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特表2025-500934小胞中の組換え生体分子の製造のための配列および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-15
(54)【発明の名称】小胞中の組換え生体分子の製造のための配列および方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/47 20060101AFI20250107BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20250107BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20250107BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20250107BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250107BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20250107BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20250107BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20250107BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250107BHJP
   C07K 17/04 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
C07K14/47 ZNA
C12N15/12
C07K19/00
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K17/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536402
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-08-19
(86)【国際出願番号】 GB2022053239
(87)【国際公開番号】W WO2023111569
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】2118435.3
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】510303811
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ ケント
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF KENT
(71)【出願人】
【識別番号】508236033
【氏名又は名称】フジフィルム・ダイオシンス・バイオテクノロジーズ ・ユーケイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】マルビヒル、ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ベイカー、カレン
(72)【発明者】
【氏名】イーストウッド、タラ
(72)【発明者】
【氏名】レノン、クリストファー
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA26X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC15
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA05
4H045BA10
4H045BA17
4H045BA18
4H045BA19
4H045BA41
4H045BA61
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
生体分子を発現させる方法、および生体分子を発現させるための組換え発現系の構成部分が記載されている。特に、シヌクレインアイソフォームおよびそれらの変異体のアミノ末端に由来する両親媒性αヘリックスポリペプチドを含む単離された小胞核形成ポリペプチド(VNp)は、生体分子の精製を可能にするために、発現系における小胞の形成を促進、増強または増加させるために使用される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シヌクレインアイソフォームおよびそれらの変異体のアミノ末端に由来する両親媒性αヘリックスポリペプチドを含む単離した小胞核形成ポリペプチド(VNp)。
【請求項2】
9~140アミノ酸、好ましくは16~40アミノ酸、より好ましくは約20アミノ酸を有する請求項1に記載の単離した小胞核形成ポリペプチド。
【請求項3】
前記配列が配列番号2~28のいずれか1つである請求項1または2に記載の単離した小胞核形成ポリペプチド。
【請求項4】
アミノ末端でアセチル化されている請求項1~3のいずれか1項に記載の単離された小胞核形成ポリペプチド。
【請求項5】
ロイシンジッパー配列をさらに含む請求項1~4のいずれか1項に記載の単離された小胞核形成ポリペプチド。
【請求項6】
前記ロイシンジッパー配列が配列番号29の配列を有する請求項5に記載の単離した小胞核形成ポリペプチド。
【請求項7】
前記ロイシンジッパー配列が前記単離された小胞核形成ポリペプチドのカルボキシル末端にある請求項5または6に記載の単離された小胞核形成ポリペプチド。
【請求項8】
プロテアーゼ切断部位をさらに含む請求項1~7のいずれか1項に記載の単離された小胞核形成ポリペプチド。
【請求項9】
生体分子のアミノ末端に融合した請求項1~8のいずれか1項に記載の小胞核形成ポリペプチドを含む融合タンパク質。
【請求項10】
前記小胞核形成ポリペプチドがプロテアーゼ切断部位を介して前記生体分子のアミノ末端に融合している請求項9に記載の融合タンパク質。
【請求項11】
前記プロテアーゼ切断部位がウイルスプロテアーゼまたはウイルス3C様プロテアーゼのためのものである請求項10に記載の融合タンパク質。
【請求項12】
前記プロテアーゼ切断部位が無傷のものである請求項10または請求項11に記載の融合タンパク質。
【請求項13】
前記プロテアーゼ切断部位が、1つ以上の膜結合または細胞質プロテアーゼに特異的である請求項10~12のいずれか1項に記載の融合タンパク質。
【請求項14】
前記生体分子が、前記融合タンパク質を発現する発現系にて検出可能なレベルに構成的に発現していない請求項9~13のいずれか1項に記載の融合タンパク質。
【請求項15】
前記生体分子が、膜結合タンパク質、不溶なタンパク質、または前記融合タンパク質を発現する宿主細胞に対して通常毒性があるタンパク質である請求項14に記載の融合タンパク質。
【請求項16】
前記生体分子のサイズが、1kDa未満から100kDaの範囲内である請求項9~15のいずれか1項に記載の融合タンパク質。
【請求項17】
請求項9~16のいずれか1項に記載の融合タンパク質を発現するヌクレオチド配列またはベクター。
【請求項18】
請求項9~16のいずれか1項に記載の融合タンパク質を発現するか、または請求項17に記載のヌクレオチド配列またはベクターを含む宿主細胞。
【請求項19】
原核生物細胞、単細胞の真核生物または培養した真核細胞株である請求項18に記載の宿主細胞。
【請求項20】
大腸菌である請求項19に記載の宿主細胞。
【請求項21】
VNp-ロイシンジッパーペプチドをさらに発現する請求項18~20のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項22】
1つ以上のVNp標識プロテアーゼをさらに発現する請求項15~21のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項23】
組換え発現系において小胞の形成を促進、増強または増加させる方法であって、請求項1~8のいずれか1項に記載の単離された小胞核形成ポリペプチド(VNp)、請求項9~16のいずれか1項に記載の融合タンパク質、または請求項17に記載のヌクレオチド配列もしくはベクターを含むポリペプチドを宿主細胞で発現させることを含む方法。
【請求項24】
細胞発現系から生体分子の少なくとも1つの可溶性および/または機能的形態を製造する方法であって、前記生体分子が前記細胞発現系の宿主細胞において構成的に発現されず、宿主細胞において請求項1~17のいずれか1項に記載の小胞核形成ポリペプチド(VNp)、融合タンパク質、またはヌクレオチド配列もしくはベクターを発現させることを含む、細胞発現系から生体分子の少なくとも1つの可溶性および/または機能的形態の製造方法。
【請求項25】
宿主細胞が、請求項18~22のいずれか1項に記載の宿主細胞である請求項23または24に記載の製造方法。
【請求項26】
前記小胞核形成ポリペプチド、前記融合タンパク質、または前記ヌクレオチド配列もしくは前記ベクターが、前記宿主細胞から前記細胞発現系の培地への小胞の放出を促進、増強または増加させる請求項23~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記宿主細胞を20℃~40℃で培養することを含む請求項23~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記宿主細胞を好気条件または嫌気条件下で培養することを含む請求項23~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
組換え発現系の宿主細胞内に前記小胞を保存することをさらに含む請求項23~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
保存前に細胞培養物から前記小胞を単離するか、または精製することをさらに含む請求項23~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記小胞を約4℃で保存する請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記小胞を少なくとも4ヶ月まで保存する請求項29~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記融合タンパク質を放出すること、および任意に、前記融合タンパク質をさらに精製することをさらに含む請求項23~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記小胞から前記生体分子を放出すること、および任意に、前記生体分子をさらに精製することをさらに含む請求項23~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
膜結合した小胞のカーゴとして、請求項1~8のいずれか1項に記載の単離された小胞核形成ポリペプチド(VNp)と組み合わせて生体分子を共発現および排出する方法。
【請求項36】
前記生体分子が組換えタンパク質である請求項35に記載の方法。
【請求項37】
組換え発現系の一部として宿主細胞中で発現され、任意に宿主細胞から放出される1つ以上の生体分子の製造方法であって、前記組換え発現系が、請求項1~22のいずれか1項に記載の単離された小胞核形成ポリペプチド、融合タンパク質、ヌクレオチド配列または宿主細胞を含む生体分子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞発現系における生体分子の生産を増強する技術に関する。特に、遺伝子操作された細胞から組換えタンパク質を誘導細胞外小胞に排出するシステムが記載されている。
【背景技術】
【0002】
大腸菌は、学術的にも工業的にも組換えタンパク質生産のための魅力的なシステムである。(Jan,A.T.(2017)Front.Microbiol.8,7692-11;Gerritzen,M.J.H.et al(2017)Biotechnology Advances 35,565-574)。大腸菌は安価で簡単に高密度まで大量培養できるだけでなく、機能性タンパク質の生産を容易にするために、さまざまな菌株、試薬、プロモーター、ツールが開発されてきた。合成生物学的戦略の応用は、翻訳後修飾や複雑なタンパク質の正しい折り畳みの適用に一般的に伴う制限を克服しつつある。(Kim,J.H.et al(2015)Semin.Cell Dev.Biol.40,97-104)。すべての発現系について、タンパク質の収量を向上させ、タンパク質の精製効率を改善する必要性が常にある。
【0003】
グラム陰性菌は、細胞外とのコミュニケーションや相互作用(クオラムセンシングなど)を促進するために、外膜小胞(OMV)を産生する。OMVは外膜から放出される小さな球状の脂質二重膜(直径-100nm)である。詳細な質量分析とクロマトグラフィー分析により、天然のOMVの組成が明らかにされ、細胞の細胞壁、ペリプラスムまたは細胞質領域からDNA/RNA、タンパク質またはその他の分子を含むことが示された(Jan,A.T.supra)。天然のOMVは、その表面に宿主細胞との融合能力を高めるタンパク質が豊富にあり、薬剤やワクチンの送達用途に魅力的な容器となっている(Gerritzen,M.J.H.et al supra)。OMVは、哺乳類やグラム陽性菌のエクソソームや細胞外小胞に相当する(Kim,J.H.et al supra)。OMVは、膨圧、温度、または局所的なタンパク質の濃縮相互作用によって引き起こされる外膜の局所的な湾曲によってもたらされる外膜の非対称脂質二重層(OM;Konovalova,A.et al(2017)Annu.Rev.Microbiol.71,539-556)とペプチドグリカン(PG)層との相互作用が局所的に失われることから生じる(Jan,A.T.supra;Kim,J.H.et al supra)。OMVは細菌の増殖サイクルの中で自然に低収量で生産されるが、定常期にはわずかに増加する。天然のOMVにタンパク質を直接パッケージングすることは可能である。しかしながら、OMVの存在量が少ないため、これまで比較的低いタンパク質収量しか観察されていない(Alves,N.J.et al(2015)ACS AppL Mater.Interfaces 7,24963-24972)。大規模な欠失および過剰発現スクリーニングにより、外膜自体の組成を変化させ、膜タンパク質の収量を向上させ、OMVの生産を調節することが可能であることが明らかになった。(McBroom,A.J.et al(2006)J.Bacteriol.88,5385-5392;Miroux,B.& Walker,J.E.(1996)Journal of Molecular Biology 260,289-298;Baker,J.L.et al(2014)Curr.Opin.BiotechnoL 29,76-84)。興味深いことに、大腸菌細胞でカベオリン-1を発現させると、各細胞の細胞質内に小さな円形の小胞(直径40-50nm)が蓄積し、これは細胞内膜の内方への出芽によって形成された可能性が高い。
【0004】
