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特表2025-500961方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物および方向性電気鋼板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-15
(54)【発明の名称】方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物および方向性電気鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/00 20060101AFI20250107BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20250107BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20250107BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20250107BHJP
   C22C 38/60 20060101ALN20250107BHJP
【FI】
C23C22/00 A
C21D8/12 B
C21D9/46 501B
C22C38/00 303U
C22C38/60
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537446
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-06-20
(86)【国際出願番号】 KR2022020890
(87)【国際公開番号】W WO2023121259
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0183661
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0179782
(32)【優先日】2022-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クォン,ミン ソク
【テーマコード(参考)】
4K026
4K033
【Fターム(参考)】
4K026AA03
4K026AA22
4K026BA08
4K026BB05
4K026CA16
4K026CA18
4K026DA02
4K033AA02
4K033BA01
4K033CA02
4K033CA03
4K033CA09
4K033DA02
4K033FA01
4K033FA13
4K033FA14
4K033GA00
4K033HA01
4K033HA03
4K033HA05
4K033JA04
4K033LA01
4K033MA01
4K033MA02
4K033MA03
4K033MA04
4K033NA01
4K033NA02
4K033NA03
4K033NA04
4K033PA03
4K033PA08
4K033PA09
4K033RA04
4K033RA09
4K033RA10
4K033SA02
4K033TA02
4K033TA03
4K033TA04
4K033TA06
(57)【要約】
【課題】密着性および皮膜張力に優れ、素材の鉄損を改善することができる方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物および方向性電気鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一実施例による方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物は、全固形分100重量%基準に、ボロン化合物25~80重量%、および残部に酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウムのうち1種以上を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固形分100重量%基準に、
ボロン25~80重量%、および
残部に酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウムのうち1種以上を含むことを特徴とする方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物。
【請求項2】
前記ボロン化合物は、BBr、BCl、BF、BF、BI、BN、B(NO、B(OH)、BP、BPO、B、BCl、B、BHNH、BO、B、B、BC、BO、B、B11、B10、B12、LiBH、HBO、Na、H、B、BO、BC、MgB、H[B(OH)]、H[BF(OH)]、H[BF(OH)]、H[BF(OH)]およびH[BF]のうち1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物。
【請求項3】
水酸化金属0.1~20重量%をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物。
【請求項4】
前記水酸化金属は、Ni(OH)、Co(OH)、Cu(OH)、Sr(OH)、Ba(OH)、Pd(OH)、In(OH)、Bi(OH)およびSn(OH)のうち1種以上を含むことを特徴とする請求項3に記載の方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物。
【請求項5】
セラミック粉末をさらに0.5~10重量%を含むことを特徴とする請求項1に記載の方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物。
【請求項6】
前記セラミック粉末は、MnO、Al、SiO、TiOおよびZrOのうち1種以上を含むことを特徴とする請求項5に記載の方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物。
【請求項7】
Sb(SO、SrSOおよびBaSOのうち1種以上をさらに1~10重量%を含むことを特徴とする請求項1に記載の方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物。
【請求項8】
方向性電気鋼板基材、および
前記方向性電気鋼板基材の一面または両面に位置し、ボロンおよびフォルステライトを含む皮膜を含み、
前記皮膜は、ボロン凝集物を含み、ボロン凝集物の平均粒径が1~500nmであることを特徴とする方向性電気鋼板。
【請求項9】
前記皮膜の全体面積に対して、ボロン凝集物を1~45面積%含むことを特徴とする請求項8に記載の方向性電気鋼板。
【請求項10】
前記皮膜は、Bを1~40重量%、Mgを10~70重量%、Siを3~70重量%、Oを10~90重量%、およびFeを残部として含むことを特徴とする請求項8に記載の方向性電気鋼板。
