(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】正極活物質及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20250109BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20250109BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20250109BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/131
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529686
(86)(22)【出願日】2022-12-16
(85)【翻訳文提出日】2024-05-17
(86)【国際出願番号】 CN2022139467
(87)【国際公開番号】W WO2024113430
(87)【国際公開日】2024-06-06
(31)【優先権主張番号】202211523409.2
(32)【優先日】2022-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520434178
【氏名又は名称】欣旺達動力科技股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Sunwoda Mobility Energy Technology Co., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】欧陽云鵬
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA08
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA13
(57)【要約】
本発明は、正極活物質及びリチウムイオン電池を開示する。当該正極活物質は、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含み、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物において、ニッケル、コバルト及びマンガン元素のモル総量を100%とすると、マンガン元素のモル量をm%とし、コバルト元素のモル量をn%として、20<n+m<50、かつ0.1<n/m<0.6を満たし、正極活物質の(003)ピークの半値幅をFWHW(003)とし、(104)ピークの半値幅をFWHW(104)とすると、FWHW(003)及びFWHW(104)は、0.4≦FWHW(003)/FWHW(104)≦2.0を満たす。本発明は、添加元素の量及び成分を合理的に設計することにより、正極活物質の使用過程における金属イオンの溶解を抑制し、電池の充電能力、サイクル寿命及び安全性能を改善することができる。本発明は、正極板の加工過程において生じた正極粒子のマイクロクラックを低減するとともに、優れた充電能力、サイクル寿命及び安全性能を有する電池を保証することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含む、正極活物質であって、
前記リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物において、ニッケル元素、コバルト元素及びマンガン元素のモル総量を100%とすると、マンガン元素のモル量をm%とし、コバルト元素のモル量をn%として、20<n+m<50、かつ0.1<n/m<0.6を満たし、前記正極活物質の(003)ピークの半値幅をFWHW(003)とし、前記正極活物質の(104)ピークの半値幅をFWHW(104)として、FWHW(003)及びFWHW(104)は、0.4≦FWHW(003)/FWHW(104)≦2.0を満たす、正極活物質。
【請求項2】
m及びnは、
(i)19≦m<43.5、
(ii)3.0≦n≦12、及び
(iii)0.10≦n/m≦0.502のうちのいずれか1つを満たす、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
M元素をさらに含み、当該M元素は、Zr元素と、Al、Mg、Ti、Y、Sr、Y、Mo、Nb、Sn、Ba、La、Ce及びW元素のうちの少なくとも1つとを含み、
ニッケル元素、コバルト元素及びマンガン元素のモル総量を100%とすると、M元素のモル量と、ニッケル元素、コバルト元素及びマンガン元素のモル総量との百分率をx%として、0.1≦x≦2.5である、請求項1又は2に記載の正極活物質。
【請求項4】
M元素は、Zr元素と、Al元素と、Mg、Ti、Y、Sr、Y、Mo、Nb、Sn、Ba、La、Ce、W元素のうちの少なくとも1つとを含み、M元素のモル含有量をx%とし、Zr元素のモル含有量をx1%とし、Al元素のモル含有量をx2%とし、x、x1及びx2は、
(iv)0.20≦x1≦0.45、
(v)0.15≦x2≦1.5、
(vi)0.2≦x1/x2≦1、及び
(vii)0<(x-x1-x2)/x<0.5のうちのいずれか1つを満たす、請求項3に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記正極活物質の(003)ピークの半値幅をFWHW(003)とし、前記正極活物質の(104)ピークの半値幅をFWHW(104)とし、
FWHW(003)の範囲は、0.06°~0.15°であり、
FWHW(104)の範囲は、0.06°~0.15°である、請求項1又は2に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記正極活物質の(003)ピークのピーク面積をIc(003)とし、(104)ピークのピーク面積をIc(104)とし、Kcは、Ic(003)/Ic(104)であり、1≦Kc≦2である、請求項1又は2に記載の正極活物質。
【請求項7】
Li
aNi
bCo
m/100Mn
n/100M
x/100O
2を含み、0.80≦a≦1.10、0.4<b<0.8、20<n+m<50、0.1<n/m<0.6、0.1≦x≦2.5であり、Mは、Zrと、Al、Mg、Ti、Y、Sr、Y、Mo、Nb、Sn、Ba、La、Ce及びWのうちの少なくとも1つとを含む、請求項3に記載の正極活物質。
【請求項8】
正極を含む二次電池であって、
前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体に設けられた正極合剤層とを含み、前記正極合剤層は、請求項1から7のいずれか一項に記載の正極活物質を含む、二次電池。
【請求項9】
前記正極合剤層の(003)ピークのピーク面積をIf(003)とし、(104)ピークのピーク面積をIf(104)とし、Kfは、If(003)/If(104)であり、10≦Kf≦20である、請求項8に記載の二次電池。
【請求項10】
前記正極合剤層の(003)ピークのピーク面積をIf(003)とし、(104)ピークのピーク面積をIf(104)とし、Kfは、If(003)/If(104)であり、6≦Kf/Kc≦20である、請求項8に記載の二次電池。
【請求項11】
前記正極合剤層中の前記正極活物質により形成された粒子は、サイズが1μm~3μmである粒子の個数の、粒子全体の個数に対する比率が60%より大きい、請求項8に記載の二次電池。
【請求項12】
請求項8から11のいずれか一項に記載の二次電池を含む、電力消費装置。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本発明は、出願人である欣旺達電気自動車電池有限公司が2022年12月1日に提出した、「正極活物質及びリチウムイオン電池」という名称の中国特許出願第202211523409.2号の優先権を主張するものであり、その全ての内容は参照により本発明に組み込まれるものとする。
【技術分野】
【0002】
本発明は、正極活物質及びリチウムイオン電池に関し、二次電池の技術分野に属する。
【背景技術】
【0003】
近年、従来の燃料車による環境問題がますます顕著になることに伴い、人々は、環境に優しく、低炭素で、持続可能な自動車の代替エネルギーを緊急に必要としている。二次電池、例えば、リチウムイオン電池は、クリーンエネルギーの一種として、エネルギー密度が高く、また寿命が長いため、近年広く使用されている。従来の燃料自動車に比べて、リチウムイオン電池を動力源とする新エネルギー自動車は、リチウムイオン電池を充電する方式でエネルギーを補充する必要があるため、その充電時間は、新エネルギー自動車のユーザ体験に直接的な影響を与える。したがって、二次電池の充電速度を向上させることは、常に新エネルギー業界の重要な研究方向である。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、正極活物質を提供することを目的とし、該正極活物質を用いて製造されたリチウムイオン電池は、リチウムイオン電池中の正極活物質の遷移金属の溶出を低減し、スリップクラックと、界面と電解液との相互作用とを低減し、二次電池の充電能力、サイクル寿命及び安全性能を向上させることができる。
