(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-15
(54)【発明の名称】3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 31/06 20060101AFI20250107BHJP
A61L 31/16 20060101ALI20250107BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20250107BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20250107BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20250107BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20250107BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20250107BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20250107BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20250107BHJP
A61L 15/28 20060101ALI20250107BHJP
A61L 15/40 20060101ALI20250107BHJP
A61L 15/44 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
A61L31/06
A61L31/16
A61L31/14
A61L31/12 100
A61L31/04 120
A61K9/70
A61K38/18
A61P9/00
A61P25/00
A61L15/28 100
A61L15/40 100
A61L15/44 100
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537132
(86)(22)【出願日】2022-03-14
(85)【翻訳文提出日】2024-06-19
(86)【国際出願番号】 KR2022003518
(87)【国際公開番号】W WO2023120816
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0182375
(32)【優先日】2021-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】520077610
【氏名又は名称】ポステック・リサーチ・アンド・ビジネス・ディベロップメント・ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】POSTECH RESEARCH AND BUSINESSDEVELOPMENT FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100187584
【氏名又は名称】村石 桂一
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ジナ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョンジ
(72)【発明者】
【氏名】ファン,スンヒョン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA71
4C076AA94
4C076BB40
4C076CC01
4C076CC11
4C076EE37
4C076EE57
4C076FF31
4C081AA02
4C081AA14
4C081AC16
4C081CD08
4C081CD27
4C081CD34
4C081DA02
4C081DA13
4C081DC12
4C081EA01
4C084AA02
4C084DB52
4C084DB53
4C084DB54
4C084DB55
4C084MA17
4C084MA32
4C084MA70
4C084NA12
4C084ZA02
4C084ZA36
(57)【要約】
本発明の一例は、アミン基を有する細胞外マトリックスおよびエチレン性不飽和結合官能基が導入された変性ヒアルロン酸を含むハイブリッドインクであって、前記細胞外マトリックスに存在するアミン基のうち少なくとも一部と変性ヒアルロン酸に存在するエチレン性不飽和結合官能基との間に形成された化学的結合によって細胞外マトリックスおよび変性ヒアルロン酸は架橋結合状態にあることを特徴とする、3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクを提供する。本発明の一例によるハイブリッドインクは、構成成分である細胞外マトリックスおよび変性ヒアルロン酸の間の化学的架橋結合によって3Dプリンティングに適した機械的物性を有し、化学的架橋結合密度調節を通じて薬物放出速度を制御することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン基を有する細胞外マトリックスおよびエチレン性不飽和結合官能基が導入された変性ヒアルロン酸を含むハイブリッドインクであって、
前記細胞外マトリックスに存在するアミン基のうち少なくとも一部と変性ヒアルロン酸に存在するエチレン性不飽和結合官能基との間に形成された化学的結合によって細胞外マトリックスおよび変性ヒアルロン酸は架橋結合状態にあることを特徴とする、3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク。
【請求項2】
前記細胞外マトリックスは、血管組織由来脱細胞化細胞外マトリックスであることを特徴とする、請求項1に記載の3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク。
【請求項3】
前記エチレン性不飽和結合官能基は、ビニル基、アクリル基またはメタクリル基から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク。
【請求項4】
前記変性ヒアルロン酸は、メタクリレート化されたヒアルロン酸(Methacrylated hyaluronic acid)またはアクリレート化されたヒアルロン酸(Acrylated hyaluronic acid)から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク。
【請求項5】
前記細胞外マトリックスに存在するアミン基と変性ヒアルロン酸に存在するエチレン性不飽和結合官能基との間の化学的結合は、アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)によって形成されたことを特徴とする、請求項1に記載の3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク。
【請求項6】
前記細胞外マトリックス対変性ヒアルロン酸の重量比は、1:0.01~1:0.8であることを特徴とする、請求項1に記載の3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク。
【請求項7】
前記ハイブリッドインク内の細胞外マトリックス濃度は1~10%(w/v)であり、変性ヒアルロン酸濃度は0.01~8%(w/v)であることを特徴とする、請求項1に記載の3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク。
【請求項8】
成長因子(Growth factor)をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク。
【請求項9】
前記成長因子(Growth factor)は、血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor、VEGF)、肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor、HGF)、上皮成長因子(epithermal growth factor、EGF)、インスリン様成長因子(insulin-like growth factor、IGF)、エリスロポエチン(erythropoietin、EPO)、線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor、FGF)、脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor、BDNF)、神経成長因子(nerve growth factor、NGF)、角化細胞増殖因子(keratinocyte growth factor、KGF)インターロイキン(interleukin、IL)、コロニー形成刺激因子(colony-stimulating factor、CSF)、アンジオポエチン(angiopoietin、ANG)、血小板由来成長因子(platelet-derived growth factor、PDGF)、胎盤成長因子(placental growth factor、PGF)、形質転換成長因子-α(transforming growth factor-α、TGF-α)、形質転換成長因子-β(transforming growth factor-β、TGF-β)、マトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase、MMP)、および骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein、BMP)からなる群から選択された1種以上で構成されることを特徴とする、請求項8に記載の3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク。
【請求項10】
前記ハイブリッドインク内の成長因子濃度は0.001~1g/lであることを特徴とする、請求項8に記載の3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク。
【請求項11】
pHが6.5~7.5である細胞外マトリックス溶液を準備するステップと、
前記細胞外マトリックス溶液にエチレン性不飽和結合官能基が導入された変性ヒアルロン酸を添加して均一に混合させた後、アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)を進行させて細胞外マトリックスおよび変性ヒアルロン酸が架橋結合状態にあるインクを得るステップと、を含む、3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク製造方法。
【請求項12】
前記細胞外マトリックスは、血管組織由来脱細胞化細胞外マトリックスであることを特徴とする、請求項11に記載の3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク製造方法。
【請求項13】
前記エチレン性不飽和結合官能基は、ビニル基、アクリル基またはメタクリル基から選択されることを特徴とする、請求項11に記載の3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク製造方法。
【請求項14】
前記変性ヒアルロン酸は、メタクリレート化されたヒアルロン酸(Methacrylated hyaluronic acid)またはアクリレート化されたヒアルロン酸(Acrylated hyaluronic acid)から選択されることを特徴とする、請求項11に記載の3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク製造方法。
【請求項15】
前記アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)によって細胞外マトリックスに存在するアミン基のうち少なくとも一部と変性ヒアルロン酸に存在するエチレン性不飽和結合官能基との間に化学的結合が形成されたことを特徴とする、請求項11に記載の3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク製造方法。
【請求項16】
前記変性ヒアルロン酸は、細胞外マトリックス100重量部対比1~80重量部の量で細胞外マトリックス溶液に添加されることを特徴とする、請求項11に記載の3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク製造方法。
【請求項17】
前記細胞外マトリックス溶液内の細胞外マトリックス濃度は1~10%(w/v)であり、変性ヒアルロン酸は細胞外マトリックス溶液に0.01~8%(w/v)の濃度になるように添加されることを特徴とする、請求項11に記載の3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク製造方法。
【請求項18】
前記アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)は、1~10℃の温度条件で2~24hrの間進行されることを特徴とする、請求項11に記載の3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク製造方法。
【請求項19】
前記インクに成長因子(Growth factor)を添加して混合するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項11に記載の3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク製造方法。
【請求項20】
前記成長因子は、インクに0.001~1g/lの濃度になるように添加されることを特徴とする、請求項19に記載の3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクなどに関し、より詳細には、内部構成成分間の化学的結合によって架橋結合密度が調節され、3Dプリンティングに適した機械的物性を有して薬物放出速度を制御することができる、3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大脳虚血は、脳への不十分な血流が脳低酸素症および脳組織の死を引き起こす際に発生する。その深刻性のため、大脳虚血は全世界的に最も頻繁な死亡原因のうち一つとして知られている。虚血性脳組織治療のためには、必須に血管新生増殖因子の持続的な供給を通じて、新たに形成された血管の開通性を維持し、既存の血管から毛細血管が新しく伸び行きながら新しい血管を生成する血管新生を誘導する過程が必要である。血管新生過程は、適時に必須な多様な血管新生増殖因子を含む複雑な多段階過程で、細胞浸透および代謝維持に必要な酸素と栄養素を持続的に供給する役割をする。血管新生を促進するために血管新生因子を伝達する治療方法は、深刻な虚血性疾患の治療のための有望な戦略として浮上している。
【0003】
治療的血管新生の初期ステップおよび成熟段階を促進する血管新生因子はよく知られている。そして、各ステップで作用する血管新生因子を一緒に投与することもまた血管再生促進に有益な方法として認識されている。特に、血管内皮増殖因子(VEGF)は、血管生成の初期ステップを促進する重要な因子のうち一つであって、内皮細胞を増殖させて未成熟した血管が生成できるように誘導する。しかし、VEGFの副作用である、血管透過性増加のような炎症促進反応によりVEGFの臨床使用に対する懸念が提起された。肝細胞増殖因子(HGF)は、血管新生の成熟段階を促進するまた一つの重要な血管新生因子のうち一つであって、VEGFの副作用を減少させて血管内皮細胞の生長を促進するなど、VEGFとともに適用されたとき相乗作用を引き起こす。よって、この2つの血管新生因子の順次的な放出過程は、より強力な血管新生反応を誘導し、血管退行や血液漏れを防止する。よって、血管新生過程を模写するこのような多重血管新生因子の持続的な投与は、虚血部位の血管新生過程で必須である。
【0004】
