IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ウニヴェルシタ・デグリ・ストゥディ・ディ・パルマの特許一覧 ▶ ウニヴェルシタ・デッリ・ストゥーディ・ディ・フィレンツェの特許一覧 ▶ アジエンダ・オスペダリエロ-ウニヴェルシタリア・カレッジの特許一覧

<>
  • 特表-吸入用粉末及びその製造方法 図1
  • 特表-吸入用粉末及びその製造方法 図2
  • 特表-吸入用粉末及びその製造方法 図3
  • 特表-吸入用粉末及びその製造方法 図4
  • 特表-吸入用粉末及びその製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-15
(54)【発明の名称】吸入用粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20250107BHJP
   A61K 31/245 20060101ALI20250107BHJP
   A61P 23/02 20060101ALI20250107BHJP
   A61K 31/166 20060101ALI20250107BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20250107BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20250107BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20250107BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20250107BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20250107BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20250107BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20250107BHJP
   A61P 11/14 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/245
A61P23/02
A61K31/166
A61K31/445
A61K9/14
A61K9/12
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/10
A61K47/32
A61P11/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535719
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-08-09
(86)【国際出願番号】 IB2022062286
(87)【国際公開番号】W WO2023111930
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】102021000031637
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524224320
【氏名又は名称】ウニヴェルシタ・デグリ・ストゥディ・ディ・パルマ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITA’ DEGLI STUDI DI PARMA
(71)【出願人】
【識別番号】521157661
【氏名又は名称】ウニヴェルシタ・デッリ・ストゥーディ・ディ・フィレンツェ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITA’ DEGLI STUDI DI FIRENZE
(71)【出願人】
【識別番号】524224331
【氏名又は名称】アジエンダ・オスペダリエロ-ウニヴェルシタリア・カレッジ
【氏名又は名称原語表記】AZIENDA OSPEDALIERO-UNIVERSITARIA CAREGGI
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ベッティーニ,ルッジェーロ
(72)【発明者】
【氏名】ブッティーニ,フランチェスカ
(72)【発明者】
【氏名】フォンターナ,ジョヴァンニ
(72)【発明者】
【氏名】ラヴォリーニ,フェデリコ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA24
4C076AA29
4C076BB21
4C076CC01
4C076CC15
4C076EE06
4C076EE16
4C076EE23
4C076EE31
4C076EE37
4C076GG09
4C084AA17
4C084MA13
4C084MA43
4C084MA55
4C084NA10
4C084ZA211
4C084ZA621
4C086AA01
4C086BC21
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA13
4C086MA43
4C086MA55
4C086NA10
4C086ZA21
4C086ZA62
4C206AA01
4C206FA38
4C206GA19
4C206GA31
4C206KA01
4C206MA02
4C206MA05
4C206MA33
4C206MA63
4C206MA75
4C206NA10
4C206ZA21
4C206ZA62
(57)【要約】
局所麻酔薬、例えばプロカイン、クロロプロカイン、リドカイン、プリロカイン、メピバカイン、ブピバカイン、エチドカイン、ロピバカイン、及びテトラカイン又はそれらの塩及び/若しくは溶媒和物と、親水性生体適合性ポリマー、特にヒアルロナートとを含む吸入用ドライパウダー形態の医薬組成物が記載される。本発明の組成物は、咳嗽の処置のために有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所麻酔薬及び親水性生体適合性ポリマーを含む、吸入用ドライパウダーの形態の医薬組成物。
【請求項2】
局所麻酔薬が、プロカイン、クロロプロカイン、リドカイン、プリロカイン、メピバカイン、ブピバカイン、エチドカイン、ロピバカイン、及びテトラカイン、並びに/又はそれらの塩及び/若しくは溶媒和物より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
局所麻酔薬がリドカインである、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
親水性生体適合性ポリマーが、ヒアルロン酸塩、好ましくはナトリウム塩、水溶性セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール及び/又はそれらの混合物より選択される、請求項1~3のいずれか一項記載の組成物。
【請求項5】
親水性生体適合性ポリマーがヒアルロン酸ナトリウムである、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
ドライパウダーが、2から18ミクロンの間に含まれる規定の径、4.0から6.0ミクロンの間に含まれる空気力学的質量中央径、及び35質量%以下の微粒子画分を有するスプレー乾燥された微粒子からなる、請求項1~5のいずれか一項記載の組成物。
【請求項7】
微粒子の粒子径分布が、2.0から5.0ミクロンの間に含まれるd(0.1)、5.0から9.0ミクロンの間に含まれるd(0.5)、及び11から18ミクロンの間に含まれるd(0.9)によって特徴付けられる、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
以下の段階を含む、請求項6~7記載の微粒子を調製するための方法:
i)親水性生体適合性ポリマーを選択すること、及び適切な溶媒中に適切な濃度でそれを溶解させること、
ii)LANE薬を選択すること、及び水中に適切な濃度でそれを溶解させること、
iii)段階i)の溶液に段階ii)の溶液を添加して、結果としてもたらされた溶液の撹拌を保つこと、
iv)段階iii)の溶液をスプレー乾燥させること、
v)結果としてもたらされた粉末を粒子の形態で収集すること;並びに