特定の分子を個別の膜小胞にパッケージングするように細胞を再プログラムする能力は、合成生物学の主要な目標である。この制御された膜小胞へのパッケージングにより、生物学者はバイオテクノロジーと医療産業の両方に応用可能な多くの新技術を生み出すことができる。これには、エネルギー生産のための細胞内における新しい代謝工場の生成や、毒性のあるタンパク質を、正常な代謝活動に害を及ぼす前に速やかに封じ込めた環境にパッケージングし、その後の医薬品用途に使用するために精製できるようにすること、単離が困難な生体分子を封じ込めた保護パッケージを作製し、安定した環境で保存・精製できるようにすること、さらには、患者に薬やワクチンを送達するためのシンプルな媒体を作製することなどが含まれる。
【発明の概要】
【0005】
このような背景から、本発明が考案された。
【0006】
したがって、本発明は、活性培養物から連続的に単離することができる細胞培地中へのタンパク質のような特定の膜パッケージ化生体分子の標的化放出のための単純な機構を提供するポリペプチド配列および方法を包含する。この結果、培養物からのタンパク質などの機能的可溶性分子の収量が著しく増加し、広範なバイオテクノロジー応用のための効率的な下流プロセシングが容易になる。
【0007】
特に、本発明は、シヌクレインアイソフォームおよびその変異体のアミノ末端に由来する両親媒性αヘリックスポリペプチドを含む単離された小胞核形成ポリペプチド(VNp)に関する。別の方法で表現すると、本発明は、シヌクレインアイソフォームのアミノ末端に基づく短い両親媒性αヘリックスポリペプチドの変異体およびその設計された変異体にある。
【0008】
シヌクレインファミリーには、α-シヌクレイン、β-シヌクレイン、γ-シヌクレインの3つのタンパク質がある。すべてのシヌクレインは、交換可能なアポリポタンパク質のクラスA2脂質結合ドメインに類似した、高度に保存されたαヘリカル脂質結合モチーフを共通して持っている。
完全長の内在性Hsα-シヌクレインは以下の配列を持つ(GenBank配列:AAL15443.1):
【化1】
【0009】
VNpは9~140個のアミノ酸、例えば15~140個のアミノ酸、好ましくは16~40個のアミノ酸、より好ましくは約20個のアミノ酸または約38個のアミノ酸を有し得る。
【0010】
例えば、Hs α-シヌクレインのアミノ末端は以下の配列を有する。
【化2】
Hs β-シヌクレインのアミノ末端は以下の配列を有する。
【化3】
Hs γ-シヌクレインのアミノ末端は以下の配列を有する。
【化4】
【0011】
アミノ末端配列の変異は、膜界面の1つ以上の塩基性リジン残基を酸性残基または中性残基に変更することを含み得る。このような変更は膜との相互作用を安定化させる。このような配列の例は以下の通りであり、野生型タンパク質配列との違いは太字および下線を引いてある。
【化5】
【0012】
変異および変化はデザインされたものであってもよいが、配列変異には、例えば、培地中の特定のタンパク質またはマーカーの排出を増加させる変異を特異的に探すことによって、ランダムな変異誘発スクリーニングで生じた変異および変化が含まれ得る。
【0013】
本方法を用いて同定した変異体の例としては、以下の配列が挙げられる。
【化6】
【0014】
他の適した変異体の例は、変異配列の一つをとり、以下の配列等の更なる変異を加えたものである。
【化7】
【0015】
適したより短い変異体の例としては、以下の配列が挙げられる。
【化8】
【0016】
本発明は、記載された範囲内の任意の残基数を包含することが理解される。例えば、配列は具体的には20、21、24、28、33または38アミノ酸残基を有することができる。
【0017】
代替として、またはそれに加えて、アミノ末端配列は、(a)ヘリックス末端の安定性を変えるための、および/または(b)アミノ末端のアセチル化を防ぐための修飾および/または変異を含み得る。後者の変異は、真核生物(特に哺乳動物)の発現系において特に有益であり得る。なぜなら、これらの細胞では、ノックアウト細胞株を作製することなくアミノ末端のアセチル化を防ぐことは多くの場合不可能だからである。大腸菌を用いる実施形態において、所望であれば、標的タンパク質のアミノ末端アセチル化は、Eastwood T.A.et al(2017)FEBS Letters.591,833-44;Johnson M.et al(2010)PLoS One.5,e15801に記載されているように、多くの真核生物タンパク質の構造と機能に有益な影響を与える可能性のあるこの翻訳後修飾を誘導するためにMulvihill labにおいて開発された誘導性組換えシステムを用いてもたらされ得る。
【0018】
代替として、またはそれに加えて、配列は、1つ以上の合成アミノ酸を含み得る。
【0019】
任意選択的に、ポリペプチドはそのアミノ末端でアセチル化されていてもよい。この特徴は、宿主細胞の細胞質への小胞構造の迅速な形成と内在化を促進し、それによって細胞質から毒性および/または不溶性タンパク質を隔離する。
【0020】
VNpはロイシンジッパー配列をさらに含み得る。好ましくは、ロイシンジッパー配列はポリペプチドのカルボキシル末端にある。二量体化するロイシンジッパー配列の付加は、一部の実施形態では、例えば、発現が困難な(例えば毒性または不溶性)タンパク質の排出および/または発現を促進する。適したロイシンジッパー配列の例は以下の通りである。
【化9】
【0021】
本発明はまた、組換えタンパク質のような生体分子のアミノ末端に融合した、上記の小胞核形成ポリペプチドを含む融合タンパク質にある。小胞核形成ポリペプチドと単一の生体分子とを有する融合タンパク質が本明細書で例示されるが、本発明は、例えばタンデム融合体(1つ以上の標的タンパク質とともに蛍光タンパク質を有するものなど)、または別個のVNp-タンパク質の複合体の排出(小胞における二分子蛍光補完(BiFC蛍光)によって示される)、またはロイシンジッパー二量体化タンパク質による、小胞を介した複数のタンパク質の排出を包含する。誤解を避けるために、BiFC蛍光は、i)蛍光タンパク質の前半分をVNpに融合し、ii)蛍光タンパク質のカルボキシル半分をVNpに融合し、iii)2つの融合体を一緒に発現させることによって得られる。蛍光タンパク質の2つの半分を一緒にすると、蛍光を発する。小胞に蛍光が見られる場合、小胞は両方の個別のタンパク質を含んでいると結論づけることができる。
【0022】
多くの実施形態において、小胞核形成ポリペプチドは生体分子に直接融合していてもよい。VNpは宿主細胞膜と相互作用して、細胞外膜に由来し、VNp配列に融合した生体分子を含む小胞構造の形成を促進する。特定の好ましい実施形態では、VNpはプロテアーゼ切断部位を介して生体分子に融合され得る。プロテアーゼ切断部位としては、Tev(タバコエッチウイルス)等のエッチウイルスプロテアーゼ、ヒトライノウイルスHRV3Cなどのウイルス3C様プロテアーゼなどのウイルスプロテアーゼ、エンテロキナーゼ、第Xa因子およびトロンビンのための部位が挙げられる。多くの好ましい実施態様において、プロテアーゼ切断部位は、認識部位を全て除去した無傷のものであってもよい。このような切断部位の例としては、大腸菌LepBのようなシグナルペプチダーゼ、および特に、バシラス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)LicPのような国際公開第2015/175576号公報に開示されたランチペプチダーゼ(lanthpeptidase)が挙げられる。また、真核生物のシグナルペプチダーゼ、あるいはPichia Kex2またはSte13のようなさらなるプロセシング酵素を用いることもできる。膜結合型、好ましくは細胞質型プロテアーゼの切断部位を採用してもよい。多くの実施形態において、プロテアーゼ認識部位は5個または6個のアミノ酸の配列を含む。そのように整えることによって、小胞内でのタンパク質分解切断および生体分子のプロセシングが可能になる。
【0023】
一部の実施形態では、ロイシンジッパー配列を含む追加のVNpは、生体分子のアミノ末端に融合したロイシンジッパー配列を含む小胞核形成ポリペプチドを含む融合タンパク質と共発現させてもよい。追加のVNpは、生体分子のアミノ末端に融合した小胞核形成ポリペプチドと同じベクターから発現させてもよいし、追加のVNpを異なるベクター、例えばプラスミドまたはエピソームから発現させてもよいし、染色体上で発現させてもよい。
【0024】
更なる実施形態では、ロイシンジッパー配列を含む小胞核形成ポリペプチドは、上記のプロテアーゼ切断部位に対応するように選択されたプロテアーゼのアミノ末端に融合されていてもよい。このVNpは、生体分子のアミノ末端に融合した小胞核形成ポリペプチドと同じベクターから発現させてもよいし、異なるベクター、例えばプラスミドやエピソームから発現させてもよいし、染色体上で発現させてもよい。プロテアーゼは、その活性および選択された宿主細胞で発現される能力について選択されることが認識される。
【0025】
本発明に採用され得る生物分子としては、例えば、糖などの炭水化物、抗原、核酸、特に組み換えポリペプチドが挙げられる。
【0026】
ポリペプチド、特に組み換えポリペプチドとしては、治療タンパク質およびペプチドが挙げられる。治療タンパク質およびペプチドとしては、サイトカイン、増殖因子、抗体、抗体断片、免疫グロブリン様ポリペプチド、酵素、ワクチン、ペプチドホルモン、ケモカイン、受容体、受容体断片、キナーゼ、ホスファターゼ、イソメラーゼ、加水分解酵素、転写因子および融合ポリペプチドが挙げられる。
【0027】
抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、および生物活性を有する抗体断片が挙げられ、これらのいずれの多価および/または多重特異性形態も挙げられる。
【0028】
天然に存在する抗体は、典型的には、ジスルフィド結合で相互に連結された、4つのポリペプチド鎖と、2つの同一の重(H)鎖と、2つの同一の軽(L)鎖とを含む。各重鎖は、可変領域(V)と定常領域(CH)とを含み、CH領域は、その天然形態では3つのドメイン、CH1、CH2およびCH3を含む。各軽鎖は、可変領域(V)と、1つのドメインを含む定常領域とを含む、CLを含む。
【0029】
およびV領域は、さらに、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存性の高い領域が点在している、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域と、に分けられる。各Vおよび各Vは、3つのCDRと4つのFRとからなり、アミノ末端からカルボキシ末端までFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順番で配置されている。
【0030】
発現され得る抗体断片は、無傷の抗体の一部を含み、この部分は望ましい生物活性を有する。抗体断片は、一般に、少なくとも1つの抗原結合部位を含む。抗体断片の例としては、(i)V、CL、VnおよびCH1ドメインを有するFabフラグメント;(ii)CH1ドメインのC末端に1つ以上のシステイン残基を有するFab'フラグメントなどのFab誘導体であって、2つのFab誘導体間のジスルフィド架橋により二価フラグメントを形成し得るFab誘導体;(iii)VおよびCH1ドメインを有するFdフラグメント;(iv)CH1ドメインのC末端に1つ以上のシステイン残基を有するFd誘導体などのFd誘導体;(v)抗体の単一アームのVおよびVドメインを有するFvフラグメント;(vi)VおよびVドメインが共有結合している一本鎖Fv(scFv)抗体などの一本鎖抗体分子;(vii)定常領域ドメインを有するかまたは有さない別の可変ドメイン(VまたはVドメインポリペプチド)に連結された定常領域ドメインを有さないVまたはVドメインポリペプチド(例えば、V-V、V-V、またはV-V)(viii)VドメインまたはVドメインからなるフラグメントなどのドメイン抗体フラグメント、および単離されたCDR領域などのVドメインまたはVドメインのいずれかの抗原結合フラグメント;(ix)同じポリペプチド鎖中に2つの抗原結合部位、例えば軽鎖可変ドメイン(V)に連結した重鎖可変ドメイン(V)を含む、いわゆる「ダイアボディ」;並びに(x)一対のタンデムFdセグメントを含み、相補的な軽鎖ポリペプチドとともに一対の抗原結合領域を形成する、いわゆる直鎖抗体が挙げられる。
【0031】
好ましくは、生体分子または組換えタンパク質は、本発明の融合タンパク質が発現される発現系において、有意に検出可能なレベルまで構成的に発現されない。例えば、組換えタンパク質は、膜結合タンパク質、不溶性タンパク質、または融合タンパク質が発現される宿主細胞に対して通常毒性のタンパク質であり得る。多くの実施形態において、生体分子または組換えタンパク質は、宿主細胞に対して異種である。
【0032】
生体分子は、サイズによって限定される必要はないが、1kDa未満から100kDaまでの範囲内であり得る。組換えタンパク質の例としては、アキリンリピートタンパク質off7(DARP)、ステフィンA、ウリカーゼ、エリスロポエチン(EPO)、エタネルセプト、FGF21、ヒト成長ホルモン(hGH)、DNAseI、およびナノボディが挙げられる。排出される生体分子の大きさは、最終的には宿主細胞が産生できる小胞の大きさに依存する。一般に、直径0.16~0.4μmの小胞サイズが最も可能性が高く、最適な排出に適していると考えられている。
【0033】
本発明はまた、本明細書において上記の融合タンパク質をコードするヌクレオチドまたはベクター(プラスミド)配列、特に発現カセットにある。適切なプラスミドとしては、pUC19およびpBR322に基づく系統のプラスミド、ならびに国際公開第2007/088371号公報に記載のプラスミドなどのプラスミドが挙げられる。上記の融合タンパク質は、同じベクターから発現されてもよいし、異なるベクター、例えばプラスミドまたはエピソームから発現されてもよいし、染色体発現されてもよいことが理解される。
【0034】
ヌクレオチドまたはベクター配列は好ましくはプロモーターを用い、そのようなプロモーターの例は当技術分野で周知である。プロモーターは、宿主細胞ポリメラーゼプロモーターまたは異種ポリメラーゼ依存性プロモーター、例えばファージポリメラーゼ依存性プロモーターを含み得る。適切なプロモーターとしては、CMV、hEF1、ラムノース、アラビノース、λpL、T7A3、TacおよびT7ベースのプロモーターが挙げられる。特定の実施形態において、ヌクレオチドまたはベクターは、大腸菌ポリメラーゼ依存性プロモーター、特に誘導性プロモーター、例えば、完全回文lacオペレーター配列を含むlacオペレーターなどの1つ以上のオペレーターを含むプロモーターを含む。多くの好ましい実施形態において、ヌクレオチドまたはベクターは、1つの完全回文lacオペレーター配列に作動可能に連結されたλpLプロモーター、または2つの完全回文lacオペレーター配列に作動可能に連結されたT7A3プロモーターを含み、1つのオペレーター配列はプロモーターの上流に位置し、1つはプロモーターの下流に位置する。最も好ましくは、オペレーターは転写開始点に重なる。
【0035】
任意選択的に、ヌクレオチドまたはプラスミド配列は、配列番号29に示されるものなどのロイシンジッパー配列をさらに含む。
【0036】
