(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-15
(54)【発明の名称】試料の局所的な化学量論的組成を推定するための位相コントラスト画像化法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/041 20180101AFI20250107BHJP
G01N 23/087 20180101ALI20250107BHJP
【FI】
G01N23/041
G01N23/087
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024537960
(86)(22)【出願日】2022-12-02
(85)【翻訳文提出日】2024-06-20
(86)【国際出願番号】 EP2022084261
(87)【国際公開番号】W WO2023117376
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513072237
【氏名又は名称】エコール ポリテクニーク
(71)【出願人】
【識別番号】524234134
【氏名又は名称】エコール ナシオナル シュペリウール デ テクニークス アヴァンセ
【氏名又は名称原語表記】ECOLE NATIONALE SUPERIEURE DES TECHNIQUES AVANCEES
(71)【出願人】
【識別番号】509025832
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】ザイトゥン,フィリップ
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001AA10
2G001BA11
2G001BA14
2G001CA01
2G001DA09
2G001EA03
2G001EA06
2G001EA09
2G001HA07
2G001KA01
2G001KA12
2G001LA01
2G001SA01
(57)【要約】
本発明は、試料の複素光学指数の実数部のパラメータδ及び虚数部βを測定することにより該試料の局所的な化学量論的組成を推定するための位相コントラスト画像化法に関し;前記方法は、線源と検出器との間に配置された試料を照射するためのX線源、試料と検出器との間に配置された孔部で形成されたグリッド、及び検出器からの信号を処理するための信号処理ユニットを使用して実現され;該方法は、以下すなわち: - 試料を照射しながら少なくとも1回の計測を実施するステップであって、X線が検出器に到達してグリッドの各孔部についてスポットを形成するステップと、 - 各々の計測について、かつグリッドの各孔部について、重心検索法を使用してスポットの重心を決定することにより、グリッドについて形成されたスポットを独立に分析するステップと、 - 基準重心に対する重心のオフセットを測定し、次いで重心のオフセットに基づいて局所的な位相変化を測定するステップと; - スポットを形成しているX線の振幅を測定し、次いで基準振幅と比較した局所的な減衰を測定するステップと、 - 局所的な位相変化に基づいてパラメータδを測定するステップと、 - 局所的な減衰に基づいて虚数部βを測定するステップと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の複素光学指数の実数部のパラメータδ及び虚数部βを測定することにより該試料の局所的な化学量論的組成を推定するための位相コントラスト画像化法であって;該方法は、線源と検出器との間に配置された試料を照射するためのX線源、試料と検出器との間に配置された孔部から成るグリッド、及び検出器からの信号を処理するためのユニットを使用して実現され;
該方法は、以下すなわち
- 試料を照射することにより少なくとも1回の計測を実行するステップであって、X線が検出器に到達してグリッドの各孔部についてのスポットを形成するステップと、
- 各々の計測について、かつグリッドの各々の孔部について、重心検索法を使用してスポットの重心を決定することにより、グリッドについて形成されたスポットを独立に分析するステップと、
- 基準重心からの重心のオフセットを測定し、次いで重心のオフセットから局所的な位相変化を測定するステップと、
- スポットを形成しているX線の振幅を測定し、次いで基準振幅と比較した局所的な減衰を測定するステップと、
- 局所的な位相変化からパラメータδを測定するステップと、
- 局所的な減衰から虚数部βを測定するステップと
を含む方法。
【請求項2】
基準重心は、試料を用いないか又は基準試料の存在下でグリッドを通して検出器を照射することにより計測の際に得られることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