【請求項11】
前記皮膜上に位置するセラミック層をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の方向性電気鋼板。
【請求項12】
前記セラミック層は、セラミック粉末および金属リン酸塩を含むことを特徴とする請求項11に記載の方向性電気鋼板。
【請求項13】
前記セラミック粉末は、Al、SiO、TiO、ZrO、Al・TiO、Y、9Al・2B、BN、CrN、BaTiO、SiCおよびTiCから選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項12に記載の方向性電気鋼板。
【請求項14】
鋼スラブを準備するステップ;
前記鋼スラブを熱間圧延し、熱延板を製造するステップ;
前記熱延板を冷間圧延し、冷延板を製造するステップ;
前記冷延板を1次再結晶焼鈍するステップ;
前記1次再結晶焼鈍された鋼板の表面上に、焼鈍分離剤を塗布するステップ;および
前記焼鈍分離剤が塗布された鋼板を2次再結晶焼鈍するステップ;を含み、
前記焼鈍分離剤は、全固形分100重量%基準に、ボロン化合物25~80重量%および残部に酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウムのうち1種以上を含むことを特徴とする方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項15】
前記2次再結晶焼鈍するステップの後、ボロンおよびフォルステライトを含む皮膜上にセラミック層を形成するステップをさらに含むことを特徴とする請求項14に記載の方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項16】
前記セラミック層を形成するステップは、
前記皮膜上にセラミック粉末を噴射し、セラミック層を形成するステップであることを特徴とする請求項14に記載の方向性電気鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施例は、方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物および方向性電気鋼板の製造方法に関し、より具体的には、ボロン化合物を含む方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物および方向性電気鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、方向性電気鋼板とは、鋼板にSi成分を含有したもので、結晶粒の方位が{110}<001>方向に整列した集合組織を有し、圧延方向にきわめて優れた磁気的特性を有する電気鋼板をいう。
一般に知られた方向性電気鋼板の場合、フォルステライト(Forsterite、MgSiO)系ベース皮膜の上に絶縁皮膜を形成し、このような絶縁皮膜の熱膨張係数の差を利用して鋼板に引張応力を付与することで、鉄損を改善し、磁気変形に起因する騒音減少効果を図っているが、最近要求されている高級方向性電気鋼板での特性レベルを満足するには限界がある。
【0003】
従来、方向性電気鋼板製造工程において、フォルステライト皮膜特性を改善するために、MgOを主成分とする融着防止剤を塗布するステップで、MgOにTiO粉末を使用して表面特性を改善する方法が提案されている。
また、従来のフォルステライトより皮膜張力を改善するために、脱炭焼鈍板表面にカオリナイト(AlSi10(OH))を焼鈍分離剤として塗布して仕上げ焼鈍を行い、鋼板表面に、アルミナとシリカで構成される複合皮膜を形成する方法が提案されている。しかし、この方法は、カオリナイトを分解して、上部はアルミナ、下部はシリカで構成される二重構造の複合皮膜形成技術であり、2次再結晶焼鈍工程での制御が難しく、均一な品質を形成することが困難であり、下部に形成されたシリカ皮膜により密着性が劣るという問題がある。
【0004】
また、方向性電気鋼板の鉄損を改善する方法として、融着防止剤としてアルミナ粉末あるいはコロイダルシリカとMgCl混合物を塗布してフォルステライト皮膜を除去する方法が知られている。しかし、このような方法は、フォルステライト皮膜を除去することにより、電気鋼板の鉄損がむしろ悪化するという問題があり、後工程で絶縁皮膜を形成することが困難であるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物および方向性電気鋼板の製造方法を提供することにある。具体的には、密着性および皮膜張力に優れ、素材の鉄損を改善することができる方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物および方向性電気鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施例による方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物は、全固形分100重量%基準に、ボロン化合物25~80重量%、および残部に酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウムのうち1種以上を含むことを特徴とする。
【0007】
ボロン化合物はBBr、BCl、BF、BF、BI、BN、B(NO、B(OH)、BP、BPO、B、BCl、B、BHNH、BO、B、B、BC、BO、B、B11、B10、B12、LiBH、HBO、Na、H、B、BO、BC、MgB、H[B(OH)]、H[BF(OH)]、H[BF(OH)]、H[BF(OH)]およびH[BF]のうち1種以上を含むことができる。
【0008】
本発明の一実施例による方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物は、水酸化金属0.1~20重量%をさらに含むことができる。
【0009】
水酸化金属は、Ni(OH)、Co(OH)、Cu(OH)、Sr(OH)、Ba(OH)、Pd(OH)、In(OH)、Bi(OH)およびSn(OH)のうち1種以上を含むことができる。
【0010】
本発明の一実施例による方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物は、セラミック粉末を0.5~10重量%をさらに含むことができる。
【0011】
セラミック粉末は、MnO、Al、SiO、TiOおよびZrOのうち1種以上を含むことができる。
【0012】
本発明の一実施例による方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物は、Sb(SO、SrSO、およびBaSOのうち1種以上を1~10重量%をさらに含むことができる。
【0013】
本発明の一実施例による方向性電気鋼板は、方向性電気鋼板基材および方向性電気鋼板基材の一面または両面に位置し、ボロンおよびフォルステライトを含む皮膜を含む。皮膜は、ボロン凝集物を含み、ボロン凝集物の平均粒径が1~500nmであってもよい。
