径(d)が5.0μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項3】
前記式(2)のASP値は、15~70の範囲を満たすことを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項4】
前記オーステナイト系ステンレス鋼は、孔食電位(pitting potential)値が100mV以上であることを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項5】
前記オーステナイト系ステンレス鋼は、降伏強度が540.0MPa以上であり、延伸率が30.0%以上であることを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項6】
重量%で、炭素(C):0.005~0.060%、シリコン(Si):0.1~1.5%、マンガン(Mn):5.0~10.0%、ニッケル(Ni):0%超過3.0%以下、クロム(Cr):14.0~18.0%、銅(Cu):0%超過2.0%以下、窒素(N):0.01~0.25%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避的な不純物からなる素材を提供する段階、
前記素材を熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階、
前記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階、及び
前記冷延鋼板を最終焼鈍する段階を含み、
前記最終焼鈍された鋼板が下記式(1)で定義されるα値が10,000以上であることを満たし、下記式(2)で定義されるβ値が100以上であることを満たすように制御され、
下記式(3)で定義されるγ値が0以上であることを満たすことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
式(1):α=YS×EL-200(8[Ni]+[Cr]+3[Mn])
前記式(1)~式(3)において、
[Ni]、[Cr]、[Mn]、[N]は、各元素の含量(重量%)を意味し、
YSは、降伏応力(MPa)を意味し、
ELは、延伸率(%)を意味し、
ASP(Austenitic Stability Parameter)は、下記式(2-1)で計算される値であり、dは、厚み中心部の平均結晶粒径(μm)を意味し、
Tempは、最終焼鈍温度(℃)を意味し、
式(2-1):ASP=551-462([C]+[N])-9.2[Si]-8.1[Mn]-13.7[Cr]-29([Ni]+[Cu])
前記式(2-1)において、[C]、[N]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Ni]、[Cu]は、各元素の含量(重量%)を意味する。
【請求項7】
前記最終焼鈍段階は、750~850℃の温度範囲で行われることを含むことを特徴とする請求項6に記載のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項8】
前記冷間圧延前に前記熱延鋼板を1000~1150℃で1次焼鈍する段階をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項9】
前記冷間圧延段階において、前記冷延鋼板は常温温度範囲で前記熱延鋼板の厚さ減少率が50%以上で圧延されることを特徴とする請求項6に記載のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項10】
前記オーステナイト系ステンレス鋼は、前記ASP値が15~70の範囲を満たすことを特徴とする請求項6に記載のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項11】
前記最終焼鈍された鋼板は、厚み中心部の平均結晶粒径(d)が5.0μm以下であることを特徴とする請求項6に記載のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法に係り、より詳しくは、低温焼鈍を行っても高い強度及び延性を同時に確保することができ、原価競争力と耐食性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐食性に優れたステンレス鋼(Stainless Steel)は、耐食性を向上させるために別途の設備投資を必要とせず、輸送用部品及び建築用部品はもちろん、最近の市場トレンドである小品種の大量生産にも適した素材である。特に、オーステナイト系ステンレス鋼の場合、その成形性と延伸率に優れるため、顧客の多様な要求に合わせて複雑な形状を作りやすく、外観が美麗であるという長所がある。
【0003】
