(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-15
(54)【発明の名称】耐食性と成形性が向上した排気系鋼管用鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20250107BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20250107BHJP
C22C 38/50 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C21D9/46 R
C22C38/50
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535606
(86)(22)【出願日】2022-12-14
(85)【翻訳文提出日】2024-06-13
(86)【国際出願番号】 KR2022020359
(87)【国際公開番号】W WO2023121133
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0184092
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カン, ヒョング
(72)【発明者】
【氏名】キム, ドンフン
(72)【発明者】
【氏名】ジョ, ギョジン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ジンソク
(72)【発明者】
【氏名】キム, ヨンジュン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA12
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA18
4K037EA20
4K037EA27
4K037EA31
4K037EB01
4K037EB02
4K037EB03
4K037EB09
4K037EC04
4K037FA02
4K037FA03
4K037FJ06
4K037FJ07
4K037JA06
(57)【要約】
【課題】本発明は、Cr含量を低減して経済的かつ耐食性と成形性が向上した排気系用鋼板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明の耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板は、重量%で、C:0.001%以上0.02%以下、Si:0.4%以上1.0%以下、Mn:0.1%以上0.5%以下、Cr:8.0%以上10.0%以下、Ni:0%超過0.3%以下、Cu:0%超過0.3%以下、Al:0.02%以上0.2%以下、N:0.001%以上0.02%以下、Ti:0.05%以上0.4%以下を含み、残りがFe及び不可避的な不純物からなり、
下記式(1)で表される組織指数が2以上5.5以下を満たし、
式(1):(Si+2Al)/(Ni+Cu+Mn/2)
下記式(2)で表される皮膜指数が30%以上であり、
式(2):Si
max+Al
max
エリクセン値が4.4mm以上であり、孔食電位が70mV以上であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.001%以上0.02%以下、Si:0.4%以上1.0%以下、Mn:0.1%以上0.5%以下、Cr:8.0%以上10.0%以下、Ni:0%超過0.3%以下、Cu:0%超過0.3%以下、Al:0.02%以上0.2%以下、N:0.001%以上0.02%以下、Ti:0.05%以上0.4%以下を含み、残りがFe及び不可避的な不純物からなり、
下記式(1)で表される組織指数が2以上5.5以下を満たすことを特徴とする耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板。
式(1):(Si+2Al)/(Ni+Cu+Mn/2)
(前記式(1)において、Si、Al、Ni、Cu及びMnは、各成分の含量(重量%)を意味する。)
【請求項2】
下記式(2)で表される皮膜指数が30%以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板。
式(2):Si
max+Al
max
(前記式(2)において、Si
max及びAl
maxは、鋼板の表面から20nmの範囲で測定したSi及びAl含量の最大値を意味する。)
【請求項3】
エリクセン値が4.4mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板。