【0014】
皮膜の全体面積に対してボロン凝集物を1~45面積%含むことができる。
【0015】
皮膜は、Bを1~40重量%、Mgを10~70重量%、Siを3~70重量%、Oを10~90重量%およびFeを残部として含むことができる。
【0016】
本発明の一実施例による方向性電気鋼板は、皮膜上に位置するセラミック層をさらに含むことができる。
【0017】
セラミック層は、セラミック粉末および金属リン酸塩を含むことができる。
【0018】
セラミック粉末は、Al、SiO、TiO、ZrO、Al・TiO、Y、9Al・2B、BN、CrN、BaTiO、SiCおよびTiCから選択される1種以上を含むことができる。
【0019】
本発明の一実施例による方向性電気鋼板の製造方法は、鋼スラブを準備するステップ;鋼スラブを熱間圧延して、熱延板を製造するステップ;熱延板を冷間圧延して、冷延板を製造するステップ;冷延板を1次再結晶焼鈍するステップ;1次再結晶焼鈍された鋼板の表面上に、焼鈍分離剤を塗布するステップ;および焼鈍分離剤が塗布された鋼板を2次再結晶焼鈍するステップ;を含み、焼鈍分離剤は、全固形分100重量%基準に、ボロン化合物25~80重量%および残部に酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウムのうち1種以上を含むことを特徴とする。
【0020】
2次再結晶焼鈍するステップの後、ボロンおよびフォルステライトを含む皮膜上にセラミック層を形成するステップをさらに含むことができる。ボロンおよびフォルステライトを含む皮膜は、Bを1~40重量%、Mgを10~70重量%、Siを3~70重量%、Oを10~90重量%およびFeを残部として含むことができる。
【0021】
セラミック層を形成するステップは、皮膜上にセラミック粉末を噴射してセラミック層を形成するステップであってもよい。
セラミック層を形成するステップは、皮膜上にセラミック粉末および金属リン酸塩を含むセラミック層形成組成物を塗布してセラミック層を形成するステップであってもよい。
セラミック層を形成するステップで使用されるセラミック粉末は、Al、SiO、TiO、ZrO、Al・TiO、Y、9Al・2B、BN、CrN、BaTiO、SiCおよびTiCから選択される1種以上を含むことができる。
【0022】
冷延板を1次再結晶焼鈍するステップは、冷延板を同時に脱炭焼鈍および窒化焼鈍するステップ;を含むか、脱炭焼鈍の後に、窒化焼鈍するステップ;を含むことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一実施形態によれば、鉄損および磁束密度に優れ、皮膜の密着性および絶縁性に優れた方向性電気鋼板およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施例による方向性電気鋼板の概略的な側断面図である。
図2】実施例9で製造した方向性電気鋼板の皮膜の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図3】比較例2で製造した方向性電気鋼板の皮膜の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
図4】実施例3で製造した方向性電気鋼板の皮膜のB元素EPMA(Electron Probe Micro-Analyzer)分析結果である。
図5】実施例6で製造した方向性電気鋼板の皮膜のB元素EPMA(Electron Probe Micro-Analyzer)分析結果である。
図6】比較例3で製造した方向性電気鋼板の皮膜のB元素EPMA(Electron Probe Micro-Analyzer)分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
第1、第2及び第3などの用語は、様々な部分、成分、領域、層及び/又はセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で説明する第1の部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲で、第2の部分、成分、領域、層またはセクションとして言及することができる。
【0026】
ここで使用される専門用語は、単に特定の実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書で使用される単数形は、文言が明確に反対の意味を示さない限り、複数形も含む。本明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、ステップ、動作、要素及び/又は成分を具体化するものであり、他の特性、領域、整数、ステップ、動作、要素及び/又は成分の存在又は付加を排除するものではない。
【0027】
ある部分が他の部分「上」または「の上」にあると記載されている場合、それはまさに他の部分上または上にある可能性があり、またはその間に他の部分を伴う可能性がある。対照的に、ある部分が他の部分の「直上」にあると記載されている場合、その間に他の部分が介在することはない。
【0028】
また、本発明において1ppmは0.0001%を意味する。
本発明の一実施形態において、追加成分をさらに含むという意味は、追加成分の追加量だけ残部を置換して含むことを意味する。
別に定義していないが、ここで使用される技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同じ意味を持つ。通常使用される辞書で定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に合致する意味を持つものと解釈され、定義されない限り、理想的または極端な意味に解釈されない。
【0029】
以下、本発明の実施例について、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳細に説明する。しかし、本発明は様々な異なる形態で実施することができ、ここで説明する実施例に限定されない。
【0030】
本発明の一実施例による方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物は、固形分基準に、ボロン化合物25~80重量%、および残部に酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウムのうち1種以上を含む。ここで固形分基準とは、溶媒などの揮発成分を除いた固形分を100重量%に設定したものを意味する。
【0031】
以下、本発明の一実施例による焼鈍分離剤組成物を各成分別に具体的に説明する。
本発明の一実施例による焼鈍分離剤組成物は、方向性電気鋼板基材10に塗布され、ボロンおよびフォルステライトを含む皮膜20を形成することになる。
