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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ボツリヌス毒素タンパク質組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20250109BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 13/00 20060101ALI20250109BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20250109BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20250109BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20250109BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20250109BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20250109BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20250109BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
A61K38/16
A61P21/00
A61P25/00
A61P13/00
A61K9/08
A61K47/18
A61K47/10
A61K47/20
A61K47/26
A61K47/02
A61K47/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534684
(86)(22)【出願日】2022-12-05
(85)【翻訳文提出日】2024-08-08
(86)【国際出願番号】 CN2022136597
(87)【国際公開番号】W WO2023130875
(87)【国際公開日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】202210018289.4
(32)【優先日】2022-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524220469
【氏名又は名称】重慶誉顔製薬有限公司
【氏名又は名称原語表記】CHONGQING CLARUVIS PHARMACEUTICAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Building 21 and 22, 28 Yuefu Ave., Beibei District Chongqing 400713 CN
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100213517
【弁理士】
【氏名又は名称】韓 明花
(72)【発明者】
【氏名】楊武
(72)【発明者】
【氏名】▲ゴン▼慧
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA12
4C076CC01
4C076CC09
4C076CC17
4C076DD23
4C076DD24
4C076DD26
4C076DD41
4C076DD42
4C076DD43
4C076DD46
4C076DD51Q
4C076DD55E
4C076EE23E
4C076FF15
4C084AA02
4C084AA03
4C084CA04
4C084DA33
4C084MA16
4C084MA17
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZA941
4C084ZA942
(57)【要約】
ボツリヌス毒素タンパク質組成物であって、ボツリヌス毒素タンパク質およびタンパク質安定化剤を含み、タンパク質安定化剤が、アミノ酸またはアミノ酸様化合物のいずれかから選択され、アミノ酸が、L-ヒスチジン、L-グリシン、L-アルギニン、L-メチオニン、L-リジンのうちの1種または複数から選択され、アミノ酸様化合物がレボカルニチンを含む、ボツリヌス毒素タンパク質組成物。医療および美容分野において液体製剤として適用することができ、ボツリヌス毒素タンパク質の活性を液体状態で安定に保つことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボツリヌス毒素タンパク質およびタンパク質安定化剤を含み、
前記タンパク質安定化剤は、アミノ酸またはアミノ酸様化合物のいずれかから選択されることを特徴とするボツリヌス毒素タンパク質組成物。
【請求項2】
前記アミノ酸様化合物がレボカルニチン(L-carnitine)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記レボカルニチンのモル含量が5~20mMであることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記アミノ酸のモル含量が5~20mMであることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記アミノ酸が、L-ヒスチジン、L-グリシン、L-アルギニン、L-メチオニン、L-ヒスチジンおよびL-リジンのうちの1つまたは複数から選択されることを特徴とする、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記ボツリヌス毒素タンパク質が、A型ボツリヌス毒素タンパク質、B型ボツリヌス毒素タンパク質、C1型ボツリヌス毒素タンパク質、C2型ボツリヌス毒素タンパク質、D型ボツリヌス毒素タンパク質、E型ボツリヌス毒素タンパク質、F型ボツリヌス毒素タンパク質、G型ボツリヌス毒素タンパク質またはH型ボツリヌス毒素タンパク質のいずれか1つから選択され、好ましくは、前記ボツリヌス毒素タンパク質が、A型ボツリヌス毒素タンパク質であり、より好ましくは、前記ボツリヌス毒素が、組換えボツリヌス毒素であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、可溶化剤および/または塩類をさらに含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記可溶化剤の濃度が、0.01体積%~0.2体積%であることを特徴とする、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記塩類の濃度が、0.9質量%であることを特徴とする、請求項7または8に記載の組成物。
