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特表2025-500901曲げ特性に優れた超高強度鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-15
(54)【発明の名称】曲げ特性に優れた超高強度鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250107BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20250107BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20250107BHJP
   C21D 9/56 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/14
C21D9/46 G
C21D9/56 101C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535976
(86)(22)【出願日】2022-12-09
(85)【翻訳文提出日】2024-06-14
(86)【国際出願番号】 KR2022020030
(87)【国際公開番号】W WO2023113387
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】10-2021-0178477
(32)【優先日】2021-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】キム、 サン-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ク、 ミン-ソ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ウン-ヤン
【テーマコード(参考)】
4K037
4K043
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA19
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EB05
4K037EB08
4K037EB09
4K037EB11
4K037FA02
4K037FA03
4K037FC03
4K037FC04
4K037FC07
4K037FE01
4K037FE02
4K037FE03
4K037FG01
4K037FH01
4K037FJ02
4K037FJ05
4K037FJ06
4K037FJ07
4K037FK02
4K037FK03
4K037FK08
4K037FL01
4K043AA01
4K043AB01
4K043AB02
4K043AB04
4K043AB10
4K043AB15
4K043AB18
4K043AB21
4K043AB25
4K043AB26
4K043AB27
4K043AB29
4K043BA01
4K043BA03
4K043BA05
4K043BB01
4K043BB04
4K043BB05
4K043BB06
4K043BB08
4K043DA05
4K043EA04
4K043FA03
4K043FA09
4K043FA12
(57)【要約】
本発明は、自動車構造部材用などに適した鋼板に関するものであって、より詳しくは、曲げ特性に優れた超高強度鋼板及びその製造方法に関するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.1~0.3%、マンガン(Mn):1.0~2.3%、シリコン(Si):0.05~1.0%、リン(P):0.1%以下(0%は除く)、硫黄(S):0.03%以下(0%は除く)、アルミニウム(Al):0.01~0.5%と、クロム(Cr):0.01~0.2%、モリブデン(Mo):0.01~0.2%及びボロン(B):0.005%以下のうち2種以上、チタン(Ti):0.1%以下及びニオブ(Nb):0.1%以下のうち1種以上、残部Fe及び不可避不純物を含み、下記関係式1を満たし、
微細組織として、マルテンサイト及び/又はテンパードマルテンサイト相を面積分率99%以上含む、曲げ特性に優れた超高強度鋼板。
[関係式1]
【数1】
(ここで、Ceq1=C+(Mn/20)+(Si/30)+(2P)+(4S)、Ceq2=C+(Mn/6)+(Si/30)+(Cr+Mo+V+Nb)/5+(Cu+Ni)/15で表す。)
【請求項2】
前記鋼板は、前記C含有量に対し、表面基準の厚さ方向に1~3μmの領域(A)内のC含有量比(領域(A)の平均C含有量/鋼板のC含有量)が0.6以下である、請求項1に記載の曲げ特性に優れた超高強度鋼板。
【請求項3】
前記鋼板は、前記C含有量に対し、表面基準の厚さ方向に0.2~30μmまでの領域(B)内のC含有量比(領域(B)の平均C含有量/鋼板のC含有量)が0.9以下である、請求項1に記載の曲げ特性に優れた超高強度鋼板。
【請求項4】
前記鋼板は、フェライト及び/又はベイナイト相を1%以下(0%を含む)で含む、請求項1に記載の曲げ特性に優れた超高強度鋼板。
【請求項5】
前記鋼板は、表面から厚さ方向に最小50μm最大70μmまでの領域である表層部の微細組織が、面積分率70%以下(0%を除く)のテンパードマルテンサイト及び残部フェライトとベイナイトのうち1種以上から構成されるものである、請求項1に記載の曲げ特性に優れた超高強度鋼板。
