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特表2025-500924ニューラルネットワークを使用したスペクトルピークの分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-15
(54)【発明の名称】ニューラルネットワークを使用したスペクトルピークの分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/02 20060101AFI20250107BHJP
   G01J 3/24 20060101ALI20250107BHJP
   G01N 21/73 20060101ALI20250107BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20250107BHJP
   G06N 3/09 20230101ALI20250107BHJP
   G01J 3/443 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
G01J3/02 C
G01J3/24
G01N21/73
G01N21/27 F
G06N3/09
G01J3/443
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536262
(86)(22)【出願日】2022-12-14
(85)【翻訳文提出日】2024-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2022085984
(87)【国際公開番号】W WO2023111096
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】2118411.4
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508306565
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】グッツォナト アントネッラ
(72)【発明者】
【氏名】パン ニンニン
(72)【発明者】
【氏名】ヤーン ミーシャ
【テーマコード(参考)】
2G020
2G043
2G059
【Fターム(参考)】
2G020CA01
2G020CC08
2G020CC63
2G020CD04
2G020CD14
2G020CD24
2G020CD38
2G043EA08
2G043FA06
2G043JA04
2G043LA03
2G043MA01
2G043NA01
2G043NA02
2G043NA05
2G043NA13
2G059AA01
2G059EE06
2G059EE12
2G059JJ05
2G059KK04
2G059MM01
2G059MM02
2G059MM09
2G059MM14
2G059NN01
(57)【要約】
分光計コントローラを操作する方法が提供される。本方法は、分光計の検出器を使用して、干渉されたピークを取得することを含み、干渉されたピークは、異なる波長の複数のスペクトル放射によって生成され、干渉されたピーク内の複数のスペクトル放射の各々が、関連付けられた検出器位置で検出器に入射する。干渉されたピークのスペクトル放射のうちの1つ以上に対して、関連付けられる曲線が、ニューラルネットワークを使用して生成され、ニューラルネットワークは、関連付けられた検出器位置を表すデータに基づいて、関連付けられる曲線の形状を示すデータを出力するように訓練される。干渉されたピークのスペクトル放射の1つ以上に対して、関連付けられる曲線が出力される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光計コントローラを操作する方法であって、
分光計の検出器を使用して、干渉されたピークを取得することであって、前記干渉されたピークが、異なる波長の複数のスペクトル放射によって生成され、前記干渉されたピーク内の前記複数のスペクトル放射の各々が、関連付けられた検出器位置で前記検出器に入射する、取得することと、
前記干渉されたピークの前記スペクトル放射のうちの1つ以上に対して、ニューラルネットワークを使用して、関連付けられる曲線を生成することであって、前記ニューラルネットワークが、前記関連付けられた検出器位置を表すデータに基づいて、前記関連付けられる曲線の形状を示すデータを出力するように訓練される、生成することと、
前記干渉されたピークの前記スペクトル放射のうちの1つ以上に対して、前記関連付けられる曲線を出力することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記ニューラルネットワークが、前記関連付けられる曲線の形状の符号化表現を出力し、
関連付けられる曲線を生成することが、前記符号化表現を復号することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
複数の訓練ピークに基づいて、前記ニューラルネットワークを訓練することを更に含み、各訓練ピークが、前記分光計によって生成され、異なる検出器位置に関連付けられた単一のスペクトル放射である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
訓練されるべき検出器領域のユーザ指示に基づいて、訓練が、前記検出器領域に対して開始される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記訓練ピークが、1つ以上の単一元素溶液と関連付けられる、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記単一元素溶液の個々の1つが、遷移金属溶液である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記検出器の検出器領域に対して、前記分光計によって生成された更なる訓練ピークを取得することと、
前記更なる訓練ピークに基づいて、前記ニューラルネットワークの前記訓練を繰り返すことと、を更に含む、請求項3から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記更なる訓練ピークを得るために使用される較正サンプルを識別することを更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ディスプレイデバイスに前記関連付けられる曲線を出力させた後に、後続の分析において使用するための前記関連付けられる曲線のユーザ選択を受け取ることを含むことを更に含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記分光計が、エシェル回折格子及び二次元アレイ検出器を備え、前記分光計が、前記エシェル回折格子を使用して、光を前記二次元検出器上に回折させて、サンプルスペクトルを生成する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
サンプルピークを干渉されたピークとして識別することを更に含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記サンプルピークを干渉されたピークとして識別することが、前記サンプルピークの一次導関数を計算することを含み、前記サンプルピークの前記一次導関数のゼロ交差の数に基づいて、前記サンプルピークが干渉されたピークであると決定される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記干渉されたピークにおける各スペクトル放射の前記関連付けられた検出器位置が、前記サンプルピークの前記一次導関数の前記ゼロ交差に基づいて決定される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記分光計コントローラが、ディスプレイデバイスに、前記関連付けられる曲線を出力させる、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記分光計コントローラが、前記関連付けられる曲線の下の面積に基づいて、元素の濃度を計算する、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記分光計が、光学発光分光計であり、前記分光計コントローラが、光学発光分光計コントローラである、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記分光計の前記検出器が、アレイ検出器である、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記干渉されたピークにおける前記スペクトル放射の各々に対して、曲線が出力される、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
スペクトル放射に関連付けられた比較曲線が、前記干渉されたピークの他のスペクトル放射に対する曲線を、前記干渉されたピークから減算することによって取得される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記スペクトル放射の前記比較曲線を、同じスペクトル放射に対して前記分光計コントローラによって出力された曲線と比較することと、
前記比較に基づいて、前記分光計コントローラによって出力された前記曲線についての信頼レベルを決定することと、を更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
分光計のための分光計コントローラであって、