ただし、頻繁に使用するオーステナイト系ステンレス鋼の降伏強度は、200~350MPaレベルであり、炭素鋼に比べて低く、構造物の適用に限界があるのが実状である。このような汎用の300系ステンレス鋼においてより高い降伏強度を得るためには、最終焼鈍後に追加的な調質圧延工程を経ることになるが、コスト上昇問題とともに素材の延伸率及び成形性の急激な減少問題を有する。また、一般的なステンレス鋼は高価な合金成分を含んでおり、原価競争力に劣るという問題がある。特に、オーステナイト系ステンレス鋼に含まれるNiは、素材価格の極端な変動により原料需給が不安定であるだけでなく、供給価格の安定性の確保が困難であると同時に素材価格そのものが高く、価格競争力の面で問題がある。
【0004】
例えば、特許文献1は、オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法に関し、C:0.10%以下、Si:1.0%以下、Mn:2.1~6.0%、P:0.045%以下、S:0.1%以下、Ni:8.0~16.0%、Cr:15.0~30.0%、Mo:1.0~5.0%、N:0.05~0.45%、Nb:0~0.50%、及びV:0~0.50%を含み、残部がFe及び不純物からなり、特定の式(1)を満たす化学組成を有し、結晶粒度番号が8.0未満であり、690MPa以上の引張強度を有するオーステナイト系ステンレス鋼について開示しているが、大量のニッケル含量が要求されるという問題がある。
【0005】
一方、オーステナイト系ステンレス鋼において超細粒の具現技術は、一般に冷間圧延を通じてオーステナイト相をマルテンサイト相に変態させ、その後の段階で低温焼鈍を通じて超細粒を具現することになる。しかし、超細粒が具現されたとしても、降伏強度と延伸率が同時に優れた素材を発現することは容易ではない。原価競争力が確保可能な範囲内でのNi、Cr、Mnなどの含量が異なり、ASP(Austenitic Stability Parameter)値によって冷間加工によるマルテンサイト相変態量が異なり、また、引張試験時のTRIP(Transformation Induced Plasticity)変態挙動によって延伸率が変化するためである。
【0006】
したがって、Niなどの高価な合金元素含量を最小限に低減しながらも、優れた降伏強度、延伸率、及び耐食性が同時に確保可能な素材とその製造方法の開発が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2016-0138277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、優れた降伏強度と延伸率を確保しながらも原価競争力に優れており、耐食性が高く、産業用素材として使用可能なオーステナイト系ステンレス鋼を提供する。
【0009】
具体的には、本発明による超細粒製造技術を通じて自動車外板用、建築部品用などに使用可能な高強度-高延性オーステナイト系ステンレス鋼板及びその製造方法を提供する。
【0010】
しかし、本願が解決しようとする課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は、以下の記載から通常の技術者が明確に理解できるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、炭素(C):0.005~0.060%、シリコン(Si):0.1~1.5%、マンガン(Mn):5.0~10.0%、ニッケル(Ni):0%超過3%以下、クロム(Cr):14.0~18.0%、銅(Cu):0%超過2.0%以下、窒素(N):0.01~0.25%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避的な不純物からなり、下記式(1)で定義されるα値が10,000以上であることを満たし、下記式(2)で定義されるβ値が100以上であることを満たすことを特徴とする。
【0012】
式(1):α=YS×EL-200(8[Ni]+[Cr]+3[Mn])
【0013】
【0014】
前記式(1)及び式(2)において、[Ni]、[Cr]、[Mn]は、各元素の含量(重量%)を意味し、YSは、降伏応力(MPa)を意味し、ELは、延伸率(%)を意味し、ASP(Austenitic Stability Parameter)は、下記式(2-1)で計算される値であり、dは、厚み中心部の平均結晶粒径(μm)を意味し、
【0015】
式(2-1):ASP=551-462([C]+[N])-9.2[Si]-8.1[Mn]-13.7[Cr]-29([Ni]+[Cu])
【0016】
前記式(2-1)において、[C]、[N]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Ni]、[Cu]は、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0017】
また、前記厚み中心部の平均結晶粒径(d)が5.0μm以下であることを含む。