【請求項6】
前記鋼板は、引張強度1300MPa以上、降伏比0.72以上、曲げ特性(R/t)が3以下である、請求項1に記載の曲げ特性に優れた超高強度鋼板。
【請求項7】
前記鋼板は、下記関係式2を満たす、請求項1に記載の曲げ特性に優れた超高強度鋼板。
[関係式2]
(引張強度(TS)/最大曲げ角度)≦25
【請求項8】
重量%で、炭素(C):0.1~0.3%、マンガン(Mn):1.0~2.3%、シリコン(Si):0.05~1.0%、リン(P):0.1%以下(0%は除く)、硫黄(S):0.03%以下(0%は除く)、アルミニウム(Al):0.01~0.5%と、クロム(Cr):0.01~0.2%、モリブデン(Mo):0.01~0.2%及びボロン(B):0.005%以下のうち2種以上、チタン(Ti):0.1%以下及びニオブ(Nb):0.1%以下のうち1種以上、残部Fe及び不可避不純物を含み、下記関係式1を満たす鋼スラブを1100~1300℃の温度範囲で加熱する段階;
前記再加熱された鋼スラブをAr3以上で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;
前記熱延鋼板を700℃以下の温度で巻き取る段階;
前記巻き取られた熱延鋼板を総圧下率30~80%で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;
前記冷延鋼板をAc3以上で30秒以上連続焼鈍処理する段階;
前記連続焼鈍後、550~750℃の温度範囲まで1~10℃/sの平均冷却速度で1次冷却する段階;
前記1次冷却後、Ms-190℃以下の温度まで20~80℃/sの平均冷却速度で2次冷却する段階;及び
前記2次冷却後、再加熱したのちに過時効処理する段階を含み、
前記再加熱及び過時効段階は、下記関係式3を満たす温度範囲まで加熱することを特徴とする、曲げ特性に優れた超高強度鋼板の製造方法。
[関係式1]
【数2】
(ここで、Ceq1=C+(Mn/20)+(Si/30)+(2P)+(4S)、Ceq2=C+(Mn/6)+(Si/30)+(Cr+Mo+V+Nb)/5+(Cu+Ni)/15で表す。)
[関係式3]
CT2+30℃≦A≦270℃
(ここで、CT2は2次冷却終了温度(℃)を意味し、Aは再加熱及び過時効温度(℃)を意味する。)
【請求項9】
前記連続焼鈍処理段階は、露点温度0~20℃の連続焼鈍炉で行うものである、請求項8に記載の曲げ特性に優れた超高強度鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記過時効処理は1~20分間行うものである、請求項8に記載の曲げ特性に優れた超高強度鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車構造部材用などに適した鋼板に関するものであって、より詳しくは、曲げ特性に優れた超高強度鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、自動車分野では、ヨーロッパを筆頭とした先進国において燃費規制、性能向上などを理由に車体の重量を軽量化しようとする研究が活発に進められている。特に、鉄鋼分野の場合、このような自動車メーカーの軽量化への要求に対応するために、競争素材(Mg、Al、CFRP(carbon fiber reinforced plastic)など)と比べて同一等級で高強度化及び鋼板の厚さを更に減少させるなどの努力をしている。すなわち、軽量化とともに、自動車の乗客及び歩行者に対する安全規制の強化により、車体素材の安定性と高強度化も求められている傾向にある。
【0003】
一方、車体の安定性と衝撃特性を向上するために、BIW(Body-In-White)構造部材において降伏強度に優れた高強度鋼の採用が増えており、このような構造部材は、引張強度に対する降伏強度、すなわち、降伏比(降伏強度/引張強度、YR)が高いほど衝撃エネルギーの吸収に有利であるという特徴がある。
【0004】
そこで、鋼の降伏強度を高めるための代表的な方法として、連続焼鈍時に水冷却を活用する方法が主に用いられている。具体的に、冷延鋼板を二相(two phase)域又は単相域焼鈍した後に略常温程度に急冷したのち、焼戻しなどの工程を経て超高強度鋼を製造する方法である。
【0005】
ところが、これにより製造された超高強度鋼は、降伏比が極めて高い一方で、幅方向及び長さ方向の温度ばらつきによってコイルの形状品質が劣化するという問題があり、ロールフォーミングなどによる部品加工時に部位に応じた材質不良、作業性の低下などの問題が生じる可能性がある。また、一般的に鋼の強度が増加するほど伸び率が減少するため、成形加工性が低下するという問題がある。
【0006】
これを克服するために、相対的に成形が容易な高温で素材を成形した後、ダイと素材間の水冷却を通じて強度を確保する熱間プレス成形(Hot Press Forming、HPF)工法が開発されて適用されている(特許文献1参考)。
【0007】
HPF工法を適用する場合、同じ厚さに比べて高い強度を確保できるため、ヨーロッパを中心にHPF工法を用いた部品開発が行われている。
【0008】
しかし、HPF工法のためには過度な設備投資費が要求され、工程コストが上昇するなどの問題が浮上しているため、冷間スタンピング用素材の開発が求められているのが実情である。
【0009】