【0005】
本発明に係る正極活物質は、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含み、
リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物において、ニッケル元素、コバルト元素及びマンガン元素のモル総量を100%とすると、マンガン元素のモル量をm%とし、コバルト元素のモル量をn%として、20<n+m<50、かつ0.1<n/m<0.6を満たし、正極活物質の(003)ピークの半値幅をFWHW(003)とし、正極活物質の(104)ピークの半値幅をFWHW(104)として、FWHW(003)及びFWHW(104)は、0.4≦FWHW(003)/FWHW(104)≦2.0を満たす。
【0006】
さらに、マンガン元素及びコバルト元素のモル含有量は、
(i)19≦m<43.5、
(ii)3.0≦n≦12、及び
(iii)0.10≦n/m≦0.502のうちのいずれか1つを満たす。
【0007】
さらに、正極活物質は、M元素をさらに含み、当該M元素は、Zrと、Al、Mg、Ti、Y、Sr、Y、Mo、Nb、Sn、Ba、La、Ce元素のうちの少なくとも1つとを含み、
ニッケル元素、コバルト元素及びマンガン元素の総量を100%とすると、M元素のモル量と、ニッケル元素、コバルト元素及びマンガン元素のモル総量との百分率をx%とし、0.1≦x≦2.5である。
【0008】
またさらに、M元素は、Zr元素と、Al元素と、Mg、Ti、Y、Sr、Y、Mo、Nb、Sn、Ba、La、Ce、W元素のうちの少なくとも1つとを含み、M元素のモル含有量をx%とし、Zrのモル含有量をx1%とし、Alのモル含有量をx2%とし、x、x1及びx2は、
(iv)0.20≦x1≦0.45、
(v)0.15≦x2≦1.5、
(vi)0.2≦x1/x2≦1、及び
(vii)0<(x-x1-x2)/x<0.5のうちのいずれか1つを満たす。
【0009】
本発明の正極活物質の(003)ピークの半値幅をFWHW(003)とし、正極活物質の(104)ピークの半値幅をFWHW(104)とし、
FWHW(003)の範囲は、0.06°~0.15°であり、
FWHW(104)の範囲は、0.06°~0.15°である。
【0010】
本発明の正極活物質の(003)ピークのピーク面積をIc(003)とし、(104)ピークのピーク面積をIc(104)とし、Kcは、Ic(003)/Ic(104)であり、1≦Kc≦2である。
【0011】
本発明の正極活物質は、LiaNibCom/100Mnn/100Mx/100O2を含み、0.80≦a≦1.10、0.4<b<0.8、20<n+m<50、0.1<n/m<0.6、0.1≦x≦2.5であり、Mは、Zrと、Al、Mg、Ti、Y、Sr、Y、Mo、Nb、Sn、Ba、La、Ce及びWのうちの少なくとも1つとを含む。
【0012】
正極活物質に基づき、本発明に係る二次電池は、正極を含み、正極は、正極集電体と、正極集電体に設けられた正極合剤層とを含み、正極合剤層は、正極活物質からなり、
正極合剤層の(003)ピークのピーク面積をIf(003)とし、(104)ピークのピーク面積をIf(104)とし、Kfは、If(003)/If(104)であり、10≦Kf≦20、6≦Kf/Kc≦20である。
【0013】
正極合剤層中の正極活物質により形成された粒子は、サイズが1μm~3μmである粒子の個数の、粒子全体の個数に対する比率が60%より大きく、
正極合剤層中の正極活物質粒子のサイズの均一性が電池の充電性能に顕著な影響を与え、正極合剤層中の正極活物質粒子のサイズが均一であるほど、正極活物質の異なる活性粒子間の大電流充電条件下での電流密度の差が小さくなり、即ち、異なる粒子間の脱リチウム程度が一致し、分極が低下することを示し、さらに電池の温度上昇速度が低下し、電池が優れた充電能力及び使用寿命を有することを保証する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の実施形態に使用される実験方法は、特に説明しない限り、いずれも従来の方法である。
【0015】
以下の実施形態に使用される材料、試薬などは、特に説明しない限り、いずれも商業的に入手可能である。
【0016】
本発明に係る正極活物質は、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を含み、
リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物において、ニッケル元素、コバルト元素及びマンガン元素のモル総量を100%とすると、マンガン元素のモル量をm%とし、コバルト元素のモル量をn%として、20<n+m<50、かつ0.1<n/m<0.6を満たし、正極活物質の(003)ピークの半値幅をFWHW(003)とし、正極活物質の(104)ピークの半値幅をFWHW(104)とし、FWHW(003)及びFWHW(104)は、0.4≦FWHW(003)/FWHW(104)≦2.0を満たす。例えば、FWHW(003)/FWHW(104)の値は、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、0.99、1.0、1.1、1.3、1.5、1.8、2.0のうちの任意の値又はそれらのうちの任意の2つの値からなる範囲であってもよい。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態では、22<n+m<48、0.103<n/m<0.502である。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態では、正極活物質の(003)ピークの半値幅をFWHW(003)とし、正極活物質の(104)ピークの半値幅をFWHW(104)として、0.4≦FWHW(003)/FWHW(104)≦1.5である。正極活物質のFWHW(003)/FWHW(104)が上記範囲にある場合、正極活物質の結晶構造の安定性が高く、二次電池の充電能力、サイクル寿命及び安全性能が向上できる。本発明のいくつかの実施例では、0.5≦FWHW(003)/FWHW(104)<1である。FWHW(003)/FWHW(104)が上記範囲にある場合、正極活物質粒子の格子内部の残留応力が低いか、又はリチウムイオンと遷移金属イオンとのミキシング率が低いことを示し、格子内部の残留応力又はイオンミキシングによって格子中の原子が平衡位置からずれて、FWHW(003)又はFWHW(104)におけるある値が高く、FWHW(003)/FWHW(104)の比率が変化することを招く。格子内部の残留応力又はイオンミキシングによって、リチウムイオンが正極活物質から脱離する障壁が増加し、電池の充電能力が低下することを招く。
【0019】
上記正極活物質において、マンガン元素及びコバルト元素は、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物の脱リチウム過程における構造安定性を安定させることができ、材料構造に対して支持作用を有する。マンガン元素及びコバルト元素が多すぎると、電気化学反応に関与するニッケル元素の比率が低下し、さらにリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物のエネルギー密度が低下することを招く。ニッケル元素及びマンガン元素は、充電過程において格子中の四面体空孔に移動して、正極活物質の格子に歪みを生じさせ、材料の格子の安定性を損ないやすく、四面体空孔のニッケルイオン及びマンガンイオンも電界の作用下で電解液に移動して溶解し、溶解したニッケルイオン及びマンガンイオン(特にマンガンイオン)が負極で還元されて、負極の表面保護膜を破壊しやすく、インピーダンスの増加を招き、リチウム析出リスクを高め、電池の充電能力、サイクル寿命及び安全性能を低下させる。上記正極活物質中のコバルト元素の存在は、ニッケルイオン及びマンガンイオンの充電過程における格子中の四面体空孔への移動を抑制することができるが、コバルトの含有量が高いと、正極活物質の容量低下を招くとともに、コバルト元素が地殻中に希少金属であり、コバルト元素の含有量が高すぎると、正極活物質のコストを高める。