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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-15
(54)【発明の名称】充電式電池セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0563 20100101AFI20250107BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20250107BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20250107BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20250107BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20250107BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20250107BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20250107BHJP
   H01M 4/52 20100101ALI20250107BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20250107BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20250107BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20250107BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20250107BHJP
【FI】
H01M10/0563
H01M10/054
H01M4/587
H01M4/485
H01M4/38 Z
H01M4/58
H01M4/48
H01M4/52
H01M4/66 A
H01M4/525
H01M4/505
H01M10/0568
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536049
(86)(22)【出願日】2022-12-14
(85)【翻訳文提出日】2024-08-09
(86)【国際出願番号】 EP2022085941
(87)【国際公開番号】W WO2023111072
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】21215533.7
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521380247
【氏名又は名称】インノリス・テクノロジー・アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】INNOLITH TECHNOLOGY AG
【住所又は居所原語表記】HIRZBODENWEG 95, 4052 BASEL, SWITZERLAND
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ツィンク,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】プスツォッラ,クリスチアン
(72)【発明者】
【氏名】ブッシュ,レベッカ
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017EE01
5H017EE04
5H017EE05
5H029AJ03
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL04
5H029AL06
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM00
5H029AM09
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ10
5H029HJ18
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA08
5H050CA07
5H050CA08
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB04
5H050CB05
5H050CB07
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA10
5H050HA18
(57)【要約】
本発明は、活性金属、少なくとも一つの正極(4、23、44)、少なくとも一つの負極(5、22、45)、ハウジング(1、28、102)および電解質を含む充電式電池セル(2、20、40、101)に関し、前記活性金属はナトリウムであり、前記電解質は、SO系であり、式(I)を有する、少なくとも第一の導電塩を含んでなり、置換基R、RおよびRは、互いに独立してハロゲン原子、ヒドロキシ基および化学基-ORから形成される群から選択され、置換基Rは、ヒドロキシ基および化学基-ORから形成される群から選択され、置換基Rは、C~C10アルキル、C~C10アルケニル、C~C10アルキニル、C~C10シクロアルキル、C~C14アリールおよびC~C14ヘテロアリールから形成される群から選択され、脂肪族基、環式基、芳香族基、およびヘテロ芳香族基は、非置換であっても置換されていてもよく、Zは、アルミニウムまたはホウ素であり、さらに置換基R、R、RおよびRのうち少なくとも二つは、ともにZに配位されるキレート配位子を形成することが可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性金属、少なくとも一つの正極(4、23、44)、少なくとも一つの負極(5、22、45)、ハウジング(1、28、102)、および電解質を含む、充電式電池セル(2、20、40、101)であって、
前記活性金属はナトリウムであり、
前記電解質は、SO系であり、I
【化1】
式(I)を有する少なくとも第一の導電塩を含み、
- 置換基R、R、およびRは、互いに独立してハロゲン原子、ヒドロキシ基および化学基-ORから形成される群から選択され、置換基Rは、ヒドロキシ基および化学基-ORから形成される群から選択され、
- 置換基Rは、C~C10アルキル、C~C10アルケニル、C~C10アルキニル、C~C10シクロアルキル、C~C14アリール、およびC~C14ヘテロアリールから形成される群から選択され、脂肪族基、環式基、芳香族基、およびヘテロ芳香族基は、非置換であっても置換されていてもよく、
- Zは、アルミニウムまたはホウ素であり、および
- 置換基R、R、R、およびRのうち少なくとも二つは、ともにZに配位されるキレート配位子を形成することが可能であることを特徴とする充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項2】
前記活性金属は、
- 金属ナトリウム、および/または
- 挿入材料、吸着材料、合金形成材料および変換材料から形成される群から選択される、少なくとも一つのナトリウム貯蔵材料
として前記負極内に蓄積されていることを特徴とする、請求項1に記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項3】
前記ナトリウム貯蔵材料は、硬質炭素(英語:hard carbon)、軟質炭素(英語:soft carbon)、グラフェン、およびヘテロ原子ドープ炭素から形成される群から選択される炭素含有挿入材料であることを特徴とする、請求項2に記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項4】
前記ナトリウム貯蔵材料は、炭素を含まない挿入材料、好ましくはチタン酸ナトリウム、特にNaTiまたはNaTi(POであることを特徴とする、請求項2に記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項5】
前記ナトリウム貯蔵材料は、
- ナトリウムを貯蔵する金属および金属合金、好ましくはSn、Sb、または
- 前記ナトリウムを貯蔵する金属および金属合金の硫化物および酸化物、好ましくはSnS、SbS、またはSn、Sbの酸化物ガラス
から形成される群から選択されるナトリウム合金形成材料であることを特徴とする、請求項2に記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項6】
前記ナトリウム貯蔵材料は、金属Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、およびZnの硫化物、酸化物、セレン化物およびフッ化物、好ましくは硫化鉄(FeS)、セレン化鉄(FeSe)、フッ化鉄(FeF)、酸化鉄(FeO)、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)、および酸化銅(CuO)から形成される群から選択される変換材料であることを特徴とする、請求項2に記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項7】
前記負極(5、22、45)は、少なくとも一つのナトリウム合金形成アノード材料と、少なくとも一つの炭素含有挿入材料との組み合わせを含むことを特徴とする、請求項2に記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項8】
前記正極(4、23、44)は、活物質として、好ましくはNaM’M”の組成を有する少なくとも一つの化合物を含有し、
- M’は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、およびZnの元素によって形成される群から選択される、少なくとも一つの金属であり、
- M”は、元素周期表の第2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、および16族の元素によって形成される群から選択される、少なくとも一つの元素であり、
- xおよびyは、それぞれ独立して0よりも大きい数であり、
- zは、0以上の数であり、および
- aは、0よりも大きい数である
ことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項9】
前記正極(4、23、44)は、少なくとも3.6ボルトの上限電位まで、好ましくは少なくとも3.8ボルトの電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.0ボルトの電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.2ボルトの電位まで、および特に好ましくは少なくとも4.4ボルトの電位まで、充電可能であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項10】
前記第一の導電塩の前記置換基R、R、R、およびRは、互いに独立して化学基-ORの構造を有し、Rは、C~C10アルキル、C~C10アルケニル、C~C10アルキニル、C~C10シクロアルキル、C~C14アリールおよびC~C14ヘテロアリールから形成される群から選択され、脂肪族基、環式基、芳香族基およびヘテロ芳香族基の群は、非置換であっても置換されていてもよいであることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項11】
前記Rは、
- C~Cアルキル、好ましくはC~Cアルキル、特に好ましくは2-プロピル、メチルおよびエチル、
- C~Cアルケニル、好ましくはC~Cアルケニル、特に好ましくはエテニルおよびプロペニル、
- C~Cアルキニル、好ましくはC~Cアルキニル、
- C~Cシクロアルキル、
- フェニル、および
- C~Cヘテロアリール、
- 脂肪族基、環式基、芳香族基、およびヘテロ芳香族基は、非置換であっても置換されていてもよい
から形成される群から選択されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項12】
前記置換基Rの前記脂肪族基、環式基、芳香族基、およびヘテロ芳香族基は、
- 一つ以上のハロゲン原子、特にフッ素原子、または
- C~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、フェニル、ベンジル、および完全または部分的にハロゲン化された、特に完全または部分的にフッ化されたC~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、フェニル、およびベンジルから形成される群から選択される化学基
でさらに置換され得ることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項13】
前記置換基Rは、少なくとも一つのCF基、またはОSОCF基で置換されることを特徴とする、請求項10から12のいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項14】
前記キレート配位子は、特に式-O-R-Oに基づく、二座、または多座であるように形成されることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項15】
前記第一の導電塩は、以下から形成される群から選択されることを特徴とする、請求項1から14のいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101):
【化2】
【請求項16】
前記電解質は、電解質組成の総重量に対して
(i)5から99.4重量%の二酸化硫黄、
(ii)0.6から95重量%の前記第一の導電塩、
(iii)0から25重量%の第二の導電塩、および
(iv)0から10重量%の添加剤
の組成を有することを特徴とする、請求項1から15のいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項17】
前記第一の導電塩の物質量濃度は、前記電解質の総容積に対して0.01モル/Lから10モル/L、好ましくは0.05モル/Lから10モル/L、さらに好ましくは0.1モル/Lから6モル/l、および特に好ましくは0.2モル/Lから3.5モル/Lの範囲にあることを特徴とする、請求項1から16のいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項18】
前記電解質は、1モルの導電塩当たり少なくとも0.1モルのSO、好ましくは少なくとも1モルのSO、さらに好ましくは少なくとも5モルのSO、さらに好ましくは少なくとも10モルのSO、および特に好ましくは少なくとも20モルのSO、を含むことを特徴とする、請求項1から17のいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項19】