言い換えると、冷間スタンピング用素材としての使用に適しており、かつ、衝突性能特性などを確保するために高強度及び高降伏比を有し、成形性などの特性に優れた鋼板の開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2021/084303号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の一態様は、自動車構造部材用に適した素材でありながら、冷間スタンピングに適した鋼板、特に曲げ特性に優れた超高強度鋼板及びそれを製造する方法を提供することである。
【0012】
本発明の課題は上述した内容に限定されない。本発明の課題は、本明細書の内容全般から理解されることができ、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、本発明の付加的な課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、重量%で、炭素(C):0.1~0.3%、マンガン(Mn):1.0~2.3%、シリコン(Si):0.05~1.0%、リン(P):0.1%以下(0%は除く)、硫黄(S):0.03%以下(0%は除く)、アルミニウム(Al):0.01~0.5%と、クロム(Cr):0.01~0.2%、モリブデン(Mo):0.01~0.2%及びボロン(B):0.005%以下のうち2種以上、チタン(Ti):0.1%以下及びニオブ(Nb):0.1%以下のうち1種以上、残部Fe及び不可避不純物を含み、下記関係式1を満たし、微細組織として、マルテンサイト及び/又はテンパードマルテンサイト相を面積分率99%以上含む、曲げ特性に優れた超高強度鋼板を提供する。
【0014】
[関係式1]
【数1】
【0015】
(ここで、Ceq1=C+(Mn/20)+(Si/30)+(2P)+(4S)、Ceq2=C+(Mn/6)+(Si/30)+(Cr+Mo+V+Nb)/5+(Cu+Ni)/15で表す。)
【0016】
本発明の他の一態様は、上述した合金組成及び関係式1を満たす鋼スラブを1100~1300℃の温度範囲で加熱する段階;上記再加熱された鋼スラブをAr3以上で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;上記熱延鋼板を700℃以下の温度で巻き取る段階;上記巻き取られた熱延鋼板を総圧下率30~80%で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階;上記冷延鋼板をAc3以上で30秒以上連続焼鈍処理する段階;上記連続焼鈍後、550~750℃の温度範囲まで1~10℃/sの平均冷却速度で1次冷却する段階;上記1次冷却後、Ms-190℃以下の温度まで20~80℃/sの平均冷却速度で2次冷却する段階;及び上記2次冷却後、再加熱したのちに過時効処理する段階を含み、
上記再加熱及び過時効段階は、下記関係式3を満たす温度範囲まで加熱することを特徴とする、曲げ特性に優れた超高強度鋼板の製造方法を提供する。
【0017】
[関係式3]
CT2+30℃≦A≦270℃
【0018】
(ここで、CT2は2次冷却終了温度(℃)を意味し、Aは再加熱及び過時効温度(℃)を意味する。)
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、超高強度と共に高降伏比を達成することにより、加工性が向上した鋼板を提供することができる。特に、本発明の鋼板は、自動車構造部材用に好適に適用できる素材であるだけでなく、冷間スタンピングなどの加工にも有利に適用可能であるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施例において、発明例と比較例の表層部微細組織の写真を示したものである。
図2】本発明の一実施例において、発明例と比較例の1/4t領域の微細組織の写真を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の発明者らは、自動車構造部材用に適した素材でありながら、冷間スタンピングなどの加工に有利な鋼板を提供するために深く研究した。その結果、合金成分系及び製造条件を最適化することにより、目的とする組織、物性などを有する鋼板を提供できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0023】
本発明の一態様による超高強度鋼板は、重量%で、炭素(C):0.1~0.3%、マンガン(Mn):1.0~2.3%、シリコン(Si):0.05~1.0%、リン(P):0.1%以下(0%は除く)、硫黄(S):0.03%以下(0%は除く)、アルミニウム(Al):0.01~0.5%を含むことができる。
【0024】
以下では、本発明で提供する超高強度鋼板の合金組成を上記のように制限する理由について詳細に説明する。
【0025】
一方、本発明で特に断らない限り、各元素の含有量は重量を基準とし、組織の割合は面積を基準とする。
【0026】
炭素(C):0.1~0.3%
炭素(C)は、侵入型固溶元素であって、鋼の強度を向上させるのに最も効果的で重要な元素である。特に、マルテンサイト鋼では強度確保のために必須として添加しなければならない元素である。
【0027】
本発明で目標とする強度、降伏比などを有する鋼板を得るために、上記Cを0.1%以上で添加することが好ましい。但し、その含有量が0.3%を超えると、マルテンサイト強度は高くなる一方、連続焼鈍過程で炭化物の生成が容易となり、粗大化しやすくなるため、延性が低下するだけでなく、曲げ特性が劣化する問題がある。また、炭素含有量の過度な増加は溶接性を阻害する問題がある。