ニッケル、コバルト、マンガン元素の含有量と、形成された正極活物質の結晶の安定性とを制御することにより、上記問題を効果的に改善することができる。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態では、19≦m<43.5である。例えば、mは、19、20、21、23、25、27、27.5、28、30、32、33、34、37、39、40、42、43.5のうちの任意の値又はそれらのうちの任意の2つの値からなる範囲であってもよい。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態では、20≦m≦33である。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態では、20≦m≦30である。mが上記範囲にある場合、正極活物質の結晶構造をさらに最適化して、正極活物質をより安定させることができる。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態では、3≦n≦12である。例えば、nは、3、4.5、5、7、8、9、10、11、12、14のうちの任意の値又はそれらのうちの任意の2つの値からなる範囲であってもよい。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態では、4.5≦n≦9である。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態では、0.10≦n/m≦0.502である。例えば、n/mは、0.10、0.15、0.18、0.20、0.22、0.25、0.28、0.30、0.32、0.35、0.38、0.40、0.42、0.45、0.48、0.502のうちの任意の値又はそれらのうちの任意の2つの値からなる範囲値であってもよい。n/mがこの範囲にある場合、正極活物質の結晶構造をさらに制御することができ、二次電池の性能がより優れる。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態では、0.15≦n/m≦0.35である。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態では、上記正極活物質は、M元素をさらに含み、上記M元素は、Zr、Al、Mg、Ti、Y、Sr、Y、Mo、Nb、Sn、Ba、La、Ce、W元素のうちの少なくとも1つを含む。適切なM元素は、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物中の酸素と化学結合を形成し、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物中の金属酸素八面体構造との安定性を向上させることができる。それとともに、急速充電の場合、安全上のリスクを招く負極板における遷移金属の析出及び正極活物質の格子酸素の放出を低減する。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態では、上記M元素は、Zr元素と、Al、Mg、Ti、Y、Sr、Y、Mo、Nb、Sn、Ba、La、Ce元素のうちの少なくとも1つとを含む。Zr元素が酸素と形成した化学結合の結合エネルギーは、ニッケル、コバルト及びマンガン元素が酸素と形成した化学結合の化学エネルギーより遥かに大きいため、Zrを含むM元素を添加すると、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物中の金属酸素八面体の構造安定性をさらに向上させることができる。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態では、上記M元素は、W元素と、Zr、Al、Mg、Ti、Y、Sr、Y、Mo、Nb、Sn、Ba、La、Ce元素のうちの少なくとも1つとを含む。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態では、上記M元素は、Zr元素と、Al元素と、Mg、Ti、Y、Sr、Y、Mo、Nb、Sn、Ba、La、Ce、W元素のうちの少なくとも1つとを含む。正極活物質中のリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物中の酸素とAl元素とが形成した化学結合の結合エネルギーは、それとZr元素とが形成した化学結合の結合エネルギーより小さいが、それとAl元素とが化学結合を形成すると、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物中のニッケルイオンの格子リチウムの位置への移動エネルギーを向上させ、格子リチウムの位置するニッケルイオンの占める比率を低下させ、リチウムイオンの移動速度を向上させ、電池の充電能力をさらに向上させることに有利である。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態では、上記M元素は、Zr元素と、W元素と、Al、Mg、Ti、Y、Sr、Y、Mo、Nb、Sn、Ba、La、Ce元素のうちの少なくとも1つとを含む。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態では、上記ニッケル元素、上記コバルト元素及び上記マンガン元素のモル総量を100%とすると、上記M元素のモル量と、上記ニッケル元素、上記コバルト元素及び上記マンガン元素のモル総量との比率をx%とし、0.1≦x≦2.5である。例えば、xは、0.1、0.3、0.5、0.7、0.9、1.0、1.1、1.3、1.5、1.7、1.9、2.0、2.2、2.4、2.5のうちの任意の値又はそれらのうちの任意の2つの値からなる範囲であってもよい。M元素の含有量を調整することにより、金属の溶出及び格子酸素の放出を効果的に低減し、電池の充電能力、使用寿命及び安全性能をさらに向上させることができる。
【0033】
本発明のいくつかの実施形態では、0.2≦x≦1.5である。電池が急速に充電される場合、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物は、遷移金属ニッケル及びマンガンの溶出が発生するため、正極活物質の構造安定性の低下及び負極板の表面保護膜に対する破壊を招き、電池の充電能力及び使用寿命を低下させる。負極側の遷移金属の析出及び格子酸素の放出は、安全上のリスクを招く。M元素の含有量が上記範囲にある場合、正極活物質の構造安定性を保証するとともに、正極活物質の利用可能な容量への影響を低減し、電池が高い容量、優れた充電能力、使用寿命及び安全性能を両立することができる。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態では、上記M元素は、Zr元素と、Al元素と、Mg、Ti、Y、Sr、Y、Mo、Nb、Sn、Ba、La、Ce、W元素のうちの少なくとも1つとを含み、上記M元素のモル含有量をx%とし、Zrのモル含有量をx1%とし、Alのモル含有量をx2%とする。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態では、0.20≦x1≦0.45である。例えば、x1は、0.20、0.22、0.24、0.25、0.27、0.29、0.30、0.32、0.34、0.36、0.39、0.40、0.42、0.44、0.45のうちの任意の値又はそれらのうちの任意の2つの値からなる範囲であってもよい。上記Zr元素の添加により、金属の溶出及び格子酸素の放出を効果的に低減し、電池の充電能力、使用寿命及び安全性能を向上させることができる。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態では、0.24≦x1≦0.42である。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態では、0.15≦x2≦1.5である。例えば、x2は、0.15、0.20、0.25、0.3、0.32、0.35、0.37、0.40、0.45、0.47、0.50、0.53、0.57、0.59、0.60、0、63、0.65、0.68、0.70、0.73、0.75、0.78、0.80、0.85、0.90、0.93、0.95、1.0、1.2、1.5のうちの任意の値又はそれらのうちの任意の2つの値からなる範囲であってもよい。上記Al元素の添加を制御することにより、金属の溶出及び格子酸素の放出を効果的に低減し、電池の充電能力、使用寿命及び安全性能を向上させることができる。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態では、0.25≦x2≦1.2である。