vi)場合により該粒子を微粒子化すること。
【請求項9】
段階iv)において、0.7mmから3mmの間に含まれる径を有するスプレードライヤーノズルが使用される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
請求項1~7記載の組成物を含むドライパウダー吸入器。
【請求項11】
請求項1~7記載の組成物及びドライパウダー吸入器を含むキット。
【請求項12】
咳嗽の処置に使用するための、請求項1~7記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、慢性咳嗽の処置及び薬理学的処置によって誘導される咳嗽の予防のためのみならず、例えば気道ウイルス感染中又は感染後咳嗽における急性咳嗽の処置のための、ドライパウダー吸入器(DPI)により吸入用ドライパウダー製剤として投与するための、局所麻酔(LANE)薬と親水性生体適合性ポリマーとの組み合わせに関する。さらに本発明は、その調製方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
吸入療法は、気道疾患の治療への、最も古いが最も有効なアプローチの1つである。今日までに、肺を処置するための最も有効で安全な方法は、薬物を気道に直接投与することで低い全身曝露及び薬理学的応答の速やかな発生を引き起こすことであることが周知である。
【0003】
咳嗽は、呼吸器の重要な防御機構であって、生物のこの領域(district)が関係する疾患の間に最も頻繁に観察される徴候である。急性咳嗽は、障害が4週間未満持続する場合を意味するのに対し、慢性咳嗽は、障害が8週間を超えて持続する場合を意味する(Morice AH et al., Eur Respir J 2020 55: 1901136)。
【0004】
慢性咳嗽は、一般成人集団の約10%を冒し、そして罹患した人々の生活の質へのマイナス影響のせいで、及び合併症の可能性から、重要な健康上の問題になる。慢性咳嗽は、約25%の症例で、患者が多数の診断的検査に供されても解明されないままであることから「原因不明」、又は様々な処置に非感受性であるので「治療抵抗性」と定義される。本発明者らが「特発性」と呼ぶことを好むこの種の咳嗽は、臨床的な観点から難問である(Song, W.-J et al., Allergy Asthma Immunol Res 2016, 8 (2), 146-10)。今日までに、この適応症に対する吸入用の認可製品は存在しない。いずれにしても、局所麻酔薬(本明細書の以下にLANEと称される)が神経細胞ナトリウムチャネルを遮断し、興奮性を低減し、したがって咳嗽反射を低減する末梢性抗咳嗽薬として作用しうることが周知である(Karlsson JA Bull Eur Physiopathol Respir. 1987;23 Suppl 10:29s-36s; Dicpinigaitis PV et al. Pharmacol Rev 2014; 66:468-512)。
【0005】
溶液のネブライゼーションによる局所処置のためのLANEの適応外使用は、珍しくない診療である。2002年から2007年の間の、慢性咳嗽に対してネブライズされたリドカイン溶液を投与するための処方及び看護指導を受けている成人への後向き試験(Lim, K. G. et al., Chest 2013, 143 (4), 1060-1065)によって、成人が、管理困難な慢性咳嗽に対するネブライズされたリドカインの自己投与に耐えることが実証された。重篤な有害作用は観察されなかったが、いずれにしても大部分の患者は、嫌な味、喉又は口腔への刺激、知覚機能喪失などの、ネブライゼーションによる投与と結び付いたマイナス効果のため処置を嫌がった。
【0006】
最近、臨床試験により、治療抵抗性慢性咳嗽と関係する影響の低減におけるリドカイン投与の有効性が比較されたが、ネブライゼーションと比べてスプレー製剤の高い有効性が示された(Rayid Abdulqawi et al., The Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice. 2021, 9(4) 1640-1647)。
【0007】
これらの問題以外に、液体剤形(例えばネブライズされた液滴)のLANEの沈着は、肺深部への薬物沈着のリスクを発生し、その吸着及び全身分布を結果としてもたらす可能性がある。これは、局所麻酔薬による毒性の最も一般的な結果であるCNS興奮に続く抑うつを引き起こす可能性がある(Covino, B. G. et al., J. Dent. Res. 1981, 60 (8), 1454-1459)。
【0008】
今日まで、呼吸ツリー(respiratory tree)の誘導部(conductive part)への沈着に適した、LANEとポリマーとの組み合わせからなる固体粒子製剤は記載されていない。
【0009】
賦形剤不含のリドカイン吸入用製剤は、喘息の処置のため、及び喘息患者におけるコルチコステロイドの必要性を低減するために記載されている(国際公開公報第2006/6181号)。この場合、製剤は、特定の製造方法を伴わない薬物からなる。同じ譲受人は、喘息患者の肺の炎症を阻害するための、エアロゾルによる投与のためのコルチコステロイド若しくはリドカインのベンジルリン酸エステルの純粋製剤若しくはベンジルリン酸エステルプロドラッグ、又は関連する局所麻酔薬組成物を請求した(国際公開公報第2005/063777号)。同様に、気管支炎及びCOPDに関連する炎症に対する局所麻酔薬のN-オキシドプロドラッグが記載された(国際公開公報第2005/044233号)。
【0010】
吸入用局所麻酔薬の他の2つの出願が入手可能である。1つは液体エアロゾルの形態の抗片頭痛製品であり(US20040184999)、他方は加圧定量式吸入器の形態の製剤である(US19975679325)。
【0011】
したがって、咳嗽、特に慢性咳嗽の処置のためのより有効でより安全なLANE療法が依然としてかなり必要性である。
【0012】
近年、吸入療法の範囲内で、ネブライゼーションの代替となる可能性があるものが研究され、治療用量を含有する十分な量の微粒子粉末を容易に投与できることから、DPIが有望な戦略として提案された。DPIは、患者からの吸入行為によって作動される受動的吸入デバイスによりエアロゾル化された製剤を含む。DPIは、吸入の独特で迅速な行為で多量の薬物を分散させることができる(数秒で20mg);より大きな量が必要ならば、後続の吸入によって用量を吸入することができる(Buttini, F et al., Int J Pharm 2018, 548 (1), 182-191)。
【0013】
一般的に、吸入用粉末の開発は、周知のパラドックスの克服を必要とする。それは、肺に到達するために活性成分(API)は非常に小さな粒子径を有するべきであるが、同時に、エアロゾル化された薬物の正確な用量及びエアロゾルを放出させるのに好都合な技術的性質(流動性、充填性、再分散性)を示さなければならないからである。この考察は、APIの用量が高い場合により重要になる。APIのみからなる粉末の技術的性質は一般的に不満足であり、吸入投与に適さない。実際に、吸入投与に適した径の粒子は、一般的にAPIを、通常、流動床ジェットミル中で微粒子化工程に供して得られる。これらの工程は、粒子のエネルギー含量及びそれらの反応性の増加を意味し、高粘着性表面の創出を誘導する。これらの態様は全て、吸入投与に極めて不利である。APIがLANE、特にリドカインなどの中作用時間型LANEである場合、低い融点は、処理された材料の温度上昇をしばしば意味する製造工程(とりわけ微粒子化)の間に問題及び不安定性を誘導するさらなる態様である。
【0014】