【0028】
従って、本発明において、上記Cは0.1~0.3%で含むことができ、より有利には0.12%以上、0.28%以下で含むことができる。
【0029】
マンガン(Mn):1.0~2.3%
マンガン(Mn)は、複合組織鋼においてフェライトの生成を抑制し、オーステナイトの生成を促進することにより、最終的にマルテンサイト相を確保するのに容易な元素である。
【0030】
このようなMnの含有量が2.3%を超えると、鋼の厚さ方向にMnが偏析しスラブ内にマンガン帯(Mn band)が容易に形成され、これにより連鋳クラックとともに圧延時の欠陥発生が多くなる。一方、その含有量が1.0%未満であると、目標水準の強度を確保できなくなる。
【0031】
従って、本発明において、上記Mnは1.0~2.3%で含むことができ、より有利には1.2%以上、2.1%以下で含むことができる。さらに有利には1.4%以上を含むことができる。
【0032】
シリコン(Si):0.05~1.0%
シリコン(Si)は、本発明で得ようとする鋼板を製造する過程において、連続焼鈍及び冷却以降に行われる再加熱及び過時効処理段階で炭化物の生成を抑制し、炭化物の大きさを制御する役割を果たす。
【0033】
上述した効果を十分に得るためには、上記Siを0.05%以上で含むことが好ましい。但し、その含有量が1.0%を超えると、連続焼鈍炉で冷却時にフェライトが生成し鋼の強度を弱化する恐れがある。その上、冷却以降の再加熱及び過時効中にSi系酸化物が生成し、鋼の表面酸化の問題が生じる可能性がある。
【0034】
従って、本発明において、上記Siは0.05~1.0%で含むことができ、より有利には0.09%以上、0.8%以下で含むことができる。さらに有利には0.6%以下で含むことができる。
【0035】
リン(P):0.1%以下(0%は除く)
リン(P)は、鋼中に含有される不純物元素であって、その含有量が0.1%を超えると、鋼の溶接性が悪化し、脆性が発生する恐れがある。従って、上記Pは0.1%以下に制限され、鋼の製造過程中に不可避に添加される水準を考慮して0%は除くことができる。より有利に、上記Pは0.05%以下、さらに有利には0.03%以下で含むことができる。
【0036】
硫黄(S):0.03%以下(0%は除く)
硫黄(S)は、上記Pと同様に、鋼中に不可避に含有される不純物であって、鋼の延性と溶接性を阻害する元素であるため、その含有量をできるだけ低く管理することが有利である。本発明では、上記Sを最大0.03%で含有しても目標物性などの確保に無理がないところ、その上限を0.03%に制限することができ、鋼の製造過程中に不可避に添加される水準を考慮して0%は除くことができる。
【0037】
一方、本発明で目標とする曲げ特性をさらに有利に確保するためには、上記Sの含有量を0.01%以下、さらに有利には0.005%以下に制限することができる。
【0038】
アルミニウム(Al):0.01~0.5%
アルミニウム(Al)は、溶鋼中の酸素を除去するために添加することができ、上記Siと同様にフェライトを安定化させる元素である。また、上記Alは、オーステナイト中の炭素含有量を増加させ、最終マルテンサイト鋼の硬化能を向上させる成分である。
【0039】
上述した効果を十分に得るためには、上記Alを0.01%以上で含有することができる。但し、その含有量が0.5%を超えると、連続焼鈍炉で冷却時にフェライトが生成し強度が弱くなる恐れがある。その上、鋼中に不可避に不純物程度として存在するNと結合してAlNを形成することにより、鋳片クラックを誘発する恐れがあり、熱間圧延性を阻害する問題がある。
【0040】
従って、本発明において、上記Alは0.01~0.5%で含むことができる。
【0041】
一方、本発明の鋼板は、上述した合金組成の他に鋼の物性確保に有利な元素をさらに含むことができる。具体的に、本発明の鋼板は、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)及びボロン(B)の中から選択される2種以上、チタン(Ti)及びニオブ(Nb)のうち1種以上をさらに含むことが好ましい。
【0042】
クロム(Cr):0.01~0.2%
クロム(Cr)は、鋼の硬化能を向上させ、高強度を確保するために添加することができる。特に、連続焼鈍炉で冷却中にベイナイトの生成を抑制し、純粋マルテンサイト相から構成された超高強度鋼板を製造するのに有用である。
【0043】
上述した効果を十分に得るためには、上記Crを0.01%以上で添加することができるが、その含有量が0.2%を超えると、合金鉄の原価が上昇して経済的に不利になる問題がある。
【0044】
従って、上記Crの添加時に0.01~0.2%で添加することができる。
【0045】
モリブデン(Mo):0.01~0.2%
モリブデン(Mo)は、上記Crと同様に鋼の硬化能を向上させる元素である。
【0046】
硬化能の効果を十分に得るためには、上記Moを0.01%以上で添加することができるが、その含有量が0.2%を超えると、合金投入量が過度になり合金鉄の原価が上昇する問題がある。
【0047】
従って、上記Moの添加時に0.01~0.2%で添加することができる。
【0048】
ボロン(B):0.005%以下