【0018】
また、前記式(2)のASP値は、15~70の範囲を満たす。
【0019】
また、前記オーステナイト系ステンレス鋼は、孔食電位(pitting potential)値が100mV以上である。
【0020】
また、前記オーステナイト系ステンレス鋼は、降伏強度が540.0MPa以上であり、延伸率が30.0%以上である。
【0021】
前記のような目的を達成するために、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、炭素(C):0.005~0.060%、シリコン(Si):0.1~1.5%、マンガン(Mn):5.0~10.0%、ニッケル(Ni):0%超過3%以下、クロム(Cr):14.0~18.0%、銅(Cu):0%超過2.0%以下、窒素(N):0.01~0.25%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避的な不純物からなる素材を提供する段階、前記素材を熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階、前記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階、及び前記冷延鋼板を最終焼鈍する段階を含み、前記最終焼鈍された鋼板が下記式(1)で定義されるα値が10,000以上であることを満たし、下記式(2)で定義されるβ値が100以上であることを満たすように制御され、下記式(3)で定義されるγ値が0以上であることを満たすことを特徴とするを提供する。
【0022】
式(1):α=YS×EL-200(8[Ni]+[Cr]+3[Mn])
【0023】
【0024】
【0025】
前記式(1)~式(3)において、[Ni]、[Cr]、[Mn]、[N]は、各元素の含量(重量%)を意味し、YSは、降伏応力(MPa)を意味し、ELは、延伸率(%)を意味し、ASP(Austenitic Stability Parameter)は、下記式(2-1)で計算される値であり、dは、厚み中心部の平均結晶粒径(μm)を意味し、Tempは、最終焼鈍温度(℃)を意味する。
【0026】
式(2-1):ASP=551-462([C]+[N])-9.2[Si]-8.1[Mn]-13.7[Cr]-29([Ni]+[Cu])
【0027】
前記式(2-1)において、[C]、[N]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Ni]、[Cu]は、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0028】
また、前記最終焼鈍段階は、750~850℃の温度範囲で行われることを含む。
【0029】
また、前記冷間圧延前に前記熱延鋼板を1000~1150℃で1次焼鈍する段階をさらに含む。
【0030】
また、前記冷間圧延段階において、前記冷延鋼板は常温温度範囲で前記熱延鋼板の厚さ減少率が50%以上で圧延される。
【0031】
また、オーステナイト系ステンレス鋼は、前記ASP値が15~70の範囲を満たす。
【0032】
また、最終焼鈍された鋼板は、厚み中心部の平均結晶粒径(d)が5.0μm以下である。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、降伏強度及び延伸率に優れており、Niが最小限に含まれて原材料費が安価なオーステナイト系ステンレス鋼を提供しうる。
【0034】
本発明は、原価競争力に優れながらも強度、延性及び耐食性に優れた超細粒性のオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供しうる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】式(1)で計算されるα値と式(2)で計算されるβ値による実施例の範囲と比較例の範囲を示す。
【
図2】実施例及び比較例によるオーステナイト系ステンレス鋼の厚み中心部の平均結晶粒径を示す 。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、炭素(C):0.005~0.060%、シリコン(Si):0.1~1.5%、マンガン(Mn):5.0~10.0%、ニッケル(Ni):0%超過3%以下、クロム(Cr):14.0~18.0%、銅(Cu):0%超過2.0%以下、窒素(N):0.01~0.25%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避な不純物からなり、下記式(1)で定義されるα値が10,000以上であることを満たし、下記式(2)で定義されるβ値が100以上であることを満たす。
【0037】
式(1):α=YS×EL-200(8[Ni]+[Cr]+3[Mn])
【0038】
【0039】
前記式(1)及び式(2)において、
