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特表2025-501008ガスシールド溶接ワイヤ、ガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材及びその生産方法
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  • 特表-ガスシールド溶接ワイヤ、ガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材及びその生産方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-15
(54)【発明の名称】ガスシールド溶接ワイヤ、ガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材及びその生産方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250107BHJP
   B21B 1/16 20060101ALI20250107BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20250107BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20250107BHJP
   C21D 9/52 20060101ALI20250107BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20250107BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20250107BHJP
   C21C 5/28 20060101ALI20250107BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20250107BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
B21B1/16 B
B22D11/00 A
C21D8/06 A
C21D9/52 103B
C22C38/60
B23K35/30 320A
C21C5/28 Z
C21C7/00 F
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539939
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(85)【翻訳文提出日】2024-07-02
(86)【国際出願番号】 CN2022078016
(87)【国際公開番号】W WO2023130546
(87)【国際公開日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】202210009859.3
(32)【優先日】2022-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522115457
【氏名又は名称】張家港栄盛特鋼有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】522116856
【氏名又は名称】江蘇省沙鋼鋼鉄研究院有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】521514565
【氏名又は名称】江蘇沙鋼集団有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100104226
【弁理士】
【氏名又は名称】須原 誠
(72)【発明者】
【氏名】ヂャン ユー
(72)【発明者】
【氏名】タン イャォ
(72)【発明者】
【氏名】ワン ナー
(72)【発明者】
【氏名】ヂャオ フー
【テーマコード(参考)】
4E002
4K013
4K032
4K043
4K070
【Fターム(参考)】
4E002AC14
4E002BC02
4E002BC07
4E002BD02
4E002BD03
4E002BD07
4E002BD08
4E002BD09
4E002BD10
4E002CB01
4K013BA05
4K013BA08
4K013CB01
4K013CD02
4K013EA32
4K032AA04
4K032AA11
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032BA02
4K032CA02
4K032CC01
4K032CC02
4K032CC03
4K032CC04
4K032CE02
4K043AA02
4K043AB03
4K043AB10
4K043AB15
4K043AB18
4K043AB22
4K043AB25
4K043AB26
4K043AB27
4K043BA01
4K043BA03
4K043BA05
4K043CB00
4K043DA00
4K043EA03
4K043FA03
4K043FA13
4K070AA02
4K070AB17
4K070AC02
4K070AC05
4K070AC14
4K070AC22
(57)【要約】
