(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】正極板、その調製方法およびナトリウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20250109BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20250109BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20250109BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20250109BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20250109BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250109BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20250109BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20250109BHJP
H01M 4/1397 20100101ALI20250109BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20250109BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/58
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 E
H01M4/62 Z
H01M4/136
H01M4/1391
H01M4/1397
H01M10/054
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023554324
(86)(22)【出願日】2022-12-09
(85)【翻訳文提出日】2023-09-05
(86)【国際出願番号】 CN2022138078
(87)【国際公開番号】W WO2024113407
(87)【国際公開日】2024-06-06
(31)【優先権主張番号】202211514774.7
(32)【優先日】2022-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523338990
【氏名又は名称】ジャンスー パイロン バッテリー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU PYLON BATTERY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No. 7, Keyan 3rd Road, Yizheng Development Zone Yangzhou City, Jiangsu 211400 China
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ルアン,ゼウェン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,チェン
(72)【発明者】
【氏名】フゥー,シュエピン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,イーシゥアン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,チンヘン
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK18
5H029AM02
5H029CJ02
5H029CJ03
5H029CJ08
5H029CJ28
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ05
5H029HJ08
5H029HJ14
5H029HJ15
5H050AA02
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050DA02
5H050DA10
5H050EA08
5H050EA09
5H050EA24
5H050EA28
5H050FA16
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA08
5H050HA14
5H050HA15
(57)【要約】