前記電解質における有機溶媒の総量は、多くとも50重量%、好ましくは多くとも40重量%、さらに好ましくは多くとも30重量%、さらに好ましくは多くとも20重量%、さらに好ましくは多くとも15重量%、さらに好ましくは多くとも10重量%、さらに好ましくは多くとも5重量%、またはさらに好ましくは多くとも1重量%であり、特に好ましくは前記電解質が有機溶媒を含まないことを特徴とする、請求項1から18のいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項20】
前記負極(5、22、45)の前記導体要素は、ニッケル、銅、またはアルミニウムから形成されることを特徴とする、請求項1から19のいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウムを活性金属として含んでなる充電式電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
充電式電池セルは、多くの技術分野において非常に重要である。多くの場合、充電式電池セルは、例えば携帯電話の作動のように比較的小さい電流を有する小さい充電式電池セルのみが必要であるような用途に使用されている。しかしながら、高エネルギー用途のためにより大きい充電式電池セルの需要も多く、車両の電気駆動用には電池セルの形におけるエネルギーを大量に蓄積することが特に重要である。
【0003】
この種の充電式電池セルに求められる重要な要件は、高いエネルギー密度である。このことは充電式電池セルが重量および容積単位当たりの電気エネルギーを可能な限り多く含む必要があることを意味する。この目的のために活性金属としてリチウムが特に有利であることが証明されている。しかしながら、リチウムセルの欠点は、地球上のリチウム資源が限られていることにある。よって、分野における多くの研究グループが一方ではリチウムの主な利点を有しながら同時に容易に入手可能で安価である、活性金属としてのリチウムの代替品を見つけようとしている。リチウムに変わる代替品としてナトリウムが研究されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願第4891281号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第2860799号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第2860811号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第3772129号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】I.クロッシング、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ケミストリー、2001年、7、490
【非特許文献2】P.J.マリノヴスキー等、ダルトン・トランスアクションズ、2020年、49、7766から7773
【発明の概要】
【0006】
充填式電池セルの活性金属とは、セルの充放電時に電解質中の活性金属のイオンが負極または正極に移動し、そこで電気化学過程に参加する金属を指す。電気化学過程は、直接的または間接的に、外部回路への電子の放出または外部回路からの電子の吸収につながる。前述のとおり活性金属は、リチウムまたはナトリウムであり得る。活性金属としてリチウムまたはナトリウムを含む充電式電池セルは、リチウムイオンセルまたはナトリウムイオンセルと称される。リチウムイオンセルは、以前より公知であり、先行技術において詳述されている。これに対してナトリウムイオンセルは、2010年以降に研究の焦点となったばかりであり、以下においてより詳細に説明する。ほとんどの研究活動は、ナトリウムイオンセルのエネルギー密度を高めるために高性能アノード(Hochleistungsanoden)の発見に専念してきたのはリチウムイオンセルの主材料であるグラファイトがリチウムに比べてナトリウムの貯蔵容量がはるかに低いからである。
【0007】
他の充電式電池セルと同様、ナトリウムイオンセルはハウジングを有し、ハウジング内に導体要素を有する少なくとも一つの正極と、導体要素を有する少なくとも一つの負極と、電解質とが配置されている。先行技術より公知であるナトリウムイオンセルの正極と負極との両方とも挿入電極として形成されている。本発明の意味合いにおける「挿入電極」という用語は、結晶構造を有する電極であって、ナトリウムイオンセルの作動時に活性金属のイオンを結晶構造に蓄積または放出することが可能であると理解される。このことは、電極過程が電極の表面だけではなく、結晶構造内でも生じ得ることを意味する。
【0008】
電解質もまた全ての充電式電池セルにとって重要な機能要素である。電解質は、通常、溶媒または溶媒混合物と少なくとも一つの導電塩とを含む。固体電解質またはイオン溶液は、例えば溶媒を含まず、導電塩のみを含む。電解質は、電池セルの正極および負極と接触している。導電塩の少なくとも一つのイオン(アニオンまたはカチオン)は、イオン伝導によって充電式電池セルの機能にとって必要である電極間の電荷輸送が実施され得るように電解質中において移動可能である。電解質は、充電式電池セルの所定の上限セル電圧を越えると酸化的に電気化学分解される。この過程は、多くの場合、電解質の構成要素の不可逆的な破壊、ひいては充電式電池セルの故障につながる。還元プロセスも所定の下限セル電圧を下回ると電解質を破壊し得る。プロセスを回避するには正極および負極は、セル電圧が電解質の分解電圧より小さくあるいは大きくなるように選択される。よって電解質が電圧ウィンドウ(英語では電圧ウィンドウ)を決定し、その範囲内において充電式電池セルを可逆的に作動する、すなわち繰り返し充放電することが可能である。
【0009】
先行技術より公知である有機ナトリウムイオンセルは、有機溶媒または溶媒混合物とその中に溶解した導電塩とからなる電解質を含む。導電塩は、例えば過塩素酸ナトリウム(NaClO)または六フッ化リン酸ナトリウム(NaPF)などのナトリウム塩である。有機溶媒混合物は、例えばプロピレンカーボネート(PC)であり得る。溶媒混合物は、例えばエチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)またはジメチルカーボネート(DMC)を含み得る。例えば、以下の混合物が使用される:EC:DEC、EC:PC、またはEC:DMC。
【0010】
有機溶媒または溶媒混合物を使用することからこの種のナトリウムイオンセルは、有機ナトリウムイオンセルとも称される。
【0011】
有機ナトリウムイオンセルに適した負極は、例えば硬質炭素(英語:ハードカーボン)という変性における炭素からなる。硬質炭素の容量は、300mAh/gで第一のサイクルにおけるサイクル効率は80%である。有機ナトリウムイオンセルの正極は、例えばNaMeOなどの層状酸化物、または例えばリン酸(NaMePO)、ピロリン酸塩(NaMeP)およびフルオロリン酸塩(NaMe(PO)F)のようなポリアニオン化合物からなることが可能であり、「Me」とはそれぞれ遷移金属を表す。
【0012】
ナトリウムは、非常に電気陰性度の高い金属(-2.71V対標準水素電極、SHE)であるため、正極に対する極めて高いセル電圧が生成される。負極においては有機電解質の還元が実施される。還元分解は、不可逆的である。どの有機溶媒もナトリウムや炭素に貯蔵されたナトリウムに対して熱力学的に安定ではない。しかしながら多くの溶媒は、負極の電極表面上においてパッシベーション膜を形成する。膜は、溶媒を電極から空間的に分離するもののイオン伝導率を有することによりナトリウムイオンの通過を可能にする。いわゆる「個体電解質界面(Solid Electrolyte Interphase:SEI)」であるパッシベーション膜は、システムに安定性を与えることにより、有機ナトリウムイオンセルの製造を可能にする。SEIが形成される過程でナトリウムがパッシベーション膜と一体化される。このプロセスは、不可逆的であるため、容量損失とみなされる。カバー層容量とも称される不可逆的な容量損失は、使用する電解質の配合組成と使用する電極とに依存する。有機ナトリウムイオンセルにおいて有機ナトリウムイオンセルの継続的な作動における電解質分解とナトリウムイオン含有層の形成に多くは時間がかかるため、容量損失、ひいては有機ナトリウムイオンセルの短い寿命の原因となる。したがって有機ナトリウムイオンセルには、自身の安定性および長期使用時の動作安全性に関して問題がある。安全上のリスクは、特に有機溶媒または溶媒混合物の可燃性によっても生じる。有機ナトリウムイオンセルが発火あるいは爆発すらした場合、電解質の有機溶媒が可燃物を形成する。有機ナトリウムイオンセルのさらなる欠点としてSEI層の有機構成要素の分解と分解に伴う有毒ガスの放出がある。加えて、これによりセルがさらに加熱される。このような安全上のリスクを回避するためにはさらなる対策を実施することが必要となる。対策には、有機ナトリウムイオンセルの、特に充放電過程の、極めて正確な制御が含まれる。しかしながら追加的な対策は、商業化の可能性がある場合には不利であると考えられている。
【0013】
先行技術より公知である発展様態では、充電式電池セルにおいて有機電解質に代えて二酸化硫黄(SO)系電解質を使用している。SO系電解質を含む充電式電池セルは、とりわけ高いイオン伝導率を有する。「SO系電解質」という用語は、SOを添加剤として低濃度で含むだけではなく、電解質に含まれており電荷輸送を実施させる導電塩のイオン移動度が少なくとも部分的、大半、あるいは完全にSOによって保証される電解質であると理解される。よってSOは、導電塩のための溶媒として機能する。導電塩は、気体状のSOとともに液状の溶媒和化合物複合体を形成することが可能であり、この場合SOが結合して蒸気圧が純粋なSOに対して顕著に低下する。より低い蒸気圧を有する電解質が生成される。この種のSO系電解質は、前述の有機電解質と比べて不燃性という利点を有する。よって、電解質の可燃性に起因して生じる安全上のリスクを排除することが可能である。
【0014】
主にLiAlCl xSOの組成を有するSO系電解質が使用される。しかしながらナトリウム導電塩も研究された。米国特許出願第4891281号明細書([V1]と称される)にはSO系電解質において、とりわけ例えばLiAlClおよびNaAlClなどのリチウム導電塩およびナトリウム導電塩を用いた研究が示されている。しかしながら、文献からはNaAlCl導電塩を用いた電解質は、LiAlCl導電塩を用いた解質よりも伝導率が悪化することがわかる。欧州特許出願公開第2860799号明細書([V2]と称される)は、NaAlCl xSOの組成を有するSO系電解質を有する充電式アルカリイオン電池を開示している。一例において電解質、ナトリウム金属アノードと、電池セルの作動時にSOを活性電極材料として酸化または還元する炭素含有カソードとの組み合わせが示されている。
【0015】
欧州特許出願公開第2860811号明細書([V3]と称される)からはNaAlCl xSOの組成を有する電解質と、金属塩化物含有カソードと、ナトリウム含有無機材料を含有するアノードとを有する電池セルが明らかである。
【0016】
SO系電解質において一般的に使用されるテトラクロロアルミン酸アルカリ導電塩(例えばLiAlCl xSOまたはNaAlCl xSO)に加えて欧州特許出願公開第3772129号明細書([V4]と称される)は、SO系電解質のための新しい導電塩群を開示している。導電塩は、中心原子のホウ素またはアルミニウムの周りにグループ化された四つの置換ヒドロキシル基を持つアニオンと、セルの活性金属からなるカチオンとで構成されている。すべての例は、この種のリチウム塩のみを用いた実験を示す。
【0017】
SO系電解質の問題は、多くの、特に有機ナトリウムイオンセルにおいて公知である、導電塩がSOに溶解不能であり、したがってSO系電解質を有する充電式ナトリウムイオンセルにおいて導電塩を用いることは適切ではないという点にある。
【0018】
よって本発明は、先行技術より公知である電解質に対して以下のような充電式電池セルを提供するという課題に基づいている:
- リチウムを用いない、
- 導電塩の良好な溶解度を有することで良好なイオン導体および電子絶縁体であり、よってイオン輸送を容易にして自己放電を最小限に抑え得るSO系電解質を含有し、
- 例えばセパレータ、電極材料、およびセル外装材などの充電式電池セルにおけるその他の構成要素に対して不活性であるSO系電解質を含有し、
- 正極において酸化的電解質分解が生じないように広い電位窓を有する、
- 負極上に安定したカバー層を有し、カバー層容量が低く、さらなる作動において負極にさらなる還元的電解質分解が生じない、
- 電気的、機械的、または熱的な誤用に対して堅牢である、
- 経済的な観点から安価で容易に入手可能である原料を含むSO系電解質を含有し、
- 負極の導体要素は、アルミニウム製の導体要素でもあり得る。
【0019】
また、この種の充電式電池セルは、特に良好なエネルギーデータおよび性能データ、高い動作安定性および寿命、特に高い使用可能な充放電サイクル数を有し、その際に充電式電池セルの作動時に電解質が分解されることがないことが意図されている。
【0020】
本発明が基づく課題は、意外にも請求項1の特徴を有する充電式電池セルによって解消された。請求項2から20は、本発明による充電式電池セルの有利である発展態様を説明するものである。本発明による充電式電池セルの有利であるさらなる発展態様は、明細書、実施例、および図面から見受けられる。
【0021】
本発明による充電式電池セルは、活性金属、少なくとも一つの正極、少なくとも一つの負極、ハウジング、および電解質を有し、活性金属はナトリウムである。電解質は、SO系であり、式(I)
【化1】
を有する、少なくとも一つの第一の導電塩を含む。式(I)において置換基R、RおよびRは、互いに独立してハロゲン原子、ヒドロキシ基、および化学基-ORから形成される群から選択される。置換基Rは、ヒドロキシ基および化学基-ORから形成される群から選択され、置換基Rは、C~C10アルキル、C~C10アルケニル、C~C10アルキニル、C~C10シクロアルキル、C~C14アリールおよびC~C14ヘテロアリールから形成される群から選択され、脂肪族基、環式基、芳香族基、およびヘテロ芳香族基は、非置換であっても置換されていてもよい。置換基R、R、R、およびRのうち少なくとも二つは、ともにZに配位されるキレート配位子を形成することが可能である。さらにアルミニウムまたはホウ素のいずれかである。
【0022】
本発明の意味合いにおける「置換基R、R、R、およびRのうち少なくとも二つからともに形成されてZに配位されるキレート配位子」という用語は、置換基R、R、R、およびRのうち少なくとも二つが互いに架橋され得ることと理解され、二つの置換基による架橋は、二座キレート配位子の形成につながる。キレート配位子は、例えば式-O-R-O-に基づいて二座であるように形成され得る。キレート配位子-O-R-O-を形成するには、構造上の観点から第一の置換基Rが好ましくはOR群、第二の置換基Rが好ましくはヒドロキシ基であり、置換基が自身の架橋された状態において化学結合の形成により互いに結合されることにより前述の式-O-R-O-を有することが可能である。キレート配位子は、例えば以下の構造式を有することが可能である:
【化2】
【0023】
