(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-15
(54)【発明の名称】加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理後の冷間曲げ性に優れた熱延鋼板、鋼管、部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20250107BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20250107BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20250107BHJP
C21D 9/50 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C21D9/46 T
C22C38/54
C21D9/50 101A
C22C38/00 301Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535943
(86)(22)【出願日】2022-12-19
(85)【翻訳文提出日】2024-06-14
(86)【国際出願番号】 KR2022020724
(87)【国際公開番号】W WO2023121183
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0183795
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 ファン-グ
(72)【発明者】
【氏名】ベ、 ソン-ボム
【テーマコード(参考)】
4K037
4K042
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA17
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4K037EA25
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4K037EA32
4K037EB05
4K037EB08
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4K042AA06
4K042BA01
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4K042CA05
4K042CA06
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4K042CA09
4K042CA10
4K042CA12
4K042CA13
4K042DA01
4K042DA02
4K042DA03
4K042DB07
4K042DC02
4K042DC03
4K042DD04
4K042DE03
4K042DE04
4K042DE05
4K042DF01
(57)【要約】
加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理後の冷間曲げ性に優れた熱延鋼板、鋼管、部材及びその製造方法が提供される。本発明は、重量%で、C:0.20%以上0.3%未満、Mn:0.5~1.3%、Si:0.3%以下(0%を除く)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.004%以下(0%を含む)、Al:0.04%以下(0%を除く)、Cr:0.3%以下、Ni:0.1~0.4%、Ti:0.05%(0%を含む)、B:0.0005~0.0050%、N:0.01%以下(0%を除く)を含み、残りのFe及びその他の不純物を含み、関係式1-3を満たす熱延鋼板、鋼管、部材に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.20%以上0.35%未満、Mn:0.5~1.3%、Si:0.3%以下(0%を除く)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.004%以下(0%を含む)、Al:0.04%以下(0%を除く)、Cr:0.3%以下、Ni:0.1~0.4%、Ti:0.05%(0%を含む)、B:0.0005~0.0050%、N:0.01%以下(0%を除く)、残りのFe及びその他の不純物を含み、下記関係式1-3を満たし、鋼板の表層部と厚さ/4の位置部においてそれぞれの硬度が15未満の硬度差値を有し、
体積%で、20~65%のフェライト及び35~80%のパーライトを含む微細組織を有し、かつ、 旧オーステナイトの平均結晶粒サイズが15μm以上である、冷間成形部材用熱延鋼板。
[関係式1]
(Mn/Si)≧2(重量比)
[関係式2]
(Ni)/(Mn)≧0.05(重量比)
[関係式3]
(Si+Ni)/(C+Mn)≧0.2(重量比)
【請求項2】
Mo:0.01~0.2%、Cu:0.05~0.2%、Nb:0.005~0.02%及びV:0.01~0.05%のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の冷間成形部材用熱延鋼板。
【請求項3】
前記熱延鋼板は、320~950MPaの引張強度を有することを特徴とする、請求項1に記載の冷間成形部材用熱延鋼板。
【請求項4】
重量%で、C:0.20%以上0.35%未満、Mn:0.5~1.3%、Si:0.3%以下(0%を除く)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.004%以下(0%を含む)、Al:0.04%以下(0%を除く)、Cr:0.3%以下、Ni:0.1~0.4%、Ti:0.05%(0%を含む)、B:0.0005~0.0050%、N:0.01%以下(0%を除く)を含み、残りのFe及びその他の不純物を含み、下記関係式1~3を満たすスラブを1150~1300℃の温度範囲に加熱する段階と、
前記加熱されたスラブをAr
3温度以上で粗圧延及び仕上げ圧延を含む熱間圧延を行って熱延鋼板を得る段階と、
前記熱延鋼板をランアウトテーブルで冷却して550~750℃の温度で巻き取る段階と、を含み、
鋼板の表層部と厚さ/4の位置部において15未満の硬度差値を有する、冷間成形部材用熱延鋼板の製造方法。
[関係式1]
(Mn/Si)≧2(重量比)
[関係式2]
(Ni)/(Mn)≧0.05(重量比)
[関係式3]
(Si+Ni)/(C+Mn)≧0.2(重量比)
【請求項5】
Mo:0.01~0.2%、Cu:0.05~0.2%、Nb:0.005~0.02%及びV:0.01~0.05%のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする、請求項4に記載の冷間成形部材用熱延鋼板の製造方法。
【請求項6】
重量%で、C:0.20%以上0.35%未満、Mn:0.5~1.3%、Si:0.3%以下(0%を除く)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.004%以下(0%を含む)、Al:0.04%以下(0%を除く)、Cr:0.3%以下、Ni:0.1~0.4%、Ti:0.05%(0%を含む)、B:0.0005~0.0050%、N:0.01%以下(0%を除く)を含み、残りのFe及びその他の不純物を含み、下記関係式1-3を満たし、鋼管の表層部と厚さ/4の位置部において15未満の硬度差値を有し、体積%で、20~65%のフェライト及び35~80%のパーライトを含む微細組織を有し、かつ、旧オーステナイトの平均結晶粒サイズが15μm以上である、冷間成形部材用鋼管。
[関係式1]
(Mn/Si)≧2(重量比)
[関係式2]
(Ni)/(Mn)≧0.05(重量比)
[関係式3]
(Si+Ni)/(C+Mn)≧0.2(重量比)
【請求項7】
Mo:0.01~0.2%、Cu:0.05~0.2%、Nb:0.005~0.02%及びV:0.01~0.05%のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする、請求項6に記載の冷間成形部材用鋼管。
【請求項8】