本発明はまた、融合タンパク質を発現するか、または本明細書に記載のヌクレオチド配列もしくはプラスミドを含む宿主細胞にもある。宿主細胞は、細菌のような原核細胞、酵母のような単細胞真核生物、または培養真核細胞株であり得る。原核生物宿主細胞の特定の例としては、大腸菌(Escherichia coli)株、バチルス株(サブチルス(subtillis)およびメガテリウム(megatarium)を含む)、シェワネラ・オネイデンシス(Schwanella oneidensis)が挙げられる。好適な大腸菌株としては、BL21DE3株、K12株、その他(DH10b株、JM109株など)が挙げられる。原核細胞の具体例としては、細菌細胞、例えば、大腸菌、サルモネラ菌、シュワネラ菌、セラチア菌、緑膿菌などのグラム陰性細菌細胞、枯草菌、メガタリウム菌などのグラム陽性細菌細胞が挙げられる。適切な培養真核細胞株の例としては、HEK細胞株およびCHO細胞株が挙げられる。好ましい宿主細胞は細菌、特に腸内細菌、好ましくは大腸菌、特にそのB株またはK12株である。特定の実施形態において、原核細胞は、少なくとも1つの天然プロテアーゼが欠損するように操作される。多くの好ましい実施形態において、原核宿主細胞はompT-大腸菌株、特にW3110大腸菌株である。
【0037】
任意に、宿主細胞は、VNp-ロイシンジッパーペプチド、または本明細書に記載のVNpポリペプチドと本明細書に記載のものなどのロイシンジッパー配列とを含むペプチドをさらに発現する。この追加のペプチドは、配列番号2~28のいずれか1つに記載される配列を含む(comprise)、含む(include)、または有することができることが理解される。あるいは、宿主細胞は、本明細書に記載のVNp-ロイシンジッパーペプチドを発現するヌクレオチド配列、または配列番号29に記載の配列を有するヌクレオチド配列を含み得る。
【0038】
一実施形態では、宿主細胞は、本発明の、本明細書に記載されるVNpタグ化標的タンパク質(VNpタグ化融合タンパク質)に加えて、1つ以上のVNpタグ化プロテアーゼを代替的または追加的に共発現する。このようにして、VNpからの標的タンパク質のタンパク質分解切断が小胞内で得られる。共発現したプロテアーゼは、融合タンパク質に含まれるその特定のプロテアーゼ切断部位との使用に適するように選択されることが理解される。選択されたプロテアーゼがプロテアーゼ認識部位の一部を標的タンパク質に付着させたままにする場合には、標的タンパク質のさらなるプロセシングがさらに必要となり得る。
【0039】
本発明はまた、組換え発現系の一部として宿主細胞内での小胞形成を促進、増強または増加させるための、本明細書に記載の単離された小胞核形成ポリペプチド(VNp)融合タンパク質またはヌクレオチド配列の使用を包含する。
【0040】
別の方法で表現すると、本発明はまた、単離された小胞核形成ポリペプチド(VNp)、融合タンパク質または本明細書に記載のヌクレオチド配列を含むポリペプチドを宿主細胞で発現させることによって、組換え発現系において小胞の形成を促進、増強または増加させる方法にもある。
【0041】
本発明はまた、細胞発現系から可溶性で機能的な生体分子を産生するための、本明細書に記載の単離された小胞核形成ポリペプチド(VNp)、融合タンパク質、ヌクレオチド配列または宿主細胞の使用を包含し、ここで生体分子は発現系の宿主細胞において構成的に発現されない。
【0042】
本発明はまた、細胞発現系からの可溶性で機能的な生体分子の収量を増強または増加させるための、本明細書に記載の単離された小胞核形成ポリペプチド(VNp)、融合タンパク質、ヌクレオチド配列または宿主細胞の使用を包含し、ここで生体分子は発現系の宿主細胞において構成的に発現される。
【0043】
「機能的」は、分子が生物学的に活性を持つように折り畳まれた生体分子を意味する。このような折り畳みは、分子が本質的な生物活性を有していれば、必ずしも天然の分子と同じでなくてもよいし、同じ程度でなくてもよい。
【0044】
さらなる態様で表現すると、本発明は、細胞発現系からの生体分子の可溶形態および機能的形態の(全体的な)収量を増強する方法であって、生体分子が発現系の宿主細胞において構成的に発現されず、宿主細胞において本明細書に記載の本発明のVNp、融合タンパク質またはヌクレオチド配列を発現することを含む方法にある。
【0045】
一実施形態では、ポリペプチド、融合タンパク質またはヌクレオチド配列は、宿主細胞から発現系の培養培地への小胞の放出を促進、増強または増加させる。
【0046】
好ましくは、該方法は、ヌクレオチド配列によって発現されるポリペプチド、融合タンパク質または生成物を培養培地から分離するステップをさらに含む。
【0047】
宿主細胞は、本明細書に記載の宿主細胞であり得る。
【0048】
宿主細胞内での小胞形成は、ポリペプチドのアミノ末端におけるVNpのアセチル化によって、さらに可能になり、促進され、あるいは増強される。
【0049】
組換え発現系の一部として、宿主細胞における小胞形成を促進、増強または増加させるために、単離された小胞核形成ポリペプチド(VNp)または本明細書に記載の融合タンパク質のアミノ末端アセチル化を使用することも企図されており、アセチル化は任意にまたはさらに、宿主細胞から培養(増殖)培地への小胞の放出を促進する。
【0050】
本発明の方法および使用は、本明細書に記載のVNp-ロイシンジッパーポリペプチドの追加発現をさらに含み得る。VNpと生体分子との間の二量体化ロイシンジッパー配列の付加、ならびにVNp-ロイシンジッパーポリペプチドの任意のさらなる追加発現は、そうでなければ発現が困難な(例えば、毒性または不溶性の)生体分子の発現を増強する。
【0051】
好ましくは、宿主細胞は、20℃~40℃、例えば25℃~37℃で、理想的には好気性条件下で培養される。
【0052】
さらに、本明細書に記載の方法および使用は、組換え発現系の宿主細胞内または宿主細胞から分離した小胞を保存するステップをさらに含んでもよい。約4℃での保存が適切であると考えられる。保存は、少なくとも6ヶ月まで可能である。
【0053】
本発明の方法および使用は、生体分子を精製するステップをさらに含んでもよい。このようにして、小胞に封入された生体分子は、さらなる処理または使用のために放出および精製され得る。脂質小胞のような膜結合構造物から生体分子を放出および精製する方法は、当該技術分野において周知であり、標準的である。適切であると試験され確認された方法(これらに限定されるものではない)には、超音波処理(小胞内容物への影響が最小であるため、最も単純で最も魅力的である)、洗浄剤による処理、または浸透圧衝撃が含まれる。あるいは、生物学的精製には、小胞から放出される前に小胞内のVNpから生体分子を切断すること、および必要とされ得る追加の精製が含まれる。一実施形態では、小胞内切断は、理想的にはVNpタグ付き標的タンパク質と共発現したVNpタグ付きプロテアーゼである適切なプロテアーゼによって行われる。
【0054】
本発明はまた、炭水化物、抗原、核酸または組換えタンパク質などの生体分子を、本明細書に記載の単離された小胞核形成ポリペプチド(VNp)と組み合わせて、膜結合小胞中のカーゴとして共発現および排出することを包含する。その際、小胞形成はVNpによって促進または増強されることが理解される。
【0055】
本発明はまた、宿主細胞中で発現され、任意に宿主細胞から放出される1つ以上の生体分子の産生のための、大腸菌などの組換え発現系の使用を企図し、ここで、発現系は、本明細書に記載の、単離された小胞核形成ポリペプチド、融合タンパク質、ヌクレオチド配列または宿主細胞を含む。
【0056】
特に、カーゴの細胞内発現、例えば大腸菌のような原核生物宿主で発現された組換えポリペプチドの多くの例が不溶形態で産生される場合に、本発明は可溶形態のカーゴの細胞からの排出を可能にする。
【0057】
以下の非限定的な実施例および図を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1-1】組換え小胞の形成を示す図である。図1aはOmpA-GFPSIM蛍光を示す。図1bおよび図1cは大腸菌におけるVNp誘導膜湾曲のネガティブ染色EM連続切片像を示す。図1dは、小胞を生成するグリッド上で培養した大腸菌細胞のEMを示す。図1eは、VNp2-mNeongreen OmpA-mCherry発現大腸菌細胞のmCherry(マゼンタ)と-mNeongreen(緑)のSIM蛍光を示す。図1fは、VNp-mNeongreenが誘導した小胞を伴う大腸菌の連続切片の抗mNeongreen免疫EM像を示す。図1gは、単離されたVNp-mNeongreen含有小胞のEM像を示す。図1hは、単離されたVNp-mNeongreen含有小胞の蛍光像を示す。図1iは、VNp2-mNeongreen発現細胞の細胞培養液および濾過培地のクマシー染色ゲルを示す。図1jは、VNp誘導カーゴ含有小胞の模式図を示す。図1kは、VNp2-DARP、VNp2-ウリカーゼおよびVNp2-ステフィンA発現細胞の非誘導培養および誘導培養、またはフィルター誘導培養のクマシー染色サンプルを示す。
図1-2】図1lは、細胞抽出物(白抜き)および培地(塗りつぶし)から得られた標的タンパク質の非標識mNeongreen標識融合体の培養1リットルあたりの平均収量を示す。図1mは、細胞抽出物(白抜き)と培地(塗りつぶし)から得られた標的タンパク質のC末端mNeongreen標識融合体を示す。誤差は3回以上の実験的反復からのs.d.である。
図2】組換え小胞内でのVNp融合体の濃縮を示す図である。図2Aは、0.1μmフィルターで濃縮したVNp-mNeongreen発現細胞(左上)の一晩培養の遠心培地を含むユニバーサル(右上)と、それに関連したmNeongreen含有小胞の広視野蛍光画像である。図2Bは、BSA定量コントロールと、独立した生物学的反復から得られたVNp融合誘導培養からの遠心培地画分8μlのSDS-PAGEゲルを示す。これらのサンプルはその後、トリプシン消化およびプロテオーム解析を行った。図2Cは、プロテオーム解析から決定されたVNpfusion含有小胞の典型的な組成を示す円グラフである。
図3】異なる大腸菌株とプロモーターを用いたVNp誘導組換えタンパク質パッケージ化小胞を示し、T7プロモーター(図3a、図3b、図3c)またはラムノースプロモーター(図3d)からVNp-mNeongreenを発現する、(図3a)K12、(図3b)λ DE3 W3110、(図3c)JM109、(図3d)BL21 DE3の大腸菌株の広視野蛍光像である。
図4】VNpタグは、大腸菌からのヘテロ二量体可溶性機能性抗体の発現と単離を可能にすることを示す図である。図4A~Dは、大腸菌からのVNp-fAb精製を示す。図4Aは、fAb Hc/Lcヘテロ二量体形成の検出を可能にする二分子蛍光補完VNp-fAb融合体を示す。図4Bは、染色SDS-PAGEを示す。図4Cは、VNp-Hc7VNp-Lc**発現、ニッケルアフィニティー精製およびプロテインG結合からのサンプルの抗Hisウェスタンブロット(HIS6タグ付きLcを認識する)を示す。図4Dは、細胞溶解物、ニッケル溶出物、およびその後のプロテインG結合画分からのVNp-Hc/Lcヘテロダイマー依存BiFC蛍光を示す。図4E~Fは、VNp-mAbの発現と大腸菌からの精製を示す。図4Eは、VNp-mAB-Hc/VNp-mAB-Lc発現、ニッケルアフィニティー精製、プロテインA結合からのサンプルの染色SDS-PAGEと図4Fは、抗Hisウェスタンブロット(HIS6タグ付きHeを認識)を示す。
図5】VNpは小胞を標的とした組換えタンパク質のタンパク質分解を可能にすることを示す図である。VNp-mNeongreen-DARPinoff7融合体を単独で、あるいはVNp-マルトース結合タンパク質(MBP)-TEVプロテアーゼ融合体と組み合わせて発現させるコンストラクトを含む大腸菌細胞を培養し、一晩フラスコ培養で発現を誘導した。VNp-mNeongreen-DARPinoff7融合体は、mNeongreenとDARPin配列の間にTEV切断部位を含んでいた。VNp-mNG-DARPの単独発現は、全長タンパク質(50.8kDaサイズ)の発現と小胞排出をもたらした。これに対して、同じタンパク質をTEVプロテアーゼ融合体と共発現させると、VNp-mNG-DARPはTEV部位で切断され、VNp-mNG(32kDa)とDARPinoff7(18.8kDa)の断片が培養液中の排出された小胞内へ排出された。予想されるタンパク質のサイズは、VNp-MBP-TEVが75.4kDa、VNp-mNg-DARPが50.8kDa、VNp-mNGが32kDa、DARPが18.8kDaである。
図6-1】VNp二量体融合体は細胞膜パッケージを含む融合体を生成することを示す図である。図6aは、大腸菌においてVNp2-エタネルセプトが誘導した内向き膜湾曲のネガティブ染色EM連続切片画像である。
図6-2】図6bは、大腸菌においてVNp2-エタネルセプトが誘導した内向き膜湾曲の抗mNeongreen免疫染色EM連続切片画像である。図6cは、細胞質膜結合構造を生成するVNp2とNatBアミノ末端アセチル化複合体を共発現する大腸菌のMinD-mScarlet標識内膜のSIMイメージングである。図6dは、細胞質膜結合構造を生成するVNp2とNatBアミノ末端アセチル化複合体を共発現する大腸菌のネガティブ染色EM連続切片を示す。図6eは、VNp2-mNeongreenのアミノ末端アセチル化は、細胞内膜結合構造内へのmNeongreenの取り込みを促進することを示す。
図6-3】図6fおよび図6gは、VNp2-LZ-mNeongreenを発現する大腸菌の連続切片の抗mNeongreen免疫EM像である。図6hは、VNp2-LZを発現する大腸菌のCydAB-mNeongreen標識内膜のSIM像である。VNp2-LZ二量体が細胞質内膜結合小胞の内腔内に集中していることが示されている。
図7】VNpタグを標的プロテアーゼで切断しても、VNp融合体は可溶なままであることを示す図である。精製したVNpmNG-TEV-DARPとVNp-mNG-TEV-ウリカーゼをTEVプロテアーゼで消化した。その結果、切断されたタンパク質はペレット画分(P)では検出されず、13,200RCFで遠心した後の上清(S/N)画分に残った。
図8】VNp融合体は様々な培養液量で培養した細胞から排出できることを示す図である。VNp-mNeongreenの排出収量は、表面積対体積比(X軸)を調節するため、異なるサイズのフラスコで、様々な容量の細胞を培養して測定した。
図9-1】二量体VNp-ロイシン融合体は、大腸菌において細胞質VNp-融合体充填小胞を形成することを示す図である。図9aは、精製した組換えVNp-mNGおよびVNp-LZmNGタンパク質のサイズ排除クロマトグラフィープロファイル(挿入図)によって、VNp-mNeongreen(mNG)融合体にロイシンジッパー(LZ)モチーフを導入することで、安定な二量体形成が誘導されることを確認した。各融合タンパク質とタンパク質標準(29kDaの炭酸脱水酵素-青;66kDaのBSA-赤;443kDaのアポフェリチン複合体-黄)は、同じ条件で実行した。図9bと図9cは、VNp-LZ-mNeongreenを発現する大腸菌の切片の抗mNeongreen免疫EM顕微鏡像である。
図9-2】図9dは、VNp-LZを発現する大腸菌のCydAB-mNeongreen標識内膜のSIM像である。VNp-LZ二量体が細胞質内膜結合小胞の内腔内に集中していることが示されている。