キレート配位子は、中心原子Zに配位してキレート錯体を形成する。二座のキレート配位子-O-R-O-の場合、両方の酸素原子が中心原子Zに配位する。このようなキレート錯体を後述の実施例1のように合成的に製造することが可能である。「キレート錯体」とは、多座配位子(一つ以上の自由電子対を有する)が中心原子の少なくとも二つの配位部位(結合部位)を占める錯体化合物を表す。キレート配位子は、置換基R、R、R、およびRのうち三つまたは四つが互いに架橋している場合に多座配位子ともなり得る。本発明による充電式電池セルにおいて使用されるSO系電解質は、SOを低濃度の添加剤としてだけでなく、電解液中に含まれ電荷輸送の原因となる第一の導電塩のイオンの移動度がSOによって少なくとも部分的、大半、あるいは完全に保証される濃度で含有する。第一の導電塩は、電解質に溶解し、電解質内で非常に良好な溶解性を示す。導電塩は、気体のSOとともに液状の溶媒和化合物複合体を形成し得て溶媒和化合物複合体内にSOが結合する。この場合、液状の溶媒和化合物複合体の蒸気圧が純粋なSOに対して顕著に低下し、より低い蒸気圧を有する電解質が生成される。しかしながら式(I)による第一の導電塩の化学構造に応じて本発明による電解質の製造時において蒸気圧の低下が生じ得ないようにすることも本発明の範囲内にある。後者の場合、本発明による電解質の製造時において低温または加圧下において作業することが好ましい。電解質は、自の化学構造が互いに異なる、式(I)による複数の導電塩を含むことも可能である。本発明の意味合いにおける「C~C10アルキル」という用語は、1から10の炭素原子を有する直鎖状または分枝状の飽和炭化水素基を含んでなる。これには特にメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、2,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、イソヘキシル、2-エチルヘキシル、n-ヘプチル、イソヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、n-ノニル、n-デシルなどが該当する。
【0024】
本発明の意味合いにおける「C~C10アルケニル」という用語は、2から10の炭素原子を有する不飽和直鎖状または分枝状の炭化水素基を含んでなり、炭化水素基は少なくとも一つのC-C二重結合を有する。これには特にエテニル、1-プロペニル、2-プロペニル、1-n-ブテニル、2-n-ブテニル、イソブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニル、1-ヘプテニル、1-オクテニル、1-ノネニル、1-デセニルなどが該当する。
【0025】
本発明の意味合いにおける「C~C10アルキニル」という用語は、2から10の炭素原子を有する不飽和直鎖状または分枝状の炭化水素基を含んでなり、炭化水素基は少なくとも一つのC-C三重結合を有する。これには特にエチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-n-ブチニル、2-n-ブチニル、イソブチニル、1-ペンチニル、1-ヘキシニル、1-ヘプチニル、1-オクチニル、1-ノニニル、1-デシニルなどが該当する。
【0026】
本発明の意味合いにおける「C~C10シクロアルキル」という用語は、3から10の炭素原子を有する環状飽和炭化水素基を含んでなる。これには特にシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロへキシル、シクロノニルおよびシクロデカニルが該当する。
【0027】
本発明の意味合いにおける「C~C14アリール」という用語は、6から14の環状炭素原子を有する芳香族炭化水素基を含んでなる。これには特にフェニル(C基)、ナフチル(C10基)およびアントラシル(C14基)が該当する。
【0028】
本発明の意味合いにおける「C~C14ヘテロアリール」という用語は、5から14の環状炭化水素原子を有する芳香族炭化水素基を含んでなり、炭化水素原子のうち少なくとも一つが窒素原子、酸素原子、または硫黄原子によって置換または交換されている。これには特にピロリル、フーラニル、チオフェニル、ピリジニル、ピラニル、チオピラニルなどが該当する。前述のすべての炭化水素基は、それぞれI酸素原子を介して式(I)による中心原子に結合されている。
【0029】
本発明の意味合いにおける前述の全ての用語の定義において脂肪族、環式、芳香族、およびヘテロ芳香族の残基/群は、非置換であっても置換されていてもよい。置換の際、脂肪族、環式、芳香族、およびヘテロ芳香族の残基/群の水素原子がそれぞれ、例えばフッ素または塩素などの原子、または例えばCFのような化学基によって置換される。
【0030】
本発明による充電式電池セルは、活性金属として安価で容易に入手可能であるナトリウムを使用するため、先行技術より公知であるリチウムイオンセルに対して第一の大きな利点を有する。
【0031】
さらにこの種の電解質を有する本発明による充電式電池セルは、先行技術より公知であるナトリウム導電塩を有するSO系電解質を有する充電式電池セルと比べて、充電式電池セルに含まれる式(I)による第一の導電塩が、より高い酸化安定性を有することによって、より高いセル電圧において分解が生じないという利点を有する。電解質は、好ましくは少なくとも3.6ボルトの上限電位まで、さらに好ましくは少なくとも3.8ボルトの上限電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.0ボルトの上限電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.2ボルトの上限電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.4ボルトの上限電位までおよび特に好ましくは少なくとも4.6ボルトの上限電位まで酸化安定性を有する。よって、このような電解質を含んでなる本発明による充電式電池セルを使用した場合、作用電位内、すなわち充電式電池セルの両電極の充電終了電圧と放電終了電圧との間における範囲において生じる電解質分解が全くないあるいは極めて少ない。
【0032】
電解質を含む充電式電池セルの寿命は、先行技術より公知である電解質を含む充電式電池セルに比べて、顕著に長くなる。
【0033】
さらに、このような電解質を含む充電式電池セルは、低温安定性を有する。低温における電解質の伝導率は、電池セルを作動するのに十分である。
【0034】
電解質を含んでなる本発明による充電式電池セルの利点は、先行技術より公知であるナトリウム導電塩に比べて式(I)による第一の導電塩が、著しく大きいアニオン寸法を有することによって生じる欠点を凌駕する。より大きいアニオン寸法は、NaAlClの伝導率に比べて式(I)による第一の導電塩の伝導率が低くなることにつながる。
【0035】
負極
以下において負極に関する、本発明による充電式電池セルの有利である発展様態を説明する:
充電式電池セルの有利である発展様態において、負極の活物質は、金属ナトリウムおよび/または挿入材料、吸着材料、合金形成材料、および変換材料から形成される群から選択される、少なくとも一つのナトリウム貯蔵材料からなる。
【0036】
本発明による充電式電池セルの有利である発展態様によると、負極の活物質は金属ナトリウムである。このことは、ナトリウムが充電式電池セルの活性金属でもあることを意味する。活性金属は、充電式電池セルの充電時に負極の導体要素に析出される。このことは、負極が金属ナトリウムに加えて、活物質として導体要素をも含んでなることを意味する。導体要素は、負極の活物質の必要な電子伝導接続を可能とするために使用される。この目的のため導体要素は、負極の電極反応に関与する活物質と接触している。充電式電池セルの放電時において、金属ナトリウムはナトリウムイオンに変換され、ナトリウムイオンが負極から正極に移動する。
【0037】
負極の活物質として金属ナトリウムを有する本発明による充電式電池セルの別の有利な発展態様において、負極の電子伝導率を有する導体要素は、充電式電池セルの最初の充電の前に既に金属ナトリウムを含んでなり、金属ナトリウムは、電池セルの組立前に導体要素上に塗布され、導体要素とともに電池セル内に組み込まれた、または、電池セルの作動前、すなわち最初の充放電の前に先行する初期化充電過程によって、負極の導体要素上に析出されたものである。負極の活物質として金属ナトリウムを有する本発明による充電式電池セルの別の有利な発展態様において、負極の導体要素は、少なくとも部分的にナトリウム貯蔵材料から形成される。このような発展態様においては、充電式電池セルの充電時にまずは電極反応の結果として得られるナトリウムの一部がナトリウム貯蔵材料から電子伝導率を有する導体要素に蓄積される。その後、電池セルのさらなる充電時に電子伝導率を有する導体要素より金属ナトリウムが析出される。放電時に金属ナトリウムが完全または部分的に溶解してイオンの形において正極の活物質のホストマトリックス内に到達する。
【0038】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様によると負極の活物質は、挿入材料、吸着材料、合金形成材料、および変換材料から形成される群から選択される、少なくとも一つのナトリウム貯蔵材料からなる。
【0039】
本発明の意味合いにおける「挿入材料」という用語は、充電式電池セルの充電時に当該材料中に活性金属のイオンが蓄積され得て充電式電池セルの放電時に材料から活性金属のイオンが放出され得る材料であると理解される。これは電極過程が負極の表面だけではなく、負極の内部でも起こり得ることを意味する。
【0040】
本発明の意味合いにおける「吸着材料」という用語は、挿入材料とは対照的に、活性金属のイオンがナトリウムイオンセルの作動時に堆積および放出することが可能である構造を有し、イオンが表面に蓄積する材料であると理解される。多くの材料では挿入と吸着が同時に実施される。
【0041】
本発明の意味合いにおける「合金形成材料」という用語は、一般的に、例えばナトリウムなどの、活性金属とともに合金を形成する金属、金属合金、ならびに金属および金属合金の酸化物である材料であると理解され、合金形成は、負極内または負極において生じ、基本的に可逆的である。挿入材料とは対照的に、合金における活性金属は、既存の構造に蓄積されることはない。むしろ活性金属の蓄積は、相変態過程によって実施され、相変態過程によって、例えば活性金属としてナトリウムを使用した場合に、二元のナトリウム含有最終生成物となる可能性がある。合金形成時において、活物質が膨張する可能性がある。
【0042】
本発明の意味合いにおける「変換材料」という用語は、電極過程において、活性金属と活物質との間における化学化合物の可逆的な形成をもたらす、化学的変換または化学的変態を受ける材料であると理解される。
【0043】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展様態において、ナトリウム貯蔵材料は、好ましくは炭素を含有する挿入材料であり得る。本発明の意味合いにおける「炭素からなる挿入材料」という用語は、上記で定義した「挿入材料」に該当する、元素炭素からなる材料であると理解される。本発明による充電式電池セルの別の有利である発展様態において、炭素含有挿入材料は、硬質炭素(英語:ハードカーボン(card carbon))、軟質炭素(英語:ソフトカーボン(soft carbon))、グラフェン、またはヘテロ原子ドープ炭素から形成される群から選択される。硬質炭素(ハードカーボン)は、例えば、バイオマス、リグニン、セルロース、および多くの種類のポリマーなどの様々な前駆体の炭化より合成することが可能である。化石燃料由来の炭素含有材料(コークス、ピッチなど)は、一般に軟質(黒鉛化可能)とみなされ、軟質炭素群(ソフトカーボン)に分類される。ヘテロ原子ドープカーボンとは、炭素原子に加えて、例えば窒素、酸素、硫黄、リンなどの付加的な原子をその構造上または表面上に含む炭素のことである。
【0044】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展様態において炭素含有挿入材料は、硬質炭素(英語:ハードカーボン)である。
【0045】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展様態において炭素含有挿入材料は、軟質炭素(英語:ソフトカーボン)である。
【0046】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展様態において炭素含有挿入材料は、グラフェンである。
【0047】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展様態において炭素含有挿入材料は、ヘテロ原子ドープ炭素である。
【0048】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展様態においてナトリウムイオンは、表面においても吸着され得る。
【0049】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展様態において、負極のナトリウム貯蔵材料は、例えばチタン酸ナトリウム、特にNaTi、またはNaTi(POなどの少なくとも一つの炭素を含まない挿入材料からなる。本発明の意味合いにおける「炭素を含まない挿入材料」という用語は、上記で定義した「挿入材料」に該当する、炭素以外の元素からなる材料であると理解される。
【0050】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展様態において、負極のナトリウム貯蔵材料は、少なくとも一つのナトリウム合金形成材料からなる。本発明の意味合いにおける「ナトリウム合金形成材料」という用語は、ナトリウムと合金を形成する、上記で定義した合金形成材料であると理解される。
【0051】
合金形成材料としては、例えばナトリウム貯蔵金属および金属合金(例えばSn、Sb)を使用することが可能である。別法として、ナトリウム貯蔵金属および金属合金の硫化物または酸化物(例えばSnS、SbS、またはSn、Sbの酸化物ガラスなど)が合金形成材料としてあり得る。本発明による充電式電池セルの別の有利である発展様態においてナトリウムと合金を形成するアノード活物質は、電池セルにおける使用の前に既にナトリウムを含有する。措置により例えば第一のサイクルにおけるカバー層形成による容量損失が低減される。
【0052】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展様態において、負極のナトリウム貯蔵材料は、上記で定義した変換材料である、少なくとも一つのナトリウム貯蔵材料からなる。変換材料は、金属Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、およびZnの硫化物、酸化物、セレン化物、およびフッ化物、特に硫化鉄(FeS)、セレン化鉄(FeSe)、フッ化鉄(FeF)、酸化鉄(FeO)、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)、および酸化銅(CuO)から形成される群から選択することができる。