本出願は、電池の技術分野に属し、具体的に、正極板、その調製方法およびナトリウムイオン電池に関する。正極板は、集電体と、前記集電体の少なくとも一側の表面に形成された正極材料層とを含み、前記正極材料層は、層状遷移金属酸化物とポリアニオン化合物とを含み、前記層状遷移金属酸化物と前記ポリアニオン化合物との質量比は、
【数1】
であり、ρ
1が前記層状遷移金属酸化物の真密度であり、ρ
2が前記ポリアニオン化合物の真密度であり、ρ
1/ρ
2が1.25≦ρ
1/ρ
2≦1.86を満たし、前記層状遷移金属酸化物の粒径分布は、
【数2】
を満たし、前記ポリアニオン化合物の粒径D’
50は、
【数3】
を満たす。本出願に係る正極板は、空気安定性が効果的に改善されるとともに、プレス密度がより高く、電気化学的性能が優れる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、前記集電体の少なくとも一側の表面に形成された正極材料層とを含み、
前記正極材料層は、層状遷移金属酸化物とポリアニオン化合物とを含み、
前記層状遷移金属酸化物の化学式は、Na
xMO
2を含み、
xが0.6≦x≦1.0を満たし、
Mが、Fe、Mn、Cr、Ni、Co、Cu、Mg、ZrおよびTiの少なくとも1種を含み、
前記ポリアニオン化合物の化学式は、NaAPO
4、Na
yE
2(XO
4)
3およびNa
2QP
2O
7の少なくとも1種を含み、
AがFeおよびMnの少なくとも一方を含み、
yが1≦y≦4を満たし、
EがV、Fe、Ni、MnおよびTiの少なくとも1種を含み、
XがP、SおよびSiの少なくとも1種を含み、
QがFe、MnおよびCoの少なくとも1種を含み、
前記層状遷移金属酸化物と前記ポリアニオン化合物との質量比は、
【数1】
であり、
ρ
1が前記層状遷移金属酸化物の真密度であり、
ρ
2が前記ポリアニオン化合物の真密度であり、
ρ
1/ρ
2が1.25≦ρ
1/ρ
2≦1.86を満たし、
前記層状遷移金属酸化物の粒径分布は、
【数2】
を満たし、
前記ポリアニオン化合物の粒径D’
50は、
【数3】
を満たす
ことを特徴とする正極板。
【請求項2】
前記ρ
1の範囲は、4.4~4.65g/cm
3であり、
前記ρ
2の範囲は、2.5~3.5g/cm
3である
ことを特徴とする請求項1に記載の正極板。
【請求項3】
(1)前記層状遷移金属酸化物の粒径D50は、4~12μmであること、
(2)前記層状遷移金属酸化物の粒径D10は、1.27~3.82μmであること、
(3)前記ポリアニオン化合物の粒径D’
50は、0.41~1.24μmであること、
の特徴(1)~(3)の少なくとも1つを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の正極板。
【請求項4】
(1)前記正極材料層には導電剤およびバインダーがさらに含まれること、
(2)前記導電剤は、カーボンナノチューブ、導電性カーボンブラック、導電性黒鉛、グラフェンおよび炭素繊維の少なくとも1種を含むこと、
(3)前記バインダーは、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン酸、ポリアクリロニトリル、スチレン・ブタジエンゴムおよびポリイミドの少なくとも1種を含むこと、
(4)前記導電剤と前記バインダーとの質量の合計は、前記正極材料層の質量の5%以下であること、
(5)前記正極材料層において、導電剤とバインダーとの質量比は、(1.5~3.5):(1.5~3.5)であること、
の特徴(1)~(5)の少なくとも1つを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の正極板。
【請求項5】
前記正極板のプレス密度は、3.0~3.6g/cm
3である
ことを特徴とする請求項1に記載の正極板。
【請求項6】
層状遷移金属酸化物とポリアニオン化合物とを含む正極スラリーを調製するステップと、
前記正極スラリーを前記集電体の少なくとも一側の表面に塗布し、乾燥、プレスを行うステップとを含む
ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の正極板の調製方法。
【請求項7】
前記正極スラリーには導電剤、バインダーおよび溶剤がさらに含まれる
ことを特徴とする請求項6に記載の正極板の調製方法。
【請求項8】
前記バインダーを前記溶剤に溶解して、導電剤を入れて均一に混合し、導電性スラリーを得るステップと、
前記導電性スラリーと、前記層状遷移金属酸化物と、前記ポリアニオン化合物とを均一に混合し、正極スラリーを得るステップとを含む
ことを特徴とする請求項7に記載の正極板の調製方法。