図10】α-シヌクレイン融合体を大腸菌で発現させると、培養培地中に小胞排出が誘導されることを示す図である。図10aは、mNeongreenとヒト成長ホルモンの両方に融合したαSyn(60アミノ酸配列)を発現する大腸菌(αSyn-mNG-hGH)の広視野画像であり、αSyn融合体の細胞外小胞への排出を示す。図10bは、αSyn-mNG-hGHを発現する大腸菌のバイオリアクター培養からのサンプルの抗FLAGウェスタン法は、4つの独立した実験において、融合タンパク質の発現と小胞への排出(*で強調表示)を示す。図10cは、空の発現ベクターまたはアンピリシリンもしくはカナマイシン耐性付与ベクターのいずれかを含む大腸菌の一晩IPTG誘導培養からの濾過培地のSDS-PAGE分析により、αSyn-mNG-hGHの発現が認められたことを示す。αSyN-hGHは、抗生物質選択とは無関係に培地中に排出される。
図11a】VNpは、生体内および生体外で大腸菌膜と相互作用することを示す図である。図11aは、VNp2-mNeongreen単独(黒)、またはホスファチジン酸からなる100nm小胞(赤)、または全脂質(青)もしくは極性脂質(緑)の混合物の存在下での熱シフトmNeongreen蛍光曲線を示す。
図11b図11bは、アクセプター蛍光色素で標識した内膜タンパク質(MinD-Citrine)または外膜タンパク質(OmpA-mCherry)と共にVNpドナー蛍光色素融合体(VNp2-Cer3/VNp2-mNG)を発現する大腸菌細胞におけるドナー蛍光色素の蛍光寿命を示す。*Nt-アセチル化VNp2;☆-99.99%の信頼水準で異なる。データは60倍の水浸対物レンズを使用して得られた。
図11c図11cは、mCherryアクセプター蛍光標識CydAB内膜複合体と単独または組み合わせて、mNeongreenドナー蛍光標識VNp融合体(VNp2-mNG)を発現する大腸菌細胞内のmNeongreen蛍光寿命のヒストグラムである。
図11d図11dは、CydABが存在する細胞膜におけるドナー寿命の減少を示すVNp2-mNG CydAB-mCherry発現細胞(図10cより)のmNeongreen蛍光寿命画像である。図11cおよび11dは、60倍の油浸対物レンズを用いて得られたものである。青色(2.8ns)から緑色(2.6ns)への変化に寿命の長さの減少が反映されている。
図11e図11eは、αヘリカルVNp構造が大腸菌脂質膜によって安定化されていることを示す円偏光二色性を示す。VNp2(黒)、全大腸菌脂質小胞(灰色)単独、またはVNp2と大腸菌脂質小胞の混合物(赤)のCDスペクトルである。VNp2と大腸菌脂質膜の混合物で観測された208nmと222nmの相対的にブロードな負のCDスペクトルピークは、単一のαヘリカル構造と一致しており、VNp2のαヘリックスが大腸菌膜脂質小胞との相互作用によって安定化されていることを示している。
図12a図12aは、同じ96ウェルプレート上のLB中37℃で培養した、空のpRSFDUETベクター(白抜き黒丸)、pRSFDUET.mNeongreen(白抜き緑丸)、pRSFDUET.VNp2(塗りつぶし黒丸)またはpRSFDUET.VNp2.mNeongreen(塗りつぶし緑丸)を含むBL21(DE3)大腸菌細胞の4つの反復培養の平均から生成した増殖曲線であり、VNpまたはVNp融合体の発現が細菌の増殖に影響を与えないことを示す。
図12b図12bは、小胞含有濾液からの生細胞の排除を示すルーチン試験を示す。VNp2-mNG発現大腸菌細胞の一晩培養物からの全培養物10μl(i)および0.45μm培地濾液1ml(ii)を、LB(ii)またはカナマイシンを添加したLB(i)上にプレートアウトし、37℃で一晩インキュベートした。
図12c図12cは、フィルター精製したVNp-mNeongreen誘導小胞の動的光散乱を示す。グラフは10回の個別分析による平均データ(±標準誤差)を示す。
図12d図12dは、BL21 DE3 pRSFDUET1-VNp2-mNeongreen細胞の一晩培養の培地からフィルター精製したVNp2-mNeongreenを含む小胞を4℃で保存した結果を示す。全体のmNeongreen蛍光と0.2μmフィルター保持小胞内のmNeongreenシグナルの割合は、時間の経過とともに変化しなかったことから、小胞と折り畳まれたmNeongreenタンパク質の安定性が示された。
図12e図12eは、VenusN154およびVNp2-VenusC155(白);VNp2-VenusN154およびVNp2-VenusC155(灰色);またはVNp2-LZ-VenusN154_VNp2-LZ-VenusC155(黒)を発現するBL21(DE3)大腸菌から単離した小胞内に含まれる複合体化二分子蛍光補完断片の蛍光(515nm)由来の濃度を示す。
図12f図12fは、VNp2-mNG(黒)とVNp2-LZ-mNG(グレー)の溶出プロファイルを比較したゲル濾過曲線であり、ロイシンジッパーが小胞内でのVNp融合体の二量体化を誘導していることを示す。
図13】VNp融合体は単離された組換え小胞の内腔に含まれていることを示す図である。BL21 DE3 pRSFDUET1-VNp-mNeongreen細胞の一晩培養の培地からフィルター精製したVNp2-mNeongreen含有小胞をEMグリッドにマウントし、抗mNeongreen免疫EM分析にかけた。mNeongreenに依存した金密集の断片が、水への再懸濁から浸透圧衝撃を受けると小胞から放出された。これらは、破裂前の免疫分析、あるいは一次抗mNeongreen抗体を用いない免疫分析を行ったコントロールサンプルでは観察されなかった。
図14a】小胞単離されたVNp融合体は機能的であることを示す図である。図14aは、従来の方法で細胞ペレットから単離したウリカーゼ(赤)、またはVNp誘導小胞から単離したウリカーゼ(黒)の活性を示すウリカーゼ酵素活性アッセイを示す。緩衝液のみのコントロール(灰色)は、293nmにおけるベースライン吸光度の希釈依存的変化を示す。ウリカーゼ酵素/緩衝液は、5分間の平衡化(破線)後に基質に添加した。
図14b図14bは、大腸菌から精製したVNp2-mNG-エタネルセプトのジスルフィド結合依存性オリゴマー化(図6b)および機能性(図6c)を示す抗mNeongreenウェスタンブロットを示す。図14bは、VNp2-mNG-エタネルセプトのジスルフィド結合依存性オリゴマー(*)は、DTT還元剤の添加により破壊される(左側のゲル)ことを示す。
図14c図14cは、大腸菌から精製したVNp2-mNG-エタネルセプトのジスルフィド結合依存性オリゴマー化(図6b)および機能性(図6c)を示す抗mNeongreenウェスタンブロットを示す。図14c:(右側のゲル)大腸菌で発現させたアフィニティー精製VNp-mNG-エタネルセプト-HiseはプロテインA-Dynabeadsに結合し、その後結合バッファーで洗浄した後、SDS-PAGEローディングバッファーで煮沸して結合タンパク質を遊離させた。VNp-mNeongreen-Etanerceptの予測サイズは83.9kDaである。
図14d図14dは、DNaseとVNp2-Dnaseを発現する大腸菌の増殖曲線を示す。
図14e図14eは、その発現プロファイルを示す(DnaseおよびVNp-Dnaseの予測サイズはそれぞれ30.2kDaおよび34.4kDaである)。
図15】培養の表面積:体積比を変えるために、異なるサイズのフラスコで培養した大腸菌からのVNp-mNeongreen含有小胞の排出収量を示す図である。青いドットは標準三角フラスコ、赤いドットはバッフル付き三角フラスコ、黒いドットは嫌気状態を誘導するためにパラフィルムで密閉した標準三角フラスコである。酸素濃度が高いほど、小胞の排出が増加した。
図16】20L発酵槽の大腸菌VNp-DARPinOFF7誘導の例からのサンプルのクマシー染色SDS-PAGE分析を示す図である。
図17】VNp融合タンパク質は、滅菌PBS/培地中4℃で6ヶ月以上保存しても、小胞内で活性を維持することを示す図である。図17aは、従来の方法で細胞ペレットから単離したウリカーゼの酵素活性(赤)、またはVNp-ウリカーゼ誘導小胞から単離したウリカーゼの酵素活性(黒)を示す。グレー=バッファーのみのコントロール。ウリカーゼ酵素/緩衝液を5分間の平衡化後に尿酸基質に添加した(破線)。図17bは、VNp-ウリカーゼ小胞内に保存されたタンパク質からのウリカーゼ酵素活性の安定性を示す。新鮮な小胞精製VNp-ウリカーゼ(黒)、4℃で2ヶ月間反応緩衝液中に保存された同じ小胞精製VNp-ウリカーゼ(緑)、または4℃で2ヶ月間保存された小胞から新たに精製されたウリカーゼ(青)のいずれかのウリカーゼ活性を、ストップトフローを用いて測定した。速度は、平均化した曲線の定常状態領域(ボックスで強調表示)から求めた。
図18】哺乳動物細胞株におけるVNpの生存能力を示す図である。図18Aは、空のベクター、またはCMVもしくはSV40プロモーターの制御下でVNp2-mNeongreenもしくはVNp6-mNeongreenのいずれかを含むプラスミドを含んで生成された哺乳動物HEK細胞株を示す。図18Bは、SV40プロモーターの制御下でVNp6-mNeongreenを有するプラスミドを含むHEK細胞は、細胞外VNp6-mNeongreen含有小胞(矢印)の形成を誘導したことを示す。
図19】VNpタグは嫌気培養条件下での組換えタンパク質発現を促進することを示す図である。ゲルは、mNeongreenおよびステフィンA単独、またはVNpと融合した発現構築物を含む細胞からの発現プロフィールを示す。予想されるタンパク質サイズは、mNgが28kDa、VNp-mNg-が32.5kDa、mNg-ステフィンAが39kDa、VNp-ステフィンAが14.5kDaである。
【発明を実施するための形態】
【0059】
配列:
配列番号 1 - 全長内因性Hs α-シヌクレイン(VNp1)
配列番号2 - Hs α-シヌクレインのアミノ末端の38aa(VNp2)
配列番号3 - Hs β-シヌクレインのアミノ末端の38aa(VNp3)
配列番号4 - Hs γ-シヌクレインのアミノ末端の38aa(VNp4)
配列番号5 - 3K-E変異を有するVNp2(VNp5)
配列番号6 - 2K-D変異を有するVNp4(VNp6)
配列番号7 - 6K-A変異を有するVNp4(VNp7)
配列番号8 - A29M変異を有するVNp4(VNp8)
配列番号9 - 110A変異を有するVNp6(VNp9)
配列番号10 - A11P.Q24P変異を有するVNp6(VNp10)
配列番号11 - E31K変異を有するVNp6(VNp11)
配列番号12 - D2G変異を有するVNp6(VNp12)
配列番号13 - D2P変異を有するVNp6(VNp13)
配列番号14 - VNp6-20アミノ酸切断(VNp14)
配列番号15 - VNp6-25アミノ酸切断(VNp15)
配列番号16 - VNp6-30アミノ酸切断(VNp16)
配列番号17 - VNp6-18アミノ酸切断(VNp17)
配列番号18 - VNp6-15アミノ酸切断(VNp18)
配列番号19 - VNp6-11アミノ酸切断(VNp19)
配列番号20 - F4Y変異を有するVNp6-20アミノ酸切断(VNp20)
配列番号21 - F4A変異を有するVNp6-20アミノ酸切断(VNp21)
配列番号22 - D2P変異を有するVNp6-20アミノ酸切断(VNp22)
配列番号23 - K6D変異を有するVNp6-20アミノ酸切断(VNp23)
配列番号24 - K5DおよびK6D変異を有するVNp22(VNp24)
配列番号25 - VNp6-10アミノ酸切断(VNp25)
配列番号26 - VNp6-9アミノ酸切断(VNp26)
配列番号27 - S9D変異を有するVNp14(VNp27)
配列番号28 - S9D変異を有するVNp2(VNp28)
配列番号29 - ロイシンジッパー配列
【0060】
本発明は、目的の多様な分子を充填できる膜パッケージを作製するように単純な細胞をプログラムする方法に関する。この方法は、標的タンパク質が充填された膜パッケージを生体内で製造する方法を提供するだけでなく、誘導可能な合成翻訳後修飾が、パッケージが細胞質内に優先的に留まるか、または細胞外に放出されるかを制御する方法についても明らかにする。
【0061】
材料
本研究で使用した大腸菌株:
BL21DE3 FompThsdS(r 、m )galdcm(DE3)。
DH10β FmcrA Δ(mrr-hsdRMS-mcrBC)Φ80lacZΔM15ΔlacX74 recA1 endA1 araD139Δ(ara-leu)7697galUgalKλrpsL(Str)nupG
W3110F λIN(rrnD-rrnE)1rph-1
CLD1040 FλIN(rrnD-rrnE)1rph-1OmpT
JM109 F traD36 proAB laqlZΔM15 endA1 recA1 gyrA96 thi hsdR17(r 、m ) relA1 supE44 Δ(lac-proAB)
【0062】
プラスミド:
pRSFDuet-1_VNp-His6; pRSFDuet-1_VNp-mNeonGreen; pRSFDuet-1_VNp-mNeonGreen OmpA-mCherry;pRSFDuet-1_VNp-mNeonGreen_mScarlet-minD; pDuet-1_VNp-mCerulean3; pDuet-1_VNp-mNeonGreen; pDuet-1_VNp-mNeonGreen_VNp-mCherry; pDuet-1_VNp-mNeonGreen_VNp-mCherry; pDuet-1_VNp-mCerulean3_Citrine-minD; pACYCDuet-1_naa20_naa25(pNatB)(Johnson,M.et al(2010)PLoS ONE 5,e15801); pRSFDuet-1_VNp-LZ-mNeonGreen; pRSFDuet-1_DARPinOFF7; pRSFDuet-1_VNp-DARPinOFF7; pRSFDuet-1_ウリカーゼ; pRSFDuet-1_VNp-ウリカーゼ; pRSFDuet-1_ステフィンA; pRSFDuet-1_VNp-ステフィンA; pRSFDuet-1_FGF21; pRSFDuet-1_VNp-FGF21; pRSFDuet-1_hGH; pRSFDuet-1_VNp-hGH; pRSFDuet-1_VNp-LZ-hGH; pRSFDuet-I mNeonGreen; pRSFDuet-1_mNeonGreeN-DARPinOFF7; pRSFDuet-1_VNp-mNeonGreeN-DARPinOFF7; pRSFDuet-1_mNeonGreeN-ウリカーゼ; pRSFDuet-1_VNp-mNeonGreeN-ウリカーゼ; pRSFDuet-1_mNeonGreeN-ステフィンA; pRSFDuet-1_VNp-mNeonGreeN-ステフィンA; pRSFDuet-I mNeonGreeN-エタネルセプト; pRSFDuet-1_VNp-mNeonGreeN-エタネルセプト; pRSFDuet-1_mNeonGreeN-エリスロポエチン; pRSFDuet-1_VNp-mNeonGreeN-エリスロポエチン; pRSFDuet-1_VNp-LZ_VNp-LZ-エタネルセプト; pRSFDuet-1_VNp-LZ_VNp-LZ-hGH。