重量%で、C:0.20%以上0.35%未満、Mn:0.5~1.3%、Si:0.3%以下(0%を除く)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.004%以下(0%を含む)、Al:0.04%以下(0%を除く)、Cr:0.3%以下、Ni:0.1~0.4%、Ti:0.05%(0%を含む)、B:0.0005~0.0050%、N:0.01%以下(0%を除く)を含み、残りのFe及びその他の不純物を含み、下記関係式1~3を満たすスラブを1150~1300℃の温度範囲に加熱する段階と、
前記加熱されたスラブをAr
3温度以上で粗圧延及び仕上げ圧延を含む熱間圧延を行って熱延鋼板を得る段階と、
前記熱延鋼板をランアウトテーブルで冷却して550~750℃の温度で巻き取る段階と、
前記熱延鋼板を溶接して鋼管を得る段階と、
前記鋼管をAc
1-50℃~Ac
3+150℃の温度で3~60分間焼鈍熱処理する段階と、を含む、冷間成形部材用鋼管の製造方法。
[関係式1]
(Mn/Si)≧2(重量比)
[関係式2]
(Ni)/(Mn)≧0.05(重量比)
[関係式3]
(Si+Ni)/(C+Mn)≧0.2(重量比)
【請求項9】
Mo:0.01~0.2%、Cu:0.05~0.2%、Nb:0.005~0.02%及びV:0.01~0.05%のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする、請求項8に記載の冷間成形部材用鋼管の製造方法。
【請求項10】
前記焼鈍熱処理された鋼管を引き抜く段階をさらに含む、請求項8に記載の冷間成形部材用鋼管の製造方法。
【請求項11】
前記焼鈍熱処理及び引き抜かれた鋼管をAr
3~970℃の温度まで10℃/sec以上の加熱速度で加熱した後、60秒以内に保持する再加熱段階と、
前記再加熱された鋼管を20~350℃/secの冷却速度で常温まで冷却する焼入れ段階と、
前記焼入れされた鋼管を150~350℃の温度範囲まで2~20℃/secの加熱速度で加熱した後、この温度で保持する焼戻し熱処理段階と、をさらに含む、請求項10に記載の冷間成形部材用鋼管の製造方法。
【請求項12】
重量%で、C:0.20%以上0.35%未満、Mn:0.5~1.3%、Si:0.3%以下(0%を除く)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.004%以下(0%を含む)、Al:0.04%以下(0%を除く)、Cr:0.3%以下、Ni:0.1~0.4%、Ti:0.05%(0%を含む)、B:0.0005~0.0050%、N:0.01%以下(0%を除く)を含み、残りのFe及びその他の不純物を含み、下記関係式1-3を満たし、体積%で、マルテンサイト及び焼戻しマルテンサイトのうち1種以上を95%、残部5%以下の残留オーステナイトを含む微細組織を有し、旧オーステナイトの平均結晶粒サイズが15μm以上であり、かつ、平均円相当サイズが300nm以下であるFe
3C炭化物を単位面積(μm
2)当たり30個以下で有する、冷間成形部材。
[関係式1]
(Mn/Si)≧2(重量比)
[関係式2]
(Ni)/(Mn)≧0.05(重量比)
[関係式3]
(Si+Ni)/(C+Mn)≧0.2(重量比)
【請求項13】
Mo:0.01~0.2%、Cu:0.05~0.2%、Nb:0.005~0.02%及びV:0.01~0.05%のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする、請求項12に記載の冷間成形部材。
【請求項14】
前記成形部材は、1300MPa以上の引張強度と40°以上の最大曲げ角度を有することを特徴とする、請求項12に記載の冷間成形部材。
【請求項15】
重量%で、C:0.20%以上0.35%未満、Mn:0.5~1.3%、Si:0.3%以下(0%を除く)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.004%以下(0%を含む)、Al:0.04%以下(0%を除く)、Cr:0.3%以下、Ni:0.1~0.4%、Ti:0.05%(0%を含む)、B:0.0005~0.0050%、N:0.01%以下(0%を除く)を含み、残りのFe及びその他の不純物を含み、下記関係式1~3を満たすスラブを1150~1300℃の温度範囲に加熱する段階と、
前記加熱されたスラブをAr
3温度以上で粗圧延及び仕上げ圧延を含む熱間圧延を行って熱延鋼板を得る段階と、
前記熱延鋼板をランアウトテーブルで冷却して550~750℃の温度で巻き取る段階と、
前記熱延鋼板を溶接して鋼管を得る段階と、
前記鋼管を焼鈍熱処理及び引き抜く段階と、
前記焼鈍熱処理又は引き抜かれた鋼管をAr
3~970℃の温度まで10℃/sec以上の加熱速度で加熱した後、60秒以内に保持する再加熱段階と、
前記再加熱された鋼管を20~350℃/sec以上の冷却速度で常温まで冷却する焼入れ段階と、
前記焼入れされた鋼管を150~350℃の温度範囲まで2~20℃/secの加熱速度で加熱した後、この温度で保持する焼戻し熱処理段階と、
前記焼戻し熱処理された鋼管を部材として冷間成形する段階と、を含む、冷間成形部材の製造方法。
[関係式1]
(Mn/Si)≧2(重量比)
[関係式2]
(Ni)/(Mn)≧0.05(重量比)
[関係式3]
(Si+Ni)/(C+Mn)≧0.2(重量比)
【請求項16】
Mo:0.01~0.2%、Cu:0.05~0.2%、Nb:0.005~0.02%及びV:0.01~0.05%のうち1種以上をさらに含むことを特徴とする、請求項15に記載の冷間成形部材の製造方法。
【請求項17】
前記成形部材は、1300MPa以上の引張強度及び40°以上の最大曲げ角度を有することを特徴とする、請求項15に記載の冷間成形部材の製造方法。
【請求項18】
前記鋼管は、Ac
1-50℃~Ac
3+150℃の温度で3~60分間焼鈍熱処理することを特徴とする、請求項15に記載の冷間成形部材の製造方法。
【請求項19】
前記熱処理された鋼管を冷間成形する際、曲げ半径30~60Rの範囲で冷間成形を行うことを特徴とする、請求項15に記載の冷間成形部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の懸架部品等の自動車車体の構成部品等に使用される熱延鋼板、これを用いた鋼管及び部材とその製造方法に関し、より詳細には、鋼板の表層部とt/4(tは鋼板の厚さ)の位置部における硬度差(ΔHv)値が15未満と優れ、加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理後に1300MPa以上の高強度及び40度以上の最大曲げ角度を示す熱延鋼板、これを用いた鋼管、部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車シャーシ部品のうち懸架部品は、疲労耐久性が求められる部品の一つであって、部品軽量化の傾向に伴って高強度薄物熱延鋼板が好まれている。
【0003】
一方、このような懸架部品はパイプ状の資材を熱間成形又は冷間成形及び熱処理して製造することが一般的であるが、環境に優しい製造及びコスト削減のために、従来とは異なり熱処理を行った超高強度鋼管を製造した後、冷間成形で部品を製造する新たな製法も提案されている。これは、1000MPa以上の高強度を有する鋼管を冷間(≦25℃)又は温間(≦550℃)状態で曲げ(Bending)外力により所望の形状の部品に製造することであり、この場合、熱処理された鋼板又は鋼管自体が曲げクラックの形成に対する高い抵抗性又は高い延性を示すことを必要とする。
【0004】
なお、鋼板自体の曲げ成形性を向上させるための方法として、熱処理適用の有無にかかわらず、最終冷延鋼板のフェライト及びパーライトの微細組織を均一に制御するか、又は95%以上のマルテンサイト相の旧オーステナイトのサイズとマルテンサイト内に残存する炭化物のサイズの分布を制御する研究が進められてきた。
【0005】