本発明は、ガスシールド溶接ワイヤ、ガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材及びその生産方法を開示する。ガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材は、質量パーセントで、C 0.03~0.08%、Si 0.5~1.0%、Mn 1.4~1.8%、S 0.013~0.1%、P ≦0.0015%、Ni ≦0.8%、Cr ≦0.4%、Mo ≦0.4%の化学成分を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、且つ液相線温度T=1537-88[C]-8[Si]-5[Mn]-30[P]-25[S]、固相線温度T=1536-415[C]-12[Si]-6.8[Mn]-125[P]-184[S]、25℃≦T-T≦45℃である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量パーセントで、C 0.03~0.08%、Si 0.5~1.0%、Mn 1.4~1.8%、S 0.013~0.1%、P ≦0.0015%、Ni ≦0.8%、Cr ≦0.4%、Mo ≦0.4%の化学成分を含み、残部がFe及び不可避的不純物であるガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材であって、C、Si、Mn、P、Sの質量パーセントが、液相線温度T=1537-88[C]-8[Si]-5[Mn]-30[P]-25[S]、固相線温度T=1536-415[C]-12[Si]-6.8[Mn]-125[P]-184[S]、25℃≦T-T≦45℃とすることを満たすことを特徴とする、ガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材。
【請求項2】
C、Mn、Ni、Cr、Moの質量パーセントが、オーステナイト変態開始温度Ar3=910-310[C]-80[Mn]-55[Ni]-15[Cr]-80[Mo]、ベイナイト変態開始温度Bs=830-270[C]-90[Mn]-37[Ni]-70[Cr]-83[Mo]、30℃≦Ar3-Bs≦80℃とすることを満たすことを特徴とする、請求項1に記載のガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材。
【請求項3】
請求項1に記載のガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材を母材として製造されたことを特徴とする、ガスシールド溶接ワイヤ。
【請求項4】
溶鋼製錬工程と、
精錬工程と、
精錬によって得られた溶鋼を鋼ビレットに鋳造する鋼ビレット鋳造工程と、
得られた鋼ビレットを加熱炉で温度制御しつつ加熱する温度制御加熱工程と、
前記温度制御加熱工程で得られた鋼ビレットをデスケーリング水圧≧18MPaの高圧水でデスケーリングして線材に圧延し、機械加工された圧延溝が採用された中間圧延機を用い、線材を圧延終了後に集中冷却し、冷却後に巻き取る温度制御圧延工程と、
前記温度制御圧延工程で得られた線材を、保温カバー及び送風機の吹き出し口が全て閉じられた状態で、線材の相変態温度区間での冷却速度≦0.8℃/sとしてステルモア徐冷ライン上で徐冷するステルモア徐冷工程と、
を順に含むことを特徴とする、請求項1に記載のガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材の生産方法。
【請求項5】
前記ステルモア徐冷ライン上で、全ての保温カバーの合計長さ>80mであり、ステルモア徐冷ラインの入口ローラーテーブル速度≦0.18m/sであり、その出口ローラーテーブル速度≦0.40m/sであることを特徴とする、請求項4に記載のガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材の生産方法。
【請求項6】
前記温度制御圧延工程で、圧延開始温度が970~1000℃であり、仕上げ圧延機入口温度≦880℃であり、巻取温度が880~910℃であることを特徴とする、請求項4に記載のガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材の生産方法。
【請求項7】
前記精錬工程で、精錬時に白色スラグ生成によって脱酸素と脱硫を行い、精錬時間≧35minで白色スラグ生成時間≧15minとし、フェロチタンワイヤ投入前に他の合金の含有量が目標範囲を満たすように調整し、精錬後期のソフト撹拌時間≧15minとして、前記溶鋼製錬工程から得られた溶鋼をLF炉内で精錬することを特徴とする、請求項4に記載のガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材の生産方法。
【請求項8】
前記鋼ビレット鋳造工程で、溶鋼過熱度を18~35℃とし、鋳造ビレットの鋳造速度を2.5~2.7m/minで一定に保持して、前記精錬工程から得られた溶鋼の完全保護鋳造を行うことを特徴とする、請求項4に記載のガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材の生産方法。
【請求項9】
前記温度制御加熱工程で、加熱部の温度を960~1020℃とし、均熱部の温度を1080~1120℃とすることを特徴とする、請求項4に記載のガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材の生産方法。
【請求項10】
前記溶鋼製錬工程で、溶銑と鋼スクラップとからなる製錬原料を転炉内で製錬し、溶銑の前記製錬原料に占める重量パーセント>90%であり、1/3出鋼時にフェロシリコン合金、シリコマンガン合金、低炭素フェロマンガン合金、石灰をこの順に溶鋼中に加えることを特徴とする、請求項4に記載のガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接材料の技術分野に属し、ガスシールド溶接ワイヤ、ガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材及びその生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼鉄は金属材料のうち最も広く使用される材料であり、溶接方式で接続されることが一般的であり、中でも、ガスシールド溶接はよく利用される溶接方式である。
【0003】