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態では、0.3≦x2≦0.95である。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態では、0.2≦x1/x2≦1である。例えば、x1/x2は、0.20、0.25、0.3、0.32、0.35、0.37、0.40、0.45、0.47、0.50、0.53、0.57、0.59、0.60、0、63、0.65、0.68、0.70、0.73、0.75、0.78、0.80、0.85、0.90、0.93、0.95、1.0のうちの任意の値又はそれらのうちの任意の2つの値からなる範囲値であってもよい。Al元素の含有量をZr元素の含有量以上にし、かつ両者の比率を上記範囲にするように制御する場合、正極活物質内部の格子リチウムの占める比率及び結晶構造の安定性を向上させ、正極活物質の結晶構造をより優れた状態にし、電池全体の性能をさらに向上させることができる。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態では、0<(x-x1-x2)/x<0.5である。例えば、(x-x1-x2)/xは、0.001、0.05、0.1、0.13、0.15、0.18、0.20、0.25、0.3、0.32、0.35、0.37、0.40、0.45、0.47、0.50のうちの任意の値又はそれらのうちの任意の2つの値からなる範囲値であってもよい。M元素がAl元素、Zr元素を含むとともに、他の元素をさらに含み、かつ含有量が上記範囲にある場合、正極活物質の結晶構造をさらに最適化し、電池がより優れた総合性能を有することができる。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態では、0.1≦(x-x1-x2)/x≦0.42である。上記範囲を満たす場合、正極活物質の総合性能がより優れる。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態では、上記正極活物質の(003)ピークの半値幅をFWHW(003)とし、上記FWHW(003)の範囲は、0.06°~0.15°である。例えば、FWHW(003)は、0.06°、0.07°、0.09°、0.10°、0.12°、0.14°、0.15°のうちの任意の値又はそれらのうちの任意の2つの値からなる範囲値であってもよい。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態では、上記正極活物質の(104)ピークの半値幅をFWHW(104)とし、上記FWHW(104)の範囲は、0.06°~0.15°である。例えば、FWHW(104)は、0.06°、0.07°、0.09°、0.10°、0.12°、0.14°、0.15°のうちの任意の値又はそれらのうちの任意の2つの値からなる範囲値であってもよい。
【0045】
上記正極活物質の特徴的ピークの半値幅FWHWは、XRD曲線のバックグラウンド及びKα2を差し引いた特徴的ピークの高さ半分の位置でのピーク幅を表し、単位は、°である。XRDの走査速度は、2°/minである。(003)特徴的ピーク及び(104)特徴的ピークの半値幅FWHMが0.15°未満である場合、正極活物質の結晶型が完全であり、結晶性が高いことを示し、(003)特徴的ピーク及び(104)特徴的ピークの半値幅FWHMが0.15°より大きい場合、正極活物質中の一部の原子の位置が結晶の理想的な位置からずれることを示し、材料の結晶性が低く、材料の使用寿命に影響を与えることを示す。しかしながら、半値幅FWHMが0.06°未満である場合、正極活物質が、結晶性が高いだけでなく、結晶粒のサイズが大きいことを示す。結晶粒のサイズが大きいと、充電過程における、正極活物質のバルク相におけるリチウムイオンの移動距離が長くなり、電池の充電能力の低下を招く。したがって、正極活物質の(003)特徴的ピークの半値幅及び(104)特徴的ピークの半値幅は、適切な範囲にあることが好ましく、電池が優れた使用寿命及び充電能力を有することを保証することができる。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態では、上記FWHW(003)の範囲は、0.07°~0.098°である。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態では、上記FWHW(003)の範囲は、0.09°~0.12°である。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態では、上記正極活物質の(003)ピークのピーク面積をIc(003)とし、(104)ピークのピーク面積をIc(104)とし、Kcは、Ic(003)/Ic(104)であり、1≦Kc≦2である。例えば、Kcは、1、1.1、1.2、1.3、1.35、1.4、1.45、1.48、1.5、1.52、1.54、1.56、1.58、1.6、1.63、1.65、1.67、1.7、1.73、1.75、1.78、1.8、1.85、1.9、2.0のうちの任意の値又はそれらのうちの任意の2つの値からなる範囲であってもよい。
【0049】
Kcは、正極活物質の結晶性を示すことができ、正極活物質のKcの値が1.0~2.0である場合、正極活物質の結晶性が高く、材料内部の欠陥が少ないことを示す。Kcが1.0未満である場合、正極活物質の結晶性が低く、内部に多くの欠陥が存在し、正極活物質の構造安定性に影響を与え、使用時に電池の容量が低くなり、リチウムイオンの脱離が阻害され、材料の急速充電能力及び長期寿命に影響を与える可能性がある。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態では、1.3≦Kc≦1.7である。
【0051】
本発明の正極活物質は、以下の方法によって製造することができる。
【0052】
1)前駆体NibCom/100Mnn/100(OH)2と、リチウム塩と、添加金属元素M1を含む添加剤A1とを混合装置に入れて十分に混合し、リチウム塩中のリチウムと三元系材料前駆体NibCom/100Mnn/100(OH)2との比率がaであり、1.95≦a≦1.2であり、リチウム塩は、炭酸リチウム、水酸化リチウム、又はリチウム元素を提供できる他の化合物であってもよい。M1は、Mg、Al、Ti、Y、Sr、Zr、Mo、Nb、Sn、Ba、La、Ceのうちの1つ又は複数を選択することができ、M1は、少なくともZr元素を含み、添加剤A1は、添加元素M1を含む酸化物、水酸化物又は他の化合物である。
【0053】
2)混合後の材料を匣鉢に入れ、かつ雰囲気炉に入れて焼結し、昇温領域の温度を25℃~950℃とし、恒温領域の焼結温度を800℃~1000℃とし、昇温領域と恒温領域との総焼結時間を15~40時間とし、焼結過程において純酸素を導入し、窯炉内の酸素の濃度を20%~99%とする。匣鉢中の正極活物質の充填量、昇温領域の昇温制度、昇温領域の焼結温度及び恒温領域の焼結温度、並びに時間及び雰囲気を制御することにより、正極活物質の特徴的ピークIc(003)/Ic(104)の比率Kcと、正極活物質の(003)特徴的ピークの半値幅及び(104)特徴的ピークの半値幅と、正極活物質の(003)特徴的ピークの半値幅と(104)特徴的ピークの半値幅との比率とを制御することができ、正極活物質粒子のサイズ及び均一性を制御することもできる。
【0054】
3)焼結後に得られた正極活物質に対してローラー粉砕及び気流粉砕を行い、気流粉砕のパラメータ、例えば、給気ノズルの直径、材料供給機の周波数、誘引ファンの周波数、気圧、ビン内の材料重量などのパラメータを制御することにより、正極活物質粒子のサイズ分布を制御することができる。
【0055】
4)粉砕後の正極活物質と、添加元素M2を含む添加剤A2とを混合装置に入れて十分に混合し、M2は、Mg、Al、Ti、Y、Sr、Zr、Mo、Nb、Sn、Ba、La、Ceのうちの1つ又は複数を選択することができ、添加剤A2は、添加元素M2を含む酸化物、水酸化物又は他の化合物である。
【0056】
5)均一に混合された正極活物質と添加剤との混合物を窯炉に入れて二次焼結して、完成品の正極活物質を得る。焼結温度を350℃~850℃とし、焼結時間を5~20時間とする。二次焼結は、粉砕過程において破壊された正極粒子の表面を補修し、材料の残留アルカリを低減するとともに、表面に一定の厚さを有する保護層を形成することができる。
【0057】