ボロンは熱膨張率が小さく(5×10-6/℃)、皮膜張力付与による鉄損改善が容易である。また、ボロンは弾性率が比較的低いため、耐熱衝撃抵抗に優れている。
【0032】
既存1次皮膜のフォルステライト(MgSiO)皮膜は、2次再結晶焼鈍時に鋼板表面に存在する内部酸化層(SiO)と焼鈍分離剤内の酸化マグネシウム(MgO)の化学反応によって形成される。従来のフォルステライト皮膜は、2次再結晶焼鈍工程中、コイル間の接触による板くっつき防止機能は優れているが、皮膜張力付与能と絶縁特性が劣るという限界が存在する。
【0033】
本発明の一実施例では、酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムに加え、ボロン化合物を添加することにより、皮膜張力付与能と絶縁特性を画期的に改善することができる。ただし、ボロン化合物だけを焼鈍分離剤として単独で使用する場合、2次再結晶焼鈍過程で熱膨張係数の差が深刻で、皮膜が剥離するという問題がある。また、ボロン成分は、焼鈍分離剤として使用する場合、比重が高く、溶媒に分散されずに沈むという問題があり、電気鋼板表面に均一に塗布することが難しい場合がある。本発明の一実施例では、ボロンを単独で使用するのではなく、酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムと混合して使用する。
【0034】
カオリナイト(AlSi10(OH))を焼鈍分離剤として含む場合、2次再結晶焼鈍工程で制御が困難で、均一な品質を形成することが困難で、カオリナイトの分解により下部に形成されるシリカ皮膜により密着性が劣るという問題がある。
本発明の一実施例で、焼鈍分離剤組成物は、ボロン化合物を固形分基準に25~80重量%含む。ボロン化合物が少なく含まれる場合、フォルステライト皮膜形成が充分でなく、密着性が劣る場合がある。また、皮膜張力付与能と絶縁特性改善が充分でない場合もある。ボロン化合物が多く含まれすぎると、焼鈍分離剤を均一に塗布することに問題が発生する可能性がある。したがって、前述した含有量範囲でボロン化合物を含むことができる。より具体的に、ボロン化合物を30~70重量%含むことができる。
【0035】
ボロン化合物は様々な形態で存在することができる。詳しくは、塩化物、酸化物、硝酸塩、硫化物などの形態であってもよく、より詳細には、BBr、BCl、BF、BF、BI、BN、B(NO、B(OH)、BP、BPO、B、BCl、B、BHNH、BO、B、B、BC、BO、B、B11、B10、B12、LiBH、HBO、Na、H、B、BO、BC、MgB、H[B(OH)]、H[BF(OH)]、H[BF(OH)]、H[BF(OH)]およびH[BF]から選択される1種以上を含むことができる。2種以上のボロン化合物を含む場合、その合計量で25~80重量%含むことになる。
【0036】
本発明の一実施例において、焼鈍分離剤組成物は、固形分質量を基準に、酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウムのうち1種以上100重量部に対して、ボロン化合物は5重量部~600重量部を含むものであってもよい。具体的に、ボロン化合物は、10重量部~500重量部を含むことができ、より具体的に、50重量部~300重量部含むことができる。酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウム対比ボロンの含有量が少なすぎると、フォルステライト皮膜形成が充分でなく、密着性が劣る場合がある。また、皮膜張力付与能と絶縁特性付与能が充分でない場合があり、多すぎると、焼鈍分離剤の機能が劣化し、高温焼鈍過程で板間くっつき現象が発生する可能性がある。
【0037】
水酸化金属は、ボロン化合物の表面と化学反応を通して表面性質を疎水性から親水性に変化させる役割を果たす。したがって、ボロン化合物の分散性を画期的に向上させ、均一なフォルステライト皮膜を形成することに役立つ。また、水酸化金属は融点が低下し、2次再結晶焼鈍工程で皮膜形成温度が低くなり、良好な品質の表面特性を確保することができる。また、低い温度領域で生成されたフォルステライト皮膜は、2次再結晶形成に決定的な影響を与えるAlN系インヒビターの分解を抑制する効果があり、優れた磁性品質を確保することができる。
【0038】
本発明の一実施例において、焼鈍分離剤組成物は、水酸化金属を0.1~20重量%をさらに含むことができる。水酸化金属が少なすぎる場合、前述した効果を十分に発揮することに問題が生じる可能性がある。水酸化金属が多すぎる場合、金属成分が内部に拡散して膜を形成するため、フォルステライト形成挙動が不均一になるという問題が発生する可能性がある。焼鈍分離剤に追加成分がさらに含まれる場合、残部である酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウムを代えて含むことができる。
この時、水酸化金属は、前述した水酸化マグネシウムを除いた水酸化金属を意味する。具体的に、水酸化金属は、Cr(OH)、Ni(OH)、Co(OH)、Cu(OH)、Sr(OH)、Ba(OH)、Pd(OH)、In(OH)、Bi(OH)およびSn(OH)から選択される1種以上を含むことができる。
酸化マグネシウム(MgO)および水酸化マグネシウム(Mg(OH))は、皮膜にMgを供給する役割を果たす。本発明の一実施例で、焼鈍分離剤組成物は、方向性電気鋼板基材の表面に容易に塗布するために、スラリー状で存在することができる。スラリーの溶媒として水を含む場合、酸化マグネシウムは水に容易に溶解し、水酸化マグネシウム形態で存在することもできる。従って、本発明の一実施例では、酸化マグネシウムと水酸化マグネシウムを一つの成分として扱う。
【0039】
本発明の一実施例による焼鈍分離剤組成物は、セラミック粉末を0.5~10重量%をさらに含むことができる。セラミック粉末は、MnO、Al、SiO、TiOおよびZrOから選択される1種以上を含むことができる。セラミック粉末を適正量さらに含む場合、形成される皮膜20の絶縁特性がより向上することができる。
【0040】
本発明の一実施例による焼鈍分離剤組成物は、Sb(SO、SrSO、BaSOまたはこれらの組み合わせを1~10重量%をさらに含むことができる。Sb(SO、SrSO、BaSOまたはこれらの組み合わせを適正量さらに含むことにより、表面光沢に優れ、粗さが非常に美しい方向性電気鋼板を製造することができる。
焼鈍分離剤組成物は、固形物の均一な分散および容易な塗布のために、溶媒をさらに含むことができる。溶媒としては、水、アルコールなどを使用することができ、固形分100重量部に対して300~1000重量部含むことができる。このように焼鈍分離剤組成物は、スラリー状であってもよい。
【0041】
本発明の一実施例による方向性電気鋼板100は、方向性電気鋼板基材10の一面または両面にボロンおよびフォルステライトを含む皮膜20が形成される。図1は、本発明の一実施例による方向性電気鋼板の概略的な側断面図を示す。図1では、方向性電気鋼板基材10の上面に皮膜20が形成された場合を示す。