【請求項9】
(1)前記乾燥の温度は、75~120℃であること、
(2)前記プレスに使用する圧力は、20~100MPaであること、
の特徴(1)~(2)の少なくとも1つを含む
ことを特徴とする請求項6に記載の正極板の調製方法。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載の正極板を含む
ことを特徴とするナトリウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、電池の技術分野に属し、具体的に、正極板、その調製方法およびナトリウムイオン電池に関する。
【0002】
関係出願の相互参照
本出願は、2022年11月29日に中国専利局に提出された、出願番号が202211514774.7であり、名称が「正極板、その調製方法およびナトリウムイオン電池」である中国出願に基づいて優先権を主張し、その内容のすべては本出願に参照として取り込まれる。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池が電気自動車分野で広く応用されることに伴い、リチウム資源への需要が大幅に増加している。しかしながら、地殻中のリチウム元素の埋蔵量がわずか0.0017%であり、そして、リチウム資源を効果的に回収できる技術がなかった。大規模エネルギー貯蔵の需要および電気自動車などの分野の需要を満たすことができない。したがって、エネルギー源の持続可能な発展や利用の面から、コストが低く、安全性が高く、サイクル寿命が長い新しい二次電池系を見出すことが重要である。地殻中のナトリウム元素の埋蔵量が約2.36%(質量分率)を占め、リチウム元素の埋蔵量よりはるかに高く、ナトリウム元素が広く分布しており、コストが低い。そして、ナトリウムとリチウムとが同族元素であり、どちらを使用しても、電池の仕事時は「ロッキングチェア型」電気化学充放電となる。このため、性能が高く、コストが低いナトリウムイオン電池技術の開発は、大規模エネルギー貯蔵および電気自動車などの分野の持続可能な発展にとって重要である。
【0004】
現在、最も期待されているナトリウムイオン電池正極材料には、主に層状遷移金属酸化物、ポリアニオン化合物がある。層状遷移金属酸化物は、比容量がより高いため、高いエネルギー密度の要求をより満たすことができるが、空気安定性が劣り、空気における水分子の水素イオンとイオン交換反応しやすく、材料の表面でNa2CO3、NaHCO3およびNaOHなどのアルカリ性酸化物が生成し、直接水分子を吸収して層間結晶水とし、この場合、材料の結晶構造が変わり、材料の結晶性が低下し、材料の表面で形成された比較的強いアルカリ性環境によりバインダーが脱フッ素化されて失効になり、そしてアルカリが両性金属特性を備える集電体のアルミ箔を腐食し、電池の性能を大きく損なってしまう。従来、業界で常用の解決案として、材料の層状遷移金属酸化物をミクロンオーダーの多結晶粒子または単結晶粒子にし、加えてドーピングまたは被覆により改善を行うが、材料の空気安定性を効果的に改善することができない。ポリアニオン化合物は、骨格構造が安定で、サイクル性能が優れ、空気安定性が優れるので注目されているが、固有電子導電率が劣って材料の大規模使用が制限される。現在、主な改善方法としてナノ化および炭素複合があるが、これらの方法を使用する場合、材料の体積エネルギー密度が低下してしまう。
【0005】
これに鑑みて、本出願を考案した。
【発明の概要】
【0006】
本出願の目的の1つは、従来技術における正極板の空気安定性が劣り、体積エネルギー密度が低い技術的問題が解決される、正極板を提供することである。
【0007】
本出願のもう1つの目的は、前記正極板の調製方法を提供することである。
【0008】
本出願のもう1つの目的は、ナトリウムイオン電池を提供することである。
【0009】
本出願の上記の目的を実現するため、下記の技術案を採用する。
正極板は、集電体と、前記集電体の少なくとも一側の表面に形成された正極材料層とを含み、前記正極材料層は、層状遷移金属酸化物とポリアニオン化合物とを含み、前記層状遷移金属酸化物の化学式は、Na
xMO
2を含み、xが0.6≦x≦1.0を満たし、Mが、Fe、Mn、Cr、Ni、Co、Cu、Mg、ZrおよびTiの少なくとも1種を含み、前記ポリアニオン化合物の化学式は、NaAPO
4、Na
yE
2(XO
4)
3およびNa
2QP
2O
7の少なくとも1種を含み、AがFeおよびMnの少なくとも一方を含み、yが1≦y≦4を満たし、EがV、Fe、Ni、MnおよびTiの少なくとも1種を含み、XがP、SおよびSiの少なくとも1種を含み、QがFe、MnおよびCoの少なくとも1種を含み、前記層状遷移金属酸化物と前記ポリアニオン化合物との質量比は、