上記正極活物質を基に、本発明に係る二次電池は、正極を含み、上記正極は、正極 集電体と、上記正極集電体に設けられた正極合剤層とを含み、上記正極合剤層は、上記正極活物質からなり、本発明のいくつかの実施形態では、上記正極合剤層の(003)ピークのピーク面積をIf(003)とし、(104)ピークのピーク面積をIf(104)とし、Kfは、If(003)/If(104)であり、10≦Kf≦20である。例えば、Kfは、10、11、12、13、13.3、13.5、13.7、14、14.5、14.7、15、15.3、15.5、15.7、16、16.3、16.5、16.7、17、17.5、18、19、20のうちの任意の値又はそれらのうちの任意の2つの値からなる範囲値であってもよい。
【0058】
比率Kfは、上記正極合剤層中の正極活物質の優先配向を反映する。比率≧20である場合、優先配向が深刻であることを示し、即ち、正極合剤層の製造過程において正極活物質の結晶面に顕著なスリップが発生することを示す。このようなスリップにより、正極粒子の表面のクラックを招き、材料の安定性が低く、金属の溶解及び界面との副反応が発生しやすい。また、Kfが大きいほど、リチウムイオンの脱離方向と電界方向との角度が90℃に近くなるため、リチウムイオンの脱離に不利であり、電池の充電能力を低下させる。比率Kf≦10である場合、正極粉末と導電剤との接着効果が低いため、電池の内部抵抗が高くなり、充電過程においてリチウムイオン電池のオーミック分極が大きくなり、電池の充電能力を低下させる。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態では、13≦Kf≦17である。Kfがこの範囲にある場合、正極合剤層における正極活物質の配向がより適切な範囲内に分布することにより、電池の充電能力がより優れる。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態では、6≦Kf/Kc≦20である。例えば、Kf/Kcは、6、7、8、8.5、9、9.3、9.5、9.7、10、10.3、10.5、10.7、11、11.3、11.5、11.7、12、12.5、13、13.5、13.7、14、14.5、14.7、15、15.5、16、17、19、20のうちの任意の値又はそれらのうちの任意の2つの値からなる範囲であってもよい。
【0061】
Kf/Kcは、正極合剤層における正極活物質の優先配向をさらに示し、Kf/Kcが高いほど、(003)の結晶面と基材平面とが平行である正極活物質粒子の占める比率が増加していることを示す。急速充電型電池について、負極材料のリチウム吸蔵能力は、材料の充電能力を制限する決定要素であり、正極活物質の動力学を適切に低減することは、電池全体の充電能力を向上させ、電池のリチウム析出による安全上のリスクを低減することに有利である。正極活物質粒子のKf/Kcを高めると、より多くのリチウムイオンの正極活物質粒子における移動方向が電池内部の電界の方向に平行になり、リチウムイオンが正極から脱離しにくくなり、負極リチウムイオンの吸蔵に有利である。しかしながら、Kf/Kcが高すぎると、急速充電過程においてリチウムイオン電池の分極が大きくなり、充電による温度上昇速度が増加し、電解液との反応が激しくなるため、正極活物質の構造が破壊される。したがって、Kf/Kcは、6~20の範囲内にあることが好ましい。
【0062】
本発明のいくつかの実施形態では、8≦Kf/Kc≦14である。Kf/Kcがこの範囲内にある場合、(003)の結晶面と基材平面とが平行である正極活物質粒子の占める比率が適切な範囲内にあり、電池が優れた充電能力を有するとともに、電池の分極が適切な範囲にあることを保証することができ、これにより、電池がより優れた総合性能を有する。
【0063】
上記正極合剤層中の上記正極活物質により形成された粒子は、サイズが1μm~3μmである粒子の個数の、粒子全体の個数に対する比率が60%より大きい。例えば、61%、63%、65%、67%、70%、73%、75%、78%、80%、83%、85%、87%、90%のうちの任意の値又はそれらのうちの任意の2つの値からなる範囲値であってもよい。
【0064】
上記正極合剤層中の正極活物質粒子のサイズの均一性が電池の充電性能に顕著な影響を与え、正極合剤層中の正極活物質粒子のサイズが均一であるほど、正極活物質の異なる活性粒子間の大電流充電条件下での電流密度の差が小さくなり、即ち、異なる粒子間の脱リチウム程度が一致し、分極が低下することを示し、さらに電池の温度上昇速度が低下し、電池が優れた充電能力及び使用寿命を有することを保証する。
【0065】
実施例1
(1)正極活物質の製造
ステップ1では、正極活物質前駆体Ni0.52Co0.045Mn0.435(OH)2及び炭酸リチウムを混合装置に入れて十分に混合し、炭酸リチウムのリチウムと前駆体とのモル比を1.04:1とする。
【0066】
ステップ2では、混合後の材料を雰囲気炉に入れて焼結し、昇温領域の焼結時間を6時間とする。恒温領域の焼結温度を990℃とし、恒温領域の焼結時間を12時間とし、焼結過程における恒温領域の雰囲気を酸素雰囲気とし、雰囲気炉の恒温領域の酸素濃度を30%とする。
【0067】
ステップ3では、焼結後に得られた正極活物質に対してローラー粉砕を行った後、気流粉砕を行う。
【0068】
ステップ4では、粉砕後の正極活物質を高速混合機に入れて混合し、混合機の周波数を40Hzとし、混合時間を20minとする。
【0069】
ステップ5では、混合後の正極活物質を窯炉に入れて二次焼結して、完成品の正極活物質を得る。焼結温度を550℃とし、焼結時間を6時間とする。
【0070】
合成した正極活物質の(003)ピークの半値幅FWHW(003)を0.088°とし、(104)ピークの半値幅FWHW(104)を0.097°とする。合成した正極活物質の(003)ピークのピーク面積をIc(003)とし、(104)ピークのピーク面積をIc(104)とし、Kc=Ic(003)/Ic(104)、Kc=1.66である。
【0071】
(2)正極板の製造
ステップ1では、上記正極活物質と、接着剤であるポリビニリデンフルオライドと、導電剤であるアセチレンブラックと、導電剤であるカーボンナノチューブとを、97:1.5:1:0.5の質量比で十分に混合し、N-メチルピロリドン(NMP)を加え、撹拌機の作用下で均一に撹拌し、正極活物質、接着剤及び導電剤を均一に分散させた正極スラリーを得て、正極スラリーを厚さ12μmのアルミニウム箔に均一に塗布し、一方の面で塗布した後、もう一方の面で塗布し、片面ではアルミニウム箔の重量を差し引いた塗布面密度を16mg/cm2とする。
【0072】
ステップ2では、塗布後の極板を100℃~130℃のオーブンで乾燥させる。
【0073】
ステップ3では、乾燥した極板をロールプレスし、ロールプレスの圧力、速度、ロールロッドの温度、ロールプレスの回数を制御することにより、正極合剤層に対してX線回折試験を行い、正極合剤層の(003)ピークのピーク面積をIf(003)とし、正極合剤層の(104)ピークのピーク面積をIf(104)とし、Kf=If(003)/If(104)、Kf=15.74である。
【0074】
(3)負極板の製造
負極活物質と、増粘剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウムと、結着剤であるスチレンブタジエンゴムと、導電剤であるアセチレンブラックとを96:0.8:1.2:2の質量比で混合し、脱イオン水を加え、撹拌機の作用下で負極活物質、増粘剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウム、結着剤であるスチレンブタジエンゴム及び導電剤であるアセチレンブラックを均一に分散させた負極スラリーを得て、負極スラリーを一定の厚さの銅箔に均一に塗布し、片面ではアルミニウム箔を差し引いた面密度を7.37mg/cm2とし、塗布後の極板を100℃~120℃のオーブンに移して乾燥させ、極板のもう一方の面で同じ面密度で塗布した後、冷間プレス、スリットを経て負極板を得る。
【0075】
(4)電解液の製造
有機溶媒は、エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジエチルカーボネート(DEC)とを1:1:1の質量比で十分に混合した混合液である。リチウム塩LiPF6を有機溶媒に溶解し、均一に混合して電解液を得る。リチウム塩の濃度を1.0mol/Lとする。
【0076】
(5)セパレータの製造
厚さ12μmのポリエチレンセパレータを選用する。
【0077】
(6)電池の製造
正極板、セパレータ、負極板を順に積層することにより、セパレータが正極板と負極板との間に位置して隔離の役割を果たし、方形のベアセルに巻回した後、外部包装に装入し、次に焼き付けて水を除去し、対応する非水電解液を注入し、封口し、静置、ホットコールドプレス、化成、容量選別などの工程を経た後、完成品の電池を得る。
【0078】