[Ni]、[Cr]、[Mn]は、各元素の含量(重量%)を意味し、
YSは、降伏応力(MPa)を意味し、
ELは、延伸率(%)を意味し、
ASP(Austenitic Stability Parameter)は、下記式(2-1)で計算される値であり、
dは、厚さ中心部の平均結晶粒径(μm)を意味する。
【0040】
式(2-1):ASP=551-462([C]+[N])-9.2[Si]-8.1[Mn]-13.7[Cr]-29([Ni]+[Cu])
【0041】
前記式(2-1)において、[C]、[N]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Ni]、[Cu]は、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0042】
本明細書で使用される用語は、本発明を説明するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。また、本明細書で使用される単数形態は、関連する定義がこれと明らかに反対の意味を持たない限り、複数形態も含む。
【0043】
以下、特に言及しない限り、単位は、重量%である。また、ある部分がある構成要素を「含む」というとき、これは特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0044】
特に定義のない限り、本明細書で使用される技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同じ意味を持つ。辞書に定義されている用語は、関連技術文献と現在開示されている内容に一致する意味を持つものと解釈される。
【0045】
また、本明細書において「約」、「実質的に」などは、言及した意味に固有の製造及び物質の許容誤差が提示されるとき、その数値またはその数値に近い意味として使用され、本発明の理解を助けるために正確かつ絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に用いることを防止するために使用される。
【0046】
超細粒(UFG:Ultra Fine Grain)素材は、優れた強度-延伸バランス、耐疲労性、エッチング加工性などの特徴を有するもので、本発明では高強度-高延性の具現が可能な超細粒を有するオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供する。さらに、自動車外板用、建築部品用などの構造用部材に適した降伏強度と延伸率を有するオーステナイト系ステンレス鋼板を提供することを特徴とする。
【0047】
また、本発明では、オーステナイト系ステンレス鋼の劣位した原価競争力を改善するためにニッケルなどの高価な元素の使用を低減しながら、優れた性能を維持するためにマンガン及び窒素を使用した。
【0048】
以下、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼について詳細に説明する。
【0049】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、炭素(C):0.005~0.060%、シリコン(Si):0.1~1.5%、マンガン(Mn):5.0~10.0%、銅(Cu):0%超過2.0%以下、ニッケル(Ni):0%超過3%以下、クロム(Cr):14.0~18.0%、窒素(N):0.01~0.25%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避的な不純物からなる。
【0050】
[成分範囲]
炭素(C):0.005%~0.060%
炭素は、オーステナイト相の安定化に有効な元素で、オーステナイト系ステンレス鋼の降伏強度を確保するために、0.005%以上添加してもよい。ただし、その含量が過剰な場合、固溶強化効果により冷間加工性を低下させるだけでなく、低温焼鈍時にCr炭化物の粒界析出を誘導して延性、靭性、耐食性などに悪影響を及ぼす可能性があるため、その上限を0.060%に限定してもよい。
【0051】
シリコン(Si):0.1%~1.5%
シリコーンは、製鋼工程において脱酸剤の役割を果たすとともに、耐食性を向上させるのに有効な元素で、0.01%以上添加してもよい。しかし、Siは、フェライト相の安定化に有効な元素で、過剰添加時に鋳造素材内のデルタ(δ)フェライトの形成を助長して熱間加工性を低下させるだけでなく、材料の延性及び衝撃特性に悪影響を及ぼす可能性があるため、その上限を1.5%に限定してもよい。
【0052】
マンガン(Mn):5.0%~10.0%
マンガンは、本発明においてニッケル(Ni)の代わりに添加されるオーステナイト相安定化元素で、オーステナイト安定度を向上させるために5.0%以上添加してもよい。ただし、その含量が過剰な場合、S系介在物(MnS)を過量形成してオーステナイト系ステンレス鋼の延性、靭性及び耐食性を低下させることができ、製鋼工程中にMnヒュームを発生させて製造上の危険性を伴うため、その上限を10.0%に限定してもよい。