ボロンおよびフォルステライトを含む皮膜20は、従来のフォルステライト皮膜対比皮膜張力付与能と絶縁特性に優れ、融点が低下して2次再結晶焼鈍工程で皮膜20形成温度が低くなり、良好な品質の表面特性を確保することができる。また、低い温度領域で生成された皮膜20は、2次再結晶形成に決定的な影響を与えるAlN系インヒビターの分解を抑制する効果があり、優れた磁性品質を確保することができる。これについては前述したので、重複する説明を省略する。
【0042】
皮膜20は、Bを1~40重量%、Mgを10~70重量%、Siを3~70重量%、Oを10~90重量%およびFeを残部として含むことができる。Mg、Si、Fe元素組成は、鋼板からの拡散および焼鈍分離剤成分に由来する。Oの場合、焼鈍分離剤成分に由来したり、熱処理過程で浸透することができる。その他、炭素(C)などの不純物成分をさらに含むこともできる。Bの場合、焼鈍分離剤成分に由来し、皮膜20はBを前記範囲に含むことにより、皮膜張力付与能と絶縁特性が向上する。
【0043】
本発明の一実施例において、皮膜内の元素含有量は、測定位置によって異なる場合があり、前述した元素範囲は、皮膜20内の平均元素含有量を意味する。より具体的に、Bを1.0~40.0重量%、Mgを15.0~50.0重量%、Siを10.0~30.0重量%、Oを20.0~50.0重量%およびFeを残部として含むことができる。
【0044】
Bは、皮膜20内で、BBr、BCl、BF、BF、BI、BN、B(NO、B(OH)、BP、BPO、B、BCl、B、BHNH、BO、B、B、BC、BO、B、B11、B10、B12、LiBH、HBO、Na、H、B、BO、BC、MgB、H[B(OH)]、H[BF(OH)]、H[BF(OH)]、H[BF(OH)]などボロン凝集物の形態で存在することができる。特にホウケイ酸塩、ホウ酸マグネシウム、ホウアルミノケイ酸塩またはこれらの複合物の形で存在することができる。皮膜20内にボロン凝集物が存在する場合、皮膜張力付与能と絶縁特性が向上する。適切な皮膜張力付与能と絶縁特性向上のために、ボロン凝集物の平均粒径は1~500nmであることができる。この時、平均粒径とは、皮膜20の表面を非破壊分釈放法であるEPMA(Electron Probe X-ray Micro Analyzer)に400μm×400μm面積以上観察し、ボロン凝集物の数平均粒径を意味する。粒径とは、ボロン凝集物の円相当直径を意味する。ボロン凝集物は、Bが皮膜20の基底レベル以上に凝集し、粒径1nm以上の形で凝集した凝集物を意味する。より具体的に、ボロン凝集物の平均粒径は、3~500nmであってもよい。より具体的に、ボロン凝集物の平均粒径は、10~200nmであることができる。また、ボロン凝集物は、皮膜20の1~45面積%を占有することができる。より具体的に、2~35面積%を占有することができる。
【0045】
皮膜20は、厚さが0.1~10μmであってもよい。皮膜20の厚さが薄すぎると、皮膜張力付与能が低下し、鉄損が劣るという問題が発生する可能性がある。皮膜20の厚さが厚すぎると、点滴率が低下し、変圧器特性が劣るという問題が発生する可能性がある。したがって、フォルステライト皮膜20の厚さを前述した範囲に調節することができる。より具体的に、フォルステライト皮膜20の厚さは0.8~6μmであることができる。皮膜20と鋼板基材10の境界は、鋼板の厚さ方向にMgを5重量%以上含む皮膜20とMgを5重量%未満含む部分に分けることができる。皮膜20上にセラミック層30がさらに形成されている場合も、Mg5重量%を基準に、Mgを5重量%以上含む皮膜20とMgを5重量%未満含むセラミック層30に区分することができる。
【0046】
本発明の一実施例による方向性電気鋼板100は、皮膜20上にセラミック層30をさらに形成することができる。図1では、皮膜20上にセラミック層30がさらに形成された一例を示す。
【0047】
セラミック層30の厚さは、0.5~5μmであることができる。セラミック層30の厚さが薄すぎると、セラミック層30の絶縁効果が小さくなるという問題が発生する可能性がある。セラミック層30の厚さが厚すぎると、セラミック層30の密着性が低くなり、剥離が起こる可能性がある。したがって、セラミック層30の厚さを前述した範囲に調節することができる。より具体的に、セラミック層30の厚さは、0.8~3.2μmであることができる。
【0048】
セラミック層30は、セラミック粉末を含むことができる。セラミック粉末は、Al、SiO、TiO、ZrO、Al・TiO、Y、9Al・2B、BN、CrN、BaTiO、SiCおよびTiCから選択される1種以上であってもよい。セラミック粉末の粒径は、2~900nmであることができる。セラミック粉末の粒径が小さすぎると、セラミック層の形成が困難になる場合がある。セラミック粉末の粒径が大きすぎると、表面粗度が粗くなり、表面欠陥が発生する可能性がある。したがって、セラミック粉末の粒径を前述した範囲に調節することができる。
セラミック粉末は、球状、板状、および針状を含む群より選択されるいずれか一つ以上の形態であってもよい。
【0049】
セラミック層30は、金属リン酸塩をさらに含むことができる。金属リン酸塩は、Mg、Ca、Ba、Sr、Zn、AlおよびMnから選択される1種以上を含むことができる。金属リン酸塩をさらに含む場合、セラミック層30の絶縁性がさらに向上する。金属リン酸塩は、金属水酸化物およびリン酸(HPO)の化学的な反応による化合物からなるものであってもよい。
金属リン酸塩は、金属水酸化物およびリン酸(HPO)の化学的な反応による化合物からなるものであり、金属水酸化物は、Ca(OH)、Al(OH)、Mg(OH)、B(OH)、Co(OH)およびCr(OH)を含む群から選択される少なくとも1種以上のものであってもよい。
【0050】
具体的に、前記金属水酸化物の金属原子は、リン酸のリンと置換反応して単結合、二重結合、または三重結合を形成してなるもので、未反応自由リン酸(HPO)の量が25重量%以下である化合物からなるものであってもよい。
金属リン酸塩は、金属水酸化物およびリン酸(HPO)の化学的な反応による化合物からなるものであり、リン酸に対する金属水酸化物の重量比率は、1:100~40:100で表されるものであってもよい。
金属水酸化物が多く含まれすぎる場合には、化学的な反応が完結せず、沈殿物が生じる問題が発生する可能性があり、金属水酸化物が少なすぎる場合には、耐食性が劣るという問題が発生する可能性があるため、前記のように範囲を限定することができる。
【0051】
本発明の一実施例で、方向性電気鋼板基材10の成分とは無関係に、焼鈍分離剤組成物および皮膜20の効果が現れる。補足的に、方向性電気鋼板基材10の成分について説明すると、以下の通りである。
方向性電気鋼板基材10は、シリコン(Si):2.8~4.5重量%、アルミニウム(Al):0.020~0.040重量%、マンガン(Mn):0.01~0.20重量%およびアンチモン(Sb)、錫(Sn)、ニッケル(Ni)またはこれらの組み合わせを0.01~0.15重量%含み、残部はFeおよびその他の不可避的不純物を含むことができる。