【数1】
であり、ρ
1が前記層状遷移金属酸化物の真密度であり、ρ
2が前記ポリアニオン化合物の真密度であり、ρ
1/ρ
2が1.25≦ρ
1/ρ
2≦1.86を満たし、前記層状遷移金属酸化物の粒径分布は、
【数2】
を満たし、前記ポリアニオン化合物の粒径D’
50は、
【数3】
を満たす。
【0010】
一実施形態において、前記ρ1の範囲は、4.4~4.65g/cm3であり、前記ρ2の範囲は、2.5~3.5g/cm3である。
【0011】
一実施形態において、前記層状遷移金属酸化物の粒径D50は、4~12μmである。
【0012】
一実施形態において、前記層状遷移金属酸化物の粒径D10は、1.27~3.82μmである。
【0013】
一実施形態において、前記ポリアニオン化合物の粒径D’50は、0.41~1.24μmである。
【0014】
一実施形態において、前記正極材料層には導電剤およびバインダーがさらに含まれる。
【0015】
一実施形態において、前記導電剤は、カーボンナノチューブ、導電性カーボンブラック、導電性黒鉛、グラフェンおよび炭素繊維の少なくとも1種を含む。
【0016】
一実施形態において、前記バインダーは、ポリフッ化ビニリデンを含む。
【0017】
一実施形態において、前記導電剤と前記バインダーとの質量の合計は、前記正極材料層の質量の5%以下である。
【0018】
一実施形態において、前記正極材料層において、導電剤とバインダーとの質量比は、(1.5~3.5):(1.5~3.5)である。
【0019】
一実施形態において、前記正極板のプレス密度は、3.0~3.6g/cm3である。
【0020】
前記正極板の調製方法は、層状遷移金属酸化物とポリアニオン化合物とを含む正極スラリーを調製するステップと、前記正極スラリーを前記集電体の少なくとも一側の表面に塗布し、乾燥、プレスを行うステップとを含む。
【0021】
一実施形態において、前記正極スラリーには導電剤、バインダーおよび溶剤がさらに含まれる。
【0022】
一実施形態において、前記正極スラリーの調製方法は、前記バインダーを前記溶剤に溶解して、導電剤を入れて均一に混合し、導電性スラリーを得るステップと、前記導電性スラリーと、前記層状遷移金属酸化物と、前記ポリアニオン化合物とを均一に混合し、正極スラリーを得るステップとを含む。
【0023】
一実施形態において、前記乾燥の温度は、75~120℃である。
【0024】
一実施形態において、前記プレスに使用する圧力は、20~100MPaである。
【0025】
ナトリウムイオン電池は、前記正極板を含む。
【0026】
従来技術に比べて、本出願は、下記の有益な効果を有する。
【0027】
(1)本出願は、遷移金属酸化物とポリアニオン化合物との粒度関係、粒度分布、質量比関係を制御することにより、得られた正極板は、空気安定性が効果的に改善されるとともに、プレス密度がより高く、電気化学的性能が優れる。
【0028】
(2)本出願に係る正極板の調製方法は、簡単で容易に実行でき、層状遷移金属酸化物とポリアニオン化合物とを含む正極スラリーを集電体の少なくとも一側の表面に塗布し、乾燥、プレスを行えばよい。
【0029】
(3)本出願に係るナトリウムイオン電池は、電気化学的性能が優れる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本出願の具体的な実施形態または従来技術における技術案をより明瞭に説明するため、以下、具体的な実施形態または従来技術に用いられる図面を簡単に説明する。なお、説明する図面は、本出願のいくつかの実施形態を示すものにすぎない。当業者は、発明能力を用いなくても、これらの図面に基づいて他の図面を得ることが可能である。
【
図1】本出願の実施例1による電池セルの放電曲線図である。
【
図2】本出願の実施例3による電池セルのサイクル維持率曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、実施例を参照しながら本出願の実施案を詳細に説明する。当業者であれば分かるように、下記の実施例は、本出願を説明するためのものにすぎず、本出願の範囲を限定するものではない。実施例において、具体的な条件を明記しないことについて、従来の条件またはメーカーの推奨する条件下で行うことが可能である。製造メーカーが明記されていない試剤または器械について、市販の従来品を使用することが可能である。
【0032】
正極板は、集電体と、前記集電体の少なくとも一側の表面に形成された正極材料層とを含み、前記正極材料層は、層状遷移金属酸化物とポリアニオン化合物とを含む。