【請求項10】
前記可溶化剤が、ツイーン系、スパン系、ドデシル硫酸ナトリウムから選択され、
好ましくは、前記ツイーン系が、ツイーン20、ツイーン40、ツイーン60、またはツイーン80のうちの1つまたは複数から選択され、
好ましくは、前記スパン系が、スパン20、スパン40、スパン60、スパン80、またはスパン85のうちの1つまたは複数から選択され、
より好ましくは、前記可溶化剤がツイーン80であることを特徴とする、請求項7~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記塩類が、無機塩または有機塩のいずれかから選択され、
好ましくは、前記無機塩が、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウムおよびリン酸カリウムのうちの1つまたは複数から選択され、
好ましくは、前記有機塩が、乳酸ナトリウム、コハク酸ナトリウムのうちの1つまたは複数から選択され、
より好ましくは、前記無機塩類が塩化ナトリウムであることを特徴とする、請求項7~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、ボツリヌス毒素タンパク質、レボカルニチン、ツイーン80、塩化ナトリウムを含み、
あるいは
前記組成物が、ボツリヌス毒素タンパク質、アミノ酸、ツイーン80、塩化ナトリウムを含むことを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記ツイーン80の濃度が、0.05体積%~0.2体積%であり、
好ましくは、前記ツイーン80の濃度が、0.1体積%であることを特徴とする、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記塩化ナトリウムの濃度が、0.9質量%であることを特徴とする、請求項12または13に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物が、液体製剤であることを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
各成分を混合する工程を含むことを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物の製造方法。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物の、筋肉または外分泌腺を支配するコリン作動性神経に関連する疾患の予防および/または治療のための医薬の製造における使用、
あるいは
医療美容のための医薬の製造における使用であって、
好ましくは、前記医療美容には、シワを伸ばしたり予防したり、顔をほっそりさせたり、ボディシェイプしたり、傷跡を修復したりすることが含まれ、
好ましくは、前記コリン作動性神経に関連する疾患は、
フレイ症候群、ワニの涙症候群、腋窩多汗症、足底多汗症、頭頸部の多汗症、身体の多汗症、鼻漏、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、唾液分泌過多、垂涎、流涎、痙縮、口蓋ミオクローヌス、ミオクローヌス、ミオキミア、硬直、良性筋痙攣、遺伝性顎振戦、下顎運動の異常、片側咀嚼筋痙攣、肥大性鰓弓筋疾患、咬筋肥大、前脛骨筋肥大、眼振、動揺視、核上性注視麻痺、持続性部分てんかん、痙性斜頸手術の計画、外転筋声帯麻痺、難治性変異性発声障害、上部食道括約筋機能障害、声帯肉芽腫、吃音、ジル・ド・ラ・トゥレット症候群、中耳ミオクローヌス、防御性喉頭閉鎖、喉頭摘出術後の言語障害、防御性眼瞼下垂、眼瞼内反症、オッディ括約筋機能障害、偽性食道アカラシア、非アカラシア性食道運動障害、膣痙、術後の臥床安静、振戦、膀胱機能障害、片側顔面痙攣、神経再支配ジスキネジア、スティッフマン症候群、破傷風、前立腺肥大症、肥満治療、乳児脳性麻痺、アカラシア、裂肛のうちの1つまたは複数から選択される、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬製剤の分野に関し、具体的には、ボツリヌス毒素タンパク質組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ボツリヌス神経毒素(BoNT)は、クロストリジウム属の嫌気性ボツリヌス菌によって産生される毒素タンパク質であり、神経筋接合部における神経伝達物質のアセチルコリンのシナプス前放出を阻害することにより、哺乳類の筋肉麻痺を引き起こす。現在までに7種類のBoNTが発見されており、それぞれBoNT/AからBoNT/Gと命名されている。BoNTは、神経系に対する高度な特異性、局所注射時の限定的な拡散、作用の可逆性を含めた独特な薬理学的特性により、コリン作動性の過剰興奮の治療薬として急速に発展し、医療および美容の分野で広く応用されている。
【0003】
一般に、治療用医薬品活性タンパク質は、通常、液体溶液で調製され、特に注射剤として使用される。治療用活性タンパク質は通常、組成物として調製され、市販では即用液剤の形態として販売されるか、液体溶液で再構成される凍結乾燥形態として提供される。例えば、市販されているBoNT/A製剤は、いずれも真空乾燥または凍結乾燥された固形製剤であり、使用時に医療従事者が再溶解する必要があるため、再溶解の体積を正確に制御する必要がある。さらに、異なる治療目的や患者ごとに必要な投与量に個人差があるため、各治療で必要な用量はかなり異なる。市販製品に含まれる薬物の量は、メーカーの指定する体積で再溶解した後、臨床医が瓶の内容物のごく一部を患者に投与し、残りは後で使用するために冷蔵庫に保管することが多い。研究によると、再溶解したBoNT/Aを冷蔵庫(約4℃)で12時間保存した場合、その効力は少なくとも44%失われると推定されているため、実際の運用では、一般的に再溶解後4時間以内に使用することが推奨されているが、これにより薬品の無駄が生じ、患者に不要な経済的負担を強いることになってしまう。