【0063】
プラスミド配列およびコンストラクトはaddgene.orgに寄託した。
本研究で試験したカーゴ全長タンパク質配列のUniprotアクセッション番号:
- DARP - アルキリンリピート タンパク質 off7(アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)) - B9JMD9
- DNase L- デオキシリボヌクレアーゼI(ウシ(Bos taurus)) - P00639
- EPO - エリスロポエチン(ヒト(Homo sapiens)) - P01588
- エタネルセプト - 腫瘍ネクローシス因子受容体スーパーファミリーメンバー1B(ヒト(Homo sapiens)) - P20333
- FGF21 - 線維芽細胞増殖因子21(ヒト(Homo sapiens)) - Q9NSA1
- hGH - ソマトトロピン(ヒト(Homo sapiens)) - P01241
- mNeonGreen(ナメクジウオ(Branchiostoma lanceolatum)) - A0A1 S4NYF2
- ステフィンA - シスタチン-A(ヒト(Homo sapiens)) - P01040
- ウリカーゼ(トルラ酵母(Cyberlindnera jadinii)) - P78609
方法
【0064】
細菌細胞の培養とタンパク質の誘導:すべての細菌細胞は、Lysogenyブロス(10gのトリプトン;10gのNaCl;5gの酵母抽出物(リットル当たり)およびTerrificブロス(12gのトリプトン;24gの酵母抽出物;4ml10%グリセロール;17mMのKHPO;72mMのKHPO(リットル当たり)培地を用いて37℃で培養した。新鮮な形質転換菌から得た5mlのLBスターターを37℃で飽和まで培養し、100~500ml容量のTB培地に接種するのに使用し、フラスコ培養を37℃で一晩、200rpmの軌道振盪で行った。T7プロモーターからの組換えタンパク質の発現は、培養が0.8~1.0のOD600に達した時点で、イソプロピルチオ-p-ガラクトシド(IPTG)を最終濃度20μg/mlになるように添加することで誘導した(10μg/mlを使用したエタネルセプトを除く)。アミノ末端アセチル化VNpを作製するために、標的コンストラクトをpNatBと共に大腸菌に共形質転換して、分裂酵母のアミノ-α-アセチルトランスフェラーゼ複合体B、Naa20およびNaa25と共発現させた(Johnson,M.et al(2010)PLoS ONE 5,e15801)。アミノ末端アセチル化は、精製したVNp融合タンパク質のエレクトロスプレー質量分析により確認した。
【0065】
増殖曲線は、増殖分析実験の開始時にOD600が0.1nmになるように新鮮な培地で希釈した対数期後期の培養から調製した96ウェルプレート培養から作成した。OD600吸光度値は、Thermo Scientific Multiscan Go1510-0318Cプレートリーダーを用いて取得し、Skanlt Software4.0を用いて記録した。OD600値は実験期間中15分ごとに測定し、4回の個々の生物学的反復の平均値から増殖曲線を作成した。
【0066】
可溶性タンパク質抽出物:50ml培養の細胞ペレットを5mlの可溶性抽出バッファー(20mMのトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、500mMのNaCl、pH8.0)に再懸濁し、合計2分間超音波処理(6x20秒パルス)し、18,000rpm(4℃)、30分間の遠心分離で細胞残渣を除去した。標的タンパク質濃度は、mNeonGreen融合体の蛍光またはゲル濃度計を用いて決定した。等価性を判定するために、両手法を同じサンプルで直接比較した。
【0067】
組み換え小胞単離:小胞は、滅菌・界面活性剤なしの0.45μmポリエーテルスルホン(PES)フィルターに培養液を通すことで、細菌細胞培養物から直接単離した。等量の培養とフィルター通過による典型的な純度と濃度を図1に示す。濾液を含む小胞から生細胞が排除されるかどうかは、抗生物質を含まないLBプレートにプレーティングし、37℃で一晩インキュベートすることで日常的に試験した(図12に例を示す)。
【0068】
タンパク質濃度の測定:小胞含有培地および可溶性タンパク質抽出物中のmNeongreen標識タンパク質の濃度を決定するために、蛍光スキャンを用いた。吸光度はVarian Cary(登録商標)50Bio UV-Vis分光光度計を用いて506nmで測定し、ベースライン補正のために同等の空のベクター培養からの測定値を用い、116,000M-1cm-の消衰係数を用いて濃度を決定した。mNeongreen標識していないタンパク質の濃度は、クマシー染色したSDS-PAGEゲル上でウシ血清アルブミン(BSA)ローディング標準と並行して行った3連サンプルのゲルデンシトメトリー分析によって決定した。ゲルはImageJソフトウェアを用いてスキャンし、分析した。濃度は、3つの独立したVNp-mNeongreenサンプルについて、UVとデンシトメトリーの両方で決定し、分析技術間のバリティを確認した。図1および表2の平均収量は、TB培地で培養したBL21 DE3大腸菌の培養から、最低3回の独立した生物学的反復から算出した(mg可溶性標的タンパク質/1リットル培養物)。
【0069】
小胞からのタンパク質単離:精製したVNp誘導小胞を氷冷1×PBSに再懸濁した後、超音波処理して小胞膜を破壊し、VNp融合タンパク質を遊離させた。カルボキシルHisタグ付き組換えVNp融合タンパク質(この研究で発現したすべての組換えタンパク質はカルボキシル末端Hisアフィニティータグを含む)をさらに精製するため、この溶液を5×結合バッファー(250mMのTRIS、2.5MNaCl、5%Triton-X、50mMのイミダゾールpH7.8)の5分の1希釈液で混合した後、Ni2+-アガロース樹脂グラビティカラムにかけた。細胞質組換えタンパク質は、可溶性タンパク質抽出物(イミダゾールを20mMまで添加)をNi2+-アガロース樹脂グラビティカラムに通すことにより精製した。いずれの場合も、マトリックスに結合したHisタグタンパク質を洗浄し、(イミダゾールを用いて)溶出し、適切な保存またはアッセイバッファーに透析した。単離したタンパク質の同一性とアミノ末端アセチル化は、エレクトロスプレー質量分析で確認した。
【0070】
細胞質VNp濃度の測定:VNp-mNeongreen発現をBL21 DE3大腸菌で37℃で4時間誘導し(細胞外小胞の産生が観察pされる場合)、3つの独立したサンプル調製から広視野イメージング(後述)を用いて120個以上の細胞の画像を取得した。平均mNeongreen強度は、各大腸菌細胞内の5×5ピクセルの領域から求めた。細胞画像取得と同じ撮像条件を用いて、既知濃度のスライド搭載VNp-mNeongreen溶液の複数の画像から検量線を作成した。これを用いて、測定した全細胞の平均強度の合計(18.76±0.14μM)から平均細胞質mNeongreen濃度を算出した。
【0071】
Hisタグ付きタンパク質のアフィニティー精製:小胞から組換えタンパク質を単離するために、VNp標識タンパク質を発現する一晩誘導した培養物の培地を0.45μmのポリエーテルスルホン(PES)フィルターに通し、その後の小胞を含む流れを超音波処理し、5×結合バッファー(250mMのTRIS、2.5MNaCl、5%Triton(商標)-X50mMのイミダゾール、pH7.8)の5分の1希釈液で混合した後、Ni2+-アガロース樹脂グラビティカラムに通した。細胞質組換えタンパク質は、可溶性タンパク質抽出物(イミダゾールを20mMまで添加)をNi2+-アガロース樹脂グラビティカラムに通すことにより精製した。いずれの場合も、マトリックスに結合したHisタグ付きタンパク質を洗浄し、(イミダゾールを用いて)溶出し、適切な保存またはアッセイバッファーに透析した。単離したタンパク質の同一性とアミノ末端アセチル化は、エレクトロスプレー質量分析法を用いて確認した。
【0072】
円偏光二色性(CD):測定は、Jasco715分光光度計を用い、2mmの石英キュベットで行った。VNpタンパク質と100nmの押し出し小胞をCDバッファー(10mMリン酸カリウム、5mMのMgCl、pH7.0)で希釈し、それぞれ0.4mg/mlと0.2の濃度にした。208nmおよび222nmの幅広い負のピーク、200nm未満の正のピークが、α-ヘリカル構造と一致した。
【0073】
タンパク質のエレクトロスプレーLC-MS:エレクトロスプレー質量スペクトルは、Broker micrOTOF-Q II(商標)質量分析計で記録した。サンプルは、Agilent(登録商標)1100HPLCシステムで動作するPhenomenex(登録商標)Jupiter(登録商標)C4カラム(5μm、300Å、2.0mmx50mm)上で、短い水、アセトニトリル、0.05%トリフルオロ酢酸のグラジエントを用いて、0.2ml/minの流速で逆相HPLCによりオンラインで脱塩した。溶離液を214nmおよび280nmでモニターし、4.5kVの正イオンモードで作動するエレクトロスプレーソースに導き、500~3000m/zのマススペクトルを記録した。データはBroker’s Compass Data Analysisソフトウェアで分析し、非荷電タンパク質の質量が得られるようにデコンボリューションした。
【0074】
組換え小胞のゲル内トリプシン消化とプロテオーム解析:精製VNp-DARP誘導小胞のサンプル(図7に示す)をSDS-PAGEにかけ、その後クマシー染色し、サンプルレーン全体を切り出して小片にし、それを1.5mlの微量遠心管に移し、処理するまで4℃で蒸留水に保存した。
【0075】
ゲル粒子を150μlの新鮮な50mMのNHHCO:アセトニトリル(1:1比)で15分間洗浄した。液体を除去し、ゲル断片を150μlのアセトニトリルに15分間再懸濁した後、再び液体を除去し、ゲル片を50mMのNHHCO中の10mMのDTT100μlに再懸濁し、56℃で30分間インキュベートした。ゲル片を遠心分離し、余分な液体を除去した後、100μlのアセトニトリルで1分間インキュベートし、再びアセトニトリルを除去した後、ゲル断片を50mMのNHHCO中55mMクロロアセトアミド100μlに懸濁し、室温、暗所で20分間インキュベートした。その後、ペレットを遠心分離し、クロロアセトアミド溶液を除去した。ゲル片はその後、150μlの50mMのNHHCO:アセトニトリル(1:1)で15分間洗浄した後、150μlの50mM NHHCOで15分間洗浄し、各洗浄後に遠心分離で液体を除去した。その後、ゲル片を200μlのアセトニトリルで15分間洗浄し、5ng/μlのトリプシンを含む50μlの消化バッファー(12.5mMのNHHCO、10%アセトニトリル)で再水和し、室温で一晩放置した。
【0076】
消化終了後、15μlのアセトニトリルをサンプルに加え、超音波浴で15分間超音波処理した。ゲル断片を遠心分離で単離し、上清を0.5mlの微量遠心管に回収した(A)。ゲル断片のペレットを30μlの5%ギ酸含有50%アセトニトリルに再懸濁し、超音波浴で15分間超音波処理し、ペレットを再度遠心分離で単離し、上清を新しい0.5ml微量遠心管に回収した(B)。チューブAとBの内容物を合わせて真空乾燥し、5%アセトニトリル、0.1%TFA20μlに再懸濁した。サンプルをPierce C18 Spin Tipsに通し、ナノ-LCMSで分析した。
【0077】
嫌気性条件下で培養した大腸菌での組換えタンパク質の発現:気密の嫌気培養容器に、抗生物質と50mMのフマル酸ナトリウムまたは100mMの硝酸ナトリウムを添加したLB培地を入れた(フマル酸塩と硝酸塩は酸素の代わりに電子受容体として働く)。培地と気密培養容器から酸素をアルゴンガスで20分間パージした。発現コンストラクトを含む新鮮なBL21 DE3大腸菌形質転換体をLB+選択抗生物質で5ml一晩培養したものを接種するのに使用した。このスターター培養の1:50希釈液を、酸素パージした培養容器に添加した(注射器と注射針を使用)。酸素パージしたIPTG(最終濃度20μg/ml)を添加してT7プロモーター依存性タンパク質発現を誘導した際に、この嫌気培養物を37℃で2時間振盪してインキュベートした。その後、回収および分析の前に、37℃で24時間培養した。
【0078】
ゲル濾過アッセイ:500μlのタンパク質サンプルを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で室温で平衡化したSuperdex(登録商標)200 Increase 10/300 GLサイズ排除カラム(GE Healthcare Life Sciences)にロードし、0.75ml/分の流速で流した。溶出したタンパク質を、Viscotek(登録商標)SEC-Mals9およびViscotek(登録商標)RI検出器VE3580(Malvern Panalytical)で測定した。データを、OmniSEC(登録商標)ソフトウェアを用いて分析した。
【0079】
脂質結合アッセイ:大腸菌膜脂質に対するVNpの親和性は、Nji,E.et al(Nat.Commun.(2018)9,4253-12)を応用した熱シフト蛍光結合アッセイを用いて確立した。等価アッセイサンプル:65μlの3mg/mlのVNp-mNeongreen、試験する脂質混合物からなる1mMの100nmの押し出し小胞65μl、10%のN-オクチル-β-D-グルコピラノシド(OGP)15μl、および5μlの20mM Tris-HCl、pH7.0からなる等価アッセイサンプルをPCRチューブに調製し、グラジエントPCR装置で規定温度に10分間保持した。サンプルを18,000xgで遠心し、上清の蛍光を、黒色96ウェルプレート(BRAND(登録商標)、ドイツ)にて、BMG Clariostar(登録商標)(BMG Labtech)を用いてBMG Clariostar(登録商標)(BMG Labtech)を用いて測定した。蛍光測定値は正規化され、融解曲線の作成に使われ、融解温度(Tm)をOriginソフトウェア(OriginLab)を用いて求めた。最終的なTm値は、3回の独立したサンプルの繰り返しから計算された平均値(±s.d)であった。
【0080】
ウリカーゼアッセイ:500μlの200mM尿酸入り100mM Tris、pH8.5をキュベットに入れ、OD293測定を4分間または5分間行った。その後、500μlの4.2mg/ml精製VNp2-ウリカーゼ(0.1MTris、pH8.5に透析)または透析バッファーだけをキュベットに加え、25分間OD293を測定した。(Huang,S.-H.& Wu,T.-K.(2004)Eur.J.Biochem.271,517-523から適合させた)。
【0081】
広視野蛍光顕微鏡検査:細胞を厚さ1mm未満の円形LB-アガロース(2%)パッドの下のカバースリップにマウントし、適切なスペーサーでスライドガラスに貼り付けた後、倒立顕微鏡で観察した。(Mulvihill,D.P.(2017)Cold Spring Harb.Protoc.2017,761-773)。各サンプルの生細胞イメージングを、細胞サンプルをカバースリップにマウントしてから30分以内に完了した。
【0082】