基準振幅は、試料を用いないか又は基準試料の存在下でグリッドを通して検出器を照射することにより計測の際に得られることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
グリッドは規則的又は不規則な間隔で配置された孔部から成ることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
グリッドの孔部のピッチは検出器の画素の大きさ以上であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
グリッドの孔部の大きさは検出器の画素の幅以上であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
グリッドの寸法、並びに線源、グリッド及び検出器の間の距離は、各孔部についてのスポットが検出器の数個の画素をカバーするように決定されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
パラメータδは次の方程式:
Δφ=∫δ×ldl
(式中のΔφは局所的な位相変化であり、「l」はX線が進んだ距離である)
を使用して測定されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
虚数部βは次の方程式:
I/I
0=exp(-∫(4πβ/λ)dl)
(式中のI/I
0は減衰、λはX線の波長、及び「l」はX線が進んだ距離である)
を使用して測定されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
X線源は多重エネルギー線源であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
多重エネルギー線源はいくつかのKアルファ型フィルタを伴ったアノードを具備することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
多重エネルギー線源はX線放出源と該X線放出源の外側の複数のフィルタとを具備することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
いくつかの異なるエネルギー準位を得るために、検出器は光子計数検出器であることを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
純粋でない試料については様々なエネルギー準位で複数回の計測が実行されることを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
2i回の計測が様々なエネルギーで実行される(「i」は試料に含まれる化学元素の総数である)ことを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
試料を構成する材料が既知である場合、i/2回の計測が様々なエネルギーで実行される(「i」は試料に含まれる化学元素の総数である)ことを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の方法を実現するためのX線透視撮影システム。
【請求項18】
請求項1~16のいずれか1項に記載の方法を実現するためのX線断層撮影システム。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、試料の複素光学指数の実数部のパラメータδ及び虚数部βを測定することにより試料の局所的な化学量論的組成を推定するための位相コントラスト画像化法に関する。同法の特に興味深い応用は、がん治療の分野におけるナノ粒子を定量するための応用である。しかしながら本発明の範囲は、医療分野一般、農業食品、文化遺産、エネルギー、材料科学などに本発明を適用可能であることから、より広範である。
【0002】
概して言えば、このX線技法は、化学組成を計測することなく、総密度を定性的に計測するために使用することができる。第1の改良は、2つのエネルギーで2つの吸収画像を生成することにあり、例えばそのようにして人骨の密度を計測することであった。これは「二重光子X線吸収測定」技法である。この技法は吸収のみに基づいており、従って非常に間接的に試料の光学指数の虚数部の推定に基づいていることがわかる。
【0003】
いくつかの特定の場合には、特定の元素の存在を定量するために、原子閾値未満で、次いで原子閾値よりも上で、試料を画像化することが可能である。しかし、この技法には2つの重要な限界がある。第1に、同技法は試料中の他の元素を示さない。第2に、対象とする元素の原子番号が小さい場合、原子閾値は低エネルギーに位置し、これにより動物又はヒトの身体のようなやや厚みのある物体を画像化することは不可能となる。例えば、鉄については、閾値は7.1keV未満である。