【請求項4】
孔食電位が70mV以上であることを特徴とする請求項1に記載の耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板。
【請求項5】
重量%で、C:0.001%以上0.02%以下、Si:0.4%以上1.0%以下、Mn:0.1%以上0.5%以下、Cr:8.0%以上10.0%以下、Ni:0%超過0.3%以下、Cu:0%超過0.3%以下、Al:0.02%以上0.2%以下、N:0.001%以上0.02%以下、Ti:0.05%以上0.4%以下を含み、残りがFe及び不可避的な不純物からなり、下記式(1)で表される組織指数が2以上5.5以下を満たすスラブを製造する段階、
前記スラブを1150~1240℃で再加熱する段階、
前記再加熱したスラブを熱間圧延して熱間圧延材を製造する段階、
前記熱間圧延材を冷間圧延して冷間圧延材を製造する段階、及び、
前記冷間圧延材を900~1020℃で焼鈍熱処理する段階を含むことを特徴とする耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板の製造方法。
式(1):(Si+2Al)/(Ni+Cu+Mn/2)
(前記式(1)において、Si、Al、Ni、Cu及びMnは、各成分の含量(重量%)を意味する。)
【請求項6】
前記熱間圧延材は、厚さが2.5~4.5mmであることを特徴とする請求項5に記載の耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記冷間圧延材は、厚さが0.5~2.0mmであることを特徴とする請求項5に記載の耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性と成形性が向上した排気系鋼管用鋼板及びその製造方法に係り、より詳しくは、合金成分及び製造方法を制御し、経済的かつ耐食性と成形性を向上させた耐食性と成形性が向上した排気系鋼管用鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車など内燃機関の排気系用鋼管は、必要に応じて曲げ、拡管などの成形が加えられるため、成形性に優れていることが求められる。また、内燃機関の排気系用鋼管は、外部に露出しているため、一定レベル以上の耐食性も要求される。
【0003】
耐食性を確保するための最も一般的な方法は、ステンレス鋼を使用するものである。排気系用ステンレス鋼は、Crを少なくとも10.5重量%以上含有しているフェライト系ステンレス鋼が活用される。しかし、前記ステンレス鋼は、Cr含量が比較的多いため、価格競争力が低下する。したがって、Cr含量を下げた排気系鋼管用ステンレス鋼に対する必要性が台頭している。
【0004】
しかし、Cr含量を下げると、耐食性に劣るという問題がある。また、溶接部の靭性が低下するという問題がある。したがって、Crを低減するとともに、耐食性及び成形性に優れた排気系用鋼板を確保するための方案が求められているところである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した問題を解決するための本発明の目的は、Cr含量を低減して経済的かつ耐食性と成形性が向上した排気系用鋼板及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板は、重量%で、C:0.001%以上0.02%以下、Si:0.4%以上1.0%以下、Mn:0.1%以上0.5%以下、Cr:8.0%以上10.0%以下、Ni:0%超過0.3%以下、Cu:0%超過0.3%以下、Al:0.02%以上0.2%以下、N:0.001%以上0.02%以下、Ti:0.05%以上0.4%以下を含み、残りがFe及び不可避的な不純物からなり、下記式(1)で表される組織指数が2以上5.5以下を満たす。
【0007】
式(1):(Si+2Al)/(Ni+Cu+Mn/2)
【0008】
前記式(1)において、Si、Al、Ni、Cu及びMnは、各成分の含量(重量%)を意味する。
【0009】
また、本発明の耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板は、下記式(2)で表される皮膜指数が30%以上である。
【0010】
式(2):Simax+Almax
【0011】
前記式(2)において、Simax及びAlmaxは、鋼板の表面から20nmの範囲で測定したSi及びAl含量の最大値を意味する。
【0012】
また、本発明の耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板は、エリクセン値が4.4mm以上である。