構造化照明顕微鏡検査(SIM)を、100xNA1.46油浸漬対物レンズ(Zeiss a Plan -Apochromat)を備えるZeiss Elyra PS.1顕微鏡を用いて、既報の通り(Periz,J.et al(2019)Nat.Commun.,1-16;Qiu,H.et al(2016)Science 352,697-701)行った。簡単に説明すると、細胞を薄いLB-アガロースパッドの下、高精度1.5号カバースリップ(Zeiss,Jenna,Germany)にマウントした。488nmおよび561nmのレーザーをそれぞれmNeonGreenおよびmCherry/mScarlet融合体に照射した。光学フィルターセットは,ダイクロイックミラーとしてレーザー遮断フィルターMBS405/488/561、デュアルバンド発光フィルターLBF-488/561で構成されている。二次元情報を得るために、照明パターンの合計3回転が実施された。超解像SIM画像処理は、Zeiss Zenソフトウェアを用いて行った。予めマウントされたMultiSpec(商標)ビーズサンプルを用いたキャリブレーション後、同じソフトウェアを用いて2つのカラー画像を位置合わせした。
【0083】
蛍光寿命イメージング顕微鏡検査(FLIM):本研究で用いた1光子系および2光子系については既報の通りである(Botchway,S.W.et al(2015)J.Microsc.258,68-78)。データの取得に先立ち、共焦点顕微鏡を用いてタンパク質の発現量を確認した。ここでは、倒立型Nikon TE2000またはTi-E顕微鏡に取り付けたNikon Eclipse C2-Si共焦点スキャンヘッドを使用した。NKTスーパーコンティニウムレーザーを用い、mNeongreenは491nm(発光波長520/35nm)、mCherryは561nm(発光波長630/50nm)で励起した。FLIM画像は以下のように得られた。モード同期チタンサファイアレーザー(Mira F900、Coherent Laser Ltd)により2光子(950nm)の波長光を発生させ、76MHzで180fsのパルスを発生させた。このレーザーは、固体連続波532nmレーザー(Verdi 18,Coherent Lasers Ltd)によって励起された。蛍光は、ドナー蛍光体用のBG39フィルターを通して収集された。アクセプターは励起されなかった。
【0084】
1光子励起FLIMでは、システムは、80MHzの繰り返し周波数、70psのパルス幅で発振するSuperK EXTREME NKT-SC 470-2000nmスーパーコンティニウムレーザー(NKT Photonics)を備えた。望ましい波長は、SuperK SELECT 29 multi-line tunable filter(NKT photonics)を用いて選択される。画像は、60X1.2NA水浸レンズ(図11bおよび図14b)または60X1.49NA油浸レンズ(図11c)のいずれかを通して収集した。1光子励起と2光子励起の両方で、発光はフィルター(上記)を通して同じ対物レンズで収集し、時間相関単一光子計数(TCSPC)モジュール(SPC830、BeckerおよびHickl,Germany)に連結した外部ハイブリッドGaAsP(HPM-100-40、Becker & Hickl,Germany)で検出した。多次指数関数的解析には少なくとも1000の光子計数を使用した。SPCImageソフトウェアv.6.9(Becker and Hickl,GmbH)を用いて、画像の各ピクセル(256x256またはそれ以上)における生の時間相関単一光子計数減衰曲線を解析した。減衰曲線のフィッティングには、レーザー繰返し時間値12.5nsの不完全単一指数フィットモデルを用いた。χ2が0.8から1.3の間の寿命値を良好な指数関数的減衰フィットとした。寿命は最低15視野の平均値から計算され、5視野以上は別々に準備された3つのスライドサンプルから採取された。
【0085】
細胞および単離小胞の透過型電子顕微鏡(TEM)分析:一晩培養からのVNp-mNeongreenを発現する大腸菌細胞10μlを、フォルムバール/炭素で被覆した400メッシュの金グリッド上に置き、37℃の加湿チャンバー内でインキュベートして小胞を形成させた。VNp-mNeongreenを発現する大腸菌の培養物から単離した組換え小胞を、フォルムバール/炭素で被覆した400メッシュの金グリッド上に置き、37℃の加湿チャンバーでインキュベートして小胞を形成させた。VNp-mNeongreenを発現する大腸菌の培養物から単離した組換え小胞を、フォルムバール/炭素で被覆した600メッシュの銅グリッド上に置き、室温で5分間静置して小胞を表面に沈降させた。その後、両サンプルを100mMカコジル酸ナトリウム緩衝液pH7.2(CAB)中2.5%グルタルアルデヒドで10分間固定した。その後、グリッドを100mMのCABとmilliQ(登録商標)水で洗浄した。その後、グリッドを乾燥させ、2%酢酸ウラニル水溶液で5秒間ネガティブ染色した。
【0086】
大腸菌細胞のTEM薄切片分析:VNp-mNeongreenを発現する大腸菌を上記のように培養し、3,000gで10分間遠心分離して回収した。細胞ペレット(約100μI)を、CAB中の2.5%(w/v)グルタルアルデヒド2mlに再懸濁し、穏やかに回転(20rpm)させながら室温で2時間固定した。細胞を6,000gで2分間遠心分離してペレット化し、100mMのCABで10分間2回洗浄した。細胞を100mMのCAB中1%(w/v)四酸化オスミウムで2時間後固定し、その後ddHOで2回洗浄した。50%EtOHで10分間、70%EtOHで一晩、90%EtOHで10分間のエタノール勾配でインキュベートした後、100%乾燥EtOHで10分間洗浄を3回行い、細胞を脱水した。その後、細胞をプロピレンオキシドで15分間2回洗浄した。細胞ペレットをプロピレンオキシドとアガーLVレジンの1:1混合液1mlに再懸濁し、回転させながら30分間インキュベートした。細胞ペレットを100%アガーLV樹脂に2回浸潤した(2x2h)。細胞ペレットを新鮮な樹脂に再懸濁し、1-mL BEEM包埋カプセルに移し、スイングアウトローターで1100rpm、5分間遠心してカプセルの先端に細胞を濃縮し、サンプルを60℃で20時間重合した。
【0087】
超薄切片は、ダイヤモンドナイフ(Diatome 45°)を装備したLeica EM UC7ウルトラミクロトームを用いて切り出した。切片(70nm)はコーティングされていない400メッシュの銅グリッド上に集めた。グリッドを1%(v/v)の酢酸中4.5%(w/v)の酢酸ウラニルで45分間インキュベートした後、ddHOの流れで洗浄した。グリッドをレイノルズクエン酸鉛で7分間染色した後、ddHOで洗浄した。電子顕微鏡観察は、Gatan One Viewデジタルカメラを装備した加速電圧80kVのJEOL-1230透過電子顕微鏡を用いて行った。
【0088】
単離した小胞の免疫EM:VNp-mNeongreenを発現する大腸菌の培養物からの組換え小胞を含む2μlの濾過培地を、フォルムバール/炭素で被覆した600メッシュの銅グリッド上に置き、室温で5分間静置して小胞を沈降させた。グリッドを20μlのmilliQ水2滴に移し、室温で10分間、浸透圧衝撃を与えて小胞を破裂させた。その後、サンプルをCAB中2%ホルムアルデヒドおよび0.5%グルタルアルデヒドで室温で15分間固定した。次に、グリッドを6滴の20μlのCABと6滴の20μlのTBST(20mMのTris-HCl、500mMのNaCl、0.05%Tween20、0.1%BSApH7.4)で洗浄した。サンプルを、TBST中の2%BSA20μlの滴で30分間室温でブロッキングした。次に、グリッドを、TBSTで1:100に希釈した抗mNeongreenウサギポリクローナル一次抗体(Cell Signalling Technology)20μlの滴に直接移し、1時間インキュベートした。グリッドを6滴の20μlのTBSTで洗浄した。その後、グリッドを1:50に希釈したヤギ抗ウサギIgG 5nm gold(British Biocell International)の滴に移し、次いで同じ抗体の新しい滴に移して30分間インキュベートした。過剰の抗体は、6滴の20μlのTBST溶液と6滴の20μlのmilliQ水で洗浄し、乾燥させた。
【0089】
グリッドを2%酢酸ウラニル水溶液で5秒間ネガティブ染色した。電子顕微鏡観察は、Gatan One Viewデジタルカメラを装備した加速電圧80kVのJEOL-1230透過電子顕微鏡で行った。
【0090】
大腸菌細胞の免疫電子顕微鏡(EM):VNp-mNeongreenを発現する大腸菌を上記のように培養し、3,000gで10分間遠心分離して回収した。細胞ペレット(約100μl)を2mlの2%(w/v)ホルムアルデヒドとCAB中0.5%グルタルアルデヒドに再懸濁し、室温で2時間固定した。サンプルをCABで2x10分間洗浄した。50%EtOHで10分間、70%EtOHで一晩、90%EtOHで10分間のエタノール勾配でインキュベートした後、100%乾燥EtOHで10分間洗浄を3回行い、細胞を脱水した。その後、細胞をLR White resin medium grade(London Resin Company)に4時間懸濁し、新鮮なLRWhite樹脂に一晩懸濁した。新鮮なLR White resinで4時間×2回交換した後、サンプルを密封したゼラチンカプセルに入れ、スイングアウトローターで1100rpmで回転させ、細胞を濃縮した。細胞ペレットを含むゼラチンカプセルを60℃で20時間直立重合した。ダイヤモンドナイフ(DiATOME45°)を装着したLeica EM UC7 ultramicrotomeを用いて、超薄切片を切り出した。切片(80nm)は、コーティングされていない400メッシュの金グリッド上に集めた。
【0091】
サンプルをTBST中2%BSAの20μlの滴で30分間室温でブロッキングした。次にグリッドを、TBSTで1:10に希釈した抗mNeongreenウサギポリクローナル一次抗体(Cell Signalling Technology)の20μlの滴に直接移し、1時間インキュベートした。グリッドを6xTBSTで洗浄した。次にグリッドを、1:50に希釈したヤギ抗ウサギIgG 5nm gold(British Biocell International)の滴に移し、同じ抗体の新しい滴に移して30分間インキュベートした。過剰の抗体は、6滴の20μlのTBSTと6滴の20μlのmilliQ水で洗浄して除去し、乾燥させた。
【0092】
グリッドを1%酢酸溶液中の4.5%酢酸ウラニルで15分間染色した後、milliQ水6x20μl滴で洗浄した。その後、グリッドをレイノルズクエン酸鉛で3分間染色し、milliQ水6x20μl滴で洗浄した。電子顕微鏡観察は、Gatan One Viewデジタルカメラを装備し、加速電圧80kVで動作するJEQL-1230透過電子顕微鏡を用いて行った。
【0093】
動的光散乱試験:すべての試験はAnton Paar Litesizer(商標)500を使用し、KalliopeTM Professionalで処理した。サンプル調製に使用したすべてのバイアル/キュベット/微量遠心管は、清潔で乾燥したものである。使用した溶媒系はすべて濾過し、得られた結果に干渉する可能性のある微粒子を除去した。
【0094】
発酵培養によるVNp融合体排出:2Lバッフル付きフラスコで一晩培養したpAVE011-VNpDARPinOFF7を含む大腸菌のLB(1%w/vグルコースおよび15mg/Lテトラサイクリン添加)450mlの一晩前培養した培養物160mlを、37℃、200rpm(2.5cmスロー)の振盪培養器で、16LのTerrificブロス基礎培地(グルコースまたはグリセロール無添加、テトラサイクリン添加)発酵槽培養液に接種した。
【0095】
発酵槽の培養条件:pHを7.0に設定(25%アンモニア水溶液または8.5%w/vオルトリン酸水溶液で制御);pO2設定値30%(撹拌機にカスケード接続し、入口ガスに酸素を補充);通気速度:1.0v/v/m;撹拌速度:200~630rpm;グルコース/酵母エキスの発現供給速度:6g/L/hを上限とした。400g/Lのグルコースと200g/Lの酵母エキスからなる供給培地を96g/hでバッチ培養に供給した。VNp2-DARPの予測サイズは22.5kDaである。
【0096】
VNp-DARPの発現は、5.3時間(発酵経過時間)の溶存酸素張力の最初のスパイクで示されるように、バッチ段階でのIPTG(最終濃度20μg/mL)の添加によって誘導された。6.6時間の枯渇後、直線供給を開始した。
【0097】
発酵期間:IPTG誘導から18.95h(startof直線供給速度の開始から17.65h)。
【0098】
3,000RCF、10℃で20分間の遠心分離により細胞ペレットを回収した。SN回収物のアリコートを分析のために0.45μmPESフィルターに通した。
【0099】
結果
本発明は、ヒトシヌクレインのアミノ末端の一部または全部の組換え発現が、大腸菌細胞から培地中への細胞外小胞の連続的な形成と放出をもたらすという発見にある(図1a)。特にαシヌクレインについて調べたところ、配列の最初の60残基はα-ヘリカル膜相互作用ドメイン全体を表し、最初の38残基はこのドメインの前半部分であり、予測されるループ領域で切断されていた。これらの配列はどちらも同じ程度にmNeongreen小胞の排出を促進した。
【0100】
最初の38残基を有する配列(VNp2)は細胞膜と相互作用し(図10および図11)、4時間後からVNp発現(細胞質VNp2濃度は18.8±0.14μMに達した)により、菌体膜の局所的な湾曲が誘導され、別個の小胞が形成されるまで外側に伸びて、膜が切断されると増殖培地中に放出された(図1b~d)。このプロセスは細胞生存率に影響を与えることなく繰り返し起こり、同一細胞から小胞を大量生産することができた(図1dおよび図12)。
【0101】
VNpをコードする配列と単量体蛍光タンパク質mNeongreenをコードする配列(Shaner,N.C.et al(2013)Nat Meth,407-409)を融合すると、大きいVNp-mNeongreenを含む蛍光小胞が産生され、培養液中に排出された(図1e、1f)。mNeongreenカーゴは小胞の内腔にのみ存在することが、免疫EM分析で確認された(図1e~1f)。免疫電子顕微鏡でも、mNeongreenカーゴが小胞の内腔内にのみ局在していることが確認され(図1f、図13)、VNpが内膜の脂質と相互作用して、膜の局所的な外向きの湾曲とそれに続く小胞形成を誘導する臨界濃度まで蓄積するという解釈が支持された。その後、VNpは内側に湾曲した膜から、形成された小胞の内腔に放出され、細胞膜の切断と再閉鎖に伴って、今度は培地中に放出される(図1j)。
【0102】
遠心分離によって大部分の細菌細胞から小胞が分離された一方で、滅菌した0.45μmのポリエーテルスルホン(PES)フィルターを用いた迅速な一段階濾過によって、細菌から小胞が効率的かつ効果的に分離された(図1g~h、図11)。驚くべきことに、これらの単離された小胞はサイズが均一で、機能的に折り畳まれた組換えタンパク質の効果的な長期タンパク質保存のための安定した環境をもたらした(図11)。組換え小胞の内容物のプロテオミクスとデンシトメトリー分析から、組換えタンパク質の相対的な純度が示され、プロテオミクスとゲル分析から総数の-40~60%であった(図2参照)。一段階濾過で得られた融合タンパク質の純度は、非常に幅広い用途に十分である可能性が高く(図1i)、必要に応じて小胞を超音波処理した後の精製をサポートする。