【0004】
米国特許第6950493号(B2)明細書には、多重スペクトルX線画像化システムが記載されている。線源のスペクトルは、得られる画像のコントラストを改善するために変更される。
【0005】
Juergen Fornaroら, Dual- and multi-energy CT: approach to functional imaging', European Society of Radiology, (オーストリア), 2011には、数種の材料について特徴付けを行うための多重エネルギー線源システムが記載されている。
【0006】
Peter R.T. Munroら, A simplified approach to quantitative coded aperture X-ray phase imaging', Optical Society of America, (米), 2013には、位相コントラスト画像化システムにおいてコーディングを定義して試料の組成を定量化するための2つのグリッドの使用について記載されている。
【0007】
Fabio A. Vittoriaら, 'Multimodal Phase-Based X-Ray Microtomography with Nonmicrofocal Laboratory Sources', PHYSICAL REVIEW APPLIED, (米), 2017, Vol.8, 064009には、X線源と試料との間に配置されたグリッドを使用する位相コントラスト画像化システムが記載されている。この配置構成は、システムの効率にとって有害な多くの近似を含んでいる。該システムはさらに、指標パラメータを決定することが可能となるまでに数回の撮像を必要とする。
【0008】
Harold H. Wen, 'Single-shot x-ray differential phase-contrast and diffraction imaging using two-dimensional transmission gratings', OPTICS LETTERS, (米), June 15, 2010, Vol.35, No.12には、グリッドを使用する位相コントラスト画像化システムが記載されている。試料を定量化するために得られた画像全体にフーリエ変換が適用される。
【0009】
本発明の目的は、試料の化学組成を測定することにより該試料を定量化するための方法である。
本発明の別の目的は、X線を使用して上記化学組成を迅速に測定するための新規で堅牢な方法である。
【0010】
前述の目的のうち少なくとも1つは、試料の複素光学指数の実数部のパラメータδ及び虚数部βを測定することにより該試料の局所的な化学量論的組成を推定するための位相コントラスト画像化法で達成され;この方法は、X線源と検出器との間に配置された試料を照射するためのX線源、試料と検出器との間に配置された孔部から成るグリッド、及び検出器からの信号を処理するためのユニットを使用して実現され;
【0011】
該方法は、以下すなわち
- 試料を照射することにより少なくとも1回の計測を実行するステップであって、X線が検出器に到達してグリッドの各孔部についてのスポットを形成するステップと、
- 各々の計測について、かつグリッドの各々の孔部について、重心検索法を使用してスポットの重心を決定することにより、グリッドについて形成されたスポットを独立に分析するステップと、
- 基準重心からの重心のオフセットを測定し、次いで重心のオフセットから局所的な位相変化を測定するステップと、
- スポットを形成しているX線の振幅を測定し、次いで基準振幅と比較した局所的な減衰を測定するステップと、
- 局所的な位相変化からパラメータδを測定するステップと、
- 局所的な減衰から虚数部βを測定するステップと
を含む。
【0012】
検出器は、有利にはマトリックス検出器又はCCDカメラである。
グリッドは、有利には孔部を区切る角棒のみで構成されることが可能である。これは、孔部が位相変調素子を含まないことを意味する。
【0013】
振幅の計測に関しては、スポット内の全ての画素に由来する信号が、該スポットについて単一の等価な信号を定義するために独立に積分される。この単一の信号の振幅が測定される。1つのスポットについての積分は別のスポットについての積分とは独立である。
【0014】
本発明による方法は、同一のスポットについての2つの異なる独立した計測値、偏差及び反映された流入の量を得ることを可能にする直接的計測を提供することによる、X線画像化法の改良である。