【0053】
ニッケル(Ni):0%超過3.0%以下
ニッケルは、強力なオーステナイト相安定化元素で、良好な熱間加工性及び冷間加工性を確保するために不可欠である。しかし、Niは、高価な元素であるため、多量の添加時に原料コストの上昇を招く。したがって、鋼材のコスト及び効率性の両方を考慮し、その上限を3.0%に限定してもよい。
【0054】
クロム(Cr):14.0%~18.0%
クロムは、フェライト安定化元素であるが、マルテンサイト相の生成抑制において効果的であり、ステンレス鋼に要求される耐食性を確保する基本元素で、14.0%以上添加してもよい。ただし、その含量が過剰な場合、製造コストが上昇し、素材内のデルタ(δ)フェライトを多量に形成して熱間加工性の低下と材質特性に悪影響を及ぼすことにより、その上限を18.0%に限定してもよい。
【0055】
銅(Cu):0%超過2.0%以下
銅は、オーステナイト相安定化元素で、本発明においてニッケル(Ni)の代わりに添加される元素である。Cuは、還元環境での耐食性を向上させる元素として添加してもよい。ただし、その含量が過剰な場合、素材コストの上昇だけでなく、液状化及び低温脆性の問題点がある。したがって、鋼材のコスト-効率性及び材質特性を考慮し、その上限を2.0%に限定してもよい。
【0056】
窒素(N):0.01%~0.25%
窒素は、強力なオーステナイト安定化元素で、オーステナイト系ステンレス鋼の耐食性及び降伏強度の向上に有効な元素で、0.01%以上添加してもよい。ただし、その含量が過剰な場合、固溶強化効果により素材の硬質化及び熱間加工性の低下を発生させることができるため、その上限を0.25%に限定してもよい。
【0057】
その他の成分
また、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、不可避的な不純物であるリン(P)及び硫黄(S)のうち少なくとも1種をさらに含んでもよい。
【0058】
リン(P)の含量は、0.035%以下である。リン(P)は、鋼中に不可避的に含まれる不純物で、粒界腐食を起こしたり熱間加工性を阻害する主な原因となる元素であるため、その含量をできるだけ低く制御することが好ましい。本発明では、前記P含量の上限を0.035%以下に管理する。
【0059】
硫黄(S)の含量は、0.01%以下である。硫黄(S)は、鋼中に不可避的に含まれる不純物で、結晶粒界に偏析して熱間加工性を阻害する主な原因となる元素であるため、その含量をできるだけ低く制御することが好ましい。本発明では、前記S含量の上限を0.01%以下に管理する。
【0060】
本発明の残りの成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避的に混入するおそれがあるので、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば誰でも知ることができるので、そのすべての内容を特に本明細書で言及していない。
【0061】
[パラメータ及び物性]
また、前記オーステナイト系ステンレス鋼は、下記式(1)で定義されるα値が10,000以上であることを満たすことを特徴とする。前記α値が10,000以上の場合、原価競争力を備えながらも、高強度及び高延性を具現できる利点がある。
【0062】
式(1):α=YS×EL-200(8[Ni]+[Cr]+3[Mn])
【0063】
前記式(1)において、[Ni]、[Cr]、[Mn]は、各元素の含量(重量%)を意味し、YSは、降伏応力(MPa)を意味し、ELは、延伸率(%)を意味する。
【0064】
また、前記オーステナイト系ステンレス鋼は、下記式(2)で定義されるβ値が100以上であることを満たすことを特徴とする。前記β値が100以上の場合、超細粒が形成されて高強度及び高延性を同時に具現しうる。
【0065】
【0066】
前記式(2)において、ASP(Austenitic Stability Parameter)は、下記式(2-1)により計算される値であり、dは、厚み中心部の平均結晶粒径(μm)を意味する。
【0067】
式(2-1):ASP=551-462([C]+[N])-9.2[Si]-8.1[Mn]-13.7[Cr]-29([Ni]+[Cu])
【0068】
前記式(2-1)において、[C]、[N]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Ni]、[Cu]は、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0069】
前記厚み中心部の平均結晶粒径(d)は、5.0μm以下の超細粒であることが好ましく、前記式(2)のASP値は、15~70の範囲を満たすことが好ましい。
【0070】