しかし、静脈注射のような伝統的な成長因子投与方法は、治療効果を刺激するために高用量投与または繰り返し伝達が必要な場合が多く、その結果、効能が減少し深刻な副作用が発生する。これを解決するためには、このような因子が生理学的に適切な時間(時間調節)と適切な部位(部位別)標的方式で投与されなければならない。よって、血管新生因子の放出様相を調節することができ、軟弱な脳領域に局所的に適用することができる、柔らかく且つ柔軟なヒドロゲルパッチ型薬物伝達システムの開発が必要である。このようなパッチを製作するために、3Dプリンティング技術を使用することができる。3Dプリンティング技術および多様な類型の生体材料使用を通じて、制御可能でありユーザー定義可能なパッチ類型伝達システムを自在に製作することができる。血管新生因子の放出様相調節は、3Dプリンティング変数(例:システムの寸法およびデザイン)を調節するか、材料特性(例:合成および天然由来生体材料、架橋密度および濃度)の調節を通じて実現されることができる。生体材料の場合、組織の特性と印刷能を有する細胞外マトリックス(ECM)ベースのヒドロゲルが実行可能なオプションとして提案された。
【0005】
最近、研究によれば、薬物伝達のための材料として血管組織由来脱細胞化された細胞外マトリックス(VdECM)の使用可能性が報告されたが、VdECMだけでは印刷能に劣るため、プリンティング可能な生体材料インクとしては使用が難しいという短所がある(G.Gao、J.Y.Park、B.S.Kim、J.Jang、D.W.Cho、Advanced healthcare materials 2018、7、1801102.)。
【0006】
3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースバイオインクと関連して、韓国登録特許公報第10-1954953号には、(a)細胞培養液、ヒアルロン酸、ゼラチン、フィブリノゲン、およびグリセロールが含まれた温度感応性ヒドロゲル(hydrogel)を製造するステップと、(b)体外に摘出された組織を脱細胞化し、0.05~100μm粒子サイズに粉末化して脱細胞化された細胞外マトリックス(decellularized extracellular matrix、dECM)粉末を製造するステップと、(c)ステップ(a)で得られた温度感応性ヒドロゲルを30~40℃でゾル(sol)化するステップと、(d)ステップ(c)のゾル(sol)状態の温度感応性ヒドロゲルにステップ(b)で得られた脱細胞化された細胞外マトリックス粉末を撹拌を通じて混合して脱細胞化された細胞外マトリックスベースバイオインクを製造するステップと、(e)ステップ(d)で製造した脱細胞化された細胞外マトリックスベースバイオインクおよび目的する組織由来細胞を混合して3Dバイオプリンター用カートリッジ(cartridge)に注入するステップと、(f)ステップ(e)の3Dバイオプリンター用カートリッジを3~6℃で8~15分間維持してカートリッジ内細胞および脱細胞化された細胞外マトリックスベースバイオインクの温度によるゲル(gel)化を誘導するステップと、(g)ステップ(f)のゲル化が誘導された細胞および脱細胞化された細胞外マトリックスベースバイオインクが含まれた3Dバイオプリンター用カートリッジを利用して目的する人工組織を3Dバイオプリンティングするステップと、(h)ステップ(g)で3Dバイオプリンティングされた目的する人工組織にトロンビン溶液(thrombin solution)を処理し、20~25℃で25~35分間維持してトロンビンおよびフィブリノゲンの酵素的重合反応によるゲル化を誘導するステップと、を含む人工組織製造方法が開示されている。また、韓国登録特許公報第10-2302770号には、微細粒子化された人体組織由来成分および生体適合性高分子を含み、前記微細粒子化された人体組織由来成分の粒径は10~1000umである3Dプリンティング用バイオインク組成物が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の技術的背景下で導き出されたものであって、本発明の目的は、3Dプリンティングに適した機械的物性を有し、薬物放出速度を制御することができる、3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクおよびその製造方法を提供することにある。
【0008】
また、本発明の目的は、生体材料ベースの薬物伝達パッチおよびその製造方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明の目的は、血管新生を促進するか、血管新生と関連する疾患を治療することに使用されることができる生体材料ベースパッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、細胞外マトリックスのアミン基とメタクリレート化されたヒアルロン酸のメタクリレート基をアザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)を通じて化学的に結合させて3Dプリンティングに適した機械的物性を有し、薬物放出速度を制御することができる細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクを開発した。また、本発明の発明者らは、前記細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクに大脳の血管新生を促進することができる血管新生増殖因子を添加した後、3Dプリンティングして、血管新生増殖因子が空間的に区画化され、血管新生増殖因子が順次に放出されるヒドロゲルパッチを製作した。本発明の発明者らは、2種類の血管新生増殖因子が時空間的に区画されたパッチを脳に移植した後、光音響顕微鏡を通じてモニタリングした結果、血管新生を効果的に促進させるという点を確認した。
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の一例は、アミン基を有する細胞外マトリックスおよびエチレン性不飽和結合官能基が導入された変性ヒアルロン酸を含むハイブリッドインクであって、前記細胞外マトリックスに存在するアミン基のうち少なくとも一部と変性ヒアルロン酸に存在するエチレン性不飽和結合官能基との間に形成された化学的結合によって細胞外マトリックスおよび変性ヒアルロン酸は架橋結合状態にあることを特徴とする、3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクを提供する。
【0012】
前記目的を達成するために、本発明の一例は、pHが6.5~7.5である細胞外マトリックス溶液を準備するステップと、前記細胞外マトリックス溶液にエチレン性不飽和結合官能基が導入された変性ヒアルロン酸を添加して均一に混合させた後、アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)を進行させて細胞外マトリックスおよび変性ヒアルロン酸が架橋結合状態にあるインク組成物を得るステップと、を含む、3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク製造方法を提供する。
【0013】
前記目的を達成するために、本発明の一例は、内部コア層と前記内部コア層を取り囲む外部層を含む多層構造のパッチであって、前記内部コア層と外部層は、細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクからなり、前記ハイブリッドインクは、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性生体高分子および成長因子を含み、前記ハイブリッドインクを構成する細胞外マトリックスおよび変性生体高分子は、化学的に架橋結合された状態で存在し、前記内部コア層を構成する細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクおよび外部層を構成する細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクは、互いに異なる化学的架橋結合密度を有し、互いに異なる成長因子を含むことを特徴とする、生体材料ベースの薬物伝達パッチを提供する。
【0014】
前記目的を達成するために、本発明の一例は、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性生体高分子および第1成長因子を含む混合物からなり、前記細胞外マトリックスおよび変性生体高分子は、化学的に架橋結合された状態で存在する第1ハイブリッドインクを準備するステップと、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性生体高分子および第1成長因子と異なる第2成長因子を含む混合物からなり、前記細胞外マトリックスおよび変性生体高分子は、化学的に架橋結合された状態で存在し、第1ハイブリッドインクと化学的架橋結合密度が異なる第2ハイブリッドインクを準備するステップと、前記第2ハイブリッドインクを3Dプリンティングして内部コア層を形成するステップと、前記第1ハイブリッドインクを3Dプリンティングして内部コア層を取り囲む外部層を形成し、多層構造物を得るステップを含む、生体材料ベースの薬物伝達パッチ製造方法を提供する。
【0015】
前記目的を達成するために、本発明の一例は、内部コア層と前記内部コア層を取り囲む外部層を含む多層構造のパッチであって、前記外部層は、細胞外マトリックスベースの第1ハイブリッドインクからなり、内部コア層は、細胞外マトリックスベースの第2ハイブリッドインクからなり、前記第1ハイブリッドインクは、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性生体高分子および血管新生初期ステップを促進する第1成長因子を含み、前記第2ハイブリッドインクは、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性生体高分子および血管新生成熟段階を促進する第2成長因子を含み、前記第1ハイブリッドインクおよび第2ハイブリッドインクを構成する細胞外マトリックスおよび変性生体高分子は、化学的に架橋結合された状態で存在し、前記第2ハイブリッドインクは、第1ハイブリッドインクより化学的架橋結合密度が大きいことを特徴とする、生体材料ベースの血管新生促進用パッチを提供する。
【0016】
前記目的を達成するために、本発明の一例は、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性生体高分子および血管新生初期ステップを促進する第1成長因子を含む混合物からなり、前記細胞外マトリックスおよび変性生体高分子は、化学的に架橋結合された状態で存在する第1ハイブリッドインクを準備するステップと、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性生体高分子および血管新生成熟段階を促進する第2成長因子を含む混合物からなり、前記細胞外マトリックスおよび変性生体高分子は、化学的に架橋結合された状態で存在し、第1ハイブリッドインクより化学的架橋結合密度が大きい第2ハイブリッドインクを準備するステップと、前記第2ハイブリッドインクを3Dプリンティングして内部コア層を形成するステップと、前記第1ハイブリッドインクを3Dプリンティングして内部コア層を取り囲む外部層を形成し、多層構造物を得るステップを含む、生体材料ベースの血管新生促進用パッチ製造方法を提供する。
【0017】
前記生体材料ベースの血管新生促進用パッチは、血管新生と関連する疾患を治療するのにも使用されることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一例によるハイブリッドインクは、構成成分である細胞外マトリックスおよび変性ヒアルロン酸の間の化学的架橋結合によって3Dプリンティングに適した機械的物性を有し、化学的架橋結合密度調節を通じて薬物放出速度を制御することができる。本発明の一例によるハイブリッドインクを3Dプリンティングして製作された、互いに異なる成長因子が時空間的に区画化された多層構造のパッチは、互いに異なる成長因子が順次に徐放されるため、薬物伝達システム、血管新生促進または血管新生と関連する疾患を治療するのにも使用されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本研究で化学的架橋結合および熱的架橋結合のように二重架橋結合メカニズムを利用して血管組織由来脱細胞化細胞外マトリックス(VdECM)とメタクリレート化されたヒアルロン酸(Methacrylated hyaluronic acid、HAMA)からハイブリッドインク(HAVEMインク)を製造する概略的な過程を示したものである。
【
図2】本研究で互いに異なる架橋結合密度を有しているハイブリッドインクそれぞれに脳血管新生誘導成長因子であるVEGFとHGFを添加し、3Dプリンティング工程を利用して脳血管新生誘導(Spatiotemporal compartmentalized cerebral angiogenesis inducing、SCAI)パッチを製造する概略的な過程と、SCAIパッチでVEGFとHGFが順次に放出される概略的な過程を示したものである。
【
図3】アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)を通じて血管組織由来脱細胞化細胞外マトリックス(VdECM)とメタクリレート化されたヒアルロン酸(Methacrylated hyaluronic acid、HAMA)からHAVEMインクを製造する過程を概略的に示したものである。
【
図4】血管組織由来脱細胞化細胞外マトリックス(VdECM)とメタクリレート化されたヒアルロン酸(Methacrylated hyaluronic acid、HAMA)との間の架橋結合発生を証明するためにVdECMインク(4V0H)、HAMAおよびHAVEMインク(4V0.5H)を核磁気共鳴(NMR)で測定したスペクトルである。
【
図5】上記写真は、化学的架橋結合密度の差によるVdECMインク(4V0H)、HAVEMインク(4V0.5H)、HAVEMインク(4V1H)のゾル(sol)状態像であり、
図5の下記のグラフは、VdECMインク(4V0H)、HAVEMインク(4V0.5H)、HAVEMインク(4V1H)の粘度を4℃の印刷条件および多様なせん断速度で測定した結果である。
【
図6】4℃の温度から37℃までの温度変化によるVdECMインク(4V0H)、HAVEMインク(4V0.5H)、HAVEMインク(4V1H)の弾性率変化を示したものである。
【
図7】37℃の温度で振動数変化によるVdECMインク(4V0H)、HAVEMインク(4V0.5H)、HAVEMインク(4V1H)の貯蔵弾性率と損失弾性率を示したものである。
【
図8】HAVEMインク(4V0.5H)およびHAVEMインク(4V1H)にカプセル化されたHGFの放出プロファイルを7日間測定した結果である。
【
図9】本研究において、3Dプリンティング技術を利用してSCAIパッチを製作する過程を概略的に示したものである。
【
図10】チューブ形成アッセイ(Tube formation assay)によって多様な血管新生因子の血管新生効果を測定した結果である。
【
図11】本研究で製作したSCAIパッチの断面構造と各断面を共焦点顕微鏡で撮影した像である(scale bars:200μm)。
【
図12】HAVEMインクの多様な組み合わせで製作したSCAIパッチの設計構造および各パッチの印刷、ゲル化およびガラス化ステップにおける像である。
【
図13】本研究で製作したガラス化過程を経たSCAIパッチの引張強度測定結果および膨張比(Swelling ratio)を示したものである。
【
図14】本研究で製作した多様なガラス化されたパッチのSEM撮影像である(scale bars:1μm)。
図14において、「4VOH」は、VdECMインク(4VOH)からなるガラス化されたパッチを示し、「4V0.5H」は、HAVEMインク(4V0.5H)からなるガラス化されたパッチを示し、「4V1H」は、HAVEMインク(4V1H)からなるガラス化されたパッチを示す。
【
図15】VEGFおよびHGFの順次的な薬物徐放のために本研究で設計された多層SCAIパッチの構造を概略的に示したものである。
【
図16】VEGFおよびHGFの順次的な薬物徐放のために本研究で設計された2種の多層SCAIパッチのそれぞれに対してVEGFおよびHGFの累積放出プロファイルを1ヶ月間評価した結果である。
【
図17】VEGFが0.05μg/μlの含量で含まれたHAVEMインク(4V0.5H)をインクAとして使用して形成した外部層およびHGFが0.05μg/μlの含量で含まれたHAVEMインク(4V1H)をインクBとして使用して形成した内部コア層で構成されたSCAIパッチをヒト脳微小血管内皮細胞(HBMEC)に適用して培養したときのIn vitro実験結果を示したものである。
【