【0015】
概して言えば、X線の分野において、試料の光学指数nは、該試料の性質がどうであれ、下式:
n=1-δ+iβ
(上記式中、
δ=nareλ2(f1/2π)
β=nareλ2(f2/2π)
である)
で表わされ、
上記式中、na、re及びλはそれぞれ原子密度、古典電子半径及び波長である。f1及びf2は、試料の化学組成に特有な原子散乱因子である。
【0016】
本発明は、δ及びβを独立に計測することを可能にする。スポットは互いに独立に処理される。この独立性により、特に拡散係数fi;1とfi;2とを識別することが可能となる。
【0017】
本発明による方法を用いると、試料の切断又は試料片採取の必要が回避されることにより、試料の非侵襲的研究に新たな局面(化学組成)が加わる。試料とは、あらゆる不活性物質又は生体物質を意味する。
【0018】
本発明による方法は、試料の化学組成の総合的又は局所的な計測を可能にする。この技法は、例えば、がん治療の際の放射線療法、フェルミオン療法及びハドロン療法の効果を高めるために使用されるナノ粒子の局所密度を定量するために使用することができる。同技法はさらに、例えば食品加工、材料科学、生態学又は医学全般において汚染物質を定量するために使用することができる。
【0019】
本発明の1つの有利な特徴によれば、基準重心は、試料を用いないか又は基準試料の存在下でグリッドを通して検出器を照射することにより、計測の際に得ることができる。
基準振幅は、試料を用いないか又は基準試料の存在下でグリッドを通して検出器を照射することにより、計測の際に得ることができる。
【0020】
基準試料は、各々の孔部/画素の対についてグリッド‐検出器間距離を高精度で求めるための、入射波に既知の変調を生じさせる物体であってよい。球面波を生じる回折孔、回転するプリズム、又は任意の他の既知物体を使用することができる。
【0021】
孔部の大きさが許すならば、可視光又はUV光を単に回折させることも可能である。波長(スペクトル線、レーザー)がある程度の精度で分かっていれば、距離も同じ精度で分かる。孔部の形状が正方形、円形又はその他の何であれ、回折構造は理論的又は数値的に分かる。グリッド‐検出器間距離を理論的又は数値的に変化させれば、理論的又は数値的な結果を実験に適合させてひいてはこの距離を計測するのに十分である。これは、例えば既知の波長を備えた単色線源については極めて正確である。
【0022】
本発明の1つの有利な特徴によれば、グリッドは規則的又は不規則な間隔で配置された孔部から成ることができる。
規則的なグリッドを必須とする先行技術のシステムとは異なり、本発明は、計測に影響を与えることなく、不規則な間隔で配置された孔部に対応可能である。
本発明の1つの有利な実施形態によれば、グリッドの孔部のピッチは検出器の画素の幅以上であってよい。
【0023】
グリッドの孔部の大きさは、検出器の1つの画素の大きさ以上であってよい。大きさとは、孔部又は画素が占める表面積を意味する。
本発明に従って孔部の大きさを決めることにより、検出器の大きさに対するストレスを緩和することができる。よって、安価な検出器を使用することができる。
例えば、上記全てと組み合わせて、グリッドの寸法並びに線源、グリッド及び検出器の間の距離を、各孔部についてのスポットが検出器の数個の画素に広がるように決定することができる。
【0024】
本発明の1つの実施形態によれば、パラメータδは、次の方程式:
Δφ=∫δ×ldl
(式中のΔφは局所的な位相変化であり、「l」はX線が進んだ距離である)
を使用して測定することが可能である。
虚数部βは、次の方程式:
I/I0=exp(-∫(4πβ/λ)dl)
(式中のI/I0は減衰、λはX線の波長、及び「l」はX線が進んだ距離である)
を使用して測定することが可能である。
【0025】
この2つの方程式から、試料中のX線の伝搬について積分されたΔφ及びI/I0が得られる。例えば、X線断層撮影では、局所的な位相変化及び局所的な吸収を求めることができる。この場合、方程式は
dφ=δ×dl
d(I/I0)=exp(-(4πβ/λ)dl)
に変形される。
【0026】
これは、X線たわみ測定装置又はX線干渉計を使用するX線断層撮影法において、化学組成の三次元地図を作成することが可能であることを示す。
本発明の1つの有利な特徴によれば、X線源は多重エネルギー線源であってよい。
いくつかのエネルギー線源を使用することで、高エネルギーに到達することが可能となる。
【0027】
本発明によって、高エネルギーでは数種の化学元素間のデルタ値の差はこれらの化学元素を明白に識別することが十分可能なほどに大きいことが判明した。高エネルギーでは、判別は主としてベータ値ではなくデルタ値に基づく。化学組成を求めることを可能にするのはこの挙動変化である。