【0004】
さらに、ボツリヌス毒素の使用濃度が極めて低いので、極めて低い濃度でボツリヌス毒素タンパク質の安定性を維持するとともに、薬剤の固形表面への吸着を避けるために、通常、高濃度の外因性タンパク質を添加して調製される。ボツリヌス毒素の処方において、安定剤としてアルブミンやゼラチンを使用することが多いが、免疫反応を引き起こすだけでなく、汚染源を導入する可能性もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
「背景技術」で述べた技術的課題に対して、本発明は、ボツリヌス毒素タンパク質組成物およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の技術態様は以下の通りである。
【0007】
本発明は、ボツリヌス毒素タンパク質およびタンパク質安定化剤を含むボツリヌス毒素タンパク質組成物を提供する。
【0008】
前記タンパク質安定化剤は、アミノ酸またはアミノ酸様化合物のいずれかから選択される。
【0009】
好ましくは、前記アミノ酸様化合物は、レボカルニチン(別名:ビタミンBt、L-レボカルニチン)である。
【0010】
より好ましくは、前記レボカルニチンのモル含量は、5~20mMであり、1つの具体的な実施形態において、前記レボカルニチンのモル含量は、10mMである。
【0011】
好ましくは、前記アミノ酸のモル含量は、5~20mMであり、1つの具体的な実施形態では、前記アミノ酸のモル含量は、10mMである。
【0012】
より好ましくは、前記アミノ酸は、L-ヒスチジン、L-グリシン、L-アルギニン、L-メチオニン、L-ヒスチジン、L-リジンうちの1種または複数から選択される。
【0013】
一般に、タンパク質は低濃度(<0.1mg/ml)で分解して不活性化されやすい。本願のあるアミノ酸およびアミノ酸様化合物は、特定のpHにおけるタンパク質の溶解度を高め、安定性を向上させることができ、また、アミノ酸およびアミノ酸構造様化合物は、表面への吸着を低減し、タンパク質のコンフォメーションを保護するだけでなく、タンパク質の変性および凝集を防止することができる。さらに、本発明のタンパク質安定化剤がレボカルニチンである場合、一般的に使用される添加物と比較して、レボカルニチンは製剤に低粘度を与え、ボツリヌス毒素タンパク質の凝集および沈殿を減少させ、ボツリヌス毒素タンパク質の安定性を維持することに有利である。
【0014】
好ましくは、前記ボツリヌス毒素タンパク質は、A型ボツリヌス毒素タンパク質、B型ボツリヌス毒素タンパク質、C1型ボツリヌス毒素タンパク質、C2型ボツリヌス毒素タンパク質、D型ボツリヌス毒素タンパク質、E型ボツリヌス毒素タンパク質、F型ボツリヌス毒素タンパク質、またはG型ボツリヌス毒素タンパク質のいずれか1種から選択され、より好ましくは、前記ボツリヌス毒素タンパク質はA型ボツリヌス毒素タンパク質である。
【0015】
より好ましくは、前記ボツリヌス毒素は組換えボツリヌス毒素である。
【0016】
さらにより好ましくは、前記組換えボツリヌス毒素タンパク質は、単鎖ポリペプチドがプロテアーゼによって切断されてポリペプチドを形成した少なくとも1つの二量体構造を持つ。
【0017】
前記単鎖ポリペプチドは、
(I)第1のポリペプチドフラグメントであって、
(a)タグタンパク質、
(b)第1のプロテアーゼ切断部位を含む構造領域、
(c)リンカー
を含む第1のポリペプチドフラグメントと、
(II)第2のポリペプチドフラグメントであって、
(d)金属イオン依存性プロテアーゼ活性ドメインを含む第1の機能性アミノ酸構造領域、
(e)第2のプロテアーゼ切断部位を含む構造領域、
(f)標的細胞表面のレセプターに結合できるレセプター結合ドメインおよび/または小胞膜を横切ってポリペプチドの移動を媒介できるトランスロケーションドメインを含む第2の機能性アミノ酸構造領域
を含む第2のポリペプチドフラグメントと
を含む。
【0018】
「タグタンパク質」という用語は、特定のリガンドに結合できるタンパク質分子の一種を指す。
【0019】
好ましくは、前記タグタンパク質は、当業者に既知のタグタンパク質、またはコンピュータープログラムによって設計されたタグタンパク質から選択され、前記タグタンパク質は、既知の基質に特異的に結合することが可能である。
【0020】
より好ましくは、前記タグタンパク質は、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、C-myc、キチン結合ドメイン、マルトース結合タンパク質(MBP)、SUMO異種親和性部分、モノクローナル抗体またはプロテインA、ストレプトアビジン結合タンパク質(SBP)、セルロース結合ドメイン、カルモジュリン結合ペプチド、Sタグ、StrepタグII、FLA、プロテインA、プロテインG、ヒスチジン親和性タグ(HAT)、ポリヒスチジンのようなタンパク質から選択されるが、これらに限定されない。
【0021】
好ましくは、前記「タグタンパク質」は、宿主における毒素ポリペプチド前駆体の溶解度を増加させることができる。
【0022】
好ましくは、前記「タグタンパク質」は、毒素ポリペプチド前駆体が宿主細胞中に可溶の状態で存在することを可能にする。
【0023】
1つの具体的な実施例において、前記タグタンパク質は、単鎖ポリペプチドのN末端に位置する。
【0024】
1つの具体的な実施例において、前記タグタンパク質は、グルタチオンs-トランスフェラーゼ(GST)であり、より好ましくは、前記グルタチオンs-トランスフェラーゼは、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する。
【0025】
好ましくは、前記第1のプロテアーゼ切断部位および第2のプロテアーゼ切断部位のいずれも、ヒトプロテアーゼまたは前記単鎖ポリペプチドを発現する宿主細胞自身が産生するプロテアーゼによって切断され得ない。
【0026】
より好ましくは、前記第1のプロテアーゼ切断部位および第2のプロテアーゼ切断部位は、同一であるかまたは異なっている。
【0027】
前記第1のプロテアーゼ切断部位および第2のプロテアーゼ切断部位は、発現時の宿主細胞または使用時の生物の内因性プロテアーゼによって認識されず、切断されない。
