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特表2025-501042特定のアネレート化ナフトピラン異性体の組合せ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】特定のアネレート化ナフトピラン異性体の組合せ
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/02 20060101AFI20250109BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20250109BHJP
   C07D 311/78 20060101ALI20250109BHJP
   C08G 65/332 20060101ALI20250109BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20250109BHJP
   C08G 18/38 20060101ALI20250109BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C08L71/02
G02C7/10
C07D311/78 CSP
C08G65/332
C08G18/08 038
C08G18/38 076
C08L75/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519071
(86)(22)【出願日】2023-01-10
(85)【翻訳文提出日】2024-03-27
(86)【国際出願番号】 EP2023050442
(87)【国際公開番号】W WO2023135127
(87)【国際公開日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】102022100946.7
(32)【優先日】2022-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514073189
【氏名又は名称】ローデンシュトック ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイガント ウド
(72)【発明者】
【氏名】ロールフィング イヴェン
(72)【発明者】
【氏名】ツィンナー ヘルベルト
【テーマコード(参考)】
2H006
4J002
4J005
4J034
【Fターム(参考)】
2H006BE02
4J002CH05W
4J002CH05X
4J002CK05Y
4J002GC00
4J002GL00
4J002GP00
4J002GP01
4J005AA04
4J005AA12
4J005BD02
4J034CA32
4J034CB02
4J034HA01
4J034HA06
4J034MA12
4J034QB08
4J034RA13
(57)【要約】
本発明は、式(I)及び式(II)による特定のフォトクロミックアネレート化ナフトピラン異性体の組合せ、及びチオウレタンポリマーへのそれらの組込みに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)及び一般式(II)による2つの異なるフォトクロミックアネレート化ナフトピランの組合せ:
【化1】
(式(I)及び式(II)中、
nは0~1の整数を表し、pは10~50の整数を表し、
ラジカルR、R及びRはそれぞれ独立して、水素、臭素、塩素、フッ素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)シクロアルキルラジカル、(C~C)-チオアルキルラジカル、(C~C)-アルコキシラジカル、トリフルオロメチルラジカル、フェニルラジカル、4-メトキシフェニルラジカル、フェノキシラジカル、4-メトキシフェノキシラジカル、ベンジルラジカル、4-メトキシベンジルラジカル、ベンジルオキシラジカル、4-メトキシベンジルオキシラジカル、ビフェニルラジカル、ビフェニルオキシラジカル、ナフチルラジカル、ナフトキシラジカル、ジフェニルアミノラジカル、(4-メトキシフェニル)-フェニルアミノラジカル、ビス(4-メトキシフェニル)アミノラジカル、(4-エトキシフェニル)-フェニルアミノラジカル、ビス(4-エトキシフェニル)アミノラジカル、10,10-ジメチル-9,10-ジヒロドアクリジンラジカル、フェノチアジニルラジカル、フェノキサジニルラジカル、フェナジニルラジカル、カルバゾリルラジカル、1,2,3,4-テトラヒドロカルバゾリルラジカル、又は10,11-ジヒドロ-ジ-ベンズ[b,f]アゼピニルラジカルから選択される置換基を表すか、
又は、ラジカルR及びRは合わせて、-V-(CH-W-(式中、V及びWは独立して、-O-、-S-、-NC-、-CH-、-C(CH-、-C(C-又は-C(C-基から選択され、mは1~3の整数を表すが、但し、この数値が2又は3の場合、ベンゼン環は2つの隣接するCH基にアネレート化することもでき、さらにV又はWは、それらが-CH-を表す場合、各隣接するCH基と合わせて、アネレート化ベンゼン環を表すこともできる)の基を表し、
ラジカルR及びRはそれぞれ独立して、水素、臭素、塩素、フッ素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)シクロアルキルラジカル、(C~C)チオアルキルラジカル、(C~C)アルコキシラジカル、トリフルオロメチルラジカル、フェニルラジカル、フェノキシラジカル、ベンジルラジカル又はベンジルオキシラジカルから選択される置換基を表すか、