【0028】
有利には、本発明によるグリッド及び多重エネルギー線源を組み合わせて使用することにより、特に、局所の光学指数の実数成分及び虚数成分を求めて試料の局所的な化学量論的組成を推定することが可能となる。
多重エネルギー線源によって広範囲のエネルギーにわたって計測値を得ることができる。
【0029】
本発明、
レンズピッチ:グリッドは無彩色であり、設定変更を伴わずに多重エネルギー計測が可能:高度に有彩色の装置であるため常に単一エネルギーで使用されるX線干渉計又はたわみ測定装置を用いてδ及びβを計測するためのシステムとは異なり、いくつかのエネルギーが設定全体をやり直すことなく計測される。したがって、エネルギーが変更されるごとに設定を修正することが必要である。
【0030】
本発明の1つの実施形態によれば、多重エネルギー線源は、いくつかのKアルファ型フィルタを伴ったアノードを具備することができる。
スペクトルを制限するために、対象とするエネルギー、スペクトルフィルタとして作用する試料、及び利用可能なフィルタに応じて、フィルタを混在させて使用することができる。典型的には1~4個のフィルタを使用することができるが、これに限定はされない。
2つの事例すなわち単一のアノード又はいくつかのアノードを、企図することができる。
【0031】
アノードの変更により放出スペクトルが、主としてK線(アルファ及びベータ)、L線、M線及び稀にN線の放出によって、のみならず連続的なブレーキ放射すなわち「制動放射」によって、修正される。したがって、アノードが何であれ、1以上の外部フィルタの使用によりスペクトル幅を縮小することが好ましい。
【0032】
本発明の別の実施形態によれば、多重エネルギー線源は、X線放出源と、該X線放出源の外側のいくつかのフィルタとを具備することができる。
本発明の別の実施形態によれば、いくつかの異なるエネルギー準位を得るために、検出器は光子計数検出器である。
【0033】
光子計数検出器は、入射放射線のスペクトルフィルタリングを可能とする電子機器を有する。この場合、外部フィルタの設置はもはや必要ない。K線、L線、M線又はN線の放出を利用するための複数アノードの使用がなおも有利な場合もある。
本発明の1つの実施形態によれば、純粋でない試料については、様々なエネルギー準位でいくつかの計測が実行される。
【0034】
例えば、純粋な材料については、フィルタの使用によるか又は光子計数検出器を用いるかのいずれかにより、少なくとも2つのエネルギーを使用することが有利であるかもしれない。
有利には、様々なエネルギーで2i回の計測を実行することが可能であり、「i」は試料に含まれる化学元素の総数である。
【0035】
実際に、混合物又は純粋でない材料の場合、先述のδ及びβの方程式は、
【0036】
(式中の下付き添字iは混合物中の「i番目」の成分を示す)
となる。
【0037】
上記の方程式から、na,i、従って特定元素の原子密度、又は混合物中の全てのna,iを、様々な波長でδ及びβを計測することにより求めることができることが分かる。
【0038】
予備的知識のない化学組成について調べる場合には、別々のエネルギーで2i回の計測が行われる。実際に、fi;1及びfi;2は当然ながらエネルギーとともに良く知られた法則に従うので、計測点の数を低減するために簡単に使用することができる。例えば、δの急激な変化、及び特に閾値近くに相当するβを検出することができる。
更に、試料を構成する材料が既知である場合、i/2回の計測を様々なエネルギーで行うことが可能であり、「i」は試料に含まれる化学元素の総数である。
【0039】
試料中の材料が既知、すなわちfi;1及びfi;2が既知である場合、i/2回の計測を様々なエネルギーで実施して各々の化学元素の密度を求めることができる。これにより、パラメータδ及びβを求めるために必要な計測の回数がかなり低減される。
最後に、存在しうる化学分子の総密度又は局所密度などのような、試料についての予備的知識は、独立な計測の数をさらに低減することができる。
【0040】
本発明の別の態様によれば、上述のような方法を実現するためにX線又はX線断層撮影システムが提供される。
【0041】
従って、本発明による構成要素を使用してX線又はX線断層撮影によってδ及びβを計測することが可能である。2つの技法の間の唯一の違いは視野角の数であり、かつ従ってX線断層撮影については試料を三次元で再構築する可能性があることである。
本発明のさらなる利点及び特徴は、非限定的な実現方法の詳細な説明及び添付図面を検討すれば明白となろう。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】本発明による方法を実現するための本発明によるシステムを示す簡易概略図。