【0033】
前記層状遷移金属酸化物の化学式は、NaxMO2を含み、xが0.6≦x≦1.0を満たし、Mが、Fe、Mn、Cr、Ni、Co、Cu、Mg、ZrおよびTiの少なくとも1種を含む。
【0034】
前記ポリアニオン化合物の化学式は、NaAPO
4、Na
yE
2(XO
4)
3およびNa
2QP
2O
7の少なくとも1種を含み、AがFeおよびMnの少なくとも一方を含み、yが1≦y≦4を満たし、EがV、Fe、Ni、MnおよびTiの少なくとも1種を含み、XがP、SおよびSiの少なくとも1種を含み、QがFe、MnおよびCoの少なくとも1種を含む。
前記層状遷移金属酸化物と前記ポリアニオン化合物との質量比(前記層状遷移金属酸化物/前記ポリアニオン化合物)は、
【数4】
であり、ρ
1が前記層状遷移金属酸化物の真密度であり、ρ
2が前記ポリアニオン化合物の真密度であり、ρ
1/ρ
2が1.25≦ρ
1/ρ
2≦1.86を満たす。
前記層状遷移金属酸化物の粒径分布は、
【数5】
を満たす。
前記ポリアニオン化合物の粒径D’
50は、
【数6】
を満たす。
【0035】
本出願は、遷移金属酸化物とポリアニオン化合物との粒度関係、粒度分布、質量比関係を制御することにより、得られた正極板は、空気安定性が効果的に改善されるとともに、プレス密度がより高く、電気化学的性能が優れる。
【0036】
真密度(True Density)とは、完全密閉した状態での材料の単位体積当たりの固体物質の実際の質量のことで、すなわち内部空隙または粒子間の隙間を除いた密度のことである。測定方法は、GB/T 24586-2009を参照する。
【0037】
層状遷移金属酸化物は複数種選択された場合、ρ1が複数種の層状遷移金属酸化物の真密度の平均値であり、ポリアニオン化合物は複数種選択された場合、ρ2が複数種のポリアニオン化合物の真密度の平均値である。
【0038】
本出願のメカニズムは、下記のことを含む。すべての粒子を球状粒子として仮定し、粒子を大きい順で順に一級粒子、二級粒子、三級粒子、四級粒子などに分類した場合、球状粒子が最密に堆積し、二級粒子が一級粒子の間に充填され、三級粒子が一級粒子および二級粒子の間に充填され、他の粒子もこのように充填される。一級粒子の空隙率が約38%であり、二級粒子の空隙率が約15%であり、三級粒子の空隙率が約5%であり、四級粒子の空隙率が約2.0%である。サイズの異なる粒子が3種のレベルを有したあと、さらにより小さい粒子を充填しても、空隙率を大幅に下げて粒子の体積密度を高めることができないため、本出願は、三つのレベルの粒子の堆積に基づくものであり、遷移金属酸化物のD50を一級粒子の粒径とし、遷移金属酸化物のD10を二級粒子の粒径とし、ポリアニオン化合物のD50を三級粒子の粒径とするように三つのレベルの粒子を充填、堆積し、一級粒子のサイズに基づいて二級粒子のサイズ、三級粒子のサイズをそれぞれ算出することができ、三つのレベルの粒子の組み合わせ(遷移金属酸化物のD50、遷移金属酸化物のD10およびポリアニオン化合物のD50)によれば、堆積密度(極板のプレス密度/体積密度に対応)を効果的に高めることができる。
【0039】
各レベルの粒子のサイズを得たあと、層状遷移金属酸化物の空気に対する敏感度を改善するため、層状遷移金属酸化物と空気との接触を遮断するように少なくとも極板におけるポリアニオン化合物を層状酸化物の外層に均一に分布させる必要がある。すべての粒子が球体であると仮定し、遷移金属酸化物のD50およびポリアニオン化合物のD50のそれぞれを平均粒径とし、これによってそれぞれに対応する金属酸化物球状粒子の表面積を算出することができる。所望の効果(ポリアニオン化合物により遷移金属酸化物を中央に被覆する)を得るため、さらにポリアニオン化合物を球体と仮定し、すべての球体の表面積の合計が層状酸化物の表面積以上であり、したがって、両者の面積に基づいて両者の粒子数関係を得ることができ、そして両者の粒子サイズ、粒子数、真密度に基づいて、2種の材料の質量関係を得ることができる。
【0040】
したがって、粒径分布、質量比などのパラメータを制御することにより、プレス密度を高め、材料の空気に対する敏感度を低減することができ、プレス密度を高めるとともに、ある程度で空隙を減らし、したがって金属酸化物と空気との接触を抑えることができる。金属酸化物は、容量が高く、サイクル性能が劣り、ポリアニオン化合物は、容量が低く、サイクル性能が良好で、金属酸化物を主体として一部のポリアニオン化合物と複合させることにより、比較的高い容量を保証するとともに、サイクル性能を向上させることができる。
一実施形態において、前記ポリアニオン化合物の粒径D’