オーステナイト系ステンレス鋼は、30℃で3.5%濃度のNaCl溶液で孔食電位値(pitting potential)を測定したとき、測定される孔食電位(pitting potential)値が100mV以上で耐食性に優れた利点がある。
【0071】
オーステナイト系ステンレス鋼は、降伏強度が540.0MPa以上で強度に優れており、延伸率が30.0%以上で延性に優れた特性を持つ利点がある。
【0072】
本発明の連鋳工程で生産された素材を熱間圧延を行った後に焼鈍を行わず、常温で総板厚減少率が50%以上の最終冷間圧延を行った後に焼鈍温度750~850℃の範囲で最終焼鈍されたコイル、または連鋳工程で生産された素材を熱間圧延されたコイルを焼鈍温度1000~1150℃で焼鈍を行った後、常温で総板厚減少率が50%以上の最終冷間圧延を行った後、焼鈍温度750~850℃の範囲で最終焼鈍されたコイルについて、素材の厚み中心部の平均結晶粒径(d)値が5μm以下であり、3.5%NaCl溶液(30℃)で孔食電位値(pitting potential)を測定したとき、孔食電位値が100mV以上であることを満たす。
【0073】
[オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法]
以下、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法について説明する。
【0074】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、素材を提供する段階、前記素材を熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階、前記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階、及び前記冷延鋼板を最終焼鈍する段階を含み、前記冷間圧延前に1次焼鈍する段階をさらに含んでもよい。
【0075】
前記素材提供段階では、重量%で、炭素(C):0.005~0.060%、シリコン(Si):0.1~1.5%、マンガン(Mn):5.0~10.0%、ニッケル(Ni):0%超過3.0%以下、クロム(Cr):14.0~18.0%、銅(Cu):0%超過2.0%以下、窒素(N):0.01~0.25%を含み、残部が鉄(Fe)及び不可避的な不純物を含む素材(インゴットまたはスラブ)を提供しうる。
【0076】
前記素材の組成は、下記式(2-1)で定義されるASP値が15~70の範囲を満たすことが好ましい。
【0077】
式(2-1):ASP=551-462([C]+[N])-9.2[Si]-8.1[Mn]-13.7[Cr]-29([Ni]+[Cu])
【0078】
前記式において、[C]、[N]、[Si]、[Mn]、[Cr]、[Ni]、[Cu]は、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0079】
また、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、下記式(1)で定義されるα値が10,000以上となるように制御することを含む。前記α値が10,000以上に制御されると、原価競争力を備えながらも、高強度及び高延性を具現できる利点がある。
【0080】
式(1):α=YS×EL-200(8[Ni]+[Cr]+3[Mn])
【0081】
前記式(1)において、Ni、Cr、Mnは、各元素の含量(重量%)を意味し、YSは、降伏応力(MPa)を意味し、ELは、延伸率(%)を意味する。
【0082】
また、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、下記式(2)で定義されるβ値が100以上となるように制御することを含む。前記β値が100以上に制御されると、厚み中心部の平均結晶粒径(d)は、5.0μm以下の超細粒が形成されて高強度及び高延性を同時に具現しうる。
【0083】
【0084】
前記式(2)において、ASP(Austenitic Stability Parameter)は、上述した式(2-1)で計算される値であり、15~70の範囲を満たすことが好ましい。
【0085】
dは、厚み中心部の平均結晶粒径(μm)を意味し、5.0μm以下であることが好ましい。
【0086】
前記熱間圧延段階後、焼鈍を行わずに冷間圧延を行ってもよく、1次焼鈍後に冷間圧延を行ってもよい。1次焼鈍を行う場合、1次焼鈍は1000~1150℃の温度で行われてもよい。
【0087】
前記冷間圧延段階は、常温温度範囲で前記熱延鋼板の厚さ減少率が50%以上で圧延されるように行われてもよい。
【0088】
前記最終焼鈍する段階は、750~850℃の温度範囲で行われてもよく、さらに、最終焼鈍温度は、下記式(3)で定義されるγ値が0以上となるように制御することが好ましい。γ値が0以上に制御されると、マンガン、クロム、窒素などの成分バランスに優れており、低温焼鈍を行っても十分な耐食性の確保が可能である。