気管支肺胞領域を作用部位として有する、肺に投与された薬物に起こることとは逆に、特定の場合の咳嗽、特に慢性及び治療抵抗性咳嗽では、LANEの投与は、最高の興奮性が起こり、咳嗽反射が始まる呼吸ツリーの誘導部のレベルでの沈着を最大化しなければならない。送達技術の観点から、誘導部、すなわちWeibelモデル(Weibel ER. 1963. Morphometry of the human lung. Berlin: SpringerVerlag)による0~15分枝次数(generation)の誘導部での沈着は、気管支肺胞レベルで沈着しなければならない薬物の投与に関係する問題と実質的に異なる、新しい問題を克服することを意味する。実際に誘導領域は、粒子モーメントの喪失を結果としてもたらす流動改変を誘導する分枝数が少なく、吸気流によって輸送される粒子の捕捉及び除去を生理学的に任せられた線毛上皮に覆われている。これにより、肺の最深部に沈着するように設計された、接着性混合物としての製剤により作用部位に粒子が沈着する可能性が低下する(De Boer, AHD et al., Expert opinion on drug delivery 14, 499-512)。
【0015】
一般的に、肺の最深部での沈着可能画分を最大化し、流動性質を高めることに関するDPIの性能を最適化するために、物理的形状を制御し、径及び形態を制御するための粒子操作戦略を開発することが可能である(Buttini, F et al., J Control Release 2012, 161 (2), 693-702)。いずれにせよ、呼吸ツリーの誘導部のレベルで作用しなければならない薬物を投与する場合、上述の理由から、吸入用粉末の作用部位での沈着の問題は、粒子径の単純な最適化で完全には解決することができない。
【0016】
しかし、迅速で容易な薬物投与を可能にすると同時に、標的部位にLANEの高い沈着を引き起こす、吸入投与に適したLANEベース医薬品を有することが大いに有利であることに疑いはない。この観点から、咳嗽受容体が位置する呼吸器領域での医薬の沈着に有利に働く製剤が必要とされる。急速適応咳嗽受容体又は刺激受容体は、主として気管の後面、咽頭、及び気管分岐部(気管から主気管支への分岐点)にある。受容体は、遠位気道で数が少なく、呼吸細気管支を超えると存在しない。したがって、この領域に医薬を方向付けるために粒子にとってより適切な空気力学的粒子径は、6から12ミクロンの間に含まれる。
【0017】
上記問題は、本発明の組み合わせ及びその使用によって解決される。
【発明の概要】
【0018】
第1の態様では、本発明は、局所麻酔薬及び親水性生体適合性ポリマーを含む、吸入用ドライパウダーの形態の医薬組成物を目的として有する。
【0019】
有利には、前記粉末は、ドライパウダー吸入器(DPI)による吸入によって投与するための、スプレー乾燥によって得られた乾燥微粒子の形態である。吸入デバイスによるエアロゾル化後、前記微粒子は、典型的に4.0から6.0ミクロンの間に含まれる空気力学的質量中央径を有し、35質量%以下の微粒子画分によって特徴付けられる。
【0020】
また、本発明は、以下の段階を含む微粒子の調製方法に関する:
i)親水性生体適合性ポリマーを選択すること、及び適切な溶媒中に適切な濃度でそれを溶解させること。
ii)LANE薬を選択すること、及び水中に適切な濃度でそれを溶解させること。
iii)段階i)の溶液に段階ii)の溶液を添加して、結果としてもたらされた溶液の撹拌を保つこと。
iv)適切なスプレー乾燥装置を使用して段階iii)の溶液をスプレー乾燥させること。
v)結果としてもたらされた粉末を粒子の形態で収集すること;並びに
vi)場合により該粒子を微粒子化すること。
【0021】
好ましい実施態様では、本発明による使用に適した径を有する粒子は、0.7mmから3mmの間に含まれる径を有するスプレードライヤーノズルを使用して得られる。
【0022】
本発明は、さらに、前述のドライパウダー医薬製剤が充填されたドライパウダー吸入器、並びに該ドライパウダー組成物及びドライパウダー吸入器を含むキットに関する。
【0023】
本発明は、さらなる目的として、医薬としての使用のための、特に咳嗽の処置のための前記組成物を有する。
【0024】
定義
本発明において:
- 「LANE」という用語は、有利には、定義により、並びに米国薬局方、欧州薬局方、及び英国薬局方に報告されるその決定手順により少なくとも0.5%w/vの水溶性を有する局所麻酔薬のクラスに属する治療用物質を指す。
- 局所麻酔薬は、文献により、それら固有の麻酔効力及び活性持続時間に基づき分類することができる薬物である。例えば、プロカイン及びクロロプロカインは、比較的低い効力及び短い作用持続時間を有する薬物である。リドカイン、メピバカイン、及びプリロカインは、中程度の効力及び作用持続時間を有する作用物質である。テトラカイン、ブピバカイン、及びエチドカインは、長期作用を有する非常に強力な作用物質である。
- 咳嗽は、気道に過剰な分泌物及び偶発的に吸入された外来物質がないように保つ目的を有する、呼吸器の生理的防御機構である。これは随意及び不随意でありうる。医学文献には、咳嗽を分類するためのガイドラインがいくつか存在する(Irwin RS and Madison JM. New England Journal of Medicine 2000, 343 (23, 1715-1721; Morice AH, et al Eur Respir J 2020 55: 1901136; DOI: 10.1183/13993003.01136-2019)。4週間未満持続する咳嗽は、一般的に「急性」と見なされ、上気道のウイルス感染が急性咳嗽の最も多く見られる原因である。3~8週間持続する咳嗽は亜急性と分類され、8週間を超える咳嗽は、慢性と定義される。
- ポリマーの分子量として、平均分子質量(M)が意味される。
- 粘膜付着性ポリマーという用語は、呼吸上皮を覆う粘膜層と弱く可逆的な結合により相互作用することが可能な親水性ポリマーを定義する(S. Roy, et al. (2009) Polymers in Mucoadhesive Drug-Delivery Systems: A Brief Note, Designed Monomers and Polymers, 12:6, 483-495)。
- 「微粒子化された」という用語は、粒子径分布の90%が10μm未満を示す粉末に関する。
- 「粗大」という用語は、数百ミクロンの径を有する物質に関する。
- 一般的に、粒子径は、体積径として知られる相当球の代表径をレーザ光回折によって測定して定量化される。
- 粒子径は、篩分析機などの適切な機器により塊の径を測定しても定量化することができる。
- 体積径(VD)は、(密度が粒子径に依存しないと仮定して)粒子密度により質量径(MD)と関係付けられる。
- 本明細書において、活性成分及び微粒子画分の粒子径は、体積径により表現されるのに対し、粗大粒子の粒子径の1つは質量径により表現される。
- 粒子は、粒子の体積又は質量における50パーセントの体積又は質量径に対応する体積又は質量中央径(それぞれVMD又はMMD)により、場合によりそれぞれ粒子の10%及び90%の体積又は質量径により、定義される正規分布又は対数正規分布を有する。
- 粒子径分布を定義するための別の一般的アプローチは、3つの値:i)分布を2つの等しい部分に分ける径である中央径d(0.5);それぞれ分布の90パーセンタイル及び10パーセンタイルに対応するii)d(0.9)及びiii)d(0.1)を使用することからなる。
- 一般的に、同じ又は類似のVMD又はMMDを有する粒子は、異なる粒子径分布、特に値d(0.1)及びd(0.9)から表される異なる幅の分布を有しうる。
- エアロゾル化の際に、粒子径は空気力学的質量径(MAD)として表現されるのに対し、粒子径分布は空気力学的質量中央径(MMAD)及び幾何標準偏差(GSD)により表現される。MADは、懸濁状態の粒子が気流中で輸送される能力に依存する。MMADは、粒子の50重量パーセントの空気力学的質量径に対応する。
【0025】
「呼吸可能画分」という表現は、患者の肺に到達する活性粒子、すなわち5μm未満の空気力学的径を有する粒子の質量のパーセンテージを指す。
- MMAD、GSD、及び呼吸可能画分は、一般的な薬局方、特に欧州薬局方第10版に報告された手順によりAndersen Cascade Impactor(ACI)、Multi Stage Liquid Impinger(MLSI)、又はNext Generation Impactor(NGI)のような適切なインパクターを使用して評価される。
- 呼吸可能画分は、微粒子質量(微粒子用量とも称される)と起動時にデバイスから放出される活性成分の質量を表す送達用量とのパーセンテージ比から計算される。
- 吸入行為後に吸入器から放出される計測用量が意味される送達用量は、インパクター装置内の累積沈着から計算されるのに対し、微粒子質量は空気力学的径<5.0μmを有する粒子の沈着によって計算される。