溶接では、溶接性能が溶接継手の品質に依存し、そのうち、溶接継手の力学的性能及び成形性能は、溶接継手の品質を評価するための重要な指標であり、このような2つの性能に影響する重要な要因の1つは、溶接ワイヤの性能である。
【0004】
現在、市販の溶接ワイヤは、溶接時に、特にパイプ等の全姿勢溶接時に、12時位置、即ち溶接継目の真上での溶接継目金属が下に流れて落ちるという問題が発生し、成形性能が悪くなり、溶接ビードが不均一となるという問題が引き起こされる場合が多い。
【発明の概要】
【0005】
従来技術の欠点に対して、本発明の目的は、ガスシールド溶接ワイヤ、ガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材及びその生産方法を提供して、全姿勢溶接時に、12時位置での溶接継目金属が下に流れて落ちることによる成形性能が悪くなり、溶接ビードが不均一となるという問題を解決することである。
【0006】
上記発明の目的を実現するために、本発明の一実施形態は、質量パーセントで、C 0.03~0.08%、Si 0.5~1.0%、Mn 1.4~1.8%、S 0.013~0.1%、P ≦0.0015%、Ni ≦0.8%、Cr ≦0.4%、Mo ≦0.4%の化学成分を含み、残部がFe及び不可避的不純物であるガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材であって、C、Si、Mn、P、Sの質量パーセントが、液相線温度T=1537-88[C]-8[Si]-5[Mn]-30[P]-25[S]、固相線温度T=1536-415[C]-12[Si]-6.8[Mn]-125[P]-184[S]、25℃≦T-T≦45℃とすることを満たす、ガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材を提供する。
【0007】
そのうち、Cは溶接ワイヤ用鋼線材中の重要な元素の1つとして、オーステナイト結晶粒の平均サイズを減少させ、初析フェライトを低減し、アシキュラーフェライトを増加させ、溶接継目金属の強度及び硬度を効果的に向上させ、溶接時のアーク安定性を向上させ、溶滴移行特性を改善することができる。
【0008】
Siは、溶接ワイヤ用鋼線材中の主な脱酸素元素及び強化元素として、主にオーステナイト及びフェライト中に固溶して、固溶強化の効果を果たすものであり、溶接継目の強度を効果的に向上させることができる。
【0009】
Mnは、溶接過程での脱酸素元素として、脱酸素中に酸化物を形成して溶接継目の強度と靭性を向上させることができ、また、溶接継目金属中のアシキュラーフェライトの含有量を向上させ、初析フェライト及びフェライトサイドプレートを低減するとともに、アシキュラーフェライトを微細化することができる。
【0010】
Sは含有量が0.013~0.1%の範囲内であり、溶滴の表面活性を向上させ、溶接継目金属の流動性を増加させ、溶接継目の成形を促進するとともに、溶接継目の靭性への危害を回避することができる。
【0011】
Pは溶接ワイヤ用鋼線材中の不純物元素として、含有量が高くなりすぎると溶鋼凝固の末期に成分偏析が発生しやすく、線材の引き抜きに不利であり、溶接継目の低温靭性にも不利である。
【0012】
Niは溶接継目の強度及び低温衝撃靭性を向上させる元素であり、Niは組織を微細化してアシキュラーフェライトの形成を促すことができ、溶接継目金属において重要な強化作用を果たす。
【0013】
Crは溶接継目中のアシキュラーフェライトの含有量を増加させ、溶接継目の強度及び低温靭性を向上させることができる。
【0014】
Moは相変態温度を低下させ、初析フェライトの生成を抑制し、アシキュラーフェライト変態を促進し、アシキュラーフェライトの割合を増加させることができ、強靱性の向上に役立つ。
【0015】
まとめると、上記元素及び重量パーセント範囲の合理的な設定により、溶接継目金属の強靭性及び溶接プロセスの円滑な進行を確保でき、また、C、Si、Mn、P、Ni、Cr、Moの質量パーセントを合理的に設計した上で、Sの含有量を制御すれば、溶接プロセスでの溶滴が微細化され、溶滴の表面張力が減少して、溶着金属の流動が促進され、溶接継目の成形性が向上するだけでなく、製鋼プロセスでの脱硫コストも削減され、さらに、溶接ワイヤの液相線温度及び固相線温度に対する規制により、溶接ワイヤの融点と凝固点との区間を制御して、溶接継目金属の凝固速度を制御することによって、溶接継目金属の流動性を高くし、溶接溶融池を速く凝固させて、全姿勢溶接時に12時位置の溶接継目金属が下に流れて落ちるという問題を解決し、全姿勢溶接時に溶接継目の表面が均一で滑らかであり、溶接ビードが美しく成形される。
【0016】
好ましくは、C、Mn、Ni、Cr、Moの質量パーセントが、オーステナイト変態開始温度Ar3=910-310[C]-80[Mn]-55[Ni]-15[Cr]-80[Mo]、ベイナイト変態開始温度Bs=830-270[C]-90[Mn]-37[Ni]-70[Cr]-83[Mo]、30℃≦Ar3-Bs≦80℃とすることを満たす。各元素組成及び含有量の合理的な設計により、オーステナイト変態開始温度及びベイナイト変態開始温度を調整制御して、溶接継目金属中の十分なフェライトの存在を確保し、溶接ヘッドの残留応力及び変形を低減し、溶接成形性能を向上させ、製造された溶接ワイヤは溶接時にアークが安定し、全姿勢溶接時に溶接継目の表面が均一で滑らかであり、溶接ビードが美しく成形される。
【0017】
上記発明目的を実現するために、本発明の一実施形態は、上記のガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材を母材として製造されたガスシールド溶接ワイヤを提供する。上記ガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材を母材として直径1.2mmのガスシールド溶接ワイヤに引き抜きし、Ar+20%COをシールドガスとして用い、溶接電流220~230A、溶接電圧25Vで、溶着溶接試験を行ったところ、優れた溶接プロセス性能を有し、得られた溶接継目金属の引張強度が770MPa以上であり、-40℃衝撃エネルギーが98J以上であるだけでなく、溶接継目も美しく成形された。
