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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-15
(54)【発明の名称】植物の二重摘心
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20250107BHJP
   C12N 15/82 20060101ALI20250107BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250107BHJP
   A01H 3/00 20060101ALI20250107BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20250107BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20250107BHJP
   A01H 5/10 20180101ALI20250107BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20250107BHJP
   C12N 5/04 20060101ALN20250107BHJP
【FI】
C12N15/09 100
C12N15/09 110
C12N15/82 Z
C12N5/10
A01H3/00
C12N1/21
C12N7/01
A01H5/10
C12N15/63 Z ZNA
C12N5/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536019
(86)(22)【出願日】2022-12-16
(85)【翻訳文提出日】2024-07-22
(86)【国際出願番号】 EP2022086257
(87)【国際公開番号】W WO2023111225
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】21215549.3
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508186875
【氏名又は名称】キージーン ナムローゼ フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【弁理士】
【氏名又は名称】植田 渉
(72)【発明者】
【氏名】クルースターマン,ビョルン アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ルイシエール,フランク ジョージ ポール
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
(57)【要約】
本発明は、遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む植物の苗条を生産するための方法に関する。方法は、好ましくは、i)植物を提供するステップと、ii)gRNA及びCRISPRヌクレアーゼの少なくとも1つを発現するベクターを植物の細胞に導入するステップと、iii)植物の苗条頂端分裂組織を除去するステップと、iv)遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む苗条を植物の第2の位置で再生させるステップとを含む。植物の苗条頂端分裂組織は、好ましくは、植物を摘心することによって除去される。同様に、好ましくは、苗条は、第2の位置における植物の2回目の摘心によって再生される。本発明はさらに、本発明の方法によって得られる、遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む苗条を有する植物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)植物を提供するステップと;
ii)前記植物の細胞内に、部位特異的ヌクレアーゼのガイド要素及びヌクレアーゼ要素の少なくとも1つを発現するベクターを導入するステップと;
iii)好ましくは第1の位置で前記植物を摘心することによって、前記植物の苗条頂端分裂組織を除去するステップと;
iv)好ましくは、前記植物の第2の位置を傷つけることによって、遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む苗条を前記植物の第2の位置で再生させるステップと
を含む、遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む植物の苗条を生産するための方法。
【請求項2】
前記苗条再生が、第2の位置における前記植物の摘心によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップiii)における第1の位置が子葉の上であり、好ましくは子葉の上の上胚軸内で第1の本葉の下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップiv)における第2の位置が子葉の下であり、好ましくは子葉の下の胚軸内である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記部位特異的ヌクレアーゼが、CRISPRヌクレアーゼ複合体、アルゴノート、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、及びメガヌクレアーゼからなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記部位特異的ヌクレアーゼがCRISPRヌクレアーゼ複合体であり、ステップi)で提供される植物が複合体のヌクレアーゼ要素を発現し、ステップii)でベクターがgRNAを発現する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップii)とステップiii)との間の期間が約1~21日間である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップiii)とステップiv)との間の期間が約1~7日間である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップi)で提供される植物が苗木である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ステップii)で導入されるベクターが、好ましくはタバコ茎壊疽ウイルス(TRV)、タバコモザイクウイルス(TMV)、ジャガイモウイルスX(PVX)、ジェミニウイルス、及びソンカスイエローネットウイルス(SYNV)からなる群から選択されるウイルスであり、好ましくはタバコモザイクウイルスRNAベースの過剰発現ベクター(TRBO)である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ベクターが、、前記子葉と、前記ベクターを保有するアグロバクテリウム又はウイルス粒子とを接触させることによって、ステップii)において導入される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む苗条を選択し、その植物を再生させるステップをさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記植物を栽培し、前記遺伝子改変を含む配偶子を生産するステップをさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記配偶子から種子を成長させ、任意選択的に前記種子から子孫植物を栽培するステップをさらに含み、前記種子及び任意選択の子孫植物が、遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法によって得られる、遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む苗条を有する、植物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子植物生物学及び植物生産の分野に関する。本発明は、植物細胞の標的遺伝子改変に関する。特に、本発明は、標的遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む苗条、並びにそれに由来する植物及び植物製品に関する。
【背景技術】
【0002】
植物育種は、有用で優れた形質の選択と組換えを通じて植物の生産性と性能を向上させ、遺伝子技術によって植物の形質を改良することを目的としている。これらの技術は、改変された単一細胞からいかにして繁殖力のある植物を再生させるかという中心的な技術的課題に直面している。これは、遺伝的変化を目的とした技術(ゲノム編集、変異誘発、遺伝子形質転換)と、ゲノム全体に影響を及ぼす技術(DH生産、倍数体化、体細胞交雑)との双方に当てはまる。
【0003】
植物の再生における必須段階は、1つ又は複数の新規苗条の形成である。再生の前に、植物は1つ又は複数の植物細胞に遺伝的改変を導入するベクターに曝露されてもよい。これらの改変細胞は、引き続いて、新しく再生された苗条の一部を形成してもよい。しかしながら、この技術はかなり非効率的であり、新たな再生苗条の限られた数だけが、遺伝的変異を含む。また、それらの苗条中に存在する改変細胞の数はかなり少ない。したがって、遺伝的改変を有する1つ又は複数の細胞を含む苗条を形成する植物の能力を改善することが、当該技術分野において依然として強く求められている。
【発明の概要】
【0004】
本方法は、以下の実施形態に要約され得る:
実施形態1.
i)植物を提供するステップと;
ii)植物の細胞内に、部位特異的ヌクレアーゼのガイド要素及びヌクレアーゼ要素の少なくとも1つを発現するベクターを導入するステップと;
iii)好ましくは第1の位置で植物を摘心することによって、植物の頂端分裂組織を除去するステップと;
iv)好ましくは、植物の第2の位置を傷つけることによって、遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む苗条を植物の第2の位置で再生させるステップと
を含む、遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む植物の苗条を生産するための方法。
【0005】
実施形態2.苗条再生が、第2の位置における植物の摘心によって行われる、実施形態1に記載の方法。
【0006】
実施形態3.ステップiii)における第1の位置が子葉の上であり、好ましくは子葉の上の上胚軸内で第1の本葉の下である、実施形態1又は2に記載の方法。
【0007】
実施形態4.ステップiv)における第2の位置が子葉の下であり、好ましくは子葉の下の胚軸内である、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0008】
実施形態5.部位特異的ヌクレアーゼが、CRISPRヌクレアーゼ複合体、アルゴノート、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、及びメガヌクレアーゼからなる群から選択される、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0009】
実施形態6.部位特異的ヌクレアーゼがCRISPRヌクレアーゼ複合体であり、ステップi)で提供される植物が前記複合体のヌクレアーゼ要素を発現し、ステップii)でベクターがgRNAを発現する、実施形態1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0010】
実施形態7.ステップii)とステップiii)との間の期間が約1~21日間である、実施形態1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0011】
実施形態8.ステップiii)とステップiv)との間の期間が約1~7日間である、実施形態1~7のいずれか1つに記載の方法。
【0012】
実施形態9.ステップi)で提供される植物が苗木である、実施形態1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0013】
実施形態10.ステップii)で導入されるベクターが、好ましくはタバコ茎壊疽ウイルス(TRV)、タバコモザイクウイルス(TMV)、ジャガイモウイルスX(PVX)、ジェミニウイルス、及びソンカスイエローネットウイルス(SYNV)からなる群から選択されるウイルスであり、好ましくはタバコモザイクウイルスRNAベースの過剰発現ベクター(TRBO)である、実施形態1~9のいずれか1つに記載の方法。
【0014】
実施形態11.ベクターが、前記ベクターを保有するアグロバクテリウム又はウイルス粒子と子葉とを接触させることによって、ステップii)において導入される、実施形態1~10のいずれか1つに記載の方法。
【0015】
実施形態12.遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む苗条を選択し、その植物を再生させるステップをさらに含む、実施形態1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0016】
実施形態13.植物を栽培し、遺伝子改変を含む配偶子を生産するステップをさらに含む、実施形態1~12のいずれか1つに記載の方法。
【0017】
実施形態14.前記配偶子から種子を成長させ、任意選択的に前記種子から子孫植物を栽培するステップをさらに含み、種子及び任意選択の子孫植物が、遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む、実施例13に記載の方法。
【0018】
実施形態15.実施形態1~14のいずれか1つに記載の方法によって得られる、遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む苗条を有する、植物。
【0019】
定義
本発明の方法、組成物、用途及びその他の側面に関する様々な用語が、本明細書及び特許請求の範囲を通して使用される。このような用語は、別段の指示がない限り、本発明が属する技術分野における通常の意味を有する。その他の具体的に定義された用語は、本明細書で規定された定義と一致する様式で解釈される。当業者にとって、本明細書に記載されたものと類似又は同等の方法及び材料が、本発明を実施するために使用できることは明らかである。
【0020】
本発明の方法で使用される従来技術を実施する方法は、熟練した当業者には明らかであろう。分子生物学、生化学、計算機化学、細胞培養、組換えDNA、バイオインフォマティクス、ゲノミクス、配列決定、及び関連分野における従来技術の実践は、当業者には良く知られており、例えば、以下の参考文献で説明されている:Sambrook et al.Molecular Cloning.A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989;Ausubel et al.Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,New York,1987 and periodic updates;及びthe series Methods in Enzymology,Academic Press,San Diego。
【0021】
単数形の用語「a」、「an」、及び「the」には、文脈上例外が明記されていない限り、複数の指示対象も含まれる。したがって、例えば、「細胞」への言及には、2つ以上の細胞の組み合わせなどが含まれる。したがって、不定冠詞「a」又は「an」は通常、「少なくとも1つ」を意味する。
【0022】