特許文献1では、熱間プレス成形品の高強度化に伴う曲げ性低下の問題点を解決するために、熱間成形用鋼板の曲げ性を向上させる方法を提案している。これは、冷延鋼板用途に用いられる鋼に、0.05~2.0の範囲のMn/Siの比率制御及び0.5%以上のケイ素(Si)元素を添加し、冷延焼鈍熱処理を行うと、冷延鋼板の微細組織、詳細には、パーライト相を均一に分布させることができ、上記冷延鋼板を熱間プレス成形後に塗装熱処理を行うと、マルテンサイト組織内に残留オーステナイト相を形成させることができるため、曲げ性が向上するものと提示している。すなわち、同文献では、冷延鋼板として使用される鋼に0.5%以上の含量のケイ素(Si)を添加することを提示しているが、これを鋼管状のシャーシ部品に直接適用するためには、電気抵抗溶接(Electric Arc Welding)過程で突合せ溶接、又は溶融部に形成される多量のケイ素酸化物を効果的に排出しなければならず、効果的に酸化物を排出できない場合には、溶接欠陥が発生し、鋼管の扁平(Flattening)又は拡管(Expansion)特性のような成形性を低下させる可能性があるため、使用上の制約があった。
【0006】
特許文献2では、5~6μmサイズの旧オーステナイト(PAGS)の微細サイズからなるマルテンサイト単相組織内に25~60nmサイズの微細炭化物の個数を1mm2面積当たり0~500,000個以下に制御し、1470MPa以上の高強度冷延鋼板の曲げ性(限界曲げ半径(R)/厚さ(t)≦2.4)を向上させる方法を提案している。一方、上記高強度冷延鋼板の曲げ性向上又は極めて低いR/tの測定値は、主に微細な旧オーステナイトのサイズに起因するものと見られるが、これは、旧オーステナイト粒界又は炭化物/マルテンサイトの界面において曲げ外力により発生するクラックサイト(sites)の形成又はクラックの伝播が遅延するためと理解されることができる。特に、非常に微細なマルテンサイト組織により冷延鋼板の引張強度は1470MPa以上と高いが、6%未満の低い伸び率(Elongation)を示すものと予想されるため、複雑な形状を有する部品として製造するには、成形性が不十分であると考えられる。一方、上記高強度鋼の場合にも、100℃/sec以上の急速冷却で形成されたマルテンサイト組織が焼戻し熱処理を経ている間に析出及び成長する炭化物のサイズを制御するために、1.0%以上の多量のケイ素(Si)含量を添加しており、鋼管又は鋼管部品として適用するには困難であることを予想することができる。
【0007】
したがって、上記特許文献に提案された鋼板及び鋼部品の製造工程に対する検討から、加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理を予め施した電気抵抗溶接鋼管又は引抜鋼管を冷間(≦25℃)状態で曲げ(Bending)外力により、所望の形状のスタビライザー部品として製造できる鋼板であって、鋼板の表層部と厚さ/4の位置部における硬度差(ΔHv)値が15未満であり、熱処理後1300MPa以上の高強度(8%以上の伸び率)及び40°以上の最大曲げ角度を示す熱延鋼板、鋼管、部材及びその製造方法に対する提案はない状態である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国登録特許10-1568549号
【特許文献2】韓国公開特許10-2015-0105476号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の好ましい一実施形態は、鋼板の表層部と厚さ/4の位置部における硬度差値が小さく(脱炭抵抗性が大きく)、加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理後に高強度及び40°以上の最大曲げ角度を有する優れた曲げ性を示す冷間成形部材用熱延鋼板及びその製造方法を提供しようとするものである。
【0010】
また、本発明の好ましい一実施形態は、鋼板の表層部と厚さ/4の位置部における硬度差値が小さく(脱炭抵抗性が大きく)、加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理後に高強度及び40°以上の最大曲げ角度を有する優れた曲げ性を示す熱延鋼板を用いて製造された冷間成形部材用鋼管及びその製造方法を提供しようとするものである。
【0011】
さらに、本発明の好ましい一実施形態は、鋼板の表層部と厚さ/4の位置部における硬度差値が小さく(脱炭抵抗性が大きく)、加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理後に高強度及び40度以上の最大曲げ角度を有する優れた曲げ性を示す鋼管を用いて製造された冷間成形部材及びその製造方法を提供しようとするものである。
【0012】
なお、本発明で成し遂げようとする技術的課題は、以上で言及した技術的課題に限定されず、言及していないさらに他の技術的課題は、以下の記載から本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者に明確に理解されることができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施形態は、重量%で、C:0.20%以上0.35%未満、Mn:0.5~1.3%、Si:0.3%以下(0%を除く)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.004%以下(0%を含む)、Al:0.04%以下(0%を除く)、Cr:0.3%以下、Ni:0.1~0.4%、Ti:0.05%(0%を含む)、B:0.0005~0.0050%、N:0.01%以下(0%を除く)、残りのFe及びその他の不純物を含み、下記関係式1-3を満たし、鋼板の表層部と厚さ/4の位置部においてそれぞれの硬度が15未満の硬度差値を有し、体積%で、20~65%のフェライトと35~80%のパーライトを含む微細組織を有し、かつ、旧オーステナイトの平均結晶粒サイズが15μm以上である、加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理後に高強度及び40°以上の最大曲げ角度を有する曲げ性に優れた冷間成形部材用熱延鋼板に関する。
【0014】
[関係式1]
(Mn/Si)≧2(重量比)
【0015】
[関係式2]
(Ni)/(Mn)≧0.05(重量比)
【0016】
[関係式3]
(Si+Ni)/(C+Mn)≧0.2(重量比)
【0017】
また、本発明の他の一実施形態は、
上記のような組成成分を有する鋼スラブを1150~1300℃の温度範囲に加熱する段階と、
上記加熱されたスラブをAr3温度以上で粗圧延及び仕上げ圧延を含む熱間圧延を行って熱延鋼板を得る段階と、
上記熱延鋼板をランアウトテーブルで冷却して550~750℃の温度で巻き取る段階と、を含む鋼板の表層部と厚さ/4の位置部においてそれぞれの硬度が15未満の硬度差値を有し、加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理後に高強度及び40°以上の最大曲げ角度を有する曲げ性に優れた冷間成形部材用熱延鋼板の製造方法が提供される。
【0018】
上記熱延鋼板を酸洗処理して熱延酸洗鋼板を得る段階をさらに含むことができる。
【0019】
また、本発明のさらに他の一実施形態は、重量%で、C:0.20%以上0.35%未満、Mn:0.5~1.3%、Si:0.3%以下(0%を除く)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.004%以下(0%を含む)、Al:0.04%以下(0%を除く)、Cr:0.3%以下、Ni:0.1~0.4%、Ti:0.05%(0%を含む)、B:0.0005~0.0050%、N:0.01%以下(0%を除く)を含み、残りのFe及びその他の不純物を含み、下記関係式1-3を満たし、鋼管の表層部と厚さ/4の位置部において15未満の硬度差値を有し、体積%で20~65%のフェライト及び35~80%のパーライトを含む微細組織を有し、かつ、旧オーステナイトの平均結晶粒サイズが15μm以上である、加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理後に高強度40°以上の最大曲げ角度を有する曲げ性に優れた冷間成形部材用鋼管に関する。
【0020】
[関係式1]
(Mn/Si)≧2(重量比)
【0021】
[関係式2]
(Ni)/(Mn)≧0.05(重量比)
【0022】
[関係式3]
(Si+Ni)/(C+Mn)≧0.2(重量比)
【0023】
また、本発明のさらに他の一実施形態は、