【0053】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展様態において負極は、前述のナトリウム貯蔵材料の組み合わせからなる。例えばスズ(Sb)および/または硫化スズ(SnS)と硬質炭素(英語:ハードカーボン)からなる組み合わせを使用することが可能である。
【0054】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展様態において負極は、多孔質であり、気孔率は好ましくは多くとも50%、さらに好ましくは多くとも45%、さらに好ましくは多くとも40%、さらに好ましくは多くとも35%、さらに好ましくは多くとも30%、さらに好ましくは多くとも20%、および特に好ましくは多くとも10%である。気孔率は、負極の総容積に対する空隙容量を表し、空隙容量は、いわゆる孔または空隙によって形成される。気孔率は、負極の内部表面の増加につながる。さらに気孔率は、負極の密度を減少させることで負極の重量をも減少させる。負極の個々の孔は、作動時に電解質によって完全に充填され得ることが好ましい。
【0055】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展様態において負極は、導体要素を有する。このことは、負極が活物質または挿入材料に加えて導体要素も含んでなることを意味する。導体要素は、負極の活物質の必要な電子伝導接続を可能にするために使用される。この目的のため導体要素は、負極の電極反応に関与する活物質と接触している。導体要素は、薄い金属シートまたは薄い金属箔の形において平面状に形成され得る。薄い金属箔は、有孔状または網目状構造を有することが好ましい。平面状の導体要素は、金属コーティングされたプラスチック箔からなることも可能である。金属コーティングは、0.1μmから20μmの範囲における厚さを有する。負極の活物質は、薄い金属シート、薄い金属箔、あるいは金属コーティングされたプラスチック箔の表面に塗布されていることが好ましい。活物質は、平面状の導体要素の前面および/または背面に塗布され得る。この種の平面状の導体要素は、5μmから50μmの範囲における厚さを有する。平面状の導体要素の10μmから30μmの範囲における厚さが好ましい。平面状の導体要素を使用する場合、負極の総厚さは、少なくとも20μm、好ましくは少なくとも40μm、および特に好ましくは少なくとも60μmであり得る。最大厚さは、多くとも200μm、好ましくは多くとも150μm、および特に好ましくは多くとも100μmである。一面におけるコーティングに対する負極の面積比容量は、平面状の導体要素を使用した場合に、好ましくは少なくとも0.5mAh/cmであり、さらにはこの順における以下の値が好ましい:1mAh/cm、3mAh/cm、5mAh/cm、10mAh/cm、15mAh/cm、20mAh/cm
【0056】
さらに導体要素を三次元的に、多孔金属構造の形、特に金属発泡体の形、において形成する可能性もある。「三次元的な多孔金属構造」という用語は、薄い金属シートまたは金属箔のように平面状の電極の長さと幅だけではなく、その厚さ寸法に亘っても延伸する、全ての金属製の構造を指す。三次元的な多孔金属構造体は、多孔質であるため、負極の活物質を金属構造体の孔内に取り入れることができる。取り入れられた、または塗布された活物質の量とは、負極の充填量のことである。導体要素が三次元的に多孔金属構造の形、特に金属発泡体の形、において形成されている場合、負極は、好ましくは少なくとも0.2mm、好ましくは少なくとも0.3mm、さらに好ましくは少なくとも0.4mm、さらに好ましくは少なくとも0.5mm、および特に好ましくは少なくとも0.6mmの厚さを有する。この場合、電極の厚さは、有機ナトリウムイオンセルにおいて使用される負極と比較すると顕著に大きい。別の有利である実施態様において、特に金属発泡体の形における三次元的な導体要素を使用する場合の負極の面積比容量は、好ましくは少なくとも2.5mAh/cmであり、以下の値がこの順においてさらに好ましい:5mAh/cm、15mAh/cm、25mAh/cm、35mAh/cm、45mAh/cm、55mAh/cm、65mAh/cm、75mAh/cm。導体要素が、三次元的に多孔金属構造の形、特に金属発泡体の形、において形成されている場合、負極の活物質の量、すなわち自身の面に関する電極の充填量は、少なくとも10mg/cm、好ましくは少なくとも20mg/cm、さらに好ましくは少なくとも40mg/cm、さらに好ましくは少なくとも60mg/cm、さらに好ましくは少なくとも80mg/cm、および特に好ましくは少なくとも100mg/cmである。負極の充填量は、充電式電池セルの充電過程、および放電過程に対してプラスの影響を及ぼす。
【0057】
負極の導体要素は、例えばニッケルまたは銅製であり得る。活性金属ナトリウムの電位は、例えばリチウムイオン電池において使用される活性金属リチウムの電位よりわずかに高い。これにより、リチウムとは対照的に、ナトリウムがアルミニウムと合金を形成することなく、導体要素としてアルミニウムをナトリウムセルにおいて使用することが可能である。
【0058】
本発明による電池セルの別の有利である発展態様において負極は、少なくとも一つの結合剤を有する。結合剤は、フッ化結合剤、特にフッ化ポリビニリデンおよび/またはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンによって形成されるターポリマーであることが好ましい。しかしながら、共役カルボン酸のモノマー構造単位または共役カルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩、またはこれらの組み合わせからなるポリマーからなる結合剤であってもよい。さらに結合剤は、単量体のスチレンおよびブタジエン構造単位系ポリマーからなることも可能である。さらに結合剤は、カルボキシメチルセルロース群からなる結合剤であってもよい。結合剤は、好ましくは、負極の総重量に対して多くとも20重量%、さらに好ましくは多くとも15重量%、さらに好ましくは多くとも10重量%、さらに好ましくは多くとも7重量%、さらに好ましくは多くとも5重量%、および特に好ましくは多くとも2重量%の濃度において負極内に存在する。
【0059】
本発明による電池セルの別の有利である発展態様において負極は、少なくとも一つの伝導性添加剤を有する。伝導性添加剤は、低重量、高化学抵抗、および高比表面積を有することが好ましい。伝導性添加剤の例は、粒子状炭素(カーボンブラック、スーパーP、アセチレンブラック)、繊維状炭素(カーボンナノチューブCNT、カーボン(ナノ)ファイバー)、微細に分割した黒鉛およびグラフェン(ナノシート)である。
【0060】
電解質
以下において、SO系電解質に関して本発明による充電式電池セルの有利である発展態様を説明する。
【0061】
本発明による充電式電池セルの第一の有利である発展態様において、第一の導電塩の置換基R、R、R、およびRは、互いに独立して化学基-ORの構造を有し、Rは、C~C10アルキル、C~C10アルケニル、C~C10アルキニル、C~C10シクロアルキル、C~C14アリールおよびC~C14ヘテロアリールから形成される群から選択され、脂肪族基、環式基、芳香族基、およびヘテロ芳香族基は、非置換であっても置換されていてもよい。
【0062】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様においてRは、以下から形成される群から選択される:
- C~Cアルキル、好ましくはC~Cアルキル、特に好ましくは2-プロピル、メチルおよびエチル、
- C~Cアルケニル、好ましくはC~Cアルケニル、特に好ましくはエテニルおよびプロペニル、
- C~Cアルキニル、好ましくはC~Cアルキニル、
- C~Cシクロアルキル、
- フェニル、および
- C~Cヘテロアリール、
- 脂肪族基、環式基、芳香族基、およびヘテロ芳香族基は、非置換であっても置換されていてもよい。
【0063】
「C~Cアルキル」、「C~Cアルケニル」、「C~Cアルキニル」、「C~Cシクロアルキル」、および「ヘテロアリール」の用語は、前述と同様に定義されている。
【0064】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において、SO系電解質の第一の導電塩の溶解性を向上するために、置換基Rの少なくとも一つの個別の原子または一つの原子団が、ハロゲン原子、特にフッ素原子、あるいは一つの化学基によって置換されており、化学基は、C~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、フェニル、ベンジル、および完全から部分的にハロゲン化された、特に完全から部分的にフッ化されたC~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、フェニル、およびベンジルから形成される群から選択される。化学基C~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、フェニル、およびベンジルは、前述の炭化水素基と同様の特性または化学構造を有する。
【0065】
置換基Rの少なくとも一つの原子団が、好ましくはCF基またはОSОCF基であることにより、特に高いSO系電解質における第一の導電塩の溶解性を得ることが可能である。
【0066】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において置換基R、R、R、およびRは、ヒドロキシ基(-OH)である。ヒドロキシ基の水素原子(H)は、C~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、フェニル、ベンジル、および完全から部分的にハロゲン化された、特に完全から部分的にフッ化されたC~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、フェニル、およびベンジルから形成される化学基によって置換されていてもよい。化学基C~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、フェニル、およびベンジルは、前述の炭化水素基と同様の特性または化学構造を有し、前述の定義に該当する。
【0067】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において、第一の導電塩は、以下から形成される群から選択される:
【化3】
【0068】
電解質の伝導率および/またはさらなる特性を所望する値に適合させるために本発明による充電式電池セルの別の好ましい実施態様において電解質は、式(I)による第一の導電塩とは異なる、少なくとも一つの第二の導電塩を有する。このことは電解質が第一の導電塩に加えて自身の化学組成のみならず自身の化学構造においても第一の導電塩とは異なる、一つあるいはそれ以上の第二の導電塩を含み得ることを意味する。
【0069】
本発明による充電式電池セルの別の好ましい実施態様において第二の導電塩は、アルカリ金属化合物、特にナトリウム化合物である。アルカリ金属化合物またはナトリウム化合物は、アルミン酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、ヒ酸塩およびガレートから形成される群から選択される。第二の導電塩は、テトラハロゲンアルミン酸ナトリウム、特にNaAlClであることが好ましい。
【0070】
さらに本発明による充電式電池セルの別の好ましい実施態様において電解質は、少なくとも一つの添加剤を含む。添加剤は、ビニレンカーボネートおよびその誘導体、ビニルエチレンカーボネートおよびその誘導体、メチルエチレンカーボネートおよびその誘導体、ナトリウム(ビスオキサラト)ホウ酸、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸ナトリウム、テトラフルオロ(オキサラト)リン酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、環状エキソメチレンカーボネート、スルトン、環状および非環状スルホン酸塩、非環状亜硫酸塩、環状および非環状スルフィン酸エステル、無機酸の有機エステル、非環状および環状アルカン(非環状および環状アルカンは1バールで少なくとも36℃の沸点を有する)、芳香族化合物、ハロゲン化環状および非環状スルホニルイミド、ハロゲン化環状および非環状リン酸エステル、ハロゲン化環状および非環状ホスフィン、ハロゲン化環状および非環状ホスファイト、ハロゲン化環状および非環状ホスファゼン、ハロゲン化環状および非環状シリルアミン、ハロゲン化環状および非環状ハロゲン化エステル、ハロゲン化環状および非環状アミド、ハロゲン化環状および非環状無水物およびハロゲン化有機複素環によって形成される群から選択されることが好ましい。
【0071】
充電式電池セルの別の好ましい実施態様において電解質は、電解質組成の総重量に対して以下の組成を有する:
(i)5から99.4重量%の二酸化硫黄、
(ii)0.6から95重量%の第一の導電塩、
(iii)0から25重量%の第二の導電塩、および
(iv)0から10重量%の添加剤。
【0072】
前述のとおり電解質は、式(I)による一つの第一の導電塩、および一つの第二の導電塩だけではなく、それぞれ式(I)による複数の第一の導電塩および複数の第二の導電塩を含むことが可能である。後者の場合、前述の割合は、複数の第一の導電塩と複数の第二の導電塩とを含むものである。第一の導電塩の物質量濃度は、電解質の総容積に対して0.01モル/lから10モル/l、好ましくは0.05モル/lから10モル/l、好ましくは0.1モル/lから6モル/l、および特に好ましくは0.2モル/lから3.5モル/lの範囲にある。
【0073】
本発明による充電式電池セルの別の好ましい実施態様において電解質は、1モルの導電塩当たり少なくとも0.1モルのSO、好ましくは少なくとも1モルのSO、さらに好ましくは少なくとも5モルのSO、さらに好ましくは少なくとも10モルのSOおよび特に好ましくは少なくとも20モルのSOを含む。電解質は、極めて高いモル比のSOを含むことも可能であり、好ましい上限値は、1モルの導電塩当たり2600モルのSOであり、さらに1モルの導電塩当たり1500、1000、500および100モルのSOの上限がこの順において好ましい。「1モルの導電塩当たり」という用語は、電解質に含まれる全ての導電塩を指す。SOと導電塩との間におけるこの種の濃度比を有するSO系電解質は、電解質が先行技術より公知である、例えば有機溶媒混合物系の電解質と比べて、より多量の導電塩を溶解することが可能であるという利点を有する。本発明の範囲内において、驚くべきことに、比較的小さな導電塩濃度を有する電解質は、それに伴って蒸気圧が上昇するにも関わらず、特に充電式電池セルの多数の充放電サイクルに対する安定性に関して有利であることが判明した。電解質におけるSO濃度は、電解質の伝導率に影響を及ぼす。よって、SO濃度を選択することによって、電解質の伝導率を電解質によって作動される充電式電池セルの使用目的に適用させることが可能である。SOと第一の導電塩との総重量は、電解質の重量の50重量パーセント(重量%)よりも多いことが可能であり、好ましくは60重量%より多く、さらに好ましくは70重量%より多く、さらに好ましくは80重量%より多く、さらに好ましくは85重量%より多く、さらに好ましくは90重量%より多く、さらに好ましくは95重量%より多く、あるいはさらに好ましくは99重量%より多い。