【0018】
上記発明目的を実現するために、本発明の一実施形態は、
溶鋼製錬工程と、
精錬工程と、
精錬によって得られた溶鋼を鋼ビレットに鋳造する鋼ビレット鋳造工程と、
得られた鋼ビレットを加熱炉で温度制御しつつ加熱する温度制御加熱工程と、
前記温度制御加熱工程で得られた鋼ビレットをデスケーリング水圧≧18MPaの高圧水でデスケーリングして線材に圧延し、機械加工された圧延溝が採用された中間圧延機を用い、線材を圧延終了後に集中冷却し、冷却後に巻き取る温度制御圧延工程と、
前記温度制御圧延工程で得られた線材を、保温カバー及び送風機の吹き出し口が全て閉じられた状態で、線材の相変態温度区間での冷却速度≦0.8℃/sとしてステルモア徐冷ライン上で徐冷するステルモア徐冷工程と、
を順に含む、前記ガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材を製造する生産方法を提供する。
【0019】
温度制御圧延、及びステルモア徐冷に対する制御により、鋼ビレット表面のスケールを効果的に除去でき、残留したスケールが線材への圧延中に線材組織の深部に圧入されるのを回避でき、また、機械加工された圧延溝により、線材の表面平坦度を保証でき、表面が粗い圧延溝による線材の表面欠陥の増大も回避でき、それにより線材の表面品質、組織及び強度性能が保証され、さらに引き抜きに役立つ。
【0020】
一実施形態の更なる改良として、前記ステルモア徐冷ライン上で、全ての保温カバーの合計長さ>80mであり、ステルモア徐冷ラインの入口ローラーテーブル速度≦0.18m/sであり、その出口ローラーテーブル速度≦0.40m/sであり、それによって線材の相変態温度区間での≦0.8℃/sの冷却速度を実現し、相変態温度区間での滞在時間を延長し、線材表面のスケールの厚さ、構造を合理的に制御してスケールの機械的剥離性を向上させ、線材内部組織の均一性を向上させ、さらに線材の溶接ワイヤへの引き抜きに役立つ。
【0021】
一実施形態の更なる改良として、前記温度制御圧延工程で、圧延開始温度が970~1000℃であり、仕上げ圧延機入口温度≦880℃であり、巻取温度が880~910℃である。これにより、線材表面のスケールの厚さ及び構造を効果的に制御でき、得られた線材表面のスケール厚さが10μm以上になり、線材が優れたスケール剥離性を有するようになる。
【0022】
一実施形態の更なる改良として、前記精錬工程で、精錬時に白色スラグ生成によって脱酸素と脱硫を行い、精錬時間≧35minで白色スラグ生成時間≧15minとし、フェロチタンワイヤ投入前に他の合金の含有量が目標範囲を満たすように調整し、精錬後期のソフト撹拌時間≧15minとして、前記溶鋼製錬工程から得られた溶鋼をLF炉内で精錬する。フェロチタンワイヤを投入するタイミングの制御により、精錬前期でのチタンの溶損を回避し、チタン元素の収率を向上させ、最終線材の化学組成を最適化し生産コストを効果的に抑え、製造された線材の組織、強度、及び溶接ワイヤの溶接性能を保証し、また、精錬中の時間管理により、溶鋼中の成分均一性を向上させて、鋼ビレットのマクロ偏析及びミクロ偏析を低減し、最終的に得られた線材の組織及び強度を改善し、溶接ワイヤへの引き抜きを容易にすることができる。
【0023】
一実施形態の更なる改良として、前記鋼ビレット鋳造工程で、溶鋼過熱度を18~35℃とし、鋳造ビレットの鋳造速度鋳造速度を2.5~2.7m/minで一定に保持して、前記精錬工程から得られた溶鋼の完全保護鋳造(full protection casting)を行う。鋳造工程での各パラメータを制御することで、溶鋼の均質化を改善し、鋼ビレットの成分偏析を低減し、最終的に得られた線材及び溶接ワイヤの組織及び強度を改善し、溶接ワイヤの成形性能を向上させることができる。
【0024】
一実施形態の更なる改良として、前記温度制御加熱工程で、加熱部の温度を960~1020℃とし、均熱部の温度を1080~1120℃とする。
【0025】
一実施形態の更なる改良として、前記溶鋼製錬工程で、溶銑と鋼スクラップとからなる製錬原料を転炉内で製錬し、溶銑の前記製錬原料に占める重量パーセント>90%であり、1/3出鋼時にフェロシリコン合金、シリコマンガン合金、低炭素フェロマンガン合金、石灰をこの順に溶鋼中に加える。このように、溶銑の重量パーセント及び各種合金、石灰の添加タイミングを制御することで、溶鋼成分の高純度を保証し、線材及び最終的に製造された溶接ワイヤの組織及び強度を改善し、さらに線材の溶接ワイヤへの引き抜きに役立ち、溶接ワイヤの溶接性能を向上させることができる。
【0026】
従来技術に比べ、本発明の有益な効果は以下のとおりである。本発明のガスシールド溶接ワイヤ、ガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材及びその生産方法は、組成及びその質量パーセントを合理的に設計した上で、製鋼プロセスでの脱硫コストが削減されるだけでなく、溶接継目金属の流動性も高く、溶接溶融池の凝固速度が速く、溶接継目の成形性が高く、全姿勢溶接時に12時位置の溶接継目金属が下に流れて落ちるという問題が解決され、全姿勢溶接時に溶接継目の表面が均一で滑らかであり、溶接ビードが美しく成形され、さらに、溶鋼成分の均一性、純度を向上させることで、ビレットのマクロ偏析及びミクロ偏析を低減し、線材の表面欠陥深さ、線材全体の組織及び強度を均一にし、スケールの機械的剥離性、可塑性等を改善することで、該生産方法を用いて最終的に得た線材は、650MPa以上の引張強度を達成でき、引き抜き性能が優れ、直径1.2mmのガスシールド溶接ワイヤに引き抜きすることができ、Ar+20%COをシールドガスとして用い、溶接電流220~230A、溶接電圧25Vで、溶着溶接試験を行ったところ、優れた溶接プロセス性能を有し、得られた溶接継目金属の引張強度が770MPa以上であり、-40℃衝撃エネルギーが98J以上であるだけでなく、溶接継目が美しく成形される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施例における溶接継目部分の写真である。