図18】VEGFが0.05μg/μlの含量で含まれたHAVEMインク(4V0.5H)をインクAとして使用して形成した外部層およびHGFが0.05μg/μlの含量で含まれたHAVEMインク(4V1H)をインクBとして使用して形成した内部コア層で構成されたSCAIパッチをヒト脳微小血管内皮細胞(HBMEC)に適用して培養したときの細胞生存能をlive/dead分析キットで分析した結果である(scale bars:50μm)。
【
図19】VEGFが0.05μg/μlの含量で含まれたHAVEMインク(4V0.5H)をインクAとして使用して形成した外部層およびHGFが0.05μg/μlの含量で含まれたHAVEMインク(4V1H)をインクBとして使用して形成した内部コア層で構成されたSCAIパッチをヒト脳微小血管内皮細胞(HBMEC)に適用して培養したときの血管新生関連遺伝子発現水準を分析した結果である。
【
図20】本研究で製作されたVEGFおよびHGFが時空間的に区画化されたSCAIパッチをSDマウスの大脳皮質に移植した後、OR-PAMシステムを使用して移植された部位をモニタリングする過程からなるIn vivo実験を概略的に示したものである。
【
図21】本研究で行ったSCAIパッチ移植後、脳血管新生挙動を評価するためのIn vivo実験で時間経過によるSCAIパッチの変化を追跡するためにパッチが移植された部位の横断面を光音響(PA)B-モードで撮影した像である(scale bars:200μm)。
【
図22】本研究で行ったSCAIパッチ移植後の脳血管新生挙動を評価するためのIn vivo実験でSCAIパッチ処理有無によるSDマウスの脳血管構造変化を光音響(PA)最大振幅投影(MAP)像で示したものである。
【
図23】
図22でSCAIパッチが適用されたマウスの像で点線で表示された領域C1およびC2に対する断面PA B-モード像である(scale bars:400μm)。
図23の拡大された像(scale bars:1mm)で大きい血管は下記の点からなる楕円形の曲線で強調表示された。
【
図24】本研究で行ったSCAIパッチ移植後、脳血管新生挙動を評価するためのIn vivo実験で光学解像度光音響顕微鏡(OR-PAM)像を利用してSCAIパッチ処理有無によるSDマウスの血管密度を定量的に分析した結果である。
【
図25】本研究で行ったSCAIパッチ移植後の脳血管新生挙動を評価するためのIn vivo実験でSCAIパッチ移植14日後にパッチ未処理グループとSCAIパッチ移植グループに対する組織学的分析結果をH&E染色像と免疫組織化学(IHC)像(CD31)で示したものである(scale bars:50μm)。
【
図26】本研究で行ったSCAIパッチ移植後の脳血管新生挙動を評価するためのIn vivo実験でSCAIパッチ移植14日後に免疫組織化学(IHC)像を利用してパッチ未処理グループとSCAIパッチ移植グループの単位面積当たりの血管数を定量的に分析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0021】
本発明で使用される用語である「バイオインク(bioink)」は、3-Dプリンティングが可能な細胞適合性(cell compatible)材料と定義される。バイオインクは、0~37℃で針を介して押出されることができ、その後にはゲル化されるか、固化(solidified)され得る。バイオインクは、インクジェット、レーザー補助(laser-assisted)、またはマイクロバルブ3-Dプリンティング装備に適するように製剤(formulate)されることができる。
【0022】
本発明で使用される用語である「細胞外マトリックス(Extracellular matrix、ECM)」は、動物細胞に構造的な支持を通常提供すると同時に、他の多様な重要な機能を行う動物組織の細胞外部分である。細胞外マトリックスは、動物において結合組織を規定する特徴として、コラーゲン(Collagen)、グリコサミノグリカン(Glycosaminoglycan、GAG)などを含む多様な形態のタンパク質からなっている。このような細胞外マトリックスは、豚、牛のような動物の組織であってよく多様な機関から抽出が可能である。
【0023】
本発明で使用される用語である「生体高分子」は、生物の体内で合成されて生じる高分子化合物の総称であって、タンパク質、核酸、多糖類などが代表的な例であり、具体的な物質としては、ヒアルロン酸、コラーゲンなどがある。
【0024】
本発明で使用される用語である「架橋結合密度(Crosslinking density)」は、架橋結合高分子で全体構造単位の水中架橋している構造単位(架橋点)の数の割合で定義される。架橋結合密度によって架橋結合高分子ゲルの物性、例えば、膨潤度、弾性などが明らかに変わるようになる。
【0025】
本発明で使用される用語である「成長因子(Growth factor)」は、細胞または生物の成長と分化調節に関与するタンパク質であって、細胞表面に存在する特異的受容体に結合して細胞内部に信号を伝達する信号伝達物質として作用し、細胞の分化、再生、治癒などの多様な細胞生理現象を調節する。成長因子の具体的な例としては、血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor、VEGF)、肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor、HGF)、上皮成長因子(epithermal growth factor、EGF)、インスリン様成長因子(insulin-like growth factor、IGF)、エリスロポエチン(erythropoietin、EPO)、線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor、FGF)、脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor、BDNF)、神経成長因子(nerve growth factor、NGF)、角化細胞増殖因子(keratinocyte growth factor、KGF)インターロイキン(interleukin、IL)、コロニー形成刺激因子(colony-stimulating factor、CSF)、アンジオポエチン(angiopoietin、ANG)、血小板由来成長因子(platelet-derived growth factor、PDGF)、胎盤成長因子(placental growth factor、PGF)、形質転換成長因子-α(transforming growth factor-α、TGF-α)、形質転換成長因子-β(transforming growth factor-β、TGF-β)、マトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase、MMP)、骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein、BMP)などがある。
【0026】
本発明の一側面は、3Dプリンティングに適した機械的物性を有して薬物放出速度を制御することができる、3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクおよびその製造方法に関する。
【0027】
本発明の一例によるハイブリッドインクは、細胞適合性(cell compatible)材料である生体材料を基盤とするため、バイオインクまたは生体材料インクに分類されることができる。また、本発明の一例によるハイブリッドインクは、構成成分が均一に混合している組成物形態であり、3Dプリンティングに必要な適切な流動性を有するためにゾル(sol)状態またはゾル(sol)とヒドロゲル(hydrogel)の中間状態で存在する。
【0028】
本発明の一例による3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクは、アミン基を有する細胞外マトリックスおよびエチレン性不飽和結合官能基が導入された変性ヒアルロン酸を含む。
【0029】
前記細胞外マトリックスは、好ましくはハイブリッドインクの使用目的によって多様な機関組織から由来することができ、後述する血管新生促進用パッチなどの製造目的を考慮すると、好ましくは血管組織に由来する。また、前記細胞外マトリックスは、生体移植用途などを考慮すると、脱細胞化細胞外マトリックスであることが好ましい。脱細胞化過程によって免疫反応を誘導する抗原として作用することができる細胞を除去することで同種移植(allograft)または異種移植(xenograft)の際に免疫反応を最小化する効果がある。組織によって細胞の種類と数、組織自体の物理的特性が異なるため、酸、塩基、低張液、高張液、洗剤など多様な化学物質を利用して脱細胞化が行われる。また、前記 細胞外マトリックスは、脱細胞化過程のみを経て組織自体の構造を維持したまま使用することもあるが、凍結乾燥と粉砕過程を経て酸性溶液に溶かすか、これをさらに中和過程を経てゾル(sol)状態の溶液に作って使用することもある。
【0030】
前記変性ヒアルロン酸に導入されたエチレン性不飽和結合官能基は、細胞外マトリックスに存在するアミン基とアザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)ができるものであれば、その種類が大きく制限されず、例えば、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基などから選択されることができる。本発明の一例による3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクで前記変性ヒアルロン酸は、生体適合性、アミン基との反応性などを考慮すると、メタクリレート化されたヒアルロン酸(Methacrylated hyaluronic acid)またはアクリレート化されたヒアルロン酸(Acrylated hyaluronic acid)から選択されることができる。前記メタクリルエイト化されたヒアルロン酸は、下記の化学式1で表される化学構造を有する。
【0031】
【0032】
本発明の一例による3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクで細胞外マトリックスに存在するアミン基のうち少なくとも一部と変性ヒアルロン酸に存在するエチレン性不飽和結合官能基との間には化学的結合が形成され、これによってハイブリッドインクの構成成分である細胞外マトリックスおよび変性ヒアルロン酸は架橋結合状態にあるようになる。前記細胞外マトリックスに存在するアミン基と変性ヒアルロン酸に存在するエチレン性不飽和結合官能基との間の化学的結合は、アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)によって形成される。前記アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)は、N-求核剤(N-nucleophiles)と活性化されたアルケンなどのような求電子剤(electrophiles)を含む求核性接合体添加反応であって、本発明においては、細胞外マトリックスに存在するアミン基がN-求核剤(N-nucleophiles)で作用し、変性ヒアルロン酸に存在するエチレン性不飽和結合官能基が求電子剤(electrophiles)で作用する。
【0033】
本発明の一例による3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク内で細胞外マトリックス対変性ヒアルロン酸の重量比は、ハイブリッドインクの機械的物性、印刷性または薬物放出制御と関連する因子である化学的架橋結合密度を考慮すると、1:0.01~1:0.8であることが好ましく、1:0.05~1:0.5であることがさらに好ましい。また、前記ハイブリッドインク内の細胞外マトリックス濃度は、ハイブリッドインクの機械的物性、印刷性または薬物放出制御などを考慮すると、1~10%(w/v)であることが好ましく、2~8%(w/v)であることがさらに好ましい。また、前記ハイブリッドインク内の変性ヒアルロン酸濃度は、ハイブリッドインクの機械的物性、印刷性または薬物放出制御などを考慮すると、0.01~8%(w/v)であることが好ましく、0.1~4%(w/v)であることがさらに好ましい。
【0034】
また、本発明の一例による3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクは、後述する薬物伝達パッチ、血管新生促進用パッチなどの製造のために、好ましくは成長因子(Growth factor)をさらに含むことができる。前記成長因子(Growth factor)は、ハイブリッドインクを3Dプリンティングして製造した薬物伝達パッチなどの具体的な用途によって公知の多様な成長因子から選択されることができ、例えば、血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor、VEGF)、肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor、HGF)、上皮成長因子(epithermal growth factor、EGF)、インスリン様成長因子(insulin-like growth factor、IGF)、エリスロポエチン(erythropoietin、EPO)、線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor、FGF)、脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor、BDNF)、神経成長因子(nerve growth factor、NGF)、角化細胞増殖因子(keratinocyte growth factor、KGF)インターロイキン(interleukin、IL)、コロニー形成刺激因子(colony-stimulating factor、CSF)、アンジオポエチン(angiopoietin、ANG)、血小板由来成長因子(platelet-derived growth factor、PDGF)、胎盤成長因子(placental growth factor、PGF)、形質転換成長因子-α(transforming growth factor-α、TGF-α)、形質転換成長因子-β(transforming growth factor-β、TGF-β)、マトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase、MMP)、および骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein、BMP)からなる群から選択された1種以上で構成されることができる。前記ハイブリッドインク内の成長因子濃度は、ハイブリッドインクを3Dプリンティングして製造した薬物伝達パッチなどの具体的な用途によって多様な範囲から選択されることができ、例えば、0.001~1g/lであってよく、薬物伝達効果などを考慮すると、0.01~0.5g/lであることが好ましい。
【0035】
本発明の一例による3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク製造方法は、pHが6.5~7.5である細胞外マトリックス溶液を準備するステップと、前記細胞外マトリックス溶液にエチレン性不飽和結合官能基が導入された変性ヒアルロン酸を添加して均一に混合させた後、アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)を進行させて細胞外マトリックスおよび変性ヒアルロン酸が架橋結合状態にあるインクを得るステップを含む。また、本発明の一例による3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク製造方法は、インクによって成形されたパッチを薬物伝達システムや疾患治療剤用途で使用するために、好ましくは前記インクに成長因子(Growth factor)を添加して混合するステップをさらに含むことができる。
【0036】
本発明の一例による3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク製造方法において、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性ヒアルロン酸、アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)、成長因子(Growth factor)などの技術的特徴は、前述の内容を参照し、具体的な説明を省略する。
【0037】