【0074】
電解質は、充電式電池セルに含まれる電解質の総量に対して、少なくとも5重量%のSOを含み得、さらに好ましいのは20重量%のSO、40重量%のSO、および60重量%のSOの値である。電解質は、95重量%までのSOを含み得て、80重量%のSO、および90重量%のSOの最大値がこの順で好ましい。
【0075】
電解質における少なくとも一つの有機溶媒の割合は、わずかあるいは全くないことも本発明の範囲内にある。好ましくは、電解質の有機溶媒の割合は、例えば一種または複数の溶媒の混合物の形で存在し、電解質の有機溶媒の割合は、電解質の重量の多くとも50重量%であり得る。特に好ましいのは、電解質の重量に対して多くとも40重量%、多くとも30重量%、多くとも20重量%、多くとも15重量%、多くとも10重量%、多くとも5重量%、あるいは多くとも1重量%である、より少ない割合である。電解質は、有機溶媒を含まないことがさらに好ましい。有機溶媒の割合がわずかである、あるいは全く存在しないことで電解質は、ほとんど、あるいは全く可燃性を有しない。このことは、この種のSO系電解質によって作動する充電式電池セルの動作安全性を向上させる。
【0076】
充電式電池セルの別の好ましい実施態様において電解質は、電解質組成の総重量に対して以下の組成を有する:
(i)5から99.4重量%の二酸化硫黄、
(ii)0.6から95重量%の第一の導電塩、
(iii)0から25重量%の第二の導電塩、
(iv)0から10重量%の添加剤、および
(v)0から50重量%の有機溶媒。
【0077】
正極
以下において、正極に関して本発明による充電式電池セルの有利である発展態様を説明する:
本発明による充電式電池セルの第一の有利である発展態様において正極は、好ましくは少なくとも3.6ボルトの上限電位まで、好ましくは少なくとも3.8ボルトの上限電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.0ボルトの上限電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.2ボルトの上限電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.4ボルトの上限電位まで、および特に好ましくは少なくとも4.6ボルトの上限電位まで充電可能である。
【0078】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において正極は、少なくとも一つの活物質を含む。活物質は、活性金属ナトリウムのイオンを貯蔵して電池セルの作動時に活性金属ナトリウムのイオンを放出して再受容することが可能である。
【0079】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において正極は、少なくとも一つの層間化合物を含む。本発明の意味合いにおける「層間化合物」という用語は、前述の挿入材料の下位カテゴリーであると理解されたい。層間化合物は、相互接続されている空所を有するホストマトリックスとして機能する。充電式電池セルの放電過程の間に活性金属のイオンが、空所内に拡散してそこに蓄積され得る。活性金属のイオンの蓄積の過程におけるホストマトリックスの構造変化は、わずかであるか全く生じない。
【0080】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において正極は、活物質として少なくとも一つの変態化合物を含む。本発明の意味合いにおける「変態化合物」という用語は、電気化学活性の間に他の材料を形成する材料であると理解されたい、すなわち電池セルの充放電の間に化学結合が分解されて再形成される。活性金属のイオンの受容および放出の際には変態化合物のマトリックスにおいて構造変化が生じる。
【0081】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において活物質は、NaM’M”の組成を有し、
- M’は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、およびZnの元素によって形成される群から選択される、少なくとも一つの金属であり、
- M”は、元素周期表の第2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、および16族の元素によって形成される群から選択される、少なくとも一つの元素であり、
- xおよびyは、それぞれ独立して0よりも大きい数であり、
- zは、0以上の数であり、さらに
- aは、0よりも大きい数である。
【0082】
組成NaM’M”における指数yおよびzは、それぞれM’またはM”で表される金属および元素の総計を表す。例えば、M‘が二つの金属M‘およびM‘を含んでなる場合、指数yはy=y1+y2であり、y1およびy2は、金属M‘およびM‘の指数を表す。指数x、y、zおよびaは、組成内の電荷が中性になるように選択されねばならない。M‘が二つの金属を含む化合物の例は、M‘=Ni、M‘=MnおよびM“=Coである、組成NaNiy1Mny2Coのナトリウムニッケルマンガンコバルト酸化物である。z=0である、すなわち別の金属または要素M“を有しない化合物の例は、コバルト酸ナトリウムNaCoである。
【0083】
例えば、M“が二つの元素、一方では金属M“と他方ではM“としてリンを含んでなる場合、指数zについてはz=z1+z2であり、z1およびz2は、金属M“とリン(M“)の指数を表す。指数x、y、zおよびaは、組成内の電荷が中性になるように選択されねばならない。M“が金属M“1であって、M“としてリンとを含んでなる化合物の例としてはM‘=Fe、M“=Mn、M“=Pおよびz2=1であるリン酸マンガン鉄ナトリウムNaFeMnz1z2である。別の組成においてM“は二つの非金属、例えばM“としてフッ素、およびM“としてリンを含んでなる場合がある。このような化合物の例は、M‘=Fe、M“=FおよびM“=Sであるフルオロ硫酸鉄ナトリウムNaFez1z2である。
【0084】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において、NaM’M”の化合物は、層状酸化物の構成を有する。M‘またはM“は、二つ以上の金属M‘、M‘、M‘またはM“、M“、M“であり得る。このような化合物の例は、NaNi0.5Mn0.2Ti0.3、Na0.90Cu0.22Fe0.30Mn0.48、Na2/3Ni2/3Te1/3、Na2/3Fe1/2Mn1/2、NaMnO、NaFe1/2Mn1/2、Na(Fe1/3Mn1/3Ni1/3)OおよびNa[Ni0.4Fe0.2Mn0.2Ti0.2]Oである。好ましいのは、M’がニッケルおよびマンガンである金属からなり、M”がコバルトである、化合物であり、よって、化合物が式NaNiy1Mny2Coを有し、y1およびy2は、互いに独立して0よりも大きい数である。この場合、式Na[Niy1Mny2Co]O(NMC)である組成、すなわち層状酸化物の構成を有するナトリウムッケルンガンバルト酸化物であり得る。ナトリウムニッケルマンガンコバルト酸化物からなる活物質の例は、Na[Ni1/3Mn1/3Co1/3]OおよびNa0.6[Ni0.25Mn0.5Co0.25]Oである。
【0085】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において組成は、式NaM’M”を有する。このような化合物は、スピネル構造である。例えばM’がコバルトでM”がマンガンであり得る。この場合、活物質はナトリウムコバルトマンガン酸化物(NaCoMnO)である。
【0086】
別の有利である発展態様において化合物は、組成NaM’M” z1M” z2を有し、M”およびM”は、それぞれ元素周期表の第2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15および16族の元素によって形成される群から選択される、少なくとも一つの元素であり、M”は、Oとともに少なくとも一つのポリアニオン構造単位を形成する。ポリアニオン構造単位は、例えば組成(M”n-、(M” 3m+1n-、または(M”n-の構造であり得、mおよびnは、互いに独立して0よりも大きい数である。このようなアニオンの例は、(SO2-、(PO3-、(SiO2-、(AsO3-、(MoO2-、(WO2-、(P4-、(CO2-、および(BO3-である。
【0087】
M”が元素リンである場合、組成NaM’M”z1M”z2を有する化合物は、いわゆる金属リン酸ナトリウムである。この化合物の例は、Na(PO、NaVPOF、NaCoP、NaNi(PO、NaMnPOF、およびNaMnPである。M”が元素硫黄である場合、NaM’M”z1M”z2の組成を有する化合物は、いわゆる金属硫酸ナトリウムである。この化合物の例は、NaFeSOFおよびNaFe(PO)(SOである。第二の化合物は、二つのポリアニオン構造単位を有する化合物である。M”が元素ケイ素である場合、組成NaM’M”z1M”z2を有する化合物は、いわゆる金属ケイ酸ナトリウムである。この化合物の例は、NaFeSiOである。
【0088】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において活物質は、組成NaM’[Fe(CN)・nHOを有し、M’は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの元素によって形成される群から選択される、少なくとも一つの金属である。M‘は、二つ以上の金属M‘、M‘、M‘などであり得る。この場合、指標yはy=y1+y2であり、y1およびy2は、金属M‘およびM‘の指数を表す。nは、0以上の数であり、x、全ての指標y(y、y1、y2など)およびaは、互いに独立して0よりも大きい数である。この種の化合物は、英語では「プルシアンブルー(Prussian blue)」や「プルシアンホワイト(Prussian white)」として公知であるヘキサシアノ鉄酸塩である。このような化合物の例は、NaNiFe(CN)、FeFe(CN)・4HO、Na0.61FeFe(CN)、Na1.89Mn[Fe(CN)0.97およびNaNi0.3Mn0.7Fe(CN)である。
【0089】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において正極は、変態化合物である、少なくとも一つの活物質を含む。変態化合物は、例えばナトリウムの、活性金属を受容する際に固体酸化還元反応が生じて、その際に材料の結晶構造が変化する。このことは化学結合の分解および再形成下において生じる。変態化合物の完全可逆反応は、例えば以下のとおりであり得る:
タイプA: MX+yNa ⇔ M+zNa(y/z)
タイプB: X+yNa ⇔ Na
【0090】
変態化合物は、金属Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの硫化物、酸化物、セレン化物、およびフッ化物、特に硫化鉄(FeS)、セレン化鉄(FeSe)、フッ化鉄(FeF)、酸化鉄(FeO)、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)および酸化銅(CuO)から形成される群から選択される。
【0091】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において正極は、少なくとも一つの金属化合物を含む。金属化合物は、金属酸化物、金属ハロゲン化物、および金属リン酸塩によって形成される群から選択される。金属化合物の金属は、元素周期表の原子番号22から28の遷移金属、特にコバルト、ニッケル、マンガン、または鉄であることが好ましい。
【0092】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において正極は、層状酸化物、スピネル、ポリアニオン化合物、または変態化合物の化学構造を有する、少なくとも一つの金属化合物を含む。
【0093】
正極は、活物質として前述の化合物または化合物の組み合わせのうち少なくとも一つを含むことは、本発明の範囲内にある。化合物の組み合わせとは、前述の材料のうち少なくとも二つを含む正極を意味する。
【0094】
本発明による電池セルの別の有利である発展様態において正極は、導体要素を有する。このことは、正極が活物質に加えて導体要素も含んでなることを意味する。導体要素は、正極の活物質の必要な電子伝導接続を可能にするために使用される。この目的のため導体要素は、正極の電極反応に関与する活物質と接触している。
【0095】
導体要素は、薄い金属シートまたは薄い金属箔の形において平面状に形成され得る。薄い金属箔は、有孔状または網目状構造を有することが好ましい。平面状の導体要素を金属コーティングされたプラスチック箔によって形成することも可能である。金属コーティングは、0.1μmから20μmの範囲における厚さを有する。正極の活物質は、薄い金属シート、薄い金属箔、または金属コーティングされたプラスチック箔の表面に塗布されていることが好ましい。活物質は、平面状の導体要素の前面および/または背面に塗布され得る。この種の平面状の導体要素は、5μmから50μmの範囲における厚さを有する。平面状の導体要素の10μmから30μmの範囲における厚さが好ましい。平面状の導体要素を使用する場合、正極の総厚さは、少なくとも20μm、好ましくは少なくとも40μmおよび特に好ましくは少なくとも60μmであり得る。最大厚さは、好ましくは多くとも200μm、好ましくは多くとも150μm、および特に好ましくは多くとも100μmである。一面におけるコーティングに対する正極の面積比容量は、平面状の導体要素を使用した場合に、好ましくは少なくとも0.5mAh/cmであり、さらにはこの順における以下の値が好ましい:1mAh/cm、3mAh/cm、5mAh/cm、10mAh/cm、15mAh/cm、20mAh/cm
【0096】
さらに正極の導体要素を三次元的に多孔金属構造の形、特に金属発泡体の形において形成する可能性もある。三次元的な多孔金属構造は、正極の活物質を金属構造体の孔内に取り入れることが可能であるように多孔質である。取り入れられたまたは塗布された活物質の量とは、正極の充填量のことである。導体要素が三次元的に多孔金属構造の形、特に金属発泡体の形において形成されている場合、正極は、好ましくは少なくとも0.2mm、好ましくは少なくとも0.3mm、さらに好ましくは少なくとも0.4mm、さらに好ましくは少なくとも0.5mm、および特に好ましくは少なくとも0.6mmの厚さを有する。別の有利である実施態様において、特に金属発泡体の形における三次元的な導体要素を使用する場合の正極の面積比容量は、好ましくは少なくとも2.5mAh/cmであり、以下の値がこの順においてさらに好ましい:5mAh/cm、15mAh/cm、25mAh/cm、35mAh/cm、45mAh/cm、55mAh/cm、65mAh/cm、75mAh/cm。導体要素が、三次元的に多孔金属構造の形、特に金属発泡体の形において形成されている場合、正極の活物質の量、すなわち自身の面に関する電極の充填量は、少なくとも10mg/cm、好ましくは少なくとも20mg/cm、さらに好ましくは少なくとも40mg/cm、さらに好ましくは少なくとも60mg/cm、さらに好ましくは少なくとも80mg/cm、および特に好ましくは少なくとも100mg/cmである。正極の充填量は、充電式電池セルの充填プロセスならびに放電プロセスに対してプラスの影響を及ぼす。