又は、ラジカルR及びRは合わせて、-X-(CH-Y-(式中、X及びYは独立して、-O-、-S-、-NC-、-CH-、-C(CH-、-C(C-又は-C(C-基から選択され、qは1~3の整数を表すが、但し、この数値が2又は3の場合、ベンゼン環は2つの隣接するCH基にアネレート化することもでき、さらにX又はYは、それらが-CH-を表す場合、各隣接するCH基と合わせて、アネレート化ベンゼン環を表すこともできる)の基を表し、
ラジカルR、R及びRはそれぞれ独立して、水素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)シクロアルキルラジカル、(C~C)アルコキシラジカル、フェニルラジカル又はベンジルラジカルから選択される置換基を表すか、
又は、ラジカルR及びRは合わせて、又はR及びRは合わせて、非置換、一置換又は二置換であってもよいアネレート化ベンゼン環を形成し、ここで、置換基は、水素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)アルコキシラジカル、フェニルラジカル又はベンジルラジカルから選択することができるか、
又は、ラジカルR及びRは合わせて、又はR及びRは合わせて、アネレート化ナフタレン環系、アネレート化ベンゾフラン環系、アネレート化ベンゾチオフェン環系、アネレート化3,3-ジメチルインデン環系又はアネレート化2H-クロメン環系を形成し、
ラジカルR、R10及びR11はそれぞれ独立して、(C~C)アルキルラジカル又はフェニルラジカルから選択される置換基を表す)。
【請求項2】
前記式(I)及び式(II)中、
前記ラジカルR、R及びRがそれぞれ独立して、水素、臭素、塩素、フッ素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)シクロアルキルラジカル、(C~C)-チオアルキルラジカル、(C~C)-アルコキシラジカル、トリフルオロメチルラジカル、フェニルラジカル、4-メトキシフェニルラジカル、フェノキシラジカル、4-メトキシフェノキシラジカル、ベンジルラジカル、4-メトキシベンジルラジカル、ベンジルオキシラジカル、4-メトキシベンジルオキシラジカル、ビフェニルラジカル、ビフェニルオキシラジカル、ナフチルラジカル、ナフトキシラジカル、ジフェニルアミノラジカル、(4-メトキシフェニル)-フェニルアミノラジカル、ビス(4-メトキシフェニル)アミノラジカル、(4-エトキシフェニル)-フェニルアミノラジカル、ビス(4-エトキシフェニル)アミノラジカル、10,10-ジメチル-9,10-ジヒロドアクリジンラジカル、フェノチアジニルラジカル、フェノキサジニルラジカル、フェナジニルラジカル、カルバゾリルラジカル、1,2,3,4-テトラヒドロカルバゾリルラジカル、又は10,11-ジヒドロ-ジ-ベンズ[b,f]アゼピニルラジカルから選択される置換基を表し、
前記ラジカルR及びRがそれぞれ独立して、水素、臭素、塩素、フッ素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)シクロアルキルラジカル、(C~C)チオアルキルラジカル、(C~C)アルコキシラジカル、トリフルオロメチルラジカル、フェニルラジカル、フェノキシラジカル、ベンジルラジカル又はベンジルオキシラジカルから選択される置換基を表し、
前記ラジカルR、R及びRがそれぞれ独立して、水素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)シクロアルキルラジカル、(C~C)アルコキシラジカル、フェニルラジカル又はベンジルラジカルから選択される置換基を表し、かつ、
前記ラジカルR、R10及びR11がそれぞれ独立して、(C~C)アルキルラジカル又はフェニルラジカルから選択される置換基を表す、請求項1に記載の組合せ。
【請求項3】
前記式(I)及び式(II)のもの以外のフォトクロミック色素、永久色素又は添加剤から選択される1つ以上の更なる成分を更に含む、請求項1又は2に記載の組合せ。
【請求項4】
前記式(I)及び式(II)中、前記ラジカルR、R10及びR11がそれぞれ独立して、(C~C)アルキルラジカルから選択される置換基を表し、好ましくは前記ラジカルR、R10及びR11がそれぞれメチルを表す、請求項1~3のいずれか一項に記載の組合せ。
【請求項5】
チオウレタンポリマーに導入するための、特に、あらゆる種類の眼鏡、例えば、矯正眼鏡、運転用眼鏡、スキー用ゴーグル、サングラス、オートバイ用ゴーグル用のレンズ及びグラスにおける眼科用途のための、保護ヘルメット等のバイザー用の、並びに、車両及び建設部門における、窓、保護スクリーン、カバー、屋根等の形態の日除け用途のための、請求項1~4のいずれか一項に記載の組合せの使用。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の組合せを含む、フォトトロピックチオウレタンポリマー。
【請求項7】
チオウレタンポリマーをベースとした0.1mm~1mmの薄いフォトトロピックチオウレタン機能層がポリマー基体上に重合されている二成分系であるか、又は、チオウレタンポリマーをベースとした0.1mm~1mmの薄いフォトトロピックチオウレタン機能層が2つのポリマー体の間に配置されているサンドイッチ系である、請求項6に記載のチオウレタンポリマーをベースとしたフォトトロピック製品。
【請求項8】
下記一般式(II)によるフォトクロミックアネレート化ナフトピラン:
【化2】
(式中、
nは0~1の整数を表し、pは10~50の整数を表し、