- また、送達用量は、一般的な薬局方、特に欧州薬局方第10版に報告された手順により用量単位採取装置(DUSA)を使用して評価される。
- 計測用量(MD)は、吸入器に装填され、デバイス起動の実施に対して(全体として又は部分的に)放出されることが意図された粉末質量を意味する。
- 「放出画分」(EF)は、放出用量と計測用量との比である。
- 呼吸不可能粒子画分は、呼吸不可能粒子(すなわち空気力学的径>5μmを有する)の質量と送達用量とのパーセンテージ比から計算される。
- 呼吸不可能粒子質量(NB-PM)は、放出用量と微粒子質量との差として得られた5μmよりも大きな空気力学的径を有する薬物量として定義され、mgで表される。
- 咳嗽の「処置」は、(未処置条件と比べて)咳嗽事象の頻度を低減すること及び/又は咳嗽事象の重篤度を低減することを意味する。これらの用語は、進行中の咳嗽エピソードの予防的処置及び治療の両方を指す。
- 物質の「治療有効量」は、咳嗽事象の頻度又は重篤度の臨床的に意義のある低減をもたらす量を指す。
【0026】
発明の詳細な説明
本発明は、局所麻酔薬(LANE)と親水性生体適合性ポリマー(HBP)との組み合わせであって、LANE及びHBPが予め確立された比で存在する組み合わせを対象とする。
【0027】
有利には、LANEは、麻酔薬の薬理学的クラスに属する任意の活性成分でありうる。より有利には、LANEは、標準条件(15~25℃、1気圧)で少なくとも0.05%w/vの水溶性を有する。
【0028】
例えば、LANE薬は、プロカイン、クロロプロカイン、リドカイン、プリロカイン、メピバカイン、ブピバカイン、エチドカイン、ロピバカイン、及びテトラカイン並びに/又はそれらの塩及び/若しくは溶媒和物などの、短、中、及び長作用期間を有するLANEより選ぶことができる。これらの化合物のうちの1つがキラル中心を有するならば、それらを光学的に純粋な形態で使用することができ、また、ジアステレオマー混合物又はラセミ混合物として存在することもできる。
【0029】
有利には、LANEは、遊離塩基の形態で、又は塩酸塩及び臭化水素酸塩のような薬学的に許容される塩の形態で使用することができる。好ましい実施態様では、LANEは、塩酸塩の形態のリドカインである。
【0030】
有利には、親水性生体適合性ポリマー(HBP)は、ヒアルロン酸(HA)塩、好ましくはナトリウム塩、水溶性セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、又はそれらの任意の混合物のような安全で薬学的に許容される物質からなる群より選択することができる。
【0031】
好ましくは、親水性生体適合性ポリマーは、15から1500kDaの間、好ましくは15から200kDaの間、より好ましくは20から140kDaの間、いっそうより好ましくは20から100kDaの間に含まれる分子量のヒアルロン酸ナトリウム(SH)である。
【0032】
より有利には、LANEは、組み合わせの1から90重量%の間、好ましくは10から50重量%の間に含まれる、組み合わせの重量パーセンテージで存在する。好ましくは、HAの重量パーセンテージは、90~50%w/w、より好ましくは80~70%w/wの範囲である。
【0033】
有利には、本発明の組み合わせは、規定の粒子径によって特徴付けられる微粒子の形態である。
【0034】
体積径として表現された微粒子の粒子径分布は、以下のパラメータを満たすべきである:2.0から5.0ミクロンの間に含まれるd(0.1)、5.0から9.0ミクロンの間に含まれるd(0.5)、及び11から18ミクロンの間に含まれるd(0.9)。
【0035】
空気力学的径として表現された場合、質量中央値は、4.0から6.0ミクロンの間に含まれる。
【0036】
一般的なDPIによりエアロゾル化された場合、微粒子は、35~30%の範囲、好ましくは25~20%の範囲、より好ましくは15~20%の範囲内に含まれる微粒子画分(FPF)(<5ミクロン)を示す。
【0037】
本発明のドライパウダー組成物の利点は、LANEを親水性生体適合性ポリマーと組み合わせて含み、吸入に適し、かつ呼吸ツリーの誘導路(conductive tract)への医薬の沈着に関係する特定の難題から派生した必要条件を満たすことができる、操作された微粒子を得ることに由来する。
【0038】
本発明の粉末は、吸入器デバイスから効果的に送達され、2から18ミクロンの間、好ましくは5から14ミクロンの間、いっそうより好ましくは5から12ミクロンの間に含まれる規定の径のため、誘導気道の線毛上皮を覆う粘膜層に沈着することができるLANEの流動性粒子からなる。
【0039】
粒子中に粘膜付着性親水性生体適合性ポリマーが存在することは、湿った上皮への粒子の接着、ならびにLANEの局所および経時的長期放出に有利に働く。
【0040】
本発明の微粒子は、化学的観点及び物理的観点の両方で安定である。
【0041】
本発明の組成物は、粉末中の活性成分の均一な分布及び高用量で送達される可能性を示し、患者からの1つ以上の吸気行為により投与可能な最大投薬量は100mg、好ましくは80mg、なおさらに40mgの粉末である。
【0042】
たとえ厳密には必要でないとしても、本発明による粉末製剤は、ラクトース、好ましくはアルファ-ラクトース一水和物、トレハロース、マンニトール、ラフィノースなどの薬学的に許容される不活性賦形剤の粗大粒子及び/又は微粒子をさらに含むことができる。
【0043】
本発明は、LANEを添加することによって効果的にエアロゾル化することができるHA粒子の粉末の調製を可能にする。本発明によると、吸入器から送達される粉末用量は、装填された用量の>70重量%、好ましくは装填された用量の>85重量%である。
【0044】
本発明の組成物は、いかなる流動賦形剤も希釈剤も添加せずに硬カプセル、ブリスター、又はリザーバー吸入器中に装填することができる。
【0045】
本名発明の微粒子は、HBPのマトリックスからなり、その中にLANE分子が捕捉され、薬学的に許容される時間に動態的に安定な非晶質、半結晶性又は結晶性安定構造をもたらす。したがって、本発明の組成物を、ドライパウダー吸入器を使用してエアロゾル化し、吸入することができる。
【0046】
粒子径は、咳嗽刺激に対する受容体が高度に集中している呼吸ツリー(喉頭、気管、大気管支)の領域へのそれらの沈着を可能にし;この特徴は、治療効果を最大化し、全身吸着及びそれに関係する副作用を最小限にすることを可能にする。
【0047】
さらに、本発明のHBP-LANE微粒子は、活性成分を長期間徐々に放出する。
【0048】
本発明は、さらに、ポリマーの種類の選択、その分子量、及びポリマー:薬物比に作用する前記操作された微粒子を調製するための方法に関する。
【0049】
特に、本発明の方法は、スプレー乾燥によって行われる。
【0050】
典型的には、スプレー乾燥は、予熱された乾燥チャンバー中で乾燥させるための溶質を含有する溶液をネブライズすることによって行われ、乾燥チャンバー内で溶液の小さな液滴が、制御された温度の熱気流に供され、粉末の粒子に変換される。得られた粉末は、粉末/気体分離機、例えばサイクロンを通過し、その中で粉末は運動エネルギーを失い、適切な容器中に収集される。
【0051】
詳細に明らかにされた特徴を有する粉末を得るための調整可能なパラメータは:i)ネブライザーの種類;ii)乾燥チャンバー中にスプレーされた材料を乾燥させるために使用される流入気体の温度(本明細書下記にインプット温度と称される);iii)気体の流速、及びiv)供給溶液の流速(本明細書下記に供給流速と称される)である。
【0052】
前記スプレー乾燥方法は、以下の段階を含む:
i)適切な親水性生体適合性ポリマー(HBP)を選択すること、及び適切な溶媒中に適切な濃度でそれを溶解させること。
ii)LANE薬を選択すること、及び水中に適切な濃度でそれを溶解させること。
iii)段階i)の溶液に段階ii)の溶液を添加して、結果としてもたらされた溶液の撹拌を保つこと。
iv)適切なスプレー乾燥装置を使用して段階iii)の溶液をスプレー乾燥させること。
v)得られた粉末を粒子の形態で収集すること;並びに
vi)場合により該粒子を微粒子化すること。
【0053】