明細書の用法では、「約」という用語は、小さな変動を説明し、考慮するために使用される。例えば、用語は、±(+又は-)10%以下、例えば、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、又は±0.05%以下に言及し得る。さらに、量、比率、その他の数値は、範囲形式で提示されることもある。このような範囲形式は、利便性と簡潔さのために使用されており、範囲の制限として明示的に指定された数値を含むように柔軟に理解されるべきであるが、各数値と部分範囲が明示的に指定されているかのように、その範囲内に含まれる全ての個々の数値又は部分範囲もまた含むことが理解されるべきである。例えば、約1~約200の範囲の比率は、明示的に記載された約1及び約200の制限を含むだけでなく、約2、約3、及び約4などの個々の比率、及び約10~約50、約20~約100などの部分範囲もまた含むことが理解されるべきである。
【0023】
参照タンパク質の指定されたドメイン、配列又は位置に関連して、タンパク質のドメイン、配列、又は位置に関して「類似する」とは、本明細書では、Needleman Wunschなどの本明細書に記載のアラインメントアルゴリズムを使用してタンパク質を参照タンパク質にアラインメントさせたときに、参照タンパク質の示されたドメイン、配列、又は位置に一致するドメイン、配列、又は位置として理解されるべきである。
【0024】
「及び/又は」という用語は、記載された事例の1つ又は複数が、単独で、又は記載された事例の少なくとも1つの組み合わせで、記載された事例の全てに至るまで発生してもよい状況を指す。
【0025】
「cDNA」という用語は、相補的DNAを意味する。相補的DNAは、RNAを相補的DNA配列に逆転写することによって生成される。したがって、cDNA配列は遺伝子から発現されるRNA配列に対応する。ゲノムから発現したRNA配列はスプライシングを受け得るので、すなわち、イントロンがmRNA前駆体から切り出され、エクソンが結合されてから細胞質中でタンパク質に翻訳されるので、cDNAの配列はmRNAの配列に対応することが理解されている。したがってcDNAは、結合したエクソンからなるタンパク質の完全なオープンリーディングフレームのみをコード化してもよい一方、ゲノムDNA配列は、イントロン配列が散在するエクソン配列を含んでもよいことから、cDNA配列は、対応するゲノムDNA配列と同一ではない可能性がある。したがって、タンパク質をコード化する遺伝子の遺伝子改変は、タンパク質をコード化する配列の改変に関連するだけでなく、ゲノムDNAのイントロン配列及び/又はその遺伝子の他の遺伝子制御配列の変異も伴ってもよい。
【0026】
「含む」という用語は、排他的ではなく、包括的且つ制限のないものとして解釈される。具体的には、この用語及びその変形は、指定された特徴、ステップ又は構成要素が含まれることを意味する。これらの用語は、他の特徴、ステップ又は構成要素の存在を排除すると解釈されるべきではない。
【0027】
「再生を可能にする条件」という用語は、本明細書では、植物細胞又は組織が再生し得る環境として理解される。このような条件としては、少なくとも適切な温度(0℃~60℃)、栄養、昼夜のリズム、灌漑、及び1つ又は複数の植物ホルモン及び/又は植物ホルモン様化合物が挙げられる。さらに、「再生を可能にする最適条件」とは、植物細胞の再生を最大限に可能にする環境条件である。
【0028】
本明細書で言及される「対照植物」とは、本発明の植物、すなわち、本明細書で教示される方法に供される植物と同種であり、好ましくは同じ遺伝的背景を有する植物である。好ましくは、対照植物は、本発明の方法に供される植物と同じ条件下で栽培される。
【0029】
「CRISPRヌクレアーゼ」又は「CASタンパク質」は2つのヌクレアーゼドメインを含み、ガイドRNAと複合体を形成できる。ガイドRNAと複合体化すると、CRISPRヌクレアーゼ複合体はガイドRNAによって特定の核酸配列に誘導される。ヌクレアーゼの両方のドメインが触媒的に活性である場合、タンパク質は標的部位に二本鎖切断を導入できる。ガイドRNAは、前記CRISPRヌクレアーゼと相互作用し、また本明細書ではプロトスペーサー配列として示される標的特異的核酸配列とも相互作用し、その結果、ガイド配列を介して標的核酸配列を含む部位に誘導されると、CRISPRヌクレアーゼは標的部位又はその近傍に二本鎖切断を導入できる。CRISPRヌクレアーゼが触媒的に活性な1つのドメインと触媒的に不活性な1つのドメインを有する場合、CRISPRヌクレアーゼは本明細書ではCRISPRニッカーゼとして示される。前記CRISPRニッカーゼは、標的部位に一本鎖切断を導入できる。CRISPRヌクレアーゼがデッドCRISPRヌクレアーゼである場合、両ドメインは触媒的に不活性であり、タンパク質は標的部位に切断を導入できない。当業者は、エンドヌクレアーゼ活性又はニッカーゼ活性を有するCRISPRヌクレアーゼと組み合わせた場合に、核酸分子内の所定の部位にそれぞれ二本鎖又は一本鎖の切断を導入するように、ガイドRNAを設計する方法を良く承知している。CRISPRヌクレアーゼは、一般的に6つの主要な型(I~VI型)に分類され、コア要素の内容と配列に基づいて、亜型にさらに細分化される(Makarova et al,2011,Nat Rev Microbiol 9:467-77;及びWright et al,2016,Cell 164(1-2):29-44)。一般に、CRISPRヌクレアーゼ複合体の2つの重要な要素は、CRISPRヌクレアーゼとガイドRNAである。II型CRISPRヌクレアーゼ複合体としては、ガイドRNAに結合して二重鎖DNAを特異的に切断できる単一のタンパク質(約160KDa)であるシグネチャCas9タンパク質が挙げられる。Cas9タンパク質は典型的には、アミノ末端近傍のRuvC様ヌクレアーゼドメインと、タンパク質の中央近傍のHNH(又はMcrA様)ヌクレアーゼドメインとの2つの活性ヌクレアーゼドメインを含有する。Cas9タンパク質の各ヌクレアーゼドメインは、二重らせんの1つの鎖を切断するように特化している(Jinek et al,2012,Science 337(6096):816-821)。Cas9タンパク質は、II型CRISPR-CASシステムのCRISPRヌクレアーゼの一例であり、crRNA及びトランス活性化crRNA(tracrRNA)と称される2番目のRNAと結合すると、部位特異的エンドヌクレアーゼを形成する。crRNAとtracrRNAは、ガイドRNAとして一緒に機能する。CRISPRヌクレアーゼ複合体は、crRNAによって定義されたゲノム中の位置にDNA二本鎖切断(DSB)を導入する。Jinek et al.(2012,Science 337:816-820)は、crRNAとtracrRNAの必須部分を融合して生成された単鎖キメラガイドRNA(本明細書では、「sgRNA」又は「シングルガイドRNA」と定義される)が、Cas9タンパク質と組み合わされると機能的CRISPRヌクレアーゼ複合体を形成できることを実証した。プレボテラ属(Prevotella)及びフランシセラ属(Francisella)に由来する、規則的な間隔をもってクラスター化された短鎖反復回文配列(CRISPR/Cpf1)である、V型CRISPRヌクレアーゼ複合体が記載されている。Cpf1遺伝子はCRISPR遺伝子座と関連しており、crRNAを使用してDNAを標的化する、エンドヌクレアーゼをコードする。Cpf1はCas9よりも小さなエンドヌクレアーゼであり、CRISPR-Cas9の制限の一部を克服してもよい。Cpf1は、tracrRNAを欠く単一のRNA誘導エンドヌクレアーゼであり、Tに富むプロトスペーサー隣接モチーフを利用する。Cpf1は、千鳥状のDNA二本鎖切断を介してDNAを切断する(Zetsche et al(2015)Cell 163(3):759-771)。V型CRISPRヌクレアーゼシステムは、好ましくは、Cpf1、C2c1、及びC2c3の少なくとも1つを含む。プロトスペーサー配列に相補的なcrRNAの部分は、プロトスペーサー配列とハイブリッド形成して複合CRISPRタンパク質の配列特異的結合を誘導するために、プロトスペーサー配列と十分な相補性を持つように設計されている。プロトスペーサー配列は、好ましくはプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列に隣接しており、このPAM配列は、RNA誘導CRISPRヌクレアーゼ複合体のCRISPRタンパク質と相互作用してもよい。例えば、CRISPRタンパク質がS.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9である場合、PAM配列は好ましくは5’-NGG-3’であり、ここでNはT、G、A、又はCのいずれか1つであり得る。当業者は、任意の所望の配列を標的化するcrRNAを、好ましくは、任意の所望のプロトスペーサー配列と少なくとも部分的に相補的な配列になるように操作することによって、それにハイブリッド形成するように、簡単に操作し得る。好ましくは、crRNA配列の一部と、対応するプロトスペーサー配列との間の相補性は、適切なアラインメントアルゴリズムを用いて最適にせ整列された場合、少なくとも70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は100%である。プロトスペーサー配列に相補的なcrRNA配列の部分の長さは、少なくとも約5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、75ヌクレオチド、又はそれ以上であってもよい。好ましくは、プロトスペーサー配列に相補的なcrRNAの部分は、長さが15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、又は25ヌクレオチドであり、好ましくは20又は21ヌクレオチドであり、好ましくは20ヌクレオチドである。crRNA及びtracrRNAとして適切な分子又は配列は、当該技術分野で良く知られている。(例えば、国際公開第2013142578号パンフレット;及びJinek et al.,Science(2012)337,816-821を参照されたい)。好ましくは、crRNAとtracrRNAは連結されて単一のガイド(sg)RNAを形成する。crRNAとtracrRNAは、当該技術分野で知られている任意の従来法を使用して、好ましくは共有結合で結合できる。crRNAとtracrRNAの共有結合については、例えば、参照により本明細書に援用される、Jinek et al.(上記);及び国際公開第13/176772号パンフレットに記載されている。crRNAとtracrRNAは、例えば、リンカーヌクレオチドを使用して共有結合するか、又はcrRNAの3’末端とtracrRNAの5’末端の直接共有結合を介して共有結合し得る。
【0030】
「CRISPRヌクレアーゼ複合体」又は「gRNA-CAS複合体」は、本明細書では、ガイドRNAと複合体化又はハイブリッド形成するCASタンパク質(CRISPRヌクレアーゼとも称される)として理解されるものとし、ここでガイドRNAは、crRNA及び/又はtracrRNA、又はsgRNAであってもよい。
【0031】
「CRISPRニッカーゼ」は、ヌクレアーゼドメインの1つが変異して機能しなくなった(すなわち、ヌクレアーゼ活性が欠如している)CRISPRヌクレアーゼの変異型である。一例は、D10A又はH840A変異のどちらかを有するSpCas9の変異型である。
【0032】
「デッドCRISPRヌクレアーゼ」はCRISPRヌクレアーゼの変異型であり、ヌクレアーゼドメインのいずれもが切断活性を示さないような改変を含んでいる。一例は、D10AとH840Aの双方の変異を有するSpCas9変異型である。本発明の文脈でタンパク質又は核酸と組み合わせて使用される「内因性」という用語は、前記タンパク質又は核酸が植物内に含有されること、すなわちその自然環境内に存在することを意味する。多くの場合、内因性遺伝子は、植物内に通常の遺伝的文脈で存在する。
【0033】
本明細書では「ヌクレアーゼ」又は「ヌクレアーゼ要素」としても示される「エンドヌクレアーゼ」は、核酸鎖内のリン酸ジエステル結合を加水分解する酵素である。本明細書において、ヌクレアーゼ又はエンドヌクレアーゼは、二重鎖の双方の鎖を好ましくは同時に加水分解して、DNAに二本鎖切断を導入できるタンパク質として理解される。
【0034】
本明細書において「ニッカーゼ」はタンパク質として理解され、任意選択的に1つの不活性ドメインと1つの活性ドメインとを有するエンドヌクレアーゼであり、二重鎖DNAの1つの鎖のみを加水分解して、切断するのではなく「ニックの入った」DNA分子を生成する。
【0035】
「例示的」という用語は、「例、事例、又は説明として役立つ」ことを意味し、本明細書に開示される他の構成を排除するものと解釈されるべきではない。
【0036】
「遺伝子の発現」とは、適切な制御領域、特にプロモーターに機能的に連結されたDNA領域が、生物学的に活性なRNA、例えば、生物学的に活性なタンパク質又はペプチドに、又は例えば、制御非コードRNAに翻訳可能なRNAに転写されるプロセスを指す。
【0037】
「遺伝子」という用語は、細胞内でRNA分子(例えば、mRNA)に転写され、適切な制御領域(例えば、プロモーター)に機能的に連結された領域(転写領域)を含む核酸断片を意味する。遺伝子は通常、プロモーター、5’リーダー配列、コード領域、及びポリアデニル化部位を含む3’非翻訳配列(3’末端)などの、作動可能に連結されたいくつかの断片を含む。
【0038】
本明細書では、「ガイド要素」又は「ガイド」は、ヌクレアーゼ要素を(二本鎖)核酸分子内の特定の配列に誘導する要素として理解される。ガイド要素は、好ましくはゲノム内の核酸分子内の特定の配列を認識して部位特異的ヌクレアーゼを標的化するためのガイド配列を含む。ガイド要素は、好ましくは(i)ヌクレアーゼ(要素)とハイブリッド形成又は複合体化して部位特異的ヌクレアーゼを形成できる、オリゴヌクレオチド、好ましくはRNA及び/又はDNAオリゴヌクレオチド;及び(ii)部位特異的ヌクレアーゼの一部であるポリペプチド、タンパク質、又はタンパク質ドメインの少なくとも1つである。ポリペプチド、タンパク質、又はタンパク質ドメインは、ヌクレアーゼ(要素)と共有結合、融合、又は複合体化して、部位特異的ヌクレアーゼを形成してもよい。
【0039】
「ガイドRNA」又は「gRNA」は、本明細書では、gRNA-CAS複合体を、好ましくは核酸分子内の目的配列の近傍、その配列上、又はその配列内にあるプロトスペーサー配列に標的化するためのガイド配列を含むRNA分子である、ガイド要素として理解され、sgRNA、又はcrRNAとtracrRNAとの組み合わせ(例えば、Cas9の場合)、又はcrRNAのみ(例えば、Cpf1の場合)であってもよい。任意選択的に、同じ実験で、例えば、2つ以上の異なる目的配列、又は同じ目的配列を対象として、2種類以上のガイドRNAが使用されてもよい。
【0040】
「ガイド配列」は、本明細書では、RNA又はDNA分子内の特定部位を認識し、結合し、及び/又はハイブリッド形成するガイド要素の一部として理解される。ガイド配列は、部位特異的エンドヌクレアーゼがgRNA-CAS複合体などのRNA又はDNA誘導エンドヌクレアーゼである場合は、ヌクレオチド配列であってもよく、部位特異的エンドヌクレアーゼがTALEN、ZFN、又はメガヌクレアーゼなどのタンパク質誘導エンドヌクレアーゼである場合は、アミノ酸配列であってもよい。gRNA-CAS複合体の文脈では、「ガイド配列」は、本明細書では、gRNA-CAS複合体を二重鎖DNA内の特定の部位に標的化するために必要なsgRNA又はcrRNAの部分としてさらに理解される。
【0041】