【0028】
より好ましくは、前記で特定したプロテアーゼは、非ヒトエンテロキナーゼ、タバコエッチウイルスプロテアーゼ、枯草菌由来のプロテアーゼ、バチルス・アミロリクファシエンス由来のプロテアーゼ、ライノウイルス由来のプロテアーゼ、パパイン、昆虫パパインのホモログ、または甲殻類パパインのホモログから選択される1種または2種の組み合わせであるが、これらに限定されない。
【0029】
1つの具体的な実施例において、前記第1のプロテアーゼ切断部位を特異的に認識し、および前記第2のプロテアーゼ切断部位を特異的に認識する前記プロテアーゼは、いずれもライノウイルス由来のプロテアーゼである。
【0030】
好ましくは、第2の制限酵素切断部位は、第1の機能性ペプチドセグメントと第2の機能性ペプチドセグメントとの間の、天然に存在するループ領域に埋め込むか、部分的に置換するか、または完全に置換する。前記「埋め込む」とは、前記ループ領域のある2つのアミノ酸の間に挿入されることを意味し、前記「部分的に置換する」とは、前記第2の制限酵素切断部位が前記ループ領域のアミノ酸配列の一部を置換することを意味し、前記「完全に置換する」とは、天然に存在するループ領域のアミノ酸配列が第2の制限酵素切断部位によって完全に置換されることを意味する。
【0031】
より好ましくは、第1のプロテアーゼ切断部位を含む前記構造領域および第2のプロテアーゼ切断部位を含む前記構造領域は、DDDDK、EXXYXQS/G、HY、YHまたはLEVLFQGPといった制限酵素切断部位の1つまたは2つの組み合わせから選択されるが、これらに限定されない。
【0032】
1つの具体的な実施例において、第1のプロテアーゼ切断部位を含む前記構造領域および第2のプロテアーゼ切断部位を含む前記構造領域は、いずれもLEVLFQGPであり、切断部位はQ-G間にある。
【0033】
好ましくは、前記リンカーは、5つのアミノ酸を超えない。
【0034】
好ましくは、前記リンカーは、第1のプロテアーゼ切断部位がそのプロテアーゼにより容易に認識されるか、または結合されることを可能にする。
【0035】
より好ましくは、前記リンカーは、単鎖ポリペプチドの機能に影響を与えない。
【0036】
より好ましくは、前記第1のプロテアーゼ切断部位は切断された後、第2のポリペプチドフラグメントのN末端に保持されたリンカーが第2のポリペプチドフラグメントの機能に影響を及ぼさない。
【0037】
より好ましくは、前記リンカーのGS部分は5つのアミノ酸残基を超えない。さらに好ましくは、前記リンカーは、グリシン-セリン(Glycine-Serine、GSと略記する)ショートペプチド、GGS、GGGS、GGGGS、GSGS、GGSGS、GSGGS、GGSGS、GGGSSなどのリンカーから選択される。
【0038】
1つの具体的な実施例において、第1のプロテアーゼ切断部位を含む前記構造領域およびリンカーのアミノ酸配列は、LEVLFQGPLGSである。
【0039】
好ましくは、前記金属イオン依存性プロテアーゼ活性ドメインは、Zn2+依存性プロテアーゼ活性ドメインである。
【0040】
好ましくは、前記第1の機能性アミノ酸構造領域および/または第2の機能性アミノ酸構造領域は、天然配列および/または合成配列によってコードされる。より好ましくは、前記単鎖ポリペプチドの第1の機能性アミノ酸構造領域は、クロストリジウム毒素軽鎖のZn2+プロテアーゼ活性ドメインを含んでいる。
【0041】
好ましくは、前記第2の機能性アミノ酸構造領域におけるヒト細胞表面抗原のレセプター結合ドメインと結合可能な標的細胞は、例えば、神経細胞、膵臓細胞、またはSNARE複合体が存在する他の細胞のような、SNARE複合体が存在する標的細胞である。
【0042】
より好ましくは、前記第2の機能性アミノ酸構造領域における標的細胞とは、ヒト神経細胞または膵臓細胞を指し、前記レセプター結合ドメインは、ヒト神経細胞または膵臓細胞に特異的に結合可能なレセプター結合ドメインである。
【0043】
より好ましくは、前記第2の機能性アミノ酸構造領域のレセプター結合ドメインは、クロストリジウム毒素の重鎖の細胞表面抗原結合構造ドメインであり、前記第2の機能性アミノ酸構造領域の小胞膜を横切るポリペプチドの移動を媒介するトランスロケーションドメインは、小胞膜を横切るクロストリジウム毒素の移動を媒介する構造ドメインである。
【0044】
より好ましくは、前記クロストリジウム毒素はボツリヌス毒素またはテタヌス毒素である。
【0045】
より好ましくは、前記ボツリヌス毒素は、従来技術で既知の血清型BoNT/A~BoNT/Hおよびそれらの誘導体のいずれから選択される。
【0046】
より好ましくは、前記クロストリジウム毒素は、テタヌス毒素またはその誘導体のいずれから選択される。
【0047】
より好ましくは、前記第1の機能性アミノ酸構造領域は、BoNT/A、BoNT/B、BoNT/C、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/G、BoNT/H、またはテタヌス毒素の軽鎖の一部もしくは全部を含む。
【0048】
より好ましくは、前記第2の機能性アミノ酸構造領域は、BoNT/A、BoNT/B、BoNT/C、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/G、BoNT/H、またはテタヌス毒素の重鎖の一部もしくは全部を含む。
【0049】
1つの具体的な実施例において、前記第1の機能性アミノ酸構造領域は、BoNT-/Aの軽鎖であり、前記第2の機能性アミノ酸構造領域は、BoNT-/Aの重鎖である。
【0050】
より好ましくは、前記第1の機能性アミノ酸構造領域および第2の機能性アミノ酸構造領域は、異なる血清型に由来し得る。前記血清型の任意の組み合わせであり得る。例えば、前記第1の機能性アミノ酸構造領域は、BoNT-/Aの軽鎖に由来し、前記第2の機能性アミノ酸構造領域は、BoNT-/B、BoNT/C、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、またはBoNT/Gの重鎖に由来し、あるいは前記第1の機能性アミノ酸構造領域は、BoNT/B、BoNT/C、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、またはBoNT/Gの軽鎖に由来し、前記第2の機能性アミノ酸構造領域は、BoNT/Aの重鎖に由来することなどである。