分光計の検出器を使用して干渉されたピークを取得することであって、前記干渉されたピークが、異なる波長の複数のスペクトル放射によって生成され、前記干渉されたピーク内の前記複数のスペクトル放射の各々が、関連付けられた検出器位置において前記検出器に入射する、取得することと、
前記干渉されたピークの前記スペクトル放射のうちの1つ以上に対して、ニューラルネットワークを使用して、関連付けられる曲線を生成することであって、ニューラルネットワークが、前記関連付けられた検出器位置を表すデータに基づいて、前記関連付けられる曲線の形状を示すデータを出力するように訓練される、生成することと、
前記干渉されたピークの前記スペクトル放射のうちの1つ以上に対して、前記関連付けられる曲線を出力することと、を行うように構成されている、分光計コントローラ。
【請求項22】
分光測定システムであって、
検出器を備える分光計であって、前記検出器を使用してサンプルからサンプルスペクトルを生成するように構成された分光計と、
前記サンプルスペクトルを処理するように構成された分光計コントローラであって、前記コントローラが、
前記分光計の前記検出器を使用して前記サンプルスペクトルから干渉されたピークを取得することであって、前記干渉されたピークが、異なる波長の複数のスペクトル放射によって生成され、前記干渉されたピークにおける前記複数のスペクトル放射の各々が、関連付けられた検出器位置において前記検出器に入射する、取得することと、
前記干渉されたピークの前記スペクトル放射のうちの1つ以上に対して、ニューラルネットワークを使用して、関連付けられる曲線を生成することであって、前記ニューラルネットワークが、前記関連付けられた検出器位置を表すデータに基づいて、前記関連付けられる曲線の形状を示すデータを出力するように訓練される、生成することと、
前記干渉されたピークの前記スペクトル放射のうちの1つ以上に対して、前記関連付けられる曲線を出力することと、を行うように更に構成されている、コントローラと、を備える、分光測定システム。
【請求項23】
前記分光計が、励起源、好ましくはプラズマ源を含む、請求項22に記載の分光測定システム。
【請求項24】
前記コントローラの1つ以上の処理デバイスによって実行されると、請求項21に記載の分光計コントローラ、又は請求項22若しくは23に記載の分光測定システムに、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法のステップを実行させるように構成された命令を含む、コンピュータプログラム。
【請求項25】
請求項21に記載のコンピュータプログラムが記憶された、コンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スペクトルピークを分析する方法に関する。特に、本開示は、分光計を使用して生成されたスペクトルピークを分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分光測定は、サンプルを分析するための分析技法である。
【0003】
したがって、分光計は、サンプルから複数のスペクトルピークを生成し得る。複数のスペクトルピークを分析するプロセスの一部に、測定データからのスペクトルピークを識別することが含まれる。識別プロセスには、典型的には、ピーク位置(及び関連付けられた波長)並びにピーク強度を識別するために、測定データに曲線を適合させることが含まれる。ピーク波長及び強度を使用して、サンプル内に存在する元素及び各元素の相対量を決定することができる。
【0004】
測定データに曲線を適合させるプロセスは、典型的には、ピーク形状に関する仮定を含む。例えば、「Quantification and deconvolution of asymmetric LC-MS peaks using the bi-Gaussian mixture model and statistical model selection」,Yu T.,and Peng H.,BMC Bioinformatics(2010年11月12日)では、液体クロマトグラフィー質量分析システムを用いて測定された非対称クロマトグラフィーピークを定量化するための方法を説明している。説明された方法では、二重ガウスピークモデルを使用して、測定データに曲線を適合させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
分光測定において、サンプルから生成されるスペクトルピークは、同様の波長を有する2つ以上のスペクトルピークを含み得る。その結果、スペクトルピークが検出器上に結像するとき、同様の波長のスペクトルピークが重なり得る。スペクトルピークが重なると、重なっているスペクトルピーク間の干渉の結果、誤った識別につながる可能性がある。
【0006】
スペクトルピークの重なりが生じる場合、ユーザは、重なっているスペクトルピークを更なる分析のために使用しないことを選択することがある。重なっているスペクトルピークの分析を断念すると、サンプルを分析するのにかかる時間が増加し、重なっているピークをレビューするためにユーザ入力が必要となり、利用可能なスペクトルデータの全てを活用することができなくなる。
【0007】
代替的に、「Interelement corrections in spectrochemistry」,Volker,T.;Schatzlein,D;and Mercuro,D.,Spectroscopy,v.21,n.7,p.32(2006年7月)において説明されたように、元素間補正アルゴリズムを適用して、重なっているピークを分離することができる。元素間補正の実行は、測定状況によっては実行できない場合があり、追加のユーザ作業が必要となり、必ずしも正しい結果が得られるとは限らない。
【0008】
したがって、本開示は、先行技術の方法に関連する問題のうちの少なくとも1つに取り組む、スペクトルピーク分析のための方法を提供しようとするものであり、又は少なくとも、商業的に有用な代替案を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様によって、分光計コントローラを操作させる方法が提供される。本方法は、
分光計の検出器を使用して、干渉されたピークを取得することであって、干渉されたピークが、異なる波長の複数のスペクトル放射によって生成され、干渉されたピーク内の複数のスペクトル放射の各々が、関連付けられた検出器位置で検出器に入射する、取得することと、
干渉されたピークのスペクトル放射のうちの1つ以上に対して、ニューラルネットワークを使用して関連付けられる曲線を生成することであって、ニューラルネットワークが、関連付けられた検出器位置を表すデータに基づいて、関連付けられる曲線の形状を示すデータを出力するように訓練される、生成することと、
干渉されたピークのスペクトル放射のうちの1つ以上に対して、関連付けられる曲線を出力することと、を含む。
【0010】
第1の態様の方法によれば、分光計コントローラによって取得された干渉されたピークを処理することができる。特に、第1の態様の方法は、異なる波長の少なくとも2つのスペクトル放射によって生成される干渉されたピークを処理する。第1の態様の方法は、干渉されたピークを形成する、基礎となるスペクトル放射を識別するために、干渉されたピークに対する曲線のセットを生成する方法を提供する。したがって、第1の態様の方法は、干渉されたピークからの異なるスペクトル放射が、生成された曲線(そのパラメータは、スペクトル放射の各々のピーク強度及びピーク波長を含む)によって特徴付けられることを可能にし、その結果、干渉されたピークからの情報を更なる分析のために使用することができる。すなわち、第1の態様の方法は、計算効率が高く、ユーザによる手動介入が少なくて済むためスループットが向上するピーク識別プロセスを使用して、ユーザがサンプルスペクトルのより大きな割合を利用することを可能にする。
【0011】
干渉されたピークを処理するために、第1の態様の方法は、干渉されたピークに対する曲線のセットを生成する。本発明は、各異なるスペクトル放射からの干渉されたピークの全体的な形状への寄与が、検出器及び関連する任意の光学系の結果として、分光計によってもたらされる光学収差に少なくとも部分的に依存することを認識する。光学収差の程度は、検出器位置に依存する(検出器位置に、関連付けられた波長がある)。光学収差は、位置によって変化する性質があるため、検出器にわたって各スペクトル放射が同じピーク形状を有し、その結果、ピーク形状は位置に依存しないと仮定する、いかなる従来技法を使用したとしても、干渉されたピークに正確に曲線を適合させることは困難である。そのような任意の仮定は、分光計によってもたらされる光学収差の性質が原因で、不正確な分析につながる。
【0012】
分光計の光学収差を考慮することによって、各スペクトル放射に関連付けられたピーク形状をより正確に生成することができる。したがって、干渉されたピークに対する各スペクトル放射の寄与をより正確に説明し得る。例えば、干渉されたピーク下のエリアは、スペクトル放射のうちの1つ以上に、より正確に起因し得て、それによって、関連付けられたピーク下のエリアに基づく、後続の任意の分析技法の精度が向上する。
【0013】
干渉されたピークの曲線のセットを正確に生成するために、第1の態様の方法は、干渉されたピークを形成する各スペクトル放射のピーク形状を出力するニューラルネットワーク技法を提供する。いくつかの実施形態では、干渉されたピークに関連付けられる曲線のセットは、ニューラルネットワーク技法によって出力されたピーク形状セットであり、一方、他の実施形態では、ニューラルネットワーク技法によって出力されたピーク形状セットは、干渉されたピークに関連付けられる複数の調整された曲線を含む曲線のセットを生成するために更に修正され得る。干渉されたピークに関連付けられる曲線のセット内の各曲線は、関連付けられたピーク波長及び関連付けられたピーク強度を有し得る。次いで、曲線のセット内の曲線は、干渉されたピークを形成する、基礎となるスペクトル放射を更に処理するために、本方法によって出力され得る。