上記のような組成成分を有する鋼スラブを1150~1300℃の温度範囲に加熱する段階と、
記加熱されたスラブをAr3温度以上で粗圧延及び仕上げ圧延を含む熱間圧延を行って熱延鋼板を得る段階と、
記熱延鋼板をランアウトテーブルで冷却して550~750℃の温度で巻き取る段階と、
上記熱延鋼板を溶接して鋼管を得る段階と、
上記鋼管をAc1-50℃~Ac3+150℃の温度で3~60分間焼鈍熱処理する段階と、を含む冷間成形部材用鋼管の製造方法に関する。
【0024】
上記焼鈍熱処理された鋼管を引き抜く段階をさらに含むことができる。
【0025】
上記焼鈍熱処理又は引き抜かれた鋼管をAr3~970℃の温度まで10℃/sec以上の加熱速度で加熱した後、60秒以内に保持する再加熱段階と、上記再加熱された鋼管を20~350℃/secの冷却速度で常温まで冷却する焼入れ段階と、上記焼入れされた鋼管を150~350℃の温度範囲まで2~20℃/secの加熱速度で加熱した後、この温度で保持する焼戻し熱処理段階と、をさらに含むことができる。
【0026】
また、本発明のさらに他の一実施形態は、重量%で、C:0.20%以上0.35%未満、Mn:0.5~1.3%、Si:0.3%以下(0%を除く)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.004%以下(0%を含む)、Al:0.04%以下(0%を除く)、Cr:0.3%以下、Ni:0.1~0.4%、Ti:0.05%(0%を含む)、B:0.0005~0.0050%、N:0.01%以下(0%を除く)を含み、残りのFe及びその他の不純物を含み、下記関係式1-3を満たし、体積%で、マルテンサイト及び焼戻しマルテンサイトのうち1種以上を95%、残部5%以下の残留オーステナイトを含む微細組織を有し、旧オーステナイトの平均結晶粒サイズが15μm以上であり、かつ、平均円相当サイズが300nm以下であるFe3C炭化物を単位面積(μm2)当たり30個以下で有する、高強度及び曲げ性に優れた冷間成形部材に関する。
【0027】
[関係式1]
(Mn/Si)≧2(重量比)
【0028】
[関係式2]
(Ni)/(Mn)≧0.05(重量比)
【0029】
[関係式3]
(Si+Ni)/(C+Mn)≧0.2(重量比)
【0030】
さらに、本発明のさらに他の一実施形態は、
上記のような組成成分を有する鋼スラブを1150~1300℃の温度範囲に加熱する段階と、
上記加熱されたスラブをAr3温度以上で粗圧延及び仕上げ圧延を含む熱間圧延を行って熱延鋼板を得る段階と、
上記熱延鋼板をランアウトテーブルで冷却して550~750℃の温度で巻き取る段階と、
上記巻き取られた熱延鋼板を溶接して鋼管を得る段階と、
上記鋼管を焼鈍熱処理及び引き抜く段階と、
上記焼鈍熱処理及び引き抜かれた鋼管をAr3~970℃の温度まで10℃/sec以上の加熱速度で加熱した後、60秒以内に保持する再加熱段階と、
上記再加熱された鋼管を20~350℃/secの冷却速度で常温まで冷却する焼入れ段階と、
上記焼入れされた鋼管を150~350℃の温度範囲まで2~20℃/secの加熱速度で加熱した後、上記加熱された温度で保持する焼戻し熱処理段階と、
上記焼戻し熱処理された鋼管を部材として冷間成形する段階と、を含む、冷間成形部材の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0031】
上述した構成の本発明によれば、鋼板の表層部と厚さ/4の位置部における硬度差(ΔHv)値が15未満と優れ、加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理後に1300MPa以上の高強度及び40°以上の最大曲げ角度を示すことができる成形部材用熱延鋼板及び鋼管を提供することができ、さらに、冷間成形で部品を製造することができ、部品の製造コストを低減させることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の一実施例において、発明例2の焼戻し熱処理後の鋼板の強度及び最大曲げ角度の変化曲線を示す図である。
【
図2】本発明の一実施例において、発明例2の焼入れ-焼戻し熱処理鋼管の冷間曲げ成形後の形状を示す写真である。
【
図3】(a)及び(b)は、本発明の一実施例の熱処理鋼管のクラック発生の有無を示す写真であって、(a)は発明例2を示し、(b)は比較例2を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明について説明する。
【0034】
まず、本発明の好ましい一実施形態に係る鋼板の表層部と厚さ/4の位置部における15未満の硬度差(ΔHv)値を有し、加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理後に高強度及び40°以上の最大曲げ角度を有する曲げ性に優れた冷間成形部材用熱延鋼板について説明する。
【0035】
本発明の冷間成形部材用熱延鋼板は、重量%で、C:0.20%以上0.35%未満、Mn:0.5~1.3%、Si:0.3%以下(0%を除く)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.004%以下(0%を含む)、Al:0.04%以下(0%を除く)、Cr:0.3%以下、Ni:0.1~0.4%、Ti:0.05%(0%を含む)、B:0.0005~0.0050%、N:0.01%以下(0%を除く)を含み、残りのFe及びその他の不純物を含み、関係式1-3を満たし、体積%で、20~65%のフェライトと35~80%のパーライトを含む微細組織を有し、鋼板の表層部と厚さ/4の位置部においてそれぞれの硬度が15未満の硬度差値を有し、かつ、旧オーステナイトの平均結晶粒サイズが15μm以上である。
【0036】
まず、本発明の冷間成形部材用鋼板及び鋼管の合金組成成分及びその含量の制限理由について説明し、以下において「%」は、別段の規定がない限り重量%を意味する。
【0037】
・C:0.20%以上0.35%未満
上記炭素(C)は、鋼の強度向上に効果的な元素であって、焼入れ-焼戻し熱処理後の強度を増加させる。その含量が0.20%未満では、焼戻し熱処理後1300MPa以上の十分な強度を確保しにくいのに対し、0.35%以上であると、過度な硬度又は強度を有するマルテンサイトが形成され、熱処理後の鋼板素材又は鋼管部品の冷間曲げ成形時に40°以上の曲げ角度を確保する上で困難がある。仮に、曲げ角度の増加のためには、焼戻し加熱温度を350℃以上に高めることができるが、1300MPa以上の強度を確保する上で制約がある。したがって、炭素(C)含量は0.20%以上0.35%未満に制限することが好ましい。
【0038】
・Mn:0.5~1.3%
上記マンガン(Mn)は、鋼の強度向上に必須の元素であって、鋼の焼入れ熱処理後の強度を増加させる。その含量が0.5%未満では、焼戻し熱処理後1300MPa以上の十分な強度を確保しにくいのに対し、1.3%を超えると、強度確保には有利であるものの、熱処理後の鋼板及び鋼管が40°以上の曲げ角度を確保する上で困難がある。この場合、冷間曲げ性を向上させるために旧オーステナイトのサイズを適正に制御するか、又は炭化物の成長を抑制するために相対的に多量のニッケル(Ni)含量が要求されることがあるため、製造コストの上昇を招く可能性がある。また、連鋳スラブ及び熱延鋼板の内部及び/又は外部に偏析帯を形成させる可能性があるため、鋼管の造管時に高い頻度の加工不良を招く恐れがある。したがって、マンガン(Mn)含量は0.5~1.3%に制限することが好ましい。
【0039】
・Si:0.3%以下(0%を除く)
上記ケイ素(Si)は、強度又は延性を向上させるために添加する元素であって、熱延鋼板及び熱延酸洗鋼板の表面スケール性の問題がない範囲で添加される。その含量が0.3%以上を超えると、シリコン酸化物の生成により表面欠陥を発生させ、酸洗による除去が容易ではない。また、鋼管の製造時に、鋼管溶接部の溶融部における酸化物の排出が円滑でない場合に鋼管成形性を低下させる可能性がある。したがって、ケイ素(Si)含量は0.3%以下に制限する。
【0040】
・関係式1
上記MnとSiは、下記関係式1を満たすべきである。
【0041】
[関係式1]
(Mn/Si)≧2(重量比)
【0042】