ボロン(B)は、連続焼鈍過程でオーステナイトがフェライトに変態されることを抑制する元素であって、極少量の添加でもCr、Moのように硬化能を向上させるのに効果的な元素である。しかし、その含有量が0.005%を超えると、Fe23(B、C)析出相がオーステナイト結晶粒界に析出することにより、フェライトの生成を促進させる作用をする恐れがある。
【0049】
従って、上記Bの添加時に0.005%以下で添加することができる。
【0050】
チタン(Ti):0.1%以下
チタン(Ti)は、微細炭化物を形成する元素であって、降伏強度及び引張強度の確保に寄与する。また、上記Tiは、鋼中に不可避に不純物水準で存在するNをTiNに析出させてスキャベンジング(scavenging)する元素であるため、化学当量的基準48/(14×N)以上の含有量で添加することができる。
【0051】
上記Tiの含有量が0.1%を超えると、むしろ粗大な炭化物が析出し、鋼中の炭素量が低減するにつれて強度、伸び率が低くなる問題がある。また、連鋳時にノズル詰まりを引き起こす可能性があるため、上記Tiの添加時に0.1%以下で添加することができる。
【0052】
一方、上記Bの添加時にその添加効果を極大化するためには、Tiを一緒に添加することが有利である。
【0053】
ニオブ(Nb):0.1%以下
ニオブ(Nb)は、オーステナイト粒界に偏析して連続焼鈍過程でオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制し、微細な炭化物を形成して強度向上に寄与する元素である。
【0054】
このようなNbの含有量が0.1%を超えると、粗大な炭窒化物の析出が増大し、鋼中の炭素量低減により強度及び伸び率が低くなるおそれがある。また、母材の加工性が低下し、製造原価が上昇する問題がある。
【0055】
従って、上記Nbの添加時に0.1%以下で添加することができる。
【0056】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は通常の製造過程の技術者であれば誰でも分かるものであるため、その全ての内容を特に本明細書では言及しない。
【0057】
上述した合金組成を満たす本発明の鋼板は、特定元素の含有量の関係が下記関係式1を満たすことが好ましい。
【0058】
[関係式1]
【数2】
【0059】
(ここで、Ceq1=C+(Mn/20)+(Si/30)+(2P)+(4S)、Ceq2=C+(Mn/6)+(Si/30)+(Cr+Mo+V+Nb)/5+(Cu+Ni)/15で表す。)
【0060】
関係式1は、鋼中に添加される合金元素の含有量が溶接特性に及ぼす影響についてCeq1とCeq2の複合関係式で表したものであって、その範囲が0.12~0.28を満たすときに基本的な溶接特性を満たしつつ、本発明で目的とする物性を有利に確保することができる。
【0061】
具体的に、上記関係式1の値が0.12未満であると、本発明で目標とする水準の強度を確保できなくなり、一方、その値が0.28を超えると、物性のうち特に溶接特性が大きく劣化する可能性がある。
【0062】
上記関係式1の値は、より好ましくは0.15以上、0.27以下であることができ、さらに好ましくは0.17以上であることができる。
【0063】
上述した合金組成と関係式1を満たす本発明の鋼板は、微細組織として、マルテンサイト相を主相に含むことが好ましい。
【0064】
具体的に、上記鋼板は、マルテンサイト及び/又はテンパードマルテンサイト相を面積分率99%以上で含むことができる。このとき、上記分率が100%であっても構わない。
【0065】
上記マルテンサイト及び/又はテンパードマルテンサイト相の分率が99%である場合、残りの1%はフェライト及び/又はベイナイト相であってもよい。
【0066】
本発明の鋼板は、後述するように特定領域の表層部が存在し、上記表層部を除いた残りの領域(例えば、中心部領域)において主組織がマルテンサイト及び/又はテンパードマルテンサイト相であることが好ましい。
【0067】
一方、本発明の鋼板は、表面から厚さ方向に最小50μmまで~最大70μmまで該当する領域を表層部と定めることができ、上記表層部は軟質相を含むという特徴がある。
【0068】
好ましくは、上記表層部は、面積分率70%以下でテンパードマルテンサイト相を含み、残部組織として、上記テンパードマルテンサイトに比べて軟質な性質を有するフェライトとベイナイトのうち1種以上を含むことができる。このように、鋼板の表層部を軟質化させることにより、曲げ特性をさらに向上させる効果を得ることができる。
【0069】
その上、一定の軟質相を含む上記表層部は、鋼板に含有されるC含有量よりも低い含有量でCを含有する脱炭層を含むという特徴がある。
【0070】
具体的に、本発明の鋼板のC含有量に対し、上記表面基準の厚さ方向に1~3μmの領域(A)内のC含有量比が0.6以下であることが好ましい。ここで、上記領域(A)のC含有量比は[領域(A)の平均C含有量/鋼板のC含有量]を意味する。
【0071】
また、上記鋼板のC含有量に対し、上記表面基準の厚さ方向に0.2~30μmの領域(B)のC含有量比が0.9以下であることが好ましい。ここで、上記領域(B)のC含有量比は[領域(B)の平均C含有量/鋼板のC含有量]を意味する。
【0072】
上記表層部内の脱炭層は鋼板の曲げ特性を向上させるのに有利であるが、上記表層部内の特定領域(A、B)の炭素(C)含有量比がそれぞれ0.6、0.9を超えると、目標とする曲げ特性を達成できなくなる。
【0073】
ここで、上記脱炭層は、上記表層部に該当する厚さだけ形成されてもよく、上記表層部の厚さよりも薄く形成されてもよい。