「植物」とは、植物全体、又は植物から得られる組織又は器官(例えば、花粉、種子、配偶子、根、葉、花、花芽、葯、果実など)などの植物の部分、並びにこれらのいずれかの派生物、及び自家受粉又は交配によってこのような植物から得られる子孫を指す。非限定的例は、大麦、キャッサバ、綿、落花生又はピーナッツ、トウモロコシ、キビ、油ヤシの実、ジャガイモ、豆類、ナタネ又はキャノーラ、米、ライ麦、ソルガム、大豆、サトウキビ、甜菜、ヒマワリ、小麦、オクラ、ネギ類、セロリ、アスパラガス、ワックスヒョウタン、ビーツ、野菜用アブラナ科植物をはじめとするアブラナ科植物、ピーマン、唐辛子、エンダイブ、チコリー、スイカをはじめとするメロン、キュウリ、ガーキン、ズッキーニ、カボチャ、チョウセンアザミ、ニンジン、ルッコラ、茴香、レタス、ヒョウタン、トカドヘチマ、ヘチマ、ゴーヤ、パースニップ、パセリ、インゲンマメ、ホオズキ、トマティロ、ラディッシュ、ナス、トマト台木をはじめとするトマト、ペピーノ、ホウレンソウ、ヘビウリ、ノヂシャ、ひよこ豆をはじめとするエンドウ豆、大豆、ソラマメ、甘味種トウモロコシ、麻、ホップ、液果類、タンポポ、及び観賞植物である。
【0042】
「タンパク質」又は「ポリペプチド」という用語は同義的に使用され、特定の作用機序、サイズ、三次元構造、又は起源に関係なく、アミノ酸の鎖からなる分子を指す。したがって、タンパク質の「断片」又は「部分」は、依然として「タンパク質」と称されてもよい。「単離されたタンパク質」は、例えば、試験管内又は組換え細菌又は植物宿主細胞内など、もはや自然環境内に存在しないタンパク質を指すために使用される。
【0043】
「配列同一性」、「相同性」などの用語は、本明細書で同義的に使用される。本明細書において、配列同一性とは、配列を比較することによって判定される、2つ以上のアミノ酸(ポリペプチド又はタンパク質)配列又は2つ以上のヌクレオチド(ポリヌクレオチド)配列間の関係として定義される。当該技術分野において、「同一性」とは、場合によっては、このような配列の文字列間の一致によって判定される、アミノ酸配列又は核酸配列間の配列関連性の程度も意味する。2つのアミノ酸配列間の「類似性」は、1つのポリペプチドのアミノ酸配列とその保存されたアミノ酸置換体とを第2のポリペプチドの配列と比較することによって判定される。「同一性」及び「類似性」は、既知の方法で容易に計算され得る。配列の全長にわたって、配列同一性/類似性の百分率が判定され得る。本明細書の用法では、「配列同一性」とは、2つの最適に整列されたポリヌクレオチド又はペプチド配列が、ヌクレオチド又はアミノ酸などの構成要素のアラインメントウィンドウ全体にわたって不変である程度を指す。試験配列と参照配列との整列されたセグメントの「同一性率」は、2つの整列された配列によって共有される同一構成要素の数を、参照配列セグメント(すなわち、参照配列全体又は参照配列のより小さな定義された部分)の構成要素の総数で除したものである。「同一性百分率」は、同一性率に100を掛けたものである。「配列同一性」及び「配列類似性」は、2つの配列の長さに応じて、大域アラインメントアルゴリズム又は局所アラインメントアルゴリズムを使用して、2つのペプチド配列又は2つのヌクレオチド配列を整列させることによって判定され得る。同様の長さの配列は、好ましくは全長にわたって配列を最適に整列させる大域アラインメントアルゴリズム(例えば、Needleman Wunsch)を使用し整列される一方、大幅に異なる長さの配列は、好ましくは局所アラインメントアルゴリズム(例えば、Smith Waterman)を使用して整列される。次に配列は、(例えば、デフォルトパラメータを使用してGAP又はBESTFITプログラムによって最適に整列された場合)(本明細書で定義される)少なくとも特定の最小百分率の配列同一性を共有する場合、「実質的に同一」又は「本質的に類似」と称されてもよい。配列同一性百分率は、好ましくは、配列解析ソフトウェアパッケージ(商標)の「BESTFIT」又は「GAP」プログラム(バージョン10;Genetics Computer Group,Inc.,Madison,Wis.)を使用して判定される。GAPは、NeedlemanとWunschの大域アラインメントアルゴリズム、(Needleman and Wunsch,Journal of Molecular Biology 48:443-453,1970) を使用して、2つの配列をそれらの全長(完全長)にわたって整列させ、一致数を最大化してギャップの数を最小化する。2つの配列の長さが類似している場合、配列の同一性を判断するには、大域アラインメントが好適に使用される。一般に、ギャップ形成ペナルティ=50(ヌクレオチド)/8(タンパク質)、ギャップ伸張ペナルティ=3(ヌクレオチド)/2(タンパク質)のGAPデフォルトパラメータが使用される。ヌクレオチドの場合、デフォルトの重み行列はnwsgapdnaであり、タンパク質の場合、デフォルトの重み行列はBlosum62である(Henikoff&Henikoff,1992,PNAS 89,915-919)。配列アラインメント及び配列同一性百分率のスコアは、Accelrys Inc.,9685 Scranton Road,San Diego,CA 92121-3752 USAから入手可能なGCG Wisconsin Packageバージョン10.3などのコンピュータプログラムを使用して、又はEmbossWINバージョン2.10.0のプログラム「needle」(大域Needleman Wunschアルゴリズムを使用する)若しくは「water」(局所Smith Watermanアルゴリズムを使用する)などのオープンソースソフトウェアを使用して、上記のGAPと同じパラメータを使用するか、又はデフォルト設定(「needle」と「water」の双方、及びタンパク質とDNAアラインメントの双方において、デフォルトのギャップ開始ペナルティは10.0で、デフォルトのギャップ伸長ペナルティは0.5であり;デフォルトの重み行列は、タンパク質の場合はBlossum62、DNAの場合はDNAFullである)。ギャップ伸長ペナルティは0.5であり;デフォルトの重み行列は、タンパク質の場合はBlossum62、DNAの場合はDNAFullである)を使用して、判定されてもよい。「BESTFIT」は、SmithとWatermanの局所相同性アルゴリズムを使用して、2つの配列間の類似性の最も高いセグメントの最適なアラインメントを実行し、ギャップを挿入して一致数を最大化する(Smith and Waterman,Advances in Applied Mathematics,2:482-489,1981,Smith et al.,Nucleic Acids Research 11:2205-2220,1983)。配列の全体の長さが大幅に異なる場合は、Smith Watermanアルゴリズムなどを使用するような局所アラインメントが好ましい。配列同一性を判定するための有用な方法もまた、Guide to Huge Computers,Martin J.Bishop,ed.,Academic Press,San Diego,1994;及びCarillo,H.,and Lipton,D.,Applied Math(1988)48:1073に開示されている。配列同一性を決定するための好ましいコンピュータプログラムとしては、National Center Biotechnology Information(NCBI)at the National Library of Medicine,National Institute of Health,Bethesda,Md.20894から公的に利用可能なBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)プログラムが挙げられ;BLAST Manual,Altschul et al.,NCBI,NLM,NIH;Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403-410(1990)を参照されたい;BLASTプログラムのバージョン2.0以降では、アラインメントにギャップ(欠失及び挿入)を導入できるようになり;ペプチド配列の場合、BLASTXを使用して配列同一性が判定され得て;ポリヌクレオチド配列の場合、BLASTNを使用して配列同一性が判定され得る。代案としては、FASTA、BLASTなどのアルゴリズムを使用して、公開データベースを検索することで、類似性又は同一性の百分率が判定されてもよい。したがって、本発明の核酸及びタンパク質配列をさらに「クエリー配列」として使用して、公開データベースに対して検索を実行し、例えば、他のファミリーメンバー又は関連配列が同定され得る。このような検索は、Altschul,et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-10のBLASTn及びBLASTxプログラム(バージョン2.0)を使用して実行され得る。BLASTヌクレオチド検索は、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12で実行して、本発明の核酸分子に相同なヌクレオチド配列が取得され得る。BLASTタンパク質検索をBLASTxプログラム、スコア=50、ワード長=3で実行し、本発明のタンパク質分子に相同なアミノ酸配列が取得され得る。比較目的でギャップアラインメントを取得するために、Altschul et al.,(1997)Nucleic Acids Res.25(17):3389-3402に記載されるようにGapped BLASTが利用され得る。BLAST及びGapped BLASTプログラムを使用する場合、それぞれのプログラムのデフォルトパラメータ(例えば、BLASTx及びBLASTn)が使用され得る。国立生物工学情報センターのホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照されたい。
【0044】
「3’非翻訳配列」又は「3’UTR」(しばしば3’非翻訳領域、又は3’末端とも称される)は、転写終結部位と、(全ての真核生物のmRNAではないが、ほとんどのmRNAにおいて)ポリアデニル化シグナル(例えば、AAUAAA又はその変異型など)とを含む、遺伝子のコード配列の下流にある核酸配列を指す。転写終了後、mRNA転写物は、ポリアデニル化シグナルの下流で切断され、mRNAを細胞質(翻訳が行われる場所)に輸送するのに関与する、ポリ(A)テールが付加されてもよい。
【0045】
本明細書の用法では、「核酸」又は「ポリヌクレオチド」は、好ましくはシトシン、チミン及びウラシル、並びにアデニン及びグアニンである、ピリミジン及びプリン塩基の任意のポリマー又はオリゴマーをそれぞれ含み得る(その全体があらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、Albert L.Lehninger,Principles of Biochemistry,at 793-800(Worth Pub.1982)を参照されたい)。本発明は、任意のデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド又は核酸構成要素、及びこれらの塩基のメチル化、ヒドロキシメチル化又はグリコシル化形態などの任意の化学的変異型などを想定している。ポリマー又はオリゴマーは、組成が不均一又は均一(homogenous)であってもよく、天然に存在する供給源から単離されてもよく、又は人工的又は合成的に生成されてもよい。さらに、核酸は、DNA(任意選択的にcDNA)若しくはRNA、又はそれらの混合物であり、ホモ二本鎖、ヘテロ二本鎖、及びハイブリッド状態をはじめとする、一本鎖又は二本鎖の形態で恒久的に又は一時的に存在してもよい。「単離された核酸」は、例えば、試験管内又は組換え細菌又は植物細胞内など、もはやその自然環境内に存在しない核酸を指すために使用される。
【0046】
「核酸コンストラクト」、「核酸ベクター」、「ベクター」、及び「発現コンストラクト」という用語は、本明細書で同義的に使用され、組換えDNA技術の使用から得られる人工の核酸分子として定義される。したがって、「核酸コンストラクト」及び「核酸ベクター」という用語は、天然に存在する核酸分子は含まないが、核酸コンストラクトは天然に存在する核酸分子(の一部)を含んでもよい。ベクター骨格は、例えば、バイナリベクター又はスーパーバイナリベクター(例えば、米国特許第5,591,616号明細書、米国特許出願公開第2002138879号明細書、及び国際公開第95/06722号パンフレットを参照されたい)、当該技術分野で知られており、本明細書の他の箇所に記載されているような、キメラ遺伝子が組み込まれた共組み込みベクター又はT-DNAベクターであってもよく、又は適切な転写制御配列が既に存在する場合、所望の核酸配列(例えば、コード配列、アンチセンス配列又は逆方向反復配列)のみが、転写制御配列の下流に組み込まれる。ベクターは、選択可能マーカー、多重クローニング部位などのさらなる遺伝要素を含み、分子クローニングにおけるそれらの使用を容易にし得る。
【0047】
「作動可能に連結された」という用語は、機能的関係にあるポリヌクレオチド要素の連結を指す。核酸は、別の核酸配列と機能的関係に配置されている場合に、「作動可能に連結され」ている。例えば、プロモーター、もっと厳密に言えば転写制御配列は、コード配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に作動可能に連結される。作動可能に連結されたとは、連結されているDNA配列が連続していることを意味してもよい。
【0048】
「植物細胞」としては、単独の、又は組織、器官、生物内のいずれかの、プロトプラスト、配偶子、懸濁培養物、小胞子、花粉粒などが挙げられる。植物細胞は、例えば、カルス、分裂組織、植物器官、又は外植片などの多細胞構造の一部であり得る。
【0049】
「植物ホルモン」、「植物成長ホルモン」、「植物成長調整剤」又は「植物ホルモン」は、植物細胞と組織の成長及び/又は発生に影響を与える化学物質である。植物成長調整剤は、オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸(ABA)、及びエチレンの5つのグループの化学物質を含む。5つの主要グループに加えて、ブラシノステロイド及びとポリアミンの2つの他の化学物質クラスも植物成長調整剤と見なされることが多い。
【0050】
「プロモーター」とは、1つ又は複数の核酸の転写を制御する機能を果たす核酸断片を指す。プロモーター断片は、好ましくは、遺伝子の転写開始部位の転写方向に対して上流(5’)に位置し、DNA依存性RNAポリメラーゼの結合部位、転写開始部位の存在によって、構造的に同定され、転写因子結合部位、抑制因子及び活性化タンパク質結合部位、及びプロモーターからの転写量を直接又は間接的に制御するように作用することが当業者に知られているその他のヌクレオチド配列をはじめとするが、これらに限定されるものではない、任意のその他のDNA配列をさらに含み得る。「構成的プロモーター」とは、ほとんどの生理学的条件及び発生的条件下において、ほとんどの組織で活性型のプロモーターである。「誘導性プロモーター」とは、生理学的に(例えば、特定の化合物の外部適用によって)又は発生的に制御されるプロモーターである。「組織特異的プロモーター」は、特定タイプの組織又は細胞でのみ活性型となる。任意選択的に、「プロモーター」という用語はまた、5’UTR領域(5’非翻訳領域)を含んでもよい(例えば、プロモーターは、転写領域の翻訳開始コドンの上流の1つ又は複数の部分を含んでもよいが、これはこの領域が転写及び/又は翻訳を制御において役割を有してもよいためである)。
【0051】
「プロトスペーサー配列」は、ガイド要素内、好ましくはガイドRNA内、より具体的にはcrRNA内、又はsgRNAの場合はガイドRNAのcrRNA部分内のガイド配列として認識されるか、又はガイド配列とハイブリッド形成し得る配列であり、標的核酸断片内、標的核酸断片上、又は標的核酸断片の近傍に位置する。
【0052】