【0014】
いくつかの実施形態では、ニューラルネットワーク技法は、スペクトル放射の検出器位置を表すデータ(及び、いくつかの実施形態では、それぞれのスペクトル放射のピーク強度を表すデータ)に基づいて、干渉されたピークのスペクトル放射に関連付けられたピーク形状の符号化表現を出力するように、訓練されたニューラルネットワークを展開することを含む。いくつかの実施形態では、ニューラルネットワーク技法は、干渉されたピークに関連付けられた各スペクトル放射についてのピーク形状を生成するために、ニューラルネットワークの出力にデコーダを適用して、各ピーク形状の符号化表現を復号することを含み得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、ニューラルネットワークは、複数の訓練ピークを含む訓練データセットに基づいて、各スペクトル放射のピーク形状を予測するように訓練される。いくつかの実施形態では、各訓練ピークは、分光計によって取得された、異なる検出器位置に関連付けられた単一のスペクトル放射である。すなわち、訓練ピークは、複数の異なる検出器位置において検出器にわたって分布するスペクトルピークを特徴付けるように、異なる波長を有する。いくつかの実施形態では、訓練データセットの少なくともいくつかは、干渉されたピークを生成するために使用される同じ分光計によって取得される。したがって、ニューラルネットワークは、処理されるサンプルピークを生成するのと同じ分光計からの測定データを使用して訓練してもよく、したがって、処理されるサンプルスペクトル内に存在する光学収差は、ニューラルネットワークを訓練するために使用される訓練データ内にも存在するであろう。したがって、訓練データセットは分光計によってもたらされる光学収差を反映し得るので、ニューラルネットワークは、従来の方法よりもより正確に干渉されたピークを特徴付ける、干渉されたピークのスペクトル放射のピーク形状を出力するように訓練することができる。
【0016】
いくつかの実施形態では、訓練データセットの一部を形成する1つ以上の訓練ピークを生成するために、同じタイプの検出器を有する他の分光計を使用してもよい。すなわち、他の分光計は、同様の(好ましくは同一の)検出器及び光学配置を有し得る。例えば、概して同様の構成要素(検出器、光学配置など)を有する同様のモデルの分光計は、同様の光学収差を有し得るので、ある分光計によって生成される訓練ピークが、同様のモデルの他の分光計のための訓練データセットの一部として使用することができる。したがって、訓練データセットには、複数の分光計からの訓練ピークを含めることができる。
【0017】
いくつかの実施形態では、分光計を使用した1つ以上の較正サンプルの測定によって、訓練データセット内の複数の訓練ピークが取得される。得られた較正スペクトルが複数の既知の単一ピークスペクトル源(すなわち、干渉されていないピーク)を有するように、既知の組成を有する較正サンプルが提供されてもよい。いくつかの実施形態では、分光計の光学収差が訓練ピークによって正確に特徴付けられることを可能にするために、検出器にわたって複数の既知の単一ピークを分布させてもよい。
【0018】
いくつかの実施形態では、較正サンプルは単一元素溶液を含む。いくつかの実施形態では、単一元素溶液は遷移金属を含む。特に、較正サンプルを光学発光分光計を較正するために使用する場合は、遷移金属スペクトルは、広範囲の波長にわたる多数のスペクトル放射を含む。したがって、遷移金属の単一元素溶液を含む較正サンプルは、第1の態様の方法において使用されるニューラルネットワークのための複数の訓練ピークを提供するのによく適している。
【0019】
いくつかの実施形態において、分光計は、トポロジカル分光計である。すなわち、分光計は、その形状の特徴レベル表現(すなわち、関数近似)がトポロジカル分光計の検出器にトポロジカル的に関連付けられる信号を生成するように構成される。例えば、トポロジカル分光計は、検出器にわたってトポロジカル的に分布する信号を検出するように構成された検出器、例えばアレイ検出器であってもよい。トポロジカル分光計の例には、原子発光分光計、光学発光分光計、X線蛍光分光測定システム、及びレーザ誘起ブレークダウン分光測定システムが含まれる。
いくつかの実施形態では、分光器は、エシェル回折格子及び二次元検出器(すなわち、二次元アレイ検出器)を備え、分光器は、エシェル回折格子を使用して、光を二次元検出器上に回折させて、サンプルスペクトルを生成する。そのような分光計は、複数の次数として二次元検出器にわたってサンプルピークを分布させる。すなわち、サンプルピークは検出器にわたって空間的に分布している。したがって、スペクトル放射のピーク形状及びそれらの関連付けられた波長における、分光計によってもたらされる光学収差の影響は、非常に非線形であり得る。したがって、第1の態様の方法は、エシェル回折格子及び関連する光学素子によってもたらされる光学収差を特徴付けるのに特に適している。
【0020】
いくつかの実施形態において、本方法は、サンプルピークを干渉されたピークとして識別することを更に含む。サンプルピークを干渉されたピークとして識別するステップは、第1の態様の方法を実行する目的で、分光計コントローラが干渉されたピークを取得する前に実行してもよい。
【0021】
いくつかの実施形態では、サンプルピークを干渉されたピークとして識別することは、サンプルピークの一次導関数を計算することを含み、サンプルピークの一次導関数のゼロ交差の数が1よりも大きいとき、サンプルピークは干渉されたピークであると決定される。したがって、第1の態様の方法は、効率的な分析技法を使用して、更なる分析のために干渉されたピークを識別することができる。他の実施形態では、ユーザは、第1の態様に従って更に処理するために、特定のピーク、又はサンプルスペクトルのエリアを干渉されたピークとして指定することができる。
【0022】
いくつかの実施形態では、干渉されたピークにおける各スペクトル放射の、関連付けられた検出器位置は、サンプルピークの一次導関数のゼロ交差に基づいて決定される。したがって、サンプルピークが干渉されたピークであるかどうかを決定するプロセスはまた、干渉されたピークを形成する曲線の予測のための開始点を提供するために使用され得る。最初に決定されたピーク波長及びピーク強度は、次いで、ニューラルネットワーク技法を使用して、第1の態様の方法によって更に調整され得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、コントローラによって決定されたピーク強度は、関連付けられる曲線を生成するためにニューラルネットワークに提供され得る。いくつかの実施形態では、ニューラルネットワークは、ピーク強度を使用して、干渉されたピークのそれぞれのスペクトル放射に関連付けられる1つ以上の曲線を出力する。いくつかの実施形態では、ピーク強度は、入力としてニューラルネットワークに提供されなくてもよいが、代わりに、結果として生じる曲線のセット内の曲線が正しいピーク強度を有することを確実にするために、(例えば、スケーリングによって)ニューラルネットワークの出力に適用されてもよい。
【0024】
いくつかの実施形態では、分光計の検出器はアレイ検出器である。アレイ検出器とは、検出器がアレイとして配置された複数の検出素子(例えば、ピクセル)を含むことを理解されたい。アレイは、一次元アレイ又は二次元アレイであってもよい。
【0025】
いくつかの実施形態では、分光計は原子発光分光計であり、分光計コントローラは原子発光分光計コントローラである。特に、分光計は光学発光分光計であってもよく、分光計コントローラは光学発光分光計コントローラであってもよい。第1の態様の方法は、X線蛍光分光測定システム、レーザ誘起ブレークダウン分光システムなどの他のタイプの分光計(及び関連するコントローラ)にも適用することができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、干渉されたピークにおけるスペクトル放射の各々に対して曲線が出力される。各曲線出力を使用して、関連付けられたスペクトル放射のピーク形状を直接予測することができる。
【0027】
いくつかの実施形態では、スペクトル放射に関連付けられる比較曲線は、干渉されたピークの他のスペクトル放射の曲線を干渉されたピークから減算することによって取得される。比較曲線は、関連付けられたスペクトル放射のピーク形状も示し得ることが理解されるであろう。
【0028】
理想的には、スペクトル放射に対する比較曲線によって予測されるピーク形状は、ニューラルネットワークによって直接予測されるスペクトル放射のピーク形状とよく一致するべきである。比較曲線と直接予測された曲線との間のこの関係は、クロスチェックとして使用することができる。したがって、いくつかの実施形態では、この方法は、スペクトル放射の比較曲線を、同じスペクトル放射に対して分光計コントローラによって出力された曲線と比較することと、その比較に基づいて分光計コントローラによって出力された曲線についての信頼レベルを決定することとを含む信頼分析を実行することを更に含む。信頼レベルは、数値(例えば、平均2乗誤差)、又は2つの曲線の間の差に対する1つ以上の閾値に基づくいくつかの離散フラグ(例えば、合格/不合格、緑/黄/赤)のうちの1つであってもよい。
【0029】
本開示の第2の態様によれば、分光計のための分光計コントローラが提供される。分光計コントローラは、