【0074】
本発明において、上記脱炭層は、鋼板製造過程中の連続焼鈍工程を制御することで形成することができ、これについては後述にて具体的に説明する。
【0075】
上記のように微細組織が硬質相で構成される一方、表層部では脱炭層を含む本発明の鋼板は、引張強度1300MPa以上と超高強度を有しつつ、降伏比が0.72以上と高降伏比を有するとともに、曲げ特性(R/t)が3以下の効果を有することができる。
【0076】
また、本発明の鋼板は、引張強度と曲げ特性との関係、具体的に基本的な引張物性である引張強度(TS)とVDA238-100規格で3点曲げ試験を行った後の最大曲げ角度との関係が、下記関係式2を満たすことができる。
【0077】
[関係式2]
(引張強度(TS)/最大曲げ角度)≦25
【0078】
上記関係式2の値が25以下であると、引張強度1300MPa以上の超高強度鋼において優れた曲げ特性を確保できる一方、その値が25を超えると、強度は高いものの曲げ特性が劣化する。
【0079】
以下、本発明の他の一による曲げ特性に優れた超高強度鋼板を製造する方法について詳細に説明する。
【0080】
簡略に、本発明は、[鋼スラブ加熱-熱間圧延-巻取-冷間圧延-連続焼鈍]の工程を経て目的とする鋼板を製造することができ、以下、各工程について詳細に説明する。一方、上記連続焼鈍工程には冷却工程とともに再加熱及び過時効工程が含まれ、これは連続焼鈍ラインで上記工程が一括して行われることを意味する。
【0081】
[鋼スラブ加熱]
まず、前述した合金組成を満たす鋼スラブを用意した後、これを加熱することができる。
【0082】
本工程は、後続の熱間圧延工程を円滑に行い、目標とする鋼板の物性を十分に得るために行われる。本発明では、このような加熱工程の条件について特に制限しておらず、通常の条件であれば構わない。一例として、1100~1300℃の温度範囲で加熱工程を行うことができる。上記加熱温度が1100℃未満であると、後続の熱間圧延時に荷重が急激に増加する問題があり、一方、その温度が1300℃を超えると、表面スケールの量が増加し材料の収率が低下する問題がある。
【0083】
[熱間圧延]
上記によって加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板に製造することができ、このとき、Ar3以上の温度領域で仕上げ熱間圧延を行うことができる。
【0084】
上記仕上げ熱間圧延時の温度がAr3未満であると、フェライト+オーステナイトの二相域又はフェライト域の圧延が行われて混粒組織が形成されるだけでなく、熱間圧延荷重の変動により誤作の恐れがある。
【0085】
より具体的に、上記仕上げ熱間圧延は800~1000℃の温度範囲で行うことができる。
【0086】
[巻取]
上記によって製造された熱延鋼板をコイル形状に巻き取ることができる。
【0087】
上記巻取は700℃以下の温度領域で行うことができる。もし、巻取温度が700℃を超えると、鋼板表面に酸化膜が過多に生成して欠陥を引き起こす可能性がある。
【0088】
一方、上記巻取温度が低いほど熱延鋼板の強度が高くなるため、後続の冷間圧延工程で圧延荷重が高くなる欠点がある。従って、上記巻取温度の下限を100℃に制限することができる。
【0089】
[冷間圧延]
上記によって巻き取られた熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板に製造することができ、本発明において、上記冷間圧延は30~80%の冷間圧下率で行うことができる。
【0090】
上記冷間圧延時に冷間圧下率が30%未満であると、目標とする厚さを確保できなくなるだけでなく、熱間圧延結晶粒が残存し、後続の連続焼鈍処理時にオーステナイトの生成及び最終物性の確保に影響を及ぼすおそれがある。一方、上記冷間圧下率が80%を超えると、冷間圧延時に発生する加工硬化から長さ及び幅方向に圧延される圧下量が不均一となり、これにより最終鋼板の材質ばらつきが発生するおそれがある。また、圧延負荷によって目標厚さの確保が難しい可能性がある。
【0091】
一方、上記冷間圧延に先立ち、熱間圧延して得られた熱延鋼板の表面に形成された酸化層を除去するための目的で、酸洗工程をさらに行うことができる。上記酸洗工程の条件については特に限定されず、通常行われる条件によって行われることができる。
【0092】
[連続焼鈍]
上記によって製造された冷延鋼板を連続焼鈍処理することが好ましい。上記連続焼鈍処理は、一例として連続焼鈍炉(CAL)で行われることができる。
【0093】
上記連続焼鈍処理は、Ac3以上の温度で30秒以上熱処理する工程で行われることができる。これは、オーステナイト単相域の焼鈍を通じてオーステナイト分率を100%で確保するためである。
【0094】
ここで、Ac3は下記式から計算することができる。
【0095】
[式]Ac3=910-203√C-15.2Ni+44.7Si+104V+31.5Mo+13.1W
【0096】
(式において、各元素は重量含有量である。)
【0097】
本発明では、上述した条件で連続焼鈍処理する際に焼鈍炉内の露点温度を0~20℃に制御することが好ましく、このように露点温度を制御することで連続焼鈍過程で鋼表面に脱炭層を形成することができる。
【0098】
通常、連続焼鈍炉内の露点は-50℃程度であるが、含湿窒素(N+HO)を投入して露点温度を0℃以上に上昇させる場合、酸素部分圧が増加し、鋼の炭素(C)と焼鈍炉内の酸素(O)とが反応してCOガスとして放出され、表層部で脱炭が起こるようになる。