上記Mn/Siの比率は鋼管の溶接部品質を決定する重要なパラメータである。Mn/Siの比が2未満である場合、相対的にSi含量が高く、溶接部の溶融金属内にシリコン酸化物を形成して強制的に排出させないと、溶接部に欠陥を形成して鋼管の造管不良を招く可能性があるため、Mn/Siの比率を2以上に制限する。
【0043】
・P:0.03%以下(0%を含む)
上記リン(P)は、オーステナイト結晶粒界及び/又は相間の粒界に偏析して脆性を誘発する可能性がある。したがって、リン(P)の含量はできるだけ低く保持し、その上限は0.03%に限定する。好ましいリン(P)含量は0.02%以下である。
【0044】
・S:0.004%以下(0%を含む)
上記硫黄(S)は、鋼中にMnS非金属介在物又は連鋳凝固中に偏析して高温クラックを誘発する可能性がある。また、熱処理鋼板又は鋼管の衝撃靭性を劣化させる可能性があるため、できるだけ低く制御する必要がある。したがって、本発明において硫黄(S)含量は、できるだけ低く保持し、その上限は0.004%に限定することが好ましい。
【0045】
・Al:0.04%以下(0%を除く)
上記アルミニウム(Al)は脱酸剤として添加される元素である。一方、鋼中に窒素(N)と反応してAlNとして析出するが、スラブの製造時に、これらの析出物が析出する鋳片の冷却条件においてスラブクラックを誘発し、鋳片又は熱延鋼板の品質を低下させる可能性がある。また、鋼板又は鋼管の内部にAl-rich介在物又は酸化物が存在する場合に、最終部品の疲労耐久性を劣化させる恐れがあるため、できるだけその含量を低く保持する必要がある。したがって、アルミニウム(Al)の含量は0.04%以下(0%を除く)に制限することが好ましい。
【0046】
・Cr:0.3%以下(0%を除く)
上記クロム(Cr)は、オーステナイトのフェライト変態を遅らせて鋼の焼入れ熱処理時に焼入れ性を増大させるとともに、熱処理強度を向上させる元素である。0.30%以上の炭素(C)含有鋼にクロム(Cr)が0.3%を超えて添加されると、鋼の過度な焼入れ性を誘発する可能性があるため、その含量は0.3%以下(0%を除く)に制限する。
【0047】
・Ni:0.1~0.4%
上記ニッケル(Ni)は、鋼の焼入れ性及び靭性を同時に増加させる元素である。一方、本発明において、基本成分にニッケル(Ni)含量を増加させた鋼板又は鋼管の焼入れ-焼戻し熱処理後に引張物性及び最大曲げ角度を評価した場合に、熱処理後の降伏強度はNi含量の増加につれて減少する。これは、ニッケル(Ni)元素がマルテンサイト内に導入された転位の移動を促進するか、又は加熱熱処理時に旧オーステナイトのサイズが平均26μm以上に過度に粗大化することを抑制し、さらに、焼戻し熱処理時にはマルテンサイト組織内で析出する炭化物のサイズを300nm未満に制御するためと考えられる。しかし、その含量が0.1%未満では、降伏強度の低下及び最大曲げ角度を増加させる効果が不十分である。一方、その含量が0.4%を超える場合には、上記利点にもかかわらず、鋼板の製造コストを急激に増加させる可能性がある。したがって、その含量を0.1~0.4%の範囲に制限する。
【0048】
・関係式2
上記Mn、Niは、下記関係式2を満たすべきである。
【0049】
[関係式2]
(Ni/Mn)≧0.05(重量比)
【0050】
上記(Ni/Mn)の比率は、焼入れ-焼戻し熱処理後1300MPa以上の強度を確保しながらも40°以上の最大曲げ角度を確保する上で必要な条件である。(Ni/Mn)の比率が0.05未満になると、本発明で提示するマンガン(Mn)又はニッケル(Ni)の含量範囲から外れる。また、シリコン(Si)含量が低いか又はマンガン(Mn)含量が高い場合に、熱延鋼板の微細組織内にマンガン(Mn)含量の高いバンド組織が形成されやすく、加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理後に曲げ性が劣化する可能性がある。一方、加熱熱処理過程においてニッケル(Ni)元素は、バンド組織の分解又は炭化物の粒界に偏析して炭化物の完全分解(Decomposition)又は溶解(Dissolution)を妨害して、旧オーステナイトのサイズが過度に成長しないようにすることができる。また、焼戻し過程では、マルテンサイト内で析出する炭化物の隣接部に偏析して炭化物の成長を抑制し、微細サイズで存在するようにすることができる。したがって、加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理後に鋼板又は鋼管の冷間曲げ性を改善する方法として、本発明では(Ni/Mn)の比率を0.05以上に制限する。
【0051】
・関係式3
上記C、Mn、Si、Niは、下記関係式3を満たすべきである。
【0052】
[関係式3]
(Si+Ni)/(C+Mn)≧0.2(重量比)
【0053】
上記(Si+Ni)/(C+Mn)の比率は、焼入れ-焼戻し熱処理後1300MPa以上の強度を確保しながらも40°以上の最大曲げ角度を確保するために必要な条件である。一般に、焼入れ-焼戻し熱処理後の鋼板又は鋼管の冷間曲げ性は、引張強度と相互反比例の関係にあると考えられる。一方、本発明では、熱処理後に高強度と高成形の特性を同時に満たすために関係式3を案出した。(Si+Ni)/(C+Mn)の比率が0.2未満になると、(Si+Ni)含量に比べて(C+Mn)含量が高い場合に該当し、この場合は、硬化能が高く熱処理後の強度が非常に高いが、最大曲げ角度が非常に低く、曲げ成形過程で曲げクラックが頻繁に発生する可能性がある。また、析出物形成元素を添加した場合には、加熱熱処理時に旧オーステナイト(PAGS)のサイズが15μm未満と微細であるため、引張強度が高く曲げ性に劣る可能性がある。
【0054】
・Ti:0.05%以下(0%を除く)
上記チタン(Ti)は、熱延鋼板内に析出物(TiC、TiCN、TiNbCNなど)を形成する元素であって、オーステナイト結晶粒の成長を抑制して熱延鋼板の強度を増加させる。
【0055】
その含量が0.05%を超える場合には、焼入れ-焼戻し熱処理鋼の強度増加に効果的であり得るが、熱延鋼板内に微細析出物ではなく粗大晶出物の形態で存在する場合には靭性を悪くしたり、又は冷間曲げ成形過程でクラックの 発生起点として作用し、熱処理鋼板及び鋼管部品の冷間成形性を低下させるか、又は最終部品の疲労耐久性を減少させる可能性がある。したがって、その含量を0.05%以下(0%を除く)に制限する。
【0056】
・B:0.0005~0.005%以下(0%を除く)
上記ボロン(B)は、低い含量であっても、鋼の硬化能を非常に増加させる有益な元素である。適正な含量が添加されると、フェライトの形成を抑制するため硬化能の増大に効果的であるが、過剰に含有すると、オーステナイトの再結晶温度を上昇させ、溶接性を悪化させる。ボロン(B)含量が0.0005%未満の場合には、鋼の上記効果を確保する上で困難があり、0.005%を超えると、上記効果が飽和するか、又は適切な強度及び靭性を確保する上で困難がある。したがって、その含量は0.0005~0.005%以下に制限する。より好ましくは、その含量を0.003%以下に制限することが熱処理鋼の強度及び成形性を同時に確保する上で効果的である。
【0057】
・N:0.01%以下(0%を除く)
上記窒素(N)はオーステナイト安定化及び窒化物形成に寄与する元素である。窒素(N)含量が0.01%を超えると、粗大なAlN窒化物を形成して熱処理鋼板又は鋼管部品の疲労耐久性評価時に、疲労クラックの生成起点として作用して疲労耐久性を劣化させる可能性がある。したがって、その含量は0.01%以下(0%を除く)に制限する。より好ましくは、その含量を0.006%以下に制限することが好ましい。
【0058】
また、ボロン(B)元素が共に添加される場合には、有効ボロン(B)含量を増加させるために、できるだけ窒素(N)含量を低く制御する必要がある。
【0059】
本発明の鋼は上記成分を基本的に含み、残部が実質的にFe及びその他の不純物であるが、本発明を損なわない範囲内で、以下の許容成分を選択的に添加することができる。
【0060】
・Mo、Cu、Nb及びV