ラジカルR、R及びRはそれぞれ独立して、水素、臭素、塩素、フッ素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)シクロアルキルラジカル、(C~C)-チオアルキルラジカル、(C~C)-アルコキシラジカル、トリフルオロメチルラジカル、フェニルラジカル、4-メトキシフェニルラジカル、フェノキシラジカル、4-メトキシフェノキシラジカル、ベンジルラジカル、4-メトキシベンジルラジカル、ベンジルオキシラジカル、4-メトキシベンジルオキシラジカル、ビフェニルラジカル、ビフェニルオキシラジカル、ナフチルラジカル、ナフトキシラジカル、ジフェニルアミノラジカル、(4-メトキシフェニル)-フェニルアミノラジカル、ビス(4-メトキシフェニル)アミノラジカル、(4-エトキシフェニル)-フェニルアミノラジカル、ビス(4-エトキシフェニル)アミノラジカル、10,10-ジメチル-9,10-ジヒロドアクリジンラジカル、フェノチアジニルラジカル、フェノキサジニルラジカル、フェナジニルラジカル、カルバゾリルラジカル、1,2,3,4-テトラヒドロカルバゾリルラジカル、又は10,11-ジヒドロ-ジ-ベンズ[b,f]アゼピニルラジカルから選択される置換基を表すか、又は、ラジカルR及びRは合わせて、-V-(CH-W-(式中、V及びWは独立して、-O-、-S-、-NC-、-CH-、-C(CH-、-C(C-又は-C(C-基から選択され、mは1~3の整数を表すが、但し、この数値が2又は3の場合、ベンゼン環は2つの隣接するCH基にアネレート化することもでき、さらにV又はWは、それらが-CH-を表す場合、各隣接するCH基と合わせて、アネレート化ベンゼン環を表すこともできる)の基を表し、
ラジカルR及びRはそれぞれ独立して、水素、フッ素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)アルコキシラジカル、フェニルラジカル、フェノキシラジカル、ベンジルラジカル又はベンジルオキシラジカルから選択される置換基を表し、
ラジカルR、R及びRはそれぞれ独立して、水素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)シクロアルキルラジカル、(C~C)アルコキシラジカル、フェニルラジカル又はベンジルラジカルから選択される置換基を表し、
又は、ラジカルR及びRは合わせて、又はR及びRは合わせて、非置換、一置換又は二置換であってもよいアネレート化ベンゼン環を形成し、ここで、置換基は、水素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)アルコキシラジカル、フェニルラジカル又はベンジルラジカルから選択することができるか、
又は、ラジカルR及びRは合わせて、又はR及びRは合わせて、アネレート化ナフタレン環系、アネレート化ベンゾフラン環系、アネレート化ベンゾチオフェン環系、アネレート化3,3-ジメチルインデン環系又はアネレート化2H-クロメン環系を形成し、
ラジカルR、R10及びR11はそれぞれ独立して、(C~C)アルキルラジカル又はフェニルラジカルから選択される置換基を表す)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下記式(I)及び式(II)による特殊なフォトクロミックアネレート化ナフトピラン異性体の組合せ、及びチオウレタンポリマーへのそれらの組込みに関する。これらのフォトトロピックポリマーは、非常に安定で美的な暗色化の色相を特徴とする。加えて、この方法で、深く暗色化しまた非常に迅速に明色化するフォトトロピック製品を実現することができる。
【背景技術】
【0002】
チオウレタンポリマーは、1.60以上の高い屈折率を有するプラスチック眼鏡レンズとして最も広く普及している材料である。屈折率が高いほど、矯正眼鏡レンズを薄くすることができる。アクリレートポリマーとは対照的に、プラスチック眼鏡レンズに使用されるチオウレタン熱硬化性ポリマーの高密度三次元ポリマーマトリックスには、長波長UV線によって(無色の)ナフトピラン型を開環して(有色の)メロシアニン型を形成する余地がないため(図1も参照)、チオウレタンポリマーにフォトクロミック色素を組み込むことは未だ不可能である。これは、UV曝露時にチオウレタンポリマーの暗色化が観察され得ないことを意味する。この理由から、これまでは、フォトクロミックラッカーによる、特にスピンコーティングを使用した表面コーティングが、より高い屈折率を有するフォトトロピックプラスチック眼鏡レンズを製造するのに適する方法となっていた。しかしながら、このプロセスには、複雑で高価な技術システムが必要であり、単位時間当たりに比較的少ない製品しか生産することができないため、生産コストが比較的高くなるという欠点がある。
【0003】
特許文献1は、主に特殊なポリエーテル添加剤の使用を伴う内部着色型フォトトロピックチオウレタンポリマーを製造する方法を初めて記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許出願第3351573号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、特にチオウレタンポリマーに組み込むことにより、特許文献1において必須の特殊な添加剤を必要とすることなく、非常に安定で美的な暗色化の色相を特徴とするフォトトロピックポリマーをもたらす系を提供することである。ここで、特に内部着色によって組込みを達成することが可能であるとも言える。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、特許請求の範囲において特徴づけられる主題によって解決される。
【0007】
特に、下記一般式(I)及び一般式(II)による2つの異なる特定のフォトクロミックアネレート化ナフトピランの新規な組合せ:
【化1】
(式(I)及び式(II)中、
nは0~1の整数を表し、pは10~50の整数を表し、