図2】本発明の一比較例における溶接継目部分の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の一実施形態はガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材、ガスシールド溶接ワイヤ及びガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材の生産方法を提供する。
【0029】
本発明のガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材は、質量パーセントで、C 0.03~0.08%、Si 0.5~1.0%、Mn 1.4~1.8%、S 0.013~0.1%、P ≦0.0015%、Ni ≦0.8%、Cr ≦0.4%、Mo ≦0.4%の化学成分を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、且つ、C、Si、Mn、P、Sの質量パーセントが、液相線温度T=1537-88[C]-8[Si]-5[Mn]-30[P]-25[S]、固相線温度T=1536-415[C]-12[Si]-6.8[Mn]-125[P]-184[S]、25℃≦T-T≦45℃とすることを満たす。
【0030】
ここで、上記液相線温度T、固相線温度Tの式中、角括弧「[]」はその中の元素の質量パーセントを表し、例えば[C]はCの質量パーセントを表し、他の元素も同様である。
【0031】
好ましくは、C、Mn、Ni、Cr、Moの質量パーセントが、オーステナイト変態開始温度Ar3=910-310[C]-80[Mn]-55[Ni]-15[Cr]-80[Mo]、ベイナイト変態開始温度Bs=830-270[C]-90[Mn]-37[Ni]-70[Cr]-83[Mo]、30℃≦Ar3-Bs≦80℃とすることを満たす。
【0032】
同様に、上記オーステナイト変態開始温度Ar3、ベイナイト変態開始温度Bsの式中、角括弧「[]」はその中の元素の質量パーセントを表し、例えば[C]はCの質量パーセントを表し、他の元素も同様である。
【0033】
前記ガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材はガスシールド溶接ワイヤの生産用母材とすることができる。
【0034】
言い換えれば、本発明の一実施形態は、前記ガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材を母材として製造されたガスシールド溶接ワイヤをさらに提供する。例えば、前記ガスシールド溶接ワイヤ鋼用線材をさらに引き抜き工程にかければ前記ガスシールド溶接ワイヤを製造することができ、前記ガスシールド溶接ワイヤは、直径が1.2mmであり、Ar+20%COをシールドガスとして用い、溶接電流220~230A、溶接電圧25Vで、溶着溶接試験を行ったところ、優れた溶接プロセス性能を有し、得られた溶接継目金属の引張強度が770MPa以上であり、-40℃衝撃エネルギーが98J以上であるだけでなく、溶接継目が美しく成形される。
【0035】
本発明の一実施形態は、前記ガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材を製造する生産方法をさらに提供する。前述したように、本発明の前記生産方法は、大量の試験研究によるものであり、以下において前記生産方法における各工程をさらに説明する。
【0036】
(1)溶鋼製錬
溶銑と鋼スクラップとからなる製錬原料を転炉内で製錬し、溶銑の前記製錬原料に占める重量パーセント>90%とする。それによって溶鋼成分の純度が保証される。1/3出鋼時にフェロシリコン合金、シリコマンガン合金、低炭素フェロマンガン合金、石灰をこの順に溶鋼中に加えて、溶鋼中の組成含有量を調整しスラグ化を行い、溶鋼の純度を効果的に向上させ、線材の組織及び強度を改善する。
【0037】
ここで、前記鋼スクラップは、低炭素鋼製錬時の切断によるビレット頭端と尾端のスクラップのような高品質の鋼スクラップが好ましいが、当然、これに限定されない。純度がより高く、不純物がより少ない高品質の鋼スクラップを用いることで、後続の工程における不純物除去の難易度を低下させ、溶鋼の純度を高くすることができる。
【0038】
(2)精錬
前記溶鋼製錬工程から得られた溶鋼をLF炉内で精錬する。ここでは、精錬時に白色スラグ生成によって脱酸素と脱硫を行い、精錬時間≧35minで白色スラグ生成時間≧15minとし、フェロチタンワイヤ投入前に他の合金の含有量が目標範囲を満たすように調整し、精錬後期のソフト撹拌時間≧15minとする。フェロチタンワイヤを投入するタイミングの制御により、精錬前期でのチタンの溶損を回避し、チタン元素の収率を向上させ、最終線材の化学組成を最適化し生産コストを効果的に抑え、精錬における各種処理の時間の管理により、溶鋼の均質化を大幅に改善して、得られた鋼ビレットのマクロ偏析及びミクロ偏析を低減し、最終的に得られた線材の組織及び強度を改善することができる。
【0039】
(3)鋼ビレット鋳造
精錬工程から得られた溶鋼の完全保護鋳造を行う。ここで、溶鋼過熱度を18~35℃とし、鋳造ビレットの鋳造速度を2.5~2.7m/minで一定に保持する。断面サイズ140mm×140mmの鋼ビレットが得られ、当然、鋼ビレットのサイズはこれに限定されない。ここで、過熱度、鋳造速度等のパラメータへの制御により、溶鋼の均質化を大幅に改善し、鋼ビレットの成分偏析を低減して、最終的に得られた線材の組織及び強度を改善することができる。