本発明では、選択的に、Mo:0.01~0.2%、Cu:0.05~0.2%、Nb:0.005~0.02%及びV:0.01~0.05%のうち1種以上を含むこともできる。これらの元素は鋼の硬化能を増加させるか、又は旧オーステナイトの結晶粒サイズを微細にし、最終部品のマルテンサイト又はテンパードマルテンサイト組織を構成するラスサイズを微細にする。したがって、これにより鋼の引張強度を増加させたり、さらには、曲げ角度又は曲げ性の向上に寄与することができる。
【0061】
一方、上述した本発明の熱延鋼板及び鋼管は、体積%で、20~65%のフェライト及び35~80%のパーライトを含む微細組織を有する。上記フェライトの分率が20%未満の場合には、パーライト含量が増加しすぎて、バンド組織の発達による高い強度及び曲げ角度の確保が困難になる。したがって、上記フェライトの分率は20%以上に限定することが好ましい。好ましいフェライトの分率は20~60%である。一方、フェライトの分率が65%を超えると、熱延鋼板に添加された硬化能元素の総量が不十分である可能性があり、この場合、加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理後に十分な強度を確保する上で困難がある。
【0062】
また、本発明の熱延鋼板の表層部と厚さ/4の位置部における硬度は、15未満の硬度差(ΔHv)値を有し、320~950MPaの引張強度を有することができる。
【0063】
そして、上記熱延鋼板を加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理すると、体積%で、マルテンサイト及び焼戻しマルテンサイトのうち1種以上を95%、残部5%以下の残留オーステナイトを含む微細組織を有する、高強度及び40°以上の最大曲げ角度を有する成形部材を得ることができる。
【0064】
次に、本発明の一実施形態に係る熱延鋼板の製造方法について説明する。
【0065】
本発明の熱延鋼板の製造方法は、上記のような組成成分を有する鋼スラブを1150~1300℃の温度範囲に加熱する段階と、上記加熱されたスラブをAr3以上の温度で粗圧延及び仕上げ圧延を含む熱間圧延を行って熱延鋼板を得る段階と、上記熱延鋼板をランアウトテーブルで冷却して550~750℃の温度で巻き取る段階と、を含む。
【0066】
鋼スラブの加熱段階
まず、本発明では、上記のように組成された鋼スラブを1150~1300℃の温度範囲に加熱する。
【0067】
上記鋼スラブを1150~1300℃の温度範囲に加熱することは、スラブ内に均一な組織及び成分分布を有するようにするためであり、スラブ加熱温度が1150℃未満に低いと、連鋳スラブに形成された析出物が固溶されず、かつ成分均一性を確保することができない。一方、スラブ加熱温度が1300℃を超える場合には、脱炭深さの過度な増加及び結晶粒成長が発生するため、熱延鋼板の目標材質及び表面品質の確保に困難がある。したがって、スラブ加熱温度は1150~1300℃の範囲に制限する。
【0068】
熱延鋼板を得る段階
次いで、本発明では、上記加熱されたスラブをAr3以上の温度で粗圧延及び仕上げ圧延を含む熱間圧延を行って熱延鋼板を得る。
【0069】
上記熱間圧延はAr3以上で熱間仕上げ圧延することが好ましい。上記熱間圧延がAr3未満の温度で行われると、オーステナイト中の一部がフェライトに変態して熱間圧延に対する素材の変形抵抗性が不均一になり、鋼板の直進性を含む通板性が悪くなり、板破断等の操業不良が発生する可能性が高い。但し、上記仕上げ圧延温度が950℃を超えると、スケール欠陥等が発生するため、上記熱間仕上げ圧延温度は950℃以下に制限することが好ましい。
【0070】
巻取段階
そして、本発明では、上記のように熱間圧延により得られた熱延鋼板をランアウトテーブルで冷却して550~750℃の温度で巻き取る。
【0071】
上記熱間圧延後、ランアウトテーブルで冷却して550~750℃の温度範囲で巻き取ることは、熱延鋼板の均一な材質を確保するためであり、巻取温度が550℃未満と低すぎると、鋼板の幅方向のエッジ部にベイナイト又はマルテンサイトのような低温変態相が導入され、鋼板の強度が急激に高くなる恐れがあり、幅方向において熱延強度のばらつきが増加することになる。
【0072】
一方、巻取温度が750℃を超える場合には、鋼板の表層部に内部酸化が助長されるが、熱延酸洗後に表面にクラックのような表面傷または表面凹凸が発生する可能性がある。また、パーライトの粗大化により鋼板の表面硬度のばらつきが生じる可能性がある。したがって、熱延鋼板の冷却後に巻き取る温度は550~750℃に制限することが好ましい。
【0073】
本発明では、上記のように製造された熱延鋼板をさらに酸洗処理して熱延酸洗鋼板として製造することもできる。酸洗処理方法は、一般に熱延酸洗工程で使用される酸洗処理方法であれば、如何なる方法でも可能であるため、特定の方法に制限してはいない。
【0074】
一方、本発明では、上記巻取工程において550~750℃の範囲の巻取温度をできるだけ低く制御して脱炭(Decarburization)の発生を最小化するか、又は巻き取られたコイルを自然冷却するのではなく、水冷浴槽に装入して巻取コイルが長時間高温で保持されることを防止するか、又は巻取コイルを200~250℃まで冷却した後に過酸洗を行い、コイル表層の脱炭領域を除去する工程のうち一つを選択的に利用することが好ましい。このような工程を選択的に利用することにより、鋼板の表層部とt/4の位置との間の硬度差(ΔHv)を15未満に効果的に減少させることができる。
【0075】
上記のような製造工程で製造された本発明の熱延鋼板は、体積%で、20~65%のフェライト及び35~80%のパーライトを含む微細組織を有することができる。
【0076】
また、熱延鋼板の表層部とt/4の位置部における硬度差(ΔHv)値が15未満に制御され、320~950MPaの引張強度を有することができる。
【0077】
なお、上記のような製造工程で製造された本発明の熱延鋼板は、旧オーステナイトの平均結晶粒サイズが15μm以上である微細組織を有することができる。
【0078】
15μm以上の旧オーステナイトの平均結晶粒サイズを有する熱延鋼板を、後述する成形部材の製造のための加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理を行うと、形成されるマルテンサイト組織が相対的に粗大になり、曲げ成形時にクラック発生の開始が遅れるため、曲げ性が向上又は曲げ角度が増加できる。
【0079】
本発明において上述した関係式2~3を満たす熱延鋼板の場合、旧オーステナイトの平均結晶粒サイズを15μm以上に効果的に制御することができ、その結果、焼入れ-焼戻し後熱処理後に適正な降伏強度又は引張強度及び高い曲げ角度を同時に確保することができる。
【0080】
仮に、15μm未満の平均結晶粒サイズを有する旧オーステナイト組織を含む熱延鋼板ないし鋼管を用いて、前述した成形部材を製造するための加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理を行うと、マルテンサイト組織が微細に形成されるため、熱処理後に強度が高くなり、これにより、曲げ成形時に短時間にクラックが発生して曲げ性が低下するか又は曲げ角度が減少する可能性がある。したがって、この場合に、冷間成形で部品を製造する際、形状実現に制約が生じる可能性がある。
【0081】
以下、本発明の一実施形態に係る鋼管の製造方法について説明する。
【0082】
本発明の好ましい鋼管の製造方法は、上記本発明の熱延鋼板の製造方法により製造された熱延鋼板を溶接して鋼管を得る段階と、上記鋼管を焼鈍熱処理する段階と、を含む。
【0083】
鋼管を得る段階
上述した本発明の熱延鋼板の製造方法により製造された熱延鋼板を溶接して鋼管を得る。
【0084】
上記熱延鋼板又は熱延酸洗鋼板を用いて、例えば、電気抵抗溶接又は誘導加熱溶接などにより造管して鋼管を得る。
【0085】
鋼管の焼鈍熱処理段階
上記のように造管して得られた鋼管を焼鈍熱処理する。
【0086】
本発明では、上記熱延鋼板又は熱延酸洗鋼板を用いて、例えば、電気抵抗溶接又は誘導加熱溶接により鋼管を造管、焼鈍加熱及び冷間引抜きする過程を含む通常の冷間成形方法を用いて小口径の鋼管を製造することができる。
【0087】
上記鋼管の焼鈍熱処理は、Ac1-50℃~Ac3+150℃の温度で3~60分間行うことが好ましい。
【0088】
上記焼鈍熱処理は、炉冷及び空冷を含むことができる。
【0089】