本明細書において、「再生」という用語は、単一の植物細胞、カルス、外植片、組織、又は器官からの、新規組織及び/又は新規器官の形成として定義される。再生は、単一の植物細胞からの、又は例えば、カルス、外植片、組織、又は器官からの新規植物の形成を含んでもよい。再生プロセスは、親組織から直接発生し得て、又はカルスの形成などを通じて間接的に起こり得る。再生経路は、体細胞胚形成又は器官形成であり得る。体細胞胚形成は、本明細書において、植物全体を再生させるために成長させ得る体細胞胚の形成として理解される。本明細書において、器官形成は、(未分化の)細胞からの新規器官の形成として理解される。器官形成は、分裂組織形成、偶発性苗条形成、花序形成、根形成、偶発性苗条の伸長、及び(その後の)植物全体の形成の少なくとも1つであってもよい。好ましくは、再生は、苗条再生及び(異所性)頂端分裂組織形成の少なくとも1つである。本明細書で定義される苗条再生は、新規苗条形成である。例えば、再生は、(伸長した)胚軸(外植片)からの、(花序)苗条の再生であり得る。
【0053】
「目的配列」という用語には、例えば、遺伝子、遺伝子の一部、又は遺伝子内若しくは遺伝子に隣接する非コード配列など、好ましくは細胞内に存在する任意の遺伝子配列が含まれるが、これらに限定されるものではない。目的配列は、染色体、エピソーム、ミトコンドリア又は葉緑体ゲノムなどの細胞小器官ゲノム、又は例えば、感染ウイルスゲノム、プラスミド、エピソーム、トランスポゾンなど、遺伝物質本体とは独立して存在し得る遺伝物質中に存在してもよい。目的配列は、遺伝子のコード配列内に、例えば、リーダー配列、トレーラー配列、又はイントロンなどの転写された非コード配列内に存在してもよい。前記目的配列は、二本鎖又は一本鎖の核酸分子中に存在してもよい。核酸配列は、好ましくは二本鎖核酸分子中に存在する。目的配列は、例えば、遺伝子、遺伝子複合体、遺伝子座、疑似遺伝子、制御節領域、高度反復領域、多型領域、又はそれらの一部など、核酸内の任意の配列であってもよい。目的配列は、表現型又は疾患を示唆する、遺伝的又はエピジェネティック的多様性を含む領域であってもよい。好ましくは、目的配列は、二重鎖DNAのヌクレオチドの短い又はより長い連続した一続き(すなわち、ポリヌクレオチド)であり、ここで前記二重鎖DNAは、前記二重鎖DNAの相補鎖内の標的配列に相補的な配列をさらに含む。
【0054】
「苗条器官形成」とは、それによって細胞が新規苗条頂端分裂組織を形成し、それが葉原基と葉を有する苗条に成長する再生経路である。頂端分裂組織は1つしかないので単極性構造であり、この段階では根は形成されない。苗条の維管束系は、しばしば親組織に接続されている。苗条が完全に形成し、伸長し、切り取られて初めて、好ましくは異なる培養培地上での別個の根誘導ステップで、根の形成が誘導され得る(Thorpe,TA(1993)In vitro Organogenesis and Somatic Embryogenesis:Physiological and Biochemical Aspects.In:Roubelakis-Angelakis K.A.,Van Thanh K.T.(eds)Morphogenesis in Plants.NATO ASI Series(Series A:Life Sciences),Vol.253.Springer,Boston,MA)。苗条器官形成は、自然発生的に、すなわち植物成長調整剤(PGR)の外的添加なしに起こってもよい。苗条器官形成は、通常は異なる濃度のサイトカイニン単独、又はオーキシンとの組み合わせである、植物成長調整剤によって誘導されてもよく、ここで好ましくはサイトカイニンは、新規苗条頂端分裂組織及び苗条が形成され、例えば、それらが除去できるほど十分に伸長するまで、培養培地の成分として残留する。好ましくは、苗条形成の誘導のためには、サイトカイニンの濃度がオーキシンの濃度を超える。
【0055】
植物/植物細胞を培養するための「同様の条件」とは、とりわけ、同様の温度、湿度、栄養、光の条件、同様の灌漑、及び昼夜のリズムの使用を意味する。
【0056】
本明細書において「部位特異的ヌクレアーゼ」とも称される、「部位特異的(エンド)ヌクレアーゼ」は、本明細書では、本明細書で定義されるガイド要素と本明細書で定義されるヌクレアーゼ又はヌクレアーゼ要素との双方を含む、核酸タンパク質複合体又はタンパク質(二量体)として理解され、ここで前記ガイド要素は、好ましくはゲノム内に存在する標的配列、好ましくはプロトスペーサー配列に対して、ヌクレアーゼ要素を標的化する。好ましくは、部位特異的ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エンドヌクレアーゼ(TALEN)、メガヌクレアーゼ、規則的な間隔をもってクラスター化された短鎖反復回文配列(CRISPR)ヌクレアーゼ複合体、及びアルゴノートなどのプログラム可能なヌクレアーゼであるが、これらに限定されるものではない。部位特異的ヌクレアーゼは、エンドヌクレアーゼ活性を有してもよく、好ましくは二重鎖DNAに二本鎖切断を導入できるか、又は、エンドヌクレアーゼ活性を低下させるように改変されていてもよく、例えば、ニッカーゼに改変されていてもよく、好ましくは二重鎖DNAに一本鎖切断を導入できるか、又は、ヌクレアーゼ活性を消失してデッドヌクレアーゼに改変されていてもよい。
【0057】
「標的変異誘発」とは、オリゴ指向性変異誘発、RNA誘導エンドヌクレアーゼ(例えば、CRISPR技術)、TALEN、又はジンクフィンガー技術などであるが、これらに限定されるものではない、特定のヌクレオチド又は核酸配列を変更するように設計し得る変異誘発である。
【0058】
本発明の文脈における用法では、タンパク質又は核酸と組み合わせて使用される「野生型」という用語は、前記タンパク質又は核酸が、それぞれアミノ酸又はヌクレオチド配列からなり、自然界に全体として存在し、自然界の生物から単離され得て、例えば、標的変異誘発又はランダム変異誘発などの改変技術の結果でないことを意味する。野生型タンパク質は、例えば、自然界で発生するような特定の環境条件下において、少なくとも特定の発達段階で発現される。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本発明者らは、植物体内で部位特異的ヌクレアーゼの少なくとも1つの要素をベクター媒介形質移入した後に、遺伝子改変植物の苗条の数を増加させる方法を発見した。これらの改変苗条は、好ましくは改変細胞を高い百分率合で含む。第1の態様では、方法は、植物の苗条を生産するための方法に関し、ここで苗条は、遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む。本発明の方法は、好ましくは
i)植物を提供するステップと;
ii)植物の細胞内に、部位特異的ヌクレアーゼのガイド要素及びヌクレアーゼ要素の少なくとも1つを発現するベクターを導入するステップと;
iii)植物の頂端分裂組織を除去するステップと;
iv)遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む苗条を植物の第2の位置で再生させるステップと
を含む。
【0060】
好ましくは、本発明の方法におけるステップの順序は、ステップi)、ii)、iii)、及びiv)である。代案としては、ステップの順序は、ステップi)、iii)、ii)、及びiv)であり得る。本明細書に詳述される本発明の方法はまた、例えば、
- 1つ又は複数の遺伝子改変細胞を有する植物を生産するための方法。
- 遺伝子導入植物を生産するための方法;及び
- 植物の苗条を遺伝子改変するための方法
の少なくとも1つと見なされてもよい。
【0061】
好ましくは、本発明の方法は、
i)部位特異的ヌクレアーゼのヌクレアーゼ要素を発現する植物を提供するステップと;
ii)前記部位特異的ヌクレアーゼのガイド要素を発現するベクターを植物の細胞に導入するステップと;
iii)植物の頂端分裂組織を除去するステップと;
iv)遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む苗条を植物の第2の位置で再生させるステップと
を含む。
【0062】
代案としては、本発明の方法は、
i)植物を提供するステップと;
ii)植物の細胞に部位特異的ヌクレアーゼを発現するベクターを導入するステップと;
iii)植物の頂端分裂組織を除去するステップと;
iv)遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む苗条を植物の第2の位置で再生させるステップと
を含んでもよい。
【0063】
遺伝子改変(又は「遺伝的改変」)は、好ましくは、目的配列内に存在する。目的配列は、好ましくは、目的遺伝子の一部であるか、又は目的遺伝子に作動可能に連結されている。目的遺伝子とは、好ましくは、切断及び可能な変更の標的にすることが所望される、細胞内の任意のゲノム又はエピソームDNA配列を指す。本発明の方法の部位特異的ヌクレアーゼは、前記目的配列における遺伝子改変を誘導するために、前記目的配列又はその近傍の配列を標的化するように設計される。したがって、本発明の方法の遺伝子改変は、標的遺伝子改変である。いくつかの実施形態では、遺伝子はタンパク質をコード化し得る。いくつかの実施形態では、遺伝子は非コードRNAをコード化する。いくつかの実施形態では、標的となる遺伝子の部分は、プロモーター、エンハンサー、又はコード配列若しくは非コード配列である。
【0064】
ステップi)-植物を提供する
好ましくは、本発明の方法の第1のステップは、植物の提供である。提供される植物は、好ましくは再生可能であり、好ましくは1つ以上の苗条を再生可能である。好ましくは、植物はレカルシトラント植物ではない。好ましくは、ステップi)の植物は、再生植物である。好ましくは、再生植物は、多細胞組織上に新規苗条を形成できる。ステップi)で提供される再生植物は、好ましくは、通常の成長条件下で、任意選択的に、オーキシン及び/又はサイトカインなどの外的に供給される成長調整剤の存在下で、再生可能である。このような通常の成長及び/又は最適な条件は、少なくとも適切な栄養供給を含み、任意選択的に植物ホルモンが補充される。このような条件は、適切な温度及び/又は最適な温度及び/又は明/暗周期をさらに包含してもよい。
【0065】
好ましくは、ステップi)で提供される植物は、生体内での創傷後に苗条を再生できる。好ましくは、ステップi)で提供される植物は、生体内での摘心後に苗条を再生できる。摘心とは、本明細書において、既に形成された分裂組織、頂端又は腋生を除去することと理解される。レカルシトラントと再生可能の双方の栽培品種、変種、及び/又は系統種が種内に存在してもよいが、一般的に、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、トマト(Solanum lycopersicum)、及びタバコ(Nicotiana tabacum)などであるがこれらに限定されるものではない、ナス科(Solanaceae)(Solonaceae)の種は、再生可能種であると長い間報告されてきた(Roest and Gilissen,Acta Bot.Neerl.1998;38(1):p1-23)。現時点では、苗条再生の機構の理解により、より多くのレカルシトラント種をはじめとする、多くの異なる種の苗条再生のための効果的なプロトコルがもたらされている(総説については、例えば、Shin et al.Journal of Experimental Botany,2020;71(1):63-72を参照されたい)。
【0066】
好ましくは、提供される植物は、苗木、栄養植物、出芽植物、開花植物、又は成熟植物である。好ましくは、提供される植物は苗木である。
【0067】
提供される植物は、双子葉(dicotylenous)植物であり得る。提供される植物は、天然に存在する再生植物、すなわち、再生する自然な能力を有する植物であってもよい。代案としては、提供される植物は、遺伝子改変されて再生能力が誘導されているか又は高められていてもよい。このような植物の例としては、参照により本明細書に援用される国際公開第2019/211296号パンフレット及び国際公開第2019/193143号パンフレットに開示されている植物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。非限定的例として、提供される再生植物は、CHK4、CHK2、及びCHK3からなる群から選択される、ヒスチジンキナーゼを発現するように改変された植物であり得る。それに加えて、又は代替的に、提供される再生植物は、好ましくは、一過性に、WOX5及びPLTタンパク質の少なくとも1つ、好ましくはWOX5及びPLT1の少なくとも1つを発現するように改変された植物である。
【0068】
ステップi)で提供される植物は、栽培品種又は野生型植物であってもよい。任意選択的に、植物は遺伝子改変植物である。本発明の方法は、非共有結合的に組み立てられた複合体として機能する、部位特異的(プログラム可能な)ヌクレアーゼの使用を含んでもよく、例えば、部位特異的ヌクレアーゼは、ガイドRNAなどのガイド要素と複合体化した、CASタンパク質などのヌクレアーゼ要素からなってもよい。この場合、提供される植物は遺伝子改変されて、ガイド要素及びヌクレアーゼ要素の少なくとも1つを(安定的に)発現してもよい。任意選択的に、提供される植物は、植物の少なくとも一部において前記ヌクレアーゼ要素を発現するように改変されている。任意選択的に、提供される植物は、部位特異的ヌクレアーゼのガイド要素又はヌクレアーゼ要素を安定的に発現するように改変されている。任意選択的に、植物は、誘導性プロモーターの活性化後に前記ヌクレアーゼ要素又はガイド要素を発現するように改変されている。前記ヌクレアーゼ要素は、好ましくはCRISPRヌクレアーゼ又はアルゴノートであり、前記ガイド要素は、好ましくはガイドRNAである。提供される植物は、全ての細胞、又は実質的に全ての細胞において、前記ガイド要素又はヌクレアーゼ要素を発現してもよい。任意選択的に、提供される植物は、CRISPRヌクレアーゼ及びガイドRNAの少なくとも1つを発現するように改変されている。任意選択的に、植物はCRISPRヌクレアーゼを発現するように改変され、ここでCRISPRヌクレアーゼは、本明細書で以下に定義されるCRISPRヌクレアーゼである。好ましくは、CRISPRヌクレアーゼは、Cas9、Cpf1、及びMad7の少なくとも1つである。任意選択的に、提供される植物は、アルゴノートを発現するように改変されている。
【0069】
ステップi)では、2つ以上の植物が提供されてもよい。任意選択的に、ステップi)では、少なくとも2、5、10、15、20、50、100、200、500、1000、5000又はそれ以上の植物が提供される。これらの植物は、本明細書に明記されているように、同時に、又は本質的に同時に本発明の方法に供されてもよい。
【0070】
ステップii)-ベクターを導入する
本発明の方法のステップii)では、提供された植物の植物細胞がベクターに曝露され、提供された植物の細胞内へのベクター導入がもたらされる。ベクターは、部位特異的ヌクレアーゼの少なくとも1つの要素をコード化する。
【0071】
本発明の方法が、ガイド要素に共有結合したヌクレアーゼ要素を含む、例えば、メガヌクレアーゼ、ZFN、又はTALENなど、部位特異的(プログラム可能な)ヌクレアーゼを使用する場合、ベクターは、好ましくはヌクレアーゼ要素とガイド要素の双方をコード化する。本発明の方法が、ガイドRNAと複合体化したCASタンパク質などの、非共有結合的に組み立てられた複合体として機能する部位特異的(プログラム可能な)ヌクレアーゼを利用する場合、植物は、複合体の要素の少なくとも1つを(安定的に)発現するように遺伝子改変されてもよく、ベクターは、複合体の他の要素を含んでもよい。例えば、植物は、CASタンパク質などのヌクレアーゼ要素を発現するように遺伝子改変されてもよく、ベクターは、ヌクレアーゼ要素を1つ又は複数の標的配列に標的化するためのガイドRNAなどの1つ又は複数ガイド要素をコード化してもよい。代案としては、ベクターは、CASタンパク質などのヌクレアーゼ要素と、1つ又は複数のガイドRNAなどの1つ又は複数のガイド要素の双方をコード化してもよい。任意選択的に、ステップii)では、植物が複数のベクターに曝露されてもよく、ここでこれらのベクターの少なくとも1つはCASタンパク質などのヌクレアーゼ要素をコード化し、別のベクターはヌクレアーゼ要素を標的配列に標的化するためのガイドRNAなどのガイド要素をコード化する。