【0040】
(4)温度制御加熱
得られた鋼ビレットを加熱炉で温度制御しつつ加熱する。好ましくは、加熱部の温度を960~1020℃とし、均熱部の温度を1080~1120℃とする。
【0041】
(5)温度制御圧延
前記温度制御加熱工程で得られた鋼ビレットを高圧水でデスケーリングして線材に圧延する。前記線材は、質量パーセントで、C 0.03~0.08%、Si 0.5~1.0%、Mn 1.4~1.8%、S 0.013~0.1%、P ≦0.0015%、Ni ≦0.8%、Cr ≦0.4%、Mo ≦0.4%の化学成分を含み、残部がFe及び不可避的不純物であり、且つ、C、Si、Mn、P、Sの質量パーセントが、液相線温度T=1537-88[C]-8[Si]-5[Mn]-30[P]-25[S]、固相線温度T=1536-415[C]-12[Si]-6.8[Mn]-125[P]-184[S]、25℃≦T-T≦45℃とすることを満たす。それにより、該線材を溶接ワイヤに引き抜きして溶接に用いる場合の、溶接継目金属の強靭性及び溶接プロセスの円滑な進行を確保でき、溶接プロセスでの溶滴を微細化し、溶滴の表面張力を減少させて、溶着金属の流動を容易にし、溶接継目の成形性を向上させることができるだけでなく、製鋼プロセスでの脱硫コストも削減され、さらに、溶接ワイヤの液相線温度及び固相線温度への規制により、溶接ワイヤの融点と凝固点との区間を制御して、溶接継目金属の凝固速度を制御し、溶接継目金属の流動性を高くし、溶接溶融池の凝固速度を速くし、全姿勢溶接時に12時位置の溶接継目金属が下に流れて落ちるという問題を解決し、全姿勢溶接時に溶接継目の表面が均一で滑らかであり、溶接ビードが美しく成形される。
【0042】
好ましくは、前記線材の化学成分のうち、C、Mn、Ni、Cr、Moの質量パーセントが、オーステナイト変態開始温度Ar3=910-310[C]-80[Mn]-55[Ni]-15[Cr]-80[Mo]、ベイナイト変態開始温度Bs=830-270[C]-90[Mn]-37[Ni]-70[Cr]-83[Mo]、30℃≦Ar3-Bs≦80℃をさらに満たす。これにより、溶接継目金属中の十分なフェライトの存在を確保し、溶接ヘッドの残留応力及び変形を低減し、溶接成形性能を向上させ、製造された溶接ワイヤは溶接時にアークが安定し、全姿勢溶接時に溶接継目の表面が均一で滑らかであり、溶接ビードが美しく成形される。
【0043】
ここで、デスケーリング水圧≧18MPaとし、機械加工された圧延溝が採用された中間圧延機を用い、線材を圧延終了後に集中冷却し、冷却後に巻き取る。デスケーリング水圧を制御することで、鋼ビレット表面のスケールを効果的に除去でき、残留したスケールが線材への圧延中に線材組織の深部に圧入されるのも回避でき、機械加工された圧延溝を用いれば、線材表面の平坦度を保証でき、表面が粗い圧延溝による線材の表面欠陥も改善できる。
【0044】
好ましくは、鋼ビレットは高圧水デスケーリング後に圧延する時、圧延開始温度が970~1000℃であり、仕上げ圧延機入口温度≦880℃である。低温圧延によって、圧延された線材の可塑性を向上させることができる。
【0045】
線材を圧延終了後に水冷冷却してから巻き取り、巻取温度が880~910℃である。つまり、圧延機とレイングヘッドとの間で水冷冷却を行う。
【0046】
具体的には、本実施例において、圧延機とレイングヘッドとの間に少なくとも3つの水冷タンクが順に配置され、線材が圧延機を離れた後に3つの水冷タンクを通過する時、レイングヘッドに近い最大2つの水冷タンクのみが開かれ、残りの水冷タンクが閉じられる。当然、他の実施例において、水冷タンクの使用数もこれに限定されない。
【0047】
(6)ステルモア徐冷
前記温度制御圧延工程で得られた線材を、保温カバー及び送風機の吹き出し口が全て閉じられた状態で、線材の相変態温度区間での冷却速度≦0.8℃/sとしてステルモア徐冷ライン上で徐冷する。それにより線材の相変態温度区間での滞在時間が延長され、線材表面のスケールの厚さ、構造の合理的な制御が実現されてスケールの機械剥離性が向上する。
【0048】
前記ステルモア徐冷ライン上で、全ての保温カバーの合計長さ>80mであり、ステルモア徐冷ラインの入口ローラーテーブル速度≦0.18m/sであり、その出口ローラーテーブル速度≦0.40m/sである。それによって線材の相変態温度区間での≦0.8℃/sの冷却速度が実現され、相変態温度区間での滞在時間が延長され、さらに線材表面スケールの厚さ、構造が合理的に制御されてスケールの剥離が容易になるとともに、線材内部組織の均一性が向上し、線材の溶接ワイヤへの引き抜きに役立つ。
【0049】
以下において具体的な番号1~5の5つの実施例に加えて、番号6~8の3つの比較例により、本発明の具体的な実施形態を説明する。
【0050】
(1)溶鋼製錬
溶銑と鋼スクラップとからなる製錬原料を180t転炉内で製錬し、1/3出鋼時にフェロシリコン合金、シリコマンガン合金、低炭素フェロマンガン合金、石灰をこの順に溶鋼中に加える。ここで、取鍋ごとの溶銑中のSの質量パーセントが0.03~0.18%であり、5つの実施例及び3つの比較例の製錬原料の総装入量、溶銑の製錬原料における重量パーセント、製錬時間、出鋼時Cの質量パーセント及び出鋼温度等はそれぞれ表1に示すとおりである。
【表1】
【0051】
ここで、5つの実施例の鋼スクラップは低炭素鋼の切断によるビレット頭端と尾端のスクラップを用いるが、3つの比較例は一般的な鋼スクラップを用いる。
【0052】
(2)精錬
前記溶鋼製錬工程から得られた溶鋼をLF炉内で精錬する。ここでは、精錬時に白色スラグ生成によって脱酸素と脱硫を行い、フェロチタンワイヤ投入前に他の合金の含有量が目標範囲を満たすように調整し、精錬後期にソフト撹拌を行い、ソフト撹拌はスラグ面が軽く揺れ且つ溶鋼が露出しないことを操作の基準とする。