以下、方向性電気鋼板基材10の成分の限定理由について説明する。
【0052】
Si:2.8~4.5重量%
シリコン(Si)は、鋼の比抵抗を増加させて鉄損を減少させる役割を果たすが、Siの含有量が少なすぎる場合には、鋼の比抵抗が小さくなり、鉄損特性が劣化し、高温焼鈍時に相変態区間が存在し、2次再結晶が不安定になる問題が発生する可能性がある。Siの含有量が多すぎる場合には、脆性が大きくなり、冷間圧延が困難になる問題が発生する可能性がある。したがって、前述の範囲にSiの含有量を調節することができる。より具体的に、Siは3.0~4.0重量%含むことができる。
【0053】
Al:0.020~0.040重量%
アルミニウム(Al)は、最終的にAlN、(Al、Si)N、(Al、Si、Mn)N形の窒化物となり、抑制剤として作用する成分である。Alの含有量が少なすぎる場合には、抑制剤として十分な効果を期待できない。また、Alの含有量が多すぎる場合には、Al系の窒化物が粗大に析出、成長するため、抑制剤としての効果が不足する可能性がある。したがって、前述の範囲にAlの含有量を調節することができる。
【0054】
Mn:0.01~0.20重量%
マンガン(Mn)は、Siと同じように比抵抗を増加させて鉄損を減少させる効果があり、Siと一緒に窒化処理によって導入される窒素と反応して(Al、Si、Mn)Nの析出物を形成することで、1次再結晶粒の成長を抑制して2次再結晶を起こすのに重要な元素である。しかし、Mnの含有量が多すぎる場合、熱延途中にオーステナイト相変態を促進するため、1次再結晶粒の大きさを減少させ、2次再結晶を不安定にする。また、Mnの含有量が少なすぎる場合、オーステナイト形成元素として熱延再加熱時にオーステナイト分率を高め、析出物の高容量を多くし、再析出時に析出物の微細化とMnS形成による1次再結晶粒が過大にならないようにする効果が不十分な場合がある。したがって、前述の範囲にMnの含有量を調節することができる。
【0055】
Sb、Sn、Niまたはこれらの組み合わせ:0.01~0.15重量%
アンチモン(Sb)、錫(Sn)ニッケル(Ni)は、結晶粒系偏析元素として結晶粒系の移動を妨げる元素であるため、結晶粒成長抑制剤として{110}<001>方位のゴス結晶粒の生成を促進し、2次再結晶がよく発達するようにするため、結晶粒大きさの制御に重要な元素である。もし、Sb、SnまたはNiを単独または複合添加した含有量が少なすぎると、その効果が低下する問題が発生する可能性がある。Sb、SnまたはNiを単独または複合添加した含有量が多すぎると、結晶粒系偏析が激しくなり、鋼板の脆性が大きくなり、圧延時に板破断が発生する可能性がある。より具体的に、Sbを0.01~0.05重量%、Snを0.01~0.12重量%、Niを0.01~0.06重量%含むことができる。
【0056】
C:0.01重量%以下
Cは、本発明による実施例において、方向性電気鋼板の磁気的特性向上に大きく役に立たない成分であるため、できれば除去することが好ましい。しかし、一定レベル以上含まれている場合、圧延過程では鋼のオーステナイト変態を促進して熱間圧延時に熱間圧延組織を微細化し、均一な微細組織が形成されることを助ける効果があるので、スラブにおけるC含有量は、0.03重量%以上含まれることが望ましい。しかし、C含有量が過剰になると、粗大な炭化物が生成され、脱炭時に除去が困難になるため、0.08重量%以下であることが好ましい。方向性電気鋼板の製造過程で脱炭焼鈍過程を通じて炭素が脱炭され、最終製造される方向性電気鋼板内にはCが0.01重量%以下に含まれるようになる。
【0057】
N:0.005~0.05重量%
Nは、Alなどと反応して結晶粒を微細化させる元素である。これらの元素が適切に分布する場合には、前述のように冷間圧延後の組織を適切に微細化し、適切な1次再結晶粒度を確保するのに役立つ。しかし、その含有量が過剰になると、1次再結晶粒が過度に微細化され、その結果、微細な結晶粒により2次再結晶時に結晶粒成長をもたらす駆動力が大きくなり、望ましくない方位の結晶粒まで成長する可能性がある。また、N含有量が過剰であれば、最終焼鈍過程で除去するのに多くの時間がかかるので望ましくない。したがって、スラブ内の前記窒素含有量の上限は0.005重量%とし、スラブ再加熱時に雇用される窒素の含有量が0.001重量%以上でなければならないので、スラブ内の窒素含有量の下限は、0.001重量%とすることが望ましい。方向性電気鋼板の製造過程で浸漬焼鈍過程を通じて窒素が一部浸透し、最終に製造される方向性電気鋼板内にはNが0.005~0.05重量%含まれることになる。
【0058】
本発明の一実施例による方向性電気鋼板の製造方法は、鋼スラブを準備するステップ(S10);鋼スラブを熱間圧延し、熱延板を製造するステップ(S20);熱延板を冷間圧延し、冷延板を製造するステップ(S30);冷延板を1次再結晶焼鈍するステップ(S40);1次再結晶焼鈍された鋼板の表面上に、焼鈍分離剤を塗布するステップ(S50);および焼鈍分離剤が塗布された鋼板を2次再結晶焼鈍するステップ(S60)を含む。その他、方向性電気鋼板の製造方法は、他のステップをさらに含むことができる。
【0059】
まず、ステップ(S10)では、鋼スラブを準備する。鋼スラブの成分については、前述した方向性電気鋼板の成分について具体的に説明したので、繰り返しの説明は省略する。次に、鋼スラブを加熱することができる。この時、スラブ加熱は1,200℃以下で低温スラブ法で加熱することができる。
次に、ステップ(S20)では、加熱された鋼スラブを熱間圧延して、熱延板を製造する。ステップ(S20O)の後、製造された熱延板を熱延焼鈍することができる。
次に、ステップ(S30)では、熱延板を冷間圧延し、冷延板を製造する。ステップ(S30)は冷間圧延を1回行うことも、中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延を行うこともできる。
【0060】
次に、ステップ(S40)では、冷延板を1次再結晶焼鈍する。この時、冷延板を1次再結晶焼鈍するステップは、冷延板を同時に脱炭焼鈍および窒化焼鈍するステップを含むか、脱炭焼鈍後に、窒化焼鈍するステップを含むことができる。
次に、ステップ(S50)では、1次再結晶焼鈍された鋼板の表面上に、焼鈍分離剤を塗布する。焼鈍分離剤については具体的に前述したので、繰り返しの説明は省略する。焼鈍分離剤の塗布量は、1~20g/mとすることができる。焼鈍分離剤の塗布量が少なすぎると、皮膜形成が円滑に行われない場合がある。焼鈍分離剤塗布量が多すぎると、2次再結晶に影響を与える可能性がある。したがって、焼鈍分離剤の塗布量を前述の範囲に調節することができる。
次に、ステップ(S60)では、焼鈍分離剤が塗布された鋼板を2次再結晶焼鈍する。2次再結晶焼鈍する過程で、ボロンおよびフォルステライトを含む皮膜20を形成する。