実施例2
正極活物質の製造方法のステップ1では、前駆体がNi0.78Co0.03Mn0.19(OH)2であり、リチウム塩が水酸化リチウムであり、ステップ2では、焼結温度を910℃とする以外、他のステップが実施例1のものと完全に一致する。
【0079】
実施例3
正極活物質の製造方法のステップ1では、前駆体がNi0.55Co0.12Mn0.33(OH)2であり、ステップ2では、恒温領域の焼結温度を945℃とする以外、他のステップが実施例1のものと同じである。
【0080】
実施例4
正極活物質の製造方法のステップ1では、前駆体がNi0.60Co0.10Mn0.30(OH)2である以外、他のステップが実施例3のものと同じである。
【0081】
実施例5
正極活物質の製造方法のステップ1では、正極活物質中のリチウム以外の金属元素のモル総量の0.4%を占める酸化ジルコニウム添加剤を添加する以外、他のステップが実施例4のものと同じである。
【0082】
実施例6
正極活物質の製造方法のステップ1では、正極活物質中のリチウム以外の金属元素のモル総量の2.9%を占める酸化ジルコニウム添加剤を添加する以外、他のステップが実施例4のものと同じである。
【0083】
実施例7
正極活物質の製造方法のステップ1では、正極活物質中のリチウム以外の金属元素のモル総量の0.4%を占める酸化ジルコニウム添加剤を添加し、ステップ4では、粉砕後の正極活物質と、正極活物質中のリチウム以外の金属元素のモル総量の0.5%を占める酸化アルミニウム添加剤とを十分に混合する以外、他のステップが実施例4のものと同じである。
【0084】
実施例8
正極活物質の製造方法のステップ1では、正極活物質中のリチウム以外の金属元素のモル総量の0.4%を占める酸化ジルコニウム添加剤と、0.1%を占める酸化ストロンチウム添加剤とを添加し、ステップ4では、粉砕後の正極活物質と、正極活物質中のリチウム以外の金属元素のモル総量の0.5%を占める酸化アルミニウム添加剤とを十分に混合する以外、他のステップが実施例4のものと同じである。
【0085】
実施例9
正極活物質の製造方法のステップ1では、正極活物質中のリチウム以外の金属元素のモル総量の0.4%を占める酸化ジルコニウム添加剤と、0.1%を占める酸化ストロンチウム添加剤とを添加し、ステップ4では、粉砕後の正極活物質と、正極活物質中のリチウム以外の金属元素のモル総量の0.5%を占める酸化アルミニウム添加剤と、0.2%を占める酸化タングステン添加剤とを十分に混合する以外、他のステップが実施例4のものと同じである。
【0086】
実施例10
正極活物質の製造方法のステップ1では、前駆体がNi0.58Co0.14Mn0.28(OH)2であり、正極活物質中のリチウム以外の金属元素のモル総量の0.3%を占める酸化ジルコニウム添加剤を添加し、ステップ4では、粉砕後の正極活物質と、正極活物質中のリチウム以外の金属元素のモル総量の0.4%を占める酸化アルミニウム添加剤と、0.2%を占める酸化チタン添加剤とを十分に混合する以外、他のステップが実施例4のものと同じである。
【0087】
実施例11
正極活物質の製造方法のステップ1では、前駆体がNi0.635Co0.09Mn0.275(OH)2であり、リチウム塩が水酸化リチウムであり、正極活物質中のリチウム以外の金属元素のモル総量の0.3%を占める酸化ジルコニウム添加剤と、0.1%を占める酸化ストロンチウム添加剤と、0.1%を占める酸化バリウム添加剤とを添加し、ステップ4では、粉砕後の正極活物質と、正極活物質中のリチウム以外の金属元素のモル総量の0.9%を占める酸化アルミニウム添加剤と、0.1%を占める酸化タングステン添加剤とを十分に混合する以外、他のステップが実施例4のものと同じである。
【0088】
実施例12
正極活物質の製造方法のステップ1では、前駆体がNi0.68Co0.09Mn0.27(OH)2であり、リチウム塩が水酸化リチウムであり、正極活物質中のリチウム以外の金属元素のモル総量0.3%を占める酸化ジルコニウム添加剤と、0.1%を占める酸化ストロンチウム添加剤と、0.1%を占める酸化バリウム添加剤とを添加し、ステップ2では、恒温領域の焼結温度を935℃とし、ステップ4では、粉砕後の正極活物質と、正極活物質中のリチウム以外の金属元素のモル総量の1.1%を占める酸化アルミニウム添加剤と、0.2%を占める酸化タングステン添加剤とを十分に混合する以外、他のステップが実施例4のものと同じである。
【0089】
実施例13
正極活物質の製造方法のステップ1では、前駆体がNi0.72Co0.05Mn0.23(OH)2であり、リチウム塩が水酸化リチウムであり、正極活物質中のリチウム以外の金属元素のモル総量の0.3%を占める酸化ジルコニウム添加剤と、0.1%を占める酸化ストロンチウム添加剤と、0.1%を占める酸化バリウム添加剤を添加し、ステップ2では、恒温領域の焼結温度を910℃とし、ステップ4では、粉砕後の正極活物質と、正極活物質中のリチウム以外の金属元素のモル総量の0.7%を占める酸化アルミニウム添加剤と、0.2%を占める酸化タングステン添加剤とを十分に混合する以外、他のステップが実施例4のものと同じである。
【0090】
実施例14
正極活物質の製造方法のステップ1では、正極活物質中のリチウム以外の金属元素のモル総量の0.15%を占める酸化ジルコニウム添加剤と、0.75%を占める酸化ストロンチウム添加剤とを添加し、ステップ4では、粉砕後の正極活物質と、正極活物質中のリチウム以外の金属元素のモル総量の0.1%を占める酸化アルミニウム添加剤とを十分に混合する以外、他のステップが実施例4のものと同じである。
【0091】
実施例15
正極活物質の製造方法のステップ2では、恒温領域の焼結温度を980℃とし、恒温領域の焼結時間を24時間とする以外、他のステップが実施例9のものと同じである。
【0092】
実施例16
正極活物質の製造方法のステップ2では、恒温領域の焼結温度を925℃とし、恒温領域の焼結時間を7時間とする以外、他のステップが実施例9のものと同じである。
【0093】
実施例17
正極活物質の製造方法のステップ2では、恒温領域の焼結温度を980℃とし、恒温領域の焼結時間を24時間とし、ステップ3では、粉砕パラメータを調整する以外、他のステップが実施例9のものと同じである。
【0094】
実施例18~21
正極板の製造方法のステップ3では、ロールプレスパラメータを調整する以外、他のステップが実施例15のものと同じである。
【0095】
比較例1
正極活物質の製造方法のステップ1では、前駆体がNi0.46Co0.04Mn0.50(OH)2である以外、他のステップが実施例1のものと同じである。
【0096】
比較例2
正極活物質の製造方法のステップ1では、前駆体がNi0.60Co0.03Mn0.37(OH)2である以外、他のステップが実施例1のものと同じである。
【0097】
比較例3
正極活物質の製造方法のステップ1では、前駆体がNi0.82Co0.03Mn0.15(OH)2であり、リチウム塩が水酸化リチウムである以外、他のステップが実施例1のものと同じである。
【0098】
実施例1~21及び比較例1~3の具体的な実験パラメータ及び電池の電気化学性能を表1、表2及び表3に示す。
【0099】
表1及び表2における正極活物質及び合剤層材料に関するパラメータの試験方法は、以下のとおりである。
【0100】
1、正極活物質粉体の(003)回折ピークの半値幅FWHW(003)及び正極活物質粉体の(104)回折ピークの半値幅FWHW(104)の試験方法は、以下のとおりである。
【0101】
正極活物質粉体の(003)回折ピークの半値幅FWHW(003)及び正極活物質粉体の(104)回折ピークの半値幅FWHW(104)は、X線粉末回折装置(X’pert PRO)を用いて得られ、X線回折分析法通則JIS K 0131-1996に準拠し、X線回折パターンを得て、X線回折パターンのバックグラウンド及びKα2を差し引く。FWHW(003)は、(003)特徴的回折ピークの高さ半分の位置でのピーク幅であり、FWHW(104)は、(104)特徴的回折ピークの高さ半分の位置でのピーク幅であり、単位は、°である。
【0102】
2、正極活物質の(003)回折ピークのピーク面積Ic(003)と正極活物質の(104)回折ピークのピーク面積Ic(104)との比率Kcの試験方法は、以下のとおりである。
【0103】
正極活物質粉体のKc値は、X線粉末回折装置(X’pert PRO)を用いて得られ、X線回折分析法通則JIS K 0131-1996に準拠し、X線回折パターンを得て、Kc=I(003)/I(104)であり、I(003)は、(003)特徴的回折ピークのピーク面積であり、I(104)は、(104)特徴的回折ピークのピーク面積である。具体的には、正極活物質粉体のKc値の試験方法は、一定質量の正極活物質粉末をX線粉末回折装置に入れ、X線回折分析法により(003)結晶面回折ピークのピーク面積及び(104)結晶面回折ピークのピーク面積を得て、さらに正極活物質粉体のKc値を得ることである。