【0103】
このシステムは、組換えタンパク質の生産とその後の処理を促進するために、膜にパッケージされた組換えタンパク質を培地に放出するためのシンプルで魅力的なメカニズムを提供する。mNeongreenは、異なる物理的性質と発現上の課題(膜結合性、ジスルフィド結合を含む、あるいは不溶性または有毒なタンパク質など)を持つ培地に排出された可溶性標的タンパク質の迅速な定量を提供し、ライフサイエンス・コミュニティーが要求する様々な分子の発現に対するこの技術の適用性を試験した。各タンパク質の発現をVNp、またはVNp-mNeongreenアミノ末端融合体として試験し、同等の非VNp融合タンパク質の発現と比較した(図1k~m、表2)。
【0104】
また、この技術は、さまざまな誘導性・構成性プロモーターからの発現を利用して、幅広い大腸菌株(BL21株、JM109株、K12株など)に応用できることも実験で示されている。VNpシステムはW3110細胞で機能し、免疫原性反応を低減した組換えタンパク質充填小胞の作製を可能にする。VNp融合体は様々なプラスミド(pUC19やpBR322ベースの誘導体を含む)から発現させることができ、多様なプロモーター(T7、ラムノースなど)や誘導レベルからVNp融合体の発現を調節することができる(図3および表1を参照)。
表1:W3110λDE3大腸菌細胞排出したタンパク質の収量:
【表1】
【0105】
本発明者らはまた、目的のタンパク質が小胞から放出されると、プロテアーゼ消化物を用いてVNpタグを除去しても、目的のタンパク質は可溶性のままである(すなわち、タンパク質の溶解性を維持するためにVNpは必要ない)ことを実証した。図7に示すように、精製したVNpmNG-TEV-DARPとVNp-mNG-TEV-UricaseをTEVプロテアーゼで消化した。その結果、切断されたタンパク質はペレット画分(P)では検出されず、13,200RCFで遠心した後の上清(S/N)画分に残った。
【0106】
蛍光タンパク質を用いれば、培地中に排出された可溶性標的タンパク質を迅速に定量することができるが、この技術を検証するために、物理的性質や発現の課題が異なる、より広範な標的タンパク質を選択した。試験対象タンパク質には、設計したアンキリン反復タンパク質off7(DARP)、ステフィンA、ウリカーゼ(図1k)、エリスロポエチン(EPO)、エタネルセプト、線維芽細胞増殖因子21(FGF21)およびヒト増殖ホルモン(hGH)が含まれる。このように、これらのタンパク質は、大腸菌では通常検出可能なレベルまで発現されない、異なる物理的特性および発現上の課題(膜結合性、二量体、ジスルフィド結合を含む、または不溶性タンパク質など)を代表するものであり、したがってこの技術の幅広い応用可能性を示すものである。各タンパク質の発現をVNp、またはVNpmNeongreenアミノ末端融合タンパク質として試験し、同等の非VNp融合タンパク質の発現と比較した(表2)。
【0107】
表2:可溶性タンパク質収量の概要。
【表2-1】
【表2-2】
【0108】
平均収量±s.d.は>3独立した生物学的反復から計算した。収量はmg可溶な標的タンパク質/Lとして測定した。特に断りのない限り、T7プロモーターを20μg/mlのIPTGで誘導し、37℃で細菌の振盪フラスコ培養を行った。
n.d.:検出不能;LZ=ロイシンジッパー配列;mNG=mNeonGreen
【0109】
小胞核形成ペプチド配列の範囲を広げたmNeongreen融合体の相対的な排出収量を測定した。表3からわかるように、VNpの長さが短くなると、排出収量が低下した。9アミノ酸のペプチド長でもある程度の排出が観察されたが、この短い長さでは小胞形成活性が著しく低下した。
表3:
【表3-1】
【表3-2】
【0110】
VNpとの融合は、各標的タンパク質のタンパク質発現と分泌を非常に効果的に増強した。このように、VNpタンパク質発現は、1kDa未満(VNp-His6)から85kDa(VNp-mNeongreen-エタネルセプト)までのサイズの個々のタンパク質の発現をサポートするだけでなく、排出された小胞内の二分子蛍光補完VNp融合体のペアからの蛍光によって示されるように、タンパク質複合体の発現もサポートする(図11)(Kodama,Y.& Hu,C.-D.(2010)BioTechniques 49,793-805)。重要なことは、VNp融合によって、調べた各ターゲットタンパク質の可溶型の全体の収量が向上したことで、DARPの場合、振盪フラスコ培養1リットル当たりほぼ1gの可溶型タンパク質の収量が得られた(表2)。膜結合タンパク質(FGF21)と完全な酵素活性を持つVNp-ウリカーゼの生産により、このシステムの多様性が示された。さらに、VNp-エタネルセプトは適切なリガンド結合特性を示し(図13)、mNeongreen蛍光は、VNp誘導小胞パッケージングに伴う機能的タンパク質折り畳みが、単離された小胞内でどのように維持されているかを示している。
【0111】
VNp融合により、他の方法では不溶性であったり、細菌細胞の生存能力を低下させる可溶性折り畳みタンパク質(例えば、DNase、エタネルセプト、EPO、hGH)の生産が可能になる。ジスルフィド結合を含むタンパク質エタネルセプトとhGHの場合(Goffe,B.& Gather,J.C.(2003)J Am Acad Dermatol 49,S105-S111;Ultsch,M.H.& Somers,W.J.(1994)Mol.Biol.236,286-299)、可溶性組換えタンパク質の大部分は細胞内に留まっていた。EMのデータは、VNp-mNG-エタネルセプトがVNpの内膜のリモデリングに影響を与えて、内在化した細胞質膜構造を含むVNp融合体を誘導することを示している(図6a~b)。同様に、組換えNatB複合体によるVNpのアミノ末端アセチル化(Eastwood,T.A.et al(2017)FEBS Letters 106,8157-9)は、VNp-エタネルセプトと同様に、大腸菌内で膜内部構造を形成し(図6c~d)、細胞内のmNeongreenの割合を増加させた(図6e、表2)。
【0112】
VNp2タグは、大腸菌からのヘテロ二量体可溶性機能性抗体の発現と単離も可能にする。重鎖と軽鎖のヘテロ二量体(ジスルフィド結合で連結)からなるFab(フラグメント抗原結合;折り畳まれた鶏卵リゾチーム)とmAB(モノクローナル抗体;Muc1)抗体は可溶性であり、正しい構造、複合体形成、機能性を示すプロテインG/Aと結合できることがわかった(図4参照)。
【0113】
VNpとカーゴの間にロイシンジッパー配列を導入することで、安定なα-ヘリカルVNp二量体が作製され(図12)、以前の二量体VNp融合体と一致して、細菌細胞質内で内膜に関連した小胞構造を含むmNeongreenの形成を誘導した(図6f~h)。特に、VNpのカルボキシル末端にロイシンジッパー配列を付加すると、VNp二量体が形成され、細胞質内小胞が主に生成される。図9に見られるように、VNp-mNG(黒)の溶出プロフィールは単量体タンパク質と一致していたが、VNp-LZ-mNG(灰色)はより早い画分でカラムから溶出し、主に二量体として存在していた。したがって、本発明は、大腸菌から毒性タンパク質および/またはジスルフィド結合を含むタンパク質を発現させるための魅力的な簡単な系を提供する(図6i)。
【0114】
VNpはまた、組換えタンパク質の小胞内標的タンパク質分解切断を可能にするために作製された。VNp-mNeongreen-DARPinoff7融合体を単独で、またはVNp-マルトース結合タンパク質(MBP)-TEVプロテアーゼ融合体と組み合わせて発現させるコンストラクトを含む大腸菌細胞を培養し、一晩フラスコ培養で発現を誘導した。VNp-mNeongreen-DARPinoff7融合体は、mNeongreenとDARPin配列の間にTEV切断部位を含んでいた。図5に見られるように、VNp-mNG-DARPの単独発現は、全長タンパク質(50.8kDaサイズ)の発現と小胞排出をもたらした。一方、同じタンパク質をTEVプロテアーゼ融合体と共発現させると、VNp-mNG-DARPはTEV部位で切断され、VNp-mNG(32kDa)とDARPinoff7(18.8kDa)の断片が培養液中に排出された。
したがって、本発明は、ジスルフィド結合を含有する、不溶性(例えば、エタネルセプト、hGHおよび抗体複合体)、または毒性(例えば、DNase)を有するタンパク質の発現およびコンパートメント化のために、内部膜結合構造を含有する組換えタンパク質を生成するための魅力的な方法を提供する。しかしながら、VNp-LZ二量体カーゴ融合体をVNp-LZペプチドと共発現させると(細胞外小胞の生産量を増やすため)、コンパートメント内部に結合したタンパク質が、培地から分離された可溶性カーゴパッケージ小胞として、排出ルートに再方向付けされ(表2)、これらのタンパク質の特定の下流プロセスを促進した。このように、VNpシステムは、融合タンパク質を培地から即座に単離することをサポートするだけでなく、複合体合成のための酵素カスケードの生成や、合成生物学の他の側面など、特定の分野において有利とな、代替的な内部発現システムを提供する
【0115】
続いて、脂質相互作用を調節するためにVNpタンパク質に単純な修飾を加えるだけで、排出タンパク質の収量が向上するかどうかを確認するための調査を行った。一連のVNp変異体を試験し、ヘリックス表面に沿って標的残基の電荷と側鎖の長さを変更することで、広い培養温度範囲で小胞排出が促進されるだけでなく(例えばVNp6)、VNpのサイズを9残基の長さまで縮小できることがわかった(例えばVNp26)(表2)。
【0116】
VNpが膜動態に影響を与えることと一致し、VNp2の場合、細胞を高温で培養すると最適な小胞生成が観察された(表2および表4参照)。しかしながら、VNp6の変異体は、広い培養温度範囲(25℃~37℃)で高い効率で小胞生成を誘導した。
表4:25℃、30℃および37℃のVNp-mNeonGreen融合体の収量
【表4】
【0117】
酸素濃度の影響も調べた。細胞は、同じ体積の培地中で、フラスコのサイズを大きくし(したがって表面積を大きくする)、±パラフィルム(±嫌気性)、±バッフル(培養の攪拌性を高める)を用いて培養した。図16に示され、表5に示されているように、表面積:容積比の増加は、小胞にパッケージされたタンパク質の排出に直接影響することがわかった。パラフィルム(登録商標)の添加(すなわち嫌気条件)は、小胞形成に劇的な悪影響を及ぼし、撹拌はわずかではあるが有意な悪影響を及ぼした。
【0118】
表5:細胞外小胞形成は細胞培養酸素供給を必要とする。
【表5-1】
【表5-2】
【0119】
本発明者らはまた、本明細書に記載のVNp技術を、表面積:容積比を維持するために5Lフラスコで培養する場合、1L容量の振盪フラスコ培養量に適用できることを確立した(図8および表6参照)。
【0120】
表6:様々な培養量とフラスコサイズにおける排出したVNp-mNeongreenの収量。
【表6】
【0121】
小胞形成に最適な条件を特定するためには、発現されるカーゴに応じて発現レベルを調節する必要があることが理解される。VNpが膜の動態に影響を与えることと一致し、最適な小胞の生成は、膜がより動的である高温で細胞を培養したときに観察された。しかしながら、pUC19またはpBR322ベースの誘導体を含む様々なプラスミドにおいて、様々なプロモーター(例えばT7、ラムノース、アラビノース、Tac)から発現を支持することができるので、特定の発現レベルを様々な発現系で容易に試験することができる。
【0122】
図15は、VNp2-DARPコンストラクトが20Lの発酵槽/バイオリアクターでタンパク質の排出に成功したことを示している。タンパク質は細胞ペレットと上清の両方に見られ、上清に最も高濃度のタンパク質が認められた。
【0123】
実験により、組換え小胞とその中の融合タンパク質は、4℃で保存した場合に安定であることが確認された(図17参照)。動的光散乱(DLS)により、溶液中に異なる強度分布の極大値を持つ2つの種が存在することが確認された。1つ目は流体力学的直径166nmを示し、単離された小胞に起因し、EM画像に存在する種と相関する。2つ目は流体力学的直径~10nmを示し、小胞の断片に起因する。各サンプルの平均多分散性指数は1以上であり、培地中に幅広いサイズ分布を持つ小胞を示した。小胞の平均流体力学的直径は、滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中4℃で6ヶ月間保存した後も変化しなかった(流体力学的直径=169nm)。さらに、日齢の小胞(-10.5mV)のゼータ電位(ピーク最大値から算出)には、4ヶ月齢の小胞(-11.1mV)と比べて有意な差はなく、小胞に含まれるVNp-mNeongreenの3ヶ月間の観察可能な有意な損失もなかった。したがって、単離された小胞は、可溶性組換えタンパク質の効果的な長期タンパク質保存に安定した環境を提供する。小胞から単離されたVNp-ウリカーゼは、細胞ペレットから精製されたウリカーゼと同程度に酵素活性を示しただけでなく、この活性は、単離された小胞内で4℃で2ヶ月間保存されたVNp-ウリカーゼが、同じ期間バッファー中で4℃で保存された精製タンパク質と比較して、より高い程度に維持され(図17)、小胞がそれらのタンパク質カーゴを提供する安定した環境を強調する。
【0124】
VNp配列は、培養中の哺乳類細胞発現系から細胞外VNp融合体含有小胞の形成を誘導するために用いることができる(図18参照)。HEK293T細胞を、CMVまたはSV40プロモーターのいずれかの制御下にあるVNp2-mNeongreenおよびVNp6発現構築物で一過性に形質転換した(Lipofectamine2000媒介トランスフェクション)。発現と相対的誘導レベルはウェスタンブロットで確認した(図18A)。VNp-mNeongreenをトランスフェクトしたHEK細胞を、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地中でカバースリップ上で増殖させた。細胞を広視野顕微鏡で撮像し、mNeongreen発現を可視化した。図18の矢印は、VNp-mNeongreenを含む組換え小胞を強調している。SV40プロモーターの制御下でVNp6-mNeongreenを発現させると、CHO-S細胞で同様の結果が観察された。
【0125】
本発明者らはまた、VNpタグ技術が、嫌気性条件下で培養した大腸菌の組換えタンパク質発現を劇的に促進することを立証した。VNp配列とmNeongreenまたはDARPinoff7との間のVNp融合体の細胞質コンパートメント化を促進する条件が特定された。図19は、mNeongreenおよびStefinA単独、またはVNpと融合した発現コンストラクトを含む細胞からの発現プロフィールのゲルを示しており、いずれの場合も、VNpの添加により、嫌気性増殖条件下で培養した細胞でこれらの組換えタンパク質の発現が促進されることを示している。
考察
【0126】