ラジカルR、R及びRはそれぞれ独立して、水素、臭素、塩素、フッ素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)シクロアルキルラジカル、(C~C)-チオアルキルラジカル、(C~C)-アルコキシラジカル、トリフルオロメチルラジカル、フェニルラジカル、4-メトキシフェニルラジカル、フェノキシラジカル、4-メトキシフェノキシラジカル、ベンジルラジカル、4-メトキシベンジルラジカル、ベンジルオキシラジカル、4-メトキシベンジルオキシラジカル、ビフェニルラジカル、ビフェニルオキシラジカル、ナフチルラジカル、ナフトキシラジカル、ジフェニルアミノラジカル、(4-メトキシフェニル)-フェニルアミノラジカル、ビス(4-メトキシフェニル)アミノラジカル、(4-エトキシフェニル)-フェニルアミノラジカル、ビス(4-エトキシフェニル)アミノラジカル、10,10-ジメチル-9,10-ジヒロドアクリジンラジカル、フェノチアジニルラジカル、フェノキサジニルラジカル、フェナジニルラジカル、カルバゾリルラジカル、1,2,3,4-テトラヒドロカルバゾリルラジカル、又は10,11-ジヒドロ-ジ-ベンズ[b,f]アゼピニルラジカルから選択される置換基を表すか、
又は、ラジカルR及びRは合わせて、-V-(CH-W-(式中、V及びWは独立して、-O-、-S-、-NC-、-CH-、-C(CH-、-C(C-又は-C(C-基から選択され、mは1~3の整数を表すが、但し、この数値が2又は3の場合、ベンゼン環は2つの隣接するCH基にアネレート化することもでき、さらにV又はWは、それらが-CH-を表す場合、各隣接するCH基と合わせて、アネレート化ベンゼン環を表すこともできる)の基を表し、
ラジカルR及びRはそれぞれ独立して、水素、臭素、塩素、フッ素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)シクロアルキルラジカル、(C~C)チオアルキルラジカル、(C~C)アルコキシラジカル、トリフルオロメチルラジカル、フェニルラジカル、フェノキシラジカル、ベンジルラジカル又はベンジルオキシラジカルから選択される置換基を表すか、
又は、ラジカルR及びRは合わせて、-X-(CH-Y-(式中、X及びYは独立して、-O-、-S-、-NC-、-CH-、-C(CH-、-C(C-又は-C(C-基から選択され、qは1~3の整数を表すが、但し、この数値が2又は3の場合、ベンゼン環は2つの隣接するCH基にアネレート化することもでき、さらにX又はYは、それらが-CH-を表す場合、各隣接するCH基と合わせて、アネレート化ベンゼン環を表すこともできる)の基を表し、
ラジカルR、R及びRはそれぞれ独立して、水素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)シクロアルキルラジカル、(C~C)アルコキシラジカル、フェニルラジカル又はベンジルラジカルから選択される置換基を表すか、
又は、ラジカルR及びRは合わせて、又はR及びRは合わせて、非置換、一置換又は二置換であってもよいアネレート化ベンゼン環を形成し、ここで、置換基は、水素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)アルコキシラジカル、フェニルラジカル又はベンジルラジカルから選択することができるか、
又は、ラジカルR及びRは合わせて、又はR及びRは合わせて、アネレート化ナフタレン環系、アネレート化ベンゾフラン環系、アネレート化ベンゾチオフェン環系、アネレート化3,3-ジメチルインデン環系又はアネレート化2H-クロメン環系を形成し、
ラジカルR、R10及びR11はそれぞれ独立して、(C~C)アルキルラジカル又はフェニルラジカルから選択される置換基を表す)が提供される。
【0008】
好ましい実施の形態において、式(I)及び式(II)中、ラジカルR、R及びRがそれぞれ独立して、水素、臭素、塩素、フッ素、及び(C~C)アルキルラジカル、(C~C)-シクロアルキルラジカル、(C~C)-チオアルキルラジカル、(C~C)-アルコキシラジカル、トリフルオロメチルラジカル、フェニルラジカル、4-メトキシフェニルラジカル、フェノキシラジカル、4-メトキシフェノキシラジカル、ベンジルラジカル、4-メトキシベンジルラジカル、ベンジルオキシラジカル、4-メトキシベンジルオキシラジカル、ビフェニルラジカル、ビフェニルオキシラジカル、ナフチルラジカル、ナフトキシラジカル、ジフェニルアミノラジカル、(4-メトキシフェニル)フェニルアミノラジカル、ビス(4-メトキシフェニル)アミノラジカル、(4-エトキシフェニル)フェニルアミノラジカル、ビス(4-エトキシフェニル)アミノラジカル、10,10-ジメチル-9,10-ジヒロドアクリジンラジカル、フェノチアジニルラジカル、フェノキサジニルラジカル、フェナジニルラジカル、カルバゾリルラジカル、1,2,3,4-テトラヒドロカルバゾリルラジカル、又は10,11-ジヒドロ-ジベンズ[b,f]アゼピニルラジカルから選択される置換基を表す。
【0009】
更に別の好ましい実施の形態において、式(I)及び式(II)中、ラジカルR及びRがそれぞれ独立して、水素、臭素、塩素、フッ素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)シクロアルキルラジカル、(C~C)チオアルキルラジカル、(C~C)アルコキシラジカル、トリフルオロメチルラジカル、フェニルラジカル、フェノキシラジカル、ベンジルラジカル又はベンジルオキシラジカルから選択される置換基を表す。
【0010】
更に別の好ましい実施の形態において、式(I)及び式(II)中、ラジカルR、R及びRがそれぞれ独立して、水素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)-シクロアルキルラジカル、(C~C)-アルコキシラジカル、フェニルラジカル又はベンジルラジカルから選択される置換基を表す。
【0011】