【0099】
上記焼鈍炉内の露点温度が0℃未満であると、鋼表面で脱炭層が十分に形成されなくなり、一方、20℃を超えると、設備の寿命及び生産性低下の問題がある。
【0100】
このように、連続焼鈍過程で鋼表面に脱炭層を形成して表層部のみ軟質化させることにより、超高強度を有する鋼の曲げ特性をさらに向上させる効果がある。
【0101】
[段階的冷却]
先に言及したように、上記によって連続焼鈍処理された冷延鋼板を冷却することで、目標とする組織を形成することができ、このとき、段階的(stepwise)に冷却を行うことが好ましい。
【0102】
本発明において、上記段階的冷却は1次冷却-2次冷却で行うことができ、具体的に、上記連続焼鈍後、550~750℃の温度範囲まで1~10℃/sの平均冷却速度で1次冷却した後、Ms-190℃以下の温度範囲まで20~80℃/sの平均冷却速度で2次冷却を行うことができる。
【0103】
上記1次冷却時の終了温度が550℃未満であると、フェライト、ベイナイトのような相(phase)が形成され強度が低下するおそれがあり、一方、その温度が750℃を超えると、焼鈍炉の耐久寿命が短くなるだけでなく、後続の2次冷却時に過度な冷却が求められることから、板材の形状不良及び蛇行制御の困難など、実際の生産ラインで問題が生じる可能性がある。
【0104】
また、上記1次冷却時の平均冷却速度が1℃/s未満であると、冷却時にフェライト相が形成され目標水準の強度を確保できなくなり、一方、10℃/sを超えると、後続の2次冷却時の平均冷却速度が低下し、マルテンサイト以外に他の低温変態相の分率が増加し、最終的に目標水準の強度を確保できなくなる。
【0105】
上述したように1次冷却を完了した後は、一定以上の平均冷却速度で急冷(2次冷却)を行うことができる。
【0106】
特に、本発明では、マルテンサイト及び/又はテンパードマルテンサイト相を主組織として確保するために、2次冷却時にMf(マルテンサイト変態終了温度)以下の温度に速やかに冷却することが有利である。
【0107】
具体的に、Ms-190℃以下の温度に冷却を行うことで、十分に硬いマルテンサイト組織を形成することができ、以降の再加熱(焼戻し)工程時に炭化物析出による降伏強度の上昇効果を得ることができる。上記冷却が終了する温度がMs-190℃を超えると、本発明において目的とする水準の強度を確保することが困難であり、後続の再加熱温度が過度に高くなるおそれがあって、この場合、鋼の曲げ性が劣化する恐れがある。また、意図する組織(マルテンサイト及び/又はテンパードマルテンサイト)の分率が十分に確保されなくなる可能性がある。
【0108】
従って、本発明では、2次冷却時の終了温度を制限することにより、後続の再加熱温度を過度に高めることなく焼戻し効果を十分に誘導し、曲げ特性を確保することができる。
【0109】
上記2次冷却の終了温度の下限については特に限定しないが、設備の特性を考慮して50℃程度に制限することができる。
【0110】
ここで、Ms(マルテンサイトの変態開始温度)は、下記式から計算することができる。
【0111】
[式]Ms=539-423C-30.4Mn-7.5Si+30Al-17.7Ni-12.1Cr-7.5Mo
【0112】
(式において、各元素は重量含有量である。)
【0113】
上記2次冷却時の平均冷却速度が20℃/s未満であると、2次冷却過程でベイナイト組織が一部生成するおそれがあり、一方、80℃/sを超えると、2次冷却時点で急激なマルテンサイトの変態速度によって鋼板の表面形状が劣化し、幅方向への材質ばらつきが発生する問題がある。
【0114】
[再加熱及び過時効]
本発明では、2次冷却時に形成された電位密度が高く且つ硬いマルテンサイト相を再加熱及び過時効処理を通じてテンパードマルテンサイトに変化させることにより、鋼の靭性を改善させることができる。
【0115】
具体的に、上記再加熱及び過時効処理は、上記によって段階的に冷却された冷延鋼板を下記関係式3を満たす温度範囲まで加熱した後、その温度で1~20分間維持する工程であることが好ましい。
【0116】
[関係式3]
CT2+30℃≦A≦270℃
【0117】
(ここで、CT2は2次冷却終了温度(℃)を意味し、Aは再加熱及び過時効温度(℃)を意味する。)
【0118】
すなわち、焼戻し効果を十分に確保するために、再加熱温度の下限を2次冷却終了温度(CT2)に対して30℃以上の温度に制限する。本発明の再加熱過程で形成される微細炭化物により鋼の降伏強度が上昇するが、このときの温度がCT2+30℃未満であると、焼戻し効果が不十分となる。一方、その温度が270℃を超えると、炭化物が粗大化して曲げ特性が劣化する問題がある。
【0119】
また、上述した温度領域に再加熱した後、過時効処理時の維持時間が1分未満であると、マルテンサイトがテンパードマルテンサイトに十分に変化されず、目的とする焼戻し効果を得ることが困難である。一方、その時間が20分を超えると、過時効されて生成した炭化物が粗大になり、曲げ特性が低下し、材質に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0120】
上述によって製造された本発明の鋼板は、微細組織がマルテンサイト及び/又はテンパードマルテンサイトから構成されることにより、引張強度1300MPa以上の超高強度を有するだけでなく、連続焼鈍工程における温度、冷却工程と再加熱工程などを制御することで、優れた降伏比を確保することができる。さらに、連続焼鈍過程で表層部に脱炭層が形成されることにより、優れた曲げ特性を有することができる。