本発明の一例による3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク製造方法において、pHが6.5~7.5である細胞外マトリックス溶液を準備するステップは、アミン基を有する細胞外マトリックスを水(water)に分散させた後にpHを調節することで構成されるか、アミン基を有する細胞外マトリックスを酸溶液に溶解させて塩基で中和させることで構成される。前記細胞外マトリックスを溶解させるために使用される酸溶液は、その種類が大きく制限されず、生体移植用途などを考慮すると、弱酸溶液であることが好ましい。前記弱酸は、アセト酸、クエン酸、酪酸、パルミチン酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸などから選択されることができる。また、前記細胞外マトリックス溶液のpHは、インクを構成する成分に対する否定的影響を最小化してアザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)を円滑に誘導する観点で中性に近いことが好ましく、例えば6.8~7.4から選択されることができる。
【0038】
本発明の一例による3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク製造方法において、細胞外マトリックスおよび変性ヒアルロン酸は、アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)が進行された後に架橋結合状態で存在するようになるが、これは、アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)によって細胞外マトリックスに存在するアミン基のうち少なくとも一部と変性ヒアルロン酸に存在するエチレン性不飽和結合官能基との間に化学的結合が形成されるためである。前記アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)は、細胞外マトリックスおよび変性ヒアルロン酸に対する否定的影響を最小化してアザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)を円滑に誘導する観点で1~10℃、好ましくは2~8℃の温度条件で2~24hr、好ましくは6~18hrの間進行される。
【0039】
本発明の一例による3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク製造方法において、細胞外マトリックス溶液に添加される変性ヒアルロン酸の添加量は大きく制限されないが、ハイブリッドインクの機械的物性、印刷性または薬物放出制御などを考慮すると、細胞外マトリックス100重量部対比1~80重量部の量であることが好ましく、細胞外マトリックス100重量部対比5~50重量部の量であることがさらに好ましい。また、前記細胞外マトリックス溶液内の細胞外マトリックス濃度は、ハイブリッドインクの機械的物性、印刷性または薬物放出制御などを考慮すると、1~10%(w/v)であることが好ましく、2~8%(w/v)であることがさらに好ましい。また、前記変性ヒアルロン酸は、細胞外マトリックス溶液に0.01~8%(w/v)の濃度になるように添加されることが好ましく、0.1~4%(w/v)の濃度になるように添加されることがさらに好ましい。
【0040】
本発明の一例による3Dプリンティング用細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク製造方法において、前記インクに添加される成長因子の添加量は、ハイブリッドインクを3Dプリンティングして製造した薬物伝達パッチなどの具体的な用途によって多様な範囲から選択されることができ、例えば、成長因子はインクに0.001~1g/lの濃度になるように添加されることができ、薬物伝達効果などを考慮すると、0.01~0.5g/lの濃度になるように添加されることもできる。
【0041】
本発明の一側面は、互いに異なる薬物を順次に徐放するために薬物が時空間的に区画化された多層構造の生体材料ベースの薬物伝達パッチおよびその製造方法に関する。本発明の一例に他の生体材料ベースの薬物伝達パッチおよびその製造方法において、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性ヒアルロン酸、アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)、成長因子(Growth factor)などの技術的特徴は、前述の内容を参照し、具体的な説明を省略する。
【0042】
本発明の一例による生体材料ベースの薬物伝達パッチは、前述の細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクを所定の設計構造に合わせて3Dプリンティングして製造されることができる。
【0043】
本発明の一例による生体材料ベースの薬物伝達パッチは、内部コア層と前記内部コア層を取り囲む外部層を含む多層構造のパッチであって、前記内部コア層と外部層は、細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクからなる。また、前記生体材料ベースの薬物伝達パッチは、ヒドロゲル状態またはガラス化(vitrification)されたゲル状態に該当する流変学的特性を見せる。
【0044】
本発明の一例による生体材料ベースの薬物伝達パッチで前記ハイブリッドインクは、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性生体高分子および成長因子を含む。前記変性生体高分子は、好ましくはエチレン性不飽和結合官能基が導入された変性ヒアルロン酸、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性コラーゲンなどから選択されることができる。前記変性生体高分子に導入されたエチレン性不飽和結合官能基は、細胞外マトリックスに存在するアミン基とアザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)ができるものであれば、その種類が大きく制限されず、例えば、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基などから選択されることができる。前記変性ヒアルロン酸は、生体適合性、アミン基との反応性などを考慮すると、メタクリレート化されたヒアルロン酸(Methacrylated hyaluronic acid)またはアクリレート化されたヒアルロン酸(Acrylated hyaluronic acid)から選択されることができる。また、前記変性コラーゲンは、生体適合性、アミン基との反応性などを考慮すると、メタクリレート化されたコラーゲン(Methacrylated collagen)またはアクリレート化されたコラーゲン(Acrylated collagen)から選択されることができる。前記メタクリレート化されたコラーゲン(Methacrylated collagen)は、コラーゲンに存在するアミン基にメタクリル基がペプチド結合を通じて連結された変性コラーゲンであり、アクリレート化されたコラーゲン(Acrylated collagen)は、コラーゲンに存在するアミン基にアクリル基がペプチド結合を通じて連結された変性コラーゲンである。前記メタクリレート化されたコラーゲン(Methacrylated collagen)またはアクリレート化されたコラーゲン(Acrylated collagen)の構造および製造方法は、公知になっている多様な文献(例えば、米国登録特許公報第8658711号;He Liang et al.、Journal of Materials Chemistry B、2018、6、3703-3715など)に開示されている。前記ハイブリッドインクを構成する細胞外マトリックスおよび変性生体高分子は、化学的に架橋結合された状態で存在する。前記細胞外マトリックスおよび変性生体高分子の化学的架橋結合は、アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)によって細胞外マトリックスに存在するアミン基のうち少なくとも一部と変性ヒアルロン酸に存在するエチレン性不飽和結合官能基との間に形成された化学的結合から始まる。
【0045】
また、前記内部コア層を構成する細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクおよび外部層を構成する細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクは、互いに異なる化学的架橋結合密度を有し、薬物の順次徐放を考慮すると、内部コア層を構成する細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクの化学的架橋結合密度が外部層を構成する細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクの化学的架橋結合密度より大きいことが好ましい。内部コア層を構成する細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクと外部層を構成する細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクの化学的架橋結合密度は、細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクの構成成分であるアミン基を有する細胞外マトリックスとエチレン性不飽和結合官能基が導入された変性生体高分子の重量比によって調節されることができる。細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクの主要成分は細胞外マトリックスであるが、ハイブリッドインク内で前記細胞外マトリックス対比変性生体高分子の量が大きくなるほどアザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)によって化学的結合がさらに多く形成されて化学的結合密度が増加するようになる。例えば、前記内部コア層を構成する細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク内で細胞外マトリックス対変性生体高分子の重量比は、1:0.2~1:0.5であることが好ましい。また、前記外部コア層を構成する細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク内で細胞外マトリックス対変性生体高分子の重量比は、1:0.05~1:0.15であることが好ましい。また、前記内部コア層を構成する細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクおよび外部層を構成する細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク内で細胞外マトリックス濃度は、2~8%(w/v)であることが好ましい。前記内部コア層を構成する細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク内で変性生体高分子濃度は、0.4~4%(w/v)であることが好ましい。また、前記外部層を構成する細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク内で変性生体高分子濃度は、0.1~1.2%(w/v)であることが好ましい。
【0046】
また、前記内部コア層を構成する細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクおよび外部層を構成する細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクは、互いに異なる成長因子を含む。よって、本発明の一例による生体材料ベースの薬物伝達パッチで前記内部コア層と外部層は、互いに異なる成長因子を含むようになる。前記成長因子は、薬物伝達パッチの具体的な用途によって公知の多様な成長因子から選択されることができる。例えば、前記成長因子は、血管新生を誘導する成長因子である血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor、VEGF)、肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor、HGF)、上皮成長因子(epithermal growth factor、EGF)、線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor、FGF)、アンジオポエチン(angiopoietin、ANG)、血小板由来成長因子(platelet-derived growth factor、PDGF)、胎盤成長因子(placental growth factor、PGF)、形質転換成長因子-α(transforming growth factor-α、TGF-α)、形質転換成長因子-β(transforming growth factor-β、TGF-β)、マトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase、MMP)、骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein、BMP)などから選択されることができる。
【0047】
本発明の一例による生体材料ベースの薬物伝達パッチにおいて、内部コア層を構成する細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクが外部層を構成する細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクより化学的架橋結合密度が高い場合、内部コア層に含有された成長因子は、外部層に含有された成長因子と位置関係によって空間的に区画化されるだけでなく、細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクの化学的架橋結合密度によって時間的にも区画化され、生体内で内部コア層に含有された成長因子は、外部層に含有された成長因子に比べてさらに遅い順に徐々に放出される。前記内部コア層を構成する細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクおよび外部層を構成する細胞外マトリックスベースのハイブリッドインク内で成長因子の濃度は、多層構造パッチの薬物伝達効果などを考慮すると、0.01~0.5g/lであることが好ましい。
【0048】
本発明の好ましい一例による生体材料ベースの薬物伝達パッチは、第1層、第2層および第3層が順次に積層された多層構造のパッチであって、第2層は、内側に位置する第2内部層および両側の外側に位置する2個の第2外部層で構成され、前記第1層、2個の第2外部層および第3層は、第1ハイブリッドインクからなり、第2内部層は、第2ハイブリッドインクからなる。前記第1ハイブリッドインクおよび第2ハイブリッドインクは、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性ヒアルロン酸および成長因子を含む。前記第1ハイブリッドインクおよび第2ハイブリッドインクを構成する細胞外マトリックスおよび変性ヒアルロン酸は、化学的に架橋結合された状態で存在する。また、前記第1ハイブリッドインクおよび第2ハイブリッドインクは互いに異なる化学的架橋結合密度を有し、薬物の順次徐放を考慮すると、第2ハイブリッドインクの化学的架橋結合密度が第1ハイブリッドインクの化学的架橋結合密度より大きいことが好ましい。また、第1ハイブリッドインクおよび第2ハイブリッドインクを構成する成長因子は、互いに異なる成長因子から選択される。
【0049】