【0097】
本発明による電池セルの別の有利である発展態様において正極は、少なくとも一つの結合剤を有する。結合剤は、フッ化結合剤、特にフッ化ポリビニリデンおよび/またはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフッ化ビニリデンによって形成されるターポリマーである。しかしながら共役カルボン酸のモノマー構造単位または共役カルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩、またはこれらの組み合わせからなるポリマーからなる結合剤であってもよい。さらに結合剤は、単量体のスチレンおよびブタジエン構造単位系ポリマーからなることも可能である。さらに結合剤は、カルボキシメチルセルロース群からなる結合剤であってもよい。結合剤は、好ましくは正極の総重量に対して多くとも20重量%、さらに好ましくは多くとも15重量%、さらに好ましくは多くとも10重量%、さらに好ましくは多くとも7重量%、さらに好ましくは多くとも5重量%、および特に好ましくは多くとも2重量%の濃度において正極内に存在する。
【0098】
充電式電池セルの構造
以下において本発明による充電式電池セルの有利である発展態様をその構造に関して説明する:
充電式電池セルの機能をさらに向上させるために、本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において充電式電池セルは、交互に積層されてハウジング内に配置されている、複数の負極と複数の正極とを有する。ここで正極および負極とは、それぞれセパレータによって互いに電気的に分離されていることが好ましい。しかしながら、充電式電池セルは、コイルセルとして形成されていてもよく、コイルセルでは電極がセパレータ材とともに巻回された薄層として形成されている。セパレータは、一方では正極と負極とを空間的におよび電気的に分離し、他方ではとりわけ活性金属のイオンに対して透過性を有する。こうすることにより電気化学的に有効な大きな表面が形成され、表面によって相当する高い電流収量が可能となる。
【0099】
セパレータを不織布、膜、織布、編物、有機材料、無機材料、またはこれらの組み合わせを用いて形成することが可能である。有機セパレータは、例えば非置換ポリオレフィン(例えばポリプロピレンまたはポリエチレン)、部分的または完全にハロゲン置換されたポリオレフィン(例えば部分的にから完全にフッ素置換されたもの、特にPVDF、ETFE、PTFE)、ポリエステル、ポリアミド、またはポリスルホンからなるものであり得る。有機材料と無機材料との組み合わせを含むセパレータは、例えばガラス繊維に適切なポリマーコーティングが設けられているガラス繊維織物材料である。コーティングは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、パーフルオロエチレンプロピレン(FEP)、THV(テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、フッ化ビニリデンからなるターポリマー)、パーフルオロアルコキシポリマー(PFA)、アミノシラン、ポリプロピレン、またはポリエチレン(PE)などのフッ素含有ポリマーである。セパレータは、充電式電池セルのハウジング内において、例えばいわゆる「Z折り」の形状において折りたたまれて設けられることも可能である。Z折りの場合、帯状のセパレータが電極を通るようにあるいは電極を中心としてZ状に折りたたまれる。さらにセパレータは、セパレータ紙として形成されていてもよい。
【0100】
セパレータが被覆として形成され得、高圧電極がまたは負極がそれぞれ被覆によって覆われることも本発明の範囲内にある。被覆を不織布、膜、織布、編物、有機材料、無機材料、またはこれらの組み合わせを用いて形成することが可能である。
【0101】
正極の被覆により、充電式電池セルにおけるイオン移動およびイオン分布が均一になる。特に負極における、イオン分布が均一であればあるほど、負極への活物質の可能な充填量、ひいては充電式電池セルの使用可能容量を増やすことが可能である。同時に不均一な充填量とその結果としての活性金属の析出につながり得るリスクも回避される。利点は、充電式電池セルの正極が被覆によって覆われている場合に特に顕著に作用する。
【0102】
電極および被覆の表面寸法は、電極の被覆の外形寸法と被覆されていない電極の外形寸法とが少なくとも一つの寸法に関して一致するように互いに調整されることが好ましい。
【0103】
被覆の表面積は、電極の表面積よりも大きいものであり得ることが好ましい。この場合、被覆は、電極の境界を越えて延伸する。したがって、電極の両面を覆う被覆の二つの層が、正極の縁において縁接続によって互いに接続され得る。
【0104】
本発明による充電式電池セルの別の有利である実施態様において負極が、被覆を有するのに対して正極は被覆を有しない。
【0105】
以下において本発明のさらなる有利である特性について図面、実施例および実験を用いて詳細に記述および説明する。
【図面の簡単な説明】
【0106】
図1】本発明による充電式電池セルの第一の実施形態例の断面図である。
図2図1による第一の実施形態例による金属発泡体の三次元多孔構造の電子顕微鏡写真の詳細図である。
図3】本発明による充電式電池セルの第二の実施形態例の断面図である。
図4図3の第二の実施形態例の詳細を示した図である。
図5】本発明による充電式電池セルの第三の実施形態例を示す分解立体図である。
図6】本発明による充電式電池セルの第三の実施形態例を示す分解立体図である。
図7】負極の充放電時における、活電極物質として硬質炭素を有する三電極構造を有する実験用セルの電位[V]を容量の関数として示す図である。
図8】負極の複数回充放電時における、活電極物質として金属ナトリウムを有する三電極構造を有する実験用セルの電位[V]を、時間の関数として示す図である。
図9】正極の活物質としてコバルト酸ナトリウムを有する三電極構造を有する実験用セルのサイクル1およびサイクル2の電位経過(単位[ボルト])を容量の関数として示す図である。
図10】導電塩の濃度に対する電解質Na1および基準電解質の伝導率(単位[mS/cm])を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0107】
図1は、本発明による充電式電池セル2の第一の実施形態例の断面図を図示している。充電式電池セル2は、角柱セルとして形成されており、とりわけハウジング1を有する。ハウジング1は、三つの正極4および四つの負極5を含んでなる、電極ユニット3を囲んでいる。正極4および負極5は、電極ユニット3において交互に積層されて配置されている。しかしながら、ハウジング1は、より多くの正極4および/または負極5を収容することも可能である。一般的には、負極5の数が正極4の数を1上回ることが好ましい。これにより、電極スタックの外側の端面が負極5の電極表面によって形成される。電極4、5は、電極接続6、7を介して、充電式電池セル2の対応する接続接点9、10に接続されている。充電式電池セル2には、SO系電解質が充填され、電解質が電極4、5の、特に内側における、全ての孔または空所にできる限り完全に浸入するようにする。図1において電解質は、図示されていない。本実施形態例において正極4は、活物質として層間化合物を含む。層間化合物は、NaCoOである。
【0108】
本実施形態において電極4、5は、平面状、すなわち電極の表面積に対して厚さが小さい層として形成されている。電極は、セパレータ11によってそれぞれ互いに分離されている。充電式電池セル2のハウジング1は、実質的に立方体形状に形成され、電極4、5と断面図において示されるハウジング1の壁とは、図平面に対して垂直に延伸し、実質的に直線的で平坦に形成されている。さらに電極4、5は、それぞれの電極の活物質の必要な電子伝導接続を可能にするために使用される導体要素を有する。導電要素は、それぞれの電極4、5の電極反応に関与する活物質(図1では図示せず)と接触している。導体要素は、多孔質の金属発泡体18の形において形成されている。金属発泡体18は、電極4、5の厚さ寸法に亘って延伸している。正極4および負極5の活物質は、それぞれ金属発泡体18の孔内に取り入れられているため、活物質が金属構造の総厚さに亘って金属発泡体の孔を均一に充填している。機械的強度を向上させるために正極4は、結合剤を含む。結合剤は、フッ素ポリマーである。負極5は、挿入材料としてナトリウムイオンを受容するのに適した形の炭素を活物質として含む。負極5の構造は、正極4の構造と同様である。
【0109】
図2は、図1における第一の実施形態例の金属発泡体18の三次元多孔構造の電子顕微鏡写真を図示している。表示されたスケールに基づいて、孔Pの平均径が100μmより大きい、すなわち比較的大きいことが見受けられる。金属発泡体は、ニッケルからなる金属発泡体である。
【0110】
図3は、本発明による充電式電池セル20の第二の実施形態例の断面図を図示している。第二の実施形態例は、図1に図示される第一の実施形態例とは、電極ユニットが一つの正極23と、二つの負極22とを含んでなる点において異なる。電極は、それぞれセパレータ21によって互いに分離されており、ハウジング28によって囲まれている。正極23は、平面状の金属箔の形における導体要素26を有し、導体要素の上に正極23の活物質24が両面に亘って塗布されている。負極22も同様に平面状の金属箔の形における導体要素27を有し、導体要素の上に負極22の活物質25が両面に亘って塗布されている。別法として縁電極、すなわち電極スタックを閉止する電極、の平面状の導体要素の片面のみに活物質をコーティングすることも可能である。コーティングされない面は、ハウジング28の壁に対向する。電極22、23は、電極接続29、30を介して充電式電池セル20の対応する接続接点31、32に対して接続されている。
【0111】
図4は、図3の第二の実施形態例においてそれぞれ正極23および負極22の導体要素26、27として使用される平面状の金属箔を図示している。金属箔は、20μmの厚さの有孔状または網目状構造を有する。
【0112】
図5は、本発明による充電式電池セル40の第三の実施形態例の分解立体図を図示している。第三の実施形態例は、前述の両実施形態例とは正極44が被覆13によって覆われている点において異なる。この際、被覆13の表面積は、正極44の表面積よりも大きく、正極の境界14が図5において一点鎖線で記入されている。正極44の両面を覆う、被覆13の二つの層15、16は、正極44の周縁において縁接続17によって互いに接続されている。両負極45は、被覆されていない。電極44および45は、電極接続46および47を介して接触され得る。
【0113】
図6は、本発明による充電式電池セル101の第三の実施形態例の分解立体図を図示している。巻回電極ユニットを有する、電池セル101の重要な構造要素が図示されている。カバー部103を有する円筒形状のハウジング102内にシート状の出発材料を巻いて形成した電極ユニット105がある。シートは、一つの正極と、一つの負極と、電極間の間を延伸するセパレータとを含む複数の層からなり、セパレータは、電極を互いから電気的および機械的に隔離するものの、必要なイオン交換を可能にするには十分な多孔性またはイオン伝導率を有する。こうすることにより、電気化学的に有効な大きな表面が形成され、表面によって相当する高い電流収量が可能となる。正極は、平面状の金属箔の形における導体要素を有し、金属箔の上に正極の活物質からなる均質な混合物が両面に塗布されている。負極も同様に平面状の金属箔の形における導体要素を有し、金属箔の上に負極の活物質からなる均質な混合物が両面に塗布されている。
【0114】
ハウジング102の空所は、電極ユニット105によって占められない限り、図示されてない電解質によって充填されている。電極ユニット105の正極および負極は、正極のための対応する端子ラグ106と負極のための対応する端子ラグ107を介して、正極のための端子接続108および負極のための端子接続109と接続されており、これにより充電式電池セル101の電気接続が可能になる。図6に図示される、端子フラグ107と端子接続109とを介した負極の電気接続の別法として、負極の電気接続をハウジング102を介して実施することも可能である。
【実施例
【0115】
実施例1 基準電解質の製造
以下に説明する実験のためにSO系基準電解質を製造した。この目的のためにまず導電塩として下記に示す化合物Li1を以下の文献[V5]に記載の製造方法にしたがって製造した:
[V5]I.クロッシング、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ケミストリー、2001年、7、490
【0116】
化合物1は、ポリフルオロアルコキシアルミン酸のファミリーであり、ヘキサン中においてLiAlHと、対応するアルコールR-ОH(R=R=R=R)とから出発して以下の反応式にしたがって製造した。
【化4】
【0117】
これにより、以下に示される分子式または構造式を有する、化合物Li1を形成した:
【化5】
【0118】
基準電解質を製造するために、化合物Li1をSO中に溶解した。基準電解質内における導電塩の濃度は、0.6モル/Lであった。
【0119】
実施例2電池セルのためのSO系電解質の実施形態例の製造
以下に説明する実験のために、SO系電解質の一実施形態を製造した。この目的のために、式(I)による導電塩として下記に示す化合物Na1を以下の文献[V6]に記載の製造方法にしたがって製造した:
[V6]P.J.マリノヴスキー等、ダルトン・トランスアクションズ、2020年、49、7766から7773
式(I)による導電塩は、ヘキサン中においてNaAlHと対応するアルコールR-ОH(R=R=R=R)とから出発して以下の反応式にしたがって製造した。
【化6】
【0120】
これにより以下に示される分子式または構造式を有する、化合物Na1を形成した:
【化7】
【0121】
その後、以下に記載の方法ステップ1から4にしたがって、低温または加圧下において、化合物Na1をSO中に溶解した:
1)それぞれの化合物Na1を一つのライザーパイプ(Steigrohr)付き圧力フラスコ内に入れる、
2)圧力フラスコを排気する、
3)液状のSOを流入する、および
4)目標量のSOが添加されるまでステップ2および3を繰り返す。
【0122】
これにより電解質Na1を得た。電解質内における化合物Na1の濃度は、以下の実験説明において特に記述しない限り、0.6モル/l(電解質1リットルに対する物質量濃度)であった。電解質Na1および基準電解質を用いて以下に説明する実験を実施した。
【0123】
実験1 硬質炭素(英語:ハードカーボン)からなる負極の挙動
実験を対電極と参照電極とが、金属ナトリウムである三電極構造(作用電極、対電極、および参照電極)を有する実験用セルにおいて実施した。作用電極は、硬質炭素(英語:ハードカーボン)からなる活物質を有する電極であった。電極の組成は、硬質炭素(英語:ハードカーボン)96重量%および結合剤CMCおよびSBR合計4重量%であった。導体要素は、アルミニウムからなる箔であった。ハーフセルには電解質Na1を充填した。