好ましくは、式(I)及び式(II)中、ラジカルR、R10及びR11がそれぞれ独立して、(C~C)アルキルラジカル又はフェニルラジカルから選択される置換基を表す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に従って使用される化合物を生成する合成スキーム、及びそれらを励起させる方法を示す図である。
図2】本発明に従って使用される化合物の暗色化の色相の説明図である。
図3】本発明に従って使用される化合物と、構造が非常に類似している参照化合物とのフォトトロピック性能の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、式(I)によるフォトクロミックアネレート化2H-ナフトピランと、式(II)による新たなフォトクロミックアネレート化3H-ナフトピランとの新規な組合せが、チオウレタンポリマーに組み込まれた場合に優れたフォトクロミック特性を実現することができるという驚くべき所見に基づく。本発明による式(II)の化合物は、式(I)による2H-ナフトピランの幾何異性体である。置換基R~R11を有する2つの環は、ナフトピラン単位にアネレート化される。この組合せに基づいて生成されるフォトトロピックチオウレタンポリマーは、非常に安定で美的な暗色化の色相を特徴とする。加えて、深く暗色化しまた非常に迅速に明色化するフォトトロピック製品を実現することができる。加えて、本発明に従って組み合わせた化合物は非常に良好な耐久性を有する。
【0014】
内部着色型フォトトロピックチオウレタンポリマーを製造するために特殊なポリエーテル添加剤の使用が必要である特許文献1とは対照的に、本発明は、2つの異なる、式(I)及び式(II)に従って特別に調整されたフォトクロミックアネレート化ナフトピラン異性体のこの新規な組合せを使用することによってチオウレタンポリマーへの組込みの問題を解決し、これにより非常に安定で美的な暗色化の色相を実現することができる。2つのナフトピラン異性体は異なる暗色化の色相を有し、組み合わせると互いに補い合い、例えば美的な灰色又は茶色の色調を作り出す。ここで、式(II)の3H-ナフトピラン異性体は、黄橙色から赤色までの色調を有し、美的な茶色の色調を実現するために非常に重要な成分であるが、美的な灰色の色調を実現するために、式(I)の主に青色(青紫色から青緑色)の暗色化する2H-ナフトピラン異性体に対する相手方としても同様に重要である(図2を参照)。この異性体の組合せはまた、適切な置換基を選択することによって、互いに明色化速度を一致させることが比較的容易であるため特に有利であり、これは、励起及び淡色化サイクル全体にわたって暗色化の色相が一定に保たれるような混合物として使用する場合に極めて重要である。
【0015】
酸素含有置換基R及びRを有する式(I)による化合物は、あらゆる種類のプラスチックに使用するために欧州特許第3807258号に初めて提示された。
【0016】
既に述べたように、UV光に曝される場合密なチオウレタン熱硬化性ポリマーに導入しても暗色化しない従来のフォトクロミック色素とは対照的に、本発明によるナフトピラン異性体は、結合した長いポリ(プロピレンオキシ)鎖(式(I)及び式(II)中、p≧10)のために優れた暗色化の深さを有し、この鎖は任意に、コハク酸エステル架橋を介してフォトクロミック色素に共有結合している。明らかに、長いポリ(プロピレンオキシ)鎖の存在は、非励起(無色)型の開環による励起(有色)型の形成が長波長UV線によって容易に起こり得る方法において、立体的(周囲のネットワーク密度の変化)又は電子的(周囲の極性の変化)のいずれかで直接の色素環境を変化させる。長いポリ(プロピレンオキシ)鎖は、フォトクロミック色素の感光性中心の近く、したがって、励起時の結合切断部位又は明色化時の結合回復部位の近くに位置しており(図1を参照)、それ故、チオウレタンポリマーからの効率的な遮蔽がもたらされ得る。本発明の重要な側面は、長いポリ(プロピレンオキシ)鎖の極性が、良好なフォトクロミック特性にとって絶対に極めて重要であるという予想外の所見である。鎖長が略同じでも、より極性の高いポリ(エチレンオキシ)鎖及びより非極性のパラフィン鎖は両方とも、フォトトロピック性能が著しく劣るか(図3を参照)、又はUV曝露時に全く暗色化しない。
【0017】
本発明に従って使用される式(I)及び式(II)による化合物は、2つの非芳香族炭素原子上に3つの非水素置換基R~R11が存在するため非常に良好な耐久性を有する。非水素置換基が3つ未満の対応する化合物は、この場所で容易に酸化されて有色の酸化生成物を形成するため、耐久性が著しく悪い(以下の表4を参照)。事実、ここでは3つの置換基が最適である。R11による炭素原子上の更なる置換基が、長波長UV線によって(無色の)ナフトピラン型が開環して励起(有色)形状が形成するのを強力に妨げるため、本発明に従って使用される式(I)及び式(II)による化合物中の4つの非水素置換基は、立体的な理由から不都合であり、したがって、UV曝露時に弱い暗色化しか観察することができない。
【0018】
しかしながら、特許文献1とは対照的に、本発明の範囲は、本発明による組合せを使用する均一に内部着色されたチオウレタンポリマーの提供にのみ限定されるものでなく、とりわけ、0.1mm~1mmの薄いフォトトロピックチオウレタン機能層がポリマー基体上に重合される(スプルー法)二成分系も含む。魅力的な製造コストに加え、この方法は、均一に内部着色された製品とは対照的に、任意の量のUV吸収剤をポリマー基体に導入することによって、眼鏡着用者に対する優れたUV保護が容易に達成され得るという大きな利点を有する。導入されたUV吸収剤が、フォトクロミック色素から暗色化に必要な長波長UV光を除去するため、これは均一に内部着色されたフォトトロピックチオウレタンポリマーでは不可能である。この点において、本発明はまた、0.1mm~1mmの薄いフォトトロピックチオウレタン機能層が2つのポリマー体の間に位置するサンドイッチ系を含む。