【
図2】δの変化をX線エネルギーの関数として示す曲線。
【
図3】βの変化をX線エネルギーの関数として示す曲線。
【
図4】化学元素Si
3N
4についてデルタ値及びベータ値の経過をエネルギーの関数として示す曲線。
【
図5】化学元素Siについてデルタ値及びベータ値の経過をエネルギーの関数として示す曲線。
【0043】
以下に記載される実施形態は決して限定的なものではなく;特に、以下に記載された特徴の中から、記載された他の特徴とは分離して特徴が選定され、この特徴の選定が技術的な利点を与えるか又は先行技術に対して本発明を差別化するのに十分である場合、この選定された特徴のみを具備する本発明の代替形態を実現することが可能である。この選定は、少なくとも1つの、好ましくは機能的な特徴を含み、構造上の詳細は伴わないか、又は構造上の詳細の一部のみを、この部分が単独で技術的な利点を与えるか若しくは先行技術に対して本発明を差別化するのに十分である場合に、伴うものである。
【0044】
特に、記載された全ての代替形態及び全ての実施形態は、技術的観点からは妨げとならないあらゆる組み合わせで互いに組み合わされるように意図されている。
図1には、異なる光学指数を備えたいくつかの化学元素を含む試料2の方向にX線を放出することができる多重エネルギー線源1が認められる。
試料2を通過した後、X線は、規則的又は非規則的に分布した孔部4を具備するグリッド3を通過する。
【0045】
検出器5がグリッド3の後に配置されており、よって線源1で生成されたX線は最初に試料2、次にグリッド3を通過して、最後に検出器5の画素6によって検出される。
グリッド3の各々の孔部4は、検出器5の各々の画素6よりも大きな表面積を有する。
【0046】
線源1、グリッド3及び検出器5の間の配置構成は、グリッド3の孔部を通過しているX線が検出器5にスポット7を形成し、このスポット7が検出器5の数個の画素に少なくとも部分的に広がるように、決定される。
【0047】
さらに、本発明の方法が実現されるのに必要なソフトウェア手段及びハードウェア手段を装備した処理ユニット8もある。この処理ユニット8は特に、X線の放出を制御し、かつ検出器で受信された信号を処理するために、線源1及び検出器5に接続される。
X線源は50Wのタングステンアノードを具備することができる。
グリッド3は、300×300個の孔部を備えた透過グリッドである。
【0048】
孔部の形状は、正方形、円形又はその他のいずれでもよい。孔部の間隔は孔部の大きさに関係する。検出器に記録された回折スポットどうしの間に少なくとも1個の画素が残ることが好ましい。他方、スポットの大きさは、X線のエネルギー、孔部の形状及び大きさ、並びにグリッド‐検出器間距離に依存する。従ってこれは多重パラメータ最適化である。タルボ距離は使用されない。距離は任意の距離であってよい。
グリッド3を用いると、X線は、回折を伴ってカメラ上にグリッドのパターンを無彩色で投影する。
【0049】
検出器5は水冷式X線カメラである。このカメラは、マトリックスサイズが2045×2048であり画素サイズが30μmの16ビットCCDマトリックスを具備している。
【0050】
検出器は、CCD検出器、CMOS検出器、光子計数検出器、又は可視撮像及び可視光検出器(CCD又はCMOS)を備えた発光プレート検出器であってよい。画素数は設定されない。一般に、画素数は価格と最大数との妥協点である。画素サイズは設定されない。画素サイズは、良好なサンプリングのために小さい画素であることと、良好な動作範囲のために小さすぎない画素であることという、存在するものどうしの妥協点である。
【0051】
試料2は、有利には、式:
n=1-δ+iβ
(式中、
δ=nareλ2(f1/2π)
β=nareλ2(f2/2π)
である)
による該試料の光学指数nで定義することが可能であり、
上記式中、na、re及びλはそれぞれ原子密度、古典電子半径及び波長である。f1及びf2は、試料の化学組成に特有な原子散乱因子である。
パラメータβは試料を通過するX線の減衰を担っている。
【0052】
パラメータδは位相効果を担っている。X線が試料を通過するとき、X線は特にδの関数である位相変化を生じる。グリッドはこれらの位相変化を検出器上のスポットのオフセットとして伝達することができる。
【0053】
β及びδを計測するためには、各スポットについて基準振幅及び基準位置を測定するために無負荷すなわち試料無しでの計測が行われる。その後、振幅の差及びスポットのオフセットを測定するために別の計測が行われる。検討される各エネルギーについて無負荷での計測を実行することが意図される。これにより計測列を較正することができる。