分光計の検出器を使用して干渉されたピークを取得することであって、干渉されたピークは、異なる波長の複数のスペクトル放射によって生成され、干渉されたピーク内の複数のスペクトル放射の各々は、関連付けられた検出器位置において検出器に入射する、取得することと、
干渉されたピークのスペクトル放射のうちの1つ以上に対して、ニューラルネットワークを使用して関連付けられる曲線を生成することであって、ニューラルネットワークは、関連付けられた検出器位置を表すデータに基づいて関連付けられる曲線の形状を示すデータを出力するように訓練される、生成することと、
干渉されたピークのスペクトル放射のうちの1つ以上に対して、関連付けられる曲線を出力することと、を行うように構成されている。
【0030】
したがって、第2の態様の分光計コントローラは、第1の態様の方法を実行するように構成することができる。したがって、第2の態様の分光計コントローラには、第1の態様の任意選択的な機能及び関連する利点のいずれかを組み込むことができる。
【0031】
第2の態様の分光計コントローラは、分光測定システムの分光計コントローラを使用して提供されてもよい。いくつかの実施形態では、分光計コントローラは、プロセッサ(例えば、マイクロプロセッサ)などを備え得る。
【0032】
本開示の第3の態様によれば、分光測定システムが提供される。分光測定システムは、分光計及び分光計コントローラを備える。分光計は、検出器を含む。分光計は、検出器を使用してサンプルからサンプルスペクトルを生成するように構成される。分光計コントローラは、サンプルスペクトルを処理するように構成され、コントローラは、
分光計の検出器を使用してサンプルスペクトルから干渉されたピークを取得することであって、干渉されたピークは、異なる波長の複数のスペクトル放射によって生成され、干渉されたピークにおける複数のスペクトル放射の各々は、関連付けられた検出器位置において検出器に入射する、取得することと、
干渉されたピークのスペクトル放射のうちの1つ以上に対して、ニューラルネットワークを使用して、関連付けられる曲線を生成することであって、ニューラルネットワークは、関連付けられた検出器位置を表すデータに基づいて、関連付けられる曲線の形状を示すデータを出力するように訓練される、生成することと、
干渉されたピークのスペクトル放射のうちの1つ以上に対して、関連付けられる曲線を出力することと、を行うように更に構成されている。
【0033】
したがって、分光測定システムは、第2の態様の分光計コントローラを備えてもよい。本分光測定システムは、第1の態様の方法を実行するように構成され得る。したがって、第3の態様の分光測定システムには、上述した第1又は第2の態様の任意選択的な機能及び関連する利点のいずれかを組み込むことができることが理解されよう。
【0034】
いくつかの実施形態では、分光器はプラズマ源を備える。
【0035】
本開示の第4の態様によれば、コンピュータプログラムが提供される。コンピュータプログラムは、コントローラの1つ以上の処理デバイスによって実行されると、第2の態様のコントローラ又は第3の態様の分光測定システムに第1の態様のステップを実行させるように構成された命令を含む。
【0036】
本開示の第5の態様によれば、第4の態様のコンピュータプログラムを記憶しているコンピュータ可読記憶媒体が提供される。
【0037】
本発明は、いくつかの方法で実施することができ、特定の実施形態を、単なる例示として、添付の図面を参照して以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】分光測定システムの概略図を示す図である。
図2】エシェル回折格子によって生成されたスペクトルを撮像する検出器を例解する。
図3】本開示の実施形態による、サンプルスペクトルのスペクトルピークを分析する方法のブロック図を示す。
図4】異なる波長の2つのスペクトル放射から生じる干渉されたピークの例を示す。
図5】複数の訓練ピークを含む、検出器によって記録された画像を示す。
図6】スペクトルピークを符号化するために使用される自動エンコーダの概略図を示す。
図7】干渉されたピークに複数の曲線を適合させる方法のブロック図を示す。
図8】異なる波長の少なくとも3つのスペクトル放射から生じる干渉されたピークの更なる例を示す。
図9図8の干渉されたピークから生成された3つの曲線のグラフを示す。
図10図8の中心スペクトル放射に対して生成された曲線、及び関連付けられたベースライン補正のグラフを示す。
図11】本開示によるニューラルネットワークアルゴリズムを再訓練するための方法のブロック図を示す。
図12】本開示による信頼分析を実行する方法のブロック図である。
図13】信頼分析の一部として、図8の干渉されたピークに対して生成された比較曲線のグラフを示す。
図14】予測された曲線の信頼度が比較的低い場合の信頼分析の一部として、干渉されたピークに対して生成された比較曲線のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本開示の一実施形態によれば、分光測定システム10が提供される。分光測定システム10は、サンプルスペクトルを生成するために、サンプルに対して分光測定方法を実行するように構成される。分光測定システム10はまた、本開示の方法に従って、サンプルスペクトル内のサンプルピークを処理してもよい。分光測定システム10の概略図が図1に示される。図1に示されるように、分光測定システム10は、励起源11、光学配置12、検出器13、プロセッサ(μP)14、メモリ15、及び入力/出力(input/output、I/O)ユニット16を備える。図1の分光測定システム10は、発光分光測定システムであってもよいが、本明細書に開示される実施形態は、X線蛍光分光測定システム、レーザ誘起ブレークダウン分光測定システム、又は任意の他の好適な分光測定システムなどの任意の好適な分光測定システムに適用され得る(分光測定システム10の要素は、当技術分野で公知であるように、他の種類の分光測定システムの類似要素によって提供される)。
【0040】
図1の実施形態では、励起源11は、誘導結合プラズマ(inductively coupled plasma、ICP)源などのプラズマ源である。他の実施形態では、励起源11は、炉、又は分光測定での使用に好適な励起種を生成する任意の他の高エネルギー電磁源であってもよい。励起源11はまた、分光測定システム10を使用して分析されるサンプルを受け取るように構成され得る。例えば、励起源11がプラズマ源である場合、サンプルをプラズマ内に取り入れてもよく、そこでサンプルはプラズマと相互作用する。液体形態のサンプルは、プラズマ源に直接取り入れてもよく、一方、固体のサンプルは、例えば、レーザ溶発又は蒸発を使用して取り入れてもよい。
【0041】
図1の実施形態では、光学配置12は、エシェル回折格子及びプリズム(及び/又は更なる回折格子)を備え、励起源11(及びもし存在すればサンプルも)によって生成される光の二次元画像を生成し得る。二次元画像が、検出器13上に形成される。そのような配置において、光学配置12は、放射線が検出器13による検出に好適であるように、放射線を励起源11から検出器に向けるように構成され得ることが理解されよう。プロセッサ14に放射線情報を返すことができる検出器13の全エリアは、「フルフレーム」と呼ばれ得る。
【0042】
図1の実施形態では、検出器13は、CCD(電荷結合デバイス、charge-coupled device)アレイであってもよい。典型的なCCDアレイは、少なくとも約1024×1024ピクセル(すなわち、1メガピクセル)を有し得る。他の実施形態では、検出器13は、相補型金属酸化膜半導体(complementary metal-oxide semiconductor、CMOS)又は電荷注入デバイス(charge injection device、CID)検出器であってもよい。CCDアレイ(又は他の検出器13)は、ピクセルに入射する光の強度を表す検出器13の各ピクセルのスペクトル強度値を生成するように構成することができる。検出器13は、光子強度値をプロセッサ14に転送するように構成される。このように、検出器13は、複数の異なる波長を検出するように構成されたマルチチャネル検出器であってもよい。検出器13(図1の実施形態におけるような)は、二次元スペクトルを検出するように構成してもよい。検出器13は、更なる分析のために、検出器13の各ピクセルの記録された強度をプロセッサ14に出力するように構成される。
【0043】
プロセッサ14(コントローラ)は、1つ以上の市販のマイクロプロセッサ又は任意の他の好適な処理デバイスを備えてもよい。メモリ15は、好適な半導体メモリであってよく、プロセッサ14が本開示による方法の実施形態を実行することを可能にする命令を記憶するために使用され得る。プロセッサ14及びメモリ15は、分光測定システム10を制御して、本開示の実施形態による方法を実行するように構成され得る。このように、メモリ15は、プロセッサ14によって実行されるときに、分光測定システム10に本開示の実施形態による方法を実行させる命令を含み得る。
【0044】
分光測定システム10は、サンプルを励起源11に取り入れることによってサンプルスペクトルを生成するように構成され得る。励起源11はサンプルと相互作用し、サンプルに特有のスペクトル放射がサンプルによって放射される。励起源11及びサンプルからのスペクトル放射は、光学配置12によって検出器13に向けられる。光学配置12のエシェル回折格子は、異なる波長のスペクトル放射を様々な量で回折させ、異なるスペクトル放射に関連付けられたピークが検出器13の異なる位置で検出されるようにする。したがって、検出器13上のスペクトル放射の位置、又はスペクトル放射が入射する検出器位置を表すピクセル番号(x)から、検出器位置/ピクセル番号と分光測定システム10の波長との間の既知の関係に基づいて、波長に変換することができる。したがって、本開示による分光測定システム10は、干渉されたピークの波長を、検出器13の検出器位置又はピクセル番号と交換可能に言及することができる。