【0072】
ベクター、好ましくはウイルスベクターは、ウイルス粒子又はアグロバクテリウム属(Agrobacterium)に含まれて、最初に植物の細胞にベクターが導入されてもよい。本発明の方法で使用されるウイルス粒子は、例えば、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)中で生成されてもよい。
【0073】
本発明の方法のステップii)での感染後、ベクターは植物細胞内のウイルス又はアグロバクテリウム属(Agrobacterium)から発現される。ウイルスベクターは引き続いて複製され、周囲の植物細胞に感染してもよい。ベクターを導入するための好ましいアグロバクテリウム属(Agrobacterium)は、アグロバクテリウム・ツメフアシェンス(Agrobacterium tumefaciens)である。
【0074】
ベクターは、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)又はウイルス粒子の浸潤、塗布、擦り付け、ブラッシング、スプレー、液浸によって導入されてもよい。任意選択的に、遺伝子銃アプローチが使用され、すなわち、ベクターはアグロバクテリウム属(Agrobacterium)又はウイルス粒子の衝撃によって導入されてもよい。好ましくは、ベクターは、綿棒を使用して葉材料にアグロバクテリウムをアグロバクテリウム属(Agrobacterium)塗布することによって導入される。
【0075】
ベクターは、提供された植物の任意の部分の細胞に導入されてもよい。ベクターは、苗条系の細胞及び/又は根系の細胞に導入され得る。ベクターは、根、茎、果実、葉、節間、及び/又は花の細胞に導入され得る。好ましくは、ベクターは苗木の細胞に導入される。非限定的例として、ベクターは、本葉、上胚軸、子葉、胚軸の細胞、及び/又は幼根の細胞に導入され得る。好ましくは、ベクターは子葉の細胞に導入される。好ましくは、ベクターは、提供された植物の細胞、好ましくは前記植物の子葉の細胞に導入され、ここで植物は、幼根(胚の根)、胚軸(胚の苗条)、及び子葉からなる若い苗木である。好ましくは、ベクターは、播種後約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14日、好ましくは約7~10日後に、提供された植物の細胞、好ましくは前記植物の子葉の細胞に導入される。
【0076】
ベクターは、好ましくは、CRISPRヌクレアーゼ複合体又はその要素、アルゴノート複合体又はその要素、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、及びメガヌクレアーゼからなる群から選択される、部位特異的ヌクレアーゼを発現する。好ましくは、ベクターは、CRISPRヌクレアーゼ複合体又はその要素を発現し、ここで好ましくは、要素は、CRISPRヌクレアーゼ及びgRNAの少なくとも1つである。好ましくは、ベクターはCRISPRヌクレアーゼとgRNAの双方を発現する。
【0077】
提供された植物は、単一のベクターに曝露されてもよい。任意選択的に、前記単一ベクターは、PVX又はジェミニウイルスである。任意選択的に、前記単一ベクターは、CRISPRヌクレアーゼとガイドRNAの双方を発現し、任意選択的に、CISPRヌクレアーゼと複数のガイドRNAとを発現する。任意選択的に、提供された植物は、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上の異なるベクターに曝露される。好ましくは、植物は少なくとも2つのベクターに曝露され、ここで1つのベクターはCRISPRヌクレアーゼを発現し、別のベクターはガイドRNAを発現し、任意選択的に複数のガイドRNAを発現する。
【0078】
本発明の方法で使用されるベクターは、好ましくは、コード化された部位特異的ヌクレアーゼの発現のための1つ又は複数の要素に加えて、本明細書で定義される部位特異的ヌクレアーゼをコード化する配列を含む。本発明の方法で使用されるベクターは、好ましくは、CRISPRヌクレアーゼ及びガイドRNA(gRNA)の少なくとも1つを発現する。本発明のベクターは、好ましくは、CRISPRヌクレアーゼを発現し、ここで前記ヌクレアーゼは、エンドヌクレアーゼ又はニッカーゼ活性(CRISPRニッカーゼ)を有してもよく、又はデッドCRISPRヌクレアーゼであってもよい。オプションとして任意選択的に、CRISRP-ヌクレアーゼは1つ又は複数のデアミナーゼドメインと融合している。
【0079】
好ましくはヌクレアーゼ要素がCRISPRヌクレアーゼである、部位特異的ヌクレアーゼ(のヌクレアーゼ要素)は、発現されたヌクレアーゼ要素を植物細胞の核に誘導するための核局在シグナル(NLS)を含んでもよい。NLSは、部位特異的ヌクレアーゼ(のヌクレアーゼ要素)のC末端及び/又はN末端に位置してもよい。既知の核局在化シグナルはいずれも、本発明で使用するのに適する。好ましい核局在性シグナルとしては、SV40ラージT抗原のNLSであるMEDPTMAPKKKRKV(配列番号1)、単節型NLSであるPKKKRKV(配列番号2)、及びヌクレオプラスミンのNLSであるKRPAATKKAGQAKKKK(配列番号3)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。部位特異的ヌクレアーゼ(のヌクレアーゼ要素)は、例えば、N末端に1つ又は複数、及びC末端に1つ又は複数の2つ以上の核局在化シグナルを含んでもよい。部位特異的ヌクレアーゼの(ヌクレアーゼ要素)は、2つ以上の異なる核局在化シグナルを含んでもよく、例えば、C末端のNLSとN末端のNLSは異なっていてもよい。
【0080】
本発明で使用されるヌクレアーゼ要素は、本明細書で定義される任意のCRISPRヌクレアーゼであってもよい。好ましくは、ヌクレアーゼ要素は、II型CRISPRヌクレアーゼ、好ましくは、例えば、Cas9(例えば、配列番号5によってコード化される配列番号4のタンパク質、又は配列番号6のタンパク質)などのII型CRISPRヌクレアーゼ;又はV型CRISPRヌクレアーゼ、好ましくは、例えば、Cpf1(例えば、配列番号8によってコード化される配列番号7のタンパク質)などのV型CRISPRヌクレアーゼ;又はMad7(例えば、配列番号9又は10のタンパク質);又は好ましくはその全長にわたって前記タンパク質と少なくとも約70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する、それから誘導されるタンパク質である。
【0081】
好ましくは、部位特異的ヌクレアーゼのヌクレアーゼ要素は、II型CRISPRヌクレアーゼ、好ましくはCas9ヌクレアーゼである。
【0082】
当業者は、CRISPRヌクレアーゼをコード化する配列などの、部位特異的ヌクレアーゼ(のヌクレアーゼ要素)をコード化する配列を含むベクターを見つけて調製する方法を知っている。先行技術では、その設計と使用に関する多数の報告が利用可能である。例えば、ガイドRNAの設計とCASタンパク質(元々はS.ピオゲネス(S.pyogenes)から得られた)との併用に関するHaeussler et al(J Genet Genomics.(2016)43(5):239-50.doi:10.1016/j.jgg.2016.04.008.);又はLee et al.(Plant Biotechnology Journal(2016)14(2)448-462)による総説を参照されたい。
【0083】
任意選択的に、部位特異的ヌクレアーゼのヌクレアーゼ要素は、ニッカーゼ又は(エンド)ヌクレアーゼのどちらかであるCRISPRヌクレアーゼである。
【0084】
ベクターによって発現されるヌクレアーゼ要素は、II型又はV型のCRISPRヌクレアーゼ全体、又はその変異型又は機能的断片を含むか、又はそれから構成されてもよい。任意選択的に、このような断片はガイドRNAに結合するが、例えば、ヌクレアーゼ活性に必要な1つ又は複数の残基が欠失していてもよい。
【0085】
好ましくは、部位特異的ヌクレアーゼのヌクレアーゼ要素はCas9タンパク質である。Cas9タンパク質は、細菌ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)(SpCas9;NCBI参照配列NC_017053.1;UniProtKB-Q99ZW2)、ゲオバチルス・サーモデニトリフィカンス(Geobacillus thermodenitrificans)(UniProtKB-A0A178TEJ9)、コリネバクテリウム・ウルセランス(Corynebacterium ulcerous)(NCBI Refs:NC_015683.1,NC_017317.1);コリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacterium diphtheria)(NCBI Refs:NC_016782.1,NC_016786.1);スピロプラズマ・シルフィディコラ(Spiroplasma syrphidicola)(NCBI Ref:NC_021284.1);プレボテーラ・インターメディア(Prevotella intermedia)(NCBI Ref:NC_017861.1);スピロプラズマ・タイワネンス(Spiroplasma taiwanense)(NCBI Ref:NC_021846.1);ストレプトコッカス・イニアエ(Streptococcus iniae)(NCBI Ref:NC_021314.1);ベルリエラ・バルチカ(Belliella baltica)(NCBI Ref:NC_018010.1);サイクロフレクサス・トルキス(Psychroflexus torquis)(torquisl)(NCBI Ref:NC_018721.1);ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)(NCBI Ref:YP_820832.1);リステリア・イノキュア(Listeria innocua)(NCBI Ref:NP_472073.1);カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)(NCBI Ref:YP_002344900.1);又は髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)(NCBI Ref:YP_002342100.1)に由来してもよい。これらには、SpCas9に対する不活性化されたHNH又はRuvCドメイン相同体を有してニッカーゼになるCas9変異型(例えば、SpCas9_D10A又はSpCas9_H840A)、又はSpCas9タンパク質のD10又はH840に対応する位置に同等の置換を有してニッカーゼになるCas9が包含される。
【0086】
部位特異的ヌクレアーゼのヌクレアーゼ要素は、Cpf1(例えば、アシダミノコッカス属(Acidaminococcus)種由来のCpf1;UniProtKB-U2UMQ6)であってもよく、又はCpf1に由来してもよい。変異型は、不活性化されたRuvCドメイン又はNUCドメインを有するCpf1ニッカーゼであってもよく、ここでRuvCドメイン又はNUCドメインは、もはやヌクレアーゼ活性を有さない。当業者は、部位特異的変異誘発、PCR媒介変異誘発、及び不活性化RuvC又はNUCドメインなどの不活性化ヌクレアーゼを可能にする全遺伝子合成など、当該技術分野で利用可能な技術を良く承知している。不活性NUCドメインを有するCpf1ニッカーゼの一例は、Cpf1 R1226Aである(Gao et al.Cell Research(2016)26:901-913;Yamano et al.Cell(2016)165(4):949-962を参照されたい)。この変異型では、NUCドメインでアルギニンからアラニン(R1226A)への変換があり、NUCドメインが不活性化される。
【0087】
部位特異的ヌクレアーゼのヌクレアーゼ要素は、Cas9の約半分のサイズのヌクレアーゼであるCRISPR-CasΦであってもよく、又はそれに由来してもよい。CRISPR-CasΦは、例えば、Pausch et al(CRISPR-CasΦ from huge phages is a hypercompact genome editor,Science(2020);369(6501):333-337)に記載されているように、核酸の標的化と切断のために単一のcrRNAを使用する。
【0088】
活性、部分的不活性、又はデッド部位特異的ヌクレアーゼ、好ましくは活性、部分的不活性、又はデッドCRISPRヌクレアーゼ複合体は、ガイド要素、好ましくはガイドRNAによって決定されるDNA内の特定部位に融合機能ドメインを誘導するのに役立ってもよい。したがって、部位特異的ヌクレアーゼ(のヌクレアーゼ要素)は、機能ドメインに融合されていてもよい。任意選択的に、このような機能ドメインは、例えば、ヒストン修飾ドメインなどのエピジェネティック修飾のためのものである。エピジェネティック修飾のためのドメインは、メチルトランスフェラーゼ、脱メチル化酵素、脱アセチル化酵素、メチラーゼ、脱アセチル化酵素、ジオキシゲナーゼ(deoxygenase)、グリコシラーゼ、及びアセチラーゼからなる群から選択され得る(Cano-Rodriguez et al,Curr Genet Med Rep(2016)4:170-179)。メチルトランスフェラーゼは、G9a、Suv39h1、DNMT3、PRDM9、及びDot1Lからなる群から選択されてもよい。脱メチル化酵素は、LSD1であってもよい。脱アセチル化酵素は、SIRT6又はSIRT3であってもよい。メチラーゼは、KYP、TgSET8、及びNUEの少なくとも1つであってもよい。脱アセチル化酵素は、HDAC8、RPD3、Sir2a、及びSin3aからなる群から選択されてもよい。ジオキシゲナーゼ(deoxygenase)はTET1、TET2、及びTET3の少なくとも1つであってもよく、好ましくはTET1cdである(Gallego-Bartolome J et al,Proc Natl Acad Sci U S A.(2018);115(9):E2125-E2134)。グリコシラーゼは、TDGであってもよい。アセチラーゼは、p300であってもよい。
【0089】
任意選択的に、機能ドメインは、アポリポタンパク質B mRNA編集複合体(APOBEC)ファミリーデアミナーゼ、活性化誘導シトシンデアミナーゼ(AID)、ACF1/ASEデアミナーゼ、アデニンデアミナーゼ、及びADATファミリーデアミナーゼからなる群から選択される、デアミナーゼ、又はその機能的断片である。代案としては、又はこれに加えて、デアミナーゼ又はその機能的断片は、ADAR1orADAR2、又はその変異型であってもよい。
【0090】
シトシンデアミナーゼ酵素のアポリポタンパク質B mRNA編集複合体(APOBEC)ファミリーは、制御された有益な方法で変異誘発を開始するのに役立つ11のタンパク質を包含する。好ましくは、APOBECデアミナーゼは、APOBEC1、APOBEC2、APOBEC3A、APOBEC3B、APOBEC3C、APOBEC3D、APOBEC3F、APOBEC3G、APOBEC3H、APOBEC4及び活性化誘導(シチジン)デアミナーゼからなる群から選択される。好ましくは、APOBECファミリーのシトシンデアミナーゼは、活性化誘導シトシン(又はシチジン)デアミナーゼ(AID)又はアポリポタンパク質B編集複合体3(APOBEC3)である。好ましくは、CRISPRヌクレアーゼに融合したデアミナーゼドメインは、APOBEC1ファミリーデアミナーゼである。
【0091】