【0054】
計測中、検出器上に得られる画像はインターフェログラムであって、二次元の位相勾配が得られる。インターフェログラムは検出器上のスポット群であり、これらのスポットはグリッドの孔部を通過するX線によって形成されている。これらのスポットは、試料を通過するX線の行路の関数でもある。これらのスポットを分析することにより、パラメータβ及びδを求めることが可能である。
【0055】
換言すれば、X線の光路に置かれた試料によって生じた位相変化はインターフェログラムの変形を引き起こし、これを分析すると該試料の位相勾配が得られる。
【0056】
試料によって生じた位相変化Δφから直接、式:
Δφ=∫δ×ldl
(式中の「l」はX線が進んだ距離である)
によってδが得られる。
放射線の吸収I/I0から、式:
I/I0=exp(-∫(4πβ/λ)dl)
(式中のλはX線の波長、「l」はX線が進んだ距離である)
によってβが得られる。
【0057】
これらの2式から、試料中のX線の伝搬について積分されたΔφ及びI/I0が得られる。X線断層撮影では、局所的な位相変化及び局所的な吸収を求めることができる。この場合、方程式は
dφ=δ×dl
d(I/I0)=exp(-(4πβ/λ)dl)
となる。
【0058】
Δφ及びI/I0を計測するために、重心検索法が適用されて任意の形状のスポットの重心が正確に求められ、かつスポットを形成する全ての画素に由来する信号が、孔部に対応する信号を定義するために独立に積分される。
これらの計測は試料無しで実行され、その後試料を用いて行なわれる。
【0059】
重心検索法では、重み付きのモーメント計算技法及び/又は反復重み付きガウス法を使用することができる。特に、第1の技法を使用することが可能であり、その結果を次に第2の技法を使用して微調整することができる。
【0060】
現在の計測値と基準計測値との間の重心位置の差から、屈折及び従ってパラメータδが得られる。
現在の計測値と基準計測値との間の、各孔部からの信号の振幅の差から、透過及び従ってパラメータβが得られる。
同一のスポットを用いて、2つの計測が独立に行われる:偏差及び反映された流入の量である。
【0061】
したがって本発明により、δ及びβを、特に広範囲のエネルギーにわたって独立に計測することができる。
本発明による技法により、誤差を制限することが可能となる。
【0062】
試料の代わりに、入射波に既知の変化をもたらす物体を基準計測に使用して、各々の孔部/画素対について非常に良い精度でグリッド‐検出器間距離を得ることができる。球面波を生じる回折孔、回転するプリズム、又は任意の他の既知物体を使用することができる。
【0063】
図2及び3は、例えば、乳房組織及び様々な形状の微細石灰化に関する、X線エネルギーの関数としてのδ及びβの変化を例証している。いくつかの形態は良性であり、その他は悪性である。
【0064】
図4及び5は、デルタ値及びベータ値の経過をエネルギーの関数として例証している。識別されるべき2つの化学元素Si及びSi
3N
4が示されている。計測が4keVで行われた場合、Si
3N
4のデルタ_は約4.5*10
-5に等しく、Si
3N
4のベータは約1.5*10
-6に等しい。これは、約3*10
-5であるSiのデルタ、及び約1.5*10
-6であるSiのベータに匹敵する。デルタにはわずかな違いがあるが非常に小さく、従って誤差という原因が存在している。しかし、2以上のエネルギーにおける挙動を見れば、顕著であり従って使用可能な違いがこの場合に認められる。例えば10keVでは、約5*10
-6に等しいSiのデルタ及び約7*10
-8に等しいSiのベータと比較して、Si3N4のデルタは約7.5*10
-6に等しく、かつSi
3N
4のベータは約7*10
-8に等しい。高エネルギーでは、デルタについては違いがあるがベータにはない。化学組成を求めることを可能にするのは、この挙動変化である。
【0065】
本発明では、単一のグリッドが使用されるが、これは位置調整、安定性及び堅牢性の点で明白な利点である。このグリッドは、分解能及び孔部の大きさに関してほとんど要件がない。これは、使用される検出器についての技術的な要件もほとんどないことを意味している。
【0066】
本発明によるシステムは、高開口数の放射線に対応し、これにより試料についての空間分解能が改善されることになる。よってモノリシックな、かつ従って堅牢なシステムを設計することが可能である。
【0067】
当然ながら、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、またこれらの実施例に対しては本発明の範囲から逸脱することなく数多くの調整を行うことができる。
【国際調査報告】