このとき、本発明では、焼鈍熱処理された鋼管を引き抜く段階をさらに含むことができる。鋼管を冷間引抜きして鋼管の口径を縮小させることができる。上記引抜き法としては冷間引抜き法が挙げられる。
【0090】
上記のように製造された本発明の鋼管は、体積%で20~65%のフェライト及び35~80%のパーライトを含む微細組織を有し、好ましくは、鋼管の微細組織は、体積%で20~50%のフェライトを含むことができる。
【0091】
次いで、本発明では、上記冷却された鋼管ないし引き抜かれた鋼管を、Ar3~970℃の温度まで10℃/sec以上の加熱速度で加熱した後、60秒以内に保持する再加熱段階と、上記再加熱された鋼管を20~350℃/secの冷却速度で常温まで冷却する焼入れ段階と、上記焼入れされた鋼管を150~350℃の温度範囲まで2~20℃/secの加熱速度で加熱した後、この温度で保持する焼戻し熱処理段階と、をさらに含むこともできる。これに関する説明は、以下で詳細に述べられる。
【0092】
次に、本発明の一実施形態に係る冷間成形部材の製造方法について説明する。
【0093】
本発明の冷間成形部材の製造方法は、上記鋼管の製造方法により得られた鋼管を再加熱する段階と、上記再加熱された鋼管を焼入れ-焼戻し熱処理する段階と、上記焼入れ-焼戻し熱処理された鋼管を冷間成形することにより部材を製造する段階と、を含む。
【0094】
上記鋼管は、冷間曲げ成形によりスタビライザーのようなシャーシ部品として製造する前に、まず以下のような熱処理を行う。
【0095】
鋼管の再加熱段階
本発明では、上記焼鈍熱処理鋼管又は引抜鋼管を冷間成形用途の部材として製造するために再加熱する。
【0096】
このような再加熱温度はAr3~970℃であり得る。すなわち、特定長さの鋼管を100mpm未満の移動速度で高周波誘導加熱炉を通過させながら、目標範囲の温度まで10℃/sec以上の加熱速度で加熱して60秒以内の条件に保持する。このとき、鋼管内壁の3~6mmの厚さが均一な温度を有し得るように移動速度は100mpm未満の条件で多様に変化させることができる。上記10℃/sec以上の加熱速度で目標温度まで急速に加熱する場合に、鋼管の外壁又は内壁に発生し得る脱炭(decarburization)層の深さを最小化することができるため、最終部品の耐久性を向上させることができるという利点がある。
【0097】
鋼管の焼入れ-焼戻し熱処理段階
次いで、本発明では、上記再加熱された鋼管を焼入れ-焼戻し熱処理する。
【0098】
上記焼入れ冷却の場合、970℃未満の温度に加熱された鋼管の特定長さに対して水(Water)又は油(Oil)を噴射して常温まで冷却する。鋼管全体の冷却速度は20~350℃/secまで多様に適用することができ、鋼管の内壁全体がマルテンサイト組織を有するようにすることができる場合であれば、特定の範囲に限定しない。この場合、冷却速度は、噴射する水又は油の量と鋼管の移動速度を適切に制御して行う。
【0099】
上記加熱及び焼入れされた鋼管は靭性を付与するために焼戻し熱処理を行う。
【0100】
上記焼戻し熱処理温度条件において、鋼の微細組織は15μm以上の旧オーステナイト結晶粒サイズに対応するように形成されたテンパードマルテンサイト組織を主相として形成することができる。これにより、曲げ成形時に旧オーステナイト結晶粒界に沿った粒界クラックの発生に対する抵抗性が増加するか、又はクラックの発生なしに十分に塑性変形することができるため、40°以上の曲げ角度を示すことができる。
【0101】
仮に、上記焼戻し時の加熱温度が150℃未満であると、テンパードマルテンサイト組織の形成が不十分であるか、又はマルテンサイト内に転位密度が高く、相対的に熱処理後の強度が高くなるため、曲げ角度が低い可能性がある。一方、焼戻し時の加熱温度が350℃を超えると、マルテンサイト組織の過度な焼戻し効果により高い曲げ角度は確保することができるが、1300MPa以上の強度確保には困難がある。したがって、焼戻し熱処理温度は150~350℃の範囲に制限することが好ましい。より好ましくは、焼戻脆性(temper brittleness)を回避することができる200~250℃の温度範囲で熱処理する。
【0102】
一方、上記熱処理の加熱速度条件において、鋼の微細組織は、テンパードマルテンサイト結晶粒の粒内及び粒界に様々なサイズのFe3C炭化物を有する。仮に、焼戻し熱処理の加熱速度が2℃/sec未満であると、加熱速度が遅すぎて過度な焼戻し軟化効果によりFe3Cの成長が過度に起こり、熱処理後の強度が低くなる傾向がある。また、上記条件では、加熱速度が遅いため、鋼管の生産性が低く経済性がない。これに対し、加熱速度が20℃を超えると、マルテンサイト内でFe3Cの成長が抑制され、熱処理後の強度が過度に高くなる傾向があり、適正な強度及び高い曲げ角度を同時に確保することが困難になる可能性がある。すなわち、Fe3Cのサイズが微細であると、Fe3C~テンパードマルテンサイト間の粒界を含むクラックサイト(sites)は少ないものの、高い曲げ角度を確保するには強度が過度に高くなる傾向がある。したがって、焼戻し熱処理の加熱速度は2~20℃/secの範囲に制限し、かつ加熱速度は加熱温度の範囲と共に考慮して選定することが好ましい。上記諸般の状況を考慮して、本発明の一実施例では、平均円相当サイズが300nm以下であるFe3C炭化物の個数を単位面積(μm2)当たり30個以下に制限することができる。
【0103】
冷間成形する段階
上記のように再加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理した鋼管を冷間成形して部材を製造する。
【0104】
上記鋼管の成形は冷間成形する方法により行われる。例えば、熱処理鋼管に対して、様々な曲げ半径(R、Radius)の金型を有する冷間成形機を用いて常温成形方法により実施することができる。上記部材の一例としては、スタビライザーのような懸架部品が挙げられる。
【0105】
上記鋼管の冷間成形は、特定長さの鋼管を曲げ半径30~60Rを有する金型に装入し、最小~最大曲げを実施して部材を得ることが好ましい。本発明において曲げ半径とは、一直線の鋼管が曲がった程度(曲率、Curvature)と円がなす曲線の半径、曲率半径を意味する。したがって、曲げ半径30Rは、曲率半径は小さいが曲率又は曲げ角度が大きいことを示し、曲げ半径60Rは、曲率半径は大きいが曲率又は曲げ角度が小さいことを示す。言い換えれば、曲げ半径60Rとは、相対的に緩やかに曲げることを意味する。一方、本発明では、部材の製造過程で曲げクラックが発生しない範囲の曲げ速度と金型~鋼管との間の摩擦係数を調整して部材を製造できる場合であれば、曲げ速度と摩擦係数に対する具体的な範囲を制限しない。
【0106】
一方、熱処理後に鋼管ではなく平板に対しても曲げ角度を測定することができ、本発明では、3点曲げ試験のVDA238-100規格試験によって、様々な厚さを有する焼入れ-焼戻し熱処理された平板素材の最大曲げ角度を 評価した。
【0107】
本発明の部材の製造方法によれば、熱処理後1300MPa以上の引張強度を有しながらも40°以上の曲げ角度を有する、又はR50未満の曲げ半径でもクラックが発生しない、熱処理後に高い強度及び優れた冷間曲げ成形性を同時に有する部材を製造することができる。
【0108】
上述したように、本発明では、熱処理後1300MPa以上の引張強度を有しながらも40°以上の曲げ角度を有する、又はR50未満の曲げ半径でもクラックの発生がない、熱処理後に高い強度及び優れた冷間曲げ成形性を同時に有する部材を製造するためには、旧オーステナイトの平均結晶粒サイズを15μm以上、そして平均円相当サイズが300nm以下であるFe3C炭化物の個数を単位面積(μm2)当たり30個以下に制限することが好ましい。その理由は、これによりテンパードマルテンサイト組織に適正なサイズの炭化物を有するテンパードマルテンサイト組織鋼の適正な強度、靭性又は塑性変形特性を確保し、鋼板又は鋼管の曲げ時に旧オーステナイト結晶粒界に沿った粒界クラックの発生に対する抵抗性を大きくするか、又はクラックが発生する前まで十分に塑性変形を誘発できるためである。
【0109】