有利には、段階i)において、溶媒は水、又は共溶媒としてエタノールを0.1から99.9%v/vの間に含まれる濃度で含有する水性アルコール溶液である。
【0054】
好ましくは段階i)は、室温の水中で、撹拌下で実行され、その際、HBPは、1から6%w/vの間に含まれる。
【0055】
有利には、段階ii)でも、溶媒は水、又は共溶媒としてエタノールを0.1から99.9%v/vの間に含まれる濃度で含有する水性アルコール溶液である。
【0056】
段階i)におけるHBPの種類及びその分子量は、特定の質的組成、薬物の種類、及び薬物含量に基づき当業者によって選択されなければならない。本発明の好ましい実施態様では、HAは、ポリマーとして選択される。
【0057】
好ましくは、段階ii)は室温及び撹拌下で実行され、その際、薬物LANEの濃度は、0.6から10%の間、好ましくは1から6%w/vの間に含まれる。
【0058】
段階iii)の溶液は、0.5から6%w/vの間に含まれる、好ましくは3~5%w/vの間に含まれる溶質濃度を有するべきである。
【0059】
段階iii)から得られた溶液中の遊離塩基として表現されたLANEの濃度は、溶質の10から50重量%の間、好ましくは20から40重量%の間に含まれる。
【0060】
有利には、段階iii)の結果としてもたらされた溶液は、少なくとも50rpmで10分間撹拌が保たれる。
【0061】
段階i)及び段階ii)を組み合わせることができ、これらの2つの段階の全ての構成要素を組み合わせ、それらの内容物を25から50℃の間、好ましくは30から44℃の間、より好ましくは37から42℃の間に含まれる温度で加熱して溶液を調製することができる。
【0062】
段階iv)において、次いでHBP-LANEは適切なパラメータでスプレー乾燥され、例えば:
- 好ましくは110℃から160℃の間、好ましくは115℃から150℃の間、なおより好ましくは120℃から140℃の間のインプット温度;
- 1.0から10.0mL/minの間、好ましくは1.5から5mL/minの間、なおより好ましくは2から4mL/minの間の供給溶液の流速;
- 1から7%w/vの間、好ましくは2から6%w/vの間、なおより好ましくは3から5%w/vの間の溶液の溶質濃度;
- 135から820L/hの間、好ましくは300L/hから750L/hの間、なおより好ましくは473から670L/hの間のネブライゼーション気体流速;
- 20から40m3/hの間、好ましくは30から38m3/hの間、なおより好ましくは33から35m3/hの間の乾燥気体流速。
【0063】
段階v)において、粒子は公知の方法により収集することができる。
【0064】
段階vi)において、収集された粒子を、場合により公知の方法により微粒子化することができる。いずれにしても、本発明により、0.7mmから3.0mmの間、好ましくは1.0mmから2.5mmの間、より好ましくは1.4mmから2.0mmの間に含まれる径を有するスプレー乾燥ノズルを使用して、さらなる微粒子化なしに所望のサイズの微粒子を得ることができる。
【0065】
段階iii)の溶液は、HBP溶液にLANE溶液を添加して調製され、いずれにしても、当業者は、当業者自身の知識に基づき異なる調製方法論及び条件を選択することができる。
【0066】
段階iii)において、特にリドカイン粉末及び50~90重量%のHAの場合、薬学的に許容し得る時間維持される完全に非晶質の構造を有する微粒子の形成を保証するHAの好ましい分子量は20~100kDaの範囲であることが見出された。750~1000kDa程度のより高いHA分子量について、得られた微粒子は、HAポリマー鎖間のリドカインの不完全な分子分散に起因しうる、例えば偏光顕微鏡法により観察された部分結晶構造を示す可能性がある。
【0067】
粉末の粒子径分布は、スプレー乾燥工程のために使用されたノズルの径によって顕著に影響される。1.4mm径を使用すると、d(v,10)は2.4~2.8ミクロンであり、d(v,90)は11.0~14.0ミクロンであった。これらの粒子集団は、3.8~4.1ミクロンのMMAD、及び5~14ミクロンの範囲の粒子のパーセンテージ(66%)を示す34%のFPFを有した。2.0mmよりも大きな径が使用された場合、微粒子は、5.7~6.0ミクロンのMMAD、及び5~17ミクロンの範囲の粒子の高いパーセンテージ(86%)を示す14%のFPFを示した。この観察は、3.3~4.6ミクロンのd(v,10)及び14.2~17.0ミクロンのd(v,90)を明らかにしたレーザ回折分析によって確認される。
【0068】
この独特な特徴は、特に咳嗽受容体が高度に局在する呼吸ツリー領域(喉頭、気管、大気管支)に粉末を沈着させ、飲食物の摂取時の感覚消失又はさらには窒息などの不快及び/又は重篤な副作用の原因となる口腔内沈着を最小限にする。
【0069】
本発明のさらなる利点は、ポリマー、例えばHAが、LANE放出の制御エレメントとして作用し、その代わりに現状のままでは数分しかかからないLANEの溶解と比べて、作用部位でのその送達を数時間延長するという事実によって表される。この態様は、長期咳嗽抑制を得るために好都合である。
【0070】
最後に、HBPの粘膜付着能は、呼吸ツリーの誘導路の上皮を覆う粘膜への粒子接着に好都合であり、全身吸着がより高い下気道に粒子が流入することを回避する。
【0071】
組み合わせの治療量は、活性物質の性質、処置すべき状態の種類及び重篤度、並びに処置を必要とする患者の状態により広い限度内を変動しうる。
【0072】
特に活性物質は、溶液調製及び乾燥工程の後に本発明の組成物に慎重に添加される。
【0073】
活性成分が理論値に対して5%以内の薬物含量を有する場合に、該活性成分の優れた分布均一性が得られる。含量均一性の決定は、検証された分析方法を使用して当業者によって行われなければならない。
【0074】
本発明の組成物は、任意のドライパウダー吸入器を用いて使用することができる:i)活性成分の細分された単一用量を投与するための単一用量吸入器(単位用量);ii)より長い処置サイクルに十分な活性成分量が予備装填された定量多用量吸入器又はリザーバー吸入器。
【0075】
本発明の組成物は、臨床医によって処方された確立された頻度で患者に、例えば単一用量又は多回用量で、典型的には1日に1回、2回、又は数回投与することができる。あるいは、本発明の組成物を、必要により介護者が投与又は患者が自己投与することができる。
【0076】
吸入されるための複合ドライパウダーの量は、スプレー乾燥された粉末中の活性成分の濃度に依存する。例えば、混合物HBP:LANE 50:50w/wから8mgのLANEを投与するために16mgの粉末が必要であり、又は混合物HBP:LANE 80:20w/wから8mgのLANEを投与するために40mgの粉末が必要である。好ましくは、薬物の量は、単回の吸入行為で(全粉末用量を数秒で)投与されるが、本発明の特定の実施態様では、より多量の粉末が必要ならば、用量を同じ吸入器により数回の連続吸入により吸入することができる。
【0077】
本発明の組成物は、様々な原因の急性、亜急性、又は慢性咳嗽、例えば喘息に関連する咳嗽、又はACE阻害剤又は喘息若しくは慢性閉塞性肺疾患を処置するために使用される任意の医薬などの別の医薬の投与が原因の咳嗽の処置に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】SEM画像を示す。
図2】回折パターンを示す。
図3】薬物分布を示す。
図4】溶解プロファイルを示す。
図5】偏光光学顕微鏡(倍率10×)の画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0079】
本発明は、以下の実施例によって詳細に例証される。
【実施例1】
【0080】
20~50kDaの間に含まれる分子量のリドカイン塩酸塩-HAのスプレー乾燥された粉末の製造
最適化を3つの工程パラメータ、すなわち乾燥すべき溶液中の溶質濃度、供給流速、及びノズル径に集中した。3つの変数の各々を、合計で8つ(2)の実験を実行するソフトウェアMinitab(登録商標)17(Minitab Inc., State College, PA, USA)を使用する2水準完全実施要因計画を適用して2つの水準で考慮した。
【0081】
以下の乾燥された粉末の品質性状を評価した:
・ 乾燥された粉末の残留水分含量
・ dv50としての粒子径
・ 呼吸不可能画分