【0124】
ハーフセルを複数回、0.1Cの充放電率において、0.005ボルトの電位まで充電して、1.5ボルトの電位まで放電した。図7は、ハーフセルの第五のサイクルにおける充電曲線および放電曲線の電位を図示している。一点鎖線は充電曲線の電位、実線は放電曲線の電位に相当する。
【0125】
充放電曲線は、95%を超える良好なサイクル効率を有する、電池特有の挙動を示す。
【0126】
実験2 金属ナトリウムからなる負極の挙動
実験を対電極と参照電極とが、金属ナトリウムである三電極構造(作用電極、対電極および参照電極)を有する実験用セルにおいて実施した。作用電極は、アルミニウム箔であった。ハーフセルには電解質Na1を充填した。
【0127】
金属ナトリウムの析出(充電)および溶解(放電)を実施した。この目的のためにまずは0.25mAh/cmのナトリウムを析出した。その後、0.5ボルトの電位まで放電した。充放電率はそれぞれ0.1mA/cmであった。図8は、時間に対する五つの充放電サイクルの電位経過を図示している。
【0128】
金属ナトリウムの析出および溶解は、五つのサイクルに亘って均一な経過を示す。
【0129】
実験3 活性電極物質として組成Na 0.7 CoO を有するコバルト酸ナトリウムを有する実験セル
電解質Na1内の正極における活性電極物質として、コバルト酸ナトリウムを調査するために、実験において三電極構造(作用電極、対電極、および参照電極)を有する実験用セルを製造した。正極(カソード)の活物質は、組成Na0.7CoOを有するコバルト酸ナトリウムからなるものであった。全正極の組成は、Na0.7CoO94重量%、結合剤PVDF4重量%、およびカーボンブラック2重量%であった。導体要素は、アルミニウム箔であった。対電極と参照電極とは金属ナトリウムからなるものであった。実験用セルには電解質Na1を充填した。
【0130】
実験用セルを0.1Cの充電率において、4.2ボルトの上位電位まで充電した。その後、0.1Cの放電率において、2.0ボルトの放電電位まで放電した。図9は、最初の両充放電サイクルの電位経過(単位[V])を最大充電時の充電の関数(単位%)として図示している。
【0131】
電位曲線は、安定した充放電挙動を示す。曲線経過は、この種の電極物質に特有である。
【0132】
実験4 基準電極との比較における電解質Na1の伝導率の測定
伝導率の測定のために、異なる濃度の化合物Na1を有するNa1電解質を製造した。化合物の各濃度について、伝導測定法を用いて電解質の伝導率を測定した。その際、テンパリング後、四電極センサを溶液に接触するように保持して、0.02から500mS/cmの測定範囲で測定した。
【0133】
基準電解質を用いて同様の測定を実施した。
【0134】
図10は、化合物Na1の濃度に対する電解質Na1の伝導率を図示している。比較のため、相当するLi化合物([V4]を参照)の濃度に対する基準電解質の伝導率を描画している。化合物Na1の濃度が0.6モル/Lである場合に約48mS/cmという高い伝導率の値である最大伝導率が見られる。これに対して基準電解質は、化合物Li1の濃度が0.6モル/Lから0.7モル/Lである場合に、約38mS/cmの最大伝導率を有する。
【0135】
よって、導電塩Na1を有する電解質Na1は、相当するリチウム化合物Li1を有する基準電解質よりも優れた伝導率を有する。このことが非常に意外であって、一方では前述のとおり、先行技術によるSO系電解質においてリチウム化合物がナトリウム化合物よりも良好な伝導率を示したからである([V1]US4,891,281を参照のこと)。他方では、ナトリウムイオンはリチウムイオンより大きいため、リチウム電解質についても、より優れた伝導率が期待される。表1にまとめた実験結果は、伝導率に関する意外な結果を示している。
【0136】
【表1】
これに対して先行技術より公知である、例えばLP30(1M LiPF/EC-DMC(1:1重量)などの有機電解質は、約10mS/cmの伝導率しか有しない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【図
【図
【図
【図
【図
【図
【図
【図
【図
【手続補正書】
【提出日】2024-10-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性金属、少なくとも一つの正極(4、23、44)、少なくとも一つの負極(5、22、45)、ハウジング(1、28、102)、および電解質を含む、充電式電池セル(2、20、40、101)であって、
前記活性金属はナトリウムであり、
前記電解質は、SO ベースであり、
【化1】
式(I)を有する少なくとも第一の導電塩を含み、
- 置換基R、R、およびRは、互いに独立してハロゲン原子、ヒドロキシ基および化学基-ORから形成される群から選択され、置換基Rは、ヒドロキシ基および化学基-ORから形成される群から選択され、
- 置換基Rは、C~C10アルキル、C~C10アルケニル、C~C10アルキニル、C~C10シクロアルキル、C~C14アリール、およびC~C14ヘテロアリールから形成される群から選択され、脂肪族基、環式基、芳香族基、およびヘテロ芳香族基は、非置換であっても置換されていてもよく、
- Zは、アルミニウムまたはホウ素であり、および
- 置換基R、R、R、およびRのうち少なくとも二つは、ともにZに配位されるキレート配位子を形成することが可能であることを特徴とする充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項2】
前記活性金属は、
- 金属ナトリウム、および/または
- 挿入材料、吸着材料、合金形成材料および変換材料から形成される群から選択される、少なくとも一つのナトリウム貯蔵材料として前記負極内に蓄積されていることを特徴とする、請求項1に記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項3】
前記ナトリウム貯蔵材料は、硬質炭素(英語:hard carbon)、軟質炭素(英語:soft carbon)、グラフェン、およびヘテロ原子ドープ炭素から形成される群から選択される炭素含有挿入材料であることを特徴とする、請求項2に記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項4】
前記ナトリウム貯蔵材料は、炭素を含まない挿入材料であることを特徴とする、請求項2に記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項5】
前記ナトリウム貯蔵材料は、
- ナトリウムを貯蔵する金属および金属合金、または
- 前記ナトリウムを貯蔵する金属および金属合金の硫化物および酸化物、であることを特徴とする、請求項2に記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項6】
前記ナトリウム貯蔵材料は、金属Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、およびZnの硫化物、酸化物、セレン化物およびフッ化物であることを特徴とする、請求項2に記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項7】
前記負極(5、22、45)は、少なくとも一つのナトリウム合金形成アノード材料と、少なくとも一つの炭素含有挿入材料との組み合わせを含むことを特徴とする、請求項2に記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項8】
前記正極(4、23、44)は、活物質として、NM’M”の組成を有する少なくとも一つの化合物を含有し、
- M’は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、およびZnの元素によって形成される群から選択される、少なくとも一つの金属であり、
- M”は、元素周期表の第2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、および16族の元素によって形成される群から選択される、少なくとも一つの元素であり、
- xおよびyは、それぞれ独立して0よりも大きい数であり、
- zは、0以上の数であり、および
- aは、0よりも大きい数であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項9】
前記正極(4、23、44)は、少なくとも3.6ボルトの上限電位まで充電可能であることを特徴とする、請求項1からのいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項10】
前記第一の導電塩の前記置換基R、R、R、およびRは、互いに独立して化学基-ORの構造を有し、Rは、C~C10アルキル、C~C10アルケニル、C~C10アルキニル、C~C10シクロアルキル、C~C14アリールおよびC~C14ヘテロアリールから形成される群から選択され、脂肪族基、環式基、芳香族基およびヘテロ芳香族基の群は、非置換であっても置換されていてもよいであることを特徴とする、請求項1からのいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項11】
前記Rは、
- C~Cアルキル
- C~Cアルケニル
- C~Cアルキニル
- C~Cシクロアルキル、
- フェニル、および
- C~Cヘテロアリール、
- 脂肪族基、環式基、芳香族基、およびヘテロ芳香族基は、非置換であっても置換されていてもよいから形成される群から選択されることを特徴とする、請求項1からのいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項12】
前記置換基Rの前記脂肪族基、環式基、芳香族基、およびヘテロ芳香族基は、
- 一つ以上のハロゲン原子、または
- C~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、フェニル、ベンジル、および完全または部分的にハロゲン化されたC ~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、フェニル、およびベンジルから形成される群から選択される化学基でさらに置換され得ることを特徴とする、請求項1からのいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項13】
前記置換基Rは、少なくとも一つのCF基、またはОSОCF基で置換されることを特徴とする、請求項10に記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項14】
前記キレート配位子は二座、または多座であるように形成されることを特徴とする、請求項1からのいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項15】
前記第一の導電塩は、以下から形成される群から選択されることを特徴とする、請求項1からのいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101):
【化2】
【請求項16】
前記電解質は、電解質組成の総重量に対して(i)5から99.4重量%の二酸化硫黄、(ii)0.6から95重量%の前記第一の導電塩、(iii)0から25重量%の第二の導電塩、および(iv)0から10重量%の添加剤の組成を有することを特徴とする、請求項1からのいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項17】
前記第一の導電塩の物質量濃度は、前記電解質の総容積に対して0.01モル/Lから10モル/Lの範囲にあることを特徴とする、請求項1からのいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項18】
前記電解質は、1モルの導電塩当たり少なくとも0.1モルのSO 含むことを特徴とする、請求項1からのいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項19】
前記電解質における有機溶媒の総量は、多くとも50重量%であることを特徴とする、請求項1からのいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【請求項20】
前記負極(5、22、45)の導体要素は、ニッケル、銅、またはアルミニウムから形成されることを特徴とする、請求項1からのいずれか一つに記載の充電式電池セル(2、20、40、101)。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
先行技術より公知である発展様態では、充電式電池セルにおいて有機電解質に代えて二酸化硫黄(SOベース電解質を使用している。SO ベース電解質を含む充電式電池セルは、とりわけ高いイオン伝導率を有する。「SO ベース電解質」という用語は、SOを添加剤として低濃度で含むだけではなく、電解質に含まれており電荷輸送を実施させる導電塩のイオン移動度が少なくとも部分的、大半、あるいは完全にSOによって保証される電解質であると理解される。よってSOは、導電塩のための溶媒として機能する。導電塩は、気体状のSOとともに液状の溶媒和化合物複合体を形成することが可能であり、この場合SOが結合して蒸気圧が純粋なSOに対して顕著に低下する。より低い蒸気圧を有する電解質が生成される。この種のSO ベース電解質は、前述の有機電解質と比べて不燃性という利点を有する。よって、電解質の可燃性に起因して生じる安全上のリスクを排除することが可能である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
主にLiAlCl xSOの組成を有するSO ベース電解質が使用される。しかしながらナトリウム導電塩も研究された。米国特許出願第4891281号明細書([V1]と称される)にはSO ベース電解質において、とりわけ例えばLiAlClおよびNaAlClなどのリチウム導電塩およびナトリウム導電塩を用いた研究が示されている。しかしながら、文献からはNaAlCl導電塩を用いた電解質は、LiAlCl導電塩を用いた解質よりも伝導率が悪化することがわかる。欧州特許出願公開第2860799号明細書([V2]と称される)は、NaAlCl xSOの組成を有するSO ベース電解質を有する充電式アルカリイオン電池を開示している。一例において電解質、ナトリウム金属アノードと、電池セルの作動時にSOを活性電極材料として酸化または還元する炭素含有カソードとの組み合わせが示されている。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0016
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0016】
SO ベース電解質において一般的に使用されるテトラクロロアルミン酸アルカリ導電塩(例えばLiAlCl xSOまたはNaAlCl xSO)に加えて欧州特許出願公開第3772129号明細書([V4]と称される)は、SO ベース電解質のための新しい導電塩群を開示している。導電塩は、中心原子のホウ素またはアルミニウムの周りにグループ化された四つの置換ヒドロキシル基を持つアニオンと、セルの活性金属からなるカチオンとで構成されている。すべての例は、この種のリチウム塩のみを用いた実験を示す。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