【0045】
図2は、図1の実施形態の二次元検出器13の概略図を示す。図2の二次元検出器13は、ピクセルのアレイから形成されるが、各ピクセルは、図2に個々には表されていない。図2は、エシェル回折格子及びプリズムによって回折され、検出器13上に結像する光20の次数の概略図(破線)を含む。各次数20は、異なる波長範囲に対応し、波長は各次数に沿って横方向に変化する。例えば、図2の実施形態では、光の波長は、左から右に各次数に沿って増加し得る。各次数の開始波長(左側)も、次数a)から次数i)まで増加し得る。図2はまた、検出器13上の異なる位置で検出器のピクセルのグループによって撮像される例示的な単一スペクトル放射の4つの詳細図を示す。スペクトル放射の各々のピーク形状は、少なくとも部分的に、光学配置12の光学収差に基づいて異なることが理解されよう。
【0046】
検出器13に入射する各スペクトル放射は、検出器13の複数のピクセルにわたって入射するピークとして検出することができる。スペクトル放射に関連付けられたピークの形状は、少なくとも部分的に、スペクトル放射を回折させて検出器13上に集束させるために使用される光学配置12に依存する。例えば、光学配置12がエシェル回折格子を含む場合、エシェル回折格子によってもたらされる光学収差は、スペクトル放射が向けられる検出器13上の位置に応じて変化する。したがって、分光測定システム10によって測定されるピークの形状は、ピークの検出器位置(波長を表す)に依存し得る。いくつかの光学配置12では、同じ波長が検出器13上の複数の位置に回折され得ることが理解されるであろう。したがって、検出器位置は波長に関連付けられ得るが、ピークの波長は複数の検出器位置に関連付けられ得る。
【0047】
2つのスペクトル放射が同様の波長を有する場合、各スペクトル放射に関連付けられたピークは、検出器の同様の領域に向けられ得る。2つのスペクトル放射が、1つのピークの少なくとも一部が別のピークと重なるように、検出器の同様の領域に向けられる場合、個々のピークを個別に分離することは困難であり得る。これらのピークは干渉されたピークとして知られている。特に、個々のスペクトル放射のピーク形状を検出器にわたって/波長とともに変化させ得る、光学配置によってもたらされる変化する光学収差が原因で、ピークを分離することが困難であり得る。
【0048】
したがって、本開示による分光測定システム10は、干渉されたピークを形成する異なるスペクトル放射を分離するために、サンプルスペクトルの干渉されたピークを分析する方法を提供する。
【0049】
次に、サンプルスペクトルのスペクトルピークを分析する方法100を、図3を参照して説明する。図3は、方法100のブロック図を示す。方法100は、分光測定システム10のプロセッサによって実行され得る。代替的に、方法100は、分光測定システム10によって生成されたサンプルスペクトルが提供される任意の他のプロセッサによって実行されてもよい。
【0050】
方法100のステップ102において、プロセッサ14は、サンプルスペクトルのサンプルピークが干渉されたピークであるか否かを識別する。サンプルスペクトルは、分光測定システム10のスペクトル放射から生成された複数のピークを含み得る。干渉されたピークは、検出器の同じ領域に重なるように入射する2つ以上のスペクトル放射の結果である。すなわち、2つ以上のスペクトル放射からのピークは、検出器上で近接し得る(例えば、いくつかの分光測定システム10において互いに約20ピクセル以内)ので、各スペクトル放射に関連付けられたピークの少なくとも一部が、他のスペクトル放射の1つ以上の他のピークと重なる。
【0051】
図4は、本開示の実施形態に従って処理され得る干渉されたピークの例を示す。図4は、異なる波長の2つのスペクトル放射から生じる干渉されたピークの例を示す。図4の例では、2つのスペクトル放射のピークは、互いの20ピクセル内にある。したがって、2つのスペクトル放射は重なる。
【0052】
方法100において、図4に示される干渉されたピークは、サンプルスペクトルの一次導関数を分析することによって、サンプルスペクトル内の他のピークから区別することができる。単一スペクトル放射から生じるサンプルスペクトルのサンプルピークは、例えば、ピークの最大強度に対応する波長の特定の波長範囲(例えば、サンプルピークの強度がピークのピクセルから±10ピクセル)内の一次導関数のゼロ交差の数に基づいて、干渉されたピークから区別され得る。存在する一次導関数のゼロ交差の数に基づいて、本方法は、干渉されたピークを形成する異なるスペクトル放射の数を決定することができる。干渉されたピークに存在する異なるスペクトル放射ごとに、方法100は、スペクトル放射を表す曲線を生成しようと試みる。したがって、サンプルスペクトルの一次導関数が、2つの異なるスペクトル放射が干渉されたピーク内に存在することを示す場合(図4のように)、方法100は、その後、干渉されたピーク内のスペクトル放射のうちの異なる1つに各々関連付けられる2つの曲線を含む曲線のセットを生成する。
【0053】
ステップ102において干渉されたピークが識別された場合、方法100はステップ104に進み、干渉されたピークに関連付けられる曲線のセットが生成される。干渉されたピークに関連付けられる曲線のセットを生成するために、ニューラルネットワークを使用して、干渉されたピークの一部を形成する各スペクトル放射に対するピーク形状を出力する。図4の例では、ニューラルネットワークは、干渉されたピークに適合させるべき2つのピークの形状を出力する。
【0054】
図3の方法は、干渉されたピークを処理するためにニューラルネットワーク技法に依存することが理解されるであろう。ニューラルネットワーク技法を使用してピーク形状を詳細に予測するステップ104を説明する前に、ニューラルネットワーク技法で使用されるニューラルネットワークを訓練するためのプロセスについて説明する。
【0055】
上述のように、ニューラルネットワークは、スペクトル放射のピーク波長(及び、いくつかの実施形態では、スペクトル放射のピーク強度)を表すデータに基づいて、ピーク形状を出力するように訓練され得る。ニューラルネットワークによって出力されるピーク形状は、固定数のパラメータによってピーク形状を示す、符号化されたピーク形状であってもよい。ニューラルネットワークによる特定の符号化出力は、訓練データセットに対して訓練された自動エンコーダによって生成されたものであってもよい。自動エンコーダの図を図6に示す。自動エンコーダは、エンコーダ及びデコーダを含み得て、エンコーダは入力として干渉されていないピークを受け取り、そのピークの形状の低次元の符号化表現を出力することができる。図6を参照すると、自動エンコーダ内の隠れノードの数は、入力ピークの符号化表現で使用されるパラメータの数(例えば、図6の3つのパラメータ)に対応する。デコーダは、隠れノードの数に対応するいくつかのパラメータを入力として受け取り得て、エンコーダへの入力と同じ次元数を有するピークを出力し得る。訓練データセット内の訓練ピークは、自動エンコーダの訓練がピーク形状に集中することを確実にし、自動エンコーダが強度に関連する推論を不適切に行うことを回避するために(サンプルスペクトル内の強度情報は基礎となるサンプルの特性に関連するので)、正規化され得る(例えば、訓練ピークの最大値が全て、1などの同じ一定値に等しくなるようにスケーリングされる)。(当技術分野で知られているように、それ自体がニューラルネットワークの形態をとる)自動エンコーダは、当技術分野で知られている技法を使用して訓練されて、入力ピークの次元数を隠れ層内のノードの数に低減し、次いで低減された次元数情報を使用してピークを再構成することができる。いくつかの実施形態では、自動エンコーダは、連続的により少ない数の隠れノードを用いて反復的に訓練され、結果として得られる符号化/復号性能が評価され得て、所望のレベルの性能(例えば、符号化/復号における所望の精度)を達成する最小の隠れ層(符号化におけるパラメータの数に対応する)が選択され得る。いくつかの実施形態において、自動エンコーダは、リニア自動エンコーダであり得る。
【0056】
ピーク形状情報を出力することになるニューラルネットワークを訓練するために、訓練ピークが訓練されたエンコーダに与えられ得、訓練されたエンコーダの出力は、(隠れノードの数に等しい要素の数を有する)形状パラメータベクトルであり得る。したがって、各訓練ピークは、選択された数の形状パラメータ(例えば、図6の実施形態における3つの形状パラメータ(p1,p2,p3))を含む形状パラメータベクトルに縮小され得る。訓練ピークは、この形状パラメータベクトルを訓練されたデコーダに提供することによって再構成することができる。当然ながら、他の実施形態では、特定の分光測定システム10の光学収差の性質により、異なる数のパラメータを有する形状パラメータベクトルになることがある。
【0057】
次いで、ニューラルネットワークは、訓練ピークを表す形状パラメータベクトルに対して訓練され得る。特に、ニューラルネットワークは、入力が訓練ピーク(例えば、検出器位置)のピーク波長を表すデータであり、出力が訓練ピークの形状パラメータベクトルである入出力ペアで訓練され得る。検出器13にわたる多くの異なるピーク波長に関連付けられた多数の訓練ピークを使用してニューラルネットワークを訓練するとき、ニューラルネットワークは、ピーク波長を表すデータ(例えば、入力検出器位置/ピクセル番号)に基づいて、ピークのピーク形状(形状パラメータベクトル)を予測するように学習し得る。
【0058】