本発明の一例による生体材料ベースの薬物伝達パッチ製造方法は、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性生体高分子および第1成長因子を含む混合物からなり、前記細胞外マトリックスおよび変性生体高分子は、化学的に架橋結合された状態で存在する第1ハイブリッドインクを準備するステップと、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性生体高分子および第1成長因子と異なる第2成長因子を含む混合物からなり、前記細胞外マトリックスおよび変性生体高分子は、化学的に架橋結合された状態で存在し、第1ハイブリッドインクと化学的架橋結合密度が異なる第2ハイブリッドインクを準備するステップと、前記第2ハイブリッドインクを3Dプリンティングして内部コア層を形成するステップと、前記第1ハイブリッドインクを3Dプリンティングして内部コア層を取り囲む外部層を形成し、多層構造物を得るステップを含む。本発明の一例による生体材料ベースの薬物伝達パッチ製造方法において、第1ハイブリッドインクおよび第2ハイブリッドインクを3Dプリンティングして内部コア層と前記内部コア層を取り囲む外部層で構成された多層構造物は、ゾル(sol)とヒドロゲル(hydrogel)の中間状態で存在する。本発明の一例による生体材料ベースの薬物伝達パッチ製造方法は、前記多層構造物をヒドロゲル状態で転換させるために、多層構造物を25~45℃、好ましくは30~40℃で0.5~3hr、好ましくは0.6~1.5hrの間熱処理してヒドロゲル状態の多層構造物を得るステップをさらに含むことができる。また、本発明の一例による生体材料ベースの薬物伝達パッチ製造方法は、ヒドロゲル状態の多層構造物を風通しの条件で6~24hr、好ましくは8~18hrの間乾燥してガラス化された多層構造物を得るステップをさらに含むことができる。
【0050】
本発明の一例による生体材料ベースの薬物伝達パッチ製造方法において、前記第2ハイブリッドインクは、第1ハイブリッドインクより架橋結合密度が大きいことが好ましい。本発明の一例による生体材料ベースの薬物伝達パッチ製造方法において、前記第1ハイブリッドインクおよび第2ハイブリッドインクは、細胞外マトリックスを主成分にする細胞外マトリックスベースのハイブリッドインクである。前記第1ハイブリッドインク内の細胞外マトリックス対変性生体高分子の重量比は、1:0.05~1:0.15であることが好ましい。また、前記第1ハイブリッドインク内で細胞外マトリックス濃度は、2~8%(w/v)であることが好ましく、変性生体高分子濃度は、0.1~1.2%(w/v)であることが好ましい。前記第2ハイブリッドインク内の細胞外マトリックス対変性生体高分子の重量比は、1:0.2~1:0.5であることが好ましい。また、前記第2ハイブリッドインク内で細胞外マトリックス濃度は、2~8%(w/v)であることが好ましく、変性生体高分子濃度は、0.4~4%(w/v)であることが好ましい。
【0051】
本発明の好ましい一例による生体材料ベースの薬物伝達パッチ製造方法は、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性ヒアルロン酸および第1成長因子を含む混合物からなり、前記細胞外マトリックスおよび変性ヒアルロン酸は、化学的に架橋結合された状態で存在する第1ハイブリッドインクを準備するステップと、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性ヒアルロン酸および第1成長因子と異なる第2成長因子を含む混合物からなり、前記細胞外マトリックスおよび変性ヒアルロン酸は、化学的に架橋結合された状態で存在し、第1ハイブリッドインクと化学的架橋結合密度が異なる第2ハイブリッドインクを準備するステップと、前記第1ハイブリッドインクを3Dプリンティングして第1層を形成するステップと、前記第2ハイブリッドインクを第1層表面の内側に3Dプリンティングし、第1ハイブリッドインクを第1層表面の両側の外側に3Dプリンティングして第2内部層および2個の第2外部層で構成された第2層を形成するステップと、前記第1ハイブリッドインクを第2層の表面に3Dプリンティングして第3層を形成し、多層構造物を得るステップを含む。本発明の好ましい一例による生体材料ベースの薬物伝達パッチ製造方法は、前記第1層、第2層および第3層を含む多層構造物を25~45℃、好ましくは30~40℃で0.5~3hr、好ましくは0.6~1.5hrの間熱処理してヒドロゲル状態の多層構造物を得るステップをさらに含むことができる。また、本発明の好ましい一例による生体材料ベースの薬物伝達パッチ製造方法は、ヒドロゲル状態の多層構造物を風通しの条件で6~24hr、好ましくは8~18hrの間乾燥してガラス化された多層構造物を得るステップをさらに含むことができる。前記第1ハイブリッドインクおよび第2ハイブリッドインクは、互いに異なる化学的架橋結合密度を有し、薬物の順次徐放を考慮すると、第2ハイブリッドインクの化学的架橋結合密度が第1ハイブリッドインクの化学的架橋結合密度より大きいことが好ましい。また、第1ハイブリッドインクおよび第2ハイブリッドインクを構成する第1成長因子および第2成長因子は、互いに異なる成長因子から選択される。
【0052】
本発明の一側面は、互いに異なる血管新生促進因子を順次に徐放するために薬物が時空間的に区画化された多層構造の生体材料ベースの血管新生促進用パッチおよびその製造方法に関する。本発明による生体材料ベースの血管新生促進用パッチおよびその製造方法は前述の生体材料ベースの薬物伝達パッチおよびその製造方法と比べるとき、各層に含有される成長因子が血管新生初期ステップを促進する成長因子および血管新生成熟段階を促進する成長因子で具体化されたことを除いて、残りの技術的特徴は同一である。
【0053】
本発明の一例による生体材料ベースの血管新生促進用パッチは、内部コア層と前記内部コア層を取り囲む外部層を含む多層構造のパッチであって、前記外部層は、細胞外マトリックスベースの第1ハイブリッドインクからなり、内部コア層は、細胞外マトリックスベースの第2ハイブリッドインクからなる。前記第1ハイブリッドインクは、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性生体高分子および血管新生初期ステップを促進する第1成長因子を含み、前記第2ハイブリッドインクは、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性生体高分子および血管新生成熟段階を促進する第2成長因子を含む。また、前記第1ハイブリッドインクおよび第2ハイブリッドインクを構成する細胞外マトリックスおよび変性生体高分子は、化学的に架橋結合された状態で存在し、前記第2ハイブリッドインクは、第1ハイブリッドインクより化学的架橋結合密度が大きい。本発明の好ましい一例による生体材料ベースの血管新生促進用パッチで前記エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性生体高分子は、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性ヒアルロン酸である。また、本発明による生体材料ベースの血管新生促進用パッチで前記血管新生初期ステップを促進する第1成長因子は、血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor、VEGF)、アンジオポエチン(angiopoietin、ANG)、血小板由来成長因子(platelet-derived growth factor、PDGF)、胎盤成長因子(placental growth factor、PGF)、上皮成長因子(epithermal growth factor、EGF)、線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor、FGF)、形質転換成長因子-α(transforming growth factor-α、TGF-α)、形質転換成長因子-β(transforming growth factor-β、TGF-β)、およびマトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase、MMP)からなる群から選択される1種以上であってよい。また、前記血管新生成熟段階を促進する第2成長因子は、肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor、HGF)、骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein、BMP)、および形質転換成長因子-β(transforming growth factor-β、TGF-β)からなる群から選択される1種以上であってよい。
【0054】
本発明の好ましい一例による生体材料ベースの血管新生促進用パッチは、第1層、第2層および第3層が順に積層された多層構造のパッチであって、第2層は、内側に位置する第2内部層および両側の外側に位置する2個の第2外部層で構成され、前記第1層、2個の第2外部層および第3層は、第1ハイブリッドインクからなり、第2内部層は、第2ハイブリッドインクからなる。前記第1ハイブリッドインクは、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性ヒアルロン酸および血管新生初期ステップを促進する第1成長因子を含む。また、第2ハイブリッドインクは、細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性ヒアルロン酸および血管新生成熟段階を促進する第2成長因子を含む。前記第1ハイブリッドインクおよび第2ハイブリッドインクを構成する細胞外マトリックスおよび変性ヒアルロン酸は、化学的に架橋結合された状態で存在する。また、前記第1ハイブリッドインクおよび第2ハイブリッドインクは、互いに異なる化学的架橋結合密度を有し、薬物の順次徐放を考慮すると、第2ハイブリッドインクの化学的架橋結合密度が第1ハイブリッドインクの化学的架橋結合密度より大きいことが好ましい。
【0055】
本発明の一例による生体材料ベースの血管新生促進用パッチ製造方法は、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性生体高分子および血管新生初期ステップを促進する第1成長因子を含む混合物からなり、前記細胞外マトリックスおよび変性生体高分子は、化学的に架橋結合された状態で存在する第1ハイブリッドインクを準備するステップと、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性生体高分子および血管新生成熟段階を促進する第2成長因子を含む混合物からなり、前記細胞外マトリックスおよび変性生体高分子は、化学的に架橋結合された状態で存在し、第1ハイブリッドインクより化学的架橋結合密度が大きい第2ハイブリッドインクを準備するステップと、前記第2ハイブリッドインクを3Dプリンティングして内部コア層を形成するステップと、前記第1ハイブリッドインクを3Dプリンティングして内部コア層を取り囲む外部層を形成し、多層構造物を得るステップと、を含む。また、本発明の一例による生体材料ベースの血管新生促進用パッチ製造方法は、内部コア層と外部層を含む多層構造物をヒドロゲル状態で転換させるために、多層構造物を25~45℃、好ましくは30~40℃で0.5~3hr、好ましくは0.6~1.5hrの間熱処理してヒドロゲル状態の多層構造物を得るステップをさらに含むことができる。また、本発明の一例による生体材料ベースの血管新生促進用パッチ製造方法は、ヒドロゲル状態の多層構造物を風通しの条件で6~24hr、好ましくは8~18hrの間乾燥してガラス化された多層構造物を得るステップをさらに含むことができる。
【0056】
本発明の好ましい一例による生体材料ベースの血管新生促進用パッチ製造方法は、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性ヒアルロン酸および血管新生初期ステップを促進する第1成長因子を含む混合物からなり、前記細胞外マトリックスおよび変性ヒアルロン酸は、化学的に架橋結合された状態で存在する第1ハイブリッドインクを準備するステップと、アミン基を有する細胞外マトリックス、エチレン性不飽和結合官能基が導入された変性ヒアルロン酸および血管新生成熟段階を促進する第2成長因子を含む混合物からなり、前記細胞外マトリックスおよび変性ヒアルロン酸は化学的に架橋結合された状態で存在し、第1ハイブリッドインクより化学的架橋結合密度が大きい第2ハイブリッドインクを準備するステップと、前記第1ハイブリッドインクを3Dプリンティングして第1層を形成するステップと、前記第2ハイブリッドインクを第1層表面の内側に3Dプリンティングし、第1ハイブリッドインクを第1層表面の両側の外側に3Dプリンティングして第2内部層および2個の第2外部層で構成された第2層を形成するステップと、前記第1ハイブリッドインクを第2層の表面に3Dプリンティングして第3層を形成し、多層構造物を得るステップと、を含む。
【0057】
本発明による生体材料ベースの血管新生促進用パッチは、血管新生依存性疾患を予防するか治療するのに使用されることができる。よって、本発明は、生体材料ベースの血管新生依存性疾患予防または治療用パッチを提供する。
【0058】
前記「血管新生依存性疾患」は、血液供給が円滑に行われないか、血管新生が十分に行われない症状を伴う疾患である。本発明において血管新生依存性疾患は、血管新生促進によって予防または治療されることができる疾患であれば、その種類が大きく制限されず、例えば、虚血性疾患、傷、火傷、乾癬、慢性潰瘍、心筋梗塞、狭心症、褥瘡、脱毛、糖尿網膜症、未熟児網膜症、年齢関連黄斑変性症、緑内障、糖尿性足部潰瘍、廃高血圧および脳血管性認知症で構成された群から選択された1種以上であってよい。また、前記虚血性疾患は、脳虚血、心臓虚血、糖尿病性血管心臓疾患、心不全、心筋肥大症、網膜虚血、虚血性大腸炎、虚血性急性腎不全、脳卒中、脳外傷および新生児低酸素症で構成される群から選択された1種以上であってよい。
【0059】
以下、本発明を実施例を通じてより具体的に説明する。ただし、下記実施例は、本発明の技術的特徴を明確に例示するためのものであって、本発明の保護範囲を限定するものではない。
【0060】
1.実験方法
(1)血管組織由来脱細胞化細胞外マトリックス(VdECM)およびこれを含むインクの製造
近い屠畜場から購入した新鮮な豚の大動脈を約2mm長さの立方体に刻んで、脱イオン水で6hrの間洗浄し、残っている血液を除去した。以後、スライスした大動脈組織を0.3%(w/w)ドデシル硫酸ナトリウム(Sodium dodecyl sulfate)溶液に入れて24hrの間撹拌させ、次に、3%(w/w)Triton X-100溶液に入れて24hrの間撹拌した。以後、大動脈組織をPBS(Phosphate buffered saline)溶液で24hrの間濯いで化学洗剤を洗い出した後、大動脈組織をPBS溶液内に75U/ml DNaseと50mM塩化マグネシウム(MgCl2)が含まれたヌクレアーゼ溶液で37℃で24hrの間処理して脱細胞化させた。以後、脱細胞化された組織を4%エタノールに溶かした0.1%過酸化アセト酸(Peracetic acid)溶液で約4hrの間処理して滅菌し、脱イオン水とPBS溶液で複数回濯いで血管組織由来脱細胞化細胞外マトリックス(VdECM)を得た。以後、血管組織由来脱細胞化細胞外マトリックス(VdECM)を-80℃で急速凍結し、約48hrの間凍結乾燥して粉末形態の血管組織由来脱細胞化細胞外マトリックス(VdECM)を得た。
【0061】
凍結乾燥されたVdECM 100mgを15mgのペプシンとともに7.5mlの0.5Mアセト酸溶液で約120rpmで撹拌して溶解させ、40μm気孔サイズのメッシュフィルターで濾過して溶解されない粒子を除去したVdECM溶液を得た。以後、VdECM溶液に10N水酸化ナトリウム溶液を添加し撹拌してpHを7.4で中和し、ゾル(Sol)状態のVdECMインクを製造した。
【0062】
(2)ハイブリッドインクの製造
VdECMとメタクリレート化されたヒアルロン酸(Methacrylated hyaluronic acid、HAMA)を中性状態(pH7)の溶液内で混合した後、4℃で約10~12hrの間アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)を進行させてゾル(Sol)状態のハイブリッドバイオインクを新しく合成し、「HAVEMインク」と名付けた。前記HAMAのアクリレート官能基は、マイケルアクセプター(Michael acceptor)で作用し、VdECMの構成成分に存在するアミン官能基は、マイケルドナー(Michael donor)で作用してアザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)が進行される。アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)は、N-求核剤(N-nucleophiles)と活性化されたアルケンなどのような求電子剤(electrophiles)を含む求核性接合体添加反応である。アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)は、別途の触媒を必要とせず、アミンをα、β-不飽和カルボニル化合物に結合させる最も単純且つ効率的な方法として知られている。前記HAVEMインクは、中性状態溶液内にVdECMとメタクリレート化されたヒアルロン酸(Methacrylated hyaluronic acid、HAMA)の量をそれぞれ異に添加して、HAVEMインク(4V0.5H)およびHAVEMインク(4V1H)のように2種類で製造し、2種類のHAVEMインクに含まれた成分の組成を下記表1に要約した。また、対照群でVdECMのみを中性状態(pH7)の溶液に4%(w/v)の濃度で添加してVdECMインク(4VOH)を製造した。