50は、
【数7】
を満たす
。
【0041】
一実施形態において、xは、0.6、0.7、0.8、0.9または1.0を含むが、これらに限定されない。層状遷移金属酸化物の化学式は、NaNi1/3Fe1/3Mn1/3O2、NaNi1/3Fe1/3Mg1/3O2、NaNi1/5Fe2/5Mn2/5O2、NaNi1/3Fe1/3Ti1/3O2、NaNi3/9Fe3/9Mn2/9Zr1/9O2、Na0.9Cu0.25Fe0.3Mn0.45O2、Na2/3Ni1/3Mn5/6Ti1/6O2、Na0.75MnO2、Na2/3Mn2/3Ni1/3O2、Na2/3Mn5/9Ni3/9Cr1/9O2またはNaNi1/5Fe1/5Cu1/5Mn2/5O2などを含む。
【0042】
一実施形態において、前記ポリアニオン化合物NaAPO4は、NaFePO4またはNaMnPO4である。一実施形態において、NayE2(XO4)3において、yが1、2、3、4を含むが、これらに限定されない。NayE2(XO4)3は、NaV2(PO4)3、NaFe2(PO4)3、NaNi2(PO4)3、NaTi2(PO4)3、NaV2(SO4)3、NaV2(SiO4)3などであり得る。一実施形態において、Na2QP2O7は、Na2FeP2O7、Na2MnP2O7、Na2CoP2O7である。
【0043】
一実施形態において、前記ρ1の範囲は、4.4~4.65g/cm3であり、例えば、4.5g/cm3、4.52g/cm3または4.6g/cm3などであり、前記ρ2の範囲は、2.5~3.5g/cm3であり、例えば、2.64g/cm3、2.72g/cm3、2.8g/cm3、3g/cm3または3.2g/cm3などである。
【0044】
一実施形態において、ρ1/ρ2は、1.3、1.4、1.46、1.5、1.52、1.6または1.8などを含むが、これらに限定されない。
【0045】
一実施形態において、前記層状遷移金属酸化物の粒径D50は、4~12μmであり、例えば、5.03μm、6.87μm、7.4μm、8μm、9μmまたは10μmなどである。
【0046】
一実施形態において、前記層状遷移金属酸化物の粒径D10は、1.27~3.82μmであり、例えば、1.3μm、1.52μm、1.83μm、2.44μm、2.5μm、2.8μm、3μm、3.15μm、3.5μmまたは3.76μmなどである。
【0047】
一実施形態において、前記ポリアニオン化合物の粒径D’50は、0.41~1.24μmであり、例えば、0.44μm、0.51μm、0.62μm、0.7μm、0.9μm、1μmまたは1.2μmなどである。
【0048】
一実施形態において、前記正極材料層には導電剤およびバインダーがさらに含まれる。
【0049】
一実施形態において、前記導電剤は、カーボンナノチューブ(CNT)、導電性カーボンブラック(SP)、導電性黒鉛、グラフェンおよび炭素繊維の少なくとも1種を含む。一実施形態において、導電剤は、導電性カーボンブラックおよびカーボンナノチューブであり、導電性カーボンブラックとカーボンナノチューブとの質量比は、(1~3):0.5であり、例えば、1:0.5、1.5:0.5、2:0.5、2.5:0.5、2.8:0.5などである。
【0050】
一実施形態において、バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン酸、ポリアクリロニトリル、スチレン・ブタジエンゴムおよびポリイミドの少なくとも1種を含む。
【0051】
一実施形態において、前記導電剤と前記バインダーとの質量の合計は、前記正極材料層の質量の5%以下であり、例えば、0.5%、0.8%、1%、1.5%、2%、3%、4%、4.8%などである。一実施形態において、前記導電剤と前記バインダーとの質量の合計は、前記正極材料層の質量の1%~4.8%である。
【0052】
一実施形態において、前記正極材料層において、導電剤とバインダーとの質量比は、(1.5~3.5):(1.5~3.5)であり、例えば、1.5:3.5、2:3、3.5:1.5などである。
【0053】
一実施形態において、前記正極板のプレス密度は、3.0~3.6g/cm3であり、例えば、3.1g/cm3、3.2g/cm3、3.3g/cm3、3.4g/cm3、3.5g/cm3などである。
【0054】
本出願の他の局面として、本出願は、前記正極板の調製方法をさらに提供する。前記調製方法は、層状遷移金属酸化物とポリアニオン化合物とを含む正極スラリーを調製するステップと、前記正極スラリーを前記集電体の少なくとも一側の表面に塗布し、乾燥、プレスを行うステップとを含む。
【0055】