上述のように、各訓練ピークは、単一のスペクトル放射から生成されてもよく、複数の訓練ピークの各々は、異なる波長を有する。複数の訓練ピークは、(例えば、図2に例解されるように)検出器13上の異なる位置の範囲からとられる。いくつかの実施形態では、複数の訓練ピークは、1つ以上の較正サンプルを使用して、分光測定システム10によって生成される。いくつかの実施形態では、較正サンプルは、単一元素溶液(すなわち、単一元素を含む溶液)であってもよい。いくつかのそのような単一元素溶液によって、検出器13は複数のまばらに分布した個々のピークを含む較正スペクトルを生成し、そのようなスペクトルを収集することによって、検出器13によって検出可能な波長の良好なカバレッジを提供することができる。いくつかの実施形態では、較正に使用される単一元素溶液のうちの1つ以上は、遷移金属から選択される単一の元素を含む。遷移金属は、分光測定に使用される場合、検出器13にわたる分光測定システム10の光学収差を特徴付けるのによく適した、複数の明確に定義され、よく分散された個々のピークを生成する。
【0059】
したがって、ニューラルネットワークは、上述のように訓練され、次いで、関心のある任意の検出器位置に対して(例えば、図6を参照して上述したベクトル(p1,p2,p3)などの形状パラメータのベクトルの形態で)ピーク形状を生成するように展開され得る。方法100のステップ104で実行されるニューラルネットワーク技法は、訓練されたデコーダを使用して、ピーク形状を記述する形状パラメータを復号して、指定された検出器位置におけるスペクトル放射を表す復号されたピーク形状を生成することを含み得る。したがって、ニューラルネットワーク技法は、干渉されたピークを分析する目的でピーク形状を予測するために訓練され、その後使用され得る。
【0060】
次に、図3のステップ104で実行される方法について説明する。上述したように、ステップ104において、干渉されたピークに関連付けられる曲線のセットが生成される。曲線のセットを生成するために、ニューラルネットワーク技法は、各スペクトル放射に対する初期波長(例えば、検出器位置)及びスペクトル放射の各々に関連付けられた強度を表すデータに基づいて、干渉されたピークの一部を形成する各スペクトル放射に対するピーク形状を予測する。図34の例では、ニューラルネットワークは、干渉されたピークに適合させる2つの曲線を生成する。
【0061】
図7は、干渉されたピークに対する曲線のセットを生成するステップ104において行われるステップの例示的なセットを説明する更なるブロック図を示す。
【0062】
ピークの形状を予測するために、ニューラルネットワークには、検出器に入射する1つ以上のスペクトル放射の初期ピーク位置(xn)(上述したように波長に相当する)、及び干渉されたピークにおけるN個のスペクトル放射の各スペクトル放射に対する初期ピーク強度(an)が提供される。したがって、ステップ112において、プロセッサ14は、干渉されたピークを処理して、初期ピーク位置(xn)及び初期ピーク強度(an)(ここで、n=1、2、...N)を決定する(例えば、上述の一次導関数技法、又は任意の他の好適な技法を使用して)。ピーク位置に対して単一の変数名(x)が与えられているが、ピーク位置は、二次元パラメータ(例えば、検出器の二次元ピクセル配列におけるx及びyピクセル)によって指定され得ることに留意されたい。
【0063】
したがって、ステップ112において、プロセッサ14は、干渉されたピークに関連付けられたN個のピークに対する初期パラメータ(x1,a1;x2,a2;...xN,aN)を組み立てる。図4の例では、関連付けられたパラメータ(x1,a1;x2,a2)で、干渉されたピークに2つの曲線(N=2)で適合させる。
【0064】
図4の例では、検出器13によって記録された干渉されたピークデータが破線で示されている。図4において、データは、図4の水平軸上の波長ではなくピクセル番号を使用して提示される。検出器13からのこのデータに基づいて、プロセッサ14は、約12に等しい第1のピーク位置(x1)及び約1.0に等しい第1の初期ピーク強度(a1)を有する第1の曲線、並びに約21に等しい第2の初期ピーク位置(x2)及び約0.1に等しい第2のピーク強度(a2)を有する第2の曲線が存在することを決定する。
【0065】
初期ピーク位置(x)及び初期ピーク強度(a)に基づいて、ステップ114において、プロセッサ14は、ニューラルネットワークを使用して曲線の初期識別を出力する。上記で説明したように、ニューラルネットワークアルゴリズムは、出力されるべきN個の曲線の各々についての形状パラメータ(例えば、三次元符号化形状表現としての(pn1,pn2,pn3))を出力するように構成される。次に、デコーダを使用して形状パラメータを復号し、干渉されたピークを形成する曲線の初期識別を提供し得る。
【0066】
いくつかの実施形態では、ピーク強度は、入力としてニューラルネットワークに提供されなくてもよいが、代わりに、(例えば、スケーリングによって)ニューラルネットワークの出力に適用して、結果として生成される曲線のセット内の曲線が正しいピーク強度を有することを確実にしてもよい。
【0067】
例えば、図4において、ピーク1及びピーク2の実線は、2つの初期出力曲線を示す。2つの曲線は、ニューラルネットワークアルゴリズムによって出力された形状パラメータから復号されたものである。
【0068】
適合させた曲線の適合を更に改善するために、ステップ116において、プロセッサ14は、最初に出力された曲線を更に調整してもよい。例えば、ステップ116における操作は、合計曲線と測定サンプルスペクトルとの間の2乗平均平方根誤差(root-mean-square error、RMSE)を最小化しようと試みるために、ピーク(例えば、それらの関連付けられたピーク波長)の位置を移動させることを含み得る。調整ステップ116は任意選択的であることが理解されよう。したがって、いくつかの実施形態では、最初に出力された曲線のセットは、更なる分析における使用に好適であり得る。したがって、いくつかの実施形態では、本方法は、方法100のステップ114からステップ106に直接進んでもよい。
【0069】
図3の方法100に戻ると、ステップ106において、干渉されたピークにおける各スペクトル放射に関連付けられる曲線が、更なる分析のために出力され得る。ステップ106は、複数の操作のうちのいずれかを含むことができる。いくつかの実施形態では、その工場出荷時に較正された位置に最も位置的に近いピークが自動的に選択され得て、その位置及び強度のみを単一の干渉のないピークを生成するために使用してもよい。いくつかの実施形態では、プロセッサ14は、曲線をディスプレイデバイス上に表示させることができ、干渉されたピークに関連付けられる複数の曲線の中からユーザに選択するように促すことができる。ユーザは、例えば、対象の分析物を表す曲線のみを選択し、その位置及び強度を使用して、単一の干渉のないピークを生成することができる。いくつかの実施形態では、ピークは、単一の干渉のないピークを生成するために、対象の分析物に関連付けられたピークのピクセル強度からの干渉であるとみなされる(例えば、それらの工場出荷時に較正された位置から最も位置的に遠いものを識別することによって)。
【0070】
ニューラルネットワークを直接使用して対象の分析物のピーク形状を予測する代わりに、いくつかの実施形態では、プロセッサ14は、対象の分析物に関連付けられたピークに干渉しているピークのピーク形状を予測してもよい。次いで、干渉しているピークに対する予測されたピーク形状は、対象の分析物に関連付けられたピーク形状を決定するために、元の信号から減算され得る。すなわち、例えば3つのスペクトル放射を含む干渉されたピークが検出された場合、2つの予測ピーク形状(干渉しているピークに関連付けられた)を干渉されたピークから減算して、対象の分析物に関連付けられた単一ピークのみを残すことができる。
【0071】
いくつかの実施形態では、方法100を使用して、干渉されたピークのスペクトル放射の曲線を生成することができる。生成された曲線は、以下で更に説明するように、スペクトル放射の背景補正方法を改善するために使用することができる。
【0072】
図8は、分光測定システム10によって生成された干渉されたピークの更なるグラフを示す。図8は、アレイ検出器のピクセルによって検出された強度(カウント/秒、Counts Per Second、CPS)を示す。図8のグラフでは、各ピクセルの検出器位置は、関連付けられた波長(nm単位)に変換されている。図8の干渉されたピークは、検出器上で互いに近接した少なくとも3つのスペクトル放射を示す3つの明らかなピークを含む。図8の中心ピークを分析するためにベースライン補正を実行する試みは、不正確な結果になる。図8に示すように、隣接するスペクトル放射からの干渉は、図8に示すベースライン補正線を歪める。その結果、干渉されたピークの中心ピークの後続の分析は、隣接するスペクトル放射からの干渉のために不正確になる可能性が高い。このような場合、ユーザは、ベースライン補正の精度の信頼が低いため、干渉されたピークを無視することが多いであろう。
【0073】
本開示の方法100によれば、干渉されたピークは、3つの曲線(曲線1、曲線2、曲線3)を含む曲線のセットを生成するために分析され得る。図9は、図8の干渉されたピークに重ね合わせて生成された曲線のセットのグラフを示す。干渉されたピークにおける3つの最も顕著なスペクトル放射の各々に対して曲線を生成することにより、スペクトル放射の各々を個別に(すなわち、干渉されたピークにおける隣接するスペクトル放射からの干渉なしに)分析することが可能になる。
【0074】