【0082】
複合スプレー乾燥粉末は、リドカイン塩酸塩(ACEF, Fiorenzuola, Italy)20%w/w、及び粘膜付着性ポリマーとしてのHA 20~50kDa(Prymalhyal 50, 20~50kDa, Givaudan, France)80%w/wを含有した。
【0083】
以下の工程パラメータを一定に保ちながらMiniスプレードライヤーB290装置(Buechi, Switzerland)を使用して粉末を製造した:空気流速(600L/h)、インプット温度(130℃)、及び吸引流速(35m3/h)。このような条件で、アウトプット温度は約70℃であった。
【0084】
実施例2に記載されたレーザ回折によって質量中央径、Dv50を決定した。
【0085】
TGA-DSC 1 STAReシステム装置(Mettler Toledo, USA)を使用する熱重量分析(TGA)によって、スプレー乾燥された粉末の水分含量を測定した。各スプレー乾燥粉末約5mgを50mL/分の乾燥窒素の流動下、10℃/分の加熱速度で25~130℃の加熱プログラムに供した。
【0086】
25から110℃の間に発生した重量損失のパーセンテージによって残留水分含量を表した。
【0087】
Fast Screening Impactor(FSI, Copley Scientific, UK)を使用して呼吸不可能画分をインビトロで評価した。この装置は、5μmよりも大きな空気力学的径を有する粒子が沈着されるCFCと名付けられる第1、及び5μm未満の空気力学的径を有する粒子を収集するFFCという名の1つという2つの分離ステージを使用する。FSIは、インダクションポート(IP)、空気力学的径>5μmを有する粒子のための液体トラップとして作用する溶液メタノール-水 70:30v/v 10mLが充填されたCFC、及びガラス繊維フィルター(A/E Type, Pall Corporation, USA)を備えるFFCからなる。製造業者によって提供される説明書により組み立てを完了した後、FSIを真空ポンプVP 1000(Erweka, Germany)と接続し、インパクターを通過した60mL/minの空気流を流量計(model 3063, TSI, USA)によって測定して記録した。粉末20mgを含有するヒプロメロースカプセル3号サイズ(Qualicaps, Spain)が装填されたドライパウダー用デバイスRS01(Plastiape, Italy)により粉末のエアロゾル化を実行した。沈着後、各ステージ、デバイス、及びカプセルでの粉末量を、規定の溶媒体積を使用して高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって収集した。分析を3つ組で実行した。
【0088】
CFCステージに沈着した量を、CFC及びFFCに沈着した量の合計に対応する、デバイスから放出された合計粉末量で割って呼吸不可能画分を計算した。
【0089】
表1に、リドカイン塩酸塩-HA粉末について得られた工程パラメータ及び対応する品質性状を要約する。
【0090】
【表1】
【0091】
Minitab(登録商標)17ソフトウェアで統計解析(ANOVA)を実行し、工程パラメータ及び品質性状の効果を直線回帰モデルで解析した。
【0092】
回帰式により、ノズル径が粒子径分布及び呼吸不可能画分に統計的により重要な効果を有したことが示された。ノズル径が増大すると、スプレー乾燥された粉末の粒子径及び呼吸不可能用量が増大する。
【実施例2】
【0093】
スプレー乾燥リドカイン塩酸塩-HA(20~50kDa)粉末の粒子径分布及び薬物含量
実施例1により調製されたスプレー乾燥リドカイン-HA粉末の粒子径分布を、Spraytech機器(Malvern, UK)を使用してレーザ回折により評価した。
【0094】
スプレー乾燥された粉末約10mgをシクロヘキサン中ポリソルベート80(SPAN(登録商標)80, sigma Aldrich, USA)溶液中に分散させたが、その中にリドカイン塩酸塩は不溶性である(粉末濃度0.1%w/v)。これを回折測定の5分前に超音波浴内に置いた。
【0095】
各測定を3つ組で実行した。レーザビームの減衰率を8から10%の間に保った。
【0096】
等体積球相当径、すなわちdv10、dv50、及びdv90として粒子径を表現した。
【0097】
LC Agilent 1200機器(Agilent Technologies, USA)を使用するHPLCによって薬物含量及び粉末均一性を評価した。水10mL中に溶解された粉末25mgを計量して調製された6つの試料に分析を実行した。試料毎に3つの反復を実行した。
【0098】
検証された分析方法及び以下のクロマトグラフィー条件を使用して含量均一性の決定を実行した:
- カラム:C18 Agilent(登録商標)Eclipse(5μm、4.6×150mm, Waters Corp, USA);
- 波長:230±2nm;
- カラム温度:25℃;
- 流量:1mL/分;
- 移動相:リン酸緩衝溶液:メタノール(25:75 v/v)。
【0099】
無水NaHPO1.38gを超純水500mL中に溶解してリン酸緩衝液を調製し、次いで、数滴の1M(40g/L)NaOH水溶液を添加することによってpHを8に調整した。0.45μm PTFEフィルターで溶液を濾過した。薬物の保持時間は3±1分であった。
【0100】
全ての試料で薬物含量は均一であり、理論値に対して5%w/w以内であった。変動係数、VC(5つの測定値の標準偏差と平均値との比のパーセンテージとして計算される)は2.5%未満であった。結果は、リドカイン塩酸塩-HA粒子を確立された組み合わせで調製するのにスプレー乾燥技術が適していることを示す。
【0101】
【表2】
【実施例3】
【0102】
異なる径を有するノズルを用いて製造された実施例1によるスプレー乾燥粉末の走査電子顕微鏡法による分析
実施例1に記載されるように乾燥された粉末の形態を、SUPRA 40機器(Carl Zeiss, Germany)を使用して走査電子顕微鏡法(SEM)によって研究した。導電性カーボン両面接着剤を予め貼り付けた試料ホルダーに各粉末試料(10mg)を配置して、電荷を分散させた。穏やかな窒素流で過剰の粒子を除去した。
【0103】
2.75 10-6Torrの高真空条件で試料を分析し、1.0kVの加速電圧を使用して倍率5000倍で画像を収集した。
【0104】
図1に、2又は1.4mmの径を有するノズルを用いて製造された乾燥粉末のSEM画像を示す。
【0105】
両方の場合で、複合HA-LANE粉末は、崩壊した表面を広く有し、膨満した平滑表面をわずかな場合に有する丸い粒子が特徴であると認めることができる。いずれにしても、より小さな粒子の数がより少なかったノズル径2mmで製造された粉末と比べて、ノズル径1.4mmで製造された粉末は、より大きな粒子に付着した多数のより小さな粒子を示した。
【実施例4】
【0106】
粉末のX線回折。
2つの異なるHA:
- Prymalhyal 50(20~50kDa, Givaudan, France);
- PLUS-PH 100kDa欧州薬局方等級(Altergon, Italy)
を用いて製造された2つの粉末で、粉末のX線回折分析を実行した。
【0107】
両方のポリマーに関して、リドカイン塩酸塩 20%w/w及びHA 80%w/wを含有する粉末を製造した。
【0108】
全体的に3%w/vの溶質を含有する溶液から出発して、Buchi B290機器を使用して以下の工程パラメータを使用して粉末を製造した:
ノズル径(2mm);供給流速(2mL/min)、気体流速(600L/h)、インプット温度(130℃)、アウトプット温度(70℃)、吸引流速(35m3/h)。Miniflex回折計(Rigaku, Japan)を使用して30kVのCuKα放射線を使用して、走査速度0.05°/分及び走査領域(2θ)5~35°でこれらの粉末のX線回折を記録した。回折パターン(図2)は、両方の粉末が非晶質であったことを示した。
【実施例5】
【0109】
リドカイン塩酸塩及びHA(20~50kDa)を含有するスプレー乾燥された粉末の衝突手順によって決定された粒子の空気力学的粒子径分布
複合スプレー乾燥粉末は、リドカイン塩酸塩を20%w/w及びHA 20~50kDaを80%w/w含有した。
【0110】