【0063】
【0064】
また、時空間区画化された脳血管新生誘導(Spatiotemporal compartmentalized cerebral angiogenesis inducing、SCAI)パッチ製作のために、HAVEMインク(4V0.5H)またはHAVEMインク(4V1H)に血管内皮増殖因子(Vascular endothelial growth factor、VEGF)および肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor、HGF)をそれぞれ0.05μg/μlの濃度で混合して、計4種類のバイオインクを製造した。
【0065】
(3)SCAIパッチの製作
時空間的に分離した二重成長因子放出プラットホームを開発するために、3層構造の円形パッチを3Dプリンティングシステムを使用して製作した。第1層、第2外部層および第3層は、VEGF(組換えヒトVEGF 165;PeproTech、USA)と混合したHAVEMインクを使用して印刷した。第2内部層は、HGF(組換えヒトHGF;PeproTech、USA)と混合したHAVEMインクを使用して印刷した。2種類型のHAVEMインクをそれぞれ24Gプラスチックノズルが装着された3ml注射器(Musashi Engineering Company、日本)にロードした後、マルチヘッド3Dプリンティングシステム(T&R Biofab、韓国)にロードした。3個のレイヤーのいずれも4℃に制御された温度でプログラミングされたg-コードによって螺旋形で印刷した。各層を印刷した後、積層された層の間の混合を防止するために20秒の停止時間を与えた。印刷された3層円形SCAIパッチのゲル化のために、培養器に入れて5%二酸化炭素および37℃の条件で1hrの間処理した。以後、SCAIヒドロゲルパッチを風通しの良い場所で約10~12hrの間乾燥してガラス化(vitrification)させた。以後、ガラス化されたSCAIパッチを以後の細胞実験と動物実験に使用した。
【0066】
(4)3Dプリンティング用インクおよびSCAIパッチの物理化学的特性検証
上記で製造した3Dプリンティング用生体材料インクのレオロジー分析は、20mmコーンプレート形のDiscovery Hybrid Rheometer-2(TA Instruments、USA)システムを使用して行われた。分析した3Dプリンティング用インクは、3種類の中性化されたインク(pH7)であって、4% VdECMインク(4V0H);0.5% HAMAを含む4% VdECMインク[HAVEMインク(4V0.5H)]と、1% HAMAを含む4% VdECMインク[HAVEMインク(4V1H)]であった。せん断粘度値は、各生体材料インクの流れ挙動を評価するために、4℃の温度条件および0.01s-1から1000s-1に増加するせん断速度条件で決めた。各インクのゲル化力学は、5℃/minの加熱速度条件および4℃から37℃までのせん断温度変化モードで測定された。生体材料インクの振動数による貯蔵弾性率(Storage modulus)と損失弾性率(loss modulus)を確認するために、37℃でゲル化させたインクに対して2%ひずみ条件および0.1~100rad/sの範囲で動的振動数変化試験を進行した。また、インクの構成成分であるVdECMとHAMAがアザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)メカニズムを通じて化学的に架橋されたことを確認するために、凍結乾燥されたインクをD2Oに溶解させ、1H NMR(400MHz)スペクトルをBruker Advance III HD 400MHz NMR分光計を通じて得た。以後、該当インクを通じて製作したパッチをガラス化させた後、ガラス化されたパッチの引張特性をMTS伸び計(AVX54、MTS)を利用して確認した。引張特性試験時にガラス化されたパッチのスライドを防止するために、長方形状のガラス化パッチサンプル(25mm×8mm×400μm)を準備し、MTS伸び計に取り付けられたねじグリップを使用して固定した。
【0067】
(5)成長因子放出試験
組換えヒトVEGF 165(100-20;PeproTech、USA)および組換えヒトHGF(100-39H;PeproTech、USA)を最終濃度が0.05μg/μlになるようにそれぞれのインクに混合した後、3Dプリンティングを通じて多重層からなるパッチを積層加工して熱処理および乾燥を通じてガラス化されたSCAIパッチを製作した。前記ガラス化されたSCAIパッチは、化学的架橋および熱的架橋のように二重架橋を経たものである。ガラス化された円形ディスク状(直径8mm、高さ150μm)SCAIパッチを37℃温度のPBS溶液1.1mlに入れた。以後、所望の時間ポイントごとに溶液1mlを取って-80℃に保管し、PBS溶液を取った量だけさらに入れた。以後、ELISAキットを使用して各パッチで放出される成長因子であるVEGF(DY293B;R&D Systems、USA)とHGF(DY294;R&D Systems、USA)の量を定量化した。
【0068】
(6)細胞培養
ヒト脳微小血管内皮細胞(HBMECs;Innoprot、Korea)を5%(v/v)胎児ウシ血清、1%(v/v)内皮細胞成長補充剤および1%(v/v)ペニシリン/ストレプトマイシンが添加されて補充された内皮細胞培地(ECM;Innoprot、Korea)に接種し、培地を2~3日ごとに入れ替って5%二酸化炭素および37℃の条件で培養した。コンフルエンス(Confluence)が90%に到達したとき、細胞をDPBS(Dulbecco’s phosphate-buffered saline)で洗浄した後、0.25% Trypsin-EDTA(Gibco、USA)溶液で5%二酸化炭素および37℃の条件で4分間処理した後、細胞を分離して使用した。
【0069】
(7)rt-PCR
12ウェル-プレートを使用してHBMEC細胞を1.5mlの培地でウェル当たり1.5×104密度で培養した。このとき、パッチの影響を見るための実験群ではウェルに挿入されたトランスウェル上にSCAIパッチを置いてパッチで放出される成長因子がHBMECの成長に及ぼす影響を確認した。培養3、7、14日目にRNAiso plus(Takara Bio、Japan)を使用してウェル内細胞のmRNAを抽出した。抽出したRNA濃度および純度はNanodrop Lite分光度計(Thermo Fisher Scientific、USA)を使用して測定した。以後、SuperScript IV First-Strand Synthesis System(Invitrogen Life Technologies、USA)を利用して抽出したmRNAに対して逆転写を行った。Real-time PCRは、SYBR-green I試薬(Takara、Japan)とともにStepOne Plus Real-Time Cycler(Applied Biosystems、USA)を使用して行われた。データは、StepOneソフトウェア.v2.3を使用して分析され、GAPDH発現に対して正規化された各遺伝子の発現水準は2-ΔΔCT方法によって計算された。Real-time PCRに使用したプライマー配列は、NCBIおよびPubMedに掲示された遺伝子配列を基盤に設計され、下記表2にReal-time PCRに使用したプライマー配列を整理した。
【0070】
【0071】
(8)SCAIパッチが細胞実験に及ぼす影響評価
試験管内細胞毒性を評価するために遊離化されたSCAIパッチを各ウェルに挿入されたトランスウェル上に置き、各ウェル底にHBMECを2×104 cells/ml密度で追加した。以後、細胞を5%二酸化炭素および37℃の条件で7日間培養した後、live/dead分析キット(LIVE/DEAD Cell Viability Assay、Thermo Fisher Scientific、USA)を使用して染色した。生きている細胞と死んだ細胞をそれぞれ緑色蛍光物質と赤色蛍光物質で標識した後、蛍光顕微鏡(Nikon Instruments、Japan)で観察した。細胞増殖はCell Counting Kit-8 Assay Kit(Dojindo Molecular Technologies、Japan)を使用して定量化された。パッチがある実験群とパッチがない対照群のそれぞれに対して特定時間まで細胞を培養した後、新しい培地で1:10で希釈されたCCK-8溶液とともに37℃で3hrの間培養した。以後、処理された溶液を透明な96-ウェルプレートに移し、Multiskan(商標)GO Microplate Spectrophotometer(Thermo Fisher Scientific、USA)を使用して450nmでの吸光度を測定した。
【0072】
(9)SCAIパッチが動物実験に及ぼす影響評価
すべての動物研究は、local Institutional Animal Care and Use Committee(POSTECH-2021-0022)の承認を受けた後、国家規定の指針に従って行われた。200~300g重さの8週齢雄Sprague-Dawley(SD)マウスを生体内実験に使用した。マウスの麻酔は、最初は4.0% isofluraneを含む麻酔誘導チャンバを使用して行った後、手術中には1.5% isoflurane濃度に維持した。頭はステレオタクシスフレームにイアバーで固定し、体温はヒーティングパッドで維持した。頭をひげそりをした後、半球の皮膚を切開した。残っている表皮と残物は、食塩水で除去した。その後、歯科用ドリルを使用して開頭手術を注意深く行った。露出した脳組織を6mm×11mmのサイズおよび150~180μm厚さのPDMS(Polydimethylsiloxane)メンブレインで完全に覆って滅菌した後、食塩水に浸した。PDMSメンブレインの境界は、シアノアクリレート接着剤(Loctite、USA)を使用して頭蓋骨と接着させた。以後、PDMSメンブレインの縁に沿って歯科用レジン(OA2;Denkist Inc.、Korea)を塗布し、15秒間紫外線を照射して頭蓋骨に半永久的に接着させた。最後に、マウスに皮下注射を通じてBaytril(5mg/kg;Bayer、Germany)を投与し、ケージに戻した。その後、Tylenol(0.5mg/ml;Janssen、Korea)とMarboxyl(0.06mg/ml;Vetoquinol、Korea)を飲用水を通じて持続的に供給して炎症を緩和させた。手術2週後、脳組織を採取し、ヘマトキシリン/エオジン(H&E)染色および免疫組織化学(IHC)を使用して脳組織を分析した後、その結果に基づいてSCAIパッチの機能的血管新生効能を評価した。
【0073】
(10)SCAIパッチによって誘導された大脳血管新生様相の光音響モニタリング
大脳血管新生をモニタリングするために、光学解像度光音響顕微鏡(OR-PAM)システム(OptchoM、Optcho、Korea)を使用した。OR-PAMは、体積微小血管の非侵襲的探査のための生体イメージング道具であって、532nm波長のナノパルスレーザーシステム(VPFL-G-10、Spectra-Physics、USA)を使用して血管に超音波を発生させる。システムで生成された超音波は、中心周波数20MHz、帯域幅60%でカスタマイズされた超音波変換器によって測定される。分割された像を結合して広い視野(FOV)像を再構成することができる。分割像は、検流計スキャナ(GVS001;Thorlabs、USA)と2個の線形電動ステージ(L-509.10SD00;Physik Instrumente、Germany)を使用して獲得した。検流計スキャナは、スキャン範囲長さが1.6mm(400ピクセル)であり、スキャン速度が50Hzであるレーザーパルスを調整するようになる。最大スキャン範囲が26mmである線形電動ステージ(ステップサイズは5μm)は、OR-PAMシステムのスキャン部分を検流計スキャナのスキャン方向に垂直である方向に移動させる。ステージのスキャン範囲は、ROIのサイズによって調整される。他の線形ステージは、検流計スキャナと同一のスキャン方向にスキャン部分を移動させて他の領域で分割された像を提供するようになる。獲得した分割映像は、ピラミッドブレンディングを利用したSSIM(structural similarity)ベースの体積映像登録アルゴリズムによって広角FOV映像で再構成された。直径50μm未満の新しく生成された血管の密度を計算するために、先ずROI外部領域を除去するマスクを作った後、マウス脳のPA最大振幅投影(MAP)像で直径が約150μmより大きい血管を除去した。ROIの面積は、マスクの面積として計算された。以後、Hessianベースの血管フィルターを適用し、フィルタリングされた映像で直径50μm以上の血管を抽出し、抽出された血管を基盤に大きい血管地図を生成した。最後に、血管フィルタリング映像で大きい血管地図を除いて直径50μm未満の小さな血管で小さな血管地図を再構成し、小さな血管地図を基盤に小さな血管の面積を計算した。
【0074】
(11)組織学的分析
脳を摘出し、組織サンプルを4%パラホルムアルデヒド溶液に固定させ、パッチが貼り付けられた手術部位を切開した。以後、組織サンプルをパラフィンに固め、H&E染色実験のためにパラフィンが含まれた組織サンプルを5μm未満の厚さで横方向に切断した。染色された像を顕微鏡システム(Leica DM750;Leica)を使用してイメージングした。
【0075】
(12)免疫組織化学
4%パラホルムアルデヒド溶液に固定された組織サンプルをパラフィンに固め、免疫蛍光染色のために4μm厚さで切片を作った。以後、緩衝液を使用して脱パラフィン化および再水和ステップを行った。以後、切片を10%過酸化水素溶液に入れて室温で10分間培養した後、CD31に対する1次抗体(1:1000;abcam、UK)で染色した。染色された部位をペルオキシダーゼ(peroxidase)が結合された2次抗体(Envision+Rabbit;DAKO、USA)を30分間さらに培養した後、Mayer’Hematoxylinを適用して対照染色をした。得られたスライドを顕微鏡システム(Leica DM750;Leica)を使用してイメージングした。
【0076】
(13)統計分析
すべての統計分析は、GraphPad Prism 8.2.1プログラム(GraphPad Software、USA)を使用して行われた。データ間差の有意性は、両方向ANOVAまたはt-検定を通じて評価された。統計的有意性の表現は、次のとおりである:*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001.
【0077】
2.実験結果
図1は、本研究で化学的架橋結合および熱的架橋結合のように二重架橋結合メカニズムを利用して血管組織由来脱細胞化細胞外マトリックス(VdECM)とメタクリレート化されたヒアルロン酸(Methacrylated hyaluronic acid、HAMA)からハイブリッドインク(HAVEMインク)を製造する概略的な過程を示したものであり、
図2は、本研究で互いに異なる架橋結合密度を有したハイブリッドインクそれぞれに脳血管新生誘導成長因子であるVEGFとHGFを添加し、3Dプリンティング工程を利用して脳血管新生誘導(Spatiotemporal compartmentalized cerebral angiogenesis inducing、SCAI)パッチを製造する概略的な過程と、SCAIパッチでVEGFとHGFが順次に放出される概略的な過程を示したものである。
【0078】
図1および