【0019】
さらに、本発明の範囲は、チオウレタンポリマー中に2つのナフトピラン異性体が存在することのみに限定されるものではない。本発明による組合せに加えて、製品特性を改善するような他のフォトクロミック色素(式(I)及び式(II)のものと異なる)、永久色素(事前着色製品用)及び添加剤を使用することができる。
【0020】
本発明に従って使用される化合物は、ベンゼン環上に4-ヒドロキシ置換基を有する対応するアネレート化ナフトピランから合成され、該ベンゼン環はピラン酸素の隣の炭素原子に結合している。図1中の合成スキームによれば、本発明に従って使用される又は組み合わされる化合物はそれから生成される。この方法は、式(I)及び式(II)による化合物についても同じである。この点において、図1には2つのアリール置換基を有するピラン環のみを示している。
【0021】
nが数0を表す場合、市販のポリプロピレングリコールモノブチルエーテル(式(I)及び式(II)中、p≧10)は、最初にトシレート(Ts)として活性化される。鎖長はガウス分布を有する、すなわち、最大値付近に分布する様々な鎖長を有する混合物が存在する。これに続いて、標準的なウィリアムソンエーテル合成を使用してアネレート化ナフトピランに共有結合させる。
【0022】
nが数1を表す場合、反応は最初に無水コハク酸で行われる。コハク酸単位の遊離カルボキシル基を次にカルボニルジイミダゾール(CDI)で活性化し、これにより、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテルによる非常に穏やかなエステル合成が可能となる。
【0023】
励起の仕組み(長波長UV光による結合の切断、着色形状の作成)も図1に示す。非励起ナフトピラン型に戻る明色化は純粋に熱によって起こる。
【0024】
分光特性及びフォトクロミック特性を測定するために、本発明に従って使用される式(I)及び式(II)による化合物を光学チオウレタンポリマー、すなわち商用プラスチック眼鏡レンズに適したものに導入する。この目的のために、フォトクロミック色素をチオウレタンポリマーの液体イソシアネート成分に溶解し、チオール成分と重付加開始剤とを添加した後、温度プログラムを使用して熱重合させる。次に、このように作製した試験片(厚さ2mmの平面ガラス)のフォトトロピック性能(暗色化及び明色化の挙動)及び暗色化の色相を、DIN EN ISO 8980-3に準拠する23℃での標準測定法を使用して求めた。
【0025】
図2は、本発明に従って使用される化合物の暗色化の色相をa/b色座標に明確に示している。図2に示される化合物の分子構造を表1及び表2に挙げる。本発明に従って使用される化合物1、化合物2及び化合物3は式(III)によって記載され、本発明に従って使用される化合物4、化合物5及び化合物6は式(IV)によって記載される。式(III)は式(I)のサブグループを表し、式(IV)は式(II)のサブグループを表す。
【0026】
/b色座標系における負のa値は緑色の暗色化の色相を表し、正のa値は赤色の色相を表す。負のb値は青色の色相を表し、正のb値は黄色の色相を表す。次に、これに由来する混合色、例えば紫色又は橙色は、それぞれの軸の間(すなわち、青軸と赤軸との間、又は黄軸と赤軸との間)の区域に見ることができる。測定点が座標原点から遠ざかるほど、定義上、色の欠如(すなわち灰色の色相)を表し、色はより強度を増す。座標原点に近い測定点は、青みがかった灰色又は緑がかった灰色等の鈍い色相を表す。特殊な特徴は、様々な基本色を混ぜ合わせた茶色の色相である。美的な茶色(例えば栗色)はa/b色座標系の領域Bの区域に見られ得ることが経験的に示されている。
【0027】
本発明に従って使用される式(III)による化合物の暗色化の色相は、青軸の近くに位置する。色相は、青緑色(化合物1)から青色(化合物2)、青紫色(化合物3)までの範囲にある。分子構造の複雑性から、事前に正確な色を予測することは略不可能であった。対照的に、本発明に従って使用される式(IV)による化合物の暗色化の色相は、黄軸と赤軸との間に見られ、色相は黄橙色(化合物4)から橙色(化合物5)、赤色(化合物6)までの範囲にある。この勾配は予想通りである。供与体Rが強い(すなわち、電子が豊富である)ほど、励起型の最長波長の吸収最大値は、化合物4の約450nmから化合物5の約470nm、化合物6の約530nmまで深色方向にシフトする。
【0028】
初めに述べたように、本発明の主題は、互いに適切に調和させた場合に美的な暗色化の色相を得るような、式(III)又は式(I)による色素と、式(IV)又は式(II)による色素との組合せ又は混合物又は系である。例えば、美的な灰色の色相を実現するために、本発明に従って提供される化合物1と化合物5との組合せを、ポリマーに導入することができ、これらは合わせて、適切な混合比で、領域Aにおける座標原点に近い色相を作り出す(図2を参照)。これは、化合物2と化合物4とを組み合わせた場合にも可能である。これらの組合せでは、パートナーの明色化速度が一致することが常に重要であり、そうでなければ、明色化中に望ましくない色ずれが生じると考えられる(例えば、青色のパートナーが橙色よりも速く明色化する場合、灰色から茶色に)。したがって、前述の組合せのペア(1+5又は2+4)の明色化速度を相互に調整する(表1及び表2を参照)。当業者にとってこの調整は技術的スキルの範囲内である。
【0029】
所望の暗色化の色相を正確に実現するために、場合によっては、組合せのペア3+6を、他の2つのペアの1つとの混和物として使用することが有利となる。例えば、美的な茶色の暗色化の色相を容易に実現することができるが、組合せのペア3+6を単独で混合した場合には、美的なニュートラルな(neutral:無彩色の)色相が作られない(青紫色の化合物3と赤色の化合物6との混合色は紫色である)。