実証されているように、本明細書に記載されている単純なペプチド融合は、大腸菌からの広範な組換えタンパク質の収量を増加させ、下流の処理を単純化する。重要なことは、不溶性または有毒なタンパク質をミリグラムまたはグラム単位で単離することが容易であることから、この方法は、目的の組換えタンパク質を発現させるための魅力的な出発点であるということである。この生産システムの非常に魅力的な点は、小胞を4℃に維持したときのタンパク質の安定性と酵素活性の維持である。その結果、この汎用性の高いシステムは、高スループット発現スクリーニング、タンパク質の貯蔵、組換えバイオリアクターの作製、生体分子の環境分散、マイクロ小胞治療、ワクチンと並ぶナノボディ生産、およびウイルス療法の送達など、幅広い下流プロセスおよび応用に適している。
【0127】
最初の研究では、ヒト神経細胞の必須タンパク質であるα-シヌクレイン(αSyn)のアミノ末端アセチル化の影響が(Maltsev,A.S.et al(2012)Biochemistry 51,5004-5013)大腸菌で観察された。その結果、オリゴマー化状態の違いを細菌細胞内で追跡できることが発見された(Eastwood,T.A.et al(2017)FEBS Letters 106,8157-9)のに加えて、大腸菌膜から形成される大量の細胞外小胞の形成をもたらした(未発表)。蛍光イメージングにより、膜に結合したαSynが臨界レベルに達すると、菌体膜の外向きの湾曲が誘導され、αSyn-蛍光タンパク質融合体を含む細胞外小胞(天然の外膜小胞よりかなり大きい)が形成されることが明らかになった。
【0128】
VNp誘導小胞形成には、小胞形成を促進する臨界濃度のVNp融合タンパク質が必要である。小胞核形成ペプチドは細胞膜と相互作用し、4時間以降、VNpの発現(細胞質VNp濃度は通常18.8±0.14μM)は菌膜の局所的な湾曲を誘導し、それは明瞭な小胞が形成されるまで外側に広がり、膜が切断されると増殖培地中に放出された。目的のタンパク質を発現させると、細胞に対して毒性を示したり、細胞膜と相互作用したり、中程度の細胞質濃度でも正しく折り畳まれなかったりすることがある。そこで、二量体化ロイシンジッパー(LZ)ペプチドをVNpと目的のタンパク質配列の間に導入した。その結果、このコンストラクトを単独で、あるいは追加のVNp-LZペプチドと一緒に発現させると、通常では発現が困難なタンパク質のパッケージングと排出が促進されることが示された(例として、エタネルセプトとhGHが挙げられる)。
【0129】
さらに、VNpの細菌細胞内での生体内アミノ末端アセチル化(Eastwood,T.A.et al(2017)FEBS Letters 106,8157-9;Johnson,M.et al(2010)PLoS ONE 5,e15801参照)は、細菌の細胞質内で内在化したVNp-融合小胞構造の形成を促進し、目的のタンパク質の発現を改善した。
【0130】
これらの最初の観察から、大腸菌細胞内でαSynとヒト成長ホルモン(hGH)の融合体を発現させると、振盪フラスコと市販のバイオリアクター細胞培養システムの両方で、αSyn-hGHを含む小胞が培養液中に放出されることが確立された。このことから、目的の組換えタンパク質を含む小胞が増殖培地中に放出され、目的のタンパク質の下流での精製やプロセシングが容易になることが示された。
【0131】
15kDa(140アミノ酸)のαSynタンパク質全体ではなく、αSynの特定の領域が小胞形成をもたらすかどうかを確かめるための調査が行われた。その結果、αSynのアミノ末端から38アミノ酸の短い両親媒性αヘリカルポリペプチドが、細胞膜と相互作用して小胞構造の形成を促進するのに十分であることがわかった。その後、この38アミノ酸の小胞核形成ポリペプチド(VNp)が大腸菌細胞膜の内側と相互作用し、膜の形状に影響を与えることがわかった。分光法、EM、DLS、質量分析、生細胞イメージングのデータから、VNp-蛍光タンパク質(FP)融合体の発現により、VNp-FPを含む小胞の培地への排出が誘導されることが確認された。これらの現象は、VNpアミノ末端融合を欠くFPを単独で発現させた場合には観察されなかった。
【0132】
その後、他のシヌクレインタンパク質の同等ポリペプチドを用いて、同等レベルの蛍光VNp-FP含有小胞を生成できることがわかった。現在進行中の系統的な生体外での分子進化アプローチ(γ-シヌクレインの最初の38アミノ酸を出発点として使用)において、天然のペプチド配列と比較して、小胞にパッケージされたVNp融合体の大腸菌細胞からの排出を有意に促進する(そして減少させる)より多くの修飾VNp配列が同定された。表7は、mNeongreen(mNG)の排出に対する変異体と各配列の効果をまとめたものである。
表7:
【表7-1】
【表7-2】
【0133】
VNp6の短いバージョンは特にうまく機能し、組換えタンパク質の95%が培地中に排出されることがわかる。VNpのαヘリカル構造は、特定の脂質との相互作用によって強化され、VNpは細菌内膜と相互作用し、目的のタンパク質の発現と宿主細胞から培地への排出を可能にする。
【0134】
VNp配列そのものを最適化するだけでなく、膜パッケージ化標的タンパク質の産生に最適な条件を特定するために、様々な大腸菌株および培養条件を試験し、比較した。Luriaブロス(LB)のような標準的な大腸菌培養培地、特にTerrificブロス(TB)のようなリッチな培地はすべてうまく機能するようで、TBで培養した場合、LBに比べて約4倍多くのVNp融合タンパク質が放出された。培地中で生産された組換えタンパク質全体が多かっただけでなく、そのより高い割合がTBでは培地中に放出された。対照的に、最小/複合培地で細胞を培養した場合、VNp誘導小胞パッケージは得られたが、それは有意に低いレベルであった。
クエン酸のようないくつかの特定の培地成分は放出に影響を与え、減少させ、または阻害することが見出されたが、リン酸イオン濃度のような他のものは小胞放出に影響を与えなかった。いくつかの実施形態では、以下の1つ以上、好ましくはすべてが有利であることが見出されている:
・4g/l未満の最終KSO濃度;
・10mM未満の最終MgSO濃度;
・0.03g/l未満の最終CaCl濃度;
・最大5g/lのNaCl濃度;
・0.04%(v/v)未満のグリセロール濃度;および
【0135】
・最大1mM(好ましくは最大0.1mM)の最終ソルビトール濃度。
【0136】
細胞培養温度もまた、特定のVNp変異体に依存した排出の効率に影響を与え得る。例えば、配列番号2は温度依存性であり、37℃でより良好に放出される。一方、いくつかの実施形態では、VNp6およびVNp15変異体について、細胞を25℃から37℃の範囲で培養すると、小胞にパッケージされたタンパク質の排出が改善される。
【0137】
また、呼吸/代謝を最大にするために酸素濃度を高くすると、小胞にパッケージされたタンパク質の培地中への放出に大きな好影響を与えることもわかった。
【0138】
この実験から、VNp融合タンパク質の発現レベルが、最適な小胞放出を確保するために重要であることが示された。核となるVNp構築物について、様々な誘導レベルでの細胞生存率、標的タンパク質の発現および排出を調べ、比較した。最良の収量が得られたのは、細胞増殖に検出可能な程度の影響しか与えないレベルで発現を誘導することで、VNpによる細菌の細胞膜への全体的なストレスおよび生存率に対して、小胞産生のバランスをとったものであった。VNp融合体の合計収量は、誘導率が高くなると著しく低下するだけでなく、生産された標的タンパク質のうち培地中に排出される割合も低下した。VNp配列番号2融合体の場合、大部分のタンパク質に最適な誘導は20μg/mlのIPTGと特定された。しかし、いくつかの有毒な標的タンパク質の最適収量は、10~15μg/mlのIPTGで達成された(例えば、エタネルセプト、hGH)。
【0139】
VNp融合体の発現は、プロモーターおよび/またはインデューサーを調節することで制御した(例えば、T7プロモーター発現は10~100μg/mlのIPTGを用いて制御;ラムノースプロモーター発現は0.001%~0.2%(最終W/V)のラムノースを培地に添加することで制御)。当然のことながら、発現レベルが高すぎると、過剰な膜破壊(増殖曲線、死細胞の顕微鏡同定、および/またはSDS-PAGE分析によって観察される溶解した死細胞から培地中に放出された追加タンパク質の出現から判断される)が起こり、一過性の高レベルの小胞産生につながるが、これが細胞膜に与える影響により、細胞が破裂し、培養の衰退期が始まる。対照的に、VNp融合体の発現が低すぎると(すなわち、≦2μg/mlIPTG)、VNpが十分に細胞膜と相互作用できず、小胞が形成されなかった。新しいVNp融合体の出発点として、T7プロモーターのIPTG誘導で許容される最大発現量の約5~10倍低い発現量を用いた。
【0140】
タンパク質を小胞にターゲティングするための様々な戦略や試薬が評価された。これには、標的タンパク質をVNp誘導小胞に送達する方法の比較も含まれ、VNpとの直接融合(上記のVNp-FP融合体について説明したように)、VNpと目的の細胞質組換えタンパク質の共発現、VNpと膜標的組換えタンパク質の共発現、さらにオプトジェネティクス・アプローチ(特定の波長の光に反応してVNpと標的タンパク質の相互作用を誘導する)が含まれる:
- 標的タンパク質と細菌の膜タンパク質(OmpA、CydAB、MinD)との融合体が作製された。しかし、この方法は直接融合ほど効率的ではなく、膜タンパク質は大きく、膜タンパク質-標的タンパク質融合体の過剰発現は細胞の生存能力を破壊する可能性があった。
- 標的タンパク質の過剰発現(すなわち細胞質局在化)により、小胞に取り込まれる割合が増加した。しかしながら、これは直接融合に比べて全く効率的ではなかった。また、VNpによる、発現が困難な、または毒性のある標的タンパク質を用いた増殖促進効果は見られなかった。
- オプトジェネティクスは、上記のいずれよりも効率的に機能した。しかし、オプトジェネティクスのタグは大きく、標的タンパク質の相対収量は大幅に減少した。
【0141】
上記のいずれも、VNpと目的のタンパク質との直接融合ほど効率的ではなかった。この直接融合はタンパク質を小胞に標的化するだけでなく、折り畳みとタンパク質の収量を向上させ、細菌の細胞質から除去されるため、有毒タンパク質の発現を可能にした。
【0142】
VNpとカーゴ分子の間にタンパク質分解切断(TEV)部位を導入することで、小胞からタグのない、標識されていない目的のタンパク質を精製できるようにした。実験の結果、VNpタグを除去してもエタネルセプトは可溶性のままであることが示された。
【0143】
短いVNp配列を用い、最適化された条件下では、蛍光タンパク質カーゴのかなりの割合が培地中に排出されただけでなく、アミノ末端VNp融合体を欠く同等のタンパク質(すなわち、細胞中の収量のみで)と比較して、培養中の標的タンパク質の全体的な収量(すなわち、細胞中と培地への放出の両方)も有意に改善された(表2)。試験した全てのVNp配列は排出を促進し、排出されたタンパク質の割合は配列番号10の方が大きかった。
【0144】
最適な増殖条件(TB培地、37℃、良好な酸素供給、10~20(通常20)μg/mlのIPTG(カーゴによる))では、カーゴ含有小胞は、その形成開始から10分以内に細菌細胞から放出された。したがって、連続培養から比較的短時間で大量のカーゴ含有小胞を放出できる可能性がある。遠心分離による精製戦略は、培養から培地だけでなく、かなりの数の細胞を採取する必要があり、時間がかかり、多くの人手を必要とする。簡単な細胞濾過プロトコールが開発され、細胞培養の一部を除去し(そして新鮮な培地と交換する)、0.45μmのフィルターを通すことで、小胞を含む培地から細胞を分離することができる(上記の「方法」を参照)。試験したすべての実験から、1mlの小胞含有培地濾液中にコロニー形成単位は検出されなかった。このように、この方法はシンプルで効率的、自動化可能なハイスループット精製法を提供する。
【0145】
この方法で培地中に単離されたVNp誘導小胞およびパッケージ化タンパク質は、4℃で数ヶ月間安定であった。小胞から単離されたVNp-ウリカーゼは、細胞ペレットから精製されたウリカーゼと同程度に酵素活性があるだけでなく、この活性は、同じ期間、同じ条件で保存された精製タンパク質と比較すると、4℃で2ヶ月間保存された単離小胞内のVNp-ウリカーゼによってより高い程度に維持された(図12d参照)。この結果からも、小胞がそのタンパク質カーゴに安定した環境を与えていることがわかる。
【0146】
本発明のVNp依存標的化排出技術は、生物物理学的特性や機能が異なる、バイオ産業関連の様々なタンパク質を用いて試験された。これらのタンパク質の大きさは、10アミノ酸未満からほぼ100kDaのものまで様々である。)VNpと目的のタンパク質を直接融合させ、上記の条件で細胞を培養した。検討された各タンパク質について、VNp融合は、カーゴのかなりの割合が培養液中に排出されただけでなく、各ターゲットタンパク質の可溶型の全体収量が著しく向上した(表2)。いくつかのタンパク質の機能性(例えばFPの蛍光、ウリカーゼの酵素活性、エタネルセプトのプロテインA結合能)を試験したところ、それぞれ測定可能な活性が期待された。
【0147】
VNp技術は、異なるタイプのプロモーター(CMV、ラムノース、アラビノース、Tac、異なる強度のT7プロモーターなど)やバックボーンプラスミド(pcDNA3.1、pUC19、pBR322ベースなど)で機能することが確認されたほか、さまざまな大腸菌株(BL21DE3、W3110+-DE3、K12、DH10b、JM109など)を用いて検証された。
【0148】
最後に、小胞排出システムのスケールアップも成功裏に実証され、この技術が工業規模のタンパク質製造に適していることが示唆された。
【0149】
結論として、本発明は、単純なペプチド融合を用いて、大腸菌からの広範な組換えタンパク質の収量を増加させ、下流処理を簡略化する技術を提供する。これは、活性培養中の連続的なタンパク質精製を可能にし、また、大腸菌からの広範な組換えタンパク質の簡略化されたタンパク質単離および下流処理(すなわち、細胞を破壊する必要がない)を可能にする。その結果、このシステムは、組換えタンパク質の生産とその後の処理を強化するために、膜にパッケージされた組換えタンパク質を培地に放出するためのシンプルで魅力的なメカニズムを提供する。
【0150】
重要なことは、不溶性または有毒なタンパク質をミリグラムまたはグラム単位で容易に単離できることから、この方法は、目的のいずれの組換えタンパク質を発現させるための魅力的な出発点であるということである。この生産システムの非常に魅力的な点は、小胞を4℃に維持したときのタンパク質の安定性と酵素活性の保持である。この技術はまた、高スループット発現スクリーニング、タンパク質保存、組換えバイオリアクターの作製、生体分子の環境分散、マイクロ小胞治療、ワクチンと並ぶナノボディ生産、およびウイルス療法送達など、幅広い下流プロセスおよび応用に適している。
図1-1】
図1-2】
図2
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図5
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図6-2】
図6-3】
図7
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図9-1】
図9-2】
図10
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図19
【配列表】
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【国際調査報告】