構成成分を別々に水に溶解させた。次いで、2つの溶液を配合して、3%w/vと等しい溶質含量を有する、乾燥させるための最終溶液を得た。
【0111】
Buechi B290スプレードライヤーを使用して、それぞれ2.0又は1.4mmの径のノズルを使用して2つの粉末を製造した。以下の工程パラメータを使用した:供給流速(4mL/min);気体流速 600L/h;インプット温度 130℃;アウトプット温度(70℃);吸引流量 35m3/h。
【0112】
各製剤をヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)カプセルQuali-V-I 3号サイズ(Qualicaps, Spain)に装填し、中~高抵抗系のドライパウダー吸入器RS01(Plastiape, Italy)によりエアロゾル化した。各カプセルに、リドカインの名目用量8mgに対応する粉末40±0.1mgを装填した。米国薬局方に記載されたインダクションポート(IP)を備えるNext Generation Impactor(NGI, Copley Scientific, UK)を使用して粒子の空気力学的粒子径を評価した。欧州薬局方第10版2.9.18に推奨されたものに従い、装置を通して空気4Lが吸引されるように4つのカプセルの内容物を60L/minのサンプリング速度で4秒間放出させて、各決定を実行した。
【0113】
沈着実験の終わりに、NGIを分解し、HPLC検証法を使用して各ステージで沈着した粉末中のリドカインの定量を実行した。
【0114】
インパクターの各ステージで沈着したリドカイン塩酸塩を水:メタノール(25:75v/v)のアリコートを用いて回収し、最終的にそれを適切な体積のメスフラスコに移し、同じ溶媒混合物で体積を調整した。得られた溶液を酢酸セルロースシリンジフィルター(空隙率 0.45μm及び径 2.5cm、GVS Filter Technology, USA)に通過させて濾過し、その後HPLCに注入した。メスフラスコを使用して、RS01(登録商標)デバイス及びカプセル中に残った粉末を収集し、実験終了時に粉末を超純水に溶解させて、活性成分の完全回収を検証した。
【0115】
DUSA(用量単位スプレー装置)方法論も使用して送達用量を決定した。送達されたリドカイン用量を10個の別々のカプセルから収集した。RS01(登録商標)デバイスを使用して60L/minでカプセルの内容物をエアロゾル化し、採取された空気体積は2.0Lと等しかった。全ての粉末を3つ組で試験した。
【0116】
欧州薬局方(第10版2.9.18)に従い、インパクターで実行された測定毎に、供与されたリドカインの量、送達用量、微粒子用量、微粒子画分、空気力学的質量中央径(MMAD)、及び幾何標準偏差(GSD)を計算した。
【0117】
・ NGIのインダクションポート及び全ステージから回収された薬物ポーションの合計(mg単位)として得られた放出用量(ED)、及び名目用量に対するそのパーセンテージ。
・ 微粒子用量(FPD)、すなわち欧州薬局方に従い補間によって計算された5μm未満の径を有する粒子中に含有される、mgで表現された薬物量
・ FPDとEDとの比として計算され、パーセンテージで表現された微粒子画分(FPF)
・ 呼吸不可能粒子用量(NB-PD)、すなわちNGI中の放出用量と、微粒子用量との差として得られた、5μmよりも大きな空気力学的径を有する粒子中に含有される、mgで表現された薬物量
・ 呼吸不可能粒子用量とEDとの比として計算され、パーセンテージで表現された呼吸不可能粒子画分(NB-PF)
を計算して、2つの粉末の空気力学的性能を評価した。
【0118】
本明細書において、「用量」という用語は、吸入器の1回の起動によって送達される活性成分量を意味する。
【0119】
2つの粉末のエアロゾル化性能を表3に要約する。
【0120】
両方の径のノズルを用いて得られたスプレー乾燥された粉末についての送達用量の平均値をNGI測定によって決定したものは、供与量(ホールインパクターから回収されたリドカイン量をカプセル及びデバイスから回収した量と合計したもの)の値の88から95%の間に含まれたのに対し、DUSA方法論を使用したとき、それらは>97%w/wであった。
【0121】
MMAD値並びにNGI装置内の様々なステージ、インダクションポート(IP)に沈着した粒子及びRS01デバイス中又はカプセル中に残った粒子中に含有される薬物量からも強調されるように、微粒子画分と呼吸不可能粒子画分との差は、2つの粒子の異なる粒子径(空気力学的)分布の直接の結果であった。図3に、異なる径のノズル、それぞれ1.40(白のヒストグラム)及び2.00mm(黒のヒストグラム)で製造された2つの粉末のNGIステージでの薬物分布を報告する。バーは標準偏差を表す(n=3)。
【0122】
【表3】
【実施例6】
【0123】
スプレー乾燥された粉末とリドカインとの溶解の比較
リドカイン粉末の原材料、並びに生体付着性ポリマーとしてPLUS-PH 100kDa欧州薬局方品(Altergon, IT、バッチ番号1000008976)、Prymalhyal 50(20~50kDa, Givaudan, France)及びContipro Biotech(工業用等級、750~1000kDa, Czech Republic)を使用してスプレードライヤー(Buchi)により以下の工程パラメータを使用して製造されたスプレー乾燥HA-リドカイン粉末に、インビトロ溶解試験を実行した:ノズル径(2mm)、流量(2mL/min)、空気流速(600L/h)、インプット温度(130℃)、アウトプット温度(70℃)、及び吸引流量(35m3/h)。
【0124】
スプレー乾燥された粉末は、3%w/vの固体含量を有し:
- 20%(w/w) リドカイン塩酸塩及び80%(w/w) HA PLUS-PH 100kDa
- 60%(w/w) リドカイン塩酸塩及び40%(w/w) HA Prymalhyal 50(20~50kDa)
- 20%(w/w) リドカイン塩酸塩及び80%(w/w) HA Contipro Biotech(750~1000kDa)
を含有した。
【0125】
170cm3リザーバーを含み、溶解媒が充填され、サイドアームの長さが10cmの垂直型拡散セルであるRespiCell(商標)(Sonvico, F et al. Pharmaceutics 2021, 13, 1541)を使用して粉末性能を比較するためにインビトロ溶解試験を実行した。
【0126】
この装置は、金属クランプによってつながっているが、拡散メンブレンとして使用され、溶解媒と接触して水平に配置されたガラスマイクロファイバーフィルターによって分離されている、上部(ドナーチャンバー)及び下部(受けチャンバー)からなる。受けチャンバーは、磁気スターラを内部に含む。
【0127】
分析のために使用された溶解媒は、NaCl 8g、KCl 0.2g、NaHPO 1.44g、及びKHPO 0.12gを秤量し、蒸留水1L中に溶解させ、最終pHを7.4として調製されたリン酸緩衝食塩水(PBS)である。分析の間に、RespiCell(商標)をサーモスタット(Lauda eco silver E4, DE)で37±0.5℃に制御した。
【0128】
受けチャンバーにPBSを充填し、予め設定した時間間隔でセルのサイドアームを経由して試料を採取した。分析前に、溶解媒 1mLをフィルターに適用してフィルターを完全に濡らした。
【0129】
分析の開始時に、正確に秤量したリドカイン約8mg、正確に秤量したスプレー乾燥リドカイン-HA PLUS-PH 100kDa欧州薬局方粉末 40mg(リドカイン約8mgに対応する)、正確に秤量したスプレー乾燥リドカイン-HA Prymalhyal 50粉末 13.3mg(リドカイン約8mgに対応する)、又は正確に秤量したスプレー乾燥リドカイン-HA Contipro Biotech粉末 40mg(リドカイン約8mgに対応する)を濡れたフィルター上に手作業で広げ、予め設定した時間間隔で受けチャンバーからサイドアームを介して中の溶液1mLを抜き取り、抜取りの都度、後で新鮮PBS 1mLと置換して、セル内の液体を一定体積に維持した。
【0130】
溶解していない、又はフィルターにトラップされた薬物量を評価するために、実験の終了時にフィルターをメタノール:水の75:25v/v混合物5mLで洗浄して、溶解していない残留粉末を回収した。試料中の薬物量をHPLC分析によって定量化した。