【0061】
2次再結晶焼鈍時、1次亀裂温度は650~750℃、2次亀裂温度は1100~1250℃とすることができる。昇温区間の温度区間では、15℃/hr条件で制御することができる。また、気体雰囲気は、1次亀裂ステップまでは220~30体積%の窒素および70~80体積%の水素を含む雰囲気で行い、2次亀裂ステップには100%水素雰囲気で15時間維持した後、炉冷却(furnace cooling)することができる。前述した条件により、皮膜20が円滑に形成することができる。
【0062】
ステップ(S60)の後に、セラミック層30を形成するステップをさらに含むことができる。セラミック層30についても具体的に前述したので、繰り返しの説明は省略する。セラミック層30を形成する方法として、皮膜20上にセラミック粉末を噴射してセラミック層を形成することができる。具体的に、プラズマスプレーコーティング(Plasma spray)、高速火炎スプレーコーティング(High velocity oxy fuel)、エアゾールディポジション(Aerosol deposition)、低温スプレーコーティング(Cold spray)の方法を適用することができる。より具体的に、Ar、H、N、またはHeを含むガスを20~300kWの出力でプラズマ化した熱源にセラミック粉末を供給してセラミック層を形成するプラズマスプレーコーティング方法を使用することができる。また、プラズマスプレーコーティング方法として、Ar、H、N、またはHeを含むガスを20~300kWの出力でプラズマ化した熱源にセラミック粉末および溶媒の混合物サスペンションの形で供給してセラミック層30を形成することができる。この時、溶媒は、水またはアルコールとすることができる。
【0063】
また、セラミック層30を形成する方法として、セラミック粉末および金属リン酸塩を含むセラミック層形成組成物を塗布してセラミック層を形成する方法を使用することができる。セラミック層30形成後、必要に応じて磁区微細化を行うことができる。
【0064】
以下、実施例を通して本発明をより詳細に説明する。しかし、このような実施例は、単に本発明を例示するためのものであり、本発明がここに限定されるものではない。
【0065】
実験例1:焼鈍分離剤成分およびセラミック層成分別の特性
実施例1
シリコン(Si)を3.4重量%、アルミニウム(Al):0.03重量%、マンガン(Mn):0.05重量%アンチモン(Sb)を0.04重量%、錫(Sn)を0.09重量%、およびニッケル(Ni)を0.02重量%、炭素(C)を0.06重量%、窒素(N)を40重量ppm含み、残部はFeおよびそのの不可避的不純物からなるスラブを準備した。
スラブを1150℃で220分間加熱した後、2.3mmの厚さに熱間圧延し、熱延板を製造した。
【0066】
熱延板を1120℃まで加熱した後、920℃で95秒間維持した後、水で急冷して酸洗した後、0.23mm厚さに冷間圧延して、冷延板を製造した。
冷延板を850℃に維持された炉(Furnace)の中に投入した後、74体積%の水素と25体積%の窒素および1体積%の乾燥したアンモニアガス混合雰囲気に180秒間維持し、脱炭浸漬をおよび1次再結晶焼鈍を同時に行い、1次再結晶焼鈍された鋼板を製造した。
焼鈍分離剤組成物として、ボロン化合物(BN)30重量%、水酸化コバルト(Co(OH)重量%、酸化チタン5重量%、Sb(SO5重量%および残部酸化マグネシウム(MgO)を蒸溜水と混合してスラリー状に製造し、ロールを利用してスラリーを1次再結晶焼鈍された鋼板に塗布した後、2次再結晶焼鈍した。
【0067】
2次再結晶焼鈍時の1次亀裂温度は700℃、2次亀裂温度は1200℃とし、昇温区間の温度区間では15℃/hrとした。また、1200℃までは窒素50体積%および水素50体積%の混合気体雰囲気とし、1200℃に達した後には100体積%の水素気体雰囲気で20時間維持した後、炉冷(furnace cooling)した。
その後、アルゴン(Ar)ガスを250kWの出力でプラズマ化した熱源にセラミック粉末として、TiOを供給し、最終焼鈍板表面に0.9μmの厚さのセラミック層を形成した。
【0068】
実施例2~実施例8
実施例1と同様に実施するが、焼鈍分離剤内のボロン化合物および金属水酸化物成分を下記表1のように交替して皮膜を形成した。また、形成されたホウ素を含むフォルステライト皮膜表面に下記表1にまとめたセラミック層成分の粉末を供給してセラミック層を形成した。
【0069】
実施例9
実施例1と同様に実施するが、ボロン化合物および金属水酸化物成分を表1のように交替して皮膜を形成し、セラミック層を形成しなかった。
【0070】
実施例10
実施例1と同様に実施するが、ボロン化合物25重量%、酸化マグネシウム65重量%、酸化チタン5重量%およびSb(SO5重量%を含む焼鈍分離剤組成物を使用して皮膜を形成し、セラミック層を形成しなかった。
【0071】
比較例1
実施例1と同様に実施するが、酸化マグネシウム90重量%、酸化チタン5重量%およびSb(SO5重量%を含む焼鈍分離剤組成物を使用した。
【0072】
比較例2
実施例1と同様に実施するが、ボロン化合物100重量%を含む焼鈍分離剤組成物を使用した。
【0073】
比較例3
実施例1と同様に実施するが、ボロン化合物90重量%、酸化チタン5重量%およびSb(SO5重量%を含む焼鈍分離剤組成物を使用した。
【0074】
比較例4
実施例1と同様に実施するが、ボロン化合物15重量%、酸化チタン5重量%およびSb(SO5重量%酸化マグネシウム75重量%を含む焼鈍分離剤組成物を使用した。
【0075】
比較例5
実施例1と同様に実施するが、ボロン化合物15重量%、酸化チタン5重量%、水酸化アルミニウム10重量%および酸化マグネシウム70重量%を含む焼鈍分離剤組成物を使用した。
実施例および比較例で製造した方向性電気鋼板のフォルステライト皮膜内の元素含有量は、非破壊分釈放法のEPMA(Electron Probe X-ray Micro Analyzer)で分析した。
実施例および比較例で製造した方向性電気鋼板のフォルステライト皮膜内のボロン凝集物は、セラミック層が形成された場合、セラミック層を除去し、フォルステライト皮膜の表面EPMA(Electron Probe X-ray Micro Analyzer)で400μm×400μm面積で観察して分析した。
実施例および比較例で製造した方向性電気鋼板を1.7T、50Hzの条件で、磁気特性を評価した。
【0076】
W17/50は、周波数50Hzの磁場を1.7Teslaまで交流で磁石化させた時に現れる電力損失(W/kg)を意味する。ここで、Teslaは、単位面積当たり磁束(flux)を意味する磁束密度の単位である。B8は、電気鋼板周囲を巻いた巻線に800A/m大きさの電流量を流した時、電気鋼板に流れる磁束密度値(Tesla)を示す。
また、絶縁特性は、ASTMA717国際規格に基づき、Franklin測定器を活用してコーティング上部を測定した。