【0013】
また、本発明の耐食性と性形成が向上した鋼管用鋼板は、孔食電位が70mV以上である。
【0014】
また、本発明の耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.001%以上0.02%以下、Si:0.4%以上1.0%以下、Mn:0.1%以上0.5%以下、Cr:8.0%以上10.0%以下、Ni:0%超過0.3%以下、Cu:0%超過0.3%以下、Al:0.02%以上0.2%以下、N:0.001%以上0.02%以下、Ti:0.05%以上0.4%以下を含み、残りがFe及び不可避的な不純物からなり、下記式(1)で表される組織指数が2以上5.5以下を満たすスラブを製造する段階、前記スラブを1150~1240℃で再加熱する段階、前記再加熱したスラブを熱間圧延して熱間圧延材を製造する段階、及び、前記熱間圧延材を冷間圧延して冷間圧延材を製造する段階、前記冷間圧延材を900~1020℃で焼鈍熱処理する段階を含む。
【0015】
式(1):(Si+2Al)/(Ni+Cu+Mn/2)
【0016】
前記式(1)において、Si、Al、Ni、Cu及びMnは、各成分の含量(重量%)を意味する。
【0017】
また、本発明の耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板の製造方法において、前記熱間圧延材は、厚さが2.5~4.5mmである。
【0018】
また、本発明の耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板の製造方法において、前記冷間圧延材は、厚さが0.5~2.0mmである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、Cr含量を低減して経済的かつ耐食性と成形性が向上した排気系用鋼板及びその製造方法を提供しうる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例2のエリクセン試験結果を撮影した写真である。
【
図2】比較例2のエリクセン試験結果を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板は、重量%で、C:0.001%以上0.02%以下、Si:0.4%以上1.0%以下、Mn:0.1%以上0.5%以下、Cr:8.0%以上10.0%以下、Ni:0%超過0.3%以下、Cu:0%超過0.3%以下、Al:0.02%以上0.2%以下、N:0.001%以上0.02%以下、Ti:0.05%以上0.4%以下を含み、残りがFe及び不可避的な不純物からなり、下記式(1)で表される組織指数が2以上5.5以下を満たすことができる。
【0022】
以下、本発明の実施例を添付図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施例のみに限定されず、他の形態で具体化されてもよい。図面は、本発明を明確にするために説明と関係のない部分の図示を省略し、理解を助けるために構成要素の大きさを多少誇張して表現してもよい。
【0023】
明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」というとき、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0024】
単数の表現は、文脈上明らかに例外がない限り、複数の表現を含む。
【0025】
以下、本発明の実施例における合金成分含量の数値限定理由について説明する。以下、特に言及しない限り、単位は、重量%である。
【0026】
本発明の耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板は、重量%で、C:0.001%以上0.02%以下、Si:0.4%以上1.0%以下、Mn:0.1%以上0.5%以下、Cr:8.0%以上10.0%以下、Ni:0%超過0.3%以下、Cu:0%超過0.3%以下、Al:0.02%以上0.2%以下、N:0.001%以上0.02%以下、Ti:0.05%以上0.4%以下を含み、残りがFe及び不可避的な不純物からなってもよい。
【0027】
C(炭素)の含量は、0.001%以上0.02%以下であってもよい。
【0028】
Cは、製品の強度を確保するために添加される元素である。これを考慮して、Cは、0.001%以上添加されてもよい。しかし、Cの含量が過剰な場合、溶接部でCrと化合物を形成することにより鋼板の耐食性を低下させることがある。これを考慮して、C含量の上限は、0.02%に制限されてもよい。好ましくは、Cの含量は、0.005%以上0.01%以下であってもよい。