図2から見られるように、本発明の発明者らは、2個の血管新生増殖因子が区画化されて順次に遅延放出されることができるようにする精巧なSCAIヒドロゲルパッチを細胞外マトリックス(ECM)ベースのハイブリッドインクおよび3Dプリンティング技術を活用して製作した。血管組織由来脱細胞化細胞外マトリックス(VdECM)とメタクリレート化されたヒアルロン酸(Methacrylated hyaluronic acid、HAMA)をアザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)という化学的架橋方式で結合させてハイブリッドインクを形成した。アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)は外因性触媒が必要でなく、簡単に化学結合密度のみを変更させて血管新生因子の放出様相や印刷能を調節することができるため、SCAIパッチを製作するのに非常に理想的なメカニズムである。本発明の発明者らは、パッチを移植した後、成長因子が順次に放出されるようにするために、SCAI配置内部と外部にそれぞれ他の成長因子を配置して空間的に分離させ、他の成長因子を搭載するために、それぞれ他の化学的架橋密度を有した2種類のハイブリッドインク(HAVEMインク)を使用した。他の成長因子が搭載された2種類のハイブリッドインク(HAVEMインク)を3DプリンティングしてSCAIパッチを製造した後、SCAIパッチにガラス化工程を適用して柔らかく且つ柔軟で、操作しやすい脳移植用パッチを作った。このように製作されたパッチが血管新生を促進する治療的効果があるという点が生体外および生体内で立証された。特に、本発明の発明者らは、非標識方式を適用した光音響顕微鏡を利用して、パッチ移植後14日間の大脳微小血管の時間による血管新生様相を観察した。定量化された結果によると、SCAIパッチは脳領域で相当な血管新生性能を見せた。
【0079】
(1)ハイブリッドインク(HAVEMインク)の物理化学的特性
パッチで血管新生因子を所望の量と速度で搭載して放出するために、HAMAとVdECMから生体材料ベースの新しい二重架橋ハイブリッドインクを製造し、これを「HAVEMインク」と名付けた。
図3は、アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)を通じて血管組織由来脱細胞化細胞外マトリックス(VdECM)とメタクリレート化されたヒアルロン酸(Methacrylated hyaluronic acid、HAMA)からHAVEMインクを製造する過程を概略的に示したものである。先ず、HAVEMインクの化学的架橋過程ではaza-Michael添加反応を通じてHAMAのメタクリレート基とVdECMのアミン基が結合するようになる。各VdECMとHAMAの割合を調節することで化学架橋密度を調節することができた。
【0080】
このとき、aza-Michael添加反応を通じて形成された化学結合は、NMR分光法を通じて確認した。
図4は、血管組織由来脱細胞化細胞外マトリックス(VdECM)とメタクリレート化されたヒアルロン酸(Methacrylated hyaluronic acid、HAMA)との間の架橋結合発生を証明するために、VdECMインク(4V0H)、HAMAおよびHAVEMインク(4V0.5H)を核磁気共鳴(NMR)で測定したスペクトルである。メタクリレート官能基と関連するNMR特性ピークは、1.9、5.7および6.1ppmで強調表示されている。
【0081】
HAMAのNMRスペクトル結果では、HAMAに含まれたメタクリレート基のNMR特性ピークである1.9、5.7、6.1ppmにおけるピークが観察されたが、VdECMだけ含まれたインク(4V0H)のスペクトルではこのようなピークが同一の位置で観察されず、これはメタクリレート基がないことを示す。また、HAVEMインクグループ(4V0.5Hおよび4V1H)でもメタクリレート基に該当するNMR特性ピークを観察することができなかった。これは、HAMAのすべてのメタクリレート基がVdECMのアミン基と成功的に反応して化学的架橋を形成したことを意味する。
【0082】
以後、HAVEMインクでHAMAの割合による印刷能変化を確認した。
図5の上記写真は、化学的架橋結合密度の差によるVdECMインク(4V0H)、HAVEMインク(4V0.5H)、HAVEMインク(4V1H)のゾル(sol)状態像であり、
図5の下記のグラフは、VdECMインク(4V0H)、HAVEMインク(4V0.5H)、HAVEMインク(4V1H)の粘度を4℃の印刷条件および多様なせん断速度で測定した結果である。
図5から見られるように、化学的架橋密度が異なるHAVEMインク(4V0.5Hおよび4V1H)は、いずれもVdECMだけ含むインク(4V0H)より粘度が若干高く、レオロジーにせん断薄化特性を示した。より具体的に、化学的架橋密度が増加するほどインクの流動性は減少して粘度は増加した。一方、各HAVEMインクの粘度は、時間の変化によってはほとんど影響を受けなかった。
【0083】
制御された架橋密度がHAVEMインクの機械的物性に及ぼす影響を確認するために、HAVEMインクの温度を4℃から37℃に上げて用意されたインクの複素弾性率変化をモニタリングした。
図6は、4℃の温度から37℃までの温度変化によるVdECMインク(4V0H)、HAVEMインク(4V0.5H)、HAVEMインク(4V1H)の弾性率変化を示したものである。
図6の弾性率変化によってインクのゲル化動態を把握することができる。
図6から見られるように、さらに高いHAMA濃度を含むHAVEMインク(4V1H)はさらに低いHAMA濃度を含むHAVEMインク(4V0.5H)およびVdECM単独を含むVdECMインク(4VOH)と比較すると、熱的架橋が進行されるようになることにつれ、複素弾性率がより大きく増加する傾向を見せた。そして、平衡に到達するのに必要な時間は、他のインク(4V0.5H、4V0H)より化学的架橋密度がさらに高いHAVEMインク(4V1H)で相対的にさらに長いことが観察され、その理由は、インクでHAMAの割合が増加することによりさらに多くの化学的架橋が発生して複素弾性率がさらに大きくなったためであるものと推論される。平衡状態でHAVEMインク(4V1H)の複素弾性率は、HAVEMインク(4V0.5H)およびVdECMインク(4VOH)より1.91倍および3,045倍さらに大きいことが観察された。
【0084】
次に、化学的架橋および熱的架橋が完了したゲル状態のインクの複素弾性率を確認したとき、HAVEM(4V1H)インクはVdECM(4V0H)インクおよびHAVEM(4V0.5H)インクよりさらに大きい複素弾性率値を示した。
図7は、37℃の温度で振動数変化によるVdECMインク(4V0H)、HAVEMインク(4V0.5H)、HAVEMインク(4V1H)の貯蔵弾性率と損失弾性率を示したものである。
図7から見られるように、ハイブリッドインクは、印刷過程で架橋割合が高いほどより高い構造的忠実度を有することを確認することができた。HAVEMインクの化学的架橋密度を変更して適切な機械的特性を有するように誘導することができ、これは血管新生因子の放出様相を調節するのに直接的な影響を及ぼした。
図8は、HAVEMインク(4V0.5H)およびHAVEMインク(4V1H)にカプセル化されたHGFの放出プロファイルを7日間測定した結果である。
図8から見られるように、HGFを含むHAVEMインク(4V1H)のHGF放出は、HGFを含むHAVEMインク(4V0.5H)におけるHGF放出より遥かに遅いことを確認することができた。
【0085】
(2)3Dプリンティング技術を利用したSCAIパッチの設計および製作
SCAIパッチを作るために、HAVEMインク(4V0.5H)およびHAVEMインク(4V1H)のように2種類型のHAVEMインクを使用した。
図9は、本研究において、3Dプリンティング技術を利用してSCAIパッチを製作する過程を概略的に示したものである。
図9から見られるように、パッチ構造は、外部層と内部層が区分される計3個の層を有する円形状で設計され、3Dプリンティングされた。外部層には、VEGF(血管新生初期ステップに関与する血管新生因子)を搭載して初期に放出されることができるようにし、内部層には、HGF(後期血管新生過程に関与する血管新生因子)を適用して遅延放出されるように設計した。
図10は、チューブ形成アッセイ(Tube formation assay)によって多様な血管新生因子の血管新生効果を測定した結果である。
図10のAは、チューブ形成アッセイ(Tube formation assay)の概略図であり、Bは、無処理群(Control)、VEGF、HGFおよびVEGFとHGF組合処理サンプル別に48hr経過後に測定した総チューブ長さを示したものである。
図10から見られるように、成長因子の組み合わせは、ヒト脳微小血管内皮細胞(HBMEC)で迅速且つ延長された管形成を効果的に誘導し、48hr経過後に1種類の成長因子のみ処理した群と比較したとき最も高い総管長さを形成した。このような結果に基づいて、VEGFが含まれたHAVEMインク(4V0.5H;インクA)とHGFが含まれたHAVEMインク(4V1H;インクB)を使用して直径8mmの円形SCAIパッチを製作した。先ず、インクAを直径8mmの螺旋形軌跡に沿ってプリンティングして第1層を形成した。外部からHGFを物理的に遮断するために、第1層の内部位置にインクBを直径6mmの螺旋形軌跡に沿ってプリンティングして第2内部層を形成し、以後、同一の印刷条件でインクAを使用して第2外部層および第3層をプリンティングした。各層をプリンティングした後には20秒間一時停止し、Z軸を200μm上昇させた後、次の層をプリンティングした。結果的に、HGFは、プリンティング過程を通じて、空間的に区画化されただけでなく、HGFを含んでいるインクでHAVEMインク(4V1H)を使用して時間的にも区画化されることができ、これを通じて、血管新生の初期ステップでパッチでHGFが放出されることを防止することができた。本研究では、内部のコア層がHGFが含まれた架橋密度が高いHAVEMインク(4V1H;インクB)で印刷され、コア層を完全に取り囲む外部層がVEGFが含まれた架橋密度が低いHAVEMインク(4V0.5H;インクA)で印刷された。一方、パッチの第1層、第2外部層および第3層がいずれもVEGFが含まれたHAVEMインク(4V0.5H;インクA)からなっているため、パッチが移植された直後にVEGFが放出されて初期血管新生過程に影響を増幅させることができる。
【0086】
図11は、本研究で製作したSCAIパッチの断面構造と各断面を共焦点顕微鏡で撮影した像である(scale bars:200μm)。
図12は、HAVEMインクの多様な組み合わせで製作したSCAIパッチの設計構造および各パッチの印刷、ゲル化およびガラス化ステップにおける像である。
図12で設計構造1のパッチ(最左列)は、VdECMインク(4VOH)を使用して円形にプリンティングして製作したものであり、設計構造2のパッチ(中間列)は、内部のコア層をHAVEMインク(4V1H)でプリンティングし、内部コア層を取り囲む外部層をHAVEMインク(4V0.5H)にプリンティングして製作したものであり、設計構造3のパッチ(最右列)は、HAVEMインク(4V0.5H)を使用して格子(Lattice)形態でプリンティングして製作したものである(scale bars:10mm)。
図11および
図12から見られるように、パッチの区画化された構造は、パッチがプリンティングされた後、熱架橋工程を経た後にも良く維持された。これは、HAVEMインクが優れた印刷能を有して多重材料ベース印刷プロセスを使用しても所望の構造を容易にプリンティングすることができるという点を立証する。実際に、VdECMインク(4V0H)は、HAVEMインク(4V0.5H)よりプリンティングを進行したとき、相対的に正確な形の実現が難しいため、目的としたSCAIパッチの形どおりプリンティングをすることが容易でなかった。これに対し、HAVEMインク(4V0.5H)は、区画化されたSCAIパッチ構造だけでなく、二重層の微細気孔構造を有する格子形のヒドロゲル構造をプリンティングすることも可能であることを確認した。よって、本研究で製作したHAVEMインクを使用する場合、多様な構造のパッチ製作が可能である。
【0087】
内部のコア層をHAVEMインク(4V1H)でプリンティングし、内部コア層を取り囲む外部層をHAVEMインク(4V0.5H)でプリンティングしてSCAIパッチで成形した後、所定の熱処理を通じて熱的架橋を進行し、以後、手術中移植、取り扱いおよび保管が容易であるようにガラス化(vitrification)過程を進行した。ガラス化過程を経たSCAIパッチの機械的特性を評価するために、引張応力-ひずみ特性を調査した。
図13は、本研究で製作したガラス化過程を経たSCAIパッチの引張強度測定結果および膨張比(Swelling ratio)を示したものである。
図13で「Control」は、ガラス化過程を経ないSCAIパッチを示し、「SCAI patch」は、ガラス化過程を経たSCAIパッチを示す。
図13から見られるように、ガラス化されたSCAIパッチは、18.62MPaの引張強度を示し、これは、ガラス化過程を経ない対照群サンプルより12.46倍さらに高い値である。また、ガラス化されたパッチは、食塩水に浸すと速やかに水分を再吸収して最大151%まで膨張した。ガラス化されたSCAIパッチの微細構造は、電子顕微鏡(SEM)を使用してイメージングし、架橋密度に応じて変化する相互連結された構造と多孔構造を確認することができた。
図14は、本研究で製作した多様なガラス化されたパッチのSEM撮影像である(scale bars:1μm)。
図14で「4VOH」は、VdECMインク(4VOH)からなるガラス化されたパッチを示し、「4V0.5H」は、HAVEMインク(4V0.5H)からなるガラス化されたパッチを示し、「4V1H」は、HAVEMインク(4V1H)からなるガラス化されたパッチを示す。
図14から見られるように、架橋密度が増加することにより繊維形態の密度も増加するようになるが、各構造において4V0H、4V0.5Hおよび4V1H順に架橋密度が増加することにより、SEM像上の繊維形態の密度も増加されることを確認することができた。
【0088】
(3)SCAIパッチの持続的且つ順次的な放出プロファイルおよび細胞挙動を評価するためのIn vitro実験
本発明の発明者らは、SCAIパッチの特性を定立した後、製作されたパッチで成長因子(Growth factor)の放出様相を確認した。VEGFとHGFが順序どおり徐放されることができるようにするために、2つの戦略を活用した。各成長因子を含むHAVEMインクの化学的架橋密度を調節し、3Dプリンティング技術を活用して2つの血管新生因子が時空間的に区画化できるようにするヒドロゲルパッチを製作した。
【0089】
化学的架橋密度が低いヒドロゲルは、水分をさらに多く含んでいるため、化学的架橋密度が高いヒドロゲルよりさらに早く分解される。このような原理でヒドロゲルの化学的架橋の密度が高いほどヒドロゲルにカプセル化された成長因子の放出速度が低くなる。本発明のSCAIパッチは、化学的に架橋された親水性マトリックスであるため、化学結合の密度を調節することを通じて分解速度を調節することができ、これは、結果的に該当ヒドロゲルに搭載されている成長因子の放出様相を調節することができる。
【0090】
VEGFおよびHGFの順次的な薬物徐放のために設計された前記戦略を検証するために、2種類の多層SCAIパッチを製作し、2個の実験グループに対して成長因子の放出様相を確認した。
図15は、VEGFおよびHGFの順次的な薬物徐放のために、本研究で設計された多層SCAIパッチの構造を概略的に示したものである。
図15から見られるように、本研究で設計された多層SCAIパッチは、HGFが含まれたハイブリッドインク(インクB)からなる内部のコア層およびVEGFが含まれたハイブリッドインク(インクA)からなり、内部コア層を取り囲む外部層で構成されている。
図16は、VEGFおよびHGFの順次的な薬物徐放のために本研究で設計された2種の多層SCAIパッチのそれぞれに対してVEGFおよびHGFの累積放出プロファイルを1ヶ月間評価した結果である。
図16の左側実験グループは、VEGFが0.05μg/μlの含量で含まれたHAVEMインク(4V0.5H)をインクAとして使用して形成した外部層およびHGFが0.05μg/μlの含量で含まれたHAVEMインク(4V0.5H)をインクBとして使用して形成した内部コア層で構成されており、インク条件が同一であり、薬物が空間的にのみ区画化された多層SCAIパッチに対して薬物徐放と順次放出様相を観察した結果である。
図16の右側実験グループは、VEGFが0.05μg/μlの含量で含まれたHAVEMインク(4V0.5H)をインクAとして使用して形成した外部層およびHGFが0.05μg/μlの含量で含まれたHAVEMインク(4V1H)をインクBとして使用して形成した内部コア層で構成されており、薬物が時空間的に区画化された多層SCAIパッチに対して薬物徐放と順次放出様相を観察した結果である。