【0053】
ここで、5つの実施例及び3つの比較例の精錬時間、白色スラグ生成時間、ソフト撹拌時間、出鋼温度はそれぞれ表2に示すとおりである。
【表2】
【0054】
(3)鋼ビレット鋳造
精錬工程から得られた溶鋼の完全保護鋳造を行う。即ち大取鍋ロングノズルアルゴンシール、タンディッシュパウダー、ノズル全体の完全保護及びアルゴンシールによる鋳造を用い、鋳造時に鋳造ビレットの鋳造速度を一定に保持し、モールド電磁撹拌電流350A、周波数4Hz、最終電磁撹拌電流480A、周波数10Hzに制御し、断面サイズ140mm×140mmの角ビレットに鋳造する。ここで、5つの実施例及び3つの比較例の溶鋼過熱度及び鋳造速度は表3に示すとおりである。
【表3】
【0055】
(4)温度制御加熱
得られた鋼ビレットを加熱炉で温度制御しつつ加熱する。5つの実施例及び3つの比較例の加熱部の温度、均熱部の温度、均熱部の空燃比、保温時間は表4に示すとおりである。
【表4】
【0056】
(5)温度制御圧延
前記温度制御加熱工程で得られた鋼ビレットを高圧水でデスケーリングして線材に圧延する。ここで、5つの実施例及び3つの比較例のデスケーリング水圧、仕上げ圧延の最後の2パスで使用される超硬ローラーリングの溶鋼通過量、圧延開始温度、仕上げ圧延機入口温度、巻取温度は表5に示すとおりである。また、最後のパスの仕上げ圧延機とレイングヘッドとの間に前から後へ順に5#、6#、7#の3つのタンクが設けられ、5つの実施例及び3つの比較例における3つのタンクの開放状況も表5に示すとおりである。
【表5】
【0057】
(6)ステルモア徐冷
前記温度制御圧延工程で得られた線材を、保温カバー及び送風機の吹き出し口が全て閉じられた状態で、線材の相変態温度区間での冷却速度≦0.8℃/sとしてステルモア徐冷ライン上で徐冷する。5つの実施例及び3つの比較例のステルモア徐冷ラインの全ての保温カバーの合計長さ、入口ローラーテーブル速度、出口ローラーテーブル速度等は表6に示すとおりである。
【0058】
ここで、赤外線温度計によって線材の各保温カバー間での温度を測定し、それに基づいて線材の相変態温度区間での冷却速度を計算し、重なり部の冷却速度及び非重なり部の冷却速度はそれぞれ表6に示すとおりである。前記重なり部とは、隣接する周の線材の接触する領域を指し、前記非重なり部とは、異なる周の線材の互いに接触しない領域を指す。
【表6】
【0059】
5つの実施例及び3つの比較例ではそれぞれ上記生産方法に従って、最終の線材製品を製造し、得られた線材を検査する。
【0060】
ここで、完成品線材の化学成分及び重量パーセント(数値単位%)は表7に示すとおりである。そのうち、5つの実施例の線材は、質量パーセントで、C 0.03~0.08%、Si 0.5~1.0%、Mn 1.4~1.8%、S 0.013~0.1%、P ≦0.0015%、Ni ≦0.8%、Cr ≦0.4%、Mo ≦0.4%の化学成分を含み、残部がFe及び不可避的不純物であることを満たし、さらに、液相線温度T=1537-88[C]-8[Si]-5[Mn]-30[P]-25[S]、固相線温度T=1536-415[C]-12[Si]-6.8[Mn]-125[P]-184[S]、25℃≦T-T≦45℃、及びオーステナイト変態開始温度Ar3=910-310[C]-80[Mn]-55[Ni]-15[Cr]-80[Mo]、ベイナイト変態開始温度Bs=830-270[C]-90[Mn]-37[Ni]-70[Cr]-83[Mo]、30℃≦Ar3-Bs≦80℃とすることも満たす。
【表7】
【0061】
測定された線材の組織及び力学的性能は表8に示すとおりである。
【表8】
【0062】
(7)引き抜き
前記ステルモア徐冷工程から得られた線材を直径1.2mmの溶接ワイヤに引き抜きし、該溶接ワイヤをガスシールド溶接に適用し、(Ar+20%CO)をシールドガスとして用いて溶着溶接試験を行った。その結果、溶接電流220~230A、溶接電圧25Vで測定された溶接継目金属の引張強度、-40℃衝撃エネルギーは表9に示すとおりである。
【表9】
【0063】
実施検証の上に、実施例1~5のうちの一部の実施例における溶接継目部分の写真を示す図1を参照すると、実施例1~5において本実施形態に記載の化学組成及び生産方法を用いて生産した完成品線材は、溶接ワイヤに引き抜きする時に優れた溶接プロセス性能を有し、全姿勢溶接に使用する時に溶接継目の表面が均一で滑らかであり、溶接ビードが美しく成形されることが分かる。比較例6~8のうちの一部の実施例の溶接継目部分の写真を示す図2を参照すると、比較例6~8における一部の元素の含有量及び重要な生産プロセスパラメータは本実施形態の範囲外であり、溶接ワイヤに引き抜きする時に溶接プロセス性能が悪く、全姿勢溶接に使用する時に溶接継目の表面が粗く、明らかな滴下痕があることが分かる。
【0064】
以上に記載の実施例は単に本発明の具体的な実施形態を示すものに過ぎず、本発明の特許範囲を限定するものと理解すべきではない。当業者が本発明の思想をヒントに本発明に対して行ったいかなる修正も、本発明の保護範囲に属するものとする。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-07-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量パーセントで、C 0.03~0.08%、Si 0.5~1.0%、Mn 1.4~1.8%、S 0.013~0.1%、P ≦0.0015%、Ni ≦0.8%、Cr ≦0.4%、Mo ≦0.4%の化学成分を含み、残部がFe及び不可避的不純物であるガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材であって、C、Si、Mn、P、Sの質量パーセントが、液相線温度T=1537-88[C]-8[Si]-5[Mn]-30[P]-25[S]、固相線温度T=1536-415[C]-12[Si]-6.8[Mn]-125[P]-184[S]、25℃≦T-T≦45℃とすることを満たすことを特徴とする、ガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材。