【0089】
【0090】
前記式(3)において、[Cr]、[N]、[Mn]は、各元素の含量(重量%)を意味し、Tempは、最終焼鈍温度(℃)を意味する。
【0091】
具体的に、γ値が0以上に制御されると、30℃で3.5%濃度のNaCl溶液で孔食電位値(pitting potential)を測定したとき、測定される孔食電位(pitting potential)値が100mV以上で優れた耐食性を達成しうる。
【0092】
[実施例]
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。
【0093】
オーステナイト系ステンレス鋼の実施例及び比較例で使用された鋼種の合金成分及び組成範囲と下記式(2-1)で計算される主成分パラメータであるASP(Austenite Stability Parameter)値を下記表1にまとめた。
【0094】
式(2-1):ASP=551-462([C]+[N])-9.2[Si]-8.1[Mn]-13.7[Cr]-29([Ni]+[Cu])
【0095】
【0096】
前記表1の鋼種において、一部はLab.真空溶解を行ってインゴット(Ingot)を製造し、一部は電気炉-連鋳工程を経てスラブ(Slab)を作製し、下記表2に示すような最終焼鈍温度(Temp;℃)で実施例1~10及び比較例1~24のコイルを製造した。平均結晶粒径(d)は、前記製造された素材の厚み中心部で測定し、降伏強度(YS;MPa)及び延伸率(EL;%)は、JIS13B引張試験片に対して常温でクロスヘッド(crosshead)10mm/min~20mm/minの範囲で引張試験を行って測定し、孔食電位(pitting potential)は、3.5%NaCl溶液(30℃)で測定し、その結果を下記表2にまとめた。
【0097】
また、前記表1の組成及び測定値に基づいて、下記式(1)~式(3)で定義されるα、β、γ値を計算して下記表2にまとめ、
図1は、α値とβ値による実施例の範囲と比較例の範囲を示す。
【0098】
式(1):α=YS(MPa)×EL(%)-200(8[Ni]+[Cr]+3[Mn])
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
表1及び2に示す通り、実施例1~10は、ASP値が15~70の範囲を有し、素材の厚み中心部の平均結晶粒径(d)値が5μm以下を満たす。一方、比較例1~9及び12~24は、ASP値が10~70の範囲外であるか、素材の厚み中心部の平均結晶粒径(d)が5.1μm以上であることが確認できる。実施例1~10は、高強度-高延性の具現が可能であり、耐食性に優れた特性を持つ原価節減型オーステナイト系ステンレス鋼で、実施例1~10は、すべてα値10,000以上であり、β値が100以上であり、γ値が0以上であり、孔食電位値が100mV以上であることを満たす。
【0103】
比較例1~6は、商用的に生産される規格オーステナイト系ステンレス鋼で、本発明の成分範囲に入らない鋼種を使用して原価競争力に劣り、共通してα値が10,000未満でα値の条件に達しておらず、原価競争力を備えた高強度、高延性を具現できないという問題点を持つ。
【0104】
比較例7~8、12、14、16~21は、共通してα値が10,000未満で、α値の条件に達しておらず、原価競争力を備えた高強度、高延性を具現できないという問題点を有する。
【0105】
比較例7~9、12~15、18~24は、素材の厚み中心部の平均結晶粒径(d)が5μm以下を満足できないだけでなく、β値が100未満であるという問題がある。
図2は、実施例1及び比較例9の結晶粒径を示すものである。5μm以下を満たさない比較例は、
図2の右側(比較例9)に示すような粗大な結晶粒が形成され、
図2の左側(実施例1)に示すような超細粒を具現できず、これにより高強度及び高延性を同時に具現できないという問題点を有する。
【0106】
比較例10~11は、γ値が0未満であるという問題点がある。これは多量のMn及び低いCr、Nなどからなる成分バランスが誤りであった結果であり、低温焼鈍を行うことにより素材の十分な耐食性の確保が難しく、耐食性に優れた高強度及び高延性を同時に具現できないという問題点を有する。
【0107】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明はこれに限定されず、当該技術分野で通常の知識を有する者であれば、以下に記載する特許請求の範囲の概念と範囲から逸脱しない範囲内で様々な変更および変形が可能であることが理解できるだろう。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明によるオーステナイト系ステンレス鋼は、原価競争力に優れており、強度、延性及び耐食性に優れるため、産業上利用可能性が認められる。
【国際調査報告】