【0051】
より好ましくは、前記第2のポリペプチドフラグメントのアミノ酸配列は、配列番号7に示されるフラグメントを含む。
【0052】
1つの具体的な実施例において、前記単鎖ポリペプチドは、N末端から順に、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、LEVLFQGPLGS、BoNT/Aの軽鎖、LEVLFQGPおよびBoNT/Aの重鎖を含む。
【0053】
より好ましくは、前記単鎖ポリペプチドは、配列番号11に示されるアミノ酸配列を有する。
【0054】
より好ましくは、組換えA型ボツリヌス毒素タンパク質は、単鎖ポリペプチドを第1のプロテアーゼによって切断しタグタンパク質を除去し、第2のプロテアーゼによって切断した後、第1の機能性アミノ酸構造領域と第2の機能性アミノ酸構造領域が少なくとも1つの二量体を形成することによって製造される。
【0055】
好ましくは、前記第1の機能性アミノ酸構造領域と第2の機能性アミノ酸構造領域は、ジスルフィド結合によって連結されて二量体構造を形成する。
【0056】
本発明の組換えA型ボツリヌス毒素タンパク質は、特定の単鎖ポリペプチドから形成され、当該単鎖ポリペプチドは特定の構造を有し、当該構造の単鎖ポリペプチドは、強い特異性と低い毒性を特徴とする。具体的には、強い特異性の観点からは、当該単鎖ポリペプチド中のタグタンパク質が特異のリガンドに結合可能であり、さらにリガンドから脱離することによって、タグタンパク質と共発現する分子を異なるポリペプチドまたはタンパク質生成物から選択しやすくし、製造過程において、生成物の純度を著しく向上させることができ、その結果、より純度の高い生成物を高収率で得ることができる。低毒性の観点からは、当該単鎖ポリペプチド中のタグタンパク質は、ポリペプチドの第1の機能性アミノ酸構造領域のプロテアーゼ構造ドメインがプロテアーゼの機能を発揮できないようにし、第1の機能性アミノ酸構造領域と第2の機能性アミノ酸構造領域との間の天然制限酵素切断部位を、特定の酵素だけが認識できる部位に置き換えることにより、当該単鎖ポリペプチドの分子活性(神経毒性)が、天然毒素の1万分の1以下に低下し、効果的に毒性が低減され、毒性が大幅に低減されたため、生産工程における安全性が向上し、工業化生産全体が実施しやすくなる。すなわち、本発明に関わる組換えボツリヌス毒素タンパク質の単鎖ポリペプチドは、従来技術と比較して、収率がより高く、純度がより高く、安全性もより高いため、工業的に生産・精製することが容易である。
【0057】
好ましくは、前記組成物は、可溶化剤および/または塩化合物をさらに含む。
【0058】
より好ましくは、前記可溶化剤の濃度は、0.05体積%~0.2体積%である。
【0059】
より好ましくは、前記塩の濃度は0.9質量%である。
【0060】
より好ましくは、前記可溶化剤は、ツイーン系、スパン系、ドデシル硫酸ナトリウムから選択される。
【0061】
より好ましくは、前記ツイーン系は、ツイーン20、ツイーン40、ツイーン60、またはツイーン80のうちの1種または複数から選択される。
【0062】
さらに好ましくは、前記スパン系は、スパン20、スパン40、スパン60、スパン80、またはスパン85のうちの1種または複数から選択される。
【0063】
1つの具体的な実施形態において、前記可溶化剤は、ツイーン80である。
【0064】
好ましくは、前記塩は、無機塩または有機塩のいずれかから選択される。
【0065】
より好ましくは、前記無機塩は、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウムおよびリン酸カリウムのうちの1種または複数から選択される。
【0066】
さらに好ましくは、前記有機塩は、乳酸ナトリウム、コハク酸ナトリウムのうちの1種または複数から選択される。
【0067】
1つの具体的な実施形態において、前記無機塩は塩化ナトリウムである。
【0068】
好ましくは、前記組成物は、ボツリヌス毒素タンパク質、レボカルニチン、ツイーン80、塩化ナトリウムを含む。
【0069】
または、前記組成物は、ボツリヌス毒素タンパク質、アミノ酸、ツイーン80、塩化ナトリウムを含む。
【0070】
より好ましくは、前記レボカルニチンのモル含量は、5~20mMであり、好ましくは10mMである。
【0071】
または、前記アミノ酸のモル含量は、5~20mMであり、好ましくは10mMである。
【0072】
より好ましくは、前記ツイーン80の濃度は、0.05体積%~0.2体積%である。
【0073】
1つの具体的な実施形態において、前記ツイーン80の濃度は、0.1体積%である。
【0074】
より好ましくは、前記塩化ナトリウムの濃度は、0.9質量%である。
【0075】
前記組成物は液体製剤である。
【0076】
本発明は、さらに、各成分を混合する工程を含む、ボツリヌス毒素タンパク質組成物の製造方法を提供する。
【0077】
好ましくは、上記製造方法は、
(a)ボツリヌス毒素タンパク質を製造して精製する工程と、
(b)前記ボツリヌス毒素タンパク質にタンパク質安定化剤水を添加する工程と
を備える。
【0078】
前記水は、注射用水である。
【0079】
より好ましくは、前記工程(b)は、可溶化剤および/または塩を添加することをさらに備える。
【0080】
前記ボツリヌス毒素タンパク質、タンパク質安定化剤、可溶化剤および/または塩は、上記で定義された通りである。
【0081】
1つの具体的な実施形態において、前記製造方法は、
(a)組換えA型ボツリヌス毒素タンパク質を製造して精製する工程と、
(b)前記組換えA型ボツリヌス毒素タンパク質に、タンパク質安定化剤水、ツイーン80および塩化ナトリウム、水を添加する工程と
を備える。
【0082】
前記水は、注射用水である。
【0083】
本発明は、さらに、筋肉または外分泌腺を支配するコリン作動性神経に関連する疾患の予防および/または治療、医療美容のための医薬の製造における、上記ボツリヌス毒素タンパク質組成物の使用を提供する。
【0084】