【実施例
【0121】
以下、本発明を実施例によってより詳細に説明する。しかし、このような実施例の記載は、本発明の実施を例示するためのものであり、このような実施例の記載によって本発明が制限されるものではない。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項とこれから合理的に類推される事項によって決定されるためである。
【0122】
(実施例)
下記表1に示す合金成分系を有する鋼スラブを1100~1300℃で加熱した後、Ar3以上の温度である850~950℃で仕上げ熱間圧延を行うことで熱延鋼板を製造した。その後、それぞれの熱延鋼板を300~700℃で巻き取った後、45~65%の冷間圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造した。
【0123】
上記によって製造されたそれぞれの冷延鋼板を800~900℃の温度範囲で100~400秒間連続焼鈍処理した後、下記表2に示す条件で段階的冷却を行った。その後、下記表2に示す条件で再加熱及び過時効処理して最終鋼板を製造した。上記連続焼鈍処理時の焼鈍炉内の露点温度についても下記表2に示した。
【0124】
その後、製造された鋼板について表層部領域のC含有量をGDSで測定し、材質評価を通じて物性を測定した。このとき、降伏強度、引張強度、降伏比、総伸び率及び均一伸び率は、それぞれの鋼板をJIS規格(gauge length幅×長さ:25×50mm、試験片全長:200~260mm)に加工した後、試験速度28mm/minの条件で引張試験して測定した。
【0125】
また、曲げ特性(R/t)は、同じ鋼板を幅100mm×長さ30mmに試験片加工した後、試験速度100mm/minの条件で90°曲げ試験を行った。その後、顕微鏡を用いて曲げ部のクラックを確認し、クラックが発生していない最小曲げ半径(金型のR値)を試験片の厚さ(t、mm)で割ってR/t値を求めた。3点曲げ試験の最大曲げ角度は、同じ鋼板を幅60mm×長さ30mmに試験片加工した後、VDA238-100規格である試験速度20mm/min、パンチング半径0.4Rで試験を行い、クラックが発生する最大荷重での最大曲げ角度を測定した。
【0126】
そして、各鋼板の微細組織はSEMを用いて観察し、各分率を測定した。
【0127】
【表1】
【0128】
【表2】
【0129】
【表3】
【0130】
【表4】
【0131】
上記表1~4に示すように、本発明で提案する合金組成及び製造条件をいずれも満たす発明例1~3は、表層部内に脱炭層が十分に形成されており、それにより曲げ特性に優れていた。さらに、鋼板の主組織がマルテンサイト/テンパードマルテンサイトで形成されることにより、超高強度を有することを確認することができる。
【0132】
一方、本発明の合金組成は満たすものの、製造条件、特に焼鈍条件又は再加熱条件が本発明を満たさない比較例1~11は、表層部内に脱炭層が形成されないことにより、曲げ特性が劣っていた。
【0133】
比較例12は、連続焼鈍後、冷却時の2次冷却終了温度が高く、再加熱時の温度が十分に昇温されないことにより、脱炭層は形成されているものの、焼戻し効果が不十分であるため、降伏強度及び引張強度が低かった。
【0134】
比較例13及び14は、本発明の合金組成をいずれも満たしているにもかかわらず、焼鈍条件(露点温度条件)が本発明を満たしていないことにより、表層部内に脱炭層が形成されておらず、曲げ特性が4程度と劣っており、曲げ試験時の最大角度が不十分であるため、関係式2から外れていることを確認することができる。
【0135】
比較例15は、連続焼鈍後、冷却時の2次冷却終了温度が高く、再加熱時の温度が十分に昇温されないことにより、脱炭層は形成されているものの、焼戻し効果が不十分であるため、降伏強度が低く、降伏比が劣っていた。
【0136】
比較例16は、本発明の合金成分系を満たしていない場合であって、降伏強度及び降伏比が劣っていた。
【0137】
比較例17も、本発明の合金成分系を満たしていない例であって、鋼板微細組織としてマルテンサイト(+テンパードマルテンサイト)相が不十分であることにより、降伏強度及び引張強度がいずれも劣っている結果を示した。
【0138】
比較例18は、本発明の関係式1から外れる例であって、本発明の焼鈍条件が適用されているにもかかわらず、表層部だけでなく中心部でもマルテンサイト(+テンパードマルテンサイト)相がほとんど形成されていないことにより、強度が極めて劣っていた。
【0139】
図1は、発明例1と比較例1の表層部断面(略厚み方向80μmまで)の微細組織をSEMで測定した写真を示したものである。
【0140】
図1に示すように、発明例1の場合、表層部において軟質相を含む脱炭層が形成されていることを確認することができるのに対し、比較例1は、硬質相が密に形成されていることがわかる。
【0141】
図2は、発明例1と比較例1の1/4t領域(t:鋼板厚さ(mm)を意味し、1.4mm基準である)の断面微細組織をSEMで測定した写真を示したものである。
【0142】
図2に示すように、発明例1と比較例1は、いずれも主組織としてマルテンサイト(又はテンパードマルテンサイト)相が形成されていることを確認することができる。
図1
図2
【国際調査報告】