【0029】
Si(シリコン)の含量は、0.4%以上1.0%以下であってもよい。
【0030】
Siは、鋼の耐食性と成形性を同時に向上させることができる主要元素である。これを考慮して、Siは、0.4%以上添加されてもよい。しかし、Siの含量が過剰な場合、強度が高すぎて成形性が低下することがある。これを考慮して、Si含量の上限は、1.0%に制限されてもよい。好ましくは、Siの含量は、0.5%以上0.8%以下であってもよい。
【0031】
Mn(マンガン)の含量は、0.1%以上0.5%以下であってもよい。
【0032】
Mnは、硬化能を向上させ、効果的な酸洗のために添加可能な元素である。これを考慮して、Mnは、0.1%以上添加されてもよい。しかし、Mnの含量が過剰な場合、溶接部のマルテンサイト相の形成を促進させることにより、成形性を低下させることがある。これを考慮して、Mn含量の上限は、0.5%に制限されてもよい。好ましくは、Mnの含量は、0.2%以上0.4%以下であってもよい。
【0033】
Cr(クロム)の含量は、8.0%以上10.0%以下であってもよい。
【0034】
本発明において、Crは、最小限の耐食性及び成形性を確保するために8.0%以上添加されてもよい。しかし、Crの含量が過剰な場合、低コストを追求する本発明の趣旨から外れることになる。これを考慮して、Cr含量の上限は、10.0%に制限されてもよい。好ましくは、Crの含量は、8.5%以上9.5%以下であってもよい。
【0035】
Ni(ニッケル)の含量は、0%超過0.3%以下であってもよい。
【0036】
Niは、溶接部のマルテンサイト相の形成を促進させることにより、成形性を低下させ得る元素である。これを考慮して、Ni含量の上限は、0.3%に制限されてもよい。
【0037】
Cu(銅)の含量は、0%超過0.3%以下であってもよい。
【0038】
Cuは、Niと同様に、マルテンサイト相の形成を促進させることにより、成形性を低下させ得る元素である。これを考慮して、Cu含量の上限は、0.3%に制限されてもよい。好ましくは、Cuの含量は、0%超過0.28%以下であってもよい。
【0039】
Al(アルミニウム)の含量は、0.02%以上0.2%以下であってもよい。
【0040】
Alは、鋼の耐食性と成形性を同時に向上させることができる元素である。これを考慮して、Alは、0.02%以上添加されてもよい。しかし、Alの含量が過剰な場合、溶鋼内の合金成分の制御が困難になることがある。これを考慮して、Al含量の上限は、0.2%に制限されてもよい。好ましくは、Alの含量は、0.03%以上0.1%以下であってもよい。
【0041】
N(窒素)の含量は、0.001%以上0.02%以下であってもよい。
【0042】
Nは、Cと同様に鋼板の強度を向上させるのに有効な元素である。これを考慮して、Nは、0.001%以上添加されてもよい。しかし、Nの含量が過剰な場合、溶接部でCrと化合物を形成することにより、鋼板の耐食性を低下させることがある。これを考慮して、N含量の上限は、0.02%に制限されてもよい。好ましくは、Nの含量は、0.005%以上0.01%以下であってもよい。
【0043】
Ti(チタン)の含量は、0.05%以上0.4%以下であってもよい。
【0044】
Tiは、CrとC及びNの化合物の形成を防止して耐食性を確保させるのに有効な元素である。これを考慮して、Tiは、0.05%以上添加されてもよい。しかし、Tiの含量が過剰な場合、鋼の靭性が低下するので、成形性が劣ることがある。これを考慮して、Ti含量の上限は、0.4%に制限されてもよい。好ましくは、Tiの含量は、0.1%以上0.3%以下であってもよい。
【0045】
本発明の残りの成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避的に混入するおそれがあるので、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば誰でも知ることができるので、そのすべての内容を特に本明細書で言及していない。
【0046】
本発明の耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板は、下記式(1)で表される組織指数が2以上5.5以下を満たすことができる。
【0047】
式(1):(Si+2Al)/(Ni+Cu+Mn/2)
【0048】
前記式(1)において、Si、Al、Ni、Cu及びMnは、各成分の含量(重量%)を意味する。
【0049】