本出願に係る正極板の調製方法は、簡単で容易に実行でき、層状遷移金属酸化物とポリアニオン化合物とを含む正極スラリーを集電体の少なくとも一側の表面に塗布し、乾燥、プレスを行えばよい。
【0056】
一実施形態において、本出願に係る集電体は、アルミ箔または複合アルミ箔である。
【0057】
一実施形態において、前記正極スラリーに導電剤、バインダーおよび溶剤がさらに含まれる。一実施形態において、溶剤は、N-メチルピロリドン(NMP)を含む。
【0058】
正極スラリーの調製方法は、具体的に、バインダーを溶剤に溶解して、導電剤を入れて均一に分散させ、均一な導電性スラリーを得るステップと、層状遷移金属酸化物とポリアニオン化合物とを前記導電性スラリーに入れて均一に分散させ、正極スラリーを得るステップとを含む。
【0059】
一実施形態において、前記乾燥の温度は、75~120℃である。一実施形態において、前記乾燥の温度は、80℃、90℃、95℃、100℃、110℃または115℃などである。
【0060】
一実施形態において、前記プレスに使用する圧力は、20~100MPaである。一実施形態において、前記プレスに使用する圧力は、30MPa、40MPa、50MPa、60MPa、70MPa、80MPa、90MPa、95MPaなどである。
【0061】
本出願の他の局面として、本出願は、ナトリウムイオン電池をさらに提供する。前記ナトリウムイオン電池は、前記正極板を含む。本出願に係るナトリウムイオン電池は、電気化学的性能が優れる。
【0062】
以下、具体的な実施例、比較例を参照しながらさらに解釈、説明する。
【0063】
本出願の実施例1による電池セルの放電曲線図は、
図1に示されている。
【0064】
本出願の実施例3による電池セルのサイクル維持率曲線図は、
図2に示されている。
【実施例1】
【0065】
正極板の調製方法は、下記のステップを含む。
【0066】
(a)2.0質量部のPVDFをNMP溶剤に入れて溶解し、2.0質量部のSPと0.5部のCNTを導電剤として入れ、均一に分散させ、導電性スラリーS1を得た。
【0067】
(b)正極材料としての層状遷移金属酸化物NaNi1/3Fe1/3Mn1/3O275.5質量部と正極材料としてのポリアニオン化合物Na3V2(PO4)320.0質量部とをステップ(a)の第1導電性スラリーに入れ、均一に分散させてスラリーS2を得、正極材料としてのNaNi1/3Fe1/3Mn1/3O2は、D10=2.44μmであり、D50=6.87μmであり、真密度が4.50g/cm3であり、正極材料としてのNa3V2(PO4)3は、D50=0.51μmであり、真密度が3.24g/cm3であった。
【0068】
(c)上記のスラリーS2をアルミ箔に均一に塗布し、加熱乾燥、圧延を経て正極板を得た。
【0069】
本実施例による正極板と、負極と、セパレータと、電解液などとにより電池を組み立て、エージング、化成、老化などの工程を経て測定対象電池セルを得た。
【実施例2】
【0070】
正極板の調製方法について、層状遷移金属酸化物が88質量部であり、ポリアニオン化合物が7.5質量部であった点においてのみ実施例1と相違しており、その他の条件は実施例1と同じであった。
【実施例3】
【0071】
正極板の調製方法について、層状遷移金属酸化物は、Na0.9Cu0.25Fe0.3Mn0.45O2であり、粒径D10=1.83μmであり、粒径D50=5.03μmであり、真密度が4.55g/cm3であった点においてのみ実施例1と相違しており、その他の条件は実施例1と同じであった。
【実施例4】
【0072】
正極板の調製方法について、ポリアニオン化合物は、NaFePO4であり、粒径D50=0.44μmであり、真密度が3.14g/cm3であった点においてのみ実施例1と相違しており、その他の条件は実施例1と同じであった。
【実施例5】
【0073】
正極板の調製方法について、層状遷移金属酸化物は、質量比が1:1であるNaNi1/3Fe1/3Mn1/3O2とNa0.9Cu0.25Fe0.3Mn0.45O2とを含み、ポリアニオン化合物は、質量比が1:1:1であるNaFePO4とNa3V2(PO4)3とNa2MnP2O7とを含み、Na2MnP2O7の真密度が3.26g/cm3であった点においてのみ実施例1と相違しており、その他の条件は実施例1と同じであった。
【0074】
[比較例1]
正極板の調製方法は、下記のステップを含む。
【0075】
(a)2.0部のPVDFをNMP溶剤に入れて溶解し、2.0部のSPと0.5部のCNTを導電剤として入れ、均一に分散させ、導電性スラリーS1を得た。
【0076】