また、密着性は、試片を10~100mmの円弧に接して180°曲げる時に皮膜剥離がない最小円弧直径で表したものである。
また、表面特徴は、均一な皮膜を形成し、色が均一な程度を肉眼で評価した結果である。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
表1乃至表3に示すように、比較例1~比較例5より実施例1~10の特性が優れていることが確認できる。具体的に、ボロン化合物を単独で使用した場合、およびボロン化合物を多量に含む比較例2および比較例3では、皮膜剥離が深刻に発生し、磁気的特性が劣ることが確認できる。また、ボロン化合物を含まない、または、過小含む比較例1、4および5は、表面に亀裂が発生し、絶縁および磁性特性も実施例に比べて劣ることを確認できる。
実施例の中でも、セラミック層を追加的に含む場合、絶縁特性がさらに向上することが確認できる。
実施例のうち、水酸化金属を含まない場合、鉄損特性が比較的に劣ることが確認でき、これは水酸化金属のALN系分解抑制による効果であることが確認できる。
【0081】
図2は、実施例9で製造した方向性電気鋼板の皮膜の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。これにより、欠陥のない均一な皮膜が形成されていることが確認できる。
図3は、比較例2で製造した方向性電気鋼板の皮膜の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。これにより、亀裂が複数形成されていることが確認でき、これにより表面剥離が深くなっていることが確認できる。
図4は、実施例3で製造した方向性電気鋼板の皮膜のB元素EPMA(Electron Probe Micro-Analyzer)分析結果である。
図5は、実施例6で製造した方向性電気鋼板の皮膜のB元素EPMA(Electron Probe Micro-Analyzer)分析結果である。
図6は、比較例3で製造した方向性電気鋼板の皮膜のB元素EPMA(Electron Probe Micro-Analyzer)分析結果である。
図4図6から確認できるように、実施例で製造した方向性電気鋼板の皮膜内ボロン凝集物が適切に形成されていることが確認できる。
【0082】
実験例2:1000kVA変圧機の磁気特性、点滴率および騒音特性評価
実施例11
シリコン(Si)を3.3重量%、アルミニウム(Al):0.03重量%、アンチモン(Sb)を0.03重量%、錫(Sn)を0.05重量%、およびニッケル(Ni)を0.02重量%、炭素(C)を0.05重量%、窒素(N)を30重量ppm含み、残部はFeおよびそのの不可避的不純物からなるスラブを準備した。
スラブを1150℃で220分間加熱した後、2.3mmの厚さに熱間圧延し、熱延板を製造した。
【0083】
熱延板を1120℃まで加熱した後、920℃で95秒間維持した後、水に急冷して酸洗した後、0.23mmの厚さに冷間圧延して、冷延板を製造した。
冷延板を850℃に維持された炉(Furnace)の中に投入した後、74体積%の水素と25体積%の窒素および1体積%の乾燥アンモニアガス混合雰囲気に180秒間維持し、脱炭浸および1次再結晶焼鈍を同時に行い、1次再結晶焼鈍された鋼板を製造した。
焼鈍分離剤組成物として、ボロン化合物(MgB)38重量%、水酸化ニッケル3.8重量%、酸化チタン5重量%、Sb(SO5重量%および残部酸化マグネシウム(MgO)を蒸溜水と混合してスラリー状に製造し、ロールを利用してスラリーを1次再結晶焼鈍された鋼板に塗布した後、2次再結晶焼鈍を行った。
2次再結晶焼鈍時の1次亀裂温度は700℃、2次亀裂温度は1200℃とし、昇温区間の温度区間では15℃/hrとした。また、1200℃までは窒素50体積%および水素50体積%の混合気体雰囲気とし、1200℃に達した後は100体積%の水素気体雰囲気で20時間維持した後、炉冷(furnace cooling)した。
【0084】
その後、コロイダルシリカ45重量%、第1リン酸アルミニウム45重量%、酸化クロム5重量%、水酸化ニッケル5重量%混合されたセラミック層形成組成物を攪拌し、最終焼鈍板表面に4.5g/mとなるように塗布した後、860℃に設定した乾燥炉で120秒間処理した後、レーザ磁区細分化処理を行い、1000kVA変圧機を製作して設計磁束密度に応じて60Hz条件で評価した結果を下記表4に示す。
【0085】
比較例6
実施例11と同様に実施するが、酸化マグネシウム90重量%、酸化チタン5重量%およびSb(SO5重量%含む焼鈍分離剤組成物を使用した。
点滴率は、JIS C2550国際規格により測定器を活用して測定した。電気鋼板試片を複数に積層した後、表面に1MPaの均一な圧力を加えた後、試片の4面の高さを精密測定し、電気鋼板の積層による実重量比率を理論重量に割って測定した。
騒音評価方法は、国際規定IEC61672-1と同様に評価するが、負圧の代わりに電気鋼板の振動データを取得し、騒音換算値[dBA]で評価する。電気鋼板の振動は、周波数60Hzの磁場を1.7Teslaまで交流で磁化した時、レーザドップラー方式を活用し、非接触式で時間による振動パターンを測定する。
【0086】
【表4】
【0087】
表4に示すように、比較例6より実施例11の特性が非常に優れていることが確認できる。
【0088】
本発明は、実施例に限定されるものではなく、異なる様々な形態で製造することができ、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者は、本発明の技術思想や本質的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施することができることを理解できるであろう。したがって、前記で説明した実施例は、すべての点で例示的なものであり、限定的ではないと理解されるべきである。
【符号の説明】
【0089】
10 方向性電気鋼板基材
20 皮膜
30 セラミック層
100 方向性電気鋼板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2024-06-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
全固形分100重量%基準に、
ボロン化合物25~80重量%、および
残部に酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウムのうち1種以上を含むことを特徴とする方向性電気鋼板用焼鈍分離剤組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項16
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項16】
前記セラミック層を形成するステップは、
前記皮膜上にセラミック粉末を噴射し、セラミック層を形成するステップであることを特徴とする請求項15に記載の方向性電気鋼板の製造方法。
【国際調査報告】