鋼管用鋼板のCr含量を低減すると、鋼管の溶接時に高温を経由しながらオーステナイト相が形成され、常温に冷めながらマルテンサイト相に相変態が発生することがある。したがって、鋼管用鋼板のCr含量を低減すると、溶接部の靭性が劣化することにより、鋼管を曲げたり拡大したりすると、亀裂が発生しやすくなる。
【0050】
溶接部のマルテンサイト相の生成を防止するためには、合金成分の制御が必要である。特に、鋼板の製造に使用される溶鋼には、Ni、Cu及びMnなどの不純物が添加されやすいが、前記不純物は溶鋼に使用されるスクラップなどに起因するので、前記不純物の含量を制御することが必要である。
【0051】
本発明では、Si及びAlとともに、溶鋼内の不純物として作用するNi、Cu及びMnを制御できる組織指数として、前記式(1)を開示する。
【0052】
式(1)の値が2未満の場合には、溶接部のマルテンサイト相の生成を効果的に抑制しにくいため、鋼板の成形性が低下することがある。しかし、式(1)の値が5.5を超える場合には、鋼の強度が高すぎることにより、鋼板の成形性が低下することがある。
【0053】
本発明の耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板は、下記式(2)で表される被膜指数が30%以上であってもよい。
【0054】
式(2):Simax+Almax
【0055】
前記式(2)において、Simax及びAlmaxは、鋼板の表面から20nmの範囲で測定したSi及びAl含量の最大値を意味する。
【0056】
Crの含量を低減しながらも耐食性を確保するためには、鋼板の表面にSi及びAl皮膜を形成することが効果的である。鋼板の表面にSi及びAl皮膜を形成させるためには、鋼板の表面のSi及びAl含量が高い方が有利である。
【0057】
本発明では、鋼板の表面から20nmの範囲で測定したSi及びAl含量の最大値の合計を20%以上に制御することにより、十分な耐食性を確保しうる。
【0058】
本発明の耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板は、合金組成及び製造方法を制御することにより、エリクセン値が4.4mm以上であってもよく、孔食電位が70mV以上であってもよい。
【0059】
次に、本発明の耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板の製造方法について説明する。
【0060】
本発明の耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.001%以上0.02%以下、Si:0.4%以上1.0%以下、Mn:0.1%以上0.5%以下、Cr:8.0%以上10.0%以下、Ni:0%超過0.3%以下、Cu:0%超過0.3%以下、Al:0.02%以上0.2%以下、N:0.001%以上0.02%以下、Ti:0.05%以上0.4%以下を含み、残りがFe及び不可避的な不純物からなり、下記式(1)で表される組織指数が2以上5.5以下を満たすスラブを製造する段階、前記スラブを1150~1240℃で再加熱する段階、前記再加熱したスラブを熱間圧延して熱間圧延材を製造する段階、前記熱間圧延材を冷間圧延して冷間圧延材を製造する段階、及び、前記冷間圧延材を900~1020℃で焼鈍熱処理する段階を含んでもよい。
【0061】
式(1):(Si+2Al)/(Ni+Cu+Mn/2)
【0062】
前記式(1)において、Si、Al、Ni、Cu及びMnは、各成分の含量(重量%)を意味する。
【0063】
前記各合金組成の成分範囲及び式(1)の数値限定理由は上述した通りであり、以下、各製造段階についてより詳細に説明する。
【0064】
前記合金組成及び式(1)を満たすスラブを製造した後、一連の再加熱、熱間圧延、冷間圧延及び焼鈍熱処理する段階を経ることができる。
【0065】
まず、前記スラブを1150~1240℃で再加熱してもよい。
【0066】
再加熱温度が低い場合には、スラブ製造中に生成された粗大な析出物を再分解しにくいことがある。これを考慮して、再加熱温度は1150℃以上であってもよい。しかし、再加熱温度が高すぎる場合には、スラブ表面のSiが過度に酸化され、酸洗工程で除去されることがある。したがって、再加熱温度が高すぎる場合には、鋼板の表面のSi含量が低くなり、耐食性が低下することがある。これを考慮して、再加熱温度の上限は、1240℃に制限されてもよい。好ましくは、再加熱温度は1200℃以上1240℃以下であってもよい。
【0067】
前記再加熱したスラブを熱間圧延して熱間圧延材を製造し、前記熱間圧延材を冷間圧延して冷間圧延材を製造してもよい。
【0068】
前記冷間圧延材は、900~1020℃で焼鈍熱処理してもよい。
【0069】