【請求項2】
C、Mn、Ni、Cr、Moの質量パーセントが、オーステナイト変態開始温度Ar3=910-310[C]-80[Mn]-55[Ni]-15[Cr]-80[Mo]、ベイナイト変態開始温度Bs=830-270[C]-90[Mn]-37[Ni]-70[Cr]-83[Mo]、30℃≦Ar3-Bs≦80℃とすることを満たすことを特徴とする、請求項1に記載のガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材。
【請求項3】
質量パーセントで、C 0.03~0.08%、Si 0.5~1.0%、Mn 1.4~1.8%、S 0.013~0.1%、P ≦0.0015%、Ni ≦0.8%、Cr ≦0.4%、Mo ≦0.4%の化学成分を含み、残部がFe及び不可避的不純物であるガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材であって、C、Si、Mn、P、Sの質量パーセントが、液相線温度T =1537-88[C]-8[Si]-5[Mn]-30[P]-25[S]、固相線温度T =1536-415[C]-12[Si]-6.8[Mn]-125[P]-184[S]、25℃≦T -T ≦45℃とすることを満たすことを特徴とする、ガスシールド溶接ワイヤ。
【請求項4】
溶鋼製錬工程と、
精錬工程と、
精錬によって得られた溶鋼を鋼ビレットに鋳造する鋼ビレット鋳造工程と、
得られた鋼ビレットを加熱炉で温度制御しつつ加熱する温度制御加熱工程と、
前記温度制御加熱工程で得られた鋼ビレットをデスケーリング水圧≧18MPaの高圧水でデスケーリングして線材に圧延し、機械加工された圧延溝が採用された中間圧延機を用い、線材を圧延終了後に集中冷却し、冷却後に巻き取る圧延工程と、
記圧延工程で得られた線材を、保温カバー及び送風機の吹き出し口が全て閉じられた状態で、線材の相変態温度区間での冷却速度≦0.8℃/sとしてステルモア徐冷ライン上で徐冷するステルモア徐冷工程と、
を順に含むことを特徴とする、請求項1に記載のガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材の生産方法。
【請求項5】
前記ステルモア徐冷ライン上で、全ての保温カバーの合計長さ>80mであり、ステルモア徐冷ラインの入口ローラーテーブル速度≦0.18m/sであり、その出口ローラーテーブル速度≦0.40m/sであることを特徴とする、請求項4に記載のガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材の生産方法。
【請求項6】
記圧延工程で、圧延開始温度が970~1000℃であり、仕上げ圧延機入口温度≦880℃であり、巻取温度が880~910℃であることを特徴とする、請求項4に記載のガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材の生産方法。
【請求項7】
前記精錬工程で、精錬時に白色スラグ生成によって脱酸素と脱硫を行い、精錬時間≧35minで白色スラグ生成時間≧15minとし、フェロチタンワイヤ投入前に他の合金の含有量が目標範囲を満たすように調整し、精錬後期のソフト撹拌時間≧15minとして、前記溶鋼製錬工程から得られた溶鋼をLF炉内で精錬することを特徴とする、請求項4に記載のガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材の生産方法。
【請求項8】
前記鋼ビレット鋳造工程で、溶鋼過熱度を18~35℃とし、鋳造ビレットの鋳造速度を2.5~2.7m/minで一定に保持して、前記精錬工程から得られた溶鋼の完全保護鋳造を行うことを特徴とする、請求項4に記載のガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材の生産方法。
【請求項9】
前記温度制御加熱工程で、加熱部の温度を960~1020℃とし、均熱部の温度を1080~1120℃とすることを特徴とする、請求項4に記載のガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材の生産方法。
【請求項10】
前記溶鋼製錬工程で、溶銑と鋼スクラップとからなる製錬原料を転炉内で製錬し、溶銑の前記製錬原料に占める重量パーセント>90%であり、1/3出鋼時にフェロシリコン合金、シリコマンガン合金、低炭素フェロマンガン合金、石灰をこの順に溶鋼中に加えることを特徴とする、請求項4に記載のガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材の生産方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
上記発明目的を実現するために、本発明の一実施形態は、
溶鋼製錬工程と、
精錬工程と、
精錬によって得られた溶鋼を鋼ビレットに鋳造する鋼ビレット鋳造工程と、
得られた鋼ビレットを加熱炉で温度制御しつつ加熱する温度制御加熱工程と、
前記温度制御加熱工程で得られた鋼ビレットをデスケーリング水圧≧18MPaの高圧水でデスケーリングして線材に圧延し、機械加工された圧延溝が採用された中間圧延機を用い、線材を圧延終了後に集中冷却し、冷却後に巻き取る圧延工程(以下において、温度制御圧延工程と表すことがある)と、
前記温度制御圧延工程で得られた線材を、保温カバー及び送風機の吹き出し口が全て閉じられた状態で、線材の相変態温度区間での冷却速度≦0.8℃/sとしてステルモア徐冷ライン上で徐冷するステルモア徐冷工程と、
を順に含む、前記ガスシールド溶接ワイヤ用鋼線材を製造する生産方法を提供する。
【国際調査報告】