図16から見られるように、SCAIパッチの外部層に搭載されたVEGFは、2つのグループで別に差なしに、いずれも50.07%±10.63%が一日(24時間)以内に放出されることを確認した。一方、SCAIパッチの内部コア層に搭載されたHGFの場合、2つのグループでいずれも空間的に水による浸食から比較的保護されることができる内部層に位置したため、VEGFに比べては徐放される様相を見せた。さらに、右側実験グループから見られるように、HAVEMインクの化学架橋密度を調節して、材料的な部分でも外部と内部の条件に差を置くようになったときは、空間的な区分だけ実現したときより徐放および順次放出様相がさらに明らかに現れることを確認した。外部層と内部層の化学架橋密度を調節してHGFを外部層と異なるHAVEMインク(4V1H)に搭載した右側実験グループの場合、HGF初期ローディングの約50%を放出するのに30日が所要されたのに対し、外部層と内部層を化学架橋密度を調節せずにHGFを外部層と同一のHAVEMインク(4V0.5H)に搭載した左側実験グループの場合、HGFが右側実験グループと類似した量でHGFを放出するのに4日程度が所要された。
【0091】
SCAIパッチの血管新生促進による治療可能性を評価するために、生体適合性と生体における機能をIn vitro実験を通じて検証した。
図17は、VEGFが0.05μg/μlの含量で含まれたHAVEMインク(4V0.5H)をインクAとして使用して形成した外部層およびHGFが0.05μg/μlの含量で含まれたHAVEMインク(4V1H)をインクBとして使用して形成した内部コア層で構成されたSCAIパッチをヒト脳微小血管内皮細胞(HBMEC)に適用して培養したときのIn vitro実験結果を示したものである。
図17のIn vitro実験でHBMEC細胞は、トランスウェル上に位置したSCAIパッチとともに培養された。
図17から見られるように、ヒト脳微小血管内皮細胞(HBMEC)にSCAIパッチを適用して7日間培養したとき、細胞生存率に如何なる有害な影響も現れず、未処理群と比較してヒト脳微小血管内皮細胞(HBMEC)の増殖速度を促進させることを確認することができた。
図18は、VEGFが0.05μg/μlの含量で含まれたHAVEMインク(4V0.5H)をインクAとして使用して形成した外部層およびHGFが0.05μg/μlの含量で含まれたHAVEMインク(4V1H)をインクBとして使用して形成した内部コア層で構成されたSCAIパッチをヒト脳微小血管内皮細胞(HBMEC)に適用して培養したときの細胞生存能をlive/dead分析キットで分析した結果である(scale bars:50μm)。
図18のlive/dead染色分析結果を通じて、
図17における細胞増殖結果が交差検証された。
図19は、VEGFが0.05μg/μlの含量で含まれたHAVEMインク(4V0.5H)をインクAとして使用して形成した外部層およびHGFが0.05μg/μlの含量で含まれたHAVEMインク(4V1H)をインクBとして使用して形成した内部コア層で構成されたSCAIパッチをヒト脳微小血管内皮細胞(HBMEC)に適用して培養したときの血管新生関連遺伝子発現水準を分析した結果である。
図19から見られるように、血管新生初期ステップではSCAIパッチが適用されたグループで未処理グループに比べて血管新生関連遺伝子がさらに多く発現されたが、有意な差は示さなかった。一方、FLT1、FLK1、ANGPT1およびPECAMを含むすべての血管新生関連遺伝子マーカーの発現は、SCAIパッチを適用した後14日が経過したとき急激に増加した。このような結果は、SCAIパッチが血管新生を促進するのに強力に影響を及ぼすということを意味する。SCAIパッチが放出するVEGFとHGFがHBMEC細胞に影響を与えるようになるが、このとき、HGFの遅延放出はVEGFとシナジー効果を出して効果的に血管が生成されることができるようにする。
【0092】
(4)SCAIパッチ移植後、脳血管新生挙動を評価するためのIn vivo実験
本研究で製作されたVEGFが0.05μg/μlの含量で含まれたHAVEMインク(4V0.5H)をインクAとして使用して形成した外部層およびHGFが0.05μg/μlの含量で含まれたHAVEMインク(4V1H)をインクBとして使用して形成した内部コア層で構成されたSCAIパッチの生体内治療可能性を評価するために、OR-PAMシステムを使用してSCAIパッチによって誘導された大脳血管の血管新生挙動を時間によって視覚化した。
図20は、本研究で製作されたVEGFおよびHGFが時空間的に区画化されたSCAIパッチをSDマウスの大脳皮質に移植した後、OR-PAMシステムを使用して移植された部位をモニタリングする過程からなるIn vivo実験を概略的に示したものである。本発明の発明者らは、マウスを麻酔して開頭手術を進行し、頭蓋骨を除去した後、大脳部分にSCAIパッチを移植した。以後、移植部位に薄いPDMS膜を覆ってモニタリングのためのレーザーと光音響(PA)超音波が浸透することができるようにした。以後、マウスの脳における血液循環と皮質微小血管構造変化をモニタリングするために、14日間マウスの関心部位に対して光音響映像を撮影した。
【0093】
図21は、本研究で行ったSCAIパッチ移植後、脳血管新生挙動を評価するためのIn vivo実験で時間経過によるSCAIパッチの変化を追跡するためにパッチが移植された部位の横断面を光音響(PA)B-モードで撮影した像である(scale bars:200μm)。
図21で半透明なSCAIパッチ内部ではレーザービームの低い吸収によってPA信号が弱いため、これに基づいてパッチの境界を決め、黄色い点線で強調表示した。
図21から見られるように、移植0日目のパッチ厚さは、ガラス化されたSCAIパッチの厚さと類似するように140μmに表示された。移植1日後には、パッチが脳脊髄液によって膨張し、パッチ厚さが240μmまで増加した。以後、パッチが分解されることにより、移植7日目には、約70μmまで減少してPA B-モード像でほとんど区別できなくなった。また、移植14日後には、パッチがすべて分解されて、PA B-モード像でパッチが観察されなかった(結果像は図示しない)。
【0094】
図22は、本研究で行ったSCAIパッチ移植後、脳血管新生挙動を評価するためのIn vivo実験でSCAIパッチ処理有無によるSDマウスの脳血管構造変化を光音響(PA)最大振幅投影(MAP)像で示したものであり、
図23は、
図22でSCAIパッチが適用されたマウスの像で点線で表示された領域C1およびC2に対する断面PA B-モード像である(scale bars:400μm)。
図23の拡大された像(scale bars:1mm)で大きい血管は、下記の点からなる楕円形の曲線で強調表示された。
図22および
図23から見られるように、移植されたSCAIパッチは、血管新生を誘導し、時間が経つにつれて脳微小血管構造が変化することを観察することができた。移植14日後、SCAIパッチ移植部位で多くの微小血管構造が新しく伸び行くことを確認することができ、放出されたVEGFとHGFのシナジー効果によって直径50μm以下の新たに形成された血管が多く観察された。一方、SCAIパッチ未処理グループでは微小血管構造の有意味な変化を観察することができなかった。
図22で新たに生成された血管によって部分的に覆われた元の血管は、拡大像を通じて確認することができる。隠された元の血管は、
図22のMAP像でC1およびC2領域の点線で強調表示されており、
図22に表されたC1およびC2領域のPA B-モード像である
図23から明確に見ることができた。
図23で元の血管と新たに生成された血管の輪郭をそれぞれ下記の点からなる楕円形の曲線と上記の点からなる曲線で表示した。
【0095】
新たに形成された血管の密度に対する定量的分析も進行された。
図24は、本研究で行ったSCAIパッチ移植後、脳血管新生挙動を評価するためのIn vivo実験で光学解像度光音響顕微鏡(OR-PAM)像を利用してSCAIパッチ処理有無によるSDマウスの血管密度を定量的に分析した結果である。血管の密度は、直径50μm未満の血管面積と移植された表面積の割合で決めた。
図24から見られるように、SCAIパッチ移植前と移植14日後に得た密度とを比較すると、パッチ移植後の血管密度は移植14日目に0.0609±0.0052mm
2/mm
2から0.1999±0.0239mm
2/mm
2で約3.3倍増加したことが示され、このような結果は、本研究で製作されたSCAIパッチの大脳血管新生促進治療効能を示唆する。
【0096】
本発明の発明者らは、SCAIパッチの血管新生効能を検証するために組織学的評価も行い、これは、PAM映像で確認した内容と類似した結果を見せた。
図25は、本研究で行ったSCAIパッチ移植後の脳血管新生挙動を評価するためのIn vivo実験でSCAIパッチ移植14日後にパッチ未処理グループとSCAIパッチ移植グループに対する組織学的分析結果をH&E染色像と免疫組織化学(IHC)像(CD 31)で示したものである(scale bars:50μm)。
図25で拡大された像のscale barsは20μmである。
図25から見られるように、SCAIパッチが移植されたグループではパッチ移植14日後にパッチ移植部位の周辺組織に血液を供給することができる大きな血管が残っており、多様な直径と長さの数多くの毛細血管もまた観察された(黒矢印で表示される)。血管のうち一部は、元の大きい血管から伸び行く様相を見せたが、これは、血管新生の明白な証拠である(灰色矢印で表示)。一方、SCAIパッチ未処理グループでは大きい血管から伸び行く血管の様相を観察することができなかった。また、本発明の発明者らは、マウス特異的血管抗体に対する免疫組織化学(IHC)を使用して移植されたパッチの血管新生効果を交差検証し、H&E染色結果(黒矢印で表示)と類似した傾向を観察した。また、本発明の発明者らは、単位面積(1mm
2)当たりの血管数を数えて血管新生程度を定量化した。
図26は、本研究で行ったSCAIパッチ移植後の脳血管新生挙動を評価するためのIn vivo実験でSCAIパッチ移植14日後に免疫組織化学(IHC)像を利用してパッチ未処理グループとSCAIパッチ移植グループの単位面積当たりの血管数を定量的に分析した結果である。
図26から見られるように、SCAIパッチ移植グループにおける血管数は167±13個であり、未処理グループにおける血管数は29±5個であって、SCAIパッチ移植グループで1mm
2当たり約5.76倍さらに多くの血管が新生された。総合すると、SCAIパッチは、血管形成および血管新生を促進して生体内で少なくとも14日まで治療効能を維持すると結論付けることができる。
【0097】
3.議論および結論
本発明の発明者らは、脳領域で大脳血管新生を促進するために2つの血管新生因子を血管新生ステップによって放出されることができるようにする柔軟なパッチ型薬物伝達システムを製作した。製作されたSCAIパッチの主要特徴は次のとおりである。
【0098】
(1)パッチを成形するために使用されたHAVEMインクは、メタクリレート官能基とアミン官能基との間の結合密度によって放出様相を多様に調節することができる。
【0099】
(2)3Dプリンティング技術を使用して血管新生増殖因子を時空間的に区画化して順次に徐放することができる。
【0100】
既存のバイオ加工技術戦略(例:鋳型鋳造、ガス発泡および凍結乾燥)は、生体材料ベースの薬物伝達システムを生産するのに広く適用された。しかし、このような方法は必然的に多くの複雑な過程を伴うしかない。本発明の発明者らは、これを改善するために、3Dプリンティング技術を適用して物理的に複数回の工程を経ずに、ただ一回の工程で空間的に内層と外層とが分離した構造のパッチを製作した。このように工程ステップを減らすようになれば、全体的な製作所要時間を減らすようになり、成長因子のさらに高い生物学的活性を維持するのに役立つ。また、伝統的なアプローチは、一般的に毒性溶液を処理するか、苛酷な環境要因(例:pH、温度)下で追加的なプロセスが進行される場合が多い。該プロセスもまたタンパク質ベースの薬物の安定性を減少させる。しかし、本発明の発明者らが製造したHAVEMインクは、合成する過程ではラジカルを始めとした他の化学的活性物質を中間物質として形成せず、触媒も必要としない温和な架橋条件を有しているため、これもまた成長因子の生体活性維持に寄与することができる。
【0101】
時空間的に区画化された二重血管新生因子があるパッチは、脳の血管新生を誘導するのに相当な影響を及ぼす。本発明の発明者らは、14日間マウス大脳皮質微小血管の時間依存的変化をモニタリングするために、OR-PAMシステムを使用して生体内治療の効能を調査した。この映像化方法は、血管系内に存在する赤血球によって生成されたPA波を測定して血管映像を得るため、標識物質を使用する必要がない血管映像化方法である。OR-PAMシステムを使用する場合、既存の血管映像技術に比べてさらに効果的且つ非侵襲的な方式で機能的且つ統合された新たに形成された血管を識別することができる。
【0102】
本発明の発明者らが製作したSCAIパッチは、大脳虚血性領域で新生血管可能性に対する追加調査のための信頼できるガイド役割をすることができる。また、本発明の発明者らが製作した徐放性血管新生増殖因子放出パッチシステムは、モヤモヤ病のような難治性慢性脳虚血性疾患を標的とする治療などにも適用が可能である。モヤモヤ病は、内径動脈とその枝の閉塞を特徴とする進行性閉塞性動脈硬化症である。モヤモヤ病患者の治療は、主に外科的手術(直接吻合法、間接吻合法)で進行される。しかし、小児患者は、中大脳動脈に直接吻合するための表面側頭葉動脈(STA)が細すぎるため、直接吻合法を施行することができず、必ずしも間接的な血管再生戦略、すなわち、脳硬膜動脈間接吻合術(EDAS)などが小児モヤモヤ病の治療戦略として広く受け入れられている。この手術法は、一般的に脳脊髄液の成長因子数値と血管新生能力程度によって効果が変わると知られている。本発明の発明者らが製作したSCAIパッチは、単に部位の近くに配置させることだけで、間接手術後に表面側頭葉動脈(STA)と軽膜血管との間の血管新生を促進する有益な効果を示すことができる。
【0103】
本研究結果は、HAVEMインクを使用して製作された時空間的に区画化された大脳血管新生誘導パッチの優れた潜在力を強調する。前記HAVEMインクは、アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)を通じて架橋密度が調節された3Dプリンティング用インクである。本研究では、アザ-マイケル添加反応(aza-Michael addition reaction)を通じて架橋密度が調節された脱細胞化細胞外マトリックス(dECM)ベースのハイブリッドインクを合成し、ハイブリッドインクの改善した印刷能に基づいて3Dプリンティング技術を使用して複雑なパッチ形態の構造体を製作した。さらに高い架橋密度を有しているハイブリッドインクは、さらに緻密に結合が形成されていることからさらに小さな気孔サイズを有し、成長因子の放出速度を効果的に減少させることができる。また、3Dプリンティング技術を使用すると、ハイブリッドインク内に搭載された成長因子の放出を制御することができる、物理的に区画化された構造体を製作することができる。よって、本研究で製作されたSCAIパッチは、効果的に2種類の血管新生増殖因子を持続的に徐放して虚血性疾患の治療に必要な血管生成を誘導することができる。本研究で製作されたSCAIパッチ形態の薬物伝達プラットホームは、従来の長期的薬物伝達接近法で発生する問題点を乗り越えた。血管組織由来脱細胞化細胞外マトリックス(VdECM)とメタクリレート化されたヒアルロン酸(Methacrylated hyaluronic acid、HAMA)を含むHAVEMインクから形成されたパッチは、実際に該当する組織由来の素材で柔らかく且つ柔軟な特性を有し、製作の多様性を有している。本研究で製作されたSCAIパッチは、多様な急性または慢性脳虚血性疾患患者に適用される場合、血管新生を効果的に誘導することができるため、有望な代替治療剤として使用されることができる。また、時空間的に区画化されたパッチに多様な他の種類の薬物を適用するか、追加的な薬物を搭載することができる層をさらに形成する場合、時空間的に区画化されたパッチは、用量を調節して局所的に薬物を伝達しなければならない薬物伝達プラットホームとして効果的に機能することができ、虚血性心臓疾患、糖尿病などの治療およびコロナウイルスワクチンなどのような多様な用途で使用されることができる。
【0104】
以上のように、本発明を前記の実施例を通じて説明したが、本発明が必ずしもこれにのみ限定されるものではなく、本発明の範疇と思想を逸脱しない範囲内で多様な変形実施が可能であることはもちろんである。よって、本発明の保護範囲は、本発明に添付の特許請求の範囲に属するすべての実施形態を含むものと解析されなければならない。
【国際調査報告】