前記の筋肉または外分泌腺を支配するコリン作動性神経に関連する疾患または病状は、コリン作動性神経支配に関連する筋肉または外分泌腺の活動亢進の例示的な疾患または病状を含み、例えばフレイ症候群、ワニの涙症候群、腋窩多汗症、足底多汗症、頭頸部の多汗症、身体の多汗症、鼻漏、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、唾液分泌過多、垂涎、流涎、痙縮、口蓋ミオクローヌス、ミオクローヌス、ミオキミア、硬直、良性筋痙攣、遺伝性顎振戦、下顎運動の異常、片側咀嚼筋痙攣、肥大性鰓弓筋疾患、咬筋肥大、前脛骨筋肥大、眼振、動揺視、核上性注視麻痺、持続性部分てんかん、痙性斜頸手術の計画、外転筋声帯麻痺、難治性変異性発声障害、上部食道括約筋機能障害、声帯肉芽腫、吃音、ジル・ド・ラ・トゥレット症候群、中耳ミオクローヌス、防御性喉頭閉鎖、喉頭摘出術後の言語障害、防御性眼瞼下垂、眼瞼内反症、オッディ括約筋機能障害、偽性食道アカラシア、非アカラシア性食道運動障害、膣痙、術後の臥床安静、振戦、膀胱機能障害、片側顔面痙攣、神経再支配ジスキネジア、スティッフマン症候群、破傷風、前立腺肥大症、肥満治療、乳児脳性麻痺、アカラシア、裂肛が含まれる。
【0085】
前記医療美容には、シワを伸ばしたり予防したり、顔をほっそりさせたり、傷跡を修復したりすることが含まれる。
【0086】
前記しわは、皮膚の皺、隆起または襞とみなされる。好ましくは、ヒトの顔に見えられるしわである。しわの例としては、涙溝、眉間のしわ、目尻のしわ、ほうれい線、下顎のしわ、口周りのしわ、頬のしわ、マリオネットライン、唇のしわ、額のしわ、眉間の縦じわ、鼻根の横じわ、鼻唇溝、目の下のしわ、および顎のしわが挙げられる。
【発明の効果】
【0087】
従来技術と比較して、本発明は以下の有益な効果を有する。
【0088】
(1)本発明は、安定的なボツリヌス毒素タンパク質組成物を提供する。この組成物は、ヒト由来のタンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン)の代わりにアミノ酸またはアミノ酸様物質を用い、ヒト由来のウイルスによるリスクを排除する。また、ツイーン80と併用して吸着を防止し、標準的な冷蔵庫(約4℃)内に液体状態で1年以上、室温(25℃)に液体状態で6カ月以上安定して保存することができる。
【0089】
(2)本発明は、特定の単鎖ポリペプチドを用いて製造された高純度の組換えA型ボツリヌス毒素タンパク質を含有する組換えボツリヌス毒素タンパク質組成物を提供するものであり、この組成物は、製剤中のA型ボツリヌス毒素タンパク質の純度を高めることができ、ボツリヌス菌から抽出されたA型ボツリヌス毒素に含まれる不活化ボツリヌスタンパク質を人体に摂取することにより起こり得る免疫リスクを回避することができ、組換えA型ボツリヌス毒素タンパク質の適用範囲を拡大するための新たな選択肢を提供する。
【0090】
(3)本発明のボツリヌス毒素タンパク質組成物を液状製剤として使用すると、臨床使用の利便性が向上し、通常、凍結乾燥品や真空乾燥品を再溶解した後の保存期間が短く、無駄な使用や再溶解工程中に人為的な汚染や不正確な再溶解が生じやすい欠点を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
図1】GST-BoNT/Aの初期精製とさらなるGSTタグ除去のSDS-PAGE結果である。レーン1はGSTアフィニティークロマトグラフィーカラムにより初期精製して得られたGST-BoNT/Aであり、レーン2は初期精製したタンパク質のGSTタグタンパク質をRinovirus 3C Proteaseの酵素切断により除去したGST除去後のBoNT/Aである。
図2】GSTタグを切除した生成物をイオン交換カラムでさらに精製した、高純度BoNT/Aタンパク質のSDS-PAGE結果である。
図3】還元条件下でのBoNT/Aの二本鎖解離の検証結果である。
【発明を実施するための形態】
【0092】
特に定義しない限り、本発明で使用される全ての科学・技術用語は、本発明が関連する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0093】
本発明において、用語「U」は、力価の単位を指し、薬学的に使用される生物学的能力の多様性(を表現する)単位である。これらの薬物の化学成分は一定ではなく、あるいは今までも物理化学的手法によってその質量規格を決定することは不可能であるため、その力価はしばしば生物学的実験方法によって、また標準品と比較することによって決定される。このようなバイオアッセイを通じて、一定の生物学的効力を持つ最小力価単位は「単位」(U)と呼ばれ、国際的な取り決めによって定められた標準単位は「国際単位」(IU)と呼ばれる。
【0094】
用語「BoNT/A」は、A型ボツリヌス毒素タンパク質を指す。
【0095】
用語「タグタンパク質」は、標的タンパク質の発現と検出を容易にするために、in vitro組換えDNA技術を用いて標的タンパク質と融合発現させる1つのペプチドまたはタンパク質を指す。
【0096】
用語「ヒト血清アルブミン(Human serum albumin)」は、「HSA」と略称し、体液中に脂肪酸、胆汁色素、アミノ酸、ステロイドホルモン、金属イオン、および多くの治療用分子などを輸送するとともに、血液の正常な浸透圧を維持するヒト血漿中のタンパク質を指す。臨床的には、HSAはショックや火傷の治療、手術や事故、大出血により失血した血液の補充に使用でき、血漿量増加剤としても使用されている。
【0097】
用語「二量体構造」は、通常、非共有結合で結合した2つの分子からなるポリマー配合体を指す。
【0098】
以下、本発明の実施例を参照して、本発明の技術的実施形態を明確かつ完全に説明する。無論、説明する実施例は、本発明の実施例の一部に過ぎず、その全てではない。本発明の実施例に基づき、当業者が創作的な工夫をすることなく得られる他の全ての実施例は、本発明の保護範囲に属する。
【実施例
【0099】
実験例1 組換えA型ボツリヌス毒素タンパク質の製造
具体的には、以下の8つの工程に分かれている。
【0100】
1.修飾ボツリヌス毒素の単鎖ポリペプチドをコードする核酸分子の設計と構築
核酸分子は5’末端から以下のものを順次含む。
(a)グルタチオンs-トランスフェラーゼをコードするヌクレオチド配列は配列番号1で示され、それがコードするグルタチオンs-トランスフェラーゼのアミノ酸配列は配列番号2で示される。
(b)第1のプロテアーゼ切断部位をコードするヌクレオチド配列は配列番号3で示され、それがコードするアミノ酸配列は配列番号4で示される。