部位特異的ヌクレアーゼのヌクレアーゼ要素、好ましくはCRISPRヌクレアーゼに融合されてもよいデアミナーゼドメインの別の例示的な適切なタイプは、アデニン又はアデノシンデアミナーゼ、例えば、アデニンデアミナーゼのADATファミリーである。さらに、アデニンデアミナーゼは、好ましくは、Gaudelli et al.,2017(Gaudelli et al.2017 Nature 551:464-471)に記載されているTadA又はその変異型であってもよい。さらに、ヌクレアーゼ要素、好ましくはCRISPRヌクレアーゼは、例えば、ADAR1又はADAR2に由来するアデニンデアミナーゼドメインに融合されてもよい。本発明のデアミナーゼドメインは、触媒活性を有するデアミナーゼタンパク質全体又はその断片を含むか、又はそれから構成されてもよい。好ましくは、デアミナーゼドメインはデアミナーゼ活性を有する。任意選択的に、ヌクレアーゼ要素、好ましくはCRISPRヌクレアーゼは、UDG阻害剤(UGI)ドメインにさらに融合される。
【0092】
部位特異的ヌクレアーゼ、好ましくはCRISPRヌクレアーゼのヌクレアーゼ要素は、好ましくはプライム編集に使用するために、例えば、Anzalone AV,et al(Nature(2019),576,pages149-157)に記載されているように、逆転写酵素に融合されてもよい。
【0093】
本発明の方法で使用されるベクターは、部位特異的ヌクレアーゼのヌクレアーゼ要素をコード化する2つ以上の配列を含んでもよい。任意選択的に、ベクターは、同じヌクレアーゼ要素を2回以上コード化してもよい。代案としては、又はこれに加えて、ベクターは、CRISPR-Cas9及びCRISPR-Cpf1などであるがこれらに限定されるものではない、2つ以上の異なるヌクレアーゼ要素をコード化してもよい。
【0094】
部位特異的ヌクレアーゼのヌクレアーゼ要素は、アルゴノートタンパク質であってもよい。アルゴノート(Ago)タンパク質は、相補的核酸標的の認識と切断のための塩基対合特異性を提供する、小型RNA又はDNAガイドに結合する(Kaya et al.PNAS 2016 Apr 12;113(15):4057-4062)。したがって、ステップi)で証明された植物はアルゴノートタンパク質を発現してもよく、ステップii)では、アルゴノートタンパク質を植物細胞のゲノム内の特定の位置に誘導するためのガイドが提供され、標的化遺伝子改変が達成される。代案としては、ガイド及びアルゴノートタンパク質は、ステップii)で1つ又は複数のベクターから発現される。アルゴノートタンパク質はDNAを切断してもよく、これはDNA干渉と呼ばれるプロセスで、例えば、Kuzmenko et al(Nature(2020),587,632-637)に記載されている。任意選択的に、アルゴノートタンパク質は、1つ又は複数の機能性ドメイン又はタンパク質、好ましくはヘリカーゼ及びトポイソメラーゼドメインの少なくとも1つと複合化又は融合され、好ましくはゲノムDNAを巻き戻す。
【0095】
任意選択的に、本発明の方法の部位特異的ヌクレアーゼは、例えば、DNA切断ドメインに融合したTALエフェクターDNA結合ドメインを含むTALEN;DNA切断ドメインに融合したジンクフィンガーDNA結合ドメインを含むZFN;又はI-SceI、I-CreI若しくはI-DmoIなどのメガヌクレアーゼなどの、ヌクレアーゼ(要素)を認識してゲノム内の特定の位置に標的化するように設計されたドメインを含むタンパク質である。任意選択的に、部位特異的ヌクレアーゼは、前記融合タンパク質のヌクレアーゼドメインの形態である本発明の方法のヌクレアーゼ要素;及び編集されるべき標的配列への融合タンパク質の誘導のために、例えば、ジンクフィンガーモチーフ又はTALエフェクターなどのガイドドメインの形態で示される本発明の方法のガイド要素の双方を含む融合タンパク質である。任意選択的に、前記融合タンパク質は活性型であり、すなわち、二量体としてDSBを誘導できる。発現された部位特異的ヌクレアーゼは、標的遺伝子改変を達成するために、植物細胞のゲノム内の特定の位置を標的化するように設計されてもよい。前記標的部位は、好ましくは、植物細胞のゲノム内の目的配列の近傍、その配列上、又はその配列内に存在する。本発明の方法のベクターは、前記二量体の両方の単量体をコード化してもよい。代案としては、融合タンパク質の各単量体は別々のベクター上でコード化される。
【0096】
部位特異的ヌクレアーゼのヌクレアーゼ要素が、CRISPRヌクレアーゼ又はアルゴノートなどの編集されるべき標的配列にヌクレアーゼ要素を誘導するためのガイドとの複合体化を必要とするヌクレアーゼである場合、本発明の方法で使用されるベクターは、好ましくはガイド要素を発現する。ガイド要素は、好ましくはガイドRNAである。同じベクターはまた、部位特異的ヌクレアーゼ、好ましくはCRISPRヌクレアーゼのヌクレアーゼ要素を発現してもよい。代案としては、部位特異的ヌクレアーゼのガイド要素及びヌクレアーゼ要素、好ましくはガイドRNA及びCRISPRヌクレアーゼは、別々のベクターから発現される。代案としては、部位特異的ヌクレアーゼのヌクレアーゼ要素、好ましくはCRISPRヌクレアーゼは、提供された植物内で既に発現されていてもよい。
【0097】
発現されたガイド要素は、部位特異的ヌクレアーゼのヌクレアーゼ要素を植物細胞のゲノム内の特定の位置に誘導して、標的遺伝子改変が達成されてもよい。ガイド要素は、プロトスペーサー配列とも称される二本鎖核酸分子内の定義された標的部位に、複合体を誘導する。ガイド要素は、好ましくは植物細胞のゲノム内の目的配列の近傍、目的配列上、又は目的配列内にあるプロトスペーサー配列部位に、特異的ヌクレアーゼ複合体を標的化するための配列を含む。
【0098】
部位特異的ヌクレアーゼがCRISPRエンドヌクレアーゼ複合体である場合、ガイド要素は、シングルガイド(sg)RNA分子であるガイドRNA、又はcrRNAとtracrRNA(例えば、Cas9の場合)を別々の分子として組み合わせたものであってもよく、又はcrRNA分子のみ(例えば、Cpf1及びCasΦの場合)であってもよい。任意選択的に、ガイドRNAは、シングルガイド(sg)RNA(例えば、Cas9の場合)であるか、又はcrRNAのみ(例えば、Cpf1及びCasΦの場合)である。したがって本発明の方法で使用されるCRISPRヌクレアーゼ複合体は、ガイドRNAを含んでもよく、ここでガイドRNAはcrRNAとtracrRNAの組み合わせを含み、好ましくはCRISPRヌクレアーゼはCas9である。crRNAとtracrRNAは、好ましくは組み合わされてsgRNA(シングルガイドRNA)になる。代案としては、本発明の方法で使用されるCRISPRヌクレアーゼ複合体は、ガイドRNAを含んでもよく、ここでガイドRNAはcrRNAを含み、好ましくはCRISPRタンパク質はCpf1又はCasΦである。
【0099】
本発明の方法で使用するためのガイド要素、好ましくはガイドRNAは、目的配列、好ましくは本明細書で定義される目的配列に、又はその近傍にハイブリッド形成し得る配列を含んでもよい。ガイド要素、好ましくはガイドRNAは、目的配列内の配列と完全に相補的なヌクレオチド配列を含んでもよく、すなわち、目的配列はプロトスペーサー配列を含む。代案としては、又はこれに加えて、本発明の方法で使用されるガイド要素、好ましくはガイドRNAは、目的配列の相補配列又はその近傍にハイブリッド形成し得る配列を含んでもよい。
【0100】
任意選択的に、本発明の方法で使用されるベクターは、2つ以上のガイド要素、好ましくは2つ以上のガイドRNAを発現し、例えば、2つ以上の異なる目的配列を標的化するか、又は同じ目的配列の2つ以上の位置を標的化してもよい。
【0101】
ベクターは、異なるシード配列を有する、すなわち、異なるプロトスペーサー配列とハイブリッド形成できる、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10以上のガイド要素又はガイドRNAを発現してもよい。異なるガイド要素は、ヌクレアーゼ要素を同じ遺伝子内の異なる位置に誘導してもよい。代案として、又はこれに加えて、異なるガイド要素は、ヌクレアーゼ要素を植物細胞内の異なる遺伝子に誘導してもよい。
【0102】
ガイド要素がガイドRNAである場合、任意選択的に、ベクターは、異なる(プレ)ガイドRNA配列の間に位置するスペーサー配列を含まず、すなわち、異なる(プレ)RNAガイド配列は互いに直接隣接して位置する。代案としては、異なる(プレ)ガイドRNA配列を隔離する、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25以上のヌクレオチドの配列が存在する。任意選択的に、異なる(プレ)ガイドRNA配列は、切断可能なスペーサー配列によって隔離され、これは、CRISPRヌクレアーゼがCas9であり、ガイドRNAがsgRNAである場合に好ましい。CRISPRヌクレアーゼがCpf1である場合、Cpf1はpre-crRNAをプロセスし得るので、(pre-)crRNAガイドは切断可能なスペーサーを必要としない可能性がある(Zetsche et al.Nat Biotechnol 2017;35:31-34)。
【0103】
切断可能なスペーサー配列は、植物細胞中のRNA分子を切断するのに適した当業者に知られている任意の配列であってもよい(例えば、He et al.J.Genet.Genomics 2017;44(9):469-472を参照されたい)。このような切断可能なスペーサー配列の非限定的例としては、以下の配列を有するスペーサーが挙げられるが、これらに限定されるものではない:UCGCGGCCGGGUACGUGUUGAGC(配列番号11)。切断可能な配列は、配列番号11と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有する配列であってもよい。代案としては、切断可能なスペーサー配列は、任意の、好ましくは植物由来のtRNA配列又はtRNA様構造であり得る。切断可能なtRNA配列は、天然に存在する配列であってもよく、又は切断可能な配列を含むように改変されていてもよい。本発明で使用されるtRNA又はtRNA様構造は、切断可能な配列として機能する能力を有する。天然に存在する植物tRNAはいずれも、切断可能な配列として機能する能力を有していてもよい。当業者は、このような植物tRNA又はtRNA様構造の配列を簡単に取得する方法を理解している。
【0104】
天然に存在するtRNAは、RNase P及びRNase Zの少なくとも1つによる切断の認識部位を含んでもよい。天然に存在するtRNAは、好ましくは3’末端及び/又は5’末端又はその近傍に、リーダー配列AACAAAを含んでもよい。リーダー配列は、配列の処理又は「切断」を可能にしてもよい。好ましくは、tRNAは、tRNAの5’末端又はその近傍にリーダー配列AACAAAを含む。適切なtRNA切断可能要素は、例えば、参照により本明細書に援用される、Xie et al(”Boosting CRISPR/Cas9 multiplex editing capability with the endogenous tRNA-processing system”,2015,Proc Natl Acad Sci U S A;112(11):3570-5)に記載されている。好ましい切断可能なtRNAはtRNAGlyである。
【0105】
代案としては、又はこれに加えて、本明細書で定義されるtRNA又はtRNA様構造は、切断可能な配列として機能するように改変され得る。tRNA又はtRNA様構造は、RNase P及びRNase Zの少なくとも1つによる切断の認識部位を含むように改変されてもよい。好ましくは、tRNA又はtRNA様構造は、好ましくは3’末端及び/又は5’末端又はその近傍に、リーダー配列AACAAAを含むように改変される。好ましくは、tRNAは、tRNAの5’末端又はその近傍にリーダー配列AACAAAを含む。
【0106】
ベクターを使用して、植物宿主細胞内で、部位特異的ヌクレアーゼ、好ましくはCRISPRヌクレアーゼ及びガイドRNAの少なくとも1つを発現させ得る。ベクター骨格は、例えば、発現カセットが組み込まれたプラスミドであってもよく、又は、適切な転写制御配列(例えば、(誘導性)プロモーター)が既に存在する場合、所望のヌクレオチド配列(例えば、ガイドRNA及び/又はCRISPRヌクレアーゼをコード化する配列)のみが、転写制御配列の下流に組み込まれる。
【0107】
適切なプロモーターとしては、ウイルスの天然コートタンパク質プロモーターが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明で使用されるこのような天然コートタンパク質プロモーターは、例えば、タバコ茎壊疽ウイルス(例えば、Deng X et al,2013,Mol Plant-Microbe Interact.doi:10.1094/MPMI-12-12-0280-Rに記載されているような)、エンドウ豆早期褐変ウイルス(例えば、MacFarlane SA and Popovich AH(2000),Virology.doi:10.1006/viro.1999.0098に記載されているような)、タバコ茎壊疽ウイルス株TCM、PLB、PSG、及びPRVのいずれか(例えば、Goulden MG et al,1990,Nucleic Acids Res.doi:10.1093/nar/18.15.4507に記載されているような)に由来してもよい。プロモーターは、PEBVプロモーター、U6プロモーター、又はpol IIIプロモーターであってもよい。
【0108】
本発明のベクターは、分子クローニングにおける使用を容易にするために、例えば、選択可能マーカー、多重クローニング部位などのさらなる遺伝的要素を含んでもよい。ベクター骨格は、例えば、バイナリベクター又はスーパーバイナリベクター(例えば、米国特許第5,591,616号明細書、米国特許出願公開第2002138879号明細書、及び国際公開第95/06722号パンフレットを参照されたい)、当該技術分野で知られているような共組み込みベクター又はT-DNAベクターであってもよい。
【0109】
本発明に従って使用されるベクターは、好ましくは、部位特異的ヌクレアーゼ、好ましくはCRISPRヌクレアーゼ及び/又はガイドRNAの少なくとも1つの要素の発現を植物細胞に導入するのに特に適している。好ましい発現ベクターは、裸のDNA、DNA複合体、又はウイルスベクターである。
【0110】
好ましい裸のDNAは、線状又は環状の核酸分子、例えば、プラスミドである。プラスミドとは、標準的な分子クローニング技術などによって追加のDNAセグメントをその中に挿入できる、環状の二本鎖DNAループを指す。DNA複合体は、DNAを細胞内に送達するのに適した任意の担体に結合したDNA分子である。好ましい担体は、リポプレックス、リポソーム、ポリマーソーム、ポリプレックス、PEG、デンドリマー、無機ナノ粒子、ビロソーム、及び細胞透過性ペプチドからなる群から選択される。
【0111】
本発明の方法で使用されるベクターは、好ましくはウイルスベクターである。ウイルスベクターは、DNAウイルス又はRNAウイルスであり得る。ウイルスベクターは、トバモウイルス、トブラウイルス、ポテックスウイルス、ジェミニウイルス、アルファモウイルス、ククモウイルス、ポティウイルス、トンブスウイルス、ホルデイウイルス、又はヌクレオラブドウイルスであっても、又はそれらに基づいてもよい。
【0112】