【0131】
溶解したリドカインのパーセンテージとしてデータを表現した。100%溶解は、実験終了時に回収された合計薬物量(セル受けチャンバー中の量にフィルター上の量を加算する)に対応する。合計溶解時間は、LANE粉末原材料について25分、及びスプレー乾燥リドカイン-HA粉末について135分であった。
【0132】
図4に、リドカイン原材料及びスプレー乾燥リドカイン-HA粉末の溶解プロファイルを示す。
【0133】
得られた結果により、LANE原材料及びリドカイン-HA粉末の異なる溶解プロファイルが示された。
【0134】
特に、スプレー乾燥リドカイン-HA粉末の溶解は有意に遅い。リドカイン粉末原材料の場合、リドカインの全量が15分後に完全に溶解したのに対し、PLUS-PH 100kDaのHAを有するスプレー乾燥された粉末中のLANE量は、約2時間後に完全に溶解した。いずれにしても、LANE含量60%を有する、Prymalhyal 50を含有するスプレー乾燥された粉末は、以前の溶解よりも有意に速く、25分後に溶解媒中に完全に溶解した。
【0135】
HA Contipro Biotechを含有するスプレー乾燥された粉末の溶解は最も遅く、2時間後にLANEの70%だけが溶解媒中に溶解した。
【0136】
表4に、溶解したリドカイン量、フィルター上及びフィルター内に保持されたリドカイン量、並びに実験の物質収支(合計回収率)を要約する。
【0137】
【表4】
【実施例7】
【0138】
混合物LANE-ヒアルロン酸ナトリウムContipro SD 20:80の光学顕微鏡法による特徴付け
実施例6により製造されたLANE-HA粉末を偏光顕微鏡(Optiphor2-POL, Nikon, Japan)法により観察して、粒子構造中のリドカイン微結晶の存在に関係する複屈折現象の可能性を強調した。得られた画像から、非晶質粒子、HA Contipro Biotech(750~1000kDa)が表面で複屈折微結晶リドカイン構造を示したことが観察された。前記結晶化は、10:90;20:80(図5、パネルA);25:75;30:70と等しいリドカイン:HA比を有する粉末で観察された。
【0139】
より低い分子量を有するヒアルロン酸ナトリウム、すなわちヒアルロン酸ナトリウムPrymalhyal 50(20~50kDa)を使用して、20及び60%w/wの両方のLANE濃度で完全非晶質粉末が得られた。図5に、LANE:HA(Contipro)20:80w/w(パネルA);LANE:HA(Prymalhyal)20:80w/w(パネルB)、及びLANE:HA(Prymalhyal)60:40w/w(パネルC)の、実施例6で報告されたものによるスプレー乾燥によって得られた粒子の偏光光学顕微鏡(倍率10×)の画像を示す。
【実施例8】
【0140】
スプレー乾燥HA-リドカイン塩酸塩粉末の安定性研究。
実施例4により製造された、リドカイン塩酸塩 20%w/w並びに2つの異なる種類のHA:Prymalhyal 50(20~50kDa)及びPLUS-PH 100kDa欧州薬局方品を含有する2つのスプレー乾燥された粉末に安定性研究を実行した。
【0141】
アルミニウムバッグ中に密封したヒプロメロースカプセル3号サイズ中に粉末を保存し、1ヶ月及び4ヶ月保存後に2つの異なる条件:
25℃ - 60%相対湿度
40℃ - 75%相対湿度
で分析した。
【0142】
様々な保存期間にHPLC分析によってリドカイン塩酸塩含量を定量化して化学的安定性を評価した。
【0143】
ホットステージ顕微鏡法(HSM)によっても物理的安定性を評価した。その際、保存前(Tゼロ)及び保存後(1及び4ヶ月)に偏光顕微鏡で試料を観察した。窒素雰囲気中5℃/分の加熱範囲で25℃から130℃に試料を加熱した。得られたデータを表5に報告する。
【0144】
分析により、新鮮調製時及び2つの異なる保存時間の両方で、加熱後であっても粉末が結晶部分を発生する傾向を示さないことが示された。
【0145】
【表5】
【実施例9】
【0146】
咳嗽誘発試験。
10人の健康志願者(男性8人、35から70歳の間に含まれる年齢)に、プラセボ粉末及びヒアルロン酸ナトリウムPLUS-PH(100kDa)を用いて実施例4により調製されたリドカイン-HA粉末の吸入前後に咳嗽誘発試験(Fontana, GA, et al. Eur Respir J 1997; 10: 983-98; Lavorini, F et al. Am J Respir Crit Care Med 2001; 163: 1117-1120)を行った。
【0147】
超音波ネブライザーMist-O2-Gen(EN143A Model, Timeter, PA, USA)によって製造した超音波ネブライズされた蒸留水(霧)の吸入によって咳嗽を誘導した。ネブライザーによって生成されたエアロゾル滴の空気力学的質量中央径は3.6~5.7μmであると文献に報告されている(Phipps, PR, et al. Chest 1990; 7 1327-1332)。ネブライザーのリザーバーに蒸留水180mLを充填し;エアロゾルのアウトプットをポテンショメーターによって調整し、オシロスコープで直流(DC)シグナルとしてモニターした。最大到達可能なアウトプットレベルの5%に対応するレベルに関してアウトプットを漸進的に増加させることができる。
【0148】
志願者は休息時の正常呼吸の間に霧を吸入し、濃度毎の吸入時間を1分に標準化した。霧の各吸入の間に2~3分の休息を予定した。実験に使用したネブライザーのアウトプット範囲は、最大DCシグナルの30から100%まで変動することができ、対応するネブライズされた水の量(平均値)は0.08~4.45mL/分の範囲であった。
【0149】
Fleish型呼吸流量計4号により呼気流量を記録して咳嗽の開始を明らかにした。咳嗽の出現後、試験を停止し、対象を30分間休息させた。次いで、最後の投与量のすぐ下のアウトプット値に対応する霧の吸入で試験を再開した。以前に咳嗽を誘発できたものと同じ霧レベルで咳嗽を再度誘発できた場合、誘発を停止し、この霧レベルを対象の咳嗽閾値(T)と見なした。逆に、咳嗽応答が得られなかった場合、試験を再開し、同じ霧レベルで咳嗽が2回誘発されるまで試験を継続した。したがって、30分離れた2つの連続する試験の間に少なくとも咳嗽を誘発することができる、より低い霧レベルを咳嗽閾値と見なした。
【0150】
各ネブライザーアウトプットの吸入中に、咳の衝動(UTC)の強度を10cmの視覚的アナログスケール(VAS)で評価した(Lavorini F, et al. Am J Respir Crit Care Med 2006; 176: 825-32)。対象の前に置いた画面の両端にVASの極値(すなわち、「咳をしたくない」及び「咳をしたい極度の衝動あり」)を表示した。「咳をしたい極度の衝動あり」は抵抗できないほど咳が必要なことと各参加者に説明した。画面はカーソルを備えるリニアポテンショメーターと接続されており、対象はカーソルによりUTCレベルを定量化することができた。画面とポテンショメーターは両方とも長さ10cmであった。画面上とポテンショメーター上とで距離が等しいことは、UTCの強度における変化が等しいことを表した。
【0151】
咳嗽閾値を評価した後、24~48時間過ぎた日にRS01 DPIを使用して対象にプラセボ(ラクトース)又はHA-リドカイン粉末を投与した。訓練された医療関係者が、残気量近くのレベルから開始してから総肺気量まで可能なかぎり速く吸息し、続いて約10秒間息を止めるよう、対象を慎重に指導した。対象毎にカプセルを2回吸入させて、ドライパウダーの残留の可能性を最小限にした。約5分後、ベースライン試験と同じ様式で咳嗽誘発を繰り返した。対象が咳嗽を発生しなかった場合、彼/彼女を1.3×T、1.6×Tと等しい、及びネブライザーのアウトプットの100%と等しい霧の吸入に供した。対象のベースライン(すなわち薬物の前)の咳嗽閾値を再確立するために必要な時間を同様に計算した。
【0152】
プラセボの吸入は咳嗽閾値及び対応するUTCに影響しなかった。逆に、HA-リドカイン粉末は、2.13倍に等しい増加中央値で10人の被験対象において咳嗽閾値及びUTCを有意に増加させた。効果の持続時間は約50±8分であった。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】