【0030】
以下の表1及び表2は、図2に示される、式(III)及び式(IV)による化合物の分子構造、並びにチオウレタンポリマー中23℃における2分後のそれらの明色化速度を示す。
【0031】
表1中の本発明による化合物2は、置換基R及びRとしてインデノ環形成を有する。3,3-ジメチルインデンサブユニットの脂肪族炭素原子(2つのメチル置換基を有する)はRを介して結合し、ベンゼン環はRを介して結合する。表1中の本発明による化合物3は、置換基R及びRとして1,2-エチレンジオキシ基を有する。
【化2】
【0032】
【表1】
【化3】
【0033】
【表2】
【0034】
本発明に従って使用される化合物の完全に暗色化した状態からの明色化挙動も表1及び表2に挙げる。
【0035】
2分間の明色化後の透過率の相対的な増加のパーセンテージは、完全な明色化の全体的なフォトクロミックストローク(photochromic stroke)に対して正規化された明色化挙動の尺度として定義される。フォトクロミック動態を説明するための実際に関連するこの数量は、相対的な明色化R2minと称される:
【数1】
(式中、τは非励起状態における光透過率であり、
τは暗色化状態における光透過率であり、
τ2minは暗色化状態から2分間明色化した後の光透過率である)。
【0036】
指定のパーセンテージ値は、DIN EN ISO 8980-3に準拠する23℃でのフォトトロピック動態測定の透過率データから算出する。第1の工程において、2分間の明色化後の状態と、予め達成させた暗色化状態との透過率の差を求める。第2の工程では、明色化(非励起)状態と暗色化状態との透過率の差を求める。2つの透過率の差の比率に100を乗算し、パーセンテージ値を取得する。50%R2minの値は、2分間の明色化後に、完全に明色化した状態に対するフォトクロミックストロークの半分が、既に完了したことを意味する。パーセンテージ値が大きいほど、明色化が速い。市販のフォトトロピックプラスチック眼鏡レンズは、2分間の明色化後、20%R2min~35%R2minの対応する値を有する、すなわち、本発明による組合せのおかげで、これまで実現することができなかった明色化速度を有するフォトトロピックな高屈折率プラスチック眼鏡レンズを、優れた暗色化の深さと併せて実現することが可能である。このような速い明色化速度がこれまで、著しく弱い暗色化と関連する場合にしか有効でなかったため、優れた暗色化の深さは重要である。
【0037】
図3は、本発明に従って使用される化合物と、構造が非常に類似している参照化合物とのフォトトロピック性能の比較を示す。図3に示される、式(V)による化合物の分子構造を以下の表3に挙げる。比較は、本発明によって達成される改善を非常に明確に示している。
【化4】
【0038】
【表3】
【0039】
フォトトロピック性能の評価には、長波長UV光への標準的な曝露での暗色化の深さと、23℃での明色化速度とが含まれる。フォトクロミック色素は、UV曝露後の透過率が低いほど(又は吸収率が高いほど)、また色素がその励起していない初期状態に速く戻るほど良好である。
【0040】
本発明に従って使用される化合物1及び化合物7は、ポリ(プロピレンオキシ)鎖の長さのみが異なる。本発明によれば、両色素とも優れた暗色化及び明色化挙動を示す。より短い鎖(p≒16)も引き続き有効である。しかしながら、ポリ(プロピレンオキシ)鎖長が約10未満(p<10)では、フォトトロピック性能の大幅な低下が観察される可能性がある。このため、チオウレタン環境から色素を効果的に遮蔽することは、もはや不可能であることが明らかである。
【0041】
参照化合物1及び参照化合物2の特性の比較は興味深いものである。参照化合物1は長鎖が結合していないのに対し、参照化合物2は本発明に従って使用される化合物1と実質的に同じ長さの鎖を有するが、より極性の高いエチレンオキシ単位(式(V)中、R12=H)を有する。参照化合物は両方とも、フォトトロピック性能が極めて劣り、これは、より長いポリ(プロピレンオキシ)鎖を有する色素(R12=Me;Meはメチル基の一般的な化学略語である)のみが、本発明によるチオウレタンポリマーへの組込みに適していることを明らかに示すものである。しかしながら、参照化合物3が示すように制限がある。参照化合物3は、式(V)中のラジカルRとしてジフェニルアミノ置換基を有する本発明に従って使用される化合物1とは対照的に、この位置にN-モルホリニル置換基を有する。参照化合物3の暗色化は、このフォトクロミック色素のかなりの部分が重合中に分解するため大幅に低下する。この理由は、反応性の塩基性モルホリン単位であり、これが重合中にチオウレタンポリマーのイソシアネート成分と反応する。他方、本発明に従って使用される化合物1及び化合物7の非塩基性のジフェニルアミノ置換基はこの点において不活性である。したがって、これらの色素はチオウレタンポリマーに容易に組み込むことができる。概して、非塩基性置換基、例えばアルキル置換基、アリール置換基、アルキルオキシ置換基、アリールオキシ置換基又はジアリールアミノ置換基を有する色素のみがこれに適しており、ジアルキルアミノ置換基又はアリールアルキルアミノ置換基を有する色素は適さない。
【0042】
以下の表4は、本発明に従って使用される化合物5と、式(VI)による構造的に非常に類似する参照化合物との放射線耐性の比較の一例を示す。
【0043】
耐候試験後の残存フォトクロミックストロークPが放射線耐性の尺度として定義される:
【数2】
(式中、τは非励起状態における光透過率であり、
τは暗色化状態における光透過率であり、
τ は耐候試験後の非励起状態における光透過率であり、
τ は耐候試験後の暗色化状態における光透過率である)。