【0104】
3、正極合剤層の(003)回折ピークのピーク面積Ic(003)と正極合剤層の(104)回折ピークのピーク面積Ic(104)との比率Kcの試験方法は、以下のとおりである。
【0105】
正極合剤層のKf値は、X線粉末回折装置(X’pert PRO)を用いて得られ、X線回折分析法通則JIS K 0131-1996に準拠し、X線回折パターンを得て、Kc=I(003)/I(104)であり、I(003)は、(003)特徴的回折ピークのピーク面積であり、I(104)は、(104)特徴的回折ピークのピーク面積である。具体的には、正極合剤層のKf値の試験方法は、正極板をそのままX線粉末回折装置に入れ、X線回折分析法により(003)結晶面回折ピークのピーク面積及び(104)結晶面回折ピークのピーク面積を得て、さらに正極合剤層粉体のKf値を得ることである。
【0106】
表3における電池の電気化学性能に関する試験方法は、以下のとおりである。
【0107】
1、正極活物質のグラム容量の試験
25℃±3℃の試験環境下で、実施例及び比較例で製造されたリチウムイオン電池を1/3Cレートで4.35Vまで充電し、1/3Cレートで2.80Vまで放電し、放電容量を記録し、放電容量を正極板中の活物質の質量で割って、正極活物質のグラム容量を得ることができる。正極活物質のグラム容量が高いほど、電池が提供できるエネルギー密度が高くなり、電池の性能がより優れることを示す。
【0108】
2、1000サイクル後の電池の容量維持率の試験
25℃±3℃で、実施例及び比較例で製造されたリチウムイオン電池を1Cレートで4.35Vまで充電し、1Cレートで2.80Vまで放電する充放電サイクルを1000回行い、1サイクルあたりの充電容量及び放電容量を記録し、第1サイクルの放電容量に対する第1000サイクルの放電容量の比率は、1000サイクル後の電池の容量維持率である。サイクル後の電池の容量維持率が高いほど、電池の容量減衰抵抗能力が強くなり、電池の性能がより優れることを示す。
【0109】
3、1000サイクル後の電池の負極板のMnイオン及びNiイオンの溶出総量の試験
実施例及び比較例で製造されたリチウムイオン電池を1Cレートで4.35Vまで充電し、1Cレートで2.80Vまで放電する充放電サイクルを1000回行った後、1Cレートで2.80Vまで放電し、電池を分解した後、電池の負極板を取り出し、DMCで12時間浸漬し、負極板の表面に残留した不純物を除去し、さらに80℃のオーブンで2時間焼き付けて、DMC及び残留した電解液を除去する。その後、EPA6010D誘導結合プラズマ原子発光分光法を用いて負極板のMn元素の含有量及びNi元素の含有量を試験し、この2つの含有量の和は、1000サイクル後の電池の負極板のMnイオン及びNiイオンの溶出総量である。負極板のMnイオン及びNiイオンの溶出総量が低いほど、正極材料の構造が安定し、それに応じて、電池がより長い使用寿命を有することを示す。
【0110】
4、1000サイクル後の電池のインピーダンス増加幅の試験
25℃±2℃で、実施例及び比較例で製造されたリチウムイオン電池を1Cレートで2.8Vまで放電し、1Cレートで4.35Vまで充電し、さらに1Cレートで2.8Vまで放電し、放電容量C
1を記録し、さらに製造されたリチウムイオン電池を1C
1の電流で4.35Vまで充電した後、1C
1の電流で30分間放電した後に180分間静置し、静置後の電池の電圧V
1を記録し、さらに5C
1の電流で10秒間放電し、10秒間電圧放電後の末端の電圧V
2を記録し、初期のインピーダンスR1=(V
2-V
1)/5C
1である。製造されたリチウムイオン電池を1Cレートで4.35Vまで充電し、1Cレートで2.80Vまで放電する充放電サイクルを1000回行う。その後、1000サイクル後の電池を1C
1のレートで2.8Vまで放電し、1C
1のレートで4.35Vまで充電し、さらに1C
1のレートで2.8Vまで放電し、放電容量C
2を記録し、製造されたリチウムイオン電池を1C
2の電流で4.35Vまで充電した後、1C
2の電流で30分間放電した後に180分間静置し、静置後の電池の電圧V
3を記録し、5C
2の電流で10秒間放電し、10秒間電圧放電後の末端の電圧V
4を記録し、1000サイクル後のインピーダンスR2=(V
4-V
3)/5C
2である。1000サイクル後のインピーダンス増加幅ΔR=(R
2-R
1)/R
1である。1000サイクル後の電池のインピーダンス増加幅が低いほど、電池の使用過程における充電能力の減衰が低くなり、即ち、電池がより優れた充電能力を有することを示す。
【0111】
表1、表2及び表3のデータから、以下の結論が得られる。
【0112】
実施例1と比較例1及び比較例2とを比較すると、実施例1で製造された電池の1000サイクル後の容量維持率は、83.1%であり、比較例1の61.2%及び比較例2の66.1%より高く、これは、実施例1で製造された電池がより優れたサイクル安定性を有することを示し、実施例1で製造された電池の1000サイクル後のインピーダンス増加幅は、35.2%であり、比較例1の92.6%及び比較例2の86.5%より低く、これは、実施例1で製造された電池がより優れた電力減衰抵抗性能を有することを示し、実施例1の優れた性能は、そのコバルト、マンガンのモル含有量の設計により、その正極活物質のMnイオン及びNiイオンの溶出総量をより低くすることにより得られる。実施例1で製造された電池の1000サイクル後の負極板のMnイオン及びNiイオンの溶出総量は、342.1ppmであり、比較例1の667.3ppm及び比較例2の607.9ppmより遥かに低い。
【0113】
実施例2と比較例3とを比較すると、実施例2で製造された電池の1000サイクル後の容量維持率は、77.5%であり、比較例3の34.2%より高く、これは、実施例2で製造された電池がより優れたサイクル安定性を有することを示し、実施例2で製造された電池の1000サイクル後のインピーダンス増加幅は、42.3%であり、比較例3の126.8%より低く、これは、実施例2で製造された電池がより優れた電力減衰抵抗性能を有することを示し、実施例2の優れた性能は、そのコバルト、マンガンのモル含有量の設計により、その正極活物質のMnイオン及びNiイオンの溶出総量をより低くすることにより得られる。実施例2で製造された電池の1000サイクル後の負極板のMnイオン及びNiイオンの溶出総量は、421.7ppmであり、比較例3の826.3ppmより遥かに低い。
【0114】
実施例1と実施例3とを比較すると、実施例3で製造された電池の1000サイクル後の容量維持率は、84.3%であり、実施例1の83.1%より高く、これは、実施例3で製造された電池がより優れたサイクル安定性を有することを示し、実施例3で製造された電池の1000サイクル後のインピーダンス増加幅は、28.7%であり、実施例1の35.2%より低く、これは、実施例3で製造された電池がより優れた電力減衰抵抗性能を有することを示し、実施例3の優れた性能は、そのコバルト、マンガンのモル含有率のより優れた設計により、その正極活物質のMnイオン及びNiイオンの溶出総量をより低くすることにより得られる。実施例3で製造された電池の1000サイクル後の負極板のMnイオン及びNiイオンの溶出総量は、285.5ppmであり、実施例1の342.1ppmより低い。
【0115】
実施例5と実施例4とを比較すると、実施例5で製造された電池の1000サイクル後の容量維持率は、88.6%であり、実施例4の86.5%より高く、これは、実施例5で製造された電池がより優れたサイクル安定性を有することを示し、実施例5で製造された電池の1000サイクル後のインピーダンス増加幅は、25.1%であり、実施例4の31.3%より低く、これは、実施例3で製造された電池がより優れた電力減衰抵抗性能を有し、実施例5の優れた性能は、その適量の添加元素Zrの導入により材料の構造安定性を向上させ、その正極活物質のMnイオン及びNiイオンの溶出総量をより低くすることにより得られる。実施例5で製造された電池の1000サイクル後の負極板のMnイオン及びNiイオンの溶出総量は、241.3ppmであり、実施例4の292.0ppmより低い。
【0116】
実施例6と実施例5とを比較すると、実施例6で製造された電池の正極グラム容量は、178.6mAh/gであり、実施例5の186.5mAh/gより遥かに低く、これは、Zr元素の過剰な添加が電池のエネルギー密度に影響を与えることを示す。
【0117】