SO ベース電解質の問題は、多くの、特に有機ナトリウムイオンセルにおいて公知である、導電塩がSOに溶解不能であり、したがってSO ベース電解質を有する充電式ナトリウムイオンセルにおいて導電塩を用いることは適切ではないという点にある。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
よって本発明は、先行技術より公知である電解質に対して以下のような充電式電池セルを提供するという課題に基づいている:
- リチウムを用いない、
- 導電塩の良好な溶解度を有することで良好なイオン導体および電子絶縁体であり、よってイオン輸送を容易にして自己放電を最小限に抑え得るSO ベース電解質を含有し、
- 例えばセパレータ、電極材料、およびセル外装材などの充電式電池セルにおけるその他の構成要素に対して不活性であるSO ベース電解質を含有し、
- 正極において酸化的電解質分解が生じないように広い電位窓を有する、
- 負極上に安定したカバー層を有し、カバー層容量が低く、さらなる作動において負極にさらなる還元的電解質分解が生じない、
- 電気的、機械的、または熱的な誤用に対して堅牢である、
- 経済的な観点から安価で容易に入手可能である原料を含むSO ベース電解質を含有し、
- 負極の導体要素は、アルミニウム製の導体要素でもあり得る。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
本発明による充電式電池セルは、活性金属、少なくとも一つの正極、少なくとも一つの負極、ハウジング、および電解質を有し、活性金属はナトリウムである。電解質は、SO ベースであり、式(I)
【化1】
を有する、少なくとも一つの第一の導電塩を含む。式(I)において置換基R、RおよびRは、互いに独立してハロゲン原子、ヒドロキシ基、および化学基-ORから形成される群から選択される。置換基Rは、ヒドロキシ基および化学基-ORから形成される群から選択され、置換基Rは、C~C10アルキル、C~C10アルケニル、C~C10アルキニル、C~C10シクロアルキル、C~C14アリールおよびC~C14ヘテロアリールから形成される群から選択され、脂肪族基、環式基、芳香族基、およびヘテロ芳香族基は、非置換であっても置換されていてもよい。置換基R、R、R、およびRのうち少なくとも二つは、ともにZに配位されるキレート配位子を形成することが可能である。さらにアルミニウムまたはホウ素のいずれかである。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0023】
キレート配位子は、中心原子Zに配位してキレート錯体を形成する。二座のキレート配位子-O-R-O-の場合、両方の酸素原子が中心原子Zに配位する。このようなキレート錯体を後述の実施例1のように合成的に製造することが可能である。「キレート錯体」とは、多座配位子(一つ以上の自由電子対を有する)が中心原子の少なくとも二つの配位部位(結合部位)を占める錯体化合物を表す。キレート配位子は、置換基R、R、R、およびRのうち三つまたは四つが互いに架橋している場合に多座配位子ともなり得る。本発明による充電式電池セルにおいて使用されるSO ベース電解質は、SOを低濃度の添加剤としてだけでなく、電解液中に含まれ電荷輸送の原因となる第一の導電塩のイオンの移動度がSOによって少なくとも部分的、大半、あるいは完全に保証される濃度で含有する。第一の導電塩は、電解質に溶解し、電解質内で非常に良好な溶解性を示す。導電塩は、気体のSOとともに液状の溶媒和化合物複合体を形成し得て溶媒和化合物複合体内にSOが結合する。この場合、液状の溶媒和化合物複合体の蒸気圧が純粋なSOに対して顕著に低下し、より低い蒸気圧を有する電解質が生成される。しかしながら式(I)による第一の導電塩の化学構造に応じて本発明による電解質の製造時において蒸気圧の低下が生じ得ないようにすることも本発明の範囲内にある。後者の場合、本発明による電解質の製造時において低温または加圧下において作業することが好ましい。電解質は、自の化学構造が互いに異なる、式(I)による複数の導電塩を含むことも可能である。本発明の意味合いにおける「C~C10アルキル」という用語は、1から10の炭素原子を有する直鎖状または分枝状の飽和炭化水素基を含んでなる。これには特にメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、2,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、イソヘキシル、2-エチルヘキシル、n-ヘプチル、イソヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、n-ノニル、n-デシルなどが該当する。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0031
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0031】
さらにこの種の電解質を有する本発明による充電式電池セルは、先行技術より公知であるナトリウム導電塩を有するSO ベース電解質を有する充電式電池セルと比べて、充電式電池セルに含まれる式(I)による第一の導電塩が、より高い酸化安定性を有することによって、より高いセル電圧において分解が生じないという利点を有する。電解質は、好ましくは少なくとも3.6ボルトの上限電位まで、さらに好ましくは少なくとも3.8ボルトの上限電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.0ボルトの上限電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.2ボルトの上限電位まで、さらに好ましくは少なくとも4.4ボルトの上限電位までおよび特に好ましくは少なくとも4.6ボルトの上限電位まで酸化安定性を有する。よって、このような電解質を含んでなる本発明による充電式電池セルを使用した場合、作用電位内、すなわち充電式電池セルの両電極の充電終了電圧と放電終了電圧との間における範囲において生じる電解質分解が全くないあるいは極めて少ない。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0060
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0060】
電解質
以下において、SO ベース電解質に関して本発明による充電式電池セルの有利である発展態様を説明する。
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0064
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0064】
本発明による充電式電池セルの別の有利である発展態様において、SO ベース電解質の第一の導電塩の溶解性を向上するために、置換基Rの少なくとも一つの個別の原子または一つの原子団が、ハロゲン原子、特にフッ素原子、あるいは一つの化学基によって置換されており、化学基は、C~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、フェニル、ベンジル、および完全から部分的にハロゲン化された、特に完全から部分的にフッ化されたC~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、フェニル、およびベンジルから形成される群から選択される。化学基C~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、フェニル、およびベンジルは、前述の炭化水素基と同様の特性または化学構造を有する。
【手続補正12】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0065
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0065】
置換基Rの少なくとも一つの原子団が、好ましくはCF基またはОSОCF基であることにより、特に高いSO ベース電解質における第一の導電塩の溶解性を得ることが可能である。
【手続補正13】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0073
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0073】
本発明による充電式電池セルの別の好ましい実施態様において電解質は、1モルの導電塩当たり少なくとも0.1モルのSO、好ましくは少なくとも1モルのSO、さらに好ましくは少なくとも5モルのSO、さらに好ましくは少なくとも10モルのSOおよび特に好ましくは少なくとも20モルのSOを含む。電解質は、極めて高いモル比のSOを含むことも可能であり、好ましい上限値は、1モルの導電塩当たり2600モルのSOであり、さらに1モルの導電塩当たり1500、1000、500および100モルのSOの上限がこの順において好ましい。「1モルの導電塩当たり」という用語は、電解質に含まれる全ての導電塩を指す。SOと導電塩との間におけるこの種の濃度比を有するSO ベース電解質は、電解質が先行技術より公知である、例えば有機溶媒混合物系の電解質と比べて、より多量の導電塩を溶解することが可能であるという利点を有する。本発明の範囲内において、驚くべきことに、比較的小さな導電塩濃度を有する電解質は、それに伴って蒸気圧が上昇するにも関わらず、特に充電式電池セルの多数の充放電サイクルに対する安定性に関して有利であることが判明した。電解質におけるSO濃度は、電解質の伝導率に影響を及ぼす。よって、SO濃度を選択することによって、電解質の伝導率を電解質によって作動される充電式電池セルの使用目的に適用させることが可能である。SOと第一の導電塩との総重量は、電解質の重量の50重量パーセント(重量%)よりも多いことが可能であり、好ましくは60重量%より多く、さらに好ましくは70重量%より多く、さらに好ましくは80重量%より多く、さらに好ましくは85重量%より多く、さらに好ましくは90重量%より多く、さらに好ましくは95重量%より多く、あるいはさらに好ましくは99重量%より多い。
【手続補正14】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0075
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0075】
電解質における少なくとも一つの有機溶媒の割合は、わずかあるいは全くないことも本発明の範囲内にある。好ましくは、電解質の有機溶媒の割合は、例えば一種または複数の溶媒の混合物の形で存在し、電解質の有機溶媒の割合は、電解質の重量の多くとも50重量%であり得る。特に好ましいのは、電解質の重量に対して多くとも40重量%、多くとも30重量%、多くとも20重量%、多くとも15重量%、多くとも10重量%、多くとも5重量%、あるいは多くとも1重量%である、より少ない割合である。電解質は、有機溶媒を含まないことがさらに好ましい。有機溶媒の割合がわずかである、あるいは全く存在しないことで電解質は、ほとんど、あるいは全く可燃性を有しない。このことは、この種のSO ベース電解質によって作動する充電式電池セルの動作安全性を向上させる。
【手続補正15】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0107
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0107】
図1は、本発明による充電式電池セル2の第一の実施形態例の断面図を図示している。
充電式電池セル2は、角柱セルとして形成されており、とりわけハウジング1を有する。
ハウジング1は、三つの正極4および四つの負極5を含んでなる、電極ユニット3を囲んでいる。正極4および負極5は、電極ユニット3において交互に積層されて配置されている。しかしながら、ハウジング1は、より多くの正極4および/または負極5を収容することも可能である。一般的には、負極5の数が正極4の数を1上回ることが好ましい。これにより、電極スタックの外側の端面が負極5の電極表面によって形成される。電極4、5は、電極接続6、7を介して、充電式電池セル2の対応する接続接点9、10に接続されている。充電式電池セル2には、SO ベース電解質が充填され、電解質が電極4、5の、特に内側における、全ての孔または空所にできる限り完全に浸入するようにする。図1において電解質は、図示されていない。本実施形態例において正極4は、活物質として層間化合物を含む。層間化合物は、NaCoOである。
【手続補正16】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0115
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0115】
実施例1 基準電解質の製造
以下に説明する実験のためにSO ベース基準電解質を製造した。この目的のためにまず導電塩として下記に示す化合物Li1を以下の文献[V5]に記載の製造方法にしたがって製造した:
[V5]I.クロッシング、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ケミストリー、2001年、7、490
【手続補正17】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0119
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0119】
実施例2電池セルのためのSO ベース電解質の実施形態例の製造
以下に説明する実験のために、SO ベース電解質の一実施形態を製造した。この目的のために、式(I)による導電塩として下記に示す化合物Na1を以下の文献[V6]に記載の製造方法にしたがって製造した:
[V6]P.J.マリノヴスキー等、ダルトン・トランスアクションズ、2020年、49、7766から7773
式(I)による導電塩は、ヘキサン中においてNaAlHと対応するアルコールR-ОH(R=R=R=R)とから出発して以下の反応式にしたがって製造した。
【化6】
【手続補正18】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0135
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0135】
よって、導電塩Na1を有する電解質Na1は、相当するリチウム化合物Li1を有する基準電解質よりも優れた伝導率を有する。このことが非常に意外であって、一方では前述のとおり、先行技術によるSO ベース電解質においてリチウム化合物がナトリウム化合物よりも良好な伝導率を示したからである([V1]US4,891,281を参照のこと)。他方では、ナトリウムイオンはリチウムイオンより大きいため、リチウム電解質についても、より優れた伝導率が期待される。表1にまとめた実験結果は、伝導率に関する意外な結果を示している。
【国際調査報告】