焼鈍熱処理温度が低い場合には、冷間圧延加工された組織での再結晶が不足し、加工性が低下することがある。これを考慮して、焼鈍熱処理温度は、900℃以上であってもよい。しかし、焼鈍熱処理温度が高すぎる場合には、再加熱工程と同様に、鋼の表面のSi含量が減少して耐食性が低下することがある。これを考慮して、焼鈍熱処理温度の上限は、1020℃に制限されてもよい。好ましくは、焼鈍熱処理温度は、920℃以上980℃以下であってもよい。
【0070】
また、本発明の耐食性と成形性が向上した鋼管用鋼板の製造方法において、前記熱間圧延材は、厚さが2.5~4.5mmであってもよく、前記冷間圧延材は、厚さが0.5~2.0mmであってもよい。ただし、前記熱間圧延材及び冷間圧延材の厚さはこれに限定されず、目的に応じて種々の厚さで製造されてもよい。
【0071】
以下、本発明を実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、このような実施例の記載は、本発明の実施を例示するためのものであり、このような実施例の記載によって本発明が制限されるものではない。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項とこれから合理的に推論される事項によって決定されるものであるからである。
【0072】
{実施例}
下記表1に示す各種合金成分範囲について、スラブを製造し、1240℃で再加熱した後、熱間圧延して3mm厚の熱間圧延材を製造した。次に、前記熱間圧延材を冷間圧延して1mm厚の冷間圧延材を製造した後、980℃で焼鈍熱処理した後、酸洗処理した。
【0073】
【0074】
下記表2には、式(1)値、式(2)値、エリクセン値及び孔食電位を示した。式(1)値は、下記式(1)を計算して示した。
【0075】
式(1):(Si+2Al)/(Ni+Cu+Mn/2)
【0076】
前記式(1)において、Si、Al、Ni、Cu及びMnは、各成分の含量(重量%)を意味する。
【0077】
式(2)値は、下記式(2)を計算して示した。
【0078】
式(2):Simax+Almax
【0079】
前記式(2)において、Simax及びAlmaxは、鋼板の表面から20nmの範囲で測定したSi及びAl含量の最大値を意味する。
【0080】
一方、鋼板の表面から20nmの範囲で測定したSi及びAl含量は、グロー放電分光分析法(Glow discharge mass spectrometry)を活用し、当業界や学界で通用する他の装置を使用して測定してもよい。
【0081】
エリクセン値は、次のように測定した。試片を上部ダイと下部ダイの間に挿入した後、前記試片の外周部を20kNの力で固定した。その後、20mmの直径を有する球状パンチを使用して5~20mm/minの速度で前記試片に変形を加えた。その後、前記試片が破断するまでパンチを挿入した後、破断時の試片の変形高さを測定する方式により行った。エリクセン値が大きいほど、成形性に優れていることを意味する。
【0082】
孔食電位は、静電位器(Potentiostat)装置を用いて測定した。このとき、試片をNaCl溶液に浸漬し、20mV/minの電圧を印加したとき、電流が100μAに達する電位(pitting potential)を測定した値を示した。ここで、前記NaCl溶液の温度は30℃であり、濃度は0.5%に設定した。一方、孔食電位値が高いほど、耐食性に優れていることを意味する。
【0083】
【0084】
表2に示す通り、実施例1~5は、本発明で提示する合金組成、成分範囲、式(1)及び式(2)値を満たした。したがって、実施例1~5は、エリクセン値が4.4mm以上、孔食電位が70mV以上を満たした。すなわち、実施例1~5は、耐食性と成形性の両方に優れていた。しかし、比較例1~6は、式(1)値が2以上を満たさなかったので、エリクセン値が4.4mm以上を満たさなかった。すなわち、比較例1~6は、成形性に劣っていた。
【0085】
また、比較例1~5は、式(2)値が30%以上を満たさなかったので、孔食電位値が70mV以上を満たさなかった。すなわち、比較例1~5は、耐食性に劣っていた。
【0086】
図1は、実施例2のエリクセン試験結果を撮影した写真であり、
図2は、比較例2のエリクセン試験結果を撮影した写真である。
【0087】
図1及び
図2を参照すると、本発明の排気系鋼管用鋼板の成形性が非常に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によれば、Cr含量を低減して経済的かつ耐食性と成形性が向上した排気系用鋼板及びその製造方法を提供できるところ、産業上利用可能性が認められる。
【国際調査報告】