(c)リンカーのGSをコードするヌクレオチド配列は配列番号5で示され、GGATCCである。
(d)配列番号6に示され、BoNT/A軽鎖、第2のプロテアーゼ切断部位、およびBoNT/A重鎖を含む第2のポリペプチドフラグメントをコードするヌクレオチド配列であって、配列番号7で示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列である。ここで、第2のプロテアーゼ切断部位をコードするヌクレオチド配列は、配列番号8で示され、それがコードするアミノ酸配列は配列番号9で示される。
【0101】
BoNT/A軽鎖とBoNT/A重鎖との間には、天然ループ領域が存在していなくても良い。例えば、軽鎖と重鎖との間のKTKSLDKGYNK連結配列を除去することによって、非特異的プロテアーゼ切断を減少させる。
【0102】
単鎖ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、配列番号10で示され、それがコードする単鎖ポリペプチドのアミノ酸配列は、配列番号11で示される。
【0103】
2.工程1の配列の核酸分子を含むプラスミドを構築する
上記の合成遺伝子工学的に最適化したGST-BoNT/Aに、両端でNdeIおよびNotI制限酵素切断部位を合成的に付加し、NdeIおよびNotI 37℃消化(New England Biolabs)により、QIquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いて精製し、T4 DNAリガーゼ(NEB)を用いてpET28a(Novagen)プラスミドベクターのNdeIおよびNotI部位に挿入した。
【0104】
3.工程2で構築されたプラスミドを宿主細胞にトランスフェクションする
(a)コンピテント細胞の製造 大腸菌細胞E.coli BL21 DE3(New England Biolabs)を1チューブとり、LB培地3mlの入った試験管に接種し、37℃で一晩振盪培養した。翌日、菌液0.5mlをLB培地50mlの入った250mlフラスコに接種し、37℃で約3~5時間激しく振盪培養(250rpm)し、コロニーの600nm ODが0.3~0.4になった時点でフラスコを取り出し、氷上で10~15分間静置した。菌液を無菌条件下で50ml遠心チューブに注ぎ、4℃、1000gで10分間遠心した。上清を捨て、収集し、遠心チューブに10mlの0.1M CaClを加え、振盪混合して、菌体を懸濁させ、氷浴で30分間、4℃、1000gで10分間遠心分離し、上清を捨て、収集し、氷上であらかじめ冷却した4mlの0.1M CaClを加え、菌体を再懸濁させた。チューブ1本あたり0.2mlで分注し、4℃で保存し、24時間以内に使用し、残りは-70℃の低温冷蔵庫で保存する。
【0105】
(b)トランスフェクション:適量のDNA(ng)とコンピテント大腸菌を混合し、氷浴中で15分間静置した後、42℃で30秒間ヒートショックを行い、氷浴中で5分間静置した後、SOC培地に入れ、250rpmで1時間振盪し、抗生物質を加えたプレートに広げ、37℃で一晩培養した。
【0106】
4. 宿主細胞の培養と単鎖ポリペプチドの誘導発現
培地の成分と配合比:11.8g/Lトリプトン、23.6g/L酵母エキス、9.4g/L KHPO、2.2g/L KHPO、4ml/Lグリセロール。
【0107】
培養条件:細胞を37℃で一晩、250rpmで振盪培養した。
【0108】
誘導発現:大腸菌がOD600=1に増殖した時点で、1mM IPTGを添加し、25℃で5時間誘導発現する。OD600は0.2~1.5を選び、温度は37℃~10℃を選べばよく、発現時間は5~16時間であってもよい。
【0109】
細胞の回収:3000rpm、30分間の遠心分離により大腸菌を回収した。
【0110】
5. 単鎖ポリペプチド発現レベルの同定
ジェンスクリプト社のグルタチオン精製樹脂を用いて直径1cm、高さ1cmのグルタチオン精製樹脂クロマトグラフィーカラムを作製し、樹脂を洗い流さないように注意しながら、ライセート25mlをゆっくりとカラム上層に注ぎ、1時間かけてゆっくりとカラムを通過させることによりライセート中のGST-BoNT/Aを吸着させた。常法に従って溶出することによりGST-BoNT/Aを得た。
【0111】
常法は以下の通りである。クロマトグラフィーカラムをカラム体積の20倍量のリン酸緩衝液で洗浄し、カラム体積の10倍量の新たに調製した10mMグルタチオン溶出緩衝液(0.154gの還元グルタチオンを50mlの50mM Tris-HCl(pH8.0)に溶解したもの)でGST-BoNT/Aを溶出し、融合タンパク質の溶出は、280nmの吸光度を用いてモニターした。溶出したタンパク質は、Rinovirus 3C ProteasでGSTタグタンパク質を切除した。
【0112】
GSTタグタンパク質を除去する前と後の生成物を採取し、常軌のSDS-PAGE実験を行い、図1に示すように、タグタンパク質を除去していないレーン1と比較すると、レーン1のGSTタグタンパク質は、Rinovirus 3C Proteaseで切除され、GSTを有しないBoNT/A分子が得られた。
【0113】
総タンパク質量に占めるGST-BoNT/Aの割合の測定:精製したGST-BoNT/Aを4~12%SDS-PAGE(Biorad)を用いて200ボルトの電気泳動で分離したところ、分子量175kdの主要なバンドがGST-BoNT/Aであった。
【0114】
6.タグタンパク質の除去と精製
工程5の生成物に対して、GSTタグタンパク質の除去と毒性ペプチドの精製を行った。
【0115】
グルタチオン精製樹脂クロマトグラフィーカラムに再吸着させたGST-BoNT/Aをジェンスクリプト社の3C酵素で処理したところ、3C酵素により、GSTとBoNT/Aの間の第1の制限酵素切断部位が切断されてGSTが脱離し、同時にBoNT/Aの軽鎖と重鎖の間の第2の制限酵素切断部位が切断された。
【0116】
グルタチオン精製樹脂クロマトグラフィーカラムをリン酸緩衝液で処理したところ、GSTタグタンパク質はカラムに残って除去されたが、BoNT/Aの軽鎖と重鎖はリン酸緩衝液で溶出された。
【0117】