図10は、図8の干渉されたピークに重ね合わせた曲線2のグラフを示す。曲線2を使用して、干渉されたピークの中央のスペクトル放射を分析するために、改善されたベースライン補正を実行することができる。図10に示されるように、改善されたベースライン補正は、干渉されたピークの他のスペクトル放射によって歪められない。その結果、曲線2を使用して、関連付けられたスペクトル放射の強度(すなわち、曲線2の下の面積)を改善された精度で分析することができる。
【0075】
いくつかの実施形態では、ニューラルネットワーク技法は、ピーク形状の初期符号化を含まなくてもよいが、代わりに、当技術分野で知られている技術(例えば、適切な損失関数の選択)を使用して、観察されたピークを記述することができる可能な数学的分布のクラス(例えば、ガウス、ローレンツ、二重ガウス、ガウス+ローレンツ、ローレンツ+ガウスなど)を予想するように構造化されてもよく、ニューラルネットワークは、訓練中に最も適切なものを自由に推測する。加えて、いくつかの実施形態では、ニューラルネットワーク自体がピーク形状の符号化を実行してもよい。例えば、ニューラルネットワークは、誤差関数の適切な選択を介して、位置によって最も高い変化率を示すパラメータが符号化パラメータとして選択されるように符号化を実行し得る。
【0076】
したがって、ニューラルネットワーク技法を使用して、干渉されたピークの一部を形成する個々のスペクトル放射のピーク形状を生成することができることが理解されよう。したがって、本開示によるニューラルネットワークベースの分析方法は、干渉されたピークの一部を形成する個々のスペクトル放射に関する情報を決定するために使用することができる。例えば、干渉されたピークの一部を形成する異なるスペクトル放射の波長及び強度に関する情報は、本開示の実施形態に従って決定され得る。次いで、この情報(ピーク波長、ピーク強度)を使用して、サンプルの識別及び分析を支援することができる。
【0077】
いくつかの実施形態では、ニューラルネットワークは、分光測定システム10の操作中に、更なる訓練データが生成された後、及び/又はユーザから補正を受け取った後に、再訓練されてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、プロセッサ14は、ディスプレイに、(例えば、ユーザが現在の性能に満足していないので)ユーザがピーク形状を再訓練することを望むフルフレームの領域(フルフレームの一部又は全部を含み得る)をユーザがマークすることを要求させてもよい。
【0078】
図11は、本開示によるニューラルネットワークアルゴリズムを再訓練するための方法200のブロック図を示す。図11のステップ202に示すように、本方法は、再訓練するための少なくとも1つの検出器領域を識別することを含む。検出器がアレイ検出器である場合、検出器の領域は、例えば、検出器の1つ以上の次数であり得る。代替的に、検出器の領域は、検出器のエリア、例えば検出器の正方形又は長方形の領域として定義されてもよい。いくつかの実施形態では、検出器の領域は、少なくとも1つの方向に(例えば、次数に沿って)、少なくとも20ピクセル、30ピクセル、50ピクセル、70ピクセル、又は100ピクセルの延在するエリアを備えてもよい。代替的に、ユーザは、再訓練のために検出器13のフルフレームの領域を指定してもよい。ユーザは、識別ステップを手動で実行してもよく、又はプロセッサは、再訓練のために検出器13の領域を識別するように構成されてもよい。
【0079】
再訓練のために検出器の1つ以上の領域が識別されると、プロセッサは、再訓練プロセスで使用される較正サンプルを決定することができる。例えば、プロセッサ14は、次いで、準備されるべき1つ以上の較正溶液の推奨を(選択された領域に入る最も可能性の高い/最も強い放射に基づいて)ユーザに出力し得る。好ましくは、較正溶液のうちの1つ以上は、単一元素標準溶液であり、それによって元素間干渉を回避する。推奨される較正溶液は、較正溶液内の元素が、以前に識別された所望の検出器エリア内に干渉されていないピークを有するという知識に基づいて、プロセッサによって選択される。プロセッサは、単一元素較正溶液の既知のスペクトルピークのデータベースを参照することによって、較正溶液を決定し得る。
【0080】
ユーザがこれらの溶液の準備を完了すると、ステップ206において、更なる訓練ピークが分光測定システム10によって取得され得る。例えば、プロセッサ14は、所望の訓練ピークを含むスペクトルを取得するために分光測定システム10をどのように使用するかについてユーザに指示し得る。次いで、プロセッサ14は、ユーザに、スペクトルをレビューし、訓練ピークが他のピークによって干渉されていないことをチェックするか、又はそうでなければ、訓練ピークを「干渉されている」又は「干渉されていない」とマークするように要求してもよい。
【0081】
ステップ208において、プロセッサ14は、次いで、更なる訓練ピークを使用してニューラルネットワークアルゴリズムの再訓練を実行し得る。次いで、プロセッサ14は、ユーザによって「干渉されていない」として選択されたピークを取得し、それらの強度をスケーリングすることによってそれらを前処理し、それらをエンコーダに提供して、上述のように、それらの形状の符号化表現を生成し得る。各更なる訓練ピークの符号化表現は、そのピーク位置とともに、ニューラルネットワークを再訓練して、ピーク位置をピーク形状にマッピングするニューラルネットワークの能力を改善するために使用される。結果として生じる再訓練されたモデルは、メモリデバイス(例えば、ユーザの構内又はクラウド)に記憶され、後続のスペクトルのために使用されるであろう。
【0082】
上述したように、スペクトル放射に関連付けられたピーク形状(曲線)は、ニューラルネットワークを使用して、干渉されたピークから曲線を直接予測することによって得ることができることが理解されるであろう。代替的に、スペクトル放射に関連付けられたピーク形状は、干渉されたピークの他のスペクトル放射の曲線を予測し、予測された曲線を干渉されたピークから減算することによって取得され得る。
【0083】
原理的には、対象の分析物についてのピーク形状を得る2つの方法は、高度の類似性を有するピーク形状に到達すべきである。2つの方法が異なるピーク形状をもたらす場合、そのような差異は、更なる調査が必要とされることを示し得る。したがって、2つの方法によって生成された曲線を比較することは、予測された曲線が、干渉されたピークを形成するスペクトル放射の正確な反映であるという初期指示(すなわち、予測された曲線が正確であるという信頼度)を提供し得る。したがって、いくつかの実施形態では、方法100は、ステップ104で取得された曲線のセットに対して信頼分析120を実行することを含み得る。信頼分析は、曲線のセットの初期予測(ステップ114参照)に対して、又は図7のステップ116に続く調整された曲線出力に対して実行され得る。信頼分析は、曲線のセット内の1つ以上の曲線が比較的高い信頼度で予測されたか、又は比較的低い信頼度で予測されたかを示すために使用され得る。
【0084】
図12は、本開示による信頼分析120を実行する方法のブロック図である。信頼分析120は、本開示に従って、干渉されたピークに対して生成された曲線のセットに対して実行され得る。図12の信頼分析120は、曲線のセットから第1の曲線を選択するステップ122を含む。例えば、第1の曲線は、選択され得る最も高い強度のスペクトル放射に関連付けられる曲線であり得る。ステップ124において、信頼分析120は、次いで、干渉されたピーク(すなわち、元の信号)から曲線のセット内の他の曲線を減算することによって、第1の曲線に対する比較曲線を計算し得る。ステップ126において、信頼分析は、次いで、第1の曲線を比較曲線と比較し、その後、ステップ128において、曲線のセットに関連付けられた第1の曲線の信頼レベルを決定し得る。
【0085】
例えば、ステップ126において、信頼分析120は、2つの曲線の間の差を評価することによって、第1の曲線を比較曲線と比較し得る。第1の曲線及び比較曲線を構成するための好適なアルゴリズムは、2乗平均平方根誤差、平均絶対誤差、フレシェ(Frechet)距離などを含む。2つの曲線の間の差を数値的に評価するために好適な他のアルゴリズムも使用され得る。
【0086】
いくつかの実施形態では、ステップ126の比較は、生成された数値(例えば、2乗平均平方根誤差)を生成し得る。ステップ128において、決定された信頼レベルは、ステップ126で計算された数値であり得る。いくつかの実施形態において、数値は、信頼値としてより使い勝手のよい尺度で数値を提示するために拡大縮小され得る。いくつかの実施形態では、数値は、異なる信頼レベルが数値の異なる範囲に割り当てられた状態で、1つ以上の所定の閾値と比較され得る。例えば、一実施形態では、数値は信頼閾値と比較されてもよく、2乗平均平方根誤差(又は任意の他の好適なアルゴリズム及び関連付けられた数値)が信頼閾値以下である場合、第1の曲線及び比較曲線が十分に類似していることを示す第1の信頼値が曲線のセットに割り当てられ得る。信頼閾値を超える2乗平均平方根誤差については、曲線のセットに第2の信頼値を割り当てることができ、第1の曲線及び比較曲線が、更に調査することができる比較的高い程度の差異を有することを示す。
【0087】
一例として、図13は、図8及び図9の干渉されたピーク及び曲線のセットの更なるグラフを示し、ここで信頼分析が実行されている。図13に示すように、図8の曲線2が第1の曲線として選択されており、干渉ピークから曲線1及び3を減算することによって比較曲線が生成されている。比較曲線及び第1の曲線(曲線2)は、比較的高度の類似性を有し、曲線のセットが背景放射及び干渉されたピークにおける全てのスペクトル放射を説明したという高い信頼度を示すことが理解されるであろう。
【0088】