実施例7と実施例5とを比較すると、実施例7で製造された電池の1000サイクル後の容量維持率は、93.7%であり、実施例5の88.6%より高く、これは、実施例7で製造された電池がより優れたサイクル安定性を有することを示し、実施例7で製造された電池の1000サイクル後のインピーダンス増加幅は、16.7%であり、実施例5の25.1%より低く、これは、実施例7で製造された電池がより優れた電力減衰抵抗性能を有し、実施例7の優れた性能は、その適量の添加元素Zr及びAlの共同導入により材料の構造安定性を向上させ、その正極活物質のMnイオン及びNiイオンの溶出総量をより低くすることにより得られる。実施例7で製造された電池の1000サイクル後の負極板のMnイオン及びNiイオンの溶出総量は、191.4ppmであり、実施例5の241.3ppmより低い。
【0118】
実施例8、実施例9及び実施例10と実施例7とを比較すると、実施例8、実施例9及び実施例10で製造された電池の1000サイクル後の容量維持率は、それぞれ94.9%、96.2%及び95.8%であり、実施例7の93.7%より高く、これは、実施例8、実施例9及び実施例10で製造された電池がより優れたサイクル安定性を有することを示し、実施例8、実施例9及び実施例10で製造された電池の1000サイクル後のインピーダンス増加幅は、それぞれ12.6%、6.8%及び10.7%であり、実施例7の16.7%より低く、これは、実施例8、実施例9及び実施例10で製造された電池がより優れた電力減衰抵抗性能を有することを示し、実施例8、実施例9及び実施例10の優れた性能は、その適量の添加元素Zr及びAlの共同導入以外にTi、Sr、W元素をさらに選択的に添加することにより、材料の構造安定性をさらに向上させ、正極活物質のMnイオン及びNiイオンの溶出総量をより低くすることにより得られる。実施例8、実施例9及び実施例10で製造された電池の1000サイクル後の負極板のMnイオン及びNiイオンの溶出総量は、それぞれ153.7ppm、126.1ppm及び137.4ppmであり、実施例7の191.4ppmより低い。
【0119】
実施例11、実施例12及び実施例13から、コバルト、マンガンのモル比の設計、添加剤元素の種類及び含有量の設計により、合成された正極活物質で製造された電池が高い正極材料グラム容量、高い容量維持率及びより優れた電力減衰抵抗性能を有することをさらに示す。実施例11、実施例12及び実施例13の正極グラム容量は、それぞれ190.7mAh/g、196.4mAh/g及び196.1mAh/gであり、1000サイクル後の容量維持率は、それぞれ92.5%、92.1%及び91.5%であり、1000サイクル後のインピーダンス増加幅は、それぞれ14.5%、13.8%及び16.7%である。
【0120】
実施例14と実施例8とを比較すると、実施例8で製造された電池の1000サイクル後の容量維持率は、94.9%であり、実施例14の87.3%より高く、これは、実施例8で製造された電池がより優れたサイクル安定性を有することを示し、実施例8で製造された電池の1000サイクル後のインピーダンス増加幅は、12.6%であり、実施例1の25.1%より低く、これは、実施例8で製造された電池がより優れた電力減衰抵抗性能を有し、実施例8の優れた性能は、その添加元素Zr及びAlの導入量が適切な範囲にあることにより、材料の構造安定性を向上させ、その正極活物質のMnイオン及びNiイオンの溶出総量をより低くすることにより得られる。実施例8で製造された電池の1000サイクル後の負極板のMnイオン及びNiイオンの溶出総量は、153.7ppmであり、実施例5の224.3ppmより低い。
【0121】
実施例15と実施例9とを比較すると、実施例9で製造された電池の1000サイクル後の容量維持率は、96.2%であり、実施例15の86.3%より高く、これは、実施例9で製造された電池がより優れたサイクル安定性を有することを示し、実施例9で製造された電池の1000サイクル後のインピーダンス増加幅は、6.8%であり、実施例15の35.5%より低く、これは、実施例9で製造された電池がより優れた電力減衰抵抗性能を有することを示し、実施例9の優れた性能は、その適切なFWHW(003)及びFWHW(104)の設計により、材料の構造安定性を向上させ、その正極活物質のMnイオン及びNiイオンの溶出総量をより低くすることにより得られる。実施例9で製造された電池の1000サイクル後の負極板のMnイオン及びNiイオンの溶出総量は、126.1ppmであり、比較例15の273.5ppmより低い。それとともに、FWHW(003)及びFWHW(104)が低すぎると、正極活物質粒子の成長が十分すぎることを示し、動力学の低下を招き、正極活物質のグラム容量に影響を与え、実施例15と実施例9とを比較すると、実施例9で製造された電池の正極材料グラム容量は、188.6mAh/gであり、実施例15の174.2mAh/gより遥かに高い。
【0122】
実施例16と実施例9とを比較すると、実施例9で製造された電池の1000サイクル後の容量維持率は、96.2%であり、実施例16の87.9%より高く、これは、実施例9で製造された電池がより優れたサイクル安定性を有することを示し、実施例9で製造された電池の1000サイクル後のインピーダンス増加幅は、6.8%であり、実施例16の29.6%より低く、これは、実施例9で製造された電池がより優れた電力減衰抵抗性能を有することを示し、実施例9の優れた性能は、その適切なFWHW(003)及びFWHW(104)の設計により、材料の構造安定性を向上させ、その正極活物質のMnイオン及びNiイオンの溶出総量をより低くすることにより得られる。実施例9で製造された電池の1000サイクル後の負極板のMnイオン及びNiイオンの溶出総量は、126.1ppmであり、実施例16の237.9ppmより低い。
【0123】
実施例17~実施例21と実施例9とを比較すると、実施例9で製造された電池の1000サイクル後の容量維持率は、96.2%であり、実施例17の77.6%、実施例18の81.5%より高く、これは、実施例9で製造された電池がより優れたサイクル安定性を有することを示し、実施例9で製造された電池の1000サイクル後のインピーダンス増加幅は、6.8%であり、実施例17の38.8%及び実施例18の32.3%より低く、これは、実施例9で製造された電池がより優れた電力減衰抵抗性能を有することを示し、実施例9の優れた性能は、その正極活物質のKc値及び正極合剤層のKf値の適切な設計により、その正極活物質のMnイオン及びNiイオンの溶出総量をより低くすることにより得られる。実施例9で製造された電池の1000サイクル後の負極板のMnイオン及びNiイオンの溶出総量は、126.1ppmであり、実施例17の358.1ppm及び実施例18の235.8ppmより低い。
【0124】
以上のステップに対する説明は、本発明の方法、構造及び中心的な思想の理解を助けるものに過ぎない。当業者であれば、本発明の原理から逸脱することなく、本発明に対していくつかの改良及び修正を行うことができ、これらの改良及び修正も同様に本発明の特許請求の権利範囲に属する。
【0125】
[産業上の利用可能性]
本発明は、以下の有利な技術的効果を奏する。
【0126】
1、正極活物質中の遷移金属元素であるニッケル、マンガン、コバルトの溶解を低減し、電池の充電能力、サイクル寿命及び安全性能を向上させることができる。正極活物質について、材料中のNi含有量が高く、正極活物質のリチウム吸蔵脱離程度が増加し、材料の構造安定性が低く、Mn含有量が増加する場合、Mnが溶解した後に負極の表面保護膜を破壊しやすいため、インピーダンスの増加を招き、リチウム析出リスクを高め、電池の充電能力、サイクル寿命及び安全性能を低下させる。添加元素の量及び成分を合理的に設計することにより、正極活物質の使用過程における金属イオンの溶解を抑制し、電池の充電能力、サイクル寿命及び安全性能を改善することができる。
【0127】
2、正極粒子が正極板の加工過程において発生するマイクロクラックを低減するとともに、正極が優れた充電能力、サイクル寿命及び安全性能を有することを保証することができる。正極板の圧縮率と正極粉体の圧縮率との適切な比率は、正極活物質粒子間、正極活物質粒子と導電剤との間の優れた電気的接触を保証するとともに、正極活物質粒子のスリップクラックの数を低減することができる。正極板の圧縮率と正極粉体の圧縮率との比率が低い場合、正極粒子間、正極粒子と導電剤との間の電気的接触面積が不十分であり、正極合剤層のオーミック内部インピーダンスが大きくなり、電池の充電性能に影響を与え、正極板の圧縮率と正極粉体の圧縮率との比率が高い場合、正極合剤層の圧縮率が高くなり、正極活物質粒子がスリップクラックを形成することを招きやすく、電解液の劣化及び遷移金属の溶出を招き、充電能力、サイクル寿命及び安全性能に影響を与える。
【国際調査報告】