トバモウイルスのウイルスベクターは、タバコモザイクウイルス(TMV)及びサンヘンプモザイクウイルス(Sun Hemp Mosaic Virus)(SHMV)の少なくとも1つであってもよい。トブラウイルスのウイルスベクターは、タバコ茎壊疽ウイルス(TRV)であってもよい。ポテックスウイルスのウイルスベクターは、ジャガイモウイルスX(PVX)及びパパイアモザイクポテックスウイルス(PapMV)の少なくとも1つであってもよい。ジェミニウイルスのウイルスベクターは、コモウイルスササゲモザイクウイルス(CPMV)であってもよい。適切なジェミニウイルスウイルスベクターのさらなる例としては、キャベツ葉巻病ウイルス、トマトゴールデンモザイクウイルス、豆黄萎病ウイルス、アフリカキャッサバモザイクウイルス、小麦萎縮病ウイルス、ススキ条斑病マストレウイルス、タバコ黄萎病ウイルス、トマト黄化葉巻病ウイルス、豆ゴールデンモザイクウイルス、ビートカーリートップウイルス、トウモロコシ条斑病ウイルス、及びトマト擬似カーリートップウイルスが挙げられてもよい。アルファモウイルスは、アルファルファモザイクウイルス(AMV)であってもよい(may)。ククモウイルスは、キュウリモザイクウイルス(CMV)又はキュウリ緑斑モザイクウイルス(CGMMV)であってもよい。ポティウイルスは、セイヨウスモモポックスウイルス(PPV)であってもよい。トンブスウイルスは、トマトブッシースタントウイルス(TBSV)であってもよい。ホルデイウイルスは、大麦斑葉病モザイクウイルスであってもよい。ヌクレオラブドウイルスは、ソンカスイエローネットウイルス(SYNV)であってもよい(例えば、Hefferon K,Plant Virus Expression Vectors:A Powerhouse for Global Health,Biomedicines.2017,5(3):44;及びLico et al,Viral vectors for production of recombinant proteins in plants,J Cell Physiol,2008;216(2):366-77を参照されたい)。
【0113】
好ましくは、ウイルスベクターは、タバコ茎壊疽ウイルス(TRV)、タバコモザイクウイルス(TMV)、ソンカスイエローネットウイルス(SYNV)、及びジャガイモウイルスX(PVX)からなる群から選択される。好ましくは、ウイルスベクターは、タバコ茎壊疽ウイルス(TRV)、タバコモザイクウイルス(TMV)、ジェミニウイルス、ジャガイモウイルスX(PVX)、及びソンカスイエローネットウイルス(SYNV)の少なくとも1つである。
【0114】
好ましくは、ベクターは、その浸透移行性を損なったり、又は著しく損なったりするような改変を有していない。したがって、本発明で使用されるベクターは、好ましくは機能性コートタンパク質を含む。代案としては、本発明で使用されるベクターは、機能性コートタンパク質を発現しない。コートタンパク質をコード化する配列は、機能性コートタンパク質の発現を無効にする変異を含んでもよい。変異は、欠失、付加、置換、又はそれらの組み合わせの少なくとも1つであってもよく、好ましくは早期停止コドンをもたらす。好ましくは、コートタンパク質をコード化する配列の少なくとも一部が欠失される。好ましくは、ウイルスコートタンパク質をコード化する配列の少なくとも2%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%が、ウイルスゲノムから欠失される。コートタンパク質の欠失は浸透移行性を損なうこともあるが、パッケージング容量を高める可能性があるため、望ましい場合もある。好ましくは、コートタンパク質をコード化する配列の少なくとも一部の変異、好ましくは欠失を含むウイルスベクターは、前記変異又は欠失を含似でなるように改変された、トバモウイルスウイルス又はトブラウイルスウイルス、任意選択的に(optinally)タバコモザイクウイルス(TMV)である。好ましいウイルスベクターは、例えば、Lindbo(TRBO:A High-Efficiency Tobacco Mosaic Virus RNA-Based Overexpression Vector,Plant Physiol,2007;145(4):1232-40)に記載されているようなTMV RNAベースの過剰発現ベクター(TRBO)である。したがって、本発明の方法で使用されるウイルスベクターは、1つ又は複数の遺伝子の欠失を含んで、例えば、ウイルスのパッケージング容量を増加させ、ゲノム安定性を改善し、及び/又は遺伝子発現を増加させてもよい。
【0115】
適切なベクターによる植物細胞の感染は、好ましくは、植物細胞内で、部位特異的ヌクレアーゼの少なくとも1つの要素、好ましくは、CRISPRヌクレアーゼ及びガイドRNAの少なくとも1つの高レベル発現をもたらす。高レベルの発現は、例えば、ウイルスコートタンパク質の欠失及び/又は強力なプロモーターの使用によって達成されてもよい。ウイルスベクターは、例えば、参照により本明細書に援用される、国際公開第2018/226972号パンフレットに記載されるような自己複製RNAであってもよい。
【0116】
ステップiii)苗条頂端分裂組織を除去する
ステップii)でベクターを導入した後、提供された植物から苗条頂端分裂組織(又は「成長点」)が除去されてもよい。苗条頂端分裂組織は、植物の細胞にベクターを導入した直後に除去されてもよく、例えば、ステップii)とiii)の間の時間は、約24時間未満、28時間未満、12時間未満、6時間未満、又は約3時間未満であってもよい。好ましくは、植物は、苗条頂端分裂組織を除去する前に、導入されたベクターを生成(自己複製)する。したがって、本発明の方法のステップii)とステップiii)の間には、1日以上の間隔が空いてもよい。好ましくは、ステップii)とステップiii)の間には、約1、2、3、4、又は5週間の間隔がある。好ましくは、ステップii)とステップiii)の間には、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、又は21日間の間隔がある。好ましくは、ステップii)とステップiii)の間には、約1~21日間、2~15日間、又は約7~10日間の間隔がある。
【0117】
本発明の方法のステップiii)は、提供された植物の苗条頂端分裂組織の除去に関する。
【0118】
苗条頂端分裂組織の除去は、さらに1つ又は複数の腋生分裂組織の除去をもたらすこともある。好ましくは、苗条頂端分裂組織の除去は、提供された植物の全ての腋生分裂組織の除去をもたらさない。好ましくは、苗条頂端分裂組織の除去は、好ましくは提供された植物の再生を開始しない。苗条頂端分裂組織を除去した後、提供された植物は、好ましくは、依然として1つ又は複数の腋生分裂組織を含む。好ましくは、苗条頂端分裂組織を除去した後、提供された植物は子葉腋分裂組織を含む。任意選択的に、苗条頂端分裂組織を除去した後、提供された植物は、子葉腋生分裂組織を含むことを除いて、さらにいかなる腋生苗条分裂組織も含まない。
【0119】
当業者は、植物の苗条頂端分裂組織を除去するのに適した方法を良く承知している。好ましくは、苗条頂端分裂組織の除去は、植物の第1の位置での摘心によって行われる。好ましくは、第1の位置は子葉の上である。好ましくは、第1の位置は子葉の真上である。好ましくは、植物を摘心する(第1の)位置は上胚軸内である。好ましくは、第1の位置は第1本葉の下、好ましくは子葉の上、第1の本葉の下である。好ましくは、植物を摘心する(第1の)位置は、子葉の上方約20cm未満、15cm未満、10cm未満、9cm未満、8cm未満、7cm未満、6cm未満、5cm未満、4cm未満、3cm未満、2cm未満、1cm未満、0.9cm未満、0.8cm未満、0.7cm未満、0.6cm未満、0.5cm未満、0.4cm未満、0.3cm未満、0.2cm未満、又は0.1cm未満である。
【0120】
ステップiv)苗条再生
苗条頂端分裂組織を除去するステップの後に、ステップiii)の結果として生じた植物の2番目の位置で苗条を再生するステップiv)が続く。第2の位置での苗条再生は、好ましくは、第2の位置で植物を傷つけることによって誘導される。好ましくは、前記創傷は第2の位置における摘心である。好ましくは、苗条再生は、苗条の新規形成である。好ましくは、ステップiv)において植物は摘心され、苗条形成が誘導される。好ましくは、摘心は第2の位置で行われ、好ましくは、第2の位置は子葉の下である。好ましくは、ステップiv)は、ステップiii)における苗条頂端分裂組織除去の結果として、優勢な新規苗条頂端分裂組織に発達した潜在的な腋生分裂組織をはじめとする、(苗条)腋生分裂組織、好ましくは全ての(苗条)腋生分裂組織の除去を含み、それによって、体細胞、好ましくはゲノム改変を含む体細胞からの分裂組織形成を誘導する。特に、苗条は、好ましくは少なくとも1つの体細胞から形成された分裂組織から再生される。好ましくは、前記少なくとも1つの体細胞は、部位特異的ヌクレアーゼによって誘導される遺伝子改変を含む。
【0121】
任意選択的に、頂端分裂組織を除去するステップiii)の直後に、植物の第2の位置で苗条再生させるステップiv)が続き、例えば、ステップiii)とiv)は同じ日に実行されてもよく、例えば、ステップiii)とiv)の間の時間は、約24時間未満、28時間未満、12時間未満、6時間未満、又は約3時間未満であってもよい。
【0122】
好ましくは、ステップiii)とiv)の間の時間は、提供された植物が、第2の位置で部位特異的ヌクレアーゼによって誘導された遺伝子改変を含む1つ又は複数の細胞を含むように、1日以上であってもよい。
【0123】
したがって、本発明の方法のステップiii)とステップiv)の間には、1日以上の間隔が空いてもよい。任意選択的に、ステップiii)とステップiv)の間には約1、2、3、4、又は5週間の間隔がある。好ましくは、ステップiii)とステップiv)の間には、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、25、30、35、40、45、又は50日間の間隔がある。好ましくは、ステップiii)とステップiv)の間には、約1~50日間、2~40日間、3~30日間、4~25日間、5~20日間、6~15日間、7~14日間、1~7日間、又は1~5日間の間隔がある。
【0124】
苗条再生は、好ましくは、提供された植物の第2の位置で誘導される(本発明の一実施形態の概略図については図1もまた参照されたい)。したがって、第2の位置は、苗条の再生を可能にする位置である。好ましくは、その位置は根の再生を許さない位置である。位置は、好ましくは植物の苗条系内である。好ましくは、第2の位置は植物の根系内ではなく、及び/又は根頂端分裂組織の除去ではない。好ましくは、第1の位置と第2の位置は互いに近接している。第1の位置と第2の位置は、どちらも提供された植物の上胚軸内に位置し得て、又はどちらも胚軸内に位置し得る。第1の位置は上胚軸内にあってもよく、第2の位置は胚軸内にあってもよい。好ましくは、第1の位置は子葉の上にあり、第2の位置は子葉の下にある。好ましくは、第1の位置は子葉の真上であり、第2の位置は子葉の真下であり、ここで「真上・真下」とは、子葉から約3cm、2cm、1cm、0.5cm、0.4cm、0.3cm、0.2cm、又は約0.1cm以内である。好ましくは、子葉は、ステップi)で提供される植物の第1の位置と第2の位置との間に配置される。
【0125】
第1の位置と第2の位置との間の距離は、好ましくは、約20cm、15cm、10cm、9cm、8cm、7cm、6cm、5cm、4cm、3cm、2cm、1cm、0.9cm、0.8cm、0.7cm、0.6cm、0.5cm、0.4cm、0.3cm、0.2cm未満、又は約0.1cm未満である。好ましくは、第1の位置と第2の位置との間の距離は、約0.1cm~20cm、0.5cm~10cm、1cm~8cm、又は約2cm~6cmである。
【0126】
当業者は、植物の苗条を再生させる方法を良く承知している。このような従来法としては、提供された植物を第2の位置で傷つける(好ましくは、摘心する)ことが挙げられるが、これに限定されるわけではない。本明細書において、摘心とは、腋生分裂組織の除去、好ましくは提供された植物の全ての(苗条)腋生分裂組織の除去として理解される。好ましくは、全ての腋生分裂組織が除去されて、既存の分裂組織からの苗条の発生が防止される。好ましくは、既存の分裂組織から形成される苗条はない。好ましくは、新規分裂組織に変換された体細胞から形成された、1つ又は複数の苗条が存在する。好ましくは、これらの体細胞の少なくとも1つ又は複数は、部位特異的ヌクレアーゼによって誘導される遺伝子改変を含み、したがって好ましくは、前記1つ又は複数の体細胞から形成される分裂組織は、遺伝子改変を含む。
【0127】
代案としては、又はこれに加えて、提供された植物をステップiv)で傷つけて、苗条再生を刺激してもよい。創傷は、組織培養技術において良く知られたステップであり、当業者は、どのように植物細胞を傷つけ、創傷ストレスを誘発するかを知っている。
【0128】
第2の位置は、好ましくは、ステップi)で提供された植物の胚軸内である。好ましくは、第2の位置は子葉の下の位置である。好ましくは、植物を摘心するための第2の位置は、子葉の下方約20cm、15cm、10cm、9cm、8cm、7cm、6cm、5cm、4cm、3cm、2cm、1cm、0.9cm、0.8cm、0.7cm、0.6cm、0.5cm、0.4cm、0.3cm、0.2cm未満、又は約0.1cm未満である。
【0129】
少なくともステップiv)は、好ましくは苗条再生を可能にする条件下で実行される。これらの条件は、本明細書では、少なくとも、提供された植物が再生するための最小限の要件であると理解され、一般に、少なくとも、前記植物の通常の成長条件が含まれる。
【0130】
再生プロセスは、親組織から直接発生し得て、又はカルスの形成などを通じて間接的に起こり得る。したがって、本発明の方法のステップiv)における苗条再生は、カルス期を伴ってもよい。このようにしてカルスから苗条が形成されてもよい。このカルスの形成は、例えば、傷(好ましくは摘心)後、自発発生的に、すなわち外的に供給される1つ又は複数の植物ホルモンなしに起こってもよい。同様に、例えば、カルス形成後の苗条形成は、1つ又は複数の外的に供給される植物ホルモンの非存在下で、自然発生的に起こってもよい。
【0131】
代案としては、本発明の方法におけるカルスの形成は、1つ又は複数の植物ホルモンの存在下で誘導及び/又は増強されてもよい。代案としては、又はこれに加えて、苗条の形成は、1つ又は複数の植物ホルモンの存在下で誘導及び/又は増強されてもよい。好ましくは、ステップiv)で使用される苗条再生のための植物ホルモンは、1つ又は複数のサイトカイニン、1つ又は複数のオーキシン、又は1つ又は複数のサイトカイニンと1つ又は複数のオーキシンとの組み合わせであり得る。
【0132】
本発明の方法で使用されてもよい1つ又は複数のサイトカイニンは、アデニン型サイトカイニン及びフェニル尿素型サイトカイニンのうちの少なくとも1つであり得る。同様に、サイトカイニンは天然に生成された植物ホルモンであり得るか、又は合成された化合物であり得る。アデニン型サイトカイニンは、根、種子、及び果実の少なくとも1つで合成される植物ホルモンであり得る。さらに、形成層及び他の活発に分裂している組織もまた、サイトカイニンを合成し得る。天然に存在するアデニン型サイトカイニンの非限定的例は、ゼアチン並びにその代謝前駆体2iPである。合成アデニン型サイトカイニンの非限定的例は、カイネチン及び6-ベンジルアミノプリン(BAP)である。チジアズロン及びCPPUなどの置換尿素化合物は植物には存在しないが、組織培養中ではサイトカイニンとして作用し得る。アデニン型サイトカイニンは、カイネチン、ゼアチン、トランスゼアチン、シスゼアチン、ジヒドロゼアチン、6-ベンジルアミノプリン、及び2iP、及びそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。フェニル尿素型サイトカイニンは、ジフェニル尿素又はチジアズロンであり得る。添加するサイトカイニンの型は植物細胞の種類に依存することが当業者に知られており、当業者は必要に応じて適切なサイトカイニンを選択し得る。
【0133】