対照的に、図14は、別の干渉されたピークに対して生成された曲線のセットのグラフを示す。図14の例では、ニューラルネットワークは、干渉されたピークに対して2つの曲線(曲線1、曲線2)を生成している。第1の曲線として曲線1を使用して信頼分析を実行することは、第1の曲線と比較曲線との間に比較的大きな差があることを示す(比較曲線は、図14において波長範囲309.38~309.44nmにわたって干渉されたピークと実質的に重なる)。したがって、図14は、第1の曲線と比較曲線との間の差の2乗平均平方根誤差が第1の閾値を超え得る例であり、それによって、予測された曲線のセットにおいて比較的低い信頼度しか存在しないことを示す。したがって、信頼分析は、予測された曲線(曲線1)がそれに関連付けられた比較的低い信頼度を有するという信号をユーザに出力し得る。
【0089】
したがって、本開示による分光測定システム10及び方法は、ユーザが、分光測定システム10によって生成された干渉されたピークを分析することを可能にする。特に、干渉されたピークを形成するスペクトル放射の1つ以上に関連付けられる曲線のセットが生成されてもよく、スペクトル放射が更に分析されることを可能にする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2024-06-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光計コントローラを操作する方法であって、
分光計の検出器を使用して、干渉されたピークを取得することであって、前記干渉されたピークが、異なる波長の複数のスペクトル放射によって生成され、前記干渉されたピーク内の前記複数のスペクトル放射の各々が、関連付けられた検出器位置で前記検出器に入射する、取得することと、
前記干渉されたピークの前記スペクトル放射のうちの1つ以上に対して、ニューラルネットワークを使用して、関連付けられる曲線を生成することであって、前記ニューラルネットワークが、前記関連付けられた検出器位置を表すデータに基づいて、前記関連付けられる曲線の形状を示すデータを出力するように訓練される、生成することと、
前記干渉されたピークの前記スペクトル放射のうちの1つ以上に対して、前記関連付けられる曲線を出力することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記ニューラルネットワークが、前記関連付けられる曲線の形状の符号化表現を出力し、
関連付けられる曲線を生成することが、前記符号化表現を復号することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
複数の訓練ピークに基づいて、前記ニューラルネットワークを訓練することを更に含み、各訓練ピークが、前記分光計によって生成され、異なる検出器位置に関連付けられた単一のスペクトル放射である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
訓練されるべき検出器領域のユーザ指示に基づいて、訓練が、前記検出器領域に対して開始される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記訓練ピークが、1つ以上の単一元素溶液と関連付けられる、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記単一元素溶液の個々の1つが、遷移金属溶液である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記検出器の検出器領域に対して、前記分光計によって生成された更なる訓練ピークを取得することと、
前記更なる訓練ピークに基づいて、前記ニューラルネットワークの前記訓練を繰り返すことと、を更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記更なる訓練ピークを得るために使用される較正サンプルを識別することを更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ディスプレイデバイスに前記関連付けられる曲線を出力させた後に、後続の分析において使用するための前記関連付けられる曲線のユーザ選択を受け取ることを含むことを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記分光計が、エシェル回折格子及び二次元アレイ検出器を備え、前記分光計が、前記エシェル回折格子を使用して、光を前記二次元検出器上に回折させて、サンプルスペクトルを生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
サンプルピークを干渉されたピークとして識別することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記サンプルピークを干渉されたピークとして識別することが、前記サンプルピークの一次導関数を計算することを含み、前記サンプルピークの前記一次導関数のゼロ交差の数に基づいて、前記サンプルピークが干渉されたピークであると決定される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記干渉されたピークにおける各スペクトル放射の前記関連付けられた検出器位置が、前記サンプルピークの前記一次導関数の前記ゼロ交差に基づいて決定される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記分光計コントローラが、ディスプレイデバイスに、前記関連付けられる曲線を出力させる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記分光計コントローラが、前記関連付けられる曲線の下の面積に基づいて、元素の濃度を計算する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記分光計が、光学発光分光計であり、前記分光計コントローラが、光学発光分光計コントローラである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記分光計の前記検出器が、アレイ検出器である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記干渉されたピークにおける前記スペクトル放射の各々に対して、曲線が出力される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
スペクトル放射に関連付けられた比較曲線が、前記干渉されたピークの他のスペクトル放射に対する曲線を、前記干渉されたピークから減算することによって取得される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記スペクトル放射の前記比較曲線を、同じスペクトル放射に対して前記分光計コントローラによって出力された曲線と比較することと、
前記比較に基づいて、前記分光計コントローラによって出力された前記曲線についての信頼レベルを決定することと、を更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
分光計のための分光計コントローラであって、
分光計の検出器を使用して干渉されたピークを取得することであって、前記干渉されたピークが、異なる波長の複数のスペクトル放射によって生成され、前記干渉されたピーク内の前記複数のスペクトル放射の各々が、関連付けられた検出器位置において前記検出器に入射する、取得することと、
前記干渉されたピークの前記スペクトル放射のうちの1つ以上に対して、ニューラルネットワークを使用して、関連付けられる曲線を生成することであって、ニューラルネットワークが、前記関連付けられた検出器位置を表すデータに基づいて、前記関連付けられる曲線の形状を示すデータを出力するように訓練される、生成することと、
前記干渉されたピークの前記スペクトル放射のうちの1つ以上に対して、前記関連付けられる曲線を出力することと、を行うように構成されている、分光計コントローラ。
【請求項22】
分光測定システムであって、
検出器を備える分光計であって、前記検出器を使用してサンプルからサンプルスペクトルを生成するように構成された分光計と、
前記サンプルスペクトルを処理するように構成された分光計コントローラであって、前記コントローラが、
前記分光計の前記検出器を使用して前記サンプルスペクトルから干渉されたピークを取得することであって、前記干渉されたピークが、異なる波長の複数のスペクトル放射によって生成され、前記干渉されたピークにおける前記複数のスペクトル放射の各々が、関連付けられた検出器位置において前記検出器に入射する、取得することと、
前記干渉されたピークの前記スペクトル放射のうちの1つ以上に対して、ニューラルネットワークを使用して、関連付けられる曲線を生成することであって、前記ニューラルネットワークが、前記関連付けられた検出器位置を表すデータに基づいて、前記関連付けられる曲線の形状を示すデータを出力するように訓練される、生成することと、
前記干渉されたピークの前記スペクトル放射のうちの1つ以上に対して、前記関連付けられる曲線を出力することと、を行うように更に構成されている、コントローラと、を備える、分光測定システム。
【請求項23】
前記分光計が、励起源、好ましくはプラズマ源を含む、請求項22に記載の分光測定システム。
【請求項24】
前記コントローラの1つ以上の処理デバイスによって実行されると、請求項21に記載の分光計コントローラ、又は請求項22に記載の分光測定システムに、請求項1に記載の方法のステップを実行させるように構成された命令を含む、コンピュータプログラム。
【請求項25】
請求項21に記載のコンピュータプログラムが記憶された、コンピュータ可読記憶媒体。
【国際調査報告】