(b)正極材料としての層状遷移金属酸化物NaNi1/3Fe1/3Mn1/3O295.5部をS1に入れ、均一に分散させてスラリーS2を得、正極材料としてのNaNi1/3Fe1/3Mn1/3O2は、D10=2.44μmであり、D50=6.87μmであった。
【0077】
(c)上記のスラリーS2をアルミ箔に均一に塗布し、加熱乾燥、圧延を経て正極板を得た。
【0078】
本比較例による正極板と、負極と、セパレータと、電解液などとにより電池を組み立て、エージング、化成、老化などの工程を経て測定対象電池セルを得た。
【0079】
[比較例2]
正極板の調製方法は、下記のステップを含んだ。
【0080】
(a)2.0部のPVDFをNMP溶剤に入れて溶解し、2.0部のSPと0.5部のCNTを導電剤として入れ、均一に分散させ、導電性スラリーS1を得た。
【0081】
(b)正極材料としてのポリアニオン化合物Na3V2(PO4)395.5部をS1に入れ、均一に分散させてスラリーS2を得、正極材料としてのNa3V2(PO4)3のD50=0.51μmであった。
【0082】
(c)上記のスラリーS2をアルミ箔に均一に塗布し、加熱乾燥、圧延を経て正極板を得た。
【0083】
本比較例による正極板と、負極と、セパレータと、電解液などとにより電池を組み立て、エージング、化成、老化などのプロセスを経て測定対象電池セルを得た。
【0084】
[比較例3]
正極板の調製方法について、層状遷移金属酸化物は、粒径D10=2.8μmであり、粒径D50=15μmであり、真密度が4.49g/cm3であり、ポリアニオン化合物は、粒径D50=1.65μmであり、真密度が3.25g/cm3であった点においてのみ実施例1と相違しており、その他の条件が実施例1と同じであった。
【0085】
[実験例]
下記の方法により、実施例および比較例のそれぞれによる正極板およびナトリウムイオン電池に対して電気化学的性能テストを行った。
【0086】
一.残留アルカリ測定
湿度が26±3%である環境で正極板を12h保存し、そして極板における粉末材料をアルミ箔から分離してビーカーに移し、脱イオン水を入れて60s撹拌し、濾過し、濾液を電位差滴定装置の試料台に移し、塩酸を使用して電位差滴定を行い、測定により得た炭酸イオン、炭酸水素イオンをナトリウムイオンの含有量に換算した。含有量計算基準は、アルミ箔から分離したあとの正極粉末材料における層状遷移金属酸化物の質量である。
【0087】
二.容量測定
0.5Cのレートで4.0Vまで定電流かつ定電圧で充電し、終止電流が0.05Cであり、30min静置し、さらに0.5Cのレートで2.0Vまで定電流放電を行い、電池容量を記録し、正極板における活材料の質量に基づいて1g当たりの容量に換算して可逆容量として記録した。
【0088】
三.サイクル性能測定
45±2℃で、0.5Cのレートで4.0Vまで定電流かつ定電圧で充電し、終止電流が0.05Cであり、30min静置し、さらに0.5Cのレートで2.0Vまで定電流放電を行い、30min静置し、このように500回サイクルし、500回目の容量と初期容量との比を記録して容量維持率として記録した。
【0089】
測定結果は、表1に示されている。
【0090】
【0091】
表1から分かるように、本出願の各実施例において、粒径の大きい層状遷移金属酸化物と粒径の小さいポリアニオン化合物とを互いに充填し、ポリアニオン化合物を主要なものとし、導電剤とバインダーとを補助的なものとして層状遷移金属酸化物の表面に均一に分散させた。このようにすれば、一方で、正極板のプレス密度がより高く、電池のエネルギー密度を効果的に高めることができ、他方で、複合により得た正極板は、より良好な空気安定性およびサイクル性能を有する。
【0092】
実施例1に対して、比較例1による活材料として層状遷移金属酸化物のみを採用し、得られた正極板は、プレス密度が低く、500サイクル後の維持率が低かった。
【0093】
実施例1に対して、比較例2による活材料としてポリアニオン化合物のみを採用し、得られた正極板は、プレス密度が低く、可逆容量が低かった。
【0094】
実施例1に対して、比較例3による活材料の粒度分布が本出願の保護範囲内に属しなく、得られた正極板は、プレス密度が低く、サイクル維持率が低かった。
【0095】
上記の各実施例は、本出願の技術案を説明するためのものにすぎず、それを限定するものではない。上記の各実施例を参照しながら本出願を詳細に説明したが、当業者は、上記の各実施例に記載された技術案を変更してもよく、そのうちの一部またはすべての技術的特徴に対して均等置換を行ってもよい。これらの変更または置換は、該当する技術案の本質を本出願の各実施例の技術案の範囲から逸脱させていない。
【国際調査報告】