上述したように、本発明は、引抜鋼管を加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理を行って1300~1800MPaの強度を確保し、このような超高強度鋼管を冷間成形によりStabilizerなど複雑な形状に部品化することができる。このような冷間成形された部品は、従来の熱間成形工程で製造された部品に比べて、超高強度鋼管の冷間成形部品の形状/性能などに大きな差はないが、超高強度鋼管の形状が相対的に単純であり、さらに部品の製造コストを大幅に削減することができる。
【0110】
以下、実施例を挙げて本発明についてより詳細に説明する。但し、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものであり、本発明の権利範囲を限定するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【実施例】
【0111】
【0112】
【0113】
上記表1-2のように組成される鋼を用いて、下記表3の条件で熱間圧延を行い、3.6mm厚さの熱延鋼板を製造した後、酸洗処理を行った。具体的に、上記表1-2の組成成分を有するスラブ又はラップ製造インゴットを1200±20℃の範囲で200分間加熱して均質化処理し、後続して、個々のスラブ又はインゴットに対して粗圧延及び仕上げ圧延を行った後、550~750℃の温度で巻き取り、3.6mm厚さの熱延鋼板を製造した。
【0114】
【0115】
上記のように製造された熱延鋼板について、降伏強度(YS)、引張強度(TS)、伸び率(EL)、表層部~t/4の間のビッカース硬度差及び微細組織の分率を測定し、その結果を上記表3に示した。パーライト以外の微細組織はフェライトである。一方、本実施例において、熱延鋼板の降伏強度(YS)、引張強度(TS)、伸び率(EL)は、圧延方向に平行な方向に採取された試験片をJIS5規格を用いて測定し、パーライトの分率はナイタルエッチングされた試験片をX500倍率の光学顕微鏡の条件でイメージ分析プログラムを用いて測定した。
【0116】
また、上記熱延鋼板を電気抵抗溶接を用いて直径28mmの鋼管を製造し、次いで、焼鈍熱処理及び冷間引抜きを行い、直径22.2mmの引抜鋼管を製造した。そして、上記鋼管に対して下記表4の条件で加熱-焼入れ-焼戻し熱処理を行った後、冷間成形により部材を製造した。
【0117】
このとき、焼入れ熱処理は鋼管を930~970℃の温度に加熱し、鋼管の温度が200℃以下に冷却され、できるだけ常温まで完全に冷却されるように水(Water)又は油(Oil)に装入又は噴射して冷却を行った。また、焼戻し熱処理は、鋼管を200~300℃の温度まで2~20℃/secの範囲の加熱速度で加熱した後に冷却を行った。
【0118】
【0119】
上記焼入れ-焼戻し熱処理後の鋼管に対する引張物性及び3点曲げ試験を行い、微細組織を観察してその結果を下記表5に示した。具体的に、上記鋼管は、加熱及び焼入れ-熱処理後、鋼板の引張物性、3点曲げ試験による最大曲げ角度を測定した。
【0120】
旧オーステナイト結晶粒の平均サイズは、光学微細組織を観察した同一試験片の断面を対象としてポリシング及びピクリン酸によるエッチングをした後に、X500の倍率で最小10個以上の結晶粒サイズを測定し、その結果の平均を算出した。Fe3C炭化物の単位面積当たりの個数は同一試験片を用い、走査電子顕微鏡を用いてX5,000~X10,000の倍率で横2.9μm×縦3.1μmの面積内に存在するFe3C炭化物の個数を測定し、その結果を 単位面積当たりの炭化物の個数とした。詳細には、できるだけテンパードマルテンサイト結晶粒内に存在するFe3C炭化物の個数を測定した。加熱及び焼入れ-焼戻し熱処理後の微細組織の変化と曲げ角度との相互関連性を把握するために、上記のように微細組織を詳細に測定した。
【0121】
一方、鋼管は、様々な曲げ半径を有する金型を用いて単純にZig-Zag成形をしたり、又は冷間成形機を用いて冷間成形を行った。鋼管に対して、冷間成形機で様々な条件下で曲げ成形を行った後、クラック発生の有無及びクラック発生のない最小曲げ半径を調査し、その結果を下記表6に示した。ここで、上記熱処理鋼板の機械的物性値は、圧延方向に平行な方向に採取された試験片をJIS5規格に加工及び熱処理して測定した値であり、最大曲げ試験値はVDA238-100規格試験に従うとともに、試験片のエッジ特性を排除するために熱処理試験片の長辺部の両面エッジ部は表面グラインディング(grinding-off)処理した。
【0122】
【0123】
【0124】
上記表1-6に示すように、鋼の組成成分及び関係式1-3を満たす発明鋼1-4を用いて製造された発明例1-4、発明例3-1及び発明例4-1は最大曲げ角度が40°を超えるか、又は曲げ半径が50R以下の曲げ半径であっても曲げクラックが発生しなかったことが分かる。
【0125】
また、発明例1-4、発明例3-1及び発明例4-1はいずれも1200~1400MPaの降伏強度、1300~1700MPaの引張強度、0.8以上の降伏比及び最大曲げ角度は40°以上であり、曲げ成形性に優れることが分かる。
【0126】
また、熱処理前の熱延鋼板の場合、本発明例は、比較例1-6に比べて表層部とt/4との間の硬度差値が15未満であり、相対的に小さいことが分かる。これは、熱延鋼板の厚さ方向において位置による硬度差が小さいものと認知されるか、又は表層部における脱炭の発生が小さいものと理解される。
【0127】
これに対し、本発明の合金成分及び関係式1~3のうち少なくとも一つを満たさない比較鋼1-10を使用して製造された比較例1-10は、熱処理後の鋼板の最大曲げ角度が相対的に40°未満であるか、又は鋼管にクラックが発生していない曲げ半径が55R以上である場合に該当した。
【0128】
一方、
図1は、本発明の一実施形態において、発明例2の焼戻し熱処理後の鋼板の強度及び最大曲げ角度の変化曲線を示す図であり、
図2は、本発明の一実施形態において、発明例2の焼入れ-焼戻し熱処理鋼管の冷間曲げ成形後の形状を示す写真であり、そして、
図3の(a)及び(b)は、本発明の一実施形態の熱処理鋼管のクラック発生の有無を示す写真であって、(a)は発明例2を示し、(b)は比較例2を示す。
【0129】
すなわち、様々な実施例の発明例及び比較例の熱処理鋼板の強度及び最大曲げ角度の変化を調査し、代表例として、発明例2の焼戻し熱処理後の鋼板の強度及び最大曲げ角度の結果を
図1に示した。
【0130】
また、様々な実施例の発明鋼及び比較鋼の熱処理鋼管を30~60Rの曲げ半径の金型を有する冷間成形機を用いて曲げ試験を実施し、代表例として、発明例2の曲げ試験による鋼管の最終形状に対する結果を
図2に示した。
【0131】
そして、様々な鋼管を冷間曲げする際、曲げ半径が小さい場合に熱処理鋼管において表層部にクラックが発生することが観察され、クラック発生の有無による代表例として、発明例2及び比較例2を
図3に示した。
【0132】
上記
図1に示すように、1300MPa以上の引張強度及び40°以上の高い曲げ角度は200~250℃の焼戻し温度で得られることが分かる。
【0133】
また、
図2~3に示すように、曲げ半径50R以下の条件で本発明の条件を満たす発明例として製造した熱処理鋼管の場合、冷間成形時にクラックの発生がなく部材を製造することができることが確認できる。
【0134】
上述したように、本発明においてQT熱処理後、鋼管ベンディング(曲げ)クラックが発生しないか、又は平板3点曲げ角度が高く測定される理由は、本発明例の鋼種が相対的に粗大サイズの旧オーステナイト結晶粒を有するため、曲げ外力に対してクラック発生の開始が遅れるか、又は焼戻し加熱時に急速な加熱速度の適用により、粗大なテンパードマルテンサイト結晶粒内にFe3C炭化物のサイズが十分に成長しなかったためと考えられる。また、上記Fe3C成長の遅延効果は、焼戻し加熱時にニッケル(Ni)元素がFe3Cの隣接部界面に偏析する場合にさらに促進されるものと考えられる。
【0135】
上述のように、本発明の詳細な説明では、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の範疇から逸脱しない範囲内で様々な変形が可能であることは勿論である。したがって、本発明の権利範囲は、説明された実施例に限定されて定められてはならず、後述する特許請求の範囲だけでなく、これと均等なものによっても定められるべきである。
【国際調査報告】