【0044】
表4は、本発明に従って使用される化合物5と、参照化合物4及び参照化合物5との耐久性の比較を示す。
【化5】
【0045】
【表4】
【0046】
耐候試験後の残存フォトクロミックストロークPは、耐久性試験の前後の吸光度の比率によって求められ、損傷を受けなかった試験片のフォトクロミックストロークのパーセンテージとして示される。試験片を、市販の耐候試験装置において放射照度700W/mのキセノンアークランプを使用して50時間集中照射に曝す。測定は、DIN EN ISO 8980-3規格に準拠して23℃で行う。指定のパーセンテージ値が大きいほど、性能損失は低くなる。
【0047】
本発明に従って提供される化合物5は、2つの非芳香族炭素原子上に3つのメチル置換基R、R10及びR11が存在するため、非常に良好な放射線耐性を有する。これらの2つの位置により多くの水素原子を有する類似の化合物、例えば参照化合物4及び参照化合物5は、この場所で容易に酸化されて有色の酸化生成物を形成するため、放射線耐性が著しく劣る。
【0048】
既に述べたように、本発明の範囲は、本発明によるフォトクロミックアネレート化ナフトピラン異性体の組合せをチオウレタンポリマーに導入することに限定されない。加えて、他のフォトクロミック色素を使用することができる。加えて、永久色素(事前着色製品用)及び添加剤を使用して、製品特性を改善することもできる。
【0049】
本発明の範囲はまた、均一に内部着色されたチオウレタンポリマーに限定されるものでなく、主として、0.1mm~1mmの薄いフォトトロピックチオウレタン機能層がポリマー基体上に重合される(スプルー法)二成分系も含む。本発明はまた、0.1mm~1mmの薄いフォトトロピックチオウレタン機能層が2つのポリマー体の間に位置するサンドイッチ系を含む。
【0050】
本発明の更なる主題は、チオウレタンポリマーに導入するための、特に、あらゆる種類の眼鏡、例えば、矯正眼鏡、運転用眼鏡、スキー用ゴーグル、サングラス、オートバイ用ゴーグル用のレンズ及びグラスにおける、眼科用途のための、保護ヘルメット等のバイザー用の、並びに、車両及び建設部門における、窓、保護スクリーン、カバー、屋根等の形態の日除け用途のための、本発明によるアネレート化ナフトピラン異性体の組合せの使用に関する。
【0051】
本発明のまた別の主題は、下記一般式(II)による新規なフォトクロミックアネレート化ナフトピラン:
【化6】
(式中、
nは0~1の整数を表し、pは10~50の整数を表し、
ラジカルR、R及びRはそれぞれ独立して、水素、臭素、塩素、フッ素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)シクロアルキルラジカル、(C~C)-チオアルキルラジカル、(C~C)-アルコキシラジカル、トリフルオロメチルラジカル、フェニルラジカル、4-メトキシフェニルラジカル、フェノキシラジカル、4-メトキシフェノキシラジカル、ベンジルラジカル、4-メトキシベンジルラジカル、ベンジルオキシラジカル、4-メトキシベンジルオキシラジカル、ビフェニルラジカル、ビフェニルオキシラジカル、ナフチルラジカル、ナフトキシラジカル、ジフェニルアミノラジカル、(4-メトキシフェニル)-フェニルアミノラジカル、ビス(4-メトキシフェニル)アミノラジカル、(4-エトキシフェニル)-フェニルアミノラジカル、ビス(4-エトキシフェニル)アミノラジカル、10,10-ジメチル-9,10-ジヒロドアクリジンラジカル、フェノチアジニルラジカル、フェノキサジニルラジカル、フェナジニルラジカル、カルバゾリルラジカル、1,2,3,4-テトラヒドロカルバゾリルラジカル、又は10,11-ジヒドロ-ジ-ベンズ[b,f]アゼピニルラジカルから選択される置換基を表すか、又は、ラジカルR及びRは合わせて、-V-(CH-W-(式中、V及びWは独立して、-O-、-S-、-NC-、-CH-、-C(CH-、-C(C-又は-C(C-基から選択され、mは1~3の整数を表すが、但し、この数値が2又は3の場合、ベンゼン環は2つの隣接するCH基にアネレート化することもでき、さらにV又はWは、それらが-CH-を表す場合、各隣接するCH基と合わせて、アネレート化ベンゼン環を表すこともできる)の基を表し、
ラジカルR及びRはそれぞれ独立して、水素、フッ素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)アルコキシラジカル、フェニルラジカル、フェノキシラジカル、ベンジルラジカル又はベンジルオキシラジカルから選択される置換基を表し、
ラジカルR、R及びRはそれぞれ独立して、水素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)シクロアルキルラジカル、(C~C)アルコキシラジカル、フェニルラジカル又はベンジルラジカルから選択される置換基を表し、
又は、ラジカルR及びRは合わせて、又はR及びRは合わせて、非置換、一置換又は二置換であってもよいアネレート化ベンゼン環を形成し、ここで、置換基は、水素、(C~C)アルキルラジカル、(C~C)アルコキシラジカル、フェニルラジカル又はベンジルラジカルから選択することができるか、
又は、ラジカルR及びRは合わせて、又はR及びRは合わせて、アネレート化ナフタレン環系、アネレート化ベンゾフラン環系、アネレート化ベンゾチオフェン環系、アネレート化3,3-ジメチルインデン環系又はアネレート化2H-クロメン環系を形成し、
ラジカルR、R10及びR11はそれぞれ独立して、(C~C)アルキルラジカル又はフェニルラジカルから選択される置換基を表す)に関する。
【0052】
一般式(II)によるこれらの新規なフォトクロミックアネレート化ナフトピランの好ましい実施形態に関する限り、上記の考察が該当する。
図1
図2
図3
【国際調査報告】