GSTが除去された生成物を採取し、常軌のSDS-PAGE実験を行ったところ、図2に示すように、得られたバンドはもはやGSTタグタンパク質を含まず、GSTタグタンパク質が完全に除去されたことが示された。SDS-PAGEのスキャン画像を用いて、得られたBoNT/Aは、バンドのグレースケールから90%以上の純度であると計算された。
【0118】
リンカーのGS部分の代わりにGSS、GSGS、GGSGSポリペプチドを使用すると、GSと同様の効果があり、タグタンパク質がよく露出するため、完全に切除することができる。
【0119】
7.還元条件下での二量体BoNT/Aの二重鎖の解離
工程6の生成物に対して還元実験を行った。
【0120】
サンプルを100mMのジチオスレイトールを用いて、100℃で5分間処理して還元した。サンプルを4~12%SDS-PAGE(Biorad)で200ボルトの電気泳動により分離し、重鎖と軽鎖を分離した。図3に示すように、工程6で得られた生成物を還元条件下で還元し、得られた生成物に対して常軌のSDS-PAGE実験を行ったところ、それぞれ分子量100Kdaと50Kdaの2つの異なるバンドが得られ、工程6で形成された生成物が2つのペプチドセグメントをジスルフィド結合で連結した二量体構造であることが示された。
【0121】
8.GST-BoNT/Aの毒性試験
工程5で得られたGST-BoNT/Aをマウスに腹腔内注射した場合のLD50は45ng~450ngの範囲であった。注射したボツリヌス毒素タンパク質の純度を考慮すると、換算したLD50は22.5ng~225ngの範囲であり、中間値は123.75ngであった。工程5で得られたBoNT/Aをマウスに腹腔内注射した場合のLD50は0.02ng~0.05ngの範囲であった。注射したボツリヌス毒素タンパク質の純度を考慮すると、換算したLD50は0.006ng~0.015ngの範囲であり、中央値は0.0105ngであった(表1を参照)。
【0122】
【表1】
【0123】
GST-BoNT/Aはボツリヌス毒素活性を有し、マウスに腹腔内注射した後、その致死量の中央値(LD50)はBoNT/Aのタンパク質のLD50より約11,786倍高く、GST-BoNT/A組換えプロテオトキシンポリペプチド前駆体分子は最終生成物であるBoNT/Aより活性が約11,786倍弱いことを示している。この実験は、GST-BoNT/A組換えプロテオトキシンポリペプチド前駆体分子がボツリヌス毒素の活性を持つことを証明している。ボツリヌス毒素は超高毒性であるため、前駆体分子が活性化される前の製造過程では、高レベルの安全予防措置が必要である。
【0124】
実施例2 組換えA型ボツリヌス毒素タンパク質組成物の最適化
ボツリヌス毒素タンパク質(実施例1で製造したもの)の活性はマウス致死量の中央値で評価され、マウス単位(U)で示され、1単位はマウス総数の50%を殺すのに必要な組換えA型ボツリヌス毒素タンパク質の腹腔内注射量として定義される。
【0125】
I.動物実験のプロセス
1.選定・群分け:
CD-1種の成体マウスを選択し、群分けし、体重を測定し、番号を付け、各群に同程度の体重のマウスが同数ずついるようにした。
【0126】
2.薬物投与:
表2の異なる製剤を投与し、投与時、CD-1マウスに異なる製剤の組換えA型ボツリヌス毒素タンパク質製剤0.5mLを単回腹腔内注射した。マウスに腹腔内注射した組換えA型ボツリヌス毒素タンパク質の量は、2×LD50(2U)であった。
【0127】
3.観察:
試験開始前に各動物の体重を1回(投与初日前)測定して記録し、投与後、24時間ごとに1回体重を測定した。投与後24時間(±1時間)、48時間(±1時間)、72時間(±1時間)、96時間(±1時間)に死亡率を確認した。
【0128】
II.実験結果
表2に示す2Uのボツリヌス毒素を含む各処方(1~4)をマウスに腹腔内注射し、各製剤を4℃で0~211日間保存した後の2Uのボツリヌス毒素による各群のマウスの致死率を観察し、実験プロセスは上記の動物実験と同様であり、実験結果を表2に示す。
【0129】
【表2】
【0130】
表2の結果からわかるように、表中の4つの処方を4℃で0~211日間置いた後、組換えA型ボツリヌス毒素のマウスに対する致死効果(薬物活性)は低下せず、組換えA型ボツリヌス毒素タンパク質は4℃で保存する前の生物学的活性が維持されており、本発明で選択した処方が組換えA型ボツリヌス毒素の長期安定性を維持できることを示している。
【0131】
表2の2つの製剤を選択し、組換えA型ボツリヌス毒素が4℃で44日、75日、211日保存された後のマウス致死量の中央値(LD50)を測定した。実験結果を表3に示す。
【0132】
【表3】
【0133】
表3からわかるように、処方1は4℃で211日放置された後も組換えA型ボツリヌス毒素タンパク質の活性を維持することができ、処方2は4℃で70日放置された後も組換えA型ボツリヌス毒素タンパク質の活性を維持することができ、多投与量-活性関係から算出した組換えA型ボツリヌス毒素のマウス致死量の中央値(LD50)は、それぞれ4℃で44日、70日、211日置かれても大きく変化しておらず、致死量の中央値は基本的に変わっていなかった。このことは、本発明の製剤処方が組換えA型ボツリヌス毒素の生物学的活性の長期安定性を効果的に維持できることを十分に示している。
【0134】
本発明は、組換えボツリヌス毒素を用い、タンパク質安定化剤としてアミノ酸またはアミノ酸様化合物を用い、低温条件(例えば、4℃)で長期間(例えば、4℃で70日以上)保存することができる。本発明の製剤処方は、天然ボツリヌス毒素タンパク質(A型ボツリヌス毒素タンパク質、B型ボツリヌス毒素タンパク質、C1型ボツリヌス毒素タンパク質、C2型ボツリヌス毒素タンパク質、D型ボツリヌス毒素タンパク質、E型ボツリヌス毒素タンパク質)の活性を維持することができる。
【0135】
上記は本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明の主旨および機構の範囲内でなされる変更、等価置換等は、いずれも本発明の保護範囲に含まれるものとする。
【0136】
本明細書で説明した上記実施例および方法は、当業者の能力、経験および好みに基づいて変化し得る。
【0137】
本発明において、方法の工程がある順序で記載されているが、方法の工程の順序を限定するものではない。
図1
図2
図3
【配列表】
2025501071000001.xml
【国際調査報告】