本発明の方法で使用されてもよい1つ又は複数のオーキシンは、内因性に合成されたオーキシンであってもよい。内因的に合成されたオーキシンは、インドール-3-酢酸(IAA)、4-クロロインドール-3-酢酸、フェニル酢酸、インドール-3-酪酸、及びインドール-3-プロピオン酸からなる群から選択され得る。オーキシンは、例えば、オーキシン類似体などの合成オーキシンであってもよい。合成オーキシンは、1-ナフタレン酢酸、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、α-ナフタレン酢酸(α-NAA)、2-メトキシ-3,6-ジクロロ安息香酸(ジカンバ)、4-アミノ-3,5,6-トリクロロピコリン酸(トルドン又はピクロラム)、1-ナフタレン酢酸(NAA)、インドール-3-酪酸(IBA)、及び2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸(2,4,5-T)の少なくとも1つであり得る。オーキシンは、1-ナフタレン酢酸(NAA)であり得る。
【0134】
サイトカイニンとオーキシンの組み合わせによる苗条器官形成では、サイトカイニンとオーキシンの比率は好ましくは1を超える(Dodds,JH and Roberts,LW(1985)Experiments in plant tissue culture.Cambridge University Press,Cambridge,UK)。
【0135】
ステップiv)は、提供された植物の第2の位置におけるカルス形成を可能にする条件を使用して実行されてもよい。任意選択的に、ステップiv)は、第2の位置におけるカルス形成を可能にする最小限の条件を使用して実行される。任意選択的に、ステップiv)は、提供された植物の第2の位置におけるカルス形成に最適な条件を使用して実行される。
【0136】
ステップiv)は、提供された植物の第2の位置における苗条形成を可能にする条件を使用して実行されてもよい。好ましくは、ステップiv)は、第2の位置における苗条形成を可能にする最小限の条件を使用して実行される。好ましい実施形態では、本発明の方法のステップiv)は、提供された植物の第2の位置における苗条形成に最適な条件を使用して実行される。
【0137】
好ましくは、植物から再生された苗条の少なくとも1つは、部位特異的ヌクレアーゼによって誘導された遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む。任意選択的に、植物から再生された苗条の少なくとも1つは、部位特異的ヌクレアーゼによって誘導された遺伝子改変を有する複数の細胞を含み、ここで得られた改変(任意選択的に、ヌクレオチド置換、挿入、及び/又は欠失、例えば、インデルである)は、複数の細胞間で異なっていてもよい。本発明の方法の単一部位特異的ヌクレアーゼによって誘導される異なる改変は、前記部位特異的ヌクレアーゼによって誘導されるDSBが、異なる細胞において異なる方法でNHEJ(非相同末端接合)として示されるプロセスにおいて修復される場合に生じてもよく、任意選択的に様々なヌクレオチド置換、欠失及び/又は挿入がもたらされる。
【0138】
好ましくは、本発明の方法のステップiv)で再生された苗条は、対照植物の再生された苗条と比較して、より多くの遺伝子改変細胞を含む。好ましくは、対照植物の苗条は、方法のステップiii)が省略されることを除いて、本明細書に記載されるのと同じ方法を使用して再生される。本発明の方法によって生産された苗条における遺伝子改変細胞の百分率は、対照植物によって生産された苗条における遺伝子改変細胞の百分率と比較して、少なくとも約2%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、又は100%の差があることが好ましい。非限定的例として、本発明の方法によって再生された苗条の細胞の50%は、部位特異的ヌクレアーゼによって誘導された遺伝子改変を有し得る。同じ実験設定を用いて、ステップiii)が省略された場合(本明細書では対照法として示す)、細胞の30%が、部位特異的ヌクレアーゼによって誘導された遺伝子改変を有してもよい。この非限定的例では、このように、本発明の方法(二重摘心)と対照法(単一摘心)との間で、遺伝子改変を有する再生苗条生の細胞数に20%の差がある。好ましくは、対照植物の苗条は、ステップiii)が省略されることを除いて、本明細書で定義されるのと同じ方法の対象とされ、好ましくはその他の点では同一の植物から再生された苗条である。任意選択的に、植物が2つ以上の苗条を再生する場合、本明細書で定義される植物の苗条における遺伝子組換え細胞の百分率は、本明細書では、前記植物の全ての苗条の平均として理解されてもよい。好ましくは、第2の位置で形成された苗条の細胞の少なくとも約1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は100%が、部位特異的ヌクレアーゼによって誘導された遺伝子改変を有する。好ましくは、形成された苗条の全ての細胞は、部位特異的ヌクレアーゼによって誘導された遺伝子改変を含む。
【0139】
好ましくは、植物から再生された苗条の少なくとも1つは、部位特異的ヌクレアーゼによって誘導された遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む。好ましくは、再生されたシュートの少なくとも約2%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又は100%は、部位特異的ヌクレアーゼによって誘導された遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む。好ましくは、全ての再生苗条は、部位特異的ヌクレアーゼによって誘導された遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む。本発明の方法は、好ましくは、1つ又は複数の遺伝子改変細胞を有する苗条の数を増加させる。したがって、好ましくは、本発明の方法は、ステップiii)が省略されることを除いて、同じ方法と比較して、1つ又は複数の遺伝子組換え細胞を有する再生苗条の数の増加をもたらす。好ましくは、本発明の方法によって生産された1つ又は複数の遺伝子改変細胞を有する苗条の百分率と、対照植物によって生産された1つ又は複数の遺伝子改変細胞を有する苗条の百分率との間には、少なくとも約2%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%又は100%の差がある。好ましくは、対照植物の苗条は、ステップiii)が省略されることを除いて、本明細書で定義されるのと同じ方法の対象とされ、好ましくはその他の点では同一の植物から再生された苗条である。
【0140】
ステップi)で2つ以上の植物が提供される場合、苗条内の改変細胞の百分率は、本明細書では、全ての植物の全ての再生苗条の分析後に判定される、苗条内の改変された細胞の平均百分率として理解されてもよい。同様に、1つ又は複数の遺伝子改変細胞を含む苗条の百分率は、本明細書では、全ての植物の全ての再生苗条を分析した後の、1つ又は複数の遺伝子改変細胞を含む苗条の平均百分率として理解されてもよい。
【0141】
本発明の方法は、部位特異的ヌクレアーゼによって誘導された遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む苗条を選択するステップをさらに含んでもよく、任意選択的に、例えば、特定のインデル又は目的の一塩基多型など、特定の所望の遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む苗条を選択するステップを含んでもよい。好ましくは、本発明の方法は、遺伝子改変を有する1つ又は複数の分裂組織細胞を含む苗条を識別及び/又は選択するステップを含む。任意選択的に、前記苗条は単離されてもよい。好ましくは、選択された苗条は植物に再生される。好ましくは、選択された苗条は、遺伝子改変を担持するか又は有する配偶子を生じる植物に再生される。ましくは、選択された苗条は、苗条が由来する本発明の方法の植物の一部として栽培され、遺伝子改変を有する少なくとも1つの配偶子を保有する花序を発達させる。前記配偶子は、花粉粒内の雄性配偶子であってもよく、又は花の胚珠内の雌性配偶子であってもよい。任意選択的に、前記花粉又は胚珠は、遺伝子改変を含む種子及び/又は子孫を生じる交配の一部である。
【0142】
苗条を選択するステップは、当業者に知られている任意の従来法を使用して実行され得る。選択は、苗条の表現型及び/又は分子特性を判定するステップを含んでもよい。選択は、遺伝子改変を検出するステップを含んでもよい。選択は、遺伝子型を決定するステップを含んでもよい。遺伝子改変の検出及び/又は遺伝子型の決定は、従来の(高重複度)配列決定法などであるがこれに限定されるものではない、当業者に知られている任意の従来の方法を使用して実行されてもよい。
【0143】
代案としては、又はこれに加えて、本明細書で定義される本発明の方法は、ステップiv)の後に植物を栽培するステップを含んでもよい。好ましくは、提供された植物の第2の位置で苗条を再生させた後、任意選択的に、提供された植物を第2の位置で摘心した後、植物は、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は約10週間、好ましくは少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は約10ヶ月間培養又は「栽培」されてもよい。好ましくは、提供された植物の第2の位置で苗条を再生させた後、任意選択的に、提供された植物を第2の位置で摘心した後、植物は、栄養植物、出芽植物、開花植物、又は成熟植物の少なくとも1つに向けて成長させてもよい。植物は、花粉及び/又は卵を生産するために栽培されてもよい。好ましくは、方法は、植物を栽培して種子を生産するステップを含み、任意選択的に、遺伝子改変を含む卵細胞を(自家)受精させるステップを含む。好ましくは、種子生産のステップは、必須又は独占的な生物学的過程を伴わない。
【0144】
生産された種子は、好ましくは、本発明の方法の部位特異的ヌクレアーゼによって誘導された遺伝子改変を有する1つ又は複数の細胞を含む。好ましくは、胚の細胞は前記遺伝子改変を含む。任意選択的に、珠皮は前記遺伝子改変を含んでもよい。好ましくは、生産された種子の全ての細胞は、本発明の方法の部位特異的ヌクレアーゼによって誘導された遺伝子改変を含む。
【0145】
方法は、生産された種子から子孫植物を栽培するステップをさらに含んでもよく、ここで子孫植物は、本発明の部位特異的ヌクレアーゼによって誘導された遺伝子改変を有する1つ以上の細胞を含む。好ましくは、子孫植物は、必須の生物学的過程によって得られるものではなく、又は、必須の生物学的プロセスによってのみ得られるものでもない。
【0146】
態様において、本発明は、本発明の方法によって得られる植物、すなわち、部位特異的ヌクレアーゼによって誘導された遺伝子改変を有する1つ又は複数の再生苗条を含む植物に関する。本発明の植物は、好ましくは、少なくとも、目的配列に少なくとも1つの変異を含有するという点で、自然界に存在する植物とは異なる。好ましくは、本発明の植物は、本質的に生物学的過程によって得られるものではなく、又は排他的に得られるものでもない。
【0147】
さらなる態様では、本発明は、本発明の方法によって得られる苗条に関し、ここで苗条は、本発明の方法の部位特異的ヌクレアーゼによって誘導される遺伝子改変を含む1つ又は複数の細胞を含む。任意選択的に、苗条は遺伝子改変を含む植物に栽培されてもよい。
【0148】
本発明は、遺伝子改変を含む本発明の方法によって生産された、種子又は子孫植物にさらに関する。好ましくは、種子及び子孫植物は、本質的に生物学的過程によって得られるものではなく、又は排他的に得られるものでもない。
【0149】
いくつかの例示的な実施形態を参照して、本発明を上で説明した。一部の部品又は要素の変更及び代替実装も可能であり、添付の特許請求の範囲に定義される保護範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0150】
図1】本発明の一実施形態の概略図である。
図2】二重摘心アプローチ(左、15個の苗条)と単一摘心アプローチ(右、4個の苗条)の標的遺伝子の少なくとも1つに、編集が含まれる苗条である。Y軸は、各標的遺伝子(Lin5、ETR1、及びRR-A)の編集頻度を表す
【実施例
【0151】
実験手順
パセリユビキチンプロモーターの制御下で、Cas9(配列番号4)を発現するトマト株Moneyberg TMV(オランダ)の種子(Fauser et al.Plant J.2014;79:348-359)を小さなポットに播種し、発芽のために7~10日間、空調管理された区画に置いた。
【0152】
プラスミドpTRV1(登録番号:AF406991.1)又はpTRV2(登録番号:AF406991)を含むアグロバクテリウム属(Agrobacterium)株を、カナマイシンを添加したLB培地中、28℃、225rpmで一晩培養した(Liu et al.Plant J.2002 May;30(4):415-429)。pTRV1とpTRV2は2つのRNA分子をコード化し、この2つのRNA分子は一緒になって、二分ウイルスTRVのゲノムを形成する。pTRV1は、TRV RNA1をコード化する。RNA分子「RNA1」は、ウイルスの自己複製と動作に必須であることが当該技術分野で知られている要素を含む。pTRV2はTRV RNA2をコード化する。RNA分子「RNA2」は、PEBVサブゲノムプロモーターの制御下で、それぞれCCTGACGATGAAATTAAGAA(配列番号12)、ACGAAGTATATCAACTCCAC(配列番号13)、及びTATTGTATGCCTGGGATGAC(配列番号14)のシード配列を有する、LIN5、ETR1、及びRRA遺伝子を標的化する、シングルガイド(sg)RNAをそれぞれ発現する(Ali et al.Molecular Plant,2015;8(8):p1288-1291)。
【0153】
翌日、室温で5分間3400rcfで遠心分離して細菌を採取し、細菌ペレットを10mLの浸潤緩衝液に再懸濁した(10mMMES、10mMMgCl、pH5.6、200μMのアセトシリンゴンと共に懸濁)。
【0154】
TRV1及びTRV2培養物を、浸潤緩衝液を使用して最終OD600が0.8~0.9になるように希釈し、1:1で混合した。混合物を、各植物の子葉に浸潤させる前に、室温で3~4時間、浸潤緩衝液中で培養した。
【0155】
10日後、片刃カミソリを使用して、20本の苗木を子葉の上で摘心し(二重摘心サンプルの場合)、20本の苗木を子葉のすぐ直下で切摘心した(単一摘心サンプルの場合)。トレーに水を入れ、次にそれを空調管理されたキャビネットに戻した。
【0156】
さらに3日後、片刃カミソリで子葉の直下を摘心した。カバーしたトレーを空調管理されたキャビネットに戻した。芽が形成され始めたら、単一摘心と二重摘芯の双方の苗木を温室に移した。各苗条を個別に標識した。
【0157】
結実期(又は開花後期)に、若い果実又は花序に近い葉材料を収集した。DNA抽出後、3つの標的伝子全てについてsgRNA切断部位にまたがるアンプリコンをPCRによって作成した。PCRによってサンプルタグと配列決定アダプターを追加した後、サンプルをプールし、Illumina MiSeqプラットフォームで配列決定した。
【0158】
編集の頻度は、アンプリコン当たりの予想される切断部位でのインデルを含む読み取りの割合として判定した。結果を表1及び図2に示す。
【0159】
【表1】
【0160】
さらに、以下の表2に示すように、編集された苗条の数を判定した。
【0161】
【表2】
【0162】
表1及び図2に示すように、二重摘心では多くの苗条において40%を超える頻度で編集が見られた(75%)一方、単一摘心では40%を超える編集はわずか16%であった。したがって、本発明の方法は、再生された苗条当たりの編集数を明らかに増加させる。
【0163】
際だったことに、編集を含む再生根の割合もまた、本発明の方法を使用することで有意に増加した(表2は23%の増加を示す)。したがって、本発明の方法によって、苗条当たりの編集数の増加がもたらされ、並びに編集細胞を含む苗条の数も増加する。
図1
図